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    元スレ朋也「軽音部? うんたん?」2

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    みんなの評価 : ★★★×4
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    551 = 162 :

    後奏が少し走って、音が止む。

    「今の、結構よかったな」

    「唯先輩のギターが正確な回でしたね。いつもこうだといいんですけど」

    「ムラがあるからな、唯は」

    「えへへ、ごめんね」

    「いや、そういうところも、おまえらしくていいよ。この調子で頑張ろう」

    「うんっ」

    「あ~、ちょっと待って。休憩入れよう、休憩」

    部長がだらっと姿勢を崩して言う。

    「って、なんだよ、今いい感じでまとまってたのに…」

    「だって疲れたんだもん」

    「部長なんだから士気とかそういうことも考慮してくださいよ」

    「なんだよ、じゃあ、あたしが無理して再起不能になってもいいって言うのかよぉ」

    「なるわけないじゃないですか…どんな叩き方してるつもりなんですか」

    「もぉーっ! いいから、休憩するのっ」

    552 :

    昼からずっと見てたけどもう頭痛がする……

    >>1も無理すんなよ

    553 = 161 :

    「小学生みたいな駄々をこねるな…」

    「ふふ、いいじゃない。休憩、入れましょ?」

    「まぁ…ムギがそう言うなら…」

    「なんだ、そのあたしとの温度差はっ」

    「日ごろの行いの差だ」

    「意味わかんねぇーっ! 理不尽だーっ」

    「あははっ」

    春原「ムギちゃん、ミネラルウォーターだよ」

    いつの間にか春原がペットボトルを手に練習スペースに入っていた。

    「あら、ありがとう、春原くん」

    春原「これくらい、なんでもないよ。パシリ…いや、飲み物運びは慣れてるからさっ」

    言い直しても意味は同じだった。

    「ふぃ~…春原ぁ、ちっとタオル持ってきてぇ~」

    春原「あん? んなの、自分で持って…」

    春原が部長を見て固まる。

    554 = 162 :

    「? なんだよ…」

    部長はカチューシャを外して前髪を下ろしていた。
    それだけなのだが、かなり印象が変わっていた。
    硬直の原因はそれだろう。

    春原「い、いや…」

    「変な奴だな…とりあえず、タオル持ってきてよ」

    春原「あ、ああ…」

    言われ、とぼとぼ歩きながらソファにかけてあった部長のタオルを持ち帰る。

    春原「ほ、ほらよ…」

    「お、サンキュ」

    受け取って、顔を拭く。

    「あー、すっきり」

    そして、またカチューシャで髪を上げた。

    「ん? なんだよ、春原。もう用はないぞ」

    春原「あ、いや…」

    春原は立ったままその場で動きを止めていた。

    555 = 161 :

    春原「おまえ、それしてない方が…」

    「あん?」

    春原「いや…なんでもないよ、ははっ」

    苦笑いを浮かべながらこちらに戻ってくる。

    「なんなんだよ…気持ちわりぃなぁ…」

    「りっちゃん、気づかないの?」

    「なにが?」

    「春原くん、髪下ろしたりっちゃんにトキメいてたのよ」

    「え? マジ?」

    春原「ちょ、ムギちゃん、それはないってっ」

    「春原くん、ラヴだね、恋だねっ」

    春原「ちげぇってのっ!」

    「ふふん、そういうことか…道理であたしの言う事素直に聞いてたわけだ」

    春原「勘違いすんなっ、デコっ!」

    「デコじゃないわよん?」

    556 = 162 :

    ぱっとカチューシャを外す。

    春原「う…て、てめぇ…」

    「ははは、動揺しているようだな、春原くん?」

    春原「ぐ…くそぉ…」

    「あらあら…甘酸っぱいわぁ」

    「澪ちゃん、こいいう甘酸っぱい感じの歌詞書けば、新境地に立てるんじゃない?」

    「そうだな…タイトルは、デコ☆LOVE…でいけそう…いや、LOVE☆デコかな?」

    「って、まてぇいっ! どっちもめちゃくちゃ悪意を感じるぞっ! つか位置変えたただけだしっ」

    「…ぷっ」

    「中野ーっ!」

    騒ぎ出す部員たち。
    俺と春原はテーブル席からその喧騒を眺めていた。

    朋也「で、おまえ、実際部長はどうなんだよ」

    春原「うん? あんなのただのデコさ、ははっ」

    朋也「ふぅん…」

    春原「マジだって、はははっ」

    557 = 161 :

    軽く言って、紅茶を口にする。

    春原「ふぅ…なんか肺がおかしいなぁ…ガンじゃないだろうな…」

    完全にトキメいていた。分り易い奴だ。

    ―――――――――――――――――――――

    「春原ぁ、鞄持って~」

    春原「ああ? やだよ。アホか」

    「む…」

    カチューシャを外し、髪を下ろす。

    「お・ね・が・い、春原くん」

    春原「う…」

    春原「うわぁああああああんっ!!」

    猛ダッシュで坂を下っていった。

    「わははは! こりゃ、おもしろい」

    「りっちゃん、あんまり春原くんの純情を弄んじゃだめよ」

    「いや、あいつにそんなもんねぇって。常に劣情をたぎらせてるような男だし」

    558 = 162 :

    「まぁ、しばらくはこれで遊べそうだな、うひひ」

    まるで新しいおもちゃが手に入った子供のようだった。

    ―――――――――――――――――――――

    他の部員たちと別れ、唯とふたりきりになる。
    俺はこのまま唯を家まで送っていくつもりだった。

    「でもさぁ、意外だよねぇ。春原くんが、りっちゃんをあんな風に見ちゃうなんてさ」

    「けんかも、いっぱいしてたのにね」

    朋也「そうだな。でも、まぁ、あいつは見た目が好みなら、すぐに心が揺れるからな」

    朋也「実際、ナンパもよくしてたみたいだし…俺もそれに付き合わされたことあるしな」

    「…朋也、ナンパなんてしてたんだ? ふーん…」

    しら~っとした、寒々しい目を向けられる。

    朋也「いや、だから、付き合わされただけだって。それも、おまえと付き合う前に一度だけだ」

    朋也「これからは誘われたって絶対しねぇよ。おまえがいてくれれば、俺は十分だからな」

    「ほんと?」

    朋也「ああ」

    「えへへ…私もだよ。朋也がこれからも私の隣にいてくれると、うれしいな」

    559 = 161 :

    朋也「安心しろ。ずっとおまえの後ろから、そのうなじに執着しててやるから」

    「なんで背後なのぉ? せめて横にいてよ…っていうか、そんな物理的な意味じゃないのにぃ」

    朋也「そうか? 残念だな…あとちょっとだったのに」

    「なにがあとちょっとなのかわかんないけど…どうせ、変なことなんでしょ」

    朋也「まぁな。でも、男はみんなそんなもんだ」

    「もう…特別変態だよ、朋也は」

    ポン、と体に唯の拳を受けて、軽く制裁された。
    俺はその腕を取ると、末端まで辿っていき、自分の手を絡ませた。
    繋がれるふたりの手。
    唯も笑顔で返してくれた。
    そのまま歩く。

    「とろでさ…朋也はあずにゃんのこと、どう思う?」

    朋也「あん? 中野?」

    こんないい雰囲気の中、その名が出てくることに少し戸惑う。
    今もどこかに潜んでいて、俺たちの仲を引き裂こうと身構えているんじゃないかと、そんな気にさえなる。

    朋也「つーか…どうって、なにが?」

    「だから、可愛いとか、いい子だなぁ、とか、抱きしめたい~、とか…そんな感想だよ」

    今挙げた例はすべてこいつの胸の内なんだろう、多分。

    560 = 162 :

    朋也「感想たってなぁ…まぁ、確かに見た目は可愛いけど…でも、生意気だしな…」

    朋也「それに、俺たちにとってちょっと厄介な存在でもあるし…面倒だよな、正直」

    それでも、わざわざ野良猫の飼い主を探すような優しい一面も、あるにはあるのだが。

    「そっか…でもね、あずにゃんは朋也のこと、きっと良く思ってるよ」

    朋也「んなわけねぇよ。むしろ、嫌われてるだろ。いつも攻撃されてるんだぜ? 俺」

    「それはあんまり関係ないんじゃないかなぁ。春原くんだってそうだったでしょ」

    朋也「そうだけど…なんだ? 部長が言ってたこと気にしてんのかよ」

    朋也「あんなの、おもしろがって言ってるだけだろ。攻略とかなんとかってさ」

    「そうかもしれないけど…案外当たってるところもあると思うんだ」

    「あずにゃんが朋也の隣に座りたがるのも、やっぱりそういうことなんじゃないのかなぁ」

    朋也「そうかぁ?」

    単に唯を取られまいと、俺から遠ざけているだけに見えるのだが。
    それがあいつの行動原理のはずだ。

    「うん…それでね、もしほんとにあずにゃんが朋也のこと好きで、朋也も同じ気持ちになった時は…」

    「その時は、私じゃなくて、あずにゃんを選んでくれてもいいかなって、ちょっと思ったりしたんだけどね」

    朋也「馬鹿…そういうこと、冗談でも言うなよ」

    561 = 161 :

    朋也「俺はおまえ以外考えられないって、さっきもそう言ったばっかりだろ?」

    「うん…」

    朋也「俺はおまえが好きだよ。おまえも、そう想ってくれてるってことで、合ってるよな?」

    「うん」

    朋也「だったら、もうそれだけでいいじゃないか。余計なことは考えるな」

    「そうだね…うん」

    朋也「けっこう恥ずかしいんだからな、好き好き言うのは」

    「そう? でも、私はもっと言って欲しいなぁ」

    朋也「もう言わねぇよ」

    562 = 162 :

    「じゃあ、私が言ってあげるね。朋也、好き好き~」

    腕に絡み付いてくる。

    朋也「…うん」

    「あはは、…うん、だって。朋也、照れてるぅ~」

    朋也「…ほっとけよ」

    「かわいいなぁ~」

    家に帰り着くまで、唯はずっと俺をからかい続けてきた。
    スキンシップに耐性があまりないんだろうか、俺は…
    終始どきどきしっぱなしだった。

    ―――――――――――――――――――――

    563 = 161 :

    5/7 金

    「おはよぉ~」

    「おはようございます」

    朋也「ああ、おはよ」

    今日も笑顔で出迎えてくれる。

    「はい、朋也」

    手を差し出してくる。

    「手、つないでいこ?」

    朋也「ああ、そうだな」

    俺はやさしく握った…

    「あ…」

    憂ちゃんの手を。

    「って、そっちは憂だよっ」

    朋也「じゃ、行こうか、憂ちゃん。俺たちの愛の巣に」

    「は、はい…ぽっ」

    564 = 162 :

    「って、こらーっ! ちがうでしょっ!」

    「ていうか、愛の巣ってなんなの!? 憂もちょっと照れてるしっ」

    朋也「なんかうるさいけど、気にせず行こうな」

    「はいっ」

    「ばかーっ! もう、ふたりともばかーっ!」

    ―――――――――――――――――――――

    ………。

    ―――――――――――――――――――――

    昼。

    「お、そのハムバーグうまそうじゃん。まるまるくれよ」

    春原「やるわけねぇだろ。キンピラでも食ってろって」

    「あー、そういうこと言うんだ? ふぅん、そうですか…」

    ここぞとばかりに髪を下ろす部長。

    「嫌い…春原くんなんて」

    目をうるうるさせて春原をみつめていた。

    565 = 161 :

    春原「はぐぅ…」

    心臓を押さえながら嗚咽する春原。
    トキメキが直接臓器に叩き込まれ、よろめいていた。

    春原「ふ…ふふ…」

    と思いきや、目を瞑り、不気味な笑いをこぼしていた。
    すると、いきなり胸元をはだけさせ、髪をかきあげた。

    春原「ふっ…」

    顔にも角度をつけ、気合が乗っている。

    「…なにがしたいんだよ、おまえは」

    春原「おまえごときに不覚を取ってしまった自分が許せなくてね…」

    春原「きのう、対抗策を考えてきたんだ。それが、これさ」

    「…はぁ?」

    春原「僕のセクシーな魅力で、おまえもたじたじってわけさ」

    「いや…キモいからやめてくれ。食欲が失せる」

    春原「あんだとっ!」

    さらに体をくねらせる。

    566 = 162 :

    「あー、わかった、わかったから…もうやめろ」

    部長のほうが折れて、カチューシャをつけ、髪を上げた。

    春原「ふふん、勝ったな」

    「キショすぎて早くやめて欲しかっただけだっての」

    春原「はっ、バレバレな嘘つくなよ。僕の魅力の前にして怖気づいただけだろ」

    春原「でも、どうしよっかなぁ、デコに告られたりしたら」

    春原「僕、すでにムギちゃんと両思いだしなぁ…ね、ムギちゃん?」

    「えっと…今、たわごとが聞えた気がするの」

    春原「たわごとっすかっ!? ストレートすぎませんか、それ!?」

    「わはは! おまえの、ね、ムギちゃん? はもはやネタフリになってることに気づけよ」

    春原「くそぅ…」

    ―――――――――――――――――――――

    ………。

    ―――――――――――――――――――――

    放課後。

    567 = 251 :

    変な話だが、本家でも渚に後輩や妹がいたらこうなってたんじゃないかと言う錯覚すら覚えるな

    568 = 161 :

    「今日はウィスキーボンボンを持ってきたんだけど…どうかな」

    言って、テーブルの中央にボール型の器を載せる。
    その中には、銀紙でパッケージされた固形物がたくさん入っていた。

    「ウィスキーボンボンって…中にお酒が入ってる、あのチョコのことだよな?」

    ひとつ手にとって言う。

    「うん。好き嫌いが別れるだろうから、ここで出すのもちょとあれかなと思ったんだけど…」

    「でも、これを頂いた製菓会社さんの方から、感想が欲しいって言われちゃってて…」

    「これ、新商品の試作品らしいから。それで、みんなにも意見をもらえたらな~って、思ったの」

    「私たちがモニターになるってことか…うう…なんか、責任重大だな…」

    「澪ちゃん、そんなに重く考えなくてもいいのよ。おいしかった、とか、微妙だった、とかでも全然オッケーよ」

    「そんな漠然としてて参考になるのか?」

    「う~ん、具体的な方がいいのかもしれないけど…でも、率直な感想が欲しいって言ってらしたし…」

    「シンプルでいいと思うな」

    「そうか…じゃあ、少しは気が楽だな…」

    「おまえはいつも考えすぎなんだよ」

    包装紙を破り、口に放る。

    569 = 162 :

    「お、けっこうイケる」

    「みんなも、よかったら食べてみてね」

    春原「当然僕はもらうよ。ムギちゃんの持ってきたものにハズレなんかないからね」

    春原は一気に4つほど掴んでいた。

    「私も、も~らおっと」

    「私も、頂きます」

    中野と唯もチョコに手を伸ばす。
    俺も一つ食べてみることにした。
    ボールから一つ取って、銀紙を剥がす。
    もぐもぐ…
    酒の味が濃いような気がしたが、なかなか美味かった。

    「…あ、おいしい」

    「だよな? もう一個もらおっと」

    「でも、なんか、苦いね…」

    「お酒のせいですよ、それは」

    「あずにゃんは平気なの?」

    「はい、私は別に」

    570 = 161 :

    「梓は将来酒飲みになるぞ、きっと」

    「ウィスキーボンボンくらいで、変な未来を視ないでくださいよ」

    春原「もぎちゅん…むぐ…うみゃいね…もれ」

    「って、おまえはリスか…頬袋にためやがって…」

    ―――――――――――――――――――――

    「あ、もう無いな…」

    いつの間にかボールの中は空になっていた。

    「んじゃ、ここでティータイムも終わりか…食ったらすぐ練習だっけか」

    「だったよな、梓」

    「…ひっく」

    「梓?」

    「あー…あい?」

    ふらふらと揺れて、目の焦点が定まっていなかった。
    例えるなら、酩酊状態のような…

    「なんか…変だぞ、おまえ」

    「あにが変だって言うんれすかっ!」

    571 = 162 :

    ろれつが回っていない。

    「まさかおまえ…酔ってるのか?」

    「んなわけないれしょっ!」

    「酔っ払いはみんなそう言うんだよ…つーか、ウィスキーボンボンで酔うって、おまえ…」

    「だぁから、酔ってねぇーっつーのっ」

    完全に酔いが回っていた。

    「う゛ー…ったくもー…」

    「………」

    潤んだ瞳で俺を見つめてくる。

    朋也「な、なんだよ…」

    「この…女たらし最低野郎…」

    椅子を寄せて、俺の肩に頭を預けてくる。
    今日はこいつが隣に座っていたのだ。

    朋也「なっ…」

    「女の子にこんなことされると嬉しいんですよね、岡崎せんぴゃあは…」

    「はふぅ…」

    572 = 161 :

    さらに体重を預けてくる。

    朋也「お、おい…」

    唯の手前、あいつの反応が気になって、ちらりと目を向ける。

    「………」

    なぜか笑顔だった…それが逆に怖い。

    朋也「中野、離れ…」

    ばぁんっ

    机を叩く激しい音。

    「こらっ、梓っ! 岡崎くん、困ってるらろっ!」

    「…ひっく、う゛ー…」

    「って、澪も酔ってるし…」

    「困ってませんよーだ…逆に喜んでますけどね、うふふ」

    「そんあことないっ! 顔がすっごく困ってるっ!」

    「えうー…?」

    俺の顔を覗き込む。

    573 = 162 :

    「あ、なんれすかっ! あたひじゃ不満だって言うんれすかっ!」

    朋也「い、いや…」

    「不満があるにきまってるらろっ! 梓みたいな幼児体型じゃっ」

    「よ、幼児体型…?」

    「そうらっ! 男の子は、胸があるほうが好きなんらぞっ!」

    「ちょうど、その…わ、私くらいのらっ!!」

    「おお…澪なのに強気な発言だ…」

    「じゃ、なんれすか? もしかして…澪先輩がこうしたいっていうんれすか?」

    ぎゅっと強く腕を絡めてくる。

    朋也(うぉ…)

    中野の体温が伝わってくる。
    こいつのいい香りも、ふわっと鼻腔をかすめた。
    図らずもどきっとしてしまう。

    「な、そ、そういうわけじゃ…と、とにかく離れなさいっ」

    「わーっ、乱暴れすよーっ!」

    中野がいつも唯にするように、今度は自分が秋山にひっぺがされていた。

    574 = 161 :

    「………」

    今しがた主人を失った空席をみつめる。

    「ちょっと疲れちゃった…」

    そこに腰を下ろす。

    「…岡崎くん、私、ちょっと疲れちゃった」

    朋也「あ、ああ…そうか」

    「…うん。ちょっと、疲れちゃったんだ」

    朋也「ああ…知ってるよ」

    「そう? じゃあ…体、預けてもいいかな?」

    朋也「え?」

    俺が答える前、そっと寄り添ってきた。

    朋也「お、おい…」

    「………」

    目を閉じて、心地よさそうにしている。
    邪険に扱うことがためらわれるような、安らいだ表情。

    朋也(ごくり…)

    575 = 162 :

    正直、可愛かった。

    「って、やっぱり自分がしたかっただけじゃないれすかーっ!」

    「う、うわぁっ」

    同じように引きずりおろされる秋山。

    「ち、ちが…ちょっと疲れてたんだおっ」

    「だお、じゃないれすよっ」

    わーわーと言い合いになっていた。

    春原「おまえ、おいしいポジションにいるよね、マジで」

    朋也「そうでもねぇよ…」

    見た目ほど状況は単純じゃない。

    朋也(唯…)

    「………」

    朋也(う…)

    笑顔をキープしていたが…口の端がひくついていた。
    怒ってる…のか?

    「あー、もう練習らっ! 練習するろっ!」

    576 = 161 :

    「う゛ー、そうれすね…練習れすよ…やぁってやるれすっ!」

    ずんずんと練習スペースに踏み入っていくふたり。

    「う~ん、お酒の調節がちょっと雑だったのかしら…報告しておかなきゃね」

    「今日はえらく事務的っすね、ムギさんは…」

    「こらーっ! おまえらも、早くこーいっ!」

    「たるんでますですっ! きびきび動くですっ!」

    「あー、はいはい、わかったよ…」

    やれやれ、と肩をすくめて部長も席を立った。
    琴吹もそれに続く。

    「………」

    唯だけがずっと座ったまま俺を見て微笑んでいた。

    朋也「お、おまえも行ったほうがいいんじゃないのか…?」

    「………」

    無言で立ち上がる…やっぱり、俺を見たまま。
    そして、最後までなにも言うことなく練習に加わっていった。

    朋也(…ヤバイかもしれん)

    577 = 162 :

    ―――――――――――――――――――――

    活動が終わり、下校する時間になっても秋山と中野のふたりは酔いが抜けていなかった。
    その暴れようは、いつも騒いでいる部長と春原でさえ少し引き気味にさせる程だった。
    秋山と通学路を共にする部長は、きっと帰り着くまで延々クダを巻かれ続けることになるのだろう。
    それはいいとして…

    朋也「いやぁ、あのふたりが酔うと、あんな感じになるんだな」

    「………」

    朋也「あー…暴れ上戸って言うのかな? ああいうのってさ…」

    「………」

    朋也(はぁ…)

    無視され続ける俺。

    朋也「唯ちゃ~ん…怒ってるのか?」

    「………」

    ちゃん付けで呼んでみたが、効果はなかった。

    朋也「お~い…」

    「…嬉しそうだった」

    朋也「ん?」

    578 = 161 :

    「ニヤニヤしてた…顔が赤くなってた…デレデレしてた…」

    「私だけだって言ってくれたのに…可愛い女の子なら、誰でもいいんだね、朋也は」

    朋也「い、いや、そんなことねぇって。全然なんとも思わなかったよ、あんなの」

    「嘘だよ。だって、すっごくだらしない顔してたもん」

    そうだったのか…気づかなかった…そんなに顔が緩んでしまっていたとは…。

    「あーあ、いいよねぇ、朋也はモテて。私、ハーレムの一人に加えてもらえて、うれしいなぁ」

    ハーレムの一人、の部分を強調して言った。
    皮肉を込めているんだろう。
    本格的に拗ねてしまっているようだった。

    朋也「変なこと言うなよ…俺の中じゃいつだっておまえが一番だぞっ」

    朋也「ヒューッ! 唯、最高ゥッ! 超可愛いぜっ! あ~、幸せ者だ、俺はっ」

    「…ばかみたい」

    頑張ったのに、ばかって言われた…悲しい…。

    朋也「はぁ…俺が悪かったよ…ごめんな、鼻の下伸ばしたりなんかして…」

    朋也「もうそんなこと絶対しない…約束する。だから、機嫌直してくれよ…」

    出したことも無いような情けない声色で、訴えるように言った。
    かなり惨めな男になっていた。絶対他人には見せられない…。

    579 = 162 :

    「ほんとに、約束守る?」

    朋也「ああ、絶対」

    「じゃあ…許してあげる」

    朋也「そっか…よかった」

    ほっと胸をなでおろす。

    「………」

    朋也「ん? なんだ?」

    黙って俺を見ていたと思うと、急に近づいてきた。
    そして、くんくんと匂いを嗅ぎ始める。

    「…あずにゃんと澪ちゃんの匂いが残ってる」

    580 = 161 :

    朋也「わかるのかよ…」

    犬並みに研ぎ澄まされた嗅覚を持った女だった。

    「…えいっ」

    飛びつくくらいの勢いで腕に組みついてくる。

    朋也「歩き辛くないか? 普通に手つないだほうがいいだろ」

    「いいの。こうやって私も匂い残すんだからっ」

    朋也「あ、そ…」

    なんというか…縄張り意識の強い獣のような思考な気がする…。
    まぁ、そんなこいつの行動も、可愛く思えてしまうのだが。

    ―――――――――――――――――――――

    581 = 162 :

    5/8 土

    「あぁ~カミサマ~お願い~二人だけの~」

    上機嫌で口ずさむ。それは、軽音部の練習でよく歌われている曲だった。
    もう何度も聴いていたので、俺もすぐにわかった。

    「ふふ、お姉ちゃん機嫌いいなぁ。やっぱり、あしたは岡崎さんとデートだからかな」

    朋也「知ってたのか、憂ちゃん…」

    「はい。すっごく嬉しそうに話してましたよ、きのう」

    朋也「そっか」

    そう、俺は明日、唯とデートする約束を取り付けていたのだ。
    今日は午前中で授業が終わるので、午後からは一人でデートコースの下見に行くつもりだった。
    初めてのデートだったから、一応念を押しておきたかったのだ。

    「でも、岡崎さん。まだ、学生の内はエッチなことしちゃだめですよ」

    朋也「わ、わかってるよ…」

    なぜ釘を刺されるんだろう…憂ちゃんには俺がそんな奴に見えているんだろうか…。
    しかし…つくづく保護者じみているな、この子は…。
    本当に年下なんだろうか…。

    ―――――――――――――――――――――

    ………。

    582 = 161 :

    ―――――――――――――――――――――

    昼。

    「う~…頭痛い…」

    「大丈夫? 風邪?」

    「いや、そういうわけじゃないんだけど…熱もなかったし…なんでだろ」

    見事に二日酔いしていた。

    「顎もなんか痛いんだよな…」

    それもそうだろう。
    放課後デスメタルを名乗り、歯ベースなるものを披露していたのだから。

    「それに、きのうの部活あたりから記憶がおぼろげなんだよな…」

    「そこになにかヒントが隠されてる気がするんだけど…」

    「あー、なにもないよ。おまえはちゃんと練習してたぞ。それも、すっげぇテク見せつつな」

    「ほんとか?」

    「ああ。だから、もう気にするな」

    「う~ん…まぁ、いいか…」

    醜態を晒してしまった過去は今、闇に葬られていった。

    583 = 162 :

    真面目な秋山のことだ、知ればきっと、恥ずかしさで身動きが取れなくなってしまうんだろう。
    それを未然に防ぐための処置だった。

    ―――――――――――――――――――――

    朋也(う~ん…どうしようかな…)

    学校を出て、町の中をうろつく。
    現地を巡りながら、彼女と二人で過ごすに耐えうるプランを練っていたのだが…
    まったくいい案が思いつかない。というか、俺の経験程度じゃ、まず発想自体が浮かばない。
    こういう時、誰か頼れる人間がいればいいのだが、生憎とそんなツテはない。
    となると、ここは、そういった情報を扱っている雑誌を参考にしてみるのも手かもしれない。

    朋也(本屋にでも行くか…)

    ―――――――――――――――――――――

    朋也(………)

    棚に並ぶ雑誌群。その中に、それらしいものを見つける。
    表紙のあおり文には『鬼畜王が教えるデート必勝法!』とあった。
    その鬼畜王というフレーズに惹かれ、一冊手に取ってみる。

    朋也(なになに…)

    漢ならストレートにいけ! 会った瞬間唇を奪うのだ! 後はわかるな?
    ホテルに直行だ、がははは! 金が無いなら自宅でもいいぞ。
    野外派の奴は、P12を開け。俺様おすすめの路地裏を教えてやる。ありがたく思え、がははは!
    出かける前には、ハイパー兵器はちゃんと洗って…

    584 = 161 :

    パタム

    俺はそこで読むのをやめた。

    朋也(レベルが高すぎる…)

    この筆者…いや、英雄とは生きている次元が違うような気がする。
    その差をひしひしと感じながら、雑誌を棚に戻す。
    というか…よく出版できたな、この雑誌…。

    朋也(それはいいとして…)

    俺は再び雑誌を物色し始めた。

    ―――――――――――――――――――――

    朋也「はぁ…」

    本屋から出てくる。結局、決めたのは映画を観にいくことだけ。
    上映時間を調べて、それで終わりだった。

    朋也(どうすっかなぁ…)

    電車で都心部の方まで出れば、それなりにサマになったデートになるんだろうか…。
    でも、俺はあまりこの町から出て遊ぶことはしなかったので、その辺の地理に疎かった。
    今から付け焼刃で調べに行っても、実りがあるとは思えない。
    やはり、地元が無難だろう。

    朋也「痛っ…」

    585 = 162 :

    次に向かおうと身を翻した矢先、誰かに肩をぶつけてしまった。
    ばさばさと本が地面に数冊落ちる。
    相手方のものだろう。

    「おっと…悪いな」

    朋也「いえ、こちらこそ…」

    言いながら、その本を拾い集める。

    朋也(って、エロ本かよ…)

    これは、俺もそうだが、相手はもっと気まずいぞ…。

    朋也「どうぞ。すみませんでした」

    二冊重ねて手渡す。

    「おう、悪いな」

    朋也(ん? この男どこかで…)

    サングラスをしていたが、なんとなくその背格好や顔つきに見覚えがあった。

    朋也「…あ」
     「…あ」

    思い出す。そう、この男は…

    586 = 162 :

    朋也「あんた、サバゲーの…」
      「あん時の小僧か…」

    指をさし合う。向こうも覚えてくれていたようだ。

    「なんだ、おまえもエロ本買いに来たのか」

    朋也「違うっての…」

    「ふん、そんなみえみえの嘘をつくな」

    「どうせ、買いたくても、恥ずかしくて一歩が踏み出せずに、この場で足踏みしてたんだろ?」

    「そこで、姑息なおまえはエロ本を買った客をここで襲うことにしたわけだ。どうだ、図星だろう?」

    朋也「あんたにぶつかったのは偶然だ…」

    「だが残念だったな、この俺様を狙ったのが運の尽きよ…返り討ちにしてくれるわ、小僧ぉおっ!」

    朋也「人の話を聞け、オッサンっ」

    「誰がオッサンだ。秋生様だ。秋生様と呼べ、小僧」

    朋也「俺にも岡崎って名前があんだよ、オッサンっ」

    秋生「小僧は小僧だろうが、この小僧が…真っ昼間からエロ本なんか買いに来やがって」

    朋也「そりゃ、あんたのことだ」

    秋生「まぁそうだが…ちっ、仕方ねぇな、そこまで言うなら、同士としてアドバイスをくれてやる」

    587 = 161 :

    一方的に話を進めていた。
    この人とは一生まともな会話が出来そうにない。

    秋生「いいか、まずは店内の監視カメラの位置をすべて把握するんだ」

    秋生「そして、死角を縫うようにしてアダルトコーナーにたどり着け」

    秋生「ここまでくればあとは買うだけだが…一応、少年ジャンプも二冊ほど一緒に買っておけ」

    秋生「その間に挟んでレジを通せば、店員も『あ、なんだ。ただの成年ジャンプか』とサブリミナル効果で騙せるからな」

    朋也「そんな回りくどいことせずに普通に買えばいいだろ…」

    秋生「それができないっていうからアドバイスしてやってるんだろうがっ」

    朋也「いらねぇよっ」

    秋生「じゃ、なんだ、ここでエロ本を買っていく善良な市民を襲い続けるのか、てめぇは」

    朋也「だから、んなことしねぇってのっ」

    秋生「嘘をつけぇっ! さっきエロ本拾う振りしてポケットにしまってただろうがっ! 返せ、こらっ!」

    朋也「無理があるだろっ! ポケットなんかに入んねぇよっ」

    秋生「なら、腹に仕込んで喧嘩しにいくつもりだろ。ボディもらった時、ちょうど袋とじが破れるように調節しやがって…」

    意味がわからなかった。

    朋也(付き合ってられん…)

    588 :

    クラナドの雰囲気がすんげー忠実に再現できすぎててけいおんっぽさはないけどけいおんがクラナドの世界に入ったらこうなるんだろうなー
    この>>1はシナリオライターにでもなればいい

    589 = 162 :

    もし容量きたら

    朋也「軽音部? うんたん?」ラスト

    で建てるね

    590 = 542 :

    了解。
    作業しながら呼んでるぜ

    591 = 169 :

    >>589
    ついにラストか・・・

    592 = 161 :

    俺はオッサンを無視して歩き出した。

    秋生「おーい、そっちにゃ本屋はねぇぞーっ。エロ本買うんだろーっ」

    朋也(声がでけぇよ…)

    朋也(う…)

    通行人が俺とオッサンを交互にちらちらと見ている。
    仲間だと思われているのだろうか…かなり嫌だ。

    朋也(くそ…)

    俺は逃げるように大急ぎでその場を立ち去った。

    ―――――――――――――――――――――

    朋也(ふぅ…えらいのに絡まれちまった…)

    商店街のあたりまで駆けてきて、そこでやっと足を止めた。
    少し息を整える。

    朋也(遊んでる場合じゃない…デートコースだ、デートコース)

    気を取り直して再び考えを巡らせる。

    朋也(商店街…この辺を見て回るのもいいかもな…)

    朋也(後は…)

    593 = 162 :

    ―――――――――――――――――――――

    朋也(よし…この辺でいいかな)

    大まかな流れを固め、ひとまずは区切りがついた。
    細かいことはその場の判断でいいだろう。
    俺は腕時計を見た。まだ余裕で軽音部が活動している時間帯。

    朋也(戻るか…)

    学校へ足を向ける。
    道中も、立てたばかりの計画を頭の中でずっと反芻していた。

    ―――――――――――――――――――――

    『ごめんね ル~だけ残したカレー…』

    部室の前までやってくると、音が漏れ聞えてきた。
    今も練習中なのだろう。

    がちゃり

    扉を開け放ち、中に入る。

    ―――――――――――――――――――――

    ぎゃりぃっ!

    弦を乱暴にひっかいたようなギターの音。それをもって演奏が止まった。

    594 = 161 :

    「なぁんだよ、梓…いきなり変な音だして…」

    「す、すみません、岡崎先輩がぶしつけに入ってくるのが見えたので、気が散っちゃって…」

    「あん?」

    その一言で、部員たちがの視線が俺に集まる。

    「ああ、来たのか」

    「おかえり~」

    「今岡崎くんの分のお菓子、用意するね」

    朋也「いや、いいよ。なんか邪魔しちゃったみたいだし…練習続けてくれ」

    手をひらひら振ってテーブル席に向かう。

    朋也「ふぅ…」

    春原「用事ってなんだったの」

    腰を下ろすと、春原がそう訊いてきた。

    朋也「大したことじゃねぇよ。俺の行きつけの部屋があるんだけど、そこで空き巣してきただけだ」

    春原「ははっ、そりゃ哀れだね、その部屋に住んでる被害者は…」

    春原「って、待てよっ! それ、僕の部屋のことだろっ!?」

    595 = 162 :

    朋也「ああ。堂々と土足で踏み込んでやったぜ」

    春原「なんでそんな自慢げなんだよっ! つーか、パクッたもん返せっ!」

    朋也「馬鹿、嘘に決まってるだろ。気づけよ。だからおまえは毎日がエイプリルフールって呼ばれるんだよ」

    春原「んなの一度も呼ばれたことねぇってのっ!」

    春原「ったく…いつもいつもおまえは…」

    ぶつくさ言いながら紅茶を口にする春原。
    そこで、シンバルの音が鳴り、また演奏が再開された。
    顔を向ける。

    「…っ!」

    中野と目が合ったが、すぐに逸らされてしまった。
    気のせいか、頬が赤く染まっているように見えるが…。
    そんな、目が合ったくらいで照れるようなタマでもないし…俺の思い過ごしだろう。

    ―――――――――――――――――――――

    「あ、あの…岡崎先輩…」

    帰り道、中野が控えめに話しかけてきた。

    朋也「なんだよ」

    「き、きのうことですけど…」

    596 = 161 :

    もじもじとして言いよどむ。
    多分、酔っ払っていた時の話を切り出そうとしているんだろう。

    「あの…岡崎先輩に抱きついたりしましたけど…か、勘違いしないでくださいねっ」

    「あれはっ…ただ、気分がぽーっとなって、その…若気の至りというか…そんなアレだっただけですから…」

    朋也「ああ、なんか変だったもんな、おまえ」

    「うぅ…」

    朋也「わかってるよ。変な気なんか起こしてないから、心配するな」

    「…ちっともですか?」

    朋也「ああ、まったくな」

    「…ああそうですか、そうですよね、私、唯先輩や澪先輩と違って魅力ありませんもんねっ」

    「わかりましたよ、もういいですっ」

    怒ったように言うと、俺から離れていった。

    朋也(なんなんだ…?)

    気難しい奴だ…あいつをどう扱っていいのか、いまいちわからない。

    ―――――――――――――――――――――

    597 = 162 :

    5/9 日

    朝。約束の時間通りに平沢家まで足を運んできた。

    朋也「………」

    少し緊張しながらも、呼び鈴を押す。

    ピンポーン

    『はい』

    インターホンから憂ちゃんの声。

    朋也「あ…俺だけど…」

    『岡崎さんですね? ちょっと待っててください…』

    そこでぶつりと切れる内線。

    「お姉ちゃーん、岡崎さん来たよー」

    今度は肉声でそう聞えてきた。
    次いで、どたどたどたー、と階段を駆け下りてくるような音が屋内で響く。

    「お姉ちゃん、これ忘れてるよ」

    「おおぅ、そうだった。ありがとう、憂」

    「いっぱい楽しんできてね」

    598 :

    このSSが完結したらアフターの執筆に取りかかるんですよね!
    しえん。

    599 = 161 :

    「うんっ。いってきまぁ~す」

    がちゃり

    玄関が開き、唯が元気よく出てきた。
    パステルカラーが目に優しい、可愛らしいコーディネイトで身を包んでいる。
    私服姿を見るのはこれで三度目だが、今日が一番女の子していた。
    やっぱり、デート仕様でめかし込んできてくれたんだろうか。

    「お待たせ~、朋也」

    朋也「ああ」

    ふたり並んで歩き出す。

    「私ね、今日お弁当作ってきたんだよ。お昼になったら食べようね」

    その手に持つバッグを掲げる。

    朋也「そっか。楽しみだな」

    「ふっふっふ、期待しているがよい」

    朋也「そんなに自信あるのか。じゃ、ほぼ憂ちゃんが作ってくれたんだな」

    朋也「おまえは、夏休みの自由研究を誰かに便乗してスタッフロールにだけ加えてもらう、あの手法を取ったと」

    「違うよっ、全部私の手作りだよっ」

    朋也「えぇ…大丈夫なのか、それ」

    600 = 162 :

    「味見した時おいしかったから、大丈夫だよ」

    朋也「ふぅん…」

    「なんなのぉ、ふぅんって。信じてないんでしょ」

    朋也「いや、信じてるって。おまえの料理の腕は確かだよ、うん」

    「なぁんか雑に言ってるよね…ほんと失礼だよ、朋也は」

    「それに、鈍感だよ…まだ私に言ってないことあるし」

    言ってないこと…?
    思い当たる節がない。

    朋也「なんだよ…わかんないな」

    「あるでしょ? 早く気づいて?」

    体をくねらせ、上目遣いで目をパチパチとさせた。
    これは、まさか…誘惑されてるのか、俺は?

    朋也「…よし、キスしよう」

    「え、ええ!? こ、こんなところで!?」

    朋也「って、言って欲しかったんじゃないのか」

    「そ、それはまた別の話だよ…今はもっと他にあるでしょ?」


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