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    元スレ朋也「軽音部? うんたん?」2

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    みんなの評価 : ★★★×4
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    651 = 162 :

    秋生「ふははは! あんな口約束信じるとは、やはりただの小僧だな」

    理不尽すぎる大人だった。

    ―――――――――――――――――――――

    「朋也って、アッキーと仲いいんだね」

    パン屋を出ると、唯がそう言って話しかけてきた。
    その胸には、いっぱいになった紙袋を抱えている。
    俺も同じように両手が塞がっていた。

    朋也「どこがだよ…」

    「私にはそうみえたけどなぁ。それに、なんかふたりとも似てるし」

    朋也「嘘だろ…俺、あんな感じなのか?」

    「みかけのことじゃないよ? なんていうか、中身的な感じでね」

    朋也「そっちのが俺はショックだぞ…」

    「なんで? いいじゃん、アッキー」

    朋也「いや、まだ数回会っただけだからどうかしらないけどさ…どう考えても俺のキャラじゃないだろ」

    「でもさ、アッキーが早苗さんをごまかす時の方法とか、朋也のごまかし方とそっくりだよ」

    「前に私、朋也に耳元で好きって言われ続けて、許しちゃったことあったもん」

    652 = 162 :

    あれか…。確かに身に覚えがあった。

    朋也「…それは、俺があのオッサンに似てるんじゃなくて、おまえが早苗さんに似てるんだ」

    「あ、その言い訳の仕方もなんか似てる」

    朋也「そんなわけない。あんまり言うと、このパンがどうなるかわかってるのか」

    「今のもそっくりだよ」

    朋也「くそ、マジかよ…」

    「もう認めちゃいなって」

    朋也「いやだ」

    「あはは、頑固だなぁ、朋也は」

    あんなオッサンと同類なんて冗談じゃない。
    ………。
    けど…なぜだろう、そう言われ、俺は不思議な感覚にとらわれていた。
    古河パンという空間、そして、早苗さんとオッサン…それに、渚という子。
    なにか心の奥底で引っかかるものがあった。
    昔…遠い昔に、俺は誰かのために頑張っていて…充実した温かな日々を送っていた気がする。
    そんなこと、年齢から考えても絶対にありえないのに…なぜか実感としてあった。
    そして、その最後。とても悲しいことがあって、俺は耐え切れなくて…
    どうなってしまったんだろう。ぼんやりと浮かんでくるのは後悔の念だった。
    なんなんだろう、この不安は。胸の痛みは。

    朋也「唯…」

    653 = 161 :

    俺はたまらなくなって、その名を口に出した。

    「ん? なに?」

    いつもと変わらない様子で返してくれる。
    そんなありふれたことだけで、俺は平静になれた。

    朋也「好きだよ」

    「え!?…う、うん…私も」

    不意打ちになってしまったようで、少し動揺していた。
    そんな慌てぶりが可笑しくて、思わず笑ってしまう。

    「あ、もう…なんで笑うのっ」

    朋也「いや、おまえが可愛いからつい」

    「意味わかんないっ」

    そっぽを向かれてしまった。それでも、俺はずっと笑顔でいられた。
    そして、切に思う。
    こんな温かな日々を。どうかいつまでも…俺にください。

    ―――――――――――――――――――――

    654 = 162 :

    5/10 月

    「おはよぉ、朋也」

    「おはようございます、岡崎さん」

    朋也「おはよ」

    「うふふ…」

    憂ちゃんが俺を見ながらこらえ笑い。

    朋也「うん? なんだよ、憂ちゃん」

    「ふふ、きのうはすごくラブラブなデートだったみたいですね」

    「お姉ちゃんから見せてもらいましたよ、プリクラ」

    「えへへ、つい自慢したくなっちゃってねぇ」

    朋也「そっかよ…なんか恥ずかしいな…」

    「岡崎さんもすごくいい笑顔で写ってましたよね」

    朋也「それなりに頑張ったんだよ」

    「あはは、岡崎さん、普段はクールですもんね」

    その表現はきっと、『無愛想』を最大限に持ち上げてくれたものなんだろう。

    655 = 161 :

    朋也「まぁ、あんなさわやかな笑い方はしないかな」

    「それだけレアだったんですよね。あーあ、私も生で見たかったなぁ~」

    朋也「そっか? じゃあ…」

    前髪をさらっとかきあげる。
    そして、笑顔で目を細めながら…

    朋也「憂ちゃん」

    切なげにその名を呼んだ。

    「岡崎…さん」

    憂ちゃんの表情にとろんと酔いが帯びる。

    朋也「憂ちゃん…いや、憂。俺は君のためにずっと笑い続けていたい。そうしてもいいか?」

    「うん…私、そうしてほしいよ…朋也…」

    今、二人だけの世界が形作られていた。

    「って、なに目の前で浮気してるの!? だめぇーっ!」

    間に割って入ってくる唯。
    ふたりで作り上げた甘い空間が音を立てて崩れていった。

    朋也「ああ…もったいねぇ…」

    656 = 162 :

    「なにがもったいないっていうのっ! 馬鹿朋也っ」

    朋也「いや、俺と憂ちゃんのラブロマンスが始まろうとしてたじゃん、今」

    「だから邪魔しに入ったんですけどっ」

    「お姉ちゃん、怒っちゃやだよ?」

    「憂も、悪ノリしちゃだめっ」

    「てへっ」

    舌をぺろっと出していた。憂ちゃんにもこういうところがあるのか…。
    どことなく唯っぽい。やはり、なんだかんだいっても血の繋がった姉妹なのだろう。

    「朋也、なんでいつも憂にはすごく尽くしてあげるの? もしかして…」

    朋也「ああ、その通り。俺は憂ちゃんが大好きだ」

    「ありがとうございますっ。私も岡崎さんが大好きですよ」

    朋也「憂ちゃん…」

    「岡崎さん…」

    見つめあう。

    「うぅ…もういいよっ、ふたりともきらいっ」

    早足で先に進んでいく唯。

    657 = 161 :

    「あ、待ってよぉ、お姉ちゃ~ん」

    それを憂ちゃんが追っていく。いつも通りの、ちょっと騒がしい朝の光景だった。
    ちなみに、この後俺は唯の許しを得る代償として、五本分のアイスを奢る契約に判を押してしまっていた。

    ―――――――――――――――――――――

    ………。

    ―――――――――――――――――――――

    昼。

    「いよいよ今週末だな」

    「ん~? なにが」

    「なにがって、創立者祭に決まってるだろ。どうやったらそんな大事なことが頭から抜け落ちるんだ」

    「ちゃんと覚えてるよ。ただ、私の携帯も週末に機種変しにいくつもりだったから、それとどっちかなと」

    「おまえの予定なんて知らないからな…」

    春原「ムギちゃん、当日は僕とふたりっきりで模擬店みてまわろうね」

    「えっと…ごめんなさい、その日は体調がすこぶる悪いの」

    春原「すがすがしいほどわかりやすい仮病っすかっ!?」

    「わははは!」

    658 = 162 :

    ―――――――――――――――――――――

    ………。

    ―――――――――――――――――――――

    その日の放課後。軽音部では、ティータイムもほどほどに、すぐさま練習が始まっていた。
    追い込みというやつなのだろうか。皆、表情が本番さながらの真剣さだった。
    こいつらのそんな姿を初めて見たのは、4月にあった新勧ライブのあたりだった。
    あの頃はその場にいることさえ常に違和感がつきまとっていたのに…今はどうだ。
    すっかり馴染んでしまい、演奏を聴きながら、のんきに茶なんかすすってしまっているではないか。
    本当に…こんな風になるなんて、考えもしなかった。
    世の中、なにがどうなるかわからないものだ。

    朋也(ふぅ…)

    俺は湯飲みを手に取った。そして、一度喉を潤す。

    朋也(創立者祭か…)

    例年通りに過ごすなら、朝の出欠だけ出て帰るのだが…
    今年はそういうわけにもいかない。もちろん、軽音部の手伝いがあるからだ。
    それに、俺は唯と一緒にこのイベントを楽しんでみたかった。
    まぁ、ふたりっきりというわけにはいかないだろうが…それでもだ。

    春原「おい、岡崎」

    後ろから春原の声。振り返る。

    朋也「なんだよ」

    659 = 161 :

    春原「○×ゲームしようぜ」

    ペンを持ち、ホワイトボードをこんこんと叩いている。

    春原「僕の神の一手をみせてやるよ」

    朋也「やらねぇよ。ひとりで詰め○×ゲームでもやってろ」

    春原「んだよ、ノリ悪ぃなぁ…ま、いいけど」

    きゅぽん、とキャップを外す。そして、おもむろに落書きを始めた。
    どうやら部長の似顔絵のようだ。
    原型をとどめていないくらいにぐちゃぐちゃだったが、注意書きされていたのでなんとかわかった。
    きっとまた、それを見た部長が怒って、春原と一騒動あるのだろう…ぼんやりと思った。

    ―――――――――――――――――――――

    660 = 162 :

    5/15 土

    火、水、木、金と過ぎ、創立者祭前日の土曜。
    今日は午後から、体育館と講堂で明日のリハーサルが行われる。
    三年のほとんどは真っ直ぐ帰宅することになるが、その他の生徒は昨日に引き続き明日の準備に入る。
    学祭のような催しに、合計して一日分しか準備時間を割かないというのが実に進学校らしい。

    「ふぅ…」

    「お疲れだなぁ、和」

    「生徒会、すごく忙しそうだもんな」

    「ええ、まぁね…」

    創立者祭は生徒会主導らしく、真鍋は昨日から各種業務に追われ奔走していた。
    それはもう、昼食をゆっくり食べる時間さえまともに取れないほどに。

    「ん…」

    腕時計を見る。

    「もうこんな時間…そろそろいかないと」

    言って、弁当を片して席を立った。

    「また後でね」

    「おう」

    661 = 161 :

    「頑張ってね、和ちゃん」

    「あんたたちもね」

    ―――――――――――――――――――――

    「んじゃ、リハ行くか」

    昼を済ますと、俺たちはそのまま部室へやってきた。
    これから機材の搬入が始まるのだ。

    「あんたらは重いもの持ってくれよ」

    朋也「ああ、わかってるよ」

    春原「へいへい」

    がちゃり

    さわ子「ん…まだみんないるわね」

    「あ、さわちゃん」

    さわ子「ふふふ、今回のステージ衣装を持ってきたわよ」

    その両腕にはケースが5段重ねで抱えられていた。

    「今週全然来ないと思ってたら…それ作ってたの?」

    さわ子「ん~、ちょっと違うわね。確かに、衣装を作ってたっていうのもあるけど…」

    662 = 162 :

    さわ子「主な原因は、新しく出来た合唱部の面倒をみてたことかしらね」

    「え? 合唱部、できたんですか?」

    さわ子「ええ。二年生の子が新しく部を作るために4人集めてね。あなたたちと似てるでしょ?」

    「あー、確かに。思い出すなぁ~…私たちは廃部になりかけてたところをギリで防いだんだよな」

    「私という逸材が入ったことで救われたんだよね」

    「なにが逸材だよ、ハーモニカ吹けますとかハッタリかましてきたくせに」

    「てへっ」

    さわ子「ま、それで、技術指導を頼まれてしばらく出張してたのよ」

    「指導って、それ顧問の仕事じゃないの?」

    さわ子「いろいろ事情があって、担当顧問は幸村先生がされてるんだけど…」

    さわ子「先生、もともとは演劇部の顧問をされてらしたから、細かい技術面の指導はしてあげられないのよ」

    あの人が演劇部の顧問…知らなかった。それほど活動が慎ましい部だったのだろう。

    春原「あのジジィに大声出させたら、すぐに天からお迎えが来ちゃいそうだもんね」

    さわ子「失礼なことを言わないっ」

    ぽかっ

    663 = 161 :

    春原「あでぇっ」

    「でも、ちゃんと活動できてるんですよね?」

    さわ子「ええ、もちろんよ」

    「そうですか…よかった」

    「そういや、ムギは最初合唱部志望だったんだよな」

    春原「マジで? ムギちゃんが合唱って…それ、もう天使じゃん」

    「あー、はいはい、そうですね」

    「でも、一年生の頃はまだ合唱部がなくてよかったよね。ムギちゃん取られちゃうなんて絶対いやだもん」

    「そうだな。ムギは作曲もしてくれるし、放課後ティータイムに欠かせない存在だからな」

    「菓子も紅茶も用意してくれるしなっ」

    「おまえは即物的すぎて嫌なやつに見えるな」

    「え、マジ? いや、でもそれだけじゃないぞ? もちろんムギの存在自体が必要だって思ってるよ」

    「ふふ、ありがとう、みんな」

    さわ子「ま、合唱部の話はさておき…はい、みんなどうぞ」

    部員たちにケースを配る。

    664 = 162 :

    さわ子「あら、梓ちゃんは?」

    「多分クラスの出し物関連で時間食ってるんじゃないの」

    さわ子「そ。じゃあ、これはあとで渡しましょうかね」

    言って、中野の分であろうケースを机に置いた。

    朋也(ん?)

    よくみると、そのケースには文字が書かれていた。
    『かめしいくがかり』とある。

    「で、これなに? 『かちゅーしゃ』とか書いてあるんだけど」

    「私のには『とだりゅうななだいめ』って書いてあるわ」

    「私のは…うぅ…」

    「『しまぱん』って書いてあるな、澪のは」

    「私は『うんたん』だけど…これ…もしかして…」

    さわ子「ふふ、唯ちゃんは知っているようね。そうよ、その通りよ。開けてみなさい」

    「うん」

    ケースを開けて出てきたのは、近未来を思わせる皮製の真っ黒な全身スーツだった。
    俺もよく知っているそのデザイン。それはまさしく…

    665 = 161 :

    「やっぱり、フンススーツだっ」

    春原「うお、すげぇっ」

    さわ子「ふふふ、そうでしょうそうでしょう」

    「なんだよ、フンススーツって…」

    「りっちゃん、FUNSZU知らないの?」

    「知らないけど」

    「FUNSZUっていうのはね、星人との生き残りをかけた戦いを描いた物語なんだよ」

    「星人? 火星人とかそんなあれか?」

    「う~ん、なんていうか、地球外生命体のことかな。プレデターとかエイリアンみたいな」

    「ふぅん…」

    「それでね、このスーツを着ると体がすっごく強くなって、人間でも星人と互角に戦えるようになるんだよ」

    「へぇ…それでなんかSFチックなのか、これ」

    スーツをつまみ、眺めながら言う。

    さわ子「唯ちゃん、ちょっと物置で着替えてきなさい」

    「はぁ~い」

    666 = 162 :

    ―――――――――――――――――――――

    「どう? かっこよくない?」

    スーツを身にまとった唯が戻ってくる。
    そのぽわぽわした顔に戦闘服はミスマッチかとも思ったが…意外にアリかもしれない。

    「おお、確かに、かっこいいなっ」

    「うん、いい感じ」

    さわ子「絶対ウケるわよ、これ」

    「でも…なんかピチピチしすぎてませんか?」

    さわ子「大丈夫よ。澪ちゃんスタイルいいし、ボディラインがはっきり見えても問題無いわ」

    「いえ、そういうことじゃなくて…」

    「あたしこれ着るわ」

    「私も~」

    「って、ちょっと待て、本気か? これ、絶対暑いぞ」

    「けっこう涼しいよ?」

    さわ子「その辺のことも考慮して、通気性がよくなるようにちょっと構造をいじってあるのよ。私のオリジナルでね」

    667 = 161 :

    「で、でも…」

    「なんだよ、澪。着ないつもりか? ひとりだけ普通だと、逆に浮いちゃうぞ」

    「だ、だって、恥ずかしいし…」

    「いいから、着とけよ。これ着れば、こけてもパンモロしないですむぞ?」

    「な、そ、そんなの気をつけてればいいだけの話だろっ。っていうか、梓も着たがらないと思うんだけどっ」

    「あいつは事後承諾でいいんだよ。後輩だし」

    「そんな理不尽なことが許されるものかっ」

    「なんだその口調は…。まぁ、ともかく、ムギ。あたしらも着替えてこようぜー」

    「うんっ」

    「あ、ちょっと…」

    「諦めろ、澪。多数決的にもこれで決まりだ。唯も着る気まんまんだしな」

    「いぇ~い」

    「うぅ…でも…でも…」

    「みんな一緒の衣装で、結束力を固めようぜ? 同じ放課後ティータイムの一員としてな」

    「…放課後ティータイムの…一員…?」

    668 = 161 :

    「ああ、そうだ。私たち、仲間だろ?」

    「うん…」

    「だからさ、おまえも来いよ。一緒に着替えようぜ?」

    「…う、うん…わかった」

    部長の口車に乗せられ、一緒に物置へと連行されていた。

    春原「ねぇ、さわちゃん。僕もスーツ欲しいんだけど」

    さわ子「あんたは着ても意味ないでしょ。エリア外に出てすぐ頭吹き飛ぶんだから」

    春原「スーツ着てるのにそんな初歩的なミスで死ぬんすかっ!?」

    朋也「まぁ、おまえは最初からエリア外に転送されてるからな」

    春原「なんで僕だけ詰んだ状態から始まるんだよっ!」

    朋也「カタストロフィの余波だな」

    春原「納得いかねぇえええっ!」

    ―――――――――――――――――――――

    人の行き交いの激しい昇降口を抜け、俺たちは講堂に向けて機材を運んでいた。

    「うぅ…やっぱり目立つなぁ、この格好…」

    669 = 169 :

    切ない感じになるのかな・・・

    670 = 162 :

    確かに…ここにくるまでにどれだけの注目を集めてきただろうか。
    すれ違った生徒なんかは総じて興味津々な様子で振り返っていたのだ。
    中にはこのスーツにピンとくる奴もいたようで、そんな連中は訳知り顔でにやにやとしていたが。

    「気にしちゃダメだよ、フンスッ」

    「そうだぞ、フンスッ」

    「頑張って、澪ちゃん、フンスッ」

    「なんでそんなに気丈でいられるんだよぉ…」

    ―――――――――――――――――――――

    「…まぁ、なんていうか、けったいな格好ね」

    「かっこいいって言って欲しいなぁ」

    「そうだそうだぁ」

    「澪も、よくそんなの着ようと思ったわね」

    「深い事情があったんだ…しょうがなかったんだ…私の真価が試されていたんだ…」

    ぶつぶつと呪文のようにつぶやく。

    「そ、そう…とりあえず、順番が来たら呼ぶから、それまで待機しててちょうだい」

    ―――――――――――――――――――――

    671 = 161 :

    舞台袖に荷を下ろし、観客席側に出る。
    壇上では、白いスクリーンが用意されていて、そこに映像が映し出されていた。
    なに部かは知らないが、映像の調子を見ているようだった。

    「すみません、遅れましたっ」

    「あっ、あずにゃんだ」

    見ると、楽器を背負い、こっちに向けて小走りで駆けて来るところだった。

    「準備が忙しくて、なかなか抜け出せなくて…すみませんでした」

    「搬入も、もう終わっちゃってますよね…?」

    「ああ。けど、しょうがないよ。一、二年生は大変だもんな、この時期は。だから、気にするな」

    「は、はい…」

    「………」

    「えっと…それで、みなさんが着てるそれは一体…?」

    「う、こ、これは…」

    「ライブの衣装だよ」

    「え? マジですか?」

    「超大マジだよん」

    672 = 162 :

    「そんな…澪先輩まで…」

    「梓…これは試練なんだ。放課後ティータイムの絆が問われているんだ」

    中野の肩をがしっと掴み、力強く語りだす。

    「は、はぁ…」

    「だから、梓…おまえも本番ではこれを着るんだ。いいな?」

    「は、はい…わかりました…」

    その有無を言わせない迫力を前にして、首を縦に振るしかないようだった。

    『合唱部の方、次なので準備をお願いします』

    拡声器を使った声が届いた。
    すると、端の方に腰掛けていた女の子たち4人が、そろってステージの方に歩いていった。

    「あれ…うちの学校って合唱部ありましたっけ」

    「新しくできたのよ。それも、一から部員を集めて、顧問の先生まで見つけてね」




    674 = 162 :

    「へぇ…すごいですね」

    合唱部のリハーサルを俺たちは見届ける。
    上手いとか下手とか俺にはわからない。
    けど、間違いなく心は動かされた。
    それは聴く前と、聴いた後の気分が違っていたのだから間違いない。
    それを感動と呼ぶのは簡単な気がしたけど、でも、きっとそうなのだと思う。
    続けて、軽音部が呼び出された。

    「うし、いくかっ」

    「おーうっ」

    「うんっ」

    「やってやるですっ」

    「って、それは私が言おうと思ってたのに…ひどいです…」

    気合が入ったのか入ってないのかよくわからない号令をもって、歩き出す。
    俺と春原はそれを見送った。
    我が軽音部の、誇らしい部員たちを。

    ―――――――――――――――――――――

    675 = 162 :

    5/16 日

    迎えた創立者祭当日。この日は通例、朝のHRで出欠だけ取ると、すぐさま自由時間となる。
    それからは、ほとんどの生徒は遊びに出ることができるのだが…
    発表を控えた文化系クラブの面々はそういうわけにはいかなかった。
    午前中に組まれたプログラムに備えて、準備を始めなければならないのだ。
    当然、軽音部の部員たちもそんな連中の側にいた。
    だが、その発表順には少し余裕があったため、浮いた時間を最後の調整に充てることができたのだ。

    朋也「………」

    部屋中に音が鳴り響く中、俺は窓の外を見ていた。
    立ち並ぶ模擬店の前にはどこも人だかりができている。
    一般解放もしているため、私服で訪れている人も多く見受けられた。
    それもあってか、かなり混雑しているようだった。
    生徒会の人間とおぼしき連中が交通整備をやっているのが見える。ご苦労なことだ。

    「よし…」

    演奏が止む。

    「このくらいにして、そろそろ講堂入りしとこう」

    「だな。おーい、おまえら、仕事だぞ」

    春原「ふぁ…すんげぇ眠いんですけど…」

    「んとに緊張感ねぇなぁ、おまえは」

    春原「だって、こんな早くに来るなんて平日だってないぜ? しかも日曜だし…」

    676 = 161 :

    「しっかりしろよ。運んでる最中に落とされでもしたら困るからな」

    春原「そんときゃ、ドンマイ」

    「なにがドンマイだ、アホっ! おまえの生死は問わないから身を挺して守れっ」

    春原「やだよ。僕のビューテホーな顔に傷がついたらどうすんだよ」

    「最初から5、6発いいのもらったような顔してるから変わんねぇよ」

    春原「あんだとっ!?」

    くわっと目を見開く。
    怒りが引き金となり、すっかり覚醒してしまったようだ。

    ―――――――――――――――――――――

    搬入が終わり、後は出番を待つだけとなった。
    俺と春原は軽音部の連中を舞台裏に残し、客席に下りていた。
    椅子に腰掛け、映研が上映する短編映画をそれとなく観賞していたのだが…
    物語もすでにクライマックスに差し掛かっていたようで、すぐに幕が閉じていった。
    照明が戻り、観客の出入りがせわしく始まる。

    「よっ、ふたりとも」

    そんな煩雑とした中、横から声をかけられた。

    朋也「ん…」

    振り返る。

    677 = 162 :

    春原「お、ようキョン」

    キョン「よ」

    キョンだった。
    春原にぴっと片手を上げて返し、その隣に腰掛ける。

    キョン「えーと…」

    座るなり、パンフレットを開くキョン。

    キョン「軽音部は次の次なんだな」

    朋也「ああ、そうだけど…なんだ、ライブ目当てか」

    キョン「まぁな。一度関わっちまった手前、興味湧いたからな」

    朋也「そっか」

    春原「つーかさ、おまえ、ひとりなの?」

    キョン「ああ、そうだが」

    春原「ハルヒちゃんはいいのかよ。ふたりで見回らなくてさ」

    キョン「なんで俺がわざわざあいつと…」

    春原「んなこと言ってると、他の男に取られちゃうぜ?」

    春原「今日は他校の男共もナンパ目的でかなり来てるからな」

    678 :

    現在528だぜ
    ついにくっついた
    しかもクラナドだよ…この感じ…すげえよだーまえ降臨だよ
    そして>>1はいつ寝るのか、それも楽しみだ

    679 = 161 :

    春原「ハルヒちゃん可愛いし、絶対狙われるぞ」

    キョン「そんなことは俺の知ったことじゃない」

    春原「へっ、こいつはまた…強がんなって」

    キョン「強がってない」

    春原「んじゃ、僕が口説きにいってもいいのかよ?」

    春原「こんな周りが浮き足立ってる時に僕の巧みな話術展開しちゃったら…一瞬で落ちるぜ?」

    キョン「好きにしてくれ」

    キョン「まぁ、あいつは今日イベント打ってて忙しいから、相手にしてもらえるかどうかはわからんがな」

    朋也「おまえらのクラブもなんかやってんのか?」

    キョン「ああ。俺は詳細を伝えられてないんだが…」

    キョン「なんでも、アンダーグラウンドとかいう格闘技興行を秘密裏に運営するってことらしい」

    朋也「…なんかヤバそうなことやってるな」

    キョン「俺はメンバーから外されちまってるんだけどな。あんたには荷が重過ぎるから、ってさ」

    それはもしかしたら、こいつを保護するための措置だったんじゃないだろうか。
    そんな気がした。

    『お待たせしました。続いては、合唱部によるコーラスです』

    680 = 162 :

    真鍋の声がして、幕が上がる。
    舞台には、昨日のリハーサルでみた女の子たちが立っていた。
    皆緊張した面持ちでその時を待っている。
    音楽が鳴り始めと、それが始まりの合図だった。
    彼女たちの歌声は、高く館内に響き渡っていた。

    ―――――――――――――――――――――

    合唱部の曲目が終わると、次はいよいよ軽音部のライブだった。
    途端に客足の入りが激しくなる。主にうちの生徒がわいわいと集まりだしていた。
    やはり校内人気は相当高いようだ。

    春原「やべっ…僕トイレいきたくなっちゃったよ」

    キョン「そろそろ始まるぞ」

    春原「ちょっとダッシュで行ってくるっ」

    朋也「っても、この人の多さだぞ。多分押し戻されて戻ってくるだけだ」

    朋也「ライブ終わるまで出られねぇよ」

    春原「そ、そんなぁ…どうすりゃいいんだよ…」

    朋也「諦めてそういう下ネタだって言い張れよ」

    春原「って、それシャレになってねぇよっ!」

    キョン「ははは、まぁ、30分で終わるみたいだし、それくらい耐えられるだろ、おまえなら」

    681 = 161 :

    春原「下ネタに長けてるみたいな言い方しないでくれますかねぇ…」

    『続きまして、軽音部によるバンド演奏です』

    真鍋のアナウンスが流れる。すると、それだけでわっと歓声が上がった。
    幕がゆっくりと上がっていき、徐々に部員たちの姿が見えてくる。
    観客のテンションも右肩上がりだ。
    そして、現れる…黒いスーツを身にまとった5人組が。

    キョン「…なんだ、あの格好は…」

    キョンが訝しげな顔をして疑問符をつけていた。
    館内にもあちこちでどよめきが起こっている。
    ところどころ、FUNSZUと聞えてくることもあったが…
    知らない奴が見れば、さぞ異様に見えたことだろう。

    『みなさんこんにちは! 放課後ティータイムです!』

    『今日はお忙しいところお集まりいただき、まことにありがとうございます!』

    『かたいっつーの』

    どっと笑いが起こる。
    そのおかげで、衣装への不和がほぐれたのか、客席からも声が上がりだした。

    「唯ちゃーーん!」

    「唯ーーー!」

    「平沢さーーんっ」

    682 = 162 :

    黄色い声援も中にはあったが、ほとんどが男の野太い野次だった。
    MCだからなのか知らないが、唯に集中している。

    朋也(そういえば、真鍋の奴が唯はモテるとか言ってたな…)

    朋也(もしかして、唯ファンの連中なのかな…)

    そう考えると、ちょっとした優越感が味わえた。

    朋也(てめぇら、唯は俺の彼女だぜ…ふふふ…)

    『みんな、ありがとぅーっ』

    壇上で大きく手を振る。

    『えーっと、初めての人は、はじめましてっ。二回目以降の人は…うぅん? えーと…』

    『こ…こんにちはっ』

    「こーんにーちはー」

    某長寿昼番組風な答えが返ってくる。

    『えへへ…えっと、私たちはこの学校で軽音部に入って活動してる、放課後ティータイムといいます』

    「そーですねー」

    『あははっ…ん、でですね、実は、先月新勧ライブをやったんですよ…』

    マイクに手を当て、内緒話のようにささやいた。

    683 = 161 :

    『シークレット調に話す意味がわからん』

    『そっちのほうが深みが出るかなと思って…』

    『深みっつーか、むしろなんか裏がありそうに見えるんだけどっ』

    『ありゃ? そう?』

    そのやりとりで、客席が笑いで沸いていた。
    あれは全部アドリブでやっているんだろうか。
    とくに打ち合わせしていた様子はなかったように思う。

    『まぁ、それでですね、新勧ライブなんですけど…やったってところまで話しましたよね?』

    『ところまでって、そこが冒頭だろ』

    『そうですそうです、ここから物語が展開していくんです』

    『それでですね、やったのに全然新入部員が入ってくれなかったんですよ、あははー』

    『起承転結してなすぎること物語るなよ。起結しかねーじゃん』

    「りっちゃーん、ツッコミ代弁ありがとー」

    客席から声。

    『ははっ、いやいや…』

    『まぁ、そういうことなので、ただいま部員募集中ですっ! 来たれ、興味のある人!』

    684 = 162 :

    「唯ーーーっ! 俺が入るぞぉおおおっ!」

    今までの野次とは質の違う、よく通る大きい声。
    その発生源に館内すべての注目が集まっていた。

    キョン「あ…あの人は…」

    春原「うわ…サバゲーの男だ…」

    朋也(オッサン…来てたのか)

    秋生「唯ーーーっ! 俺がラップ担当してやるぞぉおおっ!」

    秋生「YO! YO! 俺MCアキオ マイク握れば最強のパンヤー」

    ずるぅ!

    満場一致で盛大にずっこける。

    キョン「つーか、平沢さんの知り合いだったのか…」

    春原「変な人脈持ってるよね…やっぱ、類は共を呼ぶって奴なのかな、ははっ」

    朋也「無理して覚えたてのことわざ使わなくていいぞ」

    多分誤字もしているような気がするし。

    春原「無理なんかしてねぇってのっ!」

    『ア、アッキーはもう高校生じゃないから無理だよ…』

    685 = 161 :

    秋生「なにぃいいっ! 自分から誘っておいて…」

    発言の途中、隣に座っていた女性に止められる。
    その人はオッサンになにかを言い聞かせ、根気よくなだめているようだった。
    そして、その説得が功を奏したのか、オッサンもしぶしぶ座っていた。
    女性がステージに向かって手を振る。
    よく見ると、その女性は早苗さんだった。

    『ありがとうっ、早苗さん』

    唯も手を振って返していた。

    『さて、告知も終わりましたので…本番いってみましょうっ』

    『それじゃ、一曲目、カレーのちライス!』

    いつも練習で聴いていた、馴染みある音が奏でられる。
    そこに唯の声が乗ると、ひとつの曲として走り出したことを実感する。
    館内は、騒然と熱気に包まれ始めていた。

    ―――――――――――――――――――――

    『ありがとうございましたぁっ』

    最後に一言そう投げかけて、ライブの締めくくりとした。
    未だ観客の歓声が続く中、幕が下りていく。
    そして、興奮の余韻を残したまま、人の移動が始まった。

    春原「やべっ、もう限界だっ」

    686 = 162 :

    流動する波の中に迷い無く飛び込んでいく。
    押しつ押されつしながらも、掻き分けるように進んでいく。
    無事にトイレまでたどり着ければいいのだが。

    朋也(さて…)

    立ち上がる。
    幕の向こう側では、片付けが始まっているはずだった。
    俺も行かなくてはいけない。

    キョン「撤収作業にいくのか?」

    朋也「ああ、まぁな」

    キョン「じゃ、俺も手伝うよ」

    言って、キョンも立ち上がった。

    朋也「いいのか?」

    キョン「どうせ暇だしな」

    朋也「そっか。サンキュな」

    キョン「おまえらをサバゲーに巻き込んじまったことあったしな。おたがいさまだ」

    朋也「それは、その前におまえをバスケで借りてたからだろ」

    キョン「そうじゃなくても、あの団長様なら無理にでも参加させてただろうからな」


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