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    元スレ朋也「軽音部? うんたん?」2

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    みんなの評価 : ★★★×4
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    251 :

    クラナドは大好きだけどけいおんはあまり知らないが…とりあえず今度けいおんDVD全巻見てくるよ

    あと、梓と風子がダブるのは気のせいか?

    >>1頑張って

    252 = 161 :

    「そうですね…」

    「やっぱり、岡崎先輩が女たらしのクセに唯先輩に手を出すから、皆怒ってるんですよ」

    朋也「それはおまえの心の内だ」

    朋也「つーか、俺はあいつに手なんか出してないからな」

    「嘘つき。いつもベタベタしてくるせに」

    朋也「どこがだよ。普通の距離感だろ」

    「朝だって一緒に登校してるじゃないですか」

    「それに、唯先輩、部室でも岡崎先輩の隣に座りたがるし…」

    朋也「それは俺からじゃなくて、あいつの方からきてないか」

    「あーっ! 今、自分がモテ男だってさりげなく言いましたね!?」

    「やらしいですっ! すべてにおいてあらゆる意味でやらしいですっ!」

    「やらしいですっ! やらしいですっ!」

    朋也「悔しいですみたく言うな」

    朋也「前に言ってたけど、あいつは俺のことなんとも思ってないらしいぞ」

    「ほんとですか? でも、どういう会話の流れでその発言が出たんですか?」

    253 = 162 :

    朋也「いや、冗談のつもりで、俺に気があるのかって訊いてみたんだよ」

    朋也「そしたら、そんなんじゃないってさ」

    「…なるほど」

    「まぁ、唯先輩は、わりとすぐ人と仲良くなりますからね…」

    「ってことは、岡崎先輩にじゃれついてるのは、遊びだったってことですね」

    「あはは、唯先輩にとっては、岡崎先輩なんて、遊びだったってことですよ」

    「あははは」

    朋也「はは…」

    俺もなぜか乾いた笑いで同調してしまっていた。

    「じゃあ、岡崎先輩も、唯先輩のことは、なんとも思ってないわけですね」

    朋也「ん、ああ…」

    「…なんで言いよどむんですか?」

    朋也「いや…」

    がたっ

    朋也(ん?)

    254 = 161 :

    音のした方に振り向く。
    ダンボールが倒れ、猫が飛び出していた。
    空に飛び立っていく鳥を追っている。
    その先には、激しく車の行き交う道路があった。
    俺は考える前に駆け出していた。

    朋也(うらっ…)

    飛び込み、猫をキャッチする。
    間一髪間に合った。
    猫は、俺の胸の中できょとんとしている。

    朋也「いっつ…」

    背中に痛みが走る。
    モロにコンクリでぶつけたからだ。
    腕も擦ってしまい、血が流れてくる感触が肌に伝わってきた。

    「大丈夫ですかっ!?」

    中野が駆け寄ってくる。

    朋也「ああ、無事だよ」

    上体を起こし、猫を両手で掲げてみせる。

    「そうじゃなくて、岡崎先輩がですよっ」

    朋也「ああ、俺は…っつ…」

    255 = 162 :

    「痛みますか? どこです?」

    朋也「いや、大丈夫」

    「ちょっと腕見せてください」

    言って、俺の袖をまくった。

    「血が出てるじゃないですか…」

    朋也「ほっときゃ止まるよ」

    「そんなこと言って、バイ菌が入ったら大変ですよっ」

    「ここでじっとしててください。私、ちょっと行ってきます」

    そう言い残し、人ごみを縫ってすぐ近くの雑貨店に入っていった。

    ―――――――――――――――――――――

    「はい、これでいいです」

    朋也「サンキュ」

    中野は、水で傷口を丁寧に洗い流し、その上から透明なシートを貼ってくれていた。

    「患部を水で濡らした後、このシートを貼っておくんですよ」

    パック入りになったそれを渡してくる。

    256 = 161 :

    朋也「ああ、わかったよ。で、いくらだったんだ? これと水合わせて」

    受け取って、そう訊いた。

    「お金なんていいですよ。この子、助けようとしてくれたんでしょ」

    膝の上に乗り、安心して丸まっている猫の顎を撫でる。

    「ほんと、馬鹿ですね。あんなことしなくても、道路になんか飛び出しませんよ」

    朋也「そうだったかな」

    「そうですよ」

    朋也「ちょっと神経質すぎだったな」

    朋也「動物の挙動なんて、予測できないからさ、嫌な予感がして、先走っちまった」

    「岡崎先輩の行動の方がよっぽど予測できません」

    朋也「そっか」

    「はい、そうです」

    朋也「………」

    「………」

    会話が途切れる。

    257 = 162 :

    俺はなんとなくネコミミを手にとってみた。

    「って、なんで猫にネコミミをつけるんですか…意味ないですよ…」

    朋也「これで、二倍猫になるだろ」

    「もう…なんなんですか、それ。意味がわかりませんよ」

    「ほんと、馬鹿なんだから」

    柔和に微笑む。
    初めて俺に向けられた曇りのない笑顔。
    いつもこんな風に笑っていてくれれば、こいつも無害な普通の女の子なのだが。

    「あら、岡崎じゃない」

    朋也「ん…」

    声がして、顔を向ける。
    そこには一人の女性が立っていた。

    「奇遇ね。こんなとこで、なにやってんの」

    朋也「美佐枝さん…」

    この女性、学生寮の寮母をやっている人だった。
    名は相楽美佐枝。
    寮生でない俺も、あれだけ通い詰めていれば、嫌でも顔見知りになる。

    美佐枝「ところで…そっちの子は?」

    258 = 161 :

    中野を見て言う。

    朋也「ああ…まぁ、後輩だよ」

    「あ、初めまして。中野梓といいます」

    美佐枝「これは、ご丁寧にどうも。私は、相楽美佐枝。学生寮の寮母をやってるの」

    「寮母さんなんですか…すごくお若いのに…」

    美佐枝「あら? そうみえる? ありがと」

    美佐枝「にしても…」

    美佐枝「岡崎、あんたも隅に置けないわねぇ。こんな可愛い子とデートなんてさ」

    「な、ち、違いますっ」

    中野が勢いよく否定する。

    美佐枝「ありゃ、彼女じゃなかったの?」

    朋也「こいつとはそんなんじゃねぇよ」

    「そ、そうですよっ」

    美佐枝「ふぅん、なかなか似合って見えたのにねぇ」

    「そ、そんなことないですっ! 私たち、犬猿の仲なんですっ」

    259 = 162 :

    「こ、こんな人となんて…そんな…」

    美佐枝「あんた、嫌われてるの?」

    朋也「少なくとも、好かれちゃいないかな」

    美佐枝「あ、そなの」

    朋也「ああ」

    「にゃあ」

    中野の膝の上、猫が鳴いてた。

    美佐枝「あら…可愛い猫だこと。触ってもいい?」

    「あ、もちろんです」

    美佐枝「ありがと。それじゃ…」

    くすぐるように顎を撫でた。
    ごろごろと気持ちよさそうに唸る。

    美佐枝「あんたの猫なの?」

    「いえ…野良なんです」

    美佐枝「へぇ、それにしては毛並みが綺麗よね」

    「ですよね。可愛いです」

    260 = 161 :

    美佐枝さんが撫でると、猫もうれしいのか、尻尾をピンと立てていた。
    ここまで気を許させてしまうのは、この人の持つ、包み込むような母性のためだろうか。
    動物にもそれが直感的にわるから、安心して身をゆだねることができるのかもしれない。
    どうせ飼われるなら、こんな人がいいと思う。
    面倒見のいいこの人のことだ、きっと大事にしてくれるに違いない。
    だが、寮で飼うなんてことが許されるのだろうか…
    そこだけが唯一気にかかる。

    朋也(ダメもとで訊いてみるか…)

    朋也「美佐枝さん。そいつ、飼ってやれないか」

    美佐枝「え? あたしが?」

    朋也「ああ。俺たち、ずっと飼ってくれる奴探してたんだけど…」

    俺はこれまでのいきさつを美佐枝さんに話した。

    美佐枝「はぁ…その猫の怪我、そういうことだったんだ」

    朋也「ああ。だから、頼むよ。美佐枝さんなら、安心して任せられるし」

    「私からも、お願いします」

    美佐枝「う~ん…でもねぇ…」

    美佐枝「………」

    顎に手を当て、しばしの間、思案に暮れる。

    261 = 162 :

    美佐枝「…猫、か。もう一匹増えたところで、変わりないか…」

    何かつぶやいていたが、小さくて聞き取れなかった。

    美佐枝「うん…わかった。一応、つれて帰ったげる」

    「ほんとですかっ? ありがとうございますっ」

    美佐枝「でも、正式に飼うわけじゃないわよ」

    朋也「どういうこと?」

    美佐枝「原則、寮でペットを飼うのは禁止されてるからねぇ」

    美佐枝「おおっぴらには飼えないってことよ」

    美佐枝「部屋を間借りさせてあげるのと、餌をあげることくらいしかできないけど…」

    美佐枝「それでもいい?」

    「十分ですよっ」

    朋也「ああ、それだけしてくれりゃ、飼ってるのと変わりねぇよ」

    美佐枝「そ。じゃあ、あたしはもう帰るとするかねぇ」

    美佐枝「さ、おいで」

    猫をその胸に抱く。
    一片の抵抗もみせず、大人しく美佐枝さんの腕の中に収まっていた。

    262 = 161 :

    朋也「ありがとな、美佐枝さん」

    「ありがとうございますっ」

    美佐枝「ん、いいわよ、別に」

    美佐枝「それじゃね」

    朋也「ああ」

    「はいっ」

    俺たちに背を向け、歩いていく。

    「よかったぁ…」

    よほど嬉しかったのか、肩の力を抜いて、安堵の表情を浮かべていた。

    朋也「そうだな」

    おもむろに、ぽむっと中野の頭に手を乗せる俺。

    「な、なにするんですかっ」

    が、すぐに振り払われた。

    朋也「いや、いい位置にあったから」

    「そ、そんな理由で触らないでくださいっ」

    263 = 162 :

    朋也「悪かったな。もうしねぇよ」

    「………」

    朋也「そんじゃ、俺も行くからさ。じゃあな」

    言って、俺も美佐枝さんが行ったのと同じ方向に足を向けた。
    これから春原の部屋に向かうつもりだった。
    今からなら、途中で美佐枝さんに追いつくだろう。
    別れの挨拶をした意味がないな…ぼんやりと思う。

    「あ、あのっ」

    朋也「なんだよ」

    声をかけられ、振り返る。

    「きょ、今日はありがとうございましたっ…協力してくれて…」

    「その…岡崎先輩のおかげで、飼い主も見つかりましたし…」

    「猫を助けようって、必死になってもくれましたし…」

    「ちょっとだけ…見直しました」

    朋也「そりゃ、どうも」

    「それと…頭に手を乗せられたのも、ほんとは嫌じゃないっていうか…」

    「むしろ…その…」

    264 :

    軽部

    266 = 161 :

    もじもじとしているだけで、その先は出てこなかった。

    朋也「じゃあさ、これからは仲良くしてくれよな、あずにゃん」

    「な、あ、あずにゃんって呼ばないでくださいっ」

    「この調子乗りっ! うわぁぁんっ」

    顔を真っ赤にして、どぴゅーっとものすごい勢いで逃げていった。

    朋也(変な奴…)

    だが、少しだけあいつとの関係が改善された…ような気がした。

    ―――――――――――――――――――――

    267 = 162 :

    4/30 金

    「あ~…だるぅい~」

    「お姉ちゃん、たった一日で休みボケしすぎだよ」

    「だってぇ…もうゴールデンウィーク入ったって錯覚しちゃったんだもん…」

    「あしたいけば、本物の連休がくるから、がんばろ?」

    「う~…えいっ」

    憂ちゃんに腕を回し、全体重を預ける平沢。

    「な、なに? 重いよぉ、お姉ちゃん…」

    「このまま進んで、学校まで運んでよぉ~」

    「うぅ…わかったよ…私頑張るね…」

    「よいしょ…よいしょ…」

    懸命にずるずる引きずっていく。

    「遅いよぉ~スピード上げてよぉ~」

    「う、うん、わかったよ…よい…しょ…」

    「あ…もうだめ…」

    269 = 161 :

    ぺたり、とその場にへたりこんでしまう。

    朋也「自分で歩けよ、平沢」

    朋也「ほら、憂ちゃん」

    手を差し伸べる。

    「あ、ありがとうございます」

    その手を取って立ち上がる憂ちゃん。
    平沢は崩れ落ちたまま微動だにしなかった。

    「はひぃ…」

    朋也「置いてくぞ」

    「ああ…まってぇ」

    のろのろ立ち上がり、追ってくる。

    「岡崎くん、しがみついていい?」

    朋也「だめ」

    「けちぃ…」

    ―――――――――――――――――――――

    270 = 162 :

    下駄箱まで足を運んでくる。

    朋也「おい、平沢…そろそろ離せ」

    「え~、教室まで連れてってくれてもいいじゃん…」

    結局、坂を上ったあたりから、平沢を引きずってくることになってしまっていた。
    あまりにもしつこかったので、俺のほうが折れてしまったのだ。

    朋也「ここまででいいだろ。さっさと靴履き替えろ」

    「ぶぅ…」

    「…おはようございます」

    …この声。
    振り向く。

    「………」

    中野が引きつった笑顔をぴくぴくとひくつかせ、音もなく背後に立っていた。
    …おまえは忍者の末裔か。

    「あ、あずにゃん、おはよぉ」

    朋也「…よぅ」

    「………」

    眉間に寄った皺は消えそうにない。

    271 = 169 :

    てか、卒業まで続くのかな

    272 = 161 :

    また、いらぬ恨みを買ってしまったんだろうか…。

    「…また、放課後に」

    「うん、部活でね」

    「それじゃ、失礼します」

    言って、軽く会釈。
    最後に俺をちらっと見て…

    「…馬鹿」

    ムッとした顔を向け、そう口が動いた気がした。
    それも、一瞬のことだったので、定かではなかったが。

    ―――――――――――――――――――――

    ………。

    ―――――――――――――――――――――

    昼。

    「あぁ…刻(とき)が見える…」

    平沢は未だにローテンションを引きずっていた。

    「はぁ…むしろ生きる意味がわからない…」

    273 = 162 :

    「どんどんひどくなっていってるな…」

    「唯、口からぼろぼろこぼれ落ちてるから、咀嚼する時だけは気合入れなさい」

    「ああぅ…わかた…多分」

    春原「はは、情けねぇなぁ。もっとピシッとしろよ」

    「おまえは今日も重役出勤だったくせに、えらぶんな」

    春原「うるせぇっ! 元気があればなんでも出来るんだよっ!!」

    「うわっ、ばかっ、口の中に食べ物含んだまま叫ぶなよっ!」

    「内容物が飛び散ってんだろうがっ! 私に当たったらどうすんだよっ!」

    春原「避ければいいじゃん」

    「おまえが飛ばさなきゃいいの!」

    「ったく…」

    朋也「あ、部長、右肩んところ…」

    「ん?」

    「うひぃ、ちょっと被弾しちゃってるし…最悪…」

    汚らしそうに、ばっばっと振り払っていた。

    274 = 161 :

    「唯、今日が山場だ。明日は4時間だし、ここさえ乗り切ってしまえば、あとは楽だぞ」

    春原「そうそう、土曜なんて、あってないようなもんだしね」

    「そりゃ、おまえが大抵昼からしかこないからだろ」

    「う~ん、わかっちゃいるけど、体がついてこないよぉ…」

    「唯ちゃん、よかったら、これ食べて、元気出して?」

    琴吹が弁当箱から高級そうなだんごを覗かせた。

    「え? いいの?」

    「うん、もちろん」

    「やったぁ、それじゃ…あ~ん」

    餌を待つヒナ鳥のように口を開けた。

    「はい、あ~ん」

    箸で平沢の口まで運ぶ琴吹。

    「そこまでめんどくさがるのに、ちゃっかりもらうんだな…」

    「むぐむぐ…おいひぃ~」

    「ほんと? よかったぁ」

    275 = 162 :

    「しょうがねぇなぁ、私からもやるよ…このキンピラゴボウ」

    春原「おまえ、またんなもん食ってんの」

    「うるせぇなぁ、りっちゃんキンピラは最高にうまいんだぞ」

    「う~ん…一応もらっておこうかな…あ~ん」

    また口を開けて待つ。

    「一応とはなんだ、一応とは」

    言いながら、箸でひとかたまり摘んで、口に運ぶ。

    「むぐむぐ…ぺっぺっ」

    「あーっ! てめぇ、唯!」

    春原「ははは、だせぇ」

    「こぉの野郎ぉーっ!」

    平沢に横からヘッドロックをかける部長。

    「ご、ごめぇん、冗談だよ、おいしいよぉ」

    「80回以上噛んでから飲み込め、こらっ!」

    「2回で許してぇ」

    276 = 161 :

    「味が出る前に飲み込もうとしてるだろ、それっ!」

    「不味いって言いたいのかよぉ!」

    ぎりぎりと締め付けていく。

    「うわぁん、嘘、嘘だよ! 分子レベルまで噛み締めるから、許してぇ」

    「まったく…もっと静かに食べられないのか」

    「冷静なこと言ってないで、助けてよぉ、澪ちゃんっ」

    「くすくす」

    こうして、昼も騒がしく過ぎていった。

    ―――――――――――――――――――――

    ………。

    ―――――――――――――――――――――

    放課後。

    「………」

    「唯先輩、どうしたんですか?」

    平沢は机に突っ伏して、一言も発していなかった。

    277 = 162 :

    「なんか、連休前で、息切れしてるんだってさ」

    「はぁ…」

    「はい、唯ちゃん。ここ、置いておくね」

    「ん…」

    少し顔を上げる。

    「ひゃっほうっ、今日はチーズケーキなんだねっ!」

    ケーキを目の前にして、今まで伏せていた上体を勢いよく起こしていた。

    「いきなり元気になったな…」

    「現金な奴…」

    ―――――――――――――――――――――

    春原「おい、部長。ちょっとラジカセ貸してくんない?」

    「あん? どうすんだよ」

    春原「これをかけようと思ってね」

    ポケットからカセットテープを取り出す。

    春原「ボンバヘッ聴きながら、ムギちゃんの用意してくれたお茶を飲む…」

    278 :

    これは超長編でも最後まで読み切りたい

    279 = 161 :

    春原「これ以上のくつろぎ方はこの世に存在しないね」

    「いや、いいけどさ…ボンバヘッってなによ?」

    春原「かぁ、知らねぇのかよ、あの有名なHIPHOPの最高峰を」

    春原「おまえ、それでも軽音部部長かよ」

    「いや、聞いた事ないからさ…みんな知ってるか?」

    「知らなぁい」

    「私も…」

    「私も、ちょっと…」

    「私も聞いたことないです」

    春原「ええ、マジ? じゃ、この機会に知っておいたほうがいいよ」

    春原「部長、ラジカセまだかよ」

    「物置にあるから、自分で取ってこい」

    春原「ちっ、気の利かねぇ奴だな」

    「おまえのために動く道理なんかねぇよ」

    春原は物置に入っていくと、ややあってラジカセを手に戻ってきた。

    280 = 162 :

    春原「んじゃ、かけるよ」

    テープを入れ、再生ボタンを押す。
    流れてきたのは、古臭い歌謡ヒップホップ。

    朋也(ダッサ…こんなの聴かねぇだろ…)

    春原「よくない? ボンバヘッ!」

    「ん、まぁ、なかなか…」

    「ノリがいいよね」

    「そうだな。普段、こういう曲はあんまり聞かないけど、いいかも」

    「うん、なんか、親しみやすいなぁ」

    「ちょっと古い感じしますけど…逆に新鮮でいいです」

    春原「へへ、だろ?」

    …意外と好評のようだった。

    春原「おまえら、どんどんボンバヘッコピーして、いいバンドになれよ」

    「アホか。私たちの音楽性と違いすぎるわ」

    「音楽性って…それも、プロみたいでちょっと大げさな気もしますけどね」

    「でも、おもしろそうじゃない? ボンバヘッ時間とかやってみたらさ」

    281 = 161 :

    「んなアレンジするかよ…澪だって、歌詞思いつかないだろ、そんなんじゃ」

    「う~ん…頑張ればできるかも…」

    「できるんかい…」

    「どんな感じ? 澪ちゃん」

    「うん…えっと…」

    「キミをみてると、いつもハートBON☆BAHE…とか…」

    静まり返る室内。

    「………」

    「じゃ、練習しよっか」

    「そだね」

    「やってやるです」

    「頑張りましょうね」

    春原「岡崎、せんべいちょっとわけてよ」

    朋也「いいけど」

    「ちょっと待てぇっ!」

    282 = 162 :

    「どうしたんだよ、澪。んな大声出しちゃって」

    「なんでなかったことにされてるんだよっ!」

    「いや、だって、すげぇ微妙だったし…」

    「仕方ないだろぉ! 即興だったんだからっ!」

    「にしてもなぁ…」

    「うぅ…じゃあ、納得できるもの書いてきてやるっ」

    「春原くん、後でテープダビングさせてっ!」

    春原「あ、ああ、いいけど…」

    「澪ちゃ~ん、そこでまでしなくていいからなぁ~…」

    ―――――――――――――――――――――

    練習が始まり、俺たちは暇になる。
    今残っている茶を飲み干せば、退散を決め込むつもりだった。

    春原「う~ん…まだか…」

    春原がなにやらラジカセのアンテナをしきりに動かしていた。

    朋也「なにやってんの、おまえ」

    春原「みてわかんない? ラジオ聴こうとしてんだよ」

    283 = 161 :

    朋也「いや、わかるけどさ、なんで琴吹に向けてんの」

    ちょうど、胸のあたりに照準を合わせているような…

    春原「どうせなら、ムギちゃんのおっぱいを通った電波受信したいじゃん」

    朋也「あ、そ…」

    こいつは絶対アホだ。

    春原「うぉおおおっきたきたぁっ!」

    じりじりとラジカセが音を立て始める。
    内容は、情報番組のようだった。

    春原「ちっ、なんだよ、つまんねぇチャンネルだなぁ」

    春原「せっかくムギちゃん通してんだから、ムギちゃんのおっぱい情報を事細かに伝えろよなぁ」

    朋也「琴吹の前に、どっかのおっさんを5、6回経由してきたようだな」

    春原「マジで? それ、やべぇよ」

    春原「くそぉ、知りてぇえええ! ムギちゃんのおっぱい秘話っ!!」

    がんっ

    春原「イテぇっ!」

    ドラムスティックが春原の顔面に直撃していた。

    284 = 162 :

    「変態発言はよそでやれ、アホっ!」

    部長が投げ放った物のようだ。

    春原「顔面狙うことないだろ、クソデコっ!」

    「黙れ、変態ヘタレ野郎っ!」

    悪口の応酬が始まる。
    平沢たちは部長を、俺は春原をなだめ、なんとか場を収めた。

    「ったくぅ…ムギもなんとか言ってやれよぉ」

    「こいつ、ムギにすげぇやらしいことしてたんだぜ?」

    「セクハラだよ、セクハラ」

    春原「いや、そういうつもりじゃ…」

    春原「ちょっとしたジョークだよ。ムギちゃんなら、わかってくれるよね?」

    「えっと…もう少しで、立件できそうなの」

    春原「前々から準備進めてたんすかっ!?」

    「わははは!」

    ―――――――――――――――――――――

    結局、最後まで居座ってしまい、一緒に下校することになってしまっていた。

    285 = 161 :

    春原が寮に戻り、俺ひとりが女集団の中に残されたので、やはり少し離れて歩いた。
    目の前では、平沢たちが楽しげに会話をしている。
    部長と平沢がボケて、秋山と中野がつっこみを入れ、琴吹が笑う。
    役割が大体決まっているのだろうか。よく見かける構図だった。

    「岡崎くん」

    話がひと段落ついたのか、輪から抜けて、秋山が俺に近寄ってきた。
    他の奴らは、次の話題に移っているようだった。

    朋也「なんだ」

    「今ね、みんなで星座占いやってたんだけど…」

    言って、持っていた携帯に目を落とす。

    「よかったら、岡崎くんもやってみない?」

    朋也「俺?」

    「うん。興味ないかな、やっぱり…」

    少し寂しそうな顔。
    確かに、別段興味はなかったが…
    こんな顔をされては、断る気にもなれない。

    朋也「さそり座」

    「え?」

    286 = 162 :

    朋也「俺の星座だよ。占ってくれるんだろ」

    「あ…うんっ」

    表情をぱっと明るくして、携帯を操作する。

    「えっとね…」

    「今日のあなたは超絶好調☆誰にも止められない☆邪魔者はみんな叩き殺しちゃえ☆」

    「…ということだそうです」

    …どんな占いサイトだ。

    「あはは…よかったね…すごく運いいみたいだよ…」

    秋山もその結果に、とういうか、文章にうろたえているのか、声がうわずっていた。

    朋也「ああ…みたいだな。まぁ、すでに今日も後半に入ってるけどさ」

    「あはは…そうだね…」

    朋也「はは…」

    「あはは…」

    意味もなく笑う俺たち。

    「あの…相性占いもしてたんだけど…やってみる?」

    287 = 161 :

    口直しに、とでもいうように、そう訊いてきた。

    朋也「相性って…俺と、誰を?」

    「誰でもいいよ。名前と、誕生日を知ってる人なら」

    「春原くんとか、どう?」

    朋也「いや、あいつは、俺の中でまだ顔と名前が一致してないくらいの仲だしな」

    朋也「相性なんて、どうでもいいよ」

    「そ、そんな他人みたいな…ひどいなぁ…あんなに仲いいのに」

    朋也「よくない」

    「素直じゃないんだね」

    朋也「本音だ」

    「あはは…そういうことにしておくね」

    「じゃあ、春原くん以外で、誰かいる?」

    朋也「そうだな…」

    俺の交友関係なんて、あいつを除けば、ほとんど無きに等しい。
    改めて考えてみると、俺って、かなり寂しい奴なんじゃないだろうか…。

    「もし、よかったら…私たちの内の誰かでもいいよ」

    288 = 162 :

    朋也「おまえでも?」

    「え、わ、私? 私なんかで、いいの…?」

    「岡崎くん、唯と仲いいし…その…相性知りたいんじゃないかなって…」

    また平沢との疑惑が持ち上がってくるのか…。
    これももう何度目だろうか。
    まぁ、今となっては、俺自身、そんなに嫌でもなかったが…

    朋也「おまえとにするよ」

    だが、露骨に俺から近寄っていくのも、何か違う気がした。
    第一、平沢は、その気がないとかつて言っていたこともあるのだ。
    だから、今のままが一番いいと思う。

    「…う、うん、わかった…じゃあ、私とで…」

    携帯の画面と向き合い、カチカチと入力していく。

    「岡崎くん、誕生日は?」

    朋也「10月30日」

    「10月…30…」

    俺の返答を聞くと、また画面に目を戻し、入力を始めた。

    「名前の、ともや、ってこの字でいいかな?」

    289 = 169 :

    澪ちゃんかわええ

    290 = 161 :

    画面を俺に見せてくる。

    朋也「ああ、いいよ」

    「えっと…朋也っと…」

    「血液型は?」

    朋也「A型」

    「Aっと…」

    「それじゃあ…」

    カチッと一押しする。
    最後の入力が終わったようだ。

    「あ…出てきた…」

    幾ばくかの間があって、そう声を上げた。

    「………」

    画面をじっと見つめたまま何も言わない。
    言い辛い結果だったんだろうか。

    朋也「どうだったんだ」

    「うん…えっと…」

    291 = 162 :

    「…話す内、お互い、気を許し合えることがわかります」

    「長年に渡って、良きパートナーとなれるでしょう…」

    「…って、ことなんだけど…」

    朋也「ふぅん、結構よさげじゃん」

    「う、うん、そうだね…」

    「それで…男女ペアだったから、もうひとつあるんだけど…」

    男女ペア特有の相性…それは、やっぱり…

    「あの…恋愛相性…なんだけど…」

    …そうなるか。

    「き、興味、あるかな…?」

    頬を赤らめながら訊いてくる。

    朋也「あ、ああ…まぁ、一応」

    仮にも、秋山は美人の部類である女の子だ。
    そんな奴との相性が気にならないと言ったら、それは嘘になる。

    「じ、じゃあ、言うよ…えっと…」

    「…お互いの精神的弱点を補い合い、成長できる恋愛が出来そうです」

    292 = 161 :

    「強さと繊細さを持ち合わせた理想のカップルとなれるでしょう…」

    「………」

    言い終わると、口をきゅっと結び、目を泳がせながら押し黙ってしまう。

    朋也「あー…俺たち、相性いいみたいだな」

    つとめて淡白な素振りを意識して、軽い口調で言った。
    所詮アルゴリズムで弾き出された答えだ。
    気負うことはないと、そう伝えたかったからだ。

    「う、うん、そうだね…」

    俺の意思が通じたのか、秋山も笑顔を作ってそう返してくれた。

    「あの…岡崎くんってさ…」

    朋也「うん?」

    「えっと…」

    グサ

    下腹部に違和感。

    「あ…」

    朋也「…ん?」

    293 = 162 :

    秋山から視線を外し、下にさげていく。
    …股間に枝が突き刺さっていた。

    朋也(なぜ…)

    ゆっくりとその先に視線を這わせていくと、中野が呆れた顔で突っ立っていた。

    「まったく、ちょっと目を離すとすぐふたりっきりになろうとする…」

    「最低です」

    朋也「いや、まずこの枝どけろよ」

    言って、振り払う。
    が、すぐにまた戻される。

    「あ、梓、やめなさい」

    「だって、澪先輩がこのけだものに襲われてたから…」

    「そんなことされてないから、やめなさい」

    「…はい」

    しぶしぶ枝を自然に還していた。
    まぁ、ただ捨てただけなのだが。

    「岡崎先輩、後ろの方でこそこそといちゃつくのはやめてください」

    朋也「んなことしてねぇって」

    294 :

    けいおんキャラがまったく脳内再生されない

    295 = 161 :

    「そ、そうだぞ、ただ私が話しかけて…」

    「澪先輩、だまされちゃだめですっ」

    「はうっ…」

    その迫力に気圧される秋山。

    「気を許させて、そこから一気に畳み掛けるつもりなんですからっ」

    「岡崎先輩、卑怯ですよ、こんな純情な澪先輩まで毒牙にかけようなんてっ」

    朋也「ただトークしてただけだっての…」

    「そんなに女の子とふたりっきりで話したいんですかっ」

    朋也「いや、俺は…」

    「そういうことなら…私…私が犠牲になるので、先輩たちに手を出さないでくださいっ」

    朋也「じゃあ、おまえとならいちゃついてもいいってことかよ」

    「な、なななっ…」

    「…そ、それで岡崎先輩が大人しくなるなら…我慢しますです…」

    「あ、梓…」

    「おーおー、敬語が雑になるくらい動揺しちゃって…」

    296 = 162 :

    「あらあら、梓ちゃんったら…」

    いつの間にやら部長と琴吹も集まってきていた。

    「まさか、梓まで攻略するなんてな…岡崎、おまえ、すげぇよっ」

    「ななな、なに言ってるんですかっ! そんなことされた覚えありませんっ!」

    「だってさぁ、岡崎が他の女といちゃつくの嫌なんだろ?」

    「それで、今、独占しようとしてたじゃん」

    「違いますっ! あくまで身代わりになろうとしてただけですっ!」

    「ふぅん、身代わりねぇ…いひひ」

    「り、律先輩っ! 変な笑い方しないでくださいっ」

    「いやぁ、おもしろくなってきましたなぁ、ムギさんや」

    「そうですねぇ、りっちゃんさん」

    「む、ムギ先輩までっ…」

    「おお、すごぉいっ!」

    前方で声。この場に居合わせた全員が前を向く。

    「りっちゃんとトンちゃんの相性ばっちりだよっ…って、あれ?」

    297 :



    …この勢いはまったく止まらないのか…

    298 = 161 :

    「なんでみんなそんな後ろの方にいるの?」

    平沢がひとり、こちらを振り返ってきょとんとしていた。

    「あいつは…なにとあたしの相性占ってんだよ…」

    「ほら、りっちゃんみてみて、トンちゃんとの相性!」

    とてとて走ってくる。

    「すごいフィーリングだよっ。よかったねっ」

    「りっちゃん、私たち全員と相性微妙だったからっ」

    「それは言うなぁっ!」

    バックを取り、チョークスリーパーをかける。

    299 = 162 :

    「うわぁん、ごめんなさぁいっ」

    騒ぎ出すふたり。

    「…はぁ」

    秋山が俺の隣でため息をついていた。
    そういえば、中野が現れる前、なにか俺に言おうとしていたような…

    朋也「なぁ、さっきなにか言いかけてたけど、なんだったんだ」

    「ん? うん…いいの、なんでもない」

    朋也「あ、そ」

    「うん…」

    間が空いて、興がそがれてしまったんだろうか。
    何を言おうとしていたのか…少しだけ気になった。
    それは、こいつの横顔が、やたらと儚げにみえたからだろう。
    物憂げな表情も、こいつなら絵になるものだと…
    この時、俺は単純に感心していた。

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