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元スレ僕「小学校で」女「つかまえて」
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>ぎこちなくマイクに向かっている同級生の姿を、一人ニヤニヤしながら見つめている。
つまりそういうことじゃないのか?
隣にいないっていうだけで過剰に反応するなよ
つまりそういうことじゃないのか?
隣にいないっていうだけで過剰に反応するなよ
女「ねえ僕ちゃん!」
黒板に書かれた、赤組と白組の組分け表。
それを見ながら興奮気味に話してきた彼女の姿。
そんな数日前を僕は思い出す。
僕「……何?」
女「ねね、見た。組分け表」
僕「見た、よ」
女「ん~……元気無いのは、私と離ればなれの組になっちゃったからかな?」
僕「そんな事……」
女「照れるな照れるな~」
僕(その慰め方は、多分おかしい)
赤組には彼女の名前、白組の部分には僕の名前が書かれている。
さらに悪いことに、僕以外はみんな赤組で……。
女「眼鏡ちゃんも隣君も、みんな赤組だもんね~」
黒板に書かれた、赤組と白組の組分け表。
それを見ながら興奮気味に話してきた彼女の姿。
そんな数日前を僕は思い出す。
僕「……何?」
女「ねね、見た。組分け表」
僕「見た、よ」
女「ん~……元気無いのは、私と離ればなれの組になっちゃったからかな?」
僕「そんな事……」
女「照れるな照れるな~」
僕(その慰め方は、多分おかしい)
赤組には彼女の名前、白組の部分には僕の名前が書かれている。
さらに悪いことに、僕以外はみんな赤組で……。
女「眼鏡ちゃんも隣君も、みんな赤組だもんね~」
僕「……で、何さ」
女「勝負だよ勝負!」
僕「勝負?」
女「私の赤が勝つか、僕の白ちゃんが勝つか……勝負だよ」
たまに彼女は、本当に子供のような考えで物事を考えて、言う。
僕(おまけに勝負事に関しては負けず嫌いの筋金の塊)
僕「勝負はいいけどさ、負けたら何してくれるのかな?」
女「んー……?」
僕「勝負事なら当然戦利品が何か無いと、ね」
僕もなかなか子供らしい性格をしている。
女「そうだね~……」
女「勝負だよ勝負!」
僕「勝負?」
女「私の赤が勝つか、僕の白ちゃんが勝つか……勝負だよ」
たまに彼女は、本当に子供のような考えで物事を考えて、言う。
僕(おまけに勝負事に関しては負けず嫌いの筋金の塊)
僕「勝負はいいけどさ、負けたら何してくれるのかな?」
女「んー……?」
僕「勝負事なら当然戦利品が何か無いと、ね」
僕もなかなか子供らしい性格をしている。
女「そうだね~……」
女「じゃあ、買った方が負けた方に駄菓子屋で五百円分!」
小学一年生の懐具合と、百円ですら贅沢ができる駄菓子屋での五百円分……。
僕「ちょっと豪勢すぎないか?」
女「負けるのが怖いのかな?」
僕「……そんな事ないよ。五百円を失う女が可哀想って思っただけだよ」
女「ふふん?」
僕「こういう楽しみ方も、いいのかもしれないな。よし、わかった」
勝負に合意した瞬間、彼女は元気に眼鏡ちゃんの元へ駆け寄っていく。
女「眼鏡ちゃ~ん! 僕ちゃんがね、運動会で負けたら私たち二人に五百円分のね……!」
……。
僕が負けた場合のみ、駄菓子屋では夏目漱石さんが消える約束になっているらしい。
小学一年生の懐具合と、百円ですら贅沢ができる駄菓子屋での五百円分……。
僕「ちょっと豪勢すぎないか?」
女「負けるのが怖いのかな?」
僕「……そんな事ないよ。五百円を失う女が可哀想って思っただけだよ」
女「ふふん?」
僕「こういう楽しみ方も、いいのかもしれないな。よし、わかった」
勝負に合意した瞬間、彼女は元気に眼鏡ちゃんの元へ駆け寄っていく。
女「眼鏡ちゃ~ん! 僕ちゃんがね、運動会で負けたら私たち二人に五百円分のね……!」
……。
僕が負けた場合のみ、駄菓子屋では夏目漱石さんが消える約束になっているらしい。
眼鏡「え……あたしにも?」
女「私たち赤組だからさ。頑張って僕ちゃんに勝とうね」
眼鏡「負けたらあたし、五百円なんて……」
女「僕ちゃんは私たち二人から奪うような真似なんてしないよ~ね?」
グリン、と彼女の首がこっちに向き直る。
僕(勝手にしてくれ)
僕は大人らしく、呆れた笑顔で頷いてあげた。
女「やったね! じゃあ早速今日の練習を頑張って……」
先生「あの、女ちゃん。ちょっといい?」
女「あれ、先生? どうしたんですか?」
はしゃぐ彼女に、先生が話しかけている。
僕(……何だろう?)
女「私たち赤組だからさ。頑張って僕ちゃんに勝とうね」
眼鏡「負けたらあたし、五百円なんて……」
女「僕ちゃんは私たち二人から奪うような真似なんてしないよ~ね?」
グリン、と彼女の首がこっちに向き直る。
僕(勝手にしてくれ)
僕は大人らしく、呆れた笑顔で頷いてあげた。
女「やったね! じゃあ早速今日の練習を頑張って……」
先生「あの、女ちゃん。ちょっといい?」
女「あれ、先生? どうしたんですか?」
はしゃぐ彼女に、先生が話しかけている。
僕(……何だろう?)
女「わ、私が選手宣誓……?」
先生「この学校だと、宣誓は一年生がやる事になってるの」
女「なんで私なんですか! あ、ぼ、僕君を推薦します!」
僕(やっぱりそう来たか)
先生「毎年、出席番号一番の子が……ね? それに男子の一番は僕ちゃんじゃないし……」
女「せ、宣誓なんて私……」
眼鏡「が、頑張って女ちゃん……」
女「め、眼鏡ちゃん?」
眼鏡「女ちゃん、元気だしきっと上手くできるよ、ね?」
女「んー……」
女「わかりましたよ。先生、私やります」
眼鏡「女ちゃん……!」
先生「良かった。じゃあ放課後隣君と職員室に来てね。練習しましょう」
先生「この学校だと、宣誓は一年生がやる事になってるの」
女「なんで私なんですか! あ、ぼ、僕君を推薦します!」
僕(やっぱりそう来たか)
先生「毎年、出席番号一番の子が……ね? それに男子の一番は僕ちゃんじゃないし……」
女「せ、宣誓なんて私……」
眼鏡「が、頑張って女ちゃん……」
女「め、眼鏡ちゃん?」
眼鏡「女ちゃん、元気だしきっと上手くできるよ、ね?」
女「んー……」
女「わかりましたよ。先生、私やります」
眼鏡「女ちゃん……!」
先生「良かった。じゃあ放課後隣君と職員室に来てね。練習しましょう」
……。
『一年生代表、隣君に女ちゃんでした。では次に……』
前の方から、フラフラとした赤面の女が戻ってくる。
そんな彼女を慰めるように、僕はヒソヒソと声をかけてあげた。
僕「よ、名演説」
女「……うるさいバカ!」
ドボッ。
ヒソヒソした返事と一緒に、左の脇腹にフックが飛んでくる。
僕「っぐ……」
女「……プンだ」
僕「てっきり蹴りが来ると思い衝撃に備えていた物を……」
女「何? 走る前に足ケガしたいの?」
僕「いーえ。滅相も」
女「プイッ」
彼女はそっぽを向いたまま。
僕はそっぽ向く彼女を見つめたまま……秋の運動会が始まる。
『一年生代表、隣君に女ちゃんでした。では次に……』
前の方から、フラフラとした赤面の女が戻ってくる。
そんな彼女を慰めるように、僕はヒソヒソと声をかけてあげた。
僕「よ、名演説」
女「……うるさいバカ!」
ドボッ。
ヒソヒソした返事と一緒に、左の脇腹にフックが飛んでくる。
僕「っぐ……」
女「……プンだ」
僕「てっきり蹴りが来ると思い衝撃に備えていた物を……」
女「何? 走る前に足ケガしたいの?」
僕「いーえ。滅相も」
女「プイッ」
彼女はそっぽを向いたまま。
僕はそっぽ向く彼女を見つめたまま……秋の運動会が始まる。
グラウンドで行われている競技は、そのどれもが僕の記憶には残っていなかった。
玉入れ、借り物競争、クラス全体で踊るという出し物のような物まで。
十何年前、確かに僕はここに居たんだろうけど……。
女「どう、懐かしい?」
僕(綺麗なくらいにまっさらな記憶しか無い……いや、記憶が無い)
僕「ハァ……せめて結果だけでも覚えていれば安心も出来たのに」
女「あははっ、やっぱり記憶にないんだね」
眼鏡「き、記憶?」
女「っ! このバカー」
眼鏡ちゃんに聞こえていた事に驚き、力無く彼女が僕の頬を叩いてくる。
僕(……今のは悪くないのに)
女「あ、赤勝て赤勝て~」
彼女は何事も無かったかのように、グラウンドの何かを応援していた。
玉入れ、借り物競争、クラス全体で踊るという出し物のような物まで。
十何年前、確かに僕はここに居たんだろうけど……。
女「どう、懐かしい?」
僕(綺麗なくらいにまっさらな記憶しか無い……いや、記憶が無い)
僕「ハァ……せめて結果だけでも覚えていれば安心も出来たのに」
女「あははっ、やっぱり記憶にないんだね」
眼鏡「き、記憶?」
女「っ! このバカー」
眼鏡ちゃんに聞こえていた事に驚き、力無く彼女が僕の頬を叩いてくる。
僕(……今のは悪くないのに)
女「あ、赤勝て赤勝て~」
彼女は何事も無かったかのように、グラウンドの何かを応援していた。
種目もそこそこに、午前のプログラムが終了する。
今のところ得点に大差は無い。
勝負は午後の種目で、と言う事になりそうだ。
僕「そのためにも、ご飯ご飯」
眼鏡「じゃあ……また後でね」
僕「また後でねー」
お昼の時間はグラウンドの周りで応援してくれている親の所で食べる事になっている。
僕「じゃあ、女もまた後で」
女「あ……うん。また、ね」
僕(?)
お昼の時間だと言うのに、彼女には先ほどの元気が無い。
いや、元気のカケラも無い。
女「ご飯だもん……ね」
今のところ得点に大差は無い。
勝負は午後の種目で、と言う事になりそうだ。
僕「そのためにも、ご飯ご飯」
眼鏡「じゃあ……また後でね」
僕「また後でねー」
お昼の時間はグラウンドの周りで応援してくれている親の所で食べる事になっている。
僕「じゃあ、女もまた後で」
女「あ……うん。また、ね」
僕(?)
お昼の時間だと言うのに、彼女には先ほどの元気が無い。
いや、元気のカケラも無い。
女「ご飯だもん……ね」
僕(ご飯だよ? 体力回復しないと午後倒れちゃうよ?)
この声のかけ方は違うか。
僕(早くお父さんとお母さんの所に……)
僕(あ……お母さん?)
女「……」
普段は元気で明るい彼女を見ているから気付かなかったけれど……。
家にいる時間を殆ど一人で過ごしている、それを忘れていた。
多くの音がしない小さな家に女の子が一人きりで、僕との日記を笑顔で書いている。
笑顔?
彼女は本当に僕の日記を笑顔で見つめているのかな?
泣きながら日記を書いていた日も……あったんじゃないのかな?
女「……」
そう考えてしまった瞬間、目の前で下を向いている彼女を、堪らなく何とかしてあげたかった。
僕「……行こうよ」
この声のかけ方は違うか。
僕(早くお父さんとお母さんの所に……)
僕(あ……お母さん?)
女「……」
普段は元気で明るい彼女を見ているから気付かなかったけれど……。
家にいる時間を殆ど一人で過ごしている、それを忘れていた。
多くの音がしない小さな家に女の子が一人きりで、僕との日記を笑顔で書いている。
笑顔?
彼女は本当に僕の日記を笑顔で見つめているのかな?
泣きながら日記を書いていた日も……あったんじゃないのかな?
女「……」
そう考えてしまった瞬間、目の前で下を向いている彼女を、堪らなく何とかしてあげたかった。
僕「……行こうよ」
女「えっ?」
僕「お弁当、そのカバンに入ってる?」
女「う、うん。あるけど……」
僕「よしっ」
その言葉を聞いて、僕は彼女が抱えているカバンを雑な感じで取り上げる。
女「えっ……なに? なに?」
僕「行こうよ」
今度は戸惑っている彼女の左手首を僕の右手が掴む。
……傷付けないように気持ち優しく力を入れた。
それでいて、少し緊張しながらグラウンドを早足で横切っていく。
女「ど、どこ行くの!」
僕「僕のお家でご飯食べるの」
こんな言葉遣いになっているのは、心臓がドクドク言っているせいだ。
僕「お弁当、そのカバンに入ってる?」
女「う、うん。あるけど……」
僕「よしっ」
その言葉を聞いて、僕は彼女が抱えているカバンを雑な感じで取り上げる。
女「えっ……なに? なに?」
僕「行こうよ」
今度は戸惑っている彼女の左手首を僕の右手が掴む。
……傷付けないように気持ち優しく力を入れた。
それでいて、少し緊張しながらグラウンドを早足で横切っていく。
女「ど、どこ行くの!」
僕「僕のお家でご飯食べるの」
こんな言葉遣いになっているのは、心臓がドクドク言っているせいだ。
女「お、お家って?」
僕「……ぼ、僕の家族とご飯食べればいいよ!」
何をツッコまれても今は関係無い。
ただ彼女の手をとって、どんどん前へ進んでいる。
女「で、でも迷惑だよ……いきなり他人の子が一緒にご飯なんて……」
僕「何とか言うから大丈夫だよ。それに一人だと、ご飯美味しくないからさ」
女「僕ちゃん……」
ますます心臓が早くなっている。
今朝はあんなに涼しかったはずなのに、今の僕の体温はきっと温かい。
僕「ほ、ほら。一人で食べるより女と食べる方が美味しいよ、きっと……ね?」
違う、これは僕の事だ。
僕(彼女に言う言葉じゃない……)
女「ありがとう……僕ちゃん」
ギュッ。
僕「……ぼ、僕の家族とご飯食べればいいよ!」
何をツッコまれても今は関係無い。
ただ彼女の手をとって、どんどん前へ進んでいる。
女「で、でも迷惑だよ……いきなり他人の子が一緒にご飯なんて……」
僕「何とか言うから大丈夫だよ。それに一人だと、ご飯美味しくないからさ」
女「僕ちゃん……」
ますます心臓が早くなっている。
今朝はあんなに涼しかったはずなのに、今の僕の体温はきっと温かい。
僕「ほ、ほら。一人で食べるより女と食べる方が美味しいよ、きっと……ね?」
違う、これは僕の事だ。
僕(彼女に言う言葉じゃない……)
女「ありがとう……僕ちゃん」
ギュッ。
僕「楽しかったー」女「運動会ー!」一同「運動会ー!」かと思った
いつの間にか、彼女の手首は左手に変化したかのように僕の右手を握っている。
既にお昼が始まっていて、誰もいないグラウンドの真ん中を僕たちは歩いていた。
彼女と二人、たくさんの人の中心に僕たちはいる。
ちいさなちいさな恋人達が、仲良くご飯に向かって歩いている。
今だけは誰かにそんな風に見られてもよかった。
僕「……言い忘れ」
女「?」
僕「一緒にお昼……食べよう?」
女「うんっ!」
僕たちは、もう一度力強くお互いの手を握った。
既にお昼が始まっていて、誰もいないグラウンドの真ん中を僕たちは歩いていた。
彼女と二人、たくさんの人の中心に僕たちはいる。
ちいさなちいさな恋人達が、仲良くご飯に向かって歩いている。
今だけは誰かにそんな風に見られてもよかった。
僕「……言い忘れ」
女「?」
僕「一緒にお昼……食べよう?」
女「うんっ!」
僕たちは、もう一度力強くお互いの手を握った。
僕「……と言うわけでさ。彼女も一緒に、ね」
母「うん、女ちゃんも一緒に食べましょう」
父「じゃあ、早く座ってもらいなさい」
妹「おねーちゃん。おねーちゃん」
女「お、お邪魔します」
父も母も基本は優しい。
昔はかなりオープンな性格だったと記憶している。
僕(昔……ね)
母「量はたくさん作って来たから、たくさん食べてね? 女ちゃんも」
女「あ、ありがとうございます……」
ちょっと丸まるようにお礼を言う彼女がいる。
よかった、彼女が笑顔でお昼を迎える事ができて。
母「うん、女ちゃんも一緒に食べましょう」
父「じゃあ、早く座ってもらいなさい」
妹「おねーちゃん。おねーちゃん」
女「お、お邪魔します」
父も母も基本は優しい。
昔はかなりオープンな性格だったと記憶している。
僕(昔……ね)
母「量はたくさん作って来たから、たくさん食べてね? 女ちゃんも」
女「あ、ありがとうございます……」
ちょっと丸まるようにお礼を言う彼女がいる。
よかった、彼女が笑顔でお昼を迎える事ができて。
借りてきた子猫のように大人しい彼女。
パクパクと夢中でお弁当を食べている。
僕(普段の元気な彼女に比べて、ちょっとギャップ萌え)
僕(ん……萌えやツンデレってこの年には言葉として存在していたのかな?)
お弁当を食べる彼女を見つめながら、そんな下らない事ばかりを考える。
僕(何か考えてないと……彼女に見とれすぎているのがバレてしまうから……)
妹「おーちゃんまっかー」
僕「……いいの、妹ちゃん」
パクパクと夢中でお弁当を食べている。
僕(普段の元気な彼女に比べて、ちょっとギャップ萌え)
僕(ん……萌えやツンデレってこの年には言葉として存在していたのかな?)
お弁当を食べる彼女を見つめながら、そんな下らない事ばかりを考える。
僕(何か考えてないと……彼女に見とれすぎているのがバレてしまうから……)
妹「おーちゃんまっかー」
僕「……いいの、妹ちゃん」
母「うふふっ。女の子が一緒ですものね」
父「ははっ、緊張してるか。ほら、ビデオ撮るから二人ともこっち向いて笑って~」
僕「……ブフォッ! ケホッ、ケホッ……」
女「汚いよ僕くん……はい、麦茶」
僕(と、父さんのビデオを撮る癖を忘れていた……)
こうして彼女と並んでいる所が記録に残ってしまうのかと思うと、余計に顔が赤くなる。
妹「おーちゃんまっかー」
僕「……朝からずっと撮ってたの?」
父「開会式から今まで、バッチリだよ」
僕「ふ~ん……」
開会式から、という事を聞いて僕の笑顔は彼女に向く。
彼女「?」
僕「じゃあ選手宣誓の所も録画した?」
彼女「!」
父「ははっ、緊張してるか。ほら、ビデオ撮るから二人ともこっち向いて笑って~」
僕「……ブフォッ! ケホッ、ケホッ……」
女「汚いよ僕くん……はい、麦茶」
僕(と、父さんのビデオを撮る癖を忘れていた……)
こうして彼女と並んでいる所が記録に残ってしまうのかと思うと、余計に顔が赤くなる。
妹「おーちゃんまっかー」
僕「……朝からずっと撮ってたの?」
父「開会式から今まで、バッチリだよ」
僕「ふ~ん……」
開会式から、という事を聞いて僕の笑顔は彼女に向く。
彼女「?」
僕「じゃあ選手宣誓の所も録画した?」
彼女「!」
父「あー、そう言えば女ちゃんがやってたんだね。ごめん、そこは撮ってなかったよ」
女「……ホッ」
彼女は安心一息、麦茶を飲み始めている。
僕「残念」
父「あ、撮ってないのは選手だよ。僕の事はずっと撮ってたから」
僕「ふ~ん。女が宣誓している所をもう一度見て笑いたかったのに」
キッ、と麦茶を飲みながら彼女は睨んでくる。
僕「~♪」
家族の手前、叩かれないという安心感があるのは素晴らしい。
女「……ホッ」
彼女は安心一息、麦茶を飲み始めている。
僕「残念」
父「あ、撮ってないのは選手だよ。僕の事はずっと撮ってたから」
僕「ふ~ん。女が宣誓している所をもう一度見て笑いたかったのに」
キッ、と麦茶を飲みながら彼女は睨んでくる。
僕「~♪」
家族の手前、叩かれないという安心感があるのは素晴らしい。
父「……あ、そう言えば僕、誰かに叩かれてなかったか? ちょっとカメラのズーム遅れて見えなかったんだけど……」
女「ブファ!」
僕「……」
顔面に生ぬるい麦茶が勢いよく吹き掛かかる。
妹がそれを見て笑っている。
隣で彼女が謝っているようだったが、それ以外の言葉は僕の記憶には残っていない。
僕(……あとで記録のビデオを見直す事にしよう)
麦茶を吹き出し、慌てながら謝っている彼女の顔も、きっと可愛らしいんだろう。
太陽が高くにある……。
彼女と一緒に楽しくお昼ご飯を食べた。
それだけで僕は、午後種目だって頑張って行ける。
女「ブファ!」
僕「……」
顔面に生ぬるい麦茶が勢いよく吹き掛かかる。
妹がそれを見て笑っている。
隣で彼女が謝っているようだったが、それ以外の言葉は僕の記憶には残っていない。
僕(……あとで記録のビデオを見直す事にしよう)
麦茶を吹き出し、慌てながら謝っている彼女の顔も、きっと可愛らしいんだろう。
太陽が高くにある……。
彼女と一緒に楽しくお昼ご飯を食べた。
それだけで僕は、午後種目だって頑張って行ける。
眼鏡「あ……お帰り、二人とも」
僕「ただいま!」
女「……ただいま」
眼鏡「お、女ちゃん? 顔色悪い?」
僕「ちょっと、麦茶を飲みすぎたみたいだよ」
女「恥ずかしい所を見られたの……」
眼鏡「そんなの気にする事ないよ。体動かせばちゃんと消化だって、ね?」
女「んー……」
何も言えない弱った彼女を見るのも、たまにはいいものだ。
僕「いやあ、だってさ女」
女「……ムカッ」
僕「今度は人の顔面に吐き出さないようにさ。あ、僕の水筒飲む?」
女「調子にのんなバカ僕!」
バッチン!
僕「ただいま!」
女「……ただいま」
眼鏡「お、女ちゃん? 顔色悪い?」
僕「ちょっと、麦茶を飲みすぎたみたいだよ」
女「恥ずかしい所を見られたの……」
眼鏡「そんなの気にする事ないよ。体動かせばちゃんと消化だって、ね?」
女「んー……」
何も言えない弱った彼女を見るのも、たまにはいいものだ。
僕「いやあ、だってさ女」
女「……ムカッ」
僕「今度は人の顔面に吐き出さないようにさ。あ、僕の水筒飲む?」
女「調子にのんなバカ僕!」
バッチン!
ビンタで気合いを入れ直された僕とは対照的に、午後になって赤組は白組に後れをとっている。
僕(得点差が酷い……)
しかもグラウンドで今行われている、上級生による棒倒しだって。
最初は優勢だったものの、後半は体力が切れたのかジリジリと押し返され始めていた。
僕(このままでは……)
焦る僕の後ろ嬉々とした声が聞こえてくる。
女「眼鏡ちゃん。五百円だよ~。いつもは我慢していた高級なチョコがいっぱい買えちゃうんだよ~」
僕(得点差が酷い……)
しかもグラウンドで今行われている、上級生による棒倒しだって。
最初は優勢だったものの、後半は体力が切れたのかジリジリと押し返され始めていた。
僕(このままでは……)
焦る僕の後ろ嬉々とした声が聞こえてくる。
女「眼鏡ちゃん。五百円だよ~。いつもは我慢していた高級なチョコがいっぱい買えちゃうんだよ~」
眼鏡「あ、あたしは当たり付きのきな粉棒を全部買ってみたいかも……」
女「あ、いいねそれ。大人買い~」
眼鏡「えへへっ」
僕(眼鏡ちゃんが結構エグい……。買い占めが夢ってあんた……)
僕「が、頑張れ赤ー!」
精一杯の声援を僕は送る。
『あっ、赤組。逆転です! 白組の棒を見事先に倒しました!』
『いやあギリギリの戦いでした。お互いの守備がほぼ同時に崩れましたが……これで赤組、点差を縮めます』
僕「いよっし」
女「……チッ」
眼鏡「……あ、ねえ。次が最後の競技だよ。私たちも並ばないと」
女「あ、そうだったわね。確か最後は……」
隣「……全校生リレーだよ」
女「あ、いいねそれ。大人買い~」
眼鏡「えへへっ」
僕(眼鏡ちゃんが結構エグい……。買い占めが夢ってあんた……)
僕「が、頑張れ赤ー!」
精一杯の声援を僕は送る。
『あっ、赤組。逆転です! 白組の棒を見事先に倒しました!』
『いやあギリギリの戦いでした。お互いの守備がほぼ同時に崩れましたが……これで赤組、点差を縮めます』
僕「いよっし」
女「……チッ」
眼鏡「……あ、ねえ。次が最後の競技だよ。私たちも並ばないと」
女「あ、そうだったわね。確か最後は……」
隣「……全校生リレーだよ」
女「あ、隣君。そう言えばそうだったね」
眼鏡「あたし、走るの苦手だから……」
隣「お、俺が頑張って走るから」
女「あら、隣君って走るの速かったっけ?」
僕(こっちを見ないでくれ。あまり記憶に無い……)
隣「は、速いよ! 僕君よりはずっと速い!」
僕の方に向いている彼女の視線を奪いたい。
注目して欲しい。
そして何より僕への当て付けで。
隣は大きな声を出して彼女にアピールをしている。
女「……ふふっ。頑張ろうね」
眼鏡「う、うん」
隣「お、俺……が、頑張るよ!」
僕も負けるつもりはない。
でも、違う組だから彼女からの声援が聞こえない。
それだけが少し寂しかった。
眼鏡「あたし、走るの苦手だから……」
隣「お、俺が頑張って走るから」
女「あら、隣君って走るの速かったっけ?」
僕(こっちを見ないでくれ。あまり記憶に無い……)
隣「は、速いよ! 僕君よりはずっと速い!」
僕の方に向いている彼女の視線を奪いたい。
注目して欲しい。
そして何より僕への当て付けで。
隣は大きな声を出して彼女にアピールをしている。
女「……ふふっ。頑張ろうね」
眼鏡「う、うん」
隣「お、俺……が、頑張るよ!」
僕も負けるつもりはない。
でも、違う組だから彼女からの声援が聞こえない。
それだけが少し寂しかった。
『位置について……よーい……』
パァン!
もう太陽が夕焼けに変わる頃。
耳に響きすぎるくらいの銃声が僕たちの上を駆け抜ける。
同時に、六人のランナーがスタートラインから一斉に飛び出して行く。
最後のリレーでは、赤組と白組のメンバー三人づつ同時に走っていく。
もちろん全学年、全ての人間が走るんだけれど……。
この学校ではアンカーを走る学年は一年生か六年生だ。
それはローテーションで毎年変わっている。
去年が六年生だったらしく、今年は僕たち一年生がアンカーを走る事になってる。
つまり、六年生からスタートして五年生、四年生……最後に僕たち一年生の出番となる。
『いよいよリレーがスタートしました。勝つのはどちらでしょうか……まずは白組リードです。頑張って下さい』
パァン!
もう太陽が夕焼けに変わる頃。
耳に響きすぎるくらいの銃声が僕たちの上を駆け抜ける。
同時に、六人のランナーがスタートラインから一斉に飛び出して行く。
最後のリレーでは、赤組と白組のメンバー三人づつ同時に走っていく。
もちろん全学年、全ての人間が走るんだけれど……。
この学校ではアンカーを走る学年は一年生か六年生だ。
それはローテーションで毎年変わっている。
去年が六年生だったらしく、今年は僕たち一年生がアンカーを走る事になってる。
つまり、六年生からスタートして五年生、四年生……最後に僕たち一年生の出番となる。
『いよいよリレーがスタートしました。勝つのはどちらでしょうか……まずは白組リードです。頑張って下さい』
「頑張れー! 頑張れー!」
「走れー、抜けー」
体の大きな六年生が力強くトラックを走っている。
周りからは頭が割れそうなくらいにみんなの歓声が響き、エールが送られている。
そして、スピーカーから流れるどこかで聴いた事があるクラシック音楽で、僕たちの興奮が更に昇華した物になる。
(天国と地獄? 剣の舞だっけ?)
曲名は忘れてしまったけれど、確かそんなような名前の曲だった気がする。
『ここまでで、白組リードです。次はいよいよ三年にバトンが渡ります。赤、頑張れ~』
一瞬、また一瞬。
出番が近付いてくる。
僕は興奮から、自分のアンカーたすきを強くギュッと握りしめていた。
自然と手が武者震いを起こしてしまう。
「走れー、抜けー」
体の大きな六年生が力強くトラックを走っている。
周りからは頭が割れそうなくらいにみんなの歓声が響き、エールが送られている。
そして、スピーカーから流れるどこかで聴いた事があるクラシック音楽で、僕たちの興奮が更に昇華した物になる。
(天国と地獄? 剣の舞だっけ?)
曲名は忘れてしまったけれど、確かそんなような名前の曲だった気がする。
『ここまでで、白組リードです。次はいよいよ三年にバトンが渡ります。赤、頑張れ~』
一瞬、また一瞬。
出番が近付いてくる。
僕は興奮から、自分のアンカーたすきを強くギュッと握りしめていた。
自然と手が武者震いを起こしてしまう。
『最後は一年生です。小さな体で精一杯走ります。お母さん、お父さんもたくさん応援して下さい』
放送の声が、僕たちにスタートを告げている。
ここまで、一位と二位は白組が独占している状態だ。
点差から考えると一位だけでも二位だけでも届きそうに無いのはわかっている。
赤組が優勝するためには、最低でも僕が二位……できれば一位でゴールするしかない。
僕(ち、ちょっとだけ緊張するな)
僕の中の精一杯の強がりだ。
僕(お、女は……えっと……)
放送の声が、僕たちにスタートを告げている。
ここまで、一位と二位は白組が独占している状態だ。
点差から考えると一位だけでも二位だけでも届きそうに無いのはわかっている。
赤組が優勝するためには、最低でも僕が二位……できれば一位でゴールするしかない。
僕(ち、ちょっとだけ緊張するな)
僕の中の精一杯の強がりだ。
僕(お、女は……えっと……)
何かにすがるように僕は彼女を探し出す。
彼女は僕たちが待機しているのとは反対側……。
トラックを半周した辺りをちょうど走っている所だった。
僕(うん。頑張れ女……)
そっと心の中でエールだけを送る。
一生懸命に全力で、力一杯走っている彼女の姿を大学で見る機会なんて、絶対に無い。
僕「……よしっ!」
また強く、強くたすきを僕は握る。
彼女は僕たちが待機しているのとは反対側……。
トラックを半周した辺りをちょうど走っている所だった。
僕(うん。頑張れ女……)
そっと心の中でエールだけを送る。
一生懸命に全力で、力一杯走っている彼女の姿を大学で見る機会なんて、絶対に無い。
僕「……よしっ!」
また強く、強くたすきを僕は握る。
グラウンドを駆け抜けていく少女。
綺麗に伸びている彼女の黒髪が……走る呼吸と体の動きに合わせてスローモーションに揺れている。
胸の奥の心臓が、そんな彼女の姿を見てドキドキし始めている。
小学校の時の僕は、いつもこんなにドキドキしていただろうか?
彼女の事に限らず……。
いなくても、それは多分……。
そうだよ、運動会のこの時が来る度、きっとドキドキしていたんだろう。
僕はそんな秋の思い出を、記憶から消し去っている。
僕(ああ、これが忘れているっていう事なのかなあ……)
綺麗に伸びている彼女の黒髪が……走る呼吸と体の動きに合わせてスローモーションに揺れている。
胸の奥の心臓が、そんな彼女の姿を見てドキドキし始めている。
小学校の時の僕は、いつもこんなにドキドキしていただろうか?
彼女の事に限らず……。
いなくても、それは多分……。
そうだよ、運動会のこの時が来る度、きっとドキドキしていたんだろう。
僕はそんな秋の思い出を、記憶から消し去っている。
僕(ああ、これが忘れているっていう事なのかなあ……)
女「はあっ……はあ……疲れたぁ……」
息を切らせた彼女が視界に入ってきても、僕の意識はどこか昔に置いてかれていた。
女「ふふ、この頑張りでしろ……ぐみのっ……勝ちはっ……」
眼鏡「ま、まずは息を整えないと。ね……?」
先に走り終えていた眼鏡ちゃんが、背中を擦ってあげている。
女の表情が落ち着き、段々と呼吸が整っていくのがわかる。
女「はぁ……ふっ。相変わらず白組が上位を……って、聞いてるの? 僕ちゃん?」
僕「ん……」
女「まったく。アンカーがそんなんじゃ勝てないわよ?」
僕「いや、ちょっと昔の事が頭に……」
女「何か記憶が戻ったの?」
彼女はちょっと声を落として僕に話しかけてくる。
息を切らせた彼女が視界に入ってきても、僕の意識はどこか昔に置いてかれていた。
女「ふふ、この頑張りでしろ……ぐみのっ……勝ちはっ……」
眼鏡「ま、まずは息を整えないと。ね……?」
先に走り終えていた眼鏡ちゃんが、背中を擦ってあげている。
女の表情が落ち着き、段々と呼吸が整っていくのがわかる。
女「はぁ……ふっ。相変わらず白組が上位を……って、聞いてるの? 僕ちゃん?」
僕「ん……」
女「まったく。アンカーがそんなんじゃ勝てないわよ?」
僕「いや、ちょっと昔の事が頭に……」
女「何か記憶が戻ったの?」
彼女はちょっと声を落として僕に話しかけてくる。
僕「昔はいっぱいドキドキしていたんだなあ、って」
女「……それだけ?」
僕「うん。女の走っている姿を見てたら、なんかそんな事を思い出しちゃってさ」
女「……ハァ。記憶じゃないんだね」
僕「えへへ」
女「可愛く笑ってもダメ。アンカーなんだから……シャキッとしなよ?」
僕「あ、応援してくれるの?」
女「……」
チラリ、と彼女はランナー達を見る。
トップ集団と距離に大差があるわけではないが、赤組は三、四、五位を団子状態で走っている所だった。
女「このまま楽勝でも面白くないから……頑張ってくらいは言ってあげる」
女「……それだけ?」
僕「うん。女の走っている姿を見てたら、なんかそんな事を思い出しちゃってさ」
女「……ハァ。記憶じゃないんだね」
僕「えへへ」
女「可愛く笑ってもダメ。アンカーなんだから……シャキッとしなよ?」
僕「あ、応援してくれるの?」
女「……」
チラリ、と彼女はランナー達を見る。
トップ集団と距離に大差があるわけではないが、赤組は三、四、五位を団子状態で走っている所だった。
女「このまま楽勝でも面白くないから……頑張ってくらいは言ってあげる」
僕「本当? 女が応援してくれたら、僕優勝しちゃうよ?」
少しだけ調子にのった僕を、またいつもの笑顔が受け入れてくれる。
女「くすっ……私もドキドキさせてくれるなら、いいよ別に」
女「さっきの話じゃないけど……私も走っていてドキドキしていたから、ちょっと気持ちわかるんだ」
走ったドキドキから照れているかのような……そんな印象を僕は受ける。
彼女の頬が、いつか一緒に食べたリンゴ飴みたいに赤くなっていたのを僕は覚えている。
少しだけ調子にのった僕を、またいつもの笑顔が受け入れてくれる。
女「くすっ……私もドキドキさせてくれるなら、いいよ別に」
女「さっきの話じゃないけど……私も走っていてドキドキしていたから、ちょっと気持ちわかるんだ」
走ったドキドキから照れているかのような……そんな印象を僕は受ける。
彼女の頬が、いつか一緒に食べたリンゴ飴みたいに赤くなっていたのを僕は覚えている。
女「じゃあ……頑張って僕ちゃん! 思いきって優勝しちゃえ~」
僕「うんっ! 行ってくるよ女!」
彼女の名前を大声で叫ぶ。
女「頑張って!」
彼女の声だけで、僕は誰よりも速く走る事が出来て、どんなに遠くまでも行く事ができる。
そんな気がした。
そんな気が……していたんだ。
僕(女……頑張るからね)
でも僕は確か……ゴールする事が出来なかったんだ。
その記憶を、走る前の僕は思い出していない。
ただひたすら、一人で泣いていたその記憶を僕は……。
僕は忘れている。
僕「うんっ! 行ってくるよ女!」
彼女の名前を大声で叫ぶ。
女「頑張って!」
彼女の声だけで、僕は誰よりも速く走る事が出来て、どんなに遠くまでも行く事ができる。
そんな気がした。
そんな気が……していたんだ。
僕(女……頑張るからね)
でも僕は確か……ゴールする事が出来なかったんだ。
その記憶を、走る前の僕は思い出していない。
ただひたすら、一人で泣いていたその記憶を僕は……。
僕は忘れている。
隣「……負けないから」
スタートラインに立った僕に話しかけて来たのは、白組アンカーの隣だった。
明らかに僕をライバル視している。
僕(僕はただ彼女のドキドキのために走るだけだよ)
運動会という開放的な場でなければ間違いなく言えないようなセリフだ。
僕(あれ、でも結構そんな事言っていたかな?)
隣「む、無視するなよ!」
まあいいか、と思う僕に、体をズイッと強引に寄せてくる隣。
身長は僕より大きいから迫力はあるけれど、今の僕は気迫だけで下がる僕ではない。
僕「……僕は優勝しなくちゃいけないんだよ。女のためにさ」
運動会は男の子をヒーローにさせる。
これくらいとんでもないセリフを言っても今日は許される事だろう。
スタートラインに立った僕に話しかけて来たのは、白組アンカーの隣だった。
明らかに僕をライバル視している。
僕(僕はただ彼女のドキドキのために走るだけだよ)
運動会という開放的な場でなければ間違いなく言えないようなセリフだ。
僕(あれ、でも結構そんな事言っていたかな?)
隣「む、無視するなよ!」
まあいいか、と思う僕に、体をズイッと強引に寄せてくる隣。
身長は僕より大きいから迫力はあるけれど、今の僕は気迫だけで下がる僕ではない。
僕「……僕は優勝しなくちゃいけないんだよ。女のためにさ」
運動会は男の子をヒーローにさせる。
これくらいとんでもないセリフを言っても今日は許される事だろう。
女……。
彼女の名前を出したのがいけなかったのか、隣の表情がみるみるうちに激昂した様子に変わる。
隣「ば、馬鹿だな。女ちゃんは白組だよーだ!」
僕(そういう事じゃないんだよ……)
今の隣にそれを言ってもわかるわけはないだろうが。
僕「組とか関係ないよ。僕は彼女のために走るんだ」
隣「い……言ったな! それじゃあ俺だって……俺だって!」
隣「こ……このリレーで勝った方が女とつ、つき……付き合うんだ!」
僕「……は?」
とんでもない僕のセリフを引き金に、隣もとんでもない事を言い出した。
一年生とはこんなにも唐突に唐突な事を言うもんだっただろうか?
僕「そ、そんなのいいわけないだろ!」
彼女の名前を出したのがいけなかったのか、隣の表情がみるみるうちに激昂した様子に変わる。
隣「ば、馬鹿だな。女ちゃんは白組だよーだ!」
僕(そういう事じゃないんだよ……)
今の隣にそれを言ってもわかるわけはないだろうが。
僕「組とか関係ないよ。僕は彼女のために走るんだ」
隣「い……言ったな! それじゃあ俺だって……俺だって!」
隣「こ……このリレーで勝った方が女とつ、つき……付き合うんだ!」
僕「……は?」
とんでもない僕のセリフを引き金に、隣もとんでもない事を言い出した。
一年生とはこんなにも唐突に唐突な事を言うもんだっただろうか?
僕「そ、そんなのいいわけないだろ!」
隣「ダメだ。勝った方が告白するんだ!」
話の内容が安定しない、が、そんな事を彼女の同意無しで決められるわけは無い。
同意があればいいと言う事でもないけれど。
僕(そんな約束できるか……)
彼女が絡んでしまうと、自然と僕は動揺してしまう。
自分ながら変な感覚だ。
隣「……フン」
僕「ち、ちょっとま……」
僕の言葉が、目の前を走り去るランナーにかき消されていく。
『白組、アンカーにバトンが渡りました。隣君、頑張って下さいね』
話の内容が安定しない、が、そんな事を彼女の同意無しで決められるわけは無い。
同意があればいいと言う事でもないけれど。
僕(そんな約束できるか……)
彼女が絡んでしまうと、自然と僕は動揺してしまう。
自分ながら変な感覚だ。
隣「……フン」
僕「ち、ちょっとま……」
僕の言葉が、目の前を走り去るランナーにかき消されていく。
『白組、アンカーにバトンが渡りました。隣君、頑張って下さいね』
一位で飛び出した彼は、元気よく、僕を後ろに蹴るように走っている。
僕(……)
僕(……)
『赤組。必死の追い上げでバトンがアンカーに渡ります。僕君、一位になれるよう頑張ってね』
僕はバトンを受け取り、本当に久しぶりに……。
何も考えずに全力で地面を走った。
スタート。
走り出した瞬間から、夕焼けの光が視界いっぱいに拡がっていく。
その光の中に、第一コーナーを曲がる隣の背中……大丈夫、まだ追い付ける。
足の重心がブレないよう、腰と膝、足裏に意識をちょっとだけ向けてコーナーを曲がる。
あくまでも無意識に。
それでいて下半身に感覚を集中させながら。
僕(……)
僕(……)
『赤組。必死の追い上げでバトンがアンカーに渡ります。僕君、一位になれるよう頑張ってね』
僕はバトンを受け取り、本当に久しぶりに……。
何も考えずに全力で地面を走った。
スタート。
走り出した瞬間から、夕焼けの光が視界いっぱいに拡がっていく。
その光の中に、第一コーナーを曲がる隣の背中……大丈夫、まだ追い付ける。
足の重心がブレないよう、腰と膝、足裏に意識をちょっとだけ向けてコーナーを曲がる。
あくまでも無意識に。
それでいて下半身に感覚を集中させながら。
コーナーを曲がり終え、体の向きが変わり長い直線に差し掛かる。
『赤組、後ろから追い付いて来ています。その差僅かです』
隣はそんなに走るのが速くなかったようだ。
視界が広くなった直線で、隣の背中がどんどん近付いているのがわかる。
僕(直線、また大きく第二コーナーを曲がって……真っ直ぐ走れば終わりだ)
グングン、グングン。
距離を走れば走るだけ僕は隣に追い付いている。
彼女が応援してくれたから、僕は負けない。
負けられないんだ。
直線の最後で、僕は隣に並ぶ。
僕は、彼を見ない。
ただ歯を食いしばって、全力で今を走っている。
僕は、すっごくドキドキしていた。
ドキドキしていたんだと思う。
『赤組、後ろから追い付いて来ています。その差僅かです』
隣はそんなに走るのが速くなかったようだ。
視界が広くなった直線で、隣の背中がどんどん近付いているのがわかる。
僕(直線、また大きく第二コーナーを曲がって……真っ直ぐ走れば終わりだ)
グングン、グングン。
距離を走れば走るだけ僕は隣に追い付いている。
彼女が応援してくれたから、僕は負けない。
負けられないんだ。
直線の最後で、僕は隣に並ぶ。
僕は、彼を見ない。
ただ歯を食いしばって、全力で今を走っている。
僕は、すっごくドキドキしていた。
ドキドキしていたんだと思う。
隣「はあっ……はあっ……!」
コーナーの真ん中辺りで一度だけ、隣の呼吸が聞こえてくる。
かろうじてだが、インに入ったのは隣だ。
その分まだ並んではいるが……スピードも体力も、僕の方が勝っているんだ。
妹「おーちゃん、がんばえー」
父「いけ! いけ!」
母「僕~! ファイト!」
眼鏡「が、がんばって~……僕……ちゃん!」
……声が聞こえる。
コーナーの真ん中辺りで一度だけ、隣の呼吸が聞こえてくる。
かろうじてだが、インに入ったのは隣だ。
その分まだ並んではいるが……スピードも体力も、僕の方が勝っているんだ。
妹「おーちゃん、がんばえー」
父「いけ! いけ!」
母「僕~! ファイト!」
眼鏡「が、がんばって~……僕……ちゃん!」
……声が聞こえる。
僕を応援してくれるみんなの声が。
もうそこは、コーナーが途切れる一歩前。
再び夕焼けの光が僕を照らす。
オレンジ色の世界の中で、僕はそっと耳をすます。
一番聞きたい彼女の声を、僕は光の中で聞こうとしていた。
……。
ああ、聞こえる。
光の中で、僕が一番聞きたい彼女の声が。
女「……いけえぇ! 僕ちゃん!」
僕(ああ、やっぱり僕は……彼女がいるから頑張れるんだ)
コーナーが終わり、短い直線と……更にその先にゴールテープが見え始める。
もうそこは、コーナーが途切れる一歩前。
再び夕焼けの光が僕を照らす。
オレンジ色の世界の中で、僕はそっと耳をすます。
一番聞きたい彼女の声を、僕は光の中で聞こうとしていた。
……。
ああ、聞こえる。
光の中で、僕が一番聞きたい彼女の声が。
女「……いけえぇ! 僕ちゃん!」
僕(ああ、やっぱり僕は……彼女がいるから頑張れるんだ)
コーナーが終わり、短い直線と……更にその先にゴールテープが見え始める。
そのゴールテープを僕が走り抜ければ……赤組の優勝。
そして……。
僕(僕の……僕の勝ちなんだ!)
「っ……くそっ!」
何かが聞こえた瞬間、僕の世界が真っ暗になる。
グイッ!
(えっ)
……?
……。
ねえ。
僕はどうして地面に倒れているの?
どうして僕は……まだゴールテープの向こうにいないの?
どうして僕は……。
こんな所で転んでいるの……?
そして……。
僕(僕の……僕の勝ちなんだ!)
「っ……くそっ!」
何かが聞こえた瞬間、僕の世界が真っ暗になる。
グイッ!
(えっ)
……?
……。
ねえ。
僕はどうして地面に倒れているの?
どうして僕は……まだゴールテープの向こうにいないの?
どうして僕は……。
こんな所で転んでいるの……?
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{ >─>ー- 、 /; -‐-;!
ヽ、 /: :,: ': : : : :/`''ー ─--' 、 i
\ !: ,:'.: : : : : :i `ヽ、_ ',
`ヽ、 i: ;: : : : : : : ! ヽ ヽ
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_j .|li l´l ヽ、 /:、| _ノj (´⌒(´
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『……でしま……た。……から……ぬかれ……かぐみ……かいに……』
放送の人が何かを言っている。
もう聞こえない。
クラスのみんなが何かを言っている。
聞こえない。
応援席の家族が何かを言っている。
聞こえない。
……。
もう、誰も何も喋らなくなったみたいだ。
本当に僕には何も聞こえなくなった。
いつの間にか、スピーカーから流れていたはずの天国と地獄も聞こえない。
僕はただ、彼女を声だけを聞きたい。
だからこうして地面に顔をくっつけたまま眠っている。
(ああ……思い出した。僕の記憶……)
放送の人が何かを言っている。
もう聞こえない。
クラスのみんなが何かを言っている。
聞こえない。
応援席の家族が何かを言っている。
聞こえない。
……。
もう、誰も何も喋らなくなったみたいだ。
本当に僕には何も聞こえなくなった。
いつの間にか、スピーカーから流れていたはずの天国と地獄も聞こえない。
僕はただ、彼女を声だけを聞きたい。
だからこうして地面に顔をくっつけたまま眠っている。
(ああ……思い出した。僕の記憶……)
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