元スレ黒髪娘「そんなにじろじろ見るものではないぞ」

みんなの評価 : ★★★×22
1 :
男「あー」
黒髪娘「きょろきょろするな」
男「うん」
黒髪娘「やれやれ。茶はどうだ?」
男「いただき、ます。はい」
黒髪娘「しばしまて」
ことん
男「……熱ッ」
黒髪娘「猫舌なのか。ふふふっ」
男「悪いですかよ」
黒髪娘「いいや。似ているな、と」
2 = 1 :
さらさらさらさら……
男「……」
黒髪娘「ずいぶん落ち着いているのだな」
男「いや、結構一杯一杯」
黒髪娘「そうか」
男「質問は可?」
黒髪娘「もちろん」
男「ここはどこで、あなたは誰?」
黒髪娘「ここは温明殿(うんめいでん)と梨壺の間の
あたりにある小さな東屋の一つだ。
おおむねわたしの住処と云って良いだろうな。
と、云っても質問の答えには不十分か。
おそらく、質問の正答は、こうだ。
――ここは平安時代とよばれている」
男「……マジすか」
3 :
よっ!未来の大人気作家!!
4 = 1 :
黒髪娘「私は尚侍(ないしのかみ)だ。
内侍司(ないしのつかさ)を掌握する役目を
承っている。従三位となるな」
男「……なにそれ?」
黒髪娘「判らなければ、そのままでよいと思う。
まぁ、政どころの女性の役人だ」
男(官僚なのか……)
黒髪娘「そちらの方は……」
男「あー。男です。多分、助けてくれたんでしょ?
ありがとうね。これも」
黒髪娘「ああ、その塗り薬は……。うむ。
傷によく効く生薬なのだ」
男「もう平気。かすり傷だし」
黒髪娘「ずいぶんと、落ち着いているのだな」
男「まぁねー」
5 = 1 :
黒髪娘「聞いて良ければ、なぜ?」
男「あー。ないしのかみ……さん? が」
黒髪娘「黒髪でよい」
男「ああ、んじゃ。黒髪が、さっき『似ている』って。
云ったじゃね? だから、もうちょっと詳しい事情も
知っているんだろうな、と。
その説明を聞くまでは仕方ないじゃん?」
黒髪娘「察しも良いのだな。敬服する」
男「そんなことは、ないけど」
黒髪娘「わたしは、その。……その方の」
男「俺も同じだ。男でいいよ」
黒髪娘「感謝する。男殿の、祖父君とは知己であってな」
男「爺ちゃん?」
黒髪娘「うむ、茶飲み友達というか。生徒というか」
男「……あ。ああっ!」
6 = 1 :
黒髪娘「?」
男(あな。そうだ。俺、爺ちゃんの家、掃除してた
納戸の奥の長びつのうち側が真っ黒で、
俺はその中に“落ち”て……)
黒髪娘「……我が東屋に唐突に現われたので、
祖父君との知り合いか親族だと考えていたのだ。
幸い祖父君から男殿の容姿は聞き及んでいた」
男「そっか……」
黒髪娘「祖父君は何度もこの東屋を訪れてくれた。
わたしに色々と教えてくれたのだ」
男「爺ちゃんは、小学校の先生だったんだよ。
引退した後もちゃんと先生だったんだな……」
黒髪娘「尊敬申し上げている」
男「……」
黒髪娘「祖父君は……」
男「うん」
7 = 1 :
黒髪娘「やはり……身罷られたのか」
男「……うん。癌」
黒髪娘「病か」
男「うん」
黒髪娘「何とはなしにそんな気がしていた。
痩せていったし、疲れやすくなっていた。
返せそうもないほどの恩を受けている。
最期の様子を聞いても良いだろうか?
男「病院で、家族に囲まれて。最期まで冗談言ってたよ。
俺には優しくてさ。おれ、ほら。
名前の一文字は、爺ちゃんからもらったから。
二束三文だろうけれど、爺ちゃんの家も俺がもらった。
山の麓だし、古い平屋だけど。庭が綺麗だからって。
その二話で、小さい頃は良く爺ちゃんに遊んでもらった」
黒髪娘「祖父君は磊落な方だった」
男「うん。あんなシモネタばっかり
小学校で云ってたのかよってな」
黒髪娘「ははははっ」 くすっ
8 = 1 :
男「納戸の掃除をしていて、あの長びつに……」
黒髪娘「判っている。それと対になるのが、
あちらの奥部屋に置いてある長びつなのだ。
唐渡りのものらしいが」
男「そっか。帰れるんだな」
黒髪娘「もちろんだ」
男「よかったぜー。ほっとしたよ。
大学だってバイトだってあるって云うのにさぁ」
黒髪娘「ふふふっ」
すっ
男「うわぅ」
黒髪娘「何を頓狂な声を」きょとん
男「急に触ろうとするから」
黒髪娘「なんだ。別に私は怪物じゃないぞ」
男(つか、近くで見るとすげぇ美人じゃんかよ。
人形みたいっていうか、すげぇ美少女って云うか。
いきなりひんやりした指で触わるな。慌てるだろがっ)
男「び、びっくりしただけ」
黒髪娘「ふむ。――まぁ、礼を逸していたか。すまぬ」
9 :
黒髭に見えてしまった…が、これは
10 :
腹筋しに来たのになんか将来有望作家が居た
11 = 1 :
男「いや、そのっ」
黒髪娘「?」
男「ご、豪華で綺麗だからっ。びっくりした」
黒髪娘「? ああ。これか」
さらり
男「つか、すごい格好なんですけれど」
黒髪娘「萌葱の襲だ。普段着だな」
男「ハイスペック過ぎでしょ。
それ、和服……なの? めちゃくちゃ刺繍はいって
あれ、刺繍じゃないの?」
黒髪娘「こういう浮織なのだ」
男「すげぇなぁ」
黒髪娘「まぁ。尚侍ともなればな。これくらいは」
男「それに、その髪、すごいな!
真っ黒で、サラサラで、ろうそくの光できらきらで。
滝みたいに豪華だよなぁ!」
12 = 1 :
黒髪娘「それはっ……。褒めて頂いたのか? そうなのか?」
男「そうだけど?」
黒髪娘「そうか。ありがとう。――そうか」
男「なんか悪い事言った?」
黒髪娘「いや、嬉しかっただけだ。
そう言ってくれる人は、多くはないから」
男「そうなのか? ものすごく豪華なのに」
黒髪娘「ふふふっ。わたしは変わり者で……。
ああ、そうだな。ヒキコモリなのだ」
男「引きこもり?」
黒髪娘「そうだ。祖父君に聞いたのだが。
家に籠もって読書三昧の日々を過ごす
放蕩者を言うらしいではないか」
男「えー、っと。まぁ……間違ってはいないか」
黒髪娘「それゆえ、女房以外、余り人と会うこともなくてな」
男「そか(……美人なのに、もったいない話だなぁ)」
黒髪娘「しかし、夜も更けた」
男「あぁ、そうかも」
13 = 1 :
黒髪娘「男殿のお陰で、祖父君の最期を聞くことも出来た」
男「ん? そだな」
黒髪娘「感謝に堪えない」 ふかぶか
男「そんなに頭下げることないじゃん。
正座とか、土下座っぽくて怖いよっ」
黒髪娘「いや、気にかかっていたのだ。
お見舞いに行くことも出来ないゆえ。
物忌みはしていたのだが……」
男「いいっていいって。爺ちゃんの生徒さんじゃん」
黒髪娘「……あの長びつに入れば戻れる。
酒でも飲んで忘れてしまうと良い」
男「?」
黒髪娘「こんな気持ち悪い話は、
一夜の夢として忘れてしまった方が良い。
手間を取らせて本当に申し訳なかった」
男「へ?」
黒髪娘「時を超えて漂流するなど、出来の悪い戯作の
ような物語だろう? 祖父君は哀れみ深くわたしの
我が儘に付き合ってくださったが、普通に考えて
気持ちの悪い話だ」
14 = 1 :
男「それは……そなのかな」
黒髪娘「男殿には、大きな感謝を」
男「あのさ」
黒髪娘「なんだろう?」
男「黒髪は、いくつ?」
黒髪娘「歳か? 15になった」
男「中学生じゃんよっ!」
黒髪娘「はぅわっ」びくっ
男「なんでそんなに落ち着いちゃっているわけ?」
黒髪娘「びっくりするではないか。
――ごく普通かと思うが」
男「……」
黒髪娘「何か、まずかったのだろうか?」
男「……なんでもないけど」
15 = 1 :
黒髪娘「礼節を失うのは人として恥ずべきだ」
男「そりゃそうだけど」
黒髪娘「恩人の孫でもあり、また恩人の消息を伝えてくれた
この上なき恩人でもある。その男殿の平安を祈念したいのだ」
男「それはもう判ったけどよ」
黒髪娘「そうか」 ほっ
男「なんで、爺さんが何度も来たのかも判る気がするな」
黒髪娘「?」
男「俺も、また来るから」
黒髪娘「……良いのか? 気持ち悪くないのか?」
男「爺さんが出来たんだし、俺に出来ないわけがねぇ。
それに、爺さんが『あの家を頼む』って云った意味が
これじゃないかって云う気もする」
黒髪娘「よく判らないが」
男「また来っから」
黒髪娘「あの、それはっ」
男「また来っからな!」
ざくっ、ばたんっ
16 :
続き続き
17 = 1 :
――祖父の平屋。納戸
どてっ。ごろっ
男「……って、ってって。脚! 小指! ぶっけたっ!!」
男「くはぁ痛ってぇ……。って」
男「どうやら」
男(戻れたか。……してみると、最初のは、
頭から落ちたせいで気絶したのか。
普通に足から入れば、ちょっと飛び降りるような
感覚なのかね……)
男「ま、いっか。安全に往復できるって判れば」
……良いのか? 気持ち悪くないのか?
男「なんか、物わかりの云い中学生とか気持ちわりぃっつの」
男「ったく。ヒッキーなめんな」
18 = 1 :
――数日後、典侍の東屋
ぼて。がたっ
男「おーい! 黒髪~」
からから
黒髪娘「男殿ではないか。本当に来てくれたんだなっ」
男「ちゃんとそう言ったじゃねぇか」
黒髪娘「いや、あれは。その……。
社交辞令というか、虚ろ言かと」
男「なんでそう思うかなぁ」
黒髪娘「それは、女房達がそういう風に」
男「女房ってなに?」
黒髪娘「ああ。それは、ん……。侍女? 召使い?
そのような存在だ。生活を補佐してくれる」
男「ああ。うん(そか、こいつかなり偉いんだもんな)」
黒髪娘「男性の去り際の言葉は信じるものではない、と」
男「なんだかなぁ。すげぇ耳年増な」
黒髪娘「そ、そうか? すまない」 しゅん
19 = 1 :
男「まぁ、いいや。黒髪はヒッキーなんだろう?」
黒髪娘「うむ、ヒキコモリだぞ」
男「まぁ、そんなわけで色々もってきたわけだ」
黒髪娘「?」
男「まずはー。びゃーん。シュークリームっ!」
黒髪娘「お、おおっ!!」
男「お、すげぇ反応」
黒髪娘「それは知っている!!」
男「なんと!」
黒髪娘「祖父君に頂いたことがあるっ」
男(熱い視線だ。ふふんっ。やはりな。作戦成功だ)
黒髪娘「頂けるのか」
男「うむ」
黒髪娘「感謝する」 ふかぶか、ぺとり
男「だからいきなり土下座はやめれっ」
20 = 1 :
黒髪娘「そう言うことならば、一席設けよう」
男「一席って?」
黒髪娘「飲むものくらい欲しいのではないか?」
男「ああ、うん」
黒髪娘「茶を入れる」
男「ああ。そう言えば前ももらったっけ。茶、あるんだ」
黒髪娘「うむ、飲むのは貴族だけだが。
祖父君も好きだったゆえこの庵でも沸かすことが出来る」
男「そかそか」
黒髪娘「ぬるめがよいのであろう?」 にこっ
男「あ。……うん」
黒髪娘「?」
男(不意打ちで笑われるとびっくりするな。
やべぇやべぇ。こっちも引きこもり同然だと見破られちまう)
黒髪娘「しばし待っていてくれ」
男「おーけー。この部屋にいればいいのか?」
黒髪娘「うむ、準備をしてくる」
21 = 1 :
男「ふぅむ。なんか、すかすかした部屋の作りだなぁ」
男(これは……箱? ああ、本か。和綴じの)
ぺらぺら
男「うへぇ。古典だ。あいつ古文読めるのか?
ってあたりまえか。これがあいつらの現代語か。
……これは植物か、薬草かな?
こっちのは、なんだろう。
オカルトか? こっちは漢文か
毎日本を読んでいるとか云ったもんな。
結構あるなぁ」
ぺらぺら
男「ってか、多いな。おいおい。こっちのは天文に見えるな」
男「……よく分かんないけど、平安の中学生って
こんなに勉強するのか? どんだけやってんだ?」
からん
男「お」
黒髪娘「待たせたな」
男「いやいや」
22 = 1 :
黒髪娘「冷ましてある」
男「ありがとう。ほら、これ、シュークリームだろ」
黒髪娘「わぁ」
男「で。これが堅焼ポテチ。
こっちは俺の好きなサラダせんべい。
で、カントリーマァムと、
抹茶ポッキーと、羊羹と……」
黒髪娘「なんだ、それらは」
男「おやつだよ」
黒髪娘「菓子……なのか?」
男「そうだね」
黒髪娘「こんなにか?」
男「うん、何が気に入るか判らなかったしさ」
黒髪娘「……」そわそわ
男「もしかして、結構気になっている?」
黒髪娘「そんなに不作法ではない」
23 = 1 :
男「これ、ちょと開けてみ?」
黒髪娘「?」
男「これは包装って云って、まぁ、包む紙みたいなもの」
黒髪娘「うむ」
男「ここを引っ張って」
ぺりぺり
黒髪娘「良い香りが」
男「で、あとはこの内側の小さな包装も」 ペリペリ
黒髪娘「! このように愛らしい菓子が出てきたぞ」
男「食べて」
黒髪娘「頂く……」ちらっ
男「いいよ、どうぞどうぞ」
黒髪娘「甘いっ! これは美味しい」 にこっ
男「そうかそうか」
24 = 1 :
黒髪娘「こちらも美味しいな」
男「うん。……爺ちゃんはあんまりもってこなかったの?」
黒髪娘「うむ。あ、いや。理屈は判っているのだ。
このような物は、本来手に入るはずもないわけで。
もし何らかの手違いでこの時代に残しては
大問題になってしまう、と」
男(ああ、そうか。……プラスチックやビニールが
遺跡から出土したら大変だもんな)
黒髪娘「そう考えれば、これらも……」
男「ああ、いいよ。そんなにしょんぼりしないで。
要するにばれなきゃ良いんだろう?
俺は爺ちゃんとはちょっと考えも違うしさ。
食い終わったら、残った包装紙とかは
全部きれいにこのコンビニ袋に入れてさ。
俺が持って帰れば、問題なしって訳だ」
黒髪娘「そうしてもらえるか?」
男「ああ。もちろんだ」
黒髪娘「しかし、このように高価な土産を頂いても
わたしには返せる物が余りにもないのだが……」
25 = 1 :
男「いやいや。構わないよ。
こっちって俺から見たら知らない国だからさ。
来てみると、どきどきして楽しいし」
黒髪娘「はははっ。祖父君も、あれは何か、これは何かと
いくつもいくつも問いを重ねてきたなぁ」
男「俺も聞いちゃうと思うけれど、ごめんな」
黒髪娘「かまわない。……その、男殿は、先生?
……それとも卜筮官や陰陽師なのか?」
男「へ?」
黒髪娘「いや、だから。祖父君は、子弟に学問全般を
指南する事を生業にしていたと聞く。
で、あるから、家系的に男殿もそうなのかと」
男「いや、俺は違うよ。まだ学生だよ。
教育いこうかどうかは、悩んでるなー」
黒髪娘「学生とは? 祖父君の言う生徒とは違うのか?」
男「あー。似たようなもの。ちょっと年が上になって
専門的なことを学んだり研究したり……」
黒髪娘「ふむ」
26 = 1 :
黒髪娘「よければ……」
男「?」
黒髪娘「わたしに祖父君に続いて、
学問の手ほどきをしてくれないか?」
男「えーっ。俺はそこまでの学識はねぇよ」
黒髪娘「そうなのか? 先ほどから話していても
知恵深く、賢者を感じるのだが」
男(そりゃ時代による格差だよ)
黒髪娘「……」
男「そんなにしょんぼりしないでくれ」
黒髪娘「していない」
男(表情に出ないけど、なんか判っちまうんだよな)
黒髪娘「していないのだぞ?」
男「何を勉強しているんだ?」
黒髪娘「それは、色々と」
男「ふむ。どんな?」
27 :
なに書いてんの?ばばあ
28 = 1 :
黒髪娘「大きく、文章、明経、明法、算だな。
他にも本草、天文、暦法なども調べている」
男「ちょっと聞きたいな」
黒髪娘「まず、文章(もんじょう)は、唐の歴史と漢文だ。
唐は我が国から見ても隣国だし文化も花開いている。
我が国は唐を手本にして居るから、それを知るのは重要だ」
男(歴史と漢文って事ね。この場合漢文ってのは
大学の一般教養で英語やるくらい必須って訳だ)
黒髪娘「明経は儒学を教える。この世の理と礼節についてだな。
明法は律令についてだ。法……律というのか? あれだ。
この辺は実学なので、位をえるためにはどうしたって必要だ。
算は算術だ。えっと、祖父君によれば、算数? だそうだ」
男「ああ、うん。だいたいは判った。
えっと、学ぶとどうなるんだ?」
黒髪娘「学ぶと?」
男「ほら。位がどうとか」
黒髪娘「ああ。大学寮というのがあって」
男「大学あるのか!?」
黒髪娘「もちろんあるぞ? 大学寮は式部省の一部なんだ。
ここは将来の有力な文官や武官を育てるところで、
陰陽寮とともに、この国の学問の頂点だ。
例えば明経道を教える大学博士ともなると正六位下
という非常に高い位階をえることが出来る」
男「そうなのかぁ。結構きっちりとした機構なんだな」
29 :
あのさ、本気で面白いと思って書いてる?
30 :
面白そう支援
31 = 1 :
黒髪娘「殿上人にとって学識は、とても重要なんだ」
男「あれ?」
黒髪娘「?」
男「でもさ。黒髪ってさ」
黒髪娘「うむ」
男「なんだっけ、その。典侍(ないしのすけ)だっけ?」
黒髪娘「そうだ、従四位となる」
男「数字が小さい方が偉いんだろう?」
黒髪娘「そうだな」
男「じゃ、もうすでに偉いんじゃないか」
黒髪娘「……そうかもしれない」
男「じゃぁ、勉強する必要なくないか?」
黒髪娘「ああ。……うん。そうかもしれない。
でも……わたしは女だからな。
そもそも、この従四位も
学識で手に入れたものでもなければ、
自分で手に入れたものでもないのだ」
男「?」
32 = 1 :
黒髪娘「いや、よそ事をいった」
男「う、うん」
ことことこと
黒髪娘「もう一杯いかがだろうか?」
男「お、もらう」
黒髪娘「煎れよう」
男「えっとさ」
黒髪娘「ん?」
男「次は、サラダせんべい行っておくか?」
黒髪娘「開けさせてくれるのか?」 にこっ
男「ああ、いいぞっ」
黒髪娘「嬉しいぞ。かたじけない、男殿」
男(なんだか、中学生なのになぁ……。
年相応なんだか、大人びちゃってるんだかわからねぇ)
黒髪娘「~♪」
男(あんな表情も出来るのになぁ……)
34 = 1 :
――男の実家
姉「あら、あんたどこ行ってたの?」
男「あ? 爺ちゃんの家」
姉「ああ。あそこ、どう?」
男「んー。荒れ果ててないよ。何日か掃除したけどさ。
わりと良いな、あそこ。
俺バイクあるし、あそこ済もうかな」
姉「そうねぇ。人がいないと荒れ果てるって云うしねぇ」
男「なんか、結構愛着あるかも。俺」
姉「あんた子供の時はあそこの庭で
相当やんちゃだったからね」
男「そう?」
姉「まったくよぉ。心配で心配で母さん育児放棄よ」
男「心配してねぇじゃん」
姉「まぁ、お爺ちゃんも、すぐ取り壊したり
売られちゃったりしたら寂しいだろうしねぇ」
男「そうだなー」
35 = 1 :
姉「夜は?」
男「もちろん食うよ」
姉「父さんも母さんも遅いみたいだか、先食べちゃおっか」
男「うん。何食うの?」
姉「メンチと煮物」
男「む。良いね。庶民って物がわかってるね」
姉「あったり前よ。わたしクラスになるとね。
足の爪先から黄金の庶民オーラが出て
髪の毛金色で逆立つわけ」
男「すげぇな」
姉「サイバイマンくらいなら鼻歌交じりで倒せるのよ。
んっ。ほら、運んで」
男「へいへーい」
姉「あんたちゃんとやってんの?」
男「やってる」 こくこく
姉「ならいいけど」
男「さすがに、中学生に後ろから煽られると
勉強する気に多少なるわ」
36 = 1 :
――黒髪の四阿
がつんっ。すたっ
男 きょろきょろ
しーん
男「おーい、黒髪? いるかー?」
男「いないのかな。おーい?」
ぱたぱたぱたっ
友女房「お、男様っ」
男「!?」
友女房「男様でございますね。ほ、本日はっ。
はぁ、はぁっ」
男「いや、一つ落ち着いて」
友女房「は、はいっ」
男(なんか面白い女の人だな)
37 = 1 :
友女房「済みません。取り乱しました。
……黒髪の姫はご実家の方に向かっておられまして。
本日のところは、この友っ。
黒髪姫の腹心の女房、友女房がお相手いたします」
男「はぁ」
友女房「お疑いですか? 男様の件は姫より聞いています。
祖父君とも面識がありますし、そのぅ……」
男「あの、爺ちゃんさ。もしかして失礼なコトしなかった?」
友女房「……」
男「その、えーっと。ね?」
友女房「そ、それは……その。
めいどおっぱいとか云いまして」 ごにょごにょ
男「良し、合格。面識があるのは判った」
友女房「ほっといたしました」
男「苦労してるんだね」 ほろり
友女房「そう言ってくださると幸いです」
男「そっか、黒髪、居ないのか」
友女房「ええ。申し訳ありません」
38 = 1 :
男「まぁ、それはしかたないよ。
ケイタイで様子聞いてから来るわけにも行かないし」
友女房「ケイタイ?」
男「いや、こっちの話」
友女房「姫より、もし男様が来られるようならば
お相手をしてくつろいでいただけと
仰せつかっております」
男「そっか、どうしようかな」
友女房「?」
男「……。ん、いいや、 んじゃしばらく
お邪魔させてもらう。ってか、俺ここにしばらく居て良いの?」
友女房「ええ、ここは姫の引きこもりの砦ですから。
滅多に客人も来ません。少なくとも奥までは。
安心してくださって大丈夫ですよ」
男「ありがとう。ああ、女房さん、だっけ?」
友女房「友女とお呼びください」
男「友女さん。女房さんって結構人数居るんでしょ?」
友女房「この四阿には数人ですね」
男「じゃ、このお菓子、みんなで分けて食べてよ」
39 = 1 :
――四阿の一室
友女房「お茶を……あら、書ですか?」
男「ああ、うん。俺も勉強しようと思って」
友女房「そちらの書ですか? ずいぶん厚いですね」
男「面倒なんだわ、それ」
友女房「どうぞ」 ことり
男「ありがとう」
友女房「……」
男「……」
カリカリカリ
友女房「えーっと、その。男様」
男「ん?」
友女房「宜しければ、お召し替えをなさいませんか?」
男「なんで?」
友女房「実は前回いらっしゃった時も思ったのですが
男様は見た目はわたし達とたいして変わりませんから
狩衣でも着て頂ければ、もし誰かに見かけられた場合も」
男「ああ。あんまり不審に思われないで済む、と」
40 = 1 :
友女房「ええ、そうです」
男「いいですけど。そういう服ってあるんですか?」
友女房「ございますよ。僭越ながら用意させて頂きました」
男「申し訳ないです。じゃ、着ちゃった方がいいかな」
――着替え中
友女房「いえ、それは後ろ前が逆です」
男「え? え?」
友女房「紐を先に締めてから」
男「こうです?」
友女房「あら。意外に……」
男「うわぁぁん。見るなぁ!!」
友女房「ご立派ですよ? 男様」
男「生温かい励ましは要りません。
でも結構温かいですね。見た目よりは」
友女房「外歩き用の衣装ですからね」
男「はぁ」
友女房「太刀でも佩けばご立派な公達でございますよ」
41 = 1 :
そよそよそそよ
友女房「良い風でございますねぇ」
男「静かだなぁ。こんなに静かなの?」
友女房「もう夕暮れでございますから」
男「?」
友女房「内裏に出仕……勤めにいらっしゃる方は、
夜明け前にはいらっしゃいます。
昼には勤務を終えて帰られるのが普通ですよ」
男「そうなの?」
友女房「ええ、灯りがありませんから。
祖父君も驚いていらっしゃいましたが」
男「そっか」
そよそよそそよ
友女房「ささでもお持ちしましょうか?」
男「ささ?」
友女房「お酒ですよ」
男「え。あ。いや……。きゅるる」
友女房「むしろお食事ですね」くすっ
男「面目ない」
42 = 1 :
――四阿の一室
友女房「たいしたお持てなしも出来ませんが」
男「いえいえ。温かい匂いします。ご馳走の雰囲気!」
ことん、かちん
友女房「こちらは瓜の漬け、ササゲ豆の煮物、
赤魚の醤付けの干物です。あとは豆飯と
酒(ささ)を――」
男「あ、どうも」
とぷとぷとぷ
友女房「どうぞ」
男「頂きます」
友女房「……」にこっ
男「友さんは飲みませんか?」
友女房「わたしは女房ですからね」
男「……んー。頂きます」
友女房「召上がれ」
男「あ。美味いです! 魚すげー美味いっ!」
友女房「それは良かった」
男「いや、ほんと……ん。美味いです」
43 = 1 :
友女房「……男様は、姫様を普通に扱ってくださいますね」
男「へ? 普通って?」
友女房「いえ」
男「んー。俺は爺ちゃんと違って学が足りてないんで、
まだ色々と判って無いんですよね。多分」
友女房「ええ、まぁ……」
男「?」
友女房「我が姫にこんなことを言うのも何ですが、
姫は皆からは……
妖憑きのキチガイ姫だと云われておりまして」
男「なんでまた?」
友女房「まぁ、もう14ですし?」
男「――?」
友女房「14ですし」
男「よく判らないです」
友女房「14でまだ嫁いでも居ないわけでして。
もう時間の問題で15です。完全な嫁き遅れです。
それなのに宴にも出ず引きこもりで、お恥ずかしい」
男「!?」
44 = 1 :
友女房「なんですか、うちの姫は」
男(目が座ってる……)
友女房「幼い頃はそれはそれは清らかな心優しく
学問に優れた、それはそれは聡明な姫だったのですが」
男(いまでも勉強好きなのじゃないか?)
友女房「そのうち勉学にどっぷりつかってしまい
時間さえあれば、やれ漢詩がどうのこうの、
天文が巡ってどうのこうのと」
男(あー)
友女房「私どもがお世話をしない限り
碌に髪もとかさぬような出不精のダメ人間に」
男(あー)
友女房「届かれる恋文にも、漢詩で返事を……
しかも痛烈なのを送りつける始末。
和歌ならばともかく、あんなに堅い漢詩で
議論をふっかけられてしまっては返答できるのは、
いまは亡き道真様くらいにちがいなく」
男(あー)
45 = 1 :
友女房「わたし達も頑張ったんですけれどね。
すごく頑張って色々可愛い襲(衣服)を集めたり
年頃の女性の好む絵巻物をみせたり。
そんなものにはまったく興味もなく、
それでも身分だけは高いものですから
内侍司(ないしのつかさ)入りが決まって
これでなんとか普通になるかと思えば……」
男「?」
友女房「こんな秘密の離れを造って引きこもり三昧」がくり
男「はぁ……。もぐもぐ」
友女房「いえ、姫は悪い訳じゃないんですよ。
悪い姫じゃないんです。
……下々に至るまで優しいですし」
男「はぁ」
友女房「それにしたって、学問に操を捧げるとは
あんまりにもお労しいと……」
男「だってまだ14でしょ?」
友女房「もうすでに残念なことに14なんです」
男「はぁ」
46 :
>>1
俺がおとといやったエロゲのキャラ設定まんま
47 = 1 :
友女房「ですから、せめて男様には姫のお心を
こう、軽やかに、出来れば浮き立った感じに
して頂きたいとか思うんですが」
男「それは本人のつもりがないとあんまり意味がないかと」
友女房「ダメですか」
男「ダメでしょ……もぐもぐ」
友女房「……」 がくり
男(つか、嫁き遅れなのか……)
友女房「なぁ、運も色々なかったんですが」
男「そうなんです?」
友女房「右大臣家のご息女ともなりますと。
お相手にも不足いたしますし……。
当代の東宮はまだ八つにしかなりませんしね。
本来であれば尚侍として後宮に権勢を振るうことも
いえ、我が姫には、似合いもしませんが……」
男「よく判らないけど。身分の高い姫が学問没頭で
婿捜しも放り出して恋愛音痴で婚期を逃したと。
そんな感じ?」
友女房「そうです」 こくり
男(つまり婚活放置で賞味期限間近の腐女子?)
友女房「どこでこうなっちゃったんでしょうか」
男「それは俺に聞かれてもなぁ」
48 :
これ読んでると黒髪がむぅとしか思えんね
49 = 1 :
さらさらさらさら
男「ごちそうさまでした」
友女房「お粗末様でした。ささは?」
男「いえ、もう結構です」
友女房「はい。では灯明はこちらに」
男「はい。もう少しレポートを薦めます」
友女房「レポート……勉学ですね?」
男「ええ、なぁ。こっちでやると捗るんで」
友女房「さようですか。姫からくれぐれも粗相の
無いようにと申し使っております。ご存分に」
男「ありがとうございます」
友女房「では……」
男「ふぅ」
男(まぁ、こっちの方が時間の流れが遅いみたいだし。
こっちで三日くらい勉強して帰っても
向こうでは数時間だしな。レポートあげるには都合がいいや)
50 :
紫煙
みんなの評価 : ★★★×22
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