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    元スレ淡「咲は私の言うとおりにしてればいいんだから!」

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    スレッド評価: スレッド評価について
    みんなの評価 : ★★★×4
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    301 :

    乙です

    どうなるか楽しみで仕方ない

    303 :

    落ちてたんだから仕方ないだろ
    今夜辺りに来るさ

    304 :

    あまり書き溜めできてませんが投下します

    305 = 304 :



    ――――


    全国もいよいよ真近に迫ったことで、
    練習もそれなりに厳しいものに変わる。

    大体の部員がぐったりと疲れているところだが、
    淡は違っていた。

    「じゃあ皆お疲れー」

    元気よく挨拶する淡に他の1軍メンバーが目を向ける。

    尭深「淡ちゃん、最近ご機嫌だね」

    「そうだな。対照的に照は不機嫌だが」

    「だって、最近咲ったら帰るのが遅くって…」

    「ひょっとして恋人でもできたんじゃないか?」

    「咲に恋人!?そんなのまだまだ早いから!」

    菫の言葉に照は目を剥いて声を張り上げる。

    「咲ちゃんだって淡と同い年なんだし、恋人がいたっておかしくないだろ」

    「咲は淡みたいにスレてないから…」

    酷い言われようだが、今の淡にはそんな言葉も気にならないほど上機嫌だった。
    ウキウキとしながら部室を出る。

    306 = 304 :

    咲の所へは別の車を迎えに行かせてある。
    建前として、こちらの練習も忙しいので先に家で待ってろと連絡したのだが。

    本音の理由はしょうもないもの。

    昨日のように、後から到着する形になれば「おかえり」と言ってもらえる。
    ただそれだけ。

    淡にとっては至極真面目なことだが。

    自分の車はゆっくり走らせよう。そうしたら確実に「おかえり」の声を聞くことが出来る。
    などと馬鹿らしい考えに耽っている最中に、鞄に入れてた携帯が着信を知らせる。

    表示を確認して、淡は目を細める。
    相手は咲だ。

    もしや車が見当たらないと連絡を寄越して来たのだろうか。

    「何、どうしたの」

    自分でも驚く位優しい声が出た。
    が、すぐに咲の言葉によって不機嫌なものに変わる。

    「迎えに来てもらってなんだけど。今日は行けないから」

    「なんだって?」

    怒鳴らなかったのが不思議なくらいだ。
    こんなにも会いたがっているというのに、相手はあっけらかんと行けないと言う。

    307 = 304 :

    酷い扱いだと内心で憤慨する。
    そして理由を問い質す。

    「なんで来られないの?言ってみなよ」

    うって変わって低い声を出す淡に、
    咲は気にも留めずに普通に答えた。

    「ちょっと、辻垣内先輩に勉強を教えてもらうことになっちゃって」

    「辻垣内に!?」

    少し大きめの声を出してしまったことに気付き、
    慌てて淡はトーンを下げる。

    「一体どういうこと!?何が起こったの!?」

    「何って……」

    言い難そうにごにょごにょと言葉を濁す咲に、
    「ハッキリ言いなよ」と詰問する。

    「……期末テスト、数学だけ赤点だったの」

    「……」

    「で、今度の追試までに先輩に数学を見てもらうことになっちゃって…」

    「……」

    「今から図書室で勉強するの。だから今日は無理なんだ。ごめんね」

    そう結論づけて電話を切ろうとする咲に、
    淡は慌てて声を上げた。

    308 = 303 :

    おお>>1来てた
    ありがたやありがたや……

    309 = 304 :

    「ちょっと待って!数学なら私得意中の得意だよ!」

    「きっと辻垣内より効率よく教えてあげられるよ。考え直して!」

    出来れば二人きりになるのを阻止したい。

    適当なことを言って引きとめようとするが、
    咲は聞き入れようとしない。

    「でも、もう先輩と約束しちゃったし」

    「それに作戦としては良い感じじゃない?ここしばらく会話をしてなかった分を取り戻す良い機会でしょ」

    咲としては、いつもいつも積極的でいけと言われた通りにしてやってる位の気持ちだった。
    だから気付かない。

    携帯の向こうで淡がどんな顔してるかなんて、
    きっと想像もしないに違いない。

    「そう、だね」

    「でしょ。じゃあまたね、淡ちゃん」

    あっさりと咲は通話を終えてしまう。
    ツーという機械音に、淡は溜息をついて手を離す。

    確かに初めのうちは智葉と咲が上手く行くようにアドバイスをしていた。
    智葉との仲を取り持った自分に対して、咲は自分を見直すことにになるだろうと思い描いていた。

    それだけの為に咲を呼び出していたのだが。

    310 = 304 :

    (今は違う)

    智葉と二人きりになんてさせたくない。
    会話も、もっと言えば智葉なんか見て欲しくない。

    しかし咲は智葉のことが好きで。
    その願いは叶わない。

    こうして約束していたって、智葉の所へと行ってしまう。

    (そんなに辻垣内がいいの…)

    肩を落とす淡に、
    今まで一部始終を目撃してしまった誠子が声を掛ける。

    誠子「淡、今の電話だけど」

    部室から数メートルも離れていない所で喋っていたのだから、聞かれても仕方ない。
    だが何度も鬱陶しいことを言う誠子に、またかと淡は睨みつけた。

    「誠子には関係無いよ」

    誠子「だけどなあ」

    表情を曇らせた誠子を無視して淡は車へと急ぐ。
    これから自分が何をするかなんて、絶対に知られる訳にはいかない。

    311 = 304 :



    ――――


    臨海に来るのは、これで何度目になるのかわからない。
    勝手知ったる素振りで校内へと足を踏み入れた。

    (まずは、図書室を探さないと)

    途中、そこら辺を歩いていた生徒に声を掛け場所を尋ねる。
    生徒は他校生の淡にも丁寧に図書室への行き方を教えてくれた。

    生徒「図書室に何か用事?」

    適当に愛想笑いを向けて、
    それには答えず淡は真っ直ぐ目的地へと向かった。

    (…何やってるんだろう、私)

    誰かに指摘されなくても、今自分がやっている行動は変だ。
    こんなこそこそと二人がどんな様子でいるか探ろうとするなんて。

    自分らしくないみっともないやり方だ。格好悪過ぎる。
    頭ではわかっていたが、淡の足は止まらない。


    図書室の窓に近付き、淡はそっと中を覗ける場所を探し始める。

    (いた…)

    顔を近づけ、二つの人影を確認する。
    咲と智葉だ。

    ちょうど二人は淡に対して背を向けて座っていて、
    こちらから覗いていることはばれたりしない。

    ほっとして、淡はじっくりと二人の様子を伺う。

    312 = 304 :

    報告してきた通り、咲は智葉に勉強を教えてもらっているようだ。
    遊び気分ではなく、ちらっと見える咲の横顔は真剣そのもの。

    智葉の言葉に耳を傾け、一生懸命ノートに何か書き込んでいる。
    そのことについて文句を言うつもりは無いが。

    (近付き過ぎじゃない!?)

    教科書を見ながらやっているらしく、
    自然と二人の椅子はくっついた状態である。

    (辻垣内め。わざとやってるんじゃないでしょうね)

    ぎりッと淡は奥歯を噛み締めた。
    普通の勉強風景だというのに、どうしても違う見方をしてしまう。

    (咲もそれだけの接近を許してるんじゃないよ!)

    追試の為か、咲は熱心に勉強に取り組んでいる。

    積極的にわからないところを智葉に尋ねる為、教科書を指差したりしている。
    その度に、智葉の体が咲に近付く。

    たったそれだけのことで淡は腹をたて、
    今にも窓を破りそうになった。

    313 = 304 :

    (辻垣内ばかり見てないで、少しはこっちの視線に気付いたらどうなのよ!?)

    まさか淡が見ているなんて咲は考えもしないだろう。
    気付いたら悲鳴を上げるところだ。

    幸いにも咲は目の前の問題で頭がいっぱいの為、後ろを振り返る余裕など無い。
    必死で智葉にわからない問題の解き方を質問し続ける。

    智葉は智葉で、熱心に咲の勉強に付き合っていた。
    些か数学の出来が悪い後輩に呆れることなく、丁寧に解き方を教えていく。

    智葉「少し疲れたか?」

    「平気です。あ、でも先輩は休憩してて下さい」

    「私はこっちを進めておきますので。後で答え合わせお願いします」

    智葉「普段からその位集中して励んでいれば、追試なんてことも無かったはずだぞ」

    「それはそうなんですけど。どうも数字が並んでるのを見てると頭が痛くなっちゃって」

    智葉「それは苦手意識ってやつだな。宮永は典型的な文系だから仕方ないのかも知れんが」

    二人の会話は外にいる淡には聞こえない。
    穏やかな二人の横顔に、何を話しているか気になってしょうがない。

    何故あそこにいるのが智葉なんだろう。

    314 = 304 :

    書き溜め分終了です。

    315 :


    短くてもやっぱ面白い

    318 :

    乙です
    淡ちゃん嫉妬かわいい

    319 :

    一旦このスレを潰した荒らしについてどう思ってます?
    一言で良いので聞かせてほしい

    321 :

    続き投下していきます

    >>319
    諦めてます

    322 = 321 :

    (今すぐ邪魔してやりたい)

    こんな外側からしか見ていることが出来ない自分がみじめだ。

    窓を叩いてやろうかと、拳を握り締めると同時に
    後ろから制服を引っ張られる。

    「なっ…誠子!?」

    誠子「静かにな。あの二人に聞かれたらまずいだろ」

    人差し指を口の前に立て、
    誠子がしゃがめというようにジェスチャーをする。

    「何しに来たの」

    小さいけれど、低く不機嫌な声を出して誠子を睨む。

    誠子「お前が心配だったんだ。まったく、こんな覗きまでして」

    「うるさいな。余計なお世話だよ」

    誠子「あのなあ…白糸台の制服がどれだけ目立ってるのか分かってるのか?」

    「……」

    誠子「覗きなんかして通報されたら、大会はどうするんだ。バカ」

    「バカって言うな」

    誠子「いいから、まずはここ離れるぞ」

    嫌だと拒否しようとしたが、
    腕を掴む誠子の力は強い。

    それに離れなければ誠子も動こうとしないだろう。
    ずっと覗いている姿を誠子に見られるのは、さすがにプライドが許さない。

    323 = 321 :

    「で、誠子は何しに来たの?」

    校門から少し離れた場所に待機してた車へと戻った。
    ここなら咲と智葉が出て来るのを確認出来る。

    誠子「何しにって、不祥事起こしそうになった部員を止めに来たんだ」

    臨海に行って咲と智葉が仲良くしている場面を見て、
    逆上した淡が問題を起こしたら…と思うと気が気じゃなかった。

    実際、図書室の中を覗いている姿は不審者そのものだった。
    通報されたら白糸台は終わりだ。

    慌てて臨海へと来たが正解だったと、誠子は汗を拭う。

    ちなみに淡の姿はかなり目立っていた為、
    白糸台の生徒を見なかったかと片っ端から聞いたらすぐに教えてくれた。

    その為、図書室にたどり着くことが出来たのだ。

    誠子(目立ち過ぎるっつーの)

    苦笑する誠子に、淡はふと思いついたように声を上げる。

    「そういえば、誠子言ったよね?私の味方だって」

    誠子「え?確かに言ったけど…それがどうしたんだ?」

    「今から図書室に行って、咲を連れて来て。二人を引き離す手助けくらいしてみせてよ」

    誠子「出来るか!それ手助けじゃないだろ」

    「ちっ。役に立たないな」

    誠子「あのな…」

    俺様な淡を目の前にし、誠子は脱力する。

    324 = 321 :

    誠子「なあ。そんなに気に食わないのか?咲ちゃんが辻垣内と一緒にいること」

    「当たり前でしょ」

    誠子「うわ。珍しく素直だな」

    思わず即答してしまい、淡はしまったと口を閉じる。
    にやにやしながら誠子はぽんと淡の肩を叩いた。

    誠子「どうする?辻垣内が咲ちゃんの魅力にやられて、ふらふらと手ぇ出したら」

    「辻垣内を消す」

    誠子「目が!目がマジだから!」

    「冗談だよ、バカ」

    誠子「今のは違うぞ!本気だった!」

    騒ぐ誠子に、うるさいなあとそっぽを向いた。

    まだ咲は出て来ない。
    勉強は大事かもしれないが、さっさと片付けて出て来て欲しい。

    (まさかとは思うけど。あのまま告白なんかして上手くいったりしたら…しゃれにならないよ)

    以前、積極的に行けと言った自分が恨めしい。

    誠子「なあ、淡」

    「なんだ。まだいたの」

    誠子「現実問題として、咲ちゃんをどうやって自分に気持ち向かせるつもりなんだ?」

    またその話かと、溜息をつく。

    325 = 321 :

    「どうって、なんとかするから誠子は心配しなくていいよ」

    「上手くいったら報告してあげるから。それでいいでしょ」

    誠子「ひょっとして全国の個人戦で辻垣内に勝って、それで咲ちゃんの気持ちを掴もうとか思ってないよな?」

    「……」

    言い当てられて、内心でぎくりとする。

    誠子「決め手になるっていったら、やっぱりこれだろ」

    誠子「辻垣内に勝てたら、咲ちゃんだって淡を見る目が変わってくるかもしれない」

    「…まあ、そういう手もあるね」

    今気付いたというように淡は頷いた。

    誠子「だから、全国は大事な大会なんだ。他校に忍び込んで覗きしてる場合じゃないだろ」

    「覗く覗く言うな。人を犯罪者みたいに」

    誠子「さっきのお前の後ろ姿は犯罪者と変わらないぞ」

    「……」

    実際、窓を覗いてた自分の姿はみっともないと自覚してるので
    その点では言い返すことが出来ない。

    格好悪くて、人に見せられない姿まで晒して。

    こんなの自分じゃない。
    もっとなんでも思い通りになったはずだ。

    そうやって捨ててしまえばいいのに。

    326 = 321 :

    (出来ない)

    どんなにみっともなく足掻いても、
    咲の気持ちを向かせたい。

    命令とか、仕方なくとかそういうのじゃなくて。
    ありのままの咲が欲しい。

    (私は咲に好きになってもらいたいんだ)

    相手と向き合って、受け入れてもらう。
    それが簡単にいかない事なんて知らなかった。

    「咲が来たら知らせて」

    誠子「おい、淡?」

    「私はそれまで寝てるよ」

    誠子「ちょっと待て。このまま私に外を見てろと?おい、淡?」

    ごろんと車のシートに誠子に背を向ける格好で、淡は目を閉じた。

    誠子「はあ…私ばっか、こんな役目か」

    仕方無さそうに溜息をつく誠子には答えず、
    淡はゆっくりと呼吸を繰り返す。

    大会が終わったら、きっと何か変わるはず。
    今はそう信じるしか無い。

    327 = 321 :



    ――――


    誠子「淡、なあ淡」

    「なによ。うるさいなあ」

    いつの間にか本当に寝てしまっていた。
    目を擦りながら起き上がると、誠子が「咲ちゃん出て来たぞ」と外を指差す。

    「何!?辻垣内も一緒!?」

    誠子「うわー、一気に目が覚めたのか」

    「どこにいんの!」

    誠子「ほら、あそこ。校門から出て、何か話してるみたいだ」

    そう言って誠子が指で示した方向に、咲と智葉がいた。

    今日の礼を言ってるのか咲はしきりに頭を下げている。
    智葉は片手を振っていて、それに咲が笑顔で応えた。

    このまま智葉が咲を送ろうと言い出すのではと危惧したが、
    二人はあっさりと別々の方向に分かれて歩き出す。

    特に進展は無さそうな別れ方に、
    淡はほっと息を吐く。

    「じゃあ行くか」

    誠子「待て。私が行く」

    「なんで誠子が」

    誠子「まあまあ。こんな所で張ってたなんて言えないだろ?私が上手く理由言ってやるから」

    「あ、ちょっと!」

    誠子の上手い理由は当てになるかと淡は思ったが、
    もう誠子は外へ飛び出していた。

    328 = 321 :

    誠子「咲ちゃん!」

    呼ぶと、咲は「え?」と目を瞬かせて振り向いた。

    誠子「元気だった?なんだ、今日もミニスカじゃないのか」

    「…帰りはいつも制服ですよ」

    誠子「冗談だよ」

    「はあ。それで、こんな所で何してるんですか?」

    誠子「いや、今ちょうど淡と遊んでた所なんだ。その帰りに会うなんて偶然だなあ」

    「はあ…」

    偶然?と咲は首を傾げたが、
    それ以上追求したりしない。

    「…勉強は終わったの?」

    追いついた淡も咲に声をかける。

    頑張っていたのは知っていたが、
    話題に出さないのも変だと思い尋ねてみた。

    「うん。一通り教えてもらったよ」

    疲れた、と咲は肩を回す。

    329 = 321 :

    「先輩が丁寧に教えてくれたおかげで追試も何とかなりそうだよ。やっぱり先輩に見てもらって正解だったみたい」

    「へえ…」

    不機嫌になっていく淡に気付き、誠子は慌てて声を上げる。

    誠子「そうだ!咲ちゃん、疲れたなら淡に送ってもらったらどうかな?ちょうど車もあることだし」

    「え?今まで二人で遊んでた所ですよね。なんでこんな所に車が止まってるんですか?」

    誠子「車に乗って出掛けてたんだ!それで、咲ちゃんの姿見付けて降りて来たところ。わかるだろ?」

    「そ、そうですか」

    誠子の必死な形相に、咲は何事かと目を瞬かせる。
    誠子は誠子でそれ以上突っ込みは無しにしてくれと内心で冷や汗をかいた。

    「送ってあげるよ、咲」

    「え?」

    「じゃあ誠子、またね」

    咲の腕を引っ張りながら、淡は誠子に声を掛ける。

    誠子「ああ、また明日な。咲ちゃんもまたな」

    「はい、どうも…」

    両手を振る誠子に、咲は曖昧に返事をする。
    それすらむかついて、淡は無理矢理咲を車に押し込んだ。

    330 = 321 :

    「ちょっと何。人を荷物みたいに」

    ぶつぶつと文句を言う咲の隣に乗り込む。

    「咲の家に行って」

    かしこまりましたと、運転手がエンジンを掛ける。

    「このまま淡ちゃんの家に行かないんだ?」

    意外そうな声を出す咲に、うんと返事をする。

    「疲れてんでしょ。今日はゆっくり休んで」

    「…うん、ありがとう」

    淡の労わりの言葉に、咲は素直に頷く。

    それから車が走り出したが、会話も無くお互い黙っていた。
    沈黙の中、淡が考えていたのは先程の咲の言葉だ。

    『先輩が丁寧に教えてくれたおかげ』

    そんなもの、自分だってやってのけると言いたかった。
    でも咲の満足げな表情に顔を顰めることしか出来ずにいた。

    (そんなに辻垣内がいいの。いつもいつもそうだ。私より辻垣内の方を、咲は選ぶ…)

    誠子に咲は止めろと言われた意味がやっとわかったような気がする。

    これだけ好きになった相手には、もう好きな人がいる。
    ちっともこちらの気持ちに気付こうとしない。

    それどころか、智葉の話を平気でするくらいだ。
    嬉しそうな顔をして。

    331 = 321 :

    この想いが成就するのはかなり難しい。

    (けど、私は引き返したりしない)

    どうせなら最後の最後まで、
    自分でも見たくない位に足掻いてみせる。



    やがて車は宮永家の前に着き、静かに止まった。

    「送ってくれてありがとう。お姉ちゃんいるだろうし、家に上がってく?」

    「ううん、またにするよ」

    「そう。じゃあ…ね」

    ずっと黙っていた淡に、
    咲はまた何か言われるのかと不審に思いながらもドアを開ける。

    「ねえ」

    「な、何!?やっぱり何か思いついたの?」

    「違うよ」

    精一杯、淡は笑顔を向けた。
    少しでも好印象になるようにと。

    「勉強が終わったのなら、明日は会えるよね?」

    「う、うん」

    また例の作戦かと怯えながら。
    身を小さくして、次の言葉を待つ。

    332 = 321 :

    「なら、また…明日ね」

    「え?」

    それだけしか言わない淡に、
    咲はしばし考えてこくんと頷く。

    「それじゃ、また明日」

    「うん」

    ドアを閉めて、淡を乗せた車は去って行く。

    「なんだったんだろ…」

    わけがわからない。

    悪いものでも食べた直後かと、
    咲は首を捻った。



    (また明日)

    いつ会えるのかわからない「さようなら」では無い。
    明日も咲に会える。

    (早く、明日の今になればいい)

    個人戦まで好印象を与え続けるには具体的にどうするべきか。
    智葉に確実に勝つにはどういう練習を重点にするべきか。

    色々考えることが多いな、
    と淡は腕組をして思考に没頭し始めた。


    ――――

    333 = 321 :

    書き溜め分終了です。

    334 :

    相変わらず焦れさせる
    だがそこがいい
    乙です
    それと外野には触れんで良いですよ

    335 :

    乙乙

    337 :

    おつ!
    支援してますよー!

    339 :

    早く来て

    341 :

    続きを下さいお願いします…

    342 :



    ――――


    部員「大星さん、このところ熱心だねぇ」

    周囲の声を気にせず、淡は練習に励んでいた。

    全国大会でどうしても勝ちたい相手がいる。
    白糸台の勝利はもちろんだが、もう一つ別の目的で。

    (辻垣内…絶対に負かしてやるんだから)

    尭深「淡ちゃん、おつかれ様」

    「おつかれ」

    一緒に打っていた尭深が、一息ついたところで話しかけてきた。

    尭深「ねえ。淡ちゃんって好きな人いるでしょ?」

    「……なんで」

    知っている、と言外に告げると。
    くすりと笑って尭深は答える。

    尭深「だってこのところ人が変わったみたいなんだもん」

    343 = 342 :

    「…私が?」

    「ああ、若干雰囲気が柔らかくなった感じがするな」

    傍で話を聞いていた菫が
    2人の会話に加わってきた。

    尭深「で、意中の相手は淡ちゃんに全く気が無いの?」

    「……だから、なんで」

    どうして分かるんだと、淡は頭を抱えた。

    尭深「だって、何だか苦しい恋をしている雰囲気だから」

    「……」

    まさか誠子がしゃべったのか?
    と内心で冷や汗をかく。

    「でも珍しいな。淡がそんなにモタモタしてるなんて」

    「え?」

    「いつもだったら、速攻声掛けて落としてるだろ。相手に恋人がいてもな」

    尭深「で、その後すぐに飽きて別れる、と」

    「まあね…」

    2人は今までの行いを咎めている訳では無さそうだが、
    少しばかりの良心が痛む。

    344 = 342 :

    相手のことなんて全く考えず、興味が無くなったらそれまでで。
    しつこくすがってくる相手には平気で冷たい言葉を浴びせて。

    (咲がそういう事全部知ったら…私をどう見るんだろう)

    呆れる?怒る?
    それだけじゃ済まない気がする。

    軽蔑して何か嫌なものを見るような目を向けられるとしたら。
    想像しただけで、かなりダメージを受けた。


    「お前がその相手に夢中なのは、今までみたいにすぐ落ちないからなのか?」

    「……」

    「物珍しさからその相手に近付くなら止めておいたらどうだ?また同じことの繰り返し…」

    「そんなんじゃない」

    低い声で言葉を遮る。
    菫も尭深もびっくりした目を淡に向ける。

    「私に靡かないからとか、そういうんじゃない。二度と言わないで」

    「あ、ああ。すまん」

    淡の気迫に、菫はただ頷く。

    (いつもみたいに思い通りにならないからって…好きになった訳じゃない)

    345 = 342 :

    『淡ちゃんみたいに何も考えずに先輩を誘うことなんて出来ないよ』
    誘うこと一つ満足に出来ない臆病なところとか。

    『好きだとは、思ってるよ。ただそれが独り占めしたい、までは行かないだけで』
    好きなら相手を独占したいと思うのは当たり前なのに、見てるだけで満足してるという理解不能な思考。

    『淡ちゃん、すっごく強いんだね。私、楽しかったよ!』
    無防備に全開の笑顔を向けてくるその表情。

    全部に引き寄せられてしまう。

    この百戦錬磨の大星淡が。
    あんな恋愛もろくに知らない相手に、こんなに思い焦がれるなんて。


    全国大会で、絶対に咲の気持ちをこちらに向けさせてみせる。
    必ず。辻垣内に勝って。

    早くしないとこっちの心が潰されてしまいそうだ。
    今だって咲が智葉に心を向けていると思うと、痛くて仕方ないのだから。


    ――――

    346 = 342 :

    放課後の練習が終わり、急いで駐車場へと歩き出す。

    今日こそ咲が先に家に到着し「おかえり」を言ってもらえるはず。
    が、そこへ携帯が着信を知らせる。

    (まさか…)

    また居残り勉強を知らせる連絡か?と淡は顔を歪めた。
    もしそうだったら、今度は断固反対してやる。

    誰かを使ってでも智葉を呼び出し、引き離すことだってやってやる。
    数秒の間に、そんな姑息な手段が浮かぶ。

    しかし着信の相手は咲では無かった。

    (なんなの、一体)

    咲を迎えに行かせている運転手からだ。

    「私だよ」

    運転手「淡お嬢様、忙しいところすみませんっ」

    「一体どうしたの」

    慌てている運転手に何事かと声を上げる。

    運転手「実は先程から宮永様の姿を探しているのですが、一向に見当たらないのです」

    運転手「麻雀部員らしき生徒は何人か門から出てるのは目撃したんですが、宮永様だけはまだのようで…」

    大体探さなくとも、咲の方からでかくて目立つ車の方へやって来る。
    それが今日に限ってまだ現れないというのだ。

    347 = 342 :

    「そう。一応こっちで連絡してみる。いつ出てくるかわからないから、そこで待機しておいて」

    運転手「はいっ」

    急いで淡は咲の携帯へと掛けてみる。

    「……」

    現在電波の届かない場所か、電源が入っていないとアナウンスが流れている。
    迷わず今度は自宅へと掛ける。番号は以前に照から入手済みだ。

    少し待った後、「はい、宮永です」と母親らしき女性の声が出た。

    「あの、臨海の辻垣内と申します。咲さんと同じ麻雀部なんですが連絡したいことがあって。咲さんは帰宅していますか?」

    他校生だとどんな関係か説明するのも面倒だったので、淡は智葉の名前を使うことにした。
    不在を確かめるだけだから、とこれも自分に言い訳する。

    宮永母「咲ですか?まだ帰ってないんですよ。戻ったらこちらから電話をするよう伝えましょうか?」

    「いえ…。またこちらから連絡します」

    宮永母「え?あの」

    いないとわかった瞬間、淡は電話を切った。
    失礼なヤツだと思われたかもしれないが、智葉の名前だから大丈夫だ問題ないと頷く。

    348 = 342 :

    (後は…)

    家にも帰ってない。校外にも出たわけじゃない。
    やはりまだ学校に残っている可能性が高い。

    (仕方ないか)

    淡は鞄を開けて手帳を取り出した。

    いつか調べたものが、こんな形で役に立つなんて。
    皮肉だと苦笑しながらページを捲り、見つけたナンバーをプッシュしていく。

    (出ないな)

    知らない番号から掛かってきたことに、警戒しているのかもしれない。
    それでも淡は辛抱強く相手が出るのを待った。

    しつこさに負けたのか、ようやく「はい」と無愛想に出る声が聞こえた。

    「辻垣内?ようやく出たね。私だよ、大星淡。一つ聞きたいことがあるんだ」

    智葉「白糸台の大星!?」

    意外な人物からの電話に智葉は呆然としているようだ。

    智葉「お前、何故私の携帯番号を知っている!?」

    「まあ細かいことは気にしないでよ」

    智葉「いや大問題だろう。個人情報が流出してるのか?」

    実は以前咲の作戦用にと、智葉のことを調べ上げておいた。
    好みのタイプや食べ物だけじゃなく、家庭環境から様々なことまでも。

    住所や電話番号はいざ告白となった時に、
    直接家に出向くとか、電話で告げるとか色々なパターンを考えた方が良いと思ったからだ。

    349 = 342 :

    最も、もう咲と智葉の仲を押す等と考えてないので不要の情報となったはずだが、
    まさかそれが活かされるとは淡も予想していなかった。

    「あんたの携帯番号なんて些細な情報だよ。安心してよ」

    智葉「些細か?ものすごく引っ掛かるんだが」

    「それよりもっと大事な話があるの」

    智葉「何だ」

    「宮永咲。今、そこにいる?」

    いるならいるで腹が立つが、どこにいるかわからないよりはましだ。
    苛立ちながら尋ねる淡に「いいや」と智葉は正直に返事する。

    「本当?」

    智葉「ああ。嘘を言っても仕方ないだろう」

    「そう、だね」

    たしかに智葉にそんなメリットは無い。嘘では無いと淡は思った。
    ならば咲はどこにいるのか。

    「今日の部活はもう終わったんだよね?」

    智葉「ああ。全員帰ったはずだが。おい、宮永がどうかしたのか?」

    一瞬淡は迷ったが、何か智葉が知ってるかもしれないと思い
    今の状況を話してみる。

    「約束してたのに待ち合わせの場所にも現れず携帯も通じない。何かあったのかと思ってね。心当たりは無い?」

    智葉「いや。部室から出て行ったのは見ていないが、今ここには私以外残っていないぞ」

    「そう…」

    350 = 342 :

    咲がこっそり帰ったとは到底思えない。

    勝手に約束を破ったら淡がどんなに怒るかわかっているだろうし、
    最悪智葉にばらされるかと咲は思っているはずだ。

    校内で何か用事があって残るにしても、一言連絡くらい寄越すはず。
    運転手が待っていることも知っている。

    たとえ携帯の電源が切れたとしてもそれを言いに来ることくらいするだろう。
    あれこれ考える淡に、呑気な智葉の声が響く。

    智葉「きっとどこかで迷子にでもなっているのだろう。この間も校舎内で迷っていたからな」

    全く心配もしていない智葉の口調。
    智葉に他意はなかったとしても、淡を怒らすには十分だった。

    「あんたのところの部員でしょ!心配じゃないの!?」

    智葉「大星?」

    「この間咲が事故に巻き込まれた件、もう忘れたの?また同じ目に合わないって言い切れるの?」

    智葉「おい、どういう意味だ。宮永に何かまた」

    「うるさい!もうあんたに聞くことなんか何も無い!」

    ぶちっと淡は着信を切った。こんなに腹立つことは久し振りだ。
    考えれば考える程腹が立つのは、咲がこんな智葉を好きだってこと。

    (私だったら、気付いてやれるのに)


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