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    元スレ淡「咲は私の言うとおりにしてればいいんだから!」

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    202 :

    咲が白糸台の部室を飛び出してから数日。
    淡からの連絡は無い。

    (やっと穏やかな日々が帰ってきたよ…)

    他の女に愛想を振り撒くなとか、辻垣内に対してああしろ、こうしろと淡は煩かった。
    解放されてやっと一息ついたところだ。

    そして、休日がやって来た。
    今日は丸一日部活動も無い。
    麻雀をしないならと、咲は昼まで寝ていようと決めた。

    『オフなら辻垣内を誘いなよ。常識でしょ?』

    淡が連絡をして来た時なら、絶対またこんな無茶な注文を付けられてたところだろう。
    間違いなく一日デートに誘ってそのまま既成事実でも作れ作戦が発動してたに違いない。

    しかしその心配も無く、今日の休みを迎えることが出来た。

    (ゆっくり眠れる…ゆっくり…)

    だが、咲の願いは叶わない。

    「咲ー、一緒に出かけよう!」

    姉に布団を引き剥がされ、
    安眠するはずが無理矢理起きる羽目になった。

    203 = 202 :

    一方、淡はといえば。
    咲と会わなくなって以降、すっかり煮詰まっていた。

    (咲のやつ、何で連絡よこさないのよ!?)

    自分から電話するなど勿論考えつかない。
    咲から歩み寄ってくるなら、許してやらないことは無い等と思っている。

    淡が考える‘作戦’を嫌がる咲が自分から連絡を寄越すはず等無いのだが
    そのことには気付かない。

    (もう頭きた。謝ってもしばらく無視してやるんだから!)

    そうして、咲からいつ連絡が来るかとずっと待ち続けて、
    淡は始終苛々したまま日々を過ごしていた。

    誠子とも、あれからほとんど口を利いてない。
    一方的に淡が避けているだけなのだが。

    (説教なんて聞きたくないよ)

    様子のおかしい淡のことを、部員達は遠巻きに「大会中でぴりぴりしているんだ」と噂した。

    ただ一人、こないだ咲と淡の間に居合わせた部員が
    「ひょっとして、この間の子に振られたのでしょうか」と余計なことを言ったので、
    勝手な憶測をするなと盛大に叱っておいた。

    (まさかこのまま逃げようとしてるんじゃないでしょうね。むかつく奴)

    考えまいとしても、日々苛々は募るばかり。

    204 = 202 :

    そんなある日、淡は登校してきた照を一目見て仰天する。
    顔には絆創膏、腕や足にはぐるぐると包帯が巻かれているではないか。

    「テルー?その怪我…」

    「照うううう!その怪我は一体何なんだああああ!」

    淡が声をかけるのと同時に。
    菫が物凄い勢いで照の肩をがしっと掴んで叫んだ。

    「ああ、これ?昨日出かけ先で事故に巻き込まれてしまってね」

    照はといえば、そんな怪我も何のそのであっけらかんとして答えた。

    「だ、大丈夫なのか?痛くはないか?」

    「うん。ちょっと大げさに包帯巻かれちゃったけど、普通に麻雀も打てるし」

    「そ、そうか…」

    照の言葉に菫はホッとして胸を撫で下ろす。
    だが次に続いた言葉に、今度は淡の方がうろたえてしまう。

    「私はいいんだけど、咲を巻き込んだのは万死に値するよ。あのへたっぴ運転手め」

    「咲!?咲も怪我したっての!?ねえテルー!!」

    がしっと今度は淡に肩を捕まれて、照はきょとんとする。

    「う、うん。むしろ私をかばった咲のほうが怪我は酷いと思う」

    瞬間、画面蒼白になった淡に照は訝しげに問う。

    「何で淡が咲の怪我を気にするの?そんなに親しい仲だったの?」

    「えっ?咲は…私の…」

    「私の?」

    「そ、そんなことどうでもいいでしょ。それより私ちょっと行くとこあるから!」

    照の視線から逃れるように、淡は踵を返して走り出す。
    背後で菫が何か照に話しかけているようだが、すでに淡の耳には届いていなかった。

    205 = 202 :

    車を降りて、淡は臨海女子の校門を足早にくぐった。
    麻雀部はどこにあるか知っているから、ずかずかと中へと入り込んで行く。

    「…いない?」

    だが部室の中に咲の姿が見えない。

    「 ちょっと、そこのあんた!」

    淡は目についた一年生らしき部員に声をかける。

    ハオ「はい、何でしょうか」

    「咲がどこにいるか知ってる!?」

    ハオ「咲さんなら、今は保健室で包帯を巻きかえてます」

    「…!!」

    その瞬間、淡は部室を出て廊下を駆け出した。
    やみくもに走っていたら、ちょうど保健室から出てきた咲を見つけた。

    「えっ、淡ちゃん!?」

    どうしてここに、と咲が驚くのを無視して
    淡は咲の両肩を掴みに掛かった。

    「咲っ、怪我は大丈夫なの!?」

    顔はガーゼと絆創膏と包帯とで覆われ大変なことになっている。

    「女の子の顔にこんなに傷をつけるなんて、許せない!」

    「あ、淡ちゃん?」

    興奮状態の淡に、咲は訳がわからないときょとんとする。
    淡は今度は腕を掴みに掛かる。

    「痛っ!」

    血は出て無いがそこも事故で傷めた箇所だった。
    苦痛に顔を歪める咲に、淡はハッとして手を離す。

    「あ、ご、ごめん。…その、大丈夫?」

    「別に、平気だけど…」

    腕をさすりながら、咲は淡の方をじっと眺める。

    「何?やっぱり痛むの?」

    「いや、そうじゃなくって」

    「……?」

    何だろうと思っていると、咲がゆっくりと呟く。

    「もしかして心配して来てくれたのかなーと思うと、ちょっと嬉しいかなって」

    「…!!」

    瞬間、淡が耳まで真っ赤になる。

    咄嗟に違う、と叫ぼうとしたが
    嬉しげに微笑む咲を前にして、言葉が出てこなかった。

    「わざわざありがとう、淡ちゃん」

    「別に。…あんまり無理しちゃダメだよ」

    「うん」

    本当に咲といると調子が狂ってしまう。

    そう思いながらも、
    淡は真剣に自分の主治医に咲の怪我を見せるべきか考え始めていた。

    206 = 202 :

    「いいってば、ほっとけば治るから!」

    「ちゃんとした医者に見せるのが一番なんだから!いいから来なさいよ!」

    数分前から淡と咲は、お互いの主張を譲らず揉めていた。

    怪我の具合を主治医に見せると一方的に決めて引っ張っていこうとするが
    咲はそれを拒否して抵抗を続けていた。

    舌打ちして、淡は咲を無理矢理腕に抱え込む。

    「すぐに見せた方がいいでしょ。大人しくしなよ」

    「だからいいって!部活もあるし」

    「そんな状態で部活なんてダメに決まってるでしょ!今日は絶対安静!」

    「なんで淡ちゃんがそんな事決めるの!?」

    足をじたばたさせて、咲はなんとか淡の腕から逃れようとする。
    当然淡は無視して、校舎の外へと出た。

    「乗って」

    「もう…分かったよ」

    大きく溜息をついた後、咲は黙って車に乗った。

    「ところで、どこに向かってるの?」

    行き先に不安を覚えたのか、咲は淡に問い掛ける。

    「この道は前にも来たでしょ。私の家に向かってんの」

    「いや、覚えてないし」

    「相変わらず物覚えが悪いね」

    「悪かったね」

    口答えするのも面倒になったのか、咲はそれきり黙り込んだ。

    207 = 202 :

    車はそのまま大星邸に向かい、使用人達が待つ玄関の前で止まった。

    「降りて」

    「相変わらず大きい家だね」

    「そう?普通でしょ」

    「どこが」

    お帰りなさいと、使用人達が淡に向かって頭を下げた。
    それを咲は居心地悪そうに眺めている。

    「行くよ」

    動作の鈍い咲の手を引っ張って中へ入る。

    「淡ちゃん、手引っ張らないで」

    「腕掴むと痛いんでしょ。だったら手を掴むしか無いし」

    「そんな必要がどこに」

    「咲、逃げるから」

    「だからって、こんなの…」

    「は?」

    困惑した声を出す咲に苛立ちながら振り向く。
    そして、気付いてしまう。

    恥ずかしげに頬を染めた咲の視線の先にあるのは、互いの手。
    淡が引っ張ってるとはいえ、この状態は。

    手を繋いで歩いているようにも、見えないことは無い。

    「……」

    208 = 202 :

    一瞬固まった後、淡は素早く手を放す。

    「違う、これは!」

    「…」

    「咲が、そう、また逃げ出すと思ったから!それ以上に深い意味は無いから!」

    「ここまで来て、逃げ出すも何も無いけど」

    「だったら早く言いなさいよ!全く世話ばかり掛けて」

    「…だから頼んで無いのに」

    咲の文句も淡の耳には届いていない。

    「いいから、ついて来て!」

    怒ったように足音を響かせて、中へと入って行く。

    (別に私は咲と手を繋ごうとか、そんなこと欠片にも思ってないんだから)

    誰も問い掛けていないのに、淡はそう自分に言い訳をしていた。

    (大体、咲が妙に意識するような態度取る所為だよ!手に触れたくらいどうってこと無いでしょ)

    ちらと咲を振り返る。
    もう気にした風でもなく、黙って淡の後ろを歩いている。

    (ほら。気にしてないじゃない。手を繋 ぐ位、小学生でも意識しないよ…)

    そんなことを考えながら、咲に触れた右手をぎゅっと握る。

    見掛けと同じくらい細い手だった。
    体温も少し高かったと、思う。

    繊細で温かい。それが、咲の手。

    (馬鹿馬鹿しい。何考えてんのよ私)

    今のは勘違いだというように、咲に対してキツイ声を出す。

    「ほら、早く来なさいよ」

    「はいはい」

    淡の横柄な態度に少しは慣れたのか、咲は形ばかり従う返事をする。

    (さっきは、手を繋いだ位でおたおたしてたくせに…)

    209 = 202 :

    「さあ、ここだよ」

    一つの部屋の前で淡は立ち止まり「連れて来ました」と声を掛ける。

    「誰かいるの?」

    「咲にとって必要な人だよ」

    「え?」

    「先生、この子の怪我の具合を見てやって下さい」

    「ええっ!?」

    扉を開いた先には、白衣を来た中年の男が立っている。

    「ちょっと、淡ちゃん」

    「うちの主治医の腕は超一流だからね。全部見てもらいなさいよ」

    「いいよ、そんなの!」

    「遠慮しないでいいよ」

    「遠慮なんてしてないって!」

    白衣の男が、咲に近付いてくる。
    分厚い扉が音を立てて閉められた。

    「私、帰るー!」

    咲の叫びも虚しく。
    それから検査と手当ては一時間以上費やされた。

    210 = 202 :

    「はあ、とんでもない目にあったよ…」

    ぶつぶつ文句を言う咲に、淡は人差し指でおでこを弾いた。

    「いたっ!何するの」

    「怪我の具合を確認して何が悪いの。大会中でしょ?事の重大さがわかってるの?」

    そう言われると、咲もこれ以上文句も言えない。

    「でも、どうして?」

    「え?」

    「どうしてそこまで心配してくれるの?」

    「それは…」

    ジッと見詰めてくる咲から目を逸らす。

    たしかに誰かが怪我したからといって、
    わざわざ主治医まで呼んで手当てさせたことなんて考えたことも無い。

    何故心配するのかと聞かれると。
    自分でも、答えが見付からない。

    「ねえ、なんで?」

    もう一度問い掛ける咲に、淡はぐっと体を引く。

    「それは…」

    「それは?」

    「作戦の為だよ!こんなつまらないことで辻垣内に心配掛けると困るでしょ?」

    「はあ…」

    「試合に出られないと言って、失望させたら今までの積み重ねも無駄になるからね!」

    「無駄になる程、積み重ねて無いと思うけど…」

    咲の言葉を無視して「とにかく!」と話を逸らす。

    211 = 202 :

    「この件、辻垣内はなんて言ってる?」

    「先輩?今日はまだ顔出してないよ」

    「何で?」

    「家の用事で遅れてくるんだって」

    「なんて間の悪い奴なの!」

    淡の叫びに、咲はびっくりしてしまう。

    「何、一体」

    「咲の怪我を見て、さすがに辻垣内も動揺するでしょ」

    「はあ」

    「それを『平気です』と健気なことを言いつつも、無理をしてる咲は足をもつれさせてしまう」

    「…」

    「そこを辻垣内がすかさず支え、お互い至近距離で見詰め合う。そこで愛が芽生えるかもしれないじゃない!」

    「何その三流シナリオ」

    「咲、明日辻垣内の前でよろけてみなよ」

    「絶対いや」

    相変わらず無茶苦茶だ、と咲は頭を抱える。

    「じゃあ早速また作戦会議に入るからね」

    「まだ作戦やるの?」

    「当り前。咲が辻垣内の心を射止めるまで、ずっとだよ」

    「…淡ちゃんの作戦通りにやってたら、一生無理な気がするんだけど」

    また振り出しに戻ったことに咲は大きく溜息をつく。
    淡はそんな咲も何のそので楽しげに笑った。


    ――――

    212 = 202 :

    書き溜め分終了。
    次は4、5日後に投下予定です。

    213 :

    乙!
    次も期待してます

    214 :


    ヤリチンが散々遊んだ挙句に初心な子をオトして幸せになりました、ってのは腹立たしいはずなのに淡なら面白い不思議!

    215 :

    >>214
    そのストーリーは100万回生きた猫を思い出す

    217 :

    乙 ツンデレ淡可愛い

    218 :

    糞モブスレなんざいらねーから失せろ

    219 :

    ↑は色んな咲さんスレ荒らしてる頭おかしい照ファンだから気にすんなし

    220 :

    >>219とかいう照アンチ
    照厨なんて根拠ないのにレッテル貼って加害者にしたてようとするクズ

    221 :

    照ファンは帰って、どうぞ

    222 :

    照豚は昔からよく咲スレや宥菫スレ荒らしてるからな
    何言っても無駄だろう

    223 :

    という照厨の心象下げるための照アンチ自演がお送りしました~

    224 :

    智葉「宮永」

    「はい?」

    部活後、智葉に呼び止められて咲は振り向いた。  

    智葉「怪我の具合は大丈夫なのか?」

    頬を覆っているガーゼを見て、智葉は目を合わせて尋ねて来た。

    「大丈夫です。もう痛みもほとんどないですし」

    智葉「そうか」

    目を細めて智葉は頷く。
    心配してくれているのかと思うと咲の心が温かくなる。

    智葉は、咲の中でも特別な位置にいる。

    他の人とは違う。
    はっきりとそれは自分でも認めていた。

    中学の時、麻雀で負かされた日からずっと。
    智葉のことを気にしていた。

    (こんな気持ちになったこと、今まで無い…)

    智葉が好きだ、とは思う。
    この中にいる部員達とは違う意味で。

    でも淡から聞かされる作戦を聞いて、段々わからなくなってきた。
    最も作戦自体でたらめで、頭を抱えたくなるようなものばかりなのは百も承知だ。

    ただ、淡が進めたがっているような関係になりたいかと問われると。

    (なんか、違う気がするんだけど)

    だって、ここでよろめいて智葉に抱きかかえられることなんて望んでいない。
    むしろ絶対足をもつれさせるもんかと考えてしまう。

    智葉の前で弱い所なんか見せられない。
    抱きかかえられるなんて、論外だ。

    智葉「今日は一緒に帰るか、宮永」

    「はい」

    智葉をちらっと見て、ぎゅっと口元を引き締める。

    好きだけど、負けたくない。
    この気持ちが恋かどうかなんて、自分でも曖昧だ。

    225 = 224 :



    ――――


    部活が終わると同時に臨海へと車を走らせた。

    (急がないと、咲は帰るかもしれないからね)

    また作戦を授けなければ、と淡は意気込む。


    「あ、淡ちゃん」

    淡の登場に咲は目を見開き、そして左右を見渡した。

    ネリー「サキー!」

    手を振って駆けて来る人物は、淡も知っている。

    前に大会会場で咲と食事をしていたネリーだ。
    その隣には明華もいる。

    「早くっ!」

    「な、なによ」

    咲は淡の制服を掴んで、車へと押し込む。
    文句を言う間もなく、咲も乗り込んでドアを閉めた。

    「急いで、出して下さいっ!」

    ただ事じゃない咲の声に、淡は「出せ」と運転手に命令する。
    淡の指示に、車はすぐに車道を走り出した。

    「危なかった…」

    後ろを振り返った咲が大きく息を吐く。

    「ちょっと、どういうこと?」

    説明しろと淡が咲に尋ねると、
    疲れたようにシートに凭れた咲が声を出す。

    「明華先輩とネリーちゃん」

    「あの2人が何よ」

    「他校の淡ちゃんとどういう関係なのかって、しつこく聞いてくるんだ」

    物憂げに、咲はため息を吐いた。

    「何だそんなこと?」

    「そんなことって…」

    「正直に言えば良いでしょ。淡様から色々学ぶことがあって、指導して貰ってますと」

    絶句する咲に、淡は首を傾げる。
    良い理由を考えてやったのに、何故そんな顔をしているのかがわからない。

    226 = 224 :

    「淡ちゃんは平和で良いね…」

    「なに?遠慮はいらないよ。何なら私から説明してあげてもいいし」

    「絶対にやめて!もうなんで話をややこしくすることばっかり思いつくの…」

    焦ったり怒ったりと、忙しい奴。
    元凶は自分だというのに、淡は咲の様子をそんな風に思った。

    「ねえ」

    「何?」

    ふと咲の髪が濡れていることに気付いて、手を伸ばす。
    突然雨が降って来たから、濡れるのは仕方ない。

    けど、そのままタオルで乾かしたりもしないで外に出るなんて。
    大会真っ只中だというのに、風邪を引いたら大変なことになるとわかっているのか。

    「別にこれ位…」

    「全く、仕方ない奴だね」

    手持ちのバッグを開けて、淡は中からタオルを取り出した。

    「ほら、さっさと乾かしなさいよ」

    咲の頭に被せてやる。
    最初はきょとんとしていたが、すぐに「いいよ、悪いよ」と遠慮される。

    「良いわけないでしょ。風邪引いたらどうするの!」

    「この位じゃひかないってば」

    「どこにそんな根拠があるんだよ。さっさとしなよ」

    無理矢理頭を引き寄せて、乱暴に拭き始める。

    「痛っ、痛いってば淡ちゃん!」

    「いいからじっとしてなさい」

    わしゃわしゃと、粗雑に咲の頭を拭いてやる。

    (この私にこんなことさせるなんて、何て奴なの)

    227 = 224 :

    誰かの髪を拭いてやった経験等、生まれて一度も無い。
    しようとも思ったことも無い。自分の行動に驚いてしまう。

    (あんまりにも呆れた奴だからだよ。だから手を出したくなる…そうに違いない)

    不可解な気持ちに、淡は無理矢理理由をつけて納得しようとした。
    それ以外に何があるなんて、認めたくなかったのかもしれない。

    「あの」

    タオルの隙間から覗かせた咲の上目使いの視線に、一瞬手を止める。

    「…何」

    「ありがとう淡ちゃん。あとは自分でやれるから…」

    「そ、う」

    パッと手を離す。
    同時に咲はタオルを掴んで、髪を拭き始めた。

    (手、細いな…力入れて掴んだら折れてしまいそう)

    「今日の淡ちゃんって…」

    「な、なに」

    急に話し掛けられ、淡はぎくしゃくと首を廻す。

    「何だか口うるさいお母さんみたい」

    くすっと笑う咲に、淡の表情が固まる。

    (こいつ、こいつは人の好意をなんだと)

    ふるふると拳を震わせて叫ぶ。

    「その生意気な態度をすぐに改めろー!」

    「え、何なの突然」

    訳がわからないと肩を竦める咲に、
    絶対いずれ服従させてやると淡は誓った。

    228 = 224 :

    やがて車は大星邸へと到着した。
    昨日と同じお出迎えなので、咲もそう驚いたりしない。

    が、淡の「まずは治療からだね」の発言には目を見開いてしまう。

    有無を言わさず引っ張られ、とある部屋に放り込まれた咲の前には。
    昨日と同じ医師が待機している。

    「しっかり治療してもらいなさいよ」

    「またこのパターンなのー?」

    待機していた看護士達によって押さえられ、今日の診察が始まった。



    「もう大丈夫だって言ったのに…」

    傷薬を塗って、新しい絆創膏に取り替えただけで終わった。
    後は自然に治るだけ。

    思いの外酷 い怪我じゃないと医師から聞いて、何故か淡はほっとしていた。

    もし一生残る怪我だったら。
    相手の運転手をどうしていたか自分でもわからない。

    放っておけば治ると言う咲に、淡はこつんと額に拳をぶつける。

    「バーカ。怪我を甘く見てると酷い目に合うよ。きちんと治療に専念するのも大事なことでしょ」

    「はあ…分かったよ」

    脱力する咲を無視して、淡は肝心の話を持ち掛ける。

    「それより明日の県予選のことで、一つ言っておくよ」

    「何?」

    229 = 224 :

    「あんた、危なっかしいから当日ボディガードを配置することに決めた」

    「ちょっと待って!何怖いことをさらっと言ってるの!?」

    目を剥いて、咲は抗議する。

    「そんなの必要無いから!」

    「何を興奮してんの?普通そこは有り難く思うとこでしょ?」

    「有り難くなんか無いよ…淡ちゃんの常識はどうなってるの…」

    実を言うと、とっくに当日の配置は決まっていた。

    驚かすとまずいと思って、事後承諾の形で咲に伝えたのだが
    まさかこんなに嫌がれると思わず、淡は額に手を当てた。

    「そこまでしなくていいってば。当日は先輩達と行動するから。というか、そう言われてるし」

    「…辻垣内の提案?」

    「うん」

    (辻垣内は、咲の事ちゃんと見てるんだ…)

    当然のことだが何か面白くなくて「勝手に気を回して悪かったね」と淡は横を向いた。
    淡の態度に咲は首を傾げながらも、一応気を使ったことに対して礼を言う。

    「別に。ただ咲があまりにそそっかしいんでその位のことしないとって思っただけなんだから」

    「そそっかしくて悪かったね」

    淡の言葉にぴくっと眉を寄せるが、もうどうでもいいかと咲は出されたお茶を一口飲む。
    もっと噛み付いてくるかと思ったが、何も言わない咲に淡も同じようにお茶を飲んだ。

    230 = 224 :

    「で、明日は辻垣内と行動するんだね?」

    「うん。先輩だけじゃないけどね」

    「じゃあ明日は常に辻垣内と手を繋いでいること。いいね」

    「無理に決まってるでしょ!」

    すぐにいつも通りの言い争いが始まる。
    そして結局、淡の作戦を無理矢理咲に押し付ける格好で本日は解散となった。



    こんなことに時間を掛けて何になるのか。
    咲と会うずっと前の淡がこの状況を見たのなら、そう言うだろう。

    なのに今の淡はこの関係を止めるつもりは無かった。

    (いつか咲に、私の偉大さを認めさせてやる。そうなってからの顔が楽しみだね)

    理由をそんな風に摩り替えて、
    咲に会ってるのだと誰でもなく自分に言い聞かせている。

    でなければ、他校の生徒である咲に会う理由は無くなってしまうから。



    ――――

    231 = 224 :

    県予選準決勝。

    照が他校をとばして先鋒戦で終わらせた為、早々に試合が終わった。
    淡は車を走らせて、別の会場で試合中である咲の様子を見に向かった。

    誠子「おっ、なあ淡」

    「何よ」

    何故か一緒についてきた誠子が声をあげる。

    誠子「咲ちゃんがいるぞ」

    「!!」

    咲の隣を智葉が歩いている。
    智葉だけじゃなく他にも臨海の選手が周りにいるのだが、淡には二人しか目に入らない。

    智葉と咲。

    ただ並んで歩いているだけで、他には何も無い。

    淡の指示通りか、咲は智葉に何か話し掛けている。
    智葉の方も穏かにそれに応えている。

    それは淡の望み通りの光景のはず。

    (作戦通り。問題は無いね)

    全く無いのだが。

    どういう訳か二人を見ていると心臓の辺りが苦しくなる。
    全くこちらに気付きもし無い咲を呼んで、こっちを向かせてしまいたくなるような気持ちにもなる。

    (調子、悪いのかな?)

    変だな、と淡は胸元の当たりをぎゅっと押さえた。

    232 = 224 :

    書き溜め分終了。
    次は1週間ほど空きます。

    233 :

    乙乙

    234 :

    咲に告白されて舞い上がる淡と、それが冗談や練習だと分かって凹む淡が見たいね

    237 :

    咲が中心のssって別な学校だったり、迷子になって出会ったりでワンパターン
    そこまでして無理な組み合わせにしたいのかな?

    239 :

    乙 淡と咲のやり取りが面白い

    240 :

    期待してます

    241 :

    ???「咲さんにはもっと相応しい方がいるはずです。例えばそう、清澄の方とか」

    242 :

    目的は、咲と智葉を恋人同士にすることだった。

    咲に策を授けて実行させ、それによって智葉を落とす。
    その時咲は全ての態度を改めて、淡に感謝するはずだ。

    今まで生意気なこと言って済みません。
    全部、淡様のおかげです、と。

    妄想もいい加減にしろと、咲が聞いたら怒るだろうが
    淡は真面目にそう考えていた。

    今までは。

    けれど、何か違う。
    智葉の隣に立ってる咲を見て淡は眉を顰めた。

    こんな光景を望んでいたんじゃない。

    咲は淡の視線に気付いているのかそっぽを向いている。
    臨海の部員達が揃う中、淡が大声でいつものとんでもない作戦を喚いたら大変なことになる。

    だから話しかけられないよう、絶対に顔を向けようとしない。

    「あの、先輩!早く行きましょう」

    智葉「え?あ、ああ」

    追い立てるように智葉を促す。
    智葉は咲の態度に首を傾げるが、特に異論も無く足を進めて行く。

    咲はその智葉の陰に隠れ、淡を無視してやり過ごそうとしている。

    「ちょっと…っ」

    咲の態度に苛立った淡は、一歩前に出てこちらに顔を向かそうと声を上げようとした。
    が、前に立ちはだかった二人に邪魔をされる。

    243 = 242 :

    ネリー「ねえ、サキに何の用?」

    明華「お久し振りですね、大星さん。お噂は色々聞いていますよ」

    にこにこと微笑む留学生コンビに、流石の淡も怯む。

    明華「一度じっくりお話をしたいと思っていた所です。丁度良かった」

    ネリー「そうそう。こんな機会滅多に無いもんねー」

    「ちょ…」

    二人の間から、どんどん咲が遠く離れて行くのが見える。
    相手している場合では無い。

    明華「で、一体私の後輩とどういう関係なのでしょう?」

    「どうって、あんたたちにいちいち報告する義務でもあるの?」

    ネリー「もしかして言えないような関係とかカナ?」

    「……」

    迷わず淡は、隣で成り行きを見守っていた誠子の襟首を掴んだ。

    誠子「え?淡?」

    「全部この誠子の所為だよ」

    誠子「は!?」

    「咲と話したいと言ってるのに声も掛けられないとかぬかすから、私が協力してやってるの」

    誠子「お、おい淡!?」

    「話を聞くなら、誠子からにしてよ。私なんかよりずっと咲と親しいみたいだし」

    誠子「おーい!」

    明華「へえ」

    ネリー「そうなんだー」

    2人の視線が、ついと誠子に向けられる。

    誠子「お、おい…こいつのいう事は全部デタラメだって…」

    ネリー「あんたがセイコ?」

    明華「まあ、じっくりお話しましょうか」

    隙をついて、淡はその場からダッシュで逃走する。

    誠子「おい淡!私を置いて行くなー!」

    当然、誠子の叫びは聞こえない振りをして。

    244 = 242 :

    「やれやれ。何とかなったか」

    誠子のことは完全に無視して、淡はほっと息を吐いた。
    あんな怪しい二人に関わっている暇等無い。

    それよりも咲だ。

    (この私を無視するなんて……ただで済むと思わないでよ)

    大股で会場内を歩き、臨海の制服を探す。

    (いた!)

    咲と喋っているのは智葉では無くハオだった。
    二人は冗談でも言っているのか、どことなく楽しそうな表情をしている。

    それを見ても淡の心が揺らがされることは無い。
    先程のような、気分が苦しくなることも。

    しかしはしゃぎ過ぎてる二人に対して、
    智葉が気を緩ますなと注意をする為に顔を向けた途端。

    再びあの感覚がぶり返す。

    (一体、どういう事?)

    ハオと咲は体を小さくして、智葉に対して頭を下げた。
    智葉はその様子を見て苦笑する。そして2人の頭を順に撫でた。

    先輩と後輩の日常のやり取りなのだろうが、
    淡にとっては何故か腹立たしい光景に映った。

    (ちょっとベタベタしすぎじゃないの?)

    作戦の成功の為なら、咲の今の態度は正しいものなのに
    苛立ちを抑えることが出来ない。

    淡は咲たちから目を逸らした。
    今声を掛けても、咲は淡の方を見ようとしないだろう。

    くるっと向きを変えて、走り出す。

    (どうなってんの!?)

    今まで味わったことの無い想いに戸惑う。

    これが智葉に対する嫉妬、だなんて考えも付かない。
    今まで誰かにそこまで執着したことが無かったからだ。

    245 = 242 :



    ――――


    白糸台メンバーの元へ戻った淡に、菫が声を駆けて来た。

    「淡、一体どこに行ってたんだ。試合が終わったからってあんまりふらふらするなよ」

    「はいはい」

    菫のお説教をどこ吹く風でやりすごす。

    「まあ、いい。そういや亦野はどうした?」

    「あ、えーと」

    淡が言いそびれていると、
    調度よく誠子が命辛々逃げてきたという形相でやって来た。

    誠子「おい淡!いったいどういうつもりだよ!」

    「何よ、騒々しいなぁ」

    誠子「お前デタラメ言うなよ。誰が咲ちゃんと親しくしてるって?それはお前だろ」

    「ちょっとした自己防衛だよ。奴らと関わるつもりは無いからね」

    誠子「だからって私をダシにしていいのか!?」

    「いいと思うよ」

    後輩の冷たい態度に誠子は「私なんて、どうせ」といじけ始めた。
    それに構う事無く淡はそっぽを向いた。

    誠子「なあ。あの二人にはただの友達だって説明しといたけど」

    「何、まだその話?」

    誠子「もう、ほんとに咲ちゃんと会うのは止めた方がいいぞ」

    聞かない振りをする。
    けれど誠子は話を止めない。

    246 = 242 :

    誠子「さっきも本当はショックだったんだろ?」

    誠子「口では辻垣内とくっつけるって言っても、実際二人が歩いとる所見たらきつかったんじゃないのか?」

    ぴくっと淡は眉を動かす。

    他人に動揺していたことを知られて不愉快だった。
    何故動揺したか、まだ理由すらわかってないのに。

    誠子「咲ちゃんとこの先も接触したら、辻垣内と一緒にいる所をこの先何回でも見るハメになるぞ」

    誠子「そうなる前に、手を引いた方が」

    「うるさい」

    急に声を出した淡に、周囲が視線を向ける。

    「口出ししないでよ。辻垣内と一緒にいたからって何。動揺する訳が無いでしょ」

    誠子「けど」

    「この件でこれ以上何か言うのなら、誠子とはもう口を利かない」

    誠子「……」

    あーあ、と誠子は溜息をつく。
    淡は誠子を視界に入れないように体を横に向いて地面を睨み付けた。


    誠子(心配してた通りになってしまったな)

    以前警告した時以上に事態は悪くなっている気がする。

    先輩ととして淡のことを心配しているが、言葉は届かない。
    周りに耳を傾けない位に咲に入れ込んでると気付かないのか。

    困ったもんだ、と 誠子は目を伏せる。
    どうやっても淡が傷付くのは避けられないだろう。

    多分、誠子の知る範囲で初めて本気になった相手。
    自覚した時、どう行動にでるか。

    誠子(頼むから、問題だけは起こさないでくれよ)

    大変な事態が起きなければ良いけど。
    我侭な後輩の横顔を見て、誠子はもう一度溜息をついた。

    247 = 242 :

    県予選決勝の日。

    またまた照の独断場であっという間に試合が終わり、白糸台の優勝が決まった。
    喜ぶ部員一同をよそに、淡は別のことを考えていた。

    (今日も様子を見に行こう…)

    こそこそと淡は皆から抜け出し、目的の場所へと向かった。

    到着した会場では 県予選を制覇した喜びで臨海の部員達が騒いでいた。

    (…あれ?)

    何故かそこに咲はいない。

    どこにいるか誰か捕まえて聞き出したかったが、明華やネリーがいるのを見て断念する。
    わざわざあの二人に絡まれるような真似は出来ない。

    (ちょろちょろ歩き回って、何やってんのよ!?)

    ひょっとして先に帰ったのだろうか。

    (なんだ、無駄足だったな)

    そう考えるともうここにいる理由は無い。

    車に乗って帰るかと、待たせてある方向へと歩き始めた時。
    見覚えのある姿を遠くに見つける。

    間違えようも無い。
    ダッシュしてその人影に近付く。

    「咲!」

    大声で呼ばれ、咲はびくっと肩を揺らして振り返った。

    「もう、心臓に悪いよ。なんでいつも急に現れたりするの」

    「それより何だって一人でウロチョロしてんの?」

    「ちょっとお手洗いに行ってただけだよ。で、先輩と会話すればOKなんでしょ。わかってるよ」

    投げ遣りに言って、咲は淡の前から去ろうとした。
    が、制服を掴まれて前へ進めなくなる。

    248 = 242 :

    「え?」

    「今日はもういいよ。疲れてるでしょ、作戦は無し」

    「…はぁ」

    急にそんな事を言われて咲は目を見開く。
    けど無茶な作戦を言い付けられないならそれで良いかと、深く考えずに同意する。

    「作戦が無いなら、もう行ってもいい?」

    「いや、それより…ほら、一応あるでしょ」

    「何が」

    さっぱり要領の得ない淡の言い方に咲は眉を潜める。
    やはり何かおかしな作戦を思いついたのかと、ごくりと唾を飲み込む。

    「だから、試合で頑張り過ぎてお腹が減ったでしょ!」

    「特別に私の家に招いてやっても良いって言ってんの。何なら咲の好きな物を出してやらないこともないよ」

    要するに何か食べさせてくれるのかと、数秒考えた後咲は理解した。
    それにしては偉そうな言い方だが。

    「たしかにお腹は空いてるけど」

    「そうでしょ!だと思った。私が睨んだ通りだね」

    行くよ、と制服を引っ張ったまま歩こうとする淡を
    慌てて咲は制する。

    「ちょっと待ってよ。ありがたい言葉だけど、今からは無理だよ」

    「無理って何?どうせ家に帰るだけでしょ。その前にちょっと寄り道する位出来るはずだよ」

    「だから、私にも都合があるんだって」

    あまりに一方的な淡の誘い方に、咲は抗議の声を上げる。

    249 = 242 :

    「都合だって?」

    「そう。これから先輩達とお店で打ち上げするの。だから淡ちゃんの家には行けない」

    「私の誘いを断るって言うの?」

    「だって、先輩達との約束が先だよ?」

    一歩も引かないという咲の表情に、
    淡は制服を掴んでいた手を緩めた。

    「……無理に引き止めて、悪かったね」

    「ううん。せっかく誘ってくれたのにごめんね」

    「早く行きなよ。……辻垣内も、待ってるんでしょ」

    こくんと、咲は頷く。

    「席に座る時は、辻垣内の隣だよ」

    「そんなのわからないよ…」

    「無理矢理でも割り込むこと!」

    「はぁ、わかったよ」

    じゃあね、と咲は走って行く。

    後ろを振り返らず、前だけ見て。
    その先には智葉がいる。

    「私の誘いを断るなんて、あんたくらいだよ…」

    残された淡は、
    咲の姿が完全に消えるまでその場に立っていた。

    『淡ちゃんの家には行けない』

    淡の家に招かれて断る人間など今までいなかった。
    先に約束があろうと、みな淡を優先していた。

    それを咲はきっぱりと断ってきた。

    250 = 242 :

    「辻垣内がいるからか…」

    最初からわかっていたことだ。

    咲は智葉が好きで。
    淡の誘いよりも、智葉と過ごすことを選ぶのは当たり前のこと。

    それなのに、さっきから胸の辺りのムカつきは止まらない。
    今朝以上に酷くなっている。

    引き止めることは出来たはずだ。
    いつもみたいに言えばいい。

    『咲が辻垣内を好きだってばらずよ』

    そうしたら、咲は淡の誘いを断れなかっただろう。
    なのにそれは使わなかった。

    そんな言葉でしか咲を引き止めることが出来ないと…気付いたからだ。

    「それしか私達の間には無いからね」

    自嘲気味に笑う。

    咲の信頼を得て、心すらも掴んでいる智葉とは違う。
    自分は脅すネタがなければ繋ぎ止めることすら出来ない。

    (それが何よ、別に咲に何も望んでなんてない)

    否定しても、苦しさは消えない。

    (望んでない。辻垣内が咲に信頼されてるからって何。羨ましくなんかない、絶対に)

    いっそ認めれば楽になれるのに。


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