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    元スレ淡「咲は私の言うとおりにしてればいいんだから!」

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    みんなの評価 : ★★★×4
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    251 = 242 :

    書き溜め分終了。
    次は5日後くらいに投下予定です。

    254 :

    亦野さんは良い先輩だなぁ

    255 :

    「どうして咲さんが東京に?こんなの捏造です!」

    256 :

    咲和以外は需要ないからやめてくれませんかねぇ?

    257 :



    ――――


    訳のわからない感情に、淡は苛立ち続けていた。

    (何だかむしゃくしゃする。どうにも収まらない)

    なんとか元の状態に戻りたい。
    その為にはどうしたら良いか。

    感情の乱れの原因に、咲が関わっているようだと気付く。

    (……なら、簡単じゃない)

    元の生活に戻せば良いんだ、と淡はすっきりした顔になる。

    咲と会う前の、元の生活。
    今まで通り、寄ってくる女の子の中から適当に選んで飽きるまで付き合えば良い。

    淡はそう結論を出した。

    決めた時点で、淡は即実行に移した。
    自分を取り巻く女の子の中から良さそうなのを一人選び、声を掛ける。

    「ねえ、そこのあんた。ちょっと付き合ってよ」

    偉そうに指差して言う淡の態度にも、ファンの女の子達は気にしない。
    呼ばれたのは自分かと思った子達はそわそわと落ち着かない。

    「あんただよ、そう。さっさと来てよ」

    迷いながらも「私?」と首を傾げた女の子に淡は頷く。
    周囲から一斉に羨望と嫉みの視線が集まる。

    が、淡に声を掛けられたことで女の子は完全に舞い上がっている。
    背を向けて歩き出す淡の後を慌てて追い掛ける。

    目に留まったのなら、付き合えるチャンスだ。
    逃す訳にはいかないだろう。

    258 = 257 :

    校舎の中庭まで移動した淡が、改めて目の前の女の子を見る。

    小柄でショートカット、細い肢体。
    無意識に何を求めているか丸わかりだが、淡本人は全く気付いていない。

    女の子はうっとりと期待を込めた目で淡を見ている。

    (いつも通りの展開だ。問題無いね)

    手を伸ばしても、きっと拒絶はしないだろう。
    目がそう訴えてる。

    声を掛けられただけで完全に浮かれている。
    ちょっと触れたらすぐに落ちるだろう。

    「……」

    でも、何故か動けない。

    生徒「あの、大星さん?」

    ちっとも触れて来ようとしない淡に、女の子が戸惑った声を出す。

    「いや……ちょっと待って」

    髪をかき上げて、淡は大きく息を吐いた。

    おかしい。
    自分から作った状況なのに、全くその気になれない。

    横目で女の子の顔を確認する。

    (うん、問題無いよ。割とましな作りだし)

    失礼なことだろうと怒られそうだが、淡は真剣だった。

    (ごちゃごちゃ考えても仕方ない。行動すればなんとかなるでしょ)

    思い切って、女の子の肩に手を触れる。
    余計な苛立ちを振り切るようにと、覚悟を決めた。


    ――――

    259 = 257 :

    誠子「淡ー、季節外れの発情期がやって来たんだってな?」

    笑顔でとんでもない発言をした誠子に、淡は顔を引き攣らせる。

    「何よそれ」

    誠子「そのまんまだよ。学校中の噂になってるぞ、次は誰に声掛けるかって」

    「学校中の、噂だって?」

    誠子「しょうがないだろ。朝から放課後までの間に3人も声掛けて相手すりゃな」

    誠子「お前って声掛ける時、妙に堂々としてるし」

    何もしてないよ、と淡は内心で呟く。

    結局、声を掛けた女の子とは何も出来なかった。
    また呼んで下さいと言われた気がするが、もう興味は無い。

    とにかく他の女と試せばいい、そんなことで頭が一杯だったからだ。
    そして校舎に行き、休み時間にまた女子生徒を引っかけたのだが結果は同じだった。

    (おかしい。絶対変だ。私は病気なの?)

    咲がいたら「頭がね…」とツッコミを入れてたところだろう。

    誠子「ひょっとして報われない片思いの所為でヤケになってるのか?」

    「は?ヤケになんてなってないし」

    260 = 257 :

    誠子「なら一つだけ聞かせてくれ。部活が終わった後もまた誰か誘うつもりなのか」

    「悪い?」

    誠子「いいけど。私は臨海に行くから、どうぞ楽しんで下さいな」

    「はあ!?何言ってんの!?」

    臨海と聞いて淡はぴくっと眉を動かす。
    まさかと思うが、誠子は咲に会おうなんて考えているのでは。

    誠子「咲ちゃんに会って来るよ。淡は忙しいからって伝えとくから安心してくれ」

    「ちょっと、何のつもり!?」

    ギロリと誠子を睨みつける。
    誠子はどうってことの無い様子で肩を竦めた。

    誠子「いやなのか?咲ちゃんに知られるのが」

    「言ってどうするの。咲は私のことを聞いても、どうとも思わないよ」

    誠子「そうか?女の子を弄ぶ最低な奴って思うかもしれない。咲ちゃんの心証、ますます悪くなるなあ」

    「…何を企んでんの」

    誠子の言い方に、煮え繰り返る程腹が立つ。

    咲にどう思われようが構わない態度を取っているが、こんなことは知られたくない。
    何故だかわからないけれど、強くそう思う。

    誠子「別になにも企んでない」

    「嘘」

    261 = 257 :

    誠子「嫌なら阻止すればいい」

    「はあ!?」

    にやっと誠子が笑う。

    誠子「私が臨海に行くより早く、咲ちゃんを捕まえたらどうだ?車でならお前の方が早いだろ」

    「なんで私がそんな事」

    誠子「強要はしない。お前が選べ」

    「……」

    言いたいことだけ言って、誠子は去って行く。

    (勝手なことばっかり言って)

    人が混乱から抜け出そうとしているだけなのに、邪魔をしてくるのが気に入らない。
    あんなの無視してしまえばいい。

    (そうだ。いつも通りの生活を取り戻さないと…頭がおかしくなるよ)

    誠子に見せ付けるように、遠巻きに応援に来ている女の子達に視線を向ける。
    今日は淡が積極的だと聞いて、いつも以上に部室を取り囲む人数は増えている。

    (この子らのほとんどが、私目当て。これだけの人数に望まれてる)

    だけど、どこか虚しい。
    何故だろう。

    考えまいと、淡は首を振る。

    適当に選んで、楽しく過ごせば良い。
    そのことだけ今は考えるべきだ。

    262 = 257 :

    だが、結局選んだ行動は…
    車に乗って、臨海に向かうことだった。

    ご丁寧に運転手にまで急がすように指示をした。
    誠子よりも早くと気持ちが焦っていた所為だ。

    先に携帯で咲に校門から少し離れた場所に待つようにと指示をし、
    見付けると同時に車に押し込んだ。

    「なんなの、一体。明華先輩たちに何か言われたとか?」

    強引な淡の行動に慣れたものの、いやに慌しい行為に咲は首を傾げる。

    「そんなんじゃないよ。それより誠子に会ってないでしょうね」

    「亦野さん?」

    何故誠子の名が、と咲は目を瞬かせた。
    そして「あ」と声を上げる。

    「何?誠子に何か言われたりしたの?」

    まさかもう接触があったのかと、淡は咲の肩を掴む。

    「私も直接聞いたんじゃないけど」

    「何、勿体ぶってないでさっさと言いなよ」

    「亦野さん、県予選決勝の時に先輩達にとんでもないこと言ってくれたから…」

    「とんでもないこと?」

    うん、と咲は頷く。

    263 = 257 :

    そういえば明華らに捉まりそうになった時に誠子を差し出したんだった。
    適当にごまかしたとは言っていたけど、本当に大丈夫だったのか。

    「私の足が気に入ったから一緒にいるんだとか、毎日でも鑑賞したいとか言ったらしくって」

    「先輩に友達は選べと説教されちゃったよ」

    「………」

    どの辺が上手く誤魔化したんだと、淡は拳を握り締める。
    とりあえず明日制裁しておこうと決めた。

    「…誠子には、私から言っておくよ」

    「そうしてくれると助かるよ。で、今日は何なの?また(おかしな)作戦思いついたとか?」

    「…いや」

    まさか誠子との会話のことを言えず、淡は口を閉じる。
    何か適当に誤魔化さなければ。

    「悪いけど、今日は明華先輩に亦野さんのことでずっと説教されてたから。辻垣内先輩と会話してないよ」

    「それは別に、いいよ」

    「え?」

    いつもいつも智葉に積極的に話しかけろと怒られてる咲は、
    淡の言葉が信じられずにきょとんとする。

    てっきりまた障害(明華ら)を押し退けてまでも声を掛けろと言われるかと覚悟していたのに。

    「そう。怒ってないならいいけど」

    淡がそう言うならと、咲は安心して車のシートに体を凭れさせる。
    無茶苦茶なことは出来るだけ言われずに済むに限る。

    「ねえ。咲からの話を聞いてると…あまり辻垣内と話してないように思えるんだけど」

    「う、うん」

    264 = 257 :

    やはり注意されるかと、咲は身構える。
    簡単に見逃してくれないつもりでいたので恐る恐る答えた。

    「でしょ。例えば、例えばだよ。私と会話してるのと、辻垣内と会話するのとどっちが多い?」

    「そりゃ淡ちゃんに決まってるよ。先輩とはわざわざ二人きりで喋る機会なんてほとんど無いんだから」

    「そう…」

    事実を答えただけなのに、淡は神妙に頷いている。
    一体何を意図しているのかわからず、咲はただ首を傾げる。

    「私と会話する方が、多いんだね」

    「うん」

    「なら、辻垣内の家に行ったことはある?」

    「ある訳無いでしょ。そんな親しくもないんだし」

    「だよね」

    嬉しそうな顔している淡が、ますますわからない。
    また新たな作戦を思いついたのか。そんな深読みをしてしまう。

    「辻垣内と一緒に料理を作ったことは?」

    「調理実習のこと?そもそも学年が違うし」

    「二人きりで外を歩いたことは?」

    「ないよ」

    「辻垣内と手を繋いだことも」

    「無いから!淡ちゃんの言ってること、全部無いから!」

    なんなの、と咲は憮然とする。
    そうも智葉と距離を縮めていない自分に怒っているのか。

    それにしては、何だか機嫌が良さそうだが。

    (逆に怖いよ…)

    淡の様子を見て、咲はこの先何を言われるかと動揺していた。

    265 = 257 :

    不思議なことに、ずっと苛々していた気持ちが消えていった。
    智葉と全く進展が無いと聞いても、前ならこうしろああしろと言っただろう。

    なのに今はそんな気持ちはこれっぽちも無い。
    むしろ嬉しい。

    智葉とよりも、咲は自分と会話している。
    ほぼ毎日二人きりで会ってる。手だって繋いだ(ようなものだ)

    智葉に対して優越感に似た気分になる。

    「ねえ」

    「何」

    「あんまり無茶なこと言っても、出来無いから…」

    黙っている淡に不安になり、咲は言葉を掛けた。

    「心配しなくていいよ。今日は何の作戦も言いつけたりしないから」

    「え?」

    「たまには休んだ方がいいでしょ。一応、咲も頑張って来たんだからね」

    「はあ…」

    じゃあ何故呼びつけたのかと咲は思ったが、
    折角作戦無しと言うので黙っていることにした。

    266 = 257 :

    すっかりご機嫌になった淡は、作戦とか関係無しに咲を家に招いた。

    そして「お互いの高校の県予選突破を祝して」と言い訳して、
    甘いお菓子を存分に用意させた。

    「いいの?」

    「うん。じゃんじゃん食べてよ」

    「じゃあ、頂きます……ん、美味しい!」

    最初は遠慮してた咲も、淡の催促で漸くお菓子に手を伸ばした。

    (テルーもお菓子好きだけど、咲も同じなんだ…やっぱり姉妹だね)

    夢中になって食べている咲の姿を
    淡は椅子に座りずっと眺め続けていた。

    名前も知らない女の子と過ごすより、何倍も咲といる時間が大事だと。
    やっと、わかった気がした。


    ――――


    267 = 257 :

    書き溜め分終了。
    次は3日後くらいに投下予定です。

    271 :

    やっぱり淡咲は良い

    僕は改めてそう思った

    272 :

    それは>>1の腕が良いから
    仮にガイト咲でもマタンゴ咲でもマタンゴ淡でも面白かった可能性はある

    273 :

    イチャイチャしてる淡咲よりこんな感じのssのほうが面白い

    274 :

    淡はこういうキャラが一番光ってる

    275 :

    お菓子を食べていた咲が「そろそろ帰らなきゃ」と腰を上げた。

    行ってしまう。
    たったそれだけで淡は焦りを覚えて、さっと側に立つ。

    「また明日も来なよ」

    口調は偉そうなものだっだが
    内心では断られるんじゃないかとドキドキしている。

    「作戦会議するの?」

    家への招待などと思ってない咲は、
    ただ淡がまた無茶な注文をするものだと思って眉を顰める。

    「分かったよ」

    小さく頷く。

    断れば淡にある事無いことばらされる。
    弱みを握られてるから来るんだと、咲の目は訴えてる。

    「……明日も迎えに行くから」

    「うん。じゃあね、淡ちゃん」

    大星家の車に乗って、咲は帰って行った。

    276 = 275 :

    「作戦会議か…」

    急激にまた胸が苦しくなっていく。
    少し前までお菓子を食べ続ける咲の顔を眺めていた時は、あんなに穏やかだったのに。

    自分が始めた事だけど、
    咲との結びつきがよりによって智葉と両思いにさせる為の作戦会議しか無いとは。

    (最悪だよ)

    これから先、咲に策を与える気なんて無い。
    しかしだからと言って作戦無しでは咲と会う口実が無い。

    だったらこの先どう動いたら良いのか。
    考えても、今は何も出て来なかった。


    ――――

    277 = 275 :

    翌日。
    当然やって来るとは思っていた。

    車を飛ばして行ったのは、ばれているだろう。
    でもあれこれ詮索されるのは嫌だった。

    誠子「淡」

    声をかけられた淡は方向変えようと背を向けた。

    正直、会話をしたくない。
    昨日の件で何か言われるのが一番嫌だ。

    誠子「その様子だと昨日臨海に行ったな。どうせ咲ちゃんのことであれこれ言われたくないんだろ」

    図星だったので、淡はむっと口を噤む。
    だから誠子と話をしたくなかったのだ。

    「それが何」

    誠子「お前、もう覚悟は決めたのか」

    「…何の」

    わかっていたけど、淡は知らない振りをした。
    が、誠子は引き下がらない。

    誠子「あの辻垣内から、咲ちゃんの気持ちを振り向かせることに決まってるだろ」

    だから嫌なんだと、淡は顔を顰める。
    考えまいとしてることをわざわざ言わなくても。

    278 = 275 :

    「誠子には関係無いでしょ」

    そう、関係ない。これは自分自身の問題だ。
    誠子に口出しする権利は無い。

    誠子「けどなあ、私にもちょっとは責任があるんじゃないかって…」

    「はあ?何言ってんの」

    何の責任だと、淡は思わず相手してしまう。

    誠子「昨日お前にわざと言ったことだ。咲ちゃんに会って全部ばらすとか」

    「ああ、その事」

    たしかに誠子に乗せられて、車を飛ばして臨海には向かったけれど。

    そんな挑発よりも前に、
    きっとこの気持ちはもう存在してたから。

    「別に誠子の言動なんて関係ないから。勝手に責任感じないでよ」

    誠子「だけどなあ」

    「私が望むのは一つ。もう、口出ししないで」

    誠子「……」

    279 = 275 :

    それだけ言って踵を返そうとする。
    その淡の後ろ姿に、誠子は思ったまま声を出す。

    誠子「本気でやり合う気なら協力するぞ。私はお前の味方だからな」

    淡は知らん顔して、そのまま足を止めない。

    (何が協力だよ。そんなものいらないよ)

    私を誰だと思ってるんだと、淡は眉を顰める。

    たしかに張り合う相手は強敵だろうけれど。
    負けるつもりは無い。

    困難も多いし、咲からの評価も最悪に近いが。

    (…改めて考えると、結構悪い状況だね)

    今更ながら気付いてしまう。
    どんなに不利な位置にいるかってことを。

    (だ、大丈夫!問題ないよ)

    誠子が余計なことを言うから弱気になったんだと、
    淡は自分を叱咤する。

    こんな精神力じゃダメだと、両頬を叩いて気合いを入れた。

    280 = 275 :

    全国大会が近いので、いつまでもぼんやりしていられない。
    放課後の練習は普段の2割増しの気合いを入れ麻雀に専念した。

    「皆、お疲れ様」

    部員一同「お疲れ様でしたっ!」

    解散の声と同時に気が緩む。

    昨日の約束で、臨海に迎えに行くことが決まっている。
    淡は部室を出ようとドアのノブに手を伸ばしかけたが。

    「待て、淡」

    「何?私急いでるんだけど」

    「私達1軍は、この後全国に向けてのミーティングがある」

    「えーっ」

    「この後カフェにケーキ食べにいこうと思ったのに…」

    「照、お前まで……」


    結局その後延々とミーティングに時間を取られてしまった。
    やっと開放された淡は大急ぎで車に乗り込む。

    向かう先は、勿論臨海だ。

    281 = 275 :

    到着して、まず咲が待っていないか確認する。
    が、いない。きっと淡がいないとわかってすぐに帰ったに違いない。

    携帯を取り出し、今家にいるのなら出て来いと呼び出すべきか。
    咲の番号を表示させて、淡はふと指を止めた。

    「……」

    そこまでして咲に会おうとする自分の行動が笑える。

    いないとわかったらあっさりと帰ってしまう相手に、
    ここまで執着するなんて。

    (あり得ないでしょ)

    思い通りにならない相手なんか追いかけるものじゃない。

    いつも待っててもらうのが当然だと思っていた分
    いなかった時、結構堪えるものがある。

    (今まで私がさんざんやって来たことなんだけど)

    面倒になって、何度も女の子達との約束を破った。
    一緒に歩いてる途中でも嫌になって、突き放して帰ったりもした。

    それと似たような気持ちか、と柄にも無く考える。

    (…考えてもしょうがない。今日はもう帰ろ)

    どうも咲と出会ってからというもの、
    気にもしなかったことを考えてしまう。

    着実に何か自分の中で変わっていると淡は思った。
    それが良いことなのか、わからないけれど。

    282 = 275 :

    咲がいないのなら帰ろうと、臨海の校門から離れて車へと歩き出した時。
    ふいに後ろから声を掛けられる。

    「遅かったね」

    慌てて淡は振り返る。

    「……なんだ、いたの」

    「だって淡ちゃん、来るって言ったでしょ」

    制服姿のままの咲は、手にコンビニの袋を持っている。

    「あんまり遅かったから、お腹も空いたしちょっとコンビニ行ってたんだ。それ位いいでしょ」

    待たせたんだから、と咲は文句を言わせないという態度だった。

    「……うん」

    会えたんだから、淡も文句は言わない。

    「でもよく待ってたね。結構遅い時間なのに?」

    まさかいるとは思わなかった。
    もう帰っていて、会えないと諦めていたのに。

    「うん。でも全国前だから練習時間遅くなっただけなんじゃないかと思って」

    「それに待ってないとまた何言われるかわからないし」

    最後の方は小声だったがどうでも良かった。

    283 = 275 :

    咲が待っていてくれた。
    たとえそれが淡の機嫌を損ねて智葉にばらされることを恐れて、ということから来る行動でも。

    「待たせて悪かったね」

    咲も全国大会前で、部活での練習は大変なはずだ。
    それなのに待っててくれた。

    「え?」

    よっぽど意外だったらしく、咲は何度も目を瞬かせる。

    「今、悪かったって言った?」

    「言ったよ。なに、その顔は」

    「だってまさか淡ちゃんからそんな言葉 聞くなんて」

    きっと今から雨降るよ、ひょっとしたら嵐になるかも。
    なんてことを呟いている咲に淡は顔を引きつらせた。

    「失礼なこと言わないの!」

    「痛っ!」

    ぴんと額を人差し指で弾くと、咲は悲鳴をあげた。

    「うう、痛いよ淡ちゃん…」

    「咲が失言したせいでしょ」

    涙目で額を押さえている咲が可笑しくて、淡はふっと口元を綻ばせた。

    智葉とはほとんど会話していないと言ってた。
    きっと今日だって自分と会話している方が多い。

    こんな会話でも、楽しくて仕方ない。

    284 = 275 :

    「いつまでも突っ立ってないで行くよ。車待たせてあるんだから」

    「また淡ちゃんの家?」

    「そう、お腹すいてるんでしょ?しょうがないから、また咲が好きそうな菓子食べさせてあげる」

    一瞬戸惑いながらも、咲は大星家で堪能したお菓子を思い出し
    少し嬉しそうな表情になる。

    そんな咲の様子に淡も頬を緩ませる。

    さっき咲が待っててくれた理由が、
    脅されてるとか、仕方なくとかじゃなく。

    同じように会いたいと思ってくれたのなら。
    その場で抱きしめてしまいそうな位嬉しかったことだろう。

    会いたいとこちらばかり想っている現実に、
    また心に少し鈍い痛みが走った。

    285 = 275 :

    書き溜め分終了。
    次は4、5日後くらいに投下予定です。

    286 :

    乙乙

    288 :


    不器用な嫉妬ってほんと可愛い

    289 = 288 :


    不器用な嫉妬ってほんと可愛い

    290 :



    ――――


    淡の様子がおかしい。

    最近妙な言動や行動が多い。
    咲は淡をチラリと見て恐る恐る口にする。

    「あの、さっきから痛いほど視線を感じるんだけど…」

    咲の言葉に淡はうろたえたようにさっと目を逸らした。

    「別に。高級菓子食べてる庶民の姿がどんなのか確認してただけだよ」

    「咲を見てた訳じゃないし。勘違いしないで」

    「庶民で悪かったね」

    咲が不貞腐れると、さすがに淡は慌てた。

    「言っとくけど、見下してるとかじゃないからね!そこはわかっておきなよ!」

    フォローになってるんだかよくわからない言葉を投げる。

    (一体、何)

    妙にそわそわして落ち着かない淡に咲は首を傾げる。

    (もしかして)

    思い切って、今浮かんだことをぶつけてみようと淡に向き直る。

    291 = 290 :

    「ねえ、淡ちゃんってさ」

    「何!?さては何か勘付いたの!?」

    裏返った声を出す淡に、咲はごくりと唾を飲んだ。

    「今度考え付いた作戦は、相当難易度が高いとか?」

    「…は?」

    「だから高いお菓子で私が断り辛いように仕向けてるの?」

    がくっと、淡は肩を落とす。

    「そんなことするわけないでしょ…」

    「えー?」

    本当?と疑う咲に淡は顔を顰める。

    「いちいちそんな面倒な真似しないよ」

    「…そう?」

    ならばこの状況は何かと、咲は考える。

    淡と会うのは、いつでもあのわけのわからない作戦会議の時で。
    それ以外に淡は自分に用は無いはずだ。

    (うーん…何でだろ?)

    そういえば最初に会った頃、電話の向こうの女の子に対してヒドイ扱いをしていた。
    今、淡は誰かと付き合ったりしていないのだろうか。

    292 = 290 :

    「ねえ、咲。参考までに聞いておくけど」

    「何?」

    淡の呼びかけに、咲はお菓子を頬張りながら返事をする。

    「より顔の良い女の方がタイプだよね?そうでしょ?」

    「んぐっ」

    食べかけていたケーキを喉に詰まらせてしまう。
    咲は慌てて紅茶が注がれたカップに手を伸ばした。

    「大丈夫?一度に食べるからだよ。全く」

    「淡ちゃんが変なこと言い出すからでしょ!」

    涙目になって抗議する咲に、淡は「何で」と不満げに言う。

    「私は真面目な話をしてるんだよ」

    「どこが!?大体そんなの聞いてどうするの!?」

    「いいから答えて。大事な質問だよ」

    やっぱり横暴と、咲は頬を膨らませる。

    「そんなの考えたこと無いよ…」

    「でも飛び抜けて良い女だったら、少しは心動かされるでしょ?ね?」

    「……」

    293 = 290 :

    訳がわからないと、咲は脱力する。

    面倒になったので「ねえ、答えて」と急かす淡に
    「そうだね」とおざなりに返事をする。

    「金も持っていた方がいいでしょ?」

    「そうだね」

    「地位も必要だよね?」

    「そうだね」

    「それと麻雀の実力。咲とほぼ同等なら、言うことないでしょ?」

    「そうだね」

    そうだねと適当に答えてるというのに、
    嬉しそうにしてる淡がますますわからない。

    (一体何考えてるんだろう…)

    新しい試みをしている最中なのかと思い込んでしまう。
    未だ咲は何も気付かないでいた。


    ――――


    294 = 290 :

    咲が帰った後、淡はまだ片付けしていない部屋にもう一度戻った。
    そしてさっきまで咲が座っていた位置のすぐ隣に腰を下ろす。

    (これくらいの距離が、ベストなんだけど)

    さすがに咲が不審に思うだろうと自制した。
    折角二人きりでいるというのに、縮まらない距離がもどかしい。

    会話から気のある素振りを汲み取ろうとしない咲に、
    なんて鈍い奴だと淡は少し苛立つ。

    (まあ、いいよ。咲にとって私はわりと理想のタイプに近いみたいだからね)

    生返事な咲の態度に気付かず、淡は満足げに頷く。

    今日の質問から、例え今は智葉を想っていても
    変えられるかもしれないという可能性が出てきた。

    どうやったらそんな前向きに考えられるかと万人なら思うだろうが、そこは淡だ。
    やってやろうじゃないと見当違いな決意を燃やす。

    (そうだね。まず咲が私を好きになる切っ掛けが欲しい。それも辻垣内以上に好きになるような…)

    何か無いかと、淡は考え始める。

    295 = 290 :

    (……そうだ、全国大会がある)

    団体戦では大将の淡と先鋒の智葉が直接当たることはないが、個人戦だったなら。

    咲は智葉の麻雀をしている姿が好きだと言った。
    智葉の実力に心酔しているような言動も何回か聞いてる。

    その智葉と対戦し、圧倒的な勝利を収めたら。

    (これだ!)

    いけると、淡は自分のひらめきに満足そうに頷く。

    智葉に勝った自分を、咲は見直すに違いない。
    勝利と同時に咲の心も手に入る。

    (一石二鳥とはよく言ったものだね)

    そういう時に使うものじゃないというツッコミは置いといて、
    淡は自分の閃きに満足そうに頷いた。

    なんとかなりそうだ。
    その為には、絶対智葉に勝つ。

    「待ってなさいよ、辻垣内!」

    高笑いする淡の声は廊下にまで響いた。

    何人かの使用人に聞かれたが、皆(またか…)位にしか思わず、
    そのまま仕事を続けていた。


    ――――

    296 = 290 :

    今日も全国に向けてのミーティングで帰るのが遅くなった。

    咲には運転手を臨海へ向かわせて、
    それに乗って先に家で待つようにと伝えてある。

    最早、毎日咲の顔を見なければ気がすまなくなっている。

    (辻垣内だって毎日見てるんだし。公平にするのは当然だよね)

    なんていう無茶苦茶な理由で。

    「ねえ。咲はちゃんと来てる?」

    淡の帰宅を出迎えた使用人達に尋ねると、
    「はい、お通ししておきました」と返事される。

    「そう」

    淡はさっさと咲が待っている部屋へと向かう。
    そしてノックもせずドアを開けると、いつも通り出されたお菓子を頬張っている咲と目があった。

    「おかえり、淡ちゃん」

    ぺろっと指についてるクリームを舐めて、咲はなんでも無いように声を発する。

    「………」

    「どうかしたの?」

    「………」

    あまりの衝撃に、淡はすぐ対応することが出来ずにいた。

    297 = 290 :

    おかえり、だなんて先程も使用人からも言われてる。
    それに対して、いつも特に返事をしてなどいない。

    でも咲が言う「おかえり」には、
    それらとは 違う何かくすぐったいもののような響きがある。

    「た、ただいま」

    思い切って、咲の言葉に答えてみる。

    淡の必死のただいまに咲はきょとんとした後、
    「突っ立ってないで座ったら?」と目の前の椅子を指した。

    「……咲の方がこの家の人間みたいだね」

    「だって淡ちゃん、ぼーっと立ったままだから」

    くすくすと可笑しげに咲が笑う。
    淡は黙って、すぐ前のソファにすとんと座り込んだ。

    ただいまなんて言ったのがつい照れくさくて、つい誤魔化すようなことを言ったけど。
    本当は嬉しかった。

    (ただいまと咲に迎えてもらう生活か……悪くないね)

    毎日咲を先に家に到着するようにして、言ってもらうか。
    いっそのこと、ずっとここに置いておけないか。

    そうしたら今度は「おはよう」「おやすみ」と言ってもらえるかもしれない。
    それいいな、と淡は夢の世界に飛んでしまった。

    298 = 290 :

    書き溜め分終了です。

    299 :


    なんだこの淡淡かわいいぞ


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