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    元スレ忍「隠し事、しちゃってましたね……」 アリス「……シノ」

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    351 = 56 :



    ――メイド喫茶班


    「……あぁ」

    「ついに、この時が」プルプル

    「綾ちゃん、大丈夫ですか?」

    「あ、あぁ、シノ……」

    「大丈夫よ。さっき何とか――」

    「……」ガクガク

    「ホ、ホントに大丈夫ですか?」


    (……男子とまともに話したことなんて久しぶりだった)

    (小学生の頃以来かもしれない……ああ、だからこんなに緊張を)

    (いや、きっと違う)

    (その後、大切な友達……陽子が起こした行動のせい、よね)


    (おかしいわね、まるで)

    (カレンの家で、間違ってお酒を飲んだあの時みたいに考えが回らない……)

    (綾ちゃん……心配です)キュッ



    ――数分後



    子A「いらっしゃいませー!」

    子B「お客さま二名、来店!」

    「!」

    「!」


    客A「へぇ、なかなか凝ってるな」

    客B「文化祭に本格的なのっていいわねー」

    (お、男の人と女の人……)

    (どうして、二人とも女性じゃないのよ……)アセアセ

    「……あっ」

    「いらっしゃいませ、お客様!」ニコッ

    「こちらへどうぞ!」

    客A「ああ、ありがとう」

    客B「ふふっ、可愛いわね」

    「ありがとうございます!」ペコリ


    「……」

    (ああ、私が動けないうちに、シノが案内を……)

    (どうしてこう、身体が動かないんだろう)

    (どうしても萎縮するこの身体が恨めしい――)

    352 = 56 :



    ――昔からの親友が変われた記念だ――


    (……あの言葉)

    (嬉しかったはず、なのに)

    (私は全然、それに見合うようなことを――)


    「考え過ぎちゃダメです、綾ちゃん」


    「……!」ハッ

    「実は私も、色々考えてしまってます」

    「――多分、綾ちゃんにも想像が付くようなあれこれを」

    「……シノ?」

    (なんだろう――)

    (さっき、私に声をかけてくれた時も、今のように意味深長な表情をしていた……)

    (優しさと愛しさがいっぱいの顔つきに――迷い?)


    「私は」

    「綾ちゃんが『踏み出した』所を、この目でしっかり見ました」

    「そして私は、今の綾ちゃんなら今まで出来なかったことだってなんでも出来ると思ってます」

    「!」

    「……綾ちゃんは、私の言うことが信じられませんか?」ジッ

    「……」


    (そう、よね)

    (私と陽子とシノ、三人)

    (中学の頃に知り合って、これまでずっと一緒だった)

    (……私が、シノの言うことを信じられない?)


    「そんなわけ、ないじゃない」

    「ふふっ、それでこそ綾ちゃんです!」ニコッ

    「……」

    「もう、シノったら」

    「私を励ましてくれるのはとても嬉しいけど」

    「お客様にお水を出すの、忘れてるでしょ?」

    「あっ!」ハッ


    (まったく)

    (妙な所で鋭くて、おかしな所で抜けている)

    (そんな、この子が――)

    「大丈夫、私がやるから」クスッ

    (こんなに大きな存在だった、なんてね……)

    353 = 56 :

    「……」

    「す、すみません、お客様! 遅れてしまいまして……」プルプル

    客A「ああ、大丈夫。そう緊張しないで」

    客B「いいのよ、気にしてないから」

    「あ、ありがとう、ございます……」アセアセ

    (――綾ちゃん)


    (大丈夫です、綾ちゃんなら)

    (きっと、これからもどんどん変わって行けます)

    (――私、も)



    ――甘味処班


    陽子「いらっしゃーい!」

    アリス「お茶ですっ!」

    客C「おお、綺麗な金髪……」

    客D「留学生?」

    アリス「い、いえ! ここの生徒です!」

    客C「すげー、日本語上手いね……」

    客D「もう立派なバイリンガルね」

    アリス「あ、ありがとうございます!」


    陽子「……」

    陽子(そういや、アリスはバイリンガルになるのか)

    陽子(カレンはお父さんが日本人だし、そう考えるとアリスって何気に凄いな……)

    陽子「今更か」

    アリス「陽子! お客さま!」

    陽子「ん、おう」

    陽子「いらっしゃいませー!」

    354 = 56 :

     ――接客に追われながら、私は充実した気分に満たされていた。
     少なくともうちのクラスは、全員やってきて文化祭に参加している。
     このことだけでも、何故か嬉しくなるんだよね。
     それに、こうして人と接していると、
     やっぱり私は人と話すのが好みだということがアリアリと分かって、嬉しくなったり。


    (……祭り、かぁ)


     なるほど、大昔から今まで、多くの人に親しまれてきたわけだ。
     ホントはこういうあれこれを考えるのは綾の役目なんだけど、アイツはそれどころでもなさそうだし。


    「い、いい、いらっしゃいませ」
    「綾ちゃん、ファイトですっ」


     ほら、声も手も震えている。
     でも、縮こまってないし、しっかり目の前を向いている。
     近くには、お互いにとって大切な友達だって付いている。


    「人は変われる」なんて、CMとかではよく聞くフレーズだけど、大切な友達がそれを実践したなんて格別だ。
     私まで、何だか熱くなってくる。


    「お客様、二名!」


     おっと、外のお調子者たちが声を上げた。
     どうやら、客足は途絶えることもないらしい。
     まぁ――休みたいなんて、全く思わないんだけどさ。


    「いらっしゃいま……」


     そして――



    ――同時刻


    子A「……うーん」

    子B「なんだよ?」

    子A「いや――今のサングラスの人、どっかで」

    子B「ああ、あの人か。あのスタイルとか、モデルみたいだよな」

    子A「……モデル?」

    子A「ああ、そっか」

    子B「悩んだと思えばあっさり納得するのな……」




     ――やってきたのは。


    「やっほー、陽子ちゃん」


     耳に響く、陽気な声。
     私にとっては、シノと同じくらい長い付き合いになる人。
     サングラスをかけていても、そのスタイルの良さとか諸々が突出している。


    「イ、イサ」
    「ストップストップ。一応、内緒ってことで」


     つと、私の唇に綺麗な指が当てられた。
     絹のようにつややかなその指に、私の声帯は参ってしまったとみえる。

    355 = 56 :

    「もう……正直、隠すつもりないでしょ?」
    「ふふっ、まぁバレたらちょっと困るし」
    「バレたらバレたでいい、とか思ってるわね……」
    「お客様ー! こちらに空き席がございます!」


     お客様――イサ姉とお友達は、そんなことを言いながら、空いた席に案内されていく。
     メイド喫茶側も含めて、店内の視線がイサ姉に集中していた。
     いや、分からないでもないけどさ。というか、妥当?


    「あっ、お姉ちゃん!」


     イサ姉が席につくと、すかさず動き出そうとするメイド喫茶側の住人。
     おいおい、こっちに来ちゃダメだろ。メイド喫茶側に、お客さんが来店してるし。


    「シノ。イサ姉は、甘味処班の席だから」
    「えぇ~……陽子ちゃんはケチンボですね」


     こっちに来ようとするシノの頭に、私は軽く手を載せて通せんぼする。
     すると上目遣いで、シノは膨れ面をしてみせた。
     うん、全く迫力がないし、むしろ……。

     
    「――あ、後で何かおごってあげるよ」


     やばい、ついドギマギとしてしまった。
     正直、シノの不意打ちほど卑怯なものはないと思う。
     

    「わぁ、本当ですか?」
    「……100円くらいまでなら」
    「やっぱり、ケチンボです」


     私がそう返すと、シノは嬉しそうに破顔する。
     そのままクルッと身を翻し、すぐさまお客さんの元へと向かっていった。


    「はぁ……」
    「おーい陽子ちゃーん、注文おねがーい」


     私が軽く溜息をつくと、図ったかのようなタイミングで聞き慣れた声が響いた。
     顔は見えないけれど、絶対ニヤニヤしてる。間違いない。


    「さて、と……」


     それじゃ私も、本業に戻りますか。
     せめて、イサ姉に負けないくらいの笑顔で仕返ししてやろう……。


    「……陽子」
    「全く、あの子ったら」


     ……背中に感じる二人分くらいの視線は、敢えて無視。ごめんね。




    「はいお客様、ご注文の宇治抹茶になります」
    「わぁ、美味しそう」
    「ありがとう」


     私が注文品を差し出すと、さっきやって来た二人は美味しそうに飲んでくれた。
     正直、高校の文化祭で出せる品物は知れたものだけれど、何か良い気分だ。
     やっぱり、お祭りが好きなんだな、私は。

    356 = 56 :

    「前よりずっと、仲良さそう」
    「昔から仲良いだろ? だからイサ姉も、私にシノの保護者役みたいなものを任せたんだし」
    「何だか、心から信頼し合ってるような……」
    「――漫画の読み過ぎだって」


     溜息をつくと、外から「お客様一名!」の声がした。
     それがまたいかにも男子って感じで、またしてもさっきのシノの表情が脳裏をよぎる。
     いけないいけない、これじゃ接客が出来ないって。
     

    「それじゃ私、お客さんの所に行かないと……」
    「へぇ、あなたが『陽子ちゃん』ね?」


     へ? なんだなんだ?
     声のした方を見れば、そこにはイサ姉のお友達の姿が。
     興味深そうに私を見つめながら、彼女は言う。


    「いつも勇から聞かされてるわ。『かっこいい、けれど凄く可愛い子なのよ』ってね」
    「……」


     おいおい。
     困ったな。
     動揺するようなことでも、何でもないはずなのに。
     どうして顔が熱いんだろうね?


    「あ、ええと――ありがとう、ございます?」


     なんだこの尻切れトンボな挨拶は!
     内心で自分を罵倒する私は、フラフラと新規のお客さんの元へと向かおうとする。


    「ちょっと猪熊さん! 足、フラついてるわよ!」
    「あ、ああ、ごめん……委員長」
    「顔も赤いわね? 大丈夫?」
    「……な、なんとか」


     ああ、もう……。
     イサ姉だけでも大変だってのに、お友達まで――!
     これじゃ、綾のことを励ます権利なんて……ない、のかな?






    「……なかなか性悪ね?」
    「勇ほどじゃないわよ。あんた、いつも年下をあんな風にからかってるの?」
    「まぁ、程々に?」
    「――はぁ」


     つい、ため息をついてしまった。
     目の前のモデル兼友人は、どこまでも飄々としている。
     この子と話してると、いつも「狐につままれた」ような気がするのは何故だろう。
     私のことはともあれ、今しがた話していたあの子は不憫だ。
     というか、この子の「きょうだい」って――


    「……あの子が」
    「そう、『妹』よ」
    「世の中って、広いねぇ……」


     メイド喫茶側へと目を転じれば、そこでは喜色満面といった風に接客に励む少女の姿が。
     ……うん、どう見ても立派な女の子だ。

    357 = 56 :

    「勇。おと……妹さん、大事にしなさいよ?」
    「あら、心配するなんて珍しい」
    「はぁ……」


     目の前ではしゃぐ「お姉ちゃん」は、「きょうだい」のことを心配してはいないらしい。
     今日ここへ来たのも、ただ単純に、楽しみたかっただけというのは嘘じゃないとみた。
     まぁ、こういう「お姉ちゃん」の方が、下の子は楽しめたりするんだろう。きっと。


    「……思ったより、ずっと本格的ね」


     そんなあれこれを思いながら、私は教室内を見回した。
     喫茶店の看板も、飾り付けも、なかなか気合が入っている。
     ……私も、もっと本気を出せば、文化祭に燃えられたのかもしれない。


    「受験生でさえなければ、とか思ってる?」
    「……モデル兼占い師?」
    「褒め言葉と受け取っておくわね」


     目の前で、楽しそうにはしゃいでいる友人を見て、つい笑ってしまった。
     まぁ、過ぎていった日々に後悔するのは意味もないことだし、無粋ってものかも。
     今日は、せっかくの「お祭り」なんだから――

    358 = 56 :

    とりあえず、ここまでです。
    散々遅れて、申し訳ありません。

    今回からやっと、文化祭に入りました。
    どこか意味深な描写が多かったと思います。
    けれども、伏線として活かされるのかは決めていないという場当たり的な思考の中で書いています。
    手探り状態ですね……。

    次回は、ほんの少し波乱があるかと思います。
    相変わらず冗長ですが、読んで下さる方々には本当に感謝しています。

    それでは、また。
    漫画も5巻が発売しましたね。

    359 :

    乙でした

    360 :



    漫画買わないと・・・

    361 :

    おお
    続ききてた

    362 :




    ――受付


    子A「いやー、まさか本物のモデルがここにいるとは……」

    子B「たしかに……どこかで見たことがあるとは思ったけど」

    子B「まさか、お前の家で見た週刊誌の表紙だったなんて」

    子A「妹が置きっぱなしにしてたんだな、あの雑誌」

    子B「……世間は狭いってヤツ?」

    子A「どうだろうな――正直、あの人が大宮さんのお姉さんだって方が」

    子B「コメントしにくいな……」


    子B「――っと、いらっしゃいまs」

    カレン「女子高生一名、入りマース!」

    子A「……」

    子B「……」


    カレン「どうかしたデスカ?」

    子A「あ、いや――たしか」

    子B「たしか編入生、だよね?」

    カレン「ハイ! 九条カレンと申すデス!」

    子A「……いつも、大宮さんたちと一緒にいる」

    カレン「Yes!」

    子B「ああ、いつもお菓子を恵まれてる……」

    カレン「皆さん、親切デス!」

    子AB「……」

    子AB(明るい子だなぁ)


    子A「ま、気を取り直して」

    子A「いらっしゃい、ようこ、そ……」

    子A「――!?」

    子B「お、おいおい……あれって」


    カレン「?」

    カレン「Classroomで、何か――」

    カレン「!」

    363 = 56 :



    (あぁ……やっと、少し慣れてきた、かも)


     相次ぐお客様の対応に追われてとても疲れたけれど、それ以上に充実感がある。
     何だ、私も意外と出来るものだ。


    (後はこのまま、何も起こらずに終われば――)


     そう、私がゆっくりと呼吸をしていると、


    「あ、あの! これ俺のメアド、なんですけど……」
    「――へ?」


     唐突な異変に、私の口からつい、呆けた声が出てしまった。
     何があったの?


    「……私、ですか?」
    「はい! あの……凄く、可愛いですっ」


     緊張しきった男子の声に対し、当惑気味な「女子」の声がする。
     その声は、私がいつも近くで聞いていて、ついさっき私を精一杯励ましてくれたものだった。
     私は頭をクラクラとさせながら「現場」へと視線を転じる。

     
     何やら、面倒事が起きているようだった。
     クラス中の視線が、当人たちに集まっているように感じられる。


     メモのようなものを渡す私たちと同い年くらいの男子は、
     顔を真っ赤に染めながらメイド服に身を包んだ相手を褒め称えている。
     刈り上げたヘアスタイルから見るに、どこかの運動部員かしら? この学校の生徒じゃないみたいだけれど……。
     もう一人の方はこの位置からではよく見えなかったので、私は静かに移動した。
     果たして、そんな彼と相対しているのは――


    「……シノ!?」


     愕然とした。
     メモに目を落とすお相手は、いつも一緒にいる大切な友達だった。


    「――そう、ですか。私に」
    「はい! メチャ可愛くて……付き合って、くれませんか?」
    「……」


     シノはペコペコと頭を下げる男子を静かに見つめている。


     いつのことだったろう。
     私たちは、カレンが男子に告白されている場面を覗き見してしまったことがある。
     その時は、私の好きな少女漫画のワンシーンみたいだ、と感じた。


     そうだ、と私の中に、ある意味で理不尽な思いが湧く。
     ここは共学で、こういったイベントがあるのは構わない。きっと、他のクラスか上級生の教室でも、似たようなことがあったりもするのだろう。
     でも――と、私はそこで思う。


     でも、よりによって、どうしてシノなんだ、と。


     ある意味、八つ当たりなのかもしれない。
     私の視線にある見覚えのない男子生徒は、きっと一生懸命なのだろう。
     その懇願の様子からすると、決して軽い気持ちではないことがありありと分かった。
     だから――私の胸も、キュッとしてしまう。
     どうして……どうして、シノなの?

    364 = 56 :



    「……」


     気づけば、身体が勝手に動き出していた。
     男の人がいる、といったような考えは働かなかった。
     それ以上に、どこか放心しているように見えるシノのことが心配だった。


    (待ってて、シノ――!)


     静かに、けれど急いで二人の元へ向かおうとすると、


    「ごめんなさい、少しいいかしら?」


     聞き馴染みのある声が、した――
     






     
     ――ずっと昔から。
     それこそ、陽子ちゃん以上に馴染み深い声が聞こえました。
     

    「私、ここの高校のOGなんだけれど……」
    「は、はぁ……」


     その声につられて、私は目の前の方から頂いたメモから目を離しました。
     見れば、すぐ近くに大切な人がいます。
     長い髪。昔から憧れていた、綺麗でどこまでも女の子らしいスタイル。
     そこにいたのは、何を隠そう、私のお姉ちゃんでした。


    「実は今、うちの高校、いわゆるナンパ活動に厳しくなっちゃったみたいで」
    「……へ?」


     呆ける男性の前で、お姉ちゃんはゆっくりと言葉を紡ぎます。
     そのすぐ後ろには、こっちに来ようとしてくれた綾ちゃんの姿がありました。
     男性がいるのにも関わらず、こちらに来て私を助けようとしてくれたのでしょうか。
     どうやら私の考えていた以上に、綾ちゃんは変わっているようです――
     

    「それでね、ええと……今、怖い先生がこの階を見まわってるのよ」
    「……?」


     お姉ちゃんの言葉に相手の男性は、ほんの少し訝しげな視線を向けました。
     無理もありません。お姉ちゃんは、この高校のOGではないのですから。
     だから今、お姉ちゃんが言い淀んだことに疑問を持ったのでしょう。


    「だから、その――」


     尚も歯切れの悪いお姉ちゃんは、こちらから見ていてもドギマギとした様子でした。
     ああ、そろそろまずいかもしれません。
     このままでは――ちょっと、ややこしいことになってしまいそうです。
     これ以上、お姉ちゃんに任せきりではいけません。


    「あ、あの」


     私がそう、口を挟もうとすると――

    365 = 56 :



    「あ、烏丸先生!」
    「見回りですか!?」


     外から、男の人の声がしました。
     見れば、受付係のお二人が椅子から立ち上がっています。
     ……あ。あの、金髪は。
     近くにいるのは、私たちの大切なお友達のようでした。


    「……あ、そうそう! この烏丸先生っていうのがその怖い先生でね」


     彼らの声にひかれるような形で、お姉ちゃんは再び、ゆっくりと話し始めました。


    「見つかると面倒なことになっちゃう、かも――」
    「……マジすか」


     参ったな、と目の前の方は呟きました。
     見るからに残念そうな表情です。
     そんなことを思っていると、クルッと私の方へと視線を向けました。


    「それじゃ、今日は帰ります。連絡先、気が向いたら……」


     ドギマギしながらそう言って、ペコリと頭を下げます。
     そして荷物をまとめると、教室から急いで出て行きました。


    「……」
    「シノ」


     その声に、ハッとしました。
     見れば、目の前でお姉ちゃんが複雑そうな表情を浮かべていました。


    「――その、メモ」
    「あ、これ、ですか……」


     お姉ちゃんが指摘したのは、やはりこのメモでした。


    「……どうするの?」


     私が目を落としていると、お姉ちゃんが問うてきます。
     その声は――どこまでも複雑そうでした。
     非難しているわけでもなければ、歓迎しているわけでもない。
     お姉ちゃんにしてみても、今回の「一件」は予想外だったのでしょう。無理はありません。


    「……一応、持っておこうと思います」


     声がつっかえないように、私はゆっくりと声にします。
     そのメモを大切にポケットの中に入れて、お姉ちゃんと視線を合わせます。


    「……そう」


     お姉ちゃんはそう言うと、身を翻しました。


    「――私は、シノがどう対処しても、いいと思うわ」


     もう高校生なんだし。
     そう言いながら、お友達の座るテーブルの所へと戻って行きました――

    366 = 56 :

     

     ――シノが、告白された。
     カレンが告白されている所は私も皆と一緒に見て、「ああ、そっか」と納得していた。
     イギリスにいた頃から、カレンはどこか異性からモテやすいのかも、と思っていたからかもしれない。
     けれど……シノは。


    「……ビックリしたぁ」


     近くで見ていた陽子は、そう言いながら脱力していた。
     私は、どこか遠くで起こった出来事のように、未だに実感が持てずにいた。


     シノが男子生徒に告白される。
     これは、ある意味でとんでもないことだった。
     ホームステイの日々を送っていても、納得できていない事実として――


     やっぱり、シノが「男の子」だということがあるから。


    「……なぁ、アリス?」
    「なぁに、陽子?」


     声を震わせながら、陽子が私に問うてくる。いや、きっと私の声も同じだったと思う。
     目の前の友人は、私と視線を合わせながら、


    「――シノって、やっぱり『女の子』なんだな」


     と、恥ずかしそうに言った。


    「……うん。そうだね、陽子」


     私も、どこまでも恥ずかしくなりながら、そう返事をする。
     そして、私は再び「現場」に目を転じながら思う。


    (……シノ)


     私は、シノのことが「好き」なんだよ、と想い続けながら。

    367 = 56 :






     ――とんでもない所を見てしまいマシタ。
    「Amazing!」と、私の故郷では言うのでショウ。
     ただ……目の前で、私が見た光景は、『信じられない!』というレベルを遥かに超えていマシタ。


    「……はぁ。びっくりした」
    「でまかせでカラスちゃんの名前出しちゃったけど……ま、いっか」


     呆けた頭のままでいると、目の前の男子二人はそんなことを言っていマス。
     私はそれを見ながら「あぁ、『男子』ってこういう声だった」と実感しマシタ。


    (……シノが)


     そう思いながら、私の頭の中ではいつかのあの光景がフラッシュバックしマス。
     人気のない校舎裏。目の前で深々と頭を下げる男子生徒。
     それに対し私は、嬉しく思ったのは事実デシタ。
     ……デモ。


    (私は、ヤッパリ)


     あの時、頭の中をよぎったのは、いつも見ているオカッパ頭の「女のコ」。
     だから私は、あの時断りマシタ。
     今、私の頭はグルグルしていマス。
     例の男の人が出て行ってから、教室内はどこかざわついていマシタ。
     それも、イサミがテーブルに戻ってからは消えてしまったようデス――



    「……私、戻りマス」
    「ん? あ、あぁ、そっか」


     近くにいる受付係の男子生徒二人にそう言って、私はフラフラと廊下を歩き出しマシタ。
     どこへ向かうといえば――


    (……私、は)


     今日、『あの』お芝居をブジに終えられるのでショウカ?
     目の前であんな光景を見せられても、私はあのシーンを演じられるのでショウカ?


     不安ですが、仕方がありマセン――そう、自分に言い聞かせマス。


     今日のお芝居の内容は、アリスを含めて誰にも伝えませんデシタ。
     かえって、良かったのかもしれマセン。
     ――だって。


    (こんな気分のまま、お芝居ナンテ……)


     まともに出来る気がしないのですカラ――

    368 = 56 :

    とりあえず、ここまでです。
    「一波乱」のお話でした。
    今回のような展開は、このSSを書き始めてから、どこかで絡めようと思っていました。

    次回は、カレンの演劇の話になると思います。
    原作とはかなり異なったものになると考えていますが――ご容赦頂ければ、と思います。
    このような設定で、読んで下さる方がいるだけで嬉しいものです。
    ……原作も、もしかしたらこうした設定(もちろん、違いはあるにせよ)で始まっていたのかもしれませんね。
    見てみたいものですが、無理でしょうね……(諦め)。

    それでは、また。
    いつもありがとうございます。

    369 :

    おつです!

    371 :

    カレンの演劇の話は、次回以降になると思います。ごめんなさい。

    372 = 56 :



    「それじゃ、陽子ちゃん。後はよろしくね」


     お友達との一服を終えてから、席を立ったイサ姉はそんなことを言った。
     口元は笑っているんだけど、どこか複雑そうな目つきをしている。


    「……ん。まぁ、大丈夫だと思う、よ」


     頭をかきながら、私はそう返事をする。
     いけない、軽く流そうとしたのにどこか歯切れの悪い返事になってしまった。
     ……いやまぁ、無理もないんだろう。多分。


    「うん。陽子ちゃんなら、あの子を任せてもいいと思えるわ」
    「……だ、だからさぁ」


     あぁ、どうしてこういうことを言われると、瞬時に顔が赤らむのか。
     以前――そう、少なくとも一学期の間には決してなかった。
    「あの子」絡みのことでからかわれた時に、こんな反応をすることなんて。


    「――シノのサポート、ホント頼むわね」
    「……あ」


     ポンっと肩を叩かれた。
     フワッとした風と共に、イサ姉は出口へと向かっていく。
     私の見た後ろ姿は、相変わらず綺麗なものだった。


    「……」
    「応対、ありがとね」


     おっと、見とれてしまっていた。
     声のした方へ振り向けば、イサ姉のお友達の姿がある。


    「まぁ、えぇと……あまり緊張しないで。なんとかなると思うから」


     それじゃね、と手を振りながら去っていく彼女を見ながら思った。


    (……励まされた、のかな?)


     疑問符つきの思いのまま、私は店内を見渡した。
     さっきの「一件」が起きてから、それほど時間は経っていない。
     店内は和洋入り混じった様子で、まぁ人入りはそこそこってとこか。
     ……ただ。

    373 = 56 :


    「……シノ、が」
    「わ、私が、しっかりしない、と」


     私の大切な友達は、どうやらショックから立ち直れてはいないらしい。
     まぁ、無理もない。
     恐らく、アリスと綾で受けているショックの質みたいなものは違うんだろうけど。
     ――そして。


    「お待たせしました! カフェラテになります!」
    「おお、美味そう!」
    「へぇ、学祭のものにしてはなかなか凝ってるわね……」
    「ありがとうございます!」


     ペコリと一礼する「アイツ」は、さっきのこともどこへやら、完璧な接客をこなしていた。
     お客様に対する態度も良く、こっちから見る限り笑顔もしっかりしている。
     ……そう、だからきっと。


    (――そっか)


     私とイサ姉しか気づけなかっただろう。
     付き合いの長さでいえば、あの人の次くらいに長い私くらいしか。


    「……ねぇ、委員長?」
    「どうかした、猪熊さん?」


     甘味処班のリーダーたる委員長に、私は声をかけた。


    「少し、休憩してもいいか?」
    「――ん、そうね」


     チラッと時計を見る委員長。
     次いで彼女は、店内を見回す。
     そしてまた私と向き合うと、


    「実は、そろそろ節目としてはアリかな、と思ってたのよ」
    「……そっか」
    「今、来店しているお客様が出て行かれたら、休憩にしましょうか」


     委員長はそう言うと、クスっと微笑む。
    「どうかした?」と私が聞くと、こう返した。


    「……大宮さんのこと、心配?」
    「っておいおい、委員長までそれか?」
    「あなたが一番、付き合いの長いことは聞いてるしね」


     笑みを浮かべながら、委員長はゆっくりと言う。


    「だから、他の子が気づかないことも……気づけちゃうんでしょう?」
    「……」


     鋭い。
     ただの「真面目系キャラ」じゃないとは前から思っていたけど、やるな。


    「さ、そうと決まれば休憩までベストを尽くしましょう」


     最後まで優しげな表情のままで、委員長は元の業務へと戻っていった。
     

    「……うん」


     私もそう返事をして、接客対応へと足を向ける――

    374 = 56 :

     

     ――AM12:00


    「それじゃ、休憩ー!」


     ……あ。
     どうやら、一旦おしまいのようです。
     パンパンと手を叩く委員長の姿も、やりきったという充実感でいっぱいのように思えます。
     ――当然、私も。


    「や、やっと……終わりなのね」
    「お疲れ様、綾ちゃん」


     声を震わせながら言う綾ちゃんに、私は笑いながら返しました。


    「今日は凄かったです、綾ちゃん。本当に、間違いなく『変わった』と思います!」
    「……あ、ありがとう。でも、シノ」


     はしゃぎながら言う私に対して、綾ちゃんはどこか複雑そうでした。


    「あ、あなたは……その」
    「あっ! 甘味処班のお二人も!」


     今度は甘味処班の方へと目を向けて、私はそう口に出していました。
     陽子ちゃんもアリスも、やり遂げたという感じで、こちらへと向かってこようとしています。
     私は、そちらへ視線を転じながら、お二人の姿を待っていました――







     ――「その」の後、何を言おうとしていたのだろう。
     考えなしに私の口から飛び出した言葉に、当の私自身が驚いてしまった。


     とはいえ、具体的な内容なんてどうでもよかったのかもしれない。
     当然、さっきのことについて聞こうとしていたに決まっているのだから。


     相手の男子生徒は、シノの連絡先を知らない。
     つまり、シノが連絡しない限り、よほどのことがない限り二人はもう接触しない――


    (……どうして)


     さっきの、やるせない気持ちが、また蘇る。
     どうしてシノなんだろう、と。
     仮にシノが正真正銘の「女の子」なら、私はこんなことは考えなかったはずだ。
     この行き場のない思いに、私はどう対処すればいいのだろう……。

    375 = 56 :



    「それじゃ、食べ物屋回ろうか!」


     私のすぐ隣で、陽子は満面の笑顔で言う。
     いつも「早弁」をしている彼女は、食べ物のことになると一味違う。
     それは、普段の付き合いの中でよく分かっていた。


    「わぁ陽子ちゃん、私、おごられちゃうんでしょうか?」


     私の二つ隣にいるシノは、手を叩いてそんなことを言う。
     ポワポワとした笑顔は、いつも私の見るものだった。
     ……まるでさっきのことなんて、なかったことみたいな。


    「……アリス」


     ハッとした。
     見れば、綾が私に顔を向けていた。
     その評定は、どこまでも複雑そうで。
     ……今の私も、同じような表情をしているのだろう。


    「ど、どうしたの綾?」


     慌てて、私は応じる。
     目の前の彼女は、逡巡する様子の後で、私に言う。
     そして、私の耳元に口を寄せて、


    「……さっきのこと、どう思う?」
    「――!」


     驚いた。
     どうやら綾は、私と全く同じことを考えていたらしい。
     陽子とシノの二人はどこ吹く風で、おいしいクレープ屋のこととかを話していた。


    「……綾」


     今度は私が綾の耳元に口を寄せて、ボソボソと言う。
     それに対し、綾はコクリと返事をすると、


    「よ、陽子! シノ!」
    「ん? どうかした、綾?」
    「そ、その――ちょ、ちょっとアリスとお手洗いに行ってきたい、んだけど……」


     顔を赤らめながら、綾はそう続ける。

    376 = 56 :



     ここで、私は驚いた。二回目だ。
     こういう、いかにも恥ずかしくなりがちなことを、綾が即座に言い出したことに。
     ……綾も、間違いなく変わっているんだ。
     そんなことを感じた。


    「ん、わかった。それじゃ、待ち合わせ場所は――そうだな、中庭でいいか?」


     対する陽子は、いつものように気さくな調子で綾に返す。
    「わ、わかった!」と綾は応じた。


    「アリス、行きましょう」
    「う、うん。わかった」


     綾に連れて行かれる格好で、私は二人から離れていった。
     その合間にチラッと、視線を向ける。


    「行ってらっしゃい、お二人とも」


     そこには、いつものように、私の大好きな笑顔を浮かべるシノがいて――


    「……」


     それを見てから私は、ゆっくりとそこから離れていった。

    377 = 56 :

    ここまでになります。

    カレンの演劇に一気に話を飛ばそうと考えていたのですが、いざ書いてみると思いました。
    一旦、その場面に至るまでにある程度の決着みたいなものを付けておいたほうがいいのではないか、と。
    とはいえ、読者の方によっては冗長に感じられるかもしれませんが……。

    次回は、とりあえず分かれた二人組同士で、あの「一件」について色々と語ってもらう予定です。
    進捗次第では、次回にカレンの演劇の話が書けるかもしれません。

    それでは。
    いつも読んで下さる皆様に感謝を。

    378 :

    おつ

    379 :





    ――廊下・ベンチ


    陽子「おまたせ、シノ」スッ

    「わぁ、ありがとうございます!」パァァ

    陽子「わたあめだけど、良かったかな?」

    「はい、嬉しいで……」ピタッ

    陽子「私とお揃いってことで……ああ、美味しー」モグモグ

    陽子「ん? どうかした?」

    「よ、陽子ちゃん……」フルフル


    「これ、おいくらでした?」

    陽子「ん……そうだな」

    陽子「500円だったよ」パクッ

    「――わ、私、払いますね」アセアセ

    陽子「ちょい待った。シノ、本気にしてる?」

    「??」キョトン


    「で、ですが」

    「お祭りとかだとわたあめって……」

    陽子「あれ実際、かなり高めにしてるんだってさ」

    陽子「で、かなり儲けられるんだって」パクッ

    「……」

    陽子「だから、ホントは100円だよ」

    「――おごって、くれるんですか?」ジッ

    陽子「さっき約束しただろ?」

    「……ありがとうございます」ニコッ

    「やっぱり、陽子ちゃんはイジワルですね」クスクス

    陽子「褒め言葉?」

    「はい」パクッ


    陽子「ああ、美味しかった」

    「はい、とても……」ウットリ

    陽子「あの二人、どうしてんのかな」

    「もう、陽子ちゃん? お手洗いに行ったことを気にするなんてはしたないですよ」

    陽子「ねぇ、シノはどうしてると思う?」

    「そうですね。きっと、人気のない裏庭辺りで……」ハッ

    「――本当に、イジワルですね」クスッ

    陽子「引っかかるシノが悪い」ニコッ

    380 = 56 :

    「お二人に心配をかけてしまったのでしょうか」

    陽子「そりゃそう思うよ」

    陽子「……シノが悪いんじゃなくて」

    「……」

    陽子「あー、あの男子が悪いわけでもないよ」

    陽子「そうだな、誰も悪くない。で、シノがそうなるのも仕方ない」

    陽子「そんな感じじゃないかな」

    「何だか納得いかないような……」

    陽子「こらこらシノ」


    陽子「私はずっと一緒にいて、シノがどれだけ優しいのか知ってるよ」

    「……陽子ちゃん」

    陽子「で、我慢するタイプだってのも」

    「――」ギュッ

    陽子「右手」

    「!」ハッ

    陽子「大丈夫? 長い間、握ってただろ?」


    「……気づいちゃいましたか」

    陽子「まぁ、ね」

    陽子「ずっと一緒にいた私やイサ姉が気づかないわけがないよ」

    「実は、ちょっと赤くなってしまいました」

    陽子「やっぱり……」ハァ

    陽子「昔から」

    陽子「緊張したりパニクったりすると、それやっちゃうんだよね」

    「これは、癖みたいなものですね……」

    陽子「まぁ、それで感情を抑えられるシノは強いと思うよ」

    「ありがとうございます」

    陽子「けど……」

    陽子「たまには、シノから頼ってほしいかな」

    「ごめんなさい」ペコリ

    陽子「謝らない謝らない」

    陽子「――シノは凄いよ」

    「……ありがとうございます」

    381 = 56 :

    「それでは、お言葉に甘えて」ヨッコラセ

    陽子「わっ、ちょ、シノ!?」アセアセ

    「膝枕、してもいいですか?」ジッ

    陽子(うっ、上目遣い……)

    陽子(しかも、こういう時だけ色っぽく赤面までしてみせるって)

    陽子「たまに、シノが怖いって思うことがあるよ」

    「ふふっ、陽子ちゃんってば」コロン

    陽子「……」

    陽子(傍からだと、どう見えるんだろ?)カァァ


    陽子(ま、まぁ、あれだ……)

    陽子(シノを膝枕してあげたことなんて、それこそ――)

    陽子「記憶にないぞ」

    「ええ、私も驚いてます」ウットリ

    陽子「……知ってただろ?」

    「ご想像にお任せします」

    陽子「シノはイジワルだ」

    「陽子ちゃんには言われたくありません」クスッ


    「……」

    「陽子ちゃん」

    陽子「な、なに、シノ?」ドギマギ

    「――私」


    「どうしたらいいんでしょうか?」


    陽子「……」

    「あんな風に、気持ちを伝えられたのは初めてです」

    「男性の方と一緒にお話ししたりすることは、もちろんありましたけれど」

    「……まさか、自分がこうなるとは思ってもみませんでした」キュッ

    陽子(そりゃまぁ――)

    陽子(カレンが告白されるのとは、色々と意味合いが違うからなぁ)

    陽子「……」

    「陽子ちゃん」

    陽子「――私は」

    陽子「そうだな……シノが自分なりに行動すればいい、と思うよ」

    「……そう、ですよね」

    382 = 56 :

    陽子「でもね」


    陽子「私はシノがどんな行動をしても、それを全力で応援するよ」


    「――!」ハッ

    陽子「それだけはホントだから」ニコッ

    「……もう」


    「本当にイジワルで……お優しいんですから」

    陽子「まったく……」


    「……」

    「ねぇ、陽子ちゃん?」

    陽子「ん? なに?」キョトン

    「――いえ、なんでもありません」フルフル

    陽子「もう、なんだよ。気になるぞ?」

    「ふふっ、内緒です」

    陽子「隠し事、か?」

    「……」キュッ


    「ご想像にお任せします」ニコッ



    ――裏庭


    「……シノは、どうするのかしら?」

    アリス「まさか相手の人は、シノのことを……」アセアセ

    「いや、それはないと思うわ」

    「――さすがにシノの『素性』を知っていて、告白したとすれば」

    アリス「もう、私たちの手に負える範囲を超えてるもんね……」

    アリス(ただでさえ混乱してるのに……)

    (ああ、もう……どうしてシノなのよ)

    (カレンが告白された時とは、わけが違うのよ……)ハァ


    「……ええとね、アリス」

    アリス「なに、綾?」

    「アリスは、どう思った?」

    アリス「……」

    「シノが、そ、その……告白、された時」

    アリス「――カレンに続いて、シノまで遠くに行っちゃったなぁって」

    「ええ。正直、私も同じようなことを考えたのは否定できないわね……」

    「でも、それだけじゃないんでしょう?」

    アリス「……うん」コクリ

    383 = 56 :

    「そうよね」

    「私もビックリしたもの」

    「……シノが告白される、なんて」

    アリス「考えたこともなかったよ」

    「ええ」


    アリス「……綾は、どう思った?」

    「今度は私の番、ね」

    「そうね……私もホントは、今も気が気じゃないのよ」

    「色々と考えが走っちゃってて、抑えられない状態というか……」

    アリス「わかるよ、それ」コクコク

    「――シノは、本当に大切なお友達で」

    「あの子がいなかったら、私も今日、乗り切れたかどうか……」

    アリス「うん、シノは凄いよ」

    アリス「無理してないか心配だけど……」キュッ

    「そうよね……」


    アリス「そっか。綾もシノが好きなんだもんね」

    「も、もちろん」カァァ

    (アリスの『好き』とは、きっと意味合いが違うけれど……)

    (きっと、この子もそれを分かっているんでしょうね)

    「ねぇ、アリス?」

    アリス「ん? なぁに?」

    「戻ったら、シノに何て声を掛けましょうか?」

    アリス「……もう、綾ってば」クスッ

    アリス「いちいち考えなくても、私たちは大丈夫だよ」

    アリス「――いつも通りにしてれば」ニコッ

    「アリス……」

    (気丈に言うアリスを見ながら、私は気づいてしまった)

    (彼女の笑顔が、翳ってしまっていることに)

    384 = 56 :

    (それなら――)

    「そうね、アリスの言うとおりね」

    「それじゃ、そろそろ戻りましょうか」ニコッ

    アリス「うん!」

    アリス「……良かった。綾が笑って」

    「アリスのおかげで、ね」

    アリス「ふふっ、綾ってば」クスクス


    (それなら、私もそれに倣おう)

    (アリスも私の表情に気づいてるのだろうし……それならそれで)


    (お互い様、ということで)







     ――さて。
     二人が戻ってきた所で、私たちはその場を移動した。
     行き先は、講堂だ。
     そこで私たちの友達が劇をする、ということは知っていた……けど。


    「そういえば……」
    「な、なによ、陽子」


     講堂の目の前で、立ち止まる。
     ふと、思いついたことがあった。
     近くの綾に視線を向ければ、何故か綾が照れ出した。
     それに気づかない振りをしながら、私は、


    「なぁ、カレンって何の劇をやるんだ?」
    「……そういえば」


     私の質問に応えて、綾は鞄から冊子を取り出す。
     言うまでもなく、文化祭のパンフレットだ。
     手際よく、該当のページを綾は見つけ出した。


    「あったわ、カレンのクラス」
    「そっか。で、演目は?」
    「……演劇、としか」
    「マジか」


     綾に促される形でパンフに目を通した私は、呆気にとられてしまった。
     たしかに綾の言うとおりだった。


    「カレン……一体、何をするんだろう?」
    「そもそも、何の役をするのかしら……」


     腕を組み、考えこんでしまう。
     そういえば、カレンは「劇やりマス! ショーデス!」としか言っていなかった。
     なんやかんやで、今日まで詳細は明かされなかった、ってわけか。


    「ねぇ、アリス? アリスは何か聞いていませんか?」
    「うーん……私も何も聞いてないよ」


     先頭を行く私と綾の後方で、シノがアリスに訊ねていた。
     私たちだけでなく、シノとアリスまでも聞いていない、という。
     ……なんだろう。

    385 = 56 :

    「なんだか胸騒ぎがするな……」
    「奇遇ね、陽子。私も似たようなことを考えている気がするわ」


     自慢じゃないけど、私の『嫌な予感センサー』は外れたことがほとんどない。
     頼むから、今回は「はずれ」であってほしい……。


    「うーん……考えていても始まりませんし」
    「そうだよ、二人とも。中に入ろ?」


     私たちが考えていると、シノとアリスが私たちを促した。
     まぁ、確かに二人の言う通りだ。考えこんで当たるような問題でもない。


    「それじゃ行くか、綾」
    「ええ、そうね」


     隣で考え込んでいた様子の綾と一緒に、私はゆっくりと講堂に足を踏み入れる――



     ――そして。


    「ず、随分と人が多いな……」
    「空席、あるのかしら……」


     講堂内を見渡せば、かなりの客入りということがありありと分かった。
     私が見る限り、ポツリポツリと空いた席はあるものの、四人が一気に座れるスペースは、というと……。


    「あっ、大宮さんたち」


     ん? 聞き覚えのある声がする。
     声のした場所を探せば、そこにいたのは――


    「受付の二人組か」
    「なんだ、空席でも探してるのか?」
    「まぁね……というか、何するのか知ってる?」
    「さぁ、俺たちも知らねえ」


     さっきぶりの二人組だった。
     取り留めのない会話の後で「俺たちが詰めるから、ここ入ってもいいぞ」と移動してくれた。
     あっ、ちょうど四人分だ。


    「サンキュー」


     軽い調子で返事をして、私は三人を促して列に分け入った。
     私、シノ、アリス、綾の順に座る。


    「いやー、助かった助かった」
    「何かおごってくれてもいいぞ」
    「無理。私がおごるのは、きっと一人だけだし」
    「……え?」


     ん? 何か変なこと、言ったっけ?
     いや、目の前でピクッとしてから動きを止めた男子が、よく教えてくれているみたいだ。
     ……ああ。


    「わぁ、陽子ちゃん。私、照れちゃいますよ?」
    「……え、大宮さん? マジで?」
    「ち、違う! シ、シノ、何言って」
    「ふふっ、陽子ちゃんにおごられちゃって幸せですねぇ……」

    386 = 56 :

     ――さて。
     そんな一騒動(?)があってから、少し経った。
     そろそろ時間になる。


    (……頼むよ)


     私は、知らず知らずのうちに手を握りしめていた。
     まるで、隣にいる「彼女」の癖が移ったように。
     何でかって? 
     そりゃまぁ、「センサー」が外れるのを祈ってるからだよ……。



     ビー、とブザーの音が鳴り響いた。
     そして、静かに幕は上がり――


    「あぁ……」


     声が漏れた。
     目の前には、花畑が広がっていた。
     その脇に設置されたベンチに、二人の男女が座っている。
     男子の方は紳士的な格好をしていて、もう一方の女子の方はドレスで着飾っていた。
     どこかの王妃が着ているようなイメージをもたせるのに、十分すぎる出で立ちだった。


    「……さすが、ですね」


     左隣から、心の底から感心したとばかりの声がした。
     シノもそう思ったか。いやきっと、シノだけじゃない。


    「……あっ」
    「凄い、わね」


     とはいえ、多分アリスと綾だけでもない。


    「おい、あれってまさか……」
    「そっか、さっきの」


     受付係もよくわからない反応をしているけど、この二人だけでもない。
     構内にいる観客全員が、同じことを考えているに違いない。


     普段は飄々としているあの子は、その実とんでもなく可愛い。
     それをよく知っている私たちは、そのギャップで余計に心を揺さぶられるんだと思う。
     普段のあの子を知らない観客も、嘆息するに違いない。現に、前からも後ろからも唾を飲み込んだような音がしている。


     舞台で淑やかに座っているのは、私たちの大切な友達――九条カレンだった。
     いつになく真剣なその表情は、ただ緊張しているというだけではなさそうだった。
     私は舞台の小道具と、カレンのそんな表情を見ながら、


    (……「センサー」、当たっちゃったかぁ)


     そう、確信してしまった――

    387 = 56 :

    ここまでになります。
    二期の日程も久世橋先生の中の人も決まったようですね……時の流れは早いものです。ごめんなさい、遅れました。

    気づけば、地の文は陽子視点のものが圧倒的に多くなりましたね。
    一番書きやすいもので……いずれ、嘘つきブラザーズも出るかもしれません。
    あと、いつの間にか主人公的な立ち位置になったようにも感じます。

    それでは、また。
    陽子の「センサー」は、どこまで当たるのでしょうか……。

    388 = 56 :

     すみません。
     >>385>>386の間に、この文章を挿れておきます。外されてしまっていました。




     左隣にいるシノは、満面の笑みを浮かべながら穏やかに言葉を紡ぎ続ける。


    「けれど、陽子ちゃん? ホントに私だけでいいんでしょうか……」


     その後で、赤面と上目遣いの強烈コンボ。
     さっき見たばかりとはいえ、この技に私は勝てる気がしない。


    「だ、だから、シノ……ええと、あのさ」
    「そっか、猪熊が……」
    「大宮さんの……ふーん」
    「二人とも、静かにするっ!」


     シノを相手にするだけでも大変なのに、右側の二人まで来られちゃ泥沼化は必至だ。


    「まぁ、なんだかんだで、か」
    「猪熊がいるなら何とかなるか……さっきのことも」


     私がそう言っても説得力はなかったらしく、なんだか得心が行ったような反応を返されてしまった。
     というか、やっぱり「さっきのこと」を気にするのは私たちだけでもなかったらしい。当然といえば当然だけど。


    「……もう、知らんっ」


     男子から視線を逸して、シノへと視線を戻す。
     相変わらずの表情を浮かべながら「陽子ちゃんは可愛いですねぇ」と、ほんわかに言われてしまった。
     私は「シノのイジワルめ」と返して、頭を垂れた。
     やれやれ、左右からの攻撃をかわすのは疲れる――


    「陽子……やっぱり、シノに」
    「あ、あなたねぇ……」


     ――まだ、休めないのか。
     溜息をつき、私は再び元の体勢に戻る。
     明らかに顔が熱い。熱でも出たんじゃないか。
     まぁ、いいや。
     気を取り直してから、綾とアリスの方へ視線を向け、



    「わ、私とシノは、そ、そういうんじゃないからっ!」


     噛んだ。恥ずかしい。

    389 :

    かわいいな

    乙でした!二期楽しみ

    390 :

    おつ!

    ラッキースケベされた陽子もみてみたい

    391 :

    レス、ありがとうございます。
    >>390
    ラッキースケベを書きたいと思っていますが、なかなか入れる場面が思いつかず……。
    ともあれ、次回辺りで文化祭は決着すると思うので、それから考えますね。ありがとうございます。




    ――開演から遡って・空き教室


    子1「……これでよし、っと」

    子2「おー……何度見ても、惚れ惚れするね」

    カレン「――そ、そうでショウカ」アセアセ

    子3「こりゃ、本物のお嬢様……いや、お姫様」

    子1「観客席が沸きそうだねっ」

    カレン「……」


    カレン(あれから時間が経ったノニ)

    カレン(さっきのシノのことが気になって、しょうがないデス……)キュッ

    カレン(シノは、あれからどうなったのでショウカ……)

    カレン(――確認するのが怖くて、すぐに飛び出してしまいマシタ)


    子1「く、九条さん……大丈夫?」

    カレン「……!」ハッ

    カレン「ご、ごめんナサイ」

    子2「まぁ、九条さんも緊張するよね」

    子3「でも、大丈夫。何か失敗したとしても、今の九条さんなら」

    子1「多分、どんな振る舞いでも絵になるから……」

    カレン「……ありがとうございマス」

    カレン(この人たちに言えるわけでもありマセン……)

    カレン(ホントは劇のことよりも、さっきのことが気になってる、ナンテ……)

    カレン(ここまで準備してきてくれたクラスの皆さんに申し訳ないことデス)



    カレン「……台本を取って頂けマスカ?」

    子2「ん、分かった。はいっ」スッ

    カレン「Thanks……」

    カレン「――」パラパラ

    カレン「や、ヤッパリ、こういうシーンハ……」

    子1「まぁ、その辺は適当に」

    子2「そう気張らなくっていいよ」

    子3「どう演技しても、絶対大丈夫だから」

    カレン「……」


    カレン「ハイ、わかりマシタ」コクリ

    392 = 38 :

    トリップ間違えてました。




    ――集合場所



    子1「みんなー、終わったよー」

    子2「見て驚け!」

    子3「あんたが主役みたいになってるね……」

    カレン「……お、お邪魔するデス」モジモジ


    「わっ」「凄いキレイ……」「なんだあれは……」「く、九条さん、やっぱり」


    カレン「……」

    カレン(どうしてなんでショウカ)

    カレン(皆さん、私をとても褒めてくれてマス。嬉しくないわけがありマセン)

    カレン(……ナノニ)


    「やっぱり似合うな、九条さんは」


    カレン「あ」

    「今日は、よろしくな」

    カレン「……」

    カレン「ハイ」コクリ

    「うん」ニコッ

    「それじゃ俺、ちょっと台本読んでくるから」

    カレン「――ファイト、デス」

    「そっちもな」


    子1「へぇ、スーツ姿ってのは初めて見た」

    子2「意外と似合うもんね」

    子3「同感」

    カレン「……」

    子1「まぁ、九条さんには敵わないけど」

    子2「そりゃまぁ、仕方ないよね」

    カレン「そ、そんなコトハっ!」アセアセ

    カレン「ない、デス……」


    カレン(だから、シノたちには言えませんデシタ)

    カレン(私がヒロインで、「彼」がヒーロー)

    カレン(私が主役ということもそうですが、何より「彼」のこともありマシタ)

    カレン(シノたちは――あの時、「彼」を見ているのデスカラ)

    393 = 38 :

    ――本番前・舞台袖


    子1「それじゃそろそろ行くぞー!」

    子2「主役ー!」

    「おう」

    カレン「……ハ、ハイ」


    「よいしょ、っと」コシカケ

    カレン「……」

    子1「それじゃ、ブザー鳴ったらスタートで」

    子2「ガンバ、二人とも」

    「ありがとよ」

    カレン「が、ガンバリマス」モジモジ

    「……」


    「緊張してる?」

    カレン「……Yes」

    「無理もないよな」

    「まぁ、あれだ」

    「今の九条さんなら、どんなミスしても大丈夫だと思う」

    カレン「それ、さっきも言われマシタ」

    「みんな同じようなこと思ってるよ」

    カレン「そう、でショウカ」


    「おっ、鳴ったな」

    カレン「は、ハイ……」

    カレン(幕が上がり始めマシタ)

    カレン(私の目の前に、多くの人が現れテ――)

    カレン「あっ……」

    カレン(シノたち――)


    ――観客席


    陽子「……あ」

    「あの方は――」

    アリス「そうだ、カレンに」

    「……そうね、あの時の」

    (もしかすると、だからこそ……)

    陽子(カレンは、私たちに知られたくなかったのかも……)


    カレン「……」

    カレン「今日は、帰らなくていいのデスカ?」

    「ええ」

    「――今日一日は、あなたのものです」

    394 = 38 :

    陽子(胸やけしそうなセリフだ……けど)

    陽子(主役が言うと、妙に堂に入ってるというか)

    「……カレン」

    「お話の世界みたいね……」カァァ

    アリス「あ、綾? 顔、赤いよ?」



    ――時間が経って


    陽子(劇の内容は、よくある男女恋愛モノで)

    陽子(身分違いの恋だとかそれによる両家の確執、でもって最後は困難を乗り越えてハッピーエンド)

    陽子(……どこかで見たことがあるような要素のごった煮、というイメージだった)

    陽子(私は、評論家でもないからよく分からないけど)

    陽子(筋書きはともかく、主役の演技が凄い)

    陽子(まるで本当に「叶わぬ恋」みたいな鬼気迫る感がある、というのも)

    陽子「当たり前か……」

    「二人とも演技が凄いわね」

    アリス「うん」

    アリス「カレンも本当に上手だけど、男子の方が本気って感じがするよ」

    アリス「……まぁ」

    「無理もない、わね」


    「……」

    陽子(――シノ)



    ――舞台


    「私の想いは、永遠に叶わないのかもしれません……」

    カレン「そんなコト」

    「でも……あなたを諦めることなど」

    カレン「――」チラッ

    カレン(シノ……)

    カレン(あれからどうなりマシタカ? 相手の方と……)

    「あなたを思うだけで、一日が終わってしまいます」

    カレン「……あ」ハッ

    カレン「わ、私も、デス……」

    カレン(一日が、すぐに終わってしまいマス……)アセアセ

    395 = 38 :

    ――更に時間が経って


    ――舞台


    カレン「本当に……私で、いいのデスカ?」

    「はい。もちろんです」

    「さぁ、ここから抜け出しましょう」

    カレン「……」

    カレン(――「ここで」)



    カレン(「ここで、軽くハグ」)



    カレン(台本に書かれていた、ラストシーンの文章……)

    カレン「……」キュッ

    「……?」

    「どうかなさいましたか?」キョトン



    >ナンダナンダ?
    >アクシデント?



    「……九条さん、大丈夫?」ヒソヒソ

    カレン「わ、私、ハグ、出来マセン」アセアセ

    「……」

    カレン「ご、ごめん、ナサイ」

    カレン「――うっ」グスッ


    カレン「シノ……」




    ――観客席



    子A「お、おい、あれって……」

    子B「泣いてる?」

    陽子「!」ハッ

    アリス「!?」

    「カ、カレン……?」

    陽子「――あぁ」

    陽子(センサーを今日ほど憎んだ日はない……)


    「……カレン」

    陽子「シノ……」

    「――」キュッ

    396 = 38 :




    ――終演


    「皆さん、ご観賞ありがとうございました!」


    陽子(結局、あれから慌てた様子のナレーターが締めの言葉を述べて)

    陽子(二人の主役は舞台袖に戻っていった)

    陽子(最後の、全員揃っての挨拶まで少し時間がかかったけど)

    陽子(カレンも中央で、お辞儀をしてくれた)

    陽子(こうして、カレンのクラスの演劇は幕を閉じた――)


    子A「よかったな」

    子B「うん、特に主役二人の演技が凄かった」

    陽子「……」

    子A「猪熊」

    陽子「な、なに?」

    子B「あの主役の子、お前の友達なんだろ」

    陽子「……そうだよ」コクリ

    子A「話、聞いてあげた方がいいぞ」

    陽子「うん……」


    子A「それじゃな、大宮さんたち」

    子B「また後で」

    陽子「……」

    アリス「カレン、大丈夫かな」

    「やっぱりあれって……」

    「泣いて、ました」

    「目が潤んでました……」

    陽子「シノ……」




    ――それから


    放送「これにて、第〇〇回文化祭を、終了します!」

    アリス(放送……)

    アリス(そっか、これでおしまい)

    「お疲れ様、みんな」

    陽子「これで後は片付けだな!」

    アリス「うん、そうだね……みんなお疲れ様」

    397 = 38 :

    「はい、お疲れ様――」

    「あっ、携帯電話が……失礼します」カチカチ

    「……」ピクッ

    アリス「?」


    「皆さん、ごめんなさい」

    「少し、席を外しますね」ペコリ

    陽子「? どうかしたのか、シノ?」

    「いえ――」

    「すぐに戻りますから」タタタッ

    「あ、し、シノ?」キョトン

    アリス「……」


    陽子「まぁ、なにはともあれだ」

    陽子「片付けよう、二人とも」

    「……ええ、そうね」

    アリス「う、うん」


    アリス(……あ)

    アリス(そろそろ、ゴミが溜まっちゃった)

    アリス「陽子、綾。ゴミ箱、捨ててくるね」

    陽子「お、サンキュ……でも」

    「重くないかしら」

    アリス「大丈夫だよ。今、捨てにいくなら私一人でも」

    アリス「それに、みんな忙しそうだし」ニコッ

    陽子「そっか、それなら頼む」

    アリス「うん!」ヨッコラセ


    アリス(……ゴミ捨て場は)テクテク

    アリス(うん、あった。あそこだ)

    アリス(……シノ、どこへ行っちゃったんだろう?)

    アリス「よいしょ、っと」

    アリス「ふぅ、これでおしまい――」


    「……シノ」「カレン……」


    アリス「!?」ピクッ

    アリス(こ、この声は……)

    アリス(裏庭、だよね?)

    398 = 38 :

    アリス「……」

    アリス(カレン――やっぱり)キュッ


    カレン「少し、このままでいさせてくだサイ……」

    「……」

    「わかりました。大丈夫ですよ、カレン」ナデナデ

    カレン「……シノ」ギュッ



    アリス(カレンが、シノにハグしていた)

    アリス(私は動揺するより先に、納得してしまった)

    アリス(仮に私がカレンの立場でも、同じことをしたと思うから……)


    アリス(――でも)

    アリス「シノ、カレン……」

    アリス(やっぱり、すごく複雑な気持ちだった――)キュッ

    399 = 38 :

    ここまでになります。
    カレンの演劇まで、一気に書きました。

    今回で一応、文化祭の行程自体はおしまいです。
    色々とすっ飛ばした感は否めないですが、ご容赦下さい。
    次回は、忍視点でカレンとの会合を書きたいと思っています。

    それでは、また。
    いつもお読みいただきありがとうございます。

    400 :

    乙です。
    次回の更新がとても楽しみです!


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