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    元スレ忍「隠し事、しちゃってましたね……」 アリス「……シノ」

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    501 = 56 :




    「……ありがとう、ございましたっ!」


     ビクッとした。
     コーチや監督に怒号を飛ばされた時のように、身体が震えた。
     その声は、そういった人の野太いものに比べて、ずっと甘かったのに――


     ゆっくりと、振り向く。
     そこにはベンチから立ち上がり真剣な表情をしている、大好き「だった」相手の姿があった。
     自分も寒いだろうに、その姿からは全くそういった気配を感じさせない。


    「わ、私もっ! 『好き』っていうことが、よく分かっていませんでした!」
    「……!」
    「でもっ! いざ私がこ、告白されて……それでやっと分かりました!」


     真剣な佇まいでありながら、緊張は全く隠せていない。
     さっきから相手の口から出てくる言葉は、何だかまとまりのないものに感じられた。


     でも彼の心に、ビシビシと響いてくる力は、たしかにあった。


     コホンと、「彼女」は一息ついて、ゆっくりと言う。


    「私は、えっと……そ、そちらとはお付き合いできません。ですが……」


     そこで、相手としっかりと視線を合わせ、



    「そちらが気づかせてくれなかったら、私は……きっと、幸せにはなれませんでした。本当に、そう思います」



    「……」


     最後まで、相手の話を聴いた。
     もし、彼が複雑な心境になっても無理はないだろう。
    「自分が告白されなかったら、相手を『好き』だとは分からなかった」と言われても、どう反応すればいいのか。



    「――参ったな」



     クルッと、相手に背を向けた。
     後ろで、ピクッと反応する「彼女」の姿が目に見えるようだった。


    「大宮さん。そういうこと、言われちゃうと」


     大丈夫だ、まだ口調に変化はない――
     しっかりと、最後まで伝えなくては。

    502 = 56 :



    「嬉しくなったり悲しくなったり、どうすればいいか分からなくなるって」
    「……ごめんなさい。それでも、絶対にお伝えしたかったんです」


     彼の背に、「彼女」の言葉が被さってくる。
     それを聞きながら、思った。
     きっと「大宮忍さん」も、どう伝えればいいかで悩んだんだろう、と。
     ただ断れば済む所を、しかしそう割り切ることは出来なかったんだろう、と――。


    「……あのさ、大宮さん」
    「はい」


     再び、彼は相手と視線を合わせる。
     彼の表情を見て、「彼女」は少しだけピクッとした、ように見えた。
     正確には、彼の目元を見て――


    「もう一度、言うけど……」


     気づけば、辺りは少しだけ明るくなっていた。
     太陽は雲に挟まったり、その外に出たりしていた。
     折しも今、太陽は完全に雲から離れていた――


    「絶対に、幸せに、なってくれ」


     言葉を区切りながら言って、笑顔を見せる。
     目元を少しだけ潤ませながら、しっかりと。


    「……はい。お約束、します」


     相手――大宮忍も、笑った。
     それだけで、彼にとっては十分だった。
    「じゃあな」と二度目の別れの挨拶をして、彼は公園を出て行った。
     その背中は、最後までしっかりと伸びていた。

    503 = 56 :




    ――公園


    「……」

    「お疲れ、シノ」

    「――お姉ちゃん」

    「大丈夫だった、みたいね」

    「……はい」


    「――さっき、相手の子とすれ違ったわ」

    「……」

    「声は出してなかったけど……泣いてたわ」

    「そう、ですか……」

    「――でもね」

    「何だか……清々しい感じでもあったの」

    「――!」

    「いい子、だったのね……」


    「それを見て、『あーあ。シノ、もったいなかったかもなぁ』って」

    「ちょっと、思っちゃった」クスッ

    「――もう、お姉ちゃんったら」ニコッ

    「私は、あの方とお約束したんですよ?」

    「え、なになに?」

    「それはですね……」




    ――


    「あっ、もしもし?」

    「前に話した子なんだけど……振られちまったよ」

    「いやー、イケるとちょっと思ったんだけど……そんな上手くいかねえよなぁ」

    「え、慰め会? いやいやいいって、そんな気を遣わなくて――」

    「……そんなに言うなら、後でサイゼ行くか。うん、それでいいよな」

    「ありがとな……ああ、後さ」



    「――ありがとな、学園祭に誘ってくれて」

    「おかげで、あの子を好きになれた。ホント、ありがとう」

    「……え?」


    「『あーあ、あたしも彼氏ほしいなぁ』って……」

    「『どう思う?』なんて言われてもなぁ……うーん」

    「……っていうかお前、いつもそればっかだな」クスッ

    504 = 56 :




    ――



    (……絶対に)

    (絶対に、幸せになります。だから……)


    (いつか、そちらも――)



    (幸せに、なってください……)

    505 = 56 :

    以上、『告白のお礼』でした。
    今回、カレンとアリスはお留守番です。期待された方がいらっしゃいましたら、申し訳ありません。
    帰宅したシノにハグしている彼女たちの姿を想像して頂ければ幸いです。
    次回は、思い切り動いてもらう予定です……「予定」ですね。

    ただでさえオリキャラを投入してしまっているので、本来ならこのパートはもう少し短くしてサッパリと終わらせるつもりでした。
    でも書いてみたら、思った以上に感情移入してしまい、長くなってしまいました。
    いつか彼もシノが言っているように「幸せになる」でしょう、きっと。

    ……最後まで、彼はシノの「正体」は分からないままです。
    「相手の女子から教えてもらってるんじゃ?」という疑問を持たれた方、どうかお見逃しを……。


    長文になってしまいました。それでは、この辺で。
    二期まで一ヶ月を切りましたね……楽しみです。

    506 :

     ――私たち、一緒にいることになりました。


     シノからそんな知らせが私たちのもとに届いたのは、文化祭から間もない時のことだった。
     後で聞いたら、どうやら私だけでなく陽子もちょっと困ったらしい。
    「どうして困ったの?」なんて聞くつもりもなかった。
     きっと、私と彼女の「困った理由」は、ほとんど同じものだろうから。


     というわけで、私たちは――




    『幼なじみ 再考』



    ――高校


    カレン「シノ!」

    「なんですか、カレン?」

    カレン「……」チラッ

    カレン「あっちの席で、Coupleが『アーン』っていうのをしてマス」

    「……ああ、お二人はお付き合いしてるみたいですから」

    カレン「というわけで、シノ」

    カレン「私にも――」ジッ

    「あっ……」

    「カ、カレン……」モジモジ


    アリス「カ、カレン!」

    アリス「シノが困ってるからダメだよ!」

    カレン「Hnn……そうデスカ」

    カレン「――アリスがさっきから、あっちの方をチラチラ見てるカラ」

    カレン「私も、乗っからせてもらったのデスガ……」

    アリス「き、気になるのはホントだけどっ!」アセアセ

    アリス「――もう、お家でずっと、甘えてるでしょ?」

    カレン「……アリスは優しいデス」ニコッ

    カレン「それじゃ、シノ。『アーン』はまた今度、というコトデ」

    「」

    アリス「あ、固まってる……」

    507 = 56 :

    陽子「……」

    「……」

    陽子(ああ、そうだった)

    陽子(私たちは、いつも通り一緒にお昼ご飯を食べている)

    (……でも)

    (何だか――)



    「――あ」ハッ

    「だ、大丈夫です」

    「私はずっと、お二人と一緒に『幸せになる』と決めたのですから……」ニコッ

    カレン「……嬉しいデス」

    「ええ、カレン」

    カレン「そういうことなら、えっと……」

    カレン「――や、やっぱり、『アーン』って」

    「……」カァァ

    アリス「カレン!」

    カレン「……アリスは、おカタイデス」

    カレン「もしかして――アリスも恥ずかしいのデスカ?」

    アリス「……そ、それはっ」カァァ

    「お、お二人とも」

    「……そ、そういうのはお家の中で、ということではいけませんか?」

    カレン「――シノ」


    「た、たしかに」

    「私は、あの日に『彼』とお会いしてから、お二人に対する覚悟を決めました」

    「……で、でも。やっぱりまだ、恥ずかしいです」

    アリス「……シノがそうしたいなら、それで大丈夫だよ」

    「アリス……」

    アリス「――だって」

    アリス「シノは、私『たち』の大切な……」

    アリス「お相手……だから」カァァ

    カレン「Yes! シノは私たちのPartnerデスッ!」

    「――あ、ありがとうございます……」モジモジ


    (――三人だけの世界が作られてるような……)

    陽子(いやまぁ……私も綾も、『相手』はいたことないから分からないけど)

    (お話で見た時も、こういう感覚はあったみたいね……)

    陽子(きっと綾と今の私は、同じような気持ちなんだろうなぁ……)

    508 = 56 :

    カレン「……あっ、そうデシタ」ポンッ

    カレン「シノ、アリス? 今日の放課後は、空いてマスカ?」

    アリス「……え?」キョトン

    「放課後、ですか……ええ、空いてます」

    カレン「――じ、実ハ」

    カレン「パ、パパが……アリスとシノに会いたいみたい、デス」

    「――あ」

    アリス「――そっか」

    カレン「ハイ。良かったら今日の放課後……お願いできマスカ?」

    アリス「うん、勿論!」

    「ええ、大丈夫です」

    カレン「All right! 安心しマシタッ!」ニコッ

    「……ということはもしかしたら」

    (アリスの、お母さんも……)


    陽子「……」

    「……」

    陽子(――シノとアリスと、カレンのお父さんが)

    (……『娘さんを、ぼくに下さい』?)

    (い、いや! 発想が飛躍しすぎでしょ、私っ!)ブンブン


    カレン「シノ、大丈夫デス。前みたいに、パパにケツイを示す必要はありマセン)

    「そ、そう、ですか……」

    (――って、もう実行済み!?)ビクッ

    陽子(うひゃあ……何だかシノが遠くに行っちゃったような気がする)


    カレン「――それでは、シノ!」

    カレン「また後でお会いしまショウ!」

    「……は、はい」

    アリス「ねえ、カレン……もしかして」

    カレン「アリス? そこから先はSecretでお願いシマス!」

    アリス「――そっか、わかったよ」


    カレン「それじゃ、マタ――oops!」

    陽子「?」

    「?」

    509 = 56 :

    カレン「Sorry、お二人トモ……」

    カレン「今日、シノやアリスとばかりお話ししてしまいマシタ……」

    カレン「――ゴメンナサイ」ペコリ

    陽子「いやいや、いいってカレン」

    「ええ、そうよ」

    「その――シノと、『一緒にいる』ことを決めたんでしょう?」モジモジ

    「それだったら、会話が多くなるのも無理ないわ」

    カレン「……Thanks、お二人とも」ニコッ

    カレン「それではマタッ!」


    「……行っちゃいましたね」

    アリス「うん……」

    陽子「……ってことは」

    陽子「シノ。今日は、私たちと一緒には帰れない、のかな?」

    「あっ、陽子ちゃん……ごめんなさい、そういうことになるかと」

    「――あちらのお父さまに呼ばれたら、お断り出来ませんし」アセアセ

    「たしかに、それもそうよね……」

    「綾ちゃんも、ごめんなさい」

    「ううん、気にしないでシノ」

    「――ちょ、ちょっと遠くに行った気がしただけだし」カァァ

    陽子(それは綾にとって「ちょっと」なのかな……?)


    アリス「ヨウコ、アヤ……」

    アリス「ごめんね」

    陽子「え、アリスまでどうかした?」

    アリス「――いや」

    アリス「だ、だって」


    アリス「『幼なじみ』のシノを、私とカレンがその……と、取っちゃったから」


    陽子「……」

    「……アリス」

    アリス「ご、ごめんね。おかしなこと言っちゃって」

    陽子「――いや、大丈夫だよアリス」

    「わ、私たちは……シノやあなたたちが」

    「幸せになってくれれば、それで――本当に嬉しいんだから」ニコッ

    陽子(……綾)

    510 = 56 :

    アリス「……あ、そっか」

    アリス「きっと――私は今日、向こうにお泊りすることになるかも」

    「ええ……きっと、そうなるでしょうね」

    アリス「シノ、どうする?」

    「――私、は」

    「そうですね、少し考えたいと思います」

    アリス「うん、それでいいと思うよ」

    「ええ」コクリ


    「……」

    陽子「……」

    (シノが、ご挨拶を……)

    陽子(もうすでに、一度済ませているらしいとはいえ……)


    (……本格的に)

    陽子(シノが――『女の子』と、付きあおうとしてるんだな……)









     ――それから、放課後を迎えた。


     カラスちゃんの話を聞いてから、私たちはいつも通り下校した。
     その間に、シノたちはカレンのマンションへと向かっていった。

     で、私と綾は、互いの家に帰った。
     実のところ、かなりモヤモヤした感覚は残っていたけど……


    (ま、あの三人なら大丈夫か)


     と、自分で納得することにした。
     きっと、綾もそんな風だったんだろう。



     少ししてから、メールが来た。
     差出人は、私たちの大切な友達。
     宛先を見るに、どうやら私だけじゃないらしい。


     メールを開くと、そこには――



    『陽子ちゃん、綾ちゃん。
     出来たらでいいのですが……今夜、お会いできませんか?』

    511 = 56 :

    一旦、ここまで。
    次回でおしまいになるか、もしかしたらもう少しかかるかもしれません……
    それでは。

    513 :

    今夜会う(意味深)

    514 :

    ――ボクは、男です。


     生まれて初めて、世界が反転するような感覚を味わった。
     頭が地面に、足が空に、そして身体が浮遊して……。


     私は頭をクラクラとさせながら、目の前で恥ずかしそうにしているおかっぱ頭の『女の子』を見る。
     女の子――大宮忍、さんは少し照れくさそうな笑みを零していた。
     ほんのりと赤く染まった頬。
     柔らかい立ち居振る舞い。
     髪こそ短いものの、どこからどう見ても「女の子」そのものだった。


     ――その……男子、苦手だって言ってたよね?


     ついつい見とれていると、すぐ近くから声がした。
     綺麗な赤髪の子――猪熊陽子、さんだった。
     いつものハキハキとしたトーンが、少し落ちていた。


     ――シノは男子だけど、私の大切な……ホントに大切な友達なんだよ


     そう言いながら、猪熊さんは大宮さんを見つめる。
     その視線に、大宮さんも応えた。
    「優しさ」という言葉は、今のこの二人に完璧に一致するといっても間違いないだろう。
     見てる私まで、少しドキッとした。


     ――で、なんだけど。シノも一緒にいて大丈夫かな、って


     その時の猪熊さんの表情を、私は今でもよく覚えている。
     口元は綻ばせたまま、普段強気な目元を少し垂らし、視線は私一直線。


     羨ましい、と思った。
     何が? と聞かれると困るけど、本当に何となく。
     この二人が……とても羨ましく感じた。


     コホン。
     私は一息つくと、二人の「女の子」に向けて――



    「……う、嬉しい、です」

    515 = 56 :




    『幼なじみ 再考 後編』



    ――大宮家・忍の部屋



    「えっと……今日は、わざわざありがとうございます」ペコリ

    陽子「堅苦しいって、シノ」

    「そうよ。私たちがあなたの相談事を断れるわけないじゃない」

    「お二人とも、本当に……」


    陽子(結局)

    陽子(明日は学校が休み、ということもあって)

    (話し合った結果、シノの部屋が集合場所になった)

    (もし、相当遅くにまでなったら、泊めてもらうようにお願いした)


    陽子「――それで?」

    「何か、あったの?」

    「……じ、実は、ですね」

    「そ、その――」


    「私、もしかしたら……日本から離れちゃうのかも、って」



    陽子「……あ」

    「そう、なのね……」

    「……あまり驚いてませんか?」

    陽子「うん……まあ」


    「あの二人と一緒にいる、のなら」

    「……もしかしたら、シノがイギリスに行くことも有り得るのかなー、って」

    「そんなことは、思ってたの」

    陽子「私も……それだったらシノ、カラスちゃんに特別授業申し込まないとなーとか」

    陽子「考えたりしてた」クスッ

    「うう、陽子ちゃん……耳に痛いです」ウルッ


    「――それで、ですね」

    「えっと……色々とこんがらかっちゃうんですけど」アセアセ

    陽子「大丈夫大丈夫、夜は長いから」

    「陽子……あなた、また夜更かしを」ジトッ

    陽子「もう、綾は優等生すぎるって」

    「そ、そんなことは……」アセアセ

    (――ああ、落ち着きます)

    (このお二人といると……凄く)

    (……ああ、私は本当に)

    516 = 56 :

    「……カレンのお父さんと、アリスのお母さん」

    「お二人に、まず『イギリスに来る気は?』といったことを尋ねられました」

    陽子「なるほど……」

    「シノは、なんて?」

    「――すぐには、応えられませんでした」

    「イギリスは、お二人もご存知の通り私にとって大切な場所です」

    「でも、すぐにはお返事が……」モジモジ

    陽子「うーん……そうだよねえ」

    「無理もないわよね」


    「――『ずっと、一緒にいる』」

    陽子「……あ」

    「シノ……」

    「『そう、言っていたね。それは』――」



    「『結婚、を意味しているのかな?』」



    陽子「!」

    「!」

    「……と、カレンのお父さんが尋ねました」

    「恥ずかしながら、私はそこで固まってしまって」

    「一分が何十分くらいに感じてしまいました」カァァ

    陽子「……け、結婚」

    「シ、シノが……?」


    「い、いや! 落ち着きましょうっ」ブンブン

    陽子「……あ、綾が一番落ち着いてないって」

    「あ、あなただって、声が裏返ってるじゃないの」

    陽子「う……」アセアセ

    「綾ちゃん……」


    「そ、それで」

    陽子「な、なんて応えたんだ?」

    「……固まってしまった後」

    「――『本当に有り難いのですが』」

    「『私はまだ、あのお二人と結婚するという決意は出来ていません』」

    「『今は、こうしてお二人のことを前よりも、もっと深く知っていきたいし、そういう時期と私は思っています』」

    「……といった感じでした」

    陽子「す、凄いな……」

    「な、何だか、一足跳びにシノが遠くへ行っちゃったような気さえするわ……」

    「い、いえ! 実際は噛み噛みで、とてもとても……」アセアセ

    陽子「もし、そうだとしても」

    「……凄いわ。シノ」

    「うう……」カァァ

    517 = 56 :

    「……」ジッ


    ――この学校のこと、分かりますか? それならボクが教えて――


    (……誰よりも早く、私に声を掛けてくれたのはシノだった)

    (あの時はシノには失礼なことに、結局、成り行きで陽子に頼りきりになっちゃったけど……)

    (当時から、シノの積極性とか気配りは凄いと思ってたのよ……)

    (この前の文化祭の時だって……あなたがあんなことを言ってくれなかったら……)


    「? 綾ちゃん?」キョトン

    「……シノ、ちょっといい?」コホン

    (だから――)


    「――私も、よく知らないことだけど」


    (今度は私が……助ける番、よね?)



    「イギリスって、その……『一夫多妻制』じゃないわよね?」

    「いっぷたさい……」

    陽子「えっと……『一人の男の人相手に、女の人は何人でも結婚できる』みたいな感じじゃないかな」

    「なるほど……一つ、勉強に」


    「あ」ハッ

    「気付いた、シノ?」

    陽子「――ってことは」

    「私……あのお二人と結婚できないじゃないですか」モジモジ

    陽子「そうなるよなぁ……」

    「――いえ、でも」

    「そのことをイギリスに住んでいるお父さん方が知らないわけない、わよね」

    陽子「あ、そっか……」

    「そ、それでは、どうして……?」

    陽子「――ね? 名探偵綾?」

    「そ、その呼び方やめてってば」アセアセ

    陽子「文化祭で見せたキレを、もう一度お願い」

    「……文化祭で見せた?」キョトン

    「シ、シノ、なんでもないのよ」カァァ


    「……えっと」

    「実際は結婚できないにも関わらず、シノが結婚できるか聞いてきた」

    「それをシノに聞く理由――」

    「……そういえば、シノ。あなたがお話ししている間、アリスたちは?」

    「あっ、お二人はお風呂に入ってました」

    陽子「……つまり、シノだけを相手にしていたんだ」

    「はい」コクリ

    「――そういうことなら」

    518 = 56 :

    「もしかしたら」

    「はい」

    「……あの二人が、シノの近くにいたら」

    「そんな質問をされてシノが困ったら、すぐに突っ込みを入れて」

    「あやふやなまま、なし崩し的にお話が終わっちゃうだろうから……」

    「シノが――あなたが、心からどう思っているのかを相手は聞きたかったんじゃないかしら」

    「私、が……」


    「アリスとカレン」

    「……その二人をどう思っているのかって、きっと相手の親御さんは凄く気にすると思う」

    「きっと、何度確認しても足りないくらい……」

    陽子「そっか、だから――」

    「辻褄の合わない質問をしてでも、何度も確認したいんだと思うの」

    「……わぁ」


    「綾ちゃん、凄いです」

    「私――頭の中がボーっとしてしまって、何も思いつきませんでした」

    「……ありがとう、シノ」

    「でも私は、シノに『お返し』ができてないから」モジモジ

    「?」

    「いつも私を励ましてくれる、あなたに」

    「……少しは『借り』を返せているのかしら?」ニコッ

    「――綾ちゃん」ニコッ


    陽子「……」

    陽子「はぁ……」タメイキ

    『みんなー? お風呂、湧いたわよ』コンコン

    「あっ、お姉ちゃん!」

    『開けるわよ』ガチャッ


    「やっほー、陽子ちゃんに綾ちゃん」

    陽子「イサ姉……」

    「こ、こんばんは」

    「……」

    「お風呂、誰が一番先に入る?」

    「――あ」


    「そ、それなら、私でもいいでしょうか?」

    陽子「うん、いいよ」

    「どうぞ」

    「ありがとうございます」

    「それでは」ペコリ

    519 = 56 :

    陽子「……」

    「……」

    「――何だか、シリアス?」クスッ

    「ええ、少し……」

    「その――勇さんも、今の話を?」

    「そうね。あなたたちが来てくれる前に、私と私たちのお母さんには話してたわ」

    「――『結婚』なんて言葉が出てきたら、さすがに保護者には、ね」

    「そう、ですよね……」


    陽子「……」タメイキ

    「どうかした、陽子ちゃん?」

    「さっきから溜息が多いわね」

    陽子「――いや、なんだか」

    陽子「最近、自信をなくしそうになるからさー」

    「自信?」

    陽子「だって……」


    陽子「この前」

    陽子「シノが、アリスとカレンと一緒にいることで、すっごく悩んでた時」

    陽子「……私、シノに何も言えなかったんだよ」

    「……へぇ」

    陽子「結局、偶然会ったヤツらに背中押されて、アリスたちとこういう関係になってシノの悩みは消えたみたいだし」

    陽子「文化祭の時だって今だって、私はシノのこと……支えられてるのかなって」

    陽子「最近じゃ、綾の方がずっと凄いしさー」

    「……陽子」

    「陽子ちゃん」

    陽子「イサ姉……」


    「……可愛いわね」クスクス

    陽子「……へ?」キョトン

    「い、勇さん?」ピクッ

    「いやー、たしかに陽子ちゃんはシノといた時間なら、私たち家族の次くらいに長いし」

    「きっと、『シノのことなら何でも知ってるはず』って思ったりしてるでしょ?」

    陽子「そ、そんなことは……」アセアセ

    陽子「ちょびっとある、のかも……」カァァ

    「……そう、なのね」

    「何だか、そうやって自信持っちゃってると」

    「きっと、どこかで空回りしちゃうと思うの」

    陽子「――う」

    520 = 56 :

    「……私だって、そうよ」

    陽子「イサ姉が?」

    「だって」

    「……陽子ちゃんと一緒で、私だってあの時」

    「シノたち三人が一緒にいるように、背中を押しきれなかったから」

    「そ、そこは、陽子も勇さんも……シノは、その、『男子』ですし」

    「その時、話していた相手も男子、ということは聞いています」

    「そういう面でちょっと不利? でも……仕方ないと思います、けど……」

    「ありがとね、綾ちゃん。でも――」

    陽子「うん。やっぱり……何だか悔しい、ような」モヤモヤ

    「そう、悔しいのよね」クスッ

    「そ、そういうものなんですか……」


    「――ただ」

    「その……」チラッ

    陽子「綾?」キョトン

    「よ、陽子がいなかったら、色々と大変だったと思います」

    「私とシノを引き合わせてくれたのは……陽子、あなたよ」

    陽子「……それ、は」

    「自信、持って」

    「文化祭の時、『本調子でいてくれないと困る』と言ったでしょ?」

    「私だけじゃ、色々と限界だし、それに――」

    陽子「??」


    「あ、あなたが元気でいてくれなかったら、落ち着かないのっ!」カァァ


    「……あらあら」

    陽子「綾……」

    「――ああ」

    「もう、恥ずかしい……」カァァ

    (綾ちゃんったら……)

    (シノのことも陽子ちゃんのことも、大好きなのね……)


    陽子「綾、ありがとな」ナデナデ

    「!?」ビクッ

    「な、何を……?」

    陽子「いやぁ」

    陽子「――何だか、文化祭が終わってから」クスッ

    陽子「かっこよく見えることが増えちゃって……つい」ナデナデ

    「あ、あなたねぇ……!」カァァ

    (――大好き、か)

    521 = 56 :




    ――大宮家・浴室


    「……」チャプン

    (――相変わらず、平らな身体です)ペタペタ

    (陽子ちゃんのように、出る所が出ているような体つき)

    (昔も、それに今も憧れています……でも)


    「私は、これで……」

    (いいんですよね、アリス、カレン?)チャプン




    ――その頃・九条家



    アリス「……」タメイキ

    カレン「アリス、溜息つきすぎデス」

    アリス「だ、だって……」


    『……あ』

    アリス『シノッ! お話、終わった?』

    カレン『お風呂から出マシタッ! シノも――』

    『ご、ごめんなさい、お二人とも……』

    『す、少し――考えたいことが、ありまして』

    カレン『?』

    『で、ですからっ!』

    『ま、またのちほどっ!』ダッ

    アリス『――シノ!?』


    アリス「――結局」

    アリス「あれからしばらく経つのに、メールも来ないし」

    アリス「私、ちょっと怒ってるんだよ?」プンスカ

    カレン「What?」

    アリス「だって――」


    アリス「悩みがあるのなら」

    アリス「私たちに相談してくれればいいのに……もう」

    アリス「私たちとシノは『パートナー』なのに……」

    カレン「――アリスはCuteデス」クスッ

    アリス「……カレン? バカにしてない?」ジトッ

    カレン「NoNo」

    カレン「『おませさん』でも多分いいんじゃないでショウカ……」ニヤニヤ

    アリス「カレン!」プンスカ

    522 = 56 :

    カレン「……Maybe」

    カレン「シノにはきっと、事情があったと思いマス」

    アリス「事情?」

    カレン「私のパパやアリスのママ」

    カレン「二人と話したことは――もしかしたら、私たちには話し辛いことだったのかもしれマセン」

    カレン「アリス? そういう時、アリスは無理してシノから聞き出したいデスカ?」

    アリス「……うう、それは」モジモジ

    カレン「私は、シノのこと信じてマス」

    カレン「もしもホントに困って、私たちの手も借りたいということになったナラ……」

    カレン「その時、アリスも一緒にHelpしまショウ?」

    アリス「……」


    アリス「うん、そうだね」

    アリス「……何だかカレン、かっこいいよ」ニコッ

    カレン「アリスは時々、Calmじゃなくなりマス」

    アリス「れ、冷静じゃない……?」アセアセ

    カレン「Yes」

    カレン「ちょっと頭がカッとなってしまうと、なかなかやり直しがきかなくなるみたいデス」

    カレン「……シノのことにナッタラ」

    アリス「そ、それは――」カァァ


    カレン「But」

    カレン「アリスとは違っても、私にだって似たような所ありマス」

    カレン「そういう時、アリスは昔から何度も助けてくれマシタ」

    カレン「――今でも、『お姉ちゃん』って思うことある、って言ったら信じてくれマスカ?」

    アリス「カ、カレン……」



    カレン「……いいデスカ、アリス?」


    カレン「私たち三人は――『チーム』デス」


    アリス「……!」

    カレン「私はシノが困った時、アリスが困った時に助けマス」

    カレン「だからアリスは――私が困った時、シノが困った時に助けてくだサイ」

    カレン「シノは私たちから言わなくても、私やアリスが困っている時、絶対に放っておきマセン」

    カレン「いいデスカ?」

    アリス「……」


    アリス「お安いご用だよ、カレン!」ニコッ

    カレン「それでこそ『お姉ちゃん』デス、アリス!」ニコッ

    523 = 56 :

    ちょっと長くなった感がありますが、ここまでです。
    綾のどこが探偵なんだ、と書いていて何度も突っ込みを入れたくなりましたが、とりあえず混乱してるシノの考えを
    整理してあげている感じでした。

    今回は三人が一緒にいることを決めた後で、幼なじみ二人+姉一人がどう感じているのかを書きたいと思っていました。
    特に陽子の描写を考えていたので、今回書けて良かったと思います。
    アリスとカレンについては、いつも通りなやりとりを繰り返して、少しずついろんなことを積み重ねているようなイメージでした。

    それでは。
    今回が比較的堅かったと思いますが、次回は柔らかい話になる予定です。

    525 :




    ――書店前



    「……」


    カレン父『そうか……結婚、するつもりはないか』

    『……い、今は、まだ難しいかもしれません』モジモジ

    アリス母『今は、ってことは……いずれ?』

    『……』

    『――結婚』カァァ

    アリス母『あら、真っ赤になっちゃった……』

    カレン父『無理もないか……』


    カレン父『――ところで、忍ちゃん?』

    『はい……?』ピクッ

    カレン父『結婚、するつもりがないなら、それはまあともかく』

    カレン父『――あの二人と、どうなりたいのか』

    『……』ハッ

    アリス母『うん、そうね。アリスとカレンちゃん』

    アリス母『……二人と、これからどうしていくのかは考えておいた方が……』

    アリス母『というよりは、考えてほしいかな』クスッ

    カレン父『――親として、ね』

    『――は、はい』

    『がんばり、ます……』ペコリ


    (あの日……お二人と話したこと)

    (結婚、という言葉が先走ってしまって、陽子ちゃんたちにも話せてませんでしたけど)

    (……考えてみれば)

    (アリスやカレンの親御さんが気にするのも、当たり前なんですよね……)


    「……そうと決まれば」

    (あの話をしてから、すぐに12月がやってきました)

    (12月といえば、陽子ちゃんと綾ちゃんと昔からイベントを開いてきました)

    (もちろん、12月の終わりの方の……)


    「クリスマス……」


    (クリスマスといえば、私にとっては陽子ちゃん、綾ちゃんと一緒に過ごす日でした)

    (もちろん、お姉ちゃんやお母さんたちもですけど……)

    (――とはいえ、今年は)


    「――クリスマス・デート」ボソッ

    「……」カァァ

    526 = 56 :



    ――書店内


    「……」

    (思った通り、クリスマス特集コーナーがありました)

    (いわゆるデートのことが書かれた雑誌類が揃っています)

    (『たまには県外! オススメの場所』『たまには贅沢? 美味しくてお洒落なお店』……)

    (……こ、これは、大人の人向けでしょうね)アセアセ

    (やっぱり、お財布は少し厳しいですし……)


    「……あ」ピタッ

    (『学生向け! 地域オススメデートスポット』)

    (……他の雑誌に比べると、かさばっていません)

    (それにお値段も……あと、何よりも)

    (『お財布が厳しいあなたに!』)

    (……これ、でしょうか)スッ



    ――忍の部屋


    「……」ペラッ

    (――なるほど、この場所ですか)

    (たしかにここは、カップルの方が多く集まっていますね……)

    (……あ、こちらの施設も)ペラッ

    「うーん……」

    (どこが一番いいのか、なかなかわかりません)

    (ああ、困りました……)アセアセ

    (たしかに、あまりお金がかからなそうな所を紹介してくれてるとは思いますけど……)


    アリス「シノー、お風呂上がったよー」ガチャッ

    「ひゃあっ!?」ビクッ

    アリス「わっ!? ど、どうかした?」ビクッ

    「い、いえ……その」

    アリス「……あ」

    アリス「シノ、何か読んでたの?」

    「……え、ええ、まあ」

    アリス「どんな本?」ニコッ

    「……」

    「ひ、秘密、です」

    アリス「……!」ハッ


    「――わ、私も!」ガタッ

    「お風呂に、入ってきますね」

    アリス「シ、シノ?」

    「……アリス」ピタッ


    「絶対に見たらダメですよ、絶対ですからね」アセアセ

    527 = 56 :

    アリス(――って、そんな何かのフリみたいなことを言いながら)

    アリス(シノはお風呂に入りに行った……)

    アリス「……秘密」チラッ

    アリス(シノが秘密にするもの)

    アリス(それって一体、なんなんだろう……)

    アリス(――シノは、『男の子』)

    アリス(男の子が、秘密にするもの……)


    アリス「――!!」ピクッ


    アリス(ま、まさか……!)

    アリス(えっちな本……!?)カァァ


    アリス「……」(←本に手を伸ばす)

    アリス「――!」(←すんでのところで押し留まる)

    アリス(ダ、ダメだよ、私!)カァァ

    アリス(シ、シノが嫌がることをするなんて、絶対ダメ!)

    アリス(……で、でも)

    アリス(シノ……どんな子が好みなんだろ)

    アリス(そ、そうじゃなくてっ!)ブンブン

    アリス(わ、私とカレンをおいて……浮気?)

    アリス(そ、そうでもなくてっ!)ブンブン

    アリス「……ああ」

    アリス(どうしようどうしよう……)アセアセ

    アリス(こんなに寒い時期なのに、暑いよぉ……)カァァ



    ――少し経って


    「ふう、いいお湯でした……」ガチャッ

    アリス「……」ズーン

    「ア、アリス?」

    アリス「――ねぇ、シノ?」

    「な、なんですか?」ビクッ

    アリス「……そ、その」

    アリス「シノが『秘密に』したいなら、答えなくてもいいんだけど……」

    アリス「あ、あの本って……えっと」モジモジ


    アリス「……えっちな、本?」カァァ


    「」ビクッ

    アリス「シノ……?」モジモジ

    「――!」ハッ

    528 = 56 :

    「い、いいえ! 決してそうではありません!」

    アリス「――でも、男の子が秘密にするのって」

    「そ、そうとも限りません! 多分!」

    アリス「……そ、そうなんだ」

    「……」


    (やっぱり、言ったほうがいいのでしょうか?)

    (隠したのも、何となく秘密にしておいた方がいいと思っただけですし……)

    (――でも、雑誌の中に『相手には秘密にしておいた方が効果てきめん!』なんて書いてありましたし)

    (……やっぱり、今は)


    「ごめんなさい、アリス」

    アリス「ううん、怒ってないよ」フルフル

    アリス「……えっちな本を読んでても、私はシノのこと嫌いになんてならないから」

    (うっ、そう言いながら何だかとても悲しそうな顔に……)



    ――翌日・校内の廊下



    (はぁ……)タメイキ

    (結局、休み時間になるたびに)

    (こうして隠れて、本を読み込んでしまってます……)ペラッ

    (でも、注意深く読んでも、結局どうしたらいいのかわからないままです……)

    (誰か、教えて頂けないでしょうか……でも、陽子ちゃんや綾ちゃん、それに二人の金髪少女も)

    (きっと、こういった本は読んだことがないと思ってしまいますし……)


    ――えっちな本を読んでても、私は――


    (……アリス)

    (アリスは、やっぱり今日も複雑そうでした)

    (健気に笑ってはくれるものの……不安そうで)


    「……どうしましょう」テクテク

    子A「うわっ!?」ドンッ

    「ひゃっ!?」ドンッ


    バサッ


    子B「だ、大丈夫か!?」

    子A「あ、ああ……って」

    子A「大宮さん……」

    「ご、ごめんなさい」アセアセ

    「本を読んでて気づけなくて……」

    子A「い、いや、大丈夫だよ」

    「うう……」シュン

    529 = 56 :

    子B「――あれ?」

    子B「本がめくれてる……」

    「あっ!」

    子B「――これは」

    子A「ま、まさか……」

    「――え?」


    子B「あ、ごめん。見ちゃって」

    「い、いえ……」モジモジ

    子A「……何だか、懐かしいな」

    子B「ああ――中学時代の思い出が」

    子A「トラウマじゃないのか」

    子B「うっせ」

    「もしかして、読んだことが?」

    子A「ん、ああ、まあ……」

    子B「俺も、まあ、一応……」

    「――」


    「あ、あの」モジモジ

    子A「ど、どうかした?」

    「――もし、なんですけど」


    「よろしければ、お昼休み……お時間を頂けませんか?」



    ――昼休み


    陽子「弁当だー!」

    「あなた、ほとんど食べ終わってるでしょ……」

    陽子「甘いね、綾。この時間のために、少しは残してるんだよ」

    「……まあ、陽子らしいわね」

    「でも、授業中に食べるのは――」

    陽子「た、食べないと、集中できないんだよ!」カァァ

    「陽子は変わらないわね……」タメイキ


    カレン「お邪魔しマース!」ガラッ

    アリス「あっ、カレン」

    「お疲れ様です」

    カレン「シノッ!」ダキッ

    「カレン」ダキッ

    アリス「――あ」ハッ

    アリス(わ、私……二人の間に入って、大丈夫なのかな?)

    アリス(昨日、シノを疑っちゃったし……それで朝も、何だかぎこちなくなっちゃったし)

    アリス(うう……)

    530 = 56 :

    「アリス」

    アリス「!」ピクッ

    「どうぞ」ニコッ

    カレン「ココ、空いてマス」

    アリス「――あ」

    ダキッ

    「あ、こんな隙間にすっぽり入っちゃいました」

    カレン「アリスは可愛いデス」

    アリス「……カレン」ジトッ

    カレン「素直に受け取ってくだサイ」

    アリス「むぅ……」

    「――こうして、三人で寄り添い合ってると、落ち着きますね」クスッ

    カレン「温かいデス……」エヘヘ

    アリス「うん……」ニコッ


    陽子「――別世界、いってんなー」

    「あの子たちが幸せそうにしてると、何だかこっちまで嬉しくなるわね」

    陽子「うん、それはそうだけど……何か寂しくない?」

    「否定はしないわ……でも」

    「陽子だって、嬉しさの方が寂しさを上回ってるでしょ?」

    陽子「……そうだなぁ」


    カレン「それじゃ、ランチタイムデス!」

    アリス「うん!」

    「――皆さん」

    「私、少し用事があるので、外に出ますね」

    四人「!」

    「ご、ごめんなさい……」

    「約束が、あるので」

    陽子「――あ、ああ」

    陽子「昼休み中には帰ってくるよね?」

    「はい」

    「それなら、ここで四人で待ってるわ」

    「行ってらっしゃい」

    「……ありがとうございます!」

    「それではっ」


    アリス「……ああ、シノが」

    カレン「Hnn……何かあるんでショウカ?」

    陽子「ほら、二人とも私たちと一緒に食べよう?」

    「お昼ごはんは楽しく食べるものよ?」

    アリス「陽子、綾……」

    カレン「Yes! それじゃ、たべマショウ!」

    アリス「……うんっ!」

    531 = 56 :

    一旦、ここまで。
    次回が終わったら準備段階終了、本番に移る予定です。
    ……正直、アリスの立場を思うと、気が気ではないかもしれませんね。

    それでは。

    532 :

    乙!
    アリスだけ悩んでてかわいそうだなww

    533 :




    ――図書室


    子A「……あ、来た」

    子B「おっす」

    「ど、どうも……」モジモジ

    「わざわざ、ありがとうございます」ペコリ

    子A「いやいや、大丈夫」

    子B「……だってさ」

    子B「一応、友達、だよな?」

    「……!」ハッ

    子A「まあ、『友達』の初デートだし」

    子B「協力するよ」

    「――あ、ありがとうございます」カァァ

    子A(うわ、照れまくってる……)

    子B(正直、外見だけだと男子を困らせるのには十分すぎるな……)


    「と、ところで」

    「ホントに図書室でいいんでしょうか?」アセアセ

    子A「ああ、大丈夫」

    子B「昼休み始まったばかりで、ほとんど人もいないから」

    子A「ちょっと声抑えてればいいって。この時期、外は大宮さんだってキツイだろ?」

    「……それもそうですね」


    「それでは、本題に……」

    子A「……懐かしい」ボソッ

    子B「というかこれ、ほとんど変わってねえな」

    「?」キョトン

    子A「あ、ごめん。こっちの話」

    子B「まあ、それはともかく……始めるか」

    「は、はい」

    「お願いしますっ!」スッ

    子A(おっ、小さめのノート……?)

    子B(それにボールペン……これは)


    「頑張ります……」ゴゴゴゴ


    子AB(本気だっ……!)



    子A「――それで」

    子A「俺が見た限り、このルートが一番良さげだった」

    子A「ほら、オシャレな店もたくさんあるし……」

    「たしかに……」カキカキ

    534 = 56 :

    子B「おい、ちょっと待った」

    子B「ここ、いいけど……想定金額見てみろって」

    子A「……う、まさかの」

    「……5桁、ですね」タメイキ

    子B「これ、安さを売りにしてるのは確かだけど、それでも幅あるんだって」

    子B「……なるべく、安いほうがいいんだよな?」

    「で、できれば……」コクッ

    子B「――それなら、こっちの」

    「ああ、そこは私も聞いたことが……」カキカキ

    子A「ああ、ちょっとめくらせてくれ。これもアリかも」

    子B「あっ、そういやここもあったか……」

    子A「かなりいいだろ?」

    子B「……いや、もう少し」

    「なるほどなるほど……」カキカキ



    「……」カキカキ

    「ありがとうございました」

    子A「いやいや、いいって」

    子B「途中からグダってた気がするけど、大丈夫だったか?」

    「ええ、本当にありがとうございました」

    「……凄く、嬉しいです」ニコッ

    子A(……ああ)

    子B(今更だけど……ホントに『男』なんだよな?)アセアセ


    「――ところで」

    子A「?」キョトン

    「お二人とも、その……」

    「どなたかとお付き合いされたことが?」

    子A「」

    子B「」


    子A「……中学時代」

    「は、はい」ピクッ

    子A「実は、好きなヤツがいて」

    子A「告白しようと思ってたら……えっと」モジモジ

    「……?」

    子B「ああ、相手にはもう彼氏がいたってオチ」

    「そ、それは……」

    子A「お、おい。最後まで言わせてくれって」

    子B「いや、辛そうだったし」

    子B「俺も似たようなもんだったしな。見ててキツい」

    「……そちらも?」

    535 = 56 :

    子B「まあコイツとはちょっと違うけど、似てるよ」

    子B「――相手に告白出来なかったってトコは、同じだし」

    「……!」


    ――あ、あの……凄く可愛いです――


    「……」

    (告白も出来なかった……というのは)

    (きっと――相当、辛いのでしょうね)


    子A「そうそう。それで、同じ本……今、大宮さんが持ってるヤツ」

    子B「それ使って、一緒にすり合わせて考えたんだよな」

    子B「――後で、全部ムダになるなんて知らずに」

    「そ、そんなことは!」

    「お二人にも、いつか……お相手が出来るはずです」

    「――こうして、親切に教えてくださるんですから」

    「その時は、この本のことだって、きっと使えるはずです」

    子A「……そ、そうかな」

    子B「だったら、いいけどなぁ……」

    「はい! 絶対です!」

    子A「――ありがとね」

    子B「何というか……高校に入ってから、相手の見込みすらないんだけどな」

    子A「俺もだなぁ」

    「そ、そうだったんですか……」


    子A(――思えば)

    子B(中学時代、俺やコイツが好きだった女子のタイプって……)


    「で、でも! お二人なら、いつかきっと……大丈夫だと思います!」カァァ


    子AB(今、目の前にいる子みたいな……)

    子A(まあ、もう相手いるし……)タメイキ

    子B(そもそも大宮さん、男だしなぁ……ああ)タメイキ

    「??」キョトン

    子A「それじゃ、そろそろ戻るか」

    子B「そうだな。飯食う時間、なくなっちまうし」

    「そうしましょうか」




    ――廊下



    子A「――あれ?」

    子A「お前、ほとんど休み時間中に食っただろ」

    子B「……そっちは授業中にな」

    「お二人とも、陽子ちゃんに似てますね」クスッ

    536 = 56 :




    ――教室



    カレン「……シノ、ちょっと遅いデス」

    アリス「な、長引いちゃってるのかな?」

    「大丈夫よ、二人とも。そう心配しないの」

    陽子「そうだよ、二人とも」

    陽子「すぐ帰ってくるって、シノのこと信じてあげなよ」

    カレン「わ、私は最初から信じてマス……アリスは心配性ですケド」

    アリス「カ、カレン!」


    「あ、帰ってきたみたいね」

    陽子「……あれ?」


    子A「それじゃ、そのルートでいい?」

    「ええ、ありがとうございました」

    子B「……まあ」

    子B「大丈夫だろ。あの二人なら、大宮さんと一緒にいるだけで幸せだろうし」

    子A「……恥ずかしそうだな」

    子B「うっせ」

    「本当に、ありがとうございました」ペコリ

    「それでは」

    子A「うん」

    子B「おう」


    「お待たせしましたっ」

    「お、お疲れ様」

    アリス「ちょっと心配したよ」

    カレン「『ちょっと』じゃなかったデス、アリス」ニヤニヤ

    アリス「……カレンだって不安がってたくせに」

    カレン「アリスほどじゃありマセン」

    アリス「……もう」プイッ


    陽子「……」ジッ

    子A「?」

    子B「なんだ、猪熊?」

    陽子「――いや」

    陽子「二人と一緒にいるとは、思ってなかったからさ」

    子A「いや、まあ……」

    子B「ちょっと、他人事とは思えなかったし」

    陽子「……そっか」タメイキ

    537 = 56 :

    子A「お、落ち込むなって」

    子B「そうだよ、偶然分かることだったってだけだし」

    陽子「べ、別に、そういうわけじゃ……」アセアセ

    子A「それじゃ、俺たち飯食うから」

    子B「沈むなよー」

    陽子「だ、だから……」


    「……何を話してたの?」

    陽子「い、いや……何でも」

    「……私は、陽子ちゃんのこと頼りにしてますよ」

    陽子「!」ピクッ

    「ホントです」

    陽子「……聞こえてた?」

    「ちょっとだけ」

    陽子「――照れるなぁ」カァァ

    「可愛いですよ」クスッ

    陽子「シ、シノ……」アセアセ


    アリス「……はぁ」

    アリス(昨日のえっちな――い、いや!)ブンブン

    アリス(シノの内緒にしてる本のことも……色々と不安だけど)

    アリス(昨日に比べたら気が晴れたみたいだし、良かった、かな?)カァァ

    カレン「……アリス、Hな気分デスカ?」

    アリス「う、うん、ちょっとだけ――」

    アリス「カ、カレン……!?」ビクッ

    カレン「アリスが何を考えてるノカ」

    カレン「表情を見てれば、分かりマス」ニヤニヤ

    アリス「わ、私は、別にHじゃ……」

    カレン「Really?」

    アリス「……め、Maybe」

    カレン「やっぱりデスカ」クスッ

    アリス「……もう」カァァ


    「……」

    (――やっぱり)

    (私、アリスを変な気分にさせてしまってたみたいです……)

    (何だか、悪いですね……でも)

    538 = 56 :

    アリス「そ、それじゃカレンも、え、えっちな……?」アセアセ

    カレン「アリス? 声が裏返りすぎてて何を言ってるのかわかりマセン」

    アリス「き、聞こえてるくせに……」


    (――あれ?)

    (なんでしょうか、こう……)


    アリス「カレンのバカぁ……」カァァ


    (今のアリスを見てると……ゾクッとする感覚が)

    (い、いえ! 私は何を考えてるんですか!)ブンブン



    「……今、一瞬だけシノの顔が変わったような」

    陽子「気のせいじゃないんだろうね、きっと……」

    陽子「――シノ、時々ああいう風になるからなぁ」ヤレヤレ

    539 = 56 :

    準備編、これにて終わりです。
    ずいぶん長引いてしまいましたね……二期始まる前に、クリスマス編は一段落させたいのですが、どうなることやら。
    最後にシノが鬼畜の片鱗みたいなものを見せましたが、おそらくこのSSのシノは基本的にどこかポンコツなままだと思います。

    陽子はこれからどうなっていくのか……。
    そもそも、以前書いたようにラッキースケベ的な描写は本当に書けるのか……。
    色々と不安要素はありますが、書いていきたいですね。

    それでは。
    このSSでの、久世橋先生の出番も近い……?

    540 :

    乙デスヨ
    鬼畜こけしネタくるのか……来ないのか

    541 :




    ――下校後・大宮家


    「……」

    アリス「シノ、今日は私が先にお風呂でもいいかな?」

    「あっ、大丈夫ですよ」

    アリス「……」

    アリス「あ」ピクッ

    「? どうかしましたか?」

    アリス「……い、いや」

    アリス「な、なんでも、ない、よ……うん」モジモジ

    (明らかに何かありそうです……)

    アリス「そ、それじゃ、お先にっ!」

    「は、はい……」


    「――どうかしたのでしょうか?」



    ――廊下


    アリス「……ああ」トコトコ

    アリス(シノが、えっちな……ううん)

    アリス(私に内緒にするような本を読んでる、ってことを思い出したら……)

    アリス(もしかして……シノ)

    アリス(こうふん、したいのかなって……)カァァ

    アリス(――前に、日本についての本で読んだことがあったっけ)

    アリス(女の人が男の人より先に入ったら……あ、後で)

    アリス「私のお湯、を……シノ、が」ボソッ

    アリス「……」カァァ

    アリス(そ、そんなことない、よね……うん)


    「――アリス?」

    アリス「わぁっ!?」ビクッ

    「どうかした? 凄く顔、赤いわよ」

    アリス「イ、イサミ……だ、大丈夫、だよ。うん」コクコク

    「――ははぁ」ジーッ

    アリス「な、なにかな?」ピクッ

    「わかったわ」

    「……シノに注意しないとね」

    アリス「ち、違うよ、イサミ! こ、これは……私が」

    「いいのいいの。少し、お話ししておきたいし」

    「それじゃ、ごゆっくりー」ニコッ

    アリス「……ああ」

    アリス「ごめんね、シノ……」カァァ

    542 = 56 :




    ――忍の部屋


    「で? アリスに何かしたの?」

    「な、何もしてません」アセアセ

    「……ふーん」

    「ところで、シノ?」

    「な、何でしょうか、お姉ちゃん?」

    「……そのカバー掛かってる本、買ったの?」

    「!」ピクッ

    (あっ、慌ててたせいで、隠しそこねました……)アセアセ


    「ね、見せてくれる?」

    「……そ、その」モジモジ

    「もしかして……Hな本?」

    「そ、そんなことは――!」

    「それで信じられると思う?」

    「……あ」ハッ


    「――いい、シノ?」

    「『男の子』が、そうやって強く否定する時は」

    「……女の子は、何か勘ぐっちゃうものよ」

    「特に、それが……そういう本絡みの時は」

    「――アリス」キュッ


    「どれどれ……ああ、この本」

    「し、知ってるんですか?」

    「ううん。クラスの子たちが読んでたなぁ、って思いだして」

    「……お姉ちゃんは、読んだことは?」

    「――私には、相手はいないしねぇ」クスッ

    「というわけで、私じゃ参考にならないでしょうね」

    「な、何だか、お姉ちゃんは、こういうこと絡みだと強そうですけど……」

    「……シノの中での私のイメージは、どうなってるのかしら」タメイキ


    「まあ、とにかく」

    「いい? あまりアリスを困らせちゃダメよ?」

    「……そ、それは思いますけど」

    「付き合い始めの時、一番怖いのは」

    「お互い、まだ感情のコントロールに慣れてなくて……それで少しギクシャクしたりして」

    「それで、色々とダメになっちゃうことなんだから」

    「――お姉ちゃん、本当に未経験なんですか?」キョトン

    「もう、シノったら。仕事柄、そういうお話を聞くことが多いだけよ」

    543 = 56 :

    「それじゃね」

    「……は、はい」

    「――まあ、ちょっと怖いことも言っちゃったけど」

    「アリスとカレンちゃんなら、シノから離れることなんてないと思ってるのよ」

    「……お姉ちゃん」

    「まあ、だからこそ……二人の気持ちも、きちんと考えてあげてね」ガチャッ



    パタン・・・



    「……」

    (お姉ちゃんは、本当に頼りになります……)

    (――この本)

    (もう、12月も1週目が過ぎました……)

    「……」



    ――少し経って



    アリス「……た、ただいま。シノ」

    「……アリス」

    アリス「え、えっと」

    アリス「は、入ってきても、大丈夫、だよ」アセアセ

    (ああ、声が上ずって……)

    アリス(――い、言えっこないよ!)

    アリス(お、お湯のこと、なんて……!)カァァ


    「――ちょっといいですか、アリス」

    アリス「……シノ?」

    「私、迷ってました」

    「……アリスたちに内緒で進めて、当日にビックリさせたいなって」

    アリス「――え?」


    「こちらの本、なのですが……」

    アリス「――あ」

    「中身は……」ペラッ

    アリス「……!」

    アリス(え、えっちじゃない……これは)

    アリス「……デ、デート?」アセアセ

    「そうです」

    アリス「……クリ、スマス」モジモジ

    「ええ」

    アリス「……」カァァ

    544 = 56 :

    「ごめんなさい、アリス」

    「そ、その……やっぱり私も、一応『男子』ですから」

    「――心配、かけてしまいましたよね」タメイキ

    アリス「シノ!」



    ダキッ!



    「――アリス?」

    アリス「い、今は、私の顔見ないで」

    アリス「……きっと、すごく恥ずかしいことになってるから」カァァ

    「そ、そうですか……」カァァ


    アリス「もう、シノったら……」

    アリス「シノがもったいぶったせいで、わ、私……」

    アリス「――変な気分に、なっちゃってたんだよ」

    「変な、気分……」

    (――って! わ、私は、何を想像してるんですか!)ハッ

    (す、少しだけ、興奮してしまいました……)アセアセ

    アリス「シノ?」キョトン

    「……ごめんなさい、アリス。ちょっと動揺してしまいました」コホン


    アリス「――ね、シノ?」

    「アリス?」

    アリス「シノのプラン作り、手伝おうか?」

    「……」

    アリス「――もし、一人でやりたいなら大丈夫だよ」

    「――アリス」

    アリス「あっ、気にしないで……それはね」


    アリス「私もカレンも……」モジモジ

    アリス「シノが一生懸命考えてくれた計画なら、嬉しくなるに決まってるから」カァァ

    545 = 56 :

     ――さて。

     どこまでも愛しくてたまらない「天使」を思い出しながら、私は今日を迎えました。
     期末試験というのものがあったような気がしますが、きっと何かの間違いでしょう……。
     仮に赤点だとしても、後悔はしません。
     というよりは、きっと全く後悔なんて出来ないと思います。


     なぜなら――


    「シノ! 待ってマシタ!」
    「わっ!」


     待ち合わせ場所に着いた瞬間、私の身体に心地よい重みがかかりました。
     確認するまでもありません。この金髪を見れば、それだけで十分です。
     そして、すぐ後に、とても芳しい香りが漂いました。
     ああ、今日もこの子は可愛らしい――


    「カ、カレン! 抱きつきすぎ」
    「もう、アリス? スキンシップは大事デス」
    「そ、それはそうだけど……」


     いつものようにやり取りして、いつものように笑ったり照れたりするお二人を見ながら、私は胸がいっぱいになる気がしました。
     そう。このお二人と、初めての――
     そんなビッグイベントを前に、勉強なんて出来るわけがないのでした。
     ……ごめんなさい、烏丸先生。


     いいえ、今日は勉強や試験のことは忘れましょう。
     この大好きなお二人と一緒にいられる嬉しさを噛み締めましょう。


    「……それではお二人とも、いきましょうか」


     そう言って、階段に向かいながら二人を振り返ります。


    「初めてのデート……クリスマスデートです」

    546 = 56 :

    ここまでです。
    二期が始まりましたね。書いている間に放映されていたようで、今から楽しみです。
    とはいえ、まさか二期が始まってからも続くことになるとは……

    今更ですが、このSSでシノたちの1年次の担任は烏丸先生という設定です。
    2年次から、どうなっていくのは未定です。

    それでは。
    次回は、クリスマスデート本番の予定です。

    547 :

    乙であります
    楽しみに砂糖吐く準備をしておこう

    548 :

    『12月24日 クリスマス・イブ』



    ――駅構内



    カレン「Uh、楽しみデス!」ニコニコ

    アリス「うん、そうだね、カレンッ!」ニコニコ

    「ふふっ――お二人とも、はしゃいじゃって……」ペラッ

    アリス「あ」

    カレン「シノ? その小さなノートハ?」

    「えっと……これは、魔法のノートです」モジモジ

    アリス「魔法、の……」

    カレン「Magical Notebook!」ビシッ

    「わっ、さすが綺麗な英語……」

    アリス「わ、私だって、出来るもん!」アセアセ

    カレン「アリス? こういうのは、最初にやった人の勝ちデス!」ニッコリ

    アリス「……むー」ジーッ

    (――本当に)

    (愛しくて、たまりません……)カァァ


    (さて……)

    (あのお二人と話した通りの目的地は――)

    「お二人とも、次の特急に乗りましょう」

    カレン「特急……」

    アリス「Special Expressのこと、だよ。カレン」

    カレン「Oh、ちょっと忘れちゃってマシタ」

    アリス「ふふっ、今度は私の勝ち」エヘン

    アリス「ね、シノ?」

    「――ええ」

    「アリスの英語も、とても可愛らしいですね」

    アリス「ありがと、シノー……って」

    アリス「か、可愛らしい……?」

    「あっ、もうすぐ電車が来ますよ」

    アリス「……シノ」ズーン


    カレン「――アリス」

    アリス「カレン……」

    カレン「やっぱり、アリスは――可愛い、デス!」ナデナデ

    アリス「カレン!」

    カレン「え? どうして怒るんデスカ?」

    アリス「わ、私だってシノに――綺麗、って」カァァ

    アリス「も、もういいっ!」プイッ

    カレン「……アリスはアリスデス」クスッ

    アリス「もう……」

    549 = 56 :

    「ごめんなさい、アリス」

    アリス「……シノ?」

    「アリスの英語も綺麗ですよ」

    アリス「……あ」

    「――でも」

    カレン「アリスの姿は可愛い、と、そう言いたいんデスカ?」ニコッ

    「さすがカレンです」ニコッ

    カレン「ふふっ、私はアリスのことはなんでも――」


    アリス「ふ、二人ともっ!」プンスカ




    ――『自然公園前』駅・改札



    アリス「……あ」

    カレン「綺麗、デス……」

    アリス(駅前には大きなクリスマスツリーが飾られていて)

    アリス(駅前の商店街の屋根には、カラフルなイルミネーションが施されている……)

    アリス(すっごく、オシャレだった――)


    「ええ」

    「えっと……この駅前商店街がイルミネーションを始めたのは今から10年程前。
      それから若いお客さんがたくさん来るようになって、活気が――」ペラペラ

    カレン「ワッ!? シノがガイドさんみたいニ……」ビクッ

    アリス「さすが、魔法のノート……」

    「……と、いうことみたいですね」パタン

    「若いお客さん、というのはつまり――」

    カレン「ツマリ?」

    アリス「つまり?」

    「――えっと」アセアセ


    「わ、私たちみたいな、カップル――」カァァ

    「そ、それでは参りましょう!」

    カレン「わ、やっぱり私タチ……」アセアセ

    アリス「カップル、なんだよね……」アセアセ




    ――商店街



    アリス「わぁ……」

    カレン「実際、中にはいってみるト――」

    「迫力、ありますねぇ……」

    「あ。このお店とか、どうでしょうか?」

    アリス「あっ、可愛いビーズ!」

    カレン「キラキラデス!」パァァ

    550 = 56 :

    「ふふっ」

    「……前に、お二人がこういうお品物が好きと話してましたから」

    アリス「……もしかして、シノ?」

    カレン「事前に……リサーチしてくれたのデスカ?」

    「勿論です」クスッ

    (図書室での打ち合わせが、本当に助かりました……)


    カレン「――シノ」

    アリス「大好き!」ダキッ

    「わぁっ!?」

    (だ、抱きつかれて――!?)

    カレン「……ハァ」ウットリ

    アリス「カレンも私も……一緒にハグしたくて、たまらなかったんだよ」

    「そ、そうです、か……あはは」


    「あらあら、仲良しねぇ」「最近は、友達同士でクリスマスを過ごすのかしら?」
    「かわいー」


    「――と、とにかく」

    「中に、入りましょう、お二人とも!」

    カレン「えー、もう少しクライ……」

    アリス「は、離れちゃうの?」

    「あ、後で、いくらでも……」モジモジ

    カレン「Oh、それは素晴らしいデス!」ニコッ

    アリス「シノ……嬉しい」ニコッ

    (――いけません)

    (愛しさと恥ずかしさで、頭が爆発しそうです……)カァァ




    ――店内



    店員「いらっしゃいませー」

    (入った先は、個人経営の小物屋さん)

    (オススメ度:星5つ……デートスポットには最高の場所、とか)

    カレン「あっ、これ可愛いデス!」

    アリス「こっちのお人形さんもかわいー……」

    「お二人とも、楽しんでますね」


    「――あ。これとかアリスに」

    アリス「わっ……この花柄、凄く好き」

    「これは、カレンですね」

    カレン「こ、これは……」

    カレン「ユニオンジャックの、マフラー……」ジーッ

    「お好きではないですか?」


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