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    元スレ忍「隠し事、しちゃってましたね……」 アリス「……シノ」

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    201 :



    『看病』


    アリス「……はい、タオル替えるね」

    「アリス、ありがとう、ございます」ケホケホ

    アリス「無理して喋ったらダメだよ」

    「――は、はい」

    アリス「……」


    アリス(夏風邪)

    アリス(先日の川遊びで、盛大に転んで水浸しになったことが原因なのかな)

    アリス(顔の酷い赤みは取れたものの、シノは相変わらず咳が酷い……)


    「……アリス?」

    アリス「なぁに、シノ?」キョトン

    「体温、計って頂けますか?」

    アリス「――ああ」

    アリス「体温計だね。持ってきた、から……」スッ

    アリス「これ、脇に挟むタイプ?」

    「はい」

    アリス「……」チラッ


    アリス「ねぇ、シノ?」

    「なんですか?」

    アリス「自分で、挟めない、かな……?」アセアセ

    「――うーん」

    「少し、厳しいかもしれませんね」ケホケホ

    アリス「そ、そう?」


    アリス「……」

    アリス「――じゃ、じゃあ」

    アリス「ボ、ボタン、開けるね」

    「お願いします」

    アリス「……」

    202 = 56 :

    アリス(――どうしよう)

    アリス(手が震えて、上手く外せない)

    アリス(一つ、外せば)

    アリス(それだけで、シノの肌が――)

    アリス(……うう)


    「――アリス」

    アリス「!?」ビクッ

    「大丈夫、ですよ」

    「私は、その――」

    「……気にしません、から」カァァ

    アリス(そ、そこで顔を赤らめないでぇ……)


    アリス「……」

    「アリス」

    「いいんですよ……」

    アリス「――」

    アリス「シ、シノ、やっp「私がやってあげるわ」


    アリス「」

    「あっ……」

    「まぁ、アリス。顔が真っ赤」

    「シノの風邪が伝染ったかもしれないわね……さ、休んで休んで」

    アリス「イ、イサミ……?」

    「私の部屋のベッド、使っていいから」

    アリス「……」

    アリス「わ、分かったよ」

    アリス「――シノ、また、ね」



    パタン



    「……」チラッ

    「――ねぇ、シノ?」

    「なんですか、お姉ちゃん?」ケホケホ

    「ずいぶんと、思い出したように咳をするのね?」

    「……」

    「それに、昨日は酷かった鼻水も」

    「真っ赤だった顔色も」

    「どこに行ったのかしら?」

    「――」

    203 = 56 :

    「……やっぱり」ピピピ


    『37.2』


    「……」ジーッ

    「え、えへへ」

    「――もう」

    「アリスをからかったら、可哀想じゃない」

    「腹黒いシノと違って、アリスは純粋なのよ?」

    「……そう、ですよね」タメイキ

    「ただ」

    「?」


    「目の前で、アリスが顔を赤らめながら」

    「ボタンを外していく様子を見てたら」

    「――つい、魔が差して」ニコニコ

    「……」チラッ

    「こんな平坦な胸を見て、何が楽しいのか……」ハァ

    「あ、酷いです、お姉ちゃん!」ガーン


    「とにかく」

    「あまり、アリスを困らせないこと」

    「――そりゃ、まぁ」

    「かわいいですよねぇ……」ポワポワ

    (同意せざるを得ないのが、悲しいところよね……)


    「さ、次は身体を拭きましょう」

    「あ、そ、それは大丈夫です」

    「ううん、一応ね」

    「一応、って?」キョトン

    「――後で、『また』魔が差して、なんてことがあったら」

    「アリスが可哀想だから」

    「……」

    「――きょうだいの心配は?」ジーッ

    「その、腹の黒さがちょっと、ね」

    「うう……」

    204 = 56 :

    「こうして身体を拭いてると」

    「ついこの前まで、一緒にお風呂に入ってたことを思い出すわね……」

    (風呂場では、尚更この子の性別を意識せざるを得なかった、ってことも――)

    「――お風呂、ですか」

    「アリスやカレンと、入れたら」

    「――いい、シノ?」

    「偉い人も言ってたわ。『越えちゃいけないラインを考えろ』って」

    「世の中には、『超えられない壁』というものも存在するし……」

    「お、お姉ちゃんの方が、ずっと腹黒いです……」ウルウル

    「はいはい」


    「さ、もういいわ」

    「ありがとうございました」

    「うん」

    「さ、上着を着t」



    アリス「シノ! 私、飲み物を注いできた、よ……」ガチャッ

    アリス「」

    「……」アレ?

    「あっ」


    アリス「い、いや、え、ええと……」アセアセ

    アリス「――」カァァ

    「……アリス」

    アリス「は、はいっ!」

    「部屋に入る時は、ノックをしないと、ね?」

    アリス「そ、そうだったね! たしかに!」

    「さ、ここにいたら風邪が伝染っちゃうわ」

    「……アリス」ニッコリ

    (こ、この子……凄く喜んでる)


    アリス「……」

    アリス(上半身裸)

    アリス(シノ 笑顔 イサミ 飲み物)グルグル

    「混乱してるアリスも可愛いです……」

    「――しょうがない。連れ出しましょう」

    (アリスの手、熱い……)


    アリス(カレン ごめん 私 シノ)トコトコ

    「この子も、大変ねぇ……」ハァ

    「えへへ」ニコニコ

    205 = 56 :

    こうして、アリスの混乱は続く――

    表題を付けたように、ちょっとした短編をいくつか投下しようと思いましたが、思ったより長くなってしまったので
    また後ほど別のものを投下します。

    それでは。

    206 = 56 :

    後ほどと書きましたが、今しばらくは無理そうですね……ごめんなさい。


    「……はぁ」

    アリス「……」

    アリス(シノの憂い顔――)

    アリス(何を、考えてるんだろう……私にできることって、あるのかな?)

    アリス(――シノ、心配だよ)

    (アリスとカレンに囲まれて、ゆっくり眠りたいですねぇ……)

    207 = 56 :

    『写真と娘と……』


    カレン「……」

    カレン「――ハァ」

    カレン(こうして、過ごしてるト)

    カレン(夏休みって、長いデス……)

    カレン(――アリスたちといた時は、ずっと短く感じたノニ」

    カレン(……シノ)

    カレン(どうして、ここで変な気分になるんでしょうカ……)


    カレン父「……」

    カレン父(――カレン)

    カレン父(どうして、そんな赤い顔をしているのか。風邪でもひいたのか)

    カレン父(……そんなことを、普通の父親なら思うんだろうな)スッ


    カレン父(――あの時の、写真)

    カレン父(皆で撮ったものの中に……同じような娘が写っている)

    カレン父(――『彼女』の隣で、アリスちゃんと共に顔を赤らめている、カレン)

    カレン父「……はぁ」タメイキ

    カレン父(あの時は、格好つけてしまったものの――)

    カレン父(実際は、かなり戸惑っているんだな、私も)


    カレン「……パパ?」

    カレン父「!?」ビクッ

    カレン「何を見てるデス?」ズイッ

    カレン父「……カレン」

    カレン「――あ」

    カレン「あの日の写真、デス……」

    カレン父「……」


    カレン父「なぁ、カレン」

    カレン「パパも、シノのことが気になりマスカ……?」

    カレン父「あの時ああ言ったが、私h」

    カレン父「……なんだって?」

    カレン「あぁ」

    カレン「パパも、シノのことガ……」カァァ

    カレン父「いや、カレン。落ち着きなさい。君は正常な判断が――」

    カレン「必死になる所が怪しいデス」ジーッ

    カレン父「」

    208 = 56 :

    カレン父「いいかい、カレン」

    カレン「……シノが好きでも、私ハ」

    カレン父「私は、男だ」

    カレン「……知ってマス」プイッ

    カレン父「――忍ちゃんは」

    カレン「言わないでくだサイ……」

    カレン父「……」


    カレン「――そうデス」

    カレン「私は、おかしくなってるんデス」

    カレン父「……カレン」

    カレン「――シノが、シノが」

    カレン父(……娘なりに、事実と向きあおうとしてるんだな)

    カレン父(いや、心配したよりも、進んd)

    カレン「私に、ハダカを見せて、くれたノニ」

    カレン父「……」



    カレン父「え?」ピクッ

    209 = 56 :

    カレン「あの時」

    カレン「私、二――」

    カレン父「カ、カレン、お、おお、落ち着きなさい」アセアセ

    カレン「パパの方が、ずっとガタガタしてマス……」

    カレン父「は、は、ハダカ、を?」

    カレン「――シノが」

    カレン父「……」

    カレン父「――そ、それは、まさか!」

    カレン父「風呂に入ったとか、そういう……?」

    カレン「……?」キョトン

    カレン「!」ハッ

    カレン「ち、ちがいマス!」ブンブン

    カレン「パパのエッチ!」カァァ

    カレン父「ぐっ……!」

    カレン父(な、なかなか、ダメージが大きい)


    カレン「……私」

    カレン「上半身裸のシノを、見たんデス」

    カレン父「……そう、か」

    カレン父(そういうことなら、まぁ……)

    カレン父(――あれ、いいのか?)ピクッ


    カレン「シノは、顔を赤くシテ」

    カレン父(いやいや)

    カレン「私も顔を、真っ赤二――」

    カレン父(え、ええー……)


    カレン父(なんというか、その)

    カレン「あぁ、どうすれば……こんな風に、赤くなるのを止められるデスカ?」カァァ

    カレン父(――日本って凄いんだぞ、カータレットさん)

    210 = 56 :

    つらつらと書いてたら、もう一編書けていましたので投下します。

    今後、原作のイメージを壊さない程度で、物語が少しずつ変節するかもしれません。
    それでも、よろしいでしょうか? 不安ですが……。

    それでは。
    今日はもう、寝ます。

    211 :


    いいと思うよ!

    212 :

    シノさん策士やなww

    213 :

    ところで性描写とかはあったりする…?(あったとしてもソフトな物だろうけど)

    きらら繋がり(キャラットの方だけど)のひだまりスケッチのヒロさんも最初は男(男の娘みたいな)の設定だった

    214 :

    感想ありがとうございます。

    >>213
    性描写ですか……それは考えてませんね。
    今後も普段の感じで、ちょくちょく少年誌的なお色気(?)が挟まれるような感じです。
    シノと、アリスやカレンが「そういう」風になることはない、と思います。
    そうか、ひだまりもそういう設定だったのか……。

    しかし、今後どうやって物語を回したものか……。
    読んで下さっている方にはとても申し訳ないですが、今後はなかなか煮え切らないノリになるかもしれません。


    次の投下まで、もう少々お待ちいただければ。

    215 :

    というわけで、お待たせしました。
    投下です……が。


    今回は、アリスやカレンは出てきません。
    また、全てが地の文で、非常に長ったらしく感じると思います。
    それでも楽しんで頂ければ、とても嬉しいです。


    それでは。

    216 = 56 :

    『いつかのあの日』


     ――陽子ちゃんは……

     あれ? なんだ、これ?

     
     ――ボク、は……

     おおう、よくわからないけど、何かシリアスっぽい雰囲気?
     って、何か見たことある顔なのに、随分と髪が短い……って。


     ――ボクも……

     ああ、なんだ。
     そっか、妙にしっくり来たぞ。

     これは、あの時の……



    『はーい、笑って! 3、2、1……』

    217 = 56 :

    「――」
    「……ねぇ――こ」


     身体が揺さぶられるような感覚がして、ぼんやりとした視界がくっきりと映し出される。
     今度は……さっきより、ずっと髪が長い顔見知りがすぐ近くにいた。


    「……なんだ、綾か」
    「『なんだ』って……あなたねぇ」


     ハァ、と溜息を一つ。
     目の前の友人は、怒ったような呆れたような目で、私を見つめる。


    「――宿題、手伝ってくれって言うから来たのに」
    「そう、だったっけ……ごめん」


     私が返すと「まったく、もう」と、綾は横を向いてしまった。
     綾の良い所は、何だかんだ言いつつも根に持たない所だ。
     そんな綾に、私は甘えることも多い。


    「ああ、ノートがグシャグシャじゃない……」
    「そりゃまぁ、突っ伏して寝ちゃってたし?」
    「『何が問題なの?』みたいな顔しないでよ……」


     ハァ、と再び溜息を一つ。本日、二つ目?
     とはいえ、綾の憂い顔の理由も分かる。


     8月31日。
     この日付に何を感じるか。
     私に言わせれば、この3つの数字ほど心を惑わせ、痺れさせるものはないんだけど。

     貴方は、どうだろう?
     その感じ方によって、普段の行いが見えてくる――


    「……また、ロクでもないこと、考えてるでしょ?」
    「きっと、綾は『恐怖』なんて感じないんだろうなぁ」
    「何言ってるのよ……」


     ハァ、と溜息を――しつこいか。
     さて、気を取り直して、と。


    「ちょっと、休憩しよう」
    「どうしてそうなるのよ!」


     綾は、溜息に飽きたのか、今度はツッコミに切り替えてきた。
     いやー、普段なら私がツッコミで綾が天然ボケって感じなんだけど、私の起き抜けは立場逆転するんだよねぇ……。



    「まったくもう、陽子ったら……」
    「とか言いつつ、ノリノリじゃないか」


     私のベッドに座り、足をパタパタとさせる綾を見るに、言葉とは裏腹にどこか楽しそうだった。
     座布団に座りながらそのことを指摘すると、綾の頬に何故か少し赤みが差す。


    「気、気のせい、でしょ」
    「そうか……」


     こういう時に、深入りすると思わぬ事態を生みかねない。
     だからいつもこの辺りで引くんだけど、そうするとこれまた何故か、綾の表情は少し不機嫌そうになる。
     中学以来の付き合いだけど、こういう所はちょっぴり慣れなかったり。

    218 = 56 :

    (そういえば……)


     中学以来、か。
     そんなフレーズに気を取られながら、本棚を見上げてみた。

     そのためか、すんなりと「それ」は視界に入り込んできた。


    「……」
    「陽子?」


     誘われるように、私は本棚に向かう。
     「それ」を取り、再び座布団に戻ると、


    「……『〇〇小学校 卒業アルバム?』」


     綾が、そこに書かれた文字を読み上げた。
     そう。いかにもこれは、卒業アルバム。
     それもまだ――


    「――何か、さっき居眠りしてる時にさ、ちょっと昔のことを」


     思い出しちゃってね、と我ながら照れくさそうに言った。
     綾は、足を止め、少しばかり真剣そうな表情になる。


    「……もしかして」
    「そっ。その『もしや』」


     おどけた口調で、私は勉強机にアルバムを開く。
     綾もベッドから下りて、私の近くに腰を下ろした。
     長い髪が私の頬をくすぐり、またさっきの「光景」を意識する。


    「――これって」


     綾が目に留めた写真には、白色が目立つ。
     体操着服姿の私たちが、そこにはいた。

     男子たちに混ざって我ながら元気よくピースサインをする私。
     そして、そんな私にピタッとくっついているのが――



    「そ、昔の……」


     ページを繰って、私は、


    「――私と、シノ」


     あの日に、帰る――

    219 = 56 :


     

     ――考えてみれば、あの日も夏だったっけ。

     

    「ホント、大宮は猪熊と仲良いよなー」


     写真は、卒業アルバムに載せられるらしい。
     そんな話を適当に聞き流していると、後ろからそんな声がした。


    「だよな。ずっと昔から、仲良いんだ」


     重なるようにして、もう一つ。
     チラッと、隣を見る。
     予想通りというべきか、笑顔の私の友人が――


    「はいっ! 仲良しです!」


     後ろの男子に、元気良く応える。
     そして、さっきまで引っ付いていた私から離れると、


    「でも、二人も仲良しですよね?」
    「いやまぁ、そうだけど……お前と猪熊って」
    「そうだな、仲良しだな」


     そんな風にして、三人で笑う。
     私は、そんなシノを見る度に、何だか複雑な気持ちになっちゃってたっけ。




     ――帰り道



     当然のように、私とシノは一緒に帰っていた。
     イサ姉に、「シノをよろしく」と言われていたこともあったけど、何よりも――


    「今日も、楽しかったですねぇ……」


     正直、一緒にいて落ち着いたんだな、これが。
     エヘヘと笑いながら楽しそうに話すシノを見てると、どうにも放っておけない。

     元々私は、男勝りな性格だってことは自覚していたから、男子といることもあった。
     勿論、女子とだって一緒にいられた。

     けれど、なんというか、色々と――


    「……ねぇ、陽子ちゃん」


     シノは、特別だった。


    「ん? どした?」


     私はシノを振り向いて、「あれ?」と思った。
     シノの目は、私の目に向けられてはいない。
     それは――


    「――陽子ちゃんは、大きくなるんですね」

    220 = 56 :

     向けられた目線と、その言葉の意味するもの。
     「男子」にそんなことをされたら、普通なら顔を赤くして、少し嫌な気分になるだろう。
     嫌な思い出として、記憶のくず箱にでも放り込んでしまうはずだ。


     けれど私は、その時のシノの表情を忘れられそうにない。


    「そうだな、きっとまだまだ――」


     当時、何の恥じらいも躊躇もなく、大真面目にそんなことを言えていた。
     シノ相手だと、普通の男子や女子相手とは、全く違う会話になるから。


    「……ボクとは、違うんですね」


     自分の目線を下に向けて、シノは呟いた。
     「違う」。そうだ。私とシノは、違う。

     

     胸に付けるための、女子特有の「アレ」を、親と連れ立って買いに行ったのはいつだっけ。
     さっぱり記憶に無いけれど、初めて「それ」を付けて学校に行った時のシノの表情だけは、とてもよく覚えていた。


     残念そうでいて、何だか嬉しそうな、本当に複雑そうな表情。
     それを見て、私は「どうしてだろう?」と、純粋に疑問に思った。
     どうしてシノは、「違う」のだろう、と。


     髪は短かったものの、正直な話、他の誰よりもシノは女の子らしかった。
     見た目からしても、初めて会った時に感じた「可愛い子」そのもので。
     今日の授業みたいにシノが男子と話すことがあっても、やっぱりそんな男子とはどうも違う。

     
    「陽子ちゃん……」


     だから。
     そんな上目遣いで、頼るような声を出されると、返答に困った。
     いも……弟をこよなく愛するイサ姉の気持ちが、凄くよく分かる気がした。


     そんなポーズのまま発せられた言葉は、声も含めて、今でも私の脳裏に焼き付いている。


    「――ボクも、大きくなれない、でしょうか?」

    221 = 56 :






    「――それで、陽子は何て応えたの?」


     何となく、そんな昔話をしてしまっていた。
     いやまぁ、休憩時間だしね。


     とはいえ、この質問……なんて答えたものか。
     

    「いやまぁ……なんというか、その」


     ついつい照れてしまう。
     思えば、あの日の私も、なんて若かったことか。


    「ほら、私たちは、普通に大きくなるだろ……」
    「――『普通に』、ね」


     あれ? なんで綾は、凄く悲しそうな表情をしているんだ?
     まぁいいや。話を続けよう。


    「で、シノは、普通には大きくならない。当たり前だ」
    「まぁ、ね」


     綾の表情はいちいち気にかかったけれど、それはそれとして。
     コホンと一息。


    「で、だから私は言ったんだ」
    「ええ」



    「だったら、何か詰めちゃえば、って」


    「……」

    「え?」




    「ほら、シノは私みたいには、その……ならないから」


     その時、私は大真面目にシノと話し合っていた。
     帰りの通学路で、大真面目に見つめ合う、二人の小学生。
     傍から見たら、おかしな光景に映ったことだと思う。


     でも。
     その時の私は、心からシノの力になりたかった。


     さっきの体育の授業の時、男子にからかわれた(?)とき。
     シノが一瞬見せた、なんとも言えない表情が、ずっと忘れられなくて。


    「――大きくすれば、いいんだ」

    222 = 56 :

     



     その翌日――



     シノは放課後、私を人気のない校舎裏に連れて行った。
     そこでいきなり服を脱ぎ始めるものだから、私はとても焦ったっけ。


    「ちょ、ちょっと、シノ!?」
    「し、静かに、陽子ちゃん」


     と言われても、恥ずかしそうに頬を染めながら、上半身裸になられても困るんだけど……!
     そんなあれこれを飲み込んで、せめて私は視線を逸らす。
     視界の隅っこで、本当に「男子」とは思えないほど白い肌が見え隠れした。正直、すっごく困った。


    「……もう、いいですよ」
    「う、うん……?」


     シノに促され、再びシノと視線を合わせた私が見たものは――





    「――陽子が、今のシノの」
    「そう。そういえば、綾には言ってなかったっけ?」


     中学時代は、色々とそれ以外にすることあったからなぁ。
     最終的に、何ともあっさりと受け入れられた、「大宮忍カミングアウト作戦」。
     綾にも手伝ってもらったっけ。

     あぁ、だから今まで話すことなかったんだ。タイミング外しちゃってたんだな。


    「……ということは」
    「シノは勉強とかはダメダメな割に、メチャクチャ器用でね。凄くその出来は良かった。
     で、その時も、シノの胸はもう、フツーに膨らんでるように見えた」


     あの時は、本当にビックリした。
     目の前に、いきなり正真正銘の女子が現れたんだから。


     とはいえ、それからシノの、その、女装能力にはますます磨きがかかっていった。
     今となっては、どこからどう見てもごくごくフツーの女子高生になり
     毎度のようにアリスやカレンを騒がせているのは周知の通りってわけだ。

    223 = 56 :






    「ふーん……」


     さて、話を終えると少し疲れた。
     麦茶でも飲もうか、と下に取りに行こうと立ち上がると、


    「――陽子とシノって、本当に仲良かったのね」


     綾がそんな事をいうので、少しキョトンとしてしまった。


    「何言ってんだ、当たり前だろ。シノは私にとって、特別なんだから」


     さて、麦茶麦茶、っと。
     ちょっと行ってくる、と綾に言って、私は下に降りていく――





    「……」
    「『特別』ねぇ……」
    「――」


     陽子がいなくなり、私は彼女のベッドに寝転んだ。
     ぼんやりと白い天井を見つめていると、そこに昔の「二人」の姿が見えるような気さえした。

     それくらいに、陽子の話はシノへの愛情でいっぱいだった。


    「シノ」

     
     つぶやきは、止まらない。
     枕に突っ伏しながら、私は今のシノのことを思い浮かべる。


    「アリスやカレンは言うに及ばず」


     金髪少女二人を骨抜きにして。



    「……陽子までって」


     さっきの話をしている時の陽子は、まるで。
     保護者のような、姉のような……そして、また。


     ゴロゴロと寝返りを打ちながら、私は普段なら決して言わないことまでつぶやいてしまう。




    「あなた、本当に罪な『女』よ……」

    224 = 56 :

    ここまでになりますが、何とも長いですね……。

    地の文でいっぱいにするのは、なかなか厳しかったです。
    でも、何だかとても楽しかったです。


    そんなこんなで、アリスやカレンからシノへ向いていた矢印に、新たな(というより元からあった?)矢印が現れました。
    こりゃ、綾の立場が危ういですね……。
    とはいえ、今後はまた金髪少女と和風少女の絡みという、主流に戻っていくと思います。


    それでは。
    いつもありがとうございます。

    228 :

    投下です。

    ――とはいえ、今後は――

    なんて書いたくせして、随分とおかしなことになりました。
    この次の展開は、しばらく考えることになりそうです。

    229 = 56 :

     ――あっ。


    「……」

     朝。
     私はいつものように、目を覚ましました。

     横を見遣れば、布団で寝息を立てる、可愛らしい英国少女の姿が。
     その姿に笑みを隠せなくなってしまいます。ここまではいつも通り。


    (――さっきのは)


     目の前にいたのは、活発で優しい女の子。
     その子に、私はお世話になりっぱなしで――


    (……なんだ)


     答えは明らかです。
     あの子に、決まっているじゃないですか。


    「……」


     いつもと違うのは、そんな所でしょうか。
     さて――
     時計が指す日付は、9月1日。

     今日から、学校が始まります。







    「……」
    「ねぇ、シノ」


     あっ。
     隣を見ると、アリスが少し不安そうな表情を浮かべていました。
     いけない、何か聞き漏らしてしまったのでしょうか。


    「――何か、あったの?」


     鋭い。
     日本人に比べて外国人はストレートという話は、本当だったのでしょうか。
     それはともかく、私はアリスに心配をかけてしまったようです。


    「い、いえ、なんでも――」


     ――シノは、ずっと私の――


    「――なんでも、ないです」
    「……?」


     うーん、困りました。
     何だか、よく分かりません。

    230 = 56 :

    ――集合場所


    陽子「……」

    陽子「あれ?」

    陽子(私が一番?)

    陽子(へぇ、珍しいこともあるもんだ)

    陽子(……)


    陽子(あっ、来た来た)

    陽子(――シノと、アリスか)

    陽子(シノか……)


    アリス「ヨウコッ!」

    「……」

    陽子「よっ、アリス」

    陽子「……シノも、おはよ――?」

    「――」


    「……あっ」

    「陽子ちゃん、おはようございます」

    陽子「……?」


     ――なんだ?


     シノの調子が、おかしい。
     夏休み明けだからか?
     いや、でも……うーん。


    「……」


     そういえば、こんなことが昔もあったっけ。
     で、私は、そんなシノに――


    「……」
    「あっ――」
    「!!?」
    「あっ、おはようござい……マ、ス?」

     額と額を合わせてみる。
     シノは――うん、熱はなさそうだ。
     ということは、風邪とかじゃないってことか。一安心一安心。


    「ん、良かった。熱はないみたいだね」


     とりあえず、「診断結果」をシノに笑いながら伝える。
     問題はなさそうで、なによりだ。


     ……ん?


    「……ヨウコ?」
    「えっ、ええ?」


     戸惑う金髪少女が二人。
     あっ、カレンも来てたのか。

    231 = 56 :

    「おはよ、カレン」
    「は、はい、おはようござい、マス」
    「……?」


     ん? 様子がおかしい?
     アリスもカレンも、何やら酷く戸惑ってるみたい、だけど……。


    「……あ、ありがとうございます、陽子ちゃん」


     って、どうしてシノも変な顔してんのさ。
     え、なにこの状況? もしかして、私が変なコトした、みたいな……?


    「――おはよう、みんな」


     首をひねっていると、聞き慣れた声が聞こえた。綾だ。


    「あぁ、綾。おはよ」
    「……いや、なんというか、その」


     綾に挨拶したらしたで、何故か綾は視線を逸らした。


    「いやまぁいいわ。行きましょう」
    「ん、そうだな」


     ほらみんな、行くぞ、と三人に声をかけ、私は歩き出した。



    「……」


     歩きながら、私はさっきの光景を思い返していた。
     カレンに声をかけようとしたら、見えてしまった「それ」に心を奪われてしまった。


     シノと陽子の付き合いの長さを鑑みれば、ごくごく普通の光景だったかもしれない。
     ただ――私には、どうしても昨日のことが気になっていた。



    「でさー、またうちの弟と妹が――」
    「ふふ、陽子ちゃんのお家はいつも賑やかですねぇ」


     笑い合う二人は、どこまでもいつも通り。
     シノの表情も、いつものおっとりとした可愛い笑顔。

     ……だからこそ尚更、さっきの表情が気になった。


    (――やれやれ)


     心のなかで嘆息してしまう。
     だって、目の前の二人の金髪少女だって――


     二人の「顔」を、見たんだから。

    232 = 56 :



     ――さっきの、アレは。


     結局、学校に着いても、離れてくれまセン。


     シノとヨウコの付き合いは、私とアリスと同じくらいカモ。
     そう考えれば、さっきのもごくごく当たり前のスキンシップ――


    「……んん?」


     ナニかがひっかかりマス。
     それは、一体――?


    「あっ」


     そうだ、わかりマシタ。
     恐らく――


     ――ん、良かった――

     ――……――


     陽子に額を当てられていた、シノの表情が。
     何故か、本当に「何故か」。


     ほんのりと赤くなっていたから、デス――











    ――教室


    「……」

    陽子「――昨日、昔のアルバムを見てたらさ」

    「……」

    陽子「シノ?」

    「!」


    「あ、ご、ごめんなさい……」

    「――その」

    陽子「ん、大丈夫」

    陽子「……どしたの? 風邪じゃなさそうだけど、体調悪い?」

    「……」


    「思い、出しちゃった、みたいで」

    陽子「……え?」

    233 = 56 :





    ――廊下



    アリス「……はぁ」

    アリス(一体、さっきのは、なんだったんだろ?)

    アリス(陽子と、シノが――)

    アリス(……こんなに気にするのは、おかしいよね)

    アリス(――だって、あの二人は、ずっと)


    アリス「シノ、陽子、ただいm」

    「陽子ちゃんに、私のはだk」

    陽子「ハイ、ストップ」

    アリス「」


    「……」

    陽子「ごめん、シノ。その話は、ナシで」

    「――」

    陽子「よし」

    「……ふぅ」


    「酷いです、陽子ちゃん。いきなり口押さえるなんて」

    陽子「い、いやまぁ、その……」

    陽子「――さすがに、なぁ」

    「……?」


    アリス「……」

    アリス「――二人とも! もうすぐHR始まるよ」

    陽子「あ、あぁ、アリス。分かった、サンキュ」

    「アリス、ありがとうございます」

    アリス「ふふっ、どういたし、まして……」

    アリス「……??」

    234 = 56 :


     

     ――さっきのは、一体?


     私の頭で、さっきの二人がグルグル回る。
     「はだ――」なに?
     それに、あの時の二人――


    (どっちも、顔が真っ赤で)


     シノも陽子も、おかしい。
     夏休み明けで、陽子もシノも体調を崩したとか?
     それなら、顔の赤みも納得が――


    (いかないよ……)


     目の前で、烏丸先生が何かを話している。
     私は、それが全く聞こえなかった。
     耳に言葉が入るのに、それはすぐに抜けていって――


    (シノ……ヨウコ)


     結局、二人の姿だけが脳裏に焼き付いたままだった。

    235 = 56 :



     ――焦った。


     さっき、シノにあんなことを言われた時。
     咄嗟に、シノの口を塞いでしまった。


     でも、どうだろう?
     いつもの私なら、あんなことしたか?
     どうして反射的に、あんな行動を……?


    (わかんないなぁ……)


     カラスちゃんが何かを話している。
     それはともかく、さっきの行動がさっぱり分からない。
     我ながら、どうかしてる、ような……。


    (――でも)


     原因というかキッカケというか、それは分かる。
     ――昨日、部屋で綾と見た、「アレ」のせいだ。








     ――朝。


     起きたばかりの頭に、昔の陽子ちゃんの姿がありました。
     陽子ちゃんは、凄く恥ずかしそうに目を逸らしていました。


     ……あの時のことは。
     私もよく、覚えています。
     どうして、あんな行動に出たのか。
     小学生の頃とはいえ、上半身裸の姿なんて、それこそ家族とアリスやカレンにしか――


    (――あっ)


     思い出して、しまいました。
     あの時交わした、会話を……。




     ――ボクは、陽子ちゃんを『特別』だと思ってます――

     ――……私だって、シノは『特別』だよ――



    (……ああ)


     どうしてか、私は、非常に居たたまれない気分になってしまいました。
     これは……。

    236 = 56 :






     ――二学期が始まった。


     烏丸先生の話を耳に挟みながら、私は4人の大切な友人のことを考え続けていた。


     シノとアリスとカレン。
     やっぱり、この3人の組み合わせが、一番目立っていた。
     けれど。


    (……どうなるの、かしら?)


     これからのこと。
     シノ。陽子。アリス。カレン。
     そして――私。


     私たちは、これから……












    (そりゃまぁ、シノは私にとって『特別』だ)

    (陽子ちゃんは、私にとって『特別』です。そんなこと、当たり前です)

    (シノにとっての、アリスやカレンへの『特別』とは、違う)

    (アリスやカレンと、ずっと一緒にいる。私は、そう二人に言いました。その『特別』とは、陽子ちゃんは違います)



    (そうだ、シノと私は長い付き合いじゃないか)

    (アリスやカレンと同じ、そんな付き合いだったじゃないですか)



    (――だから)

    (――そうです)



    ((別に、おかしなことじゃないんだ(です)――))

    237 = 56 :

    どうしてこうなった。

    今後の展開を漠然と考えていたら、こんなことになってしまいました。
    果たして、陽子とシノは……そして、他の3人は。
    それは、今後の思いつき次第になりそうです。


    それでは。
    いつもありがとうございます。

    238 :

    アヤヤー…

    239 :

    あやや死亡……

    241 :

     ――大宮と猪熊って、仲良いよなぁ――

     ――昔からずっと、一緒だもんねー――



    (……いやいや、ちょっと待て)


     どうしてこのタイミングで、こんな記憶が浮かんでくるんだ。
     そりゃまぁ、イサ姉に頼まれたこともあって、私とシノは一緒にいることが多かった。
     だから、私にとっては、当たり前で……。



    「……」
    「――陽子」
    「あ」


     隣を見ると、綾が心配そうな表情をしている。
     いけない、帰り道でぼんやりとするなんて。


     結局、5人で帰っている間、私はずっとおかしかったと思う。
     シノも、何だか様子が変だったし。
     ……なんだか、アリスやカレンには悪いことをしたような気がしてならない。
     あの二人が、シノを『特別』と思っていることは――


    「ごめん、綾」
    「……」
    「な、なんか、寝付けなくってさー。それで、カラスちゃんの間延びした声で話されると眠くてしょうがなくて――」


    「陽子、ちょっといい?」


     やれやれ。
     誤魔化しなんて、綾に通用するわけがないんだよね。
     この友人の鋭さは、私にだってそれなりに分かっているつもりだった。


    「……なに?」
    「その――はっきりさせたほうがいいんじゃない?」
    「……」


     どういうこと、なんて突っ込むのは野暮か。
     私とシノと、付き合ってきてくれたんだから、そりゃ察するはずだ。


    「――そう、なのかな」


     思い返す。
     抜けるように白い、およそ男とは思えない肌のシノ。
     男子に何か言われても、嫌な顔一つせずに話しに行くシノ。

     ……私のためにも、シノのためにも。



    「ありがとな、綾」


     肩をポンと叩き、私は彼女に礼を言う。
     そして、すぐさま行き先を変えて、駆け出した。
     どこに行くかなんて、決まっている。


     と、後ろから、綾の声がした。


    「あ、あなたがおかしいと、私たちも困るんだから……」


     その言葉に、私は何だかとても嬉しくなる。
     でも、敢えて振り向かずに、そのまま走っていく――

    242 = 56 :

    「……まったく」

     陽子が走り去っていくのを見て、私は溜息をついた。
     これで、良かったんだろう、多分。
     陽子と「あの子」がはっきりしないと、どうにも私やアリス、カレンも落ち着かないし。

     ……うん、それだけ。

    「――陽子、シノ」


     それだけ、なんだ、きっと。
     だから、今締め付けられるようなこの胸の感覚も、気のせいで――


    「……はぁ」


     帰ろう。
     そして、後でやって来るはずの連絡を待とう。


     ――ベッドにでも寝転べば、こんな感情は飛んでいってしまうだろうから。


    「……」


     ケータイを閉じると、私は支度をします。
     制服のままだったので、私服に着替え、鏡の前で確認。
     ……普段なら、確認なんてしないのですが。


     階段を降りて靴を履き、ドアに手をかけたところで、


    「シノ……?」


     後ろから、声がしました。
     その愛しい声に、私はピタッと止まります。


    「アリス――」


     振り向けば、そこには不安そうな表情を浮かべる大切な女の子の姿。
     彼女は、胸の辺りでギュッと握りしめ、何やら耐えているように見えました。
     ……何に耐えているのか、何となく分かることに、罪悪感を覚えます。

    「ちょっと、陽子ちゃんと会ってきます」


     そう言うと、彼女はハッと顔を上げました。
     その表情に、心が揺れるのを、確かに感じました。


    「……それでは」
    「シノ」


     ピクッと止まり、私は再びアリスの方を振り向きます。
     彼女は、目を彷徨わせた後で、


    「――な、なんでも、ない、よ」


     何かを言わんとしているのは、私がどんなに鈍くても分かりました。
     ただ、敢えて追及はしません。


    「大丈夫ですよ、アリス」


     ガチャッとドアを開け、私はもう振り向かずに、ゆっくりと、

    「……アリスはずっと、『特別』ですから」

     ドアを、閉めました。

    243 = 56 :



    ――公園


    陽子「……」

    陽子(ここの公園――)

    陽子(それこそ昔、シノやイサ姉と一緒に、遊んだっけ)

    陽子(今はもう、小学生とかいないんだ……時の流れを感じるなぁ)

    陽子(――あの頃からもう、髪こそ短かったものの、シノは)

    陽子「……」


    「……陽子ちゃん」

    陽子「……よっ、シノ」

    「ごめんなさい、待ちました?」

    陽子「いやいや、私も今来た所だし」

    「それは、良かったです」

    陽子「……」


    陽子「――ちょっと、さ」

    「?」

    陽子「ブランコ、乗らないか?」




    ――ブランコを漕ぎながら


    陽子「……」

    「……なんだか」

    「懐かしい、ですね」

    陽子「そうだなー」

    陽子「シノ、立ち漕ぎ出来なかったよなぁ」

    「あっ、陽子ちゃん酷いです」

    「い、今なら、出来ます……!」プルプル

    陽子「こらこら、震えてるからやめなさい」


    「……」

    「――あの」

    陽子「ん?」キョトン

    「何だか、懐かしい、ですね……」

    陽子「そう、だな……」

    二人「……」

    244 = 56 :



     ――二人でブランコを漕いでいる間、私はというと、昔のことが頭に浮かんでは消えていくばかりだった。


     私とシノは、イサ姉の言葉があったからこそ、一緒にいた――なんて。
     やっぱり、自分は騙せない。
     帰り道で思っていた「言い訳」めいたことは、この時間で全て吹っ飛んでしまっていた。


     隣で楽しそうに、ブランコを漕ぐシノ。
     そんな友人の笑顔を見てれば、「言い訳」なんて勝手に崩れてしまうのに。


    「……陽子ちゃん」


     ぼんやりとシノを見ていると、シノが声をかけてきた。
     シノがブランコを漕ぐのをやめ、身体ごと私に向ける。


    「呼び出したのは、何でですか?」


     その口調は思ったより真剣だったので、私もブランコを止めて、シノと向きあった。

     元々、呼んだ理由なんて、なかったも同然だった。
     ただこうして、高校生になってから二人だけで過ごしたことが無かったことを思い出しただけで。


    「――シノと、話したくって」
    「お話、ですか……?」


     私はシノに、何を話したかったんだろう。
     そんなもの、大して考えてない。
     だから、この会話だって、行き当たりばったりだろう。上等だ。


    「……私は、さ」


     ブランコから降りて、私はシノの前に移動する。
     シノは、ブランコに腰掛けながら、私の顔をジッと見つめる。
     ……よくもまぁ、整った顔立ちをしているものだ。


    「シノが、『特別』で――」
    「……」
    「好き、だよ」


     あ、意外とあっさり言えた。
     こんな言葉を言うだけでも、かなりまごつくと思ったんだけどな。

     で、シノはというと――


    「私も、陽子ちゃんのことは、好きですよ」


     意外とあっけらかんと、シノも同じことを言ってくれた。
     お互い、ちょっと顔に赤みが差していただろうけれど、戸惑うことなしに。

    245 = 56 :


     ……あ、そっか。


     なんだか、さっきまでの私がバカみたいに思えてきた。
     「はっきりさせたら?」という友人の言葉が、とても有りがたく思えてくる。


     なんだ、全く普通だ。
     当たり前のことを、当たり前だって確認しただけ。
     だから、私とシノは、殆ど様子をおかしくしていないんだ。


    「……いやー、なんだかなぁ」
    「照れますねぇ」


     お互い、笑い合う。
     シノの冗談めかした言葉も、何だかストンと胸に落ちた感触がして、気分がいい。
     ……だから。


    「――ねぇ、シノ?」
    「はい?」
    「これから、街にでも行ってみよっか」
    「……ぜひ!」


     さて、久々に「デート」とでもしゃれ込もうか。
     シノの手を引いて、私たちは笑いながら駆け出す。


     ……何だか、昔に戻ってきたみたいだ。







    ――翌日


    カレン「……あっ」ピタッ

    陽子「よ、おはよ、カレン」

    カレン「――おはよ、ございマス」

    陽子「どうした?」

    カレン「い、イエ」

    カレン「……もう、調子が良くなったみたいで、なによりデス」

    陽子「ありがと」


    陽子「――あ、そうそう」

    カレン「……?」

    陽子「私、シノのこと好きだよ」

    カレン「」


    カレン「そ、それは一体、ど、どうイウ……?」アセアセ

    陽子「日本語ってややこしいけどさ」

    陽子「――『Like』ってこと」

    カレン「――あ」ハッ

    246 = 56 :

    陽子「悪かったね、カレン。はっきりさせないから、不安になっちゃっただろ?」

    カレン「そ、そういうコトハ――」

    陽子「いいっていいって」

    カレン「……」


    カレン(陽子が妙にテンション高いデス)

    カレン(――なんだか、安心しマシタ)エヘヘ



    「陽子ちゃん! カレン!」

    陽子「おお、シノ! アリスもおはよ!」

    アリス「……おはよう、陽子」


    「……」

    陽子「?」

    「――よいしょっと」ピトッ

    陽子「……?」ピクッ

    アリス「!!」

    カレン「!?」



    「……うん」

    「熱はないみたいですね、陽子ちゃん?」ニコッ

    陽子「……お返しのやり方が、単純だなシノめ」

    「ふふっ」



    「……」

    (はぁ)タメイキ

    「おはよ、みんな」

    陽子「よっ、綾」

    「おはようございます」

    247 = 56 :

    アリス「」

    カレン「……え、エエ?」

    「相変わらず、こっちは二人とも呆けてるわね……」

    「それよりも、陽子、シノ。昨日から言いたかったんだけど……」

    陽子「?」

    「?」


    「……公衆の面前で、ああいうことは」

    陽子「そうだなぁ……」

    「綾ちゃんの言うとおりですねぇ……」

    二人「……」ニコニコ

    「――」














     そんな感じに、二人のちょっとした問題は決着がついた、みたい。
     何の戸惑いもなく笑い合う二人を見て、私は安心したような、まだ不安なような……複雑な気持ちだ。


     まあ、これで良かったんだろう。
     はっきりしてもらわないと、私(たち)は居心地が悪いし。
     ……ただ


    「……シ、シノと陽子が」「『Like』、デスカ……」


     この二人は、慣れるのに時間がかかりそう。


     ……私?
     そうね、私は――


    「私も、陽子ちゃんみたいに大きくなりたいですねぇ……」
    「――シノ。そういう話はもう」
    「え、身長の話ですよ?」
    「……!!」


    「こ、このっ!」
    「陽子ちゃん、顔真っ赤です」


     
     ……私『も』、この二人に慣れることから始めないと、いけないかもしれないなぁ。

    248 = 56 :

    陽子とシノのお話は、これにて一旦おしまい、と。

    え、綾のこれから?
    大丈夫大丈夫。
    ……ちょっと、道が険しくなっただけかもしれないから。


    結局、陽子とシノの関係は、友人としての「好き」の範疇だったんだな、とお互いに確認し合うという話でした。
    最後のシーンだけ見ていると、本当にそれだけなのか? という疑問を感じる方もいると思いますが……。
    今後、どうしましょうか。


    それでは。


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