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    元スレ京太郎「もつものと、もたざるもの」

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    151 = 75 :

    「誰だ?」

    恐らく郵便や宅配の類と考えたが、京太郎の部屋の窓からは玄関が見えないので1階に下りなければ確認できない。

    「……別にいいか」

    京太郎は居留守を使うことを選択した。
    母親からは特に何も聞いていないので重要なものではないだろう、と判断した。
    だが、10秒ほどしてもう一度インターフォンが鳴った。
    無視をする。
    更にもう1回。
    無視をする。
    更にもう一回。
    無視をする。
    そしてもう一回。

    「あーもう! 誰だよ!」

    根負けした京太郎は1階に下りリビングに備え付けられたインターフォンの受話器を手に取った。

    「はーい?」
    「あっ、宅配便でず。はんごいだだげまずが?」

    ワザとらしいほど低い声だった。首をかしげながらもハンコを引出しから取り出し、玄関に向かった。

    (腰の強い業者だな、しかし)

    そう思いながら、玄関の扉を開けた。

    「はいはい、はん、こ……?」

    「やっほー、久しぶり。お届け物です」

    そこには元部長、竹井久が立っていた。

    152 = 75 :

    「部長、なに」

    「私はもう部長じゃないわよ」

    「……竹井先輩」

    1か月近く会っていなかった先輩の登場に京太郎は事態が理解できないでいた。

    「なんで俺の家……あーいや、元部長だから知ってるか。そりゃ」

    「そういうこと。久しぶりね。元気してる?」

    にやにやと、いつもの何かを企んでるような笑みを浮かべていた。

    「いや、そうじゃなくて、なんで、俺の家に?」

    「須賀君、暇でしょ?」

    質問に質問でかぶせる久。思わず言葉を失う京太郎。

    「ん? どうしたの? 暇じゃないの?」

    「いや、あの質問の意図が……」

    「そのままの意味よ? 暇なんでしょ?」

    「まぁ、暇、ですけど」

    染みついた下っ端根性からくるなにかなのか、反射的に答えてしまう京太郎。
    それを聞いて満足そうに微笑むと久は言った。

    「須賀君、デートしましょ?」

    「……はっ?」

    「暇なんでしょ、一緒にどこか遊びに行きましょ?」

    「いや、でも」

    あまりの内容に思考が追い付かず、あいまいな返事を返してしまう。

    「ほらっ! さっさと着替えてきて! 5分以内ね!」

    「はっ、はい!」

    慌てて踵を返し、自分の部屋に戻ってジャージ姿から私服に着替え始める。

    (っていうか何だこれ?)

    (何だこの状態?)

    (デートって、えっ?)

    京太郎はそう思考しつつも久の言うとおりに身支度を整え、玄関に戻ったのはきっかり5分後だった。

    153 = 75 :

    「さーって、どこに行きましょうかねー」

    「……」

    楽しそうな久といまだに納得がいかない表情をしている京太郎が街中を連れ立って歩いていた。
    京太郎は久の真意がつかみあぐねていた。
    現在の部の状態を誰かから聞いたのだろう。それはわかる。
    それを聞いて何かしらの目的をもって訪ねてきたのだろう。それもわかる。
    だが、それとこのデートが結びつかない。問いただそうと京太郎は口を開いた。

    「部ちょ……竹井先輩、いったい何を」

    「あっ、須賀君! ゲーセン行きましょゲーセン!」

    指差す方向にはこの辺りでは一番大きなゲームセンターがあった。
    問い詰めようとした京太郎の言葉は遮られ、行き場を失った。

    「須賀君、ゲーム得意?」

    「あ、え、はい、まぁ、好きですけど」

    「よし! じゃあ格ゲーやりましょ。最近はまってるのよねー」

    「はまってるって……先輩、受験生じゃ」

    「あーあー聞こえない。ほら、行くわよ!」

    そういいながら久はゲームセンターに駆け出して行った。
    何か腑に落ちないものを抱えつつも、京太郎は後を追った。

    154 = 75 :

    「……負けた」

    ゲーセン内の隅にある休憩スペースで、口から魂が出てきそうな雰囲気を纏わせながら久はベンチに座っていた。
    ゲーセンに着くなり最近盛り上がってる格闘ゲームを二人でやったがおおよそ9:1で京太郎が勝利を収めた。

    「先輩。不利フレーム背負ってる状況で暴れすぎですって」

    「あーその、私ってほら、ここぞって時で悪い待ちをしちゃうのよ。私それで」

    「負けてますよ?」

    「あぐっ」

    「あとなんすか、リバサ投げとか。無敵ついてないですよあれ」

    「いや、つい悪い待ちを」

    「だから負けてますって」

    「うぐっ」

    完全にやり込められて言葉を失う久。
    京太郎は久のこういう姿を見るのは初めてだったため、思わず笑みがこぼれた。

    「ははは、さすがに格ゲーも麻雀のようにはいかないわね」

    お手上げ、といった感じで久が笑う。京太郎は久の隣に座ってその言葉に頷いた。

    「まぁ、格ゲーは悪い行動をすりゃ基本自分が不利になるだけですからね」

    「いやー、難しいわねー」

    久は軽く伸びをして立ち上がった。

    「さて、ちょっと失礼するわねー」

    どこへ、と聞きかけた京太郎は久が向かった方向――トイレがある――を見てあわてて口を閉じ、はい、と返事をした。

    155 = 75 :

    「やった! 見ろよほら! 大三元大三元!」

    久が席を立ち少し経った後、そんな叫び声が聞こえた。
    見れば中学生ぐらいの男子3人が麻雀ゲームの筐体に集まっていた。

    「うおーすげー!」

    「やるじゃん!」

    「すげーだろすげーだろ!?」

    アガった本人も友人もとても楽しそうにはしゃいでいた。
    その笑顔は京太郎にはとても眩しく見えた。

    「私もあんな頃があったわねー」

    「あっ、ぶ……先輩、おかえりなさい」

    ただいま、と返事して久はふたたび中学生達を見た。

    「初めて役満あがった時とか興奮のあまり卓に足をぶつけちゃったぐらい」

    「あ、俺もです。ネト麻ですけど……。深夜に叫んで親に怒られました」

    「ふふ。みんな同じね。でも、だんだん、勝つことしか考えなくなってくるのよね」

    当たり前の話だけど、そう結んで久は寂しげに笑った。

    「最初は麻雀が打てるだけで楽しかったのにね」

    京太郎はその言葉に返事を返せなかった。

    156 = 75 :

    最初のほうは三色や一通が上がれただけでうれしかった。
    初めてメンチンをあがった時は何度も何度も待ちを確認して恐る恐るあがった。
    役満を聴牌した時など、ひきつった顔をしてしまい、皆に笑われた。
    負けても笑っていられた。勝てなくても笑っていられた。
    少なくとも入部したころはそうであった。
    いつから、そう思い始めていたのか。
    思い返してみると、意外と最近なことが分かった。

    (そっか、そうだったんだな)

    長野県大会を優勝し、インターハイでも優秀な成績を残したメンバー。
    表彰されインタビューを受けている5人を見て嫉妬の心がなかったと言えば嘘になる。
    だが、京太郎はそれ以上に思った。

    (自分もあそこで、あの横に並んで立ちたい)

    (舞台の上でで強豪たちと渡り合い、立ち向かっていく)

    (その一打で観客を魅了し、驚かせ、感動させる)

    (そんな存在になりたかった)

    (そして、仲間と、一緒に並んで立ちたい)

    (そう思ったんだった)

    (そこからだったんだな。勝ちたいと願い始めたのは)

    (強くなりたいと願い始めたのは)

    (皆がいて、俺にとって大好きで憧れの皆が居たから)

    (そう、思ったんだった)

    157 = 75 :

    はい、とりあえず一旦ここまでです。
    本当は久さんとのデート終了までを書ききるつもりだったんですが土壇場でどうしても直したいところが出てきてしまいやむなく一旦中断とします。

    というわけで久さんとのデートはまだまだ続くよ!

    159 = 75 :

    しかし、投下する前にちゃんと読み直しているんですがやっぱり誤字脱字誤変換、
    その他もろもろ文章のおかしいところが残ってる現実。
    投下するまで頭があったまっちゃってるから節穴になってるんやな……。

    一晩おくといいいって言うけど書いたものを早く投下したいのも心情でございます。

    160 = 75 :

    言葉が足りませんでしたが、2時ぐらいまでに投下がなければ本日の投下はもうないと思ってください。
    よろしくお願いいたしますー。

    161 :

    おう2時までまってるでー

    162 = 75 :

    2時になってませんが先に宣言します。

    やっぱり無理だったー! 直そうとすると全体的に崩れてくる悪循環。
    もうちょっと腰を据えて直す必要がありそうなので先ほどまでの分で本日の投下は終了とさせてください。

    164 :

    おつー

    京ちゃん復帰フラグがw
    だらだらしない為だとは思うが、
    気持ちの切り替えはえーw…羨ましい

    165 :

    乙ー焦らずゆっくりでええんやで

    166 = 158 :

    ゆっくり自分のペースで書いてくださいな

    167 :

    おつー
    短編も自分の筆の赴くままに書いてくれてええんやで?
    いずれ全部書いてくれれば(ゲス顔

    168 :

    アレだな京ちゃんが久しぶに入れ込んで、結局ぶに来ないてきな

    169 :

    京ちゃんが久に挿れる?(難聴)

    170 :

    難聴でも何でもなく何を言いたいのかわからん

    171 = 75 :

    >>164

    復帰フラグ? どうやろな(ゲス顔)

    172 :

    バットエンド期待

    173 :

    京太郎が完全に離れたせいで
    麻雀部の空気が劣悪になり狂っちゃった咲さんも見てみたいなー(ゲス顔)

    174 :

    京太郎「皆さん、お世話になりました」つ退部届

    「……」

    京太郎「それで……麻雀部ってマネージャー募集してたりしませんか?」つ入部届

    「……!」


    こういう展開ってありそうで無いよね

    175 :

    もつものって意味だとのどっちが一番もってると思う
    いやおもちじゃなくて作者補s

    176 :

    イッチのゲスフェイスに期待が天元突破

    持つものには持たざるものの気持ちを存分にに味わってもらえう、どいしようもない現実というやつを(ニッゴリ)

    177 = 173 :

    京太郎「あの世でオレにわび続けろ、咲ィィーーッ!!」

     ↓

    「私は…魔王……魔王、宮永…裂!!」

    178 = 75 :

    軽く飲んできたら終点まで寝過ごしていく立ち回り。
    なんとか24時~24時半までには。

    いろいろ肉づけしたり書き直したりしたせいで完結は土日まで食い込みそうな予感!
    ほんとは今日終わるはずやったんや……

    180 = 173 :

    完結してくれるなら文句はないのぜー

    さて、ここからどうなるのやら…

    181 :

    一旦投下しますー。
    今日中に続きを投下するかは未定ですので今日はこれっきりかもしれません。

    ところで全く関係ないですけど、すばら先輩の後輩になるとあれですよ。
    最初のうちは麻雀で勝つことが目標で頑張ってるんだけどだんだんすばら先輩に褒められたくて頑張るようになる。
    先輩に「すばらですね」って言われたくて頑張るようになる。そんな魅力があると思います。

    182 = 75 :

    「どうしたの、須賀君?」

    ぼうっ考え込んでいた京太郎は久に声をかけられて我に返った。
    気がつけば中学生たちも居なくなっていた。

    「大丈夫です、すみません」

    「ふーん……」

    久はそれを聞いて何かを考えた後、いたずらを思いついた子供のように笑った。

    「須賀君、あれ、やってみない?」

    「えっ?」

    久が指差す方向には先ほどまで中学生たちがプレイした麻雀ゲームの筐体があった。
    全国のゲームセンターに設置されており、日本全国のプレイヤーと対戦できるそのゲームは
    なかなかの人気を誇っている。
    麻雀の内容だけを見ればネット環境が整っていれば無料でできるネト麻とさほどさほど変わらないが、
    ポイントをためてアバターを着飾らせたりチームを組んで対抗戦をしたりと多様な機能が揃っている。
    京太郎も何度かプレイしており対応のカードも所持していた。

    「考えてみればしばらく須賀君と打ってないしね。どれぐらい須賀君が上手くなったのか見てみたいわ」

    「いや、でも」

    今は麻雀から離れている、そう言って断ろうとしたが久に手を引かれて言葉が打ち切られる。

    「いいからいいから。あれもネト麻みたいなものでしょ? だったら気楽なものじゃない。ねっ?」

    そう言いながら京太郎の腕を掴み引っぱった。流されるように京太郎は立ち上がり、筐体に向けて歩き出した
    なぜか強く断れない自分に京太郎は首を傾げつつ筐体の椅子に座った。

    「さっ、早く早く」

    そう言いながら、久も隣に座る。
    こういった筐体はに備え付けられた椅子は狭い。
    詰めれば2人座れないことはないが、必然的にかなり近い距離で座ることになる。
    少し身じろぎすれば肩が触れ合う距離。
    京太郎は思いがけない事態に激しく動き出す心臓の音を感じていた。

    (部長、やっぱいい匂いするなー……って、いやいや! なに考えてんだ!)

    邪な考えを振り払いながら京太郎は筐体に100円を投入した。
    そんな京太郎の心中を察しているのかしないのか、久は楽しそうに見ていた。

    183 = 75 :

    自分のカードを読み取らせ画面をタッチして対局メニューに進む。
    10数秒ほど待つと程なくメンバーが揃い対局が始まった。
    派手な演出とともに牌が配られる。2シャンテン、と小さく文字が表示されていた。

    「さすがお金かけてるだけあって派手ねー。しかもシャンテン数まで出してくれるんだ」

    「えぇ。というかこのシリーズ、演出がどんどん派手になってくんですよね。派手すぎて初めての人は大体驚きます」

    そう言いながら手の中でポツリと浮いていた北を切り出す。
    淡々と場が進み7順目。

    『京太郎手牌』
    456m34678s34p西西 ツモ5p ドラ9s

    画面上ではリーチというアイコンが激しく点滅している。
    特に悩みもせず京太郎はそのアイコンを押してリーチをかけた。

    「……へぇ」

    「え? 何かおかしかったですか?」

    「いや、そういう手をリーチ出来る子だったのね、須賀君」

    くすくすと笑いながら久は画面を指差す。

    「てっきり、麻雀は三色だ、とか言いながら345の三色の手代わりを待つかと思ってたわ」

    「ぶち……竹井先輩の中で俺はどういうイメージなんすか」

    心外だ、と言いたげな表情をして画面を指差した。

    「単純計算、手代わりの4枚とあがり牌の8枚じゃ確立が違いすぎます。確かに平和のみですけど、この麻雀赤がありますし」

    そこまで言ったタイミングで画面が暗転し2索を引いてきて、手元のアガリボタンが激しく点滅した。
    それを軽く叩きアガリを宣言する。

    「平和手、特にこんな順子が被らない平和は」

    画面の中で裏ドラがめくられる。表示された裏ドラ4萬だった。

    「裏ドラの期待値が高いですからね」

    メンピンツモ裏1で1,300-2,600のツモアガリ。なかなかの好スタートだった。

    「はぁー、須賀君から期待値って言葉を聞くことになるとはねー」

    「なんすかそれ。まぁ、和の受け売りですけど……」

    そこまで言って軽く心がきしんだ。
    その痛みを振り払うように画面に目を向ける。
    ちょうど親番である東2局の配牌が配られたところだった。

    184 = 75 :

    『京太郎配牌』
    12244689s45p西北北白 ドラ6p

    少し手が止まった後、西を切り出す。すると隣でへぇ、久の呟きが聞こえた。

    「染めに行かないのね。ぱっと見た目染め手の手配だけど?」

    「一応、点数的にはリードしてますからね。確かに染めに走れば仕掛けられますけど」

    場に北が打ち出される。それをスルーして話を続けた。

    「北ポンしたところで形は苦しいですし、ドラの受け入れ切ってまで行くほど見込める点数が高いわけでもないですから」

    だったら、といいながら画面に目をやる。3索をツモり、少し考え白を打つ。

    「普通に平和なり何なり作ったほうがいいと思うんです」

    これは染谷先輩の受け売りですが、と付け加えて画面を操作していく。
    2順ほど端牌をツモ切り、赤5萬を引き当てた。

    『京太郎配牌』
    122344689s45p北北 ツモ【5】m ドラ6p

    3秒間ほど考え、9索を切り出した。

    「一通も見ないのね?」

    「タコスにお前は一通という役を忘れろと言われましてね……」

    次順で7萬を引き打2索として手配はこのように変わった。

    『京太郎手牌』
    【5】7m1234468s45p北北 ドラ6p

    「あと一息ってところね」

    「えぇ、愚形が残る可能性が高いですが……それでも」

    次順、5索を引き打8索。
    さらに2順ほど場に切れた字牌引きで空振るがついに聴牌となる牌を引き入れる。

    『京太郎配牌』
    【5】7m1234456s45p北北 ツモ3p ドラ6p

    「残念。安めな上に愚形が残っちゃったわね」

    「えぇ、でもこれは」

    「即リーね」

    「はい」

    1索を場に打ち出してリーチ宣言をする。

    「うん、よく捌ききったわね。偉い偉い」

    まるで子供をあやすような声で京太郎を褒める久。若干むくれながらも、京太郎は口元をほころばせた。
    その後、6萬を引きあがり、裏ドラも乗せて4,000オールをあがったのはそのすこし後であった。

    185 = 75 :

    「ほんと、大分練習したのね。かなり上手くなっていて驚いたわ」

    ゲームセンターにほど近いファーストフード店で二人は向かい合って座っていた。
    そんな久の言葉に京太郎はコーラをすすりながら気のない返事をする。

    「そうですか?」

    あのあと数回プレイしたが、結果すべて1~2位で終わることができた。
    京太郎の段位が初段から2段に上がったタイミングでゲームセンターを出てこうして昼食をとっている。

    「えぇ、前みたいに何でもかんでも押したり何でもかんでも下りたりってそんなこともなかったし」

    久は手元のポテトを口にくわえて言葉をつづけた。

    「手役を無理に追いかけることもなくて、素直に打っていたしね」

    「そりゃ、まぁ、基本じゃないですか」

    「その基本がちゃんとできていない人がいるのよ、意外と。きちんと自分の打牌に理由を持っている人なんてさらに少ないものよ」

    それでも納得がいかなそうな京太郎は首をかしげた。

    「でも、よかったわ。ほんと」

    カップのふちを何気なく叩きながら久はどこか嬉しそうに言った。

    「須賀君、麻雀のこと嫌いになったわけじゃなかったのね」

    「えっ?」

    その言葉に京太郎はぽかんと口を開けた。

    「まこからいろいろ聞いたけど、須賀君が麻雀を嫌いになってしまったんじゃないかって、心配だったのよ?」

    「……やっぱり染谷先輩から話を聞いてたんですね」

    「えぇ、そうよ」

    「じゃあ、今日俺を連れ出したのも……」

    俺を引き留めに来たんですか、と続けようとしたところで久は言葉を遮った。

    「それは違うわ。私は須賀君と話がしたかっただけ。ここの所会ってなかった後輩とね」

    「……」

    どこか訝しげな表情で京太郎は久を見る。

    「あら? 信じてくれないの?」

    「何か裏がなきゃ竹井先輩が俺をデートになんて誘ってくれるわけないですからね」

    「ははーん、裏があると思って、本当のデートのお誘いじゃなくて拗ねてるのね?」

    「違いますっ!」

    (だめだ。やっぱりこの人には敵わない。どうしてもペースを乱されるし、なぜか言われたことに従っちゃうんだよなぁ)

    心の中で京太郎はぼやいた。無論、実際に口に出すとさらにからかわれるので言わないが。

    186 = 75 :

    「ふふっ、でも話がしたかったっていうのは本当に本当よ」

    佇まいを直し、笑みは浮かべたままだがどこか真剣な雰囲気で言った。

    「ああいうことがあって、須賀君が麻雀を嫌いになってしまったらとても悲しいことだから、ね」

    なんと返していいかわからず、京太郎は黙り込んだ。

    「でも、さっき麻雀を打ってる姿を見て確信したわ。須賀君はまだ麻雀を嫌いになっていないって」

    だって、と一拍おいて本当にうれしそうな笑みを浮かべていった。

    「私に打牌の説明をするとき、裏目を引いちゃって悔しがっているとき、欲しいところを引いてきたとき」

    ふふ、と久は小さく笑った。

    「本当に、楽しそうだったわよ。須賀君」

    (そう、だったのか?)

    (嫌いになった。いや、嫌いになったはずだ?)

    京太郎は自問自答する。だが、霧がかかったように自分の本心が分からない。

    「『何切る』な手になった時にいろいろ説明して切った後、想定通りに引いてこれた時とか、須賀君すごいドヤ顔してたわよ」

    「ま、マジですか」

    全く記憶のない衝撃の事実に京太郎は思わず顔が熱くなる。
    そんな様子の京太郎を見つめて久は楽しそうに笑った後、さらに言葉を続けた。

    「でもね、それ以上に嬉しかったのは」



    「須賀君がみんなのことを嫌いになってないっていうこと」

    「それが本当にね、本当に嬉しかった」

    187 = 75 :

    沈黙が二人の間に流れる。
    京太郎はその言葉に対して言い返そうとした。

    (嫌いだ。嫌いになったはずだ)

    だが、その言葉が出ない。言い返す言葉が見つからなかった。
    その様子を見つめながら、久は言葉を続ける。

    「須賀君が何かを説明するとき、誰々に教わったことって必ず付けていたの、気が付いた?」

    「えっ?」

    「ふふ、やっぱり無意識だったのね。その時、どこか誇らしげにしてたり、申し訳なさそうな顔、してたわよ」

    「……そこまで、見てたんですか。俺が打ってるの見てるだけなのに妙に楽しそうだな、とは思いましたけど」

    「それだけ表情がコロコロ変わってればね」

    恥ずかしそうな、ばつが悪そうな顔をしながら京太郎は下を向いた。

    「嫌いな人の名前をあんな風に言うはずないものね。ほんと、嬉しかったわ」

    再び、沈黙。
    久は京太郎の言葉を待っているようだ。

    「でも……」

    「うん?」

    「それでもあいつらと麻雀打つのがつらいのは、事実です」

    拳を握りしめる。あのときの無念さが京太郎の心に蘇ってきた。

    「勝てなくて、どれだけ打っても勝てなくて」

    「みんなも俺のために力を尽くしてくれて。それでも勝てなくて」

    「差を、見せつけられてるみたいで、本当に、つらいんです」

    絞り出すような京太郎の独白を久は黙って聞いていた。
    黙りこくってうつむく京太郎を見て久は周りを見渡した。

    「……混んできたみたいね。一旦出ましょ?」

    「……はい」

    京太郎は暗い顔のまま、久は何かを考え込むかのような顔で店を後にした。

    188 = 75 :

    店を出て久はどこかに向けて歩き出す。
    京太郎は虚ろな表情で着いていく。
    繁華街から離れて徐々に物静かになっていくが、2人とも何も言わずに歩き続けた。
    しばらく歩いた後、久は手元の時計で時間を確認し、後ろを振り返った。

    「……まだ少し時間あるし、ちょっと座りましょうか」

    久が指し示すほうには公園があった。

    「……何か予定でも、あるんですか?」

    「いいからいいから」

    暗い顔で尋ねる京太郎を押し切り久は公園に入って言った。
    京太郎は少し立ち尽くしたのち、黙って後を追った。

    189 = 75 :

    「休みだっていうのにほとんど人がいないわねー。最近の小学生は外で遊ばないのかしら?」

    久は公園に入るなりブランコに座って漕ぎだしながら言った。
    京太郎は何も言わず隣のブランコに腰を掛けた。

    「ねえ、須賀君。いくつか聞いてもいい?」

    「……どうぞ?」

    「麻雀って中国で生まれて日本に来て、それから世界的な競技になったけど、なんでそこまで世界的に広がったと思う?」

    「なんでって、そりゃ、面白いから、とか、楽しいから、ですか?」

    「ふふ、それが真理だと思うけどね」

    久はブランコを小さく揺すった。きぃきぃと、金属のこすれる音が響いた。

    「須賀君、貴方将棋やチェスはできる?」

    「えっ? まぁ、駒の動かし方ぐらいは……」

    いきなり質問の内容が変わり京太郎は動揺しながらも答えた。

    「じゃあ、貴方今から今から羽生プロと将棋を指して勝てると思う?」

    「何を……そんなの無理に決まってるじゃないですか」

    「そうよね。私も将棋に関して駒の動かし方ぐらいだけど、8枚落ちでも絶対に勝てないわ」

    久の質問の意図がつかめず京太郎は首をかしげた。

    「でも、麻雀は違うわ。どんな強い人間でも初心者を負けることはある」

    「……」

    京太郎にとってはその言葉については納得しかねるものがあったが、口をつぐんだ。

    「麻雀は運が絡むからね。そう、だからつまり」

    ブランコを揺する手を止めて久は京太郎に向き直った。

    190 = 75 :

    「麻雀ってクソゲーなのよ」

    「……えっ」

    まさかの発言に京太郎は思わず声を漏らした。

    「く、クソゲーって、そ、そんな」

    「あら? 勝負の行方がある種運に左右されるなんてクソゲー以外の何物でもないじゃない?」

    どこか楽しそうに久は言った。

    「じゃあ、須賀君。さっきやった格闘ゲームなんだけど、私が振った攻撃が2分の1でガード不能になるって言ったらどう思う?」

    「……クソですね」

    「攻撃をガードされた時、2分の1で不利だけど2分の1で有利なら?」

    「とってもクソですね」

    「でしょ? まぁ、極端な例だけどね。将棋だってそうよ。最初にじゃんけんして負けたほうは飛車角落ちでやるとか、酷い話でしょ?」

    「そりゃ、まぁ」

    「でも、麻雀ではそれがまかり通っている。最初のスタート地点も違う。途中経過も違う。かといってカードゲームのように降りてゲームから離脱することもできない。クソゲーじゃない。これ?」

    「いや、それを言っちゃうと……」

    「でもね」

    久はブランコから軽くジャンプして着地し、伸びをした。
    そして笑みを浮かべながら京太郎に向かい合う。

    「だから面白いのよね、麻雀て。クソゲーがつまらないとは限らないとはよく言ったものね」

    楽しげに笑う久。京太郎は返事を返さず、そんな久を見つめた。

    191 = 75 :

    「麻雀って強い人が勝つとは限らない。そんな理不尽さがあるから楽しいと思うの」

    「確立を超えた、計算を超えた何かがある。そこから生まれる何かがある」

    そこまで言い切って、久は真剣みを増した表情で、続けた。

    「その理不尽さ。それにはきっと誰にもかなわない。咲も、お姉さんの照さんも、天江衣も誰も彼も」

    「……そうでしょうか? 正直、想像がつかないです」

    咲が麻雀を打っていてツモが全く来なくて嘆いている、そんなシーンが想像できなくて京太郎は久に問いかけた。

    「気持ちはわかるわ。彼女らのオカルトめいた『何か』はきっと人間がその理不尽に対抗するために生まれた『何か』なんだと思う」

    「理不尽に、対抗する『何か』……」

    「ある種の進化なのかしらね? だから通常では考えられないような手をあがる。勝ち続ける」

    でもね、と一旦間を切ってどこか悲しそうに、どこか寂しそうに

    「それでもきっと理不尽なそれに屈するときがある。もし、もし、強い人が必ず勝つ。そんなことがあれば」

    ため息をついて、言った。

    「それはもはや麻雀ではないわ」

    192 = 75 :

    「もちろん、技術や知識は必要よ。麻雀は確立のゲームでもあるから」

    しばしの沈黙の後、久はそう言葉を続けた。

    「だから強くなるためには勉強や訓練が必要なことも事実。だから」

    久はブランコに座ったままの京太郎の前にしゃがみ込み、京太郎の顔を覗き込んだ。

    「信じて戦い続ければ麻雀の理不尽さが味方してくれる時が、きっと来るわ」

    「たとえ須賀君が対抗するための『何か』を持っていなかったとしても」

    「『何か』をもっていなくても麻雀は勝てる。もたざるものでも、もつものには勝てる」

    そう言って、久は京太郎の腕を優しく撫でた。

    「私はそう信じているわ」

    193 = 75 :

    はい、一旦ここまでです。
    おかしい、部長のデートだけで2日費やしている……しかもデートはまだ終わっていないという事実。
    とは言ってもあとちょっとですが。

    何とかデート終了まで今日中に書き切りたいけど時間的にきついのであまり期待しないでくださいー

    197 :

    余計へこむわ、こんなん言われたら
    と思った俺は捻くれてるな

    199 :


    部長も「もってる」人間なのがなんともなぁ

    200 :

    乙っす


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