元スレ京太郎「もつものと、もたざるもの」
SS+覧 / PC版 /みんなの評価 : ★
1 :
以下に該当する方はブラウザそっ閉じ推奨です。
・京太郎SSが苦手な方
・イチャイチャ要素を期待されている方
なるべく早い段階の完結を目指していきます。 (理想は1週間以内)
SSWiki :http://ss.vip2ch.com/jmp/1361725595
3 :
「リーチ!」
清澄高校麻雀部部室に起家である優希の高い声が響いた。東1局3順目、捨牌には西、1萬、4索が切られているのみである。
内心ため息をつきながら下家の京太郎は自分の手配を見下ろした。
『京太郎手配』
2289m 125p 58s 北北撥中 ドラ3s
アガリどころか聴牌すらほど遠い自分の手配に視線を送りつつ、山に手を伸ばす。ツモ8p。
『京太郎手配』
2289m 125p 58s 北北撥中 ツモ8p
全く状況が良くならないツモであったがどちらにせよ1面子もない状態で親リーに突っ張るつもりは欠片もなかった。
ノータイムで北の対子に手を伸ばし、場に切り出した。だが、それに対して待ってましたとばかりに声が上がる。
「ロンだじぇ!」
思わずビクリ、京太郎の体が跳ねた。思わず優希の顔を見た後、優希の倒した手配に目をやった。
『優希手配』
678m234s東東東北北中中 ロン北
「リーチ一発ダブ東ドラ1……おっ、裏ドラが中で親っ跳だじぇ!」
「なんじゃぁそりゃ!」
思わず素っ頓狂な声が上がる。振り込んだ京太郎は体をのけぞらせ天を仰いだ。
4 = 3 :
「そう落ち込むな! 高めだったら親倍だったんだじぇ! 安く済んだと考えな!」
「まぁ、京ちゃんこればっかりはしょうがないよ。その待ちならいずれ出ちゃうよ」
「そうですよ須賀君。麻雀ですからこういうことも起こりえます」
1年生の3人娘から口々にフォローの言葉が飛び交う。
自分の手の中にある中――優希の言う高目親倍の当たり牌――を見下ろしながらため息をつく。
あの手恰好では振り込むことが約束されていたとばかりの状況に心が折れそうになる。
「そうじゃな。あの手恰好じゃ誰が打とうといずれ打ち込んでおった。気にするな」
京太郎の打ち筋を後ろで眺めていたまこも気遣いの言葉を投げる。
「うっす。よっしゃ、まだ始まったばかりだ! 気合い入れていくぜ!」
「ふふっ、頑張って京ちゃん」
「おぉっと、そうはいかないじぇ。この連荘で終わらせてやるじぇ!」
軽く笑いあいながら、再び場は進行していった。
(そう、だれでも振り込む。それはわかる)
(でも……こいつらは)
(こいつらはこんな状況にまずならない)
(こいつらだったら確実な安牌が手にあるかそもそも手の中に当たり牌がない)
(……少なくとも、インターハイ中はそうだったしな)
京太郎の胸に芽生えた小さな小さなしこりを押し隠したまま。
5 = 3 :
激動のインターハイで非常に優秀な成績を残した清澄高校麻雀部はインターハイ後の残り少ない夏休みも関係各所への対応に追われた。
学校での祝賀会、マスコミへの応対、行政からの祝辞等、一般高校生ではなかなかお目にかかることのないイベントが連日のように行われろくに休みもないまま新学期に突入した。
9月となり竹井久からの引き継ぎを終えた染谷まこが新部長となり、新たな体制と清澄高校麻雀部は2学期初めての部活に励んでいた。
大会中は麻雀をほとんど打つことができなかった京太郎は部活開始と同時に喜び勇んで卓につき、前述の通り惨い有様となっている。
東1局1本場は和が優希から2,300点をアガって軽く流し、巡ってきた親番。何とかこれをものにしなければ、と念じながら配牌を手にした。
1127m458s257p西西西撥 ドラ1m
ドラヘッドのチャンス手。面子候補が足りてないうえに動きにくい手だが筒子がさばければ勝負になる。
自分の手をそう結論付ける。ドラを固定するために1打目2萬を切り出す。面子が足りてないうえに動きにくい手恰好なので撥はぜひとも欲しいところであった。
とは言えある程度の打点もほしい、そう考慮して小考した後2萬を切り出したがそれを受けて京太郎の下家は和はドラが対子以上であることをなんとなく検知する。
(須賀君も私達とは打てなかったとはいえ、その間に何もしてなかったわけではありませんからね。ある程度効率は考えられるようになってきているはずです)
(恐らくドラが対子以上。まぁ、ほぼ聴牌形が出来上がっているという可能性もありますが……)
考えつつも和は第1ツモに手を伸ばす。そしていつものように長考に入る。
『和手配』
23m12446s24678p北 ツモ3p
とは言ったもののほぼ面子候補ができている形。且つ急所の1つである索子の嵌張引いて方向性はほぼ決まっている。を北を切り出し場を進める。
その後、場は淡々と進み一つの分岐点といわれる6順目、京太郎の手配はこうなっていた。
『京太郎手配』
11m34588s579p西西西
高確率で愚形が残る手恰好。ツモは白。ノータイムでツモ切りしつつ、京太郎はどう聴牌してもリーチを打つ気でいた。
6 = 3 :
夏休み、大会中の空き時間中に携帯の麻雀アプリで麻雀を打っていた際に役無しドラ1の愚形聴牌を入れた際に両面への手替わりを見越して黙聴にしたところ、たまたま通りすがった和にひどく叱られたことがあった。
『京太郎手配』
123m23479s67799p ツモ5p ドラ1m
「須賀君、何故黙聴にしたんですか?」
アプリの画面では「リーチ」のアイコンが表示されていたがそれを押さず7pを切って聴牌を取った瞬間だった。
思いがけず声をかけられびくり、と震えて後ろを振り向くと難しい顔をした和が立っていた。
自分の答えを待っていることを悟った京太郎は恐る恐るといった感じで声を出した。
「えっ? あっ、そ、その、 だって嵌8索だぜ? 6索を引けば平和が……」
「論外です!」
ぴしゃりと言い切る和に思わず言葉を詰まらせる京太郎。
「単純な確率の問題です。まだ5順目ですよね? だれのリーチも仕掛けも入っていません。場は字牌、端牌だらけ。この状況で6索引く確率と8索引く確率ってどちらが高いと思いますか?」
「……同じ、だな」
「そうです。尚且つこの手は役無で手替わりの受け入れも6索しかないと考えれば即リーの1手です。6索引いて平和を逃すより8索の出上がりができないということのほうが圧倒的に痛手です」
「なるほど、そういわれると納得いくな……」
「これは現代のデジタル麻雀では基礎の基礎です。この21世紀に未だ旧態依然とした面前で手役を作らなければいけないという面前至上主義が根強く生き残っているのは由々しき事態です。自分がやるのはまだ許せますがそれを初心者にあたかも正しいことのように伝えていくというその姿勢が」
「ストーーーーーップストーーーーーーーップ! わかった! わかったから!」
7 = 3 :
オカルトの風が吹き荒れるこのインターハイでいろいろと腹が据えかねるものがあったのか、滾々と和の口から湧き出る呪詛の言葉をあわてて押しとどめる。
思わずはっとなった和は軽く頬を染めながら軽く咳払いをする。
「……失礼しました」
「い、いや、別にいいけどさ。しかし……すまんな、和」
「? 何がですか?」
少し言いづらそうに視線をそらしつつ呟く。
「いや、その、大会中でせっかく休んでる最中に俺なんかのためにくだらない時間使わせちゃって。もうすぐ出番だっていうのにさ」
はは、と自嘲気味に笑う。烏滸がましいことだとは理解している。しかたがないことだとは理解している。それでも京太郎は周りに置いて行かれている、蔑ろにされている。そんな気持ちを抑えることができなかった。
普段はあまり自虐的なことなど言わないとは京太郎自身思っていたがそんな精神状態のせいか、思わず口に出てしまう。何を言ってるんだ、と激しく後悔しそうになるが見る見る不機嫌な顔になっていく和に驚きの感情で塗りつぶされていった。
「くだらないってなんですか?」
「えっ、いや、だって」
「私が初心者の須賀君に対して、経験者が初心者に指導をする、初心者が経験者に対して教えを乞う。それがそんなにおかしいこと、くだらないことなんですか?」
麻雀はガチガチのデジタル思考であり、機械のように冷静沈着正確無比。そんな原村和だが一歩卓から離れると非常に感情が表に出やすい。
京太郎はそんなことを考えながら思わず身震いする。彼女は怒っていた。それも猛烈に。
「その……大会中だし、和も忙しいし自分の時間もほしいだろ? ほら、俺の始動で時間を使うよりはその」
「須賀君!」
ごにょごにょと、とりとめのない言い訳をする京太郎を一喝する。京太郎はびくりと体を震わせ恐る恐るといった感じで和と目を合わせた。
「いいですか須賀君。私とあなた、同じ清澄高校麻雀部ですよね?」
「……」
「返事は?」
「は、はい!」
「そうです。同じチームメイトですよね? それなのに何故、貴方が教えを乞うことに遜ったり卑屈になる必要があるんですか?」
「いや、だって、和はレギュラーメンバーだし、インターミドルチャンピオンだし、悪いなって……つまらないこと聞くと、その、怒られそうだし……」
8 = 3 :
和はその答えに思わず頭を抱えたくなった。将来の夢の1つに小学校の先生になりたい、そう思っているのにそんなに怖い人間、質問をしにくい人間だと思われていたとは……。
もう少しやわらかい態度を心がけるべきだろうか、そう自省しつつ幾許か表情を和らげた。
「……須賀君の中で私はそんなに怖い女、キツイ女だったんですか?」
「あー、いやー、そんなことは」
「目を見て話してください」
「……すみません」
「いいです、謝らないでください。初心者が聞きづらい環境にあるというのはこちらが反省すべきことですから」
そう、反省するべきだ。そう和は思った。初心者であり、まずは麻雀の楽しさを分かってもらうという大切な時期に合宿だ大会だで殆ど放置気味になっていたことを反省すべきだ。
和自身、中学時代は後輩達にもいろいろ気にはかけていたはずだったのだがここ最近はいろんなことがありすぎ、自分自身手一杯であったため、あまり周りに気を配りきれなかった。
京太郎がこういう卑屈な発言をしてしまうような環境を作ってしまったのは自分たちに責任がある。
ずきり、と心が痛んだ。
(だからと言って今更取戻しが効くものではありませんよね……)
(だから……だからせめて)
和は心の中で一つ決意する。今更罪悪感に任せて媚を売っても仕方あるまい。京太郎に怖い女と思われているのならそれでいい。
それでも自分にできることをしよう、そう決意した。
9 = 3 :
「須賀君」
「な、何?」
「今は大会中だから無理ですが、大会が終わって、新学期になったら特訓です」
「うぇ?」
思わず声が出る京太郎。大分間抜けな顔をしているのだが気にせず和は続けた。
「勉強はそれなりにしているみたいですがまだまだ不足しているところも多いみたいです」
「えっ、ちょっ」
「私だけじゃありません。周りは上手い人だらけです。部長、染谷先輩、咲さんとゆーき、みんなで協力して徹底的に特訓します」
「いや、その」
「嫌とは言わせません。泣いたり笑ったりできなくなるまでみんなでバキバキに鍛え上げます」
「ちょ、和。こわ」
「何か言いました?」
「いえ、何も」
怖い、と言いかけた口を思わず閉じる。そんな姿を見て和は思わず小さく微笑んだ。
「大丈夫です。優しく教えますから」
「……」
(今の話の流れでその言葉はどう考えても信用ならん)
新学期から自分はどうなってしまうのか。そう考えると京太郎は軽く身震いした。
「それと、さっき教えることが無駄な時間って言いましたけど」
「私たちも人に教えることで自分が改めて深く理解するっていうこともありますし」
「指導っていう行為は無駄な時間ってことはないんですよ」
「だから」
「くだらないとか、悪い、とか思わないでください」
10 = 3 :
「そんなの、悲しいです」
11 = 3 :
その一言でどれだけ救われたか、京太郎はそう思った。恐らく一番存在を軽んじられているであろうと思っていた和にそう言われて京太郎はひたすら麻雀の勉強に費やした。
大会中の雑用もこなしつつ、教本を読み、ネト麻を打ち続け自分なりに修練を続けた上でのこの1局であったが状況は前述した通りである。
だが、圧倒的不利な状況でも京太郎は何とかベストを尽くそうと足掻いていた。そして8順目。
『京太郎手配』
11m34588s579p西西西 ツモ1m
(っ! 絶好のドラ引き!)
ここ最近で一番手ごたえがあるツモに喜び勇んで5筒を切り出し、千点棒を場に出して高らかに発声した。
「リーチっ!」
このリーチに対して3人は現物を切り出す。そして1発目のツモ。力を込めてツモるがそこに書かれていた絵柄に思わず心がざわめく。
『京太郎手配』
111m34588s79p西西西 ツモ6p
典型的な裏目。思わず歯ぎしりしそうになる京太郎だったがなるべく平静を装って場に切り出した。
(しょうがない。麻雀で裏目を引くのはしかたない、まだ終わったわけじゃ)
「ロンだじぇ」
京太郎の必死な思いをその声が無情にも打ち砕く。
『優希手配』
【5】5m99m67799s【5】5p北北
「仮聴だったけど出るならありがたくあがらせてもらうじぇ。チートイ赤赤。6,400点だじぇ」
「っ! ロクヨンってことは……」
「そう。リー棒出しちゃったから……ト・ビ、だじぇ」
「マジかーーーーーーーーー!」
しなを作ってウィンクしながら無情にそう告げる優希。それを聞いた京太郎はぐしゃり、と前のめりに倒れこむ。
京太郎の手配も倒れこんだがその手配と捨て牌を見比べて和は多少表情を和らげた。
「いえ、須賀君。結果的に振り込みに回ってしまいましたが別段間違いは犯してません。まっすぐ打てていたと思いますよ」
「そうだよ京ちゃん。8筒はおそらく全部山だったし、こればっかりはしょうがないよ」
そんなフォローが2人から飛ぶが京太郎はうめき声を返すのが精いっぱいだった。
無力感にさいなまれつつ、先ほど芽生えたしこりに気づかないように視線をそらし続けた。
12 = 3 :
(俺は、強くなれるのか。本当に?)
勝利への疑心という感情に
13 = 3 :
本日はここまでです。専ブラだのなんだの整えていたためこんな時間&文章量少なめという二重苦。
また明日(今夜?)を目標に続きを書きに来ます。
14 :
期待してるで~
おつです~
15 :
おつー
おもろいで! 期待しとるわー
16 = 3 :
そうだ。肝心な注意書きを1に書き忘れました。
本SSは拙いながらも闘牌シーンみたいなものがありますが、その中で出てくる手や状況はすべて>>1が経験したものとなっております。
「んなことあるわけねーだろタコ!」と思われるかもしれませんが事実は漫画よりも何とやら精神で温く見守ってください。
17 :
おつー
期待してるが、こういう形式なら会話の行間や、地の文はなるべく空けたり短く切った方が読みやすい
小説と違って横向きな上、見る物によってはかなりゴチャゴチャする
18 = 2 :
おつー
これは面白そうだ
19 :
乙
野暮な突っ込みだが、手牌と手配間違えてるで
20 :
この二つの振り込みは結構あるあるだと思う
特に後者は悔しさがパネェ
21 :
スレタイをみて真っ先におもちを連想してしまった人は自分だけではないはず。
22 :
期待期待!
この裏目はあるある過ぎてワロエナイ…
23 = 3 :
>>1です。ようやく帰宅しました……。何とか24時ぐらいを目途に投下を開始したいと思います。
そしてたくさんの支援コメント本当にありがとうございました。
通勤時間中にコメント見ながらニヤニヤしっ放しでした。
思ったより反応があって喜びのあまりケツぐらい差し出したほうがいいのではとかそういう気分になりました。
>>17
ご指摘ありがとうございます。本日の投下はそのあたりに気を付けてみます。
しかし青空文庫のテキストはぎゅーぎゅーに書いてあってもビューアーを通せば超読みやすい。
あのビューアーはチートやで
>>19
あまりにも堂々と間違えすぎててまったく気づきませんでした……。
本日の投下は気を付けます。
>>20 >>22
あるある、そうやって思っていただけると大変うれしいです。
>>21
私の中でも狙ったという気持ちはあった
24 :
おう、きれいに毛を剃っとけや。
25 :
すみません遅くなりました! これより投下します。
ちなみに話は全く関係ないですがつい最近まで存在を知らなかった咲日和を読みました。
その結果、>>1の中で池田というか風越メンバーの株がストップ高
池田かわいいよ池田
みはるんかわいいよみはるん
美穂子さんかわいいよ美穂子さん
というかみんなかわいいよ
26 = 25 :
「あーあ、9筒切りだったか……」
「それは結果論です」
弱気な発言を即座にたしなめる和。
その様子を見ながら咲は自分の手牌に目をやり、次に嶺上牌に目をやった。
『咲手牌』
123m【5】55s999p白中中中
(9筒を切ったら私がカンしてた。多分あの嶺上牌は……中、だと思う)
(それもカンしたらおそらく、多分この白ツモれてた)
(新ドラも含めれば倍満で京ちゃんを飛ばしつつ逆転……)
(ごめんね京ちゃん。9筒でもダメだったみたい)
和が聞いたら発狂しそうなことを考えながら、咲は京太郎の不運を嘆いた。
そんな中、一呼吸を置いてまこが立ち上がり手を叩いた。
27 = 25 :
「とりあえず新学期一発目の対局は終わったようじゃな」
1年生4人組の顔を見渡したのち多少もったいぶった感じで言った。
「インターハイも無事に終わって気が抜けたと思うが、じゃからと言ってそれで全てが終わったわけではないぞ」
そう言った後、ペンを取ってホワイトボードに歩み寄り何かを書き始める。
訝しげに見つめる4人を尻目に、何かを書き終えたまこはペンを置き、ホワイトボードを強く叩いた。
11/××
新人戦長野県予選
「そう、新人戦じゃ。無論わしには関係のない話じゃが……おんしら1年生4人組には他人事ではなかろう」
それを聞いて京太郎は何か言いたげにまこを見たり3人娘を見たり落ち着かない様子であたりを見渡した。
「京太郎、そんな顔をせんとも言いたいことはわかる。夏の大会メンバーで言えば鶴賀の東横や風越の文堂あたりがでてくるじゃろう。それでも」
しばし沈黙するまこ。
「インターハイでの成績を考えれば3人のうち誰かは全国に行けるじゃろう」
「ですよねー」
「無論、油断していいという理由にはならん! 団体戦に出なかった無名の大型ルーキーが出てくるかもしれん」
麻雀に絶対はないしな、と付け足しつつまこは3人娘に視線を送る。それを受けてはい、と元気よく返事を返す。
だが、その言葉に京太郎はふたたび心がざわめくのを感じた。
28 = 25 :
(絶対はない……本当か? 本当そうなのか?)
その内心を知ってか知らずか、まこは京太郎に視線を向け、びしりと指を突きつけた。
「問題はお前じゃな。京太郎」
「え、あ、はい……」
唐突な名指しの声に思考を打ち切り我に帰る京太郎。まこと目を合わせると何か意地の悪い笑みを浮かべていた。
「インターハイ中はほとんど目をかけられなかったというのに、自分なりに学習を進めておったようじゃな」
「はい、一応……」
「とはいえ、自分の実力は把握しておるじゃろ? 休み期間中にやっていたというネト麻の牌譜を見せてもらったがまだまだミスが多い」
「うぐっ」
「だーかーらー」
にぃ、という擬音が聞こえてきそうな笑みだった。
「これから大会に向けて京太郎を徹底的に鍛え上げる。今までろくに始動できなかった分たっっっぷりとな」
ぶるりと身震いする京太郎の横から和が何か楽しそうに言葉を続けた。
「私から染谷先輩に須賀君の特訓の話を持ちかけたら、染谷先輩もそのつもりだったみたいです。よかったですね、須賀君」
「なるほど犬の強化月間ってことか。それは楽しみだじぇ! 腕が鳴るじぇ!」
「よかったね京ちゃん! もちろん私も協力するよ!」
わいわいと、本当に楽しそうにこれからの教育プランを話し合う4人を見て、決して見捨てられていたわけではないという喜びを感じつつも……
(どうなるんだ、俺……)
嫌な予感が止まらない京太郎であった。
29 = 25 :
その後、京太郎は4人とかわるがわる打ち続けことごとく叩き潰される時間が続いた。
本日は初日ということで軽めに――とはいえそれなりに打ってはいるのだが――終わったのが京太郎にとっては幸いであった。
今日1日で1か月分は負けたのでは、と思えるほどのすりつぶされっぷりあった。
事務仕事があるというまこを残し4人は校舎を後にした。
「それじゃあまた明日なー!」
「須賀君、咲さん。また明日」
「ばいばーい」
「おう……じゃーなー」
とりとめのない話をしながら歩いていたが分かれ道となり京太郎と咲、優希と和という組み合わせで別れた。
「あー……づがれだ」
「お疲れ様、京ちゃん」
二人だけとなったタイミングで軽く愚痴りながら大きく伸びをする。
げっそりとしている京太郎とその横で朗らかに笑う咲。
時間的には夜とは言えまだまだ暑い。時間を考えずけたたましくなく蝉の音を聞きながら二人は帰途についていた。
二人の間に特に会話はないが付き合いの長さが成せる技か、気まずさは特になかった。
沈みかけた日に伸びる自分の影を見つつ京太郎はふたたび自分の心のしこりに悩まされていた。
(沢山打った)
(そして沢山負けた)
(3位をとれたのが数回あっただけであとは全部ラス)
(何だこれ? 麻雀ってそんなゲームなのか? こんなに運の要素が強いゲームなのに、こんなに勝てないものなのか?)
(俺が弱いだけ……本当にそれだけで済まされる話なのか?)
(牌効率や押し引きを学んで……埋められる距離なのか?)
京太郎は隣を歩く咲に目を向ける。
それと同時に長野大会での最後の場面が京太郎の頭によぎった。
『カン』
(……)
『ツモ』
(あれが)
『清一色、対々、三暗刻、三槓子、赤一、嶺上開花』
(あれが)
『役満です』
(あれが……!)
『麻雀って、楽しいよね』
(あれが技術やなんかで埋まるものなのか!?)
30 = 25 :
「……京ちゃん?」
京太郎の隣を歩いていた咲が立ち止った。京太郎から何か感じたのか、心配そうに顔を覗き込む。
心の内を悟られないように、ごまかすように京太郎は咲に問いかけた
「なぁ、咲」
「なぁに、京ちゃん?」
「このままこうやって、必死に練習を続けて、毎日毎日頑張って勉強して、そうすれば……」
叫びだしたい気持ちを必死でこらえて、京太郎は言葉を続けた。
「俺も、強く、なれるか?」
「……えっ?」
唐突な問いかけに思わず言葉を失ったが、京太郎の何かこらえきれないような、必死な様相を見て意識を取り戻した。
咲は思考する。どう答えるべきなのか。咲自身としてはきっと強くなれる、そう信じているが……京太郎の欲しい答えというのはそんな単純なものだろうか?
何を応えればいいのか、何が正解なのか咲の頭の中でぐるぐるとまわっていた。
それでも、しばしの沈黙ののち、咲は答えた。
「ごめんね、京ちゃん……京ちゃんが強くなれるかどうかは、わからないよ。絶対、なんで無責任なこと、言えないもん」
「……そうか」
「でもね、でも、私はいつも練習するときもっと強くなれる、もっといい牌が引けるようになる、そう信じてやってるよ」
「……」
「そうすれば、きっと牌も答えてくれる。だから京ちゃんも信じて頑張ってみて」
そういいながら咲は京太郎に微笑みかけた。釣られて、辛うじてといった形だが微笑み返す。
「一歩ずつ、少しずつでいいから、頑張ろう? ね?」
「……そっか」
京太郎はそれを聞いて理解した。
「そうだよな、咲。そうだったな……頑張るよ、俺」
咲の頭に生えている特徴的な癖っ毛をピンと指ではじきながら京太郎は歩き出した。
「あぅ、ちょっとやめてよー!」
「ははっ、わりぃわりぃ。ほら、帰るぞ」
足早に歩みを進めると咲が慌てて後を追いかけた。
京太郎はそんな咲をからかいつつ、ざわめく心とがりがりと暗い気持ちが自分の心を侵食していくのを感じていた。
31 = 25 :
(そうだよな、咲)
(お前には昔からすごい力があって)
(努力すれば報われる)
(願えば叶う。そう言う人間なんだな)
(まさに牌に愛された子ってやつか)
(ははっ、なんだそれ)
(……くそっ)
(……ずりぃ)
(ずりぃよ、咲。俺だって)
(俺だって、そうありたかった)
(お前みたいに、何かをもって、生まれてきたかったよ)
必死に暗い気持ちを振り払う。京太郎自身前に進むには努力しかないということは心情では理解していた。
だから咲の言うとおり明日から一歩一歩頑張ろう、無理やりそう自分の中で結論付けた。
芽生えたくらい感情に無理やり蓋をしたまま。
32 = 25 :
そんな生活を続けて1か月。決して物覚えのいいほうではなかったが、判断や押し引きは以前よりも優れてきた。
大きな落手を踏むようなことも少なくなってきた。だが、それでも。
「ツモ。ツモメンホンで満ガン。これでぴったりまくりじゃな」
「うわー! 最後の最後でまくられたじぇ!」
「あぅ、私のカン材が使い切られてる……」
「……」
それでも京太郎は1か月の間1度もトップを取ることができなかった。
棚ボタな2位が時たまあったぐらいでほぼ3位4位を占めていた。
「……くそっ」
オーラスの京太郎の手配はこのようになっていた。
『京太郎手牌』
13【5】56889s南西白撥撥 ドラ6s
焼き鳥で迎えたオーラス、着順を上げるには跳満をツモるか満ガンを直撃しなければいかなかった。
そのため染めに走ったがろくに面子ができず終わった。
かといって自分の捨て牌をかき集めても――鳴きが入る可能性があるので不毛な話だが――聴牌すらできていない。
卓の下で思わず拳を固めた。
「残念でしたね。最後の局、私が打ってもそうなってましたから気にしないでください」
今回抜け番だった和が後ろから声をかける。それに対して軽く礼を言いつつも溢れてくる暗い気持ちを押しとどめていた。
(お前だったらこうはならないよ、和。ちゃんとツモが来てくれるさ。それでかっこよく逆転……だな)
「京太郎、大丈夫か? 少し休憩するか?」
暗い表情の京太郎を見てまこが心配そうに声をかける。それに対して半ば意地のように答えた。
「いや、やります。まだいけます」
「無理はするな、大分堪えたじゃろう?」
「大丈夫です、行けます……ほら、和。入れよ」
話は終了とばかりに話題を変える。まこは不承不承といった形で和に席を譲った。
「おーし、まだまだやる気だな京太郎! 頑張るんだじぇ!」
「……おぅ!」
無理やり、といった感じて返事を返す京太郎。そして、サイコロが振られた。
33 = 25 :
「ツモ。三槓子ドラ4で3,100、6,100です」
(で、結局いつものパターンか)
南2局に咲が派手に上がったところで京太郎はひとり心の中で愚痴る。
相も変わらず焼き鳥の状況。なんでもいいからあがりたい、そう考えているがそもそも勝負になる牌がやってこない。
そんな苦しい状況で自分の最後の親番は空しく流れていった。
新たに山が積まれ配牌を取っていく。
南3局
咲 34,900
京太郎 16,400
和 29,200(親)
優希 19,500
そこまで絶望的な点差ではないが相も変わらずラスにいた。
こういった状況は今まで何度もあったが全くと言っていいほど逆転の手が入らなかった。
だが、この局においては違った。4トンずつ牌を取っていくたび、京太郎の心は激しく騒いだ。
『京太郎手牌』
6s112233588p東中中 ドラ中
配牌メンホンチートイシャンテン。順子のホンイツと考えてもリャンシャンテンである。
どちらにせよ跳満、うまくいけば倍満まで見える手配だった。後ろで手を見ているまこも思わず息を飲んだ。
3人の打牌が完了し、震える手で第一ツモに手を伸ばした。
『京太郎手牌』
6s112233688p東中中 ツモ6p
(っっっっっ!)
思わず叫びだしそうだった。渾身の引き。考え付く限りで最高の引きだった。
リアルの麻雀ではダブリーは初めてであり、倍満確定のリーチを打つことも初めてだった。
震えを抑えながら6sを切り出し、宣言をした。
「リーチっ!」
「うげっ、ダブリー!?」
凹み続けていたところからの思わず伏兵を想定していなかった優希は思わず取り乱した。
次順、親の和がツモに手を伸ばし、相変わらず淀みの無い仕草で場に手出しで牌を捨てた。
東を。
34 = 25 :
「ロンッ!」
「えっ?」
勢いのいい発声に思わず驚きの声を漏らす和。
「ダブリー一発メンホンチートイドラドラ……裏2! 24,000だっ!」
京太郎以外の4人がぽかんと口をあけたのち優希が思わず声を荒げた。
「なんじゃそりゃっ!」
「うるせー! お前が言うな!」
即座に突っ込み返す京太郎。京太郎と優希は憎まれ口をたたき合うが、その顔には久方ぶりの笑みが浮かんでいた。
「……さすがに読めませんね」
「うん、これはね。和ちゃんが切らなきゃ私が切ってたし」
そういいながら咲は手の中にぽつんと浮いていた東をぱたりと倒した。
「やりおったのぅ、京太郎。初のトップが見えてきたぞ。きばりんしゃい」
まこのそんな嬉しそうな言葉に京太郎は気を引き締めた。
(そうだ、まだ終わったわけじゃない。オーラス何とか軽く流して終了するんだ)
南4局
咲 34,900
京太郎 40,400
和 5,200
優希 19,500(親)
高鳴る心臓を抑えながら配牌を取る。
『京太郎手牌』
34m45s1145688p北白
(悪くない! 何とか平和かタンヤオが作れれば、勝てる!)
北を切り出しながら、京太郎の初トップに向けての道のりが始まった。
35 = 25 :
その後、5萬を引き入れツモ切りが続いた7順目。
『京太郎手牌』
345m45s1145688p北 ツモ5p
(っ! 良型変化への種!)
引いてきた5pを手に仕舞い込み打北とする。
そして次順
『京太郎手牌』
345m45s11455688p ツモ6p
(よし! 来た!)
平和確定のツモ。それを見て京太郎は場を見渡す。
『咲捨牌』
1⑨白撥二⑧④
『和捨牌』
四二西西⑧⑤②
『優希捨牌』
中1南東二九白
(咲は普通の平和系、和は……チャンタか、清一色かな。優希もタンピン系っぽいな)
どちらにせよ、そこまで不穏な感じは受けないと判断し、京太郎は1筒に手をかけて場に切り出した。
その時、まこが思わず小さく息を吐いたが幸いにして誰も気づかなかった。
そして次順
『京太郎手牌』
345m45s14556688p ツモ3s
(聴牌だっ! これをあがれば)
滑るように1筒に手をかけて場に切り出した。その瞬間、まこのうめき声を京太郎は聞いた。そして
「ロン」
和のよく通る声が響いた。その瞬間京太郎は理解した。
(和は4確や3確をするようなやつじゃない。つまり)
『和手牌』
19m9p19s東南南西北白撥中 ロン1p
(逆転の手が入ってる、って……こと……だ……)
「国士無双。32,000です」
37 = 25 :
負け続けてきた京太郎を支えていたもの
プライドか、意地か、仲間への思いなのかそれは本人にもわからない。
だが
38 = 25 :
京太郎を支えてきた「何か」が、ぽきり、と音を立てて折れた。
39 = 25 :
本日の投下分は以上となります。
ほんとはもうちょっと先まで進めるはずだったんですが帰宅が遅くなったせいで予定に達せず……。
また明日投下いたします。
しかし昨日投下した部分、管理人の尻をなめたら修正させてくれるというのなら喜んで舐めたい。そんな気分です。
誤字や重複表現やらがひどい……
40 = 25 :
ちなみに前述したとおり闘牌は>>1の実体験がもととなっております。
今回出てきた対子落としが国士無双に刺さったというのも事実です。
あれはキタで……。
41 :
乙
これは心折れるわ
7巡目国士とかどんなオカルトですか(恐怖)
42 :
>四二西西⑧⑤②
いやいやいやここから国士とかよめんわ……
おつー
43 :
乙
最後のアレは確かにキツいわー……
44 :
乙
さすがに国士だとは思わないけど
チャンタ系って読んで字牌対子落としっぽい捨て牌なら①じゃなくて⑧の方を落とさね?とは思った
上がりトップだから喰いタン狙ったってことでいいのかな
45 = 25 :
すみません、やっぱりあと2~4レス分ぐらい投下します。
46 = 42 :
おう あくしろよ
47 = 25 :
「うわー……すごいよ、和ちゃん」
呆然としている京太郎。その横で咲があまりにもドラマティックな展開に驚きの声を漏らす。
「まさかこんなにタイミングよく刺さってしまうとはのう」
京太郎と和の手牌を後ろから見ていたまこはそう言いながら天を仰いだ。
「少々出来すぎでしたがね」
和はそういいながら苦笑する。そして呆然とする京太郎に視線を向けた。
「あの、す、須賀君? 大丈夫ですか?」
心配そうに声をかける和だが京太郎は反応を示さない。そんな和を尻目に優希は京太郎の隣に立って背中を軽く叩いた。
「シャキッとしろ京太郎! まったく、どんな手恰好だったんだ?」
そう言いながら優希は京太郎の手配を倒した。
「ふんふん、なるほど……。京太郎、そこまで悪手ってわけじゃないがこの振り込みは防ごうと思えば防げたじぇ」
京太郎はピクリ、と体を反応させ、うつむいた姿勢のまま自分の手配に目をやった。
「お前が1筒対子落としの際は捨て牌はこうなっていたはずだじぇ」
『京太郎手牌』
345m45s11455688p ツモ6p
『咲捨牌』
1⑨白撥二⑧④
『和捨牌』
四二西西⑧⑤②
『優希捨牌』
中1南東二九白
「確かに1筒ならチー聴も取れるけど、防御ってことを考えたら8筒のほうが圧倒的に安全だじぇ? まぁ、無論私にあたる可能性が0ではないけど」
優希の指をぼんやりと見つめる京太郎。
48 = 25 :
「まぁ、とは言ってもそこまでの落手、とは言い切れないじぇ。というか国士とはだれも読めないじぇ。とは言えもうちょいっと防御のほうにも」
「やめてくれ」
絞り出すような京太郎の声が聞こえた。部室の中がしん、と静まり返った。
「もう、わかった。わかったから。俺が悪かった。俺が下手くそなのが悪かった。だから、もう勘弁してくれ」
ぼそぼそと、うつむいたまま呟く京太郎。それを聞いて何か腹を据えかねたのか優希が食って掛かる。
「なにをふて腐れてるんだじぇ! 敗北から学ばなくて一体どうやって成長するつもりなんだじぇ!?」
だが、その声にも反応せず京太郎は言葉をつづけた。
49 = 25 :
「もうダメだ。どんだけやってもお前らには勝てない」
「勝てないんだ。どんだけあがこうと」
「お前ら持ってるやつにはどんだけやっても勝てないんだ」
「っ! 京太郎!」
かっとなった優希がつかみかかろうとしたところに慌てて咲が押しとどめる。
「優希ちゃん待って! 落ち着いて!」
「離すんだじぇ咲ちゃん! 京太郎、お前はそんな奴だったのか!? 強くなりたいんじゃなかったのか!?」
余りの事態に和は動揺を隠せずにいた。まこは落ち着かせようと一喝するために息を吸い込んだ瞬間だった。
京太郎から押し[ピーーー]ような、うめき声のような、鳴き声のような、そんな声が聞こえた。
「つらいんだ。もう、麻雀を打ってても」
「差を見せつけられるばかりで。何もできないまま終わっていくばかりで」
「だから」
50 = 25 :
「……もう、嫌だ」
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