元スレ京太郎「もつものと、もたざるもの」
SS+覧 / PC版 /みんなの評価 : ★
551 :
この雑談必要か?
552 = 75 :
お待たせしました! 最終話、投下していきます。
いろいろ延期してすみませんでした。
>>543
ナカーマ。
対局中の一時はへこみ、それでも必死に立ち上がり抗おうとして、それでも敗れて最後は号泣する。
そんな池田が大好きです。
553 = 75 :
京太郎の心にパキパキとひびが入っていく。
理不尽なツモ、理不尽な振込み、理不尽な配牌。
大切な何かが壊れようとしている、折れようとしている。
そんな中、親の陽皐が第1打に1筒を切り出す。
京太郎はそれにつられるように漫然とツモに手を伸ばした。
『京太郎配牌』
27m336s149p東北北白中 ツモ5m ドラ西
(六向聴が五向聴になったけど、どうするんだよ、これ……)
(国士? 6種7牌で? ありえない。何が何でも聴牌取らなくちゃいけないんだぞ)
(七対子か? いや、そんなもん聴牌欲しいときに狙うもんじゃない……)
(あぁ……何も、わからなく、なって)
554 :
実況席の2人はそんな京太郎の姿を見ながら話していた。
「清澄高校須賀、第1打から長考に入ります」
「どちらかというと、これからどうすればいいのか途方に暮れているんだろうな」
「確かに、聴牌欲しい状況でこの配牌は……」
「五向聴。面前で行くには苦しすぎるが鳴くには役がない。リーチも打てないという何もかもが悪すぎる状況だが」
モニタ上で青い顔をしている京太郎をこつこつ、と指でたたいた。
「だが、もう牌は配られた。これで何とか勝負をするしかない。さぁ、どうする?」
555 = 75 :
(まだだ、落ち着け。とにかく、受け入れを、広く。広くするんだ)
京太郎は長考の末、1筒を切り出した。
(真ん中を、集めるんだ)
朦朧とする意識、折れそうになる心。
それらを必死に繋ぎ止める。
【2巡目】
『京太郎手牌』
257m336s49p東北北白中 ツモ5s 打東
(これで、向聴数アップ……っていうかこの手恰好じゃ向聴数が上がらない引きのほうが少ないか)
そういったことを考えていると、対面から北が出た。
その北を鳴くか京太郎は考えるが、この巡目で役無しには受けられず、それをスルーした。
そして、場は続く。
【3巡目】
『京太郎手牌』
257m3356s49p北北白中 ツモ9s ツモ切り
【4巡目】
『京太郎手牌』
257m3356s49p北北白中 ツモ6p 打中
(役牌……出来たら重ねたい)
場に2枚出てしまった中をみて京太郎もそれに倣い中を切り出す。
この苦しい手恰好では役牌は是非とも欲しいところであった。
【5巡目】
『京太郎手牌』
257m3356s469p北北白 ツモ6s 打9p
【6巡目】
『京太郎手牌』
257m33566s46p北北白 ツモ3p 打2m
556 = 75 :
6巡目の打牌が終わったタイミングで京太郎は自分の手を見つめなおす。
『京太郎手牌』
57m33566s346p北北白
(駄目だ……大分ましな形にはなったけど、面子ができない)
ぴしりと心のヒビが大きくなった音が聞こえる。
京太郎はその音を聞かないようにして、もう一度場を見た。
ちょうどそのタイミングで、親の陽皐から場に2枚目となる白が切りだされる。
(くそ、この白も、駄目か)
とりあえずこの白は安牌として抱えることに決め、自分のツモ牌を引いた。
【7巡目】
『京太郎手牌』
57m33566s346p北北白 ツモ1m ツモ切り
【8巡目】
『京太郎手牌』
57m33566s346p北北白 ツモ撥 ツモ切り
【9巡目】
『京太郎手牌』
57m33566s346p北北白 ツモ1p ツモ切り
(この忙しいときに……!)
3連続無駄ヅモ。1筒を河に捨てながら京太郎は心の中で焦りを感じていた。
あと8順。単純に考えてあと8順の間に3枚の有効牌を引いて来なければならない。
(頼む……来てくれ)
557 = 75 :
その9巡目、現在3着目の北家、松本は力を込めてツモを取った。
『松本手牌』
【5】6m45567788s567p ツモ7m ドラ西
(持ってこれたっ!)
リーチをかければ出上がり跳満ツモり倍満確定。理想的なタンピン三色であった。
松本は手元の点数を確認しながら思案した。
(もう親はない。さすがにこの点差でトップを取りに行くのは無理だ)
(そもそも、次があるかどうかわかんねーな……清澄が飛んじまう。ならっ!)
力強く発生して、松本は7索を場に切り出した。
(リーチかけてツモなら2着だ。ここは当然っ!)
「リーチっ!」
558 = 75 :
(マジかよ……)
先制される。この手恰好から考えれば当たり前の話なのだが、余りにも苦しい状況であった。
そのリーチを受けて陽皐は手出しでリーチ宣言牌の7索を切り出す。
そして、京太郎のツモ番
【10巡目】
『京太郎手牌』
57m33566s346p北北白 ツモ西 ドラ西
(ド……ラ?)
場を見渡す、どこをどう見ても西は切られていなかった。
超がつくほどの危険牌。吐きそうになりながらもその西を手に仕舞い込み、確保していた白を切り出した。
とりあえず1順しのぐが、あくまで問題を先送りにしたにすぎなかった。
そして、次なる試練が京太郎を襲った。
559 = 75 :
その10巡目、現在2着目の西家、上田はそのツモを見て長考に入った。
『上田手牌』
234m4【5】78s5567p西西 ツモ6s ドラ西
絶好の聴牌。ただ、親の現物は7索しかなく、それを切るということはほぼアガリを失う1打であった。
(つーか、そうした所で他の現物はないしな)
(まぁ、何とか頭を下げて清澄が飛んでくれるか松本が届かないツモをしてくれることを願うっていう手もあるけど)
上田はその思考を笑い飛ばした。
(ねーよな、そんなの。役無しドラ3だけど、それにこの待ちなら戦える。ならば)
「リーチだっ!」
(勝負しかねーだろ! 2位は渡さねぇ!)
その意思の元、5筒を卓に叩きつけ、1,000点棒を場に出した。
560 = 75 :
その二件リーチを受けて陽皐は自分の手を見た。
(何とか間に合ったか、やれやれ)
『陽皐手牌』
6789m33s999s8p西撥東
陽皐は途中で西をつかみ、その時点でこの局を諦めた。
2着目の風でドラ。生牌とあっては切れるものではない。
何事もなければ点数的にほぼ2着以上は確定している状況。
方向を修正して、安牌を抱え込んだのが正解であった。
撥も東も場に切られており、最低2順は稼げる。
ちらり、と京太郎を見る。
そこには必死に押し隠そうとしているが苦渋の色が漏れている京太郎の姿があった。
恐らく、前局の倍満振り込みが尾を引いているのだろう。
(精神状態はもう限界って感じだな。残り400点じゃ無理もないけど)
前局の南地獄単騎リーチに深い意味はなかった。
ただ、彼の中の第六感的なもの、感覚的なものが南でリーチを打てと告げていたから、打ったにすぎなかった。
デジタルとはかけ離れたカンの世界だが、陽皐はそれで勝ち続けてきた。
誰に何と言われようと譲る気はない自分のスタイルであった。
(女子チャンプの原村和がいるあの清澄高校だからどれほどの選手かと思ったけど、まぁ、全員が全員強いわけじゃないよな)
そう思いながら、撥を切り出した。
それを受けて幽鬼のような表情で牌をツモる京太郎の姿を見て、彼の第六感的なものが告げていた。
――こいつ、飛ぶな――
561 = 75 :
【11巡目】
『京太郎手牌』
57m33566s346p北北西 ツモ5m ドラ西
(が……ふ……)
危険牌じゃない牌を探すほうが難しい状態。
あまりの状況に涙が出そうになる。
京太郎はもう一度場を見渡した。
『上田捨牌』
一中撥白八⑨
撥九四5r
『松本捨牌』
南北中東⑨東
六27r一
『陽皐捨牌』
①③⑨八南二
白三27撥
(なんだよ、この状況)
共通的に通りそうなのは北の対子のみ。
ただ、これを切れば当然向聴数は下がる。
もう11巡目、北を落としたところで間に合うかどうかは非常に疑問であった。
「絶望」の2文字が京太郎の頭によぎった。
562 = 75 :
(なんで、俺ばっかり……)
(無理、だったのか。やっぱり)
(もってやるやつに勝ちたいっていうのは)
北に、手をかける。それを河に投げようとする。
(そう、無理だったのか……不相応な、願いだったのか)
ひびの入った彼の心がそれを後押しする。
(北を切ってとりあえず回って、聴牌とれたらいいな)
(そうだよ、しょうがない、これはしょうがない)
(しょうがないんだ)
指に力を込めて、北を持ち上げる。
(もう諦め……)
心が、今にも折れそうだった。
そして、その北を――
563 = 75 :
(……違う!)
だが、それでも京太郎は北を切らなかった。
すんでのところで、踏みとどまった。
ヒビだらけ、傷だらけの心であったが、それでも踏みとどまった。
(闘うって、決めたんだ。最後の最後まで。諦めずに、前に進むって決めただろ!)
西に指を向ける。超危険牌だがもう迷いはなかった。
(そうだ、格好にこだわるな。みっともなくてもいい、鼻水やら鼻血垂らしながら、泣きながら、這いつくばりながらでもいい)
そして、西を河に、投げた。
(どんな姿でもいい。だから、最後まで、諦めるな!)
場に、打ち出される西。
(通ってくれっ、頼むっ!)
発声は、かからなかった。
564 = 75 :
「これは、手を膨らませたの仇になったか! 手の中が危険牌だらけの状態。これは、厳しい!」
アナウンサーがあまりの悲惨さに悲痛な声を上げた。
「藤田さん、幸い今の西を通すことはできますけど、この状況は……」
「あぁ、かなり厳しいな。面子がないのには変わりないしな」
何か面白いものを見つけたように、まくりの女王と呼ばれているプロはにぃ、と笑った。
「しかし、一瞬北の対子を落とすか悩んだようだが……腹、括ったみたいだね」
笑みが崩れない。何かを楽しむかのように、モニタを見続ける。
「うん、いいまくりが、見られる気がする。なんとなくだがね」
565 = 75 :
1枚の牌を切っただけで、京太郎の精神は大きく削れた。
通ったことが確定したのだとわかっても、動悸が激しい。
(とにかく、通ったんだ)
(まだ、行ける。まだ、戦えるんだ)
涙がこぼれそうになる。叫びだしたかった。それでも必死に歯を食いしばった。
呼吸を整え、場を見る。下家も対面もアガリ牌は引けなかった。
陽皐は対面がツモ切った6萬に合わせて手出しで6萬を切った。
そして、その6萬に反射的に飛びついた。
「チーッ!」
566 = 75 :
【12巡目】
『京太郎手牌』
5m33566s346p北北 チー567 打5m
「そこからチー? で、でも役が」
普段自分が目にしないものを見て、驚いた様子で咲が声を漏らす。
そんな咲に幾分かは落ち着いた様子で和が言った。
「もう終盤です。須賀君は形式聴牌をとりに行ったんです。さっきも言ったようにように、聴牌を取らねばトビですからね」
画面の中では京太郎が本当に苦しそうな顔をしながら危険牌である5萬を切り出していた。
「じゃが、この形は……」
まこは京太郎の手恰好を見て唸るように言った。
直後、対面が北を切る。それにも飛びつく京太郎。
「ポンッ!」
モニタの中で必死の形相で北を仕掛ける。
【13巡目】
『京太郎手牌』
33566s346p ポン北北北 チー567 打6p
6筒も超危険牌だが京太郎は何とか切った。
567 = 75 :
「あ、あぁ、この形は」
優希も気づいたようにうめき声をあげた。
『京太郎手牌』
33566s34p ポン北北北 チー567
『松本手牌』
【5】67m45567788s567p
『上田手牌』
234m4【5】678s567p西西
「聴牌したら、当たり牌が出ちゃうじぇ……」
暗い顔で和が頷いた。
「……9索はもう全枯れですから考えなくていいとして、3索も6索も全員の手で使い切っています」
酷な現実を告げるように、和は続けた。その表情は非常に重苦しいものだった。
「つまり、3索や6索を暗刻らせて放銃を防ぐのは無理……ですね」
「えぇ。願わくば須賀君が2筒か5筒を先に引いて5索切りのシャボ受けにしてくれることを祈るのみね」
「でも、それって、4索か7索を先に引いちゃったら……」
最後に咲が言ったその言葉に返事を返すものは誰もいなかった。
568 = 75 :
【14巡目】
『京太郎手牌』
33566s34p ポン北北北 チー567 ツモ7m
(また危険牌っ!)
のたうちまわりたくなるほど苦しい状況だったが、そのままツモ切りしていく。
発声はかからなかったが、先ほどから京太郎が危険牌を切るたびに心臓が削り取られていくよう感覚だった。
京太郎はこの4枚連続の危険牌切りで心臓がなくなってしまったのではと思うぐらいであった。
(もう、時間がない。そんなにツモがない。そろそろ引かないと、マズイ)
そして、何も発声がかからないまま再び京太郎のツモ番が回ってきた。
そこに書かれた絵柄を見た瞬間、京太郎の心臓は跳ねた。
【15巡目】
『京太郎手牌』
33566s34p ポン北北北 チー567 ツモ4s
(……来たっ! ようやく聴牌!)
京太郎にとって、待ち焦がれていた聴牌となる牌だった。
(よし、この牌が通せればっ!)
そう思いながら、京太郎は3索に手をかけた。
569 = 75 :
清澄高校控室では京太郎は4索を引いた瞬間に悲鳴が上がった。
「そっちを、引いてしまったか……」
まこが天を仰いだ。画面の中の京太郎は3索に手をかけていた。
「あとちょっと、あとちょっとだったのに!」
咲が悔しそうに拳を握りしめた。
実況席の2人も思わず声を漏らした。
「あー、引いてしまいました。これで聴牌ですが、当たり牌が出る形」
「あぁ……本当に、頑張ったんだがな」
そう、その対局を見ていた会場の誰もが京太郎の振り込みを確信していた。
570 = 75 :
そして、京太郎本人も3索を切ろうとしていた。
牌を持ち上げ、河に切り出そうとした瞬間、それが目についた。
『上田捨牌』
一中撥白八⑨
撥九四5r【5】九
⑧中
『松本捨牌』
南北中東⑨東
六27r一六2
⑥
『陽皐捨牌』
①③⑨八南二
白三27撥西
⑧
『京太郎捨牌』
①東9中⑨二
一撥①白西五
⑥七
京太郎はそれに気づいた。気づいてしまった。
(……いやいやありえないだろ。仮に一人に通用してももう一人には通用しないぞ)
(それに、切らないとしてもどうするんだよ。もう順目は残ってないぞ?)
(大体、止めたとしてもどっちにしろ危険牌切らなくちゃいけないんだぞ? ありえない)
京太郎は頭では必死に3索を切れと訴えかけた。
だが、体が反応しない。
気付いてしまったから、体が動かない。
(……わかったよ)
(そうだよな。最後くらい、自分のそれを、信じてみたいもんな)
(行こうか、信じたほうへ)
長考であった。そして、京太郎は散々迷い、苦しみぬいて牌を抜いた。
572 = 75 :
その打牌を見た瞬間、清澄高校部室では悲鳴とはまた違う驚きの声が漏れた。
「す、4筒!? なんで!?」
優希が驚きの声を上げる。
「ど、どうして? どうして?」
放銃を回避したはずなのだが、余りに不可解な打牌に咲も喜びより驚きが出ていた。
「わ、わかりません。3筒4筒が安牌というわけでもありませんし……」
「……不可解だけど、何かに気づいて、3索6索が危ないってわかったのかしら。というか、そうとしか考えられないわね」
和の動揺した声に久も自分の言っていることに疑問を感じながらそう予想した。
「た、確かに3索6索を止めると考えれば3筒4筒を払うのが一番広い、な?」
「え、えぇ。9索以外の索子を引けば聴牌ですが……」
一同は呆然としながらもモニタを見ながら京太郎の手牌の行く末を見守った。
その驚きは実況席でも同じであった。
「ふ、藤田さん。私はてっきり3索か6索を切ると思ったんですが、これは、どういうことでしょうか?」
アナウンサーが戸惑いながら靖子に助けを求めるが、考え込んだ後首を振った。
「正直、わからん。私も3索を切ると思っていた。まぁ、確かに場に索子は高いが、筒子が通る保証は全くないしな」
むしろ危険だ、そういって言葉を締めくくった。
「そうですよね……清澄高校、須賀。いったい何を考えているんでしょうか?」
「何を考えたのか、もしくは何かを感じたのか……やっぱり何か、起こりそうだな」
573 = 75 :
(通った、か)
京太郎は吐き気を堪えながら切った自分の4筒を見つめていた。
か細い理論、直感とある種の感情に任せて切った牌だったが、通った。
(だがこれからが問題だ)
余りツモは残っていない。その数少ないツモで聴牌を入れなくてはいけなかった。
心臓だけじゃなくて全身の血管が破裂しそうなほどの何かを京太郎は感じていた。
ツモ牌に手を伸ばす。
【16巡目】
『京太郎手牌』
334566s3p ポン北北北 チー567 ツモ4p 打3p
(お前じゃない!)
【17巡目】
『京太郎手牌』
334566s4p ポン北北北 チー567 ツモ3m ツモ切り
(お前じゃないんだ!)
内心のその声はほとんど悲鳴であった。
残すツモはたった1枚。ここで引けなければ終りであった。
京太郎の番が、回ってくる。
574 = 75 :
(頼む)
ツモ山に震える手を伸ばす。
(引かせてくれ)
最後の1枚に手を触れる。
(ここで、終わりたくない)
そしてゆっくりと
(まだ)
牌を、ツモった。
(麻雀がしたい!)
575 = 75 :
その後、3人とも最後の1枚をツモり、流局となった。
「ノーテン」
親の陽皐が手を伏せる。そして南家の京太郎に3人の注目が集まった。
だが、京太郎の体は動かない。
「君、宣言を」
審判員に注意を受け、その時漸く流局になったことに気づいた京太郎はびくりと体を震わせた。
そして、カラカラに乾いた口を開き、ゆっくりと牌を……倒した。
「聴牌」
『京太郎手牌』
3345668s ポン北北北 チー567m
576 = 75 :
京太郎はリーチ者2人の聴牌形をみて、内心ほくそ笑んだ。
(まさか本当に3索6索がアタりとはなぁ……麻雀の神様ってのは俺のことが嫌いなのか好きなんだか)
そう思いながら、京太郎はアガれずに若干悔しそうなリーチ者2人と、
何やら京太郎の手を驚愕の顔で見ている陽皐を見渡して、内心うそぶいた。
(どうだ、止めてやったぜ? ざまあみろ!)
上田 32,700(+-0)
松本 15,200(+-0)
陽皐 48,700(-3,000)
京太郎 1,400(+1,000)
(供託2,000点)
577 = 75 :
その聴牌形を見て陽皐は愕然としていた。
牌はもうすでに落とされており、オーラスの山が積まれていたが、それは陽皐の脳にはっきりと焼き付いていた。
(形式聴牌なのは想定通り。待ちが愚形なのはどうだっていい)
(だが、何故。何故その3-6索が止められたんだ!?)
自分の勘が外れたこと、ありえないブロックに陽皐の精神は激しく混乱していた。
まるで前局の京太郎のように若干の震えを伴いながら陽皐は配牌を取った。
(全ツッパだったはずだ。オリなど考えていなかったはずだ)
(なのに、何故そこが1点で止められるんだ!? 止めたことで切った3筒、4筒だって相当な危険牌だろ!?)
配牌を取り終わる。陽皐にとってはあるはずのないオーラス。
『陽皐配牌』
223m99s356p東西白白白 ドラ7p
面子候補は足りていないが好形。
役牌もあり、流すにはもってこいの形だった。
578 = 75 :
(とにかく、とにかくだ。さっさと蹴って終わらせる)
そう思いながら第1ツモを手に取る。4索を引き、さらに形がよくなる。
西を切り飛ばし、2巡ほど空振り4巡目。
【4巡目】
『陽皐手牌』
223m99s3456p東白白白 ツモ5p ドラ7p
磐石の形。ポンにもチーにも行ける理想的な形だった。
東を切り飛ばす。だが、1巡空振りして次の6巡目だった。
「リーチっ!」
3着目、松本からの早いリーチが入った。
捨牌を確認する。
『松本捨牌』
628北九⑧r
(また妙な捨て牌だな……)
そう思いながら自分のツモに手を伸ばす。
【6巡目】
『陽皐手牌』
223m99s34556p白白白 ツモ4m ドラ7p
ストレートな聴牌。だが2萬という危険牌を切ってまで聴牌を取る気はなかった。
何も考えず、ノータイムで9索の対子を手に取り場に打ち出した。
579 = 75 :
精神的な動揺があったのかもしれない。
万全の状態であれば勘が働き何かを察知できたのかもしれない。
だが、それはすでに場に打ち出され
「ロン!」
アガリを、宣言された。
『松本手牌』
111789m1119s111p ドラ7p
「リーチ、一発、純チャン、三色、三暗刻」
松本はゆっくりと役を数えた。
そしてゆっくりと裏ドラに手を伸ばし、めくった。
裏ドラは、9索。今ちょうど、陽皐が切った牌であった。
「……裏2! 三倍満で24,000は24,300!」
まくられた。陽皐がその現実を認識するのに多少の時間がかかった。
長かった対局が、終わった。
『終局』
上田 32,700
松本 41,500(+26,300)
陽皐 24,400(-24,300)
京太郎 1,400
580 = 75 :
それが決まったとき、実況席は一瞬の沈黙に包まれた。
「まさか、まさかの……インターミドル3位、陽皐がここで敗退です!」
あまりにドラマティックな展開にアナウンサーも最初言葉を失った。
「素晴らしいまくりだ、いい物を見れた」
隣でまくりの女王が満足そうな顔をして微笑んだ。
「藤田プロの言うとおりになりましたね……ここまで劇的な大まくりが出るとは……」
「そうだな。まず3着目の松本、南3局で大物手を潰されたのにもかかわらず、腐らずオーラスに望んだ。その執念をまずは褒め称えたい」
そして、と前置きしつつモニタの中でうなだれた表情をする京太郎をみた。
「自身は及ばなかったが、このまくりが出たのは南3局で清澄の彼が土俵際であきらめず踏ん張ったからだな」
「えぇ。普通であれば彼が飛んでこの局はなかったわけですからね」
「あぁ。無論彼は悔しいだろうが……。まだ若い」
モニタをこつりと指で軽く叩いて微笑みながら言った。
「この先もあのように諦めなければ、きっといい雀士になるな」
581 = 75 :
「ありがとうございました!」
対局後、挨拶の後喜びを隠せないように1位と2位は弾かれたように対局室を飛び出していった。
京太郎はそれを気にもせず、目の前の牌をぼんやりと眺めた。
『京太郎手牌』
456m224789s57p東東
東が鳴ければ、勝負になっていた。
だが、東は山に深く、場に打ち出されることはなかった。
結局京太郎の新人戦は一度もアガることなく、終わった。
「少し、いいかな?」
そうやって京太郎が自分の手を見続けていると声がかけられた。
京太郎ほどではないが、暗い顔をした陽皐だった。
「……なんすか?」
「いや、すまん。俺と話なんかしたくないとは思う。だけど、教えてほしいことがある」
陽皐は京太郎の返事を聞かないまま、殆どめくられることがなかった山を返し、京太郎の前に牌を並べた。
「南3局で2軒リーチが入ったてから、途中でこんな手格好があったと思うんだが?」
『京太郎手牌』
33566s34p ツモ4s ポン北北北 チー567
「あぁ、はい……」
京太郎はその手牌を見ながらあの時の状況を思い出し、頷いた。
「教えてほしい。何でここから、3筒と4筒を切り出していったんだ? 何故聴牌を取らなかったんだ?」
納得がいかないと言った顔をして陽皐は続けた。
「確かに、3索と6索は危険牌だった。だが、それまでも無筋を切り続けていたし、3筒と4筒だって安全じゃない。むしろ危険牌だ」
拳を握る陽皐。敗北の悔しさが徐々にこみ上げてきたのか、その言葉には有無を言わせない何かがあった。
「教えてくれ、頼む」
582 = 75 :
沈黙が流れる、陽皐は話すまで梃子でも動かないと言った空気が感じられた。
京太郎はそれを受けて若干悩んだ後、口を開いた。
「あの時、対面さんの捨牌……リーチの直前、確かこんな感じだったはず。全部は覚えてないけど」
『松本捨牌抜粋』
六27r一
「……確かに、そんな感じだったな」
「ほらこれ、ここ」
そういってリーチ宣言牌とその直前に切られた2索と7索を指差した。
「間四ケン。だから、危険だと思ってどうしても切れなかった」
「……はぁ!?」
陽皐は思わず間抜けな声が聞こえた。
間四ケン。今回のように2と7や3と8のように牌が切られた際に間のスジが危ないと言う読み筋である。
だが、読み筋の中では当てにならないと言われる物のひとつであった。
「あ、間四ケンって、それだけ? しかももう一人の立直にはまったく意味をなさないだろ!?」
陽皐の語気が荒くなった。
あれほどの1点読みをしたのだから何かしらのすさまじい理論か自分と同じ勘の打ち手だと考えていた。
だが、蓋を開けてみればそのどちらかでもなく、誰でも知っているか細い理論であった。
「わかってる。俺だって、馬鹿だなと思う。その証拠に切るとき、結構、迷ってただろ?」
「……あぁ、確かに」
京太郎の苦しそうに悩み、今にも死んでしまいそうな顔で4筒を打ったこととを思い出す陽皐。
それでも納得がいかなそうな陽皐をみて京太郎は天井を見上げながら、何かを思い出すように言った。
「でも、さ。間四ケンって言う知識は……」
あの日の部室での出来事を思い出す。
お互いに泣きながら、気持ちをぶつけ合ったあの日。
優希と笑いながら、話したあの日と出来事を思い出していた。
583 = 75 :
――そうだ、聞きたいことがあったんだが……間四ケンって――
――読み筋の話か? 間四ケンとかよりまだ――
「雀士としての俺が、初めて覚えたこと」
「俺が、もってなくても、勝てなくても、それでもやっていこうって決意して、初めて覚えたことなんだ」
「だから、どうしてもそれを信じてみたくなった」
584 = 75 :
それだけ、と言って京太郎は黙り込んだ。
陽皐は何かを言い返したかった。だが、何も言葉が出なかった。
(人のこと、言えないよな。俺だってありえない打牌して周りからいろいろ言われてきたってのに)
(自分が今までしてきたのに、自分が不条理な打牌をされて相手を咎めると言うのも、ないよな)
「わかった、ありがとう。また、機会があったら打とう」
軽くため息をつき、陽皐はそうやって京太郎に軽く礼を言った。
「……あぁ」
京太郎は、そう返すのが精一杯だった。
心の中に吹き荒れる激情を抑えるのが精一杯でそれ以上話すことが出来なかった。
陽皐はそれを見て何も言わず、対局室を出て行った。
585 = 75 :
京太郎もそれから少しして、ふらつきながら対局室を出た。
頭には霞がかかったようだった。
控え室に向かい、会場内の通路を歩く。
京太郎は周りは相変わらず人が多いがその喧騒が遠くから聞こえるように感じた。
すれ違う人にぶつかりそうになりながらも、京太郎は歩く。
(何も)
次のステージへの進出を決めたのか、一人の高校生が周りから撫で回されたり小突かれたり、手荒い祝福を受けていた。
(何も、できなかった)
このステージで敗退したのだろうか、一人の高校生が涙を流していて、顧問と思われる壮年の男性が何も言わずに頭を撫でていた。
(終わっちゃったんだ、な)
周りから自分はどう映っているのか、京太郎はそんなことを考えるがわかりったことだ、と即座に切り捨てた。
(俺の、新人戦)
ぼんやりとする頭の中で京太郎は自分の置かれている状況を少しずつ理解していく。
そんな時、目の前に見知った顔が居た。通路に立っている5人の顔。
まこ、優希、和、咲、久。皆それぞれ、痛ましい顔で京太郎を見ていた。
586 = 75 :
「京、ちゃん」
咲が京太郎の名を呼ぶが、その後が続かなかった。
咲は必死に慰めの言葉、励ましの言葉をかけようと頭を巡らせるが、何を言えばいいのかわからなかった。
それも至極当然のことであり、麻雀において常に強者で居た咲に、敗者に対して何を言えばいいのかわからないのは自明の理だった。
だが、ほかのメンバーも何を言えばいいのか、わからなかった。
あまりにも、一方的な敗北。善戦であれば何かが言えただろう。
だが、ここまで言い訳も出来ないほど完膚なきまでに叩きのめされれば言葉に迷うのも無理はなかった。
最後の形式聴牌で踏みとどまったことは驚きだったが、それが大した慰めにもならないことも、彼女たちは理解していた。
(なんだよ、まったく)
そんな5人の様子を見ながら、京太郎は苦笑した。
(俺以上に、つらい顔しやがって)
何か湧き出そうになる、どうしようもない感情に蓋をして、京太郎は笑った。
「すいません、負けてしまいました」
そう言って頭を下げる。
それを口に出した瞬間、感情が爆発しそうになったが、それでも京太郎は耐えて、頭を上げた。
「はは、俺なりに必死にやったんですけど、ほんと、すみません、み、みんな、一生懸命、お、俺の、た、ために」
言葉が震えてくる。笑顔が崩れそうになる。
そんな状況を必死でこらえながら、京太郎は続けた。
「そ、そうだ。な、なんか飲み物でも、買ってきましょうか。ほら、ほら、その、えっと、皆、喉でも渇いたでしょ?」
587 = 75 :
誰が見ても、無理をしているというのがわかる顔であった。
優希が顔を伏せる。和が口に手を当てて声を押し殺す。
そして、咲が泣きそうな顔で京太郎に駆け寄ろうとした。
だが、その手をまこが握り、そして、京太郎に向き直って言った。
「じゃあ、適当に頼む。金は、後で渡すけぇ」
「わ、わかりました。じゃあ、いって、きます」
もう限界だとばかりに、京太郎は顔を伏せてきびすを返した。
そして、走り出す直前の京太郎にまこがもう一度声をかけた。
「京太郎!」
「……はい」
振り返らず、押し殺した声でまこの呼びかけに反応する。
まこは、京太郎が見てはいないとはわかっていても、その背中に笑いかけた。
「会場は広いけぇ、迷うかもしれん。……ゆっくりでええからな」
「……ありがとうございます」
そう言って軽く頷くと、京太郎は駆け出して行った。
588 = 75 :
「染谷先輩、京ちゃんを、その……」
控え室に帰る道すがら、咲はそんなことを言った。
何かを言いたかったようだが言葉にはならなかった。
「京太郎も男じゃけぇ。プライドっちゅうもんがある。今は、一人にさせてやるんじゃ」
「……はい」
咲は不承不承、と言う感じで頷いた。
その様子を見て、3人を見渡しながらまこは続けた。
「なにより、今回の新人戦で勝者であるぬしらが敗者にかける言葉はなかろう」
しばらく、沈黙が続くがぽつりと優希がこぼした。
「京太郎、また麻雀がいやにならなきゃいいな」
「……そうですね。この敗北は心にくると思います。本当に、今日は巡り合わせが悪かったとしかいいようがありません」
和もそう言いながらどこか辛そうな表情をした。
まこがそんな空気を払拭するかのように、大きな声で言った。
「とにかく、京太郎を信じるんじゃ! まずは、帰ってきたら暖かく迎えてやろう。結果が伴わなかったとは言え、必死に戦ったんじゃ」
その言葉に、3人は小さく返事を返した。
そのとき、まこが何かに気がついたように辺りを見回した。
「ん? ……久は、どこへ行った?」
そういうと3人も辺りを見回したが、久の姿はどこにも見えなかった。
589 = 75 :
会場の一番はずれにあり、辺りには控え室も無い自動販売機コーナー。
京太郎はそこに全力で走り、辿り着いた。
「はぁ……はぁ……」
大した距離を走ったわけではないのだが、なぜか酷く呼吸が乱れた。
震える手でポケットから財布を取り出す。
小銭を取り出そうと財布の口を開いた瞬間に震えからか、財布を取り落としてしまう。
甲高い音が響いて、辺りに小銭が散らばった。
(何やってんだ、俺)
心の中で愚痴りながらも、しゃがみ込む。
「くそっ」
小銭を拾いながら、京太郎は言葉を漏らした。
何に苛立っているのかはよくわからなかったが、それでも何かを堪え切れなかった。
「くそっ」
目頭が熱くなってくる。
「くそっ」
鼻の奥がツンとした。小銭を拾う手が止まり、体が震えだす。
その時だった。
京太郎に影がかかる。その影は京太郎と同じようにしゃがみ込み、
一番遠くにあった最後の一枚の小銭を拾い上げた。
「はい」
そう言うと、影――久は微笑みながら手を差し出した。
590 = 75 :
「ぶ、ちょう」
「部長じゃないってば」
そう笑いながら小銭を京太郎に渡した。
京太郎はそれを受け取り、財布に入れる。
「ど、どうし、て?」
「ほら、6人分の飲み物持って帰るの大変でしょ。手伝ってあげようと思って」
久はいつもの笑いを浮かべながら京太郎に言った。
京太郎はそれに対してどう返せばいいのかわからず黙り込む。
そうしていると、久はせかすように京太郎の手を引いた。
「ほら、さっさと買っちゃいましょ?」
「……はい」
京太郎は小銭を自動販売機にいれ、適当にボタンを教えていく。
「ねぇ、須賀君」
久は自販機横のベンチに座り、京太郎の買ったジュースを自分の隣に置いた。
「なんですか?」
京太郎は自動販売機に向かい合ったまま、答えた。
久は少し間を空け、何かを迷う素振りをしたが、結局その言葉を発した。
「……麻雀、嫌になっちゃた?」
京太郎はその問いに、自動販売機のボタンを押す手を止めた。
そして、何かを考え込む。久は黙って、その返事を待った。
しばらくして、京太郎は途切れ後切れだが、久に向けて言った。
591 = 75 :
「……やっぱ、悔しいです。だけど、まだ、がんばれると思います。」
「あの南3局。たぶん、3人ともが俺のこと飛ぶって思ってたんでしょうが、なんとか、踏ん張れました」
「ただの頼りない理論、意味も無い勘でしたけど、当たり牌、止めること出来ました。その上で、聴牌できました」
「その瞬間、ちょっと、嬉しかったんです」
「苦しい苦しい対局ですけど、嬉しさも見いだせました。だから」
「だから、その、もうちょっと、がんばれるかなって、そう思います」
592 = 75 :
そこまで言い切って、京太郎は自販機のボタンを押した。
久はジュースを受け取り自分の隣に置いて軽く微笑み、そう、と言った。
「さ、行きましょうか。みんな待ってますよね」
「待って。須賀君、ちょっとこっちに座りなさい」
ジュースを手に取り歩き出そうとした京太郎に、久は自分の隣をぽんと軽く叩きながら言った。
「……なんですか? 何企んでるんですか?」
「いいからいいから」
口元は笑っていたが、どこか真剣な感じを受ける久に京太郎も何かを感じ取ったのか、言われるがままに隣に座った。
「はい、座りました。で、なんでしょうか」
京太郎が久に問いかける。すると、久は何も言わず、京太郎の頭を撫でた。
「……えっ?」
(そう、私は、あなたにとっていい部長ではなかったと思う)
「何ですか、先輩。何を企んでるんですか?」
(でも、あなたは私を責めることなく立派に成長した)
「先輩?」
(私は、あなたに対してほとんど何も出来なかった。だから)
「どうしたんで……!」
(これぐらいは、させて頂戴)
そう言いながら、京太郎の頭を自分の胸に抱いた。
593 = 75 :
「た、竹井先輩。ど、どうしたんですか? と、突然何を」
「いいの」
動揺した様子の京太郎の言葉をさえぎりながら京太郎は抱きしめた久の頭を撫でながら言った。
「あなたが麻雀を続けると言ってくれたことは嬉しい。がんばれる、といって笑ってくれることは嬉しい。でも」
さらに、京太郎の頭を強く抱きしめる。
京太郎は久のやわらかい胸の感触を感じつつも何故か下心も無く、それに身を預けていた。
「辛いときは、悔しいときは、泣いていいのよ?」
その言葉に、京太郎はびくりと反応し体を震わせた。
それでも尚、何かに耐えている様子の京太郎に久はその背中を撫でて言った。
「辛かったわね、苦しかったわね……。須賀君が苦しい中、一生懸命がんばっていたのは見たわ。あなたは、あなたは」
久の目にも涙が浮かんでいる。それを1回ぬぐい、再び京太郎の背中を撫でた。
「あなたはよくやったわ。お疲れ様、須賀君」
京太郎の精神はそれが限界だった。堪えていた何かが噴出していく。
涙が大量にこぼれ、久の制服を濡らした。
594 = 75 :
「うっ、うぅ、ぐ、ぐぅ……」
引きつった声を漏らす京太郎。
一度噴出したそれはもう堪えが聞かなかった。
「悔しい、悔しいです。あんなに、あんなに打ったのに。みんなと、あんなに……!」
「うん、うん」
「ぜんぜん、うまくいかなくて、お、思い通りにならなくて」
「うん……」
「な、なんとかしようとしたんですけど、で、でも、どうしようも、なくて」
「うん……!」
「できることをしようと、おもった、のに、たいしたこと、できなくて」
「うんっ……」
「みんな、と、みん、なとあんなに、がんばった、のに」
「えぇ……! あなたは、あなたは、頑張ったわ、須賀君」
久は京太郎の言葉に頷き、自分も涙を流しながら京太郎の背を撫でた。
「なのに、なのに、俺、俺……う、ぐ、ううううううああああああ」
それ以降は言葉にならなかった。
京太郎は久の胸の中で呻く様な鳴き声をあげた。
久の腕を掴み、子供のように泣いた。
久はそれに対して何も言わず、ただ京太郎を抱きしめて子供をあやすように背をさすり続けた。
沸き立つ会場の片隅で、京太郎の嗚咽の声が響いた。
それは、しばらく止むことはなかった。
595 = 75 :
本編はここまで1時過ぎぐらいにエピローグを投下していきます。
ちょっと休憩。
しかし投下だけで40分ぐらいかかるとか……
596 :
乙
この京太郎は池田と仲良くなれる
597 :
一旦乙
もうすぐ終わりかー
間違いなく京太郎SSとしては名作になると思う、キツい展開だけどね
598 :
乙
素晴らしい。
599 :
いよいよ退部か・・・
まぁ仕方ないよな・・
こんだけ強い部員の中に一人だけ素人が混ざってたら目立っちゃうもん
ssの中で言われてたけど間違いなく新入生に舐められるだろうし
実際弱いからどうもできない。努力でもどうにもならないのがすごくもどかしい。
600 :
乙
物語にぐいぐい引き込まれるな
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