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    元スレ京太郎「もつものと、もたざるもの」

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    901 :

    やっぱりこのSSいいな

    902 :

    京太郎が清澄麻雀部を辞めて、まこの雀荘か、別の麻雀教室に通っていたら

    903 :

    いい加減こっちのスレを埋めようキャンペーン。

    >>891 >>892を見て小ネタが浮かんだので投下しますー。

    904 :

    おお!

    906 = 75 :

    市内のとあるバーで東横桃子は一人酒を飲んでいた。
    座席はカウンターのみ10席ほどのバーに現在は彼女と二人のバーテンダー以外は誰もいなかった。
    何処か思い悩んだ表情でグラスを傾ける彼女に2人のバーテンダーは何も言わずグラスやボトルを磨いていた。

    「マティーニ。甘めでお願いするっす」

    「かしこまりました」

    手元の酒を飲みつくした桃子は新たな酒を注文していた。
    ミキシンググラスにリキュールを注ぐバーテンダーを見つつちらりと時計を見た。

    「そろそろっすかね……」

    そんな呟きを見計らっていたかのようにバーの扉が開いた。
    2人のバーテンダーは小さく来客を迎える言葉を呟いた。

    「待ってたっすよ」

    「ごめんなさい、遅くなって」

    そう言いながらヒールを鳴らしつつ、宮永咲は桃子の隣の席に座った。

    「私はジンフィズをください」

    「かしこまりました」

    もう一人のバーテンが咲の注文を受けてシェイカーを振り始める。
    桃子は手元にやってきたマティーニを見つつちょっと楽しそうに笑った。

    「お酒飲めたんすね」

    「……知らないのに誘ったの?」

    「いやー、誘ってからお酒を飲むような人かなーって疑問に思ったもんっすから」

    「そんなには飲めないけど軽いお酒なら飲めますよーだ。あっ、来た来た」

    咲は目の前に出されたグラスを手に取り小さく掲げた。

    「とりあえず、乾杯?」

    「そうっすね、乾杯」

    グラスがチン、と小さく鳴った。

    907 = 75 :

    「悪かったっすね。いきなり呼び出して」

    「ううん、別に大丈夫だよ」

    2人は昔からの知り合いではあった。
    会えば普通にしゃべる程度の仲ではあった。
    だが、こうやって個別に会って出かけるといったことはしたことがない。
    そんな関係の2人であったが桃子は咲に話したいことがあるからと飲みに誘い、咲はそれを2つ返事で了承した。

    「なんとなく、要件はわかってたし」

    「あぁ、やっぱりバレてたっすか」

    「まぁ、ね。タイミングもぴったりだったし。……これでしょ?」

    咲はバッグから一枚の封筒を取り出した。
    そこには「WEDDING INVITATION」と記されている。
    桃子はそれを見て苦笑しながらも軽く頷いた。
    手元のマティーニをぐっと飲み干した。

    「正解っす。まぁ、前々から話だけは聞いてっすから驚かないと思ってたんすけど、形としてやってくると意外と」

    「結構、心に来るよね」

    「全くっす」

    2人は苦笑気味に笑いあった。
    咲は目の前のグラスを軽く傾けて小さく息を吐いた。

    「多分、男女の違いがあれど似たような気持ちを抱えてるんじゃないかなーって思って」

    「うん。その人選は間違ってないと思うよ」

    グラスに入った酒は半分程度しか入っていなかったが咲の顔はすでに赤くなっていた。
    それと対照的に桃子はまだ赤くもなっておらず、新たな酒を注文していた。
    咲はちょっと驚きの表情で桃子を見た。

    「お酒強いね」

    「いやいや。加治木先輩とかもっと強いっすよ。私はまだまだっす」

    桃子は手元のビーフジャーキーを口に入れ、それを咲にも勧めた。
    咲は軽く礼を言いつつそれを小さくかじった。

    わずかな沈黙が2人の間に流れた。

    908 = 75 :

    「ずっと」

    「?」

    不意に、桃子が口を開いた。
    グラスに口をつけていた咲はそれから口を離し、桃子の顔を見た。

    「ずっと一緒に居たっす。私と加治木先輩」

    「うん……」

    「高校、大学、プロチーム。ずっとずーっと、一緒だったっす。まぁ、私が加治木先輩の後を追いかけたからなんすがね」

    桃子はそこまで言ってふぅ、とため息を吐いた。
    何かを言おうと口を軽く動かすが声にならず、手元の酒を流し込んだ。
    そして、それで息を意を付けたように再びしゃべりだす。

    「これからも2人で同じ道を歩んで行くんだな、って勝手に思っていたっす。変わらないまま」

    「うん。わかる、よ」

    桃子の言葉に咲も絞り出すような返事を返した。
    喋る桃子も、聞く咲もどちらもどこか辛そうな顔をしていた。

    「でも、加治木先輩は別の道を歩もうとしている。……わかってるっす。別に加治木先輩がプロをやめるわけじゃないし、そこまで大きく変わるわけじゃないって」

    桃子はカウンターに肘をついて手を組み、それに頭を預けた。
    まるで表情を悟られないように。

    「でも、私にとって加治木先輩は憧れで、ヒーローで、目標で……本当に、大切な先輩っす。私自身、学んだことや影響を受けたことがたくさんあるっす」

    咲が小さく頷く。
    桃子はそれにも気づかずまるで独り言をつぶやくように続けた。

    「でも、その加治木先輩が人のものになっちゃう。人の奥さんになって、苗字も変わって、別の人と2人で歩き始める。そう考えると」

    909 = 75 :

    再び沈黙が流れる。
    店内には二人のバーテンダーがグラスを磨いたりフルーツをカットする音のみが響いていた。
    咲は何も言わず桃子の言葉を待った。
    どれほどの時間が過ぎたか、ようやく桃子が口を開いた。

    「そう考えると、私の憧れていた加治木先輩はもう居なくなっちゃって、私の中の憧れとかそういう気持ちまで取られた気がして……」

    最後は絞り出すような声だった。
    桃子は残った酒を一気に呷り、おかわりをバーテンに告げた。

    「別に加治木先輩が悪いとか須賀君が悪いとかいうつもりはないんすけど、ね。きっと結婚したって加治木先輩は加治木先輩のままってのもわかってるんすがね」

    八つ当たり、とぽつりとつぶやいて苦笑した。
    咲はその言葉に小さく頷いた。

    「わかるよ。わかる。理屈じゃないもんね」

    「……吐き出せて少し楽になったっす。ありがとう」

    咲は小さく首を振りわずかに残ったジンフィズを飲み欲した。

    「すみません、ゴッドファーザーください」

    「……大丈夫っすか?」

    アルコール度数が高いカクテルを注文する咲に桃子は驚きの声を漏らした。
    咲は赤くなった顔でにこりと笑って大きく頷いた。

    「大丈夫。私も今日はちょっと飲みたい気分だし」

    「そうっすか」

    910 = 75 :

    桃子は赤くなった先の顔を横目で見つつ、前々から思っていた疑問を先にぶつけた。

    「最初、私は須賀君と付き合ってると勘違いしてたっす」

    「私が? 残念ながらそういうのは無かったなぁ」

    「残念ながら?」

    桃子の言葉尻を捕まえた問いに咲は少し悩んで小さく頷いた。

    「うん。今思うと、ちょっとだけね」

    咲はそう言って新たに来たカクテルを小さく口に含んだ。
    口当たりはいいとは言え、強いアルコール度数に小さく息を吐く。

    「京ちゃんとは仲がいいよ。一緒にご飯食べに行くことは沢山あったし、2人で遊びに行ったり買い物に行くこともあった」

    その発言に対して疑問の声を投げかけようとする桃子だったが咲のでも、という声に遮られた。

    「でも、そこまで。結局仲のいい友達だった。少なくとも京ちゃんは、それ以上になろうだなんて考えなかったと思う」

    「わかるんすか?」

    「うん。京ちゃんにとってきっと私は友達で、超えるべき壁で、目標で……そういう色っぽい何かが入り込む余地は、なかったんだ」

    咲は少し多めに酒を口に含んだ。
    喉が熱くなってくるが、こみ上げてきた言い知れぬ感情を飲み込むように酒を流し込んだ。

    「……私が京ちゃんを男の人として好きだったかは正直わからないんだ」

    「えっ?」

    「でも、でもね」

    咲はそう言いながらテーブルに零れた水滴に人差し指を当て、すっと軽く横に指を滑らせる。
    カウンターにできた水滴の線を眺めつつどこか悲しそうに言った。

    「京ちゃんとそういう関係になってみても、いいんじゃないかななんて、思ったことはあったよ」

    顔を伏せた咲に何を言えばいいのかわからなくなった桃子は言葉の続きを待った。

    「でも、駄目。私と京ちゃんの間には越えられない溝が、越えられない壁があって……」

    あの時のことを思い出すと咲の胸は今でも痛む。
    彼の苦しみを分かれなかったあの時。
    あの時の拒絶の言葉は未来永劫忘れることはないだろうと咲は思っていた。

    「だから、私は諦めたんだ。私と京ちゃんがそういう関係になるのは、無理なんだって。どうしようもないんだって」

    桃子は以前、清澄の麻雀部でかつて何が起こったのかを大まかに聞いていた。
    それが故に、何の事情も知らぬものだったら臆病すぎると切って捨てるかもしれないその発言に否定の言葉を返せなかった。

    「まぁ、ほら、恋してたとかそういうのじゃないから。誰だって思うときあるでしょ? 誰々さんと付き合ってみたいとか、恋人になってみてもいいかなとか」

    「……わかるっす」

    慌ててフォローするかのように、取り繕うかのような咲の言葉に、桃子はそう返すのが精いっぱいだった。

    911 = 75 :

    「だけど、京ちゃんが結婚するって聞いて、この結婚式の招待状を受け取った時にまた思ったことがあったんだ」

    「……思ったこと、っすか?」

    「うん。私、加治木さんと京ちゃんって私と京ちゃんみたいに、そんな関係にならないって勝手に思ってた」

    咲は京太郎を通じてゆみと交流を持つことも多かった。
    その時、咲の眼から見る限りは男女の関係というより、何か深い信頼だとか、強い意志だとか、そう言うどこか純粋な何かを感じた。

    「ほんとにわかるっす、それ。2人とも信頼し合って、尊敬しあってた感じだったすからね。まさかそんな関係になるとは」

    「うん。そう、だからこそ」

    咲はカウンターに突っ伏した。
    酒に酔ったわけではなかったが、顔を上げていることができなかった。

    「加治木さんのことすごいって思ったんだ。恋愛以上に強い感情が最初にあったのに、それを乗り越えてその先に進んだから。……だ、だから」

    カウンターに突っ伏したままの咲の声は小さかったがそれでも桃子の耳にしっかりと入ってきた。

    「も、もしかして、壁とかそういうのを勝手に作ってたのは私じゃないかって……」

    咲の体が小さく震える。
    言い知れぬ感情に胸が痛くなるが、それを抑えて口を開いた。

    「だから私も、壁とか、溝とか、そう言うこと考えずにほんのちょっと勇気を出して前に進んでみれば、何か変わったんじゃないかって……」

    そこから先は言葉にならなかった。
    桃子は何も言わず咲の背中を軽く撫でた。

    「ごめんね……」

    「いいっすよ。理屈じゃないっすもんね。こういうこと」

    「馬鹿みたいだよね。自分ひとりで勝手にいじけて勝手に諦めて、人のものになってから後悔するなんて。行動しておけばよかったって思うなんて」

    「しかたないっす。いつだって、誰だって後悔しない選択ができるわけじゃないんですから」

    桃子はしばらく何も言わずに咲の背中を撫で続けた。
    そんな時、桃子はふと思った。

    (麻雀じゃ無敵。裏目引いたとか、受けを間違えたとか、フリテンが残ったとか、そういうことで後悔しているところなんて見たことないっすけど)

    (あぁ、やっぱ、この人も人間なんすね。こんな風に後悔して悲しんだりすることも、あるんすね)

    (むしろ普通の人よりよっぽど不器用っす。麻雀じゃあんな器用なのに……)

    (あぁ、本当。人生ままならんっすね)

    咲が落ち着くまで桃子は咲の背中を撫で続けた。

    912 = 75 :

    「ご、ごめんね」

    「いいっすいいっす。今日はこうやって愚痴を吐き合おうと思って集まったんっすから」

    少し目が赤くなった咲が桃子に頭を下げた。
    桃子はそれを笑いながら流した。

    「さっ、私らも負けていられないっすよ。須賀君よりカッコいい彼氏見つけて2人に見せつけてやるっす! 婚活っすよ婚活!」

    「こ、婚活……」

    「何引いてるんすか。私たちもう三十路っすよ! 手をこまねいてたらアラフォー待ったなしっすよ!」

    「そ、そっか。そうだよね! よし、頑張ろう!」

    「その意気っす! さぁ、とりあえず今日は飲みましょう。改めてかんぱーい!」

    「うん、かんぱーい!」

    2人はその後、2時間に渡り飲み、喋り、歌い大いに楽しんだ。



    そしてべろべろに酔いつぶれ見るも無残な姿になった咲に桃子が頭を抱えるのもその2時間後の話であった。

    913 = 75 :

    カン!

    関係ないけど塞ちゃんって可愛いよね、エロいよね。

    914 :

    乙乙
    いい雰囲気だねー

    塞ちゃんはあの前髪ぱっつんがセクシー……エロいっ!!

    915 = 75 :

    あと1~2個ぐらいは拾えるだろうか。
    というか拾っていきたい。

    916 :


    咲ちゃんさんアラフォーまっしぐらやんな……

    塞さんは確かになんかエロい

    917 :

    乙ー
    しんみりするね

    918 :

    魔物は結婚できないジンクス

    919 :

    おつやで
    かじゅさんと京ちゃんの旅行の話とかでいいんじゃない?(適当)

    920 = 75 :

    あと書き忘れてましたが>>1は百合描写がちと苦手でな。
    女の子同士でちゅっちゅするとかそういうのはあまり期待しないでね……。
    女の友情ものとかは大好物なのですが。

    >>899
    新スレ側にガチてるてる悪女の嘘予告を投下しちまったぜ……。
    もしその話でスレを立てた際にはオマケか何かで書いていきたいです。

    921 = 914 :

    旦那さんが応援しに来た前でタイトルを獲得し、だっこされて祝福される加治木プロ



    の、試合を解説する小鍛治プロ

    922 :

    試合後のインタビューでなぜか試合内容そっちのけで旦那との馴れ初めについて聞かれて真っ赤になる加治木プロ

    923 :

    すこやん、ガチアラフォーになっちゃってるからなぁ
    笑えねえよ……

    924 = 905 :

    すこやんは結婚しとるかも知れんやろ!!

    925 :

    それは有り得ない。

    926 :

    何となくすこやんは結婚すると麻雀で勝てなくなるような気がするんだよなぁ……

    927 :

    恋愛すると負ける将棋指しみたいなことを言うなww

    928 :

    「もつものと、もたざるもの」の意味合いが変わってきてるよね
    麻雀的なものから、伴侶とか家庭とかそういうものに……

    929 = 914 :

    アラフォーが結婚していないという風潮

    なんでや、声優みたいに隠れ結婚してるかもしれんやろ!!

    930 :

    >>929
    実家でだらしない格好して母親にメロン切って貰ってる時点でお察し

    931 :

    まあ>>1が描写しないだけでips技術が猛威を奮ってそれなりな世界になってるかも知れないし
    アラフォーなのをみかねたこーこちゃんがもらってあげてるかも

    932 :

    せつないなぁ・・・。
    麻雀で勝つことはできても欲しいものは手に入らなかったのか。
    一歩が踏み切れずに、失ってから気付くってなぁ・・・

    933 :

    清澄メンバーは京太郎にとっての越えるべき壁のまま動く事が出来なかった。
    こういう大人の苦さなドラマって良いですね。

    934 :

    自分たちが京太郎を傷つけたという自覚があったから動けなかったんだろうな
    京太郎が咲たちに勝った時、お祝いという名目で手頃なホテルに強制連行しておけば……

    最後に「もつもの」加治木プロと「もたざるもの」咲さん一同との麻雀勝負をリクエストしとく

    935 = 918 :

    新婚で嫁壊されるとか胸熱

    936 :

    乙です
    しかし改めて考えても須賀ゆみって語呂悪いなww

    937 :

    逆に加治木京太郎も発音はともかく文字にするとなんとも説明できない違和感が

    938 :

    簡単な漢字が6文字っていう長さで並んでるからだな

    940 :

    >>939
    子供の名前はそれ絡みだな

    941 :

    加治椋太郎

    942 :

    >>939
    桔梗か

    943 :

    名前的には須賀優希が一番ぴったりくると思うじぇ!

    944 :

    名前で一番しっくりくるのは須賀恭子だろ

    945 :

    言いやすさなら須賀菫がダンチだと思う

    947 = 75 :

    「ツモ! 1000-2000の1枚!」

    上家の大学生らしい男が元気よく牌を引きアガった。
    京太郎はそれをちらりと見て点数に間違いないことを確認すると軽く返事をして、1000点棒と500円玉を渡した。
    点棒のやり取りが完了し、牌を落としたタイミングで京太郎は口を開いた。

    「2卓オーラスです。頑張りましょう」

    頑張りましょう、とほかのメンバーが続く。
    京太郎が雀荘のメンバーを続けてもう3年経っており、このやり取りもすっかりと手慣れたものだった。
    配牌を取りながら京太郎は点棒状況を確認した。

    『オーラス開始時』
    上家  50,200
    京太郎 13,400
    下家  34,100
    対面   2,300(親)

    ダントツのトップが1人。それに追随する者が1人。ダンラスだが最後の親番の者が1人。
    そして京太郎はそんな順位争いから若干置き去りになっている。
    2着目の下家に跳満を直撃すれば2着浮上だが、ツモならば3倍満が必要だった。
    トップを狙いに行くであろう2着目はある程度は前に出てくるだろうが、直撃を取れるかどうかは別問題だった。

    『京太郎配牌』
    【5】78m56s2246p東西白撥 ドラ8m

    (ドラ赤だけど、微妙な形だな……)

    そう心の中で愚痴りながらも赤が来てくれたことに若干の安心感を感じていた。
    親が牌の切り出しを悩んでいる姿を見ながら京太郎は煙草を口に咥え、火をつけた。
    何気なく、ちらりと雀荘内に置かれたテレビに視線をやった。

    『さぁ、タイトル戦もオーラスを迎えました。点棒状況は……』

    そんな映像を他のメンバーが見つめていた。
    京太郎も同じようにそれに目をやっていたが、知った顔が出てきたタイミングで目線を卓に戻した。
    ちょうど京太郎のツモ番であった。

    (……あれは、別世界の話だ)

    京太郎はそう思いながら、ツモに手を伸ばした。

    948 = 75 :

    その後、京太郎の手はかなり目覚ましく伸び、10順目で聴牌を入れた。

    『京太郎手牌』
    【5】678m5【5】67s22267p ドラ8m ツモ8s

    赤5萬を切り出してリーチをかけ、高目が出ればメンタン三色赤ドラの跳満。
    一応は2位を目指せる手が完成した。
    京太郎は萬子に手を伸ばし、場に切り出す寸前にもう一度テレビを見た。
    見知った顔が2万点離れたトップを追うために逆転のリーチを打っていた。
    それを見ると、ちらりと心の中に芽生えたモノがあった。
    だが京太郎はそれを即座に振り払った。
    流れるような手つきで京太郎は牌を切り、宣言した。

    「リーチ」

    『京太郎手牌』
    【5】678m5【5】67s22267p ツモ8s ドラ8m 打8m

    立直、タンヤオ、赤赤。
    相当都合よく裏ドラが乗らない限りはとてもではないが跳満に届かない。
    だが、京太郎にとっては必然の1打だった。

    (この麻雀は一発赤裏に500円のチップ)

    (つまりこの手をツモればチップが2枚×3人で3000円の収入)

    (1000点100円のこの麻雀では3000円は3万点分の点棒に等しい)

    (3倍満ツモなんて逆立ちしても届かない上、2着目が高目を出してくれなきゃ変わらない順位)

    (だったら3確でもいいから目の前の金を拾いに行く)

    (これが正しい。これが正しいんだ)

    949 = 75 :

    京太郎の勤めている店ではメンバーに打牌制限はない。
    順位の変わらないアガリも当然認められている。
    別段マナー違反を犯したわけではないのだが、京太郎はなぜか普段感じない後ろめたさを感じていた。
    そんな煮え切らない何かとは裏腹に、2巡後に京太郎はツモりアガった。

    「ツモ。2,000-4,000の2枚オールです」

    『京太郎手牌』
    【5】67m5【5】678s22267p ツモ8p ドラ8m 裏ドラ1m 打8m

    結果的には、赤5萬を切れば高目がツモれていた。
    だが、それでも2位にはなれていないため、最終的な収支で考えると京太郎の選んだ選択肢が最善だった。
    文句なしの1手だった。
    だが、大した喜びもないまま京太郎は表情を変えず口を開いた。

    「ラスト。ご優勝は田中さんです。おめでとうございます」

    牌を卓に落とす直前、2着目の手配が見えた。
    萬子の染め手。8索を掴めば出ていた可能性は十分にあった。

    (結果論だ)

    京太郎はなぜか芽生えた後ろめたさや罪悪感をそう切って捨てた。
    そして、淡々と自分の負け分を支払っていった。
    だが、負け分を支払っても先ほどのチップのおかげでこの局だけを見ればプラス収支。
    文句のない内容だったはずだったが、京太郎の心は暗かった。

    (何だってんだ、クソ)

    950 = 75 :

    清算後、待っていた客を案内して京太郎はふたたび立ち番に戻った。
    他のメンバーの横に並びテレビに視線をやった。
    見知った顔が残り少ないツモに手をかけている。
    京太郎はその姿を見ながら先ほどの局を思い出していた。

    (昔の俺なら、あの手は赤5萬切って何が何でも2位を目指していたよな)

    高校時代、まだ京太郎が麻雀部で活動している頃のことを思い出していた。
    心がじくりと痛む。
    そんなタイミングでテレビの中で見知った顔が逆転の1手をツモりあがった。

    『決まった! 優勝は原村和プロ! これでタイトル3冠、止まることを知りません!』

    アナウンサーが興奮気味にまくしたてる。
    テレビの中で見知った顔――和はにこやかな顔を浮かべていた。

    「最近勢いすごいな、原村プロ」

    先輩にあたるこの店のチーフがタバコ片手にそうやって話しかけてきた。
    京太郎はコーヒーを飲みながらさほど興味もなさげに応対する。

    「大学卒業してすぐに破竹の3冠っすからね。恐ろしい恐ろしい」

    テレビの中ではインタビューを受けている和の姿があった。
    その姿に重なるように、画面の下に和の略歴がテロップで表示されている。
    それを見ていたチーフは何かに気付いて、京太郎に向き直った。

    「清澄って確か、お前の出身校だよな。麻雀の名門の。そっか、原村プロと高校一緒だったんだな。そう言えば年も同じだし」

    「……えぇ、まぁ」

    「実は知り合いだったりしねぇの?」

    「……一応、話したことぐらいはありますけど」

    「マジで!? だったら原村プロと会わせてくれよ。俺ファンなんだ」

    明らかに触れてほしくないと言った態度を示す京太郎を気にも留めず、チーフは勢いよく食いついた。
    京太郎は内心の苛立ちを抑えながら、無理矢理にこやかな表情を浮かべた。

    「だから話したことある程度で親しいってわけじゃないんですってば。高校時代から会ってませんし」

    それに、と付け加えてテレビを見ると、トロフィーを受け取り涙を流している和が居た。
    京太郎はそれを見て、一瞬辛そうな顔をした後、自嘲的な笑みを浮かべて言った。

    「向こうは、俺のことなんざ覚えちゃいませんよ」


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