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元スレ美琴「初めまして、御坂美琴です」一方通行「……あァ?」
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――能力測定・3日目――
「昨日いつごろ帰ったの?」
「……オマエが寝てすぐ」
一方通行が美琴の部屋へ行くと、昨日と違いハツラツとした笑顔で彼を迎えた。
今日の天気と同じ晴天マークが付きそうな眩しい笑顔。どうやら体調は良好らしい。
その証拠に朝食中は一昨日のように話しかけてきた。
そんな彼女に彼は一言二言しか返さない。嘘でも会話のキャッチボールとは言い難い状況だ。
だが一方通行は内心ホッとしていた。
この3日で分かったことがある。
どうやら自分は彼女の悲しげな顔は苦手らしい。
美琴が悲しげに俯いたり、涙声を聞いたりするとどうすれば良いのか分からなくなる。
だったらまだ笑っていた方がマシだ。まぁ彼にとってはどう扱えば良いのか分からないのは同じなのだが。
(コイツとは今日で最後……)
能力測定へ向かう道すがら隣を歩く美琴に目をやる。
自分より頭ひとつ小さな背。肩でサラサラと流れる栗色の髪。大きな瞳に被さる瞼と長いまつ毛。
この姿をみるのも今日で最後なのだ。
『最後』
得体も知れないものが胸の内をトントンと叩く。
それはどこか悲しい音だった。
今日のスケジュールは面談と能力審査。
まず行なわれたのは面談だった。
面談では美琴の座るパイプイスの前に研究者5人が長方形のテーブルを構え肩を並べて陣取っていた。
次々と投げかけられる質問に美琴は冷静に、それでいて的確に答える。
美琴の言葉を聞くと研究者達は各々メモをとったり手持ちの端末装置のキーをカタカタと叩く。
もしこの面談が能力測定初日だったならこんなにスラスラと答えられなかっただろう。
この3日で美琴は沢山の研究者を見てきたし関わってきた。彼女から見れば良心的な人間が多かったように思える。
そのおかげもあってか緊張も無く面談は難なくクリアした。
次に行なわれた能力審査は能力実技だった。
美琴は能力測定の中でも能力実技を一番重要視している。
自分の発電能力がレベルが上がるほど強力になり自在に操れるようになる度に今までの努力が報われていると実感する。
けれど決して自分の力に自信がある訳ではないし、今でも能力の不安要素をあげたらキリがない。
それでも審査をクリアした時の目の前のハードルを飛び越えるようなあの達成感が彼女の勤勉さを支えている。
彼女は自分の持つ能力がいつか自身の誇りになることを信じているのだ。
―――――こうして最終日の能力測定は滞りなく進められていった。
能力測定を進める一方で美琴の中ではある思いが巡っていた。
能力測定は今日で終了。ということは一方通行とは今日でお別れということだ。
そしてそうしたくない自分がいる。
(聞きたいことがいっぱいあるのになぁ……)
どうしてここに住んでるの?
どうして髪の毛が真っ白なの?
どうして時々悲しい目をするの?
聞けなかった言葉たちが宙を舞う。
どこかこの世界に背を向けて儚げに佇む彼の姿はそれを聞くのを躊躇わせる。
その姿に惹かれているのも事実なのだが。
最初は興味だけだったのかもしれない。
でも今はそれだけじゃないように思える。
頭の中でその思いをグルグルと巡らせる。
(もっと話したいし今日でさよならするのは嫌だな~……)
(でもあっちがどう思ってるか分からないし……)
(…………)
(これって『友達になりたい』ってことだよね?)
今まで友達になりたいと思って人と接したことが無かった。
むしろ自然な流れで友達関係を築くことが普通だと思っていた。でも今回は違う。
彼への気持ちが学校の友達に対して抱く思いと同じなのか……美琴にはよく分からなかった。
その気持ちの名前を知るにはまだ彼女は精神的に幼かった。
――――――――――――
――――――
―――
「3日間お疲れさま。御坂さん」
「はい! ありがとうございました!」
美琴・一方通行・芳川の3人は研究所1階の玄関ロビーに来ていた。
能力測定を無事終えた美琴は着替えの入ったバッグを肩に掛けすっかり帰り支度を済ませていた。
歩きながら他愛も無い話を続ける2人を少し離れて一方通行は眺めている。
「御坂さんの学生寮はここからわりと近いのよね」
「え~っと……駅2つ分でした」
「行きは電車で来たの?」
「はい」
「駅から少し遠かったでしょう」
「でもこの研究所大きいからすぐ分かりました」
―――ピピピッピピピッ
突然機械音が鳴り響いたと思うと、芳川の白衣のポケットから携帯電話を取り出した。
「ここで少し待っていてくれる?」
そう言うと芳川は携帯を耳に当てながらロビーの端へそそくさと行ってしまった。
その場に残された2人。
一方通行はチラリと美琴に目をやると、重そうなバッグを肩に掛け芳川の姿をボーッと眺めている。
「オイ」
美琴に声を掛けると、一方通行は出入り口近くにあったロビー備え付けのソファーに向かって歩き出した。
ソファーを目指して先を歩く一方通行にトテトテとついて行く美琴。
何だかここへ来た時よりも持っているバッグが重い。
自分の思いとバッグの重さは比例しているのだろうかとこの時初めて気付いた。
「ぅあっ」
バッグのせいでバランスの悪い歩き方をしていたせいか、何も無い所で足をつまずきよろけてしまう。
前のめりになり転ぶこと覚悟した瞬間―――
「オイッ!!」
―――気付けば後ろの美琴の声に振り向いた一方通行が咄嗟に手を出し彼女の腕を掴んで転ぶのを防いでいた。
小さく軽い美琴の体は標準よりも細めの一方通行の腕一本でも軽々と支えることが出来た。
「あぅ……ありがとう」
ギュッと掴まれた腕が熱い。腕から全身に熱が伝っていくような気がした。
斜めになった体を起こすが一方通行は美琴の腕を放さない。また倒れると思っているのだろうか。
「……気ィつけろ」
そう言うと腕を掴んでいた手を離しさっさとソファーへ座ってしまった。
同時に腕に感じた熱も離れていく寂しさが美琴を襲った。まるでこれから来る別れを彷彿とさせる感覚。
不器用な優しさのせいで余計に寂しさが込み上げてくる。
(やっぱりさよならするの――――イヤだ)
気付けば美琴はソファーに座る一方通行の目の前に立っていた。
「ねぇ」
「あァ?」
「えっと……」
「なンだよ」
「……」
「早く言え」
コクリと頷きながら手で胸を押さえながら深呼吸を始めた。
一方通行は何が何だか分からないといった顔をしながらもとりあえず美琴の言葉を待った。
深呼吸を終えたのかと思うと、次は斜め掛けバッグの紐を両手でギュッと固く握りしめた。彼女と最初出会った時にしていたポーズだ。
次の瞬間 美琴は視線を一方通行に定めた。
「わ、私のこと嫌い!?」
「……」
「……」
時が止まったのかと思う程の沈黙が2人を包む。
「……な、なに言ってンだァ!?オマエ!!」
「質問に答えて!!」
真剣な表情で詰め寄る女の子。その言葉と様子に戸惑う男の子。
端から見たら幼いカップルの告白現場のように見えるかもしれないが彼女の心情は違った。
実際美琴の表情は恋する乙女の顔ではなく、人生の重要な判決が下されるのを待っている顔をしている。
彼女自身も自分の言葉に驚いていた。
無意識に出た言葉とはいえ、自分の素直な疑問が口に出たとも思えた。
『一方通行は私のことを嫌っているか』
美琴が気にしていたのはそこだった。
そこが分からないからこそ彼に対して一歩踏み出せなかったのだ。
本来なら赤面モノの台詞だが今の彼女の場合、恥ずかしさよりも彼からの返事を貰う緊張感が勝っていた。
おそらく身悶える程に恥ずかしくなるのは答えが出た後だろう。
「……」
「……」
そんな彼女の真剣な眼差しは時を刻むたび迫力を増しているようだ。
『わ、私のこと嫌い!?』
さっき彼女はそう言った。
美琴と出会って3日間。
最初面倒な仕事を押し付けられたと思った。
面倒を見る事になった少女は言葉も行動も予想外なものばかりで自分を混乱させた。
ヘンなヤツだと思った。そして自分が今まで出会った人間とはどこか違う人種のように思えた。
だが不思議と彼女から離れたいとは思わなかった。
本当にヘンなヤツだ。
でも―――――
答えはすぐに出た。
「……別に」
「……」
「…………嫌いじゃ、ねェ」
「ホント?」
「……あァ」
「ホントにホント??」
「そうだっつってンだろォが」
「ホントにホントにホント???」
「しつけェぞ!何回聞くンだよ!!!」
(ったく……なンでこンなこと聞くんだよコイツ……恥ずかしくねェのかよ)
目を輝かせながら問いかけ続ける美琴から目をそらす。
馬鹿正直に答えたは良いが、美琴の言葉の真意が読めない一方通行の頭の中は大混乱真っ最中だ。
彼女はさらに追い打ちを掛ける。
「じゃあ今度ここに会いにきてもいい?」
「ハァ!? なンでだよ!!」
「そんなの会いたいからに決まってるじゃない!」
「なッ!?」
学校の友達なら学校に行けば会える。
なら彼に会いたければここ(研究所)へ来れば良い。それだけのことだ。
「意味分かんねェ……」
「分かんなくない! 嫌いじゃないなら会いに来てもいいでしょ?」
「そうじゃなくてだなァ……」
自分に会いたいなんて言う彼女の神経が理解出来なかった。
自分の様な超能力者に会いたいなんて言うのはレベル5に興味のある研究者達くらいだ。
なぜそんなこと言うのか、理解不能だ。
彼の目をジッと見つめる彼女の目は髪と同じ色をしていて美しく澄んだ瞳をしている。
完全に気圧されている雰囲気にグッと喉が鳴るのが分かった。
とりあえず彼女が待ってる答えは『YES』であることは理解できた。
ハァ…と溜息を吐き、自身の白い頭を掻きながら降参の意を表明した。
「……もう勝手にしろ」
「ぃやった~~~ッ!!!!」
万歳ポーズをしながら飛び跳ねて喜ぶ顔はこの3日間の中で1番の笑顔だった。
何をそんなに喜んでいるのかよく分からないが、とりあえず笑っているのでこれで良かったのだろう。
彼はそう結論づけることにした。
「あ!あともう1個」
「今度はなンだよォ……」
もういい加減にしてくれと言わんばかりの声色を出す一方通行に対して美琴は終始ご機嫌だった。
ニコニコしながら前かがみになり上目遣いで彼を見つめる。
「名前」
「ハ?」
「名前、呼んでいい?」
「……」
「……ダメ?」
「チッ……好きにしろ」
「うん!」
「えへへ~」と頬を赤く染め照れながら喜ぶ美琴をみて一方通行は耳をほんのり赤らめそっぽを向く。
その瞬間の幼い2人を包む空間は、誰も入り込めないカップル特有のソレにとても似ていた。
そんなやりとりを知ってか知らずか、タイミング良く電話を終えた芳川が2人のもとへ歩いて来た。
「ごめんなさいね~ 待たせちゃって……っ!?」
芳川はその場を見てギョッとした。
ソファーに腰掛けながらも顔をあさっての方へ向き表情を隠す少年。
そして見るからに「良いことがありました」と言わんばかりのニコニコ顔の少女。
両極端すぎる2人の現状は何かが起こったであろう空気を醸し出していた。
「……なにかあったの?」
「ううん~ 何にもないです♪」
「……」
首を横に振りながら笑顔で否定する美琴と無視を決め込んでいる一方通行。
明らかに嘘だ。
だがこれ以上ツッコむのは野暮の様に思えた。
少なくとも自分の計画にプラスになっている、そんな予感がしたからだ。
「そう……じゃあ御坂さん、外まで送るわ。いきましょう」
「はい!」
「あなたはどうする?一緒に行く?」
「……行かねェ」
「あらそう? じゃあ行きましょうか」
玄関ドアまでそそくさと歩き出す芳川に急いでついて行く美琴。
しかし美琴はピタッと足を止め振り返る。自動ドアが開き、外からの午後の太陽と柔らかい風で彼女の髪がフワリと揺れて光る。
そして彼に向かって大きく手を振りながらこう言った。
「またね 一方通行!」
笑顔を送りながら返事を待たず2人はそのまま光溢れるドアの向こう側へ去っていった。
(アイツ、どォいうつもりなンだ……?)
一方通行は美琴がさっきまで居た場所に視線を戻す。
そこに彼女がいたことを示す印は無いが、さっきの言葉や表情・姿が一気に甦る。
『そんなの会いたいからに決まってるじゃない!』
『またね 一方通行!』
胸をトントンと叩く音。
今日の朝感じた切ないものとは違う、もっと柔らかく暖かいような―――そんな音。
その音に共鳴するように、これまで感じたことのない胸に迫る感情が溢れてくる。
(なンだこれ……)
彼はそれが【嬉しい】という感情だとはまだ気付くことが出来なかった。
とりあえず『出逢い』は以上です。
こんな感じでこれからも続くと思います。
それではまた~
こんな感じでこれからも続くと思います。
それではまた~
>>168
お前だけじゃないぜ
お前だけじゃないぜ
乙
相変わらず可愛いすぎる二人だな
これ以上可愛くなったら悶え死んでしまうww
相変わらず可愛いすぎる二人だな
これ以上可愛くなったら悶え死んでしまうww
乙!
幼い美琴と幼年通行がほのぼのっていうのは本当にいいな
二人とも初初しくて凄くイイ
幼い美琴と幼年通行がほのぼのっていうのは本当にいいな
二人とも初初しくて凄くイイ
なんかいいなぁこのかんじ…
1乙・&これからに超期待なんだよ!
こんばんは~
マヨマヨってなんか可愛いですねマヨマヨ
投下します!
マヨマヨってなんか可愛いですねマヨマヨ
投下します!
――――――――――
水を吸った青色の絵の具のように澄み渡る水色の空。
梅雨が明け、初夏を感じさせる爽やかな風が通り抜ける土曜日の午後。
見た人を圧倒させる大きさを誇る能力開発研究所。
そこは土日は研究者も非番が多く、被験者として訪れる子供たちも少ない。
だがそんな今日に限って研究所の一室から子供の笑い声が漏れていた。
研究所から笑い声など大人だろうと子供だろうと普段ならありえないことだ。
だが現実それは起こっている。
「ふっふっふ~ 今度こそ絶対勝ってやるんだから!」
「オマエなァ……何回やるンだよコレ」
「そ、そんなの……私が勝つまで!!」
「……ガキが」
「ううううるさいッッ!!!」
研究室と呼ばれる部屋に不似合いな子供の会話が響いていた。
正方形のパイプテーブルで向かいあい、手持ちのカードに目をやりながら話す少年と少女。
一方通行と御坂美琴は本日8回目のトランプゲームをスタートした。
「貴方達ねぇ……部屋に入るのは許したけど、あんまり騒がしくするなら出てってもらうわよ?」
「……は~い」
この研究室の主・芳川桔梗は2人をたしなめる反面、彼等と共に居るこの空間を好ましく思っていた。
殺風景な部屋に並べられた温度を持たないデスクに無機質なデザインのモニター。
それが彼等がいるだけでまるで花を添えられたように明るく色彩を加えられたようだ。
彼等の声は穏やかに響き、心地よく部屋の空気を揺らす。
彼等、というより彼女のおかげ、なのかもしれない。
2人の出逢いは約1ヶ月前に遡る。
御坂美琴がこの能力開発研究所へ能力測定をしに訪れた。
そして付添人としてこの研究所に住む一方通行が抜擢されたことが出逢いの始まり。
―――――すべては芳川が仕組んだ計画なのだが。
あの3日間に2人の間に何があったかは分からない。
端から見れば少なからず良好関係を築いていたように見えた。
ただ能力測定を終えて6日後に美琴がこの研究所に訪れた時は流石の芳川も驚いた。
何をしに来たのか聞くと笑顔で彼女はこう言ったのだ。
『会いに来ました!』
玄関ロビーに一方通行を呼び出し美琴と会わせた時の彼の顔はなかなか見物だった。
目を見開き唖然とした顔をしたかと思えば、溜息をつき「マジで来たのかよォ……」と呟いたのだ。
どうやら彼女が来ることを予期していたようだった。
それ以来、彼女は毎週土曜日の午後1時に研究所に訪れるようになった。
そして3回目の訪問である本日はトランプゲームがメインイベントらしい。
「ふっふっふ~! ババ抜きをチョイスしたのは正解だったみたいね~」
「オマエ……そこまでして勝ちてェのかよ」
「当たり前でしょ!? 今日はまだ1回も勝ててないもん!」
「今日『も』の間違いだろォが」
「むきぃぃぃぃーーーーーッッッ!!!」
トランプを折り曲げんばかりに握りしめ怒る美琴と彼女をからかう一方通行。
そのやりとりはとても子供らしいもので見ている側は微笑ましい。
芳川と、彼女と共に資料整理をしている青年研究者はそれを優しく見守っていた。
「いや~ 2人共仲良しッスね」
「そうね」
さっきまで2人と共にゲームの相手をしていた青年は芳川とフッと微笑みながら顔を見合わせた。
研究所へ訪れる度に美琴は何かしらのゲームを持ち込んでくる。
オセロやパズルゲーム、それを持って来ては「次はこれで勝負ね!」と挑み、それを渋々承諾する一方通行。
それが毎週土曜日の恒例行事となっていた。
そして今回はトランプゲーム。
七並べ・大貧民・神経衰弱・ポーカーetc……
2人ではやらないようなゲームばかりやろうとする美琴の為に仕事をおいて青年研究者は参加してあげた。
青年の参加を喜ぶ彼女を見て、つい自分にこんな妹がいたらなぁ…と一人っ子が抱きがちな妄想を彼は膨らませてしまう。
ニヤケ顔全開の自分に対して目の前にいる少年の視線が痛い気がするが気にしない気にしない。
結果は一方通行の全戦全勝という当然のオチだった。
一方通行の頭脳はこの学園都市内でもトップレベル。そんな彼に頭を使うゲームで勝てるはずは無いのだ。
ましてや年下の女の子だからといって彼が接待ゲームなんぞする気遣いがあるわけない。
そんなわけで美琴はまだ一度も一方通行に勝てたことがなかった。
「これで負けた人は勝った人にジュースおごるって覚えてる?」
「ハァ? そンなこと言ってなかったじゃねェか」
「この前からそういうルールにしようって言ったもん!なのにそっちが嫌がるから……」
「あれはオマエの財布を心配したンだよ スッカラカンで帰れなくなりましたァって言われても迷惑だしなァ」
「負けるの前提にすんなぁぁぁ!!!」
「つーかババ抜き2人でやるとか、勝ち負けなンてほとンど運じゃねェか……」
(ふふっ だから選んだんだけどねー♪)
(コイツ、自分が勝ちそォだからって調子にノってンな)
「~♪」
「……ったく」
彼を知る者なら誰かとこんなに会話している一方通行を珍しく思うだろう。
芳川達も初めて彼等が会話している所を見たとき少なからず驚いた。
一方通行は決して優しい態度で美琴に接している訳ではない。むしろ見ている側がヒヤヒヤものの言葉ばかりだ。
なのに彼女はそんな言葉達を好意的に捉え、自分の感情をそのまま言葉や態度に変え彼に示す。
まるで彼の態度の裏の本質を見抜いているかのように。
彼等のことを眺めながらそんなことを考えていると、ふと感じた疑問を口に出していた。
それは今日2人がこの研究室にいる理由だ。
「そういえば貴方達、どうして今日はここに来たの?いつも食堂にいるでしょ?」
「今日は食堂が清掃中で入れなかったんです」
「そうだったの」
「それでゲコ太先生の所に行ったんですけど……」
「……ゲコタ?」
「確かオマエが気に入ってる珍妙カエルキャラのことだったかァ?」
「珍妙じゃない!可愛いでしょ!?……じゃなくて医務室に行ったんです。
部屋使わせてくれるかなーって思って。でも先生忙しそうだったから結局諦めたんです」
「それでここへ?」
「ううん~ その前に一方通行の部屋に行ったんです」
フルフルと首を振りながら答える美琴。
彼女の言葉にピクッと一方通行の肩が動いた様な気がしたが見なかった振りをする。
「でも部屋入ったらいきなり一方通行に追い出されて」
「違ェよ!! アレはオマエが……」
「なによぉ~!」
プーっと頬を膨らませる美琴に対して珍しく動揺している一方通行……一体何があったのだろうか。
気になるがそれはあとで聞き出すとしよう(勿論美琴から)
「まぁまぁ。それでその後ここへ来たのね」
「そうです! ……やっぱり迷惑でしたか?」
「そうじゃないわ。でも今度から部屋に入りたいときは先に声をかけてね?勝手に入られては困る時もあるし」
「は~い!」
そんな会話をしている一方で当人のババ抜き勝負は佳境を迎えていたようだ。
「ぐぅ~……どっちがハートの10なのか……」
「早く選べ」
「~~~~~ッこっち!!!」
「……」
「やったーーーッッ!!!あっがりぃぃーーーーッ!!!」
手持ちのカードが宙を舞う。ようやく美琴が念願の初勝利を手に入れた。
敗者の一方通行は悔しがるわけでもなく喜ぶ美琴を眺めて溜息をついた。どうやら勝敗には執着していないようだ。
両手を上げ喜ぶ彼女はハイタッチを求めて立ち上がりスキップで芳川達の元へ駆けて行った。
仕事の手を止めハイタッチに付き合う面々は美琴につられるように表情を緩める。
ハイタッチをすませ、クルッと一方通行の方へ向き直り美琴は彼へ詰め寄る。
「ねぇねぇ一方通行! ルール覚えてるよね?」
「アレ有効なのかよ」
「もっちろ~ん♪」
「はァ……めンどくせェ」
「今度から私もルール守るから! ね?」
「チッ……」
舌打ちをしつつも立ち上がりドアの方へ向かう。
先程決まった新ルール『負けた人が買った人にジュースをおごる』を実行すべく1階の自販機に行くようだ。
「私はね~ 炭酸がいい!」
「私はレモンティーが良いわね」
「自分は緑茶よろしくッス~」
「テメェら便乗してンじゃねェ!!!」
怒号と共にバタンッッ!!!と大きな音でドアを閉め一方通行は部屋を出て行った。
ご機嫌な様子でテーブルに散らばったトランプを掻き集める美琴に芳川はさっきの会話を思い出す。
一方通行が動揺していたあの話。聞くなら今しかない。鬼の居ぬ間にというヤツだ。
「ねぇ 御坂さん」
「はい?」
「さっき話してた一方通行の部屋に行った時の話……詳しく教えてくれない?」
「あ! それ自分も気になってたんスよ~!」
「へ?」
青年と芳川は美琴の居るテーブルへにじり寄りまるで内緒話をするように彼女の周りへ集まった。
大人げなく興味津々好奇心丸出しの2人に対して、美琴本人は口をへの字にして思い悩む顔をしている。
「ん~ でも私もなんであんなに怒られたのか分かんないんですけど……」
「自分らが聞けばその理由も分かるかもしんないッスよ!ねぇ先輩!」
「えぇそうよ」
「……そーかなぁ?」
「そうッスよ!」
「…………じゃあ聞いてもらおうかなぁ」
「私、研究所の部屋ってみんな同じ感じだと思ってたんです。私が前泊まった部屋みたいな。
でも一方通行の部屋に入ったら全然イメージと違っててビックリしたんです。
なんていうか……こう……本当にお家の中にある部屋!って感じで」
「まぁ彼はかれこれ3年はここに住んでるから、多少カスタマイズされてるのよ」
「それで部屋入った途端はしゃいじゃったんです。それがいけなかったのかなぁ」
「はしゃいだっていうのは?」
「部屋の中で騒いじゃって。色々部屋中ジロジロ見ちゃったり……あ、あと」
「あと?」
「一方通行のベッドも私のいた部屋のと違って布団がフワフワで柔らかそうに見えたからつい」
「……つい?」
「ベッドに飛び込んじゃったんです」
「あら」
「おわっ」
「それでお布団の中潜ったり「一方通行と同じ匂いがする」って言ったら一方通行の顔が固まっちゃって」
「……」
「……」
「そのあとはすぐにつまみ出されて……「他の部屋行くぞ」って」
「あぁ……」
「そういうことッスか……」
「やっぱり他人にお布団触られたりするのが嫌だったんだろうなぁ……失敗しました」
「えぇそうね……」
「そういうことにしておいてあげて下さい……年頃の男子は色々繊細なんスから」
「え?」
美琴は理解していないが年頃の男子から見れば『ソレ』はとてつもない破壊力を秘めているのだ。
特に美琴のような可愛らしい容姿の女子からなら尚更破壊力は格段に上がる。
青年は心から一方通行に心から同情するような表情でうんうんと頷きながら自分の仕事へ戻っていった。
芳川は目を瞑り記憶の海に沈み込む。
忘れられない3年前のあの日。
芳川桔梗が研究者として、この学園都市内最大級の能力開発研究所に転属してきて1ヶ月も経たない頃だった。
直属の上司から呼び出しをくらい指定された研究室へ入るとそこには白髪の小さな少年が立っていた。
少年の隣に立つ年老いた上司は彼・レベル5の世話役兼能力開発担当者に芳川を任命した。
彼を見た瞬間、芳川は体から血の気が引いていくほどの衝撃を味わった。
彼の虚ろな瞳には今まで味わったであろう計り知れない絶望・怒り・悲しみが映っていた。
瞳はそれ以外は何も映らない、そして彼自身は生きたまま死んでいるという表現が当てはまる表情をしている。
こんな表情 10歳の子供がする顔ではない
これがレベル5として能力を開花させた子供の姿なのか
芳川の頭の中でそんな言葉達がグルグルとまわっていたのを今でも覚えている。
それが彼との最初の出会いだった。
「彼はね……私と会った時にはとても辛い経験をしてきた顔をしてたわ」
「……!!!」
「ここに来るまでにいっぱい傷ついてきたのよ。心も体もね」
「……どうして」
「貴方にはあまり聞かせたくない話だけど……研究所には良い人間ばかりがいる訳ではないの」
「え……?」
「研究の為なら被験者である子がどうなろうとかまわない。そう思う人間がいるのよ」
「そんな……ッ!!」
「そう、そんなこと本来ならあってはならないわ。……でもね 一方通行はそんな人間に沢山傷つけられてきたの」
「……ッッ」
だが美琴は袖で顔を拭い、目元にキュッと力を入れて視線を芳川に向けた。
どうやらまだ彼女はこの話を聞くつもりのようだ。
「それで……ここへ来てからは……?」
「……そうね。ここへ来て暫くは話しかけても一言も返ってこなかったわ。
まぁ接していくうちに少しずつ話してくれるようになったけれど」
少なくとも彼がここへ来る前にいた場所と比べればここは天国と地獄の差であろう。
彼がいたその場所とは特例能力者多重調整技術研究所。
通称:特力研は研究者たちの間でも知るものは多くない。
それほど特異な、限りなく闇のそのまた深くに存在する研究所。
研究材料は置き去りの子供たち、非人道的な人体実験は日常茶飯事。いわば殺人施設だ。
少し前に警備員が特力研を制圧したと聞いた。話によればそこは見るもおぞましい地獄絵図だったという。
生き残るのは奇跡に等しい、そんな場所で彼は生きていたのだ。
そのことを知ってからだろうか。芳川が一方通行の心配をするようになったのは。
悲惨な過去を背負い孤独を愛そうとする彼は痛々しく見ていられなかった。
一言でいえば『ほっとけない』―――そんな言葉がピッタリだと思う。
彼に会う度に母親が子供に抱くような感情をよぎらせた。もしくは生徒を過度に心配する先生のような思いだ。
自然と彼に一方的に言葉を投げかける日々が続いた。マトモに会話するまでに半年掛かったのを覚えている。
担当が変わった今も後輩の研究者から彼のその後を聞くのが習慣になっている。
だからこそ最近の一方通行の変化に戸惑いつつも嬉しさを押さえ切れないのだ。
芳川は思考を現在に戻す。
美琴は切なげな表情で俯き黙りこくっている。
さっきまでの会話を噛み締めているように見えた。
「……ここ最近、また彼は昔のようになってしまう気がしてたの。……でも御坂さんが来てからかしら」
「私……?」
「ええ。貴方と会ってから彼、表情が豊かになったわ。貴方とはよく喋るし」
「えええぇぇ!!? そ、そんな……」
ポンッと顔を発火させて恥ずかしがる美琴を目を細めながら眺める芳川。一気にその空間が和むのを感じた。
重苦しい空気を表情ひとつで一転させる。美琴のコロコロと変わる表情は彼女の魅力のひとつだ。
そして芳川は心から溢れ出したかのように言葉を紡ぐ。
「貴方が能力測定のあとも彼に会いに来てくれて……本当に感謝してるわ」
「……でも私が勝手に来てるだけで、本当は嫌がってるのかも……いつも「また来たのかァ」って言われちゃうし」
「そんなことないわ。素直じゃないのよ。不器用とも言うのかしら?」
「そうかなぁ……」
「そうよ」
確信を持ってそうだと言える。
確かに彼の心情は深い霧に包まれているようでそれを知ることは困難だ。
しかし彼女と出会ってから彼は少しずつ変化している。勿論上向きに。
言葉数が増え彼女と関わっていることがその証拠だ。
美琴は柔らかく微笑みながら、さも当然のことを言うような声色で言った。
「私は……これからも会いに来ます。 私が、一方通行に会いたいから」
同情・哀れみ・悲しみ……そんなもの欠片も感じないただ純粋に『会いたい』という気持ち。
それが美琴の声とともに胸に伝わってくるのが分かった。
(ありがとう……)
「なんか恥ずかしいな~」と言いつつ照れる美琴の頭をそっと撫でながら心の中で礼を述べる。
何度も、何度も。
「あの子のこと……よろしくね」
「……芳川さん、なんかお母さんみたい」
「あらそう?でも私まだ20代よ? せめてお姉さんとか先生とか呼んでほしいわねぇ」
「はーい 芳川先生♪」
クスクスと笑い合う2人は年の差を感じさせない、まるで心を許し合った姉妹のようだった。
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- 絹旗「どいてください!超邪魔です!」上条「な、なんだぁ?」 (1001) - [40%] - 2010/7/14 3:45 ★★★
- 梓「こ、この白髪ぁ!」一方通行「いってろ触角」 (773) - [38%] - 2011/5/5 13:45 ★★
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