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元スレ美琴「極光の海に消えたあいつを追って」
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「あ、そうだ」
唐突に、上条が思い出したように言う。
「どうしたの?」
「土御門兄妹に家の鍵を渡すのを忘れてた」
彼はベッドの脇に無造作に置かれたカバンをごそごそと漁り、真新しい鍵を取り出した。
「失くしちまったのか、インデックスが持ってたまんまなのかはわかんねーけど、とにかく俺は鍵を持ってなかったからさ。
午前中、父さんと母さんが新しいのを作ってきてくれたんだ。
……せっかく家を掃除してくれるっていうのに、鍵を渡し忘れるなんて大失態だよなぁ」
ぼりぼりと頭をかきため息をついた上条は、美琴のほうを向く。
「つーわけで、鍵をよろしく頼んでいいか?」
「え? わ、私?」
手に乗せられた銀色の輝きを目に、美琴は思わず上ずった声を出してしまった。
手中にあるのは、金銀財宝の詰まった宝箱の鍵すら色褪せて見えるような、上条家の合鍵。
そういうことじゃないと分かっていても、つい心が躍ってしまう。
「御坂だって掃除を手伝ってくれるんだろ? だから丁度いいと思ったんだが……ダメか?」
「ダメじゃない」
即答だった。
「えへへへへ……」
夜、常盤台の寮にて。
バイオリンの練習を済ませ、ベッドに早々に伏せた美琴は、毛布の中でにやにやと鍵をいじる。
それを白井が不気味そうに見つめていることなど何のその。
(アイツの家の鍵、かぁ……)
恋する乙女ならば誰もがあこがれる至上のアイテム。
ただ掃除のために預かっただけであり、「いつでも来ていい」という意志表示ではないことは理解している。
勘違い。
自意識過剰。
そんな単語を自覚してなお、美琴の顔のゆるみは治まらない。
「お姉様……なにをそんなに嬉しそうに見つめてらっしゃいますの……?」
「んー、内緒ー」
恐る恐る、といった様子の後輩の声は軽く流し、再び鍵をいじることに没頭する。
預かるだけではなく、いつか本当に彼から合鍵をもらえたら。
そんなことを考えながら、いつしか美琴は眠りについた。
今日はここまでです
しばらくはこんな感じの生ぬるい日常編……の予定です
書き溜めしてて思ったけれど、バトル描写が上手く書けないorz
考えてるシナリオ通りなら大きなバトルがいくつかあるのに、はてさてどうなることやら
ではまた次回
しばらくはこんな感じの生ぬるい日常編……の予定です
書き溜めしてて思ったけれど、バトル描写が上手く書けないorz
考えてるシナリオ通りなら大きなバトルがいくつかあるのに、はてさてどうなることやら
ではまた次回
乙
美琴の今欲しいものランキングの上位に必ず食い込んでくるアイテムですもんね、上条宅の合鍵
美琴の今欲しいものランキングの上位に必ず食い込んでくるアイテムですもんね、上条宅の合鍵
すまん↑ミス。↑を読んだ瞬間
「一か月放置したスフィンクスはどうなってるかなー?」
と想像してしまった。ヤバくね?
原作を読み返したらイギリスにいるみたいだった
上条さんとの再会はあるのかな?
「一か月放置したスフィンクスはどうなってるかなー?」
と想像してしまった。ヤバくね?
原作を読み返したらイギリスにいるみたいだった
上条さんとの再会はあるのかな?
こんばんは
>>408さん
スフィンクスは原作ではリメエアさんに拾われたままでしたよね
今頃王室御用達のエサをビクビクしながらかじっているのではと思います
このSSでは、そのうち
では今日の分を投下していきます
>>408さん
スフィンクスは原作ではリメエアさんに拾われたままでしたよね
今頃王室御用達のエサをビクビクしながらかじっているのではと思います
このSSでは、そのうち
では今日の分を投下していきます
11月17日。
昨日と同じように常盤台中学は半日で授業を終了し、一端覧祭の準備に取り掛かることになる。
例によってすることのない美琴は白井とともに昼食をとったあと別れ、土御門舞夏との待ち合わせ場所へと向かった。
美琴は上条当麻の家を知らない。
高校の男子寮に入ってることくらいは世間話の中で聞いたことはあるが、その程度だ。
ゆえに、場所を知っているという舞夏と待ち合わせることにした。
待ち合わせは学舎の園から少し離れた所にある公園だ。
午後1時25分。快晴ではあるが、ロシアほどではないにしろここのところめっきり気温が低くなっている。
恨みのある自販機ではないので普通に飲み物を買っていると、舞夏が現れた。
「みさかみさかー、お待たせだぞー」
「……土御門、ナニソレ?」
美琴が指さしたのは、舞夏の真下にある物体。
鉄製のバケツをひっくり返したようなものに、彼女は鎮座しているのだ。
「お掃除ロボだぞー」
「それはわかるけど、えー……」
舞夏の通う繚乱家政女学校は『真のメイドさんには休息はいらない』を鉄則として掲げており、土日祝日もなく日々研鑽を重ねている。
故に一緒に遊びに行く機会がほとんどない二人が常盤台中学の寮の外で出会うことはめったにない。
寮の中でお掃除ロボに乗る筈もなく、美琴が見慣れぬ友人の姿にドン引きしていると、
「むー、この子はこれで意外と便利なんだぞー」
と、舞夏は手にした逆さのモップでお掃除ロボをつつく。
進行、停止、ターン、その場で回転など妙技を次々と繰り出すが、美琴の反応はいまいちである。
「普通に歩いた方が早くない?」
「道の掃除も兼ねてるから、これでいいのだー」
「そういうものなのかしら」
「そういうものなんだぞー」
「そう言えば、ちゃんと汚れにくい服装は持ってきたかー?」
上条の寮へと向かう道すがら、舞夏が問う。
「あ、忘れてた。今日は体育もなかったからジャージも体操服も用意してないのよね。
ま、ブレザー脱げば大丈夫じゃない? シャツは洗えばいいんだし」
「その様子だと、ゴム手袋やマスクもなさそうだなー」
「マスクはともかく、ゴム手袋は何に使うのよ」
「そりゃあもちろん、掃除にだぞー。
悪くなった生ものとか、放置された食器とか、素手で触らなくてもいいようにだなー」
それらを素手で触るところを想像して、身震いする。
花も恥じらう女子中学生は潔癖症なのだ。
「それらはコンビニでも揃えられるし、少し寄って行くかー」
もちろんコンビニに立ち寄る際も舞夏はお掃除ロボに乗ったままであり、店員に奇特な目で見られたことは言うまでもない。
「ここがあいつの家……」
しばらくのち、美琴と舞夏はとある高校の男子寮前に立っていた。
美琴の住まう常盤台中学の寮と比べれば格段にグレードの下がるそれの第一印象は、ありていに言ってしまえば、ボロい。
寮の入り口に寮監はいないし、門限なんてあってないようなものだ。
これが一般的な高校生のレベルなのか、と美琴は間違った認識をする。
かつて上条当麻が一方通行との戦いののちに退院し帰宅した際、無意識に我が家と常盤台女子寮を比べ、
「これが格差か……」と呟いたことを、美琴は知るよしもなかった。
今にも止まりそうなボロっちいエレベーターを使って七階まで上がる。
エレベーターから一番遠い角部屋が上条の部屋だ。
その手前の部屋から隣人、土御門元春が出てくる。
「おー舞夏、御坂ちゃん、そろそろ来ると思ってたぜぃ。
女の子二人だけだと大変だろうからにゃー、オレも手伝うぜよ」
「……なんで『ちゃん』付けなんですか」
「舞夏の友人なんてめったにあえるものでもないからにゃー。
馴れ馴れしいほうが親しみやすいかなと思ったんだが、お嬢様にはお気に召さなかったかな?」
「……好きに呼んでください」
「みさかみさかー、兄貴はこういう人種だからなー。
諦めが肝心だぞー」
「はぁ」
美琴は疲れたような声を出す。
余り仲良くしようとは思えない人間とは言え、友人の兄で、アイツの友人だ。
なんとか折り合いをつけないといけないなと自分に言い聞かせた。
「そう言えば、上条当麻の家の鍵は誰か持っているのかー?
入れなければ掃除もできないぞー」
上条の家のドアの前で、舞夏が二人の方を向くが、兄は肩をすくめるばかり。
「オレは昨日舞夏と一緒に帰ったからにゃー。今日はお見舞いにも行ってないぜよ」
「私、預かってきたわ」
制服のポケットから飾りのついていない鍵を取り出すと、元春は愕然とした表情を見せる。
「つ、ついにカミやんちの鍵を手に入れた女の子が現れたぜよ……。
もう駄目だ……。世界の終りにゃー、地割れ海うねり空が墜ちてくるんだにゃー……!」
「馬鹿兄貴、そんな程度で世界が滅びるならなー、銀髪シスターが居候を始めた時点で滅びてるぞー」
「……そっか、あいつ、ここでインデックスと暮らしてたのよね」
「おお? みさかは驚かないんだなー。ショックを受けるんじゃないかと思ったんだがー」
「まあね、どうして一緒に暮らしてたのか、理由を聞いたもの」
そう言って、美琴は鍵を差し込む。
この部屋で、上条当麻とインデックスは同居していたのだ。
中がどうなっているのか、見当もつかない。
コイスルオトメにとってはショッキングな惨状が広がっているかも知れない。
それでも、その程度では怯みたくなくて、勢いに任せてぐいっとノブを捻る。
ぎぃ、ときしんだドアを開けると、埃っぽい空気が三人を襲う。
コンビニで用意したマスクが無ければせき込んでいたかもしれない。
「お、おじゃましまーす」
緊張とともに、一歩踏み入れる。
と、ここであることに気がついた。
「玄関も廊下も埃だらけよ。これだと靴も脱げないわ」
「そんな時は、これだなー」
舞夏が差し出したモップで、フローリングを軽く拭く。
ある程度は綺麗になるものの、とても靴下を履いたまま踏み込む気にはなれない」
「汚れることを覚悟して靴下で踏み込むか、裸足で入って行ってあとで洗うか、どっちかだなー。
みさかはどっちがいい?」
「えぇー、どっちも……」
後輩の無用な追及を避けるためには、なるべく衣服は汚したくない。それは靴下も同様だ。
だが、あまり親しくない男性がいる前で素足になりたくないのも事実だ。
結局諦めて靴下で入ることにする。
まずは掃除の為の拠点を作ることにした。
廊下をモップで拭いたあと雑巾で軽く濡れ拭きをし埃を取り除く。
これを美琴と舞夏の二人で行い、その間に足の裏が汚れることを気にしない元春が換気の為に部屋に踏み込み、カーテンとともに窓を開けた。
部屋の中に光と風が吹き込む。
「鞄やブレザーは廊下に置いておけばいいんじゃないかー?」
「そうするわ」
拠点を確保したら、次は水回りだ。
トイレを舞夏が、洗面所を美琴が担当する。
青い歯ブラシに並んで小さなピンク色のものが並んでいることに、心のどこかがちくりと痛んだ。
鏡を磨いていると、元春が顔を出す。
「風呂場は埃を払うくらいでいいと思うぜぃ」
「お風呂の水、汚くないですか?」
上条が風呂水を毎日変える派かは知らないが、さすがに一月も溜めっぱなしだと不潔だろう。
「その心配はないにゃー。カミやんちの風呂はぶっ壊れてる上に直す金もないと言ってたし、
そもそも風呂場はカミやんの寝床だから、毎日掃除はされてるぜよ」
「お風呂場が……寝床……?」
表札を確認するまでもなく、ここの家主は上条だ。
その彼が風呂場で寝ているとは、一体どのような理由によるものか。
「ワンルームだからどうしてるのかと思ったら、上条当麻は風呂場で寝てたのかー」
「あいつ、家主よね……?」
「最初はカミやんは床で寝てたらしいんだが、何でもインデックスには他人の布団にもぐりこむ習性があるらしくてな。
それで風呂場に退避してたらしいんだぜぃ」
「潜り込む、ねぇ……」
色々と問い詰めたいことは増えて行くが、真相は闇の中、だ。
舞台はいよいよ本丸へと移る。
ついに入ってしまう上条当麻の居室。
高鳴る胸、わずかに紅潮した頬と共に、美琴はドアを開けた。
そこは、余り大きくもないワンルーム。
システムキッチンと一体化した居間の中央にはコタツが置かれており、壁際にはベッドが置いてある。
ベッドの反対側の壁際には漫画だらけの本棚があり、テレビにはゲーム機が数台繋がっていた。
「どうだみさかー、憧れの男子の部屋はー?」
いつの間にか背後により、ニヤニヤしながら耳に唇を寄せてくる舞夏の言葉に、思わず動揺する。
「にゃ、にゃによ、大したことなんかないわよ! 至って普通の部屋じゃにゃい!」
とは言うが、あらゆるものに興味しんしんなのは舞夏にも元春にもバレバレである。
「ベッドの下と押入れの中はオレが掃除してやるかな、友人として」
「おお、友情は美しきかなー」
「うん? どうして押し入れやベッドの下を掃除してあげるのが、友情になるのよ?」
美琴には良く分からない。
「あー、それはだなー……」
「エr……"男のロマン"ってことで、触れないでやってほしいんだぜよ」
何故か目を反らしがちに語る兄妹に、美琴はクエスチョンマークを宙に浮かべるのだった。
純粋培養って恐ろしい。
まずはハタキで高所の埃を払い、だんだんと低い所へと移って行く。
ベランダでは元春が布団を干し、布団叩きで一か月降り積もった埃を落としている。
本棚を掃除しつつ、「あいつはこんな漫画が好きなのか」と思いをはせていると、テレビを磨いていた舞夏がひっそりと話しかけてきた。
「みさかみさかー」
「何よ、舞夏」
「上条当麻のどこに惚れたんだー?」
「にゃっ!?」
突然のストレートに、思わず美琴は手にしていた漫画を数冊落としてしまった。
舞い上がる埃に涙目になりながら本を拾いつつ、抗議する。
「にゃ、にゃにを言い出すのよ!」
「だからだなー、上条当麻のどこがいいのか、と私は聞いたんだぞー」
「どこがって……ってちーがーう! なんでそんなこと……」
「"なんで"……? ほほーぅ、この言い方はビンゴということだなー。
カマをかけただけなのに引っかかってしまったぞー?」
ハメられた。
思わぬところから言質を取られ、羞恥にぷるぷる震える美琴をよそに、舞夏はにやりと笑みを浮かべる。
エリートメイド見習いとて、コイバナには興味があるのだ。
「嫌なら言わなくてもいいんだけどなー、ほら、やっぱり気になるじゃないかー。
友達の恋の話は蜜の味、という奴なのだよー」
ほらほらほらー、と肘で突いて促す舞夏に、美琴はどう応えるべきか悩んだ。
学友には"第三位"として一歩引いた立場から見られがちな彼女だ。
恋の話に興味があっても、おいそれと加わることはできなかった。
この方面に関しては人並み以上に経験値のない美琴には、少々荷が過ぎよう。
「気、気になるって言われても、何を話せばいいのよ……。
じゃーなーくーてー、そんなのじゃないってば!」
「……じゃあ、みさかは上条当麻の事なんて、どうでもいいのかー?」
「う、そ、それは……」
そう言われてしまえば、正直に話さざるを得なくなる。
美琴はもう自分に嘘をつかない、と決めたのだから。
「それは、そんなことはないんだけど……」
「ふふん、そうかそうかー」
消極的にではあるが求めていた答えを得てにまーっとご満悦の舞夏は、嬉々として次の手を打つ。
「じゃあ、まずは馴れ初めを聞かせてもらおうかー」
「馴れ初めって……。ていうか、私が、その、あいつのこと……気になってるって、気付いてたの……?」
「気付くも何も、『常盤台の超電磁砲が高校生に恋をしてる』というのは学舎の園ではもっぱらの噂だぞー?」
その言葉に、美琴は凍りつく。
なんだか今、そら恐ろしい言葉が聞こえたような?
「例えば、寮の前で高校生と逢引をしてたとかー、大覇星祭の借り物競走で高校生を引きずり回したとかー、
9月末にどこかの地下街で高校生とツーショット写真を撮ってたとかー、大勢に目撃されているらしいなー?
それら全てが同一人物相手とあっては、言い逃れはできんぞー?」
くふふ、と奇妙な笑みでこちらを見る舞夏に、美琴はもはや声も出ない。
週明けから、学校にどのような顔をしていけばいいのだろう。
「知らぬはみさかばかりだなー」という舞夏の言葉と共に、美琴は床へと崩れ落ちたのだった。
3人の懸命な掃除によって、居間は見違えるほど綺麗になった。
次はいよいよ本丸である台所だ。
家を離れる日はまだ食事の準備をしていなかったようで、またその前日がゴミの収集日だったこともあり、生ゴミはたいしたことはなかった。
洗い物も溜めておらず、スムーズに掃除することができた。
最後にして最大の強敵、台所の奥に鎮座ましますのは冷蔵庫だ。
冷蔵庫。
家庭において、一般的に常温では腐敗しやすいもの、融けてしまうものなどを保存するために用いられる家電製品だ。
当然ながら、腐敗しやすいものとはほとんどの場合において消費期限が短いことが多い。
そして、目の前の冷蔵庫は一月もの間放置されている。
その中身はすでに常識の通用しない暗黒物質へと変貌しているのではないだろうか。
「「「………………」」」
分かってはいても、思わず尻ごみしてしまう。
「……皆のもの、マスクと手袋はしたかー?」
「…………大丈夫だにゃー」
「みさかみさかー、消臭剤の準備はOKかー?」
「……ええ」
いくら異臭と腐臭が充満していたとしても、消臭剤をドバドバドバー!! とぶち込めばある程度はマシになるかもしれない。
ちなみに例え原液で飲もうがマズい以外にはまったく問題のない学園都市製の消臭剤なので、冷蔵庫にも安心して使用できるのだ。
「さあ兄貴、一番槍をどうぞなのだー!」
「えぇ、オレ!?」
「馬鹿兄貴、こういう時に男が前に出ずしてどうするというんだー?」
「お兄さん、頑張って!」
ちなみにちゃっかり一番後ろを確保しているのは美琴である。
「仕方が無いにゃー……、カミやん恨むぜよ……」
マスクの上から更に鼻をつまみ、なるべく体を遠ざけるようにして冷蔵庫に近づいて行く。
指先を引っ掛けるようにして、恐る恐るドアを開けた。
ゆっくりと開いて行く冷蔵庫の扉、その中には……
何もなかった。
「…………」
「何もないなー」
「いや、あいつどんな食生活送ってんのよ」
美琴が思わず突っ込んでしまう。それほどまでに、空っぽだった。
正確には調味料や保存のきくものは入っていたものの、生鮮食材の類はまったく見つからない。
それは野菜室も同様で冷蔵庫はほとんど自身の役割を果たしておらず、つまりこの一月無駄に電気代を食っていただけだということになる。
役立たずの冷蔵庫の扉を閉め、舞夏はため息をついた。
「……上条当麻が退院したら、豪勢な料理で出迎えてやるかなー」
「舞夏、私も協力するわ」
彼に少しでも良いものを食べさせ、早く元気になってもらおう。
涙ながらにそう決心する少女たちを見ながら、元春は内心独りごちた。
(カミやんたちをイギリスに送った後、悪くなると困るだろうと思って処分しておいてあげたのを忘れていたにゃー……)
「何もないなー」
「いや、あいつどんな食生活送ってんのよ」
美琴が思わず突っ込んでしまう。それほどまでに、空っぽだった。
正確には調味料や保存のきくものは入っていたものの、生鮮食材の類はまったく見つからない。
それは野菜室も同様で冷蔵庫はほとんど自身の役割を果たしておらず、つまりこの一月無駄に電気代を食っていただけだということになる。
役立たずの冷蔵庫の扉を閉め、舞夏はため息をついた。
「……上条当麻が退院したら、豪勢な料理で出迎えてやるかなー」
「舞夏、私も協力するわ」
彼に少しでも良いものを食べさせ、早く元気になってもらおう。
涙ながらにそう決心する少女たちを見ながら、元春は内心独りごちた。
(カミやんたちをイギリスに送った後、悪くなると困るだろうと思って処分しておいてあげたのを忘れていたにゃー……)
冷蔵庫の中を片付け、上条家の掃除は終わり。
元春の家で、舞夏がお茶を入れてくれることになった。
「そう言えば、銀髪シスターはどうしたんだー?」
「あいつがあんな状況だから面倒を見られないだろうって、イギリスに帰ったみたい」
「そうかー、寂しくなるなー」
「舞夏は何でも美味そうに食べるあの子を気に入ってたもんな」
「作るほうとしてはおいしそうに食べてくれた方が嬉しいにきまっているのだぞー」
そこで舞夏は突如美琴の方ににじりより、妖しげな笑みを浮かべる。
「みさかもそろそろ、『料理を作る醍醐味』ってヤツを味わいたいんじゃないのかー?」
「え、えぇ? わ、私は別に……」
「ふっふーん、さっき『私も協力する』と言っていたのを、私は忘れていないぞー。
ほーれほれー、素直に吐いてみろー」
「は、吐くって、そんな白状するようなことなんてないわよっ!」
美琴は真っ赤になって否定するのだが、舞夏はそんな彼女に容赦しない。
彼女の肩を抱き、その耳に囁きかけた。
「上条当麻にはなー、乳が大きくて美人で、おまけに料理も繚乱家政級に上手な知り合いがいるのだよー。
つい一月ほど前か、上条当麻に手料理を振る舞っていたぞー?」
「な、なぁっ!?」
「男を落とすにはまず胃袋を掴めと言うしなー。
みさかみさかー、ちょっと出遅れていやしないかー?」
口をぱくぱくと開け、青褪めて行く美琴。
そんな様子を楽しそうに見つめる舞夏は、追撃の手を緩めない。
「私は友人であるみさかを応援したいのだよー。
さあみさか、今みさかがすべきことはなんだー?」
「…………舞夏サマ、私めに料理を教えてくださいませ」
「よろしい」
望む言葉を引きだし、舞夏はご満悦だ。
人に尽くすことを喜びとするメイドにとって、人に頼られ、その力を最大限に発揮することこそ幸福である。
家庭科においてもエリート教育を施す常盤台ではあるが、繚乱家政にはやはり及ばない。
その点を考えれば、最適の人選だろう。
「……そう言えば、お兄さんはあいつの隣の部屋ですから、あいつのことは良く知ってるんですよね?」
「そりゃあもう、ダチだからにゃー。
さすがになんでもってわけにはいかないけど、ある程度はわかるぜよ」
「……あいつとインデックスが一緒に暮らしてたことも、ですよね」
「一応クラス全員、知ってると思うぜぃ。まあ基本的にはみんなこの男子寮にいるわけだし、知らないほうが難しいだろうが」
そこまで聞いて、美琴は言葉を続けるのを躊躇った。
聞いてみたい。でも、なんだか無粋で野暮な気もする。
「御坂ちゃんは、カミやんとインデックスがどんな関係だったかを知りたいのかにゃー?」
「…………はい」
言い当てられ、、やむなく美琴は頷く。
「どんな、と言われても、難しいにゃー……。居候に至るまでの経緯も良く知らんぜよ。
ただ、まあ見てる限りでは……、うーん」
「まるで兄妹、って感じかなー」
「そうそれ、そんな感じだぜぃ。仲は本当に良かったもんなぁ。
時には喧嘩(主に食べ物のことで)もしてたみたいだが」
「兄妹……」
インデックスがロシアの病院で上条に何を話し、何を告げたのか、美琴は聞かなかった。
それは彼女が踏み行ってはいけない、上条とインデックスだけの想い出。
生まれも育ちも違う血のつながらない二人が兄妹のような関係を築くまでに何があったのか、美琴はまだ知らない。
いかにも男子高校生前とした上条の部屋の随所には、いくつも彼らしからぬ調度品があった。
男向けではない鏡や櫛、可愛らしい柄の毛布、女ものの服が納められたチェスト。
これらは全て、上条とインデックス、二人がここで暮らしていたと言う大事な証だ。
片方は記憶を失い、片方はこの部屋へ帰ってくることはもう二度とない。
それはとても辛く、苦しく、哀しいことだ。
いつか、あの二人が再び笑い合うことができたら。
出来たら、自分もその時そばにいられたら。
美琴は、強くそう思った。
借りたカギは礼儀としてなるべく早く返さなければ。
そう思った美琴は、面会時間が終わる前に急いで彼が入院している病院へと向かった。
日没は日ごとに早くなっている。
この調子では完全下校時刻や寮の門限が早められるのも遠くはないだろう。
西陽が差し込む病院の廊下を、美琴は歩いていた。
「やあ、美琴ちゃんじゃないか」
声をかけられ振り返ると、そこには見覚えのある男女が。
上条刀夜に、上条詩菜。
上条当麻の両親だ。
「当麻さんのお見舞いに来てくれたのかしら?」
「はい」
「ありがとう。当麻も喜ぶと思うよ」
そう朗らかに笑う刀夜の顔を、美琴は真正面から見ることができなかった。
上条当麻は、御坂美琴の力不足で北極海に沈んだ。
その結果彼は大怪我をし、記憶を失った。
そんな中、美琴は二人にどのような顔をしたらいいのだろう。
神裂は二人に全てを話したという。
ならば彼が何のために戦い、どうして北極海に沈んだのか知っているはずだ。
むろん、美琴がロシアで何をしたかも。
「……何か、思いつめた顔をしていますね?」
気付けば、詩菜が美琴の顔を覗き込むようにしていた。
その顔は我が子の向けるものと同様に慈愛に満ちている。
「何か女の子の悩みがあるのなら、おばさんが相談に乗りますよ?」
「いえっ、あのっ、そんな……」
詩菜の視線から逃れたくて、思わず身を引いてしまう。
自分には、そんな優しい目で見られる資格はないのに。
「……お二人は、何も言わないんですね」
「何をかな?」
「…………私、あとちょっとで、彼を助けられたのに……っ。
それなのに、あと少し手が届かなくて、それでっ、それで……」
幾度となく自分を責めた過去の告白。
うまく言葉にすることができず、それがとてももどかしくて、申し訳なくて、うつむいてしまう。
「……なるほど、美琴ちゃんは当麻の大怪我や記憶喪失は自分のせいだと、そう思っているのかな?」
「……はい」
「美琴さん」
「……はい」
「ありがとう」
心臓が止まったかと思った。
けして向けられるとは思っていなかった言葉。
「あの子のために、危ないところまで助けに来てくれてありがとう。
当麻さんは、とてもいいお友達を持ちました」
「……でも、中学生の女の子が単身で戦争の中心地に飛び込むだなんて、感心はできないな。
君にもしものことがあったら、ご両親にどうお詫びすればいいのかわからない」
「……父には、もう思いっきり怒られました」
「そうだろうとも。親にとっては、子供の安全が一番だからね。
だけど、当麻の父親としては、君にとても感謝しているんだよ」
そう言って、刀夜は笑いかける。
「危ないときに助けてくれる友人ほど嬉しく、大事にしたいものはない。
美琴ちゃん、君が当麻の友人でいてくれて、本当に良かった」
「……だけどっ、私、あいつのすぐそばまで行けたのに!
それでも、助けられなくて……、なのに……っ!」
涙までこぼしながら、美琴は自らをなじるように言う。
ロシアで出会ったみんなは誰も美琴の事を責めたりはしなかった。
それどころか、彼女に優しく温かい言葉をかけてくれた。
それが逆に、彼女の心を苦しめている。
マゾヒストの気があるなんて思わない。
それでも、誰かに思いっきり罵倒して欲しかった。
そうすれば、少しは胸の中の罪悪感が紛れるかもしれないのに。
不意に空気が動くのを感じた。
その気配に顔をあげた途端、美琴は詩菜に思いっきり抱きしめられていた。
「ぎゅー」
「ちょっ、お母さん、苦し」
美琴より背が低くとも、体つきが華奢であろうとも、詩菜が美琴を抱きしめる力は強い。
例え自分の子でなくとも、母親となった女性が子供らに抱く感情が生む力だ。
「美琴さんは、誰かに責めて欲しいのかしら?」
「…………っ」
「残念だけど、私たちではその役目は果たせそうにありません。
あの子が危ない目に遭い、あなたが助けに向かってくれていた時、私たちは何も知らずにいたのだから。
ならば、私たちは美琴さんを責めるより先に、自分たちを罰しなければ」
「それは……っ」
「神裂さんにも言ったんだ。私たちは誰を責めるつもりもない。だから、君たちにも自分を責めて欲しくない。
当麻は自分の意志で戦いに赴いたのだろう?
なら、それは当麻が自身で負うべき責任だ。
誰かに転嫁できるようなものじゃない」
それでも、と美琴は思う。
物理的に助けることが不可能な人間よりも、近くにいたのに、手段も力もあったはずなのに助けられなかった人間の方が罪深いのではないか。
マジュツ師たちに話を聞けば、最期に最接近したのは自分だという。
誰かを助けるために危地に飛び込んで行った人間を、自業自得だなんていうことはできない。
ならば、やはり責められるべき人間は。
「……それでも、もし君が、当麻に対して申し訳ない、という気持ちが消えないのならば」
刀夜がぽん、と詩菜の肩に手を置く。
「そばにいられない私たちの代わりに、どうかあの子のそばにいてやって欲しい」
「…………っ!?」
「私たち大人は、学園都市に子供を預けることしかできません。
だけど、信頼できるお友達がそばにいてくれるなら、私たちは安心できる。
……ね、御坂美琴さん」
これは美琴の母である美鈴が、一月ほど前に詩菜に語ったことでもある。
『信頼できる友人がいるならば、学園都市に預けておくのが一番安全だ』
偶然にも、二人の母親は互いの子に対して同じことを考えていた。
「……私なんかで、良いんですか」
「あなただから、お願いしたいの。
あの子をとても大事に想ってくれる、あなただから」
「……私なんかで、良かったら」
詩菜はにっこりと応え、美琴を再度抱きしめた。
中学へ上がってからは、美鈴にだって久しく抱きしめてもらっていない。
久しぶりに感じる「母親」の温かさに、美琴は再度涙をこぼした。
「──いやーしかし、当麻も隅に置けないな」
「えっ?」
「さっき私が美琴さんを抱きしめた時に、思わず『お母さん』と私を呼びましたよね」
「そ、それはっ……」
「言わなくても分かっている」と言わんばかりの二人の様子に、美琴は思わず赤面してしまう。
いつの間に悟られたのだろう。大人の洞察力って怖い。
今日はここまでです
あれだけ公衆の面前でいろいろやらかしてれば、皆に知れ渡ってしまうのは道理じゃないかと思います
学園都市中が最年少レベル5の恋をニヤニヤしながら生温かく見守ってると考えるととても胸熱
さて、これまで美琴が接してきた大人たちはみんな優しく、子供を導いてくれるような人ばかりでした
けれども、世界は優しさと甘さばかりでできているわけじゃないんだぜ?
というわけでまた次回
いつも応援感謝です
あれだけ公衆の面前でいろいろやらかしてれば、皆に知れ渡ってしまうのは道理じゃないかと思います
学園都市中が最年少レベル5の恋をニヤニヤしながら生温かく見守ってると考えるととても胸熱
さて、これまで美琴が接してきた大人たちはみんな優しく、子供を導いてくれるような人ばかりでした
けれども、世界は優しさと甘さばかりでできているわけじゃないんだぜ?
というわけでまた次回
いつも応援感謝です
乙
厳しい大人って誰がいるだろうか……
禁書の大人って極端にいい人か極端にクズかって二分されてるよね
子供の話だからだろうか
厳しい大人って誰がいるだろうか……
禁書の大人って極端にいい人か極端にクズかって二分されてるよね
子供の話だからだろうか
リアルタイム遭遇!
素晴らしい。美琴の心情とか行動がすげえ自然に感じるし、変な意味で上琴がベタベタしてなくて良い。
素晴らしい。美琴の心情とか行動がすげえ自然に感じるし、変な意味で上琴がベタベタしてなくて良い。
乙!
いやー、文章力ほんとパネェですな。
美琴にしろ、上条両親にしろ、心理描写とかがほんと素晴らしい。
次も超期待!
いやー、文章力ほんとパネェですな。
美琴にしろ、上条両親にしろ、心理描写とかがほんと素晴らしい。
次も超期待!
>>439
まさにその通りだが、とりあえずsageよ?
まさにその通りだが、とりあえずsageよ?
着々と外堀が埋まっていくな
あとは上条さんが美琴の両親に挨拶すれば完璧だ
あとは上条さんが美琴の両親に挨拶すれば完璧だ
こんばんは
超電磁砲のバレを見て、もう気分は ε=\_○ノ イヤッホーゥ!!!!
まだバレ解禁まで半日くらいあるけど、本当にwktk
では今日の分を投下していきます
超電磁砲のバレを見て、もう気分は ε=\_○ノ イヤッホーゥ!!!!
まだバレ解禁まで半日くらいあるけど、本当にwktk
では今日の分を投下していきます
11月19日。
「…………むぅー……」
防衛体制の再編を理由に回収されたインデックスは一般の女子寮ではなく、聖ジョージ大聖堂の中に居室を用意されていた。
割り当てられた自室のベッドの上で、彼女は携帯電話片手に唸り声を上げている。
原因は簡単。
上条当麻の携帯電話に繋がらない。
何度かけても、時間帯を変えても上条に繋がることはない。
充電はきちんとしているし、電話の使い方だって五和に何度も確認した。
それでも繋がらないのはどういうことなのか。
「どうしてなんだろーね、スフィンクス」
ベッドの上で丸まった三毛猫の顎を撫でながら、独りごちる。
もちろん猫に電話の事など分かるわけがなく、「にゃー」という鳴き声を聞いたところで何が解決するわけでもない。
上条が学園都市に帰還してからもう五日目。
一度くらい話せてもいいのではないか。
美琴に教えて貰った自分の役目を果たすためにも、上条と話したい。
いや、そんな難しいことなんかどうでもいい、ただ単純に彼の声が聞きたい。
……美琴?
「そっか、短髪に聞けばいいんだね」
自分とは対照的に上条と共に学園都市へ帰った彼女は、きっと日々見舞いに行ったりしているのだろう。
思うように上条と連絡が取れないいらだちと、美琴への嫉妬を胸に、インデックスは携帯電話を再度いじり始める。
夜、美琴は自室で大量の本に埋もれていた。
やらなければいけないことは多い。
一端覧祭での演奏に備えたバイオリンの練習に加え、"疎開"中に出された課題はもの凄い量だ。
そのほかに、やらなければいけないことも。
一心不乱に分厚い本を読んでいると、不意にドアが開く。
「お、お姉様……今戻りましたの……」
後輩のお帰りだ。
「どうしたのよ黒子、そんなにやつれて……」
「じゃ、風紀委員の仕事が長引きましたの……。
私に大量の書類を押し付けて自分は非番だなんて……初春ぅぅぅぅぅぅぅッ!!」
どうどう、と後輩をなだめるがてら、髪を優しく撫でてやる。
「お姉様は、お勉強の途中でしたの?」
「そうよー。課題一杯出されちゃってね。文字通り山のように」
机だけでなくサイドボードの上にまで積み上がっている課題プリントや参考文献などを見て、白井は引きつった笑みを浮かべる。
「本当に山のようですわね……」
「一端覧祭の期間中まで課題漬けなんていやだから、早く終わらせたいんだけどね」
「その割には昨日も今日も、どこかに遊びに行かれていたようですの。
新しいお洋服でもお選びに? 黒子も連れて行ってくださればよろしいのに」
「あんたは風紀委員で忙しそうだったじゃない。
それに校外のあんたの知らない人と行ったんだから、きっとつまらないわよ」
実際は妹たちと買いものへ行ったのだが、表現としては間違っていないだろう。
「お姉様のご友人でしたら、黒子は一瞬で打ち解けて見せますわよ?」
「じゃああいつとも仲良くしなさいよ」
「あの類人猿は別ですの。あの方は不倶戴天の恋敵ですので」
「……あのねぇ」
「そう言えば、お姉様はどのような課題を?」
「んー、これよこれ」
美琴が机から持ちあげ白井に見せた本には「大脳の病変に関する最新の症例と療法」というタイトルが振られている。
研究者や医者向けの、一般の図書館には置かれていないものだ。
「能力開発の授業でさー、脳構造についてのレポートがあんのよ」
「この本、学舎の園の図書館から借りてきましたの?」
「そうよ」
電子書籍が一般化した学園都市だが、かといって紙の書籍の利点がなくなったわけではない。
『学舎の園』には『国内外で発行される全ての学術書籍の収集と保管』を目的とした、巨大な図書館が存在する。
地下に広がる広大な空間にどこまでも無数の本棚が並ぶ光景を指して、『大迷宮』とあだ名されていたりもする。
「これだけの量を運ぶのは大変だったでしょう。……呼んでくださればお運びいたしましたのに」
「カウンターでお願いしたら寮まで運んでくれたわ。さっすがお嬢様の街よね」
「いくつか禁帯出の本が混じっているのは、レベル5の特権によるものなのでしょうか……」
「学生証見せたら、期限内にきちんと返すことを条件に貸してくれたわよ。
いやー、たまには肩書きってもんが役に立つわよね」
その時、机に乗っていた美琴の携帯電話がゲコッゲコッと着信を知らせる。
「ちょっとごめんね。……もしm」
『短髪! ちょっと聞きたいことがあるんだけど!』
電話をつなぐや否や、耳をつんざくような絶叫が駆け抜ける。
美琴はおろか、離れていた白井にまでも届くような大声だ。
耳がキーンとなりつつも、美琴は電話へ怒鳴り返した。
「あんた、それ国際電話でしょ!? こっちからかけ直すから、一回切るわよ!」
有無を言わさず通話を打ち切る。
「お、お姉様、一体どなたからの電話ですの……?」
「ロンドンにいる……友達、かなぁ?
とにかく、ちょっと電話してくるわ」
脱衣所の鍵を閉め、着信履歴からリダイヤルする。
もちろん、携帯電話は出来る限り耳から離して、だ。
『短髪、なんなのもう面倒なことを! こっちは一刻も早く聞きたいことがあるのに』
「そんな怒鳴らなくても聞こえるわよ。あんたは電話を初めて使ったお婆ちゃんか!
……んで、めんどくさいって何よ。かけ直したこと?
あんた、携帯で国際電話かけて来てるんでしょ?
そのお金、誰が払うのよ」
『うっ……そ、それは……』
インデックスが持っている携帯電話は上条が契約したもの。
特に契約変更もしていないので、通話料金は上条に回ってくるはずだ。
「今度から私にかける時は、一度コールして切りなさい。
そしたらこっちからかけ直すからさ。まあ出られないときもあるけど、私にも都合はあるしそれは勘弁してよね。
……んで、本題はなに?」
『とうまの「けいたいでんわー」に、何度電話しても繋がらないんだよ!』
「そりゃそーよ。あいつまだ入院してるもの。
病院の中じゃ携帯電話使えるところ限られてるし、あいつがそこにいて電源入れてなきゃ繋がらないって。
……てゆーか、あんたまさかこんな真夜中にかけてないでしょうね? 病院の消灯時間はとっくに過ぎてるわよ」
『真夜中……? ああそっか、時差があるんだね。
ごめんね、ロンドンに来たばかりだし、まだ慣れてないんだよ』
「本当にこの時間帯にかけてたの……?」
はあ、とため息をつく。
「そもそも、あいつの携帯は今は手元にないわよ。
あんたもあいつの携帯の画面がぼろぼろなの見たでしょ。
だから今、修理に出してるの」
『えぇーっ!?』
再び素っ頓狂な声が美琴の耳を襲う。
『じゃ、じゃあどうやってとうまとお電話すればいいんだろ……』
「あの病院、個室に電話あるわけでもないしねぇ……」
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