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元スレ美琴「極光の海に消えたあいつを追って」
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「もう一つ。仮に、運良く彼の記憶を吸いだせたとしよう。
問題は、それをどうやって彼へとフィードバックする?
恐らく『学習装置』は使えない。
『学習』するためのデータと、『記憶』のデータは全くの別物ではないのかな?」
美琴は答えられず、考え込んでしまう。
確かに、ここが一番の問題点だ。
妹達同士であれば、互いの持つ記憶や経験を共有することはたやすい。
あらかじめそれが可能であるように脳構造を整頓・調整されているからだ。
それをされていない上条が、「ネットワーク上からデータを拾う」ということは可能なのだろうか。
誰かの力を借りて行うにしても、一歩間違えば重大な問題を引き起こしかねないようなことだ。
おいそれと行うことはできない。
「試してみる価値があるかどうか、と問われればあるとは答えるが、
そのあたりの問題がクリアされないことにはな……。
……そう言えば、君は常盤台中学の生徒だったな?」
「ええ」
「ならば、同じ学校の『心理掌握』に協力を依頼するのはどうだろう?
脳波ネットワークを使うと言うまどろっこしい方法を使うよりも、そのほうが早く確実だと思うがね」
『心理掌握』。
レベル5第五位の超能力者にして、常盤台中学の最大派閥に君臨する『女帝』。
記憶の読心・人格の洗脳・遠隔念話・想いの消去・意志の増幅……精神系に関しては万能と言ってもいい、常盤台もう一人のレベル5。
「……彼女は…………」
だが、美琴は彼女が苦手だ。
特定の派閥にとらわれない美琴に対し、最大派閥を組織する心理掌握。
執拗に勧誘してくる彼女と仲良くできないのは、ある意味仕方がないのかもしれない。
以前上条の記憶喪失に思いを巡らせたときも、真っ先に手段から除外したほどである。
だが、もうそんな好き嫌いを言っている場合ではない。
例え心理掌握にどんな『借り』を作ろうとも構わない。
上条の為にあらゆる手段をとると決めたのだ。
「……彼女に、会ってくるわ」
「そうするといい。
今の医学では解決できないことも、君たちの『超能力』ならば解決できるかもしれない。
その力の源は『自分だけの現実』、すなわち君たちの意志の力なのだから」
そう言って、木山は優しく微笑んだ。
今日はここまでです
真っ二つにしたからなんだか短い気がしますけども
話題は変わりますが、超電磁砲でついに心理掌握のお姿が……!
食蜂さんマジ天使、名前的にハチミツ好きだったりしたら萌える
ではまた次回
よい連休を
真っ二つにしたからなんだか短い気がしますけども
話題は変わりますが、超電磁砲でついに心理掌握のお姿が……!
食蜂さんマジ天使、名前的にハチミツ好きだったりしたら萌える
ではまた次回
よい連休を
乙!ついに食蜂さん登場か
金髪ドリルはちょっと萎えたが期待して待ってる
金髪ドリルはちょっと萎えたが期待して待ってる
心理掌握登場か
肝心なのは能力が上条さんの右手に打ち消されないかだな…
まあヘタ錬さんの記憶消去も頭を触るまで大丈夫だったし上条さんが右手で頭を触らなかったら能力って通じるのか?
肝心なのは能力が上条さんの右手に打ち消されないかだな…
まあヘタ錬さんの記憶消去も頭を触るまで大丈夫だったし上条さんが右手で頭を触らなかったら能力って通じるのか?
心理掌握は治療するっていうよりなにかヒントを与えるお助けキャラな気が
取り戻せたとしてもシャンプーする度に記憶消える生活か
こうなったら心理掌握さんと結婚だ!
こうなったら心理掌握さんと結婚だ!
上条さんの心だけは読むことのできないことに狼狽する心理掌握
上条さんに触れられている間だけ、他者の無遠慮な思念に晒されず安らげる心理掌握
上条さんの記憶喪失を治せず、はじめて無力感に囚われる心理掌握
ベタだが、いいな
上条さんに触れられている間だけ、他者の無遠慮な思念に晒されず安らげる心理掌握
上条さんの記憶喪失を治せず、はじめて無力感に囚われる心理掌握
ベタだが、いいな
こんばんは
今回はえらく抽象的な表現ばかりが出てきますが、「考えるんじゃない、感じるんだ」の精神でお願いします
では投下していきます
今回はえらく抽象的な表現ばかりが出てきますが、「考えるんじゃない、感じるんだ」の精神でお願いします
では投下していきます
常盤台中学には寮が二つある。
一つは学舎の園の中にある内部寮、もう一つは外にある外部寮。
前者にはレベル5第五位『心理掌握』が、後者にはレベル5第三位『超電磁砲』が住んでいる。
女子中学であり在籍する人数が少ないのに何故寮が二つもあるのかと言えば、それは単に学舎の園が手狭であると言うだけなのだが、
『超電磁砲』と『心理掌握』の派閥が抗争を起こすのを恐れた理事長が寮を分けたとまことしやかに囁かれるのも事実。
実際には彼女たちが入学する以前より寮は分かれていたのだが。
恐らく、この噂は同学年である彼女らが卒業するまで続くのだろう。
その内部寮の廊下を、美琴は歩く。
彼女がこちらを訪れるのはめったにないことだ。
こちらに住んでいる友人とは学校で、放課後や休日は外で遊べばいいし、わざわざ寮まで訪れることは少ない。
そんな彼女を見て、目を丸くする生徒がいるのも不思議ではないだろう。
美琴が向かったのは、寮の最上階にある部屋。
『心理掌握』の居室である。
コンコン、と二度戸を叩けば、「どうぞお入りになって」と返答があった。
緊張にごくりと喉を鳴らし、美琴はその戸を開いた。
二人部屋である外部寮とは異なり、内部寮は一人部屋だ。
その分面積は狭いが、他の部屋の住人に迷惑をかけないと言う条件付きでペットを飼うこともできる。
心理掌握の部屋に入るのは初めてだ。
だから、部屋の中の光景に目を奪われた。
部屋のいたるところに動物を買うための設備がある。
中に入っているのは小動物から小鳥、熱帯魚などまで種類を問わない。
「あまり部屋の入口から動かないで下さるかしら、『超電磁砲』」
澄んだ声が、部屋の奥から美琴へとかけられる。
興味深げに眺めていた彼女はびくりと肩を震わせる。
「電撃使いのあなたが不用意に近づくと、この子たちが怯えてしまうの」
「ご、ごめんなさい……」
日頃寮の裏に住みつく野良猫たちに餌を与えようと試みては失敗続きの彼女は、自分の体質は嫌と言うほど理解している。
ドアに張り付くように身を縮め、口を開こうとする。が、
「『動物が好きなの?』」
放とうとした言葉は、一字一句そのまま心理掌握の口から飛び出る。
美琴の心を読んだのだ。
「そうね、好きよ。とても可愛らしいでしょう?
ごはんをあげれば『美味しい』、遊んであげれば『楽しい』。素直に気持ちを表す子は大好き」
心理掌握はケージの中に手を差し伸べ、ハムスターを手のひらに乗せる。
ひまわりの種をかりかりとかじるその姿を愛おしそうに見つめながら、彼女は美琴の目を見た。
「お久しぶりね、『超電磁砲』。
わざわざわたくしの部屋をおたずねになったからには、何かそれなりの理由があるのでしょう?」
たおやかながらも棘のある声が、美琴を張り付けにする。
美琴と心理掌握は互いの部屋に入り浸っておしゃべりをするような間柄ではない。
心理掌握は幾度となく美琴を自分の派閥へと誘ってきたし、美琴はそれをすげなく断り続けてきた。
その二人の間に、溝が生まれるのは当然だろう。
美琴は心理掌握の目を見返す。
どうせ心は読まれているのだろうし、ならば下手な策は無用。
「『心理掌握』、あなたにお願いがあるの」
「それは、どのようなご用件かしら?」
「私の友人が記憶喪失になったの。
彼を治療するために、力を貸してほしい」
お願いします、と頭を下げる美琴。
だが、心理掌握の冷ややかな目線は変わらない。
指を通したそばからくるくると巻くシャンパンゴールドの長髪を揺らしながら、冷たく言い放つ。
「わたくしの"お願い"を散々断って置きながら、自分の"お願い"を聞いてほしいだなんて、虫が良すぎるでしょう?
"派閥"での催し物の準備もしなければならないし、わたくしも一端覧祭の準備で忙しいの」
冷たい視線を向けるが、それはすぐに驚愕へと変わる。
視線の先では、美琴が靴を脱いでいた。
そのまま、ぺたんと座りこむ。
常盤台中学に限らず、学舎の園の中にある学校を始めとする建築物は全て西洋風に造られている。
それは学舎の園の内外にある関連施設も同じ。
「虫が良いお願いだなんてことは分かってる。だけど、私は引けない。引くわけにはいかない」
それに伴い、ルール等も西洋に準拠しているところがある。
例えば、自室の中でも土足であるとか。
「引き換えと言ってはなんだけれど、私にできることだったらなんだってする」
そんなところで、自ら靴を脱ぎ、床の上に座るという行為が意味することなんて、一つしかない。
恥も外聞もかなぐり捨てた、心からの懇願。
「あなたの派閥の雑用にしてくれてもいい。なんだったら、全校生徒の前であなたに膝を屈したっていい」
床に手を突き、できる限り姿勢を低くする。
頭を下げるくらいならば幾度も経験はあるが、誰かに土下座をするという屈辱的な体験は生まれて初めてだ。
「だから、あなたの力を貸してください……!」
だけど、上条の為なら別にいいと思った。
立場なんてどうでもいい。
誇りなんて犬に食わせろ。
そんなものなんかより、彼が元気になってくれる方が一兆倍は大事だから。
心理掌握は戸惑っていた。
あのプライドの高い超電磁砲が、床に這いつくばっている。
それも自分の為ではなく、誰かの為に。
打算。姦計。何かの罠。
普通の人間なら、そう思うかもしれない。
だが、心理掌握は"普通"ではない。
彼女は人の心が読める。
だから、痛いほどに感じ取れる。
目の前の少女は、ただ純粋に救いたい人間がいて、自分の前にひれ伏しているのだ、と。
人の心が本質的には汚いものだと言うことを、心理掌握は知っている。
自分の派閥に属する学生であっても、"信用"はしても"信頼"はしない。
信じて"用いる"のと、信じて"頼る"のでは天と地ほどの差がある。
だから、その強く綺麗な感情に中てられたのかもしれない。
元より、彼女には断る理由も存在しない。
何故なら──。
長い沈黙の末、心理掌握は普段ならば絶対にしないであろう行動に出た。
ひれ伏し続ける美琴に手を差し伸べ、立ち上がらせた。
「……お立ちなさい、『超電磁砲』。常盤台のレディたるもの、むやみに人前で恥をさらすものではありませんわ」
「えっ、じゃ、じゃあ」
「ほら、さっさとその方のところへ案内しなさいな。わたくしは忙しいと言ったでしょう」
美琴の顔がぱあっと明るくなる。
「『心理掌握』、ありがとう」
「礼は後で。そもそも、お役にたてるかは分かりませんわよ。原因や状態にもよるでしょうし」
感化されたことはおくびにも出さず、心理掌握は妖艶に微笑んだ。
「さあ、『超電磁砲』が想いを寄せる殿方のお顔を、拝見いたしに行きましょうか」
学舎の園中に自らの恋心が知れ渡っていることを思い出した美琴が、顔を真っ赤に火照らせた。
上条の病院に辿り着いたころには、面会時間も終わりに近づいていた。
この分だとまた門限破りになってしまうかもしれない。
そんな懸念を呟くと、心理掌握がくすくすと笑う。
彼女いわく、「門限前に帰宅していたように認識を改ざんしてしまえばいい」とのこと。
それは心理掌握の能力あってこそのことで、美琴の能力では機械の目はごまかせても人の目はごまかせない。
上条は病室におり、今日は英語の教科書を熱心に覗き込んでいた。
「よう御坂。……えーっと、そちらは?」
「こちらは……」
「『心理掌握』、と言えば分かるでしょうか?」
心理掌握は物珍しそうに上条の顔をじろじろと眺める。
「御坂さんに"熱心に"頼まれて、あなたの頭の中を覗きに来ましたの。ね、上条当麻さん?」
「あれ? なんで俺の名前を」
「私フルネーム言ったっけ?」
「そこはほら、わたくしは精神系最強の能力者ですから、これくらいは」
「では、時間もないことですし、さっそく」
そう言うなり、心理掌握は自らのブレザーのボタンを外し、
「って、なんでいきなり脱ぎだしてるのよ、『心理掌握』!」
「あら? 『超電磁砲』はわたくしの能力をよくご存じないのかしら?」
ボタンを外すのはやめないまま、心理掌握が説明をする。
「わたくしの能力は距離と精度が比例しますの。近ければ近いほど精度と強度は増し、逆に離れれば効果は薄くなる。
記憶に介入するような精密な操作をするならば、それこそできる限り近づかなければ」
ブレザーを脱ぐと、美琴にはない大きな双丘がYシャツを押し上げてるのがよく分かる。
「そ、それとあなたが脱ぐの、何の関係があんのよっ!」
「大ありですわ」
「へっ?」
心理掌握はベッドサイドに座ると、上条に身を寄せる。
「では、少々失礼を」
心理掌握の体は上条の腕の中へするりと飛び込み、そのまま首筋にしなだれかかるように抱きつく。
当然、上条の胸板は柔らかい物体へと強く強く押し付けられるわけで。
「くぁwせdrftgyふじこlp;」
「ああん、暴れないで下さいまし」
「ああああんたは何やってんのよぅっ!」
顔を真っ赤に染めあたふたし始める上条と、わざとらしく喘いでみせる心理掌握。
にわかに髪を逆立たせる美琴に、心理掌握は意地悪な視線を向ける。
「『接触テレパス』というものですわ。できる限り広く、近く肌に触れることで相手の精神により深く入り込めますの。
見ず知らずの方にするにはこの程度が限度ですが、将来わたくしの旦那様となる方には、ね」
ぺろりと唇を舐める仕草が、妙に色っぽい。
心臓の鼓動が早打つ上条の耳元に、心理掌握はそっと囁いた。
「では、今からあなたの頭の中へ潜ります。集中するのでできる限り静かになさってくださいまし。
それと、その右腕は能力を阻害するのでしょう? わたくしが"戻って"くるまで、触らないようにお願いいたしますわ」
そう言って、彼女は眼を閉じ、上条の頬に自分のそれを重ねた。
心理掌握は自分の意識を他者の精神構造に"潜らせる"ことで、その情報を擬似的に五感で処理しとらえることができる。
それを紐解き、隙間に入り込み、時には強引に書き換える。
それこそが『心理掌握』の能力の真髄だ。
暗黒の空間に無数の光が輝き、その間を雷光のようなものがせわしなく飛び交っている。
そこかしこに浮いているのは様々な形の窓やドアだ。
その空間の中を、心理掌握は降下していた。
これはあくまで読みとった上条の精神を心理掌握の脳内でイメージ化した世界だ。
しかし、この中で心理掌握が何かをすればそれは上条の精神に直接影響を与える。
やがて心理掌握は一つの扉へと降り立った。
精神系能力者の頂点に立つ彼女には、それが何を意味しているのか、手に取るように分かる。
(このあたりが……記憶分野ね)
扉を開けると、彼女は中へその身を滑り込ませた。
中は薄暗く、そこかしこに巨大なスクリーンのようなものが散乱している。
彼女の近くには明るく照らされ鮮やかな映像を見せているものがあり、
彼女から遠く離れたところでは、ひび割れたり、テレビの砂嵐状態のスクリーンがあるようだった。
(美術館……みたいなところかしら?)
能力で上条の記憶を整理し、明瞭に。
心理掌握が感じたイメージを元に、世界が急速に再構築されていく。
明るいものは明るいものと、荒れたものは荒れたものと並びあい、独特の秩序を形成する。
数秒としないうちに、世界は大きく変化していった。
それはまるで、大きく長い回廊の壁にバラバラにした映画のフィルムを貼りつけたかのよう。
両側の壁にびっしりと心理掌握の慎重よりも大きなスクリーンが埋め込まれ、背後には今入ってきた扉があるが、それは少しずつ心理掌握から遠ざかって行く。
正確には回廊が少しずつ伸びて行き、新たに現れた壁に新たなスクリーンが生まれているのだ。
そこに映っているのは上条の目線から見た、腕の中で目を閉じる心理掌握と、その向こうで不機嫌そうな美琴の姿。
今現在作られ続けている、上条の記憶だ。
心理掌握は扉に背を向け、スクリーンの一つ一つを確かめるように見つめながら回廊を進む。
これは上条の記憶が断片化したものだ。
先ほど入ってきたところが、最新の記憶だった。
ここを進んで行けば、おのずと上条の過去の記憶へと遡ることになる。
つまり、途切れたところが、記憶障害の原因となっているところ。
人の記憶をなぞるのは中々に面白い、と心理掌握は思う。
あまり褒められた趣味ではないが、こればかりは彼女に与えられた能力に基づく特権とも言えるものなのだから仕方がない。
記憶とは、すなわちその人の「歴史」と同意義だ。
いつ、どんな状況で、何が起こったか。
その全てが記録されている回廊を、彼女は進む。
御坂美琴が、頬を染めながらバイオリンを弾いている。
友人たちがお見舞いに来てくれた。
超音速機に揺られ、物凄い吐き気を感じている。
黒い修道服の男が、手から炎を出した。
ぼろぼろの表情で、何かを必死に語る修道服の少女。
そして。
「これが最後の……いえ、最初のスクリーンね」
心理掌握の目の前にあるスクリーンには、どこかの天井と、心配そうに覗きこむ美琴と修道服の少女が映し出されている。
今の上条が持つ、一番最初の記憶だろう。
ここで回廊は途切れている。
行き止まりなのではなく、天井も壁も床も引き裂かれたかのように崩れて壊れ、少し離れた向こうに回廊の続きが見える。
壊れたところから見えるのは闇の中に無数の光が浮かぶ、星空のような空間だ。
この星空の中に回廊は存在し、それが何らかの原因で真っ二つになっている。
つまりはこの断絶こそが記憶の連続性を害し、障害を引き起こした原因なのだろう。
向こう側の荒廃した回廊に飾ってあるスクリーンはどれもひび割れたりノイズ状態になっていて、無事な状態のものはここからでは見えない。
だが、いくつかのスクリーンはかろうじて何が映っているかくらいは分かる。
爬虫類のような腕を生やした男、こちらに手を差し伸べる少女、逆さまに浮かぶ修道女、そして天使を模した人形のようなもの。
記憶を失う前に上条が見た、最期の記憶だろうか。
あちら側にわたる事が出来れば、上条の記憶を引きずり出すことができるかもしれない。
そう考えた心理掌握は、どうにかして渡ろうと手段を模索する。
ここはあくまでイメージの世界だ。
異なるイメージを与えれば、世界は相応に変化する。
だが、どう変化するかまでは予測できない。
むやみやたらな事をすれば、それは上条に影響を及ぼすかもしれない。
考えた末、下手な小細工はせずに跳んでみることにする。
重力なんてあってないようなもの。跳躍力だって思いのまま。
気分のままに助走をつけ、ぴょんっと飛び出す。
物理法則に縛られないその体は、何秒と経たずにその対岸へとたどり着くはずだった。
びたん、と華奢な体が何かにぶつかった。
回廊と回廊を隔てる亀裂のほぼ中央に、不可視の壁のようなものが存在するのだ。
その壁に、心理掌握は貼りついていた。
どうしたものか、と彼女は思案する。
亀裂自体ではなく、この障壁が記憶障害の要。
これを突破することができれば記憶の治療ができるだろう。
だが、彼女の力を持ってしてもこの壁を越えることは難しいようだ。
この精神世界のことであれば、彼女はおおよそ把握できる。
しかし、どれほど周囲を探っても、迂回路は見当たらない。
銀河のように広大な空間を、この壁はどこまでも二つに分断しているようだ。
つまりこれは彼女の能力が及ばない、物質世界に存在する障壁。
潮時か、心理掌握はそう考える。
脳の構造的な原因による記憶障害であれば、彼女にできることは限られてくる。
この壁を取り払うのは心理掌握ではなく、医者の領分のようだ。
長く他者の精神の中に"潜って"いるのは、両者にとって強い負担となる。
元いた回廊へと戻るために、壁を蹴ろうとした時。
ふと下方へと泳いだ視線、そのはるか先に。
星空のように見える光とは全く異なる、二つの赤い光が見えた。
精神世界を自由に動ける彼女以外、生物のいるはずのない静寂の世界。
その中を二つの赤い光は流れるように動いていた。
くるくると踊るように、二つの光は動きまわる。
それがとても美しく見えて、心理掌握は目を奪われた。
あんな綺麗な光は、見たことがない。
心を引きつけ、掻き毟るような気持ちにさせるあの光を、ずっと見ていたいと思った。
だが、それはじきに恐怖へと変わる。
繰り返すが、ここは彼女の能力で展開した精神世界だ。心理掌握以外に、生物がいるはずはない。
だが、あの光はどう見ても生物的な動きをしている。
何よりも彼女の能力で解析できないという点は、彼女の背筋を凍らせるには十分だった。
「ひっ」と喉が引きつる音を聞きつけたかは知らないが、不意に赤い光の動きが止まる。
それはまるで、一組の"瞳"のように見えた。
煉獄火焔よりも熱く、絶対零度よりも冷たく、それでいて何の感情も灯さない、"人ならざるモノ"の目に。
その光は突然大きくなり始めた。
否、近づいてきているのだ。
逃げなければ。彼女は本能的にそう直感した。
だが、体は動かない。不可視の壁に張り付いたように、手も足も離れない。
そうこうする間にも、光はどんどん近づいてくる。
もう、"それ"ははっきり見えた。
赤く光る目も、大きな耳も、突き出した鼻も、大きく開けた口も、そこから覗く鋭い歯も、人間のものではない。
それはまるで、X X X X X X X X X X 。
逃げることも、泣き叫ぶこともできず、心理掌握はその"顎の中"へと────。
「──おい、おい大丈夫かッ!? 返事をしてくれッ!!」
気付けば、心理掌握はとても焦ったような表情をした少年の腕の中だった。
まるで抱きしめるかのように、その両腕は心理掌握の体に回されている。
その横では、御坂美琴が上条と同じように、心配そうに彼女を見つめている。
まるで限界を越えて全力疾走した後のように、胸が痛い。
嫌な汗でびしょびしょのYシャツが体に張り付き、彼女の豊かなボディラインをあらわにしていた。
「……え、えぇと、ここは……?」
「良かった。いきなりぶるぶる震えて怯えたように泣き始めたから、何事かと思ってな」
「……『心理掌握』、大丈夫なの? 様子、普通じゃなかったわよ」
「ええ、大丈夫……大丈夫ですわ」
上条に離してもらい、深く息を吸いながら、頭の中をゆっくり整理していく。
彼女が少しずつ落ち着きを取り戻しているのを見て、上条がおっかなびっくりと言った感じに質問をした。
「……な、なぁ、一体何があったんだ……?」
「……その前に、わたくしがどうなってたか、教えていただいても……?」
「あ、あぁ」
やや落ち着いたのを見てほっとしたのだろう、上条がやや表情を緩める。
「君が目を閉じて、しばらくは何もなかったんだ。
だけどいきなり身をよじりだして、能力を使ってるのかと思ったんだけど、だんだん何かに怯えるようになってきて……。
暴れて泣き始めたから、なんだかマズいと思って咄嗟に右手で触ったら、君は意識を取り戻した、って感じかな」
「……なんか、変なものでも見たの?」
美琴が気後れしながら訊ねる。
あの尋常じゃない様子を見ていたら、遠慮の一つくらいはする。
頭の中の整理を終えた心理掌握はゆっくりと話し始める。
「上条さんの記憶の中を、"歩いて"いたんです。
あなたの今の最初の記憶は、病院で御坂さんと修道女のような方が顔を覗き込んでいるところ。
それでよろしいかしら?」
「あ、あぁ」
ロシアの病院で目覚めた時の、突如異世界に放り込まれたかのようなあの恐怖感は忘れもしない。
「その記憶の奥に、色褪せ、ひび割れた記憶が見えましたの。
奇妙な格好の男性、手を伸ばした女性、逆さまに浮いた修道女、そして布に包まれたような天使の人形……。
これはきっと、あなたのかつての記憶ではありませんか?」
「と言われてもなぁ……」
「それで、こいつの以前の記憶はどうなったの?」
美琴がぐいと身を乗り出すように聞いた。
心理掌握は申し訳なさそうに視線を下げる。
「……ごめんなさい。わたくしの力不足ですわ。
古い記憶が残っていることは確認できても、それを引っ張り出すまでには至りませんでしたの」
「脳の構造上の問題ですと、やはり精神系の能力では限度がありますわ。
お医者さまにお任せするのが一番ではないでしょうか?」
それでも、以前の記憶が脳の中に残っていると言うのは大変な朗報だ。
その『情報』を持つ脳細胞が少なからず生き残っており、生きてさえいれば治療の糸口は必ず見つかるはずだ。
これは大きな成果だろう。
「……だけど、それだとあなたが泣き叫んだ理由にはならないわよね」
「それは……」
再び目を伏せる心理掌握。
「……わたくしにもよく分かりませんの」
上条の記憶の回廊を歩いた。
その果てに、過去と現在を断絶する大きな亀裂を見つけた。
古い記憶を収めた対岸の回廊に飛び移ろうとして、不可視の障壁に阻まれた。
そして次の瞬間、上条の腕の中にいた。
自己分析した限りでは何も取り乱す要素はないはずだ。
となれば取り乱すような"何か"があったはずなのだが、その"何か"はまったく記憶にはない。
何も不自然なところはないのに、この奇妙な気持ち悪さはなんなのだろう。
仮説として、「自分以上の能力で精神に干渉された」と考えることはできる。
だがこの学園都市で最高の心理系能力者は自分だし、目の前にいる二人は心理系能力者ではない。
自分で自分の頭の中を探ってみたところで、その証拠となるようなものは何一つ見つからない。
ならば、やはり何もなかったのか。
心理掌握は釈然としないものを抱え、かぶりを振った。
「──ごめんなさい、お役にたてなくて」
「ううん、そんなことはないわよ。
アイツの記憶が完全にぶっ飛んだわけじゃないってことが分かっただけでも良かったし」
病院からの帰り道、常盤台を代表する二人のレベル5は並んで歩いていた。
これで現状、早急に彼を治療するための手段は全て尽くした。
あとは医者の仕事、美琴のような素人にできることはほぼ何もない。
けれど、それでも美琴は足を止めない。
昨日の最新が今日の最新とは限らず、今日の最新が明日も最新とは限らない。
そんな言葉を体現するこの街なら、いつか、きっと。
「……そう言えば、あなたと二人で並んで歩くのは初めてですわね」
「そうね、そういう間柄じゃないものね、私たち」
派閥を嫌うもの、派閥を統べるもの。二人の間には、大きな溝がある。
「わたくしのお誘いを幾度もすげなくお断りなさるのですもの。つれないことですわ」
「"派閥"なんて嫌だって言っても、あなたは聞いてくれなかったでしょ?」
「わたくしにもプライドと言うものがあります。一度嫌だと言われたくらいで諦めるような女ではありません」
「はぁ……」
「……そう言えば、御坂さんはわたくしのお願いをなんでも聞いてくださるのでしたよね?」
「……えぇ」
そんな約束もしていた。
結果は芳しくはなかったとはいえ、尽力してもらったことは事実だ。
「私にできることなら、なんでも言ってちょうだい」
「では、そうねぇ……何がいいかしら」
口元を笑みの形に歪め、思案顔で美琴の顔を覗き込む心理掌握。
派閥の雑用か。
全校生徒の前で頭を垂れさせるか。
どんなことを言い出すのだろうと美琴は身を固くするが、表情を綻ばせた心理掌握の口から飛び出したのは意外な言葉。
「では、今度わたくしとお茶をしましょう。派閥とか、そんなものは脇に置いて」
「…………そんなことでいいの?」
「えぇ。何でもわたくしのして欲しいことをしてくださるのでしょう?
ならば、わたくしの望みはこれですの」
彼女の言っていることが理解できなくて、美琴はしばしフリーズする。
心理掌握の望みは、美琴とお茶を飲むこと?
そんな彼女をよそに、心理掌握は一人頬を染め、そっぽをむいてしまう。
「そ、そもそも! わたくしがあなたをお誘いしていたのは、あなたとおしゃべりをして、仲良くなれたらと思っていたからですのに!」
しばしのフリーズ。
今、目の前の彼女は何と言ったのだろう?
自分と仲良くなりたいから、派閥に勧誘をしてきていた?
「え、えぇーっ!? その為に私を"派閥"に誘ってたの!?」
「あなたの鈍感さにはほとほと呆れ果てました! ご自身の恋心の前に、まず自身が受けている好意にお気づきになってはどうかしら」
レベル5である彼女は派閥を率いてこそいるが、だからこそ人の上には立てても人の輪の中には入れない。
ならば、同じ境遇の美琴に興味を持つのは道理。
ただ、どう接すればよいのか分からなかっただけの事。
「女王」とあだなされる彼女には今まで「上」か「下」の人間関係しか存在しなかった。
「対等」の相手との接し方など、わかるはずもない。
派閥に誘い続けたのは、そうしたら会話する機会が作れると思ったから。
今日、最初は冷たい態度を取ったのは、いままでつれなくされたことに対するちょっとした意趣返しのようなもの。
美琴の頭の中で、今までの様々なことがぱちりと当てはまって行く。
ふるふると羞恥に身を震わし、目尻には涙まで浮かべた心理掌握。
とても『常盤台の女帝』らしからぬ姿に、美琴はふっと笑みを浮かべる。
「……分かった」
「!!」
「その代わり、"女王サマ"のイチオシのお店、教えてよね」
「……えぇ!!」
にっこりと笑い、手を差し伸べる心理掌握。
美琴は笑顔でそれに応えた。
「…………なるほど、御坂さんは上条さんのことをこれほどまでに想ってらっしゃるのね……」
「アンタまさか今接触テレパスで私の感情を読んだのか!? 忘れろ、それを今すぐ忘れろおおおおおおォ!!!!」
今日はここまでです
今回の話を要約すると「上条さんの内面にもぐりこみ過ぎた心理掌握が中の人に排除されてしまった」という感じになります
いろいろと分かりづらくて申し訳ないです
禁書本スレで出た「実は心理掌握は美琴と仲良くなりたくて派閥に誘うけど美琴は全然相手にしてくれない」
という妄想を読んで以来電磁掌握の妄想が止まらない
早く下の名前と性格口調知りたいですよね
ではまた次回
今回の話を要約すると「上条さんの内面にもぐりこみ過ぎた心理掌握が中の人に排除されてしまった」という感じになります
いろいろと分かりづらくて申し訳ないです
禁書本スレで出た「実は心理掌握は美琴と仲良くなりたくて派閥に誘うけど美琴は全然相手にしてくれない」
という妄想を読んで以来電磁掌握の妄想が止まらない
早く下の名前と性格口調知りたいですよね
ではまた次回
乙!
相変わらず面白い!
心理掌握さん、良い人やなぁ・・・
でも、フラグは立たなかったか・・・
相変わらず面白い!
心理掌握さん、良い人やなぁ・・・
でも、フラグは立たなかったか・・・
おつおつ
美琴さんの方に先にフラグ立っちゃってるじゃないですか
上条さんの旗立能力は既に旗が立ってる人間には効かない性質があるからな・・・
それはそうと個人的には美琴の上条さんとの妄想を読んじゃって、
なんて破廉恥な!と顔を真っ赤にするような心理掌握さんが理想です
美琴さんの方に先にフラグ立っちゃってるじゃないですか
上条さんの旗立能力は既に旗が立ってる人間には効かない性質があるからな・・・
それはそうと個人的には美琴の上条さんとの妄想を読んじゃって、
なんて破廉恥な!と顔を真っ赤にするような心理掌握さんが理想です
イイねイイね最っ高だねェ!
きっちり俺を楽しませてンじゃン!
心理掌握が美琴誘う理由、微笑ましくて良いですな
きっちり俺を楽しませてンじゃン!
心理掌握が美琴誘う理由、微笑ましくて良いですな
乙
こりゃあいい電磁掌握が見れた、眼福眼福
それにしてもどこまでdisられるんだフィアンマさんww
こりゃあいい電磁掌握が見れた、眼福眼福
それにしてもどこまでdisられるんだフィアンマさんww
乙!!
こんな心理掌握だったらいいなぁほんと
フィアンマディスられてたか?
こんな心理掌握だったらいいなぁほんと
フィアンマディスられてたか?
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