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元スレ美琴「極光の海に消えたあいつを追って」
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「こ、この話はここまでにして、これからのことについて話をしたいのよな。
あと30分ほどで、目的の研究機関の最寄り駅まで到着するのよ。
そのあと、我々はいくつかのグループに分かれる。
具体的には機関を訪れるグループ、滞在場所を探すグループ、それと双子のお嬢ちゃんたちだ」
「どうして私たち二人だけ別なの?」
「二人は学園都市の人間ですから、正規ルートで普通に中に入ることができます。
この戦時下なので、自国の民間人を保護する義務が彼らにはあるはずですから。
だけど、お二人が学園都市に関係ない人間を引きつれていたらどうでしょう?
あらぬ疑いをかけられて、最悪お二人までも放り出されるかもしれません」
「というわけで、あくまで"二人と我らは無関係"という形で別々に向かうのよな。
お嬢ちゃんらが一番、我らが二番って具合でな」
「え、それって……」
確かにグループを分けて移動するというのは理に適ってはいるのだが、
美琴らは彼ら天草式がどれだけ必死に上条当麻を助けようとしていたかを知っている。
彼を助け、彼に助けられ、その関係は決して浅からぬものなのだろう。
叶うなら、一刻でも彼の無事を確認したいはずだ。
なのに、一番にそれを確かめられる役割を美琴らに譲ってくれるという。
「……ありがとう」
「良いのです。私があなたと初めて会った時、あなたは今にも死んでしまいそうな顔をしていましたからね」
「我らが掲げるスローガンは『救われぬ者に救いの手を』。
今この場でまず救われるべきは、お前さんたちなのよな」
建宮や神裂だけではない。
五和や、他の天草式のメンバーも、暖かい笑顔を美琴らに向ける。
彼らだって、すぐにでも飛んでいきたい気持ちは同じだ。
それでも、彼らは優先順位を決して間違えはしない。
「ありがとう……!」
胸を打たれた美琴の頬を涙が伝い、それを隠すかのように彼女は一同に向かって思い切り頭を下げる。
神裂がもういいと言うまで、ずっと彼女はその体勢のままだった。
しばらくして、列車は大きな駅のホームへと到着した。
無事を確認したら連絡してほしいという五和と連絡先を交換し、天草式を代表した神裂と建宮に見送られバスへと乗りこむ。
研究機関への人員移動のための専用路線らしく、2つ3つ停留所がある以外はほぼ直通だ。
美琴らの他にも数人、日本人やロシア人の姿が見える。
「そういえば、機関にいる子たちは大丈夫? まだお父さんに見つかったりしてない?」
「はい。ですが、いつまでも隠れているわけにも行きませんし、どうしたものでしょうか、とミサカは思案します。
いくら"訓練を受けている"と言っても、飢えには勝てません」
「そうよねぇ。お父さんはまだあの子たちを探してるのかな」
「お姉様の写真を見せて、『この子にそっくりな女の子を知らないか』と聞いて回っているそうですから、
恐らく見つかるまでは探し続けるでしょう、とミサカは推測します」
「遅かれ早かれ、ってとこかしら。はぁ、それにしても、どこで嗅ぎつけたことやら」
「……"お父様"に全てをお話するつもりですか?」
「そうでもしないと納得しないでしょうね。お父さんはあれで割とガンコだから」
「お父様に超音速戦闘機をハイジャックして密入国したことがバレないといいですね、とミサカは心配します」
その言葉に、美琴はサッと青褪める。
密入国は世界中どこの国でも重罪だ。
あの時は上条を助けてさっさと帰ればいいと思っていたが、すでに数日経ち状況は大きく変わっている。
当然家には行方不明の連絡が行っているだろうし、寮では後輩が泣き叫び寮監が激昂している姿が容易に想像できる。
「……うわぁ。なんかもういろいろと嫌になってきた」
「お姉様、ドンマイです、とミサカは研究員に教わった慰めの言葉をかけます。
……、どうやら到着したみたいです」
目的の機関は医療系の研究施設であるようで、地域貢献の一環なのか大きな病院が併設されていた。
終戦直後ではあるがこの病院には傷病兵は来ていないようで、無駄に広いロビーは閑散としていた。
「本日はどのようなご用でしょうか」
「こちらに上条当麻という学生が入院していると聞いて、やってきたのですが」
「上条、上条当麻さん…………。失礼ですが、ご関係は?」
「友人です。これが身分証」
美琴が学生証を差し出すと、スタッフの顔色が変わる。
レベル5の学生を生で見るのは初めてなのだろう。
「……はい、上条当麻さんは確かにこちらに入院されています。
ただ、担当医の許可がなければ、ご面会はお受けできません」
第三者による、上条当麻の「生存」の知らせ。
美琴は心の中でその喜びを噛みしめる。
が、面会謝絶と言うことは、そんなに状態がひどいのだろうか。
「……そんなに悪いんですか?」
「あ、えと、それは、その……」
スタッフはしどろもどろになってしまう。
当然だ。ここは人の生と死に世界で一番敏感な場所である。
聞かれたからと言って馬鹿正直に「悪いです」などとは口が裂けても言えない。
「……どうかされましたか?」
そんなスタッフに、助け舟を出したのは近くにいた若い医者。
まだ30にはならないだろう。背が高く、眼鏡に柔らかな笑みが印象的な男だ。
「あ、先生……」
スタッフがホッとしたように息をつく。
「こちらの方々が、上条当麻さんのお見舞いに来られたそうなんですが」
「おや、彼の……」
美琴らを見た医者の顔色が変わった。
こほん、と一つせき払いをして、背筋をぴんと伸ばす。
「僕が上条当麻さんの担当医です」
「!! なんとか、彼に会わせていただけませんか」
「とは言いましても、もう少し落ち着いてからでないと、お見舞いは難しいですね」
「そこをなんとかできませんか。せめて顔を見るだけでもいいんです!」
必死に頼む込む美琴の姿に、何か感じ入るものがあったのだろう。
長い逡巡ののちに、医者はため息をついた。
「……良いでしょう。顔を見るだけ、という条件で、病室へとご案内します」
若干早歩きの医者のあとに従い、美琴と10777号は廊下を進む。
時折行き合う看護師が彼に指示を仰いでいるところを見ると、彼は信頼される有能な医者なのかもしれない。
「……もしかして、お仕事のお邪魔だったりしませんか?」
「僕、ついさっき別の患者さんの治療を終えたばかりで、しばらくは休憩時間なんです。
まあ緊急があればまた駆り出されるんですが、それまでは特に。
ですから、特に気にしないでください。
それに、患者さんに必要なものを用意するのも僕の仕事の一部なんで」
「はぁ……」
どこかで聞いたようなフレーズだ。
「それより、僕はあなたたちのことについて聞きたいですね。
ねぇ、御坂美琴さんと、ナナミさん?」
美琴は顔色を変える。
受付で出したのは美琴の学生証だけだ。
初対面の目の前の医者が、10777号の通称を知っている筈はないのだ。
だが、警戒する美琴の疑問に答えたのはまぎれもない妹だった。
「お久しぶりです、約一月ぶりでしょうか、とミサカは軽く頭を下げます」
「……へ?」
「うん、お久しぶり、10777号。
……もしかして、美琴さんのほうは驚かせてしまったかな。
僕はこの病院にいる"妹達"のリハビリも担当しているんだ」
この機関にも妹たちが預けられている時点で、彼女らの治療を担当する人間がいるはずなのだ。
医療施設であれば、その担当者がいる確率は大きいことに気付くべきだった。
妹と面識があるということで気が抜けた美琴はほっと息を吐いた。
「いつも妹たちがお世話になってます」
「ううん、こちらこそ彼女たちにはいろいろ助けて貰っています。
一挙一投足が人の生死を分けるような繊細な仕事をしていると、純粋無垢な彼女たちとの交流が楽しくてね」
「以前の休暇時には、先生と"妹達"でオーロラを見に行きました、とミサカはお姉様に報告します」
「僕なんかはロシアに来て長いから見飽きてきたものではあるけど、喜んでくれるならまた行きたいね」
どうやら、見た目通り悪い人ではなさそうだ。
妹たちをモノではなくヒトとして見てくれているなら、特に美琴が何かを言う問題でもない。
「妹たちが楽しく暮らしているみたいで、安心しました」
「これは僕の師匠にあたる人からも頼まれていることですからね、無碍にはできませんし。
"冥土帰し"って呼ばれてる医者なんだけど、知ってるかな?」
「……カエルみたいな顔のお医者さんですよね?」
「うん、その人です。小さいころ大怪我をして、冥土帰しに助けて貰ったのがきっかけで医者を目指したんだ。
医者になる時もいろいろ相談に乗ってくれたり、技術を教えて貰ったり。そういうわけで、彼には頭が上がらないんです」
冥土帰しは学園都市にいる妹たちの主治医でもある。
その彼がこの医者に妹たちを託したということは、それだけ彼に信頼を置かれているということなのだろう。
医者はやがて、とある部屋の前で止まった。
窓のない扉の横には『上条当麻』というネームプレートが付けられ、そのむこう側の壁はやけに広い。
扉には大きく「面会謝絶」というプレートがかけられている。
「……着きましたよ。ここが、上条当麻さんの病室です」
美琴は早速中に入ろうとしたのだが、医者は扉の前からどこうとしない。
「この先は無菌室なので、立ち入りはご遠慮ください」
「でも、顔を見せてくれるって」
「ええ、ですからこちらをご覧ください」
医者が壁に備え付けられたタッチパネルを操ると、扉の脇の壁が明るく光る。
いや、光を通すようになった、と言うべきか。あたり一面がガラス張りへと変化していた。
強化ガラスに特殊な粒子を吹き付け、電気信号により色を変化させることで患者のプライベートとお見舞いを両立させているのだろう。
今は無色となり、中の様子が透けて見えるようになっていた。
その奥に、彼は寝かされていた。
見なれたツンツン頭の姿が目に飛び込み、美琴はガラスに張り付くように中を覗き込んだ。
確かに、上条当麻だ。
「……生きてる」
彼の真横にある機械は彼の心臓が確かに動いていることを示している。
全身包帯やギプスだらけで、人工呼吸器まで取り付けられている。
それでも、
「生きててくれた……!」
美琴は思わずへたり込み、静かに涙をこぼした。
あの時届かなかった手。
役に立たなかった能力。
彼女を苛んだ無力感。
いずれも彼女は忘れていない。
それでも、彼が生きていてくれたことで、彼女の心は少しでも救われるような気がしたのだ。
美琴の肩を抱いた10777号が、医者に問う。
「あの方の容体はどうなのですか、とミサカは質問します」
ガラスはタッチパネルを兼ねているようで、医者が四角く区切るようになぞるとその部分だけ色が変化し、
数度操作することでカルテが表示された。
「……大小合わせて10か所を越える骨折・打撲、全身の凍傷など彼の負っている負傷は数えきれないほどあります。
どうやら治療はされていても治りきってはいない怪我もいくつもありますしね。
ただ、体の怪我のほうは適切な治療さえしていれば、これが原因で死に至るというような酷いものはありません」
「怪我のほうは、ということは、他にもまだ何か?」
「はい。ここに連れてきた方が言うには、北極海に落ちてなんとか氷の上に這い上がったところを助けられたらしい、とのことですが、
どうやら相当長い間冷水に浸かっていたらしく、重症の肺炎を起こしています。
高熱が出ていて免疫力も落ちていますし、しばらくは無菌室から出られないでしょうね」
しばらく、美琴はその場を動くことができなかった。
上条が生きていたという喜びを噛みしめ、目に焼き付けるかのように、ただひたすら彼の姿を見つめ続けていた。
今日はここまでです
とうとう投下も100レスを越えました
一つ質問なのですが、自分の文章は読みにくくないでしょうか?
1レスにやたら文字が詰まっていたり、直後のレスが短くスカスカだったり
切りのいいところで区切っているつもりなのですが、どうにもアンバランスな気がして気になっています
良ければご意見をお聞かせください
ではまた次回
とうとう投下も100レスを越えました
一つ質問なのですが、自分の文章は読みにくくないでしょうか?
1レスにやたら文字が詰まっていたり、直後のレスが短くスカスカだったり
切りのいいところで区切っているつもりなのですが、どうにもアンバランスな気がして気になっています
良ければご意見をお聞かせください
ではまた次回
乙
自分は気にならんからこのままでいいと思うけどなぁ
参考にならんでスマン
自分は気にならんからこのままでいいと思うけどなぁ
参考にならんでスマン
乙乙
詰まってるレスもスカスカなレスも全部しっかり読ませてもらってますが、
アンバランスだとかは気になりませんでした。
詰まってるレスもスカスカなレスも全部しっかり読ませてもらってますが、
アンバランスだとかは気になりませんでした。
私も気にならない。
段落ならそれはそれぞれなんだからと思う。
そして。今日はたくさん読めて良かった。おつかれさま。続き待ってます。
段落ならそれはそれぞれなんだからと思う。
そして。今日はたくさん読めて良かった。おつかれさま。続き待ってます。
乙!
上条さんの容態的に直ぐに「再会」は無理か…でも生きてて良かったな
地の文付きならこのくらいが読みやすいな
スカスカでも前後のレスの台詞の切りどころがいいから特に気にならない
上条さんの容態的に直ぐに「再会」は無理か…でも生きてて良かったな
地の文付きならこのくらいが読みやすいな
スカスカでも前後のレスの台詞の切りどころがいいから特に気にならない
しかも理由が「なんか騒がしかったから」キリッ
だからなwwww
だからなwwww
こんばんは
気にならないという方ばかりでほっとしています
ではこのまま進めて行きますね
では今日の分を投下していきます
気にならないという方ばかりでほっとしています
ではこのまま進めて行きますね
では今日の分を投下していきます
二人は上条の無事を天草式のみなへ伝えるために、一度ロビーへと戻った。
学園都市製の医療機器は携帯電話の電波ごときでダメになるようなやわな作りではないとはいえ、マナーというものがある。
上条の生存を確かめたことを五和に報告すると、電話の向こうで割れるような大歓声が沸き起こった。
感極まり涙ぐむ五和をどうにかなだめ(美琴が言えた義理ではないが)、電話を切ると二人はソファーへと沈みこんだ。
こんなところでも売っていたヤシの実サイダーを片手に、美琴は10777号とこれからについて話し合った。
「これからどうしようか」
「お姉様はあの方のそばにいたいのではないですか、とミサカはお姉様を肘で突いてみます」
「うっ、だけど、病室の中には入れないし、かと言って廊下に座り込んでいるのもお医者さまの邪魔じゃない。
一休みして、ここにいる子たちに会いに行きましょうか」
「19999号と20000号、お姉様に呼んでほしい名前を思いつきましたかねぇ」
「そうねぇ、あんたみたいにもじって名前を付けられそうな番号じゃないもんね」
「以前、20000号に『ミサカブービー』はどうかと提案したところ、ミサカ式ブレーンバスターで雪の中へ放り込まれました」
「あんたたち何やってんのよ……。
……ん? 20000号に『ブービー』? 19999号じゃなくて?」
ブービーとは本来一番下という意味であるが、日本においては様々な経緯があり最下位から二番目を指すのが通例だ。
それに倣えば、末っ子から2番目という意味では19999号のはずなのだが。
「いえ、ミサカたちは20001号までいますから、姉妹の中で下から2番目は20000号で合っています、とミサカはお姉様の言葉を訂正します」
「………………………………………………は?」
初耳だ。
そもそも『絶対能力者進化計画』で作りだされた妹たちは20000人のはずではないのか。
驚愕と疑念が入り混じる表情の美琴を見て、10777号は首をかしげる。
「お姉様は上位個体をご存じありませんでしたか。てっきりミサカたちは既知であるものと認識していましたが。
いえ、お姉様とお話しする機会に恵まれたならば、あのちんちくりんが自慢しないはずがないですね、とミサカは自己訂正します」
「いやいやいやそうじゃなくて、『実験』のために生まれた子以外にも、『妹達』って存在するの? ていうかちんちくりん?」
「20001号はミサカたちと同時期に造られた個体ですが、実験に投入されるのではなくネットワークを管理するための個体です。
もしもの時に研究員が扱いやすいように、とわざと肉体年齢を下げて生み出されました。
そのせいか他の個体に比べて精神も幼く、10032号などは頻繁に困らされているようです、とミサカは概略を伝えます」
「……もしかしたら、見たことがあるかもしれない」
「9月30日、10032号があの方にネックレスを買っていただいた直後、お姉様ともお会いしましたね。
その際に近くにいたはずですが、とミサカは10032号からの報告を更に報告します。
はぁ、それにしても、ネックレス……」
何やらトリップしてため息をついている妹を放っておいて、美琴はあの日のことを思い出す。
ハンディアンテナサービスの登録をしているうちに、上条は10032号と遊んでいて。
むっとしつつ会話をしているうちに妙な流れになって、妹が何を言い出すのかと思えばいきなり上条に抱きつき。
おまけに買ってもらったというネックレスを見せびらかすので、美琴は完全に頭に血が上ってしまっていた。
その時に、10032号とともに上条に抱きついていた少女。
余裕がなく、よく観察していなかったが、もしかして彼女が20001号なのだろうか。
「その通りです。あの日は確か、10032号のゴーグルを奪って逃走していたところでしたね」
「はぁ……とんだニアミスしてたのね。学園都市に帰ったら会いに行きたいな」
「帰る、で思いだしたのですが、お姉様、パスポートはお持ちですか?」
その言葉に、美琴の動きが止まる。
本来、美琴は上条を助けた後ハイジャックした戦闘機でそのまま帰るつもりだった。
当然パスポートなど持ってきていない。
よしんば持っていたとしても、日本からの出国記録もロシアへの入国記録もない以上、入管は通れないだろう。
待っているのは不法滞在で捕まり、罪を償ったのちに強制送還されるか、それとも引き揚げる学園都市軍に紛れ密航するかのどちらかだ。
「ど、ど、どうすりゃいいのよーーーっ!!」
頭を抱える美琴の叫び声が、ロビー中に響き渡った。
「……美琴ちゃん?」
その声に反応したのは、一人の男。
御坂旅掛は、ちょうど病院の中へと戻ってきたところだった。
この機関を訪れる目的である探し人を尋ね、病院である別館ではなく研究所を兼ねた本館を訪れていたのだが、あえなく不発。
ここへ来る道中で知り合った少年の様子を見に病院へと戻ってきたところだった。
入り口からすぐに広がるロビーの端では、二人の少女がおしゃべりをしているようだった。
こちらに背を向けているため顔は分からないが、背格好はよく似通っている。
もしかしたら、探している人物ではないかと彼が近寄りかけたその時。
少女たちの片方がいきなり立ち上がり、頭を抱えて叫びだした。
「ど、ど、どうすりゃいいのよーーーっ!!」
旅掛は、その声に聞き覚えがあった。
聞き間違えるはずもない、耳に親しんだ娘の声。
学園都市にいるはずの彼女の声が、何故こんなロシアの雪原の真ん中にある研究機関で聞こえるのか。
「……美琴ちゃん?」
彼は、恐る恐る少女に話しかけた。
背後から聞こえた声に、ビクリと美琴は肩を震わせた。
記憶を探るまでもなく、父親の声だと分かる。
迂闊だった。父親がいるだろうことは分かっていたのだから、いつ見つかってもおかしくはなかったのだ。
彼女はぎこちなく背後を振りかえった。
そこには、困惑するような顔の父親の姿があった。
「…………パパ」
「美琴」
旅掛は確かめるように呟いた。
「……どうして、こんな危ない所にいるんだ!」
そして、次に飛び出したのは一喝。
ずかずかと歩み寄りながら更に怒号を飛ばす。
「ここは戦場の最前線に近い場所だぞ!? どうして中学生の美琴が学園都市じゃなくてこんな所にいるんだ!
まさか、軍隊に匹敵する力を持つレベル5だからって戦場に放り込まれでもしたのか!?」
「ちょ、ちょっと落ち着いてよ! ここ病院だから! 静かにしないと!」
慌てて周囲を見回すと、スタッフが何事かとこちらを凝視しているのが見えた。
閑散としたロビーに、旅掛の声が物凄く響いている。
「娘が戦場に放り込まれたっていうのに落ち着いてなんかいられるか!」
「待ってよ、別に誰に言われてロシアに来たとか、軍隊と闘わされたとかじゃないから!
自分の目的を持って、自分の意思で来たのよ!」
「何のために!?」
鼻息荒く、旅掛は美琴に詰め寄った。
美琴は答えに窮する。稚拙なごまかしは通用しないだろう。
下手を打てば、学園都市から引き離されるかもしれない。
そうなれば、誰が妹たちを守ると言うのだ。
「……友達が何故かロシアをうろついてて、危ないことに巻き込まれてるって知って、その人を助けに来たのよ。
本当はさっさと助けてさっさと帰るつもりだったの。
だけど、中々見つからなくて、ずっと探しまわって、やっと今日ここで見つけたのよ」
だから、詳しい経緯は省いても話せる限り正直に話す。
「どこのどいつだ、うちの娘に二度と関わるなってきつく言ってやる!」
「……上条当麻。パパがここに連れてきたっていう高校生よ。
お父さんがここに連れて行ったって、教えてくれた人たちがいるんだから」
「…………!」
その答えに、旅掛は何か考えるものがあったのだろう。
先ほどよりはやや落ち着いた様子で、言った。
「ちゃんと詳しく説明してもらう。いいね?」
「……うん」
「それと、その子"たち"のことについても」
旅掛が示したのは美琴の横で様子を伺っていた10777号。
当然、その顔は旅掛からも見えている。
「…………うん」
未だ対応策は整っていないが、それでも来るべき時は来てしまったのだ。
ただ一つ決めたこと。それを心の芯に据え、美琴は父親との対話に臨む。
「……はあぁ~~~~……」
白井黒子は、自室にあるベッドにうつ伏せになり、大きなため息をついた。
風紀委員である彼女は、戦時中や戦後の学生たちの混乱を収めるために日夜となく働き通し、身も心も疲れ果てていた。
だが、彼女のため息の主原因はそれではない。
「……お姉様、どこに行ってしまわれましたの……」
彼女の同室の先輩である御坂美琴が行方をくらまし、早三日が経った。
10月30日、寮を出てどこかへと向かうところを目撃されているのを最後に足取りがつかめていないのだ。
学園都市内の学校は全て休校であり、戦争の脅威など意にも介せずに遊び回る学生がいないわけでもない。
門限破りの常習犯である御坂美琴も、大方校外の友人の家にでも転がりこんでいるのだろうと思われていた。
しかし、友人たち全ては彼女の行方を知らないと答え、また携帯電話も受信はしても応答はないということもあり、
警備員では何らかの事件に巻き込まれたものとみて捜査をしている最中だ。
だが、白井は確信している。
"残骸"を巡る事件の中でその一端に触れた、美琴の周りを取り囲むような闇。
そして風紀委員としての職務の中で知り得た、上条当麻の失踪。
この二つには、必ず何らかの接点があると。
(お姉様は、またしても黒子を頼ってはくれませんでしたのね)
白井は美琴が上条に対し強く好意を抱いていることを(認めたくはないが)知っている。
そして、それが二人が関わった何らかの事件に由来することも。
8月21日。最強の能力者。レベル6シフト。レディオノイズ。
断片的にしか得られなかったキーワード。秘密裏に調べてはいるのだが、情報収集に明るくない彼女には限界がある。
情報処理に優れる友人、初春飾利に頼もうにも、これは風紀委員としての仕事ではなくあくまで個人での活動だ。
一歩間違えれば自らも闇に引き込まれかねないというのに、友人までは巻き込めない。
(……結局、お姉様の背中はまだまだ遠くにあるってことですわよね)
まともに動けるようになってから約一月。たったそれだけの期間で追いつけるとは思わない。
レベル5の名を冠すものは、レベル4である白井よりも遥か高みにいるのだ。
だが、何よりも今は美琴を探すほうが先だ。
彼女がそうそう不覚をとるとは思えないが、それでもキャパシティダウンやAIMジャマーなどの対能力者用装備には勝てない。
不埒な輩が闇のルートからそれらを入手したケースとて少数ながら存在している。
既に外出が許可されている時間ではないが、白井の能力であれば脱出することなど朝飯前だ。
起き上がって靴を履き、脱出地点を定めようと窓を開け、
「……まさかとは思うが、外にテレポートしようなどとは考えてはいまいな?」
背後から聞こえた冷たい声に、身を震わせた。
「りりりりりょ寮監さま!?」
いつの間に部屋の中に入ってきたのだろう。
常盤台外部女子寮を統べる鋼の女帝の姿がそこにはあった。
「いいい嫌ですわ、おほほ。私めはただ部屋の空気を入れ替えようと思っただけですの」
「ならいいがな。もうすぐ夕食の時間だ」
寮監は軽くため息をつく。
「……何かありましたの? まさか寮監さま直々に、私めを夕食にお呼びいただくためだけにいらしたわけでもありませんでしょう?」
「ああ。御坂のことについてなんだが」
白井の眼光が鋭くなる。
彼女に関する情報なら何でも欲しいところだ。
「学校のほうに連絡が来たのだが、御坂は今、戦争を避けての疎開ということでご両親と共にいるそうだ」
「……え? あの、事故に巻き込まれたとか、何か厄介事に首を突っ込んだとかではなく?」
「ああ。どうやらお父上が学園都市まで迎えに来られていたそうなんだが、どうやら学校に連絡するのを忘れておられたようでな。
何でも、お父上はお母上が、お母上はお父上が学校に連絡したものと思いこんでいたらしい。
先ほどお父上が連絡してこられて、御坂も電話口に出たそうだ」
「……お姉様に連絡がつかないのは?」
「携帯電話が壊れたと言っていたようだ。あれは確か"中"の機種を使っていたな。
規格や部品の都合上、"外"では修理できないのではないか?」
はぁーっ、と白井は口から空気を漏らす。
それとともに気が抜けて行くのも感じる。
この数日間心配し続けていた事柄も、ふたを開けて見ればそんなものだった。
白井は軽い音を立ててベッドへと腰をおろす。
「それで、お姉さまはいつごろお戻りになられますの?」
「さあな。しばらく情勢を注視して戻る時期を決めると行っていたから、当分は戻らないかもしれないな」
何よりも、重要なのはここだ。
愛しのお姉様と当分触れあえないなんて!
「そんな! その間、私はこの広い部屋に一人ですの!?」
「お前だって中学生だ、まさか誰かと一緒でなければ寝られないという歳でもあるまい」
「私とて、たまには寂しくなる時はありますの」
「ならば私の部屋で寝るか? 少なくとも寝坊はないことは約束するぞ」
「……遠慮しておきますの」
美琴らは、場所を病院ではなく、邪魔の入らない研究機関側の建物にある19999号および20000号の私室へと移していた。
そこで、携帯電話を置いた旅掛は右手で顔を覆っていた。
それだけ、美琴らの話がショッキングだったのだろう。
『量産型超能力者計画』及び『絶対能力者進化計画』について、妹たちに補足されながら美琴は知り得る限りを話した。
それが父親を傷つける内容だとしても、話さずには居られなかった。
父親という頼れる存在に対して、華奢な自身の肩に背負う重荷を分かち合ってほしかったのかも知れない。
誤魔化そうとは思わなかった。
もともと旅掛は妹たち目当てにこの施設へとやってきたのだ。
下手に誤魔化せば、彼女たちを二人三人連れて統括理事会へと乗りこむくらいのことはやってのけかねない。
悲痛な父親の様子に、美琴は心を痛めた。
自分が不用意にDNAマップを提供したせいで大量にクローンが作られ、そのうちの大半が既にこの世を去った。
残る一万人弱の姉妹は全世界に散らばっている。
それを知らされた旅掛の心中は察するにあまりある。
旅掛はしばらくうなだれていたが、やがてこぼすように呟いた。
「……どう考えても養い切れねぇ……」
「……はぁ?」
「いきなり一万人とか逆立ちどころかバク転しても無理だーーー!!」
何を言い出したかと思えば、それは金の話で。
しかもわりかしマジな、追い詰められたかのような顔で「いっそ病気の金持ちに内臓でも売るか……いやしかし……」などと呟き始める始末。
おまけに、何故か『旅掛が妹たち全員を養う』という前提の上に思考しているようだ。
「落ちつけアホ父! 何を口走ってるか分かんないわよ!」
「ええい、中学生にして莫大な奨学金を得ている美琴ちゃんには分からんだろう!
お金を稼ぐってことはなあ、本来物凄く大変なことなんだぞ!
死ぬような思いで働いた父さんの年収が美琴ちゃんの貰う奨学金以下だった時の苦悩は測り知れまい!」
一人でヒートアップし、なおもうがーと騒ぎ続ける父親を何とか落ち着かせようとする美琴。
それを3人の妹たちは、ただ呆れるように見つめていた。
否、それ以外のすべを持たなかったというべきか。
それをよそに、目の前の親子喧嘩はますますエスカレートしていく。
「だからなー、正直昨今の不況で我が家の財政事情も厳しいわけですよ!
それこそ美琴ちゃんの奨学金が無かったら常盤台中学にも通わせてあげられないくらい!
それが一万倍とかもはやちょっとした国家プロジェクト予算並みじゃねーかチクショーーー!」
「この子たちだってレベル3相当の奨学金貰ってるしそんなもんどうにでもなるっつーの!
というか金!? あの話を聞いてまず心配するのがお金の問題なの!?
もっと他に考えるべきことがあるでしょーが!」
やや軽蔑の籠った美琴の視線に、旅掛も真剣な表情になる。
「……そりゃあな、父さんにだっていろいろ思うところはある。
正直今すぐにでも統括理事会に殴りこみたいくらいだ。
『人の娘"たち"に何さらしとんじゃあッ!!』、ってな」
「……」
「もちろん、会うことの出来なかった子たちのことも、凄く、物凄く悲しい。
顔を見ることも、頭を撫でてやることも、名前を付けることすらしてやれなかったことも、全部、全部全部。
正直、そんなことも知らずにいたのん気な過去の自分を殺したくなるくらいだ」
娘たちは何も言わない。
ただ、一言一言絞り出すような旅掛の言葉を黙って聞いていた。
「けどな、今はそれよりも大事なことがある。
『今生きている子たちを、どうやって守るか。どうやって幸せにするか』
これが父さんの考えなくちゃいけないことであり、やらなくちゃいけないことだ。
美琴も、10777号も、19999号も20000号も他の子たち全員だ」
既に死亡した子たちを切り捨てるわけではない。
しかし、何かをしてあげたところで、亡くなった子たちが生き返るわけでもない。
出来得ることが限られる中で、最善のことを。
生きている子たちに、出来る限りの幸福を。
それが、旅掛の考える親としての責任なのだろう。
「…………"お父様"は、ミサカたちの存在を不快に感じたりはなさらないのでしょうか、とミサカ20000号は恐る恐る尋ねます」
「ん? どうしてだい?」
遠慮がちに尋ねた20000号の質問に、旅掛は心底不思議そうに聞き返した。
「……ミサカたちは、お姉様のDNAマップから作製された胚に様々な薬品を混ぜ合わせて作られ、培養器の中から生まれました。
普通の"人"のように、母体から生まれたというわけではありません。
人として、いえ生物として不自然な形で生まれたミサカたちを気味悪く思うのが当然なのではないでしょうか、とミサカ20000号は推測します」
話しながら、彼女が頭の中で再生しているのは、10031号の記憶。
たとえその姉妹が既に肉体的には死亡していたとしても、ミサカネットワーク上で共有された思考パターンや記憶は消えることなく今も存在している。
『その声で、その姿でっ、もう……私の前に現れないで……ッ!!』
『自分の生き移しが自分の声で話しかけてきたら……、考えるだけで鳥肌モンですよォ~』
『お姉様にとって、ミサカは否定したい存在だったのですね』
最後に命を落とした"姉"が最期に辿り着いた悲しき結論。
今の美琴であれば、そんなことはないと本心から声を大にして言うだろう。
それは20000号だって、他の姉妹だって理解している。
だが、この記憶は妹たちに一つの疑問を残すこととなる。
『本来存在し得ないはずの自分たちは、否定され排除されるべき存在なのではないか?』
「君は、『自分たちはいてはいけない存在なのではないか』。そう思っているわけだね?」
「……はい」
伏し目がちに答える20000号に、しかし旅掛が投げかける視線は優しい。
「ならば、父さんの答えは一つしかないな」
そう言うなり、旅掛は20000号を抱き寄せる。
宝物を抱きしめるかのごとく、ぎゅっと、強く強く包み込むように。
「君たちは、俺の大切な娘たちだよ。
たとえ美鈴が腹を痛めたわけでなくとも、どんな生まれ方、育ち方をしていても。
君たちは今生きてここにいる。それだけで、父さんは君たちのために命だって投げ出せる」
そう言って、旅掛は屈託のない顔で笑いかけた。
(この胸の奥から湧き上がるものを、ミサカは正確に表現することができません)
じんわりと伝わる体温に、20000号は例えようのないものを感じた。
それは彼女が未だ知らない感情(キモチ)。
それに突き動かされるように彼女の白く小さな手が、旅掛の服のすそをきゅっと掴む。
「お父様」
「うん」
「お父様……」
「うん」
父の胸板に顔を埋め、身を預ける20000号。
そんな彼女の頭を、旅掛はいとおしそうに撫でた。
「このミサカだってお父様に甘えてみたいのです、とミサカ19999号も突撃します」
「……のわっ!?」
前触れなく背中に飛びついた19999号が、そのまま旅掛の首に両腕を回す。
虚を突かれたたらを踏む彼は、なんとか娘を二人とも潰すまいと横向きにベッドに倒れ込んだ。
一瞬面食らったものの、何がおかしかったのかすぐに豪快に笑いだす。
もっとも、直後にダイブしてきた10777号により、潰れたような声を出す羽目になるのだが。
その後も、"娘たち"は"父親"の背中に張り付いたり腕に抱きついたりとやりたい放題だ。
「…………………くすっ」
そんな微笑ましい? 父娘たちの交流を見て、美琴は思わず笑みを零す。
妹たちには、これからも多難な前途が待ち構えているのだろう。
それでも、父親という大きな存在が彼女らの味方になってくれるということは、大きな前進と言えるのではないか。
「こらー! 私のお父さんでもあるのよー!」
「よーし! 美琴ちゃんもばっちこーい!」
既に3人に絡まれているにもかかわらず、両手を広げて美琴を迎える旅掛。
今だけは反抗期であることも忘れて、妹たちと一緒に父親に甘えよう。
はしゃぎ疲れ、折り重なるようにして眠る娘たちを起こさぬように、旅掛はそっと部屋を出た。
身を寄せ合って眠るさまはまさに仲の良い姉妹そのもので、それを見て彼はふっと唇を綻ばせる。
消灯時間が過ぎ、常夜灯のみが照らす廊下を旅掛は静かに歩く。
目当ては廊下の一角に設置された喫煙所だ。
空調が完備されただけのガラス張りの部屋という学園都市の施設にしては簡素な造りではあるが、世界各地を飛び回る旅掛には気にもならない。
彼はしばらく紫煙をくゆらせながら何事か考えていたが、やがて懐から携帯電話を取り出した。
妹たちの部屋は研究員用の宿泊施設にあり、通信機器の使用制限が厳しい機関内でも特例的に自由に通信することが出来る。
もちろん、内容は全て傍受されてはいるが。
3コールの後に、目当ての相手へと繋がる。
旅掛は朗らかな声を出した。
「ようアレイスター、3週間ぶりくらいだな」
『…………御坂旅掛、か』
男のようにも女のようにも、少年にも老人にも聞こえる、不思議な声の持ち主。
学園都市統括理事長、アレイスター=クロウリーである。
「なんとか戦争も終わったみたいだな。学園都市の戦力を考えたら2週間もかかるとは思わなかったが」
『適当にあしらってやっただけだ。
やろうと思えば数分でロシア全域を焦土にすることもできただろうが、それだと相手の言い分そのままになるだろう?
これは、あくまで学園都市の『自衛戦争』なのだから』
自衛戦争。
その言葉が、旅掛に妙な違和感を与える。
ロシア軍の被害は甚大だが、学園都市側には公表された死者はいない。
白銀の大地を舞台にした、もはや戦争とすら呼べないような一方的な蹂躙。
そして、その裏で起きていたことを、旅掛は断片的ながら知っている。
「ロシアで、不可解な現象が起きたっていうのは知っているか?
黄金の空に浮かぶ要塞だの、軍隊を殲滅する天使だの、俺はてっきりファンタジー映画の世界に飛び込んだかと思ったくらいだ」
旅掛の軽口に、アレイスターは苦笑したようだった。
『超能力者の最高位、レベル5第三位の父親ともあろう男が、ファンタジーを口にするかね?
……そうだ、あれはファンタジーだよ、御坂旅掛。まさしく魔術(オカルト)の領域の産物だ』
「オカルト、ねぇ」
『世界には科学では解明できない、出来ていないものもあるのだろう。
いや、あって当然と言うべきだろうな。
世界の理を真に理解したものなど、世界を作り上げし"神"くらいのものだろう』
今度は、旅掛が苦笑する番だ。
「最先端の科学を突きつめた街、学園都市の頂点に立つ男が"神"を語るのか?」
『過剰なまでに進化した科学技術はもはや"魔術"と変わらない、という言葉があるだろう。
半世紀前、超能力者を人為的に作り出せるなど、誰が想像した?
「手から炎を出す」などという幻想(ゆめ)が、科学的に証明されるなどと誰が予想しえただろうか?』
「そりゃあな、俺だって美琴が小さいころは電撃を放つようになるとは思ってなかったし」
彼女が能力開発を受けたばかりのころ、喜び勇んで手の間に火花が走るのを見せびらかしに来たことを思い出す。
あの時は単純に、娘の成長を喜んでいたのだが。
そこで、旅掛の思考が切り替わる。
「……本題に入ろうか、アレイスター。お前から依頼されていた"仕事"の件なんだが」
『"例のもの"は首尾よく回収できたかね?』
「そりゃあな。ちょいとした火事場泥棒みたいな気分で悪い気もするが、まあ仕方がない。こっちだって仕事なんだ」
『そうか。ご苦労だった。では、その報酬はいつもの──』
「報酬の話の前に、聞きたいことがあるんだが」
アレイスターの言葉を遮り、旅掛は先ほどまでとは違う冷たい声で答える。
「3週間前にした話を覚えているか?」
『"原石"の回収に関わる話だろうか?』
「それのちょいと後の話だな。
学園都市が襲撃した研究機関で、全く同時にうちの娘と全く同じ顔の少女が多数目撃されたって話だ。
"仕事"が終わって、学園都市まで飛行機にでも乗っけて貰おうと学園都市の研究機関に寄ったんだよ。
そしたらな、うちの娘と同じ顔の子が4人もいたんだよ。1人は本当にうちの娘だったけどな。
……なあアレイスター、これはどういうことだ?」
『…………』
どう答えるべきか電話口の相手は考えているのだろうか、答えは返ってこない。
旅掛は構わず話を進める。
「どうせお前から明確な答えが得られるなんてハナから考えちゃいないさ。
……それで、娘たちと話をしたんだよ。
『量産型超能力者計画』、『絶対能力者進化計画』、そして娘たちは何も言わなかったが、『第三次製造計画』。
学園都市を統べるお前なら、全部知っているんだろう?」
『何の事だか分からんな』
「俺や娘たちが嘘をついていると?」
『そうは言っていないさ。ただ、学園都市は広く、行われている研究の数は膨大だ。
ふむ、ひょっとしたら、私の認知していない暗闇で行われた計画もあるかも知れないな?』
嘘だ、と旅掛はすぐに看過する。
10000人近くもの少女らを秘密裏に世界中の提携機関に分散させるなど、統括理事会クラスが関与していなければできるはずがない。
そして統括理事会が関わっていることを、この男が知らぬはずがないのだ。
とはいえ、そこにこだわっていても話は進まない。
「知らないと言うなら、まあそれで矛は収めてやろう。
だったらすぐに調べて、さっさと中止に追い込め。
そして今生きている俺の娘たちも、これから生まれてくるかもしれない娘たちも皆、普通の人生を送れるように手配しろ。
それが俺の要求する今回の報酬だ。これが確約されるまで、回収したモノの引き渡しはナシだ」
『……』
アレイスターが何かを言いかけて、それを旅掛が遮る。
「おおっと、お抱えの犬っころを使って回収を試みようとしても、そうは行かないぞ。
あれらは今、俺の手元にはない。俺を消したら行方が分からなくなるだけだ。
俺には価値の分からん代物だが、そうだな。ロンドンとかバチカンになら価値の分かる人間がいるんじゃないか?」
『…………』
「お前はあれが欲しい。俺は娘たちを守りたい。
実にシンプルで、互いが得をする取引だとは思わないか」
旅掛はくくっと愉快そうに低く笑う。
しばらく、互いに探り合うような沈黙が続く。
そして、
『……良いだろう。君の娘たちの件については早急な解決を約束する。
そうだな、年内にはカタがつくのではないか?』
「お前が物分かりの良い奴で助かるよ、アレイスター」
『回収したものについても、引き渡しは君の要求通りで構わん』
「じゃあ、これで取引成立だな」
短くなった煙草を吸い息を吐き出せば、紫煙は闇の中へと漂った。
「……ああ、そうそう。最後に聞きたいんだがな?
世界に足りないものは、なんだと思う?」
『……足りないものだらけだよ。世界は常に渇望という歯車によって動き続けている』
そうかい、と言い残して、旅掛は通話を切った。
もう片方の男は、通話を終えたあともしばらく同じ姿勢でいた。
学園都市の中心部に位置する、窓のないビル。
その中に鎮座する試験管の中で真紅の液体に浸りながら、アレイスターは一人ごちる。
『御坂旅掛、レベル5第三位の父親にして、"世界に足りないものを示す"男、か』
試験管内部の曲面モニターに表示されているのは、御坂旅掛のパーソナルデータ。
『あの男は優秀だが、優秀すぎる故に危険でもある』
が、その行動原理は極めて単純であるがゆえに、御しやすいこともまた事実。
あの男とて、それを承知でアレイスターとビジネスを行っているのだろうから。
『第二次製造計画、及び第三次製造計画。あの男にただでくれてやるには少々惜しくはあるが、
将来のイレギュラーを考えると、むしろ安いと考えるべきか』
元々、来るべきプランの実行までは、『妹達』はただ存在し続けてくれればいいのだ。
実験材料にされようが、人並みの幸せな暮らしを送ろうが、生命を維持し続けているのならばそれでいい。
ただでさえ、『計画』を致命的に遅らせるイレギュラーの処理に追われているのだ。
少しでも不安材料は消してしまうに限る。
『やはり、イレギュラー対策に首輪をつけた飼い犬は必要だな』
今回はここまでです
アレイスター相手にすら渡り合える旅掛さんのカッコよさは異常だと思います
このSSでは万分の一も引き出せてませんけどorz
そろそろ春休みも終わりに近づき、大学の新学期が始まるので少しペースが遅くなるかもしれません
ですが必ず続けますので、ご応援いただけると嬉しいです
アレイスター相手にすら渡り合える旅掛さんのカッコよさは異常だと思います
このSSでは万分の一も引き出せてませんけどorz
そろそろ春休みも終わりに近づき、大学の新学期が始まるので少しペースが遅くなるかもしれません
ですが必ず続けますので、ご応援いただけると嬉しいです
乙乙
毎回楽しみに待ってます
旅掛さんマジパパン
寄り添って眠る御坂姉妹想像すると鼻血が止まらない
毎回楽しみに待ってます
旅掛さんマジパパン
寄り添って眠る御坂姉妹想像すると鼻血が止まらない
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