私的良スレ書庫
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元スレ美琴「極光の海に消えたあいつを追って」
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姫神は普通に巨乳だよね
あれくらいにならいいけどそれ以上になると正直気持ち悪い領域に入ってくるな
あれくらいにならいいけどそれ以上になると正直気持ち悪い領域に入ってくるな
巨乳属性や貧乳属性が蔓延る禁書世界で並乳というのはむしろ貴重なはず!
やったね姫神さん個性が増えたよ!
やったね姫神さん個性が増えたよ!
>>704
モブキャラだよ
モブキャラだよ
「心が覚えてる」の想いの解釈はなんでもいいから、
このSSの上条さんに初代と二代目の想いが受け継がれていればいいなぁ。
とても面白い作品だから余計にそう思った。なんていうか報われて欲しい。
このSSの上条さんに初代と二代目の想いが受け継がれていればいいなぁ。
とても面白い作品だから余計にそう思った。なんていうか報われて欲しい。
ひめがみはインなんとかさんより空気だよね
てか、
saga
をメール欄に入れて投稿してほしい
てか、
saga
をメール欄に入れて投稿してほしい
>>709
えっ
えっ
>>680だけわざとsagaつけなかったのがわからないのか
わかった上でそれでも小萌先生の歳を知りたくてそんな戯れをしてしまった>>709 をわたしは応援している
食蜂さんお披露目きてたな
巨乳美少女で能力の効かない美琴に興味があるって設定だた
巨乳美少女で能力の効かない美琴に興味があるって設定だた
やっぱり序列が上位なだけあって効かないんだな
どういうメカニズムで能力を阻害してるんだろう
さらっとネタバレされてその話に乗っかっちゃってる訳だけども
どういうメカニズムで能力を阻害してるんだろう
さらっとネタバレされてその話に乗っかっちゃってる訳だけども
>>715
あれじゃね?自分だけの現実の問題じゃね?たしか精神の制御法でもあったし
あれじゃね?自分だけの現実の問題じゃね?たしか精神の制御法でもあったし
電磁シールドできかないって描写はあったな
ほんと便利だな電磁シールド
ほんと便利だな電磁シールド
こんばんは
一週間も開けてしまってすみません
何もない日が週に一回もないとかマジ死ぬ
ついに食蜂さん完全解禁の時が……!
何この可愛い子、オリキャラで出すの一月早まったなぁ
では今日の分を投下していきます
一端覧祭一日目のお話です
一週間も開けてしまってすみません
何もない日が週に一回もないとかマジ死ぬ
ついに食蜂さん完全解禁の時が……!
何この可愛い子、オリキャラで出すの一月早まったなぁ
では今日の分を投下していきます
一端覧祭一日目のお話です
12月1日。
今日から一週間、学園都市では『一端覧祭』が開催される。
100万単位の学生たちが一週間もの間盛大に文化祭を繰り広げるという、大覇星祭と並ぶ学園都市最大のイベントの一つだ。
進学者を募るオープンキャンパスも兼ねていて、名門校の経営陣は他校との誘致合戦にしのぎを削っている。
もちろん学生たちにそんな事情はどうでもよく、遊ぶもよし、楽しませるもよし、とにかく大はしゃぎの一週間だ。
浮かれるのは学生たちだけではない。
例えばアミューズメント系を研究する企業などはここぞとばかりに試作品を投入してくるし、
映像技術系の企業は学生たちの出し物に無償で技術提供をし、代わりに実地データを収集しようともする。
ただでさえおかしな食べ物が多い学園都市も、この時ばかりはいつも以上のカオスっぷりを発揮したりもするのだ。
要するに、人が大量に動けばそれはデータを集め研究を推し進めるチャンス。
非常に学園都市らしい発想である。
「……ま、あなたには関係ない話だよねぇ」
「……誰に言ってンだ?」
なんでもない、と呟き番外個体はノートパソコンに視線を戻す。
数日前、一方通行が拾ったデータチップの解析をやらされているのだ。
一端覧祭初日の午前中、こんな時間に入院患者の見舞いに来る人間などいない。
その隙を突いて、一方通行はこの病院を訪れていた。
「というかさー、第一位の演算能力を活かして暗号解除とかできないわけ?」
「並のハッカー以上の事は出来ねェ。そういうのは電撃使いの十八番だろォが」
「んー、ミサカにゃどうもあなたが面倒臭がってるようにしか見えないんだけどねぇ」
そう呟く間にも、番外個体の指はキーボード上でなめらかに動いて行く。
それを見つつ、一方通行は朝飯代わりのフライドチキンをかじる。
「んあー、良い匂い。ミサカもお腹ぺこぺこなんだけど。一本よこせ」
「解析が終わったらくれてやる。その前に俺が食い終わってなければの話だがな。
というかきちンと朝飯食ったンだろォ? まだ昼にもなってねェぞ」
「ひどいクライアントだこと。ミサカ使いが荒いね、まったく。
最終信号に向ける愛情の万分の一でもこのミサカに向けて欲しいもんだよ。
ここの病院食は美味しいんだけど、ミサカにはちょっと少ないかな」
軽口を叩きながら、番外個体は一方通行を軽く睨みつけた。
当の一方通行はどこ吹く風である。
「……そういや、あのガキがいねェな」
「あなたが来るなんて聞いてなかったからねー。芳川と一端覧祭を見に行ったよ」
「オマエは行かないのか?」
「わざわざ人ごみの中に突っ込むなんて勘弁。どうせ明後日お姉様と回る約束してるし」
「オリジナルと?」
「そ、このミサカと、最終信号と、お姉様。洋服見たり、新作ゲーム見たりの予定」
「……そォか」
一方通行はコーヒーを一口すする。
「いいンじゃねェの? せいぜい楽しンでこいよ」
「うわ何その似合わないセリフ、気持ち悪いな。ちょっとお手洗い行って来ていい?」
「うるせェ」
その時、ノートパソコンの画面を見ていた番外個体が顔を思い切りしかめる。
「あっちゃー、お手上げだよコレ」
「どうした?」
「見てよコレ」
番外個体はクルリとノートパソコンを回し、画面を一方通行へと向ける。
そこに映っていたのは、生体認証を求めるアラート。
「これがどうかしたのか?」
「これはさすがにムリ。ミサカの能力じゃこれは誤魔化せない」
「能力をフル活用してもどうにもなンねェのか」
「ならないと思うよ。英数字の羅列ならともかく、虹彩や指紋の生体認証は要求されるデータ量が多すぎる。
しかも組み合わせの上限が定められた英数字と違って、正解の影も形も見えないと来た。
対能力者防御システムすら欺けるお姉様ならともかく、このミサカでどうにかなるものじゃないよ」
「ダメ元で試してみたらどうだ」
「やめときなよ。認証に失敗したら『オメガシークレット』発動っぽいし。発動しちゃったら解読まで200年はかかるよ。
『250年法』を使ってでも解読したいなら話は別だけど、そのころには『第五百次製造計画』くらいまで進んでたりしてね。
そのころにはアップグレードを重ね続けた最新のミサカはどんなふうにになってるか、ちょっと興味はあるけど。
アニメみたいにサイボーグ化されて、目からビームが出たり、肘から先がロケットパンチにでもなってたりして?」
「……笑えねェ冗談だ」
今の技術力でも容易に達成できそうで困る。
『オメガシークレット』を持ちだしてまで守りたいものが、このデータチップには収められている。
急いてこれを無為にするようなことだけは避けねばならない。
「……この認証に使われてるデータが誰のものか、割り出せないか?」
「探し出して"協力"でも仰ぐの? 簡単に分かっちゃったら認証の意味がないと思うんだけどねぇ」
そう言いつつも、番外個体はキーを叩く。
ほどなくして、訝しげに眉をひそめる。
「あっさり見つかっちゃった、というか簡単すぎて逆に"あからさま"って感じで怪しさ満点なんだけどさ。
親御さん、どう判断する?」
データチップの中に、暗号化されたデータと一緒に収められていた画像。
ツンツンの金髪にサングラスという出で立ちの人物のデフォルメ画像だ。
「…………土御門の野郎か、これは? なンであいつのアイコンが入ってやがンだ」
「お知り合い?」
番外個体の声は無視して、一方通行は思案する。
安直に考えれば、これは土御門がばらまいたものなのだろうか。
ロシアへ行く直前、『グループ』の連中と連絡を取るための手段は全て潰した。
彼が何かの情報を持っていて、一方通行と接触を取りたいがためにわざわざ回りくどいことをした?
あるいは何者かが罠を張っていて、そのために元同僚の土御門の画像を利用したのだろうか?
「……何にせよ、『グループ』に接触してみる必要がありそうだな」
同時刻。
御坂美琴と白井黒子は、『学舎の園』の前で友人たちと待ち合わせをしていた。
大覇星祭でも公開されなかった『学舎の園』も、オープンキャンパスを兼ねる一端覧祭ではさすがに公開せざるを得ない。
ただし、男子禁制は相変わらず。
このゲートを越えて男性が足を踏み入れることを許されるのは、入学式と卒業式、授業参観があるときの父兄のみという徹底ぶりだ。
そんなわけで、普段の三倍増しの人口(ただし全て女性)の雑踏の中を、二人は今か今かと待ちわびていた。
「……二人とも、遅いわね」
「やはりこの人ですから、思うように動けていないのかも知れませんわね」
見渡す限り人、人、人、その99%が女子の制服だ。
この周辺では規制が行われていて車道に人がはみ出るような事態にはなっていないが、
大通りなどでは歩行者天国を実施して出店を並べているような区域もある。
当然、それに併せて学区内を巡回するバスの運行も影響を受けている。
「電話してみようかしら?」
「その必要はないですよ!」
美琴の呟きに、側面から応答があった。
息を切らせた初春飾利と佐天涙子の姿だ。
「お、お待たせしました~~!」
「やはりバスも遅延してますの?」
「そ、そりゃあもう、バスも遅れに遅れて。これでも10分前に着くようにバスに乗ったんですよ?」
「お疲れ様。さっそくだけど、混む前に移動しましょうか」
「じゃあ、私たち行ってみたいところがあるんです!」
「どこ?」
美琴の促しに、初春と佐天は声を合わせて答える。
「「常盤台中学!!」」
女性限定とはいえ、学舎の園が在校生の招待状なしに一般開放されるのは一端覧祭の期間中だけである。
そのため、普段は閑静な街並みも、今は女生徒達で溢れかえっている。
「……以前とは比べ物にならないくらいの人の山ですねー……」
「風紀委員の計測では、例年一日当たり学舎の園に所属する学生の5倍以上の来訪者がいるそうですの」
「皆初春みたいにお嬢様にあこがれる人ばかりなのかな―?」
「ひっ、人をおのぼりさんみたいに言わないでくださいっ!」
「あはは、この中にしかないお店もあるからね。この機に見てみたいって人もいるんじゃない?」
「街の綺麗さに驚き、そしてものの値段を見てさらに驚くってわけですね?」
「……そんなに中と外で物の値段って違う?」
「ゼロの数が一個二個違うってのは学生には大きいですよ?」
「……なんですと」
お見舞いのケーキの値段を明かした時の上条の表情にも納得がいく。
やはり、自分たちは金銭感覚がどこかおかしいのかもしれない。
普段ならば人ごみなどない広い道を、肩を押し合いへしあいしながら進む。
「……だけど、うちの学校なんてなんの面白みもないと思うけどなぁ。
うちのクラスなんて、それぞれが書いた論文を掲示してあるだけよ?
黒子のところはなんだっけ?」
「わたくしのクラスはステッチ細工の展示ですの」
「あー、なんか部屋でもちくちくやってたわね」
「……佐天さん、この人たち本当の意味で"文化"祭してますよ!?」
「私たちのところとは大違いなんですねぇ」
学校の特色は出し物にも表れるらしい。
お嬢様学校の二人に対し、ごくごく平凡な学校の初春と佐天は苦笑いだ。
「二人のところは何をやるの?」
「ごくフツーな事ですよぉ。うちのクラスはお化け屋敷です。ねぇ、初春?」
「そうです。学生がやるようなちゃちなものですから、お二人のところと比べちゃうと」
「そんなことないわよ。楽しそうじゃない。ねぇ黒子、明日見に行こうよ」
「ええ、楽しみにしておりますの」
「あはは……しょぼくてもがっかりしないでくださいね」
こういうことなら、学舎の園を初日に見て回るのはやめておいたほうが良かったかもしれない。
初春と佐天はちょっとだけ後悔した。
「ほら、ここが常盤台中学よん」
「「うわぁ……」」
感嘆の声を漏らす初春と佐天の前にそびえるのは、二人の通う柵川中学校よりも遥かに広大な敷地と校舎を誇る、常盤台中学校。
石畳の道路と大理石の建物はさながら西洋の豪邸と言ったありさまで、『五本指』の名に恥じぬ威厳をたたえていた。
「ここがお嬢様たちの総本山……!」
「外部寮も素敵だったけど、校舎はもっと凄いですね……!」
「ほらほら、来校者用の入り口はこっちよー」
初春と佐天には輝いて見える見上げるような大きさの校門を、美琴と白井はごく普通に入っていく。
二人はその後を慌てて追いかけた。
「ちょ、ちょっとくらい浸らせてくれてもいいじゃないですか」
「校門や外観だけで浸ってどうするの。これからその中に入るのよ」
「まだちょっと心の準備が……すー、はー、すー、はー」
「深呼吸までしなくとも……」
「ああ、常盤台中学の空気に含まれるお嬢様成分が私の体の中へと取りこまれていく……!」
「初春、ミョーちきりんなことを言ってないで、行きますわよー」
石畳を渡り、一同は来校者用の玄関へとたどり着く。
大きく開かれた厳めしい扉の横には、「一般開放」の文字が。
ごくりと息を飲む二人に、美琴はにこりと笑いかける。
「初春さん、佐天さん、常盤台中学へようこそ!」
外観から見て分かるように、内装も瀟洒な純西洋風になっている。
教育施設らしからぬ装飾過多な面はあるが、それが『学舎の園』の空気と言うものなのだろう。
天井の彫刻に見とれ、壁に掛けられた絵画にうっとりし、もの珍しそうにあたりを見回す二人に、美琴が問いかける。
「まずは、どこから見て回ろうか」
「「全部!!」」
「……だよね。そういうと思ったわ」
「では、順番にまいりましょう」
美琴を先頭に、順番に教室を巡って行く。
普段自分たちが通う校舎に、他校の制服を着た女生徒がいると言うのは何とも不思議な気分だ。
その多くが、美琴を見ては何やら隣の人と何かをこそこそ話す。
「見て、御坂美琴よ」
「あの『超電磁砲』……」
「御坂さんを生で見られるなんて……」
「常盤台に来て良かったわ」
「あ、あはは……」
何やら自分も常盤台中学の名物扱いされているようで、表情を崩すこともできず、美琴はただ作り笑いを浮かべている。
「やっぱり御坂さんって有名なんですね……」
「それはもう、『常盤台のエース』ですから」
白井は誇らしげに胸を張る。
「佐天さん! これ見てくださいよ! これも、ぜーんぶお砂糖ですよ! あ、今回は食べちゃだめですからね!」
「分かってるって、初春はしつこいなー」
展示品の砂糖細工を見てはしゃぐ初春に、佐天が苦笑する。
おとぎ話の一ページを切り取ったようなヴィネット。その全てが砂糖で出来ている。
「これは『赤ずきん』かなぁ」
「こっちは『白雪姫』ですよ!」
「黒子、これはなんだと思う?」
「……『塔の上のラプンツェル』でしょうか」
高い塔の最上階から美しく長い金髪を垂らす少女がラプンツェルだろう。
塔の下では男性が少女を見上げている。
「良くできてるわよねコレ。でもお砂糖だから長くは持たないんじゃないかなぁ」
「ですから、日替わりで展示するヴィネットを変えますのよ、御坂さま」
話しかけてきたのは、展示品を飾っているこのクラスの生徒。
「いくら熱の出ないライトを使い、部屋の温度や湿度を低くしていると言っても限度はありますし。
一人数点を作成して、それで一週間ローテーションで飾る事にしていますの」
「やっぱり悪くなっちゃうのよね。アリとかも来そうだし」
「そのあたりはデリケートに防虫していますので、あまり問題にはならないのですけれどね。
あ、別の日には飴細工の即売会も予定していますので、御坂さまやご友人がたもよろしければ、ぜひ」
差し出されたチラシを受け取り、友人たちと眺める。
飴細工の簡単な製作工程と共に、「リクエストにお応えして目の前で色々な飴細工をお作りします」の文字が。
「御坂さん! 私! ぜひ! 参加してみたいです!」
「面白そうだけど……うーん、私どの日程も他に予定あるのよね……」
飴細工の即売会が予定されている日付は一端覧祭の三日目、五日目、七日目。
どれも既に予定が埋まっている。
目の前でゲコ太の飴細工を作ってもらうと言うのは、悔しいが諦めるほかない。
「ではわたくしがご案内しますの」
「ごめんね、二人とも」
「いえいえ、お気になさらず」
「そうですよ。デートのほう、頑張ってくださいね!」
「えっ、いやあの、なんで知っ……! じゃなくて、そんなのじゃないわよ!?」
虚を突かれ、思わずボロを出しかける。
慌てて取り繕おうとするが、後の祭り。
「カマをかけただけなんですけど……」
「み、御坂さんがデート……ふえぇぇぇえぇぇ~~ッ!?」
「だーかーらー、違うって! 違う人と約束があるんだって! はっ!?」
暗い怨念を背後に感じ振り返ってみれば、そこには死んだような目で何かを呟く黒子の姿が。
「……あの類人猿め、いつの間に…………いつか[ピーーー][ピーーー]コロスコロスコロス……………………」
「違うって言ってんでしょうが聞けこのド馬鹿ッ!!」
「……『外』から従姉妹の方々がいらっしゃるのでしたらそうとおっしゃってくださればいいのに」
「あんたが聞こうとしなかったからでしょ!」
制裁を受けひりひりと痛む頭を押さえ、白井は独りごちる。
結局、打ち止めや番外個体と遊びに行くことは「従姉妹と遊ぶ」と誤魔化した。
隠すつもりはないとはいえ、デリケートな問題だ。
明かすには綿密に計画を練る必要がある。
ちなみにデートに関してはなんとかうやむやにすることに成功した。
「お姉様の従姉妹ということは、お姉様に似ていらっしゃる……?
……黒子も、黒子もぜひ混ぜてくださいまし!」
「アンタその日は風紀委員で遊べないって言ってたでしょうが。職務放棄で固法先輩に言いつけるわよ」
「そ、そんな殺生な……」
「それよりも、次はどこに行こうかしら?」
美琴と白井のいつものやり取りに呆れかえっていた初春と佐天を振りかえる。
「私、プールでやってる『氷の城』っていうの見に行きたいです!」
「じゃあ、それで決まりね」
屋外のプールには既に見物客がたくさんいた。
50mプールのあった場所にそびえたつのは、見上げるような大きさの氷の城だ。
「……どれだけの量の水を使ったんですの」
明らかにプールに入っていただろう水の容積をオーバーしている。
よくもまぁ許可が出たものだ。
「そもそもどうやって作ったんでしょう、これ」
「水流操作系の子と、熱量操作系の子のコラボレーションですのよ」
話しかけてきた少女の顔を見て、白井は「うげ」と眉をひそめる。
本来なら白井と同じ反応をとるはずだった美琴は、何故か親しげに声を返した。
「こんにちは、食蜂さん」
「ごきげんよう、御坂さん」
長く艶やかなシャンパンゴールドの髪を揺らす少女、『心理掌握』。
いつも漂わせている高飛車な雰囲気はなく、何故か嬉しそうな笑顔を浮かべている。
「これがあなたの"派閥"の出し物なの?」
「ええ。ただこれを見てはしゃいだ男の子が中で足を滑らせて転んでしまって……。
そんな事情があって、中には誰も入れないようにしていますの。
……そちらの方々は、御坂さんのご友人?」
「そうよ。白井黒子……は知ってるわよね。こちらは初春飾利さんと、佐天涙子さん」
「初めまして」
「よろしくお願いします」
「これはどうも。食蜂操祈(みさき)と申します」
彼女にしては珍しく、にこにこと笑いかける。
自分の派閥の出し物に美琴が来てくれたことがよほど嬉しいのかもしれない。
「『心理掌握(メンタルアウト)』と言った方が、通りが良いかもしれませんの」
「御坂さんと同じ、もう一人の常盤台のレベル5の……?」
「ええ。僭越ながらレベル5序列第五位、『心理掌握』を拝命しております。
それと、常盤台中学の最大派閥の長も務めさせていただいておりますの」
「『派閥』……ですか」
「仰々しい名前はついていても、実体としては同好会やサークル活動の延長と言ったところでしょうか。
例えば同じ系統の能力者、同じ趣味、同じ専攻。そういった方々が集まって、一つの集合体を形成していますの。
そして共に語らい、学び、高め合う。そのような集まりのことを『派閥』と言います」
お嬢様学校には、一般人には良く分からない風習があるらしい。
食蜂の説明を半分も理解しないまま、興味は氷の城へと移る。
「水流操作系の能力と、熱量操作系の能力を組み合わせたらこのお城を作れるんですか?」
初春が興味しんしんと言った様子で食蜂に問う。
「ええ。まず水流操作系の子が水を操って基本的な形を作り、そして熱量操作系の子が水から熱量を奪って氷にする……といった感じですわ。
ほら、プールサイドに立っているあの子が熱量操作系の能力者ですの」
食蜂が軽く手を振れば、館のそばに立っていた女生徒がぺこりと会釈をする。
「ただ、さすがにこれを一人ずつでやろうと言うのは無茶ですわ。
どちらの能力もレベル3~4相当の子が何人もいて、初めて為し得たことです」
「……『女王』サマは、何もなさっておられないようですの」
「わたくしの仕事はこの館の図面を引いたり、館を作る担当の子たちの意識を繋げてクリアに意思疎通ができるようにすることですの。
……まあ、メインの役どころではないことは確かですわね」
内装もとても凝りましたのに……。と食蜂は呟いた。
「中も見てみたかったなぁ」
「きっととても素敵だったんでしょうねぇ」
「後日、内装の写真を展示することにしましたので、よろしければぜひ」
氷の城に興味しんしんの佐天や、城を冷やして維持している能力者に話を聞きに行った初春をよそに、美琴と白井は食蜂と話を続ける。
「そう言えば御坂さん。あなたのクラスは生徒一人一人が論文を書いていましたわね。
あなたの論文を読んで、わたくし色々と感銘を受けましたの」
上条を即座に治療するための手段が尽きた後、美琴はそれまでに調べたことを一つの論文にし、本来出すはずだったものと急きょ差し替えた。
テーマは脳の損傷による症状とその治療法についての考証。万策尽きた後もあがくのはやめたくなくて、必死に作り上げたもの。
当然医者や研究者などその道の人間からすれば失笑ものかもしれないが、それでも美琴の努力の結晶だ。
「いやぁ、アレは簡単に言っちゃうと『将来に期待』って結論のものなんだけど……」
「それでも専攻外の事柄に対して、学生としてはかなり高水準である、と研究者の方々がおっしゃっているのを耳にしましたの。
もしかしたら、卒業後を見据えてそういう方面からオファーが来るかもしれませんね?」
「……お姉様が脳科学者、ですの?」
美琴や白井にとって、一番身近な脳の研究者と言えば木山春生が思い浮かぶ。
目の周りにクマを作り、いつでもくしゃっとした白衣を纏う姿は、活発な雰囲気の美琴とは似ても似つかない。
「お姉様が木山春生のようなお姿に……おいたわしいや
「こらこら失礼なことを考えないの。この間会ったけどずいぶん雰囲気変わってたわよ?
それに、将来の職業なんか考えたことないし」
「あら、それはくだんの殿方の元に永久就職する予定だからでしょう?」
くすくすと食蜂が笑う。
ぴしっと凍りつく美琴の首元を、目を血走らせた白井がぐわんぐわんと揺らす。
「お姉様今の『心理掌握』の言葉はどういうことですのやはりあの方とはそういう仲ですの畜生あの類人猿今すぐ駆除してやるぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
「落ち着けド馬鹿!」
暴走する白井の襟を掴み、軽く電流を流す。
食蜂はそんな二人を愉快そうに見つめていた。
氷の城を堪能し、食蜂と別れた四人は再び校舎の中へと戻っていた。
「ねえ、お腹すかない?」
「そう言えばもうすぐお昼ですね」
「私、常盤台の学食に行ってみたいです!」
「学食ねぇ」
「学生食堂と言うより、カフェテリアですの」
「お嬢様学校のお昼ご飯って、どんな感じなんでしょう!」
「じゃあ、混む前にお昼ご飯にしましょうか」
常盤台中学のカフェテリアは、広大な敷地に少ない学生数という特色を利用し、かなり優雅な作りになっている。
一般的に学生食堂と言われて思いつくように多人数がけの長テーブルが所狭しと詰め込まれているのではなく、
6人がけの丸テーブルが間隔を開けて50ばかり並べられていた。
もちろんその調度品の一つ一つが恐ろしいほどの価値を持っていることは言うまでもない。
超一流のお嬢様学校とくれば、超一流の食事を食べているに違いない。
そう考えた人は多いのだろう。
常盤台中学を訪れたついでに、学食でおいしいものを食べていこう。
そう考えた人でカフェテリアは一杯だった。
ただし、席についているのは常盤台や学舎の園内部の制服を着た学生ばかりで、一般の見物者の多くはメニューを見てうなだれ、きびすを返してしまう。
というのも、
「……パスタ一皿、3000円……だと……?」
味も超一流なら、お値段も超一流なのである。
もちろん、これは学生食堂であることを考慮して、限界まで下げられた値段だ。
学舎の園の中の物価を考えればむしろ破格ですらある。
佐天は財布の中をのぞく。
その中には樋口一葉が一人、野口英世が三人。あとは小銭ばかりだ。
メニューを見つつぶるぶると肩を震わせる佐天と初春。
純然たる庶民の子である二人には、昼飯一食程度にぽんと出せる額ではない。
「ゼロが一つ多くないですか……?」
「そう? これでも学校の外のお店に比べたら安い方よ」
「校外で食べれば一食5000円くらいは軽く飛びますの」
「佐天さん……私たちはとんでもない所に足を踏み入れてしまったようです……」
「所詮私たちは一般庶民A、Bにすぎないと言うことなんだね……」
「ほ、ほら、大皿の料理を頼んで皆で分ければ大丈夫よ!」
「テーブルの皆で分けられようなメニューもありますのよ」
よよよと泣き崩れる初春と佐天に、美琴と白井は慌ててなだめるように言うが、その時。
「……おや、懐かしい顔ぶれじゃないか?」
声の先には、両手に盆を抱えた木山春生が立っていた。
「木山せんせい、どうしてここに? というか、その両手いっぱいの料理は……?」
「……友人たちと一緒に来たんだが、緊急の用とやらで帰ってしまってね。もう料理を注文した後で途方に暮れていたんだ。
まだ手もつけていないし、まだ何も頼んでいなければ、良かったらこれを食べてくれないか」
木山はそう言うと盆をテーブルの中央に置く。
大皿に乗ったピザやパスタなどは未だ湯気が上っている。
「いいんですか?」
「構わないさ。どうせ食べきれなさそうで困っていたんだ。
君たちが食べてくれるなら私も助かるよ」
「では、遠慮なく。いっただきまーす!」
四人は一斉に料理に手を伸ばした。
あっという間に料理が無くなっていく様子を、木山は楽しそうに眺める。
「おいしーい!」
「御坂さんも、白井さんも、毎日こんなおいしいお昼を食べてるなんてずるいですよ!」
「そんなことを言われても困りますの……」
「カフェテリア形式も毎日何を食べようか迷うんだけどね。給食だとその辺考えなくて良い気もするんだけど」
「給食は栄養士が栄養バランスと食材の偏りを考えて作っているからな。
小さい子も食べるものだし、毎日同じものが出ると飽きてしまうこともある。だからバリエーションが豊富なんだ」
「さすが教師、詳しいんですね」
「……昔取った杵柄、というやつかな」
木山は少しだけ、寂しそうに笑う。
「ところで、木山せんせいは前よりずいぶんと雰囲気が変わりましたよね」
今日の木山は白衣姿ではなく、教師が着るようなグレーのスーツを着ている。
短くした髪といい、以前の疲れた研究者然とした格好の時とは全く異なって見える。
「あのあと色々考えてね。枝先を始めとして、意識不明だった子供たちも助けられることができた。
そろそろ、私も新たな人生を歩み出そうかと考えているところなんだ」
「ひょっとして、結婚でもするんですか!?」
「「「結婚!?」」」
佐天の言葉に、残る三人も驚きの声をあげる。
が、木山は疲れたようなため息をついただけだった。
「……残念ながら、私にはそういう浮いた話はないな。
日がな研究室にこもる女に言い寄るもの好きな男性がいるとも思えないし。
私が考えているのは、転職するか、このまま研究員を続けるかと言うことなんだ」
「この間言ってた、『教員免許を取ろうとしてる』って話?」
「わぁ、きっと春上さんも枝先さんも喜びます!」
「教育課程を取り直すつもりだから、何年先になるかはわからないがな……。
それに今は並行して、新たな教材作りの研究もしていてね」
「どんな教材なんですの?」
興味深そうに尋ねた白井に、木山は少しだけ口角を上げて答えた。
「『幻想御手』の仕組みを応用した、能力開発のための教材だよ」
とたんにテーブルの雰囲気が暗くなる。
『幻想御手』。
その言葉に凍りついた少女が一人。
かつてそれを使用した、佐天涙子。
脳波の同調を使用者に強制し、昏睡状態に至らしめた『幻想御手』。
自分の能力を強くしたいという欲望に付け込んだこのアイテムは数万人規模の被害者を出した。
今更、そんなものを研究するなんて。
いっせいに眉をひそめた四人に、木山は「しまった」と言いたげな顔をする。
「今の言い方は語弊があったな……。『幻想御手』の仕組みと言っても、実体は全く異なるものだ。
大丈夫、他人の脳波を強制しようというものじゃないよ」
「……一体、どんな仕組みなんですか」
「うーむ、研究段階で守秘義務もある事だしあまり突っ込んだことは話したくないのだが、納得してくれそうにないしな……。ここだけの話と言うことで頼む。
……君たちはあの事件の収束後、『幻想御手』使用者の一部に能力強度の上昇が見られたという事象を知っているかな?」
「ワクチンを使って、『幻想御手』を解除した後もですか?」
「そう。最初はいまだ『幻想御手』が解除できていないのかと思ったらしいのだが、脳波を計測しても正常。数日経っても倒れない。
しばらく医者や能力開発担当者も首を捻っていたらしいんだが、しばらくして学生たちの言葉からヒントが得られてな。
『一度高レベルの能力を経験したからか、高度な演算式が以前よりスムーズに組み立てられるようになった』と。
今作っている教材は、そこに着目したものなんだ」
「でも、他者との脳波リンクは行わないのよね?」
「ああ、演算能力に関してはスパコンで補う。機材でどうしても場所を食ってしまうが、安全性を考えれば仕方あるまい。
それよりも問題は『自分だけの現実』の補完による能力強度の強化なんだが、こっちが大変でな。
『学習装置』で他者の『自分だけの現実』を植え付けることはできるが、そうすると問題が出てくる。
植え付けられた『自分だけの現実』と本来持っていた『自分だけの現実』が入り混じって、大変なことが起きてしまうんだ」
「……それでは、その問題がクリアできない限り、教材の開発は行えないのでは?」
白井が訊ねる。
当然の質問だ。
超能力者の能力は、『自分だけの現実』と、それを表現するための演算式を紡ぐ『演算能力』によって強度が決まる。
『自分だけの現実』がどれだけ強固であろうとも、『演算能力』がどれだけ卓越していても、一方だけでは強い能力は発揮できない。
木山の言った問題が解決されなければ、教材としては使い物にならないのではないか。
「それが、技術の進歩によってその問題が解決できるかもしれないというところまできたんだ。
君たちは『駆動鎧』を知っているかな?
その最新モデルの技術が問題の解決の為に転用できそうなんだ」
「駆動鎧が?」
四人の頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。
脳を開発する能力開発と、体の動きを補助する駆動鎧。この二つの技術が結びつくとは考えにくい。
「『マインドサポート』という、まだ一般には未公開の新しい技術があるんだ。
装着者の脳とリンクして、知識や技術を一時的に外部から引き出せるようにする、といったものかな。
脳に直接情報を書き込むわけじゃないから危険性はほとんどないし、リンクを切断してしまえばそれまでだ。
元は操作の複雑な駆動鎧を適切に動かすための技術だが、代わりに高位能力者の演算パターンを入れることで、なんとかなるのではないかと思ってな」
マインドサポートを使って自分だけの現実を高位能力者の演算パターンで補正し、スパコンで演算能力を補う。
そうすることで、低位能力者でも擬似的に強い能力を使うことができる、かもしれない。
「あくまでこれは高レベルの能力者の制御法を擬似的に体験することで、自身の能力の制御法のヒントを得てもらおうと言うものだ。
能力の向上は使っている間だけだし、盗み出したところで持ち運びできるほどの大きさでもない。
よこしまな目的の為に作った『幻想御手』だが、その仕組みを子供たちの為に役立てて貰えたらと思ってね」
「木山せんせい! 私でも、それを使ったら能力伸びますか!?」
鼻息荒く詰め寄ったのは佐天だ。
四人の中で、唯一のレベル0。そして『幻想御手』に手を出した少女。
自身の能力へのコンプレックスはいかばかりか。
「残念ながら、まだデータ不足でね。
普遍性を求めるのならば様々な系統の『高位能力者の演算パターン』のデータが必要なのだが、順調に集まっているとは言えないんだ。
実を言うと、『学舎の園』を訪れているのはそのためなんだよ」
「常盤台中学は高位能力者がたくさんいるところだから、ここで協力者を募ろうってことですか?」
「そういうことだ。きちんと学校側からも許可を得ているよ。あくまで参加してくれるかどうかは自由意志だけれどね。
……何と言ったかな。君たちのお友達の、『空力使い』の子も快く協力してくれるそうだ」
「婚后さんですか?」
「そうそう、そんな名前だった。
……良ければ君たちも協力してくれないか。
演算補助の為のサンプルデータは多いほど良いんだ。
使用者の特性に合わせて、最適なものを選べるからね」
「……どうします、お姉様?」
「うーん……」
美琴は深く考え込む。
きっと、『妹達』のことを知る前でなければ、彼女はすぐに快諾していただろう。
だが、あの一件で『善意で提供したものが思わぬ悪意の温床になりえる』ということを、美琴は知ってしまった。
提供したDNAマップからは『妹達』が作られた。
演算パターンからは何が生まれるのだろう?
そう考えてしまうと、二の足が出なくなる。
「……その教材作り以外には、絶対使わないわよね?」
「使わない。決して他の事に流用したりはしないよ。
……もっとも、あまり信用もないだろうしな。こればかりは信じてくれとしか言えないが」
木山は『妹達』のことを知っているし、美琴の懸念が何であるかも分かっている。
だから喉から手が出るほど欲しい『レベル5の演算パターン』であっても、強くは迫らない。
やや考え込んで、美琴は首を縦に振る。
「……分かった。私なんかでよかったら協力するわ」
「お姉様が協力するのでしたら、わたくしも」
「本当か! 良かった。
では今すぐにでも……と言いたいところだが、せっかくのお祭りを潰されたくはないだろう。
いつでも良いから、私の研究室を訪れてくれると助かる」
「ええ。じゃあ近いうちに」
「せんせー! 私は演算パターンのほうじゃ協力できないけど、実験台のほうに志願してもいいですか?」
「木山せんせい、私も私も、ぜひ体験してみたいです!」
「ふむ、では教材の安全性が確認できたら、君たちにテストしてもらおう。
……ただ、これはあくまで能力開発のための補助教材だ。
これをアテにして、自身の能力の研鑽をおろそかにしてはいけないぞ」
「……あはは、痛いところを突かれちゃったな……」
佐天は苦笑いし、頬をかく。
「……それにしても、同じ『幻想御手』を使ったのに、能力が伸びた人と伸びない人がいるのはどうしてなんでしょうね?」
「それに関しては、いくつかの条件があると推測されている」
木山は人差し指を立てる。
「一つは、演算能力は十分にあるのに、『自分だけの現実』が希薄なために持て余していた子。
他者の演算パターンを真似たことで、『どうやって能力を使うのか』ということを覚えたというところだろうか」
ついで、中指を立て、
「もう一つは、『自分だけの現実』は強固なのに、演算能力が足りなくて十分に能力を発揮できなかったという子。
こちらも似た感じかな。他者の演算式を取り入れたことで、自分の演算能力で効率よく力を発揮できるような演算式を構築できたのだろう。
そのどっちかに当てはまった子の能力が、どうやら多少向上しているらしい、と」
「つまり、私はそのどちらにも当てはまらないってことですかぁ~~……」
ぐてーっと佐天はテーブルの上に突っ伏す。
自分ももしかしたら!? という希望的観測が打ち砕かれたのがショックだったようだ。
「出力が上がる、と言っても、レベルが変動するほどのものではないよ。
あくまで行き詰っていた能力開発が少し先へ進んだと行ったくらいのものだ。
……君は、まだ『幻想御手』を使った時の感覚を覚えているかな?」
「……はい」
忘れはしない。
きっと忘れられない。
半ばあきらめていた能力が、この手によって発動した時の興奮と快感は忘れられるものではない。
今思い出すだけでも、心が躍る。
『幻想御手』が解除されて、能力が使えなくなって、それからは能力を使おうとすること自体なかった。
どうせレベル0の無能力者だから、と諦めていた。
でも、もしかして、自分はもの凄くもったいないことをしていたのかもしれない。
「その感覚を思い出し心に焼きつけて、もう一度頑張ってごらん。
『努力をすること自体が大事』なんて綺麗事は言わない。
でも、成功した人間はみな努力をしているのだよ。
ほら、君たちの隣にも、『努力を実らせ成功した人間』がいるだろう?」
その言葉に、白井、佐天、初春はいっせいに美琴を見る。
「へっ、私?」
「レベル1からレベル5へと駆け上がった少女……『努力の天才』と言うのなら、まさにお姉様のことですの」
「そんな大それたものじゃないわよ。ただ目の前に壁があったら、乗り越えなきゃ気がすまなかっただけで……」
「それを『努力の天才』って言うんですよ。努力するにも才能が必要だなんて、よく言いますもんね」
「だが、『努力する才能』は『意志の力』で代替できる。人間、諦めなければどうにでもなるものだよ。
超能力は意志の力、君たちの心の強さそのものを反映している。
強い力を持ちたいと願うのならば、まずはそれを御すための強い心を持たねばな」
「強い心、ですか……」
誘惑に負けず、挫折に負けず、失敗に負けず、目の前にそびえる壁を乗り越えるためにありとあらゆる手段を取れ。
その過程で築かれるのが決して折れたりしない強固な唯一無二の『自分だけの現実』。
挫折なき強者などいない。
全ての強者が最初から強かったわけでもない。
その強さには必ず、強さを裏打ちするだけの理由がある。
「……統計学的に見ると思春期、君らの年頃くらいの子が一番能力の変動が大きいんだ。
環境の変化、心身のアンバランスな成長、友人関係、そして恋愛……。
『自分だけの現実』に影響を与えるものはいくらでもある。良くも悪くもな」
能力に限ったことではない。
多感なこの時期に何をし、何を学び、何を得たのか。
それがその後の人生を左右することなど、誰だって分かっている。
ひたすらに自らを鍛えるのか。
モラトリアムとして遊び呆けるのか。
どちらにも得るものはあり、その代償として失うものもある。
"大人"の言うことが全て正しいとは言わない。"子供"の言うことがすべて間違っているとも言わない。
本当に自分に必要なものは自分で選び、つかみとらなければならない。
無茶をしても周りが許してくれるのは今くらいだ。どうせなら、一途にひたすら突っ走ってみるのも一興。
結果派手に転んだとして、その膝の傷は教訓になる。今度は転ばぬように、気をつけて走り出せばいい。
木山のそんな含蓄を含む言葉に、四人はそれぞれ押し黙る。
「……おっと、もうこんな時間か。柄にもなく、長々としゃべってしまったな。
私はそろそろ失礼するよ。今日は楽しかった」
木山はそう言って席を立つ。
彼女が立ち去った後も、四人はそれぞれ考え事をしていた。
「──いやー、今日は楽しかったですね」
木山が去ったのちも、四人は常盤台中学の見物を続けた。
本物のお嬢様が淹れる紅茶に初春が大興奮したり、美琴のクラスに掲示された論文に柵川中組が知恵熱を出したりといろいろなことがあった。
そんな楽しい時間もあっという間に過ぎ、もう完全下校時刻だ。
一端覧祭の期間中も、最終日を除き完全下校時刻は変わらない。
四人はとある曲がり角で二組に分かれる。
常盤台の外部寮へと帰る美琴や白井と、柵川中の寮に帰る初春と佐天だ。
「あはは……明日は本当にうちの学校を見に来るんですか?」
「そうよー。楽しみにしてるからね」
「あまり期待しないでくださいよ、うちは本当にフツーですから」
苦笑いする初春と佐天。
世界に名だたる常盤台中学と違い、柵川中学は本当に何の変哲もないただの中学校だ。
期待されるようなものがあるとは思えない。
「えー、やっぱ楽しみじゃない。友達が通ってるところがどんなところか興味あるもの」
「じゃ、じゃあまた明日」
「ええ、明日ね」
手を振って、美琴と白井は二人から離れて行く。
初春と佐天は苦笑いのまま、それを見送るのだった。
「……あーあ、大変なことになっちゃったな」
何度も言うように、柵川中は進学校でもないただの中学校だ。
文化祭のレベルもたかが知れている。
そんなところにお嬢様二人をお招きするなど、前代未聞の事態だろう。
「私たちも二人の学校にお邪魔したんですから、おあいこと考えましょうよ」
「そうなんだけど、それでも気後れしちゃうなぁ」
「私たちの通う学校なんですから、堂々としましょう」
胸を張って見せる初春に、佐天は苦笑する。
コンプレックス全開の自分がなんだか恥ずかしい。
コンプレックス。
無能力者と、超能力者や大能力者。
自分と、彼女らの違い。
「……超能力は意志の力、かぁ。確かに、私は意志薄弱かもなぁ」
「……佐天さん?」
唐突に脈絡のないことを呟いた佐天に、初春は不思議そうな顔を向ける。
「木山せんせいの言ってたこと。
能力が発現しないのを才能のせいにして、『幻想御手』に頼って。私って、本当は努力なんかしてなかったんじゃないかなって」
「そ、そんなこと」
「そんなことあるよ」
自分の事だ。それくらいは分かる。
上手く行かないのを何かのせいにして、他力にすがって。自分を高めるためのことなんて何もしてこなかった。
その間にも努力して成功への道をひた走る人を妬んで、羨ましがって、彼らは才能のない私とは違うんだと自分に言い聞かせてきた。
だけど。
超能力は意志の力。努力する才能は、意志の力で代替できる。
諦めることが人を腐らせる。諦めなければどうとでもなる。
ならば。
思い立ったが吉日と言う通り、人はそれを意識した瞬間に生まれ変わる事が出来る。
どんな才能を秘めようが、どんな素質を持っていようが、第一歩を踏み出さなければ開花しようもない。
佐天は自分の頬をぱぁんとはたき、突如走り出す。
「よしっ! 帰ったら早速あの時の事を思いだしながら特訓だ!」
「えっちょっと佐天さーん! 待ってくださいよー!」
「ふははははー! いっちょ"八人目"を目指してやるか―!」
佐天の頭の中の思考の流れを読めず、戸惑いながらも走り始める初春を背に、佐天は夕日の中を駆ける。
努力して成功を掴んだ人間がそばにいるのに、最初からあきらめてしまうのはただの逃げだ。
もう一度、能力開発に真面目に取り組んでみよう。
「初春、ちゃんとついてこないと置いていっちゃうぞー!」
佐天の表情は明るい。
一度決意さえすれば、その瞬間にぐんと成長できるのはこの年頃の特権だ。
だからこそ、彼女は走り始める。
「こ、転んでも知りませんからねー!?」
「ほーら、待っててあげるから早く帰ろー! もう日が暮れちゃうぞー」
「い、いきなり佐天さんが走り出したんじゃないですかー!」
「そんなこと言いつつも、ちゃんとついてきてくれる初春が私は大好きだぞー!」
「何言ってるんですか、佐天さん一人だと危なっかしいから、私がついててあげないとダメなんです!」
例え躓き、挫折したとしても、手を差し伸べ立ちあがらせてくれる大事な友人がいてくれれば大丈夫。
「ふふん、初春も言うようになったね。じゃあ仕方がない。初春の顔を立てて、お守りされてやるとしますか」
「もう、佐天さんったら!」
佐天とようやく追いついた初春が並び、沈みかけた夕陽が二人の影を長く伸ばす。
「うっし、帰ろっか!」
「ええ」
どちらからともなく手を取って、二人は寮へと帰って行った。
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