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元スレ美琴「極光の海に消えたあいつを追って」2
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・時間軸は「とある魔術の禁書目録」22巻直後から
・主人公は御坂美琴、彼女が上条当麻をさまざまな意味で追いかける話となります
・22巻発売直後での構想なので、「新約」とは大きく矛盾すると思います
・原作との乖離やキャラ設定、人間関係などの矛盾が出てくると思いますが、ご都合主義、脳内変換でスルーしてください
・初SS、それも長編なのでつたなく見づらい点などあるでしょうが、お付き合いいただけると幸いです
前スレ
美琴「極光の海に消えたあいつを追って」
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1299/12996/1299609986.html
これまでのあらすじ
第三次世界大戦後、北極海へと消えた上条当麻。
彼を探して、ロシアを旅する御坂美琴。
出会った魔術師たちと共に、苦労の末に学園都市の研究機関で治療を受けていた上条を発見する。
だがそこで知ったのは、彼の記憶喪失の悪化。
全てを忘却した上条とともに、美琴は学園都市へと帰還した。
学園都市に帰ってきた二人を待っていたのは、懐かしい日常。
上条にとっては見る物や会う人間全てが初めての経験だ。
二人は少しずつ、心地良い平穏へと戻って行く。
その裏で、悪意にまみれた陰謀が進んでいるとも知らずに。
主な登場人物
・御坂美琴
本作の主人公。
ロシアでレッサーや神裂らをはじめとする魔術師たちと出会い、苦労の末に上条を見つける。
学園都市帰還後は一端覧祭で大役を任されたり白井に妹たちの事が知られたりとおおわらわ。
・上条当麻
『ベツレヘムの星』とともに極寒の北極海へと沈み、その際の大怪我で脳の損傷が悪化し再度記憶喪失を患う。
そのことを理由にインデックスの管理者を解任される。
快復の可能性は残されてはいるものの、いまだその兆しは見えず。現在入院中で、もうすぐ退院。
・インデックス
上条が記憶障害により管理者たりえないと判断されたことでローラに学園都市滞在続行か英国帰還かを迫られ、
自分がいると上条の身を危険にさらすと考え(こまされ)、英国への帰還を決める。
「上条の事を託せる人間」として美琴に上条のことを頼み、別れを告げた。
五和にメールの打ち方を教えて貰い、今では美琴とメル友になった。
・一方通行
学園都市帰還後、黄泉川や芳川らに打ち止めや番外個体のことを頼み、闇の中へと潜って行った。
暗部の解体はいまだ行っておらず、まずは『第三次製造計画』を潰すことを最優先として定めている。
打ち止めや番外個体の見舞にはちょくちょく顔を出しており、そのたびに土産をせびられている。
・妹たち
打ち止め、番外個体、10777号を加え、冥土帰しの病院に滞在する妹たちは7人となった。
皆何度か美琴と一緒に遊びに出かけており、私服を買い与えられそちらを着用するようになった。
数名はファッションに目覚めつつある。
10777号はロシアの研究機関にいた時の名残で、「7が3つでナナミ」という愛称で美琴に呼ばれたがる事がある。
・グループ
エイワス権限以降捕らえられていたが、アレイスターから命を受けた土御門の任務遂行のために解放される。
今は『第三次製造計画』を潰すために行動中。
一方通行が抜けた穴を埋めるために、絹旗最愛が臨時メンバーとして加入している。
こんばんは、お久しぶりです
大変長らくお待たせしました
今晩より、2スレ目スタートとなります
これからもよろしくお願いします
それでは投下していきます
大変長らくお待たせしました
今晩より、2スレ目スタートとなります
これからもよろしくお願いします
それでは投下していきます
12月8日。
早朝、一方通行は身を刺すような寒さで目を覚ました。
ここは雑居ビルを借りて作った拠点の一つであり、寝られてチョーカーの充電ができればいいというような粗末な作りだった。
自分で暖房器具を運びこむのは面倒だし、業者に運ばせるのはもってのほか。寒さなど毛布でも被ればしのげるだろう。
そう考えたのが間違いだった。
「雪、か」
ロシアの大雪原ほどではないにせよ、雪が降れば当然気温は下がる。
能力を常時展開できなくなった今、考慮しておく必要があったかもしれない。
「……寒ィな。コンビニで朝飯とコーヒーでも買うか」
冷えて強張った体を起こし、財布や携帯を身につける。
その時、彼の携帯電話が鳴った。
打ち止めか、番外個体か、はたまた黄泉川や芳川か。あるいは冥土帰しか。
彼の新しい携帯電話の番号を知っているのはそれくらいだ。
大方、雪にはしゃいだ打ち止めあたりがかけてきたのだろう。
そう思い受話器に耳をあてるが、相手は予想を裏切る人物だった。
『よう一方通行、元気にしてるかにゃー?』
「……土御門か」
"グループ"の元同僚、土御門元春だった。
「どォやって俺の電話番号を割り出した?」
『おやおや、"グループ"の諜報班がそれなりに優秀だってことを、もう忘れちまったようだな?』
「……チッ」
通信を傍受されたか、あるいは通話記録を探られたか。
いずれにしろ暗部組織にとってそう難しいことではない。
『一端覧祭は楽しんだかにゃー?』
「ンなもン興味ねェよ。用件はなンだ」
『つれないねぇ。世間話を楽しむのも、世渡りの術の一つだぜぃ?』
わざとらしいため息が、電話越しに聞こえてくる。
『会って話がしたい』
「用件を話せ。話はそれからだ」
『電話では話せない。傍受される可能性があるからな』
用件の内容はアレイスターへの反逆に近いものなのか、それとも上層部に近い"闇"を相手取るものなのか。
そのどちらにせよ、今の一方通行の目的に合致する可能性は低い。
だが、以前拾った土御門元春の生体情報を使ったプロテクトをかけられた妙なチップのことがある。
会って有益な情報を得られればよし、でなければ彼の生体情報を力づくでも手に入れるまで。
そう言えば、求められた認証は虹彩と指紋だったか。
「……場所はコッチで指定させてもらう。文句はねェな?」
『構わんぜよ』
相手は集団、こちらは個人だ。
いざという時守るべき者たちを守るならば、出来る限り近くにおいておきたい。
今日は一端覧祭の終了翌日であり、"彼女"に出くわす可能性も低いだろう。
そう考えたのが、運のツキだった。
「……うわぁ、もの凄い雪ねー」
目を覚ましカーテンを開けた直後、一面の銀世界が目に飛び込んできた。
15cm以上は積もっているだろうか。関東地方で12月初旬にこんな記録的な大雪が降るのは前代未聞の事ではないだろうか。。
「学園都市内はともかく、首都圏の交通網はほぼ全滅状態ですの……」
携帯電話でニュースを見ていた白井が呟く。
学生の街と言うこともあり、学園都市内の大多数の人間は、「無理すれば徒歩」圏内で日常生活の全てが賄えてしまう。
"外"に比べても車両などの安定性は高く、この程度の雪ではせいぜい遅延が関の山だろう。
「一端覧祭の後片付けに行く人は大変そうねー」
「お姉様は片づけに参加なされないのですか?」
「うちのクラス、昨日の当番の人が論文片づけて終わりだもの。黒子たちは?」
「わたくしたちも同じような感じですわ。
……しかしこの雪ですと、確実に雪かきや交通整理に書きだされますわね」
「あんたは手首怪我してるから、呼び出しはかからないんじゃない?」
「怪我はしていても、能力は使えますから。はぁ、憂鬱ですわ……」
白井の能力は『空間移動』だ。最大約130kgのものを、最長80m前後転送させることができる。
邪魔なものを移動させるにはもってこいの能力だ。
「とはいえ、いちいち能力の制約上雪を集めて山にする必要もありますし……」
触れなければものは飛ばせない。飛ばしたものの形状を好き勝手に変えることもできない。
雪のような不定型の物を飛ばす際にはあらかじめ形状を整えるか、あるいは少しずつ何度も転送して山にする他ない。
「頑張りなさいよ風紀委員、学園都市の明日はあんたたちの肩にかかってんのよ」
「他人事だと思って……」
深くため息をつく後輩の肩を、美琴はぽんぽんと叩いた。
雪は止んではいるものの、依然として重く垂れこめた鉛色の雲が空を覆っている。
天気予報では、午後からまた降りだすかもしれないと言う。
が、一端覧祭の後片付けの為に与えられた休日を、部屋でごろごろして過ごすのは性に合わない。
昨日と今日で、気温が大きく下がった。
暇を持て余した美琴が佐天に電話をかけると、風邪をひいたらしい初春の看病をするのだと言う。
他の友人たちもめいめい予定があるのだと言う。
することのない美琴は、ぶらぶらと街を歩くことにした。
主要な道路は既に雪かきが進んでおり、車道と歩道を隔てるように雪山が築かれている。
裏路地のように小さな道では、元気な小学生たちがはしゃいで雪合戦などをしたりもしている。
そう言えば、10777号のように北国の研究所に配属されたり、国内でも北海道などの機関に預けられた妹たちはともかく、
学園都市内にいる妹たちは、雪を見るのは初めてではないだろうか。
一面の銀世界に興奮し、いろいろ雪をいじくって遊ぶ妹たちを想像し、美琴の胸が温かくなる。
今日は妹たちと遊ぶのも良いかもしれない。
そう思った美琴は、足を冥土帰しの病院へと向けた。
「……よりによって、なーんでこんな超寒い日に一方通行にコンタクトを取ろうとするんですかね」
可愛らしいくしゃみと共に愚痴を言い、可愛らしく唇をとがらせるのは絹旗最愛。
今彼女が"グループ"のメンバーとともにいるのは、とある商業ビルの屋上。
空調の室外機や非常用電源装置などが置かれているだけの場所が除雪されている筈もない。
そんなところにニットのワンピース一枚で入ればどうなるか。答えは自明だ。
「コートでも着てくれば良かったじゃない。でなきゃタイツでも履いたら?」
「私の能力は"体表"から数センチ以内にしか効果がないんです。コートなんて着たら超アウトです。
あとタイツは絶対に履きません。これは私のポリシーに超関わる問題ですから。
そういう結標だって、ずいぶん超寒そうな格好ですね」
絹旗は会話の相手、結標の姿を眺める。
さすがに今日の寒さには耐えきれなかったのか普段は肩に引っ掛けただけの学生服を羽織ってはいるが、ボタンは止められず、中にシャツも着ていない。
ミニスカートはそのままだ。
「塗るだけで寒さをある程度和らげてくれるような、特殊なクリームがあるのよ」
「なんですかそれ、私にも超提供してくださいよ」
「嫌よ、自分で買いなさいな」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ絹旗と結標に、暖かそうなコートを羽織った海原がにこにこと笑いかける。
「なんなら、自分のコートを着ていますか?
万が一戦闘行動に入ったら脱ぎ捨ててくれても構いませんので」
「せっかくですが、超遠慮しておきます」
「そうですか」
それは残念、と海原が呟く。
「ところで、土御門はまだ来ないの?」
結標が呟く。
"グループ"の中では彼が渉外担当であり、交渉事の多くは彼を中心に行われる。
「約束の時間には間に合わせる、と言ってはいましたが。……っと」
海原の携帯が着信音を鳴らす。
彼はそれを胸ポケットから取りだし、通話ボタンを押す。
『……悪い悪い、すっかり遅くなっちまったにゃー』
「今どこにいるんですか」
『そのビルの真下だにゃー』
海原が柵から身を乗り出し下を覗くと、金髪の少年が手を振っていた。
『階段登るのメンドウだし、ちょっとテレポしてくれると嬉しいんだが』
「結標さん」
「はいはい」
結標が愛用の軍用懐中電灯を一振りすると、土御門が虚空から出現する。
「いやー朝起きたら表が真っ白でびっくりしたぜぃ。コートがどこにあるか分からないせいで手間取っちまった」
「あら、妹さんは用意してくれなかったの?」
「昨日は自分の寮に帰っちゃったんだにゃー。ところで」
土御門は軍用の双眼鏡を取り出し、ビルの対岸に目を凝らす。
「やっこさんはまだ現れないか」
「約束の時間まではまだしばらくあるでしょう?」
「最終確認をするぞ。まずは俺があいつと話をする。大人しく従ってくれればそれでよし。
仮に話が決裂しそうなら、絹旗と海原があいつに突撃する。結標は転送係。問題はないな?」
「問題ないわ」
「大丈夫です」
「……本当に大丈夫ですかね」
「まあダメだったら、腕の良い医者のところにすぐに運んでやるから心配しなくていいぜぃ。
ちゃんと元の形に整えてくれるぜよ」
「それは明らかに"ダメ"というか"もうダメ"の領域よね」
「……そんなことになったら土御門の枕元に立って、私の末路と同じ形に超整形してやりますからそのつもりで」
絹旗が軽く片足で屋上を叩くと、その周囲がボコォッ!! とすさまじい音を立てて大きく砕ける。
その破壊力に、土御門の顔がサーッと青ざめた。
今後は枕元にお札でも張っておくにゃー、と呟く土御門を放置して、海原が自らの腕時計を見る。
「約束の時間まであと30分、と言ったところでしょうか。そろそろ準備をしておくべきころかもしれませんね」
その言葉に土御門は軽くストレッチをし、寒さに冷えた筋肉をほぐして行く。
「さーて、"グループ"、久しぶりのお仕事だ。気合を入れて行こうぜ」
面会の受付時間が始まったばかりの病院は閑散としている。
時折看護師らが行き交うほかは、人の影は見えない。
廊下で顔なじみになりつつある婦長に会釈をすれば、クスリと微笑まれる。
「カレシくんのお見舞い? それとも妹さんたち?」
「か、彼氏なんかじゃないですよぉ!? アレはただの友人です!
それに、今日は、妹たちです!」
通りすがりに不意に放たれた一撃に、美琴は真っ赤になり一言一言強調して否定する。
そんな様子を見て、婦長はにまーっとさらに笑みを深めた。
「あはは、若いって良いわねー。青春は大事にしないとダメよ。
それがどんな結果を迎えるにしろ、それは大切な記憶になるのよー」
からからと笑いながら去る婦長。
美琴は固まったままそれを見送った。
これは最近本当によく思うのだが、美琴をからかう人がとても増えた気がする。
『常盤台の超電磁砲が無能力者の高校生に恋をしている』という噂は、一体どこまで拡散してしまったのやら。
妹たちの元に向かう途中、ふとあることを思い出す。
この病院の屋上には、綺麗な庭園があった。
それが大雪に埋まれば、どんな光景になるのだろうか。
面会時間が始まり、入院患者たちも各々の部屋から外出し始めている。
きっと美琴と同じように考えている人間は何人もいるに違いない。
誰も足を踏み入れていない白銀の庭園を見てみたい。
そう思った美琴は、妹たちの所より先に屋上へ向かうことにした。
そう考えたのが、運のツキだった。
冷えたノブを回すと、軋んだ音を立ててドアが開く。
目の前に広がるのは、白一色の世界。
そこには、誰一人いない。
否、"いない"のではなく、"見えなかった"のだ。
何故なら、彼は風景にまるで溶け込むかのようにそこに佇んでいたから。
白い服。
白い髪。
白い肌。
雪景色に溶け込むほどに"白"い男。
美琴はその男に見覚えがあった。
忘れない。
忘れはしない。
忘れてはいけない。
高笑いしながら、妹を押し潰した男。
楽しそうに、妹を肉片へと変えた男。
自らの欲望の為に、妹をバラバラにした男。
一方通行が、庭園の中ほどに立っていた。
ドアの閉まる音は一方通行までは届かなかったのか。
彼は美琴に気付くそぶりを見せなず、ポケットから携帯電話を取り出し眺めていた。
彼を見た瞬間、美琴の頭の中は恐怖と憎悪に塗りつぶされた。
どうしてあの男はこんなところにいるのか。
一方通行。
妹たちのいる病院。
この二つをつなぎ合わせるのは、『実験』というキーワード。
学園都市の技術力ならば、例え『残骸』がなくても『樹形図の設計者』を作り直すことはそれほど難しいことではないかも知れない。
『樹形図の設計者』の再建が意味するのは、『絶対能力者進化計画』の修正が可能になると言うこと。
美琴や上条による実験への介入の影響を加味した上で、改めてレベル6へ至るための道筋を再演算することが可能になってしまう。
そうなれば、恐らくターゲットとして再び使われるのは残る9969人の妹たち。
妹たちを殺させはしない。
傷つけさせすらもしない。
自分の能力では、一方通行には一切のダメージを与えることはできない。
記憶を失った上条に頼ることもできない。
けれども、自分に注意を引きつけてこの病院から引き離すことくらいはできるだろう。
たとえその結末がわずかの時間稼ぎ程度にしかならなくても。
前髪を逆立たせ、ひりつく喉を無理やり動かして雄叫びを上げる。
「一方通行ぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
次いで放つのは、紫電の槍。
一方通行はドアが開き、そして閉まる音を聞いていた。
反応をしなかったのは、約束をしていた土御門あたりだろうと思ったから。
一方通行は制限がかかっているとはいえレベル5であり、土御門はレベル0。しかも戦闘向きの能力ではない。
彼から離しがあると言う呼び出しを受けた以上、いきなり銃撃をしてくるということもないだろう。
ポケットから携帯電話を取り出し、時間を調べる。
約束の時間まではあと5分少々。
あの男はそんなに律儀な男だっただろうか。
声をかけようと、振り返ろうとしたその時、
「一方通行ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
自らの名を呼ぶ、少女の叫び声が耳をつんざく。
振り返りつつ、反射的にチョーカーに指をあてた。
だが。
その少女の服装、声色、そして顔。
それらを認識した途端、一方通行は息を呑んだ。
"同じ"顔だ。
妹たちの一人か、あるいはオリジナルか。
どちらにせよ、この少女を傷つけてはならない。
そこまで考えた瞬間、彼の体は紫電に打たれ、弾かれるように雪の上を転がった。
チョーカーのスイッチは、入れることができなかった。
電撃の直撃を受けて吹き飛んだ一方通行を見て、美琴は目を丸くする。
「……う……そ、当たった……?」
美琴はその能力の性質故に、ある程度以下の電撃であれば無効化できる。
今放った電撃はあくまで反射されることを前提に放った弱いものであるが、それでも並のスタンガン以上の威力はあった。
しかし、彼の能力から言えば美琴の最大出力もそこらのスタンガンも一緒くたにして一蹴出来るレベルのはず。
雪の上を転がった一方通行を呆然と目で追って、そこでハッと気づく。
彼の体に、雪が付着している。
超電磁砲の直撃を受けようが、粉塵爆発の中心にいようが傷も塵もつかなかった彼の体に、だ。
何らかの要因で、反射が働いていない?
そう考えた美琴は、しかし頭の中でそれを否定する。
学園都市第一位の能力強度を誇る一方通行は、その反射膜を常時体表に展開している筈だ。
だが、一方通行のそばに転がる歩行補助用の杖を見て考えは変わる。
今の一方通行は、歩行に支障が出るほどのハンデを負っているのか?
8月中旬の時点では、一方通行は杖などついてはいなかった。
健常者がハンデを背負うには、大まかに分けて脳障害などの神経伝達系統の要因と外傷などの構造的な要因の二つがある。
ただし『幻想殺し』などのイレギュラーを除き、後者の要因で一方通行がダメージを負うことはない。
ならば、彼が歩行障害を患ったのは前者の要因だろうか。
外傷を負うことが無いのであれば疾病か。そんなことはどうでもいい。
脳にダメージがあると言うことは、つまり脳と密接なかかわりを持つ演算能力にも影響が出ている可能性が高いということだ。
やはり能力は使えてないのかもしれない。
一方通行がのろのろと身を起こすのを見て、美琴は歯ぎしりをする。
反射が働いていない今なら、一方通行を排除できるかもしれない。
けれど、それは。
しかし、でも。
一瞬の逡巡のち、美琴は駆けだした。
その勢いのまま、一方通行の胸に蹴りを入れる。
靴越しに、骨ばった固い感触が通る。
最悪脚一本を駄目にするかもしれない賭けに、美琴は勝った。
再び倒れた一方通行の胸を、思い切り踏みつける。
「…………ぐっ……」
「……………………なんで」
苦しそうに呻く一方通行を、美琴はそれだけで人を射殺せそうな形相で睨みつける。
憤怒と、憎悪と、怨嗟と、厭悪と、恐怖と、殺意。
それらが全て入り混じった視線は、しかし一方通行のそれとは合わなかった。
「……なんで、あんたがここにいるんだ」
クローン人間として生まれた妹たちは、表面上は「いない」人間として扱われる。
戸籍もなく、未だ検体番号で呼ばれ、そしてリハビリのために学園都市の研究機関から離れることもできない。
そんな彼女たちを温かく迎え入れ、身守ってくれる冥土帰しの病院。
そのような場所に、この虐殺者が足を踏み入れていいはずがない。
「……ここは、あの子たちの大事な居場所なのよ」
妹たちの血で染まったその手で。足で。体で。
どんな顔をして、この場所に足を踏み入れているのか。
美琴には理解できないし、理解しようとも思わない。
「その居場所を、あんたはぶち壊しにしようっていうの?」
一方通行の赤い瞳が揺れた。
彼は何も答えない。
一方通行への恐怖を、美琴は忘れていない。
彼を踏みつける足は今も小刻みに震えている。
美琴が分かっているのは「一方通行は今能力を使えないようだ」ということだけだ。
二度と能力を使うことができないのか。
それともただ今は使っていないだけなのか。
それすらも分からない以上、怯えが消えるはずもない。
それでも、美琴は自分の心を奮わせる。
妹たちを守るために、自分が戦わなければならない。
「私は、あんたが何をしたか絶対に忘れない。忘れちゃいけない」
目の前で電車に潰された9982号。
画面越しに血流を操作され"爆発"するところを見せられた10031号。
彼女たちの死にざまは、今でも夢に見て飛び起きることがある。
「あんたは、10031人の妹たちを殺した」
その言葉に、一方通行の体がびくりと小さく震えた。
それにも気づかず、美琴は一方通行の杖をちらりを視界に移す。
何らかの問題をその体に負って、治療を受けたのだろうか。
無慈悲に、残忍に、冷酷に、妹たちに耐え難い苦痛と死を与え続けた虐殺者のくせに。
彼に傷つけられ死んでいった妹たちは、そんなこともして貰えなかったのに。
「…………また、あんたのくだらない野望の為にあの子たちを苦しめようって言うの?」
けれど、そもそもそんな実験が企まれたのは、自分がDNAマップを不用意に与えたから。
上条はその事で自分を責めるなと言った。妹たちが生まれたことを誇るべきだと言ってくれた。
だが、妹たちに命を与えたと同時に、自分が例えようのない苦しみを与えたことに変わりはないのだ。
「……………………なんとか言いなさいよッ!!」
焦れて、大声を出す。
一方通行は沈黙を保ったまま。
いらいらと、美琴は自分の髪を掻き毟る。
傍から見れば、自分はどんなに醜いことをしているのだろうか。
無抵抗の身体障碍者に手を上げ、足蹴にし、暴言を吐いている。
社会的に見れば、それは許されざることだ。
心の中で冷静な自分がそう呟けば、だからどうしたと熱い自分が叫ぶ。
こいつはそれだけの事をした。むしろ甘すぎるくらいだ。こんな奴は世界から爪はじきにされ、一人寂しく死ねばいい。
考えつく限りの苦しみをその身に与え、地獄のような苦しみの中で惨たらしく殺したところで、誰にも文句を言われる筋合いはない。。
……だが、これは半ば八つ当たりだ。
自らの罪を、より罪深き者になすりつけて逃れようとしてるだけの、醜い行為。
御坂美琴と言う人間の、心の奥底に澱のように溜め込まれた誰にも見せられない汚い部分。
それを自覚してなお、美琴の糾弾は止まらない。
「私はあんたを絶対に許さない。
例え全世界があんたの味方でも、私は、私だけはあんたを絶ッ対に許さない……ッ!」
美味しそうにファーストフードを頬張る9982号。
一緒に生きる理由を探してくれと呟いた10032号。
愛称で呼んでくれと言う10777号や、ちょっぴり照れ屋な19090号。
無邪気で可愛らしい打ち止めや、性格はひねくれてるけど可愛いもの大好きな番外個体。
彼女たちと同じように、死んでいった妹たちもまたそれぞれの命を持ち、それぞれの未来が待っていたはずだ。
それを残酷に蹂躙し、破壊し、凌辱し、全てを奪い取っていったのは目の前の男。
許せない。
許せはしない。
「なんで今、私が普通にあんたを踏みつけていられるのかは知らない」
こうした瞬間にも、『突如能力を使われたら』という恐れは消えない。
そうなれば待っているのは妹たちと同じような死に様。
その恐怖をこらえて、美琴は言葉を続ける。
「だけど、今ならあんたにも私の能力が通るってのは分かる」
電磁波を照射しても、通常以上の反射はない。
電流だって特に抵抗なく流れて行くだろう。
今だったらこの憎い憎い男に対していくらでも報復ができる。
それこそ、いくらでも。
「もし、あんたがこれ以上妹たちに近づこうっていうのなら」
美琴が右手を宙にかざすと、雪の下の花壇から砂鉄が飛び出し、長剣を象る。
その鋭い切っ先は、一方通行の首筋に向けられた。
震える腕。
揺れる瞳。
かすれた声で、美琴は宣言をする。
「今ここで、私があんたを"排除"してやる!」
「……にゃー、あれは相当ヤバいんじゃね?」
双眼鏡を覗いたまま、土御門が呟く。
事の顛末は向かいのビルからでも見えていた。
超電磁砲が一方通行に砂鉄の剣を向けている。
この状況は非常によろしくない。
「集音マイクで音声拾った限りじゃ、超電磁砲は一周回って妙なブチギレ方してるみたいだぜぃ。
ありゃあ、いつやらかしてもおかしくないぞ」
「我々が割って入るべきでは?」
笑みではなく、珍しく焦ったような表情を浮かべる海原。
渦中の人物が人物だけに、気が気ではないのだろう。
「俺らは暗部組織だぞ。いくら隠蔽班が控えているにしろ限度はあるし、それにあの病院は超電磁砲にとって大事な場所だ。
あんなところでドンパチやってみろ、俺たちは超電磁砲と冥土帰しという大きな敵を2つも抱えることになる。
……結標、ここから一方通行を飛ばすことは?」
「出来なくはないけど、肉眼での観測ができないから最悪壁の中に飛ぶかもね。
そもそもそんなに離れた距離の物をこっちへ飛ばすって言うのはほとんどやったことがないのよ」
今いるビルから病院の屋上までは何百メートルもある。
双眼鏡を頼る必要がある以上、正確な座標計測ができないかもしれない。
「それよりも絹旗さんを向こうに飛ばして無理やりにでも超電磁砲を引き剥がさせた方がいいんじゃないかしら。
それならまだ正確に飛ばせると思うけど」
「やめとけ、絹旗が人型の炭になるのがオチだ。高位能力者同士の喧嘩は両者を引き離すのが手っ取り早い収拾手段だろう」
「なんだか超納得がいきません……」
「やはり結標、お前が頼りだ。いざという時は、一方通行を適当にどこか離れた空中にでも飛ばせ。
あとはあいつ自身がどうにかする」
「はいはい。……それにしても土御門、あなたが一方通行を心配するなんてね?」
「いや、俺が心配してるのはむしろ超電磁砲のほうだ」
土御門が視線を飛ばせば、海原が頷く。
「あの子は普通の中学生だ。強い力を持っていても、学園都市の闇を知っていても、本質的にはそこらの14歳の女の子と大差ない。
そんな子が恨みに駆られて手を汚せば、待っているのは悲惨な最期だけだ。
壊れた心を抱えて暗部へ落とされるか、あるいは自ら死を選ぶか。どちらにしろ、ろくなことにならない」
『人を殺す』ということがどういうことか知らない人間に、人殺しをさせてはいけない。
偽善的な倫理観を振りかざすつもりはないが、それが最低限暗闇に生きる人間が守るべきルールだと土御門は思う。
(……踏みとどまるか、それとも踏み越えてしまうのか。ここが分水嶺だぞ、超電磁砲)
サングラスの下の眼光は鋭く、土御門は事態を冷静に注視し続ける。
切っ先は揺れる。
高速で振動する砂鉄の剣は、かすっただけで物を容易に切断する鋭さを持つ。
何も言わぬ一方通行の首筋まで、あと5cm。
たったそれだけが、果てしなく遠い。
これを振り下ろせば、一方通行は造作もなく死ぬだろう。
あるいは、反射され自分が真っ二つになるのかもしれない。
どちらにしろ、一つは命が失われる。
『テメェも私も同じ穴の狢、つまるところただのバケモノなんだよ』
『自分の持つ力をどう使うか、そこに人間とバケモノの境界線があるの』
麦野との会話が、脳内でリフレインする。
一方通行を殺せば、自分もヒトゴロシ。
つまりは、彼と同じ醜いバケモノに成り果てるということ。
一方通行を憎悪するものとして、彼と同じ存在にだけはなりたくないと思う。
だが、彼を殺してしまえば、妹たちに対する脅威は永久に消滅する。
自分の破滅と引き換えに、訪れるのは妹たちが怯えることなく静かに暮らして行ける世界。
切っ先は揺れ続ける。
美琴は職業軍人でも裏稼業の人間でもなく、本質としてはただの女子中学生に過ぎない。
人を殺す勇気なんて、持っていない。
一方で後顧の憂いとなり得る、目の前の男を見逃すことだってできない。
麦野に語ってみせた己の理想が、がらがらと音を立てて崩れて行く。
結局は自分だって、力の使い方を誤っているのだろう。
むしろ自覚も覚悟もなく振るおうとしているだけ、自分のほうがタチが悪い。
切っ先は大きく揺れる。
結局、美琴の心は弱くて。
殺したいほど憎んだ、10031人の妹を虐殺した男に対して。
断罪の刃を振り下ろすことが。
できなかった。
一方通行は、ただそれを眺めていた。
『妹達』のオリジナルたる、『超電磁砲』御坂美琴。
彼女が一方通行に持つ怒りも、憎しみも、恨みも、殺意も。
それらは全て、正当なものだ。
御坂美琴は『妹達』のことを非常に大事にしている。
数度、街角で『妹達』と楽しそうに歩いているところを目撃した。
長姉として、何があってもきっと立派に彼女たちを守って行くだろう。
打ち止めも番外個体も、ちゃんとその範疇に入っている。
だから、御坂美琴がそれを望むなら、彼女に殺されてもいいと思った。
自らが犯した大罪に対する、正当な報復。彼女にはその権利がある。
『妹達』は彼女が守ってくれる。その世界に、自分はいなくても問題ない。
下手な釈明も請願もしない。ただ黙って、その運命を受け入れようと思った。
だが、彼女の様子を見て、考えは変わる。
戸惑うように揺れる切っ先。
躊躇するように震える腕。
堪えるように涙を湛える瞳。
それを見て、悟ってしまった。
御坂美琴には、人の命を奪い自分と同じところまで『堕ちる』覚悟は無い。
彼女はどこまで行っても『光の世界』の住人だ。それでいい。そうでいてほしい。
ならば、彼女の手を、汚させてはいけない。
あくまで綺麗なままで、打ち止めや、番外個体や、妹達の世界を守っていてほしい。
弱体化したとはいえ、彼の能力が『最強』であることに変わりはない。
誰もが手を出そうとすら思わない『無敵』にはほど遠くとも、美琴のトラウマを刺激するだけの力はある。
彼女が殺意を覚える存在は己だけ。
ならば、自分が未だ「彼女の能力では傷一つつけられない」領域にいることを再認識させれば、彼女はきっと闇へとは堕ちてはこない。
だからこそ、一方通行は彼女の前ではあえて絶対悪を演じる。
「…………………………………………………………………………ぎゃは」
作られた狂笑が、はじけた。
一瞬、美琴は何が起きたのか理解することができなかった。
状況を理解したのは、降り積もった雪に落下した瞬間。
一方通行が何かしらの能力を使い、瞬時に10mも吹き飛ばされたのだ。
受け身もとれずにぐしゃりと倒れた美琴に対し、一方通行はゆらりと立ち上がる。
「…………おォおォ、人様に電撃ぶつけておいてナニを愉快なことを言いだすかと期待してみれば、そのザマはなンなンですかァ?」
チョーカーのスイッチは入っている。
怯えたように一方通行を見上げる美琴に対し、一方通行は凶悪な笑みを浮かべた。
「ちょっと能力を使わずにからかってやったらすぐ調子にのりやがって。
土足で人を踏むたァどォいう教育を受けてきたンだか」
「……くっ!」
手加減なんてする余裕はない。
美琴は最大出力で電撃を放った。
だが、一方通行は微動だにせず。
その能力に散らされた紫電は、庭園中をほとばしる。
変電設備か空調機器が電撃にやられたのか、スパークするような音がした。
「……無駄だァ、『超電磁砲』。オマエの能力じゃあ、俺の『ベクトル操作』には通用しねェってことくらい分かってンだろ?
それとも、その上で愉快なオブジェになるために特攻でもしてくるか?」
口元を、醜く歪める。
「俺とオマエが、初めて出会った時のようによォ」
その言葉に、カエルのバッジを抱きしめる9982号と、引きちぎられた彼女の足と、彼女を押し潰した電車の光景がフラッシュバックして。
「~~~~~~ッ!!」
声にならない叫びを上げ、雷撃を纏わせた砂鉄の剣を思い切り振りかざした。
かき集められるだけ集めた砂鉄の剣は、黒の暴風となって一方通行を襲う。
纏わせた雷撃は、彼女のフルパワーを込めた。
だが、
「確かあン時も言ったと思うがな、オマエにとってはこれが全力かも知れねェが」
一方通行をすり潰すはずの砂鉄の剣は、彼に触れた途端ぐにゃりとその形状を変える。
もちろん美琴が操作したのではなく、磁力のベクトルを一方通行に"乗っ取られた"のだ。
それはそのまま一方通行の周囲に渦を巻くように漂う。
「俺にとってみりゃァ、こンなシケた攻撃は数のうちに入ンねェンだよ」
砂鉄の渦からにゅっと突起が飛び出たかと思うと、それは目にもとまらぬ速度で射出された。
音速を遥かに超える速度で撃ちだされたそれは美琴の頬を掠め、一筋の切り傷をつけた。
知覚なんてできなかった。できたとしても、防御すらできなかった。
今美琴が生きているのは、単に一方通行が狙いをわざと外したからにすぎない。
「オマエじゃ、俺には勝てない。序列の差ははっきりそのまま力量の差を示している。
例え同じレベル5に序せられていよォが、その差が絶対的なものであることに変わりはねェンだよ。
1秒でも長生きしてェンなら、学園都市の隅で大人しくブルブル震えてるンだな」
そう言うなり、一方通行は軽く地を蹴る。
ふわりと宙高く跳び上がった彼は、そのまま柵の外へと身を躍らせ、そのまま落下を始める。
最後に見えたのは、へたり込み血が出るほど唇を噛みしめた美琴の顔。
一方通行はそのまま病院の中庭に降り立ち、さっさと立ち去ろうと考える。
どうせ土御門達は事の顛末をどこかから見てただろうし、話は中止もやむなしと判断するだろう。
連絡先は手に入れた。改めて待ちあわせればいい。
「一方通行!」
背中から声をかけられ振り返ると、そこには息も絶え絶えの打ち止めがいた。
恐らく病室から勢いよく駆け降りてきたのだろう。
そう言えば、ミサカネットワークに繋がるチョーカーによって位置をある程度捕捉されているのだったか。
「……お姉様とケンカしてたの? ってミサカはミサカは聞いてみる」
「…………」
御坂美琴はかなり強力な電撃を放っていた。
電撃使いの打ち止めや妹達はそれを感知したことだろうし、彼女並の出力を持つ電撃使いは存在しない。
打ち止めや番外個体には今日自分が訪れる事は伝えていた。
ならば、その2つが繋がるのは道理だ。
「あなたとお姉様が仲良くできない理由は知ってる。ちゃんと理解してる。
だけど、ミサカはあなたにもお姉様にも傷ついてほしくないよ、ってミサカはミサカはミサカの願望を訴えてみる……!」
「…………」
心やさしいこの少女が自分の心配をしてくれていることは分かっている。
けれどそれは、彼女の御坂美琴に対する裏切りにも等しいのではないだろうか?
彼女が打ち止めを大事に思ってくれるのなら、自分は打ち止めのそばにいるべきではないのかもしれない。
例え自分がどう思っていようと、そんなことはどうでもいい。
そう思った一方通行は、唇を噛みつつ黙って打ち止めの横を通り過ぎようとする。
「あっ、待って……」
彼を引きとめようと伸ばされた小さな手を、しかし"不自然に"一方通行の手がすり抜ける。
その意図するところを察して、打ち止めは愕然とした。
それでも再度彼を引きとめようとして、影で見ていた番外個体に遮られる。
「引き留めるべきじゃない」
「でも……っ!」
番外個体の背の向こうに消える一方通行を見送りながら打ち止めは涙ながらに懇願するが、しかし番外個体は黙って首を振る。
彼が屋上で美琴と何を話していたかは知らない。
けれど数日前の会話から、彼が何を思っているかは多少の想像がつく。
「それよりも、あなたはあなたの心配をするべきじゃないかな」
「なんで………、ッ!?」
美琴が一方通行と接触してしまったと言うことは、彼の周囲の状況について断片的にでも知ってしまった可能性があるのではないか。
打ち止めや、妹達が担っている役割について。
番外個体や、『第三次製造計画』について。
当事者として、彼女たちにはきちんと美琴へ説明する義務があるのではないか。
「ミサカも、あなたも、他のミサカ達も。みんなお姉様の優しさに甘えてきた。
甘えて、お姉様に伝えるべき問題を何度も先送りして、隠し通してきた。
だけど、今回はもう逃げられないよ。あなたは上位個体として、全てを説明する責任がある。
その結果、お姉様がミサカたちを忌避するようになってもね」
「お姉様はそんなこと……!」
「一方通行」
極めて表情を消したまま呟かれた言葉に、打ち止めはびくりと肩を震わせた。
「お姉様にとって、一方通行は諸悪の権化。残虐非道のジェノサイダーでしかない。
彼の演算補助をしていることは、お姉様にとっては裏切りのように映るかもしれない」
「…………」
否定はできない。
美琴に甘えながら、その一方で一方通行にも好意的に接していたのは事実。
よりによって一方通行に「殺される側」だった自分たちが彼と親交を持っているという事実は、彼にトラウマじみた忌避感を持つ美琴には耐えがたいかもしれない。
「……結局、甘えっぱなしだったツケが回ってきたってことだよね」
番外個体が、寂しそうに呟いた。
庭園に一人残された美琴は、ただうなだれて雪に覆われた地面を眺めていた。
力なく地面にぺたりと降ろされた掌に、ぽたりぽたりと涙の粒が落ちて行く。
一方通行を。
妹たちを虐殺した、憎い憎い男を。
耐え難い苦痛と死を巻き散らす、災厄の塊のような男を。
殺せなかった。
仇を取ってあげられなかった。
あまつさえ、手を汚さぬに済んだことでほっとしてしまった。
殺せなかったことも、殺されなかったことも。
それを心のどこかで喜んでしまった自分が情けなくて、あさましくて。
今まで築き上げてきた矜持と自尊心が音を立てて崩壊していく。
結局自分は無力で、口先だけで何もできない、醜く、意地汚く、卑小で弱い人間。
それをまざまざと自覚させられ、壮絶な自己嫌悪に苛まれた。
そこからの逃避を、痛みに求めた。
きりきりと痛む胸から声にならない悲鳴を絞り出し、ぎりと握りしめた右の拳を思い切り地面へ叩きつけた。
雪が積もっているとはいえ、その下はレンガ作りだ。
一度。
二度。
三度。
何度も。
何度も。
何度も。
拳の皮が剥け、
血が流れ出し、
やがて肉が抉れる。
病棟内が停電したのだろう、変電施設の様子を見に来たスタッフたちが庭園の入り口から飛び出してくる。
彼らに無理やり止められるまで、形容しがたい嗚咽を漏らしながら美琴はいつまでも地面を殴り続けていた。
今日はここまでです
今回はちょっとヘイト描写強めな感じですが、軽く流していただければと
本来は前スレでここまで終えておきたかった
新スレそうそうでアレですが、前期考査期間直前なので次回もまた少し時間が……
気長にお待ちくださいませ
ではまた次回
今回はちょっとヘイト描写強めな感じですが、軽く流していただければと
本来は前スレでここまで終えておきたかった
新スレそうそうでアレですが、前期考査期間直前なので次回もまた少し時間が……
気長にお待ちくださいませ
ではまた次回
乙!
待ってたぜ!
相変わらず素晴らしい出来!
感服しました!
今後も期待しています!
待ってたぜ!
相変わらず素晴らしい出来!
感服しました!
今後も期待しています!
乙!
ずっと舞ってた
一方さんと美琴、なあなあでいいわけがないと常々思っていたのでこの展開には燃えます
そして妹達、おいても打ち止めの立ち位置の歪さには感じるところが多々ありました
あとあわきんクリームに笑った
次回も楽しみです
ずっと舞ってた
一方さんと美琴、なあなあでいいわけがないと常々思っていたのでこの展開には燃えます
そして妹達、おいても打ち止めの立ち位置の歪さには感じるところが多々ありました
あとあわきんクリームに笑った
次回も楽しみです
乙
遂にこの物語がこのテーマに踏み込んだか・・・
美琴を描写する以上、絶対避けては通れないモノの内の一つだしなぁ
遂にこの物語がこのテーマに踏み込んだか・・・
美琴を描写する以上、絶対避けては通れないモノの内の一つだしなぁ
乙!
美琴と一方さんのとこは避けれないとこだからな…ここからどう話が進むか期待
美琴と一方さんのとこは避けれないとこだからな…ここからどう話が進むか期待
初手からハンパない読み応えだった。すごいな
これ一方通行が死んでくれれば、あっちもこっちも問題解決すんだな…
どうなるんだろう
これ一方通行が死んでくれれば、あっちもこっちも問題解決すんだな…
どうなるんだろう
一方通行を殺しても殺さなくても美琴は苦しむ事になる。問題の根の深さがよく分かる回でしたな。
一乙!
実験に身を投じた理由、二度も打ち止めを救助をしたこと、番外個体の
産み出された理由...
まさか一方通行が自分から言うわけないしな...
それに加え美琴の葛藤...
これを一体どうまとめるんだ!?
>>1に超期待
実験に身を投じた理由、二度も打ち止めを救助をしたこと、番外個体の
産み出された理由...
まさか一方通行が自分から言うわけないしな...
それに加え美琴の葛藤...
これを一体どうまとめるんだ!?
>>1に超期待
ヒャッホーイ!
>>1乙です。お待ちしておりましたっ!!
>>1乙です。お待ちしておりましたっ!!
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