私的良スレ書庫
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元スレ美琴「極光の海に消えたあいつを追って」
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変態成分がかけらもない20000号なんて・・・・
と思う俺はMNWネタに毒されすぎですね。
と思う俺はMNWネタに毒されすぎですね。
20000号は耳年増な子。
お父さんがいると恥ずかしがって素に戻る子。
乙
旅掛さんがアレイスターとどうやって渡り合うのかは原作でも気になるところ
旅掛さんがアレイスターとどうやって渡り合うのかは原作でも気になるところ
パパンのカッコ良さに惚れた…
感動して 涙が出てしまった
>>超乙
感動して 涙が出てしまった
>>超乙
こんばんは
原作でのパパンの活躍が楽しみですね
今日の分を投下していきます
原作でのパパンの活躍が楽しみですね
今日の分を投下していきます
11日3日。
日本では文化の日という祝日であり、特別行政区(と言う名の半ば独立国)である学園都市においてもそれは同様ではあるが、
ロシアの雪原のど真ん中にあるこの機関ではそんなことはおかまいなしに、朝から職員が元気よく働いている。
朝食を終えた美琴らは再び上条の様子を見に、病院へとやってきた。
「……それで、どうしてここに短髪とクールビューティがいるのかな?」
「……私と妹のその呼び名の格差はひとまずおいておくとして、開口一番なんだそりゃ」
受付をしていると、スーツ姿の神裂が五和や白い修道服の少女、黒い神父服の男らを引き連れて現れた。
先ほどの言葉は修道服の少女、インデックスが眉間にしわをよせながら言ったものだ。
「インデックス、美琴さんとナナミさんは上条当麻の捜索に尽力してくれたんですよ。
天草式のみんなとともに、沈没したベツレヘムの星にまで探索に行ったんですから」
神裂が弁明するも、探るようなインデックスの視線は険しい。
美琴とインデックスが上条がらみの問題では反りが合わないのはいつものことだ。
何を言う気もなく、美琴はインデックスに手を差し出す。
「話は置いておくとして、ほらあんたたちの分の受付も一緒にしてあげるから、さっさとIDをお出し」
「『あいでぃー』?」
「身分証明よ身分証明。
身元の分からない人間は、入院患者には会えないのよ。
あんた学園都市にいたんだから、滞在用IDかパスポートくらいあるでしょ?」
「これのことかな?」
そういうと、インデックスは修道服の裾をごそごそを漁り、『臨時発行(ゲスト)』IDを取り出して美琴に渡した。
学園都市組のIDと、魔術師たち全員分の身分証明証を揃えて提示すると、入館の許可が出た。
スタッフはどこかへと電話をかけ、ほどなく通話を終える。
「担当医よりお見舞いの許可が出ました。こちらへ参り次第ご案内いたします」
間を置かずに昨日の医者が現れた。
美琴と10777号に気付くと軽く手を振ってきたので、二人はそれに会釈で返した。
彼のあとに従い、一同は上条の病室へと向かう。
歩きながら、インデックスが美琴へと話しかけてきた。
「……それで? どうして短髪がここにいるかってこと、まだ聞いてないんだけど」
「テレビであいつがエリザリーナ同盟にいるのがちらっと映って、それで探しに来たのよ。
……言っておくけど、あいつをここまで連れて来たの、うちのお父さんだからね?」
「そうなんだ。後でとうまがお世話になりました、ってお礼を言わないと」
その口ぶりがまるで身内に対するもののようで美琴の心をがりりと掻き毟るが、二人の関係を知った以上美琴は何も言わない。
「……ところで、そっちの短髪にそっくりな人、本当はクールビューティじゃないよね?」
インデックスが指したのは10777号。
「よく分かりましたね。確かに、ミサカはあなたが"クールビューティ"と呼称する個体ではありません」
「というか、うちの妹たちと知り合いだったの?」
「8月にジュースをいっぱい持ってとうまが連れて来たのと、9月に物凄い剣幕で部屋に飛び込んできたことがあったんだよ」
「美琴さんと、ナナミさんと、クールビューティさんで三つ子さんなんですか?」
美琴とインデックスの話に興味を持ったのか、五和が会話に入ってくる。
「いえ、ミサカたちの姉妹はもっとたくさんいますよ、とミサカは訂正します」
「うーん、まぁ、そこらの事情はまた今度話してあげるわ」
4人の少女が話しこんでいるのを見て、ステイルが小さな声で神裂に話しかける。
「あの子が上条当麻の携帯電話を発見したって子かい?」
「ええ。御坂美琴さん、なんでも学園都市でも最高ランクの超能力者らしいですよ。
『携帯電話をハッキングして場所を特定する』なんていう、"私たち"には思いつかない方法で見つけたそうです」
頭の良い人間が高位能力者になるわけではないが、高位能力者の頭が良いのは事実。
あの少女の頭の中にも、神裂らには思いもよらない知識やひらめきが詰まっているのだろう。
「ふぅん。レベル5ってやつか。人は見かけによらないね」
「あなただって、いわゆる『天才』の一人でしょうに」
神裂がくすりと微笑み、ステイルは面白くなさそうな顔をする。
ステイルは現存する24のルーン文字を完全に解析し、更に新たな6つの文字を編み出した、いわゆる『天才』だ。
だがその事に驕る事はないし、十分だとも思っていない。それは痛いほどよく分かっている。
『天才』である、というだけでは越えられない、しかし越えねばならない壁は彼の前にいくらでもある。
故に、彼は自己に対する高評価を好まない。
やがて、一行は上条の病室の前へとたどり着いた。
医師が昨日と同じように壁のタッチパネルを操作し、壁に埋め込まれたガラスが無色へと変化する。
その向こう側に寝ているのは、昨日よりもほんのちょっとだけ血色がよくなった上条。
「とうま!」
ガラスにへばりつくようにして、中を覗き込むインデックス。
「良かった……!」
「……本当に、悪運だけは強い男だ」
目尻を拭う五和にハンカチを渡しつつ、安堵の息を吐く神裂。
その後ろではステイルがため息をついていた。
「お医者さま、そばに近寄ることはできないのでしょうか?」
「中は無菌室になっているので、医師・看護師以外の立ち入りは許可できません。
少なくとも熱が下がり、肺の炎症が軽くなるまではダメですね」
「そうなんだ……」
上条に対しては魔術的な治療が功を為さない以上、医師の言葉には従わざるを得ない。
この時ばかりはインデックスも魔術に頼ろうとせず、大人しく引き下がる。
「彼は、ずっと目を覚ましていないのですか?」
「というよりは、薬で眠らせている状態ですね。高熱と呼吸困難でとても苦しいはずですから、
症状が落ち着くまでは眠らせていたほうが本人の為にも良いだろうという判断です」
「だいたいどれくらいで退院できるのかな?」
「経過を見て考えるので正確には答えられませんが、怪我の治療なども考えると、順調に行けば一月あれば通院のみで大丈夫でしょう。
熱が下がり次第学園都市の病院へと移すので、実際はもう少し早いかも知れませんが」
学園都市には冥土帰しという神のごとき腕前を持つ医者がいる。
上条だって、何度もその窮地を救われてきた。
医者はその後もしばらく簡単な説明を続け、そして去って行った。
インデックスを始めとする新たな見舞客たちはずっと上条を心配そうに見つめている。
美琴と10777号はそんな彼らを残し、ロビーへと降りることにした。
「お姉様も、あの方のそばにいたいのではないのですか、とミサカは問います」
「いいのよ。私は昨日十分あいつのそばにいたし、ここにいる間はいつでも顔を見に行けるし。
それに、私たちがいたらちびっこシスターやら神裂さんたちが変に遠慮するかもしれないでしょ?
案外、人が近くにいると思いっきり喜んだり泣いたりできないものよ」
「その感覚は、常に姉妹たちとリンクし合っているミサカたちには理解できないかもしれません」
「これからちょっとずつ知って行けばいいのよ。
さぁ、あの人たちが降りてくるまで、下で飲み物でも飲んでましょ」
同時刻。
土御門元春は、突如空に浮くような感覚で目を覚ました。
『ドラゴン』の正体を暴いてしまい、『グループ』のメンバーともども監禁されてから何日が経っただろう。
日付はおろか昼夜の感覚すらも失い、ただ機会をうかがうだけの日々が続いていた。
『空間移動』した時の感覚だと分かるまでにそう時間はいらなかった。
彼と共に飛んできた少女は後ろ手に手錠をかけられた土御門を床に転がすと、一礼して壁際へと下がった。
『久しいな、土御門元春』
「アレイスター……ッ!!」
土御門の目の前には、赤い液体で満たされた巨大な試験管がそびえていた。
中に座すは学園都市の統括理事長。
「……『ドラゴン』について知ったオレたちを、ついに消す決心がついたのか?」
『いいや。確かにあれは秘匿されるべき性質のものだが、あれについて君たちが知ったところで何かが変わるわけでもない。
君の"口の固さ"については、信用しているというのもある。君を呼びだしたのは全く別の要件だ』
アレイスターの言葉とともに、土御門の手錠が電子音を上げて解錠される。
小型のAIMジャマーが内蔵されたそれは、暗部組織でしか用いられないものだ。
久しぶりに解放された腕を動かし具合を確かめながら、土御門は訝しげに問う。
「オレたちを消すのでなければ、何故わざわざここへと連れてきた?」
『"グループ"にやってもらう仕事ができた。それと、君個人にも』
試験管の表面に、三枚のレポートが表示される。
『前2つは年内に、後者は無期限での仕事だ。やってくれるだろう?』
「どうせ拒否権などないんだろう」
アレイスターは試験管の表面に、ある一枚の写真を表示した。
『君の妹は、ずいぶんと君を心配しているようだが』
「………………くッ!!」
ぎりぎりと歯ぎしりをする土御門に対し、アレイスターの表情は涼しい。
『逃亡した一方通行の代替要員に関しては別の暗部組織から調達する。
暗部抗争時にも君らとは因縁の無かったチームだ。問題はあるまい』
「……待て、一方通行はオレたち同様にそれぞれ別々に隔離されているのではないのか?」
『あの少年は君たちが"ドラゴン"に遭遇した時、唯一アレに抗い得た存在だ。
その後捕まることなく、今も暗部のどこかで何かをコソコソとしているようだよ』
アレイスターは、そこで初めて愉しそうに笑った。
『あれがどこまで何を為し得るか、非常に楽しみだとは思わんかね?』
インデックスはロビーの片隅で、一人で座っていた。
しばらく一人にして欲しいと仲間に頼み、それが受け入れられた。
深く傷つき、今も大怪我や高熱に苦しんでいる上条の姿。
彼女の持つ完全記憶能力が、それを鮮明に思い出させる。
上条は今まで、幾度となく事件に巻き込まれ、そのたびに大怪我をして病院へと叩きこまれてきた。
だが、今回は今までとはケタ違いの傷つきようだ。
彼が何のために戦火が広がるロシアの中心へと飛び込み、何のために傷つきつつ戦ったのか。
それを考えるだけで、インデックスの胸の中心がきゅっと締め付けられるようだ。
そして、彼がインデックスに言い残した言葉。
『必ず、戻る』
この約束は未だ果たされていない。
彼が目を覚まし、起き上がり、互いに無事を喜んだあと、その後にやらなければならないことがある。
それがかつてインデックスが為してしまったことに起因し、そしてこれからも背負っていかなければならないことの清算。
彼と彼女の未来は、その先にしかないのだから。
「おっす」
思考にふけっていたインデックスに、やや無遠慮な声がかけられる。
ジュースの缶を両手に持った御坂美琴だ。
「フルーツ豆乳ティーと杏仁豆腐ソーダ、どっちがいい?」
「……なんだかどっちもおいしくなさそうなんだよ」
ピンク色と茶色のストライプの缶と、水色と白色の水玉模様の缶。
悩んだ挙句、美琴から杏仁豆腐ソーダを受け取りインデックスは栓を開ける。
砕けた杏仁豆腐と甘いシロップに炭酸が絡んだ、なんとも絶妙かつ微妙な味わいである。
「……うげー、物凄くビミョー。捨てちゃおうかしら」
「むー、食べ物は大切にしなさいって、とうまが言ってたんだよ。
それにしても、学園都市って変な食べ物や飲み物多いよね。みんな味覚が変なの?」
「腹に入ればなんでも同じタイプらしいアンタが言うか。
学園都市は『思いついたらとりあえず作ってみる』的なところだから、それだけ変わったものも多いのよ。
ま、その分淘汰されるものも多いんだけど」
これもすぐ消えるんでしょうね、と言い美琴は再びジュースを口にする。
それに倣い、インデックスも杏仁豆腐ソーダに口をつける。
しばらく、二人は無言のまま、ジュースの缶を傾けていた。
「ねぇ」
「なぁに?」
不意に、インデックスが口を開く。
「かおりとか、いつわとか、『新たなる光』から、私ととうまのことを聞いたんだよね?」
「まぁね。伝聞程度だけど」
「魔術のことも、聞いたんだよね?」
「ええ。最初はびっくりしたけど、目の前で見せられちゃ信じるしかないわよね」
「…………何も、聞かないんだね」
「そりゃ聞きたいことは一杯あるけど、私が聞きたい相手はあんたじゃなくてあいつだもの。
人の都合にはすぐ首を突っ込むくせに、自分の都合は全部自分だけで抱え込もうとするあの馬鹿に」
「……とうまは、いっつもそうだよね」
「そうよ。そりゃあ助けてくれるのは、その……嬉しいけどさ、ちょっとはこっちにもあいつに関わらせろっつーの!」
そっぽを向き、唇をとんがらせる美琴。
対照的にインデックスは肩を落としたようにうなだれる。
「……とうまは、いつだって、誰かの為に動いてるんだよ。
『不幸だー』なんて言いながら、人が困ってたら全力でその人の為に突っ走っちゃうし。
誰かを守るために、戦って、泣いて、傷ついて。
まるで、自分のことなんかどうだっていいみたいに」
その言葉に、美琴は一月前のことを思いだす。
重傷を負いずたぼろになりながら、それでも誰かの為に戦おうと必死に戦場へと向かおうとしていた、上条当麻。
誰がが自分を助けてくれることなんて有り得ない。
誰かが自分を守ってくれることなんて有り得ない。
そう心の底から信じ切っていた、力強くもどこか儚げなあの横顔。
「とうまは誰かを助けるたびに、その身代わりみたいに傷ついて行く。
ううん、きっと誰かの『不幸』を代わりに背負うことで、その人を助けているんだね。
とうま自身が元々不幸だからって、それぐらいへっちゃらなふりをして。
誰かをかばって大怪我をしたとしても、守りたい誰かが無事なら『良かった良かった』って心の底から言うんだよ」
インデックスは頭を抱え込むように体を丸める。
腕の隙間から、ぽたり、ぽたりと滴が膝へ落ちるのが見えた。
「例え、それまでの記憶を失っちゃうような、物凄く酷い大怪我をしたとしても」
ああ、と美琴は大きく嘆息する。
この少女は知った。知ってしまった。
上条当麻が隠し通したいと思っていたことを、ついに知ってしまったのだ。
「とうまは、ずっと隠してきたんだね。……誰かを、周りのみんなを傷つけないために。
何もかも分からなくても、それでも、『上条当麻』を演じてきたんだよ」
自分は他者のことを何も知らないのに、周囲の人間は自分のことを知っているという異質な状況。
インデックス自身だってその辛さは知っている。
不安と恐怖に苛まされるその中で、彼は必死に『上条当麻』を演じて見せた。
自分が、自分たちが彼に『上条当麻』であることを押し付けた。
いつしか、インデックスは肩を震わせ、涙はとめどなく頬を伝う。
「人のことどころか、自分のことだってわからないはずなのに、それでもとうまは誰かのために動ける、優しくできる人間なんだよ。
例えそれが昔敵だった人でも、命のやり取りをしあった相手でも、──自分から過去の全てを奪った人間でも!」
最後の言葉に込められたのは、後悔と自責。
客観的に見れば、上条が記憶を失った時、彼女は無意識であり他者にかけられた防衛機構が働いていたのだから、という人間もいるだろう。
だが、彼女はそんな言い訳をよしとしない。
『インデックス自身が上条の全てを破壊した』、そのことすら知らなかった。この一点で彼女は自身を責め続ける。
「……それが、上条当麻っていうあのバカなお人好しの本質なんでしょうよ」
「バカって……っ!」
「だってさ、バカじゃない。本当にバカよ、バカ」
美琴の突き放すような言葉に、インデックスは血相を変えて顔を上げる。
が、その眼に映ったのは、本当に寂しそうな美琴の表情。
「他の人がみんな無傷で、あいつだけが傷ついて、それで『めでたしめでたし』のハッピーエンドで終わるかっつーの。
世の中にはあいつが傷つくことで悲しむ人間がいるっていう、そんな当たり前のことにすら思いいたらないほどの馬鹿じゃない」
「……私ね、一ヶ月くらい前かな。偶然あいつの記憶喪失について知っちゃったの。
電話越しに誰かと話しているのを漏れ聞いただけなんだけど」
美琴の独白を、インデックスは黙って聞いていた。
「それでね、その後しばらくして、あいつに問いただしたのよ。
どうして、記憶を失うほどにボロボロになってまで、誰にも頼らずに一人で戦い続けようとするのかってね。
そしたらあいつ、何て言ったと思う?」
「……何て言ったの?」
「『……以前の自分なんか思い出せない。どんな最期だったかなんてイメージもできない。
だけど、ボロボロになるとか、記憶を失うとか、一人で傷つき続ける理由はどこにもないだとか。
そういうことを言うために、記憶を失うまで体を張ったんじゃないと思うんだ』、って」
それこそが上条当麻の本質。
助けたいと思った人をどう助けるかのみが肝心なのであって、そこまでの過程とか、それに付随する結果とか。
そんな些細なことは、彼にとってはどうだっていいのだ。
彼が痛みを引きうけ続ける限りは、それは上条当麻にとっての『不幸』足り得ないのだろう。
「たとえ全身にチューブを繋がれようが、ベッドに縛り付けられようが、足が砕けようが手がもげようがあいつは誰かの為に奔走するんでしょう。
今までもずっと、これからもずっと。
誰かの痛みを肩代わりすることで、自分も誰かも『不幸』じゃなくなるためにさ」
「……そうだろうね。少なくともとうまはずっと、出会ったときからその一点だけはぶれてないかも」
両者とも、出会ってすぐの少女の為に未知の能力(チカラ)を持つ者へと立ち向かっていくさまを見ている。
その背中はとても頼もしく、だけど同時にとても儚げで。
「だから、私は決めたの。
これから、私はあいつに対してとても図々しくなってやる。
私があいつに助けられた時みたいにずかずかと、有無を言わさずにあいつの都合に首を突っ込んでやるの。
そして、あいつの背中を守れるくらいに、あいつとあいつの守りたいものを守れるくらいに強くなる」
それが、ここ数日で美琴が辿り着いた結論。
その為の努力は、なんだってする。
不可能は全て可能にして見せる。
元より御坂美琴は、ハードルを乗り越えずにはいられない性分なのだから。
「……なんだか、とうまと"みこと"は似た者同士かも」
目を袖でごしごしと拭ったインデックスが美琴へと笑いかける。
「人の名前、覚えてるならちゃんとそっちで呼びなさいよ」
「何のことかな、"短髪"」
「……こんにゃろー、わざとらしいのよ」
美琴がインデックスに躍りかかろうとするしぐさを見せると、インデックスも大げさに身を縮める。
しばらくじゃれあったあと、二人は息を切らせてソファーへと崩れ落ちる。
「……ありがとうね、短髪」
「何がよ」
「私も、決心……というより、覚悟を決めたんだよ」
上条当麻の記憶喪失。
上条とインデックスの間に横たわる闇に、ついに向き直る時がきた。
「とうまが起きたら、ちゃんと謝らなきゃいけないことを謝るんだよ。
とうまはとうまで隠してたことを苦しく思ってるかも知れないけど、それだって元はと言えば私が押し付けたようなものなんだし。
ちゃんと全部懺悔をして、許しを乞うて。そうして初めて、私はとうまと対等な関係になれるんじゃないかな」
被害者と加害者。守るものと守られるもの。その関係からようやく抜け出せるのだ。
「起きたら、ねぇ……。
私はとりあえず、『もう少し自分を大事にしなさい』って怒鳴りつけてやるつもりだけど」
そこでふと美琴は思い出し、ポケットから上条の携帯電話を取りだした。
病院故に電源を切りっぱなしであったが、今この瞬間も彼を心配する人間からのメールが電話が絶えないのではないか。
「これも、ちゃんと返さなきゃね」
「とうまの『けいたいでんわ』だ。海の中で見つけたんだっけ?
……あれ? 『げこた』がついてないんだよ?」
「そうなのよ。紐が切れちゃったみたいでね」
別のポケットから、上条のゲコ太ストラップを取り出してみる。
優しく撫でたそれはところどころ傷ついていた。
ぶっつりと千切れたひもの部分は、どうあがいても修復は難しそうだ。
が、
「常盤台中学に通うお嬢様を、なめんじゃないわよ」
研究機関の宿泊施設は機密保持のために基本的に学園都市の関係者しか泊らせないようで、
学生である美琴と10777号、学園都市内での仮IDを持つインデックス以外は最寄りの街に宿泊し、交代で見舞いに来ることになった。
その間、少女たちは上条の快復を待ちながら、思い思いの過ごし方をしていた。
美琴は普段なかなか会えない父親や妹たちと色々と話をしたり。
インデックスは上条の病室の前でひたすら祈りを捧げたり。
五和を加えて飲み物片手に互いの境遇(主に上条との関係)を話したり。
レッサーが上条の病室に忍び込もうとするのを全力で阻止したり。
美琴と妹たちで同じ顔が4人もいるところを魔術師たちに見られたり。
そうこうしているうちに、一週間が経った。
今日はここまでです
上条さんとインデックスの関係は、片方が謝ってそれで解決すると言うものではなく
お互い胸に抱えてるものを全部ぶちまけあって初めて再構築できるものなのではないかと思うのです
次回は序盤の山場になる予定です
そろそろスレタイからかけ離れつつある……
上条さんとインデックスの関係は、片方が謝ってそれで解決すると言うものではなく
お互い胸に抱えてるものを全部ぶちまけあって初めて再構築できるものなのではないかと思うのです
次回は序盤の山場になる予定です
そろそろスレタイからかけ離れつつある……
これは上インじゃないとだめだろォ
御坂さんはおとなしくひきさがるほうがいいぜよ
御坂さんは僕の物ですからね
ショタはいないの?ショタはあああああ
御坂さんはおとなしくひきさがるほうがいいぜよ
御坂さんは僕の物ですからね
ショタはいないの?ショタはあああああ
>>224
グループ帰れwwww
グループ帰れwwww
美琴が好きだがこういうインデックスもなあ…
というわけで上条さんはアフリカへ行け
というわけで上条さんはアフリカへ行け
11月10日。
「症状が落ち着き熱も下がったので、今日から一般病棟へと移します。
呼吸器は外れましたし、睡眠薬の投与は打ち切ったのでしばらくしたら目を覚ますでしょう」
朝、もはや日課となった見舞いへと向かうと、担当医や看護師たちが彼を無菌室から運び出しているところだった。
大分血色が戻り、安らかな寝息を立てている彼を見る限り、もう心配はいらないようだ。
上条に宛がわれた病室は綺麗な個室で、窓から柔らかな光が飛び込む暖かな部屋だった。
その中央に寝かされた上条を囲むように、自然とベッドの周りへと集まる。
「ただ、依然として体調が良くないことは同じなので、あまり彼の眠りを妨げるようなことはしないでくださいね」
彼が目を覚ましたらナースコールをしてください、と言い残して医者は去っていく。
「……私、こいつの寝顔初めて見た」
正確にはここまで安らかに眠る顔を、だろうか。
数度だけ見た寝顔は、「寝ている」というより「意識を失っている」と言ったほうが正しい状況下でのものが多かった。
そもそもそう言った状況でもなければ寝顔を見られるような関係ではないのだが。
「一週間以上眠り続けてるわけだし、とうまにはいい休息になったかも。
だけど、怪我を治すいい機会だし起きてもしばらくは病院から出ないほうがいいかもしれないね」
「ただ、この方の場合は出席日数が問題なのでは? とミサカは懸念を表します」
「あー、それは問題よね。このままだと冬休み、春休みどころか来年の夏休みまで補習確定になったりして。最悪留年かも」
「留年なんて事態になったら、私はもう上条当麻に顔向けが出来ないかもしれません……」
はぁ、と大きくため息をつくのは神裂火織。
既に足を向けては寝られないほどの大恩を受けている上に、そのような事態を強いてしまったなら、
もはや神裂はどのようにして恩を返せばいいのやら。
頭を抱える神裂をよそに、ステイルは含み笑いをする。
「上条当麻の頭が不出来なのを僕らに責任転嫁されても困るが、
そうだな、神裂、君がまたアレを着て上条当麻に奉仕すればいいんじゃないのか?」
その言葉に、神裂の目が剣呑さを帯びる。
「アレ、とは……?」
「決まっているだろう、土御門が大笑いしながら話してくれた、例の堕天sごッ、がァァァァァァァァァァァッッッ!!」
禁句を口にしたとたん、聖人の腕力で後頭部を殴られたステイルが風車のように回転しながら吹き飛んでいく。
彼は顔から壁へと激突し、ずるずると床へ崩れ落ちるとそのままぴくりとも動かなくなってしまった。
はー、はーと神裂はしばらく肩で息をしていたが、まさに唖然とした表情の少女たちの視線を受けて、
「あの、えっと、これは……! う、うわああああああああああああん!!」
女教皇らしからぬ悲鳴を上げて、病室から逃げ出してしまった。
久しぶりに間近で見る上条をネタに、少女たちの会話が続く。
意外に柔らかい頬を突いてみたり、伸びつつある無精ひげを引っ張ってみたり。
整髪料を使っておらずツンツンしていない髪に違和感を覚えたり。
殺風景だからお花を飾ろうだの、喉が渇いてるだろうから冷たいものでも用意していてやろうだの、会話のネタは尽きない。
けれども、3人の心を占めているのは同じ願い。
『早く目が覚めてほしい。そして、彼の声が聞きたい』
故に、気付けば上条の話題に戻っているということがしばしばであった。
昼ごろ、ようやく目を覚ましたステイルは空気を吸ってくると言い部屋を後にした。
そして、日が傾き始めたころ。
美琴は上条の手が動いたのを見た。
そろそろ睡眠薬が切れ、目を覚ます頃なのだろう。
ナースコールをすると、すぐに担当医や看護師が現れた。
「……とうま?」
インデックスが優しく問いかけると、上条のまぶたがピクリと動いた。
数度問いかけることで、ようやく意識が覚醒へと向かい始めたのだろう。
一同に見守られながら、ゆっくりと目を開けて行く。
やがて、かすれた声で呟くように言った。
「……ここ、は……?」
「病院だよ」
上条は答えたインデックスの方を見た。
もはや目は完全に見開かれている。
上条の目に、確かにインデックスが映っているはずだ。
なのに。
「…………君は、誰だ……?」
その一言で、一同は凍りついた。
「だ、誰って、インデックス、だよ……?」
恐る恐ると言った様子で、インデックスは上条に顔を近づける。
それでも、上条は訳が分からない、むしろ得体が知れないというような表情で彼女を見る。
しばらくして、うつむき加減に
「…………ごめん、分からない」
その言葉とともに、インデックスの顔がみるみる青くなっていく。
それでも、彼女は気丈に、
「じゃ、じゃ、じゃあ、短髪のことは!? 良くビリビリされながら追いかけ回されてんだってね!?」
インデックスに指さされ、上条は美琴の顔をじっと見た。
耳が赤くなるのを感じるが、今はそれどころではない。
上条はしばらく美琴の顔を見つめ、深く考え込んでいたが、やがて
「…………ごめん」
インデックスと同じく、美琴は急激に顔から血の気が引いて行くのを感じた。
上条に、自分が認識されていない。
その事は、彼女が思っていた以上に彼女に衝撃を与えたようで、何を口にするべきか、うまく考えがまとまらない。
その様子を訝しげに見ていた医者が少女らを押しのけて上条の元へと駆け寄る。
「僕はあなたの担当医です。……自分のお名前、分かりますか」
「…………俺の名前……」
上条は両手で目を覆い、頭をフル回転させて考える。
「……俺の名前……俺の名前……俺の名前、名前、名前、名前、名前名前、名前名前名前、俺の名前ぇ…………っ!」
その呟きは少しずつ語勢を強めて行き、後半は焦りといらだちでほとんど叫ぶような調子になった。
かぶりを振り、だんだんと落ち着きを失くしていく上条の肩を担当医は掴んで言う。
「分からないのであれば、無理に思い出す必要はありません。落ち着いて深呼吸をして、僕の目を見て話を聞いてください」
「…………先生……っ!!」
医者の言葉に上条はようやく顔を上げる。
まるで今にも泣き出しそうな迷子のような、まるで言葉も分からぬ異国に一人で放り込まれたような表情で。
「……先生、俺、俺の、名前……思い出せねぇよ…………っ!!」
それは、その場にいる誰も今までに見たことのない、怯えるような、すがるような上条の姿。
誰もが言葉を失い、思考すら停止したまま、ただ彼の姿を見つめていることしかできなかった。
精密検査をするから、と美琴たちは病室を追い出され、ロビーへと向かった。
彼女たちの表情から何事かと顔をこわばらせる神裂らに、彼女たちは何も答えることができなかった。
少女たちの目に焼き付いているのは、不安と怯えに支配された上条の表情。
それは今までに彼女たちが一度も見たことのない顔で、少女たちの心を強く掻き毟るものだった。
話を聞いた妹たち、心配で駆けつけた五和たちと共に、ただ担当医を待っていた。
それから数時間して、担当医がインデックスを自身の診察室へと呼びだした。
他の人間たちも彼女に従い診察室へと向かう。
そこで、医者の重い口から伝えられたことは。
「……どうやら、彼は記憶を喪失しているようです。混乱ではなく、喪失。
家族や友人のことも、自分自身のことすらも、何もかも」
それは、余りにも残酷な現実。
人格が記憶と経験に裏打ちされたものである以上、それらを喪うということが意味するものは明白であり。
誰かが生き、誰かが愛する『世界』を救った少年は、それと引き換えに『自分』を失ってしまったのだ。
「ここからのお話は、本来であればご家族にのみお話すべき事柄ではありますが、日本からロシアまでは現在渡航不可という状況でして。
ただ、皆さんも心配でしょうし、同居人であるインデックスさん。あなたに判断していただきたいと思います」
話を振られたインデックスがびくりと肩を震わせる。
その目尻は赤い。
周囲を見回すが、周りはみんな、上条のために心を痛めている人間ばかりなのだ。
「……みんなにも聞いてもらった方がいいと思うんだよ。みんな、とうまのことが心配なんだから」
「分かりました」
担当医は手元の端末を操作する。
「彼が記憶喪失であるということを受け、学園都市からカルテを取り寄せたうえで再度、精密検査を行いました。
……驚きました。入院回数やその怪我の程度が、普通の人の比ではない。
医者として言わせていただくと、ベッドにくくりつけてでもしばらくは安静にしてもらいたい、というのが正直なところです」
直近の3カ月だけでその回数は優に10回を越え、命を脅かすような怪我だって幾度もしている。
常人であれば一生に一度あるかないかの重傷を、彼は数多く負っている。
「特に酷い怪我を負ったのが、7月28日、8月8日、8月21日、そして一月ほど前の第二十二学区で能力者同士の争いに巻き込まれた時ですね。
一番最後の時は数百メートルも吹き飛ばされて水面に叩き込まれたそうですが、これで数日後には普通に歩けていたのが不思議なくらいです」
羅列された日付に、誰もが顔を強張らせた。
ここにいるほとんど全員がどれかの日付に関係している。
つまり、上条にそれほどの重傷を負わせた代わりに、彼らは今ここに生きて存在する。
「この中で特筆すべきなのが、やはり7月28日でしょうね。
恐らくはこの日に受けた損傷が、今回の記憶喪失の遠因ではないでしょうか」
インデックスの表情がくしゃりと奇妙に歪んだ。
あの日インデックスの身代わりに上条が負った怪我。
あれは今もずっと尾を引いていたのだ。
心臓は直接鷲掴みされたかのように痛み、呼吸は妙に浅く早くなる。
聞きたくない。でも、聞かなければならない。
「この時の担当医の記述では、『表現のしようがないが、あえて強引に表現するなら脳にスタンガンを直接ぶつけたようだ』と。
実際、レントゲン写真や術中の記録写真を見る限りでは、私だって似た表現をするだろうと思います」
端末を操作し、モニターに二枚の脳の3Dモデルを映し出す。
レントゲンなどによる検査と、脳波測定を組み合わせて脳の活性状況を示したものだ。
それは同じように切り開かれているのだが、その片方の一部に、異様な暗黒の部分がある。
「右側が普通の健常者の脳。左側が7月28日時点での上条さんの脳。
右側に比べて黒い場所はこの日に損傷を受けた部分です。
それと、もう一枚」
医者はもう一枚の3Dモデルを表示した。
計三枚の写真を見比べてみると、黒い部分の周囲にやや黒ずんだ部分が広がっているのが分かる。
「こちらはついさっき作成したばかりのものですね。
この黒ずんだ場所は、細胞自体の活性が極度に低下している部分ですね。
海中に落下した時に受けた強い衝撃と、冷たい海中に長時間浸かっていたことによる脳の血流不足、酸欠状態によるものでしょう。
記憶喪失はこれが原因ではないかと思います」
あたりを静寂が支配した。
誰もが医者の言葉の意味を頭の中で反駁しているのだろう。
こらえきれず、美琴が呟いた。
「…………治るんですよね……?」
それは誰もが抱いた希望。
だが、医者は答えない。
沈黙による答えが示すものは、あまりに明確で。
「…………治りますよね……?」
「……人間に限らず、生きとし生けるものには、自己修復機能があります。
例えば指を傷つけてしまっても、やがて血は止まりかさぶたとなり、そして元のように綺麗になります。
だけども、限度があります。例えば指を切断してしまったら、それは自然に生えてくることはない」
「……でもっ、学園都市には世界最高峰の再生治療の技術があります……っ!!」
それはほぼ懇願に近い主張。
けれども、医者は首を横にふる。
「……学園都市の技術だって、万能ではありません。
時間をかければ切断した腕は再生できます。潰れた内臓だって機械に代理をさせることもできます。
……それでも、脳は。脳だけは、未だ再生に成功したという例はないんです。
それに、問題はそれだけではありません。
仮に脳細胞を修復できたとしても、それだけでは意味が無いんです」
「どうして、ですか」
「『情報』が足りないんです。
例えば、傷痕が分かりやすいでしょうか。手足に負った傷は、深ければ痕として残ることがあります。
それは手術などで消さなければ、一生涯残り続けることでしょう。
その後、腕を切断し、再生治療を施して再生したとします。すると、新しい腕には傷痕がありません。
新しい腕と元々の腕はまったくの別物なのですから、当然です。古い腕が持っていた傷痕という『情報』は、引き継がれることがない。
つまり、例え記憶中枢の細胞が再生できたとしても、『情報』までは復元することはできないのです」
「…………じゃあ、とうまは、もう、何も思い出すことはできないの……?」
「ここ三カ月の間記憶喪失以外には特に支障が無かったということは、その間の記憶に関しては時間をかけて癒すことで復活する可能性はあります。
あくまで活性が低下しているだけで、完全に死滅しているわけではないのですから、治療は不可能ではないと思います。
……ただ、それ以前の記憶に関しては、『情報』そのものが消滅してしまっているわけですし」
医者は言葉を切る。
だが、知る覚悟をした人間には言わなくてはならないのだ。
それが彼の仕事であり、責務であるのだから。
「──例え脳細胞が綺麗に治癒したところで、7月28日以前の記憶に関しては、生涯戻ることはないでしょう」
気付けば、美琴は妹たちに支えられて彼女らの自室へと戻る途中だった。
妹たちもまたショックを受けているのか、口数は少ない。
部屋の中では旅掛が仕事用のノートパソコンに向かい、作業をしていた。
美琴や妹たちの顔を見るなり、驚くような表情をする。
「……何かあったのか」
「……うん」
そのまま美琴は旅掛の胸の中へと飛び込んだ。
それに続くように妹たちもまた、父親にしがみつく。
すすり泣く美琴の頭をしばらく撫でたのち、優しく問う。
「何があったのか、ゆっくりでいいから話してごらん」
「……あいつが、やっと目を覚ましたの」
「それは喜ぶべきことじゃないか」
「だけど、だけど」
ぐすっと鼻をすする。
「……あいつは、なんにも覚えてなかった。
私の事も、この子たちの事も、インデックスのことも、ご両親のことも、他の人も、自分のことすら、なあんにも」
「それは……記憶喪失ってことか?」
「うん。大怪我のせいだって」
「そうか……」
記憶喪失。
単なる想い出の喪失だけではなく、自己の存在理由すらも見失うことの、なんと辛いことか。
「私……私があの時、あいつを助けられていたら……!」
「美琴、自分を責めちゃいけないよ」
しゃくりあげる娘を、旅掛は優しく抱きしめる。
「人生は長い。その中には、いくつもいくつも『もしも』がある。
父さんにだって、『あの時こうだったら』『この時こうしていたら』という出来事はいくらでもある。
だけど、それは全て手遅れだ。過去に『もしも』は通用しない。終わったことは変えられない。
それはただの願望、いや空想でしかない」
腕の中で美琴が震える。だが、旅掛は言葉を続ける。
「だからこそ、人は強くなろうとする。
再び岐路に立たされた時、道を間違えないように。けっして後悔しないように。
……さて、今父さんの腕の中にいる女の子はなんて名前でしょう?」
「…………御坂美琴」
「そう、才色兼備かつ文武両道、常盤台の『超電磁砲』にして俺の自慢の娘、だ。
父さんはあまりお前のそばにいられたわけじゃないけど、それでも美琴が『どこまでも強くなれる』子だってことは知ってる。
だから、あえて厳しいことを言うよ。……美琴、その後悔を飲み干せ」
「後悔を、飲み干す……?」
「そうだ。お前はそれを取り込んで、糧にしなきゃいけない。
それはどんなに辛く、苦しいかはわからない。ひょっとしたら逃げ出したくなるかもしれない。
だけどもお前はそれに向き合って、乗り越えて、力にしなければいけない。
誰かを救えずに泣いたのなら、次は必ず救えるように力を身につけなければいけない。
そうして、初めてお前は『強く』なれる」
「……強く、なれるかな」
「できるさ。父さんの娘で、この子たちの"お姉ちゃん"なんだろう?」
「…………うん!」
父親の胸板に一度顔をこすりつけ、美琴は顔を上げる。
そこには『超電磁砲』に相応しい、生気に満ちた表情が戻っていた。
「ところで、だな。父さんはそろそろ次の仕事の為に、ここを発たないといけないんだ」
「……次はどこに行くの?」
「中東のほうかな。第三次世界大戦の影響を受けて、向こうもきな臭くなっているだろう。
だからこそ、父さんの力を必要としている人もいるんじゃないかと思うんだ」
「気を付けて、行ってきてよ。
お母さんだって寂しがってるんだから、たまには日本に帰ってきてあげなさいよ」
「そうだな、正月には日本に帰るよ。
だから、その間、美琴も学生として、"お姉ちゃん"としても頑張るように」
「……うん」
同時刻。
研究機関の最寄りの街にある安ホテルの一室に、インデックス、神裂、ステイルはいた。
その理由は彼らの上司であるイギリス清教最大主教ローラ=スチュアートに、上条の件について報告するためだ。
学園都市の機関内で堂々と通信用魔術を発動させるのはいささか問題がある。
『──それで、幻想殺しの少年が記憶喪失になってしまいたりけると言うのね』
部屋に据え置かれた小さなテレビには身長よりも長い金髪の女性が映っている。
もちろんテレビ放送の映像ではなく、その上に置かれたデジタルカメラを擬した霊装が受信した映像である。
こちらに映像を映し出すと同時に、向こうにも映像を送っているのだ。
彼女は画面には目もくれず、ひたすらに書類と格闘している。
『事態は把握したるの。それで、お前たちはいつ帰ってきやるの?』
「……少なくとも彼が学園都市に帰るまでは、と思っているのですが」
『イギリス清教としては、いつまでも幻想殺し一人に人手を割いてる余裕はないのだけれども。
戦争が終わって10日。
たったこれだけの期間でイギリスだけでも魔術・非魔術問わず何件の事件が起きてると思うて?
神裂に、ステイル、天草式。お前たちがいないだけで、どれだけ大変なことか』
ため息をつき、おかげで私まで書類地獄に陥りたるというのに、と嘯くローラに対し、三人の視線は厳しい。
彼女は上条の状況に何も思ってはいないのだろうか?
『言っておくけれども、私とて何も感じてはいないというわけではあらじなのよ』
彼らの心中を透かし見るかのようにローラが言う。
『だけれども、何も幻想殺しの少年だけが酷いけがをしたというわけでもなし。
騎士派や必要悪の教会のメンバーの中にも、死者や重傷者は山ほどありけるというのに』
「ですが、彼は右方のフィアンマを撃破したという功績が──」
『修道女たるもの、功の大小、罪の多寡に関わらず平等に接するものではなくて?
神裂、お前は少し落ち着いたほうがいいと思いけるのよ」
「しかし!」
語気を荒げる神裂に、初めてローラは顔を上げる。
『くどい、と言っているの。
上条当麻より状態の酷い人間はいくらだっておりけるのよ。
まさか、女教皇ともあろう人間が彼らより上条当麻一人のほうが大事だというの?』
「それは……っ」
そんなことは断じてない。だが、それでも上条に対して何か報いたいという気持ちがある。
『上条当麻は学園都市の学生たるの。学園都市の人間が彼らのやり方を持ってかの少年を癒したるでしょう。
どうせかの右腕がある限り回復魔術も何も無効なのだから、モチはモチ屋に任せるのが一番なりけるの。
それとも、彼の右腕を切り落として回復魔術を施すとでも言いたきなのかしら?』
そう言われてしまえば、何も言い返すことができない。
苦虫をかみつぶしたような顔で黙りこんだ神裂を差し置いて、ステイルが前へと進み出る。
「では、僕たちはすぐにでもイギリスへと帰りましょう。
……ただ、インデックスはこのまま上条当麻と共に学園都市へと戻らせたいと思います」
「……すている」
彼にはインデックスに対して、幾度となく記憶を消してきたという過去がある。
『記憶を失った人間がどれだけ心細いか』を何度も目の当たりにしてきたのだ。
その不安感を少しでも和らげるためには、周囲の人間が適切なケアをしてやることが大切だ。
ステイルにとって上条自身は路傍の石の次にどうでもいい存在だが、それでもインデックスにとって彼が大切な人間であることは認めている。
だが。
『その必要はなきにつきよ。禁書目録も連れてイギリスへと帰還しなさい』
「……え?」
「何故です! インデックスの保護者は上条当麻のはずでしょう!?」
『簡単なことよ。
幻想殺しの少年は禁書目録の"管理者"たり得なくなった。だから禁書目録はイギリス清教が回収する。これだけのこと。
もともと上条当麻はイギリス清教から委託を受けて禁書目録を"管理"していただけ。
"貸与"していたものを元の持ち主が返還を求めることに、何か不都合がありけるの?』
「……ふざけるな! そんな勝手な言い分が、まかり通ると思っているのか!」
ついにステイルが憤怒の表情で怒鳴り散らす。
仮に目の前にローラ=スチュアートがいたならば、彼は迷わず紅炎を振るっていただろう。
「イギリス清教の都合で記憶を奪い、イギリス清教の都合で追いかけまわし、
イギリス清教の都合で上条当麻と暮らさせ、イギリス清教の都合で今また引き離そうとする……!
彼女の意志はどこに存在する!
これ以上、彼女を踏みにじり続けることは許さないぞ!」
目が合うだけで燃やせたらと言うようなステイルに対し、ローラの視線は氷点下の冷気を帯びる。
『意志、ね……』
が、それは少しだけ長い瞬きの間に消え失せた。
ローラはそれっきりステイルを捨て置き、視線をインデックスへと向ける。
『ねぇ、禁書目録』
「……何かな、最大主教」
ステイルや神裂の剣幕に気押されていたインデックスは、やや小さな声で答えた。
『お前は、今の上条当麻の様子を見たのよね?』
「…………うん」
『その状態の上条当麻は、魔術師と戦えると思いけるの?』
「……っ!?」
『禁書目録が──というよりはそのうちに抱える魔導図書館が──あまたの魔術師たちに狙われていることは言うまでもなかりけりね。
今回の戦争において、上条当麻という少年は右方のフィアンマ、そして大天使をも退けたるの。
それがどのような意味を持つか、分からざるお前たちではないでしょう?』
ローマ正教の最高戦力である神の右席、そして大天使の一角を討ち滅ぼした上条当麻は、もはや個々の戦力という類ではくくれない。
彼を打倒して禁書目録を得ようとするならば、それこそ戦略級の武力を持って為そうとするだろう。
彼や、彼の周囲の人間の被害を顧みることなく。
『今後禁書目録を狙いける魔術師たちは、必ず質と量両方を携えてやってくる。
生半可な戦力では、上条当麻という護衛を突破し得ることはないのだから』
「ならば、必要悪の教会から彼とインデックスの護衛を出せば良いのではないですか!?」
『この状況下で人員に余裕はない、と言うたばかりでしょう。それならば禁書目録はイギリスに戻したほうが守るのはたやすい。
そして上条当麻は学園都市の人間。まさか禁書目録と暮らさせるためにイギリスへ移住させる、なんて無茶は聞きたくないわ』
「…………っ」
『禁書目録、私はお前を傷つけようとか、苦しめたくて言っているわけではないの。お前と上条当麻のために言いているのよ』
「……とうまの、ため」
『ええ。お前とあの少年が今後も一緒に暮らしたとして、もし魔術師が大挙して攻めて来た時、あの少年はどうすると思う?
きっと傷ついた体をひきずってでも、性格からして彼はお前を守るために戦おうとするでしょうね。
相手がどのような存在か分からなくても、相手がどれほどまでに強大かわからなくても』
「…………」
『もしかしたら、馬鹿正直に魔術師が攻めてくるわけではないかもしれぬのよ。
例えば、科学サイドのごろつきを雇って上条当麻を銃撃させる。それだけであの少年は簡単に排除できる。
幻想殺しは異能の力にしか効果は無いのだから』
「…………やだ……」
『最悪、上条当麻が"無力化"され、禁書目録を奪われるなんて事態にでもなれば、それこそイギリスにとっては大損失なりけるのよ。
いえ、もしかしたら上条当麻も一緒にさらわれるかもしれないわね。
何せ大天使すら破壊した"幻想殺し"だもの。霊装の素材や研究対象としての価値は計り知れない。
……当然、そうなってしまえば、上条当麻が上条当麻のままでいられる保証はできざりしなのだけど』
「…………やめて……」
インデックスの視線は徐々に下がって行く。
そこにつけこむように、ローラの柔らかな、しかし冷ややかな声が鼓膜からインデックスの頭を犯していった。
『何も一生会うなと言っているわけではないのよ。
折を見て、護衛をつけて会いに行くなり、逆に遊びにでも来て貰うなりすればいいでしょう?
元よりお前は魔術サイドの、上条当麻は科学サイドの人間。そもそも今までが不自然でありけるのよ』
もはやインデックスは床にへたり込むようにし、すすり泣きをしている。
「上条と離れたくない」という思いは、彼女の中の大部分を占めていた。
だが、彼女が上条と共にある限り、上条は際限なく傷ついて行く。
それは身を持って実感ばかりではないか。
彼がそれを笑って許容したとしても、彼女はそれを許容できるほど強くはない。
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