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元スレ美琴「極光の海に消えたあいつを追って」
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心理さんも美琴と同じように対等の友人の居ない人だったんだな
ふたりとも可愛いよ可愛すぎる
ふたりとも可愛いよ可愛すぎる
追いついた。
素晴らしすぎる!!
自分もこんなSS書けるようになりたい
素晴らしすぎる!!
自分もこんなSS書けるようになりたい
こんばんは
たくさんのレスありがとうございます
食蜂さんの人気にワロタ
早く本編にも出てこないかなぁ
では今日の分を投下していきます
今日は短め、番外編的なお話です
たくさんのレスありがとうございます
食蜂さんの人気にワロタ
早く本編にも出てこないかなぁ
では今日の分を投下していきます
今日は短め、番外編的なお話です
『英雄と末妹』
しゃり、しゃり、しゃり。
小気味よい音が病室に響く。
ベッドに腰かけるのは番外個体、毛布の下で上半身だけ起こしているのは上条当麻。
番外個体の右腕は骨折しているのだが、もう治癒は近い。
動かすのに支障がない手首から先は既にギプスが外されている。
右手にナイフを持ち、左手でくるくると林檎を回していく。
綺麗に一本につながった皮は、彼女の膝に乗せられた皿の上で円を描いた。
「器用なもんだな」
「にひひ、でしょー?
ミサカたちは軍用クローンだからね、刃物なら果物ナイフからサーベルまで、
銃火器ならハンドガンから対戦車砲まで、戦車から戦闘機からなんだって動かせるよ。
『学習装置』のおかげで、文字通り生まれながらにしてのプロだからね」
「……はぁー、すっげぇなぁ」
「特にこのミサカは最後発の個体だから、それに併せてソフト面でもバージョンアップしてるんだよ。
もちろん、ハード面もね☆」
番外個体は上条のほうに体を向けると、肘でその豊かな胸を強調してみせる。
上条は頬を染め、慌てて顔を背けた。
「ぎゃは、ヒーローさんってば意外と純情なのね☆」
「う、うるせぇっ!!」
皮を剥き終えた林檎を二つに割り、中の種をくりぬいていく。
「……そういや、さ」
「なあに?」
「なんでワーストは、俺の事を『ヒーローさん』って呼ぶんだ?」
「そんなの読んで字のごとくに決まってるじゃないのさ」
種を取り終えた林檎にかじりつきながら番外個体は答える。
もう半分は上条に押し付けた。
「無能力者(レベル0)のくせに、右腕一本で最強の超能力者(レベル5)を殴り倒した男。
実験動物のように扱われ、殺されてゴミのように捨てられる運命だったミサカたちを解放した少年。
くぅ~~、痺れるねぇ。これを『ヒーロー』と呼ばずして、誰を『ヒーロー』って呼ぶのかな?」
「…………」
英雄譚を謳うように言葉を紡ぐ番外個体に対し、上条の表情は浮かない。
「……もしかしてさ、その時の記憶が自分にはないから、そう呼ばれる資格はないとか思っちゃったりしてるのかにゃーん?」
「…………」
「あなたに記憶があろうが、なかろうが。ミサカたちがあなたに救われたことには何の変わりもないんだよ?
ミサカたちにしてみれば、記憶の有無に関わらずあなたは『上条当麻』なんだ。
あなたが忘れたからって感謝の対象じゃなくなるなんてことはありえないよ」
「……いや、そうじゃなくてさ」
「じゃあなあに?」
「その、『ヒーローさん』って響きがなんかこう、歯が浮くような感じと言いますか、恥ずかしいと言うか」
「……ぷっ」
ニックネームにするにしては『ヒーロー』はちょっと大仰すぎるかもしれない。
一介のしがない男子高校生にすぎない上条としては、面映ゆい気持ちになる。
「そもそも、たぶん御坂や御坂妹たちを助けた時の俺は、そういう風に呼ばれるために体を張ったんじゃないんだろうしなぁ」
「ほほう、ずいぶんとキザな台詞だねぇ? そんな言葉で何人の女の子を落としてきたのやら」
「?? 女の子とはとんとご縁がありませんことよー」
(……自覚なしのタラシかよ、お姉様も大変だねぇ)
果汁にまみれた手をウェットティッシュで拭う。
番外個体は一瞬腰を浮かし、少しだけ枕元のほうへと移った。
「……ねぇ、ヒーローさん」
「なんだよ」
「どうして、あなたは第一位に立ち向かおうと思ったのかな」
実際に一方通行と対峙した番外個体だから分かる。
レベル5第一位の名に恥じぬその暴力と狂気は伊達じゃない。
数々の対抗策を用意していった彼女でさえ、本気を出したとはいえ演算能力を制限されている一方通行に一方的に蹂躙されたのだ。
ましてや、上条が戦った時の一方通行は脳に損傷を受けていない全盛期である。
上条と一方通行が戦った時の記録は何度も見た。
決して勝算があって戦っているようには見えなかった。
その右手が一方通行の反射を貫通すると分かるまでは、ひたすら防戦一方だった。
それなのに、何故。
「……ひょっとして、お姉様やミサカたちが、そんなに大事だったのかな?」
理由を彼女なりに考えて辿り着くのが、これだった。
命を捨ててでも守りたいと思えるほどの愛情。
彼女には理解しがたい概念だが、これではないか、と思った。
だが。
「う~ん、どうなんだろ。
御坂や色んな人の話を聞いてると、一方通行と戦ったのは御坂と知り合った翌日なんだよなぁ」
帰ってきた答えは、常軌を逸していた。
戸惑う番外個体をよそに、上条は話を続ける。
「俺が7月の終わりにも記憶を失くしてるって話は知ってるよな?」
「う、うん」
「そのあと、俺から見て初めて御坂と会った時に、御坂妹とも出会ったらしくて。
で、その翌日にどこかで『実験』のことを知って、御坂と決闘して、それから一方通行と戦いに行ったって流れらしいんだ」
目が点になる、とはまさにこのことだろう。
番外個体の視線は上条にくぎづけのまま、反らすことができなかった。
「……つまり、知り合って二日目の女の子の為に、あの第一位と戦ったと?」
「そういうことらしいな」
「…………………………………………………………………………っくく」
番外個体は数秒堪えていたが、耐えきれなくなったようで、堰を切ったように笑い転げた。
「なにそれ! なんじゃそりゃ! ……っくくくく、ひゃひゃひゃひゃひゃ!
ばっかじゃないの!ばぁっかじゃないの! っひゃっひゃっひゃっひゃ!
あなた、本当に『ヒーロー』そのものだよ! なんならミサカが『聖人』として列聖申請してあげてもいい!
ホント、信じらんない、あーっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!」
「……そんなに笑うことかよ」
壊れたように馬鹿笑いする番外個体に、上条は気分を害されたような顔をする。
「……ぶひゃひゃ。いんやぁ、お姉様やミサカたちもずいぶん厄介な人に助けられたねぇって思ってさ」
「厄介?」
「だってそうでしょ?」
笑いすぎて零れた涙をぬぐい、息苦しさにひぃひぃ言いながら、番外個体は上条に指をさす。
「考えても見てよ。出会って二日目ってことは、ほぼ見ず知らずの女の子だよ?
そんな女の子のために命を賭けるってことはさ、きっと他の女の子も同じように命がけで助けたりしてるんじゃないのー?」
上条はインデックスの話を思い出す。
確かに、上条が怪我をしたと言う事件には何かしら女性の影がある事が多い、のかもしれない。
「……別に、助けたのが女の子だけってわけじゃないと思うけどさ」
「かもしれないね。困ってる人なら、男だから、女だからって差別しなさそうな性格してそうだもん。
でもさ、誰でも分け隔てなく助けるっていうのは、こうも言いかえれるよね。
つまり、あなたにはいっとう『大事な存在』が存在しないんじゃないか、ってさ」
『大事な存在』が存在しないということは、誰か一人を特別扱いすることはないということ。
つまりは、彼に惹かれた人間はずっと報われない想いを抱えて行かなければならなくなる。
本人にそのつもりがなくても、それはきっと、とても残酷なことだ。
「大事な存在、ねぇ……」
上条にもしそんな存在がいたとしたら、その人はきっと今頃、とても心配をしてくれているだろうか。
思い浮かんだのは、ロシアで出会った人たち、そしてお見舞いに来てくれた人達。
神裂という女性は上条の事を『大事な仲間』だと表現した。
五和という少女は上条を『大事な恩人』だと言った。
両親は『大事な息子』だと呼んでくれた。
友人たちは『大事な友達』だと笑いかけてくれた。
そして。
インデックスは。
御坂美琴は。
「……『大事な存在』ってのが、どんな人の事を指すかなんてわかんねぇけどさ」
ぽつりぽつりと上条はつぶやく。
「前の俺にとっては、みんな『大事な存在』だったんじゃないかな」
「……ナニソレ、博愛主義ってこと?」
「そういうことじゃなくてさ」
上条は照れくさそうに頭をかき、視線をそらした。
「例えばさ、困ってる人がいれば、その人を助けるのは当然だろ。
その人を苦しめている元凶があるなら、それをどうにかしなきゃいけない。
それってさ、すごく当たり前のことだと思うんだ」
この男は、とんでもないことをなんでもないことかのように言う。
番外個体はそう思い、呆れ果てる。
誰もが彼と同じように思うとは限らない。
思ったとしても、同じように動けるとは限らない。
「実際に記憶をなくしてるから言えるのかもしれないけどさ。
記憶喪失って自分のことが分からないのと同じくらい、『他者との関係が分からない』ってことが怖いんだよ。
だから、自分の近くにいる人にはそばにいて欲しい、つなぎ止めたい、失いたくない」
「……だから、守ると?」
「結局は、そういうことになるんだろうなぁ。
失いたくないから、助けるし、守る。その人の為に全力で戦う。
つまりは、前の俺が戦ってきた理由ってそういう感じなんじゃないかな」
それが正しいかは分からない。
あくまでこれは"今の自分"が"前の自分"に対して行った推察にすぎない。
けれど、きっと。
考えても仕方がない。
上条はごろんとベッドに横になった。
「……まあ、御坂には感謝してるんだぜ。
入院状態だとどこにもいけないし、皆一端覧祭の準備で忙しいってここ数日は見舞に来てくれないしな。
あいつがしょっちゅう来てくれるから、退屈しなくて済むし。
……にしても一端覧祭の準備が終わったからって、あいつも暇を持て余してるのかな」
(なんで頻繁にお見舞いに来るのかには、きっと思い至らないんだろうにゃーん)
「なんか言ったか?」
「なんでもにゃーい」
上条は首をかしげるが、きっと鈍感な彼には一生思いいたらないだろう。
番外個体は悪戯心から暴露してやろうかとも思ったが、美琴の制裁が怖いので心の内に秘めておくことにした。
その時、扉が開いた。
入ってきたのは今話に出ていた御坂美琴。
「おっすー。元気してるー?」
「よう御坂」
「はろー、お姉様」
「あらワースト、こいつの部屋にいるなんて珍しい」
「ヒーローさんとおしゃべりしてたんだよ。ちょうどお姉様の話してたところ」
「私の?」
きょとんとする美琴に、番外個体は極上のあくどい笑みを浮かべる。
横で上条が慌てたような顔をするのも何のそのだ。
「ヒーローさんはお姉様がお見舞いに来てくれるのが嬉しくて待ちきれないんだってさー」
「ワーストてめぇ! 余計な言葉を付け加えるんじゃねぇ!」
「ふ、ふーん。そうなんだ、私が来ると嬉しいんだ?」
「そ、それはワーストが勝手に付け加えただけであってだな……」
何やらツンデレ始めた美琴や大慌ての上条をよそに、番外個体はぴょんとベッドから降りる。
「さぁて、お邪魔虫は馬に蹴られる前に退散するとしますか。
ヒーローさん、ミサカたちの大事なお姉様を『大事に』してね?」
彼女の発言に二者二様の面白い反応を示す二人をよそに、番外個体は病室を後にする。
背中から追いかけてくるのは、慌てたような上条の声と、素直になれない姉の声。
あの二人を見ていると、なんだか微笑ましくなってくる。
他者の気持ちに鈍感な少年と、自分の気持ちに素直になれない少女。
(二人の想いがつながる日は、いつか来るのかにゃーん?)
『妹達』に過干渉するでもなく、放置するでもなく、優しく見守ってくれる美琴は『大事』。
『妹達』の恩人であり、もう一人の頼るべき守護者でもある上条もまた『大事』。
『大事な』二人がそれぞれどのような形であれ幸せになる事は、妹たちの共通の願いである。
それは悪意にまみれた番外個体とて同じ。
(ま、面白おかしく見物させてもらいますか)
次はどうからかってやろうか。
そんなことを考えながら、鼻歌交じりに番外個体は自分の病室へと帰って行った。
今日はここまでです
上条さんとワーストを絡ませてみたかっただけのお話です
ミサカ姉妹でありつつも一歩引いたところから見れるワーストって色々と便利
この後の展開にちょっとだけ詰まってるので次回は遅れるかも……
嗚呼麦のんバリの罵詈雑言センスが欲しい
ではまた次回
上条さんとワーストを絡ませてみたかっただけのお話です
ミサカ姉妹でありつつも一歩引いたところから見れるワーストって色々と便利
この後の展開にちょっとだけ詰まってるので次回は遅れるかも……
嗚呼麦のんバリの罵詈雑言センスが欲しい
ではまた次回
乙!
ほんと面白いね!
番外幻想とか俺得すぎるわwwwwww
これからもテキトーに絡ませてあげてな。
次も楽しみにしてる!
ほんと面白いね!
番外幻想とか俺得すぎるわwwwwww
これからもテキトーに絡ませてあげてな。
次も楽しみにしてる!
ワーストと上条さんが二人で会話って初めて見た気がする
面白かったよ、乙
面白かったよ、乙
この幕間素晴らしすぎる。
密かに上琴を応援してる番外個体とか俺得もいいところ。
この作品、上琴派にとっては本編認定だろ
密かに上琴を応援してる番外個体とか俺得もいいところ。
この作品、上琴派にとっては本編認定だろ
自分は、アンチインなんとかだよ
ってか、あんな穀潰しがいたら、身ぐるみはがれて追い出されても文句はいえない
ってか、あんな穀潰しがいたら、身ぐるみはがれて追い出されても文句はいえない
>>579
そういう主張はしかるべきところでお願いします
そういう主張はしかるべきところでお願いします
>>579
つチラシ
つチラシ
いまさらながらだが
美琴がはいつくばったつてづてのとこで勃ったやつは俺だけじゃないはず
美琴がはいつくばったつてづてのとこで勃ったやつは俺だけじゃないはず
こんばんは
レスありがとうございます
今回は番外編と言うわけではないのですが
ちょっとサイドストーリー的というか、美琴さんは出てこない話になります
では今日の分を投下していきます
レスありがとうございます
今回は番外編と言うわけではないのですが
ちょっとサイドストーリー的というか、美琴さんは出てこない話になります
では今日の分を投下していきます
アメリカ合衆国・ワシントンDC。
マサチューセッツ通りに面した位置に建つ在米英国大使公邸。
その貴賓室で大量の資料に埋もれているのは、『騎士団長』と呼ばれる男。
イギリス三派閥である『騎士派』の頂点に立つ彼は、今はある女性付きの武官としてここに滞在している。
彼女の帰りを待つ間、大使館の人間たちが収集した情報に目を通しておくのが彼の役目だ。
不意にドアが開くと、現れたのは珍しくスーツを着込んだ英国第二王女・『軍事』のキャーリサ。
騎士団長は主の姿を認めるや否や立ち上がり礼を取る。
「お帰りなさいませ」
「……ニューヨークからワシントンまで370km。
いつも思うが、もうちょっと近くにならないのか」
随伴する大使にコートを押しつけ、豪奢な椅子に身を投げ出すキャーリサ。
彼女がイギリスを離れ、アメリカに滞在しているのには訳がある。
第三次世界大戦を受け、戦後の後処理の為に安全保障理事会や国連総会が開かれた。
情勢が安定せず内政に専念する母や姉の代わりに、彼女にお鉢が回ってきたのだ。
「会議のほうはどうでしたか?」
「ロシアが常任理事国から追放された」
靴を放り投げ、苦しい胸元のボタンをいくつか外しつつ、けだるげにキャーリサは答える。
「大国として責任ある立場にあったにも関わらず、身勝手な攻撃を行い、世界に混乱をもたらしたからだそーだ」
「それはずいぶんと手厳しい」
「イワンの酋長め、よほど戦争の結果が堪えたらしく、ずいぶんとまあショボくれた顔をしてたな。
あの勇ましい宣戦布告をした人物と同一人物とは思えなかったし」
「結果が結果ですから……」
ロシアの軍は大損害を受けたにもかかわらず、学園都市側の戦争における人的損害は「0」。
多少のオフレコはあるだろうが、それでも圧倒的なワンサイドウォーだったことに変わりはない。
「では、常任理事国は4国ということに?」
「いや、学園都市を加えようと言うことになった」
言うまでもないことだが、国際連合における常任理事国は第二次世界大戦における連合国側の主要国家だ。
それが第三次世界大戦の結果を受けて首がすげ替わるというだけのこと。
ロシアの代わりに学園都市を加え、同盟国かつ戦勝国であるイギリスはもちろんのこと、
学園都市側についた中国、早期に和解・停戦をしたフランス、参戦しなかったアメリカは据え置き。
これを戦後の新しき体制にしようと提唱された。
「つまり、一都市が五大国に列せられると……?」
「いや、学園都市の代表がこれを辞退した」
「辞退した? 常任理事国、つまり『拒否権』を自ら手放したのですか?」
「そーだ。学園都市の代表曰くだな、
『私たちはあくまで日本国に従属する一地方自治体にすぎず、そのような名誉ある立場に就くにはそぐわない。
戦勝国を常任理事国の座に就けるというのであれば、学園都市が所属する日本国が就くべきだ』だそーだ」
「では、ロシアに代わる新たな常任理事国は」
「日本だよ。学園都市もうまくやったもんだし」
学園都市という一都市の功績を、宗主国である日本国が吸い上げる。
一見普通の事であるように思えるが、その実まったく異なる。
第二次世界大戦の敗戦国である日本国にとって、常任理事国入りは悲願だった。
それを学園都市の力で成し遂げた以上、そこには力関係の逆転が発生する。
つまり、常任理事国から外されることを恐怖するならば、学園都市に逆らうことはできなくなる。
安保理での取り決めが学園都市にとって都合のよいことであれば、日本国はイエスと答えねばならない。
都合の悪いことであれば、日本国は拒否権の発動をちらつかせてでもノーと言わざるを得なくなる。
例え日本に都合が悪くてもだ。
そこに日本国の意志は存在せず、ただ学園都市に都合のよい傀儡でしかない。
学園都市の意志が、常任理事国という立場を伴って自在に世界へと蔓延する。
翻って、常任理事国としての責務は学園都市ではなく、日本国が負わなければならなくなる。
責任ある大国として、今以上の国際貢献を求められるだろう。
学園都市からの援助があったとしても、やはり負担は大きくなる。
「……まったく、学園都市の代表も大した狸だったな。
言葉巧みに場の空気を操り、話の主導権を握り、気付いたころにはもう彼女の手の中だ。
姉上があと30も歳を取ったら、彼女みたいになるんだろーな」
「リメエア様よりも、ですか」
「まーな。ちょっと会話をしてみたが、飄々として掴みどころのない女だった。
どーせ腹の中では私たちを『不実のアルビオン』扱いしてるんだろーが、そんなことはおくびにも出さなかったし」
学園都市の代表は親船最中という老婆だった。
笑みを絶やさないいかにも教育者然とした彼女は、しかし巧みに外交をこなして見せた。
人心掌握に長けた超能力者だと言われても、違和感なく信じられただろう。
「横でおろおろ会議の行方を見守ってた日本国の代表、あれは可哀想になるくらいだったな。
あれよあれよと日本の常任理事国就任が決まった時、やつは泣きそうな顔をしていたぞ」
「……そんな輩に一国の代表が務まるのでしょうか?」
「務まるだろうさ、いや、周りの奴らが務めさせるだろーよ。
日本のことわざに『ミコシは軽いほーがいい』というのがあるらしいが、日本国政府はまさにそのミコシだよ。
担ぐのは学園都市のやつら。哀れなのはミコシ代わりにされる日本国の首相と、それに気付かず周りで囃したてる日本国民だな」
これを機に、学園都市の日本国への影響は否応なく増すだろう。
宗主国として残されたわずかなプライドさえ、学園都市は砕いてしまったのだから。
「騎士団長」
「なんでしょう」
「科学も魔術も入り混じった世界は、また荒れるぞ」
「……はい」
「いつか起こるだろう"四回目"に備え、いざという時に民草と国土を守れるよう、騎士たちともどもその身をしっかりと鍛えておけ。
矢面には私が立つ。イギリスという国は我ら王室が守る。貴様らはその背を支えろ。いーな?」
「はっ!」
どこか遠くを見据えつつ命令を出すキャーリサ。
騎士団長はそれに最敬礼で答えた。
「……」
「……うだー」
『グループ』に限らず、暗部組織の隠れ家はいくつも用意されていることが多い。
休憩所、作戦指令室、いざという時の籠城場所など用途によって使い分けるのか、どこでも行えるようにするかは組織次第だが、
『グループ』の場合は前者であり、隠れ家の一つであるこの個室サロンに結標と絹旗はいた。
ただし、完全にダラけモードである。
結標は熱心に料理の本を読んでいるし、絹旗はソファに寝そべり映画のパンフレットをつまらなさそうにぺらぺらとめくっている。
「……」
「……」
「暇です」
「……」
「暇ー」
「……」
「ちょーひーまーでーすー」
「うるさいわ」
退屈に耐えきれなくなった絹旗がわめけば、結標が能力を使い絹旗の上に本を数冊落とす。
『窒素装甲』のおかげで傷一つないものの、仲間に対するものとは思えない仕打ちに絹旗は立ち上がり抗議する。
「超何するんですか! いきなり本が超降ってきたら超びっくりするじゃないですか!」
「退屈だから騒ぐだなんていかにもお子様なことをするからでしょう」
「オファーを受けてから超約10日、何の仕事もなくサロンに超閉じこもりっぱなしなんですよ!
いい加減シビレも超切れるってもんです!」
はぁ、とため息を一つつき、結標が諭すように言う。
「あのねぇ、潜入捜査っていうのは時間がかかるものなのよ?
それとも『アイテム』は、適当に突っ込んで行ってドーンみたいな大雑把な任務しかやってなかったの?」
「『アイテム』の主任務は学園都市内の不穏分子の超削除及び捕縛でしたから。
基本的に攻撃対象はオシゴトが舞い込んだ時点で既に超確定してます」
「あら、『グループ』とは基本的に路線が違うのね。
まあ、内偵調査は土御門と海原のお仕事。私たちのお仕事はその後。
それまではのんびりいきましょ」
「だからそれに超飽きたって言ってるんじゃないですかぁ……」
「だったら、映画でも見てきたらどう? 好きなんでしょう?」
「さすがに依頼中に見に行くほど超ふぬけてるわけじゃありませんよ」
「土御門は普通に学校に行って、友人たちと一端覧祭の準備してるらしいけど?」
「……は?」
絹旗は首をかしげる。
自分たちをここに閉じ込めて、彼は友人と楽しんでいると言うのか?
「ぶっちゃけて言えば、オシゴトさえしっかりしてくれるなら、普段は何してようが干渉しないことになってるのよ。
だから召集がかかった時にすぐに集まってさえくれれば、あなたも遊んできてもいいのよ?」
「……超ヌルいんですねぇ」
「オンオフの切り替えが早い、と思いなさい。いつも仕事モードだと息がつまってしまうでしょう」
「おや、お二人だけですか」
ドアを開けて、海原が入ってきた。
人好きのする笑顔だが、その裏には何か胡散臭いものを感じる、と絹旗は思う。
チームメイトにすら名前も顔も偽物で接する男だ。信用できないのは当然かもしれない。
もっとも、このチームの人間を信用しきるつもりもないのだが。
「今日は土御門は学校に行ってるわ。一端覧祭も近いことだしね」
「一端覧祭ですか。学校に所属していない自分には縁のない行事ですが、大覇星祭と同じくらい盛り上がるものだと聞きました。
時間があれば、少し覗いてみましょうか」
「……オシゴトの方はどうなっているんですか」
「『第三次製造計画』のほうは難航、と言ったところでしょうかね。人の流れ、物の流れ、お金、電力。
研究所を作るためには多くのモノの行き来がありますが、学園都市では日に何十もの研究所が建っては消えるんです。
すでに存在する何千もの研究所と合わせると、精査するには時間がかかりますよ」
「なんとか超絞り込めないものですかね。
例えばクローンを作るのに超必要なものを超集めやすい場所、とか」
「以前の『超電磁砲』のクローン計画の時は、製造施設が何重にも分散されていたのでしょう。
別に一カ所とは限らないわけよね」
「一つでも潰し逃しがあれば、そこから更に分散拡大する可能性がありますし、慎重に見極める必要があります」
「結局、超地道にやるしかないんですね……」
「一方通行の足取りはつかめたの?」
「学園都市内に潜伏してはいるようですが、中々目撃証言は出てきませんね。
短かったとはいえ元暗部、こちらの手の内は読めるでしょうし。
土御門さんもいろいろ工夫しているみたいですが、おいそれと尻尾を出してはくれないでしょう。
同じ場所で二度目撃されてはいるのですが、そこは"顔を合わせるにはよろしくない"場所のようですし」
「……一方通行の大事なお姫様のところ?」
「ええ」
「……その"お姫様"とやらを超ふんじばって、一方通行をおびき寄せるってのはどうですか?」
「そんなことをしたら、次の瞬間に私たちはタタキになって地面にこびりつく羽目になるでしょうね」
「第一、それは自分たちと彼との約束に反することですし」
「約束?」
絹旗は眉をひそめる。
「『グループ』の裏の存在意義であり、私たちが例え血にまみれてでも戦い続ける理由よ。
私たちは私たちの守らなければならないものの為に戦うの。
それを害するものが現れたら、私たちは全力でその排除に向かう」
「ですから、もし彼の大事なものに手を出せば、報復に自分たちの大事なものにも危害を加えられる可能性があるんですよ。
出来得る限りそれは避けたいところです。
……まあ、土御門さん曰く"餌に食い付いた痕跡がある"そうなので、近いうちに接触できればと思いますね」
ふと、そこで海原は絹旗が浮かない顔をしていることに気付く。
「どうかしましたか?」
「…………いえ、『グループ』の人たちは、皆超守るべきものがあるんだなぁ、って思いまして」
海原と結標は顔を見合わせる。
「……私は『置き去り』ですから。
物ごころついた時にはもう施設にいましたし、親の顔なんて超一度も見たことありません。
私には大事にしたい人も、大事にしてくれる人もいません。……だから、お二人が超羨ましくて」
「……なんだか、ごめんなさい」
「いえ、きっと私が超ひがんでいるだけなんです。
他の人が普遍的に持っているものを、私は持っていない。
そんなもの、誰にだって超あるでしょうに。
……そんなことより、一方通行を超捕まえる手段を考えましょうよ!」
「その前に、絹旗さん」
ポケットをごそごそと漁っていた海原が、何かを絹旗へ差し出す。
「土御門さんから、あなたへと。何でも、"報酬の一部の前払い"だそうですよ?」
「……メモ用紙に、第七学区内の住所と電話番号? なんですか、これ?」
「『アイテム』の、現在の滞在先だそうですよ。なんでも情報整理中に土御門さんのアンテナに"たまたま"引っかかったとか」
「!?」
絹旗の顔が驚きに変わる。
「滝壷さんや浜面が、学園都市に帰ってきていると……?」
「確か旧『アイテム』構成員は絹旗さん以外全員追討令が出てたわよね」
「先日解除されましたよ。なんらかの取引が上層部と行われたようで。
……それで、絹旗さん。お暇でしたら、会いに行かれてはどうでしょう」
海原は、未だ固まったままの絹旗に、にこにこと笑いかけたのだった。
11月27日。
第七学区にある公園で、一組の男女がベンチに座っていた。
茶色いジャージを羽織りジーパンを履いた男の名は浜面仕上。
桃色のジャージを上下に纏い、その上からもこもこのセーターを着た少女の名は滝壺理后。
二人はとある少女と待ち合わせをしているのだが、その少女がなかなか来ない。
「……ぐーすかぴー」
「滝壺、風邪ひいちまうぞ」
初冬には珍しく、ぽかぽかと暖かい昼下がりだ。
待ちくたびれて寝てしまった『恋人』の体がベンチからずり落ちないように支え直し、自分の体に寄りかからせる。
その柔らかな温かさと重さに、浜面はここ二カ月のことに想いを巡らせる。
所属していたスキルアウトのリーダーが殺され、臨時のリーダーとして受けた仕事に失敗した。
暗部の下っ端として、『アイテム』のメンバーと出会った。
暗部組織間抗争の果てに、同じ『アイテム』の仲間同士で殺し合いをした。
学園都市から追われる身となった浜面と滝壺は活路を海外に求めた。
戦争の中心地、エリザリーナ同盟国では小銃片手にプライベーティアの操る戦車やガンシップと戦った。
『体晶』に冒された滝壺を救う過程で『マジュツ』と呼ばれる不思議な力を使う連中にも出会った。
そして、麦野沈利との邂逅。
彼女とは三度死闘を繰り広げた。
立ちはだかる敵を殺し、裏切ったとはいえ仲間を殺し、そして浜面や滝壷を殺そうと何度も追ってきた。
しかし、浜面は戦いの果てに力尽き倒れた麦野を見捨てることはできなかったのだ。
そんな彼女は今、第七学区にある病院に入院中だ。
度重なる戦闘で右目と左腕を失い、体には無数の銃痕が残り、得体のしれない機械を埋め込まれてなんとか生きながらえていた状態だ。
そこに多量の体晶を服用したのだから、彼女が負っているダメージは計り知れない。
医者の話では、今後の能力使用に大きな制限がかかるかもしれないとのことだった。
浜面の懐に収まっているのは『素養格付』のデータが納められたマイクロチップ。
これがある限り、学園都市は浜面たちに手を出せない。
これを表に出さない。それと引き換えに、浜面たちは学園都市から『お目こぼし』をいただいていると言うわけだ。
この街の中で暗部に関わらずひっそりと平穏に暮らしていくのならば、過ぎた力は不要。
だから麦野の能力に制限がかかるのは、ある意味では良いことなのかもしれない。
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