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    元スレ麦野「ねぇ、そこのおに~さん」2

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    みんなの評価 : ★★
    タグ : - 麦野「ねぇ、そこのおに~さん」 + - フレンダ + - ヤンデレ + - 上条 + - 佐天 + - 滝壺 + - 絹旗 + - 美イン + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
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    151 :

    とある星座の偽善使い(フォックスワード)の者です。
    昨日が忙しかったせいか今日は早上がりだったため、この時間ですが投下させていただきます。

    152 = 151 :

    ~第七学区・とある病院~

    ガンッ!

    何かを壁に叩きつけるような音がした。時刻は七月二十一日夜…上条当麻の眠る病室の廊下でその音は響いた。

    御坂「あんたの…せいだからねっ…!」

    神裂「………………」

    御坂「あんたの…あんたのせいでアイツは…!」

    禁書「やっ、やめるんだよ!ケンカはよくないかも!」

    ステイル「やめたまえよ…そんな事をしたところで何も変わらない」

    御坂「…あんた、何言ってんの…?」

    廊下に置かれた革張りのソファーに身を沈めうなだれる神裂火織の胸倉を、烈火の怒りを宿した御坂美琴が掴んで食ってかかる。
    それをインデックスが何とか仲裁しようとするが功を奏さず、冷静に対処するステイルは文字通り火に油を注ぐ形になる。

    御坂「なに他人事みたいに平気な顔して言ってんのよ!誰のせいでこうなったと思ってんの!!」

    牙を剥く御坂

    ステイル「他人事さ。僕らの任務の管轄外だ。言葉は悪いが僕らは人を殺める事も手段の中に含まれている…彼があの程度の手傷で済んでいるのはむしろ幸運な方だよ」

    淡々と事実だけを述べるステイル。

    御坂「―――!!!」

    あまりに素っ気ない物言いに、神裂を突き飛ばしてステイルに矛先を向ける御坂。そして

    麦野「湧いてんじゃねえクソガキ共!!!」

    それ以上の怒りと絶望に耐える麦野沈利がいた。

    麦野「あーだこーだピーチクパーチク囀りやがって…当麻が起きるでしょうが」

    禁書「しずり…」

    本当なら御坂に先んじてステイルと神裂を殴り倒したいのを必死にこらえている。
    麦野は七天七刀の鉄鞘に打ち抜かれた鳩尾に握り拳を震わせ耐えていた。

    麦野「…第三位…」

    御坂「…なによ…」

    麦野「…クソガキをお願い。ホテルに部屋を取ってあるから…そこまで送ってやって」

    153 = 151 :

    御坂「………………」

    麦野「わかってる…普段から毛嫌いしてるテメエに頼めた義理じゃない事くらい…わかってる」

    震える拳と震える声音。そこには絶えず他人を睥睨し君臨する第四位(クイーン)の面影はない。
    ただ恋人の安否に必死に耐えながら、それでも恋敵の手を借りざるを得ない自分の力の無さに歯噛みする…一人の女性だった。

    御坂「…なーにしょげてんのよ第四位(じょおうさま)…らしくないわよ!」

    そんな麦野の手を…ソッと両手で優しく包み込む。太陽を思わせる、生命力輝く笑顔で。麦野もそれを信じられない思いで見返す。

    御坂「いつもみたいにふんぞり返ってる方があんたらしいって。それに勘違いしないでよ!第三位(うえ)の人間が第四位(した)の人間を助ける事くらい当たり前じゃない!」

    麦野「…こんな時まで序列引き合いに出してんじゃないわよ…第三位」

    御坂「そうやってなさいよ第四位。しおらしいあんたなんて気持ち悪いったらないわ…インデックス!行こう!」

    麦野「…インデックス…」

    禁書「うっ、うん」

    そこでようやく落ち着きを取り戻したのか、麦野はスッと廊下に膝をついて…インデックスを抱き寄せた。

    麦野「…アイス買って帰れなくてごめんね…また今度でいい?」

    禁書「いいんだよ!おいしいものはみんなで食べるほうがもっとおいしいんだよ!」

    麦野「…そうだね。全部片づいたら、みんなでアイス食べようか」

    禁書「うん!」

    自分だってまだ整理のつかない現実に悩まされているだろうに、インデックスを安心させるどころか逆に励まされているようで

    麦野「…その代わり、迎えに行くまであのクソッタレな第三位の金でたっぷり飲み食いしていいから」

    御坂「ちょっとあんた何言ってんのよどさくさに紛れて!」

    禁書「ごちになるんだよ!」

    御坂「ああ~もうっ!わかった、わかったわよ!その代わり!なんかあったらここに連絡して!それが条件!」

    そう言って御坂は自分の番号とアドレスの入ったメモを手渡してきた。麦野もそれを受け取り

    154 = 151 :

    麦野「当麻が目を覚まして落ち着いたら連絡する。そこの赤毛のクソ野郎とやり合って携帯無くしたからね」

    ステイル「…フンッ」

    御坂「わかったわ。じゃあ今度こそ行くわよインデックス」

    禁書「れっつごーなんだよ!」

    そうして御坂とインデックスは手を繋いで病院を後にした。その後ろ姿を見送りながら麦野はらしくないとは思いつつも

    麦野「…この私もヤキが回ったもんね」

    出会った形や序列が関係なければ、友人とは言わないまでも何らかの関係は築けたかも知れない…と

    麦野「…さて…と。話の続きと行こうかしら、デカブツ、露出狂」

    そこで麦野は表情と頭を切り替える。本題はここからだ。

    ~第七学区・とある病院待合室~

    麦野「アンタらには…あのクソガキの身体に仕掛けられてるだろう魔術を割り出してもらうわ…もちろんイヤとは言わせない」

    ステイル「…君に命令されるいわれはないハズだが?」

    麦野「囀んなってんだろうが赤毛野郎!タバコ臭えクチバシ突っ込んでじゃねえ!!」

    ダンッ!と1つ床を大きく踏み鳴らし、麦野はステイルに詰め寄る。ステイルはそれを冷めた目で見下ろしている。

    麦野「なんで私がクソッタレなアンタらをブチコロシかくていしないかわかる?アンタらにはまだ働いてもらう。あのクソガキにかかった魔術を解くためにね」

    神裂「…あの子にかけられた、一年を境に発動する魔術…ですね?」

    麦野「ご名答。無駄にデカい胸の割に頭は悪くないのね」

    神裂「胸の事は言わないで下さい」

    一年を境にインデックスに起きる苦痛や意識の混濁、絶命の危機にまで陥る時限爆弾のような魔術とあたりはつけた。
    麦野にもちろん魔術の知識など皆無だが…それは神裂やステイルの知識と経験に補ってもらう形だ。

    155 = 151 :

    麦野「どこぞの誰かさんに、虎の子の右手を潰されたからね」

    神裂「ッ…」

    麦野「少しでも責任を感じてるなら…手を貸して。今は猫の手だって借りたい」

    神裂も目の当たりにした異能を打ち消す右手も、治癒の魔術を無効化したところを見ると力は失っていないだろうがしばらくは動かせない。
    インデックスにかけられた魔術もどのような性質のものかわからなければ手の打ちようがない。
    そしてインデックスに残された時間は…彼等が言うにあと数日しかないのだから。

    麦野「話はそれだけ。全部終わったら覚悟しときなさいよ…あんたに抉られた胸の分兆倍にして返してやるんだからよォ」

    神裂「…借りは必ず返します。あの少年と、貴女に」

    麦野「(お堅い女…遊んでそうな格好の割に古風な物の考えね)」

    アイテムにはいないタイプの神裂に、呆れ半分感心半分に麦野は内心ごちた。
    だがもう一人のスカした赤毛よりよほど付き合いやすそうだとも思った。

    ステイル「君はずいぶん他人に命令し慣れているんだな」

    もちろん誉め言葉ではなく皮肉だともわかる。だからやり返す。

    麦野「これでも人を使う立場(アイテムのリーダー)なんだよ。とっとと消えな赤毛デカブツ。私、タバコの匂い大嫌いなのよねー」

    156 = 151 :

    ~第七学区・上条当麻の病室~

    上条「んっ…」

    麦野がステイル達と別れた頃…病室で安静にしていた上条当麻は目を覚ました

    上条「また…病院(ふりだし)か」

    覚えているのは神裂との激闘、そしてインデックスの完全記憶能力による絶命が脳医学的にありえないという話…そして…右手が潰された現実

    上条「よりにもよって…こんな時に!」

    ボスンッ、と『左手』を布団に叩きつける。
    右手の感覚がない。右腕が消えたようにすら感じられる。右肩がまるで上がらないのだ。
    指先すら開いているのかどうかも包帯に巻かれた添え木の形を見なければわからない。
    左手で右手首を持ち上げる…まるで棒でも握っているような感覚だった。

    上条「ちくしょう…」

    まだだ。まだ終わっていない。インデックスの追っ手との戦いに一応の決着を見ても、インデックスを助ける闘いはまだ…終わっていないのに…!

    麦野「かーみじょう」

    上条「…沈利…」

    麦野「おはよー。ってもう夜だけどね。気分はどう?」

    そこへ麦野沈利が入室してきた。いつも通りの口調と抑揚で。

    上条「大丈夫だ。それよりみんなは?」

    麦野「クソガキは第三位にホテルまで送らせてる。赤毛と露出狂女はクソガキにかけられてるだろう魔術を調べにどっか雲隠れ。なんかわかったらまたこの病院に来るって」

    上条「…また、魔術かよ」

    そこで聞かされる。一年を境にインデックスに身に降りかかる異変は魔術による見込みが高い事、もう期日があまりない事、魔術師二人はその割り出しに全力を注いでいるという事。そして…右手の事

    麦野「一ヶ月は見て欲しいって。あのカエルみたいな顔した医者。実際大した腕前だと思うわ。最悪切断もありえたんだって…さ」

    上条「そんなに…かかるのか」

    157 = 151 :

    麦野「けれど間違いなく完治させる、障害も残さないって」

    さしものの上条も素直に喜び切れなかった。インデックスに迫る期日は一週間とないのにその四倍は時間が必要だと。
    唯一の救いは異能を打ち消す力が健在であると言う事。

    上条「…悪い。この大事な時に…はは…本当にツいてねえ」

    麦野「謝らないで。アンタが来てくれたから私も第三位も助かった。アンタも…生きてる。こういうのを“不幸中の幸い”ってんじゃないの?」

    だが現実問題としてインデックスを救う手掛かりが見つからなければステイル達は再びインデックスの記憶を消去せねばならない。一種の延命措置として。
    そしてインデックスが如何なる魔術を施されたかは記憶がない以上知る由もない。彼女は言ったのだ。自分には魔術を使う力がないのだと。
    今尚力を保持する『歩く教会』も霊装の加護を受けているからこそだ。

    上条「そうだな…グチグチ嘆いたって変わんねえ。これからどうするかを…考えなくちゃな」

    麦野「よろしい。ウジウジしてたら気付け代わりにキツい一発お見舞いしてやろうと思ったけどその必要は無さそうね」

    上条「いつまでもメソメソしてらんねえだろ?一番つらいインデックスが頑張ってるんだ」

    麦野「おっとこのこねー…け・ど」

    上条当麻は諦めない。右手が使い物にならなくなっても、上条が他人を助けようとする意志と意思と意地を折る事は出来ない。
    箸も持てない手になっても、異能の力は失われていない。腕が上がらなくても、持ち上げる事は出来る。

    やれる事はまだ、たくさんあるのだと上条当麻は己を信じる…その強さが麦野には痛々しく思えた。

    麦野「…もう少し、誰かを頼ってもいいんじゃないの?」

    上条「…悪い悪い…」

    麦野「…寂しいなー…かーみじょう」

    コテンと上条の肩に頭を乗せる。御坂美琴の前でも、ステイル達に見せた顔とも異なる“上条当麻の麦野沈利”の表情

    158 = 151 :

    麦野「(私より、年下のクセに)」

    上条「オマエこそ…もう無茶するなよ。昼間は…ありがとうな」

    麦野「はいはい」

    私こんなに甘えん坊だったかなと麦野沈利は胸中でごちた。

    麦野「…なんかこうしてると、恋人同士ってより夫婦みたいだねー」

    上条「…麦野さん?上条さんはまだ学生ですよ?」

    麦野「なに予防線張ってんのよ。私を傷物にしたくせによく言うわねーかーみじょう?」

    上条「うっ…」

    麦野「あんなに痛くしたくせに。本当に死んじゃうかと思ったわ」

    上条「ぐっ…」

    麦野「でもざんねーん…その腕じゃあ当分無理ねー。治るまでオ・ア・ズ・ケ・か・く・て・い・ね?かーみじょう」

    上条「麦野さん!!?なんでせうかその真っ黒い悪い顔!?」

    麦野「いつもいつもやられっぱなしでいらんねェェんだよォォ!!」

    刺客を退けたら今度は魔術。一難去ってまた一難。麦野にまで上条の不幸体質が移ったかのような不運の連続だ。しかし

    麦野「(…一緒に墓場に入るまでは付き合ってやるかしらね…こいつバカみたいに危なっかしいし)」

    この先も、ずっとこの少年と不幸を分かち合う生き方も悪くないかと麦野沈利は思い…

    上条「(今日も、誰も欠けなかった)」

    腕一本でお釣りが来るほどの得られた幸運を、また一日生き延びられた事を上条当麻は想った。

    159 = 151 :

    ~第三学区・ミネルヴァ内レストラン~

    御坂「魔術師…ねえ」

    御坂美琴は麦野沈利、上条当麻、そしてインデックスが逗留する第三学区のホテル『ミネルヴァ』に居た。
    その呆れとも諦めともつかない表情はたった今までインデックスの口から語られた魔術の概要と、その食い散らかされた皿の枚数に向けられている。

    御坂「魔術師ってみんなそんな変な服装してるの?あんたのその白い服とか、赤毛の大きいヤツとか、あのスゴいカッコのお姉さんとか」

    禁書「着ている服にも魔術的な意味や要素がちゃんとあるんだよ。わたしの“歩く教会”もそうなんだよ!」

    御坂「歩く教会?」

    禁書「どんな魔術も攻撃も通用しない特別な霊装なんだよ!しずりの光も届かないんだよ!ねえスゴい?わたしってスゴい?」

    歩く教会…キリストの処刑と生死の判別に用いられたロンギヌスの槍を包むトリノ聖骸布をコピーし、教会の持ちうる機能を抽出し織り込まれた特殊な礼装。
    その完璧な魔術的意味、その完全な魔術要素は他の防壁とは一線を画す存在であるとインデックスは言うのだ。
    当の御坂自身はインデックスの食欲魔神ぶりの方が魔術だ。

    御坂「未だに信じらんないけど…あんなメチャクチャな攻撃バカスカ打ってる所見ちゃうとね…私が読んでる漫画みたい」

    インデックスは語る。魔術とは本来、才能の無い人間がそれでも才能ある人間と対等になる為の技術だと。
    学園都市とは異なる世界にある技法、御坂の知り得ない世界。
    そして…思い浮かべるは何よりも『才能』を欲し超能力者に憧れた少女。

    佐天『私はレベル0ですから』

    この日…白井黒子が『幻想御手』の捜査に乗り出し、その数日後佐天涙子『幻想御手』を使用し昏睡状態となる未来を御坂美琴は知らない。
    そして、自らもその事件に大きく関わって行く事も…未だ彼女は自らに待ち受ける運命を、この時はまだ知る由もなかった。

    『ハナテ!ココロニキザンダユメヲーミライサエオーキザーリーニシーテー…』

    御坂「ん?公衆電話…もしもし?」

    麦野「はぁい」

    麦野沈利からの電話だった。

    160 = 151 :

    ~第三学区・ホテル『ミネルヴァ』バスルーム~

    御坂「なんで私まで一緒に入るのよー!!」

    麦野「仕方無いでしょ?このバスルーム全部電子制御されてて、このクソガキが酷い機械音痴であっちこっちのボタン触って今朝ヒドい目にあったんだから」

    御坂「だから一人で入れる訳にいかないってどこの子供よ!」

    麦野「私疲れてるの。乗り掛かった船ついでに子守りが欲しかった所だし…わかった?もう触んじゃないわよクソガキ」

    禁書「ヒドいんだよしずり!今朝はほんのちょっぴり赤いボタン押しちゃっただけなんだよ!これ!」ポチッ

    御坂「熱熱熱熱ぅぅぅー!!?」

    三人は逗留している部屋のバスルームにいた。
    上条の容体が安定したのを見届けてから病院を出た麦野はインデックスの待つホテルへ向かい御坂と合流を果たした。しかし

    御坂「こんな事になるならあの寮監にひねられた方がよっぽど良かったわよ!」

    麦野「だから口添えしてやったでしょうが。急遽第三位と第四位の合同実験が決まっただなんてぶち上げて。それとも実は嘘でしたって今からチクってやろうか?」

    御坂「うっ…」

    寮の門限はおろか完全下校時刻を過ぎているのを、麦野のからの着信があってからようやく思い至った顔面蒼白の御坂に珍しく助け舟を出したかと思えば…
    結果としてはどんどん深みにはまる泥船だった訳である。

    禁書「お湯が熱いんだよ!もっと薄めてほしいかも!」

    御坂「もっと下げなさいよ。歳食って肌の刺激鈍ってんじゃないの?」

    麦野「そんなにドザエモンに化けてえか売女ァァァ!」

    文句を言いながらも設定温度をいじる麦野。上条と言ったアルカディアのフィンランドサウナでもそうだが熱さに強い方らしい。

    161 = 151 :

    麦野「(う~ん…パッと見、変わった所は見えないけど)」

    麦野は御坂に髪を洗われているインデックスの身体の身体を注視する。

    麦野「(映画みたいに数字だの、あの赤毛野郎のカードみたいな魔法陣?みたいなのも見当たらないわね)」

    インデックスを縛っていると思われる魔術は目に見える形では確認出来なかった。
    絹旗が昔麦野を連れて入ったC級映画では頭頂部に666という数字があった。
    やはり目に見えるような場所に施す処置ではないかと目を切ると

    御坂「………………」

    麦野「…なに見てんだ減るだろ売女」

    御坂「…胸…」

    麦野「!?」

    こちらを見つめていた御坂が胸とつぶやくと慌てて隠し、そして叫ぶ。

    麦野「あ、アンタ…まさかそっちの趣味が…悪いけど私はノーマルよ!?」

    御坂「違うわよ!痣よ痣!胸の痣!」

    御坂が指しているのは、神裂から七天七刀の鉄鞘で打ち抜かれた鳩尾部分の痣だった。

    麦野「ああ…あの女にしこたまやられた所ね…私てっきりフレンダと同じで女が」

    御坂「黒子と一緒にしないでよ!!!」

    麦野「えっ」

    御坂「えっ」

    禁書「なにそれこわいかも」

    162 = 151 :

    ~第三学区・『ミネルヴァ』バスルーム~
    御坂「髪長いね…手入れ大変そう」

    禁書「短髪のあなたと違って洗うのに時間がかかるんだよ。そうだ!あなたの事短髪って呼ぶんだよ!」

    御坂「なんで第四位が名前で私が短髪なのよ!」

    麦野「…あー思い出したクソッあの赤毛野郎にやられた髪と毛先いい加減なんとかしなきゃ」

    禁書「しずり、触ってもいい?プカプカ浮いてて面白いんだよ」

    麦野「ダメ」

    禁書「しずりのケチ!あっ、そうだ――」

    三人入って尚足を広々と伸ばせるバスルームに肩まで浸かりながら麦野は腹立たしい不良神父の顔を思い浮かべ、そこでインデックスが口火を切る。

    禁書「とうまは…とーまは元気だった?」

    御坂「そうよ。あのバカどうしてた?」

    麦野「元気も元気よ。というより…私が近くに居ると元気でいざるを得ないんでしょ」

    禁書「?」

    麦野「アンタにはまだちょっと早いか…当麻は大丈夫。心配すんなすぐに戻るから…だってさ」

    御坂「そう…」

    禁書「良かったんだよ…」

    御坂が口元を隠すように湯船に身を沈める。その唇に浮かぶのは安堵の笑みか焦慮の歯噛みか…素直にホッとした表情のインデックスと好対照である。

    麦野「…アイツが心配?」

    禁書「当たり前なんだよ!」

    御坂「べっ、別に…あんなバカ殺されたって死なないに決まってるわ」

    麦野「ふーん?」

    それを面白げに見やる麦野。インデックスは純粋に好意からくる心配だが、御坂のそれは好意を素直に表せない心配だと見抜いた。

    麦野「アンタらはアイツの事好き?嫌い?」

    禁書「む…む、難しいかも…でも…わたしを助けてくれたんだよ!嫌いになんてならないんだよ!」

    御坂「…嫌いってほどじゃないけど、別に好きってわけじゃ」

    163 = 151 :

    麦野「私は」

    チャプ…と手のひらにすくった乳白色のお湯をこぼしながら、麦野は目を瞑ったまま天井を仰いで

    麦野「アイツを愛してる」

    禁書「ッ!!」

    御坂「…!!」

    素っ気なく感じるほどの声音で、麦野は告げた。思わず二人も息を飲む。

    麦野「…私は、アイツに救われたから」

    夜の月より無慈悲な女王が語る言葉に御坂は目を見開く。御坂は上条と麦野の出会いを知らない。

    ファミレスでの会話でも頑なに答えを拒んだ麦野の答にインデックスは口をあんぐりとする。インデックスは上条と麦野の歩んだ道を知らない。

    麦野「――だから、宣戦布告」

    女の直感があった。いつかこの二人の少女に芽吹くであろう思いが、自分と同じそれに変わるであろうと。最大のライバル達になると。故に宣戦布告

    麦野「――誰にも渡す気ないから――以上」

    パチャッと湯船から抜け出し、麦野はバスルームから去っていった。

    御坂「(救われたって…あの女とアイツの間に何があったの…?)」

    その背中を見送る御坂と

    禁書「(…?やっぱりお湯が熱いせいなんだよ。のぼせたかも)」

    頭に微かな頭痛が一度…インデックスを襲った。それが来るべき…インデックスに襲い掛かる魔術の最初の足音とも知らずに。

    164 = 151 :

    ~第三学区・『ミネルヴァ』スイートルーム~

    麦野「じゃ、いただきます」

    御坂「ルームサービス頼まないの?」

    麦野「これが好きなの」

    禁書「しずり、それなあに?なんだかいい匂いがするかも!」

    麦野「“シャケ弁”ってのよ」

    バスルームから上がった麦野達は、思い思いに激動の一日の疲れを癒やさんと羽を伸ばしていた。
    中でも麦野は来る途中に買って来たシャケ弁をつつき、インデックスがそれをしげしげと見つめていた。

    禁書「ひとくちくれるとうれしいな」

    麦野「テメエの一口は一口だった試しがねえんだよこの2日間…あーん」

    禁書「あむ!ん~ほいひいかも~」

    御坂「…なんか親子みたいね…」

    麦野「んな歳じゃねえんだよ売女。だいたい、私は子供が嫌いなの」

    雛鳥に餌付けするように箸を運ぶ麦野を、御坂は珍しいものを見るような目で見つめている。
    バスローブ姿でシャケ弁を食べる美女の絵など。ましてやそれが第四位ともなれば

    御坂「そうかな?お母さんとか意外と似合って見えるけど」

    禁書「わたしはシスターだから男性と接触する事は禁じられてるかも…しずりは将来結婚してお母さんになるのかな?」

    麦野「やめて。ガラじゃない」

    ふと自嘲したくなるような気分に麦野は襲われた。

    165 = 151 :

    麦野「(クソガキの信じてる神様は、こんな人殺しに幸せになる権利をくれるのかしらね)」

    自分が暗部の中でしてきた事を懺悔するつもりも悔悟するつもりもない。
    ただ、そんな資格が自分にあるかどうかと突きつけられれば是と頷く事は出来ない。そんな心持ちだった。

    麦野「(当麻ならそんなの関係ねえって言うんだろうな)」

    ただ…この先も上条当麻のいる世界の片隅でもいい、居させてくれたらいいなと麦野は思う。

    麦野「さて…と。もう寝るわよ。私疲れてんの。パジャマパーティーって柄でもないし馴れ合いは嫌いなの。寝るわよクソガキ共」

    御坂「その呼び方やめてよね。私には御坂美琴って名前があるんだから」

    禁書「短髪の言うとおりかも!私の名前はインデックスなんだよ!」

    麦野「はいはい…夜更かししないで早くベッドに入りなさい…インデックス、御坂」
    禁書御坂「「はーい」」


    こうして、激動の二日目が終わる…

    この三日後…御坂美琴は『幻想御手事件』へと身を投じる事となり…同時に、インデックスも不調を訴え始める事となる。

    166 = 151 :

    とある星座の偽善使い(フォックスワード)の者です。
    いつもレスをありがとうございます。かなり多くなりましたが、本日の投下はこれにて終了です。

    頭の中のフィアンマさんに「蓄えを吐き出せ」と言われたので…年内の終了を目標に努力します。失礼いたします。

    167 :


    無理はすんなよ

    168 :

    むぎのんいい女

    169 = 147 :

    むぎのんがいい女過ぎて上条さんが憎い。結婚フラグまでたってるし幻想殺し爆発しろ

    でもベッドで上条さんにやられっぱなしなのがわかって俺得。むぎのんはMにちがいなうわなにをするやmer

    170 :

    超乙!!美坂がウザクなくてインさんが空気じゃない・・・・感心するところが違うかw

    171 :

    なん・・・だと・・・?お風呂シーンだというのに、俺のアスカロンがテレズマ化しないとは・・・

    172 = 151 :

    ごめんなさい…女同士の風呂場に色気もへったくれもないんです…ごめんなさい

    174 :

    グリーンだよ!

    175 :

    とある星座の偽善使い(フォックスワード)の者です。
    たくさんのレスをありがとうございます…いつも救われています。

    本日の投下は21時頃を予定しています。簡単にですがお品書きです。

    ・とある暗部の再集結(ファミリーレストラン)
    ・とある禁書の身体検査(アップルパイ)
    ・とある伴侶の比翼連理(キスインザダーク)

    ・とある上麦の共同作業(くびわはかい)
    です。あと関係ありませんが…ドラゴンブレスって「竜王の吐息」なのか「竜王の殺息」なのかどちらなんでしょう…小説一巻では「吐息」なんですが…

    では後ほど投下に参ります。失礼いたします。

    176 :

    竜王の愚息

    177 = 175 :

    ~第七学区・とあるファミレス~

    絹旗「超久し振りですねこうして集まるのも…相変わらず麦野はあのウニ頭の所なんですかね」

    フレンダ「結局、麦野も一人の女って訳よ。でも絹旗それ麦野の前で言ったらブチコロシかくていって訳よ。わかる?」

    絹旗「超身に染みてわかってますよフレンダ。そうですよね、滝壺さん?」

    滝壺「だいじょうぶ。私は最近めっきり女らしい体つきになったむぎのを応援してる」

    絹旗「超からかってるじゃないですか!?今の超セクハラ発言も絶対ダメですよ?!超NGですよ!!?」

    滝壺「それはふり?」

    絹旗「ちっがーう!!!」

    フレンダ「ん…キタキタキター!」

    いきつけのファミレスに麦野を除く三人娘は集結していた。場所はいつもの指定席、そこへ遅れてやってきたのはもちろん麦野沈利本人である。

    麦野「あれー?呼び出したのはフレンダだけだったんだけどなー?あれー?」

    絹旗「超お久しぶりです麦野。ごめんなさい久し振りに顔見たくって超ついて来ちゃいました」

    滝壺「ひさしぶり、むぎの。綺麗になったね」

    麦野「変わらないわね絹旗。でも滝壺、そう言う事言うのやめな。どこぞのチャラ男思い出すから。フレンダ、頼んでた物持って来てくれた?」

    フレンダ「うん。持って来てる。結局、私は体よく使われるアイテム(道具)って訳よ」

    挨拶もそこそこに席につく麦野。傍らに座るフレンダ。向かいの椅子の奧がテーブルにうなだれる滝壺で、通路側に位置するのが絹旗だ。
    そしてフレンダが真横の麦野に、分厚い札束でも入ったように膨らんだ茶封筒と、紙一枚ほどの白封筒を手渡した。

    178 = 175 :

    麦野「ん。ちょうど手持ちが切れて困ってた所だったの」

    滝壺「仕事でもないのに?」

    麦野「備えあれば憂いなし、よ」

    絹旗「…麦野、超質問いいですか?」

    麦野「なに?」

    そこで絹旗が重い口を開く。元々絹旗は麦野に影響を与える上条の事が気にいっておらず、変わり始めている麦野へも戸惑いを隠しきれない。だが聞かなくてはいけない。

    絹旗「どうして“それ”が仕事でもないのに必要なんですか?ここ最近携帯に繋がらなかった事と何か関係あるんですか?」

    麦野「ああ、携帯ね。落としちゃったみたいで見つからなかったの」

    インデックス絡みの一件をアイテムの面々に話すつもりがない麦野は、ひとつ目の質問をさりげなく流し、ステイルとの交戦で携帯電話を失った事も誤魔化した。しかし

    絹旗「(麦野はいま超嘘つきました)」

    上条と出会う前の麦野ならそもそも絹旗の質問に答えない。その意味を認めない。
    同時にこんな出過ぎた口を叩けば激怒されるに違いないと覚悟を決めた絹旗の予想を裏切りあっさり答えた事それ自体がもう嘘なのだ。

    絹旗「そうですか。ここ最近アジトにも超顔を出さなかったんで超心配したんです。超ホッとしました」

    麦野「そ」

    絹旗はそれ以上の追求を止めた。アイテムに所属する人間として、リーダーに対しこれ以上深くは突っ込めないからだ。しかし

    絹旗「(私達は…麦野の超なんなんですかね)」

    そこはかとない不安が訳もなく募る。もう絹旗の方を向かずフレンダと何やら話し始めた麦野の横顔が、ひどく消え入りそうに遠く感じたからだ。だが

    麦野「ねえ滝壺…この曲なに?」

    滝壺「わからない。きぬはたは?」

    絹旗「え?ちょ、超わかんないです」

    フレンダ「結局、誰も知らないって訳よ」

    彼女達は知らない。店内はおろか学園都市中に響き渡るその曲が、『幻想御手』を解除させるためのワクチンソフトであると…それに御坂美琴が関わっている事に麦野が気がつくのはもう少し先の話である。

    179 = 175 :

    ~第七学区・とあるファミレス~

    麦野「…じゃ、私そろそろ行くから」

    滝壺「もういっちゃうの?むぎの」

    麦野「お見舞いにね」

    誰の、とは言わなかった。それだけ告げると麦野は分厚い茶封筒と薄い白封筒を片手に伝票を持って軽い足取りでファミレスを後にした。

    絹旗「………………」

    フレンダ「結局、払いはリーダーって訳よ。この後どうする?私は――」

    滝壺「きぬはた」

    絹旗「!」

    流れ解散となる運びの中、押し黙る絹旗の様子を見咎めた滝壺が口を開いた。フレンダは疑問符を、絹旗は感嘆符を、それぞれ浮かべた。

    滝壺「いいの?」

    絹旗「…超言ってる意味がわかりませんよ滝壺さん」

    追いたい。そして知りたい。麦野が今なにをしているのか。何故仕事でもないのに“あんなもの”が必要なのかと…
    何故、自分達に何も話してくれないのか…絹旗はそれを心配していた。
    それを見抜いた滝壺は、絹旗に麦野を追わなくて良いのかと言っているのだ。

    フレンダ「絹旗。結局、アイテムは利害の一致で繋がって上の都合で体よく使い捨てられる消耗品な訳よ…仲良しこよしのサークルじゃないってわかってる?」

    絹旗「超見くびらないで下さい」

    そこで絹旗は真っ直ぐにフレンダを見据え、言った。淀む事なくはっきりと。

    絹旗「麦野(リーダー)になんかあったらアイテムが超崩壊するんですよ。じゃあ私超急ぎますんで失礼します」

    リーダーの安否確認という建て前を胸に、絹旗は麦野の後を追いに出て行った。そして残されたフレンダと滝壺は

    フレンダ「結局…絹旗は優しい子な訳よ」

    滝壺「ふれんだは?」

    フレンダ「私は麦野が話してくれるまで待つって訳よ…そっちは?」

    滝壺「わたしはむぎのを信じてるから」

    追う絹旗、待つフレンダ、信じる滝壺…こんな時まで纏まりがないと、フレンダは苦笑した。

    180 = 175 :

    ~第七学区・とある病院~

    上条「なんだビリビリ。来たのか」

    御坂「ビリビリって言うな!勘違いしないでよね!友達のお見舞いに来たついでなんだからね!あんたなんてついでよついで!」

    麦野「見舞いに来たんならここが病院ってわかってるわよね?頭のネジ締め直して欲しい?」

    禁書「とうま、しずり。このアップルパイ食べていい?まだ三時過ぎたのにおやつ食べてないんだよ!お腹空いたかも!」

    麦野「検査が終わるまで我慢なさい。とっといてあげるから」

    夕刻…上条は右腕を包帯で吊しながら待合室のソファーに、御坂は『幻想御手』より意識を回復させた佐天涙子の見舞いに、麦野はファミレスから一度戻ってからインデックスを連れてきたのだ。
    白封筒の中身はインデックス用の偽IDカードである…何故こんなものを用意したかと言うと

    ~~

    麦野『一緒に入ったお風呂で見た限り、体表面上に魔術らしい痕跡は見られない…なら、体内はどう?』

    神裂『体内ですか…確かに言われてみれば』

    麦野『そ。目に見える場所にないなら目に見えない場所…試してみる価値はあると思わない?』

    ステイル『だがそれをどうやって…まさか彼女の身体を切り刻むんじゃあるまいな!?』

    麦野『そんな物騒な真似をする必要はないわ…アンタ頭のネジ緩んでる?ここは学園都市よ』

    ~~

    という訳である。

    インデックスが昨夜から頭痛を訴え始め…それをまずステイルと神裂に見せた所…一年を境に彼女に身に起きる異変そのものだと判明したのだ。

    既に冥土帰しに渡りはつけてある。これからCTスキャンなりMRIなり…やり方はあの神の手を持つ医者に任せるより他はない。上条の右腕が動かせない今、他に方法がないのだ。だが冥土帰しは言った。

    181 = 175 :

    冥土帰し『―――僕を誰だと思っている?』

    患者に必要なモノを揃えるのが自分の仕事であり使命であると。そして…ついに、検査の時がやってきた。

    冥土帰し「はじめようか?」

    待合室にやってくる冥土帰し

    禁書「わたし…これからどうなるの?」

    それを不安げに見つめ返してくるインデックス。

    麦野「診てもらうのよ。アンタのその頭痛の種ってヤツをね」

    そのインデックスの頭を撫でてやる麦野。

    上条「大丈夫だ。絶対良くなるからな」

    インデックスの肩に左手を置く上条。

    御坂「頑張って。みんなあんたを助けたいって思ってるんだから」

    インデックスの背中を軽く叩く御坂。

    禁書「…うん!言ってくるんだよ!」

    インデックスの身体が検査室へ消えて行く。己が運命に、抗うために

    182 = 175 :

    ~第七学区・とある病院屋上~

    ステイル「これだね…間違いない」

    神裂「こんな場所に…」

    麦野「思わぬ所に乙女の秘密…ってね」

    検査が終わった後…麦野とステイル達は屋上へ、上条と御坂はインデックスの側についていた。そして麦野が手にしていたもの…

    冥土帰しから手渡された、インデックスの体外から体内に至るまで隅々までスキャンしたカルテ写真に映し出されていたのは…

    『2』と『4』が合わさったような不気味な刻印とも痣とも取れる紋章…それがインデックスの口腔と喉の狭間に禍々しく映り込んでいた。

    ステイル「初めてみる種類の刻印だが…これが彼女を苦しめ縛りつけている正体そのものである可能性は高いだろうね」

    麦野「決まりね。あとはこれを当麻に解除してもらう。右手は動かないけれど、触れさせるだけなら私が手を貸せる」

    神裂「(…本当にこれでよいのでしょうか…?)」

    この時、神裂は奇妙な違和感を覚えていた。上手く行き過ぎている。確かにこの街の住人の尽力あって、光明の兆しが見えて来た気がしてきた。だが…
    上手く行き過ぎる事は時に何もかも思い通りに動かない時より見落としている穴は大きな物である。

    ステイル「フンッ…またあのワケのわからない力の男か」

    麦野「…男の嫉妬は醜いわよ」

    ステイル「馬鹿馬鹿しい…だがそうと決まれば話は早いね。今夜にでも――」

    張り合うように舌鋒をかわしながら、インデックスを縛る鎖を解き放つ算段をつける二人を横目に…神裂は胸騒ぎにも似た何かを拭い去れずにいた。

    183 = 175 :

    ~第七学区・とある病院中庭~

    上条「そうか…じゃあオレはその喉の所にある痣に触れればいいんだな?」

    麦野「ごめんね。私が手を貸すから少しだけ我慢して…当麻」

    上条「いいさ。それでインデックスが助かるならそれで」

    麦野がステイル達と、上条達がインデックスと話し終えた後…二人は中庭のベンチにいた。大詰めは近い。
    インデックス達は先にホテルへ返した。上条も冥土帰しに一時退院を願い出、これから戻る矢先であった。

    上条「オレさ…検査が終わった後インデックスと色々話したんだ。今までの事とか、アイツらの事、オレの事、インデックスの事…」

    麦野「………………」

    上条「言われたんだよ…“私と一緒に、地獄の底までついてきてくれる?”って」

    上条とインデックスが如何なる会話を交わしたのかその場にいなかった麦野にはわからない。だが…上条の真摯な横顔に、ただ黙って聞き手に回った。

    上条「すぐに…答えられなかった」

    微苦笑を浮かべながらつるされた右手を見やる上条。ほとんど皮一枚で繋がっているような右手。
    上条はその右手があるから人を助けるのではない。あろうがなかろう必ず助ける。しかし…自分を支えているいくつかの内の柱の一つが揺らいでいるのも確かだった。

    麦野「…かーみじょう…」

    だから麦野は…そんな上条の俯く顔を胸に抱いた。麦野自身が否定する母性の象徴のように。

    麦野「前にも言ったけど、アンタはいつも他人の事ばっかりね」

    強くならねばならない。この男の生き方を認めてしまったからには…強くあらねばならないと麦野沈利は思った。

    麦野「――もうそろそろ、誰かがアンタを救ってあげてもいいって思わない?――」

    自分より年下、自分よりレベルが下、なのにこんなにも…近い。

    麦野「――アンタは、それだけの事をしてきたんだから――」

    上条を胸から離す。顔を上向かせ、ソッと目を閉じる。初めて交わした血染めのキスの時のように

    麦野「――だから、胸を張って誰かに助けを求めたっていい。私だって構わない――」

    重なりかける唇。驚く上条。笑む麦野。

    麦野「愛してる」

    目を閉じてするくちづけの闇が、心地良かった。

    184 = 175 :

    ~第三学区・ホテル『ミネルヴァ』~

    ステイル「…それじゃあ初めようか…」

    上条「ああ…麦野、右手頼んでいいか?」

    麦野「任せて」

    冥土帰しの病院から戻った後…一同は上条達が逗留しているスイートルームに集結していた。
    インデックスを縛る術式の在処がわかった今、千切れかけの右腕も麦野が左手を添えて補助してくれるなら異能を打ち消せる。

    ベットに横たわるインデックスの表情は静謐そのもので、上条・麦野・御坂・ステイル・神裂はそれを囲むようにしている。

    上条「…インデックス…」

    麦野「…外すわよ…」

    麦野が上条の右腕を左手で持ち上げ、包帯を外して行く…その下から現れるのは…

    御坂「うっ…!」

    思わず御坂が目を背けるほどにねじ曲がりひしゃげた右手と右腕…五指は添え木があってようやく開かれた形にされているだけだ。
    腕を振るう、拳を固める、物を掴むなど望むべくもない、ほとんど皮と肉が繋がってぶら下がり腕の形を為しているだけ…
    それでも、異能の力を打ち消す効力だけが失われていない。神裂の治癒魔術が通じなかった事が皮肉にもそれを裏付けていた。

    神裂「…喉辺りになります…」

    上条「ああ」

    麦野「…開くわ…もう少しよ」

    インデックスの唇を割り開き、慎重に上条の右手の指を差し入れて行く麦野…重々しい雰囲気を取り払うように、あえて饒舌になる。

    麦野「なんだか…ウエディングケーキの入刀式みたいね」

    上条「オイオイ…」

    御坂「あんたねえ!真面目にやりなさいよ!!」

    ステイル「もう一発お見舞いされたいかい?」

    神裂「………………」

    それを上条は苦笑いし、ステイルは顔をしかめ、神裂は固い表情になり、御坂はそれを叱りつける。
    もうすぐ終わる――そんな安心と油断が麦野に毛ほどもなかったと言えば嘘になる。

    185 = 175 :

    パキィィィィィィン…

    麦野「…終わった…?」

    上条「ああ…感触はわからねえけど、手応えはあった」

    御坂「じゃあ…!」

    ステイル「…ふう」

    感覚を伝える神経まで死んでしまっている上条にもわかる、異能を打ち消す力が魔術をかき消した感触が伝わってきた。
    安堵と歓喜に輝く御坂、一つ息を入れてかぶりを振るステイル。そして――

    バギンッ!!!

    神裂「!!?」

    もう一つ何か破壊音が聞こえたような気がした神裂が目を見開く…弛緩しきった、一瞬の間隙にそれは起こった。

    ドンッ!!!

    上条「うおっ!?」

    麦野「!?」

    神裂「危ない!!」

    インデックスを戒める刻印を破壊した同時に、不可視の力に弾き飛ばされたかのように吹き飛んだ二人を受け止める神裂。ベットを囲んでいた御坂とステイルも思わず後退る。

    神裂「大丈夫ですか!?」

    上条「だ、大丈…」

    麦野「!?当麻!その手!」

    思わず叫ぶ麦野…たった今まで添えていた上条の右手の先から…怪我とは別に新たな流血が行っているのが見えた。

    御坂「なに!?何が起きたの?ねえ!」

    ステイル「騒がないでくれ!今考えている!!」

    ステイルは思案する。インデックスを縛る術式は、あの神裂の魔術を打ち消した気にいらない少年が解除したのではないのかと。
    これで終わりではないのかと…!

    「―――警告―――」

    全員「「「「「!?」」」」」

    186 = 175 :

    その冷厳なる声音の出どころを全員が信じられない面持ちで注視する。
    非人間的な声音。魂を持たぬ傀儡のような白面に浮かぶ…無機質な双眸に浮かぶ、鮮血のような『魔法陣』を

    禁書「――第三章第二節。Index-Librorum-Prohibitorum――禁書目録ノ『首輪』第一カラ第三マデノ全結界ノ貫通ヲ確認。再生準備――失敗」

    上条「…インデックス?おい!インデックス!!インデックス!!!」

    禍々しいまでに無垢な純白の法衣が淡く輝く。彼女が使えないと言っていたはずの魔術の力が満ち充ちて行く。

    麦野「なるほど?漏洩防止のための自決措置じゃなくて対侵入者用の迎撃装置…ってわけね…いいセンスしてるわ。どこの誰だか知らないけど。反吐が出るくらいにねェェェ!!!」

    この時全員が悟った。あれはもはや…インデックスではない。インデックスの肉体を借りた怪物(トラップ)そのものだと。

    神裂「魔法陣…?そんな…!彼女には魔術を使う力なんて…!」

    ステイル「…どうやら僕達は、二重の意味で騙されていた…そういう事らしいね」

    おののく神裂、戦慄くステイル。彼等は悟った。自分達がパンドラ(災厄)の匣を開いてしまった事を。

    禁書「『首輪』ノ自己再生ハ不可能、現状十万三千冊ノ保護ノタメ…」

    御坂「あ、アンタ!そんな腕で何するつもりよ!?」

    上条「――手を貸してくれ」

    動かない右手も構わず抱き止めた神裂から、御坂の肩を借りて立ち上がる上条が、麦野を呼んだ。

    麦野「――任せて」

    一も二もなく首肯し、上条の右手首に左手を添える。先程飛ばしたジョークが脳裏をよぎる…とんだ共同作業だと。

    麦野「――そう言えば、アンタと肩並べて戦うだなんて初めてじゃない?」

    上条「ああ」

    最後の最後で姿を現した、インデックスの中に眠っていた怪物(じどうしょき)…肌が粟立つ。背筋が凍る。怖気が止まらない。
    ステイルより、神裂より、遥かに恐ろしい怪物が…最もか弱い少女の中に眠っていたという現実。

    腕が一人で上げる事すら出来ない無能力者(レベル0)が、テストで百点を取れる訳でも女の子にモテる訳でもないただの高校生が…今伝説に、神話に挑む。

    禁書「侵入者ノ迎撃ヲ優先サセマス」

    たった一人の少女を救うために

    ただ一人の女性と共に

    187 = 175 :

    とある星座の偽善使い(フォックスワード)の者です。
    本日の投下はこれにて終了となります。

    寒くなって来ましたので皆様もお気をつけ下さい…では失礼いたします

    188 :

    「とある科学の超電磁砲」側のストーリーと整合性がとれているとは・・・素晴らしい

    189 :

    あのアイテム写ってた1シーンこのシーンかよ…マジ鳥肌たった。次はペンデックスなんだな。作者乙。がんばれ

    190 :

    文章が気障っぽいとこがカマチーみたいだ

    191 = 190 :

    あとフレンダがアイテムに愛着とか執着みたいなのを
    持ってる感じがする

    192 :

    死亡フラグはそんなに感じないが不幸フラグはビンビンするな

    193 :

    続きが気になるー
    原作のエピソードの使い方が上手い

    194 :



    ドキドキしてきた

    195 :

    とある星座の偽善使い(フォックスワード)の者です。
    この時間ですが投下させていただきます。みなさんたくさんのレスをありがとうございます…禁書目録編の最後になります。

    196 = 195 :

    ~第三学区・『ミネルヴァ』スイートルーム~

    「――『書庫』内ノ十万三千冊ニヨリ、防壁ヲ傷ツケタ魔術ノ術式ヲ逆算…失敗。該当スル魔術ハ発見デキズ。術式ノ構成ヲ暴キ、対侵入者用ノ特定魔術ヲ組ミ上ゲマス」

    麦野「はぁい…はじめましてね化け物(インデックス)…お目覚めはいかが?」

    上条の右手を捧げ持ちながら麦野が歩を進める。上条もそれに導かれるように歩む。彼我の距離は十メートル。
    ドス黒く塗り潰したような微笑を浮かべながら麦野は見据える。
    怪物(じぶん)と同じ化け物(なかま)に対する親愛の挨拶のように。

    禁書「――侵入者個人ニ対シテ最モ翌有効ナ魔術ノ組ミ上ゲニ成功シマシタ。コレヨリ特定魔術『聖ジョージの聖域』ヲ発動、侵入者ヲ破壊シマス」

    刹那、インデックスの双眸に刻まれた聖痕のような紋章とその身体の前に浮かび上がる魔法陣(エイリアス)…その機械的なまでに抑揚のない宣告に、ステイルが叫ぶ。

    ステイル「避けろぉぉぉぉぉぉ能力者ぁぁぁぁぁぁ!!!」

    上条「!?」

    麦野「?!」

    次の瞬間…空間が、次元が、時空が歪曲した。底無しの闇が萼を剥く。深淵へ連なる地獄の釜が開くのを…上条と麦野は目撃した。

    上条「(ヤバい!!)」

    麦野「(マズい!!)」

    目にした瞳すら焼き尽くさんばかりの『光の柱』がその白き牙を剥く瞬間を…!

    禁書「竜王の殺息(ドラゴン・ブレス)――実行」

    轟ッッ!と天来の光が二人を襲った。

    197 = 195 :

    ~第三学区・『ミネルヴァ』スイートルーム2~

    上条「ガアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!」

    麦野「ッッッ…!ッッッ…!!」

    異能を打ち消す右手を麦野の支えて突き出し光の柱を受け止める。
    叫ぶ上条、歯を食いしばる麦野。上条の手は今麦野が支えている分の力しか入らない。
    大津波を一杯のコップにすくい取るような、大雪崩を一本のストローに注ぎ込むような絶望的な足掻き。
    上条の腕の縫合が次々開き、飛び散る血飛沫すら光の中に灼かれて消える。

    上条「麦野…絶対手離すな!!!」

    麦野「(マズい…当麻の腕が保たない!!)」

    麦野沈利の能力『原子崩し』は別名『粒機波形高速砲』とも字される。
    電子を波形でも粒子でもない中間点に留めそれを射出する能力…しかし、この『光の柱』の威力は麦野のそれを遥かに凌ぐ。
    元々限界だった上条の腕では耐えられる負荷ではない…!

    神裂「引いて下さい!それは竜王の殺息(ドラゴンブレス)!!私の放った魔法とは桁が違うんです!!!」

    10万3000冊の魔導書を束ね、練り上げ、研ぎ澄ませたまさに必殺の一撃。
    霊剣アスカロンを以て聖ジョージが討ち滅ぼした伝説のドラゴンの息吹と同じそれは、容赦なく上条のちぎれかけた右手を切り裂き、骨をヘシ折り、それを支える麦野の腕までさらおうとする。

    禁書「――『聖ジョージの聖域』ハ侵入者ニ対シテ効果ガ見ラレマセン。他ノ術式ニ切リ替エ、引キ続キ『首輪』ノ保護ノタメ侵入者ノ破壊ヲ継続シマス」

    麦野「今さら引けるかってんだよォォォ!ここで引いたらテメェら仲良くグリルパーティーなんだよォォォッ!」

    上条「(光の粒子が一つ一つ質量が違う…てんでバラバラで…かき消し…切れねえ!?)」

    人間の身で拮抗している事そのものが既に一つの奇跡。しかし下される神の奇蹟とも言うべき竜王の殺息を前に、徐々に踏ん張る二人の足が押されていく中…!

    ピーン…

    金属音が弾かれる音。裏と表を虚空に描き重力に従い落下する…一枚のコイン!

    「下がって!!!」

    『電撃使い』

    『第三位』

    『超電磁砲』

    『常盤台のエース』

    御坂「行っ………けええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇー!!!」

    『御坂美琴』のレールガンが放たれる…!

    198 = 195 :

    ~side Misaka~

    御坂美琴は困惑していた。いきなり巻き込まれた魔術世界と上条達の戦いに。

    御坂美琴は混乱していた。いきなり救われたはずの少女が放った光芒に。

    『幻想御手事件』で精も魂も尽き果てるまで闘ってなお終わらない長い一日に。

    なのに

    上条「ガアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!」

    麦野「ッッッ…!ッッッ…!!」

    上条当麻が、麦野沈利が、インデックスが戦っている。

    どこにでも顔を出し、首を突っ込み、誰も彼も、自分までスキルアウト達から助けようとした上条当麻。

    傲岸不遜で、自分を毛嫌いし目の仇にし、なのにあんな強大な魔術師の攻撃から自分を逃がそうとした麦野沈利。

    今も、後ろの自分達に光の柱が届かぬように必死に踏ん張る二人の姿に…御坂は

    ピーン…

    御坂「(返すわよ…あの時の借り!)」

    木山春生、幻想猛獣との連戦を経て迎えた電池切れ。僅かな時の流れは僅かな力しか御坂を回復させなかった。だがしかし…

    御坂「(これが…最初で最後の一回!)」

    弾くコイン。見定める先は…砲台となって暴虐の嵐を吹き荒れさせる…インデックスの足元!

    禁書『どんな魔術も攻撃も通用しない特別な霊装なんだよ!しずりの光も届かないんだよ!ねえスゴい?わたしってスゴい?』

    御坂「信じるわよ…インデックス!!」

    出来る。狙うは一点。威力は最小限に演算。舞い散る欠片は『歩く教会』といった彼女の修道服が防いでくれる。
    あの大食らいで愛らしい少女が神に愛されない世界など――御坂美琴は認めない!!

    御坂「行っ………けええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇー!!!」

    放たれたレールガンが…吸い込まれるようにインデックスの足元を爆裂させた。

    199 = 195 :

    ~第三学区・『ミネルヴァ』スイートルーム3~

    ドオオオオオオオオオオオオオオオン!

    上条「ビリビリ!?」

    麦野「第三位!!?」

    後方より放たれた威力を抑えたレールガンがインデックスの足場を破壊した。
    飛び散る破片を『歩く教会』はモノともしなかったが、それにより固定砲台と化していたインデックスの瞳と魔法陣が天井へと仰向けに倒れそうになり――

    ゴオオオオオオオオオオオオオオオッ!

    天井を容易く破壊し、満点の星空目掛けて凄まじい光の奔流が矛先を変えた。
    上条と麦野から…軌道がずれ、解き放たれる!

    上条「沈利!!!」

    麦野「当麻!!!」

    駆け出す二人。上条の手を取る麦野、インデックスを見据える上条。二人で一つの生き物のように、走り出す。

    上条・麦野「「インデックスぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」」

    少女を苛む幻想(ぜつぼう)の全てを打ち砕くために

    200 = 195 :

    ~第七学区・学生寮~

    土御門元春は夜空を裂いて昇る光をサングラス越しに見つめていた。

    土御門「始まったか」

    ~第七学区・とあるパン屋~

    青髪ピアスは店仕舞いの最中、夜空を裂いて昇る光を笑い目から見つめていた。

    青髪「こっからや、カミやん」

    ~第三学区・ホテル『カエサル』~

    垣根帝督はシャワーを浴び終えた後、同衾していた女性と夜空を裂いて昇る光を斜に構えた笑みで見つめていた。

    「ていとくー!花火だよ花火!織女星祭もう終わったのに!」

    垣根「ああ…花火だな。それもとびっきりイカした、デケぇヤツがよ」

    ~第三学区・路上~

    絹旗最愛は路上からその他の通行人と同じように夜空を裂いて昇る光を見つめていた。

    絹旗「超なんなんですかアレは!?」

    ~第七学区・とある病院~

    冥土帰しは診察室の窓からその夜空を裂いて昇る光を見つめていた。

    冥土「…流星のようだね?」


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