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    元スレ麦野「ねぇ、そこのおに~さん」2

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    スレッド評価: スレッド評価について
    みんなの評価 : ★★
    タグ : - 麦野「ねぇ、そこのおに~さん」 + - フレンダ + - ヤンデレ + - 上条 + - 佐天 + - 滝壺 + - 絹旗 + - 美イン + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
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    801 = 468 :

    ~4~

    黒夜「大したイカレ具合だねェ麦野沈利ちゃーン!!?マトモじゃねェじゃンアンタもさあああああァァァァァ!!!」

    逃げる事を止めた黒夜が残った右腕を天へ掲げる。
    それはまるで指揮者のタクトに合わせて奏でられるオーケストラのように――

    ズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズ…!

    火の海と化した広大な駐車場の四方から這い出て来る無数の腕達…
    黒夜の右上半身に接続された腕をマスターとし、それに従う窒素爆槍の砲台として機能するスレイブが蠢き出す。
    数百、数千の窒素爆槍の矛先全てを麦野に対して向けるために。

    麦野「ああそうだねえ…だからなんだってんだよオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

    そして再び業火と残骸の中向かい合った麦野もまた懐から拡散支援半導体(シリコンバーン)を取り出す。
    一枚につき、麦野の原子崩しの光条を14本まで分裂させ多角的な射撃を可能とするアイテム。
    先程のような――『0次元の極点』によって拾った命を、麦野は躊躇いなくドブに捨てる。
    ここで仕留める。決して上条達の世界には立ち入らせないと。

    黒夜「アンタは私とおンなじなんだよ!!イカレた事なしには生きていけない、どす黒い学園都市の真っ黒なバケモン同士だってなあァァァァァァァァァァ!!」

    黒夜を司令塔とする『スレイブ』達が大気を歪めるほどの窒素を凝縮し圧縮させ爆縮させんと引き絞る。
    そして――麦野が手にしたシリコンバーンを放り投げ、原子崩しの妖光の扉を開くのとそれは完全に同時だった。

    麦野「テメエと同列にされるほど安い女に落ちぶれた覚えはねえぞガキがぁっ!!だったら沈めてやるよ!!テメエも!私も!二度と浮かんでこれねえ地獄の底までさあアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

    二匹の怪物が激突する。肉体をパーツ程度にしか見ない黒夜、肉体を器程度にしか考えない麦野。
    心の在り方まで歪めて堕ちた闇に今なお棲まう黒夜、心の在り方などここまで捨てたと言わんばかりの麦野。
    黒夜海鳥はありえたかも知れないもう一人の麦野沈利だった。
    それは姿形の違った黒い兄弟の衝突だった。

    麦野・黒夜「くたばれエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!」

    そして、駐車場全体を両断する魔槍と光芒が再び炸裂し―――

    802 = 468 :

    ~5~

    黒夜「地獄ゥ!?ここがそうだ!私らがそうだ!!地獄なンて地図のどこにもねェンだよ!!」

    数百数千の窒素爆槍が轟ッッ!と大気そのものをミキサー化させ、吹き荒れる暴風が車両と瓦礫の残骸を舞い上がらせ――

    黒夜「あるとすりゃァ…私らが捨てちまった“心”にじゃねェかァ!!?」

    ガガガガガ!と散弾銃並みの破壊力を乗せた砂利と窒素爆槍が次々と放たれて行く!
    一方通行の演算能力、思考方法、能力特性の一部を植え付けられた黒夜の戦い方は彼を彷彿とさせた。

    麦野「グダグダ御託並べて浸ってんじゃねえっ!!!!たかがレベル4程度のガキが、玩具振りかざして勝てるとか夢見てんじゃねえぞォォっ!!」

    対する麦野が原子崩しでシリコンバーンで撃ち抜き、光芒を網状に展開させ、溶鉱炉の防壁となしてそれを撃ち落とし、防ぎ切れない魔槍を電子線の網の制御をあえて放棄し――

    麦野「ガキの砂場遊びに付き合ってられるかってんだよオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

    ボオオオオオッッン!と爆ぜた盾が魔槍の矛を誘爆に巻き込み、魔槍のいくつかに限定し掻き乱された気流の中に生まれた一本道を麦野は突っ込む。
    サイボーグ化した黒夜の戦闘能力は既にレベル4という枠を超えている。
    実用性や研究価値や利益を度外視すれば、レベル5に比肩するほどに!

    黒夜「砂場遊びで結構ォッ!楽しいさ!それはそれは楽しいさ!!ここがあンたの居た世界で私の居る世界の頂点なンだ。悪を極めたこの場所に、私の求める全てがある!!」

    ぞぞぞぞぞぞぞっ、ぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞっぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞ…

    ギチギチギチと黒夜の能力を補強する腕が再び冥府の血海から這い出る亡者のように蠢動を始める。

    黒夜「殺しのためならいくらでも金をつぎ込める。顎で使える人員の数も半端じゃない。おまけにこのサイボーグ。私の肉体は、私の生き様は、学園都市の誰より突き抜けてる」

    原子崩しと共に飛び込んでくる麦野を待ち構えていたように、黒夜が大気中の窒素を圧縮、圧縮、圧縮――!!
    数百数千の魔槍を一方の戦矛へと連なわせ、束ねゆき、重ねあわせ、研ぎ澄まし、数百メートルもの巨神の先槍へと――

    黒夜「あンたが捨てちまった全てをさあああああああ!!!」

    引き絞られた巨大な怒穹のように――ドンッッ!!と言う音すら置き去りにして放つ!!

    803 = 468 :

    ~黒夜海鳥2~

    そうだそうだ。それでいい。あんたの能力、私の肉体。
    それは神様のいねえこの世界で私達に唯一与えられた最高の暴力装置だろう?
    生まれ落ちた時から箱詰めにされたこの世界、瓶詰めにされたこの地獄の中にたった一つの真実じゃない?

    目を覚ませよ麦野沈利。あんたは正義なんてもんをワゴンセールに並べられた手垢のついた中古品みたいに見れる人間のはずだ。
    行く手を阻む人間を害虫を潰すのと同じ手前をかける程度の暇しか他人に与えない、私と同じ側の人間だ。
    血と死と鉄と暴力の四重奏。復讐の女神が踊る舞台。見物料代わりに観客まで鏖(みなごろし)にするイカレた死の歌姫だ。

    なあわかってんだろ?ライオンが牙を向く時は二種類しかない。
    獲物を狩る時と、追い詰められた時だ。あんたはどっちだ?
    私が憎いか?あんたの男を撃った私を殺したいか?
    あんたの脳細胞はもう真っ黒さ。あんたの中の真実なんざそれしかありえないだろう?

    やられる前にやるヤツなんて腐るほどいる。
    やられたくないからやるヤツなんて売るほどいる。
    そんな中で――『やられてもいいからやる』なんてヤツが何人いる?
    私が知る限り、そんなトチ狂った真似をして来るのはあんただけさ麦野沈利。

    だからブチまけてやる。敬意と尊敬と嘲笑と憐憫をもってえぐってやる。
    腸を破裂させて素麺にみたいな神経を引きずり出してやる。
    とびっきりの公開スナッフにしてやる。アイテムから浜面仕上からを吊り上げる餌にな。
    私の部下共みたいな足らない連中じゃない、あんたの仲間みたいな甘い連中じゃない、『私達の流儀』で

    黒夜「はははははははははははははははははははは!!!」

    麦野「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!」

    数百メートルサイズの窒素爆槍。もうかわせない。かわしても破裂させる。
    破裂を防いでもそこから窒素を取り除いた空間を作り上げ、酸素と水素を雪崩れこませてあたら吹き飛ばす。
    もう助からない。もう救われないよ。私とあんたは『死ぬまで』このままだ!!
     
     
     
     
     
    黒夜「くたばれ“卒業生”…これが“新入生”だああああああああああああああああああああァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!」 
     
     
     
     
    ―――抱いて折れろ、最後の希望を――

    804 = 468 :

    ~world's end girlfriend~

    ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ…


    灰色の空


    鉛色の雲


    鈍色の雨


    鼠色の路地裏


    麦野『………………』


    赤色の肉片


    朱色の内臓


    紅色の血痕


    緋色の斑道。


    麦野『――――――』


    濡れた髪


    透けた衣服


    冷たい驟雨


    耳鳴りのようにつんざく雨音


    生温い死体の温度
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    麦野『…助けて――』
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    その日、私は生まれて初めて人を殺した。

    805 = 468 :

    ~2~

    私は、朝の光が嫌いだ。朝目覚める度に思うからだ。『これは夢じゃないんだと』

    人殺し。字で表すならたったの三文字。この三文字が朝目覚める度に脳裏を、胸中を過ぎる。目指し時計の時刻を確かめるより早く。

    人を殺した事は『幻想(ゆめ)』でも何でもない『現実』なのだと突き付けられるから。
    私の中の奥底にある、名前のつけられない場所から舞い上がる葡萄酒の澱のように。

    優しい夢になんて逃げ込めない。私を縛り付ける牢も檻も柵もない。当たり前だ。私の頭蓋骨の中にこそ牢獄はある。
    裁きも下されず、罰も受けず、咎める者すら居はしない。つくづく思う。この世界の神様はよっぽど冷笑的なんだろうと。

    麦野『…――当麻――…』

    私は朝目覚めた時、必ず上条の寝顔を触れ、見つめ、そしてキスする。
    あんただけは幻想(ゆめ)であって欲しくない、そう思いながら私は名前を呼ぶ。
    お互いに服を着ていたって、着ていなくたって構わない。

    麦野『――…当麻…――』

    私が信じられるもの。それはあんたの体温。人殺しの私に許されたたった一つのものにすら私は感じられる時がある。
    そう、あんたは『モノ』じゃないんだ。生きている『ヒト』なんだとわかるから。

    初めて人を殺した日から長い間、私は人を物として見るようになった。
    それは『私は人を殺したんじゃない、物を壊したんだ』とでも思いたい自己欺瞞の発露なのかも知れない。
    よく言われる『人を人とも思わない』という私の評は半分当たりで半分外れだ。

    私は人を『ヒト』して見たくないのだ。もたげてくるから。
    私は私と『言葉を交わし』『時に触れ』『心を通わせた』かも知れない『ヒト』を殺した人間なのだと。

    自分を人を殺した『化け物』だと思い込んだ方が楽だからだ。
    私は『化け物』だから『ヒト』を殺したんだと。
    だから私は仕事の時『化け物』になりきる。自分の『ヒト』の部分を殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺し尽くす。

    そして相手を、敵を、『モノ』として見做す。そうして命を奪う。
    出来る限り残酷に、残忍に、残虐に。これは『モノ』だ『ヒト』じゃないと自分に言い聞かせるように。

    そうして私は不感症になった。

    わかっている。そんなものは××××以下の気休めだ。
    罪人の独り善がりな屁理屈だ。そして…そんな風に考えられる私の腐った心根が既に『化け物』なんだ。

    806 = 468 :

    ~3~

    絹旗最愛、滝壷理后、フレンダ=セイヴェルン。
    私はアイツらでさえ物として見ていた。アイテム(道具)とは私が名付けた。
    人を物としてしか見れなくなるほど閉じてしまった私の世界に、万が一にも綻びを生まないために。

    まかり間違っても私の中に友誼や愛着や憐憫の情など浮かび上がって来ないように。
    例えそんな考えが頭を過ぎっても、私が私に逃げ道を作らせないために。
    そして私は生来の自己中心的な性格に加え、アイツらを『物』として見るという自分を甘やかす免罪符を振りかざして酷使して来た。

    人を物としか見れない人間は、いつしか誰かと何かを分かち合う世界を閉ざしてしまう。
    それでいい。どんな理由があれ、自分の都合で他人の世界を命ごと否定してしまった人間はせめてそれくらい負うべきだ。
    後悔なんてしない。懺悔なんてしない。贖罪なんてしない。

    誰かが言っていた。『減らない負債を少しずつでも返して行くんだ』と。
    勝手にすればいい。頭から否定もしないし、心から肯定もしない。

    人を殺した時点で、そいつの心は破産と同義なのだから。
    負債だなんて認識が甘く見えるほど私は開き直っていた。
    少なくとも、罪悪を踏み倒して憚らない程度に私は腐っていた。

    そんな他人の命を奪った人殺しを、自分の命を投げ打ってまで救おうとしたのが
     
     
     
     
     
    上条当麻だった。
     
     
     
     
     

    807 = 468 :

    人を物としてしか見れないはずだった私の世界に入ったひび割れ、綻び、射し込んだ光。

    私が嫌いな朝の光よりもっとあたたかい体温をくれた男の子。

    きっと、私が見出してしまったのは恋だの愛だのは――後付けに過ぎない。

    無能力者(ゴミ)として葬り去ろうとして、ヒーロー(偶像)として見つめてしまった。

    人を殺してから初めて『自分と同じ人間』として見る事が出来るようになれた。

    人殺し(バケモノ)として終わるはずだった私を女の子として見てくれた。

    そして第十九学区のブリッジでの戦いで、私は当麻を初めて真っ直ぐ見れた。

    同じ『人間』として。そしてそれは――きっと、『怪物』であろうとした私自身が『人間』として生きたくなったからかも知れない。


    だから告白して


    キスをして


    デートをして


    結ばれた。


    こんな血に塗れた身体を、当麻は綺麗だと言ってくれた。



    痛み以外の涙が出た。
     
     
     
     
     
    こんな私でも、お前の側に居ていいんだと。
     
     
     
     
     

    808 = 468 :

    ~4~

    罪悪感すら感じる資格などないと片付けていた私の世界は日に日に広がって行った。

    雨でなければ良いと思う程度だった天気に、雲の形に意味を見出したり青空の色の違いがわかるようになったり…


    当麻と出会う前に読んでいた小説が、付き合ってから感じ方や受け取り方が変わるほどに。

    濃いめだった料理の味付けが、いつしか当麻の好みのそれに無意識にシフトしていた時だったり…

    そんな、そんなつまらない変化。誤差のような進歩。けれど修正は不可。

    少なくとも…人殺しの私が、当麻との将来や未来を夢想する時間が増えた程度には私は変わった。

    人殺しのクセに幸せになりたいのかと。誰かの命を踏み台どころか足蹴にして来た私が本当なら持ってはならない願い。

    裁かれず罰も下らない罪人ならば、せめて幸せになってはいけないのが最低限のルールだったはずだ。

    当麻の側にいればいるほど私はルールを破り続けた。

    コイツ以外の人間も徐々に物ではなく人として見れるようになった。

    コイツを守りたいと、私の全てになってしまったコイツを守りたいと…

    私は人殺しのクセに正義の味方の相棒になってしまった。
     
     
     
     
     
     
     
    当麻、お前はよく自分の事を偽善者だっていうけどね――
     
     
     
     
     
     
     

    809 = 468 :

     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    ―――本当の偽善使い(フォックスワード)は私なんだよ―――
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     

    810 = 468 :

    星にすら祈る資格もない、人殺しの『悪』の癖にあんたの側にいたいがために、あんたを失いたくないがために――

    あんたが誰かを助ける、そのほんの少しを手伝う偽善者は私なんだよ。

    あんたが傷つくくらいなら、誰も助けなくたっていい。

    あんたが死んじゃうくらいなら、誰も救わなくてたっていい。

    そんな『女』の欲目を捨て切れない私は偽善者なんだよ。

    人殺しなんだよ。化け物なんだよ。これ以上救いなんかあっちゃいけないんだよ。

    今だってそうだ。私はこの化け物(黒夜海鳥)を道連れにしなきゃいけない。

    あんたが守った世界をメチャクチャにしようとしているこのもう一人の私を、同じ地獄に引きずり込むために。


    もういい、私は十分救われた。充分報われた。だから思い残さない。

    私はね、生きる場所も死ぬ場所もあんたの中に見つけてしまった。どうしようもなく。
     
     
     
     
     
    だけどね
     
     
     
     
     
    だけどね当麻
     
     
     
     
     

    811 = 468 :

     
     
     
     
     
     
     
    私も許されるならあんたと生きたかった。 
     
     
     
     
     
     
    私も赦されるならあんたと一緒にいたかった。
     
     
     
     
     
     
     
    人を殺してしまった日から終わってしまった私の世界。
     
     
     
     
     
     
     
    あんたといる度に強く意識させられる世界の果て。私の立ち位置。
     
     
     
     
     
     
     
    この縁無しの世界の果てと終わりで、あんたと眠る夢を見たかった。
     
     
     
     
     
     
     

    812 = 468 :

     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    一緒に、不幸(しあわせ)を分かち合いたかった。
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     

    813 = 468 :

    ~FINAL FANTASY~


    なのに


    どうしてなんだろうね


    黒夜「―――………ッッ!!!」


    何度も何度も傷ついて


    何度も何度も死にかけて


    何度も何度も私を泣かせて


    麦野「…あっ…」


    どうして、いつまでたっても槍は私を貫かない。


    どうして、いつまでもたっても爆発が起こらない。


    どうして、あんたがここにいるんだ。


    そんな馬鹿でかい槍を右手で掴み取って


    血だらけの左腕で私をかかえるように抱き上げて


    私は、お姫様だっこされてるんだ。


    黒夜「――テッ」


    私はこの女と一緒に地獄に堕ちるはずだった。


    二匹の蛇が互いの尾を喰らい、滅ぼし合う結末は私が選んだはずだった。


    もう、あんたと一緒にいたくてもいられなかったはずだ。


    そんな負の希望を、握り潰すあんたは


    私と違って、救いだけを生んで来た右手は


    私にとっての、救いであっちゃいけないはずだろう?


    黒夜「メエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!」


    誰かのために傷つくあんたなんてもう見たくないのに。


    誰かのために死にかけるあんたなんてもう見たくないのに。


    私のために血を流すあんたなんてもう見たくないのに



    814 = 468 :

     
     
     
     
     
    「――夕方、別れたっきりだったな」
     
     
     
     
     
    途中で終わったデートの続きなんてもう出来ないのに。
     
     
     
     
     
    こんなに返り血に塗れた汚れた私を、どうしてお前は救うんだ。
     
     
     
     
     
    私と出会った事を、どうして後悔しないんだ。お前がこうなったのは私のせいじゃないか
     
     
     
     
     
    インデックス、私はあんたにあいつを守れって言ったじゃないか
     
     
     
     
     
    「―――なんか、ずいぶん遠回りしちまった気がする」
     
     
     
     
     
    美琴、私はあんたにあいつを頼むって言ったじゃないか
     
     
     
     
     
    「―――なんか、ずいぶん待たせちまった気がする―――」
     
     
     
     
     
    ――バカヤロウ――
     
     
     
     
     
    「―――だから、言わせてくれ」
     
     
     
     
     

    815 = 468 :

     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    ―  ―  ―  ひ    さ  し  ぶ  り  ―  ―  ―
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     

    816 = 468 :

    ああ、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう
     
     
     
     
     
    失うものもない絶望すら、あんたは私から奪って行くのか
     
     
     
     
     
    こんな光溢れる眩しい世界に、私の居場所なんてどこにもないのに
     
     
     
     
     
    生きろって言うのか、この私に
     
     
     
     
     
    あんたと一緒に、生きろって言うのか
     
     
     
     
     
    ああ、ちくしょう。私から心を奪うだけじゃ足りないって言うのか
     
     
     
     
     
    私はここまで捨てたぞ。なのにお前はそれをひとつも漏らさず拾うって言うのか
     
     
     
     
     
    今私が流してる涙まで一粒残さずすくうって言うのか
     
     
     
     
     
    私の全部を、引きずり上げなきゃ気がすまないって言うのか
     
     
     
     
     
    ちくしょう
     
     
     
     
     
    こんな血塗れのお姫様がいるか
     
     
     
     
     
    ちくしょう
     
     
     
     
     

    817 = 468 :

     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    ―――――世界が、こんなに私に優しいはずがない―――――
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     

    818 = 468 :

    たくさんのレスありがとうございます…本当にありがとうございます。
    本日はここまでです。次回も2、3日以内だと思います。
    またよろしくお願いいたします。それでは失礼いたします

    819 :

    乙次回も楽しみにしてます

    820 :

    エンダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

    821 :

    まだはやい

    822 :

    1乙
    新約成分をうまく織り込んだな
    というか黒夜をキチンと違和感なく掘り下げててスゴイ

    あと美琴もやっぱり、上条さんの特別だよなー、と
    ちょっぴりでも報われてくれて嬉しい

    823 :

    おもしろすぎる

    824 :

    >>1
    今回も面白かったぜ

    825 :

    乙!!まさかあのむぎのんが見てた悪夢の声の空白が「助けて」だったとは思わなかった。
    世界が閉じる、子供が産めない、人殺しってブルーブラッドのお祭りでも出てたむぎのんのキーワードだから今回のは…重いorz

    826 :

    凄すぎて気軽にレスできない

    827 :

    むしろ興奮しすぎて直ぐに眠れない

    828 :

    とある星座の偽善使い(フォックスワード)の者です。
    本日の投下はいつも通り21時になります。よろしくお願いいたします…

    829 :

    >>1
    初SSがあのクオリティだったのにまだ上がり続けてるとかやべぇ
    楽しみにしてます

    830 = 468 :

    ~1~

    いつからだろう。背中を預けるようになって背を向けている事に気づいたのは

    いつからだろう。背中を守るようになって背負われている事に気づいたのは。

    身体に消えない傷が増えて行く度に心に癒えない痛みが増して行く事を。

    心を溢れ出さんばかりの涙ごと凍てつかせる度に固く閉ざされ行く事を。

    なのに、何故なんだろう――

    私を抱く腕の熱さが、血を失い過ぎて凍えた身体をこうまで溶かす。

    俺が抱く腕の中の重みが、傷だらけふらつく身体に力を湧き上がらせる。

    闇の中へと投げ捨てた心ごと、引きずり上げられて

    死の淵へと彷徨っていた身体ごと、引きずり出されて

    背中合わせの時、あんなにも近くて遠かった距離が

    向かい合わせの今、こんなにも近くに側に感じられる。

    麦野「――どうして、来たのよ――」

    お姫様だっこのまま、溢れ出る涙に声を震わせないのが私の矜持

    上条「――声が、聞こえたんだよ――」

    お姫様だっこのまま、せめて真剣な表情を崩さないのが俺の意地

    麦野「――呼んでねえよ――」

    あんたはこの先何回私を泣かせるつもりだ。いい加減にしろ

    上条「――呼んださ、“助けて”って――」

    こいつをこの先何度泣かせるかわかんねえけど、せめて今は

    麦野「――心は、あんたの所に置いてったのに」

    剥き出しの胸板に顔を擦り付ける。お前のせいでもうメイクは無茶苦茶だ

    上条「――じゃあ、それを返しに来たって事にしてくんねえか?」

    剥き出しの胸板に顔を擦り付けられる。今のでもう傷口開いちまって滅茶苦茶だ

    麦野「――何が返しにきたよ。離してなんてくれるつもり、ないくせに」

    白馬もない王子様、上半身裸の騎士、傷だらけのヒーロー、格好悪いわね

    上条「――返すさ。もう上条さんの腕はいっぱいいっぱいなんだっつーの」

    血塗れのお姫様、口の悪いお嬢様、涙でボロボロのヒロイン、可愛いぞ

    麦野「――まだ、右手が残ってるんでしょ?」

    こんなデートがあってたまるか。もうあんたとはやってけない

    上条「――両腕とも、沈利でいっぱいだ。もうかかえらんねえ」

    家に帰るまでがデートだろ?ならもう少し付き合ってくれよ

    麦野「―――馬鹿野郎―――」

    831 = 468 :

     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    私は、あんたで胸がいっぱいだよ――
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     

    832 = 468 :

    ~2~

    黒夜「……ッッ!!」

    何だ…あいつは。あの男は。今何をした?私が仕留めたはずのあの男は?
    黒夜の付け替え自由な闇色の眼差しがそう驚愕に見開かれた。
    その攻撃の手を一瞬緩めてしまいそうなほどに。

    黒夜「(掻き消し…やがったてンのか!?それも一本二本じゃねェ!数百数千をまとめて一本にした私の窒素爆槍を…ボンバーランスを一瞬で握り潰しやがった!!?)」

    一方通行対策の施された数百数千の『木原印』のマスターとスレイブを…
    まるで卵でも握り潰すように完全消滅させたあの男は何者だと黒夜は訝る。
    作戦行動中に洗い出したデータでは麦野沈利の同棲相手、加えて無能力者という項目しか『引っ張り出せなかった』。
    かつて麦野が上条当麻を暗殺しせしめるべくフレンダ=セイヴェルンに書庫(バンク)を漁らせたように。

    黒夜「(絹旗ちゃンと同じ防護性に特化した能力!?いや違う。ンなもンで防げるレベルじゃねェ!だとしたら夕方には何であンな呆気なく串刺しになった!?)」

    暗部からの、上層部からのバックアップは多額の資金提供と権限の委譲をもって万全を期されているはずだ。
    だとすればあの男はもっと『上』にいるのか?それとももっと『深い』場所にいるのか?
    黒夜海鳥は思考を研ぎ澄ませ、思い当たる。シルバークロースの敗北を。

    黒夜「(少なくとも一方通行みてェな反射とは種類の違う防護性、シルバークロースを白紙にしちまったような精神操作、その両方を成り立たせる“多重能力者”!?いや違う、そンなもンは実在しない!)」

    黒夜は知り得ない。幻想殺し(イマジンブレイカー)を持つ上条当麻、竜王の顎(ドラゴンストライク)を持つ神浄討魔を。
    それは皮肉にも、彼女が備えた特性の元となった一方通行がかつて抱いたのと同じ疑問。されど――

    黒夜「――面白れェ…面白過ぎンぞ…テメェら!!」

    ギチギチと再び亡者の腕(かいな)をもたげ始める黒夜海鳥。
    そう、一方通行とはまた違った意味合いで学園都市らしい怪物は心折れると言う事を知らない。
    何故ならば――折れる『心』が最初から壊れているからだ。だから――

    黒夜「シルバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァークロォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォースゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!」

    だから、迷う事なく抹殺指令を優先させる。

    833 = 468 :

    ~3~

    黒夜「シルバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァークロォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォースゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」

    夜明け前の空に響き渡る黒夜海鳥の絶叫。それは彼の者の名前。

    上条「!!?」

    轟ッッ!!と風が吹き荒れ、左腕を失った黒夜の呼び掛けの右手に――舞い降りるは上条が打ち倒したはずの

    SC「ptpjtjmjpjgagatjejまゃなはたな゛にさたァァァァァァァァァァ!!」

    全長五メートルにも及ぶ鋼鉄のサンタテレサ。二本のアームと二本のデスサイズ、二本の足は意味を為さずに半透明の羽を残像を発生させるほどの速度で羽ばたく――
    『十万三千冊』を並行励起させたインデックスが撃破した駆動鎧。
    FIVE_Over.…Modelcase“RAILGUN”…通称…Gatling_Railgun(ガトリングレールガン)に乗り込み言語の意味をなさない雄叫びをあげるシルバークロース!

    麦野「――あれは?」

    上条「――わかんねえ」

    麦野「はあ?私が聞いてるのは名前じゃないわよ…“かーみじょう”」

    しかし――第三位(オリジナル)を凌駕するファイブオーバーの降臨を前にして――
    麦野沈利はもう己を取り戻していた。上条当麻の腕の中に抱かれ、その目には先程までの絶望も殺意も狂気も雲散霧消していた。
    未だ炎上し続け、地割れが旱魃のように広がる駐車場のアスファルト。
    それは世界の終わりを迎え世界の果てに辿り着いたような絶望的な状況。
    しかし彼女はもう何者も恐れない。怯まない。下がらない。
     
     
     
     
     
    麦野「――“あれ”は、ブッ壊しちゃって構わないのかって聞いてんの――」
     
     
     
     
     
    そう――彼女の『自分だけの現実』…その世界の始点にして中心点、頂点にして終着点…
    『上条当麻』という名のマスターピースが彼女の全てを揺るぎないものにする。

    上条「――絶対、死なせるな。約束しろ」

    麦野「――そういう時はさ、普通私に“絶対死ぬな”って言うもんでしょ」

    麦野が上条の腕から降り立ち、上条は麦野の傍らに並び立つ。
    黒夜海鳥とシルバークロース、上条当麻と麦野沈利。
    半死半生の上条、出血多量の麦野、左腕損傷の黒夜、錯乱状態のシルバークロースが向かい合った。

    上条「決まってんだろ?――俺が、お前を死なせねえからだ」

    麦野「そうね。私達が別れる時なんて死ぬ時くらいよ。まあ――」

    834 = 468 :

     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    麦野「誰にも負ける気、しないけどね」
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     

    835 = 468 :

    ~Dance with Death~

    ッッッッッッッッッッ!!!!!!

    第三幕の火蓋は、鋼の暴風と共に切って落とされた。

    上条「ッッ!!」

    麦野「――!!」

    弾かれたように並び立つ二人が左右に分かれて飛び出す直後――今までのそれとは比べ物にならない鉄風雷火が二人の立っていたアスファルトを吹き飛ばす!

    SC「まらたなたあをやァァァァァァァァァァ!!」

    連なる金属砲弾がアスファルトにクレーターを生み出し、割れて散る破片が更に穿ち抜かれんばかりの奔流。
    されど駆け出す二人はそれに一別すらくれない。互いに目配せの一つすらも。

    黒夜「お熱い所悪いンだけどさァ…!」

    そして――飛び出す麦野目掛けて黒夜の窒素爆槍が蠢動を始める。
    ブン…ブンと一気に14本のボンバーランスが顕現し、現出し、射出され――

    黒夜「引き裂かせてもらうぞ無粋な“横槍”でさあァァァァァァァァァァ!!」

    バガバガバガバガッッ!!と麦野の本体を、麦野の行く手を阻むように窒素爆槍が吶喊して行く。
    正体不明、理解不能の上条当麻より――手負いの麦野沈利を全力で叩き潰さんとする!

    上条「させっかよォォォォォォォォォォ!!」

    パキイイイイイィィィィィン!

    が、分かたれた筈の道筋から上条が飛び出し、横合いからインターセプトするかのように伸ばす右手!
    麦野の身体を貫く刹那にまとめて掴み取り、軌道をそらせ、アスファルトに突き立つボンバーランスが――

    ドオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォンッッ!!!!

    上条「―――!!!」

    爆ぜ、他の槍を巻き込む誘爆が連鎖し膨れ上がる衝撃を上条の突き出した右手が全て抑え込み、押さえつけ、掻き消す!
    そして絶対不可侵の領域とも言うべき右手のすぐ側から――

    麦野「いーち!!」

    ドンッ!と麦野の左手が伸び、放たれた原子崩しの光芒がシルバークロースの右足を打ち抜き

    麦野「にー!!」

    立て続けに放った光条が文字通り矢継ぎ早に黒夜が従えるスレイブ達の亡者の腕(かいな)を焼き滅ぼし!

    SC「ガぁぁぁぁああぃいやかやァァァァァ!!」

    麦野「さーん!!」

    反撃とばかりに殺到するガトリングレールガンの金属砲弾の嵐を、上条と己の間に張り巡らせた蜘蛛の巣の網目より隙間ない原子崩しの光の盾で防ぐ!

    836 = 468 :

    上条「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

    さらに、貫通するよりも早く物理法則を置き去りにする溶鉱炉に消滅させられる金属砲弾を防ぐ原子崩しの楯をイマジンブレイカーで破壊する――
    そして――再び開かれた道を上条が突っ切り、麦野が突っ走る!

    黒夜「コイツら…!!」

    目配せも、合図も、打ち合わせもなく、上条が麦野を庇い、麦野が上条の手に及ばぬ部分を補い、二人で行く手を守り、二人でその道を駆け抜けて来る。
    どれだけの修羅場を、どれほどの鉄火場を二人で乗り越えれば言葉すらいらないままにあそこまで互いを生かせる?
    幻想を打ち砕く無敵の盾となる上条の右手、物質を崩壊させる最強の矛となる麦野の左手。それはまさしく――
    両立し共存しえないはずの絶対矛盾(パラドックス)!!

    SC「…び…じじじぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃー!!」

    自我が崩壊し単純な射撃と単調な射線をなぞるばかりだったシルバークロースの、蟷螂の首刎鎌が轟ッッ!!と走り込んでくる上条に空気を切り裂いて振り下ろされる!

    上条「沈利!」

    麦野「飛びなァッ!!」

    『攻撃の予兆』を感じ取っていた上条が振り下ろされる首刎鎌を、直線的であるが故に半歩飛んでかわす。
    そこへ麦野が――着地するかしないかの上条の足元に原子崩しを叩き込み、地面を爆裂させて飛ばす!

    黒夜「させるかあっ!!」

    宙へ飛び出した上条がファイブオーバーの機体の取っ掛かりに捕まった所を黒夜の窒素爆槍が…

    黒夜「跳ねてンじゃねェぞ!!」

    三人もろとも道連れにせんとぐるりと旋回するように円陣を描くように――

    ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガ!!

    上下前後左右完全同時にボンバーランスを浴びせかける。
    だが…上条がシルバークロースの機体をよじ登っていた手は…『左手』!

    上条「っらあああああああああああああああああ!!」

    左腕一本でぶら下がりながら振り向き様に突き出した右手が再び窒素爆槍を打ち消す。
    黒夜は瞠目する。シルバークロースごと狙って尚…尚この二人には届かないと言うのか!!?

    麦野「ッッ!」

    窒素爆槍を防いだ右腕に、麦野が地面を蹴ってその手に手を伸ばし――

    837 = 468 :

    上条「っとおっ!!」

    上条の右腕にかかる重み、左腕で己の体重全てを支えしがみつきながら――振り上げる!引きずり上げる!麦野を投げるように!

    麦野「った!」

    差し伸べられた手から、投げ出された宙へ、そこから上条の肩を足場に一度蹴り――五メートルにも及ぶシルバークロースの背面上部に麦野が取り付き――

    麦野「――当麻に感謝するんだね」

    麦野の左手に無数の光球がポウッ…と浮かび上がる。
    それは原子崩しの妖光の扉が開く輝き。粒機波形高速砲の萼。
    狙う先は――大量の弾丸を収めておくためのドラムマガジン…
    ガトリングレールガンの射撃を賄うためのバックパック!

    麦野「昔の私ならテメエは百回ブチ殺されてんだよオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

    ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!

    ――爆破。羽ばたく羽根をよけて放たれた原子崩しがシルバークロースのドラムマガジンを撃ち抜く。
    コックピットを避け、祈りの形にも似た鋼鉄の蟷螂の鋼の萼を喰い破る。
    もうガトリングレールガンを撃とうにも――撃つカートリッジなくしてそれは成し得ない!

    上条「飛ぶぞ!!」

    ドンッ!と爆破の中飛び出した上条が麦野を抱えてシルバークロースの機体から宙へと身を投げ出す。
    それと同時に――誘爆が羽根まで巻き込み、更に片足に穴を開けられたシルバークロースが膝を突く。
    もはや飛ぶ事も駆ける事も振るう事もかなわない――
    制御系のコンピューター、運動量の増幅、思考の補助、全てを立たれ、記憶も人格も破綻を迎えた彼はもう戦闘不能も同義だった。

    黒夜「――!!!」

    動けなくなったシルバークロースから目を切り黒夜は飛び降りて着地した二人を見やる。
    何百何千と反復練習を繰り返すダンスパートナーもシャッポを脱ぐその動き。
    それを分断するためにシルバークロースすら巻き込んだ攻撃すら…届かない。

    男の方は夕方無様に背中から撃たれたはずだ。女の方は先程不様に吠えていたはずだ。
    それがなぜ、どうして…これほどまでの別人、別格、別次元の動きが出来ると言うのだと。
    二人が男女の関係にあろうが、閨を褥に同衾し朝寝を迎えて身につくレベルではない…!

    838 = 468 :

    ~Dance with Devil~

    黒夜「だったら――」

    ギチギチギチ…!と再び戦慄く亡者の腕。同時に黒夜の演算が加速する。
    大気中の窒素を隷下におき、酸素を取り除く。
    正体不明の能力者に窒素爆槍が通用しないならば――
    掴み取られかき消されてしまうと言うならば――

    黒夜「コイツはどうだァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

    限りなく無酸素に近い空間に窒素、水素、酸素を雪崩れ込ませる!
    巻き起こすは有象の魔槍ではなく無象の大爆発。
    点でダメなら線、線でダメなら面で潰す。あの二人が引き離せないならば――まとめて吹き飛ばす!

    上条「――下がってろ、沈利」

    麦野「――うん」

    しかし…上条は麦野を下がらせ、その前に右手を突き出す。
    それは特別な感慨をもたらさないほどに自然に――

    黒夜「吹き飛べェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!」

    ドッッッッッッ!!と音すら置き去りにする爆流が大気を爆ぜさせ、ひび割れたアスファルトごと巻き込んで破裂する!

    黒夜「ひっはははははははははははははははははははははははははははははは!!!」

    夜明け前すら白むほどの閃光と爆裂。耐えられまい、防げまい、かわせまい、逃れまい一撃。
    これを凌ぐなど不可能、そう不可能だ。神であろうと悪魔であろうと能力者だろうと『外側の法則』を使うものだろうとなんだろうと!

    黒夜「言っただろうがァ!?私達に朝は来ねェ!夜明けなンてねェ!私達みたいな悪人の最後は高笑いのバッドエンドだろうがァ!!胸糞と反吐と叫ぶ声しかねェ幕引きだろうがァァァァァァァァァァ!!」

    結末は変わらない。悪党は死ぬまで悪党たるべきだ。
    悪を投げ出した悪党など、他人に弱さを押し付けるだけの力すら失った弱者だ。
    ライオンが狩った獲物に贖罪など乞わない。ただ人間にライフルで撃ち殺されるか、餓死するか、同じ仲間に狩られてくたばる。

    黒夜「あンたは私で!私はあンただ!救いなンてねェ!“光”にたかる虫はただ焼け死ぬだけだ!端っから終わっちまってる人間に、後も先もねェンだよ麦野沈利ィィィィィィィィィィ!!」

    黒夜の閉じた世界に隙間はない。人を殺した人間の世界はただ閉じ行く。
    光など射し込まない。氷が太陽を求める事は自己存在の否定に他ならない。
    故に――黒夜は許せない。闇を捨てた麦野、その忌むべき生き方を選んだもう一人の自分など

    839 = 468 :

    黒夜「例えテメエらが生き延びようが…第二、第三の“闇”がテメエらを潰す!砕く!飲み込む!!“闇”は夜みてェに晴れねェから“闇”ってンだ!!それはテメエが一番知ってンだろうが!私と同じに!!」

    そう、彼女は例え敗れども屈しない。腕が飛ぼうが足が千切れようが跪かない。
    黒夜がもし敗北を認めるとすればそれは――自らの首が刎ねられ事切れる時のみ。

    黒夜「例え!私が!ここで!くたばろうが!死のうが!!テメエらの運命は前に進まねェ!地獄まで引きずり下ろしてやる!!お綺麗で優しい未来なンざ何も始まりゃしねェ!私に殺された方が遥かにマシだと思える結末が必ずテメエらの息の根を止めてくれるだろうさァ!」

    折れる心を捨てた怪物、屈する魂を悪魔に売り渡した化け物。
    恐らくは上条当麻が相対してきた敵とは根本的に異なる存在。
    この決して終わらない『闇』…これこそが学園都市(セカイ)の闇だと言わんばかりに。

    黒夜「道連れにしてやるよォ!!惚れた男とくたばれりゃ地獄だって悪かねェだろォ!?だったらエスコートしてやるよ卒業生(センパイ)!!送り出しは私達“新入生”がしてやるからよォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

    負けても道連れにする、例え死んでも華々しく散る。それは意思と意志と意地と矜持。
    捨て身の中に勝利も求めず生すら求めない、ただ自分の命を笑いながらドブに捨てる破滅の美学。
    『悪』の道を突き詰め続けたもう一人の一方通行であり、『闇』に棲み続けたもう一人の麦野沈利だった。
     
     
     
     
     

     
     
     
     
     

    840 = 468 :

     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    「――後も先もねえなら、“ここ”で踏ん張りゃいいじゃねえか」

     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     

    841 = 468 :

    ――――瞬間、全てが色褪せた―――――

    「前に進めなくたって、後ろばっか振り返ったって、足があるなら立ちゃいいじゃねえか」

    ――――全ての音が死に絶えて―――――

    「誰だって転ぶ、始めから上手く歩けたやつなんていねえ。地べた舐めて泣いた事ねえやつなんているかってんだ」


    ――――唇がパキ…パキと乾いて――――

    「いるとすりゃ――そいつは最初っから“立ち上がる事すら”やめちまったやつだけだ」


    ――――うなじがザワザワ逆立つ――――

    「テメエが誰だかなんか知らねえ。知りたくもねえ。そうやって、誰も彼も足引っ張って、闇の中に引きずり下ろす事しかしねえテメエと沈利を一緒にするんじゃねえよ!!」


    ――――鳥肌が、粟立って行って――――

    「沈利が昔テメエらの世界にいたって、そこで取り返しのつかねえ許されない事をしちまたって…俺は、それに苦しんでるコイツをずっと見てきた。今まで見てるだけしか出来なかった」


    ――――肩が、膝が、手が、歯が――――

    「悪夢にうなされてる夜も、一人で泣いてる朝も、ただ抱き締めてやる事しか出来なかった…けどな、俺はもう決めた。決めたんだよ」


    ――――何故、こうも震えるのだ――――

    「――俺は、変わろうとしてる沈利を信じる」


    ――――たかが表の世界の人間に――――

    「前よりちょっとだけ優しくなった世界で、俺は沈利と生きていく」


    ――――たかがレベル0の学生に――――

    「変わってこうってする沈利が百回転んだら百回助ける。千回背中を押して欲しいってなら千回背中を支える」


    ――――学園都市の闇そのものの――――

    「世界中の人間全部が沈利の敵になったって、俺は最後まで沈利の側にいる。コイツ一人で抱えられねえもんだって、投げ出したくなるほどもんだって、俺が全部全部丸ごと全部引きずり上げてやる」


    ――――この、黒夜海鳥(私)が――――

    「――立ち上がろうとしてるコイツをテメエらの身勝手な理屈で足引っ張ってんじゃねえよ!!やり直そうって、変わろうって足掻いてるコイツを、テメエみたいに人の足引っ張るしか出来ねえヤツらと沈利を一緒にするんじゃねえよ!!!」

    ――――怯えてるというのか!?――――

    842 = 468 :

    「いいぜ…」

    ドラゴン――それを意味する象徴には大きく分けて二つある

    「テ メ エ ら が 沈 利 を ま た 闇 の 底 に 引 き ず り 込 ま な き ゃ な ら な い っ て な ら」

    一つは十字教における、神への反逆の象徴たる『偽神(サタン)』…
    かつて『上条当麻』は自分と麦野沈利の記憶喪失という神の記述(シナリオ)にすら反逆してみせた。
    だが――今、この無慈悲な神が支配する残酷な世界の中にあって

    「地 獄 の 底 ま で 道 連 れ に し な き ゃ 気 が す ま な い っ て な ら … ! 」

    彼は――もう一つの象徴――それは聖ジョージの十字架に添えられたドラゴン…『守護聖人』である。
    そう――彼は今、再び登り詰める。あの日開いた扉

     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    神  浄  討  魔  「  ま  ず  は  ―  ―  そ  の  ふ  ざ  け  た  幻  想  を  ぶ  ち  殺  す  !  !  !  」

     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    『神浄討魔』へと―――!!!!!!

    843 = 468 :

    グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!

    黒夜「!!!!!!」

    その雄叫びと共に黒夜海鳥の放った爆縮崩壊にも匹敵する攻撃が『消滅』する。
    上条当麻…否、神浄討魔の右腕から萼を剥き出し牙を突き立てる半透明の竜…
    竜王の顎(ドラゴンストライク)が夜明けの空に三度産声を上げる。

    黒夜「なンだ…なンだ…なンだ…なンなンだテメエらはァ!」

    ここで初めて黒夜が後退った。その足がそのまま遁走へ走らなかったのは闇の深奥に棲まう悪鬼がゆえ。
    されど…黒夜は恐怖する。自分の窒素爆槍を打ち消す力、シルバークロースの心を打ち砕く力、そして打ち倒せる気がしない“ドラゴン”の力に。

    黒夜「―――っづおらア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

    ゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ!!

    しかし――黒夜もまた吠えた。数百数千の腕全てが束ね、重ね、合わせ成る一本の魔槍を…さらに数百数千に増し行く!
    自分の限界を越え、自身の臨界を超え、黒夜は吠える。

    黒夜「夢…見てンじゃねェぞ…!!!」

    神浄「お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ―――!!!」

    駆ける神浄、迎え撃つ黒夜。吠える討魔、吼える海鳥。
    交錯するは激情、交差するは熱情。交わらぬは譲れぬ己の『信念』のみ!!

    黒夜「……世の中全ての人間が、テメエらみてェに仲良しこよしになりてェとか思ってンじゃねェぞオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

    この病院の敷地内全てをグラウンドゼロにせんばかりの力場を歪めて黒夜は全ての手に命じる――
     
     
     
    そこで
     
     
     
    “ずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずず”
     
     
     
    気づく
     
     
     
    “ぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞ”
     
     
     
    黒夜「――――――!!!!!!」
     
     
     
    『偽善使い(フォックスワード)』は…『二人』いる――
     
     
     

    844 = 468 :

    ~Angel Slayer~

    勘違いするじゃない

    あんたが私を何回も助けるから

    あんたが私を何度も救うから

    私、勘違いしちゃうじゃない

    この世界に、救いがあるかも知れないって

    この世界に、希望があるかも知れないって

    この世界に、奇跡があるかも知れないって

    勘違いしちゃうじゃない

    私はね、当麻。人殺しなんだよ

    人並みの倖せなんて求めちゃいけないんだ

    人並み以上の絶望を背負わなきゃいけないんだ

    私が殺して来た人間が許したって

    それを知ってるあんたが許したって

    例え神様が許したって

    裁きがなくても

    罰がなくても

    罪は変わらずそこにある

    私は、そんな中夏の日に破滅した女二人を知ってる

    私達もいつか破滅する、そんな終わりが頭をちらついて離れなかった

    そんな時、私一人で破滅すればいいってずっと思ってた

    あんたのために死ぬ事が出来たなら、こんなに綺麗で美しい死に方はないでしょうね

    そんな天使みたいな死に方が出来たなら、私の犯した罪は少しは購えるだろうかって考えた事もある

    なのに…勘違いしちゃうじゃない

    思っちゃいけない事

    考えちゃいけない事

    感じちゃいけない事

    信じちゃいけない事

    845 = 468 :

     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    あんたと一緒に、生きる事
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     

    846 = 468 :

    当麻、私はあんたが大好きだよ

    当麻、私はあんたを愛してる

    あんたのために死ぬ事が、最大の愛情表現だなんて思うくらい

    病んでて

    狂ってて

    酔ってて

    ナルシストで

    エゴイストで

    マゾヒストで

    けどね――

    今、私はすごくあんたと生きたい

    今、私はずっとあんたと一緒にいたい

    ごめん

    ごめん

    ごめん

    諦められなかった

    諦める事を諦められない

    諦められない事を諦めた

    離れたくない

    離したくない

    あんたがいない天国で許されるより

    あんたがいる地獄で苦しみ続けたい

    最後まで

    最期まで

    あんたの腕の中で生きて

    あんたの胸の中で死にたい

    私の罪は何一つ許されなくていい

    だから神様

    たった一つだけ許して下さい

    私はこいつと一緒に生きていきたい

    どんなに苦しくても

    どんなに辛くても

    どんなに悲しくても

    私は、こいつの側で生きたい

    847 = 468 :

    一緒に、やっと並んだ歩幅で
     
     
     
    一緒に、手探りを繰り返して
     
     
     
    一緒に、顔を見合わせたて
     
     
     
    一緒に、小指を絡ませ合って
     
     
     
    一緒に、同じ風を受けて
     
     
     
    一緒に、太陽を見上げて
     
     
     
    一緒に、ご飯を食べて
     
     
     
    一緒に、映画を見て
     
     
     
    一緒に、戦って
     
     
     
    一緒に、抱き合って
     
     
     
    一緒に、苦労を嘆いて
     
     
     
    一緒に、笑って
     
     
     
    一緒に、生きて
     
     
     
    一緒に、死んで
     
     
     
    だから、神様――
     
     
     

    849 = 468 :

    ~1~

    その時――フレンダ=セイヴェルンは目を覚ました。

    フレンダ「――…み、んな…?」

    そこには、『一足先』の夜明けに言葉に声と顔色を失った『アイテム』の面々がいた。
    意識を取り戻したフレンダにも気付かないほどに――一点を見つめて。

    浜面「――ははっ…なんだよ…これ」

    浜面仕上の引きつった顔。その先に向かうは夜明けの窓辺

    絹旗「――飛んでちゃって下さい――私達の超手の届かない所まで――」

    絹旗最愛の澄み切った眼差し。その先に向かうは夜明けの窓辺。

    滝壺「――大丈夫、私はそんなあの二人を応援してる」

    滝壺理后の柔らかな微笑み。その先に向かうは夜明けの窓辺。

    フレメア「――綺麗…」

    フレメア=セイヴェルンの惚けたような声音。その先に向かうは夜明けの窓辺。


    フレンダ「――ああ――」


    そしてフレンダも見た。夜明けの窓辺から見通せる世界。そこに『舞い降りた翼』を

    850 = 468 :

     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    フレンダ「――――――“天使”――――――」
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     


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