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    元スレ麦野「ねぇ、そこのおに~さん」2

    SS+覧 / PC版 /
    スレッド評価: スレッド評価について
    みんなの評価 : ★★
    タグ : - 麦野「ねぇ、そこのおに~さん」 + - フレンダ + - ヤンデレ + - 上条 + - 佐天 + - 滝壺 + - 絹旗 + - 美イン + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
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    701 = 468 :

    ~7~

    結論から言って、私の戦争はいつも負け戦だった。

    まず、当麻を危険に晒さないという前提条件をクリア出来ない。

    まず、当麻を怪我をさせないという必要条件を突破出来てない。

    まず、当麻を死なせないという絶対条件しか解決出来ていない。

    人助けをやめろと言っても無駄だ。そんな事で止まるくらいの男ならそもそも私は当麻と路地裏で出会っていない。

    皆が良くも悪くもコイツの力を必要としている。私だけが当麻を必要としている訳ではないのが恨めしい。

    私はゲームをノーミスでクリアするか、最低でもハイスコアで更新しなければ気がすまない質だ。けどこれはゲームじゃない。

    当麻と私の命は繋がってる。少なくとも私から一方的に繋がってる。
    自分の命は惜しくないけど、当麻の死はあってはならない。決して。

    だから私は原子崩し、0次元の極点、光の翼、暗部でのメソッド、ノウハウ、ロジック、人より優れた運動神経と体力と演算能力、ありとあらゆるものを総動員させる。
    それでも――ここまで懸けて、ここまで捨てて、やっと私は当麻の命を守れる程度だ。
    むしろ、当麻は私の更に上を行って私を助ける、救う、守る。

    私は言ってやりたい。コイツに言い寄る女共に、コイツがフラグを立てた女達に。


    『テメエらに、コイツと人生共にする覚悟があんのか』と。


    好きだ嫌いだ惚れた腫れた、んなもんだけでコイツの側に居れると思ってられんならソイツの頭にはミソの代わりにクソが詰まってる。
    あの夜、当麻を失いかけて泣く事しか出来なかった頭のネジが緩んだクソ馬鹿女(私)と同じだ。

    甘ったるいラブストーリーだけ摘み食い出来るんなら、私はブタになるまでそうしてる。
    でも私が好きで選んで自分で始めた戦いにそんな都合の良い選択肢はありえない。

    だから私はコイツに近寄る女がそういう意味でも嫌いだ。
    少なくともそういう事がしたいなら他の男を当たれ。
    コイツ以外の男と腰が抜けるまでアンアン言わされてヒーヒー泣かされて、終わった後ベッドでイチャイチャしてろ。
    私だって当麻とそうするのは嫌いじゃないけど。

    それでも

    私以外に、それが出来る可能性があるヤツが一人いる。

    私より序列が上で

    私と同じくらい当麻が好きで

    それでも私が絶対に認めたくない女

    今、私の目の前にいるありえたかも知れないもう一人の私



    ――御坂美琴――


    702 = 468 :

    ~とある病院~

    浜面「うおっ!?」

    浜面仕上はフレンダ達の警護を交代で行う中、病室からほど近い非常階段で煙草をふかしていた。
    その時である。小さな爆発音と冷水が降り注ぎ、浜面の火の点いた煙草を湿気らせてしまったのは。

    浜面「――敵襲か!オマエら――」

    すぐさま非常扉を開け放ち病室に飛び込む浜面。しかし――

    絹旗「浜面超五月蝿いですよ。静かにしてもらえませんか?」

    浜面「な、なにのんびりしてんだよ!?敵が、敵が攻めて来てんだぞ!?」

    滝壺「はまづら、違うよ。全然違うよ」

    フレメア「んにゃあ…?」

    フレンダ達が起きるじゃないですか、と病院の売店に売っていたプリッツを頬張るは絹旗最愛。
    同じくリスが椎の実をかじるようにポッキーを咀嚼するは滝壺理后。
    そして飛び込んで来た物音に目を覚ますは今日一日の疲れに眠り込んでいたフレメア=セイヴェルン。
    その落ち着き払った様子に浜面はキョトン顔である。しかし

    滝壺「上のはむぎのとみさかだよ。信号が来てるからわかるよ」

    浜面「!?。なにやってんだアイツらこんな時に!!」

    絹旗「はっ。これだから浜面は超浜面なんですよ。滝壺さん私にもポッキー下さい」

    滝壺「いいよ。あーん」

    フレメア「私も、あーん」

    浜面「何やってんだオマエら!?ただの喧嘩の音じゃねえぞ今のは!?レベル5だぞ?三位と四位なんだぞわかってんのか!!?」

    まるでいつものファミレスと変わらないような女子達に浜面は両手を大きく開いて言う。
    何があったか知らんが止めなきゃヤバいだろうと。だが

    滝壺「こんな時――だからだよ。はまづら」

    浜面「ど、どういう事だよ」

    滝壺は動じない。普段から微睡んでいるようでいて、どこか悟っているような雰囲気がある。
    その能力とある種の視野視界の広さは、まるで屋上で起きている事態の本質を透かし見ているようでさえあった。

    滝壺「あの二人は、思い込んだら一直線だから」

    滝壺からすればなんの事はない――これは、姉妹喧嘩のようなものだと。

    滝壺「ぶつからないと、前に進めないんだよ」

    何も、女としてのレベルが磨かれているのはインデックスだけではないのだ。

    滝壺「大丈夫、私はそんな不器用な二人を応援している」

    そう微笑む滝壺にも、ヒーロー(浜面仕上)はいるのだから。

    703 = 468 :

    ~3~

    そう――同じだったのだ。麦野と御坂と、今この場にいないインデックスは。

    麦野「…巫山戯けんな…テメエ程度の躓きで膝が折れてちゃ、私は今までなんべん絶望しなきゃならなかったんだ…!!」

    破裂した給水塔から注ぐ水の冷たささえも二人の身を震わせる事など出来ない。

    麦野「今までだってそうだった…訳のわからない魔術師連中、第三次世界大戦、数え上げたらキりがない…」

    麦野の前髪の毛先から水滴が更に水滴によって洗い流されて行く。
    同じく御坂の制服のブレザーも水を被ってぐっしょり濡れていた。

    麦野「何度止めたかったかわかるか?アイツがボロボロになっても誰かを救うのを止めないのを側で見る辛さがわかる?わかるでしょ御坂!!私以外に、アンタだけは!!」

    屋上に吹く夜風が冷たい。巡る季節が告げる冬の訪れ。
    破れた貯水槽はまるで二人の心、噴き出す冷水は血か涙か。

    麦野「――私が、いつも平気でいられると思ってんのか。今だってな、出来るもんなら一人の女に戻ってアイツの側でワンワン泣いてメソメソしていたい。出来るんならそうしてる」

    学園都市、イタリア、フランス、イギリス、ロシア…闇の奥より深い世界の底。
    そこでの戦いの中、麦野は味わって来た。今御坂が噛み締めている無念を。

    麦野「――でもダメなんだよそれじゃ!!」

    壊す事しか知らない左手で愛する者を守ると決めた日から麦野は捨てた。
    アイテムを、自分の中の闇を、涙を、ここまで捨てたと言わんばかりに。

    麦野「私はアイツに救われた!だから今度は私がアイツを助ける!腕が千切れようが目玉がなくなろうがなんだろうが!!望まれんなら心臓だって抉って捧げてやる!もし神様ってやらがいるんならねえ!!」

    それでも上条を無傷で連れて帰れない歯痒さ、一つしかない命が何度も危ぶまれるために食いしばった歯噛み。
    強くなる。強くある。上条の身体に傷が刻まれる度に強くして来た誓い。

    麦野「――誇れよ。テメエは、当麻をここまで運んで来たでしょうが。私の代わりに、“また”“手の届かなかった”私の代わりに!」

    擦り切れるほど引きずった後悔。その度に、思いを強くして来た。

    麦野「――そんなテメエが無力だってんなら私のして来た事はなんだってんだよォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

    上条当麻と共に征く――ただ一つの願いのために

    704 = 468 :

    ~4~

    私は、最初からこの女(麦野沈利)が苦手だった。

    麦野『何しに現れやがったクソガキ。のこのこケツ振りに来たんならとっとと消えろ。目障りだってーの』

    御坂『なんでバッタリ会ったくらいでそこまで目の敵にされなきゃいけないのよ!』

    まず口が悪い。意地が悪い。性格が悪い。

    麦野『この無駄に広い学園都市で、よりにもよってテメエのツラ拝まされんのは横切った黒猫のクソ踏んづけたのと同じくらい私にとって“不幸”なんだよ』

    御坂『どうして会う度会う度そんな親の敵見たいな目で見るのよ!?私麦野さんに何かした?その逆はあっても私からはないじゃない!』

    次に顔が良い。スタイルが良い。家柄が良い。

    麦野『あれだ、寝る前にゴキブリ見ちゃった時みたいな不愉快さね。蚊ならプチッと潰せるけどアンタすばしっこいしどこにでも出て来るししぶといし』

    御坂『よくもよくも次から次へと人を馬鹿にした悪口が飛び出て来るもんねえ…ええ女王様(第四位)!!?』

    麦野『私の料理のレパートリーよりはバラエティーに富んでるよ。料理にゃ愛情だけどテメエには憎悪しか湧いてこないわ』

    初対面の時から『お子様』『中坊』『クソガキ』呼ばわり。
    何よ。序列なら私の方が上だ。それを振りかざすつもりなんてないけど『女』として負けてる分そこは譲れない。
    それだけが、この女と張り合う上での私の意地の拠り所でアドバンテージだった。

    御坂『(アイツ、絶対騙されてるわよ)』ジロッ

    上条当麻。もはや多くを語られ尽くした、私の知る限り最弱(さいきょう)の無能力者(レベル0)。
    この女はそんなアイツの傍らに絶えずつかず離れずのパートナーだ。
    アイツが首を突っ込む数々の事件の中で、私のあまり知らない私生活の中で、その両方を陰となり日向となり支える…恋人だ。

    麦野『なにガン飛ばしてんだよ』

    御坂『別に?』

    私が何度夢見ても決して届かないポジションにいる女。
    誰も彼も冷ややかに見下ろして鼻で笑う生まれついての女王様。
    そんな一面的な印象と感想と評価で断言出来たならどんなに気が楽だろう。
    あの夏の日…アイツを守ろうと必死に戦うこの女の横顔を見さえしなければ、私は単純にこの女を嫌いでいられたのに。

    麦野『けっ』

    御坂『ふんっ』

    私の大好きなアイツを、私とは違った角度で、私と同じ深さで愛おしんでいるのがわかるから。

    705 = 468 :

    ~5~

    あの女はいつからアイツの側に居たんだろう。
    アイツの所に居る修道女(シスター)絡みの事件の時の前には既に居た。
    『絶対能力進化計画』、鉄橋でのやり取り、操車場での決闘、その傍らにはいつもあの女の影があった。
    なのに決してアイツの戦いには手を出さない。本当に危ない時以外は。

    大覇星祭の時も裏で何か動き回っていたようだった。
    その後の罰ゲームの時も邪魔しに来た。9月30日の学園都市侵入者事件…アイツらの言う『0930』『ヴェント襲来』の時にもあの女の姿がチラついた。
    シスターから聞く限り、イタリア・フランス・イギリス・ロシア…その全てについて回っていたとも。

    彼女というよりも妻、恋人というよりも同志に近い関係性。
    まるで相棒、もしくは騎士…そう、その姿は信仰とも愛情にも拠らない、忠誠のように感じられる瞬間がある。
    そしてそれ以上に…アイツを見つめる時だけ、どうしようもなく幸せそうな微笑みと優しい眼差し。

    私は感じる。正反対な私達、対照的な私達、相反する私達。
    けれどその対立する表面より深い所で、あの女とこの私は似通っている。

    素直になれない意固地さ

    思い込んだら一直線な所

    大切なものを譲れない頑固さ

    そして…上条当麻(アイツ)――

    だからこそ私は今…衝撃を受けている。アイツに選ばれて、それを鼻にかけ、かさにきて上から目線だとばかり思ってたあの女が――

    血を吐くような声で

    魂を差し出すように

    泣きたくても泣けない涙を乗せたように叫んでる。

    『アンタも私も無力だ』って

    『私とアンタは変わらない』って

    『アンタみたいに私もなりたかった』って

    止めてよ。アンタは私にとってライバルだったはずだし私だってアンタのライバルだと思ってたはずよ。

    『馴れ合いは嫌い』って、『アンタと友達なんてくくりに反吐が出そう』だって言い切る、そんなアンタの人を舐めきった態度が私は嫌いだった。

    そんなアンタ(麦野沈利)と…私が同じだっただなんて――

    706 = 468 :

    ~6~

    麦野「…シケたツラしやがって。なんて目してんのよ。私にキャンキャン噛み付いて来た時の方が、同じムカつきっぷりでもまだしも見れたもんだったわよ」

    ザッと露を払うように前髪をかきあげて首を回す麦野。
    その表情に涙の跡は伺えない。例え心の中で流していたとしても…
    そこにはいつもの不貞不貞しいまでの女王の相貌。

    御坂「アンタこそいっぱいいっぱいじゃない…泣きたくても泣けない方が、泣き続ける事なんかよりよっぽど辛いに決まってるじゃない!」

    その時、御坂美琴はふと思ったのだ。今の麦野沈利は上条当麻に似ていると。
    本来ならば泣いている自分など物笑いの種にするか歯牙にもかけない麦野が…
    恐らくは、一瞬なりとも己をさらけだしてまで御坂に活を入れに来た事を。

    麦野「――人を“不幸”みたいに言うんじゃないわよ」

    そうして麦野は座り込む御坂の目線まで腰を落とし、そのシャンパンゴールドの髪を抱き寄せる。

    麦野「私は当麻の側にいて“幸せ”なんだ。世界の誰より一番」

    自分の胸に御坂の身体を預けさせるように、幾多の命を奪い幾度も上条の命を救ったその左手で。

    麦野「――そんな世界の中に、アンタだって含まれてるでしょうが」

    微かに香る、自分とは違う香水の匂い。

    麦野「私は当麻じゃない。誰も助けないし誰も救わない。だから私はアンタに手を差し伸べない。アンタだって私の手なんて借りたくないでしょ」

    そう口悪く言いながら、こうまで優しい声音が

    麦野「――立てよ御坂。当麻が救った女は、そんな所で地べた舐めてるだけの安い女じゃねえんだよ」

    目の前の女王様から語り掛けられているのが信じられない。

    麦野「私はテメエだ。テメエは私だ。足がついてんなら足掻けよ、手がついてんならもがけよ」

    この女でさえなければ、自分は選ばれていたはずなのに。

    麦野「私と同じ男に救われた、私と同じ女がブザマに膝折ってんじゃねえ」

    何故か、この時だけは勝てる気がしなかった。

    麦野「――アンタは、私と同じだろ」

    その、傷ついた御坂の髪を撫でる手があまりに優しくて

    707 = 468 :

     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    麦野「――アンタと、私は、同じ男を選んだじゃないか――」
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     

    708 = 468 :

    御坂「ッッ…ッッッ―――…!」

    言葉にならない。声にならない。この溢れて来る感情に、名前がつけられない。

    御坂「っぐ…うっうぅっ…!」

    麦野「…ガキが突っ張りやがって。泣かない事がカッコいいとか思ってんのかあ?はっ」

    麦野が憎めたら楽なのに、上条を恨めたら楽なのに、自分以外の誰かのせいに出来たら楽なのに。

    麦野「一人の泣き方も知らねえ中坊が。だからテメエはお子様なんだっつーの」

    自分から上条を奪った女だと思えたなら、単純に嫌な女だと考えられたならば良かったのに、御坂にはそれが出来ない。

    御坂「ひぐっ、いぐ…ううっ…う゛ぅ」

    それは御坂の持ち得る美徳の中で、尊ばれるべき何かだった。
    自分勝手な物思いと、身勝手な胸煩いのまま誰かを傷つけられる人間ならばまだしも御坂には救いがあっただろう。
    白井黒子をして『お姉様は優し過ぎる』というのはその辺りを指しての事であろう。

    麦野「…泣いちまいな御坂。馬鹿になんか、しないからさ」

    御坂の泣き顔を見ないように胸に抱きながら、麦野は夜空を仰いだ。
    未だ眠らない街が地上の星のように瞬いて、溢れる光が闇夜を照らす。

    麦野「(私が、本当に優しい人間ならこうしちゃいけないはずなんだ)」

    泣き止ませるのではなく、泣かせるという事。それは母性とも友誼とも異なる。
    自分がいつも上条にすがるようにして泣く時のそれを御坂に置き換えているのだ。

    麦野「――いいんだ。私しか見ちゃいないよ」

    御坂「えっぐっ…ひっ、ひくっ…ああぁぁあああぁあああぁ!」

    麦野は考える。こんな行為は『偽善』だと。恋敵に慰められるなどと、同じ女としてどれだけ屈辱的だろうと。
    自分なら例え死んでもしないだろう。しかしそれを素直に出来る御坂が、麦野はやはり羨ましかった。

    麦野「(――お前を何とかしてあげたいなら、私が当麻から離れるべきなんでしょうね、けど)」

    自分達はハリネズミだ。エゴとエゴの棘を、何とか測った距離感で身を寄せ合う二匹のハリネズミだ。
    そして…失われた恋を揺るがぬ礎にするも朽ちた墓標にするも、それはきっと、御坂次第なのだ。

    麦野「(――それだけが――私に出来ない事なんだ)」

    その後、御坂美琴は枯れるまで麦野沈利の胸で泣き続けた。

    埋葬する恋に手向ける花束もない、悲しい二匹のハリネズミ達。

    御坂は、麦野の中に探しても見つからない上条当麻の残り香を求めていた

    いつまでも…ずっと

    709 = 468 :

    ~第十五学区・歩行者天国~

    白井「御坂先輩…まだ繋がりませんの」

    一方その頃、白井黒子は近未来的なデザインの携帯電話を耳に当てながら応答のない呼び出し音に頭を悩ませていた。
    昼間の爆破事件、ビル倒壊、駆動鎧による市街戦と立て続けの事件調査も空振りに終わり疲れた身体を花壇のレンガに腰掛けて。

    白井「もしや…また何かしらの事件に首を突っ込んでおいでですの?」

    『常盤台中学』の制服の上に羽織った『霧ヶ丘女学院』のブレザー…かつて『彼女』が纏っていた外套のようなそれ。
    腰元に回された金属製の円環ベルト、そのホルスターに差し込まれた軍用懐中電灯。
    通行人「なんだあれ…風紀委員?」

    そんな奇異な着こなしを、今もこうして通行人の無遠慮な眼差しで見られる事にも慣れてしまった。
    事情を知る御坂美琴の悲しそうな視線さえも。

    白井「御坂先輩…わたくしは心配ですのよ?」

    その御坂もまた最近塞ぎ込みがちであった。それが白井にはたまらない。
    いつ御坂は立ち上がれる?いつ白井は立ち直れる?いつ自分達は立ち返れる?

    白井「――――――」

    あの夏の日の自分…少女時代を終えてしまい、『彼女』と共に『死んで』しまった白井黒子はいつ蘇る?
    そうごった返す人波の中…ふと見上げた夜空から視線を戻すと――

    白井「――――――」

    そこで、白井は瞠目する。何百何千という人混みと人波と人山の中にあって――


    『くだらねェ…こンなもンはさっさと終わらせるに限る』

    一際目につくホワイトヘアーに杖をつく男が

    『まさか、またオマエ達と組む事になるとはな』

    夜にもかかわらず怪しげなサングラスに金髪を逆立てた男が

    『自分も同感です。全く、退屈しませんねこの学園都市(まち)は』

    柔和な笑顔に白を基調とした制服…白井自身も見知った男が


    ――そして――
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    『――久しぶり――』
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    涼やかな声色、怜悧な美貌、鮮烈な赤髪が、懐かしいクロエの香りが、白井のすぐ目の前を通り抜けていった。

    710 = 468 :

    とある星座の偽善使い(フォックスワード)の者です。
    たくさんのレスをありがとうございます。いつもありがとうございます…何よりの活力剤です。

    では次回更新も2~3日以内だと思います。その時またよろしくお願いいたします…失礼いたします。

    711 :

    麦野と御坂が……と感想入れようと手ぐすね引いて待ってたら、
    最後の黒子に全部持って行かれた。

    712 :

    乙です

    だから毎回毎回なんてところで引きやがるううううううううううううう!?

    713 :

    新入生に対して卒業生達がどう動くか。非常に楽しみです。
    垣根先輩きてくれるかなあ?

    714 = 713 :

    新入生に対して卒業生達がどう動くか。非常に楽しみです。
    垣根先輩きてくれるかなあ?

    715 :

    母親がクロエの香水使ってるから、街中ですれ違いざまに匂うと、嫌な意味でドキッとするんだよな・・・

    716 :

    おおっ グループきたー

    717 :

    滝壺って超能力者なんだよね
    何位なの?

    718 :

    >>717

    このSSの中ではレベル5の第八位だった希ガス

    719 :

    原作では大能力者

    720 :

    乙乙!

    結局この世界では結標は黒子を選んだってことなのかな

    721 = 718 :

    >>720

    そうなのか…?
    わからないが…俺には姫神を選んでほしいね。
    黒子が結標に一方的に好意をよせているんじゃねぇの?
    というか
    そう信じたい。

    722 :

    乙!この作者のssだとヘタレの錬金術師さんが間接的にいろんなキャラに影響与えてるよな…前作だとステイル・姫神、今回はむぎのん引退てっ具合に。

    >>720
    >>721

    個人的には「両方愛しちゃった」に一票。あのラストの後に」なにがあったかは想像しか出来ないけど

    >>あの夏の日の自分…少女時代を終えてしまい、『彼女』と共に『死んで』しまった白井黒子はいつ蘇る?

    ってあるくらいだから、よほどつらいことがあったんじゃないかなあ…

    723 :

    ■■「私ってホント救われない…」

    724 :

    とある星座の偽善使い(フォックスワード)の者です。皆様、地震は大丈夫でしょうか…
    本日の更新はいつも通り21時前後になりそうです。よろしくお願いいたします。

    725 = 468 :

    ~とある病院・屋上~

    麦野「…落ち着いたか?」

    御坂「…うん」

    麦野「服ベッチャベッチャにしやがって。これお気にの勝負服なんだけど」

    御坂「…ゴメン」

    麦野「…まっ、良いわ。学園都市第三位の涙と涎と鼻水まみれの泣きっ面ライブ、アリーナで拝めた代金って所で手を打ってあげる」ヒラヒラ

    御坂「ほ・ん・と・う・に…アンタってヤツはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

    麦野「さんざっぱらガン泣きしたヤツが吠えても全然怖かないわよ。ほらハンカチ。ついでコーヒー」

    御坂「…馬鹿っ」

    一方その頃…ようやく落ち着きを取り戻した御坂美琴と、いつもの調子に戻った麦野沈利が屋上の手すりに並んでもたれかかっていた。
    その手には屋上にある自販機から、麦野が冥土帰しにご馳走してもらった缶コーヒーと同じ物が二つ…
    内一つがハンカチと共に御坂の手に渡された。

    麦野「ったく…一人泣いてスッキリした顔しやがって。敵に塩を送るだなんて私もいよいよおしまいね」

    御坂「…アンタは泣かなかったじゃない」

    麦野「私が泣く場所は一カ所に決めてんだ。言っとくけどシャワールームじゃないわよ。どこぞのガキじゃあるまいし」

    御坂「誰の事言ってんのよ?」

    麦野「アンタも知ってる女。負けん気の強さは買ったけど、女として脆すぎたねアレは」

    ハンカチで涙の跡を拭う御坂。缶コーヒーのプルタブを開ける麦野。
    並んで腰掛けるその姿は、まるで姉妹のような印象すら見る者に与える。

    御坂「そう言えばさ…」

    麦野「ん?」

    御坂「アンタとこうやって話すの、ずいぶん久しぶりな気がする」

    麦野「…テメエが私を避けてたんだろ」

    御坂「うん…」

    麦野「気持ちはわかる。私がアンタの立場だったら私の顔なんて見たくもないだろうからね」

    上条当麻。この一人の少年を巡って二人は出会った。
    それが良しにつけ悪しきにつけ…少なくとも闇の深奥にての暗闘に繋がらなかったのは如何な導き手によるものだろうか。

    御坂「ずっとアンタが嫌いだった」

    麦野「うん」

    御坂「ずっとアンタに憧れてた」

    麦野「うん」

    御坂「ずっと…アイツが好きだった」

    麦野「…うん」

    御坂「聞かせてよ。アイツの事」

    麦野「アンタがマゾだってのは知らなかったよ」

    御坂「知りたいの。私の知らない、アンタだけが知ってるアイツを」

    726 = 468 :

    そこで麦野がチラッと流し目を送ると、そこには御坂の真摯な眼差し。
    溜め息をつきたくなる唇でコーヒーを一口含む…先程より苦く感じるのは心境の成せる業か

    麦野「どうもこうもないよ…ああ、ベッドの中だと割とSだ」

    御坂「ぶっ!?そっ、そそっ、そんな事まで聞いてないでしょ!?」

    麦野「でもって私は割とMだ。ヤッてみるまでわかんないもんだねえ」

    御坂「いい加減にしなさいよこのエロエロババア!!聞いてもない事なにちょっとほっぺた赤くしてノロケてんのよ!!」

    麦野「いやノロケてないし。赤くなってないし」

    羞恥と憤怒に赤鬼と化す御坂、どうしようもなくニヘラと笑いを隠しきれない麦野。
    吹き出したコーヒーを流石にハンカチでは拭えないので手の甲で拭うも、そこで御坂は盛大な溜め息をついて夜空を仰いだ。

    御坂「あーもう…話してくれる気0じゃない」

    麦野「せっかく泣けた後二度泣かすような話するもんでもないでしょ」

    御坂「傷つくって?御坂センセーのハートはもう傷だらけでこれ以上傷のつくスペースなんて残ってないわよ」

    麦野「ハート(笑)」

    御坂「何笑ってんのよ!!」

    麦野「ハート(爆)」

    御坂「表出ろゴラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

    麦野「ここが表だよ。どっかのサラリーマンが切れて暴れるパワースポットさ」

    そう、どちらともなくこうしてお茶を飲みながら言葉を交わす機会は薄れていった。
    御坂は引け目から、麦野は負い目から、いつしか距離を置いていた。

    麦野「ああ…そう言えばアイツ、クリームシチューが好きだった。でもってそこにロールキャベツ入れんの」

    御坂「えっ!?そうなの?なんかちょっと意外…いや、なんか普通っちゃ普通なんだけど」

    麦野「その普通がありがたいんだとさ。アイツ私が会う前まで賞味期限切れの焼きそばパンとかモヤシ炒めでしのいでたっぽいし」

    御坂「ありえない…でも、食生活はともかくとして食べ物の好みは家庭的よね」

    麦野「母親の味に飢えてんじゃない?この学園都市(まち)の学生なんてみんなどっかそういう所あるんじゃないかしら」

    御坂「母親かあ…アイツのお母さん、メチャクチャ若くない?」

    麦野「ああ若い。ぶっちゃけ肌で負けた気がして本気でヘコんだよ大覇星祭の時」

    727 = 468 :

    他愛もない話に興じる女二人。それは傍目から見れば友人同士に見えただろう。
    しかしその区分に入れられる事をお互い本気で嫌がる辺り、誰とでも友達を作れるインデックスとはまた対照的だ。

    御坂「嘘ばっか。アイツの親の前でアンタ思いっきり猫かぶってたじゃない。あんな黒子も真っ青なお嬢様言葉、思い出しただけでさぶいぼが出るって言うの!」

    麦野「借りて来た猫よろしく化けるくらいなんて事ないわよ。先輩として教えといてやる。気に入られて落とすなら母親だ。それで九割方決まるのさ」

    御坂「いつかバレるわよ。化けの皮なんてアンタのメイクよりペラッペラよ!」

    麦野「私のメイクが厚いみたいに言ってんじゃねえよクソガキ。いつまでもすっぴんで勝負出来ると思ってたら大間違いだ」

    御坂「残念でしたー。ウチのママを見る限り私の明るい未来は約束されたようなもんですー!」

    麦野「そう思っていた時期が私にもありました」

    御坂「えっ」

    麦野「肌に曲がり角なんかねえ。あんのは下り坂だ」

    御坂「経験者は語る、ってね」

    麦野「やっぱ泣かす!御坂泣かす!!」

    いつしか缶コーヒーが熱を失い、かぶった水に濡れた髪も乾く頃…
    女特有のあちらこちらに飛び石伝いする話題は、やはり上条当麻の話題に収束した。

    御坂「…アイツさ、言うのもなんだけどモテるよね…」

    麦野「…惚れたウチらが言えたもんじゃねえな…」

    御坂「…前、なんかギャルっぽい服で胸おっきい娘と歩いてるの見た…あっ、言っちゃった」

    麦野「気にすんな。あれは叩き出した」

    御坂「叩き出した!?家に来たの!?」

    麦野「護衛とかなんとかウダウダ食い下がって来たから“間に合ってる”って言って追い返した」

    御坂「その娘…可哀想に(ビーム的に)」

    麦野「いや、可哀想なのは私だろ。アイツが立てて回るフラグその都度叩いて回らなきゃいけないんだから。モグラ叩き状態だっつーの」

    御坂「アイツってさ…無自覚に女の敵よね」

    麦野「あのヤリチンホストとはまた違った意味でね。でもってアンタだけが潰せなかったフラグよ」

    御坂「おかげで、私達こうして話してられるかな?」

    麦野「さあて、ね」

    その、他愛もない語らいが長くは続かない事を、知っていながら

    ――そして――

    728 = 468 :

    ~とある病院~

    フレメア「にゃあ」

    絹旗「超目が覚めちゃいましたね。浜面のせいで」

    浜面「俺が悪かったよ俺が…くそっ、何が何だか全然わっかんねーよ」

    一方…フレンダ=セイヴェルンの病室に一同に介していた『アイテム』の面々は夜襲に対して周囲を巻き込まぬよう冥土帰しに面会を求めようと渡り廊下に歩を進めていた。
    狙われているフレメアは絹旗最愛が伴って自販機の連なる待合所へ、病室から動けないフレンダは滝壺理后が、冥土帰しには浜面仕上がそれぞれ当たる事となった。

    絹旗「女には女の超深~い理由があるんですよ。浜面にはわからない超女の子の秘密がそりゃもうたっぷりと!」

    浜面「はいはいわかりましたわかりました俺が悪うございましたあ~あ~」

    絹旗「浜面のクセに超生意気ですよ!フレメアちゃん!この尻で椅子を磨く簡単なお仕事しかしない浜面を蹴り飛ばしてやって下さい!」

    フレメア「そんな事ないよ?大体、浜面は昔から車の運転上手だよ?」

    浜面「よしよしフレメア、カフェオレ買ってやるよ。お前はいい子だな~」ナデナデ

    絹旗「浜面!どうしてリーダーの私に超一言もないんですか!?」

    浜面「お前いい子じゃねえし。むしろリーダーなら買ってくれよジュース。俺、貧乏なんだよ」

    絹旗「超早く行って下さい浜面!」ゲシッ

    浜面「痛てえ!ケツが割れるだろうが!」

    フレメア「大体でいいから、早く帰って来てね?浜面」

    浜面「フレメア…そのままのお前でいてくれ。このチビッコ姉ちゃんやフレンダみたいにならないように」

    絹旗「尻の穴超増やしてあげましょうか?」

    浜面「お前だんだん麦野に似てきたな」

    ヘイヘイと返事しながらフレメアにカフェオレを手渡し渡り廊下の彼方へ姿を消して行く浜面。
    その広く大きく逞しい背中に無邪気に手を振るフレメア、それを横目で見やる絹旗を残して。

    絹旗「(滝壺さんも麦野も男を見る目があるんだかないんだか超わかりません)」

    駒場利徳の忘れ形見、フレメア=セイヴェルン。彼女に接する時の浜面はまさに兄が妹に接するように優しい。
    今も、フレンダの病室で根を詰め過ぎるのは良くないとフレメアを連れ出すよう提案したのもまた浜面だった。
    戦力分散の愚を犯す可能性はあったが、そういう目端の利く所は絹旗なりに評価してもいるのだ。

    729 = 468 :

    絹旗「(…そう言えば…)」チラッ

    フレメア「?」

    流し目の形で自分より頭一つ低いフレメアを見やる。
    彼女を連れて逃げ回っていた修道女インデックス、彼女らを救い出すも盾となって倒れた絹旗が世界で二番目に嫌いな男上条当麻。
    いずれも今浜面が口にし、絹旗にとっても忘れ得ぬ麦野沈利に縁を持つ者達だ。

    絹旗「(止めときましょう。余計な事思い出させるのも超可哀想ですし)」

    絹旗にとって上条への悪感情はある種の混迷と混沌を極めていた。
    自分達から麦野を連れ去って行った憎き敵…しかし麦野を変え、仲間であるフレンダの身内を文字通り命懸けで救い出した男。

    絹旗「何でもありませんよフレメアちゃん。さあ、一息入れましょうか」

    フレメア「うん!」

    そうして絹旗はフレメアの手を引く。フレンダの妹、というしっかりしたその立ち位置。
    家族の存在しない自分…否、家族から存在を抹殺された自分からすれば求めても手に入らない『何か』が絹旗の中の永久凍土を僅かながら解きほぐして行く。
    背景こそ未だ見えて来ないが、これがフレンダの守りたかったものか…と

    フレメア「あ!」

    絹旗「なんですか?病室にお化けとか今日日超流行りませんよー?」

    フレメア「違うよ!あれ!あれ!」

    自販機のある待合所から正反対の位置にある方角をフレメアが指差す。
    それにつられて絹旗も視線ごと身体の向きを変え…そこでようやく気づいた。

    絹旗「…あれは…」

    集中治療室の前に膝をつき、手指を組み合わせ、頭を垂れて祈る者…
    廊下の窓から射し込み照らす月明かりすら霞む白銀の髪と純白の修道服。
    絹旗はそのどこか神秘的な、荘厳な雰囲気を漂わせる者の名を知っている。それは同時に

    フレメア「インデックス!」

    禁書目録「ん…?!ふれめあ!!」

    絹旗の手を離れ弾かれたように駆け出すフレメアの声がかかると…
    その生きた宗教画のような修道女がたちまち生気と元気に満ち溢れた少女に立ち返る。

    フレメア「てやっ!」

    そこへ飛び込むように抱き付くフレメアと

    禁書目録「わっぷ!良かった!ふれめあもいたんだね!心配だったかも!」

    それを受け止めるインデックスと

    絹旗「麦野の所の…修道女(シスター)?」

    それを見つめる絹旗が一同に介した。

    730 = 468 :

    ~とある病院・集中治療室前~

    絹旗「そうですか…あのバフン…上条のために超祈ってた、と」

    禁書目録「そんな所なんだよ!」

    フレメア「………………」

    上条当麻の横たわる集中治療室前のソファーにインデックスと絹旗は並んで腰掛けていた。
    フレメアは一人、硝子に手をついて上条を見つめている。
    ロクに言葉を交わした事がなくとも、『友達』となったインデックスの『家族』であり、自分を庇って倒れた少年ともなれば幼いなり思う所があるのだろう。その場を離れようとはしない。

    禁書目録「もっとも…とうまにお祈りは通じないかも知れないけど、せずにはいられないんだよ」

    絹旗「自分でも神様超信じてないんですか?」

    禁書目録「うーん…」

    そこで絹旗もちょっと意地の悪い言い方をしたか、と微かに胸を痛めた。
    それは上条に対してというより…絹旗が科学万能の学園都市に住まう人間であるという事、もう一つは

    絹旗「(――私が、神様なんて超信じるのをやめたからでしょうね)」

    絹旗の出自…置き去り(チャイルドエラー)、そして暗闇の五月計画の被検体だったという過去に拠る。
    その傾向は暗部に身を堕としから一層強くなった気さえする。
    もしこの世に『神』がいるならば…何故自分は生きながらにして『地獄』を味あわなければいけなかったのだと。

    絹旗「(超馬鹿ですね…神様なんてC級映画スクリーンの中にしかいませんよ)」

    神の存在証明だろうが不在証明だろうが…絹旗にとっての『神様』はどこにもいないのだ。
    少なくとも、救いや許しや安らぎを与え、願いや求めや訴えを聞き届けてくれる『神様』は

    絹旗「(――私の声が届かないくらい超遠い所にいるってなら、私にとって神様なんていないのと同じなんですよ)」

    それはある種の逆説的な意味合いでの思想だった。
    『神』がいないから救いがないのではない。『神』がいてこの体たらくなのだと。

    絹旗「(超らしくないです。今の私)」

    学園都市でもあまり人気の無さそうな形而上学的な物思いに絹旗は自嘲した。
    言葉遊びにも劣り戯れ言以下の繰り言だと。しかし、そんな絹旗に――


    禁書目録「――きっと、私がシスターじゃなくても、同じ事をすると思うんだよ」

    絹旗「!」

    インデックスが、廊下の照明を見上げながら呟いた。

    731 = 468 :

    禁書目録「例えばの話なんだよ?」

    絹旗「………………」

    禁書目録「ある所に、一年毎に記憶を奪われ、消されてしまう女の子がいたとするね?」

    絹旗の自嘲の表情が一変した。それは傍らに侍る修道女の…
    まるで蛹から蝶へと羽化するかのような、劇的な神性の変化に引き込まれての連動であった。

    禁書目録「その女の子はきっと神様にお祈りしたはずなんだよ。“大切な記憶も辛い思い出も、私から奪わないで下さい”って」

    その表情は正しく遠い眼差しだった。見知らぬ誰かの『死』を語るように…
    もしくはその少女とは彼女自身の事ではないのかと思わせるに足る、透徹な瞳。

    禁書目録「でも…神様は女の子を祈りを叶えてくれなかったんだよ。きっとその女の子は、自分を見捨てた神様を怨んだり呪ったりしながら“死んで”いったりしたのかも」

    絹旗「…じゃあ、祈りって超なんのためにあるんですか?」

    インデックスの眼差しが上条へと再び向けられる。
    そう、あの少年は神に奇跡など一度も祈らなかったはずだ。
    恐らくはインデックスが所属する十字教から最も遠い位置にあって…最も『神上』に近い位置にある少年。しかし

    禁書目録「神様に奇跡を“お願い”する事じゃなくて、“祈る”自分を変えるため…かな?」

    少年はあの夏の日、ただ一人の女性と、たった一人の少女の全てを救うために『運命』すら打ち破った。
    あの神の加護はおろか運命の糸まで掻き消してしまう、世界で一番不幸な右手で。

    禁書目録「使う言葉が、住む国が、信じる教えがそれぞれ違っても…この世界で一つだけ共通してるのが“祈り”なんじゃないかな?」

    絹旗「…超、訳わからないです」

    もちろん無宗教であり一般的な無神論者である絹旗にとってはインデックスの語る祈りの精髄は理解し得ない。だがしかし

    禁書目録「そ・れ・よ・り…」ズズイッ

    絹旗「な、なんですか!?超顔近いですよ!?私ガールズラブとか超ノーサンキューですよ!!?」

    禁書目録「ポッキーの甘~い香りがするんだよ!神様の前に隠し事は出来ないんだよ!」

    絹旗「(さっ、さっきの滝壺さんの!?)ちょっ、私持ってません!超勘違いです!なにするんですか…あはっ、あはっ、あははは超やめて下さい超くすぐったいですー!」

    インデックスが、自分と同じかそれ以上の『地獄』を見て来た事…その一点が、絹旗の心に強く残った。


    ―――そして―――

    732 = 468 :

    ――ビリッ――

    御坂「あっ…」

    麦野「………………」

    そしてそれは来た。御坂は微弱な電磁波による磁場の鳴動から、麦野はプルースト効果よりも鋭敏な第六感から

    麦野「――時間だ、御坂。アンタ達はこの病院から出るな」

    感じ取る闘争の予兆、疑念を差し挟む余地もない確信。
    この夜の帳から来たれし、数十機もの駆動鎧、そして暗部の存在を麦野は嗅ぎ取った。
    それは上条と共に潜り抜けて来た極限の戦場で肌身に感じて来た終わりの始まり。

    御坂「…私も戦う!」

    麦野「やめろ。ガキの黄色い嘴突っ込んでどうにかなるレベルの話じゃねえんだよ」

    御坂「だけど!」

    麦野「だけどもクソもねえんだよ!!」

    そう言い放つ麦野の表情には既に一匙の甘さもまぶされてなどいなかった。
    名乗りを上げた御坂の気勢を削ぎ落とし、封じ込めるまでに。

    麦野「――御坂、アンタには無理だ」

    御坂「無理じゃない!」

    麦野「いいえ。無理ね」

    御坂「どうしてよ!」

    胸に手を当てて御坂は尚も食い下がる。御坂は続ける。自分だって戦えると。
    序列ならば御坂は麦野より上だ。引けも遅れも決して取らないと。しかし…

    麦野「――アンタに、人は殺せない」

    御坂「…!」

    麦野「アンタだって私のためじゃない。アイツと自分のために戦えるだろうね。でもね――これはガキのケンカじゃねえんだよ!!」

    麦野が選んだ道は荊棘の血道。誰かの屍の上を踏み越えて行く血の斑道。
    その道幅は僅かな足取りの違いで容易く踏み外す、薄氷の刃の上を行くそれ。
    麦野は突き放す。御坂のやわな足で渡りきれるほど平坦な道のりではないと。

    麦野「勝った負けた、生きた死んだ、んな色分けでカタがつくんなら“黒”なんて色は最初からねえんだよ!笑わせんじゃねえこのクソガキが!!」

    麦野は知っている。誰かのために命を投げ捨てられる人間と、誰かのために命を摘み取る人間は根源的に異なっているのだと。
    御坂は強い、覚悟もある、しかし相手の首を刎ねるチェックメイトが指せない者にチェスは勝てないのだ。どれだけ優れていようとも。

    御坂「――そんなのアンタだって同じじゃない!!」

    麦野「!?」

    しかし――御坂はそんな麦野の在り方を、やり方を、決して認めない。
    思いを同じくしても、麦野が一つの方法論を突き詰めるならば御坂はあらゆる可能性を考慮に入れる。
    そこには善悪の彼岸と此岸を隔てる血の河を渡った足か否か

    733 = 468 :

    御坂「――血を流さなきゃ進めない、選べない、守れない…確かにそうよね。間違ってるのは甘ったれてる私なのかも知れない」

    だが…一線を踏み越える事が強さの一つならば、一線を踏みとどまる事もまた一つの強さ。

    御坂「だけどね…私が間違ってるからって“アンタが正しい”だなんて誰が言えるのよ!!」

    麦野「…!」

    御坂「アンタ言ってたじゃない!もっと綺麗な身体でアイツに愛されたかったって!!ならどうして諦めるのよ!?アイツが、アンタが自分を血で汚してまで守って、それを笑って喜ぶだなんて本当に思ってるならそれこそ“間違ってる”わよ!!」

    本来ならば、それは青臭い理想論だったはずだ。麦野らが住まう世界で、早死にこそすれど長生きには繋がらない…一笑に付される絵空事だったはずだ。

    御坂「…何勘違いしてんの?私が守りたいのはもう届かないアイツの背中なんかじゃない…それはアンタ(特別)が守らなきゃいけないもんでしょうが!私がなりたくてなりたくてそれでもなれなかった特別(アンタ)が!!」

    しかし――御坂美琴は、決して揺るがない。

    御坂「だったら私がアンタを守る!アイツを守るアンタに人を殺させないために、私が“力を貸してやる”って言ってんのよ!!」

    揺らいで、引いて、一歩譲ればもう二度と麦野と対等だなんて言えなくなる気がした

    麦野「誰に向かって上から目線で言ってやがる…この甘ちゃんが!!」

    御坂「甘いのはアンタの方でしょうが!!!」

    麦野「なっ…」

    女王の前に膝を屈してしまえば、もはや届かない背中に追いすがる事すら出来ない。

    御坂「アイツを守りたいなら四の五の言うな!アンタの答えが“殺し”だってなら…それにばっかこだわってんじゃないわよ!選んでんじゃないわよ!!ここまで追い詰められて、暗部だかなんだか知らないけど無駄なこだわりで身動き取れなくなってるアンタが一番甘いってのよ!!」

    だから――御坂美琴は叫ぶ。

    御坂「――アンタが手を貸してくれって口が裂けても言えないなら、私がアンタに“利用されてやる”って言ってんの!!手段を選ばないなら徹底しなさいよ!!使えるもの全部使って、やれる事全部やる前から、くだらないいい格好しいで悲劇のヒロインに酔ってんじゃないわよ!」

    734 = 468 :

    麦野「………………」

    この時、麦野は反論し反攻し反駁しようとして…それが出来なかった。
    今目の前に立ち塞がる御坂美琴(もう一人の自分)に…この場にいない『上条当麻』の姿を見た気がして。

    御坂「一人で守れないのがアンタも私も同じなら、同じ者同士二人で守ればいいのよ!!学園都市第四位のクセにこんな簡単な足し算も出来ないの!?」

    それは闇に堕ちる前に麦野がドブに捨ててしまった輝きだった。
    二度と取り戻す事の出来ない、取りこぼしてしまった星の砂だった。
    泣いても叫んでも希っても手には入らない星の金貨だった。

    御坂「私一人の力も利用出来ないで、何がアイツのパートナーよ!!笑わせんじゃないわよ麦野沈利!!!」

    そこに、アルプススタンドからただ涙をこらえて見ている事しか出来なかった少女の姿はそこにない。
    手が届かないと、何も掴めないと、誰も救えないと涙していた御坂美琴はもうどこにもいないのだ。

    御坂「アイツを守る、アンタに人を殺させない、私も生き残る…それくらい出来なくてどうするのよ!!」

    御坂が小さな拳を固め、細い指を握り、白い手を開き、一歩前に出る。
    上条当麻が不在の今、麦野が囚われている己自身で作り上げてしまった牢獄を打ち砕くために。
    射抜くような眼差しで、その幻想をまとめて全部ぶち壊すために…!

    御坂「学園都市第三位と第四位が、レベル5が、超能力者が2人も揃ってそんな事も出来ない?するのよ!すればいいのよどんな手段を使ったって!!」

    麦野「…!」

    後退りしなかったのは女王の矜持。されど…麦野にその歩みを止める手立てはない。
    己が足で踏み出したその一歩の力強さを、麦野は知っているから。
    もしかすると――『負けられない戦い』に挑み続けて来た麦野沈利を解き放つには、こうするしかなかったのかも知れない。

    御坂「全部背負い込んで、自分一人の力でアイツ(上条当麻)を守らなきゃいけないなんて誰が決めたのよ!?同じような私達二人で守っちゃいけないなんて誰が言ったのよ?!答えなさいよ第四位(メルトダウナー)!!」

    麦野「――――――」

    何一つ見捨てられない上条当麻と似た、何一つ見限れない御坂美琴だけが…
    雁字搦めの鎖と檻に自分を閉じ込めてしまっていた…『揺るがない強さ』に縛られていた麦野沈利を…解放出来たのかも知れない――

    735 :

    燃えてきた

    736 = 468 :

     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    麦野『――ごめん――“美琴”――』
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     

    737 = 468 :

    その時、ズドンッ!!と鉛のように重く鈍い衝撃が御坂の身体を駆け抜けた。
    痛苦よりも激震、熱量よりも圧迫、肺の中の空気全てを吐き出すかのような――

    御坂「……!!?」

    麦野「そんなアンタだから――私はアンタを連れて行けない」

    それは、並みのスキルアウトなどお呼びもつかないほどずば抜けた麦野の身体能力から放たれた鳩尾への一撃。
    刹那の瞬間に全体重を乗せた、容赦も躊躇も逡巡も一切ない強襲。
    文字通り御坂の意識を刈り取り、言葉通り御坂の身体の自由を奪うに足る騙し討ち。

    御坂「――――――」

    麦野「アンタのそういう所真っ直ぐな所…私は口で言うほど嫌いじゃなかったよ。これは本当」

    くの字に身体を支える事も膝を支える事も足を踏ん張る事も叶わない…
    風紀委員たる白井黒子との組み手でも引けを取らぬ御坂を押し黙らせ、足止めするための一発限りの不意討ち。
    崩れ落ちる中必死に指を伸ばし、御坂は薄れゆき暗い靄のかかる視界の中見上げるも…
    麦野はそんな御坂に背を向け、屋上の出口へと淀みなく迷いなく歩を進めて行く。

    御坂「待っ…!」

    麦野「――出会った形が、愛した男が違ってたなら…別の未来が私達にもあったでしょうね」

    彼女を巻き込む事を上条は是とはしないだろう。そしてそれは麦野もまた同じ気持ちであった。
    ましてやこれは世界の底での戦いではない。闇の深奥での闘いなのだ。
    そんな血塗れと血染めと血溜まりと血みどろの世界に、彼女のような太陽は引きずり込めるほど麦野はもう非情になりきれなかった。

    麦野「でもね、そんな分かれ道はもうどこにもないんだ。選ばなかった道なんて、選べなかった路なんて最初からなかったのと同じなのさ。だからこの話はここでおしまいなんだよ」

    御坂の真っ直ぐな言葉と真摯な眼差しは十二分に麦野の心を打った。
    しかし揺り動かすにはいたらない。何故ならば麦野は偽善使い(フォックスワード)のパートナーだからだ。
    全ての人間を救おうとしながらも、誰一人進んで巻き込む事を選ばなかった上条当麻の恋人だからだ。

    御坂「むっ…ぎ!」

    麦野「当麻を、インデックスを、みんなを――頼んだよ」

    それが、御坂にかけられた最後の言葉だった。

    738 = 468 :

     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    麦野「――さようなら美琴。この色褪せた街で出会った、たった一人の私の友達――」
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     

    739 = 468 :

    ~終わりの始まり~

    カツン…カツン…

    麦野「………………」

    麦野沈利は階段を下る。一歩一歩踏みしめるように歩く。
    淀みも迷いも捨てた跫音…そう、彼女は捨てたのだろう。
    後戻りを、有り得たかも知れない別れ道を、捨て去ったのだろう。

    禁書目録「――しずり――」

    絹旗「超待ちかねましたよ、麦野」

    フレメア「………………」

    麦野「…アンタ達…」

    階段を降りきった先、集中治療室へ連なる廊下…そこにはインデックスと絹旗最愛、そしてフレメア=セイヴェルンの姿が揃い踏みしていた。

    禁書目録「…短髪はどうしたのかな?」

    麦野「屋上で寝てる。風邪引く前に回収してやって。まあもっとも――」

    そこで麦野は見やる。硝子越し一枚隔てた場所に横たわる少年…上条当麻の寝姿を。
    フッとその縁取られた睫毛を伏せ、柔らかで温かみのある微笑を唇に乗せたまま。

    麦野「どっかの馬鹿みたいに、風邪引かないかも知れないけどね」

    絹旗「………………」

    心の底から愛おしむような、そんな優しい声色。いっそ慈母めいた響きすら感じられるそれに絹旗は感じ取る。
    このガラスケースを一つのジュエリーボックスとするならば、あの少年は麦野にとって掛け替えのない宝物なのだと。

    麦野「――インデックス、当麻と御坂をお願い。“今の”アンタなら出来るでしょ?」

    禁書目録「大船に乗ったつもりでいてもらって構わないんだよ!」

    麦野「泥船に化けなきゃいいんだけどね。まっ…」

    トンと控え目な胸を叩いて反らせるインデックス。フフンと鼻を鳴らした猫口までしてみせている。
    そんなインデックスの有り様に、麦野はウィンプルを失ったインデックスの白銀の髪をすっぽり包むように抱き寄せた。

    麦野「…アンタにはいっつも苦労かける。もうひと頑張り、頼んだよ」

    禁書目録「任せるんだよ!」

    あの夏の日から、家族の記憶もないインデックス、家族の嫌な記憶しかない麦野、家族の記憶でいっぱいの上条…
    三人が一つ屋根の下暮らすようになってから積み上げて来た物、積み重ねて来た物、それはもしかすると今この一時に全てが集約されているのかも知れない。

    740 = 468 :

    ~2~

    絹旗「麦野」

    麦野「うん」

    絹旗「私達はフレメアとフレンダを優先順位の超初めに置きます。それでも構いませんか?」

    麦野「それでいい。もう“アイテム”はアンタのものだからね」

    そして…絹旗最愛は引退した麦野沈利に成り代わって新生アイテムを束ねている。
    故に身動きの取れないフレンダ、フレメアという戦力外の存在を全身全霊で守らなくてはならない。
    そして更に…既に『外側の法則』を使うインデックス、『学園都市第四位』の麦野というラインに『素養格付』を持つ浜面仕上ら『アイテム』を加えてはならない。
    つまり『抹殺対象となるべき一大勢力』と見做されてはならないのだ。
    裏を返せば、アイテムの存続のためには麦野をサポートする事は殆ど出来ない。

    絹旗「………………」グッ

    しかし…絹旗個人の感情で言うならば是が非でも麦野を救い出したい。
    だが麦野は決してそれを受け入れない。彼女は既に引退した身だからだ。
    そして麦野も助力を乞わない。御坂美琴の協力すら拒否したのだから。

    麦野「で…そっちがフレンダの妹か」

    フレメア「うん…フレメア。フレメア=セイヴェルン。あのね?大体、あのツンツンのお兄ちゃん――」

    麦野「良いんだよ。あのお兄ちゃん不幸過ぎて死神にも嫌われてるから大丈夫」

    そして…麦野はフレメアの頭をベレー帽の上からナデナデと触った。
    子供嫌いを公言して憚らない麦野にあって、驚くほど優しい手付きで。

    麦野「――うん。あのフレンダの妹とは思えないくらい良い子だね。ねえ絹旗そう思わない?」

    絹旗「超同感です。フレンダもこれくらい素直ならこっちも超やりやすいんですがね」

    麦野「違いないわね」ククッ

    フレメア「フレンダお姉ちゃんの事?」

    麦野「そう。フレンダお姉ちゃんの事だよーん」

    もしかすると、フレメアにとって麦野が姉の憎き仇となった未来があったのかも知れない。
    しかし、御坂美琴がそうであったように…枝分かれした未来が、時に季節外れの花を開かせる事もあったのかも知れない。
    それは、無慈悲で残酷な神が支配する世界の中で、ひっそりと輝く一条の綺羅星のような優しい光だったのかも知れない。そして――
     
     
     
     
     
    麦野「――当麻に、会わせて――」
     
     
     
     
     
    麦野が、三人と目と目を見交わせた。

    741 = 468 :

    ~3~

    上条「………………」

    麦野「本当にアンタはいつも生傷だらけだね」

    横たわる上条の頬に、額に、やや冷たい指先を滑らせて麦野は独語する。
    本来であれば立ち入りを認められないものだが――麦野はそれを敢えて無視した。
    こちらを見やっているであろう三人の視線も含めて、全て。

    麦野「アンタの身体、数える度に傷増えてっちゃってさ…もう、諦めたし疲れたよ」

    何度こうして眠りに就く上条に語り掛けを繰り返した事だろうか。
    これが最後、これが最後と何度思いたかっただろう。

    麦野「私も、御坂も、インデックスもアンタに振り回されっ放しだ。アンタくらい女泣かせな男なんて見た事ないわ」

    こうしていると今にも起き出しそうで…いつまでもこのままな気がした。
    慣れる事はあっても気は休まらない。少しは自分を省みて欲しいと麦野は呟いた。が

    麦野「――でも、アンタはその何倍も誰かの笑顔を救って来たんだよ。私だってわかってるからさ」

    凡庸で、ややもすれば面倒臭がり屋に見えるその横顔が、戦いの中ガラリと変わる瞬間が麦野は好きだった。
    戦いが終わった後の優しい笑顔を愛していた。言葉にすれば、たったこれだけの事なのかも知れない。

    麦野「私は誰も守らない、助けない、救わない…アンタみたいになんてなれない。でもね」

    そんな自分を…きっと麦野沈利は愛していた。

    麦野「――私はアンタを守ってるつもりで、心を救われて来たのは私なんだよ、きっと」

    僅かに背をかがめ、その静謐な寝顔に麦野は顔を寄せて覗き込む。
    隔てる酸素マスクが憎らしい。しかしそれでも構わなかった。

    麦野「置いて行くね…ここに」

    全員「「「!」」」

    落とす唇。酸素マスク越しのキス。きっとそれは、上条当麻の中に自分の心を置いて行く事。
    今一度立ち返るために。麦野にとっての星を、血の河に汚さぬために。

    麦野「またね、当麻」

    そう言い残して、麦野は集中治療室から出、その踏み出した足は二度と翻る事はなかった。

    見送る三人にすら、振り返る事は一度たりとてありはしなかった。見られたくなかったのかも知れない。
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    ――己の中に棲まう、闇色の獣が牙を剥くその瞬間を――
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     

    742 = 468 :

    ~始まりの終わり~

    黒夜「さて、掃き溜めの大掃除だ。先行は?」

    暗部「はっ、今斥候が…」

    黒夜「そうかい」

    一方…黒夜海鳥は暗部の強襲部隊を率いて病院周辺区画を封鎖、現在に至る。
    最終的な位置取りの確定情報さえ得られれば…黒夜のゴーサイン一つでそれは殺到する。
    今や今かと胸躍る陶酔の一時…するとそこへ――

    ガガッ…ガガッ…

    黒夜「“蜂”の網にかかってくれたみたいだにゃーん?」

    上空から偵察飛行していたエッジ・ビーが補足する。
    既に殺傷領域は確保されている。蟻の這い出る隙間さえありはしない。

    黒夜「どれどれ…“卒業生”の皆様はと……………!?」

    しかし――その認識は一方では正しくもあり、一方では間違ってもいた。

    ズル…ズル…ズル…

    モニター越しにも、闇眩ましの世界の中何かを『引きずる音』が捉えられた。
    地面を擦る、ベチャベチャと水っぽく…それでいて不吉な予感を聞く者に感じさせるに足る『何か』

    ズル…ズル…ズル…ベシャッ!

    暗部「うっ…!」

    それを構成員が視認した時、不吉さは戦慄に、恐怖は瞬く間に伝染していった。

    黒夜「エグい殺し方だね。日常レベルの殺人中毒者か、スナッフビデオ見ながら××××出来るタイプなんじゃねえか?」

    モニターに映り込んだ映像…右手には先程向かわせた斥候の『頭部らしき』もの
    左腕には頭部と下半身を失い、引きずる度に鮮血と臓腑が零れ落ちる『上半身らしき』もの…
    それを『手土産』とばかりに姿を表す…『女』の姿をした『鬼』が見えて…!

    黒夜「――来るぞ。気合い入れてかないと、あれよりひどい目に合うよ。この“鬼”に捕まったら喰われる」

    黒夜はモニター越しに映る惨劇に目を細める。やはりあの女は『こっち側』だと。
    どれだけぬるま湯の中に日和っても…殺しが『本当に嫌い』な人間はあそこまで出来ない。
    どれだけ平穏な生活の中にあっても、『殺し』を捨てられない『同族』の姿をそこに認めた。

    黒夜「あれは殺しのエグさ加減で自分の中の“何か”を確認してる人種だ。さあて!“卒業生”入場だ!!」

    高らかに声を上げる黒夜…それに、聞こえるはずのないモニターの中の『女』が何やら唇を動かしているのが見えた。


    それが、開戦の狼煙だった。

    744 = 468 :

    ~水底に揺蕩う夢3~

    その頃…上条当麻は夢を見ていた。

    上条『なんだよ…おい』

    見渡す限りの純白の世界。温度を感じさせないどこまでもどこまでも空白のキャンパスが広がる世界の中で…
    上条は目の前でスライドショーのように流れ行くフィルムに目を見開いていた。

    上条『沈利…なのか?』

    そこには瞳を閉じてさえスケッチが描けるほど上条の目に、胸に、心に焼き付いて離れない…
    されど上条の知る彼女とは似て非なる『麦野沈利』がそこには映し出されていた。

    上条『どうなってんだよ…これ』

    フレンダ=セイヴェルンの胴体を上下に引き裂き、はみ出した内臓が零れ落ち鮮血の斑道を描く麦野沈利。

    左腕と右目を失い、そこから妖光を迸らせて禍々しいまでの狂笑を浮かべて何者かを追い詰めて行く麦野沈利。

    ロシアの雪原にて、滝壺理后の仮面を剥ぎ取り正視に耐えない形相で原子崩しを乱射する麦野沈利。

    上条『本当に…夢なのか?これって…』

    思わず自らの右手で、美術館に展示されている絵画のようなそれに触れる…
    しかし反応は何も起こらない。つまりこれは『幻想』などでは決してないと言う事に他ならない。

    『いいのかよ?こんな所で寝てて』

    上条『!?』

    すると…そこへ、空白のスライドショーのみだった世界に響き渡る声。
    しかし何故だろうか…その声に聞き覚えがあるような、それでいて聞き慣れていないような、曰わく不可思議な印象を上条は受けた。それもそのはず――

    『みんな待ってんじゃねえのか?』

    上条『――!!?』

    そこにいたのは…たった今自分が着ている学校指定の冬服とは異なる…
    つい数ヶ月前まで着ていた、夏服姿の自分…『上条当麻』がもう一人いた。

    上条『オ…レ?』

    『なにボケーッとしてんだ?間に合わなくなっちまってもいいのかよ?』

    上条『…?』

    毎日鏡で見慣れているはずの『自分』が、何処かを指差しながら顔を横向けていた。
    そこには――
     
     
     
     
     
    沈利『………………』
     
     
     
     
     
    大きめの椅子の肘掛けに頬杖をつき…足を組みながらぬいぐるみを乗せた――

    上条『…沈利!!?』

    幼き日の麦野沈利が、そこにいた。

    745 = 468 :

    とある星座の偽善使い(フォックスワード)の者です。
    たくさんのレスありがとうございます…これ以上心強い思いはありません。
    未だに地震が収まりませんが…皆様もどうかご無事で…

    それでは次回更新も2~3日以内になりそうです。次回もよろしくお願いいたします…失礼いたします

    746 :

    うおお、乙です!地震には気をつけてください

    747 :

    ちょwwwww焦らすとかエグい

    乙次回も楽しみにしてます

    748 = 747 :

    ちょwwwww焦らすとかエグい

    乙次回も楽しみにしてます

    749 :

    かっこよすぎる。

    格好良すぎるんだよ全員!!

    750 :

    麦野……

    グループ早く来てくれ!!


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