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    元スレ麦野「ねぇ、そこのおに~さん」2

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    スレッド評価: スレッド評価について
    みんなの評価 : ★★
    タグ : - 麦野「ねぇ、そこのおに~さん」 + - フレンダ + - ヤンデレ + - 上条 + - 佐天 + - 滝壺 + - 絹旗 + - 美イン + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
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    501 = 468 :

     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    禁書目録「―――私の名前は、インデックスって言うんだよ?」
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     

    502 = 468 :

     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    ――科学と魔術が交差する時、物語は始まる――
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     

    503 = 468 :

    とある星座の偽善使い(フォックスワード)の者です。
    以上を持ちまして『ちょっとばかし長いプロローグ』の投下終了です。
    本編突入の予定は完全に未定です…色々と立て込んでしまっていて…誠に申し訳ございません。

    >>488
    はい、偽善使いの設定を完全に受け継いでおります(上条さん記憶喪失回避、フレンダ存命、麦野アイテム引退etc.)

    >>489
    難を逃れる事が出来ました…

    それでは失礼いたします…皆様も、どうかご無事で

    505 :

    時系列的には「とある夏雲の座標殺し」の後でいいの?
    >フレンダといがみ合った赤髪の少女を彷彿とさせる立ち姿。

    これを見る限り繋がってるみたいだけど、あっちでは黒子と
    フレンダの面識はあったよね

    506 :

    更新きてた

    507 :

    新訳ゥ!?
    超乙楽しみ

    508 :

    新約再構築キタああああああああああああああああああ!!!!
    いきなり謎だらけだけどマジ期待。黒子があわきんのかっこしててゾッとした…でもむぎのんが相変わらずラブラブでうれしい!!

    509 = 485 :

    乙です!
    いやあああ!伏線バリバリで続きが気になって仕方ない

    510 :

    乙、前作見たんだけど覚えてない… 見てくるか

    511 = 468 :

    ~第十五学区・カフェ『サンクトゥス』第十五学区店~

    12時45分。フレンダ・フレメア、セイヴェルン姉妹とインデックスは繁華街の中心にあるカフェにて一息入れていた。
    初冬と言えど気温は低く、また風も決して穏やかならざる勢いであったが故である。
    その悴んだ指先と荒れた唇を労り暖を取ろうととくぐった扉。
    しかしそれこそが地獄へ連なり、かつ外気以上に財布を底冷えさせる結末となろうとは…というのが後のフレンダによる偽らざる本心であった。

    フレンダ「(麦野…大食らいとは聞いてたけど物事には限度ってものがある訳よ)」

    フレメア「グリーンピース。にゃあ」

    禁書目録「いらないならいただかれるんだよ!ん~美味しいかも!」

    カフェには珍しいランチバイキングは全滅、ドリンクバーは壊滅、次から次へと督促状の束のように差し込まれる伝票、積み重ねられる食器の山…
    せっかくのサバカレーの味がわからなくなるほどの金額が脳裏をよぎり、金に困っていないフレンダの財布は今厳冬を迎えようとしていた。
    しかし対面に位置するインデックスは春の訪れを歌い上げるような喜色満面の笑みで

    禁書目録「ありがとうふれんだ!しずりの友達はみんな優しいかも!」

    フレンダ「私の財布には優しくないって訳よ…結局、いつもこんな調子で食べてるって訳?」

    禁書目録(インデックス)…その名を聞いてフレンダは初めてこの修道女の顔と名前を一致させたのだ。
    麦野沈利はアイテムを引退した後、ほとんど元メンバーの前に姿を表す事はなかった。
    それは脱退した人間が元いた組織と接触を避けるためと、それによって降りかかる火の粉を上条当麻やインデックスに飛ばさないために。
    だから紹介もされなかったし、全学連の集会所でもさほど目に止まる事もなかった。そして

    フレンダ「(――あれから、随分時間が経ったって訳よ)」

    あの『0930』…暗部抗争が勃発した時といくつかの例外を除いては。
    それに前後した時期…麦野はフレンダに一度だけ接触した。
    その時の事があったからこそ…フレンダはアイテムを『裏切る』事をギリギリの線で踏みとどまる事が出来たのだから

    フレメア「フレンダお姉ちゃん、フレンダお姉ちゃん」

    フレンダ「?」

    512 = 468 :

    そんな回顧録を紐解いていると…フレメアが服の袖を引っ張った。
    いつぶりになるかそれすら思い出せないほど久しい再会。
    けれど変わらないのはその仕草。されど変わったのは『にゃあ』という語尾と口調。

    フレメア「遅れたけど久しぶりだね。大体、一年ぶりくらい?」

    フレンダ「結局、そんくらいになる訳よ。私もまあ…色々あった訳だし。フレメアは?フレメアは結局、どうしてたって訳よ?」

    フレメア「色々。優しいお兄ちゃん達に助けてもらったり、大体なんとかやってこれたよ」

    フレンダ「お兄ちゃん!?」

    ガタッ!と思わず椅子を蹴ってテーブルを叩いて立ち上がってしまう。
    お兄ちゃんとは誰だ?お兄ちゃんとは何だ?
    まさか寝食に困って年嵩も行かぬ目に入れても痛くない妹が(ryとベレー帽ごと髪をかきむしり苦悶するフレンダ。
    しかしフレメアはポイポイとインデックスの更にグリーンピースを放り込みながら

    フレメア「駒場のお兄ちゃんだよ。でも、お電話にも出てくれないし、見つからないの。どこに行っちゃったのかな」

    フレンダ「(駒場?)」

    フレンダに話し掛けると言うより、自分自身に語り掛けるような遠い眼差しを何処へと向けるフレメア。
    しかしフレンダの脳裏に過ぎったのは、『駒場利徳』というスキルアウトを束ねていたリーダーの名前であった。

    フレンダ「(確か、浜面の馬鹿がそんな感じの名前言ってたって訳よ)」

    浜面仕上。麦野が引退して一、二ヶ月後にはアイテムのメンバー入りした無能力者。
    その前身はごく短期間ながらスキルアウトのリーダーの座に収まっていたはずだ。

    フレンダ「(学園都市上層部に“花火”を打ち上げようとした無能力者、だったっけ?けどそんな事いちいち確認するのも馬鹿らしいって訳よ。フレメアも何かされた様子もないし)」

    互いに抱えた事情をなるべく詮索しないのが暗部の流儀。
    しかし思わぬ所で繋がった点と点が結んだ線が如何なる面を生み出すか…
    それは未だ整理のつかぬフレンダにとってさえ想像の翼を羽ばたかせるには至らなかった。が

    禁書目録「ふれんだ、どうしたのかな?お腹痛いならご飯食べてあげるんだよ!」

    フレンダ「(フレメア、今度から知らない人についてっちゃ駄目な訳よ)」

    513 = 468 :

    思案顔のフレンダを米粒をほっぺたにつけたインデックスが覗き込む。
    そもそもが、フレンダとの待ち合わせ場所が途中でわからなくなって困っていたフレンダに助け舟を出したのが…通りがかったインデックスだったのだ。
    しかしその恩を安くランチで返そうとして仇となって戻って来たのは誠に皮肉な話である。

    フレンダ「(結局、知り合いの知り合いにぶつかるだなんて世間は狭い訳よ)」

    久方振りの再会に思わぬゲストを招いてしまったが、僅かながら安堵もしている。
    凡そ一年ぶりとなる実妹との再会。何から話せば良いかわからないし、どう接して良いかの距離感もすっかりわからなくなってしまっていた。
    たった二人の姉妹だと言うのに、分かたれた道筋はまるで真逆のそれ。
    間にインデックスというクッションが一つ入ってちょうど良い塩梅だと。

    フレメア「フレンダお姉ちゃん、どうしたの?具合良くないの?」

    フレンダ「何でもないって訳よ。それよりフレメア…結局、グリーンピース嫌いは治ってないって訳?」

    フレメア「苦手なんだもん。大体、フレンダお姉ちゃんだってサバばっかり食べてるよ?そういうの偏食って言うんだよ」

    フレンダ「はあ…結局」

    暗部に身を落としてより、アイテムの他にも参加したプロジェクトがいくつかある。
    それら全てに身辺整理がつくまではなるべくフレメアを遠ざけておきたかった。
    故にこの一年は地下銀行を通じた送金と僅かな電話とメールの遣り取りに終始していた。
    麦野がインデックスや上条を自分達から遠ざけたのと同じ気持ちが、今ならわからないでもない。
    しかし、その別離の日々も今日やっと終わりを迎えられそうな気がする。
     
     
     
     
     
    フレンダ「――姉妹だから、そういう所も似るって訳よ――」
     
     
     
     
     
    そう、取り戻した平穏な日々を――

    514 = 468 :

    ~第十五学区・歩行者天国~

    上条「インデックスの晩飯どうすっかなあ…俺達だけで外食して帰ったら怒るよなきっと」

    麦野「一応、一万円札だけ置いてきたんだけどね…お昼ご飯代になるかどうかも怪しいもんだわ」

    上条「…ほんと所帯じみて来たよな俺達。子供がいる夫婦ってみんなこんな感じなのかなあ」

    麦野「せっかく送り出してくれたんだからもう少しくらい良いんじゃない?ほら、お土産もある事だし」

    15時05分。ショッピングモールから出た上条当麻と麦野沈利は行き交う人混みの中を腕を組みながら歩いていた。
    そして空いた上条の手には紙袋。ちなみに中身はインデックスの新しいコートである。
    見立ては麦野によるもので、微細なチューブの中に空気を閉じ込めるタイプの超軽量耐寒繊維、らしい。

    上条「喜んでくれるといいよな。ほんとお母さ…じゃねえ。お姉さんみたいだぜ」

    麦野「こっちは手のかかる妹が出来た気分だわ…そう言えばフレンダにも妹がいたとかなんとか言ってたっけ」

    上条「あのサバ缶の娘か?」

    麦野「そう。改めて聞いた事も間近で見た事もないんだけどね」

    上条「………………」

    アイテム。かつて麦野が率いていた治安維持を名目とする暗部組織。
    麦野がそこから脱退したのは忘れもしない…あの三沢塾に監禁されていた姫神秋沙を救出するにあたって乗り出した一件。
    『黄金錬成』アウレオルス=イザードとの死闘の末、上条は右腕切断という致命傷にも等しい戦傷を負った。
    その直後であった。麦野が暗部組織を脱退し、それを統括理事長に認められ開放されたのは

    上条「(…沈利…)」

    以降、麦野は如何なる戦場であろうと強敵であろうと絶えず上条と共に在った。
    暗部にて屍山血河を築く修羅の道を行くより遥かに険しい道のりを、引退後もずっと。
    そして元の仲間達とも必要最低限、迫られた時以外接触も避けている。
    しかしそれを嘆いた事も悔いた事もない。麦野が自ら選んだ道筋だからだ。

    515 = 468 :

    上条「…本当に、いつもありがとうな?」

    麦野「…ばっ、ばーか」

    絡む手指、重なる掌。僅かに込めた力を微かな力で握り返して来る。
    冷めた空気、冷えた風。されど伝わる、確かな互いの体温。
    手を握る事など慣れっこのはずなのに、感謝される事に未だ慣れない微かに赤らんだ横顔がそっぽを向いている。
    それを見ると、つい覗き込みたくなってしまって下から顔を近づける。

    麦野「なによ。私の顔なんか見飽きてるでしょうが」

    上条「いや、こっち向いてくれよ。どうして顔を背けるんでせうか?」

    麦野「止めろ。目垢がつく。磨り減る。穴が空く。なにニヤニヤしてんだよ!」

    絶対等速「(バカップルうぜえ)」

    刺すような視線もなんのその。往来の人波を掻き分けながら進む二人の足取りは軽い。
    こうやって無目的に、行き当たりばったりでぶらぶらするなどいつぶりだろうか?と互いに思わずにはいられない。
    なるたけインデックスを交えた三人で行動を共にするようにしている。
    麦野はそれを『家族ごっこ』と渇いた笑いで評していたが

    上条「いえいえ?上条さんは決して面白がっている訳ではありませんの事ですよ」ヒョイッヒョイッ

    麦野「ウザい!ウルサい!!こっち見んなァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

    家族の嫌な記憶しかない麦野、家族の記憶すらないインデックス。
    大きな喧嘩をたまにしたりするが、概ね三人の共同生活は順調である。
    今日とて『たまには一人になりたいんだよ!』とツンデレながら二人を送り出してくれたのは他ならぬインデックスなのだから

    麦野「いい加減にしねえと×××を×××…!」

    上条「ヒィッ!?」

    青筋を立てて空いた手で拳を固める麦野。二人はちょうどスクランブル交差点前の信号待ちに捕まっていた。
    上条が麦野絡みで最初に生死の境を彷徨う羽目に陥ったあまり嬉しくない始まりの場所。
    殴るふりをする麦野と頭を紙袋で庇う上条。その時だった。

    麦野「(………………)」

    不意に鼻につく懐かしい匂いがした。それはプルースト効果よりも遥かに鋭敏な…
    嗅覚というより第六感に訴えかけてくるような匂いだった。

    516 = 468 :

    麦野「かーみじょう」

    上条「?」

    そこで麦野は振り上げた拳を下ろし、組んでいた腕をほどいた。
    そして…まるで咲き誇る花束のような笑顔を浮かべ、言った。

    麦野「ごめん。この先のサンクゥス入って席取っといてくれない?さっきの店に忘れ物した」

    上条「?。そうなのか?なら俺も一緒に…」

    麦野「デボンシアティー。私をからかった罰。払いはあんた。それじゃあね」

    上条「おっ、おい沈利!」

    そう言うや否や、麦野は再び雑踏の中へ消え行く。
    麦野は呼び止められる声を背中越しに聞きながら今し方感じ取った直感に殉じていた。

    麦野「(掃き溜めの匂いがする)」

    胡散臭い、きな臭い、血生臭い匂い。汚辱と汚濁と汚泥の放つ腐臭と死臭。
    紛れもなくこちらに対し敵意と悪意と殺意を向けて来た何者かの意志と意思を感じた。
    暗部から手を引き、足を洗い、縁を切り…暗部が解散して一年余りたった今頃になって、何故?

    麦野「あれか」

    そしてスクランブル交差点からやや離れた大通りにて…
    麦野沈利は嗅ぎ付けた。大海を行く鮫のように、草原を往く肉食獣のように。
    一見すると観光バスに偽装されたそれを麦野沈利は探り当てた。
    そしてその周辺に配置された…麦野の鋭敏な感性に引っ掛かった、暗部の構成員らしき男の姿を認め…近づいた。
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    麦野「ねぇ、そこのおに~さん」
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     

    517 :

    とある星座の偽善使い(フォックスワード)の者です。
    たくさんのレスをありがとうございます…一日に何度も投下したり、長く間が空いたりと不定期になると思いますが、ご容赦下さい…


    >>505
    はい。時系列は夏雲の座標殺し(ブルーブラッド)の数ヶ月後ですが、本筋(上麦)には一切絡んで来ませんので、前作からのみお読みいただいて大丈夫なように書かせていただいております。
    なのでフレンダと黒子のやりとりはあっさり流しました。読みにくくて申し訳ありません…それでは失礼いたします。

    518 :

    びくんってなったわ

    楽しみにしてる
    毎度の高クオリティ投下、さすがです

    519 :

    絶対等速たんに高い高いされたいお

    520 = 517 :

    とある星座の偽善使い(フォックスワード)の者です。
    更新は今夜21時からになります。失礼いたします…

    521 :

    何で一々名乗るのかと思ったが、
    そういえば此処、個人スレじゃないのな
    投下了解

    522 = 468 :

    ~第十五学区・とある路地裏~

    麦野「おいおい。まだ痛みを感じる感覚残ってるかにゃーん?恐怖を感じる思考は生きてるかにゃーん?」

    構成員「おっ…おっ…おっ…」

    麦野「人の言葉喋れよ」

    ジャグッ

    熟れ過ぎ、腐り落ちた果実を踏み潰すような靴音が路地裏の壁面にまた一つ名状し難い染みを刻む。
    パラパラと靴底から剥がれ落ちるは膠のようにへばりつく血糊。
    そして黄ばんだ歯を顔をしかめ眉を顰めながら砂利と共に踏みにじる。
    まるで犬の排泄物か、吐き捨てたガムか、酔っ払いの吐瀉物にするように。

    構成員「き…さ…ま…な…にを」

    麦野「聞かれた事に答えろよ。テメエの足りねえ頭にゃミソの代わりにクソが詰まってんのかあ?空っぽのド頭風通し良くされてかァァァ!?」

    構成員「ァア゛ァアギィヤァァア!?」

    瞬間的に、頸椎を踏み砕かんとする爪先を構成員の耳朶に向けて放った。
    耳回りは意外に脆く、柔らかく、頼りなく、容易く付け根から千切れる蹴撃が突き刺さる。
    既に鼻骨を粉砕され、呼吸すらままならない構成員の叫びは既に末魔のそれである。
    しかし一方的で、圧倒的で、絶望的なまでの暴力を振るう麦野沈利にとってそれは引き出すには至らず満足には程遠い回答であった。

    麦野「聞こえる?耳片一方残ってるんだから聞こえるよな?私の質問に答えなよ。何でオマエら(暗部)が陽も沈まない内からあんな着ぐるみ積んで張り込んでた?」

    暗部が定めた殺傷領域内に一般人は入り込めない。
    故にそのフィールドを熟知している麦野は容易くその間隙を縫って特殊工作車両と人員の全てを『無力化』した。
    その度合いは、少なくとも自分の足元に蹲う構成員を除いて『喋る事も出来ない』状態にしたまでだ。
    もちろん、砲弾にすら耐えうる装甲板に守られた駆動鎧(パワードスーツ)に至るまで…
    所詮、原子崩し(メルトダウナー)の前には濡れたウエハースも同然であった。

    麦野「狙いは私の男(上条当麻)?それとも別口?」

    かつて一方通行(アクセラレータ)が学園都市上層部に半ば掛け合い、半ば脅して暗部は解散となったはずだ。
    それだけならばわざわざ麦野は再結成された暗部に対し牙など向かない。
    共食いなり潰し合いなりげっぷが出るまでやれば良い。
    麦野にとって思い当たる節…それは『上条当麻』という圭角に、触れざる逆鱗に手を伸ばせる距離にいた事が問題なのだ。

    523 = 468 :

    麦野「(当麻は統括理事長のプランとやらに組み込まれてた)」

    麦野が暗部を引退出来たのは…ひとえに統括理事長からプランに必要な右腕を持つ上条当麻の護衛につけという新たな任務に専念すべしと下されたが故だった。
    そしてアウレオルス=イザードに死に傷を負わされた上条当麻を目の当たりにし、麦野は公私の区別なくその話に乗った。
    暗部としての原子崩しと、恋人としての麦野沈利、その両方が合致した命令。

    麦野「(宗教かぶれの連中に“神浄”とかなんとか言って右腕を狙われてた。その口じゃあない?)」

    そもそもアレイスター・クロウリーがそのような命を下したのには理由がある。
    それは本来ならばアウレオルス=イザードとの戦いの中で覚醒するはずであった竜王の顎(ドラゴン・ストライク)…
    それが前倒しでインデックスを救う事件の中で発現した事にある。

    同時に、アレイスターのプランの中にあった上条当麻の記憶喪失のシナリオすらもねじ曲げてしまったのだ。
    いずれも麦野沈利という唯一無二の恋人を救うために顕現された事象。
    アレイスターはこれら不正因子と不確定要素を新たにプランに取り込む事にしたのだ。
    麦野の存在が上条の進化を促し、上条の危うい局面を麦野を捨て駒に使う事で幻想殺し(イマジンブレイカー)の保護に当てる、一石二鳥の案として――

    構成員「…“新入生”…さ」

    麦野「はあん?」

    構成員「す…ぐに…分か…る」

    と…思考の迷宮を進んでいた麦野の形良い耳に飛び込んで来たのは…またもや思わせぶりな単語。
    しかし構成員はそれだけ放言するとすぐさま意識をブラックアウトさせ思考をホワイトアウトさせた。
    対拷問用チップによる感覚の遮断と、麦野手ずからの拷問によってだ。が

    麦野「“新入生”ね…他になんかないかな…ん、当たりか」

    麦野が気絶した構成員の身体を改めると、懐には呑んでいた一丁の拳銃…
    そして折り畳まれた地図、そしてマーカーで名前の書かれた写真…

    麦野「フレメア=セイヴェルン?」

    そこには、麦野も良く知る少女の子供時代を想像させるに足る…
    今し方上条との話題に花咲かせるために撒いた種…フレンダの妹の姿。と――

    ガウン!

    麦野「うわっ…汚ねえ。やっぱ銃はダメだわ」

    物言わぬ構成員を事切れた死体に変えて麦野はその場を去る。
    [ピーーー]理由は希薄だったが、生かしておく理由もまた絶無だったからだ。

    524 = 468 :

    ~第十五学区・カフェ『サンクゥス』第十五学区店~

    フレンダ「!?」

    時は遡り14時15分。いつまでも食べ続けるインデックスといつまでもしゃべり続けるフレメア=セイヴェルン…そして

    フレンダ「(見られてるって訳よ)」

    フレンダ=セイヴェルンもまた異変を肌身に感じ取っていた。
    それは浜面仕上の評する所の『使い手』であり『戦いを楽しむ』質である所に起因する。

    フレンダ「(…どこで買った恨みかな)」

    今の今までランチを楽しんでいたカフェがフレンダの視界から一転して戦場に切り替わる。
    何処からか注がれる剣呑な眼差しは紛れもなく自分達に注がれている。
    フレンダ・フレメア・インデックス…この面子の中にあって火の粉を呼び込む可能性が最も高いのは自分だとフレンダは確信していた。

    フレンダ「(出よう。私の得物は人混みの中じゃあ力が発揮出来ないって訳よ)」

    思わずたすき掛けにしたポシェットの中には缶詰めに偽装した爆弾、着火テープにワイヤー、鉄塊入りのぬいぐるみを頭に思い浮かべる。

    フレンダ「フレメア、インデックス、もう出るって訳よ」

    フレメア「にゃあ?」

    禁書目録「えっ!?まだ食べ終わってないんだよ!」

    暗部が解散した後も暗器を手放せずにいるのは、闇に深く長く居すぎたせいかも知れない。

    フレンダ「いいから。早く出ないと――」

    しかし、この場にフレメアとインデックスがいる以上、無用な巻き添えは避けたい。
    そうフレンダが腰を上げ、卓から離れようとすると――



    「―――座ったら?―――」



    フレンダ「…!」

    その声は、フレンダの真っ正面…インデックスの隣のスペースから呼び掛けて来た。

    「店のお勧めって割には不味いのは間違いないけど、最後の晩餐には悪くないんじゃない?ランチなんだけどさ」

    年の頃は絹旗最愛とさほど変わらぬ程度、肩甲骨当たりまで伸びた黒髪の一部が金色に脱色されたアクセント。
    フード部分に引っ掛けた白いコートに、黒革と銀鋲のレザー…
    そんな舞台に上がったアーティストのような悪目立ちする格好の少女を…

    フレンダ「(結局、いつからそこにいたって訳よ!?)」

    525 = 468 :

    見落としようもないはずの存在が今、容易くフレンダ達の首を落とせる位置と距離にいる。
    店内にて感じた視線と存在、間違いなく疑いなく…この少女がその中心点。
    そしてド派手なファッションに似つかわしくないビニール製のイルカの人形。フレンダの注視はそこに向けられた。

    フレメア「フレンダお姉ちゃん、知り合い?」

    禁書目録「ふれんだのお友達なのかな?私の名前は――」

    フレンダ「結局、こんな奴は知らないし、ランチに招いた覚えもないって訳よ」

    「そうだよねえ?するつもりもないけど自己紹介だってまだなんだからさ」

    呆けたようなフレメア、のほほんとしたインデックス、笑みを消すフレンダ、笑みを湛える少女。
    その少女がフレンダのポシェットからはみ出したウサギのぬいぐるみを見やる。
    そして――先程とはまた異なる角度に唇の端を釣り上げ、頬を醜く歪めた。

    「アンタも“使う”んだ?気が合いそうなのに残念だよ。私も“隠す”のが好きだからさ」

    フレンダ「似た者同士って訳?」

    互いに武器を推理、確認、看破する。フレンダは探る。
    能力に突出した戦力を有し得ない彼女は心理戦と観察眼を以て敵戦力を推察する。
    敵に何ができ、自分に何が出来ないかを考える。それは演算とは異なる頭の巡り。が

    「おいおい。勘違いしてもらっちゃ困るんだよ。これから死ぬ人間とどう友達になるんだ?なあ卒業生(センパイ)?」

    少女は見渡す。最初にフレメアを、次にインデックスを、最後にフレンダを。
    張り詰めて行く空気、引き締まって行く雰囲気、そこでフレンダははたと気づく。

    フレンダ「(似てる?)」

    それは感覚的なものであり直感的なものだったのかも知れない。
    しかし目に見えない力場の収束が、フレンダにとって親しい仲間のそれに似通って見え――
    そして…その想像と推察は、最悪の方向で確信へと変わった。

    黒夜「… 世 の 中 全 て の 人 間 が 、 仲 良 し こ よ し に な り て ェ と か 思 っ て ン じ ゃ ね ェ ぞ」

    圧縮されたように凍てつき、鉛のように重苦しく空気が爆ぜた

    フレンダ「逃げて!!!」

    フレメア「!?」

    インデックス「?!」

    それは新たに切って落とされた火蓋への号砲。
    それは平和の終わりへと手向けられた弔砲。
    それは『新入生』から『卒業生』へと放たれた礼砲。

    ――フレンダ=セイヴェルンと黒夜海鳥の戦いが始まる――

    526 = 468 :

    ~第十五学区・カフェ『サンクゥス』第十五学区店前~

    上条「なんだよ…これ」

    15時10分。フレンダが交戦を開始してより数十分後…上条当麻は麦野沈利との合流点として指定されたカフェテラスの前にいた。
    周囲には黒山の人集り、店外を封鎖し検証を始める警備員(アンチスキル)の人員…

    上条「ガス爆発とか…なのか?」

    一枚たりとて無事なウィンドウのないカフェテラス、僅かな硝子の欠片がしがみつく窓枠には焼け焦げた煤と、血糊がべったりとこびりついていた。
    瓦礫と化した壁面にはいくつもの戦槍の穂先が穿ったような穴。
    そして紛れもない火薬の匂いが漂う。まるで爆弾テロでもあったように。

    「痛え…痛えよ…足が寒い…足が寒いよお」

    「早く!早く医者を呼べ!!」

    上条「………………」ギリッ

    足を失った客と思しき男性が担架に乗せ運ばれて行くのを上条は歯噛みし握り拳を震わせながら見送った。
    戦争はもう終わったはずだ。二重の意味で。それが何故ここに繰り返される?
    何故、皆が勝ち得た平和が、救われたはずの世界が、その中の誰かの命や人生が危機に見舞われなくてはならない?

    上条「…………!?」

    そして、遠巻きに見やる野次馬の間から覗ける、真っ二つに転がったテーブル…
    店内の全てが将棋倒しよりも酷い暗澹たる壊滅具合の中…上条の目はそれを捉えた。

    上条「と、通してくれ!」

    警備員「コラ!君!入っちゃいかん!!」

    封鎖し野次馬達を立ち入らせまいとしていた警備員の制止を脇から潜り抜け、上条は瓦礫の山に埋もれた『それ』に駆け寄る。
    それは見間違えようもなく、それは見慣れていた『同居人』が常に身に纏っていた――

    上条「これ…インデックスのだ…!!」

    そこには…以前にもビル風によって飛ばされた事もあるウィンプル。
    尼僧の髪を纏める、上条からすれば帽子かフードのようなそれが落ちていた。
    麦野とのデートを送り出し、留守番をかって出たはずの修道女(インデックス)のウィンプルが血染めのまま取り残されていた。

    上条「―――!!!」

    瞬間、血液が沸騰し脳髄が炎上し、心胆からしめる背筋が凍てつく思いだった。
    最初に思い浮かべたのは、十万三千冊の魔導書を狙っての襲撃者か…
    はたまたこれらの惨状を生み出した人間の思惑に巻き込まれたのか――

    上条「クソっ!!」

    上条は紙袋を放り出し、携帯電話を取り出し、両足を蹴り出し、雑踏を駆け出した。

    527 = 468 :

    ~第十五学区・大通り~

    絹旗「浜面超飛ばして下さい!信号とか良いから超急いで下さい!」

    浜面「わかってる!わかってるって!!滝壺!!!」

    滝壺「この先、五百メートルだよ、はまづら」

    一方その頃、フレンダと麦野を除くアイテムの面々は浜面が転がすワゴン車に揺られていた。
    フレンダからの『ふれめあたすけて』というメールを受け取るや否やすぐさまかけ直し、それも通じないとわかると絹旗の判断は早かった。

    絹旗『滝壺さん、能力追跡でフレンダの居場所を割り出して下さい。浜面は車出して下さい超特急で!』

    そこからは追跡と追撃であった。『体晶』を必要とせずに能力を発動させ、無能力者の微弱極まりないAIM拡散力場まで割り出せるようになった『八人目のレベル5』滝壺理后がフレンダの行方を追う目となり…
    浜面仕上はそれを支える足、絹旗最愛は指揮を執る頭となった。

    絹旗「(超何があったんですかフレンダ。暗部の残党?上層部の刺客?超情報が足りません)」

    時に進行方向から逆走し、赤信号を振り切り、ノーブレーキのレッドシグナルで大通りを疾走する車内の中で絹旗は腕組みしつつ目蓋を閉じる。
    自分達に恨みを持つ者は多いし、暗部という内部事情から知りすぎた機密も多い。
    なればこそ、暗部が解散した後も自分はこの異能集団を率いている。
    浜面が所有する素養格付(パラメータリスト)を盾にし、迂闊に手を出せぬように天秤の均衡にも力を注いで来た。

    絹旗「(それとも、これも何かのプロジェクトの超嚆矢なんですか?)」

    ただの不意打ち、闇討ち、騙し討ちであったなら良い。
    問題はフレンダからのSOSに絡む人間が『潰しておしまい』にならなかった場合だ。
    自分達は学園都市そのものに牙を剥き反旗を翻した受け取られた場合だ。そちらの方が遥かに根の深い話になる。
    終戦後と解散後の自己防衛のためにアイテムとして固まり続けた事そのものが付け入られる致命的な隙になりかねない。

    絹旗「(フレンダ。勝手に死んだら超許しませんよ。リーダーとして)」

    そして目蓋を開き、スモークガラスの外を透かし見る。
    足を組み替え、いつでも飛び出せるよう己を研ぎ澄ませる。その時――

    上条「ハッ…ハッ…ハッ…!」

    アイテムを乗せたワゴン車と、全力疾走する上条当麻がすれ違った。

    528 = 468 :

    ~第十五学区・とあるゲームセンター前~

    御坂「あ~ん黒子ちょっと待ってよ~…あとワンコインだけ…」

    白井「“御坂先輩”。早く戻らないとまた寮監にどやしつけられますの!わたくしとて御坂先輩との一時を血涙を飲む思いでこらえてお願いしておりますのォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」

    一方…御坂妹から迎えに寄越された白井黒子は未だに未練たらしくゲコ太ぬいぐるみの備えられたクレーンゲームにかじりついていた御坂美琴を引き剥がそうと躍起になっていた。
    御坂妹とのダンレボ対決は言わば負けず嫌いからの発露であるが…
    このゲコ太のクレーンゲームに対し向かうのは妄執に等しい愛情が故であった。
    白井はそんな御坂の細腕を綱引きのように引っ張りながら説得を続ける。

    白井「御坂先輩!以前とは事情が違いますの!ようやく冷めたほとぼりに油を注いでなんといたしますのォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」

    御坂「ううっ…じゃあ、前みたいに“お姉様”って呼んでくれたら帰る!」

    白井「それは出来ませんの」キリッ

    御坂「どうしてよぉっ!ああっゲコ太っ、ゲコ太っ!こうなったら電流飛ばして無理矢理アーム動かして…!」

    白井「アームはともかくバネは電流ではどうにもなりませんの!往生際が悪いですの!」

    御坂「ああー!」

    そうして御坂はズルズルと白井に腕を引かれ連行されて行く。
    第三次世界大戦の折、学園都市を飛び出して行ったのが寮監の目はおろか理事長クラスに知れ渡ってより…
    紆余曲折あって謹慎は解かれたが自由時間が極端に減らされたのである。
    ゲコ太ゲコ太と我が子から引き離されたように名残を惜しみ後ろ髪引かれる未練を捨て切れずにいるのも無理からぬ話である。

    御坂「黒子のケチ、いけず」

    白井「わたくしとて御坂先輩と遊びたいですの…ですがこれ以上問題を起こすと相部屋はおろか独居房のような部屋に回されますの…」

    御坂「ふえええ~ん」

    そして、手を引く白井もまたその辺りの心情を汲み取っている。
    ロシアから帰還した御坂の状態は文字通り心身共に磨耗していた。
    失われた恋の悲嘆を言葉に表す事が出来たなら…感情に乗せる事が出来たならどれだけ楽だった事だろう。
    それは白井自身が経験し、乗り越えた部分と重なる。

    529 = 468 :

    白井「(しかし、その諦めの悪さはわたくしは尊く思いますのよ。御坂先輩)」

    いつからか羽織り始めた霧ヶ丘女学院のブレザー、愛用されていたベルト、象徴的ですらあった軍用懐中電灯。
    御坂も何も言わない。呼び方を変えた事も咎めない。
    拭い切れない一抹の寂寥も、拭い去れない一片の寂寞も、いつか笑って振り返る事が出来る日が来る。そう信じて

    御坂「…ちょっと待って、黒子。なんかおかしい…」

    白井「?。どういたしましたの?」

    そこで引きずられていた御坂が足を止めた。耳を済ませるように瞳を閉じて。

    御坂「…気持ち悪い電波がこの辺りからする…なんか変だわ」

    御坂の意識に引っ掛かって来たもの。言葉尻だけ捉えるならば文字通り電波発言だが…
    学園都市最高峰の『電撃使い』、第三位『超電磁砲』の圭角に触れたもの…それはジャミング(妨害電波)

    御坂「ビビビー。ビビビビビーってスッゴい五月蠅いの…なんなのかしらこれ」

    『外』の世界でも諜報機関や軍事作戦において、目標とする区画の通信を断絶するために特定の周波数の妨害電波を流す事は初歩中の初歩である。
    御坂の能力は超電磁砲に代表されるド派手なそればかりが強く印象を残すが…
    周囲の微弱な生体電流や電磁波をソナーのように拾う事だって出来る。
    その感覚網に引っ掛かったのは『暗部』が流したジャミングだった。

    御坂「(また、この街で何かあるの?)」

    思わず、冬の訪れも間近に迫った空を見上げる。
    白墨で塗り潰したようにスッキリとしない曇り空。
    そこに薄墨を流したような夜の帳が訪れるのは…その数時間後。

    黒き夜を身に窶したような大鴉が、電柱の上でガアと不吉な鳴き声を上げた。

    530 = 468 :

    ~第十五学区・地下立体駐車場~

    黒夜「逃げ足に限れば元暗部なだけの事はある。足手まといを抱えて大したもんだ。なあそうは思わないかシルバークロース?」

    『遊び過ぎだ。仕留められる内に仕留めておくのが現暗部の流儀ではないのか?』

    黒夜「剪定の基本はまずは一番太い幹と枝葉落としからだろう?シルバークロース。今の私の役回りは狐狩りを追い立てる猟犬のようなものだ。旨味はお前に譲ってやるさ」

    『何を言っている。一番骨を折らなくてはならない作業を丸投げしておいて』

    黒夜「私にはあるのさ。巣穴にこもった残りの狐を煙で燻し出す役割がな」

    黒夜海鳥は歩を進める。カフェテラスで窒素爆槍(ボンバーランス)を食らわせ、フレンダとフレメアを追い立て、この追い詰めた地下立体駐車場のコンクリートの上を。
    耳に当てた通信機越しに呼び掛けるは、別方向からアプローチをかける『同僚』に対してだ。

    黒夜「予定を確認する。お前はフレメア=セイヴェルンを、私はフレンダ=セイヴェルンを、それぞれ切り落とす。後は騒ぎを聞きつけているだろう浜面仕上らをおびき寄せる。あの訳のわからんシスターもまあ…切ってしまったて構わんだろうさ」

    強襲にて退避行動を取らせ、追撃にて確実に狩れる地点まで恣意的に誘導する。
    目的であるフレメアの拿捕、目標であるフレンダの捕獲、その後『アイテム』殲滅へと移る。
    当初の予定とはややズレた形だが十分に修正可能な範囲だろう。が

    531 = 468 :

    『撒き餌にしては派手にやり過ぎたな。おかげ“やられ役”の連中が使い物にならなくなったぞ』

    黒夜「なんだって?」

    黒夜が追い立てる最中、第十五学区内に待機させていた暗部の構成員らが鏖殺に等しい状態にされたとシルバークロースは語る。
    もとより外堀を埋めるための基盤固めに連れて来た捨て石も同然の連中だったが…と黒夜は意外そうに聞き返した。

    黒夜「どこのどいつだ?まさかアイツ(絹旗最愛)か?アイツなのか?」

    仮にも手足となる人員が目減りしても黒夜の表情に驚愕はない。
    あるのはまるで胸焦がす火酒のように脳髄を黒く燃え立たせる存在、絹旗最愛の姿が脳裏をよぎる…しかし

    『残念だが“暗闇の五月計画”絡みではないようだぞ黒夜。お前がご執心のアイツ(絹旗最愛)の前にアイテムを束ねていた女だ』

    フレンダを追うアイテム、インデックスを探す上条当麻、そしてそれら両方に属していながら未だ不透明な動きを見せる『卒業生』…
    その字をシルバークロースは口にし、その名を黒夜海鳥は耳にする
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    ―――麦野沈利か―――
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     

    532 = 468 :

    とある星座の偽善使い(フォックスワード)の者です。本日の投下はここまでになります。
    麦野→フレンダ→上条→絹旗→御坂→黒夜とめまぐるしく変わりましたが、次回もよろしくお願いいたします。

    533 :



    まじでかまちー仕事してください

    534 :

    そういやゲーム版で木原クンが2位と3位の壁越えられるくらいの麦野様の新たな可能性が提唱してましたっけ。重量と距離に制約なし、使用制限もなしに「どこかに有るあらゆる物質」を手元に引き寄せたり、その逆が可能になるとかなんとか……むぎのんマジ原子

    535 :

    >>534
    0次元の極点
    http://www12.atwiki.jp/index-index/pages/2603.html

    これだね

    536 :

    >>535
    情報ありがとう。
    なんかすごいパワーアップフラグだと思う。

    537 :

    とある星座の偽善使い(フォックスワード)の者です。
    今夜21時に投下させていただきます。以前と同じですね…それでは失礼いたします。

    538 = 535 :

    楽しみにしてます

    539 = 468 :

    ~回想・8月9日~

    絹旗『辞めるって超なんなんですか…一体どういう事なんですか麦野!!』

    麦野『言葉通りよ絹旗…私は“アイテム”を引退する』

    絹旗『答えになってません!超説明になってません!!』

    バンと行き場のない不鮮明な感情と不透明な情動の全てを叩き付けるようにして絹旗最愛は身を乗り出した。
    テーブルを挟んで窓際の席に陣取る麦野沈利に対して。
    その剣幕は隣に腰掛けた私の心臓が竦み上がりそうなくらいだった。

    麦野『………………』

    絹旗『どうして黙るんですか?黙ってられたら超わからないじゃないですか…答えて下さいよ!フレンダに!!滝壺さんに!!!私に超わかるように説明して下さいよ麦野!!!!』

    フレンダ『きっ、絹旗、落ち着いて欲しい訳よ!そんなまくし立てたら結局わからないって訳よ!』

    今にも胸座に掴み掛かりそうな形相で声を荒げる絹旗の怒声にファミレスの客や従業員の視線が一気に集中し

    絹旗『………………』

    野次馬『(ビクッ)』

    フレンダ『(結局、障らぬ神に祟り無しって訳よ)』

    絹旗はその好奇の視線を、睥睨するだけで平伏させた。
    もともと起伏の激しいタイプでもなく、どちらかと言えばこの奇人変人の人格を寄せ集めたアイテムの中で…
    C級映画を偏愛すると言う趣味嗜好を除けば私より没個性なんじゃないかって勝手に思い込んでた。だけど

    滝壺『きぬはた。まず、むぎのの話を聞こう?ね?』

    絹旗『…超わかりました…』

    フレンダ『(結局、一番肝が据わってるのは滝壺って訳よ)』

    『キレたら私よりヤバい』と麦野が評した絹旗の豹変ぶりを目にしても…
    いつも通りスローテンポな話し言葉に私は胸を僅かながら撫で下ろす思いだった。
    と言うより、私が最も恐れているのは絹旗の逆鱗より麦野の沸点だ。

    その決して高くない沸点を越えたが最後、熱湯による火傷だなんて生温い結末はありえない。
    そんな事はアイテムに属しているメンバーなら誰だってわかっているはずだ。
    なのに尚も食ってかかる絹旗に対し、私は正直止めてくれと言いたかった。

    540 = 468 :

    フレンダ『(これ以上面倒事を持ち込むのは止めてもらいたい訳よ)』

    麦野引退――予想だにしない爆弾発言、想像だにしない爆弾宣言にも関わらず私の頭はどこか冷め切っていた。
    もちろんそれは重大な意味合いを持つ事くらいは認識出来ていた。
    しかし私が一番可愛いのは私で、私は私だけの味方だ。

    もちろんアイテムにだって愛着はあるし、情だって涌くし、友誼を感じたりする瞬間がないでもない。
    けれど私達は暗部だ。仲良しこよしのガールズサークルじゃない。
    互いを利用し、能力を含め或いはそれ以外の技能ありきで、利害の一致がそれぞれの抱えた事情にリンクしているに過ぎない。

    絹旗『…超取り乱しました。麦野、お願いします』

    絹旗のそれは暗部にとって御法度でもある馴れ合いの延長上にあるのではないか?
    確かに麦野が離脱する事で失う戦力は絶大で、脱退する事で被る被害は甚大だ。
    こんな時でも私は頭の中で、この国で言う十露盤を弾くのを止めない。が

    麦野『――私の話はそれで終わりよ』

    絹旗『!!?』

    フレンダ『(結局、また振り出しって訳よ…ああもう話す度に噛み付くの止めてよ絹旗お願いだから)』

    私を巻き込まないで、とばっちりなんて食らいたくない。
    私だって麦野は好きだ。綺麗だし有能だし頭だって切れるし。
    ただ器がちょっと小さいと感じる時もある。とどのつまり、完璧じゃあない。
    結局――麦野ラブを公言する私だって、決して盲信に陥ってるって訳じゃない。

    フレンダ『(抜ける抜けないったって、結局決めるのは麦野だし決めたのも麦野って訳よ。上層部からそれを許されたんでしょ?でなきゃ今生きてここにいられる訳ないじゃない)』

    私の言う『好き』はセーフティー付きだ。もし私が命の危機に陥り敵地に囚われたと仮定しよう。
    そこで月並みな取引を持ち掛けられたら?仲間の情報や命を秤に乗せられたら?
    私は裏切るかも知れない。裏切らないと言い切れない。
    想像の中ですら私は仲間のために命を投げ出す自己犠牲精神溢れるヒロインだなんて役回りは出来そうにもない。

    541 = 468 :

    フレンダ『(学生のアルバイトじゃあるまいし、引き止めて結局どうしたい訳よ?それより考えなきゃいけないのは麦野が抜けた後どうするかじゃないの?)』

    絹旗は顔色を赤くしたり青くしたり白くしたりで忙しい。
    滝壺は話を聞いているのかいないのか、話を理解しているのかいないのかわからない顔。
    麦野は…一言で言えば無表情。でもそれは感情を色に表すなら様々な色がごっちゃになった鈍色。

    それくらいわかる。おっかない麦野の顔色をうかがいながら私は生きて来た。
    フレメアみたいに純真無垢、天真爛漫になんて生きられない私はそうやって色んな事をやり過ごして生きて来たのだから。

    麦野『絹旗。質問を質問で返すようだけどね、なら私がなんて言えばお前は納得するんだ?』

    絹旗『そっ…れっ…はっ…!』

    麦野『私はお前が納得するような理由も持ち合わせてちゃいないし、お前を説得するような言葉も持ち合わせてないんだよ…』

    つっかえつっかえの絹旗はもうあっぷあっぷに見えた。
    酸素の足りなくなった金魚が溺れかけてるみたいに。
    それじゃあ結局何も変わらない訳よ絹旗。麦野を引き止めたいなら今の置かれてる状況が、立場が逆じゃないと意味がない。

    絹旗『そう言うのを超居直りって言うんですよ!超開き直りって言うんですよ!わかってんですか麦野!』

    フレンダ『絹旗言い過ぎ!ストップ!!ストップ!!!』

    麦野『………………』

    滝壺『むぎの』

    ヒートアップの一途を辿る絹旗を私が押さえる。こんなの私の役回りじゃない。
    麦野の決めた事に、時に嫌々ながらも従うだけだった私達の役割分担はこんなに脆かったのか?
    しかしそんな時、流れを変えうる唯一の人間が向けた水を私は横目で見やる。

    滝壺『変な事聞いたらごめんね。これは、かみじょうと何か関係あるの?』

    麦野『…そうとも言えるし、そうとも言えない』

    絹旗『!?』

    滝壺『あんまり答えになってないよ。でもわかった』

    何がわかったのか、どうしてそこであの絹旗の言う所のバフンウニの名前が挙がるのか…
    それは私にもわからない。けれど滝壺は勘でも鋭いのか思い当たる節でもあるのか

    滝壺『むぎの、一度言い出して決めた事絶対曲げたり変えたりしないもんね』

    麦野『………………』

    滝壺『でもむぎのが、暗部に落ちた時の私達より苦しそうな顔してるの、わかるよ』

    542 = 468 :

    そして…滝壺はテーブルから身を乗り出してポンポンと麦野の肩を叩いた。
    まるで長い勤めを終えたか、長い務めに出る人間をねぎらう別れのように。
    私や絹旗にはわからない。けれど麦野にはより険しい荊の道筋が待ち受けているだろう事は察する事が出来た。しかし

    絹旗『はっ…ははっ…はははっ…なんですかそれ?巫山戯けないで下さいよ麦野…私達にも言えない事ってなんなんですか?そんな超くだらない事のために…足ぬけして私達を放り出すんですか?』

    物分かりが良過ぎる滝壺とは対照的に、絹旗のリアクションは当然と言えば当然だ。
    私だって…結局、100%納得している訳って事じゃない。
    絹旗より物分かりが良くて滝壺より物分かりが悪いだけだ。

    麦野『…絹旗』

    絹旗『男のために辞めるんですか?抜けるんですか?いつから麦野はそんな超安っぽい女になったんですか?』

    麦野『絹旗』

    絹旗『麦野おかしいですよ…こんなの麦野じゃない…私の知ってる麦野じゃない…あんたなんか麦野の仮面被った超偽者ですよ!』

    麦野『絹旗!』

    絹旗『(ビクッ)』

    短い一喝。しかしそれに怒声の色合いは薄く感じられた。
    自分だけの現実が揺らぎかけている絹旗を立ち返らせるための成分が多分に含まれているように。
    しかし…それが絹旗にはたまらなかったようだった。

    絹旗『むぎ…のぉ!』

    ポロポロと零れ落ちる真珠のように大粒の涙。
    まるで駄々をこねて母親に一喝された子供のようだ。
    そして…絹旗はそれすら経験出来なかったはずだ。

    絹旗『麦野…麦野…私達を置いていかないで下さいよ…超お願いですよ…麦野…むぎのぉ…』

    フレンダ『…絹旗…』

    絹旗『怒って下さいよ!いつもの麦野なら私の質問に意味なんてないって!余計な口挟むなって!こんな口の聞き方超怒るじゃないですか!?どうして大事な時に怒ってくれないんですか!!!』

    置き去り(チャイルドエラー)、暗闇の五月計画。
    絹旗の出自、絹旗の過去、絹旗の恐怖…それは誰かに置いて行かれる事、己の居場所を失う事。
    もちろんこれは私の想像だ。けれどそれ以外に絹旗が泣いている理由が私には浮かばない。

    絹旗『抜けて何するんですか…私達じゃ手伝えないんですか…この間の時みたいに、またアイツに絡んで超ボロボロになりに行くんですか!?』

    543 = 468 :

    この間の件…それは、上条と麦野と名前もわからない修道女と、ウエスタンなサムライガールと神父とまとめて病院送りになった一件。
    それは私達が久方振りにファミレスでだべり、麦野が私から拡散支援半導体(シリコンバーン)と偽IDカードを調達した日。
    後で聞き及ぶに幻想御手に絡んだワクチンソフトが店内にまで響き渡ったあの集まり。

    麦野『ないわ。あの時も私はあんた達の手を借りなかったし、これからもあんた達の手を借りるつもりはない』

    その日の夜に、学園都市中で目撃された光の柱。
    それが樹形図の設計者を破壊したなんてくだらない噂を私も後に耳にした。
    しかし、麦野と上条がそれに絡んでいたらしい事だけはわかっていた。
    絹旗はそれを指摘し、麦野はそれへの解答をなさなかった。
    そういう意味では冷めた私だって熱くなった絹旗だってアルプススタンドの観客に過ぎないのだから。

    麦野『――ただ、私の都合で始めた戦いで、あんた達に――』

    絹旗『やめて下さい!言わないで下さい!超聞きたくないです!麦――』
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    麦野『あんた達に迷惑かける…本当に、ごめんなさい』
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     

    544 = 468 :

    絹旗『――――――』

    滝壺『…むぎの…』

    フレンダ『………………』

    麦野が私達に頭を下げたのは、それが最初で最後だった。

    その短い言葉は、麦野がアイテムを『辞める』だなんて言うよりずっと想像出来なくて

    その短い言葉に込められた意味の重さを私は持て余したし、絹旗は受け止め切れなかった。

    あの傲岸不遜で、生まれついての女王様気質で、人に頭なんて下げた事の無さそうな麦野が。

    自分が悪かろうと相手が正しかろうと、謝罪するくらいなら舌を噛み切った方がマシだと言わんばかりの麦野が。

    それは、この上なく『アイテム』はもう終わってしまったんだと感じさせるに足りた。

    フレンダ『…麦野、私からも質問があるって訳だけど…いいかな?』

    麦野『いいわ』

    根掘り葉掘り問い質したい事が、一から十まで問い詰めたい事など山ほどあった。

    これまでの不平や今までの不満など洗いざらいぶちまけたい事など売るほどあった。

    これからの私の身の置き所、この先の私達の身の振り方など聞きたい事など掃いて捨てるほどあった。けれど

    フレンダ『結局…麦野は私達よりアイツを選んだって訳?』

    最も建設的でない質問をしたのは、他ならない私だった。

    麦野『――そうね。だから何?――』

    他に答えようのない質問を、その答えを言わせたかったのかも知れない。
    絹旗みたいに正面切ってぶつかれない。滝壺みたい波風立てずに聞き出す事も出来ない。
    ただ、大きな不満を小出しにするみたいにするのが一番底意地が悪いと知りながら――

    フレンダ『別に…麦野にそこまでさせるアイツのどこが良いんだろうって』

    私は、可愛い女の子になれなかった。

    麦野『――アイツが、私を選んだからじゃないか――』

    麦野みたいに、変われなかった。

    545 = 468 :

    ~第十五学区・地下立体駐車場B1F~

    フレンダ「(何でこんな時に、何でこんな事、思い出しちゃう訳よ)」

    フレンダ=セイヴェルンは駆け抜ける。血を分けたただ一人の妹、フレメア=セイヴェルンの手を引いて走り抜ける。
    瞬き一つで上半身と下半身が泣き別れにされそうな窒素爆槍(ボンバーランス)が掠め血を流す脇腹を庇いながら。

    禁書目録「ふれんだ!ふれめあ!」

    フレンダ「(余計なお荷物まで背負い込んじゃあ…結局、本末転倒って訳よ)」

    その後に続くは禁書目録(インデックス)。
    咄嗟に黒夜海鳥が放った窒素爆槍から身を挺して庇ったフレンダの返り血を浴びたウィンプルは既になく…
    金糸の髪を振り乱す二人の後に続き広がる白銀の髪を靡かせて逃亡劇に加わる。

    金髪の少女二人、銀髪の少女が一人、平時であれば異国の血を引く美少女達に注がれる耳目は感嘆と賛美に包まれるだろう。
    しかし否が応でも目立ち過ぎるその容姿は、今や三人にかかる追っ手に取っては恰好の的でしかない。さらに

    禁書目録「二人とも!止まるんだよ!!」

    フレンダ・フレメア「「!?」」

    二人の背中に飛ぶ制止と静止の檄。それに思わず反射的に、つられるように二人の駆け足がやや鈍った。すると――

    ゴバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

    フレンダ「駆動鎧(パワードスーツ)!!」

    地下立体駐車場の天井部を踏み抜き躍り出るは八本足の駆動鎧。
    風穴の空いた天井部すれすれの全長は目視出来うる限り5メートルは下らない。
    文字通り網を張って待ち構えていた機械仕掛けの蜘蛛。
    彼我の距離にして凡そ300メートル…そこに降り立ったかと思えば

    フレメア「ふ、フレンダお姉ちゃん!あれ!あれ!!」

    フレンダ「あれは―――」

    待ち受けていた駆動鎧がその歪な腕を持ち上げる。
    平均身長の二倍ほどに達する左腕、四倍ほどに達する右腕。
    蜘蛛が剥き出した毒牙を連想させるそれら…逃れようのない死を撒き散らす砲口の照準が――

    ガコンッ

    フレンダ「滑腔砲!?」

    セイヴェルン姉妹目掛けて…鉄火の萼が食い破らんと殺到し――

    禁書目録「―――!!!」

    フレンダ・フレメア「―――!!?」

    そこへ割って入り二人を突き飛ばし覆い被さるインデックス!
    刹那、伏せた三人の脇をすり抜け…地下立体駐車場の壁面に砲弾が直撃する!

    ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!

    546 = 468 :

    圧倒的破壊…!戦車の主砲に用いられるそれはまさに吸い込まれるように壁面を吹き飛ばした。
    同時に、爆風だけで鼓膜を破り、脳を頭蓋ごと揺るがせ、熱量が肌を焼けただれさせる直撃から…

    フレンダ「ガハッ…ゴホッゴホッ!」

    インデックスの機転が繋いだ紙一重の可能性が、間一髪でセイヴェルン姉妹へのダメージを最小限に食い止めていた。
    しかし他ならぬフレンダ自身、受け身を取らずフレメアを腕の中に抱き留め離れ離れにならなかった事以外に救いなど見出せない状況であった。

    フレンダ「(傷…口…があ!)」

    喫茶店で掠めた窒素爆槍の脇腹の戦傷が今の衝撃で完全に開いた。
    致命傷にはいたらないが無理を押すには重い傷。
    タール色をしたコンクリートに流れる血潮が熱い。
    痛みはなく焼けたような熱さ。それが冷え切り凍てつくように感じ始めれば敗れは近い。だが

    フレンダ「ふ…れ…めあっ!」

    フレメア「………………」

    手足のもげた芋虫のように這い、真夏のアスファルトの上で焼け焦げるミミズのように身を捩らせてフレンダは呼び掛ける。
    恐らくは脳震盪だろうか、気を失っているものの腕に感じる息遣いは未だフレメアが現世に繋がれている事を示している。そして

    禁書目録「うわっぷ!ぺっぺっぺっ!お口の中がジャリジャリするんだよ!」

    フレンダ「(う…そ?)」

    互いにどれだけ吹き飛ばされたかわからず、聴覚の片方が完全に死んで尚…
    残された耳朶を打つは、身を挺して姉妹の命を繋げた敬虔なる神の仔羊の声音。

    禁書目録「い、今のは危なかったかも…!」

    インデックスである。第三次世界大戦後、一度は失われた霊装『歩く教会』…
    後に復元、修復、再生を経て復活したそれを身に纏うインデックスを殺める事は如何なる近代兵器にも不可能に近い。
    それを身につけたインデックスがセイヴェルン姉妹に覆い被さったからこそ、彼女等は五体満足でいられたのだ。

    禁書目録「いけない…!ふれんだ!ふれめあ!逃げるんだよ!」

    フレンダ「あっ…ぐっ…うっ!」

    ドォン!!ドォン!!!

    再開される砲撃が三人を狙い撃たんとする。しかし、歩く教会の加護を受け全くの無傷のインデックスが――

    禁書目録「危ないんだよ!!」

    ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!

    547 = 468 :

    着弾、直撃、爆裂――しかしそれらはインデックスの絶対不可侵領域に飛ばした火の粉で焦げ跡さえ残せない。
    飛来する破片や瓦礫までその彼女は再び絶対防御の霊装と挺身を以て防ぎ――

    フレンダ「あうっ!」

    生じた爆風までは受け止められないが、それらが三人をノーパウンドで…
    幸運にも追い風のように地下駐車場B1Fから1Fへ連なる昇降口付近まで吹き飛ばす!
    歩く教会の守護を受けたインデックスは揺らぐ事なく、フレンダの手を引き上げ駆け出す!

    フレンダ「けっ、結局、あんたは一体何者な訳よ!?」


    フレンダはそれを信じられない思いで歪む視界で捉える。
    迷子になっていた自分の妹を導き、今は自分の手を引いて導く修道女の横顔を。
    ありえない。絹旗最愛の誇る窒素装甲(オフェンスアーマー)ですらあそこまで完璧に、完全に防げるかどうかフレンダにもわからない。だが

    禁書目録「私は、迷える仔羊を導く修道女(シスター)なんだよ!!」

    砲撃の轟音に揺るがされ平行感覚を失った三半規管をねじ伏せ…
    笑う膝と震える足と抜けそうになる腰を叱咤しながら…
    フレメアという守るべき命と、澄み切った笑顔で導くインデックスがあればこそフレンダは駆け抜ける事が出来―――
     
     
     
     
     
    黒夜「残念。ゲームオーバーだにゃーん?」
     
     
     
     
     

    548 = 468 :

    ~第十五学区・地下立体駐車場1F~

    フレンダ「…結局、こうなるって訳よ」

    思わず渇いた笑みが浮かぶ。B1Fの駆動鎧を振り切ったかと思えば…
    何の事はない。自分達をここまで追い詰め追い立てた黒夜海鳥が1Fで待ち構えていた、それだけの話だ。
    馬鹿げている。駆動鎧の存在に気圧され、完全に黒夜に寄る追跡を失念していた。

    禁書目録「さっきのイルカなんだよ!いい加減しつこいかも!」

    他ならぬフレンダの脇腹を窒素爆槍で抉った張本人を目の当たりにし、フレンダを庇うように前に出るインデックス。
    フレンダも以前止まらないジワジワした出血と、度重なる砲撃による蓄積ダメージ…そして何よりも

    フレンダ「…これが、この国で言う“前門の虎、後門の狼”って訳?」

    黒夜「試してみるかい?人類史上、成功した試しがない二正面作戦。もっとも、数限りなくある失敗例の一つに増える方に私は賭けるけどね。賭けにならないか?」

    ブオンッと黒夜の両手にそれぞれ浮かび上がる、3メートルほどの窒素の先槍。
    昇降口の上り口から、下り口のフレンダ達を見下ろす窒素爆槍の少女。
    そしてガシャンガシャンと不吉な金属音を撒き散らしながら歩み寄ってくる駆動鎧…

    フレンダ「賭けてみるね…結局、ギャンブルなんて勝ちの目があってはじめて成立するって訳よ」

    眼前の少女、背面の駆動鎧、いずれも万全の態勢であってさえ出来るならば避けて通りたい難物。
    手持ちの武器でどうにか出来るほど甘い敵ではない。
    両方相手取れば勝ち目など小数点以下だ。0だと言い切らないのは――

    禁書目録「ふ、ふれんだ――」

    チラッとこちらを見やるインデックス。それに対しフッと笑みを浮かべるフレンダ。
    そう、賭けはまだ終わっていたない。ダイスの目は出ていない。
     
     
     
     
     
    ―――だから―――
     
     
     
     
     

    549 = 468 :

    フレンダ「インデックス!」

    黒夜「!」

    その時、フレンダは腕の中のフレメアをインデックスに押し付け――

    フレンダ「――走って!!」

    フレンダが飛び出す、ポシェットから抜き取った爆弾入りのぬいぐるみ片手に――

    禁書目録「――う、うん!!」

    唯一の昇降口をフレンダが駆け上り、その後を一瞬遅れてフレメアを抱えたインデックスが続き――

    黒夜「まだレイズを受けちゃいないよ!」

    それを窒素爆槍で迎え撃たんとする黒夜!そしてフレンダが爆弾入りぬいぐるみを――

    ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!

    フレンダが叩き付けるように投擲し、黒夜が投げ槍のようにそれを撃墜する!
    狭い一本道の通路で炸裂する爆薬は、コンクリートを吹き飛ばして粉塵を舞上げ――

    ドンッ!

    黒夜「教えてやるよパツキン(外国人)…この国じゃこういうのを」

    そこに無傷の黒夜が襲い掛かる!残されたもう一本の窒素爆槍を片手に――

    黒夜「“犬死に”ってんだ!」

    フレンダの脇腹に再び…刺し貫く!

    フレンダ「がはっ…!」

    黒夜「馬鹿だねー。自爆覚悟の特攻仕掛けるなら相手を見……!?」

    そこで…黒夜の愉悦に満ちた笑みが不快に歪む…
    窒素爆槍の持ち手を…フレンダが両手で、万力が如く締め上げ――

    フレンダ「走って!!インデックスー!!」

    黒夜「まさか!?」

    ダッ!

    次の瞬間、粉塵舞い上がる昇降口をフレメアを抱えたインデックスが脇をすり抜けていく!
    カフェテラスで印象づけた仕込みぬいぐるみに注意を引きつけ
    通用しないのを承知で撃墜させ、爆発を巻き起こして粉塵を舞い上げ視界を一瞬でも奪い…
    窒素爆槍を発動させる手を文字通り己の身と引き換えに片方封じる…
    積み上げた伏線と積み重ねた一瞬が紡ぐ、万金に値する光陰!

    黒夜「ちいっ!」

    血染めのフレンダを振り払い、煙幕の中を直走るインデックスの背中にめくらめっぽうに放つ窒素爆槍!
    しかし――戦車の主砲すら防ぎ切る『歩く教会』の前にその命は奪えない!
    それもフレンダに封じられ、片手だけの釣瓶撃ちなど!
    そして窒素爆槍が煙幕を晴らす頃には、インデックスはフレメアを連れて脱出を果たした後!

    550 = 468 :

    フレンダ「あっはっはっは!自信満々な能力者をはめたこの瞬間が最っ高ーに快感な訳よ!」

    黒夜「…っ!」

    そう、黒夜や駆動鎧を撃破する勝率が限り無く0に近くとも…
    『フレメアを生かして逃がす』だけならば小数点以下の成功率は跳ね上がる。
    勿論の事ながらフレンダは『歩く教会』の原理など知らない。
    ただ滑腔砲を防ぐだけの防御力がインデックスにあると駆動鎧との戦いで知り、それに全てを託した。
    そこに至るまでの一瞬一瞬を、自分の流した血と懸けた命をベットにした。それだけの話だ。

    フレンダ「(さて…意地汚く生き汚く来たけど…これが私のマキシマムベットって訳よ)」

    限界だった。この戦いの中で血を流し過ぎた。この様では逃げ切る足も残されていない。加えて…

    黒夜「ひっはは。ひひひひひひひひひひ…はははははははははは…潰す!!」

    自身を踏みにじる黒夜の哄笑。なんの事はない。
    少女が虫螻を踏み潰すのと変わらない労力をかけるだけでフレンダの命の灯火は消える。
    だが――フレンダはさほど悪い気分ではなかった。
    血を失い過ぎて、寒いを通り越して軽くすら感じる身体には否定しきれない満足感が確かにあった。

    フレンダ「(フレメア…フレメア…グリーンピース、ちゃんと食べなきゃダメ…好き…嫌い…する…娘…は…大きく…な…れない…って…訳…よ)」

    眠気が押し寄せてくる。これが『死』かと、閉ざされんとしていた目蓋に浮かぶは妹の姿。

    フレンダ「(あった…か)」

    黒夜「決めた。上下切断。お別れさせてやるよ、その貧相な身体」

    ついさっきまで腕の中にあったぬくもりの残滓が愛おしい。
    迫り来る窒素爆槍の切っ先。わかっていた。暗部に身を堕とした以上、最期はこんなものだと
     
     
     
     
    ――こんなものだと、思っていたのに――
     
     
     
     
    ガウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン…!


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