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    元スレ麦野「ねぇ、そこのおに~さん」2

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    みんなの評価 : ★★
    タグ : - 麦野「ねぇ、そこのおに~さん」 + - フレンダ + - ヤンデレ + - 上条 + - 佐天 + - 滝壺 + - 絹旗 + - 美イン + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
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    601 = 468 :

    ~第十五学区・廃ビル~

    轟ッッ!と空気を切り裂く音と共に滞空するは直径70センチほどの円盤。
    内部に取り付けられたシャンプーハットを連想させるプロペラ、外部を取り囲むチェーンソーエッジ。
    その上部に刻印された『Edge_Bee』の文字が禍々しい唸りをあげる。

    禁書目録「(刃の蜂?蜂の刃?)」

    機械類に疎いインデックスにあってさえ羽撃く毒蜂より不吉な予感を禁じ得ない。
    今の今まで『能力』『魔術』という目の当たりにした事象の埒外にある『科学』。
    それらを操るシルバークロースは睥睨する。追われる立場でありながら挑まんとしている修道女(インデックス)を。

    SC「挑むか逃げるか…どちらにせよこちらのやる事に変更はない」

    ゴバッ!と空気が爆ぜた。

    禁書目録「ふれめあ!」

    四機ものエッジ・ビーがインデックスの身体目掛けて襲い掛かる!
    されどインデックスはフレメアに飛びつき、もんどりうつに庇い立てる!
    一つきりしかない出口はシルバークロースの背後、自分達の背後は嵌め殺しの窓が一つきり!


    ギャリギャリギャリギャリギャリギャリ!

    耳障りな音を軋らせインデックスごとフレメアを吹き飛ばすエッジ・ビー。
    それは容易く人体を両断し輪切りにするには十分に過ぎる破壊力。
    激突の瞬間、二人を弾き飛ばした刃が数十センチ大の穴を壁面に穿つ!
    そして勢い良いそのままに窓枠ごと壁面を突き崩すようにして――

    SC「割れて砕けろ」

    ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

    衝突!エッジ・ビーはチェーンソーエッジの立て方によって『斬る』と『掴む』を使い分ける。
    インデックスに向かって放たれたそれは爪で裂き指で毟るような一撃。

    SC「(さもあらん。“外側の法則”を使うと言ってもこの程度か?)」

    老朽化したコンクリートは容易く切り崩され濛々と粉塵を巻き起こらせる。
    硬度の高い建築物ですらこの様だ。ましてや人体…乙女の柔肌を持ってして耐え得るほど生易しい威力ではない。



    ――だがしかし――



    禁書目録「走ってフレメア!」

    SC「!?」

    粉塵の彼方にセンサーが音を拾った。瞠目するシルバークロース。
    今の一撃で仕留め損ねたかと訝る。しかし彼はその逡巡に足を取られない!

    602 = 468 :

    SC「逃がすか!」

    即座に背面の一つきりの出口へと振り向きざまに裏拳を叩き込み突き崩す。
    シルバークロースの駆る重機のバケットより強大な鋼鉄製の指はその破壊を可能とする!
    偶発的に生み出された煙幕に乗じてすり抜ける事を許すほどシルバークロースの脇は甘くない!が

    禁書目録「――飛ぶよフレメア!」

    SC「なに?!」

    インデックスはフレメアを『抱えた』まま、破壊された嵌め殺しの窓枠から外界へと身を投げ出す!
    シルバークロースの破壊を利用し、先程のフレンダが使った詐術を応用し、フレメアを『逃がす』と見せかけ煙幕に身を潜めたまま、シルバークロースが背後の脱出口を封じんとした刹那を出し抜いて!

    SC「くっ!」

    すぐさまシルバークロースも追撃態勢に移行し、破壊された窓枠から三階部分より下界を見下ろせば

    禁書目録「はっ!はっ!はっ!」

    インデックスはフレメアを連れて駆動鎧の巨体では入りにくい細い路地裏を駆け脱出に成功した。
    先程フレメアを連れて逃げた際にインデックスの完全記憶能力は路地裏のマッピングを完全に把握し、最短距離で駆け抜ける。
    エッジ・ビーはおろか、三階部分から落下しても傷一つない『歩く教会』の加護を受け、付随して腕の中のフレメアと共に。


    SC「逃がすか!」

    シルバークロースに少女二人を舐めてかかった気持ちはなかったはずだった。
    形はどうあれ黒夜海鳥の囲い込みから身をかわしたのだから。
    しかし虚と思えば実、実と思えば虚をついての遁走。
    神裂火織をして『天才』と言わしめた逃亡術は未だ健在である。が

    SC「(この勝負、勝ち負けの定義は力技じゃない!)」

    バクン!とシルバークロースは纏っていた駆動鎧を脱ぎ捨てた。
    あまりにも細く入り組んだ路地裏は象の巨体で獣道を行くようなもの。
    そこでTPOを弁えた彼が選択したのはアルマジロを思わせる極めて小さな駆動鎧。
    姿勢制御装置と感知センサーを総動員させ、彼もまた中空へと身を投げ出す!

    SC「(このままさらう!それで決着が、俺達の勝利が確定する!)」

    学園都市第四位を呼び込んだ。『外側の法則』を用いる修道女を引き込んだ。
    後は素養格付を持った浜面仕上と、駒場利徳を殺害した一方通行を引きずり込んで自分達の勝ちだ。
    揃い過ぎるほど出揃った手札。コールは目の前、テーブルホッパーじみた逃走劇の幕引きを期待し、シルバークロースは空中より追撃戦に移った。

    603 = 468 :

    ~第十五学区・崩落した立体駐車場~

    黒夜「がはっ!」

    一方その頃…麦野沈利とのファーストコンタクトを取った黒夜海鳥は瓦礫の山から腕を突き抜けさせた。
    幸い、崩落の際に炸裂させた窒素爆槍(ボンバーランス)によって生き埋めにされる難から逃れる事となった。

    黒夜「ひはっ…ひっはは…ははははははははははははははは!」

    焼け焦げさせられた髪の一部を払いのけながら黒夜は立ち上がる。
    手足は生きている。両目も両耳も死んでなどいない。頭と額から流血はあるものの、重傷には程遠い。

    黒夜「甘ェよ!甘ェんだよ卒業生(センパイ)!こんなんじゃ全っ然足りねえんだよ!!」

    黒夜海鳥はややもするとバトルマニアに陥りかねない己自身の救われぬ性を楽しめる人種である。
    暗部解体の折も、暗部再編の流れも、自ら望んで闇に舞い戻った事がその証左である。
    故に感じ取る。あの女(麦野)は自分と同じ側だと。
    血の河で漱いだ口から紡がれる怨瑳と呪詛と末魔を『何のつもりでそのチョイスなの?』とばかりに切り捨て、時代遅れのポップスを聞き流すより無感動でいられる同類だと。

    黒夜「“入学祝い”のお返し…何倍にして返してやろうかなぁ!!!」

    麦野がもし全盛期にして最盛期…現役第一線の暗部の頃であったなら黒夜は初撃で絶命に至ったはずだ。
    それを自分の抹殺より元仲間の救出を優先した結果に黒夜は理解も納得も満足も得ない。
    あれが絹旗最愛の『元上司』かと。あれが第四位『原子崩し』かと。

    黒夜「あぁ…まだだ…まだラインが繋がるにゃあ細すぎる…水も肥やしも足りてねえ…シルバークロース!」

    牙も爪もありながら進んで自らを囲う檻に身を置く獣にあるまじき生温さ。
    羽も翼も持ちながら高みを目指さず鳥籠に歌を囀る鳥にあるまじきぬるま湯。
    思い知らせてやる。敵に命を拾わせる愚が、どれだけ高い利子を伴うやくざな借り金であるかを!

    黒夜「必ず釣り上げろ!海老(フレメア)で鯛(アイテム)をな!点と点を結んで繋がる線を面ごと叩いて潰せ!コレクションを、ファイブオーバーを、用意しろ!」

    日当たりの良い小春日和の中、微睡みながら逝けるような『死』など用意してやらない。
    暗く冷たい懐かしき穴蔵をそのまま墓場に変えてやる。
    光の世界の中で得た全てに、闇の世界の汚物をなすりつけてやる。

    そして黒夜海鳥は通信機片手に再び立ち上がる。
    それは闘争の女神に愛された悪鬼が如くにじりよりであった。

    604 = 468 :

    ~第十五学区・大通り~

    フレメア「痛いよ…足痛いよっ」

    禁書目録「止まっちゃダメなんだよ!今頑張らないともっと痛いんだよ!!」

    インデックスとフレメアは逃避行を繰り広げていた。
    駆け抜ける二人、どよめき思わず道を譲る通行人達、そこへ割って入るエッジ・ビーとシルバークロース。
    高性能の偵察機としての機能も兼ね備えるエッジ・ビーは映像情報から電波傍受、地下網との連携まで取れる市街戦にも対応出来る兵装である。
    アルマジロの駆動鎧に切り替えたシルバークロースに代わり、彼の部下等がそのエッジ・ビーの遠隔操作にあたる!

    禁書目録「曲がって!」

    大通りに面したファミリーレストランを突っ切り脇道へと折れ曲がる少女達、追いすがるエッジ・ビー。
    内二十七機が狭く入り組んだ路地裏を俯瞰的に視認すべく上空へ、共に巻き込み合わぬよう三機が追跡する!
    文字通り群蜂と化して追いすがるその刃が再びインデックス達へと――

    禁書目録「これでも喰らうんだよ!」

    ブンッ!

    迫る瞬間、打ち捨てられたファミレスの残飯をしまうゴミバケツの蓋を投げつけるインデックス!

    ギャリギャリギャリギャリギャリギャリ!
    しかしステンレス製のそれはエッジ・ビーの回転鋸を前に呆気なく巻き込まれ、掴み取られ、砕け散る!
    足止めにすらならず無残な結末と相成ったそれは阻む行く手などないとばかりに再び唸りを上げて襲い掛かる!

    禁書目録「(もっと…もっと!)」

    しかしそこでインデックスは飛来する三機のエッジ・ビーを前に顔をあげる。
    まるで銃弾飛び交う戦場の中、聖書片手に歩を進める従軍聖職者のように!そして

    ズギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!

    フレメア「ああー!!」

    皆中!木材を切り倒すより容易くインデックスの身体に突き刺さるエッジ・ビー。
    ギャリギャリギャリと鎖鋸を引くようなそれに対し上がるフレメアの悲鳴。だが

    禁書目録「大丈夫なんだよ!!」

    インデックスは血の一滴はおろか傷の一つも追わぬままにエッジ・ビーの刃を任せるがままにしながら叫ぶ…そして!

    ガガガ!ガガガ!ギギギ!ゴゴゴ!

    SC「!」

    インデックスの『歩く教会』を『斬る』ことが出来ず、『掴む』ように立てた刃がその絶対防御の布地を巻き込み、絡まり、空転するばかり!
    加えて三機同時に叩き込むも、切断に至らず互いに押し合いへし合いするように――

    605 = 468 :

    禁書目録「私には神様のご加護があるんだよ!!」

    バキャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

    SC「馬鹿な!」

    斬ろうとして空転し、掴もうとして回転するも傷一つつかない霊装の布地に一極集中するエッジ・ビー。
    しかしそれが仇となる。絡まった絶対敗れない布地に回転鋸のチェーンが正常を動作を為さず落ちたのが一機。
    そして隣接し過ぎた刃と刃が互いを潰し合い、内部から基盤を破壊し煙を上げて破壊されるが二機!

    SC「――爆破しろ!」

    禁書目録「何度やっても無駄なんだよ!」

    ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

    シルバークロースに変わって遠隔操作していた部下が応報にエッジ・ビーを爆破する!
    内臓されていた数百に渡るJのアルファベットに似た釣り針が飛び散り、爆ぜる。しかし


    禁書目録「ふれめあこっちなんだよ!」

    フレメア「!」

    インデックスは爆破すらも裾長の包囲で顔面から頭部を覆って凌ぐ!
    滑腔砲の破片すら防ぎ切る『歩く教会』を前に釣り針など文字通り歯が立たない。
    さらに爆破に連なり吹き飛んだファミレスの裏口の扉にフレメアを引き込み、尚も逃げる!

    SC「くっ…エッジ・ビーを回せ!奴らはファミリーレストランに入った!」

    部下『は、はっ!』

    シルバークロースは苛立ちを隠しきれない。駆動鎧では入れない裏路地に逃げ込まれ、やむなくアルマジロに切り替えざるを得なかった事。
    さらに市街地に引きずり出され、エッジ・ビーのチェーンソーを文字通りあんな搦め手で手玉に取られた事に。

    SC「(くっ…このままではラインが繋がらん…やはり黒夜の言う通りコレクションを投入するか?)」

    もちろんインデックスは駆動鎧やエッジ・ビーに関する知識も対処法も持ち合わせていない。
    ただ彼『歩く教会』の絶対防御の特性を知り抜いている。
    エッジ・ビーが『斬る』『掴む』という用途もまたビル内で身を以て思い知らされた。
    一度『見て』しまえば完全記憶能力を持つ彼女はその時の様子を事細かに脳内で組み立てられる。

    故にエッジ・ビーに対しゴミバケツの蓋を投げつけ確認し…
    巻き込む回転鎖鋸の原理を『歩く教会』の布地で構造上避けえない穴を突いたのだ。
    絶対防御の加護、完全記憶能力による分析、『神』と『人』の力を併せ持つインデックスにしか出来ない逃走(闘争)である。

    606 = 468 :

    ~第十五学区・カフェ『サンクトゥス』付近の路地裏~

    禁書目録「はあっ…はあっ…大丈夫?」

    フレメア「ふうっ…ふうっ…大体、大丈夫」

    二人はシルバークロースの追撃をかわすべく飛び込んだオープン前のファミリーレストランを中抜けし…
    密林のように聳え立つビルの狭間、最初の事件現場近くまで戻って来ていた。

    禁書目録「(最初にチェックされた場所は穴になるんだよ。まさか戻って来てるとは思わないはずなんだよ)」

    無論腰を落ち着ける暇はない。息を整えるためだ。
    インデックスはともかく、幼いフレメアの体力気力には限界がある。
    二人は上空のエッジ・ビーに見つからぬように路地裏ではなくビル同士の隙間を縫ってここまで戻って来たのだから。

    フレメア「スゴい…大体、あんなのフレンダお姉ちゃんみたい」

    禁書目録「はあっ…はあっ…スゴくなんか…全然ないんだよ…逃げ回るのでいっぱいいっぱいなんだよ」

    肩で息咳ききるインデックスとて青息吐息である。
    誰かを守る事は自分を守る事より難しく、一度ならず助け続ける事の精神的重圧は息をする双肩に重くのし掛かる。

    禁書目録「(とうまはいつもこんな事をしてたんだね…そんなとうまを、しずりはずっとこうしていたのかな)」

    離れて思い知らされる、彼等が選び取った道程の険しさ。
    その荊棘の道筋に今日、インデックスは最初の一歩踏み出した。
    インデックスとて『必要悪の教会』に所属する人間である。
    魔法名を名乗る事のその意味を知っている。

    禁書目録「(すているも、かおりも、こんな気持ちだったのかな?)」

    最強である理由を証明し続ける赤髪の神父、神にすら救えぬ人間を、同じ人間の手で救わんとする黒髪の女剣士。
    インデックスの完全記憶能力は写真よりも鮮明に、映像より鮮烈に彼等の勇姿を浮かび上がらせる。

    禁書目録「…あのねふれめあ?私はスゴくなんか全然ないんだよ。本当にスゴいのは、私のともだちなんだよ」

    フレメア「ともだち?」

    禁書目録「そうなんだよ。みんな、私に出来ない事が出来るんだよ」

    姫神、風斬、御坂、ステイル、神裂、皆インデックスにとって『友人』だった。
    上条当麻と麦野沈利は『家族』だ。完全記憶能力を持ちながら記憶すらないインデックスに…様々なモノをを与え、教え、感じさせてくれた。

    607 = 468 :

    禁書目録「私は魔術師なのに魔術が使えないし、家事だってしずりに教えてもらってるけど、おにぎりがなかなか三角にならなくて弱ってるかも」

    フレメア「(魔術師?魔法使い?)そうなの?」

    禁書目録「うん。でもね?なかなか色んな事がうまく出来ない私とみんなともだちになってくれたんだよ」

    彼等を脳裏に、目蓋に、胸中に浮かび上がらせる事でインデックスは己を保ち、鎮め、奮い立たせる。
    神を思い浮かべるよりも早く、強く、愛しく、頼もしく。

    フレメア「なら…」

    禁書目録「ん?」

    フレメア「私も大体、出来ないよ?」

    そこでフレメアがインデックスの瞳を覗き込んで来る。
    その眼差しは確かにフレンダに似ていた。フレンダが幼い頃はフレメアに、フレメアが成長すればフレンダに、それぞれ思い浮かべる事が出来るほど似通った姉妹だった。

    フレメア「…私もフレンダお姉ちゃんや、あなたに助けてもらってるから…大体、何も」

    禁書目録「………………」

    フレメア「何も出来ない私は…あなたのともだちになれない…?」

    そのインデックスと似通った碧眼がぼやけたように揺らめいた。
    相対するインデックスは座り込みながらもフレメアの金糸の髪を引き寄せ…

    禁書目録「何を言ってるのかな?」

    その形良い耳朶に、秘密の内緒話をするように唇を寄せる。
    見た目だけならさほど開きを感じさせない年齢差はそう…まるで

    禁書目録「ふれめあはもう、私の大切な“ともだち”なんだよ?」

    フレメア「!」

    禁書目録「“大体”、ともだちになるのに神様が決めたルールなんてないんだよ?」

    フレメア「ふぎゃあああ!私の口調!」

    ニッコリと笑みを浮かべながら囁きかけた。口調までインターセプトされ軋るフレメア。
    そう、これで良い。彼等は皆インデックスにこうしていたのだからと、友達同士のひそひそ話を終えたインデックスは息をついた。

    禁書目録「(これでいいんだよね?)」

    ともすれば不安から泣き崩れてしまいそうな自分を強く保ち、自分よりも泣きたいだろう相手に笑顔を向け笑顔を引き出す。
    初めてわかった、上条や麦野の気持ち。インデックスは今初めて…彼等と心を一つに出来たようにすら感じられた。

    禁書目録「(さて…これからどうしようかな?振り出しに戻っちゃったんだよ)」

    そしてインデックスは辺りを伺いながら路地裏より顔を覗かせる。
    追っ手は一時的に緩めても止まる事はない。そう――

    608 = 468 :

     
     
     
     
     
    ――SC「フレメア=セイヴェルン」――
     
     
     
     
     

    609 = 468 :

    ~第十五学区・路上~

    最初に降ってきたのは、今し方振り切ったはずの追跡者の声音。

    フレメア「!」

    次いで降ってきたのは、ガードレールごと吹き飛んで来る路上駐車のいくつか。

    禁書目録「危ない―――!!!」

    飛び出したのは反射だった。回避しようとする本能が裏切った、文字通りの挺身であった。

    ゴバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

    「―――ッッッ!!!?!?」

    目撃者などお構い無しの、まるでボールでもぶつけるように投擲された車両がインデックスを下敷きにした。
    同時に行き交う通行人が蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い、男女複数名の悲鳴が繁華街の路上に木霊する。

    禁書目録「あっ…ううっ…!」

    フレメア「あっ…ああっ」

    SC「やはりな」

    人垣を割開くように歩を進めるは…依然として健在なエッジ・ビーを部下達の操作に任せ…
    再び八本脚とは異なる二腕二脚の駆動鎧を身に纏ったシルバークロースだった。
    その人間離れしたフォルムから放たれるは生身の人間からしか発しえない、研ぎ澄まされた殺意だった。

    SC「どういう原理かは知らんがお前に傷をつける事が出来そうにもない事はさっき理解した。ならば点で撃つも線で斬るもない。面で押し潰す。黒夜のアドバイスも聞き入れてみるものだ」

    禁書目録「くっ…ううっ…」

    ガシャン、ガシャンと鋼鉄の騎士のように勇壮な跫音を立ててにじりよるシルバークロース。
    その歩みはへたり込むフレメアと、自動車の下敷きにされたインデックスの前で止まる。

    禁書目録「(もっ、盲点を突かれたのは…私だったんだよ)」

    如何に『歩く教会』の防御力が神域の領域にあろうとも、それを纏うはあくまで生身の人間。
    ましてやインデックスの膂力は一般的な十代の少女達となんら変わらない。
    下敷きにし押し潰してかかる自動車の重量は霊装が無効化しても、それをはねのける腕力が、筋力が、体力がない…!


    SC「美味しい状況だ。フレメア=セイヴェルン、そして『外側の法則』を使う人間、両方を手の内に入れられるんだからな」

    禁書目録「…そういうのを、この国では“二兎を追う者は一兎も得ず”って言うんじゃないかな?」

    SC「罠にかかった兎など、切り株に躓いたそれ以上の無様さだ。居眠りしていた兎には及ばんがな」

    610 = 468 :

    にじりよるシルバークロースを前にインデックスは言葉を紡ぐ。
    僅かで良いから時間を稼ぐ、微かで良いから注意を逸らせる。
    そう、フレメアが逃げ出すに足るタイミングを掴むまでは――

    フレメア「あ…ああ…あああ」

    禁書目録「(――ふれめあ――)」

    しかし…今の一撃がフレメアにとってのトドメの一撃だったのだろう。腰を抜かしている。
    十歳に満ちるか満ちないかの年齢でここまで走り続け、修羅場鉄火場を潜り抜けて来た事自体が既に驚嘆に値する。しかし――

    禁書目録「なら、この国で言う“冥土の土産”に教えて欲しいんだよ…どうしてふれめあを狙うのかな?」

    SC「…何?」

    禁書目録「ふれめあはただの女の子なんだよ。それをどうして――ぐうっ!」

    SC「貴様には関係ない事だ。貴様は見るに修道女だな?神の国で言いふらされても困るんで、な」

    重石となる自動車から辛うじて抜け出せていた頭を、シルバークロースは踏みにじる。
    インデックスは予定外にして予想外のイレギュラーだが、今この場で必要なのはフレメアのみ。
    それ以上に、インデックスの逃亡術はシルバークロースを苛立たせるに足りた。

    禁書目録「あぐっ…うあっ…あああ゛ああ゛あああ゛あああああ゛あああ!!!」

    フレメア「やめてえ!やめてえ!!やめてえェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!」

    SC「麗しい友情だ。反吐が出るくらいにな」

    インデックスの小さな頭蓋骨が、十万三千冊にも及ぶ魔導書の知識を収めた脳髄をシルバークロースの駆動鎧の脚部が圧迫して行く。
    それは万力で締め上げるよりも強く、アスファルトとの間で砕き潰さんばかりに

    フレメア「いや!いや!いや!!いやいやいやいやこんなのいやこんなのいやこんなのいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

    喉から血が振り絞らんばかりのフレメアの悲鳴すら霞んで行く。
    インデックスの頭蓋を、頭脳を、頭部を、シルバークロースの圧力がかかって行く。
    ウィンプルを失った剥き出しの部分を防ぐ手立てはない。何一つ。

    禁書目録「(ふ…れ…め…あ)」

    今し方出来たばかりの『友達』の声が遠のいて行く。
    魔導図書館としてのみ存在に許されたインデックスの、一年余りの『記憶』に靄がかかって行く。
    それは食べ散らかして怒られた料理の数々だったのかも知れないし、それを怒り文句を言いながらも作ってくれる『誰か』だったのかも知れない。

    611 = 468 :

    禁書目録「(し…ず…り)」

    美人なのに口が悪く、ぶっきらぼうなのに優しくて…
    そんな彼女に『家族』として感謝し、一人の『女』として嫉妬もした。

    禁書目録「(と…う…ま)」

    自分もなりたかった。上条の側で戦う彼女のように。
    自分もなりたかった。上条の『特別』になれなくても、共に戦いたかった。
    同じ男を愛してしまった一人の『女』として。
    そうなりたかった。そうありたかった。そうでなければつけられない折り合いが、わだかまりがあった。

    禁書目録「(わ…た…し)」

    ずっと前に進みたかった。ずっと前から変わりたかった。
    『力』がある彼女が羨ましかった。愛する人の助けになれる彼女妬ましかった。何も出来ない自分が涙が出るほど悔しかった。
    自分は『特別』にも『パートナー』にもなれなかった。
    消去法で『家族』になる事を選んでしまった自分に、二人はいつだってどこだって三人一緒でいてくれた。

    禁書目録「…わた…しも…」


    私は強者の知識を守る敬虔なる子羊


    牙も爪も保たぬ迷える仔羊。


    神に仕える身でありながら、悪魔に魂を売ってでも欲しかったもの


    原罪の果実(かみじょうとうま)


    届かぬ祈りならば、せめて


    禁書目録「…―――守り(戦い)たかったんだよ―――…」


    残酷な神が支配する、この世界で――


    612 = 468 :

     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    ――――――久しぶり――――――
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     

    613 = 468 :

    ~第十五学区・路上~

    ぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞ

    SC「!?」

    その時、シルバークロースの顔面に…過去の制裁で焼かれ、上塗りのように築き上げた顔に、死に絶えた汗腺から脂汗と鳥肌が沸き立った。

    SC「(!!!?!?)」

    瞬間、飛びすさって距離を取らざるを得なくなった。
    それは駆動鎧に身を包み、心の在り方如何によって八本脚の動物にも四本脚の動物にもなりえる彼の…
    醜く歪め続けていた彼の心を凍てつかせるほどの『何か』。そして――

    ガシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!

    フレメア「!」

    刹那、インデックスを下敷きにしていた車が…跡形もなく粉微塵に『切り裂かれ』た。
    それはかの『聖人』神裂火織を彷彿と…いやそれ以上の『人外の太刀筋』。
    如何な研ぎ澄ませた刀剣でも成し得ないであろうその破壊…
    まるで『斬る』過程が無視され『斬られた』結果のみが事象と存在するような

    SC「な…ん…だ…」

    ここに来てシルバークロースは自らが招いた『災厄』の強大さに己が震えている事を知る。
    人間を超えるというおぞましさが児戯に等しく、今目の前にいる『それ』が稚気を逆立てればと思うと…
    大自然の暴風を前に立たされているただ一匹の蟻にすら劣る己をそこに見たからだ。

    SC「お前は…誰だ!?」

    そこには…フレメア=セイヴェルンを守るように立ちふさがる『修道女』。
    死の赤、血の紅、炎の緋をそのまま具象化し顕現させたかのような『紅き翼』。
    そして中空に揺蕩う三振りの『豊穣神の剣』。
    それは舞い降りた守護天使のようであり、冥府へと導く死天使のようでもあった。

    SC「お前は一体…誰なんだ!!?」

    614 = 468 :


     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    禁書目録「私の名前は、インデックスって言うんだよ?」
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     

    615 = 468 :

    『首輪』『自動書記』…それは十万三千冊にものぼる魔導書(禁書目録)を管理する『魔導図書館』インデックスを、『非人道的な防衛手段』より守護する…
    英国がインデックスに対して施した処置であり、鎖である。

    フレメア「…インデックス…?」

    ステイル=マグヌスをして『彼女と戦うことは、一つの戦争を迎えることに等しい』とまで評されるそれ…
    被術者の生命の危機など特定の条件を満たすと発動する安全装置にして防衛装置、最終装置にして暴力装置。
    かつてそのくびきは上条当麻の『幻想殺し』にて解き放たれたかに見えた、がその枠外から手を伸ばした者がいる。


    ――フィアンマ『俺様はこの世界を救う』――


    彼の者の名は『右方のフィアンマ』…『聖なる右』を持ち、『神の子』に最も近い力を有していたローマ正教最暗部『神の右席』の指導者。
    彼が行使していた『遠隔制御霊装』による強制干渉により不完全ながらもインデックスの中の『自動書記』が発動した経緯がある。


    ならば今回のケースは?


    それはシルバークロースによってインデックスが頭脳ごと生命の危機に晒された事による防衛反応なのか?

    それは魔法名を名乗ってまでフレメア=セイヴェルンを『守る』と決めた事による覚醒と進化なのか?

    それは今輪の際『禁書目録』の意志が溶け合い、『自動書記』の意思が融け合った事による奇跡なのか?


    恐らく全てが正しく、同時に誤りだ。この場に正誤の審判を下せる者はいない。
    しかしもしそれを近い言葉で表すとするならば――

    禁書目録「下がってて、ふれめあ」

    それは『獣』のように牙も爪も持たず、『鳥』のように羽も翼も持てず、ただ二本の手と足で地を蹲う事しか出来ない、『人間』にしか持てぬ『祈り』だ。

    何十、何百、何千年と人の一生が儚い星座の瞬きのようにすら感じられる月日、歳月、幾星霜を経て尚変わらぬ『祈り』だ。

    人の祈りに応報し自動書記が『神の啓示によって記された』とされる『奇跡』そのままに。

    『神』に仕える修道女であり、『魔神』へと至る知識の守護者であり、演算能力と対を為す完全記憶能力を有する『人間』だ。

    その三位一体の聖絶の力が今、並行励起にて解き放たれて行く。そう――

    禁書目録「――今、終わらせるんだよ」

    今や彼女は、十万三千『一冊』目のIndex-Librorum-Prohibitorum(禁書目録)なのだから――

    616 = 468 :

    ~第十五学区・路上~

    SC「ッッッッッッ!!!!!!」

    ファーストストライクを打って出たのはシルバークロースだった。
    正体不明の障害物の、解析不明な力場を、説明不能な『力』を前に、確認不要とばかりに羽撃くエッジ・ビーを全機展開させる。
    目視出来る距離にある敵に対し、彼が取った作戦は極めてシンプルな…そう。

    SC「叩いて潰せ!!!」

    轟ッッ!!と百機近くに渡るエッジ・ビーが群蜂の尖兵となってインデックスとフレメア目掛けて殺到する!
    上下前後左右同時多角にして死角なき物量作戦…圧倒的火力による一大攻勢!!

    ゴバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!

    それは瞬き一つが永久の闇に連なる回転鎖鋸が二人に襲い掛かる!
    駆動鎧を身に纏って尚、生物が生まれ持ち兼ね備える『恐怖』が鳴らす警鐘…
    『ここで倒さねば』『これで倒さねば』『これを倒さねば』という絶対的確信!!

    禁書目録「――1――」

    されどインデックスの周囲を滞空していた三振りの『豊穣神の剣』の内一振りが…

    斬ッッ!

    フレメア「!」

    一太刀にてエッジ・ビーの郡蜂を切り裂き、泣き別れに終わった回転鎖鋸が空中にて分解し、残骸と化し、砕けて割られて墜ちて散る!

    禁書目録『―2―』

    残ッッ!!

    次いで振り下ろされた二振り目がシルバークロースの二腕二脚の駆動鎧を…
    一閃にて切り飛ばして行く!野戦、市街戦、いずれもTPOをわきまえた彼が備えた『科学の結晶体』が…
    玉葱の皮か、甲殻類の外殻でも毟るように無造作に、切り離し切り飛ばし切り裂いてパージして行く!

    SC「なっ…」

    禁書目録「3」

    ビタッ!と丸裸も同然にされたシルバークロースの、再生治療により取り戻した端正な鼻面へと三振り目の切っ先が突き付けられる!
    エッジ・ビーという兵隊を総滅させられ、駆動鎧という城壁を切り崩され、アルマジロのような姿を晒しながら向けられた刃。
    さながら落城となった暴虐の王のように屈してしまう膝が言う事を利かない!

    SC「(戦力差が…埋まらない!!)」

    『外側の法則』を使う者達に備えて再編された人員、そのために編成した『まともではない戦力』…
    粋を尽くした科学の結晶体、駆動鎧が何一つなせない…シルバークロースは確信する。
    一方通行と浜面仕上を繋ぐラインと同等に、麦野沈利(学園都市第四位)この少女(外側の法則)の結び付くラインもまた危険であると!

    617 = 468 :

    禁書目録「もうやめるんだよ」

    紅き翼を背負いながらこちらを睥睨して来る少女…その気なればシルバークロースの首など露を払うより呆気なく刎ねられる。

    禁書目録「私はシスター(修道女)だから、人を殺めてはならないんだよ」

    今のインデックスにとっては、殺さぬように払う注意の方が比重は重い。
    言わば飛び回る蠅を叩いて潰すより、その羽を掴んで飛び回るのを押さえるのと同じ、無駄な労力。
    しかしそれが…たったの三手の詰め将棋でシルバークロースを封殺とする!が!

    SC「それが甘いというのだ!!!」

    ダンッ!とシルバークロースは空中へと身を翻しながら次なる手を打つ。
    化け物との詰め将棋になど付き合っていられない…ならば盤外からの一手!

    フレメア「キャッ!?」

    小さく響くフレメアの悲鳴の先…その先には後部に巨大な推進機を兼ね備え、四本の足を水を滑る水馬のように滑らせる…
    滑走補助(スリップオイル)の加護を受けて時速800キロを叩き出す、高速移動用モデルの駆動鎧!
    それがフレメアとインデックス目掛けて突っ込んで来て――

    禁書目録「もう…やめてって…」

    ブワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

    それを迎え撃つは禍々しいまでの紅き翼、神々しいまでの羽撃きがまるで冥府から伸びる無数の毒手のように広がり…!

    禁書目録「言ってるんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

    振り下ろされる断罪の鉄槌。インデックスの遠隔操作を受け、彼女の意志に従う紅き翼が…
    滑り込んでくる高速移動用モデルの駆動鎧を

    バキャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

    一撃で縦に『圧し潰し』た。数発で聖ジョージ大聖堂を崩落に陥らせる一撃。
    それが一撃の元で四本脚を形を成さぬ残骸へと…!

    SC「(桁違いの威力だ…!が!!)」

    シルバークロースによる盤外からの奇手は敢え無くインデックスによる鬼手によって打ち砕かれる。
    想像以上だ、予想以上だ、期待以上だ。そうシルバークロースは宙を舞う僅かな時間の間に確信する…

    SC「黒夜のアドバイスも聞き入れてみるものだ!」

    禁書目録「!?」

    高速移動用モデルとは反対方向より迫り来る…シルバークロースの切り札。
    もはや美学はかなぐり捨てる。奇手が通じぬ鬼手ならば、鬼を狩るは『禁じ手』!!

    SC「ファイブオーバーァァァァァァァァァァァァァ!!」

    618 = 468 :

    ~第十五学区・路上~

    高速移動用モデルをインデックス達への陽動にぶつけると共にシルバークロースが用意させていた駆動鎧が走り込んでくる。

    SC「――整えられた死へ向かえ」

    飛びすさるシルバークロース、割り込んで来るは最新鋭の駆動鎧。
    全長5メートル、二本の腕、二本の脚、二本の鎌を備えたマンティスを思わせるフォルム。
    そこへ飛び込み乗るシルバークロース!同時に開閉された半透明の羽が渦のような気流を生み出し浮かび上がる!

    SC「演算コア設定…シナプスネットワーク接続」

    三つの銃口が回転するように唸り、金属砲弾が背部のドラムマガジンより軋る。
    それはかの『常盤台のエース』『第三位』『最強の電撃使い』『超電磁砲』の能力をモデルケースとしたそれ。
    そう、魔神人にも等しき相手ならば――それを穿つはこれにおいて他はない!

    SC「これには神でも耐えられまい!!!!!!」

    FIVE_Over.…Modelcase“RAILGUN”…通称…Gatling_Railgun(ガトリングレールガン)!!!!!!

    ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!

    禁書目録「――――――!!!!!!」

    刹那、轟音を消し去るばかりの破壊音。一分間に四千発もの鉄風雷火をインデックス達に浴びせかける!
    無人とかした繁華街の路上が直径1メートルほどの穴と共に粉砕され…
    吹き飛ぶ瓦礫がさらに粉微塵に打ち抜かれる圧倒的破壊――

    SC「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」

    シルバークロースがファイブオーバーの中で絶叫する。
    今や彼の絶叫は自身が末魔を断たれんばかりの血声。
    純粋な工学技術で元となった才能を超えるように作られたそれが頼みとする神であった。
    これで沈め、これで沈めと祈りにも似た砲火は弾切れとなり銃身が焼け付かんばかりだった。

    SC「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」

    ガチン!ガチン!と狂ったように弾が尽きたトリガーを引き続ける。
    予備パックまで総動員した、全弾発射の一斉掃射。
    これで終わりだ。これで終わりだとシルバークロースは当初のライン作りの失敗以上に、安堵する自分を―――




    禁書目録「――もう、やめよう?――」

    再び、紅き翼がシルバークロースを襲い――

    ゴバアアアアアァァァァァ!!!!!!

    619 = 468 :

    ~第十五学区・崩壊した路上~

    SC「――――――」

    ファイブオーバーを粉砕され宙を舞うシルバークロースは白痴のように呆けていた。
    それは破産宣告を受けた経営者より、余命宣告を受けた大病人よりも茫然自失のまま…ノーバウンドで吹き飛ばされて!

    SC「ぐがう!!!」

    絶望…余剰兵力、予備戦力無しで放たれたガトリングレールガンは…紅き翼を広げたインデックスの周囲『のみ』しか破壊出来なかった。

    禁書目録「お願いだから…もう下がって欲しいんだよ!このままじゃ私…私!」

    一分間四千発のガトリングレールガンは全て紅き翼と『歩く教会』によって完全に完璧に防御されていた。
    世に数えるほどしかない教皇級の霊装は、幻想殺しのような例外を除いては、竜王の殺息(ドラゴンブレス)でくらいしかダメージは与えられない。
    十万三千冊の魔導書を纏め束ね、折り重ね、練り上げ、研ぎ澄ました一撃でなければ負わせられない傷は…
    たかだか四千発の金属砲弾では傷一つつけられはしない…!

    フレメア「こほっ…こほっ…」

    SC「馬鹿な…」

    インデックスが背中に隠していたフレメアにすら毛ほどの傷も負わせられない。
    シルバークロースは戦慄する。相手はいつでも自分を潰せる。
    しかし今それをせず、駆動鎧のみ粉砕し自分を放り出したのはインデックスが拠る信仰か、上条当麻が貫く信念をインデックスが見ていたからか。が

    SC「(美味しくない状況だが…!)」

    それを受けて折れかかっていたシルバークロースが再び立ち上がる!
    ファイブオーバーも二腕二脚も高速移動用モデルも破壊された!だが彼にはまだある…
    搭乗者の命を守る事については折り紙付きのアルマジロが!
    剥き出しの素顔に、好機胸躍る喜色が浮かんで醜悪に歪む!

    SC「無駄だ…私は殺されない限り…歩みは止めん!」

    禁書目録「――!!?」

    SC「不殺か…立派な信念だが…それはこの場において何よりの枷だ!!」

    シルバークロースは『歩く教会』の盲点を見抜いたように、『インデックス』の欠点を見抜いていた。それは――

    SC「お前は――私を“殺せない”!!」
    禁書目録「!!!」

    620 = 468 :

    インデックスが絶対に『人を殺せない』人間だからだ。
    それが信念であろうが信仰であろうが、魔神に等しい力を持っていようが…
    その気になれば指一本動かさず百回はシルバークロースを殺し尽くす事が出来ながら…
    インデックスはエッジ・ビー、駆動鎧、ファイブオーバーのみを破壊して来た。
    獅子の爪と牙は折れても、獅子そのものを狩る事が出来ない…!

    SC「神に仕える身というものは尊いものだな…だがここは“科学の街”だ!ここは“学園都市の闇”そのものだ!!」

    もはや自分にはアルマジロのみ。だがそれでいい。インデックスが攻撃を加えれば自分はアルマジロごと絶命する。
    どんなに巨大な力を、強大な力を持っていようが…命を奪われないなら恐れる事はない…!
    手足がもげようが、『自らの外観、輪郭、印象に対して、全く執着を抱いていない』心の在り方は崩せない!

    SC「そんな甘く弱い光(やり方)で…照らせるほどこの“闇”は浅い底ではないぞ!!!」

    シルバークロースが手を伸ばし駆けてくる。これ意地攻撃すれば『殺し』てしまうインデックスが、これ以上手を出せないと知って――!

    禁書目録「―――!!!」

    豊穣神の剣を突きつけても

    SC「何度やろうが同じだ…人を殺める事の出来ん力など」

    紅き翼を振るっても

    SC「巨砲を持ちながら拳銃以下の脅しにも劣る!!!」

    シルバークロースは止まらず進撃してくる!
    『インデックス』である限りこれ以上振るえない!
    『歩く教会』が肉体を完璧に守り抜いても、それを纏う『心』までは守れない。
    インデックスは圧倒的だった。負ける要素は零に等しく、シルバークロースが勝てる見込みは小数点以下だった。

    禁書目録「ふれめあァァァ―――!!!」

    だがインデックスがインデックスであった事。それがそのまま敗因に繋がる。
    誰かを守りたいという思い、人を殺したくないという想い、それがそのまま裏目に出た。
    言わばこれは、冷笑的な神が為せる、残酷な世界の縮図そのものであった。

    SC「これで…!」

    フレメア「ひっ…!」

    シルバークロースが二人目掛けて突進してくる。
    『人を殺められない』インデックス、『何も出来ない』フレメア。
    既に局面はチェックメイト、既に盤面はスティールメイト…!

    SC「終わりだァァァァァァァア!!!」
     
     
     
     
     
     
    ――――神よ、何故お見捨てになられたのですか――――
     
     
     
     
     

    621 = 468 :

     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    「インデックスウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
     
     
     
     
     
     
     
     
     

    622 = 468 :

    SC「――!!!?!?」

    その時…全てを切り裂いて駆け込んで来る声音が全てを押し黙らせた。

    轟ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!

    「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」

    それは『少年』だった。

    取り立てて特徴のない顔

    テストで100点がとれる訳でもなく

    女の子にモテまくる訳でもない

    どこにでもいる、ありふれた『学生』

    しかし

    禁書目録「ああっ…!」

    彼は偽善使い(ヒーロー)だった。

    (インデックス)にとってのヒーロー(英雄)だった。

    (麦野沈利)にとってのヒーロー(偽善使い)だった。


    「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」

    瞬間、アルマジロから剥き出しとなっていたシルバークロースの…
    あらゆる技術と、あらゆる手段で得た資金全てを注ぎ込み修復された端正な顔立ちに―――

    ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!

    SC「ガッ…!」

    全ての想いを乗せた拳が――横合いから鼻骨がねじ曲げ歯列を粉砕し頬骨を破壊せんばかりに突き刺さり――ブッ飛ばす!!!

    フレメア「…!!?」

    フレメア=セイヴェルンは知らない。たった今嵐を引きつれて来たように割って入り、自分達を救い出したのが何者なのかを。

    フレメア「…だ…れ?」

    買ったばかりのブルゾンを着込み、二人の少女の前に背を向け、瓦礫の山にブッ飛ばされたシルバークロースを睨みつける、その横顔――

    「よく頑張った――インデックス」

    インデックスの変わり果てた姿を認めても、その声に揺らぎはない。迷いはない。怯えはない。

    「沈利が戻るまで…その子を守ってくれ!!!」

    それは二十億人の信徒を向こうに回してすら一歩も引かなかった男。
    残酷な神が支配するこの世界の中で、運命(死)にすら反逆して見せた少年――
     
     
     
     
     
    禁書目録「……とうまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
     
     
     
     
     
    幻想殺し(イマジンブレイカー)、上条当麻は現れた。
     
     
     
     
     

    623 = 468 :

    とある星座の偽善使い(フォックスワード)の者です。
    本編、番外編、合わせて書きためが尽きてしまったので次回の投下は二日、三日後になります。
    たくさんのレスをありがとうございます。何より嬉しいです。それでは失礼いたします…

    624 :

    乙です
    上条さん相変わらずタイミング半端ねぇな

    625 :


    なんなのこれ…かまちー仕事しろよ

    626 :


    何と言うイケメン……

    627 = 599 :

    乙です
    なんなのこの神条さん…かっこよすぎる

    628 :

    あえて言う。
    インデックスさん、お見それしました。
    もう二度とインなんとかさんなんて言いません。このスレでは。

    629 :

    インデックスの意識をもったペンデックスさんまじイケメン

    かまちー仕事wwwwwwwwwwww新約2巻楽しみにしていますwwwwwwwwwwww

    630 :

    このインデックス神すぎるww

    かまちー仕事ファイトだよ? もうSCさんはインデックスのドラゴンブレスで消失すればいいと思うんだよ?

    631 :

    この神条さんは常時イケメンAAに違いない…でもってこのミサカは「美琴の世界」を守られてないんだな。

    さあかまちー、早く続きを!

    632 :

    とある星座の偽善使い(フォックスワード)の者です。
    本日の投下はいつも通り21時前後になります。それでは失礼いたします…

    633 = 468 :

    ~第十五学区・路上~

    SC「…貴様は…」

    横合いから渾身の力で殴り倒され、満身の拳で殴り飛ばされたシルバークロースが片膝をついてその闖入者を睨み付ける。
    それは過去の制裁から火傷顔にされ、福笑いのように修繕し、それすらも醜悪な内面によって改竄され、ついぞ美的感覚すらも捨ててしまう前のようにいたくプライドを傷つけられた。

    SC「…何者だ…」

    上条「関係ねえよそんなもん!!」

    ザッと一歩踏み出した足。なんの事はない、この街では掃いて捨てるほど売られている学生靴。
    そう…どこからどう見ても単なる一学生だ。先程からのこの騒動で蜘蛛の子を散らしたように遁走していった連中となんら変わりない。なのに――

    上条「俺が誰だとか、お前がどこから来たのかなんてもう関係ねえんだよ!!」

    そこでシルバークロースはふと思ったのだ。この瓦礫の山となった惨状の中で、インデックスを名乗った修道女とフレメア=セイヴェルンを庇うように立つこの男。

    SC「ああそうだ――私にとってもお前など関係ない。が、そうまでして死に急ぎたいか?学生。周りをよく見てみろ」

    その光景、その立ち位置。

    SC「そっちの修道女はともかくとして、貴様は知るまい?フレメア=セイヴェルンなど。考えてやらんでもないぞ?その少女を引き渡せばな」

    それは、シルバークロースがどんなモデルの駆動鎧に搭乗しても、決して得られるものではないのかも知れない、と。

    上条「出来っかよ!!…インデックスは俺の“家族”だ。お前の言う通り、俺は“この子”の事だって知らねえし何もわからねえ…でもな」

    そう感じざるを得ない何かがその少年にはあった。それはシルバークロースがとうの昔に捨ててしまった…
    『身一つで戦う』人間の匂いがしたからだ。肉体のみ頼みに闘う兵にしか纏えないオーラを感じ取ったからだ。

    上条「知ってるから助けて、知らないから助けない、そんな区別のせいで目の前で泣いてる女の子一人も助けられねえ事が正しい事なのかよ!?見捨てられる訳ねえだろそんなもん!!」

    SC「――ヒーロー気取りか!この偽善者が!!」

    少年が、シルバークロースが、共に一歩踏み出す。

    上条「ああそうさ…なら俺は偽善者でいい」

    固める拳、握る指、見据える眼、吠える魂。

    上条「誰かを助けられる――偽善使いで十分だってんだ!!」

    ―――激突!!!!

    634 = 468 :

    ~第十五学区・路上~

    上条「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

    踏み出した一歩に全体重を乗せた右拳を振るう上条!

    SC「止まって見えるぞ!!」

    ガッシィ!!と軋んだ音が一方的に響いた。それは上条が放った拳を、シルバークロースが右手でいなした衝突音。

    上条「ならっ!!」

    今度は体重を乗せた『押すストレート』ではなく、足を踏ん張り腰を据えた左手による『引くアッパー』!
    ビアージオの十字架を殴り抜いた時のような囮とは違う、本命そのもの!が!

    SC「やはりな…」

    上条「!!?」

    それは敢え無く空を切ってシルバークロースの肩口すら掠りはしない!
    それは駆動鎧に組み込まれたコンピューターを介して知識・技術・検索・補強。
    それは先読み、軌道計算、いなし、次の手を可能とする。
    一秒間に3つものアクションをこなすそれに対し、上条の拳など児戯にも等しい!

    SC「多少喧嘩慣れした学生風情が…!」

    ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

    上条「がっ…はっ!」

    返す刀で繰り出されたシルバークロースのボディブローが上条の腹部に突き刺さる!
    自動車をドアに風穴を開けるショットガン並の威力に上条の身体がくの字に曲がる!

    禁書目録「とうま!」

    思わず叫ぶインデックス。そう、彼女の危惧する所――
    上条の幻想殺し(イマジンブレイカー)はあくまで異能の力を打ち消す事にのみその効果を発揮する。
    裏を返せば肉体そのものが武器となる神裂火織やウィリアム・オルウェルのような『聖人』、戦闘訓練を積んだ土御門元春のようなタイプとの相性が非常に悪い。さらに

    SC「なァめるなああああああああああああああああああああ!!」

    バランスを崩した上条の腹部へ、シルバークロースの強烈な蹴撃が叩き込む!
    上条が背中から瓦礫の山に突っ込み、積み上げられたそれがさらに崩れる!

    禁書目録「(とうま…!!)」

    幻想殺し…それは触れられるならば神の力すら打ち砕ける。
    しかし皮肉な事に…彼の力は、本来人の手にあってはならず神の領域になくてはならない『異能の力』から遠ざかれば遠ざかるほど『生身の人間』に戻されて行く。
    それこそ街一つ吹き飛ばせる異能の力は防げても、一発の銃弾は防げない。
    スキルアウトにナイフでも向けられれば本来逃げる他ないのだ…!

    635 = 468 :

    SC「生身の身体で挑んだ所で、埋まらない現実は変えられはせんのだ!」

    二発、三発と更に蹴撃が加えられる!

    上条「がっ、ッッッあああああああああああああああ!!!!!!」

    上条の体内で肋骨が纏めて折れる音がする。内臓のいくつかが破れるか潰れるかしているかも知れない。
    身体の奥底から今まで聞いた事もない音がする。失神したくても激痛が意識を呼び覚まし、呼び戻された意識がブラックアウトとホワイトアウトを繰り返す。

    SC「出張って来る場所を間違えたな学生…女の前で格好をつけるならばな!」

    そこへ――更に振りかざされる拳が、上条を横合いから瓦礫ごと吹き飛ばすように――

    ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

    フレメア「―――!!!」

    思わずフレメアは目を瞑り顔を手で覆って背けてしまった。
    それほどまでに凄惨な暴力であった。猫が鼠をいたぶる要領で一撃一撃が確実に上条の意識と生命を刈り取るように放たれているのだ。

    そう、上条当麻とシルバークロースの相性は最悪である。
    彼自身が同じように駆動鎧を身につけていればまだしも勝機と勝算と勝率があったかも知れない。
    しかしそうはならなかった。最初の剥き出しの顔面への一撃を除けば、シルバークロースの身体は外殻と甲殻に覆われており生身の拳ではどうあっても貫けない。

    この場に御坂美琴がいたならば、学園都市最高の電撃の能力でシルバークロースを下すだろう。

    この場に一方通行がいたならば、学園都市最強のベクトル操作でシルバークロースを破るだろう。

    この場に浜面仕上がいたならば、その懸絶した機転と知略でシルバークロースを負かすだろう。

    この場に麦野沈利がいたならば、その圧倒的破壊力を持つ『原子崩し』でシルバークロースを倒すだろう。

    だが彼は上条当麻だ。幻想しか壊せない右手と、多少喧嘩慣れした体躯しか持ち合わせていないレベル0だ。

    そう、彼は万能でも無敵でも最強でも…それこそ周囲が彼を評する所の生まれながらの英雄(ヒーロー)とすら自分で思ってない。

    そう…彼は偽善使い(フォックスワード)だ。善悪の彼岸にすら拠らない、ただ誰かの涙を見たくないというだけで命を懸け身体を張り魂を削り誰をも助け彼をも救おうとする『偽善使い』だ。

    だからこそ――上条当麻(かれ)は――

    636 = 468 :

    ~回想・埴生の宿~

    上条『んなっ!?なんで上条さんのが上下左右前後からマルチロックオンされてるんでせうかー!!?』

    麦野『かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁみぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃじょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!下手踏みやがったなテメエェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!』

    禁書目録『………………』ブスー

    スフィンクス『にゃーん』

    それは、私こと上条当麻が珍しく補習も追試もなく無事家に帰れたある夏の日の事。
    外は青空が晴れ渡っちゃいるんだが、どうにもクーラーの利いた部屋から出たくない、そんな茹だるように暑かった真夏日の事だった。

    上条『仕方ねえだろ!?この相手滅茶苦茶強えーし無茶苦茶ハメてくるじゃねーか!!』

    麦野『私は対戦でもノーミスで勝ちてえんだよ!最低でもハイスコアだ!なんなんだよこのGoalKeeperって奴はよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』

    そんな時だった。沈利が衝動買いしたって言うゲームを持ち込んでウチに遊びに来たのは。
    タイトルは確か『ブラッド&デストロイ』…前に沈利と制服デートした時にやったグチャグチャシューティングだった。
    如何にもザ・海外向け!!な真っ赤なパッケージのそれは家庭用オンラインゲームになってた。けど…

    麦野『頭ん中のイライラが収まらねえんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!暑いんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』

    ゲーセンでやった時は一位になれた俺らだったけど、世の中上には上がいるようで…
    俺達2人はオンライン対戦で『GoalKeeper』ってソロプレイヤー1人にボコボコにされた。
    腹の虫が収まらない沈利は最後はコントローラーを投げ捨ててやがった。
    こんな事ならふわふわペットとか人魚姫のお散歩とかやりたかった。
    正直今は沈利の方がゲームの中のいかつい顔の男達より怖え…

    禁書目録『むー!とうま!もー!しずり!二人ともー!』

    上条『お?』

    麦野『ん?』

    そんな時だった。胡座をかいてゲーム機の前に座ってた俺達の背中から、インデックスが声をかけて来たのは。
    なんだよ。飽きた飽きたっつったって一番素麺食ってたじゃねえか。もう腹が減ったのか?ってその時はそう思ったんだ。
    だから俺達2人はほとんど息ピッタリで身体の向きをインデックスに直した。

    637 = 468 :

    麦野『なに?ファミレスなら涼しくなってから行こうよ』

    上条『もう腹減ったのか?おやつまでだいぶあるぞ?』

    禁書目録『違うの!!私はつまんないんだよ!!』

    ムスッとした膨れっ面で、ブスッとしたジト目でインデックスは俺達を見て来た。
    ははーんそうか。コイツ機械オンチだからゲームに混ざれなくって拗ねてんだな。

    禁書目録『2人でばっかりイチャイチャイチャイチャ…ちょっとは人目を気にして欲しいんだよ!お部屋が暑くてたまらないかも!』

    麦野『そりゃあアンタ、私は当麻の女だし』

    禁書目録『せめて彼女って言うんだよ!なんか卑猥かも!そ・れ・に!』

    そこでインデックスが沈利の紫色のワンピースをピッと指差した。
    沈利はポカンとしたまま胡座をかいてたけど、インデックスが言いたかったのはまさにそこだったんだろうな。

    禁書目録『お行儀が悪いんだよその脚!中身が見えてるかも!!いつものしょーとぱんつはどうしたの!?』

    麦野『スケスケなのは当麻の趣味です。コイツの好みには私も苦労させられるのさ』

    上条『バラすな沈利ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!』

    思わぬ所に火の粉が飛んで来た。家族の前でバレされたエロい秘密ってのはいつになっても恥ずかしいもんだ。
    こういうのなんつーんだっけ?飛んで火に入る夏の虫?

    禁書目録『脚ちょっと太いの気にしてるんなら隠れるような服着れば良いのに』ボソッ

    麦野『上等だテメエ表出ろやァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』

    上条『だー!2人ともそんなイライラすんなよ!ますます暑くなるだろうが!!』

    全く。上条さんはそんな沈利の脚が結構好きだったりする訳ですよ。
    鶏ガラみたいにガリガリなのより、こうムチムチ肉付きの良い太もも…
    って言えねえけどな。言ったらインデックスにエロ呼ばわりで噛みつかれるし、沈利にはあのビーム食らっちまう。

    上条『ったく…そんな喧嘩はスフィンクスも食わないっつの』

    禁書・麦野『『ギャーギャー!!』』

    上条『さて、スフィンクス水代えるか?毛浮いちまってるしな』

    スフィンクス『みゃーん』

    そんな二人を置いといて俺はスフィンクスの水換えがてら冷蔵庫から麦茶を取り出す。
    夏はやっぱり麦茶に限る。緑茶も良いんだけどなんか違うんだよなあ…

    638 = 468 :

    上条『ふー…』

    キッチンから望む空が青く澄み渡ってる。あの入道雲が綿アメならインデックスのおやつに困らねえんだけどなあ…
    なんて俺は我ながら馬鹿な事を考えてる。そこではたと思い出した。もう一つの夏の風物詩を。

    上条『(そういや沈利達と行くって言ってた肝試し、いつ行くんだろうな)』

    最近、学園都市の海側にある『軍艦島』って言う廃墟スポットが話題になってるらしい。
    何でも霧ヶ丘女学院の生徒の幽霊が出るって言う噂だ。
    上条さんもさんざん魔術師とか見て来たけどお化けはまだ…

    上条『おーい二人共!けっきょく前言ってたヤツいつ行くんだー?』

    そう思いながら俺はキッチンから顔を出して2人を見た。すると…

    禁書目録『こここ怖いよ!いっぱい来たんだよ!あわわわ!』

    麦野『おいおいリロードリロード!太いのブチ込んでやるにゃーん!!』

    そこには、胡座をかいた沈利がインデックスを乗せてゲームしていた。
    一つのコントローラーを、2人で手を重ねるみたい後ろから回して。
    機械オンチでゲームが苦手なインデックスでも楽しめるように、一緒に。

    上条『………………』

    それを見て俺は思ったんだ。こんな特別(普通)がずっと続けば良いって。
    そりゃあ大当たりのイタリア旅行行きみたいな幸福がたまにあったっていいけど…俺は

    上条『どれどれ、上条さんも混ぜてもらいますよっと』

    麦野『こうたーい。足痺れた』

    禁書目録『とっ、とうまとうま!なんかおっきいゾンビが追っ掛けて来たんだよ!』

    上条『よっこらせ、そいつはボスだけどまだ倒せねえぞ?よし右に逃げろインデックス!』

    麦野『かーみじょう、私もー』

    そうしていつしか、膝にインデックスを乗せて一緒にゲームをしてると…
    その俺の背中に沈利がくっついて腕を回して来た。
    なんかあれだな、動物園にいるらしいプレーリードッグの家族みたいだ。

    上条『暑い暑い言ってたじゃねえか』

    麦野『こういう暑いのは嫌いじゃないの』

    上条『しょうがねえなあ…』

    そう、俺の大事なものってこんなもんなんだ。
    戦って、学校行って、闘って、家に帰って…極限の戦場と平穏な日々を交互に繰り返して、違和感や疲れがない訳じゃない。だけど。

    禁書目録『とうま!』

    待っててくれてる家族(インデックス)がいて

    麦野『かーみじょう!』

    いつも側にいてくれる恋人(麦野沈利)がいて

    だから――上条当麻(オレ)は――

    639 = 468 :

    ~第十五学区・路上~

    上条「(ああ…そうだった)」

    今この身にのしかかる瓦礫の山より重い物が上条当麻にはある。
    しかしそれは手を引いて導く物でも、背に負って運ぶ者でもない。

    上条「(俺はフィアンマに言った。“世界を救う”だなんてヤツに救われなきゃいけないほど、俺達の世界は弱くなんてないって)」

    今視界を覆い尽くす闇より深い世界の底を上条当麻は知っている。
    しかしそれは誇る事でも厭う事でも、ましてやそれを“救う”などとは決して言わない。

    上条「(俺が守れるのは世界なんてデカいもんじゃない、自分の手の届く範囲の中にしかねえのかも知れねえ)」

    今この身を引き裂かんばかりの痛みより深い悲しみを上条当麻は感じた事がある。
    それは治す事も癒やす事も出来ない、取り返しのつかない傷にも似ていた。

    上条「(俺は無能で、最弱で、守りたいもんなんてちっぽけなガラクタみたいなもんなのかも知れねえ)」

    だが

    上条「(けどよ…あるじゃねえか!戦える力が!!闘える腕が!!)」

    この痛みは御坂美琴があの鉄橋で放った心の痛みそのものの電撃に比べれば何ほどの事がある?

    上条「(泣いてる女の子がいて、テメエは地べた舐めてそれを見てるだけなんて出来るかよ!!満足なのかよ!!違うだろうが上条当麻!!!)」

    この悲しみはインデックスが『誰かを守りたい』と願った心の叫びそのものの祈りに比べれば何ほどの事がある?

    上条「(ついてんだろ!立ち上がる足が!!踏み出せる脚が!!今ここで、心より先に膝を折っていいのか?良いわけねえだろ!!!)」

    この苦しみは麦野沈利が第十九学区のブリッジで放った心の闇そのものの原子崩しと比べれば何ほどの事がある?

    上条「まだ何も終わっちゃいねえ…」

    血声が枯れ果てるまで叫び続けろ

    上条「始まってすらねえ…」

    血涙が涸れ果てるまで振り絞れ

    上条「立てよ…偽善使い」

    血潮が燃え尽きるまで守り抜け

    残酷な神が支配するこの縁無しの世界を食い破れ

    牙を剥け、天に吠えろ今一度

    インデックスを助けたあの日のように

    麦野沈利を救ったあの時のように

    上条「立てええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

    ――ゼロからの反撃を、今、ここから!!!――

    640 = 468 :

    ~第十五学区・路上~

    SC「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

    その時、シルバークロースは己のセンサー群が捉えた認識に目尻が裂けた。

    SC「なんだ…あれは」

    それは墓標も同然だった瓦礫の山に向けられていた。
    崩れた土砂のように上条当麻は埋もれ、手足をもがれた虫螻のように――
    手足を持たぬ芋虫のように地に臥せ、自らが生み出した血溜まりの海に沈んだはずだった。
    そうでなくてはならず、そうでなければあらなかった。

    SC「なんだ…お前は」

    精神論ではどうにもならない人体の構造上避けえない重体だったはずだ。
    精神力でどうにかなるような生易しい重傷ではなかったはずだ。
    骨が折れ肉が裂け、内臓は潰れて臓器は破けているはずだ。
    満身の力と渾身の殴打と会心の一撃と全身全霊を懸けた攻撃だったはずだ。

    SC「何故…立てる!」

    先程のインデックスと相対した時シルバークロースは思い知らされた。
    羽蟻と巨象ほどもある絶望的かつ圧倒的かつ暴力的なまでの戦力差を。
    しかし『アレ』は違う…今シルバークロースが目にしている『アレ』はそんな次元にすら存在していない!!!

    SC「なぜ立ってこられるんだ!!」

    倒しても倒しても立ち上がってくる。悪い夢から抜け出して来た死人のようだ。
    『不死』などと言う、科学の範から悖る概念、宗教の枠からはみ出すような疑念が浮かび上がって来る。

    上条「テメエがそこにいるからだ」

    唇の端から流れる血の泡を手の甲で拭いながら上条は立ち上がる。

    上条「インデックス達がそこにいるからだ」

    悲鳴を越えて、末魔を超えて、軋む身体を、己を容れる器を、決して折れぬ旗を掲げて偽善使いは立ち上がる。


    上条「――俺がここにいるからだ!!!」

    そう、何度でも

    641 = 468 :

    ~第十五学区・路上~

    上条「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

    SC「がああああああああああああああああああああ!!」

    走り出す上条!迎え撃つシルバークロース!
    アルマジロの駆動鎧の中の細胞が、遺伝子が、本能が鳴らす警鐘

    SC「(人間を超えたつもりか…ならば見せてやろう!それがどれほどおぞましい事かを!)」

    シルバークロースの外殻が変化して行く。科学繊維が蠢動し、艶めかしいまでの凹凸を描いて『Emergency』の赤文字が浮かび上がる。
    シルバークロースの中のレッドアラームに呼応して、蜘蛛のように何本もの腕が生えて…!

    上条「っらあ!!」

    繰り出される右拳!それに対しシルバークロースは腰を低く落とし、カメラのモードをハイスピードに切り替える!
    初動の一手目、0.1秒で無数に枝広がりする上条の攻撃パターンを分析する!
    叩き込むは一撃必殺のカウンターアタック、七本ものアームは待ち構える!その瞬間を!!

    バキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイ!

    SC「ぐうっ!」

    鉄槌で歯列から歯茎、頬から顎まで突き抜けるような重い重い一撃にセンサーがブレる!
    怪物を打ち倒す銀の弾丸にも匹敵する衝撃にたたらを踏みそうになる!
    しかしシルバークロースは待っていた。攻撃の直後に生じる不可避の間隙を!!

    SC「――脇ががら空きだ!!」

    殴り抜かれた瞬間、網を張って待ち受けていた七本の蜘蛛の豪腕が上条に襲い掛かる!
    逃れようのない距離、避けようのない刹那、肺と心臓と背中まで刺し貫く毒牙の連撃が上条に迫る!

    上条「――!!!」

    しかし!しかし!だがしかし――!!!

    SC「なに!?」

    上条は毒牙の連撃の間をすり抜けた!空を切るような半身構えで、雲を掴むような動きで身を翻し、踏み込んだ足のステップにさらに足首のスナップを効かせ…!

    上条「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

    ゴキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!

    SC「グガアッ!!?」

    かわした足運びを攻撃への布石にし、踏ん張りと踏み込みから生まれた左拳がさらにシルバークロースの顔面をカチ上げる!
    先程とは反対方向からの殴打に、眼球内にしばたく火花が散る!

    SC「(バカな…!かわせるはずが!)」

    642 = 468 :

    回避も防御もかなわない蜘蛛の魔手を『予め知っていた』かのような上条の反撃にシルバークロースは肉体的なダメージ以上に精神的なダメージを隠し切れない。
    シルバークロースは知らない。上条当麻が歩んで来た道筋を。

    上条「インデックスがお前に何をした!!あの子がテメエに何したってんだよ!!!」

    データから外れた回避、そして攻撃、対駆動鎧用に搭載しシルバークロース自身の補助もあって可能とする逆算スクリプトをすら上回る反応速度と変化する行動パターン!

    上条「命を狙われなきゃいけない事でもしたのかよ!殺されなくちゃいけない事でもしたのかよ!!こんなになるまで追っ掛け回して、それをお前にどんな理由が語れるってんだよ!!!」

    SC「黙れ!!」

    肉斬骨断のカウンターアタックから、先読み、先回りのクロスカウンターへとプログラムへと切り替える!
    先の後手を取るべく、シルバークロースは毒牙の魔手を広げ――

    SC「いい加減…倒れろォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

    一本目は顔面、二本目は喉元、三本目は胸部、四本目は心臓、五本目は肺、六本目は腹部、七本目は右腕を!
    今度は外さない!今度はかわせない!今度は耐えられまい!

    上条「まだ倒れねえ…もう倒れねえ!!」

    だが――上条もまた見てから回避するのではなく

    SC「馬鹿な!?」

    即座にスウェーからバックステップ、毒牙の連撃が迫る『前』に、『予備動作』の段階から上条は飛んだ!
    そこを半瞬遅れた七本腕の悪魔が虚しく空振りするばかり!

    上条「二度と倒れねえってんだよ!!!」

    そしてバックステップから再び飛び込んでの右拳が鼻骨を完全に、敢然と捉えて再びめり込む!!!

    SC「ガフッ…!」

    上条当麻は幾度となく御坂美琴の『電撃』をいなして来た。
    人間の反射神経、反応速度の極限を究めて尚置き去りにされる『電撃』をだ

    上条当麻は一度ならず一方通行の『黒翼』をかいくぐって来た。
    回避も防御も人の身では間に合わない、数百にものぼる『黒翼』をだ。

    上条当麻は何度となくフィアンマの『神の子』の力を退けて来た。
    最も神に近い『聖なる右』を、火の魔術を、神の加護全てをだ。

    上条「…立てよ。地べたの味ならイヤってくらい舐めて来た。今度はお前の番だ!!」

    彼等との激闘が身体に、彼等との死闘が心に、彼等との血闘が魂に、刻まれたものが蘇る。
    故に引き出せる。『攻撃の予兆』を感じ取れる

    643 = 468 :

    SC「ふざけるなァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

    端正な顔を醜悪に歪め、虫食いだらけにされた歯を剥き出して遮二無二突っ込んで行くシルバークロース!しかし…

    上条「――ふざけんてんのは、テメエの方だろうが!!!」

    上条はそれをマタドールのようにひらりと身をかわし…
    そこから遠心力と体重がキッチリ乗った、腰をひねってのフックでシルバークロースの残りの歯を殴り抜く!

    SC「ぶほぉっ…おぐ!」

    上条「戦争が終わって!平和になって!!そこで普通に暮らしてるだけのインデックス達が、どうしてテメエの勝手な都合に巻き込まれなきゃいけねえんだ!!」

    上条の右拳が蠢く。シルバークロースの装甲を右手などでは破れない。外殻を幻想殺しなどでは壊せない。
    銃弾はおろか、生半可な砲弾すら駆動鎧の前には通用しないだろう。
    剥き出しの顔面を狙っても、痛みは与えられてもダメージには程遠い。

    SC「おああああああああああああああああああああ!!!」

    シルバークロースが駆動鎧のリミッターを外して突っ込む!
    防ぐ腕ごと叩き潰し、かわす身体ごと押し潰す、肉体を弾丸にした乾坤一擲の一撃を…
    二撃目などない!初太刀で上条を斬り伏せるに足る猪突を!

    上条「――いいぜ」

    それを受けて上条が右手を突き出す。その右手から右腕にかけて…
    インデックスの紅き翼が、シルバークロースの灰色がかった装甲が、色褪せ艶消しになるような半透明の力場が流動状に揺蕩い蠢動し…!

    上条「テメエがソイツ(駆動鎧)で何でも出来るって思ってんなら…!」

    唸りを、叫びを、嘶きを、産声を、凱歌を、勝ち鬨を上げるかのように…!

    上条「自分勝手な都合に誰も彼も巻き込もうってんなら…!!」

    ―――逆鱗に触れし竜王の顎が今、再び!!――
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    上条「ま  ず  は  ―  ―  そ  の  ふ  ざ  け  た  幻  想  を  ぶ  ち  殺  す  !  !  !」
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!
     
     
     
     
     
    ――剥き出しの萼牙と共に天を衝く!!!!!!―――

    644 = 468 :

    ~PSI-missing~

    禁書目録「とうま…!」

    竜王の顎(ドラゴンストライク)。上条当麻の有する右手に宿る幻想殺し(イマジンブレイカー)をも超えた、神にも悪魔にも拠らない莫大な力。
    聖ジョージの竜退治の伝説に比肩し得る、常識の秤と人知の枠と神の理を、全てを超えし者の証。
    ステイル=マグヌスをして『聖座を追われし地に投げ落とされた偽神(サタン)』、神裂火織をして『神浄討魔』と字されたその力が今…解き放たれて行く。
    麦野沈利とインデックスを救うべくあの日目覚めた、その力が!

    上条・SC「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」」

    シルバークロースの七本腕の悪魔が上下左右前後から上条に襲い掛かる!
    上条当麻の竜王の顎がシルバークロースへと振り上げられる!
    科学の結晶とも言うべき人造の『異形の手』と、莫大な力を秘めた『異形の手』とが交差し――!!

    ズギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

    上条「ぐはっ…!!」

    禁書目録「とうま――!!!!!!」

    両者が交差した瞬間、上条の身体が袈裟懸けに鉄爪によって切り裂かれる!

    上条「…っだ!」

    致死量に迫る鮮血が迸る!身体が内側から爆ぜ、口の中いっぱいに血の逆滝が昇り行く!

    上条「まっ…だだ!!」

    しかし…すれ違い交差し、互いに背中合わせとなり前のめりになるその足を

    上条「ま だ だ ! ! !」

    踏め締めるアスファルト!靴の型がめり込まんばかりに踏みとどまり、上条は竜王の顎を振り回すようにバックハンドブローにてシルバークロースへ向き直り

    SC「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

    同時にシルバークロースも身を捩り振り向きざまに七本腕の悪魔を繰り出す!
    両者の交差は再び『異形の手』によって交錯し――!!

    ブシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!

    SC「これで――!!」

    再び噴き出す鮮血!二度目を制するもシルバークロース!が!!

    SC「!!?」

    それは上条の左腕…シルバークロースの返す刀を、己の左腕を刺し貫かせて盾とする…流血を代償とした、伸るか反るかの大博打!

    上条「―――また、“アイツ”に怒られちまうな」

    駆動鎧のプログラムには…『回避』と『防御』のプログラムにはない、肉を斬らせて骨を断つ…
    『身一つ』で戦う『人間』にしか出来ない肉弾戦の果てに――!

    645 = 468 :

    上条「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」
     
     
     
    逃れ得ぬ三度目の拳…竜王の顎(ドラゴンストライク)が振り下ろされる――!!! 
     
     
    SC「………………ッッッッッッ――――――!!!!!!」
     
     
     
    ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!
     
     
     
    轟音ともに、下ろされた決着の幕。
     
     
     
    爆ぜた空気が、死に耐えた街並みに木霊する。
     
     
     
    臨終の弔鐘のように回る、風車の彼方に広がる空まで轟くように――
     
     
     

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    ~第十五学区・遊歩道~

    御坂「はっ…はっ…はっ!」

    御坂美琴は殺到する人波に逆らって泳ぐように駆けて行く。
    その足取りは影すら置き去りにするかに見えた。
    しかし火を呑む気持ちで走る御坂はそれすら遅々として感じられる。

    御坂「(なによ!一体何がどうなってるって言うのよ!)」

    御坂が学園都市中の監視カメラ、防衛システムをハッキングして目にした光景…
    それは紅き翼に三振りの剣を以て金髪碧眼の少女を守る修道女…インデックスである。
    さらに付け加えるならば、彼女らに対峙していたシルバークロースもそこに含まれる。

    御坂「(あの駆動鎧…私の事が刻まれてた!!)」

    シルバークロースの駆っていた駆動鎧に刻印されし『FIVE_Over.…Modelcase“RAILGUN”』の文字。
    それは御坂にとっては二重の意味で忌まわしく呪わしい意味合いを持つ。
    一つにはかつて敵対せしテレスティーナ・木原・ライフラインの駆動鎧。
    もう一つは『絶対能力進化計画』に用いられしDNAマップ。
    それを利用された気がした。今度は遺伝子情報ではなく、己が『超電磁砲』という能力を。

    御坂「(どうしてあんな物が、アイツの所のシスターに向いてんのよ!!)」

    勿論、御坂とて学園都市第三位のレベル5(超能力者)である。
    能力開発や生み出された研究成果が学園都市の利益となるべく工学的に用いられる事も当然知っている。
    しかし、それが『人殺しの道具』に反映されている事が許せなかった。
    それは(シスターズ)が計画の実験動物に利用させているとわかった時のような、真っ白な怒りだった。

    御坂「(アイツは…アイツはこれの事を言ってたの!?)」

    上条当麻。インデックスの保護者。その彼の背中を御坂は見失ってしまった。
    いや、見失ったのではない。見送ってしまったのだ。
    思わざるを得ない。考えざるを得ない。あの去り行く後ろ姿の首根っこを掴んででも引き留めるべきだったと。

    御坂「(馬鹿…馬鹿…馬鹿馬鹿馬鹿!アイツのバカヤロー!!)」

    しかし、御坂は気づいている。それが出来なかった自分に。
    あの時取られなかった手を、今度は自分から伸ばせなかった。

    御坂「(馬鹿…馬鹿…馬鹿馬鹿馬鹿!私が一番のバカヤローだ!!私は、私は誰に負けてるつもりなのよ!!)」

    そして御坂は人垣を抜け人波を潜り人混みを越えて辿り着く、少女らの元へ――

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    ~第十五学区・路上~

    御坂「―――!!?」

    そこで御坂が目にした物…そこはまさに『戦場』だった。
    見紛う事のない『戦争』の疵痕も生々しく、爪痕も荒々しい『戦地』だった。

    御坂「インデックス!!」

    はぐれた幼子へ呼び掛ける母親のように声を張り上げる。
    右へ左へ視線を張り巡らし、身体の向きを変えて目で追う。あの純白の法衣を――

    御坂「イン…―――!!?」

    その時…御坂の澄んだ眼差しが見開きの形で凍てついた。
    初冬を迎えつつある景色が一足先に訪れたように。

    御坂「嘘…でしょ」

    御坂の眦が戦慄に彩られた。それは一枚の絵画のようだった。そこには…

    上条「………………」

    右腕から竜王の顎(ドラゴンストライク)を現出させた上条当麻の左腕に突き刺さる、禍々しい蜘蛛の手足のようなギミックと

    SC「………………」

    そのギミックを突き立てるシルバークロースの頭から半身を呑み込み喰らい尽くすかのようにして牙を立てる竜王と

    禁書目録「――――――」

    フレメア「あっ…あっ…!」

    それを見守るかのように三振りの『豊穣神の剣』を揺蕩わせ、紅き翼を広げるインデックス。
    その背に庇われ守護されているかのようなフレメア=セイヴェルンであった。

    御坂「!!!!!!」

    心臓が停まり、呼吸が止まり、血液が氷結し、衝撃に精神が剥離し乖離し別離の極地へ運ばれた気がした。
    この止まってしまった時の中で、針を刻んでいるのが自分だけに御坂は思えた。



    ――しかし――



    SC「がっ…」

    ドサァッ!とシルバークロースが地に伏し身を沈めた。
    そのアルマジロを連想させる駆動鎧から唯一覗かせた端正な顔立ちから…
    彼を構成していた『醜悪な内面』『凄惨な過去』全てがゴッソリ抜け落ちたように…!

    上条「ぐっ…!」

    シルバークロースがもんどり打つように力尽きたその時…上条もまた動き出した。
    その顔は腫れ上がり、御坂が見た事のないブルゾンは引き裂かれて鮮血滴り落ちる素肌まで剥き出しになっていた。

    上条「インデックス…大丈夫か?」

    その表情には苦悶と苦痛と苦悩とが織り交ぜられ綯い交ぜられていた。
    血を流し過ぎて震える身体を意志と意思と意地だけ支えながら…上条はインデックスへと振り返り…そこで気がついた。
     
     
     
     
    上条「よお…ビリビリ」
     
     
     
     
     

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    ~第十五学区・路上~

    結論から言って…勝利したのは上条当麻であった。

    上条「(本当に…俺は“ツいて”たんだ)」

    生身の攻撃、抜き身の拳だけならば上条は相手にすらならなかった。
    生と死が交差し、勝利と敗北の交錯したその刹那、再び覚醒させた竜王の顎(ドラゴンストライク)が…
    駆動鎧ごとシルバークロースを呑み込まなければ敗れていたのは上条だった。

    上条「(これは、俺一人の力じゃやれなかった事なんだ)」

    もしインデックスが覚醒していなければフレメアは敢え無くさらわれ命を落としていただろう。
    もしインデックスが進化していなければ、シルバークロースの保有するコレクションや保持するファイブオーバーによって上条は蜂の巣にもならない肉塊と化していたであろう事に疑いはない。

    上条「(最後の最後で…また助けられちまったな)」

    御坂「ちょっとアンタ!なんなのよこれは!!」

    上条「うおっ!?」

    役目を終えた竜王の顎が幻想殺しへと回帰して行くのを感慨深そうに見やっていると…
    そこには食ってかかるように、しかし紛れもなく身を案じる御坂の声が被せられた。

    上条「(なんて言やいいんだ…本当の所、俺だって絶対なんて言い切れる確信があって飛び込んじまった訳じゃねえんだけどな…)」

    麦野沈利とデートしていた。その中で街に起こった異変に気づき、インデックスの窮地に割って入った。
    その背に守られていたフレメアを見て、考えるより先に身体が動いた。後先など微塵もよぎらなかった頭に上手い説明など浮かんでは来なかったのだ。

    上条「(インデックスは見つかった。後は沈利だ…沈利もまたどっかでこんなの巻き込まれてるんじゃねえか…!?)」

    御坂「ちょっと!黙ってないで何とか言いなさいよアンタ!」

    上条「ちょっ、ちょっと待ってくれビリビリ!」

    そこで上条は手を突き出した形で御坂を制止する。
    これがもし何らかの陰謀や闘争ならば、説明する事によって御坂を巻き込む事を上条は是としなかった。
    彼の腕は二本しかなく、そしてそれは決して長い訳などではないのだから。

    上条「わかった…でもちょっと待ってくれ。その前に話をさせて欲しいんだ」

    そう…今この場において、上条は半死半生の己の身より顧みるべきものがある。
    それは…上条と、そして麦野にとっての『家族』に他ならない――

    上条「――インデックス――」

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    ~第十五学区・路上~

    禁書目録「…とうま…」

    血だらけの身体。傷だらけの顔。とうまはいつでもそうだった。
    血に染めるのは自分の流した血だけ。それは誰かの返り血をもたらさずにねじ伏せて来た代償だと私は思うんだよ。

    上条「大丈夫か!?どこにも怪我はないか!!?」

    禁書目録「大丈夫じゃないのはとうまの方なんだよ!」

    でもねとうま、そんなにボロボロの身体で私を気遣わないで欲しいかも。
    今の私の姿を、そんないつもと変わらない目で見て欲しくないんだよ。

    禁書目録「またそんなにボロボロになって…またしずりが悲しむんだよ!私も見てるだけで痛いんだよ!」

    上条「…そっちの子、大丈夫か?」

    フレメア「う、うん!大体、大丈夫だよ。どこも怪我してないよっ」

    禁書目録「とうま!!」

    助けに来てくれたのは本当に本当に嬉しかったんだよ?
    でもね?それと同じくらい今私の胸は痛いんだよ?苦しいんだよ?
    あのロボットと戦ってるとうまを見て、自分が戦うよりずっとずっと…怖かったんだよ?

    上条「悪かった…インデックス」

    禁書目録「もう!」

    そんなフラフラの足で何を言ってるのかな?
    本当は支えが必要なんだよ。よりかかれる人がとうまには必要かも。
    でもそれは私には出来ないんだよ。とうまは私の前で絶対弱い自分を出さないから。

    上条「もう一つ…謝んなきゃいけない事があるんだ」

    禁書目録「…私はシスターだからね。懺悔なら聞くんだよ」

    上条「沈利と俺から…お前にプレゼントがあったんだけど…この騒ぎで放り出して、どっか行っちまった」

    禁書目録「やっぱり許せないかも!!」

    上条「すまん…後で沈利にも殴られてくる。買ったばっかの服もオシャカになっちまった…」

    しずりはすごいよ。私は、こんな時真面目に怒ったフリしてないと泣いちゃいそうなんだよ。
    短髪だってべそかきそうなのバレバレかも。ほら、ふれめあもまじまじ見てるかも。
    しずりみたいに、呆れたポーズやクールにはまだ振る舞えないんだよ。

    禁書目録「本当にとうまは!」

    せっかく二人っきりにさせてあげたのに、私の事考えてたら意味ないんだよ!
    それに…ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ嬉しかったりは…するんだよ?

    禁書目録「――罰として、今度は三人で行くんだよ!!」

    だから――今回は許してあげるんだよ――

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    ~第十五学区・路上~

    サアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…

    御坂「…アンタ…」

    その言葉と共に、インデックスの背負っていた紅き翼が風に散り行く花片のように散って行く。
    それは宙を舞う紅き薔薇が空気に溶け込み消え行くような…静謐ながら劇的な消失。

    御坂「(…翼…)」

    麦野沈利が星空の下目覚めさせた『光の翼』とその光景が重なって見える。
    翼…それは人ならざる天使か、空を往く鳥のみが背負える聖なる十字架。
    御坂とて似たような事は出来る。しかし――それは渡り鳥を見送るより遠く感じられた。

    御坂「(…そうやってアンタらは、私の手の届かない所に行くんでしょうね)」

    麦野、インデックス、御坂…皆形は異なれど上条に救われた。
    そして麦野は『恋人』に、インデックスは『家族』に…御坂だけが未だ寄る辺を持たなかった。持てずにいた。

    御坂「(私達は、どこで道が分かれたのかしらね…)」

    麦野が上条に出会ったからか、インデックスが上条達に救われたからか。
    それとも…あの暑い夏の日、海原光貴の目を欺くための偽装デートを…


    上条『悪い御坂…俺、麦野と付き合ってんだ』

    上条が受けたなら、また何か変わっていたのだろうか?
    『御坂美琴の世界』は守られていたのだろうか?
    『後方のアックア』襲来を、『ベツレヘムの星』墜落を、上条が――

    上条「サンキュな、インデックス」

    そう言いながら上条はインデックスの頭を『左手』で撫でていた。
    『歩く教会』を破壊せぬために、それが御坂には象徴的に思えてならない。

    御坂「(満席、指定席、予約席ね)」

    上条『右手』は名も無き人々から多くの者達の助けになる。
    上条『左手』はインデックスに対して差し伸べられる。
    上条『背中』は麦野沈利がいる。それは背中合わせに共に戦う決意そのものだ。

    御坂「(嗚呼…なんかスッキリしたわ)」

    まるで三人用のゲームに混ぜてもらえなかった子のようだと御坂は微苦笑する。
    問題は相手がいじめっ子でなく、御坂を『友達』として見てくれている事だった。


    御坂「(友達になんかなれなくっても…私は)」


    御坂「(私はアンタの)」



    御坂「(私はアンタの――“特別”になりたかったんだ――)」


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