のくす牧場
コンテンツ
牧場内検索
カウンタ
総計:127,062,843人
昨日:no data人
今日:
最近の注目
人気の最安値情報

    元スレ麦野「ねぇ、そこのおに~さん」2

    SS+覧 / PC版 /
    スレッド評価: スレッド評価について
    みんなの評価 : ★★
    タグ : - 麦野「ねぇ、そこのおに~さん」 + - フレンダ + - ヤンデレ + - 上条 + - 佐天 + - 滝壺 + - 絹旗 + - 美イン + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
    ←前へ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 次へ→ / 要望・削除依頼は掲示板へ / 管理情報はtwitter

    651 = 468 :

    その時だった。

    ビュオンッ!

    御坂「!!?」

    空気を切り裂き、大気を震わせ、何かが迫り来る予感が戦慄となって御坂は顔を上げた。

    上条「!!!」

    そこには既に――御坂が感じ取った『予感』より早く『予兆』に突き動かされていた上条が動き出していた。

    フレメア「―――!?!?」

    その先にはフレメア=セイヴェルン…今回の騒動の中心とも言うべき金髪碧眼の少女に向かって――



    黒夜「チェックメイトだ」



    向かいのビルの屋上から、シルバークロース沈黙の報を受けて駆け付けて来た『暗部』…
    黒夜海鳥の窒素爆槍(ボンバーランス)が投擲され――



    上条「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」



    そこへ…飛び込んだ上条が、フレメアを突き飛ばしたのと同時だった。

    ブシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!

    禁書目録「とうまー!!!!!!」

    もし、上条当麻が戦闘終了と思わず竜王の顎(ドラゴンストライク)を解除しなければ黒夜の魔槍は届きはしなかっただろう。

    もし、インデックスが戦闘終了と思わず紅き翼を解除しなければ黒夜の魔手は捉えはしなかっただろう。

    もし、御坂美琴が手を伸ばせなかった悔悟の念をもっと雑に、もっと軽く、もっと楽に扱えたなら黒夜の凶行に気づけたのかも知れない。

    もし、麦野沈利がフレンダ救出より黒夜抹殺を優先していたなら黒夜の打った凶手は放たれずして終えていただろう。

    フレメア「ふああああああ!!!!!!」

    だが、そんなもし(if)は起こり得なかった。
    上条は少女達の幻想(希望)を守れはしても、己の身に降りかかる現実(不幸)を振り払う事が出来なかった。

    御坂「あ…あああ…ああああああ!!!」


    御坂美琴の可憐な美貌に飛び散り降り懸かる鮮血…その主の名は――



    上条「――――――」



    上条、当麻



    御坂「うわあああああああああああああああああァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

    背中より穿ち抜かれた窒素爆槍に、血の海へと沈んだ偽善使い(かみじょうとうま)を前に御坂は魂の底から叫んだ。

    かつて、上条が麦野を救った時のような、血を振り絞るような慟哭が―――


    麦野「―――当麻…?―――」


    遠く離れた、麦野沈利と繋がる空まで響き渡った。

    652 = 468 :

    とある星座の偽善使い(フォックスワード)の者です。
    たくさんのレスをいただき、本当にありがとうございます。
    感謝、感謝の気持ちばかりです。次回もまた2~3日以内の投下になると思います。それでは失礼いたします

    653 :

    生殺しだと…
    作者はドSじゃんよ……



    次回も楽しみに待ってます!

    654 :

    何か・・・

    戦闘シーンの!があまりいらないと思う
    読んでて疲れてくる

    乙です

    655 :

    乙でございます

    656 :

    乙です

    なんて引きしやがる…

    657 :

    金払ってでも読みたいレベルだな

    658 :

    嗚呼俺の上条さんが・・・

    659 :

    これが主人公補正か・・・

    660 :

    とある星座の偽善使い(フォックスワード)の者です。
    本編の続きは明日の21時頃に投下させていただきます…それでは失礼いたします。

    661 :

    ~回想・水底に揺蕩う夢~

    上条『風邪引くぞ、そんな格好のまま出たら』

    麦野『その時はお粥作ってよ。上乗せはシャケフレークがいいな』

    修道(インデックス)が押し掛け女房のように転がり込んで来て、私が通い妻のように足繁く当麻の部屋に行き来するようになったのはいつからだろうか。

    今、私は当麻のワイシャツを羽織っただけのだらしない格好のままベランダで朝の光を浴びている。
    真夏の夜明けに注ぐ陽射しは目に痛いほど眩くて、私を時々ひどく憂鬱にさせる。

    上条『梅干しじゃねえのか?』

    麦野『酸っぱい物が食べたい…なんて言ったらどうする?』

    上条『ぶほっ!?』

    麦野『馬鹿』

    それはかつて所属していた『暗部』の名残、その残滓のようなものだ。
    闇眩ましの水底に息を潜める異形の深海魚にとって、『光』は救いに成り得ない。
    『光』を求めて浅瀬を目指す同類達がその海の深さに力尽きて行く所も、例え深海から抜け出せて変化する内圧に耐えきれず自壊して行くのも見てきた。いや…

    麦野『(馬鹿はテメエだろ麦野沈利。テメエに子供を産んで育てる人の親になる資格があるとか思ってんのか?)』

    私は縊り殺して来た。躊躇も逡巡も憐憫もなく、出来うる限り惨たらしく。
    どれだけ残酷に、残忍に、残虐に命を刈り取れるかを己に課していた気さえする。
    私は、深海の中にあって鮫として生まれて来たのだから。

    上条『脅かすなよ…そろそろインデックス起きてくるぞ。ちゃんと服着ろって』

    麦野『脱がせて』

    上条『い゛っ!?』

    麦野『脱がせてよ。あんたの手で』

    それを時折夢に見、魘される夜もある。そうして目覚めた日、私はひどく乱れる。
    自分のものとは思えないほど淫らな女の声を、私は他人事のようにどこか遠くで聞いているもう一人の自分をそこに見る。
    そしていつしか、指が何本入ったかわからなくなる頃にはそれすら消えている。

    麦野『脱がせて、着せて、また脱がせて』

    そうしていないと息詰まりそうになる。この取り戻した平穏の中で息継ぎが出来なくなる。
    上条当麻の側で生きるという事。闘争の中にあって牙を研ぎ、平穏の中にあって翼を休めるという事。

    麦野『それから、抱いて?』

    暗部にいた頃が懐かしく思えるほど、タフでハードで優しい日々。

    そんな日常(上条当麻)を、私は愛していた。

    662 = 468 :

    ~とある病院・冥土帰しの診察室~

    麦野「…悪いわね。いつもいつも。今日はフレンダまで診てもらっちゃって」

    冥土帰し「全くだ。君達ほど医者泣かせな“お得意様”は他にいないからね?願わくば、そういう人達を少しでも減らす事が出来たらば僕はそれに越した事はないんだ」

    麦野「それじゃあ商売上がったりでしょうに。でも同感ね。いい加減ここの病院食の献立のルーチンがわかるようになって来た」

    冥土帰し「君くらいのものだよ?ウチの病院食のシャケに文句をつけたのは」

    麦野「あんな塩分抜けたシャケなんてシャケじゃない」

    冥土帰し「なにせ、ここは病院だからね?塩分は控え目だ」

    麦野「ならアドバイス。あの金髪はサバ缶隠し持ってるから目を覚ましたら没収した方がいいわ」

    一方…麦野沈利はフレンダの手術を終えた冥土帰しの診察室にいた。術後の経過をより正確に把握するためである。
    そして話が一段落した二人の手には缶コーヒーが握られている。
    それは、初めて上条が麦野絡みで運ばれて来た時に自販機で買った銘柄とは異なって…
    それを一口含むなり…麦野は優美な眉をしかめて唇を尖らせた。

    麦野「苦い」

    冥土帰し「僕の患者がこれを気に入っていてね?試しに飲んでみたがなかなかどうして悪くない」

    麦野「――人生みたいに?」

    冥土帰し「君の舌が、それに追い付いた時にわかるんじゃないかな?」

    上条が事件に巻き込まれる度に担ぎ込んで来る麦野と冥土帰しはいつしか言葉を交わしたり話し込んだりする機会が増えていった。
    初めて上条が生死の境を彷徨っていた時、今にも崩れ落ちそうな麦野に水を向けて一息入れさせて以来の縁でもある。

    麦野「どうかにゃーん?私、コーヒーより紅茶党なのよね」

    冥土帰し「ふむ?」

    麦野「何でかわかる?」

    冥土帰し「はて?」

    麦野「当麻なのさ」

    両手で缶コーヒーを包み込み、立ち上る柔らかな湯気を見やりながら麦野は語る。
    そんな穏やかな様子を見せるのは、冥土帰しが幾度も上条の命を繋いだ、その信頼故なのかも知れない。

    麦野「アイツが最初にここにブチ込まれた時、お見舞い代わりに紅茶持って来たの。そしたらアイツね?“こんな美味しい紅茶飲んだ事ない”って…言ってくれたんだ」

    冥土帰し「………………」

    麦野「それからかな。もっと勉強して、上手く淹れられるようになりたいなって…」

    663 = 468 :

    麦野は乱れない。揺るがない。少なくとも今がその時でないと知っている。
    そこに冥土帰しが声を掛けた時のような危うさはそこにはない。

    冥土帰し「ふむ?今度彼が訪れたら言うべきかな?“君の彼女にノロケられて仕事にならない”とね?」

    麦野「やめて。あいつすぐ調子に乗るから」

    そう語る麦野の表情は笑みすら浮かんでいた。彼女は人前でノロケる事は意外に少ないのだ。
    上条の立てたフラグをへし折るために人前でわざとイチャつく場合を除いては。

    麦野「あいつも奥手で初心だった頃が懐かしいわ。今じゃすっかり可愛げがなくなっちゃって…」

    冥土帰し「ほう?」

    麦野「その代わり、頼もしくなったよ。危なっかしいのは毎度の事だけど」

    冥土帰し「うん。彼を見ていると僕の若い頃にそっくりだ…もっとも、僕の方がぶいぶい言わせていたものだがね?」

    麦野「出来ないわよ。先生の若い頃想像すんのが」

    冥土帰し「うん?自分で言うのもなんだがモテた口だよ」

    麦野「どうせナースでしょ」

    冥土帰し「まさか。患者だよ?退院後にラブレターをもらった事もある」

    麦野「職権乱用ー」

    冥土帰し「もちろん辞退したさ。仁術の範に悖るからね?」

    フレンダが一命を取り留めた事により一息ついた事も関係しているのだろう。
    そこには、飾り立てるでもなく気負うでもない年相応の麦野の姿があった。

    麦野「どうだかね…じゃっ、行くわ。話も済んだ事だし、いつまでも先生の相手もしてらんないしね」

    冥土帰し「ずいぶんな言いようだね?」

    麦野「墓場まで持ってくもんなんだよ。性格(キャラクター)ってのは…コーヒーありがとう、先生」

    冥土帰し「うん。君も気をつけなさい」

    これは心の整理と、思考の区切りと、感情の切り替えのための儀式。
    冥土帰しもそれはわかっている。彼は医者であり、多くの血と涙と悲劇と地獄と闇を知っている。
    だからこそヒラヒラと手を振りながら診察室を後にした麦野を、冥土帰しは静かに見送った。

    冥土帰し「ふむ?孫を持つおじいちゃんの気持ちというのは、こういう物なのかな?」

    しかし…その静寂は今ひとたび破られる事となる。

    プルルルルルルルル…ガチャッ

    冥土帰し「…急患かい?」

    一本の電話と共に

    664 = 468 :

    ~回想・水底に揺蕩う夢Ⅱ~

    ――『テメエはブッ壊す事しか知らねえライオンだ。それも檻ごと食い破るイカレ具合のな』――

    そう私を評したブチコロシかくていモノの失礼な野郎は誰だったか、なんて何故こんな時に思い出すんだろう。

    上条『…沈利、重(ry』

    バチーン!

    麦野『その歳でもう生きるのに飽きたのかにゃーん?』

    上条『ずびばぜん゛でじだ…』

    麦野『腰が立たなくっても手は上げられんだよ』

    未だ抜けきらない火照りと気怠さと、否定出来ない満足感の残滓を引きずりながら、私は下から見上げて来る当麻をひっぱたいた。
    女に向かって重いとはなんだ重いとは。本当にデリカシーに欠ける男だ。×××喰い千切るぞ。

    上条『メチャクチャ痛え…奥歯持ってかれるかと思った』

    麦野『良かったな私が弱ってて。本調子なら首ごと持っていけたのにね』

    上条『上条さんの首にスペアはございませんの事ですよ!』

    絡まるシーツが汗ばんだ肌に張り付く。私自身もまだ少し息が乱れてる。
    私にこんな追い込みかけたのは今だらしなくベッドと私の間に挟まれたコイツだ。
    事あるごとに『不幸だ』を連呼する幸薄いこの男だ。
    何が不幸だこの野郎。こんなイイ女抱けてまだ不幸とのたまうか。

    麦野『サロメじゃあるまいし、男の生首持って踊る趣味はないわよ。これ以上あんたの身体に傷増やしたくないし』

    上条『そう思うんならもう少し優しくしてくんねえかなあ…』

    麦野『してるじゃない。こんなに』

    私がつけた爪痕、私以外の人間がつけた傷痕。
    お風呂に入って赤らむくらい温まると浮かび上がって来る、当麻の身体に走る白い疵痕。
    これが、誰かを殺さずねじ伏せて来た代償かと思うと愛おしさと泣きたい気持ちで私の胸はいっぱいになる。
    その代償がいつか、一つきりしかない命を上乗せされてしまいそうで。

    麦野『私がこんな事するのは、あんたが初めての男』

    上条『…だったよな』

    麦野『でもって、あんたの最後の女は私だ』

    上条『ああ』

    麦野『前に言ったわね…“私と出会った事、いつか後悔させてやる”って』

    その時を私は恐れている。怖れている。懼れている。畏れている。
    自分の命なんて惜しくない。自分の死なんて怖くない。
    私が恐れているのは、今この私の身体を受け止める当麻が永遠に消えてしまう事。ただそれだけだ。

    665 = 468 :

    麦野『後悔、した事ない?』

    上条『ねえよ。何を後悔するってんだ?』

    麦野『私より強い子、私より綺麗な子、私より女の子らしい子、あんたの周りはそんなんばっかりだ。彼女って立場じゃなきゃ気が気じゃないんだ。思った事ない?他の女と付き合ってたらどうだったんだろうって…そういう後悔』

    上条『関係ねえっつの!』

    麦野『私の立場にもなってみろ。私の周りにわんさと男が群がってたら、あんたどうする?』

    上条『そりゃあ………すんだろ』ブツブツ

    麦野『えー?えー?なにー?なにー?聞こえなーい』

    上条『イライラするに…決まってんだろ!』

    うわっぷ。上下入れ替えられた。今度は私が下か?
    おいおい、そんなマジな顔で見下ろさないで欲しいにゃーん?
    嗚呼…本当に馬鹿だなあコイツ。肝心な所で冗談が通じない。
    でも誰かが言ってたなあ…男なんてちょっと馬鹿なくらいが一番可愛いって。

    麦野『…そんなに、私が好き?』

    上条『好きだよ…好きに決まってんだろ』

    麦野『私より綺麗で、優しくて、あんたの言う事ハイハイ聞く子がいても?』

    上条『それでも、俺が好きなのは沈利だ。これはずっと変わんねえ』

    麦野『私が、シワクチャのババアになっても?』

    上条『なってもだよ。つか、やけにしつこく引っ張るよな』

    麦野『だからテメエは女心がわかってねえんだよ。当麻』

    抜け落ちて行く体温が名残惜しくて、それを繋ぎ止める言葉が聞きたくって。
    男からすりゃウンザリするだろうがめんどくさかろうが、欲しい物は欲しい。
    気持ち良いだけで満足するほど、私の中の女は貞淑なんかじゃない。

    麦野『――言ってよ。私が一番欲しい言葉』

    誰かが言っていた。私を頭のイカレた人喰いライオンだって。ムカつくけど、それは事実だ。
    そして誰かが言う。今の私は飼い慣らされた猫のようだと。ムカつくけど、それもまた事実だ。

    上条『――俺が選んだのは、お前だ。沈利――』

    檻に入れられたライオンを見て哀れんだ事がある。狩りも出来ず、誇りを失った生き方だと。
    けれど今はこうも思う。ライオンはその檻によって守られてもいるのだ。
    正解はない。答え合わせはない。出題者の意に沿うような解答を、私は持ち合わせちゃいない。

    麦野『――私もだよ、当麻――』

    私にとって、あんたは窮屈な生き方を強いる檻なんかじゃない。
    あんたは今の私の世界そのものだ。狂い死ぬまで暴れ続けるはずだった私の救いだ。

    666 = 468 :

    そんな私は、よくインデックスと自分を比較してみる。

    インデックスを『白』で『光』で『善』に置き換えるならば、私の本質は『黒』で『闇』で『悪』だ。

    当麻なら言うだろう。そんな色分けにまだ拘ってるのかって怒るに違いない。でもね、違うんだ。

    私はもう善悪の彼岸だってどうでも良いんだ。関係ないんだ。
    闇の深奥で手にして来た力を、私はあんたのする事の手助けに使いたい。

    狭い了見だろうが、偏った思考だろうが、病んだ物思いだろうが、なんだろうが。

    世界中の全ての人間があんたのする事を『偽善』と断じても…
    私は誇る。あんたの選んだ道を。あんたと共に往くこの道を。

    私は御坂美琴のように王道を行く人間じゃない。
    私はインデックスのように正道を行く人間じゃない。
    私は外道を、裏道を、血道を、獣道を行く人間だ。

    人を殺した人間の世界は広がらない。どんな名目があろうが題目を唱えようが、人を殺した人間の世界は閉じて行く。必ず。

    私だってそうだ。いつか罰が下される。いつか裁きが訪れる。
    でもそれは私がやった事だ。私だけが仕出かした事だ。
    それに当麻達を巻き込まないで欲しい。私はずっとそう思ってた。なのに

    禁書目録「とうま!とうま!!」

    今私の前で担ぎ込まれて来た担架

    フレメア「助けて!お医者さん!ツンツンのお兄ちゃんを助けてあげて!」

    その上で血に塗れ、ストレッチャーの上で苦しげに呻く事も出来ないほどの重体。

    御坂「しっかりしなさいよ!アンタ寝てる場合じゃないでしょ!!」

    点灯する緊急搬送専用の手術室のライト。

    冥土帰し「君達、下がっていてくれないかい?ここから先は僕の戦場だよ?」

    フレンダの一命を取り留めたばかりの医者が再び走る。

    上条「――――――」

    上条当麻。私の初めての男。私が最後の女になるはずの男を救うために

    麦野「――――――」

    空いた風穴、夥しい出血、その傷口、その手口、そのやり口

    麦野「テメエ(新入生)か」

    地下立体駐車場で対峙した『優れた闇』、フレンダが負わされた傷と同じ。
    私が仕留めず、土俵にすらあげなかった格下(新入生)

    麦野「新入生(テメエら)か」

    この時、私のをよぎった殺意の矛先は、あんなイルカ女じゃない。

    麦野「……!!」

    それを喰い逃した――私自身だった。

    667 = 468 :

    ~回想・八月九日Ⅱ~

    麦野『リーダーは絹旗、アンタだよ』

    絹旗『――私ですか?』

    麦野『そう』

    麦野の引退がいよいよ誰にも覆す事の出来ない事実だとようやく沸騰して来た頭が冷えて来た頃…
    一足先に別れを告げたフレンダ、別れを終えた滝壺さんを見送って…
    未だに別れを超惜しんでた私に、麦野は言いました。

    絹旗『待って下さい麦野!!私、メンバーの中で超年下ですよ!?』

    麦野『それがどうした。私だって言いたかないけど年長だからってリーダー張ってた訳じゃない』

    絹旗『滝壺さんやフレンダが超いるじゃないですか!何故、どうして、私なんですか…』

    麦野『私の後を継げるのが、アンタしかいないからさ』

    麦野はシャケ弁もないまま手持ち無沙汰な指先でテーブルをトントン叩いてました。
    綺麗に整えられた指先。同じ女でもつい目で追ってしまう仕草。
    そこに被さる麦野の声。淡々としていて、温度や感情のこもらない、仕事の時の声。
    それだけならいつもと超何も変わらないのに…これが最後だなんて思えないのに。

    麦野『滝壺はあんたほど冷静に…いや、冷徹に、冷酷になりきれない。フレンダは言うまでもなく詰めが甘いしムラがある。アンタが一番穴が少ないからね』

    絹旗『…知りませんでしたよ。麦野がそんなに風に私を超見ててくれただなんて』

    麦野『仮にもリーダーだったからね。私も色々考えなくちゃいけなかった』

    絹旗『例え、超消去法で選ばれたとしても超嬉しいですよ。一番嬉しいのは、麦野がずっと私達のリーダーで居てくれる事だったんですけどね』

    麦野『………………』

    チクリとした棘を言葉尻に含ませます。けれど麦野は超気にした様子もありません。
    何ですか。どうしてそんな大事な事をさっき言わないんですか。
    本当なら、私達にはもう引退する麦野の、これが最後の命令だとしても従わなくちゃ行けない義理なんてどこにもないんですよ?本当なら。でも

    絹旗『でも…ちょっとだけ、ちょっとだけ嬉しかったですよ。麦野』

    麦野『何が』

    絹旗『麦野、今私達を…超人間として見てくれたじゃないですか』

    麦野『そんなんじゃない。アンタらが生き残るにはそれが一番高い確率だって思っただけ。それだけの話』

    そう言って麦野は頬杖をついて外を見てます。
    その物憂げな横顔。私は後何年すればこういう仕草が超似合うようになるんですかね。

    668 = 468 :

    絹旗『――麦野、本当に変わっちゃったんですね。今まで私達、麦野の超駒だったじゃないですか。上層部の都合でいつでも切り捨てられる、使い捨ての捨て駒。寄せ集めの道具(アイテム)だったじゃないですか』

    麦野『そうね。だから何?』

    絹旗『でも、言ってくれたじゃないですか今。私達が生き残るには…って。言いましたよ。超言いましたよね?』

    麦野『…忘れてちょうだい。口が滑った』

    絹旗『忘れませんよ。本当に麦野が私達を駒扱いするだけなら、こんな話出て来ませんよね?』

    そう、元を辿れば私だって滝壺さんだって超実験動物です。計画の被検体です。
    聞いた事ないけど、フレンダだって麦野だってこの闇に堕ちて来るだけの何かがあった。
    きっと、プロジェクト破綻の切っ掛けになった『奴』もどこかの闇でその牙を研いでる。

    絹旗『…本当に、本当に超残念ですよ…』

    麦野『………………』

    絹旗『変わり始めた麦野と、これからのアイテムを始めていけなかった事が』

    麦野『………………』

    絹旗『麦野を超変えたのが…あのバフンウニだって事が』

    麦野『………………』

    絹旗『私はっ…!』

    その時でした。


    スッ…


    絹旗『あっ…』

    麦野『……絹旗』

    麦野の手が伸びて来て、私の頬に触れたのが。
     
     
     
     
     
    麦野『アイテムを、頼んだよ』
     
     
     
     
     
    絹旗『―――!!!』

    そこで私は泣き崩れました。もう重ねて来た我慢が超吹き飛んで。
    後から後から流れて来る意味がわからなくて。

    声を上げて泣いた事なんて、あの『暗闇の五月計画』ですらなかったのに。
    私にそうさせた麦野を、こんなにもこんなにも変えてしまったあの男に超嫉妬しました。心の底から。

    もう麦野は居なくなる。私達を率いてなどくれなくなる。

    その手は、あの世界で二番目に気に入らない男と結ばれている。

    私達がどんなに望んでも手に入らない世界に、麦野は行ってしまう。

    けれどそこは平々凡々と暮らしていけるだけの甘く優しい光じゃない事もわかってる。

    私が見たあの光の柱。あんなものが飛び交う世界に麦野は行ってしまう。

    麦野が別れを告げに来たのは、まるでこの遺言のような言葉を届けに来たようで。

    だから私は超思うんです。

    バフンウニ(上条当麻)

    誓って下さい。私達の麦野を

    今の私みたいに、超泣かせるなって

    私は――

    669 = 468 :

    ~とある病院~

    絹旗「(超嘘吐き)」

    絹旗最愛は冥土帰しの病院の一室にいた。壁に背をもたせかけ、腕組みをしながら天井を仰いで。

    フレメア「フレンダお姉ちゃん…」

    その近くには未だ麻酔が聞いており静謐な寝顔で横たわるフレンダ=セイヴェルンの寝顔。
    それを覗き込むようにしているのは妹、フレメア=セイヴェルンである。

    滝壺「大丈夫だよふれめあ。もう峠は越したよ。カエルのお医者さんと、ふれめあの応援のおかげだね」

    そんなフレメアの肩に手を置き共に寝顔を見やるは滝壺理后である。
    かつて『体晶』の後遺症と中毒症治療のために通院しており、全快となり『八人目のレベル5』となった今では懐かしささえ覚えていた。

    浜面「(問題は山積みだ…フレンダに続いてアイツまで運び込まれちまうだなんて…クソッ)」

    そして病室の入口付近でパイプ椅子に腰掛けるは浜面仕上である。
    上条当麻と拳を合わせたのも今は昔。彼もまたフレメアから全ての事のあらましを聞き及んでいた。
    彼女が駒場利徳の置き土産にして忘れ形見であるという事も。

    絹旗「――敵は現学園都市暗部」

    全員「「「「!」」」」

    そこで絹旗は瞳を閉じながら言うともなしに言葉を紡ぐ。
    どこか独語めいたその語り口は、仕事に取り掛かる時の麦野沈利を思わせた。

    絹旗「フレンダとあのバフンウニを超やりやがったのは、多分“黒夜海鳥”…私と同じ暗闇の五月計画の被検体です。中心はそいつですね」

    浜面「なっ…」

    絹旗「傷口からの超推理です。後はフレメアちゃんから聞いたその女の特徴…確か槍みたいなものであのバフンウニをやったんですよね?」

    フレメア「うん…大体、間違いないよ」

    絹旗「当たりですね。多分カーテンコールは超当分先の話ですよ。あのクソ野郎がこんなもので済ませるほど甘い奴ならプロジェクトは破綻しちゃいません」

    浜面「ちょっ、ちょっと待てよ絹旗!そいつがお前の知り合いだとしよう。な?って事は今の話の流れからすると」

    絹旗「超狙われます。恐らく今夜中にも、この病院ごと吹き飛ばしに」

    浜面「――…マジかよ」

    絹旗にも察しはついている。このフレメアは敵勢力が送り届けた毒饅頭だ。
    『素養格付』を持つ浜面、アイテムであるフレンダ、既にフレンダを救うべく足を踏み入れてしまった麦野。
    彼等のラインが確定されてしまえば『新入生』達は『卒業生』を縊り殺しに来る。

    670 = 468 :

    浜面「――チクショウ――」

    浜面の呟きには万感の意味合いが込められている。
    ようやく手にした平和が、駒場利徳の忘れ形見が、自分達の安穏な日々が再び闘争の中へ没入されると言う事。
    ――それら全てを守り抜くための、覚悟という弾丸を填め直すという事。

    絹旗「腹を超括って下さい」

    つとめて装う平静。自分はリーダーだ。最年少ながらも、不甲斐なくも、歯噛みしながらも自分はアイテムのリーダーだ。
    麦野沈利に託された、浜面・滝壺・フレンダ・自分からなる『新生アイテム』だ。

    絹旗「(フレンダ。詳しい事情は知りませんが、やっと家族に会えたんです。超死んでも生きて下さい)」

    家族。

    絹旗最愛(チャイルドエラー)にとってそれは、既に遡れない記憶。
    自分がどんな子供であったか、両親がどんな顔や名前をしていたか、絹旗の深奥に在って芽吹かぬまま枯死した種の名前。

    背景はどうあれ、セイヴェルン姉妹は確かに血の繋がりがある『家族』なのだ。
    上条・麦野・インデックス達もまた血の繋がりがなくとも『家族』なのだ。
    人の繋がり、口にするのも憚られる『絆』などという手垢のついた言葉にあって『血』は決定的な決め手とはならない。

    絹旗「(…家族、か…超柄でもない事考えてますね。私の超大好きなC級映画以下の筋書きです)」

    絹旗の知る限り、この世で上条当麻以上に気に入らない男にもまた『家族』がいる。
    幼年期を、人間性を、己の名前すらも捨てた男が最後まで捨て切れなかった『家族』。
    そんな『家族』という枠組みから切り捨てられ踏み入れた闇に堕ちた過去。
    眩くなどない。羨ましくなどない。欲しくなどない。
    忌み、嫌い、厭い、憎み、嘲り、罵りすら浮かんで来る『家族』というキーワード。

    滝壺「(大丈夫。私はそんな優しいきぬはたを応援してる)」

    絹旗は気づいているだろうか?浜面仕上をして『知り合いに依存するタイプ』という評を。
    闇が終わった後もアイテムを率い、また属している己の心の在処を。
    今も、その夢見るような眼差しに暖かな光を宿す滝壺の瞳を。


    彼女がその朧気な答えを手にするのは、もう少し先である――

    671 = 468 :

    ~とある病院・集中治療室~

    禁書目録「………………」

    麦野「………………」

    術後、インデックスと麦野沈利は集中治療室に移された上条当麻を硝子越しに見守っていた。
    二人の眼差しに映るは、未だ現世にその生が繋ぎ止められている事を指し示す波形。
    取り付けられた酸素マスクの内側に浮かんでは消え行く白露。
    それを除けば微動だにしないその寝姿は、いっそこの眠りから覚めないのではないかと言う不吉な考えさえ浮かんで来る。

    禁書目録「とうま、まだ戦ってるんだよ」

    麦野「そうね――アイツはまだ、闘ってる」

    その二人の姿があって…御坂美琴の姿はそこにない。
    インデックスはその縁取られた長い睫毛を伏せ、硝子越しの上条に触れるように指を滑らせた。

    禁書目録「(――とうま、早く目を覚まして欲しいんだよ。短髪が大変なんだよ)」

    手術の間、御坂美琴はずっとその扉の前でへたり込んでいた。
    その青ざめた横顔から、感情すら抜け落ちたかのような虚を覗かせて。
    『友達』としてそれなりの時間を共有して来たインデックスをして洞穴のような眼差しだった。あの時のように。

    禁書目録「短髪が…」

    麦野「?」

    禁書目録「短髪があんな顔したの、本当に久しぶりかも」

    麦野「(…“絶対能力進化計画”…か)」

    二万体の妹達(シスターズ)を殺害することによって一方通行をレベル6(絶対能力者)へと押し上げる狂気の計画。
    それが御坂に露見したのは奇しくも麦野がアイテムを引退したその前後。
    その数日後、研究所にて麦野という核を欠いたままのアイテムと御坂が会敵したのはまさに運命の為せる皮肉な悪戯であろう。
    そこで麦野は一度目を伏せ、その形良く瑞々しい唇を開いた。

    麦野「インデックス――」

    禁書目録「うん」

    その一方通行を下したのは上条当麻だった。計画を凍結させ、御坂とその妹達を救ったのは上条当麻だった。
    恐らくは、御坂の中に思いが芽生えたのはその時だ。
    麦野が、インデックスが、上条に救われたように。
    しかし三人の女達の道は分かれた。御坂はジュリエット(麦野)にもロザライン(禁書目録)にもなれなかった。

    麦野「――話して。当麻の身に何があったかのか。御坂の身に何が起きたのか」

    禁書目録「うん――」

    御坂は――

    672 = 468 :

    ~数時間前・第十五学区~

    禁書目録『とうまー!!!』

    御坂の慟哭、上条の昏倒を目の当たりにしたインデックスが駆け寄る。
    シルバークロースで完膚無きまでに打ち据えられた肉体は既に限界に達していた。
    そこへ放たれた不可視の魔槍は文字通りブリューナクも同然だった。

    禁書目録『とうま!とうま目を開けるんだよ!!とうま返事してとうま!!とうま!!』

    上条の背中には紛れもなく風穴が開いていた。先程までの鮮やかな赤ではなく、どこかくすんで濁ったような黒い血。
    その前のめりに膝から折れた倒れ方は見る人間から見れば二度と立ち上がれない、そう言う倒れ方であった。

    フレメア『ツンツンのお兄ちゃん!ツンツンのお兄ちゃん!!嫌だあ!死んじゃ嫌だよお!!』

    その惨状に対しフレメア=セイヴェルンが火が点いたように泣き出す。
    彼女は上条当麻という少年を知らない。だがその血染めの身体、血塗れの肉体、血溜まりの肢体を目の当たりにし…
    何処へと姿を消し、またその末路を予感させるに足る駒場利徳をフラッシュバックさせてしまったのかも知れない。

    御坂『うあっ…あああ…ああ』

    さながら磔刑に処された救世主に縋る信徒のように御坂美琴は狼狽していた。
    内臓は?血管は?神経は?そもそも目に見えぬ命が未だ現世に繋がれているのかすら恐慌状態の御坂にはわからない。が

    黒夜『ダーツは嫌いじゃないんだが、この手はバーストだったかにゃーん?』

    禁書目録『イルカ!』

    その声の主は一塊になった四人を見下ろすように向かいのビルディングから顔を覗かせ身を乗り出していた。
    さながら獲物に撃ち込んだ矢の在処を確かめるように黒夜海鳥はそこに佇んでいたのだ。

    黒夜『へえ…第三位のオマケ付きか。第四位といい男の趣味は今一つだね』

    クックックと喉を鳴らし吊り上げた唇を頬ごと歪めるような笑み。
    値踏みするような視線には紛れもない嘲弄と、ある種の確信に満ちたゆとりすら感じられた。

    御坂『アンタが…アンタがアイツを!!』

    御坂の泣き濡れた瞳に宿した赫亦が瞋恚の炎となって黒夜を睨み付ける。
    だが黒夜はそんな御坂の逆鱗に触れながらも至って揺らぎを見せない。
    背に負ったイルカのビニール人形を愛でる余裕さえも感じられる。

    673 = 468 :

    黒夜『おっと。熱くなるのは構わないけど…そうこうしてる内にくたばるんじゃないか?そっちの男』

    御坂『……!!』

    黒夜『わかるよな?第三位までいる状況じゃ私が勝てる見込みはそう高くない。どう自分に甘く採点したってな。けどそいつがくたばるまで粘るくらいは出来るぞ』

    その弱みに付け入るような、足元を見るような物言いに眉間に寄った皺がより強く刻まれる。
    この時点で両者の思惑はベクトルこそ異なれど合致していた。

    御坂『ふざけんじゃないわよアンタ!!』

    黒夜『ほんの親切心からくる忠告さ。聞かないでくれる方が私は楽しめるんだけど?』

    御坂は上条達を救い出したい。黒夜は上条達を『嵌めたい』のだ。
    ババ抜きの要領でフレメアというジョーカーを相手に押し付けるために。
    ここでフレメアを泳がせればより価値のある大魚を釣り上げる事が出来るのだ。

    黒夜『いいのかい?私はこの後アンタらとマズい店のイチ押しでもやりながらガールズトークに花咲かせたって構わないんだ。けどこうして話してる間にもう何分経ったかにゃーん?』

    禁書目録『ううっ』

    黒夜『戦うか救うか。長くない腕はどっちを選ぶつもり?』

    フレメアと御坂ではラインは繋がらない。最低でも『外側の法則』を使うインデックスを『学園都市第四位』麦野沈利と接触させる撒き餌になってもらう。
    『素養格付』を持つ浜面仕上と『学園都市第一位』一方通行に比べれば見劣りするが…
    数々の駆動鎧に加えファイブオーバーまで単騎で殲滅するほどの戦力は、十二分に学園都市にとっては脅威なのだから。

    禁書目録『顔、しっかり“覚え”たんだよ』

    黒夜『私も覚えたよ。可愛い顔してコワーいシスターをさ』

    インデックスもまた黒夜が一計を案じている事を感じている。
    しかしこれ以上是非の問答を行っている時間はない。
    だからこそ…御坂は肩で上条を担ぐようにして背を向け
     
     
     
    御坂『忘れるな。私もアンタを忘れない』
     
     
     
    そしてインデックス達は瀕死の上条を担いでその場を後にした。
    黒夜は思う。枝は繋がった。後は切り落とすのみだと。
    見送るその背を撃つ事を一瞬脳裏を掠めたが…黒夜はそれをせずに待機していた部下達にシルバークロース回収の命を下してその手を下ろした

    黒夜「(命拾いしたのは、私とあの男、どっちかな?)」

    その手は、ひどく汗ばんでいた。

    674 = 468 :

    ~数時間前・第十五学区~


    SC「おお…ああ…うう」

    シルバークロースは…否、シルバークロース『だった』男は頭を抱えてうずくまっていた。
    わからない。何もわからない。その苦悶と苦悩と苦痛の源泉たる恐怖の正体がわからない。
    自分の名前が、自分の居る場所が、自分の為すべき事も、そして――

    黒夜「そう、そうだ。コイツの“コレクション”を全部出せ。バイタルもクソもない。コイツはもう“ブッ壊れ”ちまって使えない。保管しているだけ経費の無駄だ。後でまとめて出しちまえ」

    部下「はっ!」

    瓦礫の山の中で座り込んでいる自分、それを取り巻いて動き回る黒ずくめの男達。
    彼等を束ねる白いフードにイルカのビニール人形を背負った少女。
    彼等がこちらに一瞥をくれてくる。それに対し『男』は

    SC「えへっ…えへへへっ…」

    黒夜「………………」

    少なからず年輪を刻み年嵩を積んだ青年が無邪気な子供のように黒夜のイルカに笑みを送っている。
    黒夜は機密保持とシルバークロースの『リサイクル』のためにこの場に出張って来た。
    必要なのはシルバークロースのシナプスネットワークを含めた脳を演算コアに据える事、だが今はそれすら疑わしい。

    黒夜「…これが何かわかるか?」

    青年「えへへへっ…へへへっ…」

    『黒夜海鳥』も、『イルカ』も、『人形』もシルバークロースだった男にはわからない。
    黒夜はその様子に得も知れぬ胸のざわつきを覚えさせられた。

    黒夜「(フォーマットだなんて生易しい代物じゃない。機械そのものを破壊されたみたいだ)」

    記憶というデータに『消去』のコマンドを実行し上書きするような甘い代物ではない。
    それを可能としたのは、今し方死の淵を彷徨っているであろうあの黒髪の少年だと黒夜はあたりをつける。

    黒夜「フレメア=セイヴェルン…まったく大した“人材”だよ」

    『0次元の極点』を我が物とする麦野沈利(元暗部の第四位)、『外側の法則』を使うインデックス(魔術サイド)、どちらにも拠らない正体不明の能力者…
    浜面仕上や一方通行のような内部の不穏因子とは異なる外部の危険因子。
    こうでなくてはならない。自分達『新入生』はそのために組織されたのだから。

    黒夜「さて…シルバークロース」

    SC「?」

    呼び掛けられた名前すら己のそれとわからぬ男に、黒夜は優しく優しく…言い含めた。

    黒夜「働いてもらうぞ。最後にもう一仕事」

    675 = 468 :

    ~第十五学区・ハイウェイ~

    御坂『…私のせいだ…』

    一方…騒ぎを聞きつけた警備員の先導車の誘導ともに、四人は救急車の中で揺られていた。
    血塗れの上条を収容し、同乗していた御坂の眼差しは完全に光の死に絶えたそれだった。

    御坂『…私…あんなに側に…こんなに側にいたのに…“また”何も出来なかった』

    返り血を拭う事もせず、茫然自失のままインデックスとフレメアに引っ張られるようにして…
    御坂は上条の乗せられたストレッチャーを前にして呻きのような呟きを唱えながら…

    御坂『どうして…?どうしてなの?どうして私の手は届かないの?』

    上条の死亡が確定されてもいないのに、目の前で施される処置すらも…
    泣く事も喚く事もせず、生来の輝き全てがくすみ、艶を失い、色褪せた御坂の目には映っているかどうかすら危うかった。

    御坂『答えてよ…ねえ!答えてよ!!目開けてよ!!ねえってば!!』

    救命士『き、君!離れなさい!!』

    禁書目録『短髪!?やめるんだよ!落ち着くんだよ短髪!!』

    かと思えば錯乱したように上条の身体を揺すり立てもした。
    それは砂を掴むような手だった。掬えど掬えど指の隙間から滑り落ちる砂。
    手の平から零れ落ちて行く、生命の砂時計。
    叶わぬ願いを昇華するにも埋葬するにも、御坂という少女は純粋過ぎた。
    その強すぎる思いは、今ここで上条に新たな心臓が必要だと言われればその場で抉り出す事すら厭わない鬼気迫るものすらあった。

    御坂『死なないでよ!!?あの時だって、あの時だってアンタは帰って来たじゃない!!ヘラヘラ笑って生きてたじゃない!!!』

    しかし上条にその声に答える力は最早ない。恐らくは届いてすらいない。
    少女の心の叫びに呼応して舞い降りた偽善使い(ヒーロー)にその声は響かない。
    目に見えて失われて行く血液、肌を通して失われて行く体温、そして確実に失われて行く生命。

    御坂『しっかりしなさいよ…』

    守る事も庇う事も、仇を討つ事さえ出来なかった無力な自分。
    何が学園都市最強の電撃使いだ、常盤台のエースだ、第三位だ、超電磁砲だ

    御坂『――上条…当麻ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!!!』

    まるで己の身を切られるような悲痛な血声が、インデックスの耳朶にこびりついた。

    676 = 468 :

    ~とある病院・集中治療室~

    麦野「(――そういう、事か…)」

    御坂美琴の身に起きた事。それは麦野沈利の身に幾度も起きた『現実』だ。
    目の前で上条当麻を喪失する恐怖。麦野が幾度となく苦しみ、何度となく悩んだ『現実』だ。
    ましてや御坂はその恐怖を既に三度経験している。

    麦野「(馬鹿が。アンタにしおらしさなんて上等なもんが今更身に付くとか思ってんのかあ?)」

    操車場での一方通行、学園都市での後方のアックア、ベツレヘムの星でのフィアンマ…
    いずれも御坂が時に止めようと、助けようと、救おうとした手を上条は取らずに立ち向かって行った。
    その都度御坂の手は苛まれたはずだ。無力感と疎外感と絶望感に。
    それは麦野自身も少なからず味わった経験だ。
    言葉で止まるような扱いやすい男なら麦野とてここまで苦労はしない。

    麦野「(ふざけんじゃねえぞ御坂)」

    戦っている時より、それ以外で募る心労の方が遥かに鉛のような鈍重さでのし掛かって来る。
    助けられなかったら、救えなかったら、守れなかったら…
    麦野が夜一人、しめやかに泣き暮らしていたそれに御坂は今とらわれているだろう。

    麦野「ふー…」

    麦野は長い息を吐いた。自分以外の女に色目を使ったらブチコロシかくていとは言った。
    しかしそれも場合によりけりだ。鈍感さ以上にその真っ直ぐさが罪だと麦野は硝子越しに眠る上条を見やった。

    麦野「インデックス、私トイレ」

    禁書目録「わかったんだよ。ゆっくりしていくんだよ」

    麦野「ありがと」

    禁書目録「ここは私が見ておくんだよ」

    そうして麦野とインデックスは顔を合わせず言葉だけを交わして互いに背を向けた。
    いつから自分達はこんなにも女としてのレベルが上がってしまったのかと思うと溜め息が知らず知らずに出てしまう。
    インデックスは今日既に少女時代を終えてしまった。次は御坂の番だと。

    禁書目録「とうま」

    そう硝子一枚隔てた場所に眠る少年は見やる。
    聖書にも載っていない、されど女の敵とも言うべき罪作りな最愛の男に。

    禁書目録「起きたら、噛み付き百回の刑なんだよ」

    少女は祈った。神の加護を

    677 = 468 :

    ~とある病院・屋上~

    御坂「………………」

    屋上に吹き荒ぶ初冬の寒風が冬服に衣替えされた御坂美琴のスカートを翻す。
    されど少女は既に日も落ちて久しく凍えも身に染みるコンクリートに根でも下ろしたかのように抱えた膝に顔を埋めていた。
    巣に取り残され親鳥の帰りを待つ雛鳥のような…覇気の感じられないその姿。

    麦野「おい」

    そこへ…屋上へと登って来た麦野が御坂を見据えた。
    空は既に夜の帳が落ち、学園都市のビル群がもたらす青白いネオンが麦野の横顔を照らす。
    その足取りは…御坂が座り込む貯水槽へと向かって行く。

    麦野「中学生日記のつもりか。お子様の中坊」

    夜風が紅茶を溶かしたような栗色の髪を揺らし

    御坂「中学生だったのは何年前よ。おばさん」

    秋風の終わりがシャンパンゴールドの髪を翻らせる。

    麦野「歳食うと丸くなるなんて誰が最初に言ったんだろうなあ?クソガキ」

    常ならばブチ切れている麦野が、御坂の横に腰を下ろし

    御坂「何しに来たのよ」

    それに対し、顔をあげる事すら億劫そうな御坂が声だけ返す。

    麦野「ブザマでミジメでアワレなテメエを笑いに来たっつったらどうなんだよ」

    麦野と御坂。四位と三位。原子崩しと超電磁砲。元学園都市暗部と現学園都市広告塔。
    対照的な外見、年齢、年嵩、経験、性格…本来であれば二人は決して相容れない。
    合い見えれば必ず激突する陰と陽、光と影、水と油、表と裏、相反と相剋。

    御坂「…笑えばいいじゃない。そうやって高い所から何もかも見下ろして、誰も彼も笑えばいいじゃない!!」

    隣に腰掛けた麦野の横顔を、視線が矢ならば射るような眼差しを向ける。
    それは深く傷ついた人間にしか持ち得ない、自分すら傷つけかねない匕首の切っ先。

    御坂「笑えばいいじゃない!!アンタ、アイツのパートナーなんでしょ!?恋人なんでしょ!?彼女なんでしょ!!?」

    麦野「そうね。だから何?」

    御坂「だったら!」

    バンっ!と給水塔の貯水槽に手を叩きつけるようにして御坂は吠える。
    それを麦野は聞くともなしに聞く。少なくとも表面上は。

    御坂「アイツの所についててやりなさいよ!アンタの居場所はアイツの所でしょうが!起きて、目を覚まして、一番最初にアイツが見たいのはアンタの顔でしょ!!」

    678 = 468 :

    その胸の内に去来する思いは、アルカディアでのショッピングモールでの激突。
    ただし、その時食ってかかり、上条に手痛い平手打ちを食らったのは麦野だった。

    御坂「私を笑いに来たなら笑いなさいよ!!アンタも知ってるんでしょうが!私がアイツの事好きなんだって!!私以外なら…私以外ならアンタが一番良く知ってるじゃない!!アイツよりも!!!」

    その時、麦野は御坂に憎悪に等しい序列への敵愾心、殺意に等しい女としての敵対心を持って御坂に挑んだ。

    御坂「笑いなさいよ!慰めも同情もいらない!!アンタが何考えてたって、私にはあんたが優位に立ってるからそうしてるようにしか見えない!!もう帰って!今はアンタの顔なんか見たくない!こんな風に考える自分が、アイツを守れなかった自分が、大大大大っ嫌いなのよ!!」

    アルカディアで、病院見舞いで、カフェでの『聖人』神裂火織との激闘、『自動書記』との死闘の中で…
    犬猿の間柄だった二人は、いつしか友人とまでは言わないがたまにあってお茶を飲む程度にまで歩み寄れた。
    底意地の悪い麦野、意固地な御坂、対照的な二人の、唯一の共通点――

    御坂「――アンタは、アイツに選ばれたじゃない!!!」

    上条当麻。麦野が愛した男、御坂が恋した少年。

    御坂「私は…選ばれなかった!気づいた時にはアンタがいた!アイツへの思いに気づいた時にはアンタがいた!アンタだって気づいてたじゃない!ずっと!ずっと!!ずっと!!!」

    異なる道筋、道程、道行の中にあって、唯一の存在、無二の相手。
    二人の関係は拳でも武器でも能力でもない、視線と言葉と心の殴り合いだった。

    御坂「伸ばした手も、叫んだ言葉も、アンタの前じゃ霞む!私だってなりたかった、アンタみたいな特別じゃなくたって、千人くらいある名簿の中で、アイツが私の名前を見かけた時、少しでも気に止めてくれる“何か”になりたかったのよ!!」

    麦野が常々語る『馴れ合いは嫌い』という言葉の裏にはそう意味もある。
    後ろめたさはない。されど、平然と笑みを交わすほど傲慢でもなかった。

    御坂「私は…選ばれなかった…!!」

    麦野は感じていた。あの三人でホテルに泊まり、お風呂で突きつけたあの宣戦布告からずっと。
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    御坂「――アンタみたいに、私だってなりたかった!!!!!!」
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    いつか、こんな日が来ると――

    679 = 468 :

     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    麦野「――私は、アンタみたいになりたかったよ」
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     

    680 = 468 :

    ~とある病院・給水塔~

    御坂「――えっ」

    沸騰した熱湯がふきこぼれるかのような御坂の激情に対し、麦野のそれは冷水に一滴の雫を落とし波紋を描いたように静謐な声だった。

    麦野「――私だってなりたかった。テメエみたいな“女の子”に」

    恋人たる上条当麻、家族たるインデックス、仲間たるアイテム…
    本来上条以外に見せる事のない、澄んだ眼差しが御坂に向けられていた。

    麦野「――こんな風に、言いたい自分の言葉と気持ちを真っ直ぐぶつけてこれるアンタが、私は泣きたいくらい羨ましいよ」

    その目は、御為ごかしも、取り繕う事もない、ただありのままを告げる眼差しだった。

    麦野「――私はテメエがずっと嫌いだった。ガキ臭え向こう見ず、そのクセ序列は上、やる事全てが正しくて、そんなテメエに向けられる世界の眼差しは私みたいな人間に向けられるそれよりずいぶんマシな口に見えた」

    御坂「――――――」

    その、怒鳴り返されるよりも衝撃的な言葉に御坂は二の句が告げない。
    何度となく見かけたはずの恋敵が、まるで別人に見えた。

    麦野「なあ御坂」

    御坂「………………」

    麦野「私は人を殺してるんだ」

    自分の血液型を明かすような簡単なその声色に含まれたそれに御坂は連想する。
    それは子供の頃、パレットに全ての色を落として混ぜたような曰わく形容し難い色。

    麦野「アンタが言ったように、私はアンタが当麻を好きになる前からアイツの側にいた。そして私はアイツを好きになる前から誰かの返り血に染まって生きて来た」

    出会いは屍山血河の裏通りから。これが優しい物語ならば、麦野はスキルアウトを原子崩しで屠るより早く…
    上条当麻が口八丁手八丁で救い出してくれただろう。しかしそうはならなかったのだ。

    麦野「そんな血塗れの私を、アイツは今みたいに命懸けで助けてくれたんだ。今あの集中治療室で戦ってるのと同じようにね」

    麦野は語り掛ける。自分がもし暗部にも堕ちず、人も殺めず、御坂のように学校に通い、友人がいたならばと。

    麦野「――私だって、もっと綺麗な身体でアイツに抱かれたかったよ」

    そんな『綺麗な女の子』として、上条に出会いたかったと。
    そんな誰にも変えられない禁治産的な筋書きを夢想するほど――

    麦野「――アンタみたいに、ただアイツを好きでいられたら良かったのにね」

    麦野は上条を愛していた。そして御坂に――ありえたかも知れない『自分』を重ねていた。

    681 = 468 :

    ~2~

    御坂「…巫山戯けないで!」

    麦野「巫山戯けて言えるか。こんな話」

    御坂「私は!!アンタが思ってるような女の子じゃない!!知ってるでしょ!?」

    『絶対能力進化計画』…御坂の中に降り積もり降り注ぎ降り続く溶けない雪。
    その六花の一片一片…一万人以上の妹達の死。今日もゲームセンターに一緒に行った10032番目の妹。
    御坂はかつて語った。『妹達を殺したのは私だ』と。
    自分がDNAマップを提供しなければ、自分にもっと力があればと

    御坂「そんな私を、アイツは妹達ごと救ってくれた!そんなアイツを私は守れなかった!!また!また!!また!!!」

    『超電磁砲』の力をもってすれば、微弱な生体電流から黒夜海鳥の潜んだ位置だって割り出せたはずだ。
    それが出来なかった、迷い故に。それを出来なかった、怯み故に。

    御坂「あの場にいたのがどうして選ばれなかった私で、手も届かない私だったのよ!!何をするにも蚊帳の外で、安全地帯から見てるだけしか出来なかった私でどうしてアンタじゃなかったのよ!!」

    誰かを守る事、助ける事、救う事がこんなに難しい事くらい知っていた。
    白井黒子、初春飾利、佐天涙子、彼女らといくつかの潜り抜けて来た事件の中で。
    それでも尚、黒夜海鳥の引き連れて来た『学園都市の闇』が上条を貫いた瞬間、その苦い認識は更に上書きされた。だが――



    麦野「巫山戯けてんのはテメエだろ、クソガキ」



    次の瞬間、給水塔が破裂した。

    御坂「――――――」

    それは、御坂の側を駆け抜けて行った原子崩し(メルトダウナー)の光芒。

    麦野「――それじゃあ、私と同じだろ」

    破裂した給水塔から噴き出す冷水がまるで雨のように二人に浴びせかかる。
    瞬く間にスプリンクラーを頭から被るよりも激しい水が肌を叩いて弾いて流れ行く。
    そんな中、水滴に前髪が落ち目元に被さり…しかし麦野はそれを払う事もせずに言葉を紡ぐ。

    麦野「私が、当麻を無傷のまま連れて帰ってこれた事なんてねえんだよ。ただの一度だって」

    それは御坂への失望以上に、自分への深い絶望だった。

    麦野「ただ命を繋いでこれただけだ。今だってこれが水なのか自分の涙なのかの区別さえつきゃしない」

    ――無力感に苛まれていたのは、御坂だけではない。



    麦野「――同じなんだよ!テメエと!!私は!!!」



    麦野もまた、そうだったのだ。

    682 = 468 :

    とある星座の偽善使い(フォックスワード)の者です。
    たくさんのレスがついていて驚かされました、そして元気をいただけました。ありがとうございます。

    次回もまた2~3日以内になると思いますがよろしくお願いいたします。失礼いたします。

    683 :

    おぉ、乙

    相変わらずのクオリティ

    684 :

    悲しい話だなあ。

    685 :

    圧倒されるとレスをつけることすら忘れてしまうので困る

    686 :

    >>685
    まさにそれ。他のスレみたいに気軽に「ww」とかつけてレスすることができない。
    ひたすら圧倒されてる。

    687 :

    はまづらの素養格付ってなんぞ?

    688 :

    >>687
    筋肉番付みたいなもんだ

    689 :

    誰か本にまとめてよ

    690 :

    >>688
    イミフwww
    意地悪しないで教えてくれよう。

    691 :

    >>987
    http://www12.atwiki.jp/index-index/pages/2453.html

    692 :

    原作の御坂と麦野の対比も面白いが、
    「上条当麻」という軸を基にしたこのSSならではの対比が、いっそう興味深い。
    今回の二人のやりとりはズンときたなあ。罪作りな男だぜ上条さん。

    693 :

    作者に質問なんだが
    青ピの心理掌握はどうなってるの?
    もしやカップルに……

    694 :

    とある星座の偽善使い(フォックスワード)の者です。本日の投下はいつもと同じ時間になります。それではまた後ほど…失礼いたします

    >>693
    心理掌握があの二匹の金魚に自分達の名前をつける程度の仲です。

    695 = 468 :

    ~回想・八月八日~

    麦野『(やってらんない)』

    禁書目録(クソガキ)の記憶を巡る戦いから早数週間…
    私、麦野沈利の機嫌は最低に最悪だった。それは茹だるような真夏の陽射しがアスファルトに照り返して蒸して来る不快指数でもあり…

    上条『麦野…何でそんな機嫌悪いんだよ』

    麦野『別に』

    上条『まだ怒ってるのか…』

    麦野『怒る?んなもん通り越して呆れて物も言えないわね』

    それは既にセールも終わり通常価格に引き戻された参考書をああでもないこうでもないと頭を悩ませている上条当麻(彼氏)だ。
    そんな事に使う頭があるんなら補習にでも課題にでも何にでも回せば良い。
    今私達がいる本屋の外の暑さに比べ、私の機嫌は斜めに冷め切っていた。それは…

    禁書目録『とうまー!しずりー!お腹減ったー!』

    上条『インデックス!ちょっと待てって!まだ選んでんだよ!』

    麦野『(あの赤毛と露出狂、余計な置き土産こさえて行きやがって)』

    禁書目録(インデックス)…イギリス清教『必要悪の教会』所属の修道女だと言うその少女はあろうことか上条の家に転がり込みそのまま居着いてしまった。
    それが私を苛立たせ、こうも感じの悪い態度を取らせている要因だ。

    麦野『(当麻も当麻よ。これから助けて回る女全員家に上げるつもりか?私ですら通い妻だってのにコイツは押し掛け女房?巫山戯けんなよクソッタレ)』

    紆余曲折を経て同居と相成ったが、それに際して私は本気で当麻と大喧嘩をした。
    だってそうでしょ?やっと付き合い初めて一ヶ月の彼女にロクな相談もなくそんな無茶を通されて『はいそうですね、今日から私達は家族です』だなんて馬鹿な話が呑めるか。
    私は菩薩様でも女神様でも聖母様でもましてや都合の良い女でもない。
    私の言ってる事、間違ってる?私の思ってる事、そんなに悪い?

    麦野『おいクソガキ。アイス食わしてやるから騒ぐな』

    禁書目録『やった!とうまと違ってしずりは優しいんだよ!』

    やめろ。私は今そんな屈託のない笑顔に返してやれる表情筋を全部無表情にフル稼働させてんだ。
    演算よりよっぽど骨が折れる。確かに私達はアンタを助けて、救ったろう。
    けどそれとこれとは話が違う。別物なんだよインデックス。

    上条『………………』

    やめろよ。そんな顔すんな。被害者は私だ。アンタじゃない。

    696 = 468 :

    ~2~

    禁書目録『アイス屋さん…』

    上条『閉まってんな…』

    麦野『(早く帰りたい…)』

    それから本屋を出た私達の足の向いた先はここいらではそれなりに知られたアイス屋。
    けどのっけからかかった『closed』のプレート。クソッタレ。
    悪い巡りの時は何やってもダメだ。今日の星占いはきっと私が最下位だ。

    上条『参ったな…どうすっか…』チラッ

    麦野『パス』

    上条『パスって…』

    何でかな。大好きなのにちっとも素直になれない。ついつんけんしてしまう。
    おかしいな。いつもなら、コイツの前なら、私はいつも笑顔でいれたはずなのに。
    私の刺々しい部分をいつも包み込んでくれるコイツの笑顔が、今は真っ直ぐ見れない。

    禁書目録『ねえねえ二人とも二人とも!あそこに入りたいんだよ!』

    麦野『?…嗚呼、フレッシュネスか』

    そしてそんなギクシャクした私達を知ってか知らずがグイグイ袖口を引っ張って来るコイツが指差す先はハンバーガーショップ。
    ここじゃシャケ弁食えないじゃん…ってファミレスだろうがどこだろうが食べるんだけどさ。

    上条『くうっ…上条さんのお財布さん、最後のお勤めだぞ!よし行くぞ二人と…も』

    空元気が見え見えのコイツが振り上げた手…するとその表情がみるみるうちに凍り付いて行く。
    何だってんだ。後ろ向いて誰かいるなんて古典的なオチ、今日日流行ん

    青髪『カミやーん!!』

    土御門『カミやーん!!』

    麦野『!?』

    上条『オマエら!?なんでここに!!?』

    するとそこへ…忘れようにも忘れられない二人組が飛び込んでアイツに挨拶代わりのダブルラリアットを喰らわせ、そこからコブラツイストやら吊り天井を喰らわせていた。

    麦野『(…あの時の青頭にグラサン野郎か…けたっくそ悪いのが胸糞悪いのにランクアップよ)』

    今すぐにでも怒鳴り散らして喰ってかかる自分を何とか宥める。
    コイツらとはインデックスの絡みがある前からの因縁がある。
    特にあの金髪グラサンアロハは私と同じ側の人間だ。
    そして私に二度に渡る警告を発した上層部からのメッセンジャーでもある。

    土御門『うっひょー!これが噂のカミやんの彼女かにゃー?超絶美人さんなんだぜい!』

    上条『ああ、沈利。紹介するよ。コイツ、土御門元春。俺のクラスメート』

    なるほど、そうか。そういう役回りか。なら乗ってやるよ。

    麦野『はじめまして。麦野沈利です』

    その大根芝居にな

    697 = 468 :

    ~3~

    青髪『両手に花とかチ×コもげろ!むしろ爆ぜろ!』

    上条『んなんじゃないっての!この娘は…』

    禁書目録『とうまとうまー!まだ出て来ないの?もう待ちきれないんだよ!』

    上条『今来るから大人しくしてろって!沈利、ちょっとインデックス見てて…』

    麦野『(無視)』

    そして私達は炎天下で立ち話というのもなんなのでという当麻の提案で全員でハンバーガーショップに入った。
    わかってんだよ当麻。気まず過ぎて助け舟が欲しかったんだろ?
    悪かったな。へそ曲がりで可愛げのない女で。

    土御門『…苦労しているようだな麦野沈利』

    麦野『し通しだクソアロハ。見返り求めた事ないけど、報われる事の方が少ないわ』

    さりげなく列に並んだ当麻と青髪とインデックスから離れて私は席取りに移り、そこでこのグラサン野郎に話し掛けられた。
    イライラする。ムカムカする。ブチコロシかくてい。

    土御門『…いずれオマエも気づく。あの娘の重要性、その意味をな』

    麦野『…おい、意味深なフリだけしてオチをつけないとか最悪だぞ』

    土御門『なに…そう遠くない日、オマエは世界の底を知る事になるさ』

    そこで私はこのグラサン野郎との会話の続行を認めなかった。
    しかしその言葉の意味を私は間もなく知る事になる。
    このグラサン野郎が暗部組織『グループ』の頭脳を担い…
    インデックスが所属する必要悪の教会(ネセサリウス)所属の魔術師であると言う事もその時気づけなかったのだから。

    麦野『(帰りたい…クソッ、フレンダでもイジメて憂さ晴らすか?)』

    そんな事考えながらもう一度列待ちの当麻達を見やる…
    するとそこに、私の知っている背中はなかった。何故ならば。

    上条『なに…やってんだ?』

    姫神『――食い倒れ』

    アイツらは列から離れたテーブルで、馬鹿みたいにドカ食いしてる巫女服の女に話し掛けていた。

    麦野『――――――』

    誰も誉めてくれないなら、私は私を褒めてやりたかった。自分の堪忍袋の緒の強靭さを。
    なにやってんだテメエ。テメエがほいほい家に住まわせたインデックスのおかげで私の機嫌は最悪だって事もう頭から抜けてんのか?
    参考書の意味ねーよ。詰め込める側から、自分の彼女(私)まで忘れんだからな?
    それともなにか?これはいつまで経っても不貞腐れてる私の当て付けか?

    土御門『…糸が繋がったな』

    グラサン割るぞ糞野郎

    698 = 468 :

    ~4~

    姫神『100円。貸して』

    上条『だからないっての!!』

    姫神『ちっ』

    上条『舌打ちしやがった!?』

    麦野『(私は舌打ちどころの話じゃねえよ馬鹿野郎)』

    話もろくすっぽ聞くつもりも輪に加わるつもりもない私はライムソーダを啜っていた。
    テメエの彼女の前で他の女の相談に乗るたあ大したもんだね。主に神経の太さが。

    禁書目録『アイス、食べられなかったね』

    麦野『…そうね。残念だったわね』

    禁書目録『でも、あの時しずりと約束したアイス、いつか食べたいんだよ!』

    麦野『まだ覚えてたんだ…あの時の約束』

    禁書目録『私の完全記憶能力に狂いはないんだよ!』

    麦野『………………』

    禁書目録(インデックス)。実のところ、私はコイツがそんなに嫌いではない。
    というより嫌いになりきれないのだ。どこか憎めなくて、私にはない力を秘めた笑顔に絆されてしまって。
    例え嫌いじゃなくても彼氏が他の女と同居なんて無茶な話、常識的に考えてありえない。
    ましてや…自他共に認めざるを得ないが私は気性が荒い。独占欲も執着心も嫉妬深さも人一倍だ。

    麦野『…もう少し落ち着いたら、今度こそ買ってあげるから』

    禁書目録『ほんと!?』

    麦野『(私の気持ちの整理がついたらね。ただし当麻、テメエはダメだ)』

    そんな私が、御坂美琴に対してしたみたいに原子崩しを向けられないのは…コイツは私に似てるからだ。
    同じ男に血塗れの運命と血溜まりの地獄と血染めの自分を救い出されたからだ。
    でもねインデックス。私は女としても人間としたもまだ完成されちゃいないんだ。
    オマエを今すぐ認めて受け入れろなんて出来ない。無理なんだよ。

    麦野『(バ上条…参考書の前に女心を何とかしろ。赤点じゃそろそろ済ませられないわよ)』

    私はオマエを愛してる。好きなんて軽い言葉が溜め息より重く感じるほどに。
    オマエが望むなら今ここで抱かれたって構わない。
    コイツらに見せ付けて腰振って、オマエしか知らないデカい声で喘いでもやれる。
    だからやめろ。私の我慢もそろそろ振り切れそうなんだよ――

    黒服『姫神秋沙――』

    麦野『(…何だ、コイツら?)』

    そんな病的な愛情を弄んでいると――その巫女服女の周りに黒服が集まって来た。
    当麻に危害を及ぼすなら店ごと吹き飛ばしてやると身構えて――

    そして、何事もなく終わった。少なくとも『私にとって』は

    699 = 468 :

    ~5~

    ステイル『久しぶりだね上条当麻。君の顔など二度と見たくなかったんだがな』

    上条『ステイル…ステイル=マグヌス!?』

    ハンバーガーショップの一件後、ずーっと今の私より低いテンションで考え込んでた当麻に客が来た。
    客は客でも招かれざる客、私の大嫌いな煙草臭い赤毛神父だ。
    私が殺し損ねたクソ疫病神。今度はどんな厄介事持ち込んで来た。
    そう思いながら玄関先の二人の会話に私は興味ないフリして耳を立てていた。

    ステイル『…神…沙』

    上条『三沢塾…?』

    麦野『(…私、何でここにいんだ?)』

    会話の内容は昼間の巫女服女がどこぞの学習塾に監禁されており、それに魔術師が絡んでどうのこうの…
    くだらねえ。んなもんとっくに穴って穴に突っ込まれた後だよ。
    男の性欲半端ないからね。そう言えばインデックス来てから私達交わしてない。
    おいおい。もしかして私の苛立ちって欲求不満が原因かにゃーん?クソッタレが!

    上条『その娘を助ける手伝いをすりゃいいんだな?』

    麦野『(おいおい)』

    何私の頭越しに話進めて決めちゃってくれてるの?
    なあ当麻。私はオマエの何?彼女じゃないの?どうして一言も相談してくれないの?ねえ?

    上条『――悪い沈利、ちょっとインデックスを頼む』

    麦野『――好きにしたら?但しこれだけは言わせてもらう』

    もう私は頭に来ていた。インデックスの時は例外中の例外だ。
    私はアンタを危険に晒すくらいなら何人だって見殺しにするし見捨てるし見限る。
    だけどさ…何で全部事後承諾事後報告なの?もういい加減にしてよ。

    麦野『――私はベビーシッターじゃねえんだよ』

    上条『………………』

    麦野『行きなよ。どこへなり勝手にさ』

    どうして、私について来いって言ってくれないの。

    私、アンタのためなら世界中の人間と戦争だって出来るのに。

    何で私、こんなにヒドい事言ってるのに怒ってくれないの?

    そんなに悲しい顔で微笑まないでよ。それは私が大好きなアンタの笑顔じゃないよ。

    ――当麻――


    上条『悪い…俺、行ってくる』


    そう言って閉ざされた部屋のドア。

    その数時間後だった。

    私は人生最大の後悔と失敗に晒された。

    当麻が、瀕死の重傷を負わされて

    カエルみたいな顔した先生の病院に担ぎ込まれたって――

    700 = 468 :

    ~6~

    麦野『………………』

    右腕切断、銃創多数、出血多量…駆け付けた病院でベッドに横たわる当麻。
    もう私は言葉にならなかった。言葉に出来なかった。あまりの絶望感に。
    ベッドの側に置かれたパイプ椅子から身体が動かない。足が立たない。

    麦野『…ざまあないわね』

    カサついた唇が、握り締め過ぎて真っ白になった指が、絞り出した声が震える。
    この時、私の頭の中を占めていたものは殺意と憎悪と絶望だった。
    それは当麻をこんなにしたヤツなんかじゃなかった。

    麦野『…おいおい。私は誰を笑えばいいんだ』

    それは私だ。優しい当麻に甘えていつまでもぶすくれてた救いようのないバカ女。
    インデックスに嫉妬して、最後の会話になりかけた送り出しの言葉を当て擦りのイヤミで台無しにしたクソ女。

    麦野『馬鹿だよ…アンタ』

    馬鹿はテメエだ麦野。クソはオマエだ沈利。頭空っぽはアンタだよ。
    なあ、私がこうなれば良かったんだよ。当麻の代わりに私がボロボロになれば良かったんだ。
    私にはもう代われるものなら代わってあげたいなんて思う権利すらないんだ。

    麦野『馬鹿だ馬鹿だとわかっちゃいたけどさ…つける薬もない馬鹿よ』

    涙が溢れて、零れて、落ちて、流れて、止まらない。
    謝りたい。謝りたい。あれを最後の言葉に、最期の会話になんかしたくないよ当麻。

    麦野『ああ…もう』

    見た事も信じた事も祈った事もない神様にお願いしたい。
    私の体も命も心も魂も全部全部くれてやる。足りないならそれ以外だってなんだって構いやしないから。

    麦野『…頼むよ…本当にさあ…!』

    奪わないで。当麻を私から奪わないで。連れて行くなら私にして。
    私が死んで当麻が死ぬなら喜んでそうするから。
    だから当麻を救い出して。私に助けになれる事なら何でもするから

    麦野『うっ…うっうっ…うううぅぅ…!』

    この日、夜明けまで泣き続けた馬鹿な女が一人いて

    過呼吸寸前のパニック状態にブッ倒れたクソ女が一人いて

    そこから死に物狂いで立ち上がって、同じ事を繰り返したアホ女が一人いて

    その救いようのないクソ馬鹿が選んだ道は、より頭の悪い選択だった。



    ――上条当麻のパートナーになる事――



    ――それが、この救いようのない私が選んだ、一人だけの戦争――


    ←前へ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 次へ→ / 要望・削除依頼は掲示板へ / 管理情報はtwitterで / SS+一覧へ
    スレッド評価: スレッド評価について
    みんなの評価 : ★★
    タグ : - 麦野「ねぇ、そこのおに~さん」 + - フレンダ + - ヤンデレ + - 上条 + - 佐天 + - 滝壺 + - 絹旗 + - 美イン + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。

    類似してるかもしれないスレッド


    トップメニューへ / →のくす牧場書庫について