元スレ麦野「ねぇ、そこのおに~さん」2
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551 = 468 :
黒夜「!?」
フレンダ「?!」
その時、渇いた銃声が地下立体駐車場に響き渡った。
「フーレンダー…なーに自己犠牲の精神に満ち溢れたヒロイン面してるのかにゃーん?そのやり遂げた感が見てらんないっての」
パラパラと天井に向けて放たれた銃弾。同時にそれに対し興味をなくしたかのように放り投げ、床面に滑るように打ち捨てられた。
「おいおい。お前ん所の下っ端連中、こんな安物しか持ってねえのか?腕が悪いんならせめて装備くらいは金かけろよ」
地下立体駐車場の入口から吹き込む風に優麗な栗色の髪を靡かせ、逆光の中浮かび上がるシルエットに見覚えがあった。
フレンダ「ど…して…が…こに…い…訳よ」
「どうしてはこっちの話よフレンダ。どうしてあんたの妹が狙われてるんだとか、なんでうちのガキが巻き込まれてるんだとか…とりあえず全部話してもらうまで勝手に死ぬなよ?」
コツコツ…カツカツとヒールを鳴らして進める足がちょっと太目なのを気にしている所だとか…
実は下着が寒そうなくらいスケスケでセクシー系なのだとか…
そんなくだらない事ばかり思い出す。ついさっき彼女が引退した時の事を思い返していたばかりだと言うのに
黒夜「おいおい。人の頭越しに話進めてんじゃ――」
「顔じゃねえんだよ。新入生(ガキ)」
その歩みには淀みはない。迷いはない。最初から敵など存在しないように。
不貞不貞しいまでの傲岸不遜さの尻馬に乗っかる事で、どれだけ頼りにして来ただろう。
「帰るよフレンダ。地べたに捧げるキスの味はいかが?」
死にかけている人間にかける言葉じゃない。性格と口の悪さも変わらない。
きっと墓場に持って行くまで変わらないキャラクター…でもおかげで、自分が入る墓場は遠退きそうだと…
フレンダは黒夜の靴底に踏みにじられながら、力無く微笑んだ。
フレンダ「口直しは…麦野の熱いヴェーゼが良い訳よ…」
麦野「残念。私が許す唇は当麻だけよ」
今も昔も、変わらぬリーダー(麦野沈利)に向けて
552 = 468 :
~第十五学区・地下立体駐車場~
黒夜「カッコイいー!!」
パチ、パチ、パチとおざなりな拍手を持って出迎えるは黒夜海鳥。
それを白けた表情で見やり、呆れたような溜め息を吐き出すは麦野沈利。
両者に挟まれるようにして地に倒れ伏すはフレンダ=セイヴェルン。
卒業生(元暗部)と新入生(現暗部)。その顔合わせが仄暗い地下とは御誂え向きだなと誰ともなしにそう感じた。
黒夜「“やられ役”の連中からこの殺傷領域を聞き出したか?それとも経験則からの作戦区域を割り出したか?アイツらの手足を2、3本でも切り落として?」
麦野「当たりで外れ。切り飛ばす手足が残るような温いやり方しねえよ“新入生”」
黒夜「聞きしに勝るイカレ具合だ…新入生って単語を知ってるって事は、私の代わりに使えない部下共を片付けてくれてありがとうと礼を言うシーンかね?」
麦野「使えない部下を持つのはお互い様だけど、私の部下(フレンダ)からその趣味の悪いブーツどけろ」
ゾワリ…
黒夜「(こっちのヤツとはモノが違うな。けれど私達の目標はオマエじゃないし、私の目標はアイツなんだよ)」
その一言は、麦野にしてはらしくないほど強い力の込められていない声音だったが…
黒夜は自分と同じ…汚濁を塗り込め、汚辱を塗り潰し、汚泥を塗り固めた『優れた闇』の匂いを麦野に感じ取る。
だがフレメア=セイヴェルン、絹旗最愛に比べれば黒夜のモチベーションを引き上げるにはいたらない。
黒夜「いいよ。返してやるのを考えてやってもいい。その代わりこっちの質問に答えてもらおうかい」
麦野「………………」
黒夜「で、アンタ何なの?」
背負ったイルカのぬいぐるみを無意識に撫でたくなる。
それは思わぬ闖入者に対して感じたストレスを軽減するのと、思わぬ乱入者に対する迎撃の前準備でもある。
553 = 468 :
黒夜「アンタらを縛る暗部組織の構造は消えたんだぜ?そもそもアンタはいのいちに抜けた人間だろ?それを何でわざわざ噛み付いてくる」
黒夜はせせら笑いながら問い掛ける。オマエはこっち側の人間か?それとも向こう側の人種かと。
麦野は暗部解散前に引退している。その上で手にした生活…
そう、黒夜からすれば日和ったぬるま湯のような安穏と平穏を享受し謳歌しているはずだった。
黒夜「元仲間を助けにかあ?引退して丸くなったってか?なあ、そんなお綺麗な生き方が、さんざドブさらいして来た私達に出来るとか思い上がってんじゃねえぞ!」
フレンダの事、フレメアの事、アイテムの事…
それら全てを見殺しにするでなく、見捨てるでなく、ただ見過ごすだけでぬるま湯に浸かっていられるはずだ。
何故わざわざ割に合わないリスクにリターンもなく首を突っ込んでくるのかと黒夜は問い掛けているのだ。
足元に平伏すフレンダの後頭部を軽く踏み鳴らすようにしながら
黒夜「未練ったらしい。惨めったらしい。嘴挟んで来るなら余所の餌場漁りなよ。私はお前に興味が」
ズギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
麦野「おい」
黒夜「…!」
麦野「私は“フレンダ”を“返せ”って言ったよな?」
言い終わるより早く、黒夜の耳回りの金糸の髪を掠めるように放たれる光芒。
それは地下立体駐車場の闇を切り裂き、黒夜の後方に控えていた駆動鎧の、コックピット部分を射抜いて――
麦野「私は“お願い”しに来たんじゃねえんだよ――新入生(ガキ)が」
554 = 468 :
ゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ…!
次の瞬間、黒夜は信じがたい光景を目の当たりにする。
フレンダ「うっ…麦…」
麦野「フレンダ」
黒夜の足元に転がされていたはずのフレンダが…麦野に抱きかかえられていたのだ!
黒夜「―――!!?」
既に麦野は黒夜を『見て』いなかった。相対する黒夜は一瞬たりとて麦野から目を切っていない。
なのに…存在の消失した靴底の空虚感は、そのまま麦野の両腕の中に…!
黒夜「(どういう事だ!?アイツの能力は粒機波形高速砲…空間移動の能力なんてあるはずがない!デュアルスキルは存在しないんじゃ…いや、待てよ?)」
書庫(バンク)で確認した麦野沈利の能力は『原子崩し』一つきりのはず…
しかし、この時黒夜の脳裏をよぎったのは…あの『暗闇の五月計画』。
学園都市第一位、一方通行(アクセラレータ)の演算方法の一部を植え付ける計画。
そのプロジェクトに他ならぬ最強(アクセラレータ)のデータを提供した…顔にトライバルのタトゥーを彫り込んだ異相の科学者の顔。
木原『0次元の極点か…こいつの“切断方法”さえわかりゃあなあ…あークソッ。どっかにサンプルねえか?こんなクズ共(被験体)じゃなくてよおー』
一方通行のデータをプロジェクトに貸し与えながら、独自の理論体系の構築に頭をかきむしりながら…
そう独語しながら自分達を出来の悪いモルモットのように見下ろして来た科学者…
何故今になって思い出す?そう黒夜の思考が一瞬逸れたその瞬間――
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
555 = 468 :
『原子崩し』により撃破された駆動鎧が、背負ったバッグパックから次々と予備の砲弾や銃弾を引火させ…
さらに爆発は地下立体駐車場に駐車されていた無数の車両を巻き込んで誘爆する!
加えて『原子崩し』の一撃がこの地下立体駐車場の基幹であり、ビルの支柱の要ともなる構造部分を破壊する。
つまり…組み上げられたジェンガの抜いたら崩れるパーツを打ち崩したのだ。
ズドドド…ゴゴッ…ガガガ…!
麦野「ベッドには向かないけど、カンオケには上等でしょ?」
崩落し始める地下立体駐車場。倒壊し始めるビル。
雨霰と降り注ぐ瓦礫と、舐め尽くすように広がる火の海の中、麦野はフレンダを抱えながら言い放った。
熱を感じさせない声音、されど浮かぶは妖絶な狂笑。
麦野「入学祝いだ、受け取りな“新入生”」
黒夜「―――!!!!!!」
ゴシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
そして瓦礫が全てを飲み込み崩れ落ちて行く中、麦野沈利は飛び出した。
フレンダを抱え、空が落ちてくるような質量を『原子崩し』で薙払い、道を切り開いて脱出した
それは紛れもない宣戦布告
それは疑いようもない開戦の狼煙
休息を終えた戦士が舞い戻るように
麦野沈利は戦場へと帰還した。
556 = 468 :
とある星座の偽善使い(フォックスワード)の者です。
たくさんのレスをありがとうございます。ネタや刺激をいただき、いつも助けられております…
投下時間はだいたいいつもの21時頃に戻せそうです…それでは失礼いたします
557 :
おおおおおお乙です
むぎのんかっけぇ…
558 :
素人の俺が言うのもなんだが、最初の頃(とある星座の偽善使い)に比べて、格段に文章がうまくなったなあ。
非常に次が楽しみです。
559 :
おいおい、、、上麦こそジャスティスだと俺に教えてくれた偽善使いが復帰してるなんて夢か・・・
上麦と言えば、偽善使いだね。とあるSS神の4強・神の右席のうちの一人だよ。マジで。
読むの勿体ないな・・・ ちょっと、気分落ち着けてから読むよ。これからの執筆活動超期待してます。
560 :
むぎゅううううううううううううううう
561 :
とある星座の偽善使い(フォックスワード)の者です。
本日の更新はお休みです…明日投下させていただくと思います。では失礼いたします…
562 :
復活してる上に前よりパワーアップしてる…その上新約とか。インさんミコトにフレンダ生きてるとか先が予想できんWWWWWWWWWWWWWWWW
563 :
おいおいイコールスピードさんでてんじゃねェかよ
564 :
本当にイコスピさんが好きなんだなぁw
565 = 563 :
>>564イコールスピードは頑張ればレベル4には勝てる
566 :
イコールスピードさんとプールで水掛け合いっこしたいお
567 = 563 :
>>566 やめとけ やめとけ
水に能力発動したらプール内の人まじで真っ二つになるw
ちなみに座標殺しと偽善使いはどういう感じにつながってるの?(時系列的な感じで説を)
568 :
>>567
はい。わかりづらくて申し訳ありません…以下の通りになります。
※禁書目録編(偽善使い最終章)
↓
※第三次世界大戦(ここから半年以上経過)
↓
※異端宗派(グノーシズム)襲来(座標殺し最終回、七月七日)
↓
※結標淡希・白井黒子が軍艦島に消える(空間座標最終回、八月十日)
↓
※フレメア=セイヴェルン登場(新約偽善使い。十一月)
本編からぴったり一年遅れで『新入生』事件が起きている設定になっています。
座標殺しスルーでも本編には一切影響はありません。
そして、本日の投下はいつもと同じ時間21時になります。それでは失礼いたします…
569 :
上条さんは高2ってことでいいのか?
570 = 468 :
~第十五学区・路地裏の迷宮~
禁書目録「はっ…はっ…はっ」
インデックスはフレメア=セイヴェルンを抱きかかえて細く狭く曲がりくねった路地裏を直走る。
そう、彼女は脱出に成功したのである。フレンダ=セイヴェルンが文字通り命懸けで紡いだ綱渡りの道筋を。
禁書目録「こっ、ここまでくればもう大丈夫かな?追いかけっこは久し振りかも…」
ズルズルと路地裏のポリバケツを背もたれにインデックスは座り込んだ。原因は息切れとスタミナ切れである。
禁書目録「ご飯いっぱい食べて来て本当に良かったんだよ…あれがなかったら捕まってたに違いないんだよ」
如何な10歳未満の小柄な少女であろうとも、さほど年嵩に隔たりのないインデックスの膂力で抱えて逃げ回るには荷が勝ちすぎた。
ステイル=マグヌス、神裂火織の追っ手をかいくぐってきた頃は身一つの空手であった。この差は大きい。
禁書目録「…ふれんだ…」
そして今ひとたびはフレンダの捨て身があったからこそだ。
インデックスはその生み出された間隙を縫って逃げおおせた。
そして飛び出した先ですれ違い入れ違ったのが麦野沈利だとインデックスは知らない。
禁書目録「(この先どうすれば良いのかな?お家まで遠いんだよ…しずりからもらった“いちまんえん”でどこかいけないかな?)」
デートに出たはずの麦野、お留守番していたはずのインデックス…
二人は地下立体駐車場の乗り入れ口でタッチの差で巡り会わなかった。
麦野からすれば観光バスに偽装した特殊工作車から引っ張り出したフレメアの所在確認と、無線の中にあった『白服の修道女』というキーワードを確認すべくあの場にいたのだが――
その先で事切れんとしていたフレンダを見つけ出したのはまさに僥倖と言って良い。
禁書目録「(とうまにもしずりにも電話も繋がらないし、ちょっぴり心細いかも)」
571 = 468 :
御坂美琴が察知した暗部組織の妨害電波はかなりの精度でこの周辺一帯の通信機器を麻痺させていた。
少なくとも市販の携帯電話ではどうにもならない。
今やインデックスは孤立無援に等しい状態になっていた…が。
フレメア「スー…スー…」
禁書目録「でも、諦める訳にはいかないんだよ」
自分の腕の中にある命の重さが、インデックスの意思と意志を確かなものとする重石になっていた。
重なるのはかつて追われる身であった頃の自分自身。
そんなインデックスを助け出したのが麦野、救い出したのが上条だった。
禁書目録「そうだよね?とうま、しずり」
考えてみるならば、人は一部の例外を除いて誰だって戦いたくなんてない。
傷つける事の恐ろしさ、傷つけられる事の怖ろしさ。
人の歴史を闘争の歴史と仮定するならば、それを紡ぐペンは人骨でありインクは血。
そうやって書き下ろされた十万三千冊の魔導書がインデックスの頭の中にはある。されど
禁書目録「二人だってきっと…私と同じ事をするに違いないんだよ」
手持ちの札は魔導書の知識、歩く教会、お昼ご飯代にもらった一万円札、そして揺るがぬ精神。
これだけ揃えたならショウダウンせねばならない。
僅かな手札でコールをかけたフレンダのように。そして
禁書目録「とりあえず、隠れる所を探すんだよ!」
いつだって一枚切りのカード(幻想殺し)で鬼札達に立ち向かって来た少年、上条当麻の背中をインデックスは知っている。
その記憶は、十万三千冊の魔導書にだって記されていない…
『誰かを助けたい』という、誰かと戦いたい人間より遥か多くの人々が持ち得る思いと共に――
572 = 468 :
~第十五学区・ハイウェイ~
滝壺「ふれんだ。しっかりして。大丈夫だよ、もう大丈夫だよ。みんないるからね」
浜面「麦野!繋がったか!?」
麦野「ダメ。ジャミングが強過ぎる。このまま『元』第七学区の病院まで飛ばして。そこにいるカエル顔の医者が腕がいい」
絹旗「(傷が超深いです…でもこの傷口、超どこかで見覚えが…)」
一方その頃…黒夜海鳥の魔手よりフレンダ=セイヴェルンを救い出した麦野沈利が地下立体駐車場を飛び出したのと…
滝壺理后の『能力追跡』によって辿り着いた『アイテム』が鉢合わせたのはほぼ同時であった。
双方ともに一も二もなく浜面仕上の運転するワゴン車に乗り込み目指す先は冥土帰しのいる病院。
麦野「いいタイミングだったよ絹旗。一手違いでなんとか望みが繋がりそうだ」
絹旗「――超同感です」
運転席に浜面、真ん中の席には絹旗最愛と麦野、後部座席に滝壺がフレンダを膝枕にしピンク色のジャージでくるんでいた。
フレンダも弱々しい吐息を荒げながら苦しげに呻いている。
その様子を振り返り、新旧リーダーは顔を合わせる。
絹旗「だいたいの事情は超把握しました。追われてるのはフレンダの妹、そのフレメアって娘が昔超浜面がいたスキルアウトのリーダーの知り合い、そう言う事ですよね?」
浜面「ああ…舶来…駒場のリーダーがそう呼んでた。まさかあれがフレンダの妹だったなんてな」
麦野「私だって本当にいるなんて思ってなかったわ。こんな事にならなきゃね」
ハンドルを握り締めながら浜面の前を見据える眼差しが険しくなる。
駒場利徳。学園都市に反旗を翻そうとして道半ばで倒れたスキルアウトのリーダー…浜面の仲間。
その忘れ肩身とも言うべき少女に絡んでの今回の騒動。
それに対し…息も絶え絶えなフレンダが滝壺の膝から手を伸ばすように
573 = 468 :
フレンダ「…結局…麦野は…頼りになるって…訳よ」
麦野「しゃべんなフレンダ。黙って寝てな」
フレンダ「ごめん…ごめん…結局、麦野も…あのシスターも…巻き込んじゃった…訳よ」
麦野「………………」
フレンダ「麦野…私達じゃ手に入らなかった…大好きな人…大切な暮らし…『闇』から抜けられたのに…私の…せい…って訳…」
麦野「私の心配より自分と妹の心配しなよ。あんたそんなキャラじゃないでしょ。それにさ」
見捨てられなかった、などと口が裂けても言葉にしたくなった。
これは麦野の中での『偽善』なのだ。自分の都合で暗部を抜けた自分が…
今もまた自分の都合で首を突っ込んだとそう言いたいのだ。だから
麦野「…落っこちてるもんがあると、拾いたくなるんだよ。どっかの馬鹿の貧乏性が移ってさ」
フレンダ「…むぎ…の…」
麦野「それだけ。この話はこれでおしまい」
気遣うフレンダに対しに麦野はヒラヒラと手を振っていなした。
感謝される筋合いなどない、そう言外に言っているのだ。
麦野「後は黙って病院のベットでサバ缶でも食べて待ってなさい。面倒見てやるよ。あんたの妹の分まで」
上条と出会う前の麦野沈利を知る者なら愕然とするだろうが、これもまた、第四位という人物を示すパーソナリティーの変化である。
574 = 468 :
絹旗「…麦野、やっぱり超変わりました?」
そう…黒夜海鳥に指摘された通り、セイヴェルン姉妹の一件に首を突っ込まなければ麦野は上条とのデートの続きに戻れただろう。
もっとも効率的に考えれば関わり合いにならず、自分の事だけ考えていれば平穏無事なままでいられた。が
麦野「馬鹿ってさ、伝染るんだよ。死ななきゃ直りそうもなくて」
絹旗「…馬鹿って、私の思ってる浜面以上の超馬鹿の事ですか?」
麦野は出会った、出逢ってしまったのだ。こんな時いの一番に飛び込んで、誰一人見捨てられなくて何一つ手放そうとしない男…上条当麻に。
浜面「さりげなく人を馬鹿にしてんじゃねえ!傷つくだろうが!」
滝壺「はまづら。前向いて運転して。ふれんだに障っちゃう」
そんな男を知ってしまっているから。誰より近くに、誰よりも深くに、誰よりも側に、麦野はその男を感じている。
誰も助けられない善より、誰かを救える偽善を選ぶ…そんな偽善使い(フォックスワード)を
麦野「人の旦那捕まえて馬鹿とは言うようになったじゃない絹旗。太いのブチ込んでやろうか?」
絹旗「太さ大きさには超興味ないので遠慮しますよ。先に馬鹿って言ったの麦野じゃないですか」
麦野「私はいいの。私は」
新入生達の思惑は未だ不鮮明で、この事件の先行きは更にに不透明だ。
だが麦野は上条へのコールを鳴らさない。これは暗部の戦いだ。
上条が知れば激怒するに違いない…が、全ての『闇』は自分の所で止める。
フレメアを助ける。インデックスを救う。両方やらなくてはいけないのが元リーダーの辛い所だ。
悔いはない。やむを得ない。覚悟は出来ている。既に。
麦野「(私よりインデックスが心配だね…当麻と連絡がつかないのが痛いな)」
布告は為され、火の手が上がる。祈る神を持たぬ者達の聖戦が――
575 = 468 :
~第十五学区・繁華街~
上条「(どこだ!どこなんだインデックス!)」
上条当麻は火の手があがったビルディング周辺から繁華街へと駆け抜けて行く。
麦野への、インデックスへの電話が繋がらない。
それが暗部の作戦行動に起因する妨害電波だと上条は気づかない。しかし
上条「(また魔術師の仕業なのか!?)」
この時の上条の思いは幾許かの真実を捉えていた。
『新入生』を名乗る新体制の暗部が再編されたのは、魔術サイドの蠢動と魔術師達の胎動も理由の一つである。
だが現時点でフレメア=セイヴェルンの存在を知らず、血染めのウィンプルだけを手掛かりにインデックスを探し回る彼はそこまで頭が回らない。
これが『地続き』なのか『新しい』戦いなのかまでは。すると
「ちょっとアンタ!待ちなさいよ!」
上条「!?」
掻き分ける人混み、駆け抜ける人波の彼方から呼び掛けて来る声色。
聞き覚えがある。ロシアの時ほど切羽詰まっていない、されど耳慣れた声音。
上条「ビリビリか!?インデックスを見なかったか?!」
御坂「えっ!?アンタの所のシスター?み、見てないけど…」
上条「インデックスが誰かに浚われたかも知れないんだ!ケータイにも出ないし、沈利にも繋がらねえんだ!」
御坂美琴である。第三次世界大戦後、もはやお約束とさえなっている『勝負』の声はかからなくなったが…
つい呼び止めてしまったのは、条件反射ないし脊髄反射のようなものなのだろう。
しかし予想以上に切羽詰まった声音に、御坂はややたじろいだ。
御坂「ちょっ、ちょっと待って!アンタまた何かに巻き込まれてるの!?」
御坂がそう言うのには理由がある。麦野と黒夜の交戦により倒壊したビルディングの騒ぎに白井黒子は飛び出していった。
それと入れ違いのタイミングで現れた上条からインデックス行方不明の報を聞けば想像の翼を羽ばたかせる余地は十分にある。
上条「わからねえ…けどまたなんか起こってる気がするんだ。御坂!インデックスを見かけたら電話してくれ!じゃあ俺急ぐから!!」
御坂「ちょっ…ちょっと!」
そう言い放つと上条は再び雑踏の中へと消えて行く…しかし。
576 = 468 :
御坂「………………」
御坂はその背中を負えない。回り込んで立ちはだかる事も出来ない。腕を伸ばして引き止める事も出来ない。
御坂「っ」
あの背が預けられるのは、自分が勝負の土俵にすら立てなかったあの女だけだと。
挫けてしまう。折れてしまう。屈してしまう。格付けを済まされてしまった気さえするのだ。
御坂「私が…私が!」
私がアンタの特別(麦野)だったなら…私は置き去りにされずその腕を取られただろうか?
常盤台のエース、第三位、超電磁砲…有した最強の電撃使いという立ち位置さえも、御坂にとって『最悪』だった。
御坂「馬鹿!アンタなんて知らないんだから!!」
御坂を修飾する肩書きに拠らず対等に見てくれると言う美点。
しかしそれは裏を返せば肩書きを頼ってもらえないという事。
一人の人間として認められる反面、レベル5の能力者としてあてにされないという事なのだ。
上条がもう少しなりふりかまわず他人に助力を乞える人間だったなら、この時御坂の手だって借り受けたかも知れない。
ある意味、上条の美徳とされる点全てが…御坂の立ち位置を定めてしまっているのかも知れない。御坂「何よアイツ!あんなヤツ…あんなヤツ!」
が…御坂美琴は当然の事ながら己が能力を熟知している。
通信機器が麻痺しているこの周辺部に置いてさえ…それが妨害『電波』ならば…
御坂「ギャフンと言わせてやるわ!!!」
そこで御坂は歩道から抜け出し、並木道の側にある電話ボックスに入り…こじ開ける。
脳神経の束のように連なる電話回線の基盤の開閉蓋をこじ開け、手指を当てて
御坂「(見つけだす…探し出す…)」
学園都市中の監視カメラ、監視システムに侵入しハッキングする。
何百通りという痕跡を求め、何千通りという足跡を追い、何万通り追跡を続ける。
昆虫の複眼にも似た情報処理を同時並列で行う。
学園都市230万人の第三位の頭脳はそれを可能とする。
御坂「(絞り込めた…第十五学区内。ここからそう遠くないわ)」
初春飾利の手は借りない。御坂は風紀委員ではないし、ましてや先程のビルディングの一件でスクランブルがかかっていると思って良い。
この学園都市の中にあって、滞空回線にこそ及ばないもののウィザード級の電子戦を御坂は展開出来る。
そしてついに…御坂はインデックスの所在地を突き止める事に成功した。
――しかし――
御坂「何よ…これ!?」
577 = 468 :
~第十五学区・廃ビル~
フレメア「………………」
フレメア=セイヴェルンが意識を取り戻した時、そこはがらんどうの違法建築ビル群の一室であった。
寝ぼけ眼で見渡す室内はコンクリートの打ちっ放し、自身の身体には広げられたダンボールが敷かれており…
禁書目録「気がついた?」
フレメア「…インデックス?ここは?大体、どこ?」
禁書目録「どこかのビルなんだよ。私にもわからないかも」
その傍らにはインデックスが居り、横たわるフレメアを覗き込んでいた。
耳は聞こえる。鼓膜も破れていないし、聴力にも異常はない。しかし
フレメア「フレンダお姉ちゃんは?」
禁書目録「………………」
フレメア「フレンダお姉ちゃんは!?」
フレメアが察した異常は姉フレメアの不在である。
フレメアは砲撃の余波によって気絶したため、フレンダのその後を知らない。しかし
禁書目録「ふれんだは…ふれんだは、先に行ったんだよ!ここには後で迎えに来るからって!私達は隠れてるんようにって!」
フレメア「…本当?」
禁書目録「シスターは嘘をつかないんだよ?」
もちろんそれは嘘である。フレンダの生死など答えてくれる人間がいるならばインデックスの方が問い掛けたい。
だがインデックスはフレメアを不安にさせる真実より、フレメアを安心させる幻想を語ってみせた。
心中で神に許しを乞いながら。だがしかし
フレメア「嘘だ!!」
禁書目録「!」
慣れない嘘など容易く看破されて当然だった。
人は己すら欺けない嘘で他人を信じさせる事など出来はしない。
自分のついた嘘を自分で信じられる程度に『大人』にならなければ。
当然、大人でもなんでもないインデックスにそれは無理だった。
禁書目録「う、嘘じゃないんだよ?ふれめあ、聞いて。ふれんだは本当に――」
フレメア「やだよ!本当の事教えてよ!」
禁書目録「――――――」
フレメア『フレンダお姉ちゃん、あの時と同じ目してた!私とお別れした時と同じ目!駒場のお兄ちゃんと同じ目!みんなみんな、私の前からいなくなっちゃった時の目!!!」
禁書目録「…ふれめあ…」
578 = 468 :
そしてフレメアもまた子供だった。正しく子供であった。
フレメア「大体、どうしてみんな私の前からいなくなっちゃうの?どうしてみんな大事な事私に隠すの?」
正体不明の能力者、八本脚の駆動鎧と立て続けに襲われ…
フレメア「みんな背中を見せて本当の事言ってくれない!!みんな嘘つき!みんな嘘つき!!みんな嘘つき!!!」
自らの命の危機のみならず、それは生き別れた肉親の別離…永別とすらなりかねない『失う』恐怖。
フレメア「お姉ちゃん…お姉ちゃん…フレンダお姉ちゃん…嫌だよ…こんなのないよ…やっと会えたのにこんなのないよ…!」
禁書目録「(…この娘は…)」
重なる。相反する姿形ではない。それを何者かを失う絶えざる恐怖に耐えうる重圧。
禁書目録「(私と同じなんだよ)」
フレメアにとってそれは既に失われた駒場利徳であり、今喪われつつあるフレンダだ。
対するインデックスはどうであろうか?紛れもなく上条当麻である。
禁書目録「(帰りを怯えながら待つ事しか出来ない、私と同じなんだよ)」
好きな人が、恋しい男が、愛しい者が、戦地に赴く背中しか見送れない。
意を決して回り込んだ立ちふさがり、意を正そうにも彼等は口を閉ざす。
ただこちらを諭すだけだ。『大丈夫だ』と、『心配するな』と、笑顔のままで。
禁書目録「(同じなんだよ。今の私と、それから――)」
自分のために涙を見せず、誰かのために笑顔を見せる。
それが大人への第一歩と言うならば、待つ事を是とせず耐える事を否とした女性を…インデックスは知っている。
禁書目録「(――あの時のしずりと――)」
579 = 468 :
~回想・八月九日~
麦野『………………』
禁書目録『しずり…しずり』
八月九日。麦野沈利とインデックスは冥土帰しの病院にいた。
時刻は既に夜半をとうに過ぎ、それでも尚麦野は片時も離れようとしなかった。
禁書目録『とうまはもう大丈夫なんだよ…このままじゃしずりが倒れちゃうかも』
麦野『………………』
禁書目録『しずり、ごはん食べてる?おトイレ行ってる?ちゃんと寝てる?』
麦野『………………』
禁書目録『…しずり…』
上条『――――――』
三沢塾における姫神秋沙監禁事件、アウレオルス=イザードとの死戦。
麦野が評する所の『タバコ臭い赤毛デカ物』ステイル=マグヌスと共に死地に赴いた上条当麻の状態は暗澹たるものだった。
麦野『…本当に…』
暗器銃による致命傷の銃創、右腕切断による致死量の出血。
いずれも生きているのが不思議なくらい重傷で、死んでいて当たり前なくらい重体であった。
麦野と出会って都合四回目の入院…しかも今回は、麦野のいない所で起きた事態であった。
麦野『…本当にさ、コイツったら馬鹿だよねえ…』
禁書目録『………………』
麦野『誰か助けに行って、彼女(わたし)泣かせてたら意味ないじゃん』
禁書目録『(…しずり…)』
麦野『今度から鎖でふん縛ってやろうかと思うわ。本当に。二度と馬鹿な真似が出来ないように』
麦野に絡んで二回、上条は生死の境を彷徨っている。
インデックスに絡んでは右腕があわや再起不能となる所だった。
自分の最愛の恋人が死の淵に溺れかかって平気でいられる女などいない。
それはインデックスにとっても同様であった。
麦野『今までもこうで…これからもこうかと思うとさ』
禁書目録『…危ない目にって事?』
麦野『そう。不幸だ、不幸だ口癖みたいに言ってるけど悪運だけは人の二十人前持ち合わせがあるよコイツ。でもいつもいつも都合良く死神が居眠りしてる訳ないっての』
麦野沈利は知っている。人の命がどれだけ軽く、安く、脆く、儚く、弱く、小さいかを誰より知っている。
それは麦野が暗部だからだ。数限りない死を食事を取るように撒き散らして来た側の人間だからだ。
人は呆気ないほど、時に素っ気ないほど簡単に壊れる。
上条のような戦い方をしていては一つきりしかない命をダースで運んで来たって間に合わない。
580 = 468 :
麦野『…クソガキ…』
禁書目録『…なあに?』
麦野『今日はもう遅いから先に帰りな…私も朝には帰るから』
禁書目録『………………』
麦野『…一人にさせて…いえ、当麻と二人にさせてちょうだい…』
禁書目録『…わかったんだよ…』
そう言って、インデックスは病室に麦野を残して廊下に出る。
そして…ズルズルと扉を背に座り込んでしまった。
ただひたすらにやるせない思いは、インデックスから力を奪った。そして
『うっ…ううっ…うううっ…』
扉一枚を隔てた内外から、どちらともなくしゃくりあげる嗚咽が響き渡る。
歯を食いしばり損ねた喉から湧き上がる低いそれは、涙を振り絞るようだった。
十万三千冊の魔導書の知識が、学園都市第四位の能力が、何の意味も為さない現実。
この日、麦野沈利は『アイテム』を引退した。
その流した涙の理由、秘めた決意の強さを知る者は誰もいない。
上条当麻を除いて、誰一人
581 = 468 :
~第十五学区・廃ビル~
禁書目録「ふれめあ」
フレメア「………………」
禁書目録「聞いて欲しいんだよ」
そう、自分達は微力で非力で無力な存在だった。
『歩く教会』は自分の身一つしか守れはしない。
『dedicatus545』…献身的な子羊は強者の知識しか守れはしない。
自分を守る事、誰かを護る事、一回きり助ける事、一度ならず救い続ける事…
みなそれぞれ違う角度と異なる深度を持つ。それをあの日の夜に思い知らされた。
禁書目録「ふれんだは、ふれめあを助けるためにあそこに残ったんだよ。私に、ふれめあを連れて逃げてって言ったんだよ」
インデックスは語る。地下立体駐車場での戦いの真実を、フレンダが捨て身であの場に残ったという事実を、そして今も自分達は追われる身なのだという現実。
フレメア「でも、それじゃフレメアお姉ちゃんが…それに、大体、あんなの襲われたらフレンダお姉ちゃんだって…!」
禁書目録「死なないんだよ!!」
インデックスはフレンダ=セイヴェルンという人間を麦野の仲間である事以外あまり知らない。
フレメア=セイヴェルンでさえ、迷子になっていた所を導いたに過ぎない。
それでも…インデックスは感じた。フレメアを逃がそうとする瞬間…
フレンダの中にある『死を賭してでも貫きたい何か』を。
禁書目録「待ってる人がいる人は、絶対に死んじゃったりしないんだよ。死なれたりする悲しさを、今のふれめあみたいに知ってるんだよ」
それは全てを助けようとする上条当麻、上条当麻を救おうとする麦野と同じ背中。
彼等の強過ぎる背中に時に涙した。インデックスさえも。故に知る。
上条は言った。あの『ベツレヘムの星』の中で。必ず帰る、生きて戻ると。
そして彼は帰って来た。彼女と共に。そう、偽善使い(ヒーロー)だ。
禁書目録『そういう人達は絶対に死なないんだよ!ふれめあみたいに残された人が泣いて、助けて満足して笑って死んじゃうなんて事は絶対にないんだよ!!』
誰かのために命を懸ける人間は、誰かのために命を落としてはならない。
この紐解けない絶対矛盾を、残された人間が涙に沈むような結末は認めない。
禁書目録「――ふれめあは、ここにいるんだよ」
フレメア「ここに…?」
禁書目録「そうなんだよ。ふれんだが守りたかったふれめあはここにいるんだよ。だからふれめあが生きてる限り、ふれんだは死んだりしないんだよ。絶対に」
582 = 468 :
それは祈りに似ていた。祈るだけで奇跡が起きるならばこの世に『神』は必要ない。
だから祈りは無力だ。果たされないから祈りなのだ。だが祈りを聞き入れない『神』など、人は何千年も信じたりしない。
『神』に祈る事で、『人』は願いを叶える力を手にする。
それを奇跡とするならば、十字教とは『祈り』の歴史に他ならない。
フレメア「本当に…?本当に?フレンダお姉ちゃん、死んだりしない?」
禁書目録「――死なないんだよ」
ならば自分は『祈り』に仕える修道女(シスター)だ。
日夜、国の名前も使う言葉も肌の色も異なるこの世界の中で祈り続けるただの、ただ一人のシスター(修道女)だ。
禁書目録「――神様に誓って!!!」
ゴシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
そして――二人の逃亡劇に割って入る…巨大な駆動鎧。
フレメア「―――!!?」
30機以上のエッジ・ビーを従えて降り立つは強大なる敵。
SC「お話中すまないね…これでも私はTPOをわきまえている人間なのだが」
――黒夜海鳥と同じ『闇』に属する…シルバークロースが廃ビルの壁面を突き破って突入し――
禁書目録「――dedicatus545(献身的な子羊は強者の知識を守る)――」
SC「!?」
インデックスがフレメアの前に背を向け、シルバークロースの前に胸を晒す。
迫り来る強大な『闇』に、祈る事しか出来ない無力な『光』が対峙する。
禁書目録「私の魔法名なんだよ。今まで一度も名乗った事なかったかも。けど」
SC「(コイツ…まさか“別の法則”を使う“ヤツら”か!?)」
インデックスに魔術は使えない。魔滅の声もスペルインターセプトも意味を為さない『科学』の敵を前にして…
立ち向かう、上条当麻のように。引き下がらない、麦野沈利のように。
禁書目録「――今度は私が誰かを守る番なんだよ」
もしかするとこの時初めて…彼女の少女時代は終わりを迎えたのかも知れない。
禁書目録「――この幻想(希望)だけは誰にもブチ壊させないんだよ!!!!!!」
SC「―――!!!」
Index-Librorum-Prohibitorum(禁書目録)…紡がれし十万三千冊の新たなるページは、ここより始まる――
583 = 468 :
とある星座の偽善使い(フォックスワード)の者です。
本日はこれまで、次回は4月3日、日曜日に投下させていただきます。
たくさんのレスをありがとうございます…いつも助けられております。
>>569
はい。上条さん高校二年生、麦野[ピー]歳の設定です。
584 :
もうこの人をインなんとかさんとは呼べない。
インデックスさんと呼ぶよ。
585 :
インデックスの魔法名キタ!!
うおー!次回が楽しみだぜえ
586 :
・居候問題を解決している上琴
・家事スキルを身に付けた上イン
・そしてこのスレ
やっぱりインデックスを活かしているssは良作ばかりだなぁ
と思う今日この頃です
587 :
インデックスさんついにドラゴンブレスぶち込むのか?w
588 :
自動書記さん起動したらもう無双だからね
589 :
ペンデックスさんは一通さんも倒せちゃうだろうからな
590 = 587 :
インデックス自動書記がなくても魔術はつかえるのでは?
591 :
とある星座の偽善使い(フォックスワード)の者です。
本編から少し遡った時期の番外編を一本投下させていただきます。
タイトルは『とある遠雷の超電磁砲』となります。
592 = 468 :
~8月27日~
御坂『あっ…』
それはあの操車場での死闘…アイツ(上条当麻)と一方通行との激突から一週間経つか経たないかのある晴れた日の事だった。
上条『良くないか?fripSide。上条さん的に今イチ押しのグループですよ』
何の気なしに立ち寄ったレンタルショップで…私が見たアイツはCDコーナーにいた。
麦野『好きじゃないわ。なんだよonly my railgunって。まずタイトルが気に入らないのよ。何か知らないけどイライラが収まらねえ』
アイツと…そう、麦野沈利とアイツが二人でイヤホンを分け合いながら何やら試聴していた。
上条『ふーっ…やれやれ、麦野さんにはこの曲の良さがわからんのですよ』
二人が話してる内容は今月出た新譜の事なのだろうとあたりはついた。しかし二人は私に気づかない。気づくはずがない。
麦野『し・ず・り。私にはあんたの趣味がわからないわよ…こっちの方が絶対良いって。ほら』
肩寄せ合いながら、頬を小突き合わせながら浸る二人だけの世界に割って入れるだなんてお邪魔虫でしかない。
出来る事と言えば…かけようとして出がかりを失った声と一緒に物陰に隠れる事くらい。
上条『川田まみ?もう着うた持ってるじゃねえか』
麦野『馬鹿ねーこういうのはちゃんとした音質じゃないとダメなのよ。聞き比べてごらん?段違いでしょ?』
上条『おっ!本当だ!』
御坂『(な、なっ、なんで私が泥棒みたいにコソコソ隠れなきゃいけないのよー!)』
別にやましい事も後ろ暗い事もないんだから堂々と前に出れば良かったんだ。
なのに一度歩みを止めた足は根を張ったように動いてくれない。
思い出してしまうから。あの『アルカディア』、あのショッピングモールでの出来事を。
御坂『(ちょっ、ちょっと挨拶して…こっ、この前はありがとうって…ただそれだけじゃない!それだけの事じゃない!)』
『勝負しなさい!』と挑みかかる第一声すら締め上げられた雌鶏のように喉元から出て来ない。
それは一万人近い妹達を救ってくれたアイツに対して…この時私は名付け方も扱い方もわからない感情に振り回されていたからかも知れない。今思えば。
593 = 468 :
上条『んじゃ、そろそろ見に行くか?指輪』
麦野『本当にいいの?』
上条『ああ、前は一ヶ月記念出来なかったからな…あん時は本当に悪かった』
麦野『いいよ。生きて帰って来てくれたし、ちゃんと覚えててくれた。だから許してやらないでもない。寛大な心で』
上条『どっちだよ!』
あのシスターの一件以来久しぶりに見た第四位の顔はとてもとても幸せそうに私には見えた。
元々人並み外れた美形なんだから、その顔から険が取れて笑ってみせるとその破壊力は凄まじい物がある。
ちょっとアンタ。腕組まれてるくらいでデレデレしてんじゃないわよ。
胸押し付けられただけで鼻の下なんか伸ばして。面白くないわね。
麦野『あれー?あれー?彼女ほったらかして別の女の子助けに行って、腕ブッた斬られて半殺しにされて帰って来て、初めての一ヶ月記念日をフイにしやがったのはどこの誰だったっけ…あれー?』
上条『不肖、私こと上条当麻です…』
麦野『自分は病院のベッドでスヤスヤ、その間あのガキの面倒見てたのは誰だったっけ?こんなデキて物分かりのいい彼女持てて良かったにゃーん?かーみじょう』
上条『すいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』
御坂『(なに?ナニ?何の話してるの?指輪って…指輪って!!?)』
会話の内容は認識出来ても、会話の意味までは理解出来ない。
辛うじて察する事が出来たのは…あの二人はやっぱり付き合っていて、延期になってしまった一ヶ月記念をしようとしている事。
そうしている内に二人はレンタルショップから向かいのアクセサリーショップに入って行くのが見えた。
御坂『(アイツ…あんなとぼけた顔して、こういう事ちゃんとするヤツなんだ)』
アイツは鈍感なタイプだと私は今までのやりとりからそう感じてる。
それも他人の痛みに敏感で、自分に向けられる感情に鈍感なタイプ。
そう長い付き合いでも深い付き合いでもないけれどそれはわかった。
少なくとも…あの第四位と比べてしまえば付き合いと呼ぶのも憚られる。
御坂『(そもそもなんでアイツらって付き合ってるんだろう?接点なんか全然見当たらないじゃない。私よりずっと)』
594 = 468 :
私はいつまでも目端で追う事の馬鹿らしさと恥ずかしさに漫画コーナーで立ち読みしながらページを手繰る。
けれど何故だろう?内容が今一つ頭に入って来ない。気が散って仕方が無い。
なんでだろう?ワケもなく集中出来ない。没頭出来ない。苛々して来る。
御坂『(――でも、あの時――)』
もやもやする思考の中に過ぎる一瞬…あのシスターが放った光の柱。
それを食い止めるために立ち向かった二人。アイツの右腕から姿を現したドラゴン。
そして第四位の背中から生えた、光で出来た天使の翼…その時、あの娘は言った。
麦野『だってお前は――私を選んだじゃないか』
ズキッ…
御坂『っ』
私の『勝負』を嫌々受けたり逃げたりしているアイツ。
自販機にお金を飲み込まれてしょぼくれてるアイツ、私に立ちはだかり一方通行に立ち向かったアイツ。
幸が薄そうで、とぼけた顔してて、それでも力強い笑顔を持ったアイツ。
けれど…私の知らないアイツの顔をたくさん知っているだろう第四位に、訳もなく胸が締め付けられた。
御坂『(やめやめ。こんなの全っ然、私らしくない!!梅雨もとっくに明けたってのにジメジメジメジメ!カビが生えるわよ!!)』
パタンとろくに目を凝らしてもいない斜め読みの漫画を閉じて戻す。
ふと店内の壁掛け時計に視線を向けると…二人が店内に入ってからもう十五分は経っていた。すると――
上条『ふいー…』
御坂『わわっ!』
思わず、何時の間にか出て来ていたアイツの姿を認めてしまい…
戻してしまった漫画本を再び手に取り顔を隠すように読むふりをしてしまう。
別に後をつけてきた訳じゃないんだから…仮に見つかっても『あら偶然ね』の一言で済ませられるはずなのに
上条『指輪って結構すんだなー…とほほ…こりゃあ今月はファミレス一回が限界か…』
御坂『(ぷぷぷ…アンタねえ…大事な彼女にプレゼントしたんならそんな顔してんじゃないわよシャキッとなさいシャキッと)』
財布を逆さに降って溜め息をつくアイツの顔は見物だった。
そうだ、アイツはいつもこんな顔をしてる。これが私の知っている『上条当麻』だ。
けれどそこで気づく。第四位だけまだ出て来てない…??
595 = 468 :
麦野『お待たせ』
上条『おう。悪い悪い。俺も言われるまで気づかなかったしな…危うくインデックスに頭かじられちまう所だった』
麦野『女はこういうの五月蠅いのよ?一応、あのガキとも出会ってから一ヶ月って事で』
そこに…第四位が遅れて出て来た。その手には紙袋が2つ…内1つは紙袋の色が違っていた。
上条『だよなあ。悪気はなかったんだホント…気が回んなかった』
麦野『…あんたって本当に女心がわかってないわねかーみじょう。だからあんたはかーみじょうなのよ』
上条『くっ…なんかすげえ馬鹿にされてる気がする…で、どんなヤツにしたんだ?』
麦野『それは帰って見てからのお楽しみ。一応、あんたと私からって事にしとくから来月には貸した分よろしくー♪』
上条『ぐっ…ま、またしてもモヤシ炒め生活…夏バテにぴったりヘルシーメニューに…!』
麦野『私のシャケ弁分けたげるから』
上条『シャケ抜きのな』
麦野『そりゃあシャケは私のでしょ?』
御坂『(あっ…そっか、なるほど)』
そこで私ははたと気づく。買ってあげたんだ。あのシスターの分も。
きっとどっちかの紙袋がアイツらの、そのもう片方がインデックスへの贈り物。
なんだ、可愛がられてるんだあのシスター。てっきり相手があの第四位だからいびられてるもんだとばっかり思ってた。
御坂『(確か一緒に暮らしてる…って言ってたっけ)』
私がムカムカするのは筋違いかも知れないけれど、あの事件の後真っ白シスターはアイツと暮らす事になったって聞いた。
学生寮に女の子を連れ込むアイツの根性も大したもんだけど、私が話し掛けただけで殺し合いを挑んで来たあの第四位がよく許したなと思う。
自分には魔術が使えない、って言ってたくせにどんな魔法使ったんだか。
麦野『ねえ…指輪、どうする?』
上条『どうするって…そりゃつけるだろ?』
麦野『ほら、どっちの手かな?ってさ』
上条『う~ん…こういうのって、結婚指輪が左手だったっけ?』
麦野『私はそっちでも全然構わないんだけどー?』
上条『上条さんはまだ学生ですよ…つっても、右手につけちまったら壊れちまいそうだしなあ』
麦野『そんなこったろうって思ってた。あんたのムチャクチャぶりじゃ指輪が可哀想だからね。だからこうしよっか?』ガサゴソ
上条『ここでつけんのか!?』
麦野『うん』
596 = 468 :
すると…第四位が紙袋の中から指輪とチェーンを取り出すのが見えた。
店先でやるんじゃないわよ。見てるこっちが恥ずかしいじゃない!
上条『こういう時いつも沈利の方が言うじゃねえか…“ムードがない”とかなんとかって』
麦野『今すぐつけたいの!ほら背屈めて』
上条『こうか…?』
麦野『んっ…』
上条『!』
御坂『!?』
すると…第四位は指輪を通したチェーンをアイツの首に回しがてら…
して見せた。同じ目線になったアイツに…当然のようにキスして見せた。
上条『…ビックリしちまった。お前どんどん大胆になってねえか?』
麦野『そういうあんたはリアクション薄くなったわね。上手くなったのはキスくらい?』
上条『別に、俺だって勉強した訳じゃねえぞ』
麦野『私が本番で練習台だから?』
上条『そりゃあ気合いが入るな』
御坂『(なっ…なっ…んな!?)』
何!?何なのアイツら!?ここは天下の往来よ!?
恥ずかしくないの!?馬鹿なの!?何やってんのよ!!
上条『…本当にバカップルだよな俺等…』
麦野『そうね。こんなの街中でやるヤツ見かけたらブチコロシかくてい』
上条『言ってる事とやってる事が違ってやしませんか?麦野さん』
麦野『他人がやるのは許せないけど自分がやんのは別の話。私ってわがまま?』チラッ
御坂『!!!』
その時…第四位が流し目でこっちを見てきた。アイツにしなだれかかったまま!
私に気づいてないアイツ、ポカンとした顔。それをしてやったり顔でこっちに舌まで出すオマケ付き!
麦野『(ねえ今どんな気持ち?ねえねえ今どんな気持ち?)』ニヤニヤ
御坂『』プルプル…!
ブチンッ!と切れた血管と堪忍袋の緒。私の曇り空だった心に、雷鳴がゴロゴロと轟いて行く。
コイツ、わざとやってた!最初から気づいて私を挑発して!
御坂『あ・ん・た・ら・ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ…』
上条『?。おっ!ビリビリじゃねえか!どうしたんだよこんな所で…ってなんかお怒りモードに!?』
麦野『きゃーん。こわーい、当麻助けてえ』
そして気づいてないのもコイツ…わかってないのもコイツ!
言ってやりたい!怒鳴ってやりたい!アンタこの女に騙されてるのよって!
ちょっと見直した事もあったけど、この性格の悪さが第一位よ!
でもそんなみっともない事したら負ける気がする!同じ女として!
597 = 468 :
御坂『――蒸し暑いってのにこれ以上気温上げてんじゃないわよいい加減にしろゴルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』
ピシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!
上条『ふっ、不幸だー!!!!!!』
麦野『あーら?天下無敵の電撃使いミサカミコト様ってば怖い怖いー♪』
御坂『先に喧嘩売って来たのはアンタの方でしょうがァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』
落とす雷、逃げ回るアイツ、煽り立てる第四位、怒り狂う私。
それはもう戻れないあの夏の日。
この数日後、私は海原光貴の目を欺くためにアイツに一日だけ恋人役を演じて欲しいと言った。
返事は、やっぱりノーだった。
アイツの首には、しっかりと指輪がぶら下がっていたから。
アイツと、あの娘のイニシャルが刻まれたブルーローズのレリーフ。
――私と第四位の戦いは、まだ終わらない――
598 = 468 :
作者です。以上で番外編は終了となります。本編投下は21時頃になります。それでは失礼いたします。
599 :
カミやん何でもげへんのや…
600 :
超アステカ砲ですねわかりま(ry
みんなの評価 : ★★
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