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    元スレ麦野「ねぇ、そこのおに~さん」2

    SS+覧 / PC版 /
    スレッド評価: スレッド評価について
    みんなの評価 : ★★
    タグ : - 麦野「ねぇ、そこのおに~さん」 + - フレンダ + - ヤンデレ + - 上条 + - 佐天 + - 滝壺 + - 絹旗 + - 美イン + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
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    851 = 468 :

    ~2~
    バサアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!

    麦野「――――――」

    その時、麦野沈利の背中に六対十二枚の『光の翼』が背負われた。
    原子崩しの光芒全てをかき集めて尚届かない光を、天使の光輪を乗せて空を舞う。

    黒夜「オアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」

    光の羽根が花吹雪のように舞い散る度に白金の煌めきと共に天へと昇る。
    それを黒夜は魂の底からの慟哭によって吼える。
    折れる『心』がなくとも、屈してしまいそうな『魂』を奮い立たせるように。だが

    神浄「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

    空には天使、地には竜、どちらも黒夜の前に立ちはだかる。
    それは皮肉にもネズミをいたぶるように弄んだフレンダに対し言った『人類史上成功した試しのない二正面作戦』にも酷似していた。


    天使(麦野沈利)と竜(神浄討魔)

    聖座を追われた暁の明星(ルシフェル)と地の底から反旗を翻した偽神(サタン)

    『0次元の極点』を我が物として光の全てを隷下に置く学園都市第四位と、『神浄』へと辿り着き全てを超越した最弱の無能力者

    黒夜「――認めねェぞ」

    大気を、窒素を、酸素を、水素を、圧縮!圧縮!!圧縮――!!!

    黒夜「私はテメエらなンか認めねェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェぞォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

    しかし――黒夜海鳥は屈しない。敗れようとも死のうとも屈しない。
    奇跡も運命も幸運も拒否する。神の手すら黒夜は拒絶する。
    それが『悪の華』だからだ。『悪党の美学』だからだ。
    彼女はもう一人の麦野沈利(闇)だった。上条当麻と出会わなかったもう一人の麦野沈利だった。


    黒夜「ブッ潰れろオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォー!!!!!!!」

    そして――数百メートルにも及ぶ魔槍が、数千を超えて放たれるのと――


    麦野「――――――」

    麦野沈利が手持ちの拡散支援半導体(シリコンバーン)を中空に放り投げるのが同時に――

    852 = 468 :

    ~3~
    ドンッ!と大地を踏み締め、蹴り出し、駆け出し、飛び出す音がした。

    神浄「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

    それは傷だらけの神浄討魔(ヒーロー)だった。それは血塗れの上条当麻(フォックスワード)だった。

    黒夜「――っらァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

    バギンッッ!と黒夜は噛み締めた奥歯を噛み砕いて吠えた。
    上条かと思えば麦野、麦野かと思えばまた上条…その振り回されるコンビネーションのままに、黒夜は上条へ狙いを変える!

    黒夜「死 ね 死 ね 死 ね 死 ね 死 ね 死 ね 死 ね 死 ね 死 ね 死 ね 死 ね 死 ね 死 ね 死 ね 死 ね 死 ね 死 ね 死 ね 死 ね 死 ね ! ! ! ! ! !」

    機関銃の勢いで放つ窒素爆槍!駆け込んで来る上条目掛けて放つボンバーランス!!
    空気を切り裂き大気を撃ち抜く暴虐の嵐。文字通り矢継ぎ早に撃ち出される魔槍。しかし

    神浄「―――!!!」

    上条が竜王の顎を突き出しながら走り込んで来るのを止められない。
    当たる前から打ち消され、外れる側から掻き消され、一本たりとてその行く手を塞げない。
    黒夜は恐怖する。戦慄する。慄然とする――!!

    黒夜「――来るな来るな来るな来るな来るなアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

    地割れを踏み越えて、瓦礫を飛び越えて、粉塵を掻き分けて、魔槍を潜り抜けて上条は走る!走る!!走る!!!
    一歩でも前へ、半歩でも先へ、ただひたすらに、ただがむしゃらに、黒夜の眼前へと――

    黒夜「(コイツは…こいつらは!!!)」

    不死身とも思える肉体、予知とも思える感覚、異能を打ち消す力などおまけに等しい恐怖――
    それは『踏破する力』。運命も宿命も天命すらも踏み越えて己の足で走る力。
    止まらない圧迫、止められない重圧。この時黒夜海鳥は感じた。

    神浄「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

    それはかつてアウレオルス=イザードが、一方通行(アクセラレータ)が、右方のフィアンマが味わった恐怖そのもの。
    そして上条が黒夜の前に躍り出て――拳を固め、握り、締め、振り上げ――

    853 = 468 :

    ~4~

    上条と黒夜が激突する刹那、光が全てを埋め尽くした

    黒夜「――――――」

    宙を舞う数百枚の拡散支援半導体(シリコンバーン)が、麦野の『光の翼』の一枚一枚から放たれた原子崩しに打ち抜かれ

    神浄「――――――」

    前から、後ろから、上から、下から、右から、左から――無数という言葉の意味すら置き去りにするほどの光量。
    それらが光の雨も同然に降り注ぎ、黒夜の数百数千の腕(かいな)全てを打ち抜いて行く。

    浜面「――――――」

    複合標的群多角同時一斉掃射…どれほどの複雑を極める演算が、どれだけの困難を極める制御が為されているかすら窺い知れない光の雨。
    それはまさしく『流星群』だった。天に座す『星座』そのものを叩き落とすかのような一撃だった。

    絹旗「――――――」

    一拍遅れた爆発音すら、次々と誘爆に巻き込まれ掻き消されて行く。
    その一瞬には光の白しかなく、全ての音がその場で静寂(しじま)と共に口を閉ざすより他はない。

    滝壺「――――――」

    夜明け前の白む空すから霞むほどの光景。今や麦野が背負う星辰すらその瞬きを前にあまりに儚い。そう思わせるに足る。

    フレメア「――――――」

    『原子崩し』という字すら既に今の麦野を表すに不足して思えた。
    もし冠する二つ名があるとすれば――それは『星座崩し』

    フレンダ「――――――」

    十字教において、天使はしばしば『星』になぞらえられる。
    麦野はもはや『星』そのものとなった。この黒き夜の海のような、闇の中にあって麦野は今、『暁の明星』となった。

    麦野「―――退場だ、“新入生”。幕引きも受け取るんだね」

    バサァッ!と『光の翼』を振るい、麦野は遥か高みから焼き尽くされた腕達ではなく黒夜を見下ろす。
    そう、退場するのだ。この長い長いヴェルトナハト(夜の世界)から。
    麦野沈利も、黒夜海鳥も、血塗られたブッファはここに終わりを迎える――
     
     
     
     
     
    麦野「――そうでしょ?当麻――」
     
     
     
     
     

    854 = 468 :

    ~5~

    そして上条は目映い光の中、黒夜へと拳を振り下ろす。麦野の声に呼応するように

    上条「教えてやる――」

    それは偽善使いの幻想殺し(イマジンブレイカー)でもない。

    上条「テメエらにぶっ壊されなくちゃいけないほど」

    まして神浄討魔の竜王の顎(ドラゴンストライク)ですらない。

    上条「俺達の世界は弱くなんかない」

    それは――『左腕』だった。

    上条「――テメエは弱い」

    そう…彼はもはや、フォックスワードでもヒーローでもないのだ。

    上条「――テメエは負ける」

    彼はただ『上条当麻』なのだ。

    上条「――インデックスの祈りと――」

    テストで百点を取れる訳でも

    上条「――御坂の叫びと――」

    女の子にモテまくる訳でもない

    上条「――沈利の声に――」

    ありふれた高校生に過ぎない上条当麻に出来る事

    上条「――だから…」

    それは生きて帰る事。彼の帰りを待つ者の幻想(せかい)を守る事。

    上条「――こいつだけは…!」

    家族の、仲間の、恋人の、ささやかで小さな世界を守るちっぽけなヒーロー(最弱)が…今

    上条「俺自身の手でやんなくちゃいけねえんだ…!!」

    インデックスの、御坂美琴の、麦野沈利の

    上条「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」


    少女達の小さな幻想(せかい)を救う――

    ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!


    黒夜「―――――――――――――――」

    夜明けの空に響き渡る轟音…それが終止符の打たれた決着の音だった。

    黒夜「ぐっ………はぁ………っ………!」

    打ち抜かれた左拳が振り抜かれるとと共に宙を舞う黒夜。体力、気力、演算能力、全てを断ち切る衝撃的な一打に黒夜は沈む。

    黒夜「―――………   

    数百数千の魔手を持つ学園都市の怪物はここに倒れた。
    黒夜と上条を分かつ線――それは善悪の彼岸ではなく、ましてや住む世界ですらない。

    上条「はあっ…ハアッ…」

    それは恐らく、彼等のバックボーンを支えるものが有形の『人間』か無形の『闇』かの違いしかない。

    上条「――……!!」

    人に全ての人間を救う事など出来はしない。それは上条当麻(ヒーロー)とて変わらない。
    だが…全ての人間に人は救える。上条はただ、その差し伸べられた手を取った。それだけなのだろう。


    そして――

    855 = 468 :

    ~黒夜海鳥3~

    馬鹿な、馬鹿な…馬鹿な。馬鹿な馬鹿な馬鹿な…どうして私が負ける。
    第一位と比べるべくもない第四位、そしてたかが無能力者に何故この私が負ける。敗れる。何故?

    こんな綺麗事の砂糖と奇麗事の蜜をまぶし過ぎて脳に糖分が逆流しているような…
    甘ちゃん共にどうしてこの私が負ける?どうして私の『闇』がコイツらを貫けない?
    闇は光に勝てないだなんて出来の悪い結末は、あのクソ女が好むC級映画以下の筋書きだ。

    木原印のサイボーグ、ファイブオーバー、パワードスーツ…
    これだけの潤沢な資金と、豊富な動員と、最新の装備を手にしながら何故勝てない。
    勝っている点こそあれど劣っている点などない。精査しろ、比較しろ、考察しろ。

    フレンダ=セイヴェルンは妹フレメアを逃がすために捨て身で挑んで来た。
    私が切り捨てられた、私を切り捨てた『家族』とやらを守るために。
    認められるか。認めてなるものか。私が切り捨てたものなど

    シルバークロースは何故敗れた?それは『外側の法則』を使う修道女だからだ。
    科学の結晶をどれだけ身に纏っても、内包する人間の『奇跡』を求める力に負けたのか?
    認められるか。認めてなるものか。私の中に存在しないものなど

    私は何故敗れた?それは奴らが二人掛かりだったからだ。
    いや、シルバークロースは呼び出した。条件的にはこちらが優位だった。
    認められるか。認めてなるものか。私が捨てた心の在処など

    私が捨てて来たものを、奴らは何一つ捨てなかったというのか。
    まるでガキだ。捨てる事を知らないガキは両手以上のものなど決して手に入れられない。
    あまりあるものを手にして来た私が、あまりあるものを捨てて来た私が何故――

    まだだ、まだ戦える。まだ戦える。まだこれからだ。
    私は終わらない。私は認めない。私は変わらない。
    そうだ、お楽しみはこれからだ。楽しい血の饗宴(パーティー)はこれからだ。

    まだまだ殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して…

    殺し…て

    殺し…

    殺…





    終…

    ………………

    ――――――

    856 = 468 :

    ~Golden Dawn~

    その時、風が吹いた――

    上条「――――――」

    それは、白いカーテンを翻らせるような優しい一陣の風だった。

    上条「………………」

    夜明け前の空の、未だ登り切らぬ太陽の光が柔らかく溶けて行く。
    剥き出しで血塗れの上半身を労るような、傷口に触れて行くようなその風に上条当麻は前髪を揺らす。
    それは声なき声のように何かを呼び掛けて上条を振り返らせた。

    上条「―――沈利―――」

    もう立っていられないほどの疲弊、消耗、出血、重傷。
    意識すら霞がかって行き、己の声すら遠くの誰かが呼び掛けているような不確かさ。
    されど向けた眼差しの先にあるものを上条は見据える。真っ直ぐに。

    麦野「――お疲れ様。バ上条」

    その先――そこにはもう一つの夜明けのように目映い光を放つ…
    天使の光輪と光の翼を背負った麦野沈利の姿があった。
    それは天から舞い降りた天使のようにも、ただいつも通りの恋人にも見えた。

    上条「悪い悪い…いや、本当にさ」

    麦野「――全くね。もうさ、言葉が出て来ない。こんな時さ、どんな顔すりゃいいのかもわかんない」

    そんな上条に同じくらい血塗れの麦野が歩み寄って行く。
    ただし上条と麦野の決定的にして唯一の差違…それは己の流した血か、他者の返り血か否か。
    麦野は一歩一歩進めて行く。やや俯き加減に、自嘲気味に。

    麦野「――お気にの勝負服はボロボロ、メイクはグチャグチャ、髪はバッサバサ、最低の朝帰りねホント」

    上条「――そうだな、インデックスに怒られちまうな。朝帰りなんてしちまったら」

    麦野「最悪よ。私もあんたも傷だらけ。またしばらくあんたの前で脱げないよ。電気消さないと」

    上条「――そんな事、ねえよ」

    対する上条も、ふらつかないように膝から踏みしめるように歩み寄って行く。
    どちらもボロボロだ。出来る事なら今すぐダウンしたい。
    しかし彼にはあるのだろう。男の子の意地と言うものが

    麦野「――責任とって。こんな身体じゃ、もうあんた以外の誰もお嫁さんにもらってなんてくれない」

    上条「…俺でよけりゃ、一生かけて」

    麦野「違う。もっと言って。私の欲しい言葉、今すぐ欲しいの」

    上条「…ああ」

    上条が麦野の前に立つ。既に竜王の顎は解除されている。
    だが対する麦野は未だに星座崩しの天使のままだ。自力で解除出来ないのだろう。
    だから――上条は腕を伸ばした。いつものようにそっと

    857 = 468 :

     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    上条「一生(ずっと)、俺の側にいろ。沈利」
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     

    858 = 468 :

    パキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン………

    上条が麦野を抱き寄せたその時――麦野の『光の翼』が砕け散る。
    同時に翼が一枚一枚光の羽根となって高く高く空へと舞い上がって行く。
    風が吹いた花片のように優しく、揺られるように光の粒子になって。

    麦野「――痛い。もっと優しく」

    上条「――悪い、力入り過ぎた」

    麦野「傷口に染みるんだよ。馬鹿」

    それはきっと、彼が殺して来た幻想の中で最も優しい破壊だったのかも知れない。
    天使の光輪も雪を吹き散らすように光の粒を残して溶けて消える。
    朝焼けの光、もう麦野は崩れ落ちてしまいそうだった。疲労以外の何かに。

    上条「――もう泣いてんの隠さなくていいんだぞ?」

    麦野「泣いてない。頭のネジ緩んでる?締め直してあげよっかー?」

    上条「もうゆるゆるですよ。主に上条さんのほっぺのネジが」

    麦野「ブチコロシ、かくてい」

    後から後から涙が滲んで来る。溢れて来る。零れて来る。流れて来る。
    麦野沈利は考える。今ネジの締め直しが必要なのは自分の涙腺だと。

    麦野「――罰ゲーム。運べ」

    上条「……へいへい」

    麦野「文句ある?」

    上条「仰せのままに、“女王様”」

    そうして麦野は抱えられる。もう膝に力が入らず真っ直ぐ歩けない。
    その体勢がお姫様抱っこなのは、おぶわれる格好悪さが気に入らないからか。

    麦野「――ねえ、当麻」

    上条「なんでせうか?」

    麦野「重くない?」

    上条「重いっつったら?」

    麦野「右ストレートでぶっ飛ばす」

    上条「軽い軽いー(棒読み)」

    麦野「…やっぱ降ろせ」

    上条「そりゃ出来ねえなあ」

    麦野は思う。確実にベット以外でも可愛げがなくなっていると。
    ちっとも自分好みの彼氏にならない。決して思い通りにならない。
    憎たらしくて、でも同じくらい頼もしくなったとも。

    上条「―――もう沈利は上条さんから一生逃げられないんですよ―――」

    麦野「…そうだね、あんたに追っ掛け回されんのは疲れそうだ。今回みたいに」

    スッと顔をすりよせる。もう疲れ切っていた。
    大嫌いな朝の光。大好きな体温。その二つに包まれ麦野は瞳を閉ざす。

    麦野「――同じ疲れんなら、これで良いよ――」

    859 = 468 :

    ~2~

    ああ、ちくしょう

    『その健やかなる時も』

    まるでヴァージンロードだ

    『病める時も』

    ウェディングドレスもブーケもない夜明けのヴァージンロードだ

    『喜びの時も』

    相手は半裸、私は血塗れ、神父もいなけりゃ神様だってまだ寝てる時間だ

    『悲しみの時も』

    嗚呼――なんてムードのないヤツなんだろう。泣いてる女に微笑みかけんな。マナー違反でしょうが

    『富める時も』

    でも…すっぴんよりヒドい顔を見せられる男なんて私はコイツしか知らない

    『貧しい時も』

    コイツしかいらない

    『これを愛し』

    こういう時、強く意識する。私はコイツの女(モノ)なんだって

    『これを敬い』

    もう離れられない。もう逃げられない。私の全てはコイツに奪われた。もう何も残ってない。プライドしか残ってない

    『これを慰め』

    でも、それでいい

    『これを助け』

    あんたの腕の中で、私の形がなくなるまで溶けて行きたい

    『その命ある限り』

    あんたの胸の中で、私はあんたと生きて行きたい

    『真心を尽くすことを誓いますか?』

    860 = 468 :

     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    ―――永遠に―――
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     

    861 = 468 :

    ~3~

    しかし――物語は終わらない。


    「――さっきからイチャイチャイチャイチャ。鼻の下を伸ばす前に、お前にはこれからなすべき大事な仕事があるだろう?ったく、とんだ女泣かせだな」

    上条・麦野「「!!?」」

    夜明けのヴァージンロードを歩む二人の前に、冥土帰しの病院入口より出でし声音が響き渡る。
    その声は、屈強そうな黒服の男達を引き連れている十二歳程度の金髪の少女。
    シックなブラウス、スカート、ストッキングがさながら古めかしくアンティークな黒鍵と白鍵のそれを連想させる。

    上条「お前…は」

    「後処理は私がしておいてやる。お前はさっさと女と病院のベッドにでもしけこんでいる事だな」

    麦野「――――――」

    それはあまりに皮肉な符合だった。黒“夜”海鳥を乗り越えて辿り着いた夜明けの先に待ち受けていたのは――
     
     
     
     
     
    レイヴィニア「――自己紹介は今更必要ないな?科学で無知な子供達」
     
     
     
     
     
    開かれし新たなる世界への入口…『明け色の陽射し』を束ねし者…
     
     
     
     
     
    レイヴィニア=バードウェイ、夜明けの学園都市へと降り立つ――

    862 = 468 :

    以上、投下終了です。出戻りで始めてしまったお話ですが次回で最終回です。
    たくさんのレスありがとうございました。皆様のお力です。
    次回は恐らく…日曜日に投下出来れば良いなと思っています。それでは失礼いたします。

    863 :

    >>私は、そんな中夏の日に破滅した女二人を知ってる

    ああ……やっぱり、そうなのか……

    864 = 827 :



    悲しい事もあったけど、二人の幸せ、皆のハッピーエンドを切に願いたい

    改めて言いたい………お疲れ様

    865 :

    おおレイヴェニアきたーーーーーーー

    レイヴィニアは俺の嫁

    866 = 829 :

    そして新約2巻が発売されて新約2巻の再構成が始まるんですねわかります

    867 :



    いつかは終わるものだとは頭で分かっていても哀しいもんだね…
    最終回楽しみにしてます

    868 :

    レイヴィニア登場シーンカッコよすぎる…そしてむぎのんマジ天使。この新約編が劇場版みたいだ。作者さんマジ乙!

    >>863
    むぎのん軍艦島のこと知ってるっぽいね。上のレスだけど
    >>麦野「私が泣く場所は一カ所に決めてんだ。言っとくけどシャワールームじゃないわよ。どこぞのガキじゃあるまいし」
    >>御坂「誰の事言ってんのよ?」
    >>麦野「アンタも知ってる女。負けん気の強さは買ったけど、女として脆すぎたねアレは」







    869 :

    とある星座の偽善使いの者です。本日で最終回ですが、投下がいつも通りの時間よりずれ込みそうです…(ボリュームが増してしまったので)

    ただ、タイトルだけ先に置かせていただきます。「メモリーズ・ラスト」です。目処が立ちましたらまたご報告させていただきます。失礼いたします…

    870 :

    舞ってる

    871 = 468 :

    作者です…削っても削ってもボリュームが溢れてしまったので、最終回は投下し終わるまで時間がかかりそうなので今夜22時より開始します。

    それではまた後ほど…失礼いたします

    872 :

    楽しみにしてる

    873 :

    むしろ次スレ行っても構わないから削らないで、少しでも多く読ませてほしいぜ……

    874 :

    最終回のためだけのスレを別に立てても良いから削らないでおくれ
    頼む

    875 :

    作者や
    けずんないでおくれ

    876 :

    削るn
    いえ削らないで下さい

    877 :

    けずらないでえええええええええええええええええええ

    878 = 468 :

    投下させていただきます。ノーカット拡大版ですが、よろしくお願いいたします

    879 = 468 :

    ~とある星座の偽善使い・第0章~

    忘れもしない運命の日、私の気分は最低に最悪だった。
    それは朝方まで一人プールバーでダラダラと過ごし、ようやく自宅に戻って一寝入りした矢先の事だった。

    電話の『こいつと来たらー!連れ込む男もいないくせにこんな時間まで若い女が寝てるんじゃないよー!お電話鳴ったら3コール!グッドモーニング☆お仕事の時間だよーん♪』

    麦野『(クソッタレ)』

    まず、ケチのつき始めは『電話の女』に仕事の呼び出しで叩き起こされた所から。
    私は朝に弱い。というより寝起きが良くない。そんな時この女からのコールは目覚まし以上の不愉快さだ。
    また頭の中で声がする。『人殺し』って声がする。私の声だクソッタレ。

    電話『今日の依頼はねー、第七学区の研究所にガーッて行ってババーンと殴り込みかけて、フケの目立たない白衣の連中をドッカーン!ってやっちゃうだけの簡単なお仕事だよー。二日酔いのガンガンする頭でもわかるよねー?ダメだぞー未成年のクセしてプールバーなんて出入りしちゃ』

    麦野『そうね、だから何?モーニングコールついでに會舘フィズでも出してくれんの?もういいわ見取り図だけ後でメールで送ってちょうだい』

    電話『こいつときたらー!』

    この女の声はチューニングのズレたジュークボックスより喧しい。
    私は衝動的に通話終了ボタンを押したくなるのを持ち合わせの少ない忍耐力を使い果たして根気良く耳を傾ける。
    何の事はない。いつも通りの報われないドブさらいだ。反吐が出る。

    電話の女にも、馬鹿な連中にも、それに付き従う他ない私自身にも。
    だいたい何で私が昨夜プールバーに居た事までこの女は知ってる。
    生理周期まで把握されているんじゃないかとすら思えてならない。

    麦野『馬鹿馬鹿しい』

    電話の女からの依頼を受けた私はすぐさまアドレス帳からフレンダ=セイヴェルンの名前を選び出し、電話をかける。
    このくらいならわざわざ全員招集をかけるまでもない。
    一番良いのはコイツらに仕事を丸投げ出来ればそれに越した事はないんだけど

    麦野『――…フレンダ?はあ?デート?頭のネジ緩んでる?仕事よ仕事』

    まだ私が出張らないとどうにも回らない。少しは頭を使って欲しい。
    何気なくテレビをつけ、チャンネルを回す。今日の星占いは私の星座が最下位か


    クソッタレ


    880 = 468 :

    ~1~

    フレンダ『ああ~…結局、麦野と私はビジネスで結ばれたドライな関係って訳よ』

    麦野『そうね、だから何?』

    フレンダ『ああー!結局、その冷めた流し目にゾクゾク来るって訳よ!ギャラ半分で良いからキスして麦野!』

    麦野『サバカレー臭い女とキスする趣味はねえ。大体、私にレズっ気なんてないわよ』

    フレンダ『…“大体”…』

    “仕事場”に向かうワゴン車に並んで座りながら私とフレンダは他愛ない、言い換えれば中身のない会話をしていた。
    仕事の打ち合わせもへったくれもない。それこそ叩き潰して焼き尽くすだけの簡単な依頼。
    そのせいかフレンダがいつも以上に緊張感がない。
    何呆けた顔してる。今更『大体』の言葉の意味がわからない訳ないでしょ?あんた何年日本にいるのよ。

    フレンダ『レズだなんて呼び方は良くない訳よ汚らわしい!私の麦野への愛は百合と言い換えて欲しい訳よそこんとこは!』

    麦野『変わんないでしょうが。余計な日本語ばっか覚えやがって。何が愛だ。シャケ弁の隅っこにある緑のギザギザと同じね。腹の足しにもなりゃしない』

    レズだか百合だか愛だか知らないがそんな物を私に向けて来るな気色悪い。
    男女の恋愛すら無味乾燥な目線でしか見れない私にアブノーマルな話を振られたって答えようがない。
    あんたがせがむキスだって、私は手放せないぬいぐるみにしかした事なんてない。

    フレンダ『あーん!でも麦野のそういう所が私は大好きな訳よ…ギュッてしていい?』

    麦野『今日の働きぶりで考えてやらないでもないわ。ほらそろそろ着くわよ』

    フレンダ『アイアイサー!』

    降り立つ“仕事場”。終わる頃には更地だろう。
    私は解体業者みたいな者だ。私は人間、フレンダは建築物。
    バラす事に変わりはない。冷めて渇いた憂鬱な気分。

    麦野『――――――』

    さあスイッチを切り替えろ。出来得る限り惨たらしく、速やかに解体しよう。
    オマエらの墓標は瓦礫だ。せいぜい土の肥やしになるんだね。
    このアスファルトが敷き詰められとコンクリートに取り囲まれた学園都市(セカイ)の人柱に。

    麦野『行くよ』

    フレンダ『オー!』

    オマエら、朝起きた時自分がくたばるなんて考えて来なかったろ?
    私もだよ。朝起きてすぐに人殺しの電話が入るなんて思ってなかった。


    ツいてなかったね。あんたらも。私らも。

    881 = 468 :

    ~2~

    フレンダ『殺ったー!終わったー!!』

    麦野『字が違ってるわよフレンダ。まあいいか。お疲れ様』

    フレンダ『麦野ー!ギュー!ギュー!』

    麦野『来るな。あんたの返り血がつく』

    任務完了。今日も無事滞りなくバラしました。おしまい。
    となる所をフレンダが駆け寄って来た。血塗れの格好で。
    そんな格好で抱ける訳ないでしょ。そうでなくてもしないけど。

    フレンダ『あっ…最悪ー!コイツのせいか!コイツのせいか!』ゲシッ

    麦野『生首蹴るんじゃないわよ。罰が当たるよ』

    フレンダ『私達がこうやってのうのうと生きてる時点で結局、神様なんていない訳よ』ゲシッゲシッ

    フレンダの爆弾で吹っ飛ばされ転がった生首が更に足蹴にされる。
    うん、コイツもたまには冴えた事を言う。本当にたまにだけど。
    殺しを楽しんでる節があるけど、やる事をちゃんとやってくれてる間は別に構わない。遊びが過ぎて下手を踏まなきゃ尚更。

    フレンダ『麦野パース!』ゲシッ

    麦野『止めろ。パスすんな』ゲシッ

    フレンダ『パス返し!シュート!』ゲシッ

    麦野『あれー?あんまり飛ばないわねー』

    フレンダ『結局、私の脚線美はサッカーに不向きな訳よ』

    麦野『人の頭がそもそもサッカーに向かないでしょうが。なんかボウリングの軽い球みたいね』

    生首でサッカーやられるためにくたばった馬鹿共。
    生首でサッカーやらかすのを楽しんでる馬鹿なフレンダ。
    生首が転がって行くのを見て鼻で笑う馬鹿な私。
    ここにいるのは頭のおかしい馬鹿なヤツばっかりだ。救えない。確かにいないわ神様なんて。

    フレンダ『じゃー麦野先出てて?後はここをド派手にブッ飛ばしちゃう訳よ!絹旗の映画みたく』

    麦野『はいはい。お先。後よろしく』

    サッカーに飽きたフレンダは別のお楽しみを見つけたらしく私は血塗れの研究施設を後にする。
    コイツはやらなくてもいいド派手な爆破をやりたがる傾向にある。
    例えるならロケット花火ばかりやりたがる中学生に近い感覚。

    麦野『嗚呼…くだらない』

    研究施設から出て数分後、ドンッ!と火柱が立つのが背後に見えた。
    壊すばかりで何も残らない仕事。ああ、これが仕事って言うならね。
    人をバラして吹き飛ばすだけの簡単なお仕事です!ってか

    くっだらねえ

    882 = 468 :

    ~3~

    フレンダ『お疲れ様ー!』

    麦野『はい、お疲れ様』

    そして仕事を終え、私はフレンダと別れワゴン車から降りて第七学区のとあるスーパーへと入って行った。
    ここの時鮭弁当はこの学区内ではほぼ最高の出来映えなのだ。
    人殺しで落ちたテンションを上げるための自分への労い。
    ご褒美などと言わない。ご褒美などと言えるほどロクなものも積み上げずに爪磨きに精を出すさもしい馬鹿女みたいな事は言いたくない。と――

    ドンッ

    麦野『あっ…』

    スーパーから出て少しした路上で私は人にぶつかってしまった。
    その拍子に買い物袋が手から離れ、シャケ弁をひっくり返してしまったのだ。

    スキルアウトA『おいおいどこ見て歩いてんだよお姉ちゃん?目ついてんのか?聞こえてんのか?耳ついてんのかアア!?』

    麦野『(…ああ、また“ゴミ”か)』

    私は見やる。如何にも頭と育ちの悪そうなゴミを。
    私のお気に入りのシャケ弁をダメにしてくれたゴミを。

    スキルアウトB『あー弁償だな弁償。これ鹿皮なんだぜ?どうしてくれんだよマジで』

    たかがディアスキン程度で何粋がってんだ貧乏人が。
    テメエらが売った喧嘩がどんだけ高いもんについたか十露盤も叩けねえのか?

    スキルアウトC『まーまー落ち着けって。金なんかよりいいもん持ってるぜこの女』

    スキルアウトD『はははっ、ちげえねえや。オイ、この女のガラ攫うぞ。現物支給で弁済してもらおうぜ』

    嗚呼…そうだったね。私にとって部下は『駒』で、人は『物』で、敵は『ゴミ』だった。

    スキルアウトE『学校も行ってねえくせに弁済なんて難しい言葉使ってんじゃねえよ!ひゃっひゃっひゃっ!』

    弁済?させてやるよ。私のシャケ弁に比べりゃ安いもんさ。
    大出血サービスだ。テメエらの命で償え。

    スキルアウトF『まあそういう事だからさ?大人しくついて来てよお姉さん?』

    どいつもこいつも野良犬の癖に鼻が利かないゴミばかり。
    笑えるジョークだね。その日暮らしの痩せた負け犬(無能力者)がライオン(超能力者)に喧嘩を売る。
    昨日入ったプールバーで、五杯目くらいあけたら笑ってやってもいいジョークだ。
    けど私はジョークが嫌いだ。人に言うのは兎も角、自分が言われるのは我慢ならない。

    麦野『………………』

    せいぜい下卑た笑いを今の内楽しみな。もう殺しのインスピレーションは湧いて来た。

    テメエらがぶちまけたシャケ弁みたいにしてやるよ。ゴミ共が

    883 = 468 :

    ~4~

    麦野『あっはっはっはっはっはっはっ!!クッサいわねえ…ブタだってこんなヒドい匂いしないわよ?やっぱり食用に改良されたブタやウシとは違うのねえ?人の肉って』

    ゴミ処理終了。燃えるゴミにも出せないクズ共ブチ殺し完了。
    嗚呼…最悪の気分で最低の状態だ。返り血飛びまくった。クソッタレ。
    仕事の時あんなに気をつけたのにまた一着おじゃんかと思うとより憂鬱だ。

    麦野『あーあ…くっだらねえ。くっだらないわ。もうコレ着れないわ。最悪。何が鹿皮よ。安物のクセに』

    どこぞのホスト崩れのヤクザ予備軍の方がファッションだけならまだしもマシだった。
    でもEMPORIO ARMANIだのChristian Diorだのモード系のスーツってのがチャラくて嫌い。
    何がきれいめ系だクソッタレ。私はそれ以前にタバコを吸う男が大嫌いなんだ。

    麦野『フレンダー?第七学区のスーパー近くの路地裏まで着替え持って来て。あと下っ端の連中に足と後始末の用意させて。そうそう。お気にのシャケ弁売ってるあのスーパー』

    さっき別れたばかりだけど仕方無いからフレンダを呼び出す。
    まだそう遠くまで行ってないだろうとあたりをつけて。
    顔についた血が携帯に付かないように話す。そこで――物音がして、振り返って―― 
     
     
    上条『――――――』
     
     
     
    麦野『――――――』
     
     
     
    今思えば、これが私達の最初の出会いで運命の巡り合わせだった。
    この時始末しようとした当麻と、私は共に生きる事を決めただなんて誰に予想出来たろう?
    少なくとも、私自身は予知も予期も予見もしてはいなかった。

    誰も彼もゴミとクズだと見下し切っていた私が、初めて手にした温かくて優しい希望の光。
    私は闇に棲んでいた人間だからよりわかる。暗い場所でしか輝く事の出来ない星の在処を。
    だから私は、当麻と初めて喧嘩して飛び出した時…第十九学区を目指した。

    『ほしのみえるばしょ』…もし、こんな私にしか感じ得ない世界を、当麻が理解してくれたらと心のどこかで期待していたのかも知れない。
    そして――最も来て欲しくない時に、最も来て欲しかった当麻は私を迎えに来た。
    狂気に囚われた私が牙を向いたのを、逃げもせず受け止めるために挑んで来た。

    私を救ったのは運命でも


    奇跡でも


    ましてや神様でもない。


    あんたなんだよ。私の当麻。

    884 = 468 :

    ~とある病院・上条&麦野の個室~

    麦野「――ってな事があった訳よフレメア。私もアイツには色々苦労させられて来たのさ」

    フレメア「うん!大体、わかったよ!」

    絹旗「(超ノロケです。軽く拷問です)」

    滝壺「(むぎの、顔がニヤニヤしてる)」

    フレンダ「(結局、誰かに話したくて話したくてウズウズしてたって訳よ)」

    黒夜海鳥率いる『新入生』らの襲撃事件より2日過ぎた頃…
    上条当麻と麦野沈利は強制的に集中治療室に運び込まれる羽目となり、ようやく個室に移る事と相成った。
    本来ならば個室に年頃の男女二人というのは倫理的に多いに問題があるのだが…

    冥土帰し『緊急時という事で多目に見るけれどね?次に脱走したらベットに縛り付けさせてもらうよ?』

    と集中治療室から参戦した上条当麻に釘を刺しつつ冥土帰しから防衛上の観点から許可が下りたのである。
    その上条は今、女所帯に追い出されるかのように病院内のラウンジに一方通行、浜面仕上らと共に席を同じくしていた。
    レイヴィニア=バードウェイの口から語られたこれまでの経緯、今の現状、これからの先行きを話しながらだ。

    麦野「うんうん。フレメアは素直だね。ここまでフレンダの車椅子も押して来たんでしょ?」

    フレメア「家族だもん!」

    麦野「いい子だ」ナデナデ

    フレンダ「麦野麦野!私にもいい子いい子して欲しい訳よ!」

    麦野「歳考えろ」ピシャッ

    フレンダ「orz」

    滝壺「だいじょうぶ、私はそんな一方通行なフレンダの思いを応援してる」

    絹旗「滝壺さん、その例え超不愉快なんで勘弁してもらえませんか?」

    そして…フレンダ=セイヴェルンもまた車椅子で動ける程度には回復していた。
    奇跡的に神経などは傷一つつかずに彼女は一命を取り留めた。
    そんなフレンダの実妹フレメアは子供嫌いを公言して憚らない麦野にベレー帽の上から頭を撫でられている。

    滝壺「はい。きぬはたの大好きなウサギさんだよ」

    絹旗「…滝壺さん、まさかわざとやってませんか?超違いますよね?滝壺さんはそういうタイプじゃありませんよね?」

    麦野「絹旗。滝壺そういう絡みになるとメチャクチャいじって来るよ。私も昔乗せられて料理まで作らされた」

    その傍らで滝壺理后はお見舞い品のリンゴをウサギの形に剥いている。
    それを絹旗最愛はジト目で見やっている。やや唇を尖らせて。

    885 = 468 :

    ~2~

    絹旗「別に第一位は超関係ありませんよ」

    滝壺「?。私がしてるのはウサギさんの話だよ。別にあくせ(ry…もきゅっ!」

    フレンダ「結局、どういう訳よ?フレメア、あーん」ムシャムシャ

    麦野「さあ、本当の所は絹旗にしかわからないでしょ」

    フレメア「にゃあ」モシャモシャ

    有無を言わさず滝壺の口に詰められ、フレンダがフレメアにお口あーんしているウサギリンゴを見やりながら麦野は思う。
    昔、上条が初めて入院した時自分もこうしていたと。
    そして今や自分が作られる側になるとは思っても見なかった。が

    麦野「(ひとまず、少しの間は安泰か)」

    元グループ…否、『必要悪の教会』所属のエージェントとしての土御門元春が学園都市と表面上友好関係にあるイギリス清教の意向を受け…
    『外側の法則』を使うと今回の件で露見してしまったインデックスに手出しするなと上層部に対し働きかけたのだ。
    かつそこに『プラン』に大きく関わる『幻想殺し』上条当麻が深く絡んで来た事もあって事態は今膠着状態にある。

    麦野「(当然、期待するほどの抑止力にはならないでしょうけどないよりマシでしょう)」

    麦野とて楽観視はしていないが悲観論に浸るつもりもない。
    小康状態ではあるし火種は数え切れないほどある。
    だが、あの『三人』が集結すれば見込みはなくはないとも。

    麦野「(ひとまず身体を治さなきゃ話にもならない)」

    嵐の前の静けさ、開戦前夜の足音を聞きながら麦野は瞳を閉じる。と

    フレメア「大体、眠くなって来た?」

    麦野「ん?まだ平気」

    そんな思案する横顔を気遣わしげにフレメアが見上げてくる。
    姉にもこれくらい可愛げがあればなあ、とフレメアを見やりながら麦野は微苦笑を浮かべた。
    子供嫌いだったはずなのにと思わなくもない。だがしかし――

    麦野「子供…かあ」

    フレメア「?」

    前より少しだけ優しくなった世界。ポツリとつぶやくように思う。
    この先何があろうとも自分達はもう大丈夫だとも。
    それがついつい――漏れ出すような言葉の形を為して唇から零れ落ちた。
     
     
     
    麦野「男の子と女の子…どっちがいいかなあ?」
     
     
     
    フレンダ「!!?」

    絹旗「?!!」

    滝壺「b」グッ

    この数年後、上条と麦野の一字づつが組み合わされた珠のような子供が授かる未来は…
    今の所、青髪ピアスの目を持ってしても見抜けない少しだけ先の話――

    886 = 468 :

    ~とある病院・ラウンジ~

    一方通行「………………」

    浜面「………………」

    上条「………………」

    同時刻、病院内のラウンジにて『三人』は今後を話し合い、突き詰め、くたびれ果てていた。
    レイヴィニア=バードウェイの口から語られた『世界の真実』。
    その内容を繰り返し咀嚼し繰り返し反芻し…何とか一定の方向性にて合意した頃には立派な気怠るさ漂うドドメ色の空間が昼下がりのラウンジに出来上がってしまっていた。

    実のところこの『三人』ともう一人は夏のとある事件に絡んで行動を一時的に共にした経緯があるのだが…
    それはまた本編とは関係ない話である。要するに――

    浜面「…ちょっと息抜こうぜ。いい加減頭がこんがらがって来ちまった」

    一方通行「なンですかァ馬面くゥン?色惚けで頭に糖分回ってねェなら血流操作で巡り良くしてあげましょうかァ?」

    上条「止めろよ一方通行。ああでもちょっと休憩しようぜ。上条さんの頭はパンク寸前ですよ」

    一方通行「オマエの頭が既にパンクじゃねェか三下ァ」

    上条「そういうオマエはヴィジュアル系じゃねーか!」

    浜面「くだらない事で喧嘩すんなよお…間をとって俺の無造作ヘアーで。後馬面って言うな。浜面だHAMADURA」

    ダラッダラッのグダグダである。三人のヒーローは今や徹マン明けの学生も同然であった。
    特に一方通行が絡むのには訳がある。それは多重スパイとして土御門元春が、御坂美琴の世界を守るために海原光貴(エツァリ)が、個人的な理由で動いている結標淡希らと…
    学園都市暗部の蠢動を無視出来なかった一方通行との利害関係の一致から一時的に再結成した『グループ』が到着した頃には戦闘は終了していたからである。

    極端な話…思いっきり無駄足を踏まされた挙げ句出落ちで合流したのである。

    一方通行「寝癖かと思ったなァ…ああHAMADURAくンコーヒーおかわりィ」

    上条「悪い…俺もしゃべりまくって喉乾いた…頼む」

    浜面「またドリンクバー職人かよ!オマエらでいけよオマエらで!」

    上条「オデノカラダハドボドボダ…」クター

    一方通行「杖ついてるンでェ」ダラー

    浜面「毎回毎回最終回しか出番ねえのにこの扱い!!ふははは負け犬上等ォォォォォォ!」

    そう、一方通行は遅れてやって来てしまったのだ。


    ――ここより時間は僅かに遡る――

    887 = 468 :

    ~回想・遅れて来たヒーロー~

    海原『終わりましたね…』

    土御門『いや…始まりはここからだ。全てのな』

    一方通行『……ふン……』

    黎明を迎える学園都市…その堆く積み上げられた瓦礫の山より全てを見届けていた集団が居た。
    頂上に杖を支えにしながら見下ろすは一方通行(アクセラレータ)、一段下がった場所に佇む海原光貴(エツァリ)、座り込んでいるのは土御門元春である。
    彼等は一部始終を具に見届けていた。そして介入の必要を認めるまでもなく戦闘は終了した。
    それに鼻を鳴らすは一方通行である。とんだ無駄足だったと言わんばかりに。

    一方通行『(あの翼…AIM拡散力場とも何かが違え。別の次元から引っ張って来たような異物感がある。あのスペアプランのクソ野郎とも違う何かだ)』

    一方通行は既に今回の件のあらましを大凡把握していた。
    “新入生”を名乗る現暗部が“卒業生”たる元暗部を一掃し、外敵に対抗すべく再編成された存在であるとも。
    本来ならば一方通行自身がいの一に的をかけられ浜面仕上とのラインを繋げられていたであろうという事も、全て。

    土御門『…一方通行』

    一方通行『なンだ』

    土御門『いいのか?カミやんに話を聞きに行かないで』

    一方通行『はっ。今三下に話を聞きに行った所でどうせまともな話になンねェだろ…』

    レイヴィニア=バードウェイとたった今合流を果たしたばかりの上条当麻らではまだ説明はおろか理解すらままならない。
    そう言う意味で一方通行の言はあながち外れではない。
    それは闇の奥で生きて来た己より深い世界の底で戦って来た男へのある種の正当な評価であった。

    土御門『そうか。ならここで各々の動きに戻ろう。俺も俺で色々忙しいんでな。いくら俺達が“卒業生”だからってこういう形で同窓会もないだろう』

    海原『自分は引き続き潜りますよ。何かと便利なんです。この力は』

    そして土御門元春は学園都市暗部のスパイというより必要悪の教会(ネセサリウス)のエージェントとして色々動き回らねばならない。
    海原は海原で…学園都市の闇を知る者として、同時に今回の件に一枚噛んでしまった御坂美琴の世界を守るために。
    それぞれの利害関係が一時的に合致した故の再結成。そう皆割り切っている。と――

    一方通行『…オマエはどうすンだ』

    結標『そうね――』

    888 = 468 :

    ~2~

    結標淡希である。特徴的だった赤髪の二つ結びはほどいて下ろされ、ストレートになっていた。
    男三人から少し離れた傾いだ電柱にもたれかかりながら向けるシニカルな微笑を浮かべていた。以前と変わる事なく

    結標『私も一抜けさせてもらうわね。また何か動きがあれば飛んでくるつもりだし、飛ばしてあげる』

    一方通行『そうか。好きにしろォ』

    結標『冷たいのね?相変わらず』

    海原『いえいえ。変わりましたよ。とても』

    土御門『何だかんだでこうやって雁首揃えた訳だしな』

    一方通行『チッ』

    一同にニヤニヤと生暖かい眼差しと笑みが一方通行に向けられる。
    それは再び黄泉川家で暮らし始めた事を指してでもあり――

    結標『貴方を連れ出す時、思い切りアオザイの子に睨み付けられたわ。随分と慕われてるのね?』ニヤニヤ

    海原『おやおや…そちらの雲行きはこの空のように晴れ晴れとは行かないようで』ニマニマ

    土御門『一方通行、俺はアオザイなんかよりメイド(ry』ニタニタ

    一方通行『そうか。短い付き合いだったなァ?』カチッ

    結標『ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!ほんの冗談じゃない!スイッチ切りなさいよスイッチ!!』

    海原『違うスイッチが入ってしまったようですね』

    土御門『上手い事言ったつもりか海原』

    共に暮らし始めた番外個体(ミサカワースト)を指してでもある。
    少なくとも、こういう形で茶化しても絶殺と相成らない程度に一方通行は丸くなった。
    慌てふためく結標と、ウザヤカ笑顔の海原、半笑いの土御門も皆相応に。

    結標『あー心臓に悪い…でも、良いわねえお姫様抱っこ。こんな切羽詰まってる状況だって言うのになんかロマンティックだったわ』

    一方通行『何女の腐ったような事抜かしてやがる』

    結標『失礼ね!女よ!私は女!!』

    土御門『ロマンティック(笑)』

    海原『止まらないんですね』

    結標『ムーブ☆ポイントダーツ♪』ザクッ

    土御門・海原『『ごっ、がああああああぁぁぁぁぁぁ!!?』』

    一方通行『(…やっぱダメだわコイツら…)』

    あらぬところにコルク抜きを突き刺され、悶え苦しむ海原を見下ろして50点ねなどとのたまう結標。
    それらに対し一方通行は眉間の皺を指先でこりほぐす。緊張感が無さ過ぎると。

    889 = 468 :

    ~3~

    海原『ふぐうぅー…ふぐうぅー…』

    土御門『だ…大丈夫か…海原。くっ…これは俺の“肉体再生”でも…』

    海原『ご安心を…こっちの皮はかぶってませんよ!』

    一方通行『結標、もう一発だァ』

    結標『ムーブ☆ポイントダー…』

    海原『テクパトルゥゥゥゥゥ!!』

    目に痛いほどの朝焼け。打ち止めの淹れたコーヒーでも飲みてえなあなどと一方通行は本人らの前で決して口にしない言葉を胸の内でこぼした。
    もし彼女等に危機が及べばどうするか?恐らく…今の自分は戦うだろう。
    未だ持て余し気味の平穏と、その日常の中にある彼女等を守るために。遠くに見える上条当麻のように。

    結標『女の子の夢を馬鹿にするからよ。ああやってヴァージンロード歩けたら…って現実的に無理なんだけど憧れはするわ』

    一方通行『そンな物好きな野郎がオマエにいンのかァ?』

    結標『居るわよ。お姫様だっこは出来ないし、ヴァージンロードも歩けないけど』

    一方通行『?』

    土御門『(ああ、コイツは知らなかったんだったにゃー)』

    海原『ショチトル…ショチトル…』

    上条当麻の腕に抱かれて運ばれて行く麦野沈利の表情。
    それは同性たる結標から見ても女の顔をしているのがわかった。
    あの性格、口汚さ、素行の悪い第四位がと思うと弱味でも掴んだ気持ちだった。
    借りが二つほどあるのでそれはしないが、同じ女として羨ましかった。

    結標『はあ…私もそろそろ行かなくちゃ。それじゃあお先』

    そうして結標は『座標移動』にて何処へと姿を消した。
    前のめりにうずくまる海原と土御門、呆れ顔の一方通行を残して。

    海原『…ふぅ。とりあえず、自分は自分に出来る仕事から始めますか。まず手始めに――』

    そこで海原は見やる。何人か付近に転がっている『新入生』達の中で…
    どれがすり替わりに適しているかを見極めるために。
    出来ればもっと準備期間をかけたかったが止むを得ないと割り切る。

    土御門『さて…と。俺は“お使い”を済ませるとするか』

    そして土御門は学園都市上層部に掛け合うべく歩き出す。夏場と変わらぬGAULTIERのサングラスをかけ直して。

    一方通行『チッ…』

    この日、グループは『再結成』された。各々の利害と立場と目的のために――

    890 = 468 :

    ~2~

    浜面「おらよっ」

    上条「ありがとう…サンキューな」

    一方通行「おォ」

    と、一方通行が回想を終えた辺りに浜面は新たなコーヒーセットを携えて戻って来た。
    張り詰めっ放しでは切れてしまう。されど上条には麦野らが、一方通行には打ち止めらが、浜面にはアイテムらが、それぞれ帰りを待つ者がいる。
    そういう意味で肩肘張らずに男同士の方がくつろげるのだろう。
    それが例え束の間の戦士の休息に似た短い一時であろうとも。

    一方通行「…短い平穏だったな」

    浜面「平穏だなんて一番似合わなそうな奴が言うと本当に実感させられちまうな…」

    上条「――なら、また取り戻せばいいじゃねえか。何度だって」

    一方通行「簡単に言いやがンなァ三下」

    ラウンジの窓辺とガーデンに降り注ぐ午後の陽射しを浴びながら三人はつぶやくように語る。
    平和。それは戦争と戦争の間の息継ぎのような一時。
    その一時は時に数十年というスパンで歴史を刻む事もある。
    しかし彼等が手にしたはずのものは、あまりに短い蜜月であった。

    浜面「…笑わねえで聞いてくれるか?」

    上条「ああ」

    浜面「俺さ、ロードサービスとか鍵関係の進路とか考えてたんだよ」

    浜面は語る。スキルアウト時代に培った技術を生かして手に職をつけられないかと、そうやって身を立てていけないかと…
    通信教材片手に浜面は苦笑する。それを笑う者はいない。上条も一方通行も。

    浜面「――また延び延びになっちまった。皮肉なもんだぜ。勉強も課題も学校通ってた頃は延ばし延ばしにしてたってのに、やっと道を決めて腰据えてかかるかって腹括った矢先にこれだよ…これじゃ愚痴か。ははっ」

    一方通行「(進む道…か)」

    そこで一方通行も触発された。一方通行は学園都市最高峰の頭脳と能力の持ち主であり、同時に学園都市最悪の大量殺人犯だ。
    恐らくは、浜面の語るような前向きなそれとは異なれど数多くの人間の『未来』を奪って来た。
    彼自身もその都度多くの『未来』を奪われ続け命を狙われ続けて来た。
    麦野が独語する『人殺しの世界は閉じて行くだけ』というそれと、やや重なる部分があった。そして

    上条「(先の事…か)」

    上条もまた…『未来』というものを最近考えさせられるようになった。
    それは麦野という存在が、ただがむしゃらに突き進む上条の少なくない部分にそれを意識させる。

    891 = 468 :

    ~3~

    上条「(俺は――沈利と生きていきたい)」

    それは幼年期を終え、少年時代の過度期にある一学生が持つにはあまりに不釣り合いな願いだった。
    社会的に彼はまだ一人前ではない。学園都市の枠組みの中にあって彼は生活を営んでいる。
    そう、今彼が持てるそれを大人の観点から身の丈に合わず現実の伴わない幻想だと揶揄する事は容易い。が

    上条「――俺もさ」

    浜面「?」

    上条「まだ学生だし、出席日数も成績も進級もどれもヤバいんだけど」

    一方通行「………………」

    上条「やっぱり、未来(さき)が欲しい」

    浜面「――俺も、スキルアウトや暗部になった事は全く後悔してないって訳でもねえし、もっと勉強してりゃ良かったってのもなくもない。今更って考える時あるぜ。無くしかけて、失った初めてわかるもんの重さとかよ…今のお前みたいに考えたりさ」

    一方通行「……はン……」

    一方通行は上手く言葉に表せない。平和すら持て余し気味の日々の中で、一般的な意味合いですら普通でない彼等でさえ…
    今ここにいるのは十代の少年達だった。ヒーローという肩書きを脱いだ、裸の彼等を上手く見つめられない。
    くだらないと一蹴する事も出来た。だがそれをアッサリ告げる事は黄泉川家で擬似的ながら家族関係を築き上げた今の一方通行には。

    一方通行「…今わかってる事ァ、その“先”とやらは戦って勝たなきゃ掴めねェってこった」

    上条「一方通行…」

    一方通行「オマエは世界の底、俺は闇の奥、それぞれ首を突っ込ンじまった。ただガキみてェに座ってりゃオヤツが出て来るような未来が待ってる訳ねェだろうが」

    らしくもなく語る自分を一方通行は自嘲すら出来なかった。
    この三人の中で恐らくは…『未来』などと語る資格が自分には一番ないと知るが故に。
    それでも――『一緒にいたい・いたかった』者達に巡り会ってしまったが故に。

    一方通行「――勝たなきゃ意味ねェだろうが。勝って、勝って、勝ち続けて――」

    未来。知っていながら考えもしなかった単語。そうこれは…
    未来を掴むための戦いなのかも知れないと一方通行は感じた。
    これまで一笑に付す価値すらないと断じ、蹴飛ばして来たにも関わらず割れずに戻って来た石ころ。
    その石が、人によってはダイヤモンドより価値ある物だと。
    少なくとも…一方通行以外の人間達にとってはと。

    892 = 468 :

    ~4~

    一方通行「――オマエらの頭じゃ理の字もわからねえ演算式みてェなもンだ。質問に答える出題者も、答え合わせする試験官もいねえ、クソの寄せ集めみてェな選択肢しかなくても、だ」

    浜面「…お前…」

    一方通行「先とやらを語る前に損のねェ事だけ考えろ。今ならこの状況それ自体がクソみてェな“問題”だろうが」

    浜面もそこで考える。彼が口にしているのは方法論なのか精神論なのか心的姿勢なのか。
    だが問題がどうあれ…自分達はこの状況下を乗り越えねばならない。
    恐らくは彼等三人のみならず…彼等の周り全てを含めた人間の未来のためにも。

    一方通行「…豆の挽きが粗いな。酸味が強過ぎる」

    そう言いながら一方通行はコーヒーを口にする。
    人生と同じ苦味と深みを内包する味わい。恐らくはその両方に舌が追いついた時人は大人になるのかも知れない。
    かつて砂糖とミルクを一緒に入れねば飲めず、同時に毒を呷ってしまった少女達がいた。
    が、一方通行にそれはありえないし、一方通行もその少女達を知り得ない。

    上条「上条さんにはさっぱりです。モカとかブルーマウンテンとか言われても…飲んでも違いがわかんねーんだよなあ…」

    一方通行「頭だけじゃなく舌まで悪いってか。哀れだなァ」

    浜面「俺、缶コーヒーなら違いわかるぜ。BOSSなら完璧だ。ミッドナイトアロマは最高だったなー…」

    上条「あれ美味かったよな!なんで終わっちまったんだろ?」

    一方通行「砂糖ってクソとミルクって小便ブチこンだコーヒーなンざただの泥水だ」

    浜面「優雅に飲みながらクソとか小便とか言うなよコノヤロウ!」

    上条「俺も浜面とか同じだなあ…つか、俺ん家沈利とインデックスが紅茶党だからなー…コーヒーあんま出ないんだ」

    浜面「紅茶か…ドリンクバーしょっちゅう取りに行かされるからわかるけど、なんで女ってあんな紅茶好きなんだろうな?」

    上条「上条さんにもわかりませんの事ですよ。なんででせうか?」

    一方通行「俺に女の事聞く方が間違いだろうがァ。あァ、あとこの間のお前の女が寄越したHavilandのカップ、ありゃなかなかのセンスだ」

    上条「沈利がブランド詳しいからな…俺は全然わかんねーけど」

    浜面「滝壷は未だにキャラ物のマグカップだなー」

    一方通行「ウチのクソガキと変わんねえなァ」

    こうして、男達のコーヒーブレイクが過ぎ行く中――

    893 = 468 :

    ~第十五学区・カフェ『デズデモーナ』~

    絶対等速「(今日って日はどうなってやがる)」

    絶対等速はギャルソン服に身を包みながら瞠目していた。
    ケチな強盗をやらかした挙げ句お縄、紆余曲折あって娑婆に出た時には学園都市が壊滅状態。
    そんな中にあってやっと手にしたボーイの仕事。ようやく制服が慣れて来た所で――その日の来客は正に珍奇の極みであった。

    『かーざーりー♪何食いたい?』

    『え、えーっと、えーと…』

    『この“あまおうのフレジェ”なんて可愛いくて美味そうだぞー?…飾利みてえにな」キリッ

    『かっ…垣根さん////』

    絶対等速「(外のマイバッハのオーナーってこのホスト野郎かよ!?つかこの女の頭の花何!?ん?なんかこいつ見覚えが…?)」

    まず乗り付けて来たマイバッハから降りて来た男が学園都市第二位こと垣根帝督、その手を引かれてテーブルにつく初春飾利である。

    絶対等速「(しかもスーツはディオールで靴はドルガバかよ!巫山戯けんなクソックソッ!俺の能力で十円傷攻撃…したら俺が死ぬよね、うんうん)」

    表面上はにこやかなボーイの笑顔を浮かべながら絶対等速は二人から注文を取る。
    その内心はジェラシーの極みである。垣根の腕時計をチラリと盗み見る。
    絶対等速の持つ最高のお宝はデイトナのエキゾチック(盗品)である。
    なんという不遇、なんという不公平かと絶対等速は心中で血涙を流して止まない。

    絶対等速「(ちくしょう…右見りゃチュッコラ、左見りゃイチャコラ、どいつもこいつもワッショイワッショイ!)」

    成り上がりたい、と切に願う。俺はもっと評価されるべき、間違ってるのは俺じゃない世界の方だ!と叫びたい。
    しかし――垣根らを案内して一息つくのはまだ早い。何故ならば――

    御坂「うわー悪趣味なマイバッハ停まってる…引くわー」

    禁書目録「車の事はわからないんだよ!それより短髪!早く食べたいかも!!」

    絶対等速「いらっしゃいませ(今度は第三位かよ…どうなってんだ今日は)」

    御坂美琴、そして禁書目録(インデックス)が揃って来店して来たからだ。
    どうやら垣根らの存在には気づいてないらしく…絶対等速は再び揉み手しながら近寄る。

    絶対等速「(俺はこのまま終わる男じゃねえ!)」

    今は雌伏の時、そう再起を強く心に誓いながら――

    894 = 468 :

    ~禁書目録と超電磁砲Ⅱ~

    御坂「あーっ…ったく。見ちゃいらんないわよねホントにさー!」

    禁書目録「仕方無いんだよ。“自分だけの現実”より“二人だけの世界”の方が強かったのかも!」

    御坂「わかってたって思いっきり見せつけられちゃ頭にだって来るわよ!なんなの全く!」

    御坂美琴とインデックスはふられた女二人(正確には御坂一人)でやけ食いに精を出していた。
    病院での長い夜を越え、その際約束した二人だけのお茶会である。
    ザクザクとハニトースト・バニララテ・クイニーアマンを二人でつつきながら、やはり愚痴る話題はこの場にいないあの二人についてである。

    禁書目録「まあ、あの二人がこのハニトーより甘~いのは確かなんだよ。見てて胸焼けしちゃいそうかも」

    御坂「私がアンタの立場だったらとっくに精神が糖尿病…あっ、私ったら食事中になんて事を」

    禁書目録「気にしたら負けなんだよ短髪。鋭すぎる事よりも、鈍くある事が時には大切なのかも…」ハアッ…

    御坂「…あんたこの一年でえらく大人びたわね…」

    禁書目録「女を磨くにはダメな男が一番の研磨剤なのかも。磨り減ったり傷ついたりして…女は光るんだよ」フッ…

    御坂「ごめんもうなんかごめん私がアンタに謝りたい」

    遠い目をして乾いた笑いを浮かべるインデックス。
    御坂とさして変わらぬ年嵩の少女が浮かべるにはあまりにニヒルな笑顔。
    ステイル=マグヌスあたりが見ればちょっとしたショックを受けそうなそれだった。

    禁書目録「私がどうして病室でとうまに手を貸さないって言ったかわかるかな?短髪、あれはとうまが私をぶっちぎっていきなり短髪に“お前しかいないんだ御坂!”って言ったからなんだよ?」

    御坂「うん…だと思った。ぶっちゃけちょっと気まずかった」

    禁書目録「流石の私もあれにはピキピキって来たんだよ?短髪も同じ女の子ならわかるよね?」

    御坂「うん。でもぶっちゃけちょっと嬉しかった。アンタに勝てた気がして」ニヘラ

    禁書目録「短髪が破産するのとお店が潰れるの、どっちが先か試してもいいんだよ?」アムアム

    御坂「ちょっと!ヤケ起こすんじゃないわよ!」

    禁書目録「そのためにやけ食いに来たんだよ!!」

    そして――インデックスが、ごくごく普通の女の子をしていると言う事実も含めて。

    895 = 468 :

    ~6・5・7・2~

    カランカラーン

    『あー!おったおった!いっぺん言うてみたかったてん。“ごめん、待った?”』

    『………………』

    『ボケたら突っ込んでーなこころちゃん!ん?どないしたん顔?金魚みたいに真っ赤に膨らして?』

    『!!!!!!』ガタンッ!

    『なんで怒ってるん!!?』

    禁書目録「短髪、とうま以外に気になる男の子とかいないのかな?」

    御坂「いないわよ。いる訳ないじゃない。常盤台は女子中よ?そもそもアイツと会ったのだって…」

    禁書目録「その話はこのキャラメルマキアートよりおかわりさせられたからもうお腹いっぱいなんだよ」

    御坂「じゃあもうオーダー止めていい?もうテーブルが彩り通り越してるわよ」

    カランカランー

    『本当にあのデコチャリで天文台まで行くつもりか?正気の沙汰と思えないんだけど』

    『なに!根性さえあればどうと言う距離じゃない!』

    『前みたくスポーツカーと張り合うのは止めてもらいたいんだけど』

    禁書目録「そういう短髪の身の回りは彩りが少ないかも。逆に、他の男の子から声がかかったりはしないのかな?」

    御坂「なくは…ないし、なかった事もなかったんだけど…(海原絡みのはカウントしたくないなあ正直)」

    禁書目録「ならそちらをオススメするんだよ」ニヤニヤ

    御坂「さりげなくライバル減らそうとしてんじゃないわよ!見た目白いクセに結構腹黒くなったわねアンタ」

    禁書目録「短髪だって可愛いんだから、ショートケーキもいい?」

    御坂「いやいやおかしい。建て前と本音がつながってないわよ?」

    『はい、前に春上さんと言った自然公園の近くです』

    『余裕だな。でも山にあるんだろ?そんな格好で大丈夫か?』

    『大丈夫です!問題ありません♪』

    『――俺達のイチャラブっぷりに冬場の空気は通用しねえ!』

    禁書目録「短髪の周りの子にも、そういうお話ってないのかな?」

    御坂「う~ん…あるっちゃあるけど、別にそんな危機感とか焦りはないわよ。残念でしたーその手には乗りませーん」

    絶対等速「(カップルばっかりだちくしょう!なんでこんなにカップルだらけなんだよ!どいつもこいつもカップルカップル!お前らカップル村の住人かっ)」

    896 = 468 :

    ~3~

    御坂「なんかさあ、レベル5もどんどんそういう浮いた話が出てるのよねえ…ないのって私くらいかしら」

    禁書目録「れべるふぁいぶ?しずりと同じ??」

    御坂「そう。第四位はああだし、第二位は初春さんにベッタリ、第五位はなんか男の子と歩いてるの見たって佐天さんが言ってたし…七位はあの変な自転車で女の人と二人乗りしてたって噂で聞いたし…」

    モンブランの周りのフィルムを器用にフォークで巻き取る御坂。
    ローズヒップティーを継ぎ足すインデックス。
    共に追われる身になりつつあるが、この細波のような一時をゆっくりと楽しんでいた。

    禁書目録「…私達も、いつかとうまと違う男の子を、とうまと同じように好きになったりするのかな?」

    御坂「わかんない。少なくとも今は考えられないわよねそういう事」

    禁書目録「短髪は諦めが良くないかも!」

    御坂「――それくらい、アイツは私達にとって“特別”過ぎたのよ」

    巻いたフィルムからスプーンを抜く。優雅ながら行儀悪い手遊びを止めて御坂は窓の外に広がる冬空を見やる。
    同じようにしてインデックスも窓ガラスの向こうに広がる繁華街の歩行者天国を見つめる。
    先日の一件からすればあまり誉められた出歩きではないが――

    禁書目録「…“特別”…」

    御坂「うん。特別。私もなんか吹っ切れちゃってさ。もうウジウジ悩んだりメソメソ泣いたりすんの止めよーって。だって…認めちゃった方が楽なんだもん?」

    麦野に対してだからこそぶつけられた思いがあるような、インデックスに対してだからこそ話せる事もある。
    何かが吹っ切れたような振り切れたような、そんな心持ちの中に御坂はあった。
    それはあの集中治療室にて…御坂の叫びが上条に届いたという事も多分に含まれているのだろう。

    禁書目録「しずりも詰めが甘いんだよ。短髪が生き返っちゃったかも!」

    御坂「ええ!あの女に喰らわされたボディーブロー、退院したらガゼルパンチで返してやるんだから!」

    禁書目録「やめた方がいいんだよ。しずりは殴り合いだととうまより強いんだよ」

    御坂「女には負けるとわかっていてもドロップキッ……えっ!?」

    禁書目録「?」

    そこで――御坂は目を見開く。繁華街の人並みの中を行く――
    かつて御坂と敵対もし、あの『八月十日』を境に姿を消したはずの――
     
     
     
    結標「――――――」
     
     
     
    『学園都市第九位』結標淡希が通り過ぎていった。

    897 = 468 :

    ~あの夏の、その先。~

    黒子「――――――」

    その頃白井黒子は数日前の第十五学区での残務処理を終え…
    その足で歩行者天国の人波を見送るようにして先日腰掛けていた花壇の煉瓦に座る。
    あの白昼夢のようなすれ違いから二日…白井は待ち続けている。
    もしかするとずっと待ち続けていたのかも知れない。あの夏の日から

    黒子「(生きていらっしゃったんですの?生きていたのならば…何故――)」

    忘れもしない八月十日。あの軍艦島での灯台から、結標淡希と姫神秋沙は海に身を投げた。
    結標は白井を庇って、姫神と共に死を選ぶようにして。
    その前後の記憶が白井にはほとんどない。気がついた時には吹寄制理と共に白井は保護されていた。
    たまたま肝試しに訪れていた上条当麻、麦野沈利、インデックス達の手によって。

    麦野『思い出すんじゃなかったよ。肝試しの約束なんてさ』

    夜明けまで何度となく繰り返し繰り返し潜り、アンチスキルによる捜索隊を出動させてても…
    見つかったのは姫神が羽織ったままだった結標のブレザーと、結標自身が身につけていたベルトと軍用懐中電灯のみ。
    そうつぶやきながら形見とも遺品ともなってしまったそれらを麦野から手渡された時…白井は絶望した。

    白井「――――――」

    自分があの二人を殺してしまった。自分があの二人を死なせてしまった。
    自分があの雨の日手を差し伸べ傘を差し出さねば二人はあそこまで壊れずに済んだのだ。
    あの日の自分は狂っていた。誰しもが狂っていた。一番狂っていたのは他ならぬ白井自身だった。そんな言葉で片付けてはならないほどに。

    それから白井は『亡霊』となった。消えた結標の形見を身に纏い、御坂の呼び名であった『お姉様』を己に禁じて。
    破綻寸前の精神を、毎日毎日結標の遺品を身に纏う事で傷を抉り続ける事で。
    その白井の狂的な自罰を…超電磁組も、あの寮監すらも咎められなかった。

    さらに風紀委員の除名、常盤台中学の退学、いずれも彼女らが必死に食い下がって白井は生かされた。
    廃人になれたらどんなに楽だろうと言う精神状態ですらあった。
    しかし――その、行方不明となった結標淡希が…生きていたのだ。生きているのだ。 
     
     
    結標「――似合わないわね、その格好――」
     
     
     
    白井「―――!!!」

    今、腰掛けた白井の…目の前に立って――

    898 = 468 :

    ~2~

    白井「――淡希…さん――」

    結標「……ひさしぶり――」

    彼女は立っていた。幽霊にはない二本足で、変わらない香水の匂いとシニカルな微笑。
    そして何より…下ろされた赤髪が、まるであの日の姫神秋沙を思わせた。

    白井「…生きて、いらっしゃいましたの…?」

    結標「――ええ……」

    白井「姫神さん…は?」

    結標「……生きてるわよ。日本にはいないけれど」

    周囲の喧騒が消え失せ、雑踏がスローモーションに見えるほど、今世界は二人きりだった。あの夏の日のように。

    白井「…今…どちらに…」

    結標「ランベス」

    白井「…イギリス!?」

    結標「私達は今、そこに身を寄せてるわ。オルソラ=アクィナスとかいうシスターに拾われてね。覚えてない?あの空中庭園でのグリルパーティーの時にいたシスターよ」

    そこで白井は思い当たる。あの時シャトーブリアンを焼いていた修道女かと。
    しかし――結標にはそれ以上の詳しい説明をするつもりはなかったようだった。
    その表情には…恐らくは白井以上の深い悔恨が強く刻まれていたから。
    再会を無邪気に、感動的に喜び会えるほど…自分達の業は軽くない。

    『死なせて!!死なせて下さいお姉様!!』

    『殺してよ秋沙!!私を殺してよ!!私は貴女を裏切ったのよ!!』

    『私は絶対に許さない。私を置いて死ぬのも。私から離れて生きるのも。私は淡希を絶体に赦さない』

    『上条当麻!!お前なら助けられるんじゃないの!?まだ、まだ浮かんで来ないの!?』

    『そうね、だから何?だったらテメエが飛び込めよ!加害者のクセに被害者面してんじゃねえ!!私はテメエみたいな人種見てると反吐が出るんだよ!!』

    『黒子!黒子止めなさい!!アンタが後を追ったってどうにもならない事もわからないの!!?』

    『白井落ち着け!おい!!みんな食堂から出るんだ!!!』

    『貴女様は、救われたいのでございましょう?』

    『死に損なったのか生き延びたかを決めるのは、これからなんじゃねーですか?』

    『お前達じゃモチーフにならない。私にゃ硝子細工は扱えないからね。鑿を持つその手で砕いてしまいそうだ…科学側の人間だと思うとどうしてもね』

    『白井さん…白井さんは、本当にこのままでいいんですか?』

    『今の白井さんは…無能力者の私よりカッコ悪いですよ!見損ないましたよ!!』

    『先生の責任なのです…先生が、先生がもっとあの娘達をちゃんと見てたら…!』

    899 = 468 :

    白井「………ッッッ!!!」

    そこから先はもう、白井は言葉を紡げなくなってしまった。
    涙だった。声にならない涙が溢れ出た。それは生存確認の喜びのそれではなく――
    言うなれば、殺人者がその被害者と遺族に対して流す涙に似ていた。
    恐らくは如何なる言葉や感情のくくりにも表す事の出来ない、そういう類の涙。

    結標「――少し見ない間に、背が伸びたわね」

    そして…結標もまた手を差し伸べる事はしなかった。
    己が弱さが招いた過ちが、決定的な致命傷を刻み込んでしまった事を知っているから。
    あの雨の日とは全く逆の構図。だからこそ…選ばない。あの夏の日の結末を。

    結標「――こんなに、痩せてしまったのね」

    あの夜、結標が最後に呼んだ名前。それは姫神だったのか白井だったのかは当人達以外誰も知らない。
    結標が如何なる道を選んで姫神と共にイギリスへ渡ったのか。
    白井がどれだけ苦しみ抜いたかも、そしてこの再会の意味もまた――

    結標「――ただいま、“黒子”」

    白井「ひぐっ…ヒッ…ウゥッ…グッ…うううぅっ…お゛っ、ね゛え…さまぁ!」

    永遠に思えた夏の日。夏雲の彼方に見えた遠雷。
    恐らく、この時ようやく…二人の少女時代は本当の意味で終わりを迎えたのだろう。
    果てしない絶望の底から、二度と交わる事のない各々の道筋へと。

    御坂「………………」

    禁書目録「短髪?なにかあるのかな?」

    御坂「ううん?なんでもない♪」

    そして――御坂もまたそこから目を切った。あれは彼女達の物語だと。
    決して手を出してはならない、一つの悲劇が終わりを告げる終止符の向こう側。
    御坂にはわからない。彼女達が何を想い、何を考えているかまでは。だが

    禁書目録「このショートケーキ、しずりととうまとふれめあのお土産にしたいんだよ!“いちまんえん”で足りるかな?」

    御坂「余裕よ余裕。お土産代はアンタ持ち!そ・の・か・わ・り」

    禁書目録「?」

    御坂「――イチゴのショートケーキ、もう一つ追加しといて欲しいの。食べさせてあげたい…可愛い後輩がいるのよ」

    禁書目録「任されるんだよ!」

    語られる事のない、残酷な物語の終わりの1ピース。
    その出来上がったパズルの絵柄を知るのは結標と姫神と白井のみ。

    だから御坂は思った。今日だけは…今日だけは、少し後輩に甘い先輩になろうと。
     
     
     
    このストロベリーショートケーキのように 
     
     

    900 = 468 :

    ~とある病院・黒夜海鳥の病室~

    黒夜「………………」

    SC「あー…うー…?」

    そして…冥土帰しの病院の一角にて、黒夜海鳥は沈み行く夕陽を見送っていた。
    失われた左腕に新たに取り付けられた義手を右手で撫でる。
    もう愛でる事の出来るイルカのビニール人形はないのだから。
    しかし…今やそれすらよくわかっていないシルバークロースは空を渡る鳥達の影を子供のように見送るのみだった。

    黒夜「何故助けた」

    冥土帰し「それが僕の仕事だからね?」

    と、見回りに訪れた冥土帰しに振り返りもせぬまま黒夜は吐き捨てた。
    しかし応える冥土帰しよりも覇気のないその声音は、まるで憑き物が落ちたかのような年相応のもので…

    黒夜「私は頼んだ覚えはないよ。そうやって死に体の人間を助けて回るのがアンタの趣味なのかい?」

    冥土帰し「僕に出来る唯一の事だからね?これだけは曲げられないんだ」

    黒夜「…お前は爆弾を拾ったんだよ。もっとも今は不発弾だけどさ」

    冥土帰し「かつての猟犬部隊や君達のような強硬派でもない限り、この病院においそれと手出しはさせないよ。ゆっくり身体を休めるといい」

    黒夜より遥かに多くの地獄を見て来た神の手を持つその医師、冥土帰しは二人を保護したのである。
    そして黒夜もまた…行き場を失っていた。あれだけのコストをかけての『剪定』に失敗した以上…
    今度は彼女が振りかざしていた『闇』そのものが彼女を殺しに来るのだから。

    黒夜「ひっはは…死よりも辛い生のプレゼントをありがとう」

    今や黒夜らはよすがの地を失った。『木原印』のサイボーグは全滅、シルバークロースは記憶喪失。
    拾ったものは命だけ。それそのものが救いであり、同時に罰である。

    黒夜「私にはもう…バッドエンドを噛み締める資格も残されちゃいないってか。死に損なった悪党なんざ、小悪党以下だにゃーん?」

    黒夜は自嘲する。なるほど、自分も狩られる側のライオンにまで身を堕としたかと。
    この学園都市という巨大な檻の中で、狩られるばかりの獲物になってしまった。
    それが…何故か笑えてしまう。可笑しくもないのに込み上げて来る。が――

    冥土帰し「――君に、面会が来ているが?」

    黒夜「…死神にすら見放された私に、か?」

    そこで――ガラッと病室の扉がスライドされた。
    黒夜にとってもっとも懐かしく…もっとも憎らしく…
     
     
     
    絹旗「――――――」
     
     
     
    もっとも――


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