元スレ怜子「ねぇ恒一くん、生理が来ないんだけど…」
SS覧 / PC版 /みんなの評価 : ★
351 = 148 :
くだらないことを話しながら神社まで歩く。
バスが通れない場所にあるから徒歩だ。
自然界がすごい。林道を通るだけで未知の世界に来た気分になる。
誰もが樹の香りや空気を感じてうれしくなった。
あ生命力に満ち溢れたこの場所は、
まさしく癒しの空間と呼ぶにふさわしい。
修羅とカオスの世界にいた者たちに、生の息吹を与えてくれる。
恒一「なんてすばらしい場所なんだ。悩みなんて吹き飛んじゃうよね」
由美「本当にいい場所ね。やっぱり来てよかったわ」
綾野「人間って最後は自然に帰りたくなるっていうもんね」
鳴「ふぅ。歩くの疲れちゃった。榊原君抱っこして?」
無視して歩き出す榊原以下三人。もう女たちの汚い手に
乗るつもりはなかったのだ。彼らは聖人三人組だ。
353 = 336 :
聖人君子になったか
354 :
355 = 148 :
神社は意外に小さかった。しかしどこか歴史を感じさせる佇まいだ。
千曳「さあみんな。榊原君から邪気が消えるよう祈りましょう。
あと怜子君がまともに戻ってくれるようにもね」
赤沢「こんなふざけた理由で神社に来る人もいないでしょうね」
松井「まぁハイキングだと思えばいいんじゃない?
神社の雰囲気ってしぶくて素敵だわぁ」
金木「ハイキングっていうより登山かしら?
道中起伏が激しかったからもう足がパンパンよ」
松井「赤沢さんの胸はどうしてパンパンなの?」
金木「ハチにでも刺されたのかしら?」
赤沢「もともとこういう胸なのよ!! 巨乳で悪かったわね」
風見(うっ。ゆかりの胸を想像したら変な気持ちに……)
356 = 148 :
怜子「風見君はまっすぐ立ってお祈りしてくださいね?」
多々良「なんで前かがみになってるんですか?」
風見「言わなくても分かってるくせに聞くなよ!!
百合ップルがくだらない話をしたせいだ!!」
望月「なんて変態なんだろうね。ここは神社なんだよ?
神様の前でテント張って泊まり込みでもするつもり?」
風見「君には言われたくないよ年上好きのくせに!!」
千曳「はいはい。そういう漫才は館に帰ってからやろうか。
実は神様はつまんない漫才は嫌いらしいんだ」
怜子「みんなで手を合わせましょうね。
私と榊原君から邪気を取り払ってくれますように……」
赤沢(……今夜恒一君を襲えますように。婚約できますように)
恒一(……生きて帰れますように。死人が出ませんように)
鳴(……榊原君と結婚できますように。抱っこしてもらえますように)
357 = 336 :
さるよけ
358 = 316 :
しえん
359 = 148 :
ロクでなし集団とは彼らのことを言うのだろう。
生徒で真面目にお参りしてるのは聖人三人組と有田だけだった。
お参りを終えたら宿舎に帰るだけだ。
かなりの田舎なので特によるべき場所はない。
うっそうと茂った木々だけが生徒を見つめていた。
恒一「どうもこの場所は何かありそうだ」
小椋「奇遇ね。あたしも同じことを考えてたのよ」
有田「つねに誰かに監視されてるような怖さがありますね」
綾野「神社の近くに足を踏み入れた瞬間、前に進むのを
ためらったほどだよ。他の皆は気づいてないみたい」
いくえにも重なり合う樹木の間に潜む闇。
その気配は、夜が近づくにつれて大きくなっていった。
360 = 148 :
館につく。適当に雑談し、あっという間に夕飯の時間だ。
管理人たちが作ってくれた夕食は意外と豪華だった。
洋式なのでテーブルマナーだ。
敦志「榊原君。君は知れば知るほど素晴らしい子みたいだね。
頭も良いらしいし、性格もおだやかだ。
君なら安心して由美を任せられるよ」
恒一「そんな。由美さんは僕にはもったいないくらいですよ」
敦志「ははは。謙虚なとこも気に入ったぞ」
望月「はぁ? 何言ってんですか小椋さんのお兄さん。
このバカの正体を知らないからそんなこと言えるんですよ」
敦志「あっはっは。今度は一変して酷い言われようじゃないか」
勅使河原「おい望月。食事中なんだから押さえろって」
望月「でもお兄さんが勘違いしたら困るじゃないか」
テーブルは敦志と上の三人を加えた四人掛けだった。
鳴は沙苗さんたちと食べてる。
361 = 148 :
鳴(席が遠くて榊原君にあーんしてもらえない……)
沙苗「どしたの見崎さん?」
鳴「なんでもないです……」ガックリ
沙苗「?」
多々良「その子なら元々根暗ですから気にしないでください」
沙苗「そーなの? うちの弟がよく見崎さんの話するから、
一度顔見てみたかったのよ。ふだんは無口のくせに
見崎さんの話になるとうれしそうなの」
猛「ばっ……何言ってんだ姉貴!!」
遠くの席の猛が反応した。
沙苗「でもあんたが見崎さんに気があるのバレバレじゃない。
恒一君に嫉妬してたんでしょ?」
猛「そんなの知らねえよ。あーもう余計なこと言わないでくれ!!」
363 = 196 :
うふふ
364 = 148 :
鳴「へえ。水野君って私のこと気になってたんだ?」
水野「うっ……ば、バカ。そんな嘘信じるな」
中尾「よっ。おめーら付き合っちまえよ」
前島「旅先でカポー成立とか最高じゃねえか」
杉浦「でも見崎さんは榊原君のお気に入りでしょ?」
風見「いかにもその通りだね。旦那としてはどう思う榊原君?」
恒一「ノーコメントで」モグモグ
鳴「ええ!?」ガーン
敦志「さすがモテる男はあしらい方が違うぜ。
俺も見習うようにしよう」
勅使河原(うーむ。はっきりしてるのはいいんだが、
あとで泥沼にならないことを祈るよ)
365 = 148 :
小椋「あいつら、あいからずバカやってるわね」
綾野「見崎っちの諦めの悪さも表彰もんだよね」
赤沢「でもその根性だけは見習わないとね」
有田「複雑な人間関係だね」
その後は普通の食事だった。特に誰かが謝罪を要求することもなく、
雷も鳴らなかった。天気は今日一日晴れである。
部屋に戻る恒一。険悪の仲の望月と相部屋だったが、
クラスで決められたことなので我慢する。
望月「はぁはぁ。もうお風呂も入ったし、
あとは怜子さんが来るのを待つだけだよね?」
恒一(はぁぁぁ。僕はもう聖者に転生したんだよ?
そういう下品なのは他の人に任せたいよ。おや?
廊下から誰かの気配を感じるぞ? 隠れよう)
多々良「こんばんわ。今宵は良い夜ですね」
367 = 148 :
多々良「望月君だけですか。榊原君はいないのですか?」
望月「……」
望月は三秒前に手渡された、くしゃくしゃの紙を
握っていた。内容はこうだ。
『僕の居場所、ばらしたら怜子さんとキスするぞ』
望月は適当に言い訳して帰ってもらうと思ったのだが、
多々良「あなたの顔色を見れば隠し事をしてるのは分かりますよ。
その左手に持ってる紙が関係あるのですね?」
望月「……!!」
多々良「眉が動いたことから図星のようですね。
正直に彼の居場所を教えてください」
修羅と三組はセットなのだと望月は実感させられた。
マックのハッピーセットみたいなものだ。
多々良の脅しに負け、ついに白状してしまう。
368 = 148 :
多々良「ベッドの下ですか。なるほど。面白い隠れ場所ですね。
まるで幼い子供のようで可愛らしいです」
恒一(捕まったらやばいぞ)サササッ
忍者のような動きでベッドから出てきた恒一。
一気に両開きの窓を開け、飛び降り自殺者のようなポーズをとる。
恒一「お願いだから来ないでくれ多々良さん。
それ以上近づいたら、ここから飛び降りるからね」
彼の態度を意に介さず、望月から奪った紙を読み上げる多々良。
多々良「どれどれ。ぼくの居場所、ばらしたら怜子さんとキスするぞ」
恒一(自分の読書感想文を家族に読み上げられるくらい恥ずかしい。
望月はもう逃げてしまったし、どうしよう)
多々良「おもしろい手紙ですね?」ニコ
369 = 196 :
素直に犯されろ
370 = 148 :
恒一「う……」ビクビク
多々良「ちょっと私の部屋でおしゃべりしませんか?
今なら誰もいなんですよ」
恒一(同じ部屋の人が強制退去させられたのが容易に
想像できるよ。なんて怖い人なんだ)
多々良「聞いてますか榊原君?」
恒一「僕は自由が欲しい」
多々良「浮気する自由ですか?」
恒一「ち、違う。自由恋愛がしたい。
もう拘束されるのは嫌なんだ」
多々良「へえ。愉快な話ですね」スタスタ
距離を詰められる。それだけで心臓を
鷲掴みにされたほどの恐怖を感じるのだった。
371 = 148 :
恒一「来ないで!!」ビクビク
多々良「うふふ。そんなに足が震えてるのに
飛び降りなんて大胆なことができますか?」
恒一(だめだ。多々良さんの手が触れたら僕は終わる。
神社でお参りしたのに、どうしてみんなは変わらないんだよ。
僕は無事平穏だけを願ってるのに。生きて家に帰りたいよ)
十五センチ先まで多々良の手が近づいた。
伸ばされたしなやかな指が触れた瞬間、恒一の運命は終わる。
清く正しく美しく。どっかの校則のような学生となるべく
努力しようと思ったのに、それが一瞬で崩される屈辱。
恒一(僕はクズに戻りたくない!!)
多々良「なっ……?」
ついに飛び降りたのだ。ここは三階。
打ち所によっては死んでもおかしくない。
372 = 189 :
合宿所に三階あったっけ
373 = 345 :
タタラッテイ
375 = 148 :
恒一「うあああああああああああああああ!!
おあああああああああああああああああ!!
ふわああああああああああああああああああああ!!」
スパイダーマン2の主人公を彷彿とさせる叫びを上げて
墜ちていく。この時点で恒一は死を覚悟していた。
生い茂る木の枝に何度もぶつかりながら、芝生に落下して気絶した。
目が覚めると、佐藤さんが介抱してくれてる。膝枕だ。
恒一「君は佐藤さんかい……? 僕は生きてるの?」
佐藤「はい。外を散歩してたら榊原君が降ってきました。
まるでスパイダーウェブ?を使えなくなったクモ男
みたいでしたよ?」
恒一「見てない人には絶対に分からない例えをありがとう。
でも助けてくれたなんてうれしいな」
佐藤「だってアンカ(>>300でしたっけ?)
で選んでくれたじゃないですか」
376 = 148 :
恒一「もう少しこのままでもいいかな?
膝の感触が気持ちいや」
佐藤「はい///」
夜の星空は、夜見北で見るのより綺麗だった。
一分くらい星を数えてから起き上がる。
恒一「本当にありがとう佐藤さん。
どうやってお礼したらいいかな?」
佐藤「キスしてほしいですけど、そしたら
多々良さんたちに殺されます。頭撫でてください」
恒一「お安い御用さ。これでいいかな?」ナデナデ
佐藤「///」
まさに修羅場のあとの至福。ここで恒一は見てはいけない者を
見てしまった。三階の窓からこっちを見下ろしてる多々良だった。
視線が合った瞬間、本能的に逃げ出してしまった。
377 = 155 :
佐藤さん可愛い
378 = 148 :
恒一(やばいやばいやばい……殺される殺される……)
一目散に駆けた。外じゃ見つかるだろう思い、
館の内部へ突入。フラフラする頭を押さえながら、
どこへ逃げようかと模索する。厨房前で千曳に会った。
千曳「君、夜のジョギングでもしてるのかい?」
恒一「そんなこと言ってる場合じゃないんですよ。
多々良さんが……多々良さんが僕を追ってるんです。
あの人の僕に対する執着は異常です」
千曳「多々良さんってあの品の良さそうな女の子だよね?
君も罪な男だね。あんな美人さんに好かれるなんて」
恒一「そういう次元の話じゃないんですよ。単刀直入に言うと、
貞操を奪われるんです。身体の自由すら奪われます」
千曳「尋常じゃないね君の妄想は。ドM気質だったとは」
恒一「全部本当の話なんですよ!!」
379 = 148 :
これ以上話を続けたら時間の無駄だった。
恒一は別れも告げずにそのまま走り出す。
男子に話しても嫉妬されるか軽くあしらわれて終わりになると
想像できる。ならば女子の部屋しかないと思い、歩みを進める。
四階まで階段を上がり、適当な部屋を見つけて中に入る。
恒一「いきなり押しかけちゃってごめん。緊急事態だから
僕をかくまってくれないか!! 実は多々良さんに
追われてるんだ!!」
松井「ん……あぁん……」
金木「なあにその声は? ここがいいのかしらぁ?」
松井「あ……はぁん……いいよぉ……」
恒一「」
描写したくないようなシーンが繰り広げられていたため、
静かに扉を閉めた。
380 :
尋常じゃないね
381 = 148 :
気を取り直して隣の部屋に突撃する。
恒一「いきなり押しかけてごめん!!
どうか僕をかくまってください!!」
鳴「あっ榊原君」
恒一(よりによって見崎の部屋か。できれば小椋さんか
綾野さんがよかったんだが、まあレズカポーよりはましか)
鳴「こんな時間から始めたいの?」
恒一「ナニをだよ。って突っ込んだら負けか。
実は多々良さんに追われて人生最大のピンチなんだ。
頼むから、ほとぼりが冷めるまでここにいさせてくれないか?」
鳴「いいよ」
恒一(あっさり認めたな……裏がありそうで怖いや)
383 = 148 :
鳴「走ってのど乾いたでしょ?
今紅茶入れてあげるからね」
恒一「あっ、うん。悪いね」
鳴「~~♪」
鼻歌を歌ってる鳴を初めて見た恒一。
というかどうやって紅茶を淹れるのだろうと
眺めていたら、ペットボトルのミルクティーを渡された。
恒一(確かに寝室にはガスもコンロもないけどさ)
飲もうと思った時、怜子の時の悪夢を思い出す。
恒一(そうか薬か!! 見崎なら仕込んでてもおかしくない!!
あと一歩で口に含むところだったぞ。危ない危ない)
鳴「飲まないの?」ジー
384 = 162 :
まず見崎が飲めばok
385 = 382 :
見崎「一緒に逝こうか」
386 = 148 :
恒一「まず見崎が飲めばok」
鳴「えっ」
恒一「せっかく用意してくれたのに疑うのは最低だと思う。
けど今の僕にそんな余裕はないんだ。
まずは君が飲んでくれないか?」
鳴「……」オドオド
恒一「なんで飲めないの?」
鳴「それは……その……」オロオロ
恒一「見崎。繰り返すけど僕だってイライラしてるんだよ。
こんな時にふざけるのはいい加減にしてくれ!!」ドン
壁を叩いた恒一。壁越しに隣の部屋から苦情が飛んでくる。
鳴「ご……ごめんなさい。そんなに怒るとは思わなかったの」ポロポロ
387 :
疑うなんて酷いよーー!ゴクゴク ウルウル
388 :
恒一「泣いて謝るくらいなら最初からやらないでくれ!!
僕だって迷惑してるんだよ!? ただでさえ多々良さんに
追われて死に物狂いで逃げてきてるのに!!」
鳴「……ごめんなさい。もう怒鳴らないで」
恒一「君は謝ることしかできないのか!!
どうしてこんなことしたのか説明してくれ!!」ドン
鳴「……ひぐっ……うぅっ……えぐっ……」ポロポロ
恒一(はっ……?)
ここまできて、ようやく言いすぎたことに気づく恒一。
はたから見れば恒一が責めすぎかもしれないが、彼とて
思春期の中学生だ。感情のコントロールができてない。
もちろんそれは見崎鳴も同様だが。
鳴「お願いします……嫌いにならないでください……」ポロポロ
389 = 388 :
鳴の顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになってる。
その姿が心の傷を物語っていた。
彼女の世話をしていた頃を思い出す恒一。
あの時の自分なら何をしてただろうと思い、
恒一「ごめんね見崎。ちょっと言いすぎたよ」
鳴「……ひぐっ……うえええんっ……」
恒一「もう泣き止んでね? 怒鳴って悪かったよ」
鳴「ううっ……ゆるして……くれるの?」
恒一「もちろんだよ。僕はどうかしてたんだ。
嫌なことがあったから、つい見崎に八つ当たりしちゃったんだ」
ハンカチで顔を綺麗にふいてあげた。潤んだ瞳の
上目遣いは、最強の破壊力を持っていた。
390 = 388 :
恒一(僕だって男だから抱きしめたい衝動に駆られるさ。
この子は初恋の女の子だからね。でも聖人として
覚醒した以上、余計な手出しはしないからね)
意志の力は強かった。意志の勝利である。
鳴「あれ? もう行っちゃうの?」
恒一「あれだけ怒鳴っちゃったから野次馬が
集まってきてるからね。暴力男として
名前が知られるのは嫌だよ」
鳴「最後に一つだけ言わせて」
恒一「なんだい?」
鳴「実はこの部屋ね、多々良さんと相部屋なの」
恒一「」
392 = 388 :
恒一の背中に冷たいものが流れた。
脳内が一瞬でクールダウンする。
次に脳内に浮かんだ泉に重い石が落とされ、水面が乱れる。
恒一「なんで先に言わなかったんだよ?」
鳴「……え?」
恒一「なんでそういう大事なことを最初に言わないんだよ!!
君はやっぱり僕をバカにしてるだろ!!
多々良さんと相部屋だって知ってたらこんな部屋に
長居しなかったよ!!」
鳴「ひっ……」
恒一「大事なことは最初に言えよ!! 聞いてるのか見崎鳴!!」
鳴「うっ……その……ごめん……なさいっ……」
二度目のマジ切れである。ギャグですむ話じゃなかった。
393 = 388 :
恒一の水面はマグマのように煮えたぎっていた。
高温は簡単には冷めそうにない。
恒一「いつもいつも君は僕をバカにしてるだろ!?
話をややこしくするのが好きなんだな!?
僕に恨みでもあるのか!?」
鳴「ちがうの……私はもっと榊原君と一緒にいたかったから」ポロポロ
恒一「……!?」
鳴「好きなんです……榊原君のことが好きだから……」
恒一は鳴に手を上げる一歩手前までいっていたが、
突然の告白に静止し、彼女の眼を見つめてしまう。
真っ黒な瞳は奥が深く、様々な感情が入り混じっていた。
恐怖。畏怖。愛情。独占欲。
鳴の感情が波のように流れ込んできたのだった。
394 = 387 :
「追われてる」言ってないかと思ったが最初に言ってるな…
395 = 388 :
恒一(僕はなんてことを……?)
後悔しても遅い。どれだけ汚い言葉で鳴を傷つけたことか。
進んでしまった時間は二度と元に戻せない。
一生かかっても忘れることはできないだろう。
鳴「うえっ……ひぐっ……うえええんっ……」ポロポロ
恒一「……」
右手を強く握り、歯を食いしばる。
今さらどの顔で謝罪し、ハンカチを差し出せというのか。
彼女を一人にするべきだと判断し、無言で部屋を出る。
廊下が異世界のように見えた。淡い電球の光が、
永遠と続く通路を照らしてる。
この館は人を狂わせる力がある。そう感じさせた。
396 = 388 :
恒一「くっ……ううっ……」
陶器が置いてある台座の前で泣き崩れる。
多々良に追われてたからと言い訳するつもりはない。
本当にあと一歩で鳴の頬を殴っていた。
それだけでもよかった。でも罵詈雑言はたくさん並べた。
鳴の鳴き声がいつまでも頭の中に響いてる。
多々良「探しましたよ榊原君。悲しいことでもありましたか?」
恒一「た……たら……さん?」
呂律すら回らぬ自分を情けなく思った。
多々良「まあ、よっぽど酷いことがあったのね?」
自然な動作で抱きしめられた。まるで最初から
こうするのが当たり前だったかのように。
398 = 388 :
多々良「気が済むまで泣いていいんですよ?
私なら榊原君の全てを受け止められます」
恒一「……」
根本的な原因は君のせいじゃないかと怒りたくもなった。
なのに怒れないのは、抱きしめられた感触が
あまりにも心地よかったから。
ずっと避けていた女の子の温もりを知ってしまったから。
多々良「落ち着きましたか?」
恒一「うん。ありがとう多々良さん」
多々良「部屋に……入りましょうか?」
恒一「でも見崎が中に……」
多々良「もう出て行きましたよ? 今は無人です」
399 :
榊原くん逃げて!
400 = 388 :
部屋は確かにだれもいなかった。
時刻は十時過ぎ。
規定で定められた就寝時刻を一時間も過ぎてる。
多々良「榊原君……!!」
恒一「ん……んん……!!」
ベッドの上で座ったまま密着し、唇を押し付けてきた。
恒一より向こうのが積極的だった。
二度目だ。もう止めたほうがいい。
恒一の脳内で鳴る警告を無視せざるを得なかった。
多々良「舌、入れますよ?」
相手はもう大人のキスを求めてくる。
恒一は抵抗する余力がなかったから、
甘んじて受け入れることになった。
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