元スレ妹「温もりがほしい笑いかけてほしい受け入れてほしい。寂しい。」
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101 = 65 :
友「ねぇ、妹さんの家はどのあたりにあるの?」
友「ここから見える?」
妹「うん」
妹さんは軽くうなづくと、指をさした。
友「……?」
その方向には、工場と海しかない。
妹さんが住んでいるのは、景色のもっと手前……丘の下にある住宅地ではないみたいだった。
友「もしかして、外国……とか?」
妹「まさか」
友「じゃあ、工場の中?」
妹「ううん。……工場の、近く」
友「あのあたり、行ったことないかも」
妹「……あんまり、いいところじゃ、ない」
友「そうなんだ。でも、妹さんの家なら行ってみたいな」
102 = 65 :
妹「……」
私の言葉など聴いてなかったかの様に、妹さんは表情を変えずに窓の外を眺めている。
その目線の先にあるのは、海?
それとも妹さんの家?
友「妹さんは」
妹「……」
友「妹さんはいつもあまり自分の事を話してくれないね」
妹「……う、ん」
友「だから、私の話ばっかりになっちゃうけど」
友「いいかな?」
友「聞いて、くれる?」
妹「うん」
妹さんの目線は、ずっと窓の外を向いていた。
103 = 65 :
友「私ね、この家好きじゃないの」
妹「……」
友「バカみたいな家でしょ? わざわざレトロな風にしてさ」
友「気取って……自慢したい、って……そういうオーラがすごい出てる」
友「そう思わない?」
妹「……」
友「だから、こういう家を建てたお父さんも、お母さんも、嫌いなんだ」
友「……嫌いになった理由はね、一杯ある」
友「だけどその理由を無視して、反抗期だからって理由を決め付けて、何度も片付けられた」
友「もう、そんな年じゃないのに」
友「でもね、知ってるの」
友「あの人たちは、……お父さんとお母さんは、致命的に、寂しがってる」
友「たった一人の娘にさえ、すがろうとしてる」
104 :
友「きっと、私に受け入れて欲しかったんだと思う」
友「でも、私は人柱じゃないから」
父と母は、世間の目からすれば、よくできた夫婦だと思う。
資産は潤沢だし、仲もいい。
私の事も可愛がってくれているのだろう。
それでも、私はずっと「疑問」を抱き続けていた。
妹「わかるよ」
ずっと窓の外を眺めていた妹さんが、私を見据えて、やさしく言った。
吸い込まれる瞳。
そんな、ありふれた言葉が出てきた。
吸い込まれたものは、心。
友「……え」
妹「それ、わかる」
109 = 108 :
OCN規制かかったのでP2導入
ずっと耐えてきたのについにお賽銭……orz
保守ありがとうございます。続けます
111 = 108 :
妹「お父さんとお母さんを拒むのも、友さんの自由」
妹「受け入れるのも、自由」
妹「友さんには、それだけの権利があるよ」
友「……」
妹「でも」
妹「拒まれるのは、辛いこと」
どんなエゴな愛だとしても、私は親に愛されている事に変わりはなかった。
出かけたいと言えば時間を作ってくれた。
クリスマスや誕生日なんか、いつも盛大にやった。
欲しいものは、大抵手に入れてくれた。
私の喜びは、親の喜びだった。それはまさしく、愛と呼べるものだろう。
……けれど。
友「私ね、高校卒業したら、家を出ようと思うんだ」
妹「……それが、秘密?」
友「そう。 秘密の、ひとつ」
112 :
しえん
スレ立て規制掛かってるとかふざけろ
あとしんすけざまあwwwww
113 = 108 :
妹「ほかにも、あるんだ」
友「うん。なんだかミステリアスでしょ?」
妹「……そうかも」
私と妹さんは、にはっ、と笑った。
友「もっと、壁のある人だと思ってたんだ」
妹「……?」
友「妹さん。無口で、人と話すのを嫌ってて」
友「でも、話してみたら、案外面白い人で……」
妹「……えっ」
友「今は、……うぅ、ん」
友「今は……」
妹「……ん?」
友「……ねぇ」
友「私、妹さんと友達くらいにはなれたかな?」
114 = 108 :
妹「……ともだち」
友「そんなの、確認するような事じゃないって知ってるけど」
友「でも、私なりに不安なんだ」
友「ねぇ。迷惑じゃない?」
妹「……」
友「妹さんの領域に、ずかずか入って荒らそうとしてるんだって、自覚してるよ」
友「それでも私は、……私は」
妹「迷惑」
友「あ、……」
妹「中途半端は嫌なの」
妹「友達は、いらない」
何かが、崩れて、再構築された。
この瞬間、知った。
彼女が私に何を求めているかを。
彼女は私が思っている以上に、寂しがっている。
116 = 108 :
友「抱きしめて、いい?」
妹「……」
妹さんに、一歩近づいた。
妹さんは逃げない。
友「ごめん」
小さくつぶやいて、私はゆっくりと妹さんの腰に手を伸ばした。
引き寄せると、妹さんの全身から、ほのかな温もりが伝わってくる。
友「嫌だったら、言ってね」
妹「……別に」
妹「嫌じゃ、ない」
友「良かった」
そっと、頬を寄せた。
……熱い。
117 = 108 :
友「私ね、お父さんのことも、お母さんのことも、好き」
友「でもね、好き、だから……」
妹「うん」
妹「分かる、よ」
耳元で。ささやきあう。
吐息。
くすぐったい。じれったい。
鼓動が。はやい。
火照る。
友「チョビもね、そのうち、いなくなるから」
妹「うん」
友「……かごの鳥の話、覚えてる?」
妹「うん」
友「ずっとね。探してたの」
友「一緒にかごの外に出てくれる人」
妹「そう」
友「しばらく、こうしてて、いい?」
妹「……うん」
118 = 63 :
はよエロかかんかいどあふぉ
119 = 108 :
友「ドキドキ、してる?」
妹「……」
友「私はしてる」
友「誰かにこんなに近づいたのって、チョビくらい」
友「お母さんとお父さんとは、覚えてない」
妹「そう」
友「妹さんは?」
妹「……」
返事はない。
その代わり、私に頭を預けて、ゆっくりこすり付けてくる。
髪と皮膚が擦れる高い音が、私の耳を犯す。
友「……んっ」
妹「私は、寂しい人だった」
妹「友さんと、会って……もっと、寂しくなった」
友「……私もだよ」
妹「ひとりぼっちは、嫌」
友「うん。……嫌」
120 = 108 :
妹「はじめてだった」
友「何が?」
妹「友達」
妹「うぅん、……誰かと、帰ったりとか、そういう、の」
友「そうだったんだ」
妹「私、つまらないから。……面白い、って言ってくれたの」
妹「うれし、かった」
友「お世辞じゃないよ」
妹「うん……」
妹さんの手が、私の腰に回った。
私は、私自身を彼女に受け入れられたように感じて、幸せな気持ちになった。
ささいな反応。
でも、それが私の生きる喜びそのものなのかもしれない。
妹「……ごめんね」
妹「そろそろ、時間」
友「……え」
妹「……」
体を解いて初めて見た妹さんは、悲しい目をしていた。
121 = 108 :
妹さんがくれた熱が、あっという間に空気にさらわれていく。
……寒い。
妹「かえる、……ね」
友「待って!」
反射的に叫んで、妹さんの手を掴まえていた。
友「これからも、仲良くしてくれる?」
妹「寂しさを埋めるのは、寂しさしかないから」
妹「きっと、もっと、寂しくなるだけだから」
友「なら、今この時間、妹さんは寂しかったの?」
妹「好きな人が、いるの」
友「……」
妹「ずっとずっと、生まれたときから一緒で、恋かどうかもあやふや」
妹「でも、私の全部を受け入れてくれる人」
122 = 112 :
呼んだ?
123 = 108 :
妹「友さんは、私の寂しさに気づいてくれた」
妹「気づいてくれた人なら、今まで何人かいたけれど」
妹「私の寂しさを埋めようとしてくれたのは、友さんだけだよ」
友「ずるいよ。……妹さん、好きな人居ないって、言ってた」
妹「嘘ついて、ごめん」
妹「でも、本当言うと好きかどうかもはっきりしない」
妹「恋愛ってしたことないから」
妹「ただ、ずっと、これからも、一緒に居たいってはっきり思える人なの」
友「そう……」
つまりは、こうだ。
……私と一緒にはいられない。
妹「じゃ……。お邪魔、しました」
友「ねぇ! また、遊んでよ!」
友「学校でお昼食べて、放課後は一緒にどこかに行って……」
友「そういうさ、そういう……普通の女の子がするようなこと、一緒にしようよ!!」
友「うぅん、……して。私と、して。……お願い。妹、さん……」
妹「……」
124 = 108 :
友「妹さんには、その人が居るかもしれない」
友「でも、私には……妹さんしか居ないんだよ」
妹「友さんは、友達一杯いた」
友「あんなの、100人居たって私の寂しさは埋まらないっ!」
友「私に必要なのは、妹さん一人だけなんだよぅ」
すがるように、妹さんの手を握る。
私が思っている以上に、私は妹さんに依存していた。
また以前のような、お互いに干渉しない日々に戻るなんて、死んでも嫌だった。
妹「……別に」
そうつぶやいて妹さんが部屋のドアノブを捻った瞬間、巨体が飛び出してきた。
犬「バウッ!! バウウウッ!」
妹「きゃっ」
犬「ハッハッハッハッペロペロペロペロ」
妹「ちょ、ちょっと、……あっ、んっ…ぅ」
部屋の前でずっと待っていたであろうチョビは、入ってくるやいなや、妹に飛びついてまたもや顔を舐めだした。
我慢していた分、さっきよりも激しいペロペロ攻撃。
友「……ふっ、あ、ははっ。ふふっ」
妹「わ、笑ってないで助け……ひぅっ、ん、ぁっ!」
125 :
久々にちぢれ見た
支援
126 = 108 :
友「ご、ごめん……でも……でもっ、くっ……ふふっ」
犬「ペロペロペロペロペロペロペロペロ」
妹「いあぁ、……汚され、……んひっ」
友「あはっ、……あははっ、ごめん、でもっ、うれしくって……!」
口元のゆるみがとまらない。
おかしくて、しょうがない。
しあわせで、たまらない。
「別に」と答えてくれた妹さんと、私はまだ関係を深める事ができるのだ。
友「また、うちに来てね。チョビも、そう言ってるよ」
妹「……う、ぅ……またこんな目に……ひぁっ!」
友「待ってるからね」
友「ずっと、待ってるから」
とりかごの中で私が出会った小鳥さん。
いつか共に巣立てる日が来ると夢見て、私は寄り添う。
第一章 終わり
127 :
久々だな
129 = 108 :
第二章
兄「遅かったね」
妹「……うん」
妹が珍しく、日が暮れてから帰ってきた。
いつも学校が終わると真っ直ぐ家に帰る子だ。
なにか、あったのだろうか。
兄「大丈夫か?」
妹「大丈夫」
兄「どうかした?」
妹「少し、寄り道した」
兄「へぇ……」
131 = 108 :
兄「どこに行ったの?」
妹「海」
兄「どこの?」
妹「氷川丸がとまってるとこ」
兄「山下公園か」
学校から家とは反対方向だ。
兄「ひとりで?」
妹「……」
兄「友達、できたんだ?」
妹「……ううん」
妹は、怒るとすぐに顔に出る。
いまも、眉の間に皺が寄っている。
兄「もう少し早く、帰ってきなよ。心配した」
兄「このあたりは治安がいいわけじゃないから」
妹「……はい」
132 = 108 :
兄「夕飯どうする?」
妹「リクエストある?」
兄「味はともかく、今は腹いっぱい食べたい」
妹「じゃあ、冷凍したご飯でチャーハン作るね。すぐできるから」
兄「よろしく」
妹は鞄を置いて、制服を脱ぎだした。
衣擦れの音が部屋に反響する。
やがて、妹はブラとショーツ、ハイソックスだけになる。
もう、慣れっこの風景だ。
妹が生まれてからずっと、妹と俺は同じ部屋で育ってきた。
兄妹二人分の部屋が、この家――アパートにはないからだ。
兄「下着のサイズ、大丈夫か?」
妹「……うん」
兄「ちゃんと、言えよ?」
妹「うん」
134 = 108 :
妹は部屋着を身に着けると、台所へと向かった。
玄関前の小さなシンクとガスコンロ。
冷凍庫からパック詰めされたご飯をとりだして、レンジに入れる。
ネギを簡単に洗い流したら、小気味いい包丁の音が鳴りだした。
妹「……」
妹は、料理をしている時、いつもとは違う表情をする。
楽しんでいるのかは分からない。
ただ、嫌がっているようには見えない。
最近は……特に、弁当を作っている時、なんだか嬉しそうな顔をしている。
今日は寄り道をしてきた。
何か、妹に変化がおきているのかもしれない。
兄「うまそうな匂い」
ガスコンロの上でフライパンが踊りだすと、小さな家を香ばしい匂いが満たした。
妹「……っ、……っ」
俺が一杯食べられるようにと、めいっぱいのご飯を使ってくれたのだろう。
フライパンをゆするのに妹は苦労しているように見える。
兄「こぼしそう」
妹「大丈夫。待ってて、兄さん」
135 :
兄「いただきます」
湯気の立った山盛り炒飯。
チャーシューは入ってない。
スプーンですくって、空っぽの胃に放り込む。
味はいつもと一緒だ。妹の味。
兄「うん、美味い」
妹「ゆっくり食べてね」
兄「妹は、それだけでいいのか? 俺はもっと少なくても……」
ご飯茶碗に半分もない位に盛られた妹の炒飯を見て、そう言った。
妹「大丈夫。あんまり、おなか空いてないの」
兄「そうか……」
もしかしたら、寄り道した先で何か食べたのかもしれない。
ただ、妹はお金を普段持ち歩かない。
兄「何か、隠してる?」
妹「……」
妹は答えず、無言で炒飯を口に運んでいく。
137 :
しえんぬ
138 = 135 :
ちょっとペース遅くて申し訳ないです
時間ください
今日はもうちょっと書かせてください
139 = 136 :
えろまでいきたまえ
140 = 135 :
兄「まぁ、いいんだ。でも何か辛い事だったら、遠慮なく言ってな」
妹「……うん」
暗い声で妹は答えた。
妹は、一人で何でも抱える癖がある。
理解して、悩みを共有したくても、なかなかできない。
兄「……ほんと、美味いよ」
妹「うん」
兄「いつも、ありがとな」
妹「兄さんこそ……いつも」
兄「そうだったな、言いっこ無し、だったな」
妹「うん」
ボロくて、古い、木造のアパート。
周りには無機物的な工場。ただっ広い道路。汚い海。
俺たち兄妹は、ここで寄り添って暮らしている。
141 = 135 :
ピリリ、と目覚ましが鳴った瞬間、アラームを止めた。
いつもの朝だ。
まだ、日が昇りきっておらず、部屋の中はうす暗い。
兄「ん、ぅ……」
軽く伸びをする。
血圧が徐々に高くなって、意識がはっきりしてくるのが分かる。
妹「おはよ。兄さん」
隣で寝ていた妹が、朝の挨拶とともに微笑んでくれた。
それに応えて、妹の髪をくしゃ、と撫でる。
妹「……ん」
兄「おはよ」
妹「ごはん、作るね」
兄「頼む」
142 = 135 :
妹が朝ご飯を作っている間、俺は出かける準備をする。
顔を洗って、歯を磨いて、服を着て。
すぐに終わる流れ。
けれど、あとはもう出かけるだけという頃には、朝ごはんはしっかりと出来上がっている。
兄「……」
妹「……」
淡々と、朝食を口に運んでいく。
朝は静かに食べるのが通例だ。
二人が朝ごはんを食べている横には、死んだように眠っている母が居るから。
我が家のアパートの食卓兼居間は、母の寝室でもある。
母は、昼頃仕事に出かけ、夜遅くにひっそり帰ってくる。
近くの工場で働いているらしいが、詳しい事は話してくれない。
そんな母をささやかに気遣って、俺たちは粛々と朝ごはんを済ませるのだ。
兄「それじゃあ、行ってくるから。妹もがんばって」
妹の頭を軽く撫でる。
もはや、儀式みたいなものになっているかもしれない。
その撫でている俺の手を、妹は両手で包む。そうして、挨拶を返してくれる。
妹「行ってらっしゃい」
144 = 135 :
我が家の稼ぎ手は、俺と母の二人。
父はもうずっと前に他界した。
父の遺産は、莫大な借金。
母がどんなに働いても、利子を払っていくのがやっとな位だという。
そして、母は相変わらず、その収入の殆どを借金の返済に充てているらしい。
らしい、というのは、母は俺たちに多くを語らないからだ。
自分の事、父の事、借金の事。
ずっと母と暮らしているのに、知らないことばかりで、知ることも出来なかった。
兄「いらっしゃいませー」
スーツ姿の人たちが、入れ替わり立ち替わり出入りしていく。
駅前のコンビニ。
俺の職場だ。
兄「こちらはあたためますか?」
「んー」という返事に、「あたためますね」とつとめて明るく返した。
コンビニの早朝勤務なんて、こんなものだ。
皆死んだような目をして、会社へと向かっていく。
アルバイトは、彼らのはけ口にされたり、冷たくされるのも仕事の一つなのだろう。
中卒の俺には、ぴったりなはずだ。
145 = 135 :
そういえば、そろそろ妹が家を出て学校へ向かう時間だ。
ちゃんと出発できただろうか。
そんな妹への思いを馳せる時間も無い位、コンビニの朝は忙しい。
妹が学校へ着いて授業が始まる頃……9時や10時になってはじめて、少し落ち着いてくる。
兄「……ふ、ぅ」
女「やっと客足引きましたね」
兄「だな」
隣でレジを打っていた女さんと、束の間の会話。
女さんとは、週に1~2回くらいシフトがかぶる。
俺と同じで、朝番が多い。
それに、俺と同い年だったはず。
もっとも、俺は中卒。彼女は大学生なのだが。
女「……兄さんって、怒ったりしないんですか?」
兄「なに突然」
女「いえ、ちょっと気になって」
146 = 135 :
女「朝って、不機嫌で失礼な客が多いじゃないですか」
女「そういうのに、兄さんはイライラしないのかな、って」
兄「あぁ、するよ。すげーする」
女「でも、そういうの表に出さないんですね?」
兄「……? まぁ、出す必要ないし」
女「そうなんですか? 私はムカつく客がいたら、誰かに報告したくなっちゃいます」
兄「そういう事もあるけど……そこまでのって、なかなかなくない?」
女「えぇ? ありますよ」
兄「うーん……あ、こちらどーぞ」
どっちのレジに行けばいいのか迷っていた客を先導する。
するとすぐに、女さんのレジも別の客で埋まって、また列ができた。
バーコードを読み込ませながら、また上手く会話が出来なかったと、心の中でため息をついた。
バイト仲間で、女さんとはまだ話せる方だ。
自分で言うのもなんだけど、俺は結構、浮いてると思う。
147 = 135 :
コンビニでバイトをしている理由は、いくつかある。
時間に融通が利くから。
中卒でも雇ってくれるから。
仕事が単純だから。
この中でも、時間に融通が利く点が一番でかい。
妹とできるだけ一緒に居られることが、俺の中では最優先事項だから。
妹が作る朝ごはんを食べて出発して、妹が帰ってくる頃に自分も帰宅する。
そういうことが出来るのは、このバイトしかなかった。
男「でな、そっからもう連チャンしまくり。結局ねー4箱出た」
兄「へぇ、すごい」
男さんはフリーターで、趣味はパチンコとスロット。
よく午後から同じシフトになる。
男「おまえもやれよ。ぜってー儲かるから。俺が台選んでやるよ」
兄「いいですよ。俺、運悪いですから」
男「運じゃねーって。あれは。台さえちゃんと選べば勝てるんだって」
男さんだけじゃない。他のバイトは皆、ギャンブルをやってるみたいだった。
男連中でやっていないのは、俺ぐらいなのだそうだ。
148 :
追い付いた
150 = 135 :
男「だからな、今度一緒に並ぼうぜ?」
兄「いえ、遠慮しときます」
男「……なぁ」
兄「なんですか」
男「お前、趣味とかあんの?」
兄「……特には」
男「生きてて楽しい?」
兄「……」
男「なんつってー」
男は俺以外の別のバイトを掴まえて、何か話をし始めた。
会話の内容は、なんとなく想像がつく。
時々、中学三年の時の担任が言った言葉を思い出す。
高校には行きなさい。
将来を決めるには、まだ幼すぎる。
違うんだ、先生。
俺の将来を決めたのは、俺だけど、俺じゃないんだ。
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