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    元スレ妹「温もりがほしい笑いかけてほしい受け入れてほしい。寂しい。」

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    101 = 65 :

    「ねぇ、妹さんの家はどのあたりにあるの?」
    「ここから見える?」

    「うん」

     妹さんは軽くうなづくと、指をさした。

    「……?」

     その方向には、工場と海しかない。
     妹さんが住んでいるのは、景色のもっと手前……丘の下にある住宅地ではないみたいだった。

    「もしかして、外国……とか?」

    「まさか」

    「じゃあ、工場の中?」

    「ううん。……工場の、近く」

    「あのあたり、行ったことないかも」

    「……あんまり、いいところじゃ、ない」

    「そうなんだ。でも、妹さんの家なら行ってみたいな」

    102 = 65 :

    「……」

     私の言葉など聴いてなかったかの様に、妹さんは表情を変えずに窓の外を眺めている。
     その目線の先にあるのは、海?
     それとも妹さんの家?

    「妹さんは」

    「……」

    「妹さんはいつもあまり自分の事を話してくれないね」

    「……う、ん」

    「だから、私の話ばっかりになっちゃうけど」
    「いいかな?」
    「聞いて、くれる?」

    「うん」

     妹さんの目線は、ずっと窓の外を向いていた。

    103 = 65 :

    「私ね、この家好きじゃないの」

    「……」

    「バカみたいな家でしょ? わざわざレトロな風にしてさ」
    「気取って……自慢したい、って……そういうオーラがすごい出てる」
    「そう思わない?」

    「……」

    「だから、こういう家を建てたお父さんも、お母さんも、嫌いなんだ」

    「……嫌いになった理由はね、一杯ある」
    「だけどその理由を無視して、反抗期だからって理由を決め付けて、何度も片付けられた」
    「もう、そんな年じゃないのに」

    「でもね、知ってるの」
    「あの人たちは、……お父さんとお母さんは、致命的に、寂しがってる」
    「たった一人の娘にさえ、すがろうとしてる」

    104 :

    「きっと、私に受け入れて欲しかったんだと思う」

    「でも、私は人柱じゃないから」

     父と母は、世間の目からすれば、よくできた夫婦だと思う。
     資産は潤沢だし、仲もいい。
     私の事も可愛がってくれているのだろう。

     それでも、私はずっと「疑問」を抱き続けていた。

    「わかるよ」

     ずっと窓の外を眺めていた妹さんが、私を見据えて、やさしく言った。
     
     吸い込まれる瞳。
     そんな、ありふれた言葉が出てきた。
     吸い込まれたものは、心。

    「……え」

    「それ、わかる」

    109 = 108 :

    OCN規制かかったのでP2導入
    ずっと耐えてきたのについにお賽銭……orz

    保守ありがとうございます。続けます

    111 = 108 :

    「お父さんとお母さんを拒むのも、友さんの自由」
    「受け入れるのも、自由」
    「友さんには、それだけの権利があるよ」

    「……」

    「でも」
    「拒まれるのは、辛いこと」

     どんなエゴな愛だとしても、私は親に愛されている事に変わりはなかった。

     出かけたいと言えば時間を作ってくれた。
     クリスマスや誕生日なんか、いつも盛大にやった。
     欲しいものは、大抵手に入れてくれた。

     私の喜びは、親の喜びだった。それはまさしく、愛と呼べるものだろう。
     ……けれど。

    「私ね、高校卒業したら、家を出ようと思うんだ」

    「……それが、秘密?」

    「そう。 秘密の、ひとつ」

    112 :

    しえん

    スレ立て規制掛かってるとかふざけろ
    あとしんすけざまあwwwww

    113 = 108 :

    「ほかにも、あるんだ」

    「うん。なんだかミステリアスでしょ?」

    「……そうかも」

     私と妹さんは、にはっ、と笑った。
     
    「もっと、壁のある人だと思ってたんだ」

    「……?」

    「妹さん。無口で、人と話すのを嫌ってて」
    「でも、話してみたら、案外面白い人で……」

    「……えっ」

    「今は、……うぅ、ん」
    「今は……」

    「……ん?」

    「……ねぇ」
    「私、妹さんと友達くらいにはなれたかな?」

    114 = 108 :

    「……ともだち」

    「そんなの、確認するような事じゃないって知ってるけど」
    「でも、私なりに不安なんだ」
    「ねぇ。迷惑じゃない?」

    「……」

    「妹さんの領域に、ずかずか入って荒らそうとしてるんだって、自覚してるよ」
    「それでも私は、……私は」

    「迷惑」

    「あ、……」

    「中途半端は嫌なの」
    「友達は、いらない」

     何かが、崩れて、再構築された。
     この瞬間、知った。
     彼女が私に何を求めているかを。

     彼女は私が思っている以上に、寂しがっている。

    116 = 108 :

    「抱きしめて、いい?」

    「……」

     妹さんに、一歩近づいた。
     妹さんは逃げない。

    「ごめん」

     小さくつぶやいて、私はゆっくりと妹さんの腰に手を伸ばした。
     引き寄せると、妹さんの全身から、ほのかな温もりが伝わってくる。

    「嫌だったら、言ってね」

    「……別に」
    「嫌じゃ、ない」

    「良かった」

     そっと、頬を寄せた。
     ……熱い。

    117 = 108 :

    「私ね、お父さんのことも、お母さんのことも、好き」
    「でもね、好き、だから……」

    「うん」
    「分かる、よ」

     耳元で。ささやきあう。
     吐息。
     くすぐったい。じれったい。
     鼓動が。はやい。
     火照る。

    「チョビもね、そのうち、いなくなるから」

    「うん」

    「……かごの鳥の話、覚えてる?」

    「うん」

    「ずっとね。探してたの」
    「一緒にかごの外に出てくれる人」

    「そう」

    「しばらく、こうしてて、いい?」

    「……うん」

    118 = 63 :

    はよエロかかんかいどあふぉ

    119 = 108 :

    「ドキドキ、してる?」

    「……」

    「私はしてる」
    「誰かにこんなに近づいたのって、チョビくらい」
    「お母さんとお父さんとは、覚えてない」

    「そう」

    「妹さんは?」

    「……」

     返事はない。
     その代わり、私に頭を預けて、ゆっくりこすり付けてくる。

     髪と皮膚が擦れる高い音が、私の耳を犯す。

    「……んっ」

    「私は、寂しい人だった」
    「友さんと、会って……もっと、寂しくなった」

    「……私もだよ」

    「ひとりぼっちは、嫌」

    「うん。……嫌」

    120 = 108 :

    「はじめてだった」

    「何が?」

    「友達」
    「うぅん、……誰かと、帰ったりとか、そういう、の」

    「そうだったんだ」

    「私、つまらないから。……面白い、って言ってくれたの」
    「うれし、かった」

    「お世辞じゃないよ」

    「うん……」

     妹さんの手が、私の腰に回った。
     私は、私自身を彼女に受け入れられたように感じて、幸せな気持ちになった。
     ささいな反応。
     でも、それが私の生きる喜びそのものなのかもしれない。

    「……ごめんね」
    「そろそろ、時間」

    「……え」

    「……」

     体を解いて初めて見た妹さんは、悲しい目をしていた。

    121 = 108 :

     妹さんがくれた熱が、あっという間に空気にさらわれていく。
     ……寒い。

    「かえる、……ね」

    「待って!」

     反射的に叫んで、妹さんの手を掴まえていた。

    「これからも、仲良くしてくれる?」

    「寂しさを埋めるのは、寂しさしかないから」
    「きっと、もっと、寂しくなるだけだから」

    「なら、今この時間、妹さんは寂しかったの?」

    「好きな人が、いるの」

    「……」

    「ずっとずっと、生まれたときから一緒で、恋かどうかもあやふや」
    「でも、私の全部を受け入れてくれる人」

    122 = 112 :

    呼んだ?

    123 = 108 :

    「友さんは、私の寂しさに気づいてくれた」
    「気づいてくれた人なら、今まで何人かいたけれど」
    「私の寂しさを埋めようとしてくれたのは、友さんだけだよ」

    「ずるいよ。……妹さん、好きな人居ないって、言ってた」

    「嘘ついて、ごめん」
    「でも、本当言うと好きかどうかもはっきりしない」
    「恋愛ってしたことないから」
    「ただ、ずっと、これからも、一緒に居たいってはっきり思える人なの」

    「そう……」

     つまりは、こうだ。
     ……私と一緒にはいられない。

    「じゃ……。お邪魔、しました」

    「ねぇ! また、遊んでよ!」
    「学校でお昼食べて、放課後は一緒にどこかに行って……」
    「そういうさ、そういう……普通の女の子がするようなこと、一緒にしようよ!!」
    「うぅん、……して。私と、して。……お願い。妹、さん……」

    「……」

    124 = 108 :

    「妹さんには、その人が居るかもしれない」
    「でも、私には……妹さんしか居ないんだよ」

    「友さんは、友達一杯いた」

    「あんなの、100人居たって私の寂しさは埋まらないっ!」
    「私に必要なのは、妹さん一人だけなんだよぅ」

     すがるように、妹さんの手を握る。
     私が思っている以上に、私は妹さんに依存していた。
     また以前のような、お互いに干渉しない日々に戻るなんて、死んでも嫌だった。

    「……別に」

     そうつぶやいて妹さんが部屋のドアノブを捻った瞬間、巨体が飛び出してきた。

    「バウッ!! バウウウッ!」

    「きゃっ」

    「ハッハッハッハッペロペロペロペロ」

    「ちょ、ちょっと、……あっ、んっ…ぅ」

     部屋の前でずっと待っていたであろうチョビは、入ってくるやいなや、妹に飛びついてまたもや顔を舐めだした。
     我慢していた分、さっきよりも激しいペロペロ攻撃。

    「……ふっ、あ、ははっ。ふふっ」

    「わ、笑ってないで助け……ひぅっ、ん、ぁっ!」

    125 :

    久々にちぢれ見た
    支援

    126 = 108 :

    「ご、ごめん……でも……でもっ、くっ……ふふっ」

    「ペロペロペロペロペロペロペロペロ」

    「いあぁ、……汚され、……んひっ」

    「あはっ、……あははっ、ごめん、でもっ、うれしくって……!」

     口元のゆるみがとまらない。
     おかしくて、しょうがない。
     しあわせで、たまらない。

     「別に」と答えてくれた妹さんと、私はまだ関係を深める事ができるのだ。

    「また、うちに来てね。チョビも、そう言ってるよ」

    「……う、ぅ……またこんな目に……ひぁっ!」

    「待ってるからね」
    「ずっと、待ってるから」


     とりかごの中で私が出会った小鳥さん。
     いつか共に巣立てる日が来ると夢見て、私は寄り添う。




    第一章  終わり

    127 :

    久々だな

    129 = 108 :

     第二章


    「遅かったね」

    「……うん」

     妹が珍しく、日が暮れてから帰ってきた。 
     いつも学校が終わると真っ直ぐ家に帰る子だ。
     なにか、あったのだろうか。

    「大丈夫か?」

    「大丈夫」

    「どうかした?」

    「少し、寄り道した」

    「へぇ……」

    131 = 108 :

    「どこに行ったの?」

    「海」

    「どこの?」

    「氷川丸がとまってるとこ」

    「山下公園か」

     学校から家とは反対方向だ。

    「ひとりで?」

    「……」

    「友達、できたんだ?」

    「……ううん」

     妹は、怒るとすぐに顔に出る。
     いまも、眉の間に皺が寄っている。

    「もう少し早く、帰ってきなよ。心配した」
    「このあたりは治安がいいわけじゃないから」

    「……はい」

    132 = 108 :

    「夕飯どうする?」

    「リクエストある?」

    「味はともかく、今は腹いっぱい食べたい」

    「じゃあ、冷凍したご飯でチャーハン作るね。すぐできるから」

    「よろしく」

     妹は鞄を置いて、制服を脱ぎだした。
     衣擦れの音が部屋に反響する。
     やがて、妹はブラとショーツ、ハイソックスだけになる。

     もう、慣れっこの風景だ。
     妹が生まれてからずっと、妹と俺は同じ部屋で育ってきた。
     兄妹二人分の部屋が、この家――アパートにはないからだ。

    「下着のサイズ、大丈夫か?」

    「……うん」

    「ちゃんと、言えよ?」

    「うん」

    134 = 108 :

     妹は部屋着を身に着けると、台所へと向かった。
     玄関前の小さなシンクとガスコンロ。
     冷凍庫からパック詰めされたご飯をとりだして、レンジに入れる。
     ネギを簡単に洗い流したら、小気味いい包丁の音が鳴りだした。

    「……」

     妹は、料理をしている時、いつもとは違う表情をする。
     楽しんでいるのかは分からない。
     ただ、嫌がっているようには見えない。
     最近は……特に、弁当を作っている時、なんだか嬉しそうな顔をしている。

     今日は寄り道をしてきた。
     何か、妹に変化がおきているのかもしれない。

    「うまそうな匂い」

     ガスコンロの上でフライパンが踊りだすと、小さな家を香ばしい匂いが満たした。

    「……っ、……っ」
     
     俺が一杯食べられるようにと、めいっぱいのご飯を使ってくれたのだろう。
     フライパンをゆするのに妹は苦労しているように見える。

    「こぼしそう」

    「大丈夫。待ってて、兄さん」

    135 :

    「いただきます」

     湯気の立った山盛り炒飯。
     チャーシューは入ってない。
     スプーンですくって、空っぽの胃に放り込む。
     味はいつもと一緒だ。妹の味。

    「うん、美味い」

    「ゆっくり食べてね」

    「妹は、それだけでいいのか? 俺はもっと少なくても……」

     ご飯茶碗に半分もない位に盛られた妹の炒飯を見て、そう言った。

    「大丈夫。あんまり、おなか空いてないの」

    「そうか……」

     もしかしたら、寄り道した先で何か食べたのかもしれない。
     ただ、妹はお金を普段持ち歩かない。

    「何か、隠してる?」

    「……」

     妹は答えず、無言で炒飯を口に運んでいく。

    137 :

    しえんぬ

    138 = 135 :

    ちょっとペース遅くて申し訳ないです
    時間ください

    今日はもうちょっと書かせてください

    139 = 136 :

    えろまでいきたまえ

    140 = 135 :

    「まぁ、いいんだ。でも何か辛い事だったら、遠慮なく言ってな」

    「……うん」

     暗い声で妹は答えた。
     妹は、一人で何でも抱える癖がある。
     理解して、悩みを共有したくても、なかなかできない。

    「……ほんと、美味いよ」

    「うん」

    「いつも、ありがとな」

    「兄さんこそ……いつも」

    「そうだったな、言いっこ無し、だったな」

    「うん」 


     ボロくて、古い、木造のアパート。
     周りには無機物的な工場。ただっ広い道路。汚い海。
     
     俺たち兄妹は、ここで寄り添って暮らしている。

    141 = 135 :

     ピリリ、と目覚ましが鳴った瞬間、アラームを止めた。
     いつもの朝だ。
     まだ、日が昇りきっておらず、部屋の中はうす暗い。

    「ん、ぅ……」

     軽く伸びをする。
     血圧が徐々に高くなって、意識がはっきりしてくるのが分かる。

    「おはよ。兄さん」

     隣で寝ていた妹が、朝の挨拶とともに微笑んでくれた。
     それに応えて、妹の髪をくしゃ、と撫でる。

    「……ん」

    「おはよ」

    「ごはん、作るね」

    「頼む」

    142 = 135 :

     妹が朝ご飯を作っている間、俺は出かける準備をする。
     顔を洗って、歯を磨いて、服を着て。
     すぐに終わる流れ。
     けれど、あとはもう出かけるだけという頃には、朝ごはんはしっかりと出来上がっている。

    「……」

    「……」

     淡々と、朝食を口に運んでいく。
     朝は静かに食べるのが通例だ。
     二人が朝ごはんを食べている横には、死んだように眠っている母が居るから。

     我が家のアパートの食卓兼居間は、母の寝室でもある。
     母は、昼頃仕事に出かけ、夜遅くにひっそり帰ってくる。
     近くの工場で働いているらしいが、詳しい事は話してくれない。

     そんな母をささやかに気遣って、俺たちは粛々と朝ごはんを済ませるのだ。

    「それじゃあ、行ってくるから。妹もがんばって」

     妹の頭を軽く撫でる。
     もはや、儀式みたいなものになっているかもしれない。

     その撫でている俺の手を、妹は両手で包む。そうして、挨拶を返してくれる。

    「行ってらっしゃい」

    144 = 135 :

     我が家の稼ぎ手は、俺と母の二人。
     父はもうずっと前に他界した。

     父の遺産は、莫大な借金。
     母がどんなに働いても、利子を払っていくのがやっとな位だという。
     そして、母は相変わらず、その収入の殆どを借金の返済に充てているらしい。
     らしい、というのは、母は俺たちに多くを語らないからだ。
     自分の事、父の事、借金の事。
     ずっと母と暮らしているのに、知らないことばかりで、知ることも出来なかった。

    「いらっしゃいませー」

     スーツ姿の人たちが、入れ替わり立ち替わり出入りしていく。
     駅前のコンビニ。
     俺の職場だ。

    「こちらはあたためますか?」

     「んー」という返事に、「あたためますね」とつとめて明るく返した。
     コンビニの早朝勤務なんて、こんなものだ。
     皆死んだような目をして、会社へと向かっていく。

     アルバイトは、彼らのはけ口にされたり、冷たくされるのも仕事の一つなのだろう。
     中卒の俺には、ぴったりなはずだ。 

    145 = 135 :

     そういえば、そろそろ妹が家を出て学校へ向かう時間だ。
     ちゃんと出発できただろうか。

     そんな妹への思いを馳せる時間も無い位、コンビニの朝は忙しい。
     妹が学校へ着いて授業が始まる頃……9時や10時になってはじめて、少し落ち着いてくる。

    「……ふ、ぅ」

    「やっと客足引きましたね」

    「だな」

     隣でレジを打っていた女さんと、束の間の会話。
     女さんとは、週に1~2回くらいシフトがかぶる。
     俺と同じで、朝番が多い。
     それに、俺と同い年だったはず。

     もっとも、俺は中卒。彼女は大学生なのだが。

    「……兄さんって、怒ったりしないんですか?」

    「なに突然」

    「いえ、ちょっと気になって」

    146 = 135 :

    「朝って、不機嫌で失礼な客が多いじゃないですか」
    「そういうのに、兄さんはイライラしないのかな、って」

    「あぁ、するよ。すげーする」

    「でも、そういうの表に出さないんですね?」

    「……? まぁ、出す必要ないし」

    「そうなんですか? 私はムカつく客がいたら、誰かに報告したくなっちゃいます」

    「そういう事もあるけど……そこまでのって、なかなかなくない?」

    「えぇ? ありますよ」

    「うーん……あ、こちらどーぞ」

     どっちのレジに行けばいいのか迷っていた客を先導する。
     するとすぐに、女さんのレジも別の客で埋まって、また列ができた。

     バーコードを読み込ませながら、また上手く会話が出来なかったと、心の中でため息をついた。
     バイト仲間で、女さんとはまだ話せる方だ。

     自分で言うのもなんだけど、俺は結構、浮いてると思う。

    147 = 135 :

     コンビニでバイトをしている理由は、いくつかある。
     時間に融通が利くから。
     中卒でも雇ってくれるから。
     仕事が単純だから。

     この中でも、時間に融通が利く点が一番でかい。
     妹とできるだけ一緒に居られることが、俺の中では最優先事項だから。
     妹が作る朝ごはんを食べて出発して、妹が帰ってくる頃に自分も帰宅する。
     そういうことが出来るのは、このバイトしかなかった。

    「でな、そっからもう連チャンしまくり。結局ねー4箱出た」

    「へぇ、すごい」

     男さんはフリーターで、趣味はパチンコとスロット。
     よく午後から同じシフトになる。

    「おまえもやれよ。ぜってー儲かるから。俺が台選んでやるよ」

    「いいですよ。俺、運悪いですから」

    「運じゃねーって。あれは。台さえちゃんと選べば勝てるんだって」

     男さんだけじゃない。他のバイトは皆、ギャンブルをやってるみたいだった。
     男連中でやっていないのは、俺ぐらいなのだそうだ。

    148 :

    追い付いた

    150 = 135 :


    「だからな、今度一緒に並ぼうぜ?」

    「いえ、遠慮しときます」

    「……なぁ」

    「なんですか」

    「お前、趣味とかあんの?」

    「……特には」

    「生きてて楽しい?」

    「……」

    「なんつってー」

     男は俺以外の別のバイトを掴まえて、何か話をし始めた。
     会話の内容は、なんとなく想像がつく。


     時々、中学三年の時の担任が言った言葉を思い出す。

     高校には行きなさい。
     将来を決めるには、まだ幼すぎる。

     違うんだ、先生。
     俺の将来を決めたのは、俺だけど、俺じゃないんだ。


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