元スレ女旅人「なにやら視線を感じる」
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101 :
支援の間隔を短くすれば投下も早くなるということになりますかね
102 :
支援ですよ。おもちろい
103 :
旦
このボサボサな頭をした男が言うことも一理あった。
確かに今の状況で外に行くのは危険である。 ここは回復を待ったほうが良い。
だがこのままこの男と居て大丈夫なのだろうか。
こいつから殺意は感じられないが、それは押し堪えているだけの演技かもしれない。
また、姦淫される恐れもある。 先ほど「それはない」と言ったが、所詮は男だ。
しかしそのつもりがあるのなら、私の意識が回復しない内にやっておくこともできたはずだ。
性欲の捌け口にするだけであれば私に刺さった矢を抜こうとする必要も無い。
どうも、解せない男だ。
104 = 103 :
視界の端で、男は押し殺したような小さなくしゃみをした。
季節は春になったと言っても雨が降ればまだまだ寒い。
川の水に至っては山の雪解け水だ、冷たくないはずがない。
しかし敵兵に見つかってしまうため火を焚くこともできない。
せめて服に含んだ水分を絞れればいいのだが、仮にも敵の前で甲冑を脱ぐなど――
パチン、という金具が外れる音がした。
見てみると、男が甲冑を脱いでいた。
106 = 103 :
唖然とした視線に気付いた男は「この前風邪で死に掛けたんだ」と言った。
いや、だからと言って警戒を完全に解いた訳でもない私の前で脱ぐか、普通。
男は服をも脱ぎ、軽く絞ってから顔と頭、身体を拭き、そしてもう一度、
今度は強く絞り、2,3度はたいてから、服を着なおした。 甲冑を着る様子は無い。
……こいつ、もしかして本当に馬鹿なだけではないのか。
ずっとピリピリしていた自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。
甲冑の金具を外す。 仕方ない、風邪如きで戦えなくなっては面白くない。
男は大層驚いた様子で目を丸くし、そして大急ぎで背を向けた。
ボサボサ頭「み、見てませんから、ど、どうぞ……」
何を恥ずかしがっているのか。
それよりも、丸腰の状態で敵に背を向けることの危険さを知らないのかこいつは。
肩甲、胸甲板、前当てを外し、ガシャリと立て掛ける。
107 = 103 :
旦
俺は紳士俺は紳士俺は紳士俺は紳士俺は紳士俺は紳士俺は紳士俺は紳士俺は紳士―――
何度もそう自分に言い聞かせているのは言うまでもなく彼女が背後で服を脱いでいるからである。
いつかの滝でもこのような事はあったが、あんなものはもはや序の口だ。
今は、彼女と同じ空間、この密閉空間に、彼女と居る。 言わば生の彼女だ。
彼女の小さな呼吸が聞こえる。 服と服とがこすれ合う絹擦り音が聞こえる。
皮膚と皮膚がこすれ合う音が聞こえる。 彼女を直接見ることはなくても、彼女の動く様子が
無駄に高性能な耳によってありありと脳に伝達され、そして映像化してしまう。
なんて無駄な第六感だ! くそう、たかが息子の分際で脳まで侵略しようというのか!
ええいなるものか、彼女の裸など想像してなるものか! 我は紳士ぞ!
108 = 103 :
彼女は無事 矢傷の止血も終え、滲みこんだ水も絞り出した服を着ている。
俺はほっとする一方、股間から来る無念の情に焼き殺されそうになっていた。
何故見なかった! 彼女の裸を見るチャンスだった、もう二度と無いであろうチャンスだった!
貴君は馬鹿なのか! 阿呆なのか! 賢者なのか! 臆病者なのか! ヘタレなのか!
ただ覗くというのが忍びないのであれば何かしら理由をつけて見る事は出来たはずだ!
マントを裂いたものを使わせず、貴君が持っていた包帯を渡せばその時に見ることができた!
包帯が巻き難いであろう腕、手伝ってやろうかと訊くことぐらいはできた!
殴られたり斬られたりという危険が伴っていても覗くのが男というものではないのか!
貴君は! 何故そうまでして! 紳士であろうとするのだ! 死んでしまえ!!!
109 = 101 :
し
え
ん
110 = 103 :
息子よ、貴様の気持ち、分からんでもない。
しかしそのように己の欲望のままに行動し続けていれば必ず身を滅ぼす。
いやだからと言って段階を踏めば彼女の裸を覗き見ても言いという訳ではなく、
覗きという行為そのものが紳士のマナーに反するのだ。
どうしても裸を見たいというのであれば、然るべき道を通らねばなるまい。
たとえこのまま30を過ぎ魔法使いになろうとも、紳士の道を外してはいけない。
紳士であろうとする理由。 愚問だな。 そんなもの貴様が存在するからに決まっている。
だが、喜べ愛する馬鹿息子。 良い事を教えてやる。彼女は今、鎧を着てはいない。
鎧を着けても嵩張らない為に中に着られた服は、旅の最中のそれよりも薄手だ。
つまり身体のラインが前よりはよく見える、しかも至近距離だ。
彼女は貧乳――もとい、控えめだ。
111 = 103 :
それからしばらく、互いに何も話さないまま、ただ時間だけが過ぎた。
俺としては是非とも彼女と会話をしてみたかったのだが、何を話せば良いのか分からないし
彼女も会話をするような雰囲気ではなかった。 仮にも彼女にとっての俺は敵兵なのだ。
雨が止んだ。
日が暮れ始めると、彼女は鎧を装備し始めた。
名称のよく分からない防具の数々を慣れたように装着していく。 あまりにも重々しい。
暗くなってから出発するつもりだろう。
傷が痛まない訳は無いが、彼女は俺と違って騎士、やることがある。
それに自身の事が分からないほど馬鹿でもないだろう。 無理に引き止めることはできない。
112 = 102 :
なんだこれは。眠れない。気になるぜ。
支援
113 = 101 :
寝たのか?
115 = 103 :
陽が沈み辺りは暗くなる。 手入れを終えた短剣を収め、彼女は立ち上がった。
そのまま立ち去ると思っていたが、意外にも声をかけて下さった。 ありがたや。
彼女「貴様、本当に戦場から逃げるのか」
黙って頷くと鼻で笑われた。 臆病者だと、負け犬だと思われたろうか。
外の様子を伺い、安全を確認してからゆっくりと洞穴から出る。
彼女「次に戦場で会ったら、必ず殺す」
そう言い残し、闇の中に消えていった。
俺「さて、と」
彼女が立ち去った今、もう此処に居る必要は無い。
担保として彼女に渡していた短剣その他諸々を拾い集め、洞穴を抜ける。
申し訳ないが、俺は彼女に嘘を吐いた。
我が団の野営地を目指し、足を進めた。
116 = 103 :
弓兵「いやーまさか生きてるとはな! あれだろオレの矢のおかげだろ?」
夜中、野営地に戻ると、偶然にも見張りをしていたらしい同僚が話しかけてきた。
曰く、俺が彼女と崖から落ち、相手も隊長を失ったことで動揺する――かと思われていたが、
そのような事はなく、むしろ有力らしい俺を失ったこの団が乱れまくり、兵の数は半分になった。
団長の指示により撤退、明日は正面から攻めろ、とのこと。 士気は高くはないようだ。
弓兵「でも惜っしいよなー、女隊長殺しそびれたんだもんなぁ。
それさえ出来りゃ、給料も思いのまま、もしかしたら騎士にもなれたかも知れねぇよ」
俺「でもあの隊長に俺が殺されなかったのは お前らの矢があったればこそだ。
礼がしたい、他の二人も連れてきてくれ。 あぁ、他にばれちゃいけないから内密にな」
117 = 103 :
野営地から少し離れた場所、俺と顔をニヤつかせた男三人が輪を囲む。
酒を飲みながら俺の生還を喜んだり「オレの矢はどこに当たった」と自慢話をする。
「じゃあ」と俺が腰に手を伸ばすと、男たちは待ってましたと言わんばかりに目を輝かせた。
俺「お前の矢は確か、腕に当たったんだな」
野営地からかっぱらってきた長剣を抜き、男の肩を切り落とす。
「ギャアアアアア」という悲鳴が響き、森に住む野鳥がバサバサと羽ばたいた。
弓兵「テメェ! 何のつもりだ!!」
俺「るせぇ!! 戦士の神聖な決闘に横槍入れて汚しやがって! 恥を知れ!!」
弓兵「オレたちゃお前を助けようと――」
俺「ヴァルハラで懺悔しなッ!!」
彼女の仇を討って、やり残したことはなくなった。
あとは金を少しくすねて、闇の中へスタコラサッサと逃げ出した。
118 = 103 :
―――
見渡す限りの人人人人人人馬人人人馬人人……流石王都、と言うべきか。
町は国の守護英雄である かの騎士団を、紙吹雪と鼓膜が破れるほどの拍手と歓声で迎えていた。
鎧を着け威風堂々と馬に跨り、黄色い歓声に囲まれる国の英雄達の中に彼女の姿を見つけた。
他の隊長達に見劣りしない程、彼女は輝いて見えた。
噂によると、俺と分かれた後も連合軍の隊長格の首をいくつか落としたらしい。 あの傷で。
この国において、功勲最高位を受けた騎士団のみが入る事を許された正規軍。
その中でも最強と言われる団で、軍内いや国内唯一の武勲で以って成り上がった女戦士がいる事、
そしてその女隊長の名前――傭兵をしている以上、知らないわけがない。
彼女の名前を知りたい知りたいと思っていたが、まさかとっくに知っていたとは。
やはり高嶺の花というか、俺程度では手の届かない存在なのだな、と少々寂しくなった。
119 = 101 :
支援はまかせろーカチャカチャターン
120 = 103 :
俺「最っ悪だよもう……」
王都、狭い路地にある酒場にて、自棄酒。
思わず口に出してしまうほどに最悪な気分であった。
俺「何たって俺ぁいつもこんな……」
俺「ちくしょう……」
酒を片手に俯く。
121 = 103 :
最悪だ。
一目見た瞬間から、近付きたいと、会って話しがしたいと――そう思い続け、
1ヶ月以上もの間、ずっとずっと、追い続け――振り向いてもらえないかと、
参加したくもない闘技会に参加し下半身を狙われ、勝手に買って出た
クマからの護衛のおかげで食料を奪われ飢えと寒さで死に掛けたりと――
少しは、努力をしていた、つもりだった。
しかしどうだ。
実際彼女が振り向いたときの俺は、彼女の敵――
しかも彼女の部下を何人も一生戦う事の出来ない身体にし、
それどころか彼女自身をも殺しかけた。 取り返しのつかないことをした。
彼女はもう、俺を敵としか――殺しの対象としか、見てはくれないだろう。
122 = 102 :
いったいなにがおこったんでしょうか。
ここからではまったくわかりません
123 = 103 :
こんなことになるのなら、ずっと遠くから彼女を眺めているだけでよかった。
例え彼女に振り向かれる事はなくとも俺は眺めているだけで心が躍り、
そしてぽかぽかと温かい気持ち 「合席をしてもいいか」 になる事ができた。
例え彼女に 「おい」 想い人が居たとしても、彼女さえ幸せなのならば、
笑顔が見ることができるのならば、それだけで 「おい、聞いているのか」
俺「だぁーうるせぇえええ!!!! 勝手に座tt」
彼女「なら、座らせてもらう」
125 = 103 :
旦
壮大な歓迎を受け、城に導かれる。
下女に言われるがままに風呂に入り、頭を洗う。
着替えとして用意されたドレスは断固拒否した。 誰が着るか、あんなもの。
祝賀会が行われる大聖堂に入ると、また拍手で迎えられた。
貴族の娘達に囲まれ、きつい香水の匂いが充満し息苦しくなる。
抜け出した先では御曹司に囲まれ、少しでも目に留まろうと花束だの指輪だの渡される。
毎回の事ではあるが、いつまで経っても慣れないな。 他のお偉いさんの白い目も。
こっそりテラスから飛び降り、城から出る。
あんな所に居ては窒息してしまうのではないか、と襟のボタンを外しながら思う。
夜中だというのに街はまだ活気に溢れており、人々は酒を浴びるように飲んでいた。
まぁ、戦は終わったのだ。 浮かれるのも良かろう。 そして私も飲もうと思った。
126 = 103 :
狭い路地を抜け、行きつけの酒場に向かう。
出入り口で寝ている酔っ払いを蹴り退かし店内に入ると、こちらもやはり混んでいた。
空いている席は無いかと見回していると、店の奥から店主が現れた。
店主「やや、隊長殿! どうしてまたこんな所に――」
私「空いていないようだな」
店主「そんなものでしたら客を追い出してでもご用意させていただきます」
私「いや。 あそこ、一人は座れそうだ。 合席させてもらおう。
自分で頼んでおく、店主は営業を続けてくれ、忙しいだろう」
127 = 103 :
どこかで見たことあるようなボサボサの頭が、そのテーブルに突っ伏していた。
何かをぶつぶつと言っているし、寝ているわけではないのだろうと話しかける。
が、耳に届かなかったらしく、もう2,3度声をかけてみた。 今度は聞こえたらしい。
ボサボサ頭「だぁーうるせぇえええ!!!! 勝手に座tt」
なるほど、見たことがあるような気がしたわけだ。
ボサボサの頭をした傭兵は、目を点にしてしばらく硬直した後、驚いてか椅子から転げ落ちて
後頭部を強打し、頭を抑えてのた打ち回った。 大袈裟な奴だ。
129 = 103 :
旦
ぶつけた頭はまだ痛むが今はそれどころの話ではない。
目の前に、目の前にだ。 彼女が居る。 彼女が座ってゐる。
俺を殺しに来たのかと思ったが、どうやら単純に酒を飲みにきただけのようだ。
店員が酒の入った樽を持ってきた。 彼女はそれを指差す。
彼女「私の酒だ。 好きに飲めば良い」
なんて畏れ多いことを!!
130 = 103 :
完全に酔いが醒めてしまった俺の向かいで彼女は黙々と酒を飲み、チーズをつまむ。
自分の酒を置いてもらっていることからしてこの店の常連なのだろう。
ここを選んで正解だった。 ……いや、失敗だろうか。
彼女の今の服は、おおよそ庶民では手が届かないほどに高そうなものだった。
ドレスなどの女性用ではなく男物なのだが、それが妙に似合っている。
彼女は苦しいのかそれを着崩し、襟を胸元まで開けていた。
鎖骨が、わずかに、見えます。
131 = 103 :
ところで彼女は何故今 此処にいるのだろうか。
城に入っていくところは見た。 今は祝勝会の真っ最中ではないのか。
今の彼女の服装からして参加はしていたのだろうが――
彼女「……なんだ」
俺「あ、いや、」
しまった、無意識のうちに見てしまっていたか。 急いで逸らし、壁のシミを見る。
しかし見るなと言うのも無理な話だ。 横のテーブルの酔っ払った親父より
目の前の可愛い姉ちゃんに視線が流れてしまうのは当然なこと、仕方が無い。
132 = 103 :
先ほどの「なんだ」を言うために顔を上げた彼女はそれからまた酒に目線を戻す
……のではなく、何かに気付いたかのように俺の顔をじっと見つめた。
な、何ですか顔に何かついてますかそんなに見られると緊張して吐きそうになります
彼女「お前、以前どこかで会ったことがあるか?」
俺「せせ戦場で……」
彼女「それ以前、だ」
いや俺はそりゃあもう会ったとかそういうレベルじゃなくて1ヵ月ずっと同じ時間を
過ごしていたわけですからそう思うのも当然ですが貴女がそう思うのならそれは
人違いだと思います というかそうでないと俺が困るのです非常に
134 = 103 :
彼女はしばらく、チーズをつつきながら記憶を巡らせていた。
俺はずっと想い続けた女性が目の前に居るというのに脂汗が止まらない。
そして、「ああ」と思い出したかのように声をだした。 俺もここまでか!
彼女「行き倒れたことがあるだろう」
しばしの間の後、間抜けにも「へ」という言葉しか出なかった。
彼女「秋口、西にある商業が発達した町の目の前でだ。 覚えは無いか」
職業柄行き倒れそうになったことは多々あるが、
秋に、町の目の前で倒れるなど――思い当たるのは一度しかない。
まさか。
135 = 103 :
俺「助けてくれたのは男だと聞いた」
彼女「ああ、実際助けたのは私の部下だ。 甲斐甲斐しい奴だ。
私は金こそ払ったものの行き倒れなぞ放っておけという立場だった」
俺「そ、そう、なのか……」
思わず笑みがこぼれる。 そうか、彼女(とその部下)が俺を助けてくれたのか。
もしかしたらあの時最後に見た、彼女と親しげに話す男――それが部下だったのかもしれない。
だとすれば彼女に男は居ないと考えてもよいのではないか。
すまない部下よ、俺は早とちりしていた。 あんたを恨むことなどなかった。
何度も何度も藁人形に釘を打ったこと、できれば許して欲s
彼女「ちなみにその部下というのが、お前が私の前に戦った奴だ」
136 :
久しぶりに面白いな。支援
137 = 103 :
旦
そういった瞬間、ボサボサの頭をした男の表情が固まった。
唇をわななめかせ、そして手で顔を覆った。
ボサボサ頭「……貴女に謝らなければならない。 彼にも侘びをいれたい」
思わずきょとんとしてしまう。
そしてくつくつと笑いながら「お前本当に傭兵か」と言った。
私「あいつも恩を着せようとした訳ではないし、戦場での斬った斬られたは恨みっこなしだ。
詫びることも謝ることもなにもない。 あいつが腕を失ったのはあいつが弱かったからだ」
何故か男を慰める形になってしまったが、男は黙ったまま動かない。
138 :
やっぱベルセルク読んでたかさるよけ
139 :
紫煙
140 = 103 :
私「……恨みはしない。 ……が。 あの時の戦い、お前は手を抜いていた。
敢えて、殺さなかった。 これがあいつにとって、どれ程の屈辱だったか分かるか」
私「その後私がお前に戦いを挑んだ理由――
お前の、貴様のその中途半端な態度が気に食わなかったからだ」
私が本陣に戻り医務室を訪れた時、部下は力をなくした目で、
「もう戦うことはできません、せめて貴女の手で殺してください」と言った。
戦場で死ぬことを許されなかった戦士の、なんと無惨なことか。
ボサボサ頭「……すみませんでした」
男の目は赤かった。 ……なんというか、拍子抜けした。
もう一度「お前本当に傭兵か」と訊くと、「さぁ」と力ない返事が返ってきただけだった。
141 = 103 :
旦
店員「……さん! お客さん! 閉店だよ、起きて!」
垂れた涎が接着剤となり、机と頬を一体化させていた。
それをベリベリと剥がし、目脂を除いて目を開くと困った顔をした店員が居た。
俺「ふぁれ、彼女……隊長さんは」
店員「とっくに帰られました。 お代も貰ったから、あとはあなたが帰ってくれれば」
箒で尻を叩かれるようにして店から追い出された。
お客様は神様じゃないのか! なんたる接客か!
142 = 103 :
町に朝を告げる鐘が鳴り、頭にぐわんぐわんと響く。
イラつくほどに清々しい朝日に照らされながら、とっておいた宿があるであろう道を歩く。
いつの間に寝てしまったのだろうか。
彼女が俺に説教したことは覚えている。 そして俺が気に食わないと言ったことも。
目の前でそんなことを言われて多分泣いてしまったんじゃないかと思う。
ママに言われたが、どうやら俺は酔いすぎると感傷的になってしまうらしいのだ。
彼女に会ったことで酔いが醒めたと思ったが、身体はそうでもなかったようだ。
頭が痛い。 ああこれは二日酔いだ。 だから今も感傷的なのかもしれない。
現在 猛烈に死にたい気分だ。
143 = 103 :
10レス投下したらちょっと寝かせてもらっていいかね
すまんまじすまん出来るだけ早く起きるようにする
144 = 103 :
ふらふらと宿の階段を上り、ベッドに倒れこむ。 薄い枕に顔を埋め「ああああああああ」と叫ぶ。
枕どころか壁まで通り抜けて隣の部屋まで聞こえているだろうが構うものかそんなこと。
叫んでいると激しい吐き気を催した。
急いで共有トイレに駆け込み、中身を戻す。 他の誰かが朝のおはよう一発目を済ませた直後らしく、
肥壷の底からもんもんとあふるるその匂いと生温かさは吐き気を更に促進させた。
だれか優しく俺の背中をなでてくれ、と感傷に浸っていると、扉がドンドンと叩かれ
「さっさと出ろ後ろが閊えてるんだ」と男の声が聞こえた。 なんて空気の読めない男だ。
こいつには紙の裁きが下るであろう。
尻を拭くために用意された柔らかい藁全てを持って、トイレから離れた。
145 = 103 :
その後しばらく寝てから、何もすることが無いので町をぶらぶら歩くことにする。
しかしすぐに疲れたので広場のベンチに腰掛けた。
そしてどうやって死のうかと、ぼーっと考える。
用水に顔をつっこんで溺死しようか。
だめだ、糞尿で臭くて顔を突っ込む勇気が無いし、第一深さが足りない。
馬車に轢かれてしまおうか。
いやそれでは死ねない、全身打撲とかでただ痛い思いをするだけだ。
酒を浴びて火を点けようか。
却下。 目の前で焼け死んでいく様子を見たことあるがあれは最後の最後まで苦しそうだ。
あーでもないこーでもないと出てきた案を次々に潰していく。
自分に刃を向けようかという考えは最後まで出なかった。
結局自分に何が足りないかというと、自決する勇気である。
146 = 103 :
そんなことを考えながら、前も同じように死のうとしていたことがあったことを思い出した。
何故死のうとしていたのかはよく思い出せないが、ただ一つ分かっていることがある。
そんな思いを俺からぶっ飛ばしたのが、彼女であること。
あの時偶然に俺の視界に入った彼女が、俺を絶望から救い、
そして彼女自身が希望となって、俺をここまで奮い立たせた。
俺は彼女を女神のように崇めた。
――そうだ、考え直せ。
只の農民の子たる俺が神と言うべき彼女に近付こうなどできるわけがないのだ。
羊は所詮羊飼いに飼われる存在、もちろんラム肉として食されるのであればそれもまた本望なのであるが、
恋愛に関してはアウトオブ眼中、たかが羊が神とねんごろになる夢を見るなどおこがましいと思え!
147 = 103 :
それに前言ったではないか、例え彼女に嫌われたとしても、
彼女が笑顔になれるのなら、彼女が幸せになれるのであればそれでいいと。
俺はずっと影から彼女を見守れば良い。 期待など抱いてはいけないのだ!
俺は立ち上がる。 そして向かおう彼女の元へ!
嗅覚と聴覚を極限まで集中させろ。 彼女の匂い。 汗の匂い。 髪の匂い。
彼女の呼吸、出来るだけ鳴らさないように工夫された静かな静かな足音――
ずっとずっと彼女を追いかけていたではないか。 分からないはずがない!
復ッ活ッ! 俺復活ッッ! 俺復活ッッ!
なお、俺は影から彼女を応援する、とても純粋なサポーターなだけであり
決してストーカーではない。 勘違いをされてはいけないので、再三再四。
148 = 103 :
早々だが、大きな壁に直面した。 物理的にも比喩的にも。
ちょっと考えれば分かることであるが、彼女は騎士なので宮廷暮らしだ。
当然、城壁と見張り塔が建てられ、彼女に近付くどころか敷地内に入ることもできない。
忍び込むにしても、この宮廷の構造はよく分からない。
また、宮廷内では食事と酒が与えられ、十分に運動する施設も娯楽もある。
そんなところからわざわざ彼女が外に出る必要があるのだろうか。
昨日の酒場の常連客だとしても、彼女は目立つから多く来ている様に思えるだけで
実際はそんなに行っていないのかもしれない。 俺が毎日行ければいいのだが、そんな余裕は無い。
149 = 103 :
出鼻をくじかれた。
どうすっかなーと手をズボンのポケットに突っ込む。
ガサリ。 ……ガサリ?
この音には聞き覚えがある。 紙が――それも小さな紙が、くしゃっと潰れるような音。
嫌な予感しかしない。 なんだ。 もしかして、ママからの不吉な手紙第二段が
この何ヶ月もの間ずっとこのポケットに入っていたとでも言うのか。
生唾を飲む。 ケツの毛を毟られるどころの話ではなくなるかもしれないが、意を決して。
震える手で紙を掴み、そして開く。
150 = 103 :
旦
面倒な仕事を片付けてから、宮廷を出ていつもの酒場に向かった。
昨日ほどには込んでおらず、空いている席はちらほら見える。
店員「今日も来てくれたんですかぁ、ありがとうございます! 席はこちらに――」
私「いやいい、すぐに帰る」
空席に案内しようとする店員を制し、店内を見回す。
昨日と同じ場所にボサボサの頭を見つけ、そこに足を向けた。
私に気付いたボサボサの頭をした男はすっくと立ち上がり、緊張したような面持ちで深々と頭を下げた。
みんなの評価 : ★★★×4
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