のくす牧場
コンテンツ
牧場内検索
カウンタ
総計:127,057,076人
昨日:no data人
今日:
最近の注目
人気の最安値情報
    VIP以外のSS書庫はSS+をご利用ください。

    元スレ女旅人「なにやら視線を感じる」

    SS覧 / PC版 /
    スレッド評価: スレッド評価について
    みんなの評価 : ★★★×4
    タグ : - ストライクウィッチーズ + - + - 傭兵と騎士 + - + - 女騎士 + - 男勇者 + - 神スレ + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
    1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 次へ→ / 要望・削除依頼は掲示板へ / 管理情報はtwitter

    1 :

    「今日も彼女は魅力的だ」

    「輝く髪、力の篭った目、すらりと伸びる手足」

    「彼女のことを考えるだけで心が踊る」

    「なんと素晴らしいことか。 これまでの人生でここまで充実した日はあっただろうか!」

    「……む、今日もリンゴを買って行ったな。 彼女はリンゴが好きなのかもしれない」

    2 = 1 :

    数日前、この町のとある酒場にて。
    酒を飲んでいた俺の視界の端に、店から出て行く彼女が映ったのが事の始まりである。
    彼女が我が心を鷲掴みにするのにはその一瞬で十分だった。

    いわゆる「一目惚れ」というやつ。

    是非とも彼女にお近づきしたいと思った俺は話しかけるチャンスを窺がい続け、今に至る。
    なお、これはストーカーなどという下賎なものではなく、飽くまで紳士的に、
    彼女にとって最も良好かつ余裕のある時に話しかけるべきだろうという考えの下で行っている行動である。
    ストーキングではない。 断じて。

    3 = 1 :

    彼女は女性らしい服装をしていない。 ズボンにブーツを履き、そして剣を帯びている。
    女性でも護身用として持ち運ぶことはこのご時勢において珍しいものでもなくなりつつあるのだが、
    彼女の持つそれは、ただの護身用 と言うには少々重すぎるような印象を受けた。

    そのような身なりではあるが、いや むしろそれが、彼女の魅力を一層際立たせているのだ、と思う。

    旅人なのだろうか。 だとすれば彼女がスカートの類ではなくズボンを穿き、
    そして女性に不釣合いな剣を持っていることにも納得できる。
    また、この数日彼女の前に仲間らしい人物が現れないことから一人旅だということが推測できる。
    旅の理由までは分からないが。

    4 = 1 :


    俺の泊まる宿は、彼女が泊まっている旅人や傭兵などが用いる比較的安価な宿の丁度向かいに位置する。
    無論それは そこから出入りする人物、主に彼女をしっかりと観察するためであり、そうでなければ
    このような財布に優しくない、無駄にベッドがふかふかなホテルをなど選んだりはしないだろう。

    運命の出会いから4日目の朝、陽が完全に顔を出してから行動を開始するはずの彼女が
    まだ少し暗いと言える時間に宿から出て行くのを見た。 全身を覆うようにマントを羽織っている。

    もしや、この町を出発するのか。 こうしてはいられない、自分も出発せねば!
    慌てて身支度をし、少ない荷物をまとめ、転げ落ちるようにフロントに行きチェックアウトを済ます。
    ダブルベットであるにもかかわらず独りで惨めに息子を慰める虚しい生活よ、さらば。

    5 = 1 :

    旅人や商人によって踏み固められた森の道、枝を踏まないように歩く。
    森ならば野生生物の鳴き声や草木の茂みも手伝って尾行はしやすい。

    しかし、森を抜けそれらの恩恵を受けられなくなったらどうすればいいのだろうか。
    「ここで会ったのも何かのご縁、目的地までのしばしの間共に旅を過ごしませんかお嬢さん」
    などと言えばいいのだろうか。 無理だ。


    日が傾き始めてから、彼女は手頃な枝を拾い集め始めた。
    野営の準備だろう。 野営。 夜営。

    ……いやいや。 ここでよからぬ妄想はすべきではない。

    紳士としてあるまじき白昼夢に囚われた愚かな脳に体裁を下している間、
    彼女は手早く木を積み火種を育て、立派な焚き火を完成させていた。

    なんとも手馴れた感じである。 旅の経験も長いのだろうか。

    6 :

    支援させてもらおう

    7 = 1 :


    ある日彼女は滝を見つけた。
    水面を叩きつける音が轟く。 もう少し近づいても大丈夫だろうか。

    彼女は垂れる髪を耳に掛け、袖を捲り、そして目をつぶって両手で掬った水を飲んだ。
    その動作のひとつひとつが俺の中のナニカを刺激し、より一層俺を虜にした。

    マントを脱ぎ、剣を下ろす。 なるほどここまでの旅で疲れた足を休めるのだろう。
    ブーツを脱ぎ、ベルトを解き、服に手をかけ、って、ちょっと待て!!!!1!!11

    8 = 1 :

    「……ふぅ」

    この木の後ろでは、産まれたままの姿の彼女が水浴びをしているのだろう。
    滝の音に混じって、ぱしゃぱしゃと水を掻き乱す音が聞こえる。

    俺が今こうして賢者になっているのは己の理性を保つためである。
    よってこれは自慰と呼ぶものではなく、我が息子を制御するための調教といえよう。
    俺ほどの紳士となると息子を御することなど朝飯前なのだ。
    逆に御せられてしまう愚か者などそこらの発情期の猿と変わらぬ。

    無論、彼女の裸など見てはいない。 女性の裸を無断で見るなど紳士としてあるまじき行為である。

    だから町を発ってこの数日間に何度もあった彼女の聖水タイムももちろん見てはいないし、
    その時の音も聞いていない。 事後にその香りを嗅いだりもしていない。 俺は紳士なのだ。
    ペロペロしたくなる衝動も抑えることができる、立派な紳士なのだ。 血涙は流れるけども。

    9 = 1 :


    町に着くと、彼女はまず宿をとり 荷物を置いてから町の散策をした。

    宿は一箇所しかなかったので、同じ宿に部屋を借りた。
    彼女のお隣という期待に胸を膨らませ、俺も彼女を追って町を徘徊する。

    ここはガラの悪い奴らばかりである。
    この町には何度か来た事があったが、どうも好きになれない。

    怖い人たちに絡まれたらどうしよう。 彼女が絡まれたらどうしよう。
    「待ちたまえ」と俺に言えるだろうか。 ここは男として言わねばならぬだろう。

    10 = 1 :

    小さな広場に人だかりができていて、その中に彼女が居るのを発見した。
    こんなにたくさんの人の中でも彼女だけはくっきり見える。 相変わらず美しい。

    何をしているのかと視線の先を追ってみると、どうやら中央では剣の腕を競う賭け事をしているようだ。
    参加費を払い、主催者側に勝つことができれば今までの挑戦者が払った金全てを頂ける、というタイプの。

    彼女はその様子をしげしげと見ている。
    もしや、これはチャンスではないか。 彼女が注目してくれるチャンスではないのか。
    そして勝った暁には「強い男好き! 抱いて!」と俺の人生に春がやってくるのではないか!

    参加費を握り締め、震える手を挙げる。

    「おお、お、俺、やるぃます」

    11 = 1 :

     旦

    なにやら視線を感じる。 そう思ったのはこの町に入ってからだ。

    女で男のような格好、そして一人旅というのを珍しがられ、視線を向けられることは多々ある。
    しかしそれはすれ違う一瞬だけのことであり、今回のように纏わりつくようなものではない。

    気のせいだろうと思っていたが、道を曲がっても歩み止めてもそれは一定距離を保ったまま消えることはなかった。
    これは、尾行けられている。

    広場では刃引きした剣を用いた博技が行われており、人で賑わっていた。
    この人混みに乗じて撒こうとしたが、そう簡単にも逃してはくれないようだ。

    この町は小さく滞在期間は二,三日ほどのつもりであったが、明日すぐにでも発った方がいいだろう。
    長く居ても良いことはなさそうである。

    12 = 1 :

     旦

    散々だった。

    試合に勝ったは良いものの、精一杯のキメ顔()で彼女の居た場所を振り向くと、
    そこにあったのは彼女の俺への憧れの眼差しではなく、顎の割れた無駄に睫毛の長い男の暑苦しいそれだった。

    その男は腰を艶かしくくねらせ、ウインクをしてハートを飛ばした。
    ぞわぞわっと身の毛が弥立ち、顔が引きつると同時に下半身、主に尻の穴が震え上がる。
    俺は全力で逃げ出した。

    その後も稼いだ金を寄越しやがれとガラの悪い連中に絡まれ、先ほどの主催者には
    商売上がったりだと言われ怖い人に囲まれ、恩恵に授かろうと物乞いがハイエナの如く集まり、
    それらを蹴散らすため、とにかく心身ともに疲れまくった。

    「ええいどけ、貴様ら野郎共にくれてやる金なぞ一銭もないわ!!」

    やっとの思いで宿に戻ると、背後で「また会ったわね、ボウヤ(はぁと」と野太い声がした。
    もしかしなくても、隣の部屋を借りていたのはこの男だったのである。
    アタシは死んだ。 スイーツ(笑)

    13 = 1 :

    下半身危機への恐怖のため一睡もできなかった。
    しかしそれが幸いしてか、いつもより早く出発する彼女を見逃してしまうことはなかった。

    荷物は全て持って出たようだ。 この町はただの休憩ポイントだったのか。

    昼行性生物は未だ夢に囚われ、夜行性生物は休み始めるこの時間帯、森は静寂に包まれている。
    その静寂を破ったのは、彼女の透き通った声だった。

    「私を尾行けている者。 いい加減姿を現せ」

    喉から心臓が出かけた。

    14 = 1 :

    どどどどどうしようどうしようどうしよう!?
    逃げるべきか!? 素直にごめんなさいするべきか!?

    前方の茂みでガサリと音がした。 彼女が来たのか。
    ば、万事休すか!

    追跡者「……バレちまったかぁ」

    ……!?

    15 = 6 :

    俺しか見てないのかね

    16 = 1 :

    追跡者「いつから分かってた?」

    「あの町に入った瞬間だ。 もう一人居るだろう、出て来い」

    今度こそ俺だと思ったが、またもや前方の茂みから男が現れた。
    どうやら彼女の後ろに回り込もうとしていたやしい。

    「なんのつもりだ」

    追跡者「見ての通り、あの町にゃ何の色気もねぇ、腐りきってやがる。
          あんたみてぇないい女はめったに居ねぇ。 だから尾行させてもらった」

    「なるほど腐った町には腐った男しか居ないのだな」

    尾行して、彼女を攫う機会を窺がっていたのだろう。 そして攫った暁には、彼女を慰み者として……
    残念ながら彼女はこの男たちの存在を知っていたようなので、人の多い場所しか歩かなかった。
    ざまぁ

    17 = 1 :

    追跡者「まぁつまり、オレらはヤれりゃあ良いわけだ。 死にたくなければ大人しくついて来い」

    なんと男たちは刃物を取り出した!
    女性に刃物を向けるだと!? 男の風上にも置けん奴らめ、恥を知れ!!

    追跡者「刃物の怖さはちょーっとぐらい知ってんだろ?」

    いや、もしやチャンスがまた来たのではないか。
    紳士たる俺がヒーローの如く颯爽と現れ、あの野蛮な男どもを蹴散らす。
    そして「お怪我はありませんかなお嬢さん」と彼女の手をとる。
    「あなたのように美しい女性が一人旅など危険です、私がお供しましょう」
    彼女は俺の優しさにときめくだろう。 そしていつしか……

    完ッ璧だ。 欠点のない完璧なプランだ。
    そうと決まれば善()は急げだ!

    18 = 1 :

    目を疑った。
    俺は彼女を助けようと立ち上がったのだが――

    「金目の物を置いて去れ。 さもなくば殺す」

    氷のように冷たい声でぽつりと言った。
    嘲笑い、「尤も持っていれば、の話だがな」と付け足す。

    彼女に向けられていた短剣の切先はいつの間にか男に向けられ、
    もう一方の男は肩を抜かれた痛みで地面に伏し呻いていた。

    19 = 1 :

    男たちは大人しく去って行ったようだ。
    彼女が男から奪った短剣が、丁度差してきた朝日に反射して鈍く輝く。

    彼女は踵を返しまた歩みを始める。
    その姿を、ただぼうっと見つめていることしかできなかった。

    彼女は何者なのだろうか。
    武器に怯むことなく立ち向かい、躊躇せずに相手の肩をはずす。
    そしてあの、冷徹な眼。

    一気に彼女を恐ろしく思った。

    20 = 1 :

    ……恐ろしい?
    いや確かに身体は震えているが――
    これは恐ろしさからのものではない。 むしろ武者震いに近い。

    下半身に潜む我が息子が威きり勃つ。

    ――ああ、そうか。

    我、二十三にして天命を知る。

    俺は彼女に踏まれるべくして生まれたのだと。

    21 = 6 :

    ならば支援

    22 = 1 :

    もちろん踏まれるだけであれば今でも可能だろう。
    だが、今踏んでくださいとジャンピング土下座したのではただの変態さんと変わりない。

    お互いを理解し、かつ両者の合意の下で踏まれたいものである。
    俺に愛の篭った罵倒と踵落しを。 是非に。

    そのためにもまずやはり、俺が彼女を尾行もとい研究することで
    話しかける絶好の機会を見極める必要がなんとしてもあるのである。
    もう一度言うがストーカーではない。

    23 = 1 :


    彼女が新たに訪れた町は俺にとって見覚えのある場所だった。
    時刻はもう夜、彼女が町唯一の大きな宿に入るのを見届けてから、
    その向かいにある行きつけの酒場に足を踏み入れた。

    ママ「あら! あらあら! 久しぶりね、いらっしゃい!」

    「ああママ、久しぶり。 変わらないね」

    カウンター席の端に誘導され、サービスだと黒ビールを注いでくれた。

    24 = 1 :

    ここはかつて活動の拠点としていた場所、俺の古巣である。
    ここを離れたのは数年前だが、何故離れたのかは忘れた。

    ママと呼ばれるこの店の店主。 愛想がよく、老若男女問わず人気がある。
    整った顔は初めて出会ったときから全く変わらず、皺ひとつ増えていない。
    年齢を問うことはタブーとされ、しつこく訊くと鉄拳が飛んでくる。
    それを除けばかなり大きな器を持った人物であるため、
    一時期彼になら掘られても良いかもしれないと思ったことさえある。

    ママ「本当に久しぶり。 何で戻ってきたの? 今何してるの?」

    「いやぁ成り行き上ね。 と言うか今忙しいだろ。 俺の相手しなくていいよ」

    ママ「いいのよそんなのバイトの子に任せれば。 あたしは坊やとの会話に花を咲かせたいの」

    「いい加減その坊やってのもやめてくれないかね」

    ママ「あたしから見ればまだまだ子供よ子供」

    25 = 1 :

    ママ「いらっしゃ……あら、初めてのお客さん?」

    扉が開く。 この店に一見さんとは珍しいなと思い、ちらりと見てみる。
    女性のようだ。 ん、あの髪、後姿、横顔、見たことあるぞ。

    ……彼女ではないか!!

    飲んでいたビールが鼻に逆流してむせ返る。 油断していた。
    てっきり、旅で疲れた彼女はさっさと宿で床に就くものだと思っていた。

    彼女は同じカウンターの、少し離れた席に座った。
    仕事終わりの男で賑わう店内では俺の高性能な耳をもってしても
    彼女の清らかな、しかし裏がありそうな声は聞こえそうにはない。

    ママが彼女の前にジョッキと皿を置く。
    彼女はブドウ酒とチーズを注文したようだ。

    軽く会話をした後、ママはこちらに戻ってきた。

    26 = 6 :

    たかが支援されど支援

    27 = 1 :

    ママ「で、えーと……どこまで話したかしら?」

    「それより彼女と何を話したのか詳しく」

    ママ「今の娘? 軽く挨拶した程度だけど」

    「MOTTO MOTTO!」

    ママ「……あのね、あたしの仕事はお客さんの話を黙って聞いてあげることなの。
        あたしから訊き出すことはもちろん、それを他人に教えるなんて事なんて許されないわ」

    肩を落とす。 そうだ、ママはそういう人だ。
    いや、だからこそ人に好かれ信頼されているのだが。

    ママ「尤も彼女自身、話しそうな人ではなさそうだけど」

    28 = 1 :

    彼女が近くに居るとなると、どうも落ち着かない。
    見るに見れない。 しかし気になる。

    ママ「何、そわそわして。 彼女が来てから変よ」

    「い、いや、実は……南の町で彼女に、ひ、一目惚れしてしまったんだ。
      で、話しかけよう話しかけようと思っているうちに、この町に着いてしまったと」

    ママ「なに、彼女をストーキングしてたって訳? いかにも臆病者がしそうなことね」

    「ストーカーじゃない! そして臆病者でもない、俺は慎重なんだ! あとちょっとシャイなだけだ」

    ママ「同じよ同じ」

    29 = 1 :

    「そうだ、リンゴある?」

    ママ「リンゴ? 料理用の酸味が強いのなら」

    「彼女に何か作って渡してほしいんだ。 店のサービスって事でいいから」

    ママ「キザな事するのね。 別料金取るわよ」

    「良いよ。 なんと今 懐が温かい」

    ちびちびとチーズをつまんでいた彼女の目の前に、出来立ての焼きリンゴが置かれる。
    彼女は少し驚いたような顔をし、そしてママの顔を見上げた。
    ママはにっこりと笑い、「遠慮せずにどうぞ」と口を動かした。

    しばらくママの顔を見た後、焼きリンゴに目線を戻し、ナイフとフォークを手に取る。
    始終笑顔のママの様子を窺がいつつ恐る恐る切り分けたリンゴを口に運ぶ。
    はた、と彼女は目を丸くする。 そして僅かながらも頬が綻ぶのを、俺は見逃さなかった。

    30 = 1 :

    ママ「彼女、とても美味しそうに食べてくれたわね」

    彼女はリンゴを食べ終えると、代金を払い宿に戻った。
    空いた席を見つめながら、僅かに微笑んだ彼女の可愛らしい顔を思い出す。
    鼻の下が伸びる。 ああもう、本当に彼女は可愛かった。 口元まで緩む。

    もちろんママに「あちらのお客様からです」と言ってもらうこともできた。
    が、警戒心の強い彼女がどこの馬の骨かも分からん糞野郎からの贈り物を怪しまないはずがない。

    純粋に、彼女の笑顔が見られれば良かった。 今はそれで十分だ。
    ……などと思えるのは多分今、俺が久々に呑んだ強めの酒で酔っているからであろう。

    31 = 1 :

    店の二階はママの居住スペースとなっているのだが、昔その一角の物置のような場所を借りていた。
    今も空いているという事なので、この町に居る間はそこに泊めてもらうことにした。

    扉を開ける。 埃が宙に舞う。 くしゃみが止らない。 しかし文句も言えますまい。
    真っ白な床に座り込み、かつて共にこの部屋を借りていた友人はもう死んだんだろうなと物思いに耽る。
    いや、死んでいなかったか? 第一俺に友人なんか居たのか? 俺の一方的な思い込みだったのでは……

    まぁ、過去のことなぞどうでもいい。 今重要なのは彼女である。
    明日も彼女の調査をすべく、埃を吸わないよう布を被って寝た。

    33 = 1 :


    翌日から彼女はこの町を歩き回った。
    雑貨屋の用途不明な品物を触ってみたり、怪しい薬を眺めたりしている。

    本来女性が目を輝かせるであろう仕立て屋や宝石店には全く目もくれず、
    逆の立場である武具屋等泥臭い店に好んで入り、実際に手に取ったりと吟味している。
    尤も彼女を納得させるような武器は無かったようだが。

    露店で買った牛串やリンゴを片手に広場にぽつんと置かれるベンチに座り、
    行き来する人をただぼうっと眺めているだけの日もあった。

    34 = 1 :

    そして一日の終わりには必ずママの店に寄り、焼きリンゴを食べていた。

    この町に来て二日目の夜、再び店に訪れた彼女は席に座り、
    目を泳がせ、少し恥ずかしがりつつ「酒とチーズと、昨日の、焼きリンゴを」と言った。
    いや実際聞いたわけではなく、彼女の口がそう動いていただけなのだが。

    その時の彼女の可愛さといったらもう、とにかく、ひたすらに愛おしかった。

    どうやらママの作る焼きリンゴを気に入ってくれたようだ。
    以後、彼女が注文しなくても、ママは酒とチーズ、そして焼きリンゴを彼女に持成すようになった。

    35 = 1 :


    ママ「彼女、明日この町を発つんじゃないかしら」

    焼きリンゴは彼女が毎日注文するほど美味しいものなのか、
    明日からは俺も一緒に食べてみよう、そして同じ時間を分かち合おうと思っていた矢先だった。

    ママ「飽くまで推測、だけどね。 彼女が何か言ってた訳じゃない。
        いつもは黙って代金払って出て行くけど、今日は『美味かった』って言ってから店を出て行ったのよ」

    なるほど確かにその可能性は高そうだ。 リンゴを注文することすら恥ずかしがり躊躇するような彼女が
    美味しかったなどという尻がむず痒くなりそうなセリフを普段言うはずが無い。
    彼女なりの、ママに対する感謝と別れの挨拶だろう。

    36 = 1 :

    「じゃあ俺も出発ってことか。 世話になったね、ママ」

    ママ「また寂しくなるわね。 行ってらっしゃい、坊や」

    テーブル席で酔っ払い同士の喧嘩が始まった。 椅子が倒れ、野次馬が輪になる。
    ママはやれやれといった感じで溜息を吐き、カウンターを出てゆっくりと近づいていく。
    無言で双方の肩に手を乗せ、にっこりと笑うと、酔っ払いの顔は赤から蒼白へと変わった。

    寂しくなることなどないだろうに。

    喧嘩両成敗、頭同士がぶつかる鈍い音は耳を塞いでいても聞こえた。

    37 :

    貼るペース早すぎじゃね
    さるさんに引っかかる上に読んでる奴少ないと完結した途端にスレが落ちるぜ

    38 = 1 :

    スレ立ててから一時間はサル無効だから、今の内にちょっとでも多く貼っておきたいんだ
    支援は死ぬほどありがたい

    39 = 1 :


    生憎の雨だが翌日、ママの言うとおり彼女は出発した。
    朝は小雨だったが、時間が経つにつれ雨脚は強くなり、昼過ぎの現在土砂降りである。

    雨音で足音がかき消されるため いつもより彼女に近づけるものの、視界がすこぶる悪い。
    何年も穿き続けているブーツの縫い目から水が浸入してきて不快感が半端ない。

    空を見上げてみても灰色一色で切れ目が見えない。
    数日雨が続くことを考えると足が重く感じた。 物理的にも精神的にも。

    しかしそこに彼女がッ 居る限り 歩くのをやめないッ!

    40 :

    面白いんだけど何で俺なの?男でもいいんじゃないの?
    ねぇ何で俺なの?
    俺なの?
    俺なのか?
    俺か?

    41 = 1 :

    夕刻、彼女は洞穴を発見した。 今日はそこで泊まるらしい。
    洞穴の中であれば、濡れていない焚き火に使えそうな枝ぐらい落ちているだろう。

    さっきの町から彼女が歩く方向からして、大体の進路と次に到着する町の検討はついている。
    先回りして町の入り口で待機することもできる、が。 この近辺にはクマが現れる、ことがある。

    いくら彼女と言えど、クマへの対処はできますまい。
    守護神たるこの俺ががおーっと彼女に襲い掛かるクマを撃退し、そしてあわよくば……!
    その後を妄想もとい想像し、こっ恥ずかしくなり、ムフフフフと木の幹に抱きつく。

    あれ、木ってこんなに温かったかな。 木ってこんなに毛がモジャモジャしてたかな。
    ……

    42 = 1 :


    「朝日が眩しいぜ……」

    言うほど朝日は眩しくない。 今日も雨が降っている。

    昨日のクマとの死闘の末、なんとか勝利を収めることができた。
    しかし失ったものは大きく、これからの旅に支障がでることは目に見えていた。

    「しばらくの飯、どうすっかな……」

    食料は犠牲になったのだ……

    43 = 1 :

    翌日も翌々日も相変わらずの雨だった。
    止めどなく降り続ける水は地面をぬかるませ、彼女と俺から体力を奪った。
    彼女の歩くペースは明らかに落ちている。

    俺の脚も重い。 心なしか身体がひどくだるく感じる。
    彼女に思いを伝えられないがための恋わずらいか、とも思ったが、どうやら違うようだ。

    鼻水が溢れる。 頭が痛い。
    これはただの風邪だ!

    44 = 1 :

    馬鹿は風邪を引かないというのは嘘だったのか。
    いや、それとも俺が馬鹿じゃないことが証明されたのか。 だとしたら喜ばしいことである。

    ブーツの縫い目、マントの隙間から滲み、中身まで濡らす水は俺から体温をも奪った。
    身体が震える。 こんなに寒いのに、汗が止まらない。
    咳が出る。 くしゃみが出る。 しかしこちらの存在に気付かれてしまうためダイレクトにできない。
    無理やり抑えると肺が痙攣し、呼吸も満足にできない。 ヒューヒューと喉笛が鳴る。

    しかし彼女のためならば、と強引に足を動かす。
    視界がぼやける。

    45 = 1 :

    妙に時間が遅く感じられたが、ようやく夕刻になったようだ。
    彼女はまた手頃な洞窟を発見した。 暖かな明かりが見える。 火は熾せたようだ。
    それならば俺のようにクマに襲われることも寒さに震えることもないだろう、と安心する。

    一方の俺は近くの木の根元に大きな洞を見つけ、そこで休んでいた。
    水は流れ込んでくるが、雨風を凌げるだけでも良しとしよう。 言うまでもないが火は熾せない。

    食欲以前に食料がない。 採りに行く気力もない。
    空腹のあまり胃液が逆流する。 びちゃびちゃと黄色い液が口から滴る。
    しかしそれを拭う気力もまた、ない。
    とりあえず、水を一口だけ飲んで、寝た。 明日無事に目覚めんことを。

    46 = 1 :


    奇跡的に目が覚めると、空は青かった。
    晴れたぜきゃっほう!と子供のようにはしゃぎ喜ぼうとしたとき、
    彼女が泊まっていたはずの洞窟が蛻の殻になっていることに気付いた。

    SIMATTA寝過ごした!!
    よく見れば太陽は真上を越している、もう昼過ぎではないか! バカカオレワー!

    彼女はもう町に着いているかもしれない。
    急がなければ、と重い体を引きずるように走る。 スピード的に言えば、全速力の蛙と同じぐらい。

    47 = 6 :

    さるが無効なんて……悔しい……でも支援しちゃう……ビクッビクッ

    48 = 1 :

    森を抜け、町が見えてきた。
    人だかりの中に、見覚えのある横顔がある。 彼女だ。
    よかった追いついた、と安心しようと思った瞬間、彼女が誰かと話しているのが見えた。

    男だ。

    "あの"彼女が男と、しかも親しげに会話だと!!?
    あれか、あれなのか、つまり彼女はもう――

    全身から力が抜け、膝から崩れ落ちる。
    僕もう疲れたよパトラッシュ、なんだか凄く眠いんだ。
    お花畑の向こうで母親が手を振っている。 今行くよ。

    そういえば母親はまだ死んでいなかったなと思いながら、意識を手放した。

    49 :

    紫煙

    50 = 1 :

     旦

    雨が止んだ日、ちょうど町に着いた。
    なんと間の悪い、こんなことならもう少しあの焼きリンゴを堪能したかったと後悔する。

    ともかく、雨で疲れていた。 今日は宿を探してさっさと寝よう。
    そう思いきょろきょろと見回していると、見覚えのある服装の男を見つけた。

    その男もこちらの存在に気付いたらしく、小走りで近づいてきた。
    気付かなかったことにして逃げようかとも思ったが結局は失敗に終わった。

    伝達員「お探ししておりました。 伝令です」

    心の底から舌打ちした。


    1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 次へ→ / 要望・削除依頼は掲示板へ / 管理情報はtwitterで / SS一覧へ
    スレッド評価: スレッド評価について
    みんなの評価 : ★★★×4
    タグ : - ストライクウィッチーズ + - + - 傭兵と騎士 + - + - 女騎士 + - 男勇者 + - 神スレ + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。

    類似してるかもしれないスレッド


    トップメニューへ / →のくす牧場書庫について