元スレ女旅人「なにやら視線を感じる」
SS覧 / PC版 /みんなの評価 : ★★★×4
51 = 1 :
「控える戦のための召集」だそうだ。
また国同士の喧嘩に付き合わねばならんことを考えると反吐が出る。
そして、そんなことも断ることのできない自分には尚のこと腹が立つ。
伝達員「馬車を用意してあります。 町の外まで」
私「疲れているのだが。 一日ぐらい、」
伝達員「馬車の中でお休みください」
融通の利かん奴だ、こいつを殺して逃げようか と思ったが面倒になりそうなのでやめた。
後からやって来た部下と話しながら馬車を待った。 呼んでおきながら待たせるとは何事か。
52 = 1 :
ゴトゴトと馬車が進む。 頬杖をつき小窓から外を眺めていると、
ボサボサの頭をした男が倒れているのを見つけた。 行き倒れだろうか。
それに気付いた部下は急いで馬車を止め、その男に駆け寄った。
お人好しな奴だ。 あんなもの放っておけば良いものを。
部下「真っ青ですがまだ呼吸があります、すぐにそこの医者に連れて行かないと!」
私「それなら――」
「当分の世話代だ」と言って、路銀のつもりで持っていたが結局余ってしまった金の入った袋を
部下の傍に投げる。 私もお人好しだなぁと、溜息を吐きながら頭を掻いた。
53 = 1 :
旦
知らない天井だ。
目覚めた俺はまずそう思った。 俺は生きているのか。 死んでいるのか。
死んでいるなら天国だろうか。 そうであって欲しいなと見回してみると、
看護婦「あんら、目ェ覚めた?」
白衣の天使、と言うには少々老け、ぽっちゃりしている。
ここは天国にあらず。
54 = 1 :
看護婦「親切な男の人がねぇ、倒れてたあんたをここまで運んでくれたんだよ」
男、か。 彼女が助けてくれたのではないか、という一抹の期待を抱いていたが、
見事にぶちのめされた。 まぁ、そうだわな。 ……彼女、か。
看護婦が蜂蜜湯を手渡してくれた。 軽くお辞儀をして受け取り、一口飲む。
温かかった。 とても温かかった。
俺「ぅぐう゛うぅ、あっだ、がいよ゛ぉぉ……」
涙が溢れた。
久々に感じた温かさのためか、彼女に男が居るかもしれないという悔しさからかは分からない。
とにかく、流れる涙をしばらくの間止めることができなかった。
55 = 1 :
その後体力は順調に回復した。
寒さと栄養不足と疲労により発生した風邪だったため、
温かい布団と食事と休憩、そして少しの薬を飲めば治るのも当然だと言えるが。
看護婦さんにはいろいろと説教された。
クマが出るのを知っていて山道を通るのは馬鹿のすることだとか、
クマから逃げるにしても食料全部渡すとかアホじゃないのかとか、
旅をするなら自分の体調管理ぐらいしろとか、好きな女性のタイプは何かとか。
女性のタイプに関しては、紳士的に「貴女のように包容力のある素敵な女性」だと答えた。
翌日のリンゴはウサギを模されていた。
56 = 1 :
目が覚めて6日目、この診療所を出ることにした。
体力はだいたい回復したし、長居しては入院費が馬鹿にならない。
身支度をする。 新しいブーツを買わないとな、と思う頭の片隅で彼女の顔が浮かんだ。
彼女はもうこの町を発ってしまっているだろう。 この町は商品の中継地、
道は多くて彼女の行く先など分からない。 きっともう、会うことはできない。
まぁ、結局俺の恋路などこんなものだ。 でなければ今まで童貞を守れているはずがない。
……諦めるのが得意になったのはいつからだろうか。
57 = 6 :
この純粋さ・・・やはり童貞か・・・
58 = 1 :
看護婦「御代は結構だよ、運んでくれた人が治療費にって大量の金を置いて行ってくれたから」
なるほどそれであのVIP待遇か。 とんだイケメンも居たものである。 どこぞの貴族だ。
ただここまで尽くしてくれた看護婦さん及び登場していない医者に敬意として
多少のチップを渡さにゃならんだろうと思い、金の入っているはずの袋をまさぐった。
しかしそれらしい感触は一向に見つからなかった。
まさか中身を盗られたのかと疑いつつ探り続けると、一枚の紙が手に触れた。
それを袋から引っ張り出すと、見慣れた字でこう書かれていた。
『 可愛い坊やへ
お金がいっぱい手に入ったそうなので、勝手に抜いておきます。
これで貯まりに貯まったツケ及び借金の約1割を返済したことになります。
最初私からお金を借りたとき、出世払いだって言ってくれましたよね。
坊やが立派に出世してくれるのを楽しみにしています。
健康には気をつけてください。
みんなのママより
p.s.早く払わねーとケツの毛を毟りに参上します 』
59 = 1 :
俺「そりゃねーぜママン!」
忘れていた、すっかり忘れていた。
俺がママの町に寄り付かなくなった理由――それは借金だ。
出世見込みのなくなった俺はママに毛を毟られることを恐れて町に近づかぬようになったのだ。
そうかあの時の笑みはそういう意味だったのか!
町を出るときに渡された食料はママの優しさでなく、普通に俺の金で買った食糧か!
なんてこった、してやられた!
頭を抱える。
俺「また働かないといけないのか!」
61 = 1 :
――
係官「はい、三ヵ月分の給料と褒賞金。 確認してくれよ」
久しぶりに仕事をして稼いだ。 貨幣が本物かどうかを噛んで確認していると、
団長が直々に話しかけてきた。 契約をもう少し延長しないか、とのこと。
俺「でもなぁ。 大きな戦には参加したくないし」
団長「大丈夫だ大丈夫! そんな博打事はやりはしないから! ね!」
見事に口車に乗せられた俺は、契約をあと半年、延ばした。
62 = 1 :
俺は傭兵である。 傭兵というと孤児だったとか逃亡奴隷だったとか
そういう泥臭い過去をもつ者が多いが、俺にはそんなヘビーな要素はない。
俺は農村で産まれた。 それなりに安定した収穫があり、冬以外は毎日の食に困らないぐらい
恵まれた環境で育った。 父と母、姉と弟の居る幸せな家庭だった。
それなのに何故そこを抜け出したかというと、当時好きだと錯覚していた女の子にフられたからである。
俺がフられた噂は瞬く間に村に広がり、居た堪れなくなった俺は、いつかでっかくなってやると言い放ち
村を抜け出した。 14歳の春のことである。
63 = 1 :
盗んだ馬で行く先も分からぬまま走り、行き倒れていたところをママに拾われた。
しばらく店などを手伝わされたが、常に草原を走り回る少年のように自由でありたい俺にとって
命令に従って働くいうのはどうも性に合いそうになく、結局は地に足のつかない傭兵となってしまった。
尤も俺は戦うことが好きなわけではない。
できる事なら争いには参加したくないのである。
だから、「基本的には」契約こそするものの戦場では極力安全な場所に避難し、
定時に帰る公務員よろしく安定した給料のみを頂くのだ。 いのちだいじに。
64 = 1 :
俺「……今回もそのつもりだったんだけどなぁ。 どうしてこうなった」
大きな戦には手を出さない、という契約だったはずだが。
どう見ても大国の国境攻めです。 本当にありがとうございました。
この戦は、いくつかの小国が同盟を結び、大国の城塞を落とすことが目的らしい。
俺が望んでいた貴族同士の小競り合いとは訳が違う。 団長め騙しやがったな!
相手の大国が城塞に配備している兵団は、いくつかある正規軍の内1つ、数は数万。
一方こちらの連合軍は数倍の人数。 数だけ見れば圧倒的、なのだが。
65 = 6 :
そろそろパンツを脱ぐときか
66 = 1 :
俺の属する兵団は、他の団が正面から突っ込み、相手がそこの守りに集中している隙を突いて
西側から後ろに回りこみ、裏から一気に城塞を乗っ取るという妙なまでに大役を担っていた。
そんな旨い事進む訳ねぇよなと思っていると、案の定敵の隊が待ち構えていた。
相手はこちらの半数ぐらい。 しかし流石正規軍だけのことはあって数など関係なかった。
教育が行き届いている、と言えばいいのだろうか。 寄せ集め集団とは違い、隊全体のレベルが高い。
更に相手の兵の中でもやけに目立つ奴がいた。 鎧からして平の兵士のようだが、
こちらの兵20人をあっという間に肉塊へと変貌させるほどの凄腕だった。 怪物かこいつは。
その様子を見た団長は大層ご立腹であり、そろそろ俺にも火の粉がかかりそうだし
退散しようと こそこそ隠れる準備をしていると、逆にそれが目立ったのか指名されてしまった。
67 :
戦争は数だよ兄貴!
68 = 1 :
団長「お前、傭兵だったよな! 行かないと前の分の給料も払わんぞ!」
俺「んな殺生な!」
あろうことか怪物君と一騎打ちになってしまった。
怪物君と俺の周りには兵で囲まれ輪が作られ、もはや逃げ道はない。
お前ら見てないでちゃんと戦えよ!!!
常識的に考えて多勢で突っ込んだほうがいいだろうが!
くそう戦いたくねぇよ。 ……しかし。
戦いたくはないが、死を甘んじることもできない。 せめて童貞を卒業してから。
こうなった以上、やるしかあるまい! さっさと終わらせて逃げる!
70 = 1 :
手首の動脈を切ってしまえば、だいたいの奴はひるんで戦意を喪失するものだ。
しかしこの怪物君は中々にしぶとく、結局腕一本落とすまで戦うことを止めてくれなかった。
自軍から歓声と拍手が沸き起こる。
いや拍手とか要らないからそこの道空けてくださいお願いします。
その思いも虚しく、逆に戦わなければいけない人が増えただけだった。
動き回ったために人の輪の形はくずれているが、横は崖。 結局は逃げられない。
次の相手は兜に立派な羽飾りをつけている。
その人物は「隊長」と呼ばれた。
71 = 1 :
隊長。 ここの防衛を任された隊の、隊長か。
ならばこの隊長をなんとかしてしまえば、相手方は戦意を失い道が開けるかもしれない。
さすれば俺は自由になれるのではないか!
団長「こやつを倒せば報酬は約束の3倍だ!」
半年分の給料が1年半分になるのは魅力的だが、期待はしていない。
とにかく逃げることを考えると俄然やる気が沸いてきた。
よし、ちゃっちゃとやっちゃおう。
72 = 1 :
小柄で細身の身体。 正直舐めていた部分もあったが、隊長と呼ばれるだけあった。
素早い攻撃の数々は動きに無駄がみられず、なおかつ力強い。
これは先ほどのように手首だけを狙う余裕はなさそうだ。
相手の攻撃を適当に往なし、時にはやり返したりもする。
さて、どこを狙えばやる気をなくしてくれるか。
と、手元で、ピシッという音が聞こえた。
嫌な予感がし、恐る恐る自分の剣を見てみると、皹が入っていた。
まずい、安物じゃやっぱり脆かった!
当然、刀身に皹が入ったことは相手も分かっているだろう。
これは、まずい。 本格的に。
74 :
「俺」って親衛隊に入れるレベルなんじゃ
75 = 67 :
ぶった切って悪いんだが
ここまで燃えない一騎打ちは久方ぶりだ
さっさと主人公討ち死にしろ、って思えてくるんだけど
76 = 1 :
隙の少ないこいつへの反撃のチャンスは攻撃を弾いた時。
しかしこいつは手数が多い。 こんな皹の入ったものでは弾くことなどできない。
いや、冷静になれ。 COOLになれ。
小さい脳で考えろ、もう全てを受け入れてしまえ!
攻撃を弾くと、剣は無残にも真二つに折れ、地面に突き刺さった。
得物を失い万策尽きた。 背後は崖。 逃げ道はない。
隊長は止めを刺すため、ゆっくりと近づいてくる。
そうだ、近づいて来い。
間合いが詰まる。 ――ここだ。
背中に隠しておいた短剣を握り締め、
甲冑の隙間、首元目掛け、一直線に突き上げた。
77 = 1 :
短剣を握る手が捉えたのは、首の皮と血管を切り裂く感触、ではなく
金属同士が擦れ合う振動――短剣が、兜を掠める感触だった。
だが、しくじった、とは思わなかった。
それは紛れもなく、弾き飛ばされた兜から現れたのが
三ヶ月前まで求め続けていた女性の顔だったからであろう。
78 = 1 :
驚きを隠すことができず、手を止めてしまった。
何故彼女が――
俺にとって彼女は特別な存在であるが、彼女にとっての俺はただの傭兵でしかなく、
こうやって手を止めた瞬間も彼女にとってはただの隙でしかないので お構いなしに剣を振るう。
しまった。 咄嗟に顔を腕で庇う。
瞬間、横からバンッという弾けるような音が3つ同時に聞こえた。
目を開けると、自軍から放たれたボウガンの矢が、彼女に突き刺さっていた。
79 = 1 :
彼女「あ、」
全てがスローモーションに見えた。
バランスを崩した彼女は崖淵で足を滑らせた。 手を伸ばす。
俺は咄嗟に短剣を捨て、伸ばされた彼女の手を掴む。
しかし重力に逆らうことはできなかった。
「隊長!!」と叫び声が聞こえる。
最後にボウガンを構えていた自軍の兵三人の顔を目に焼きつけ、
彼女を胸に抱え、崖の底へと落ちていった。
81 = 1 :
川の底から、木の根を伝って這い上がる。
水を吐き出し、呼吸を整える。 鎧着けての入水はもう御免だと心底思った。
落ちた場所が川だったこと。 その川が増水によって深さが増していたこと。
この二つによってどうにか生き延びた。 正直今でも信じられない。 なんというご都合主義だ。
一緒に救った彼女の様子を見る。
意識はないようだが、ちゃんと水を吐いて呼吸をしている。
ひとまず安心する傍ら、不謹慎ながらも人工呼吸という
正当な理由の下での口付けのチャンスを逃したことを悔しく思った。
空から水がぽつぽつと降ってきた。 もしかしなくても雨か。
雨には良い思い出が全くないので、とにかく雨曝しにならない場所に移動しようと彼女を抱き上げた。
82 = 1 :
都合よく発見した洞穴に彼女を寝かせ、考えた。 俺はどうすべきか。
彼女は手を伸ばせば届いてしまうほどの距離に居る。 ここまで近づいたのは初めてだ。
水分を含んだ髪は艶かしく顔にへばりつき、なんというか、もう、こりゃたまらんといった感じである。
ええいくそ、治まれマイサン! 何のための日々の調教か、今はそれどころじゃなかろうに!
まず、彼女に刺さった矢をなんとかするしかあるまい。 それで血を止めなければならない。
ってことは、包帯を巻く。 そのためには鎧を脱がせないといけない。 そのまま巻くのか?
いや、服は濡れている。 着替えか、せめて吸った水を絞らなければいけない。
やっぱり脱がせなければばばばばばばばばばb
脱がせるのか? 脱がせるのか!? むむむ無抵抗の彼女の衣服をひん剥くのか!!?
それであわよくば裸で身体を温めあったりなんかしちゃった日には俺はどうなってしまいますか!
83 = 1 :
否、落ち着け落ち着け。 我は紳士なり。 この程度で取り乱してはいけない。
兎にも角にも、優先すべきは彼女を助けること。 愚息のことなぞどうなっても良い勝手に威きり勃っておれ!
抜いたときの痛みが出来るだけ少なくなるように角度を考え、握る。
抜くぞ。 本当に抜くぞ! もちろん彼女に刺さった矢の話である。
力を込めた時、彼女は小さな呻き声をあげた。
そしてゆっくりと目を開けた。
ドキッとした。
86 = 1 :
旦
意識を取り戻したのは痛みの為である。
何故痛むのか。 ああ、ボウガンで撃たれたのか。
それで確か、足を滑らせて崖の下に落ちた。 下は川になっていたな。 いやしかし、
だからと言って助かるものか。 甲冑を着け浮き上がることもできずそのまま死んでいても――
目を開けると、ぼんやりと人影が見える。 衛生兵だろうか。
段々はっきりと見えてくる。 いや、こんな甲冑を着る者はうちの兵には居ない。
安っぽい甲冑。 金を惜しんでか動きやすさのためか、左腕にしか装備されていない腕甲。
はっとした。 こいつはさっきまで戦っていた相手ではないか!
87 = 1 :
腰から短剣を抜き、ひゃうと斬りつける。 相手の頬を掠め、赤い筋を引いた。
私「近付くな!!」
ボサボサの頭をした傭兵は驚いたように一歩下がり、両手を前に突き出す。
そして何かを言いたそうに、口をぱくぱくと動かした。
短剣を突きつけたまま睨むと、眉を下げ困ったような顔をした。
なんと情けない。 こいつに、敵に助けられたというのか!
88 = 1 :
ボサボサ頭「け、剣を降ろしてくれ。 俺に敵意はない」
男はおもむろに装備していた武器を地面に置きだした。
短剣に、どこに隠していたのかナイフを数本。 いや、しかし。
私「騙されるものか。 また油断させて殺す気だろう」
ボサボサ頭「そんなつもりは、……いや、そう思っても構わない。
とにかく、その、刺さった矢をなんとかしてほしいんだ。 血が……」
私「ふん、さっきまで殺し合っていたというのに私の心配か?」
男は下がった眉を更に下げた。
91 = 1 :
旦
困ったことになった。
現在持っている武器全てを彼女の前に晒し、手の平を向け、
完全に「降参」の形をとっているにも関わらず彼女は警戒を解いてはくれない。
ほんの少し前まで斬り合っていた上、あんな不意打ちをしたためそうなるのも当然だが。
こんな事ならうだうだと考えずにさっさと矢を抜いて適当に止血してこの場を立ち去れば良かった。
今となっては少し動いただけでも彼女に殺されてしまいそうである。 目がマジだ。
いや、彼女に殺されるのなら本望なのだが、こんな形で――「敵」として殺されるのは御免である。
92 = 1 :
俺「お、お互いの為だ、頼む」
彼女「何がだ」
俺「貴女は俺がこの場所を仲間に教える恐れがあるから、必ず殺そうとするだろう。
だが俺も命が惜しい。 だから貴女が襲ってきたらやり返す。 俺の短剣はそちらにあるが、
腕一本さえ犠牲にしてしまえば、得物を取り返し貴女の首を落とすことぐらいは容易い。 そうだろう」
俺「貴女がここを出るとしても。 落ちるところを見られているし、しかも手負いだ。
貴女の首を貰うべく、沢山の兵が探しているだろう。 その脚で逃げることが、
その腕で大人数と戦うことが、できるかどうか。 貴女が一番分かっているはず」
俺「もちろんそれは俺にも当てはまる。 そっちの捜索隊に見つかれば必ず殺される」
俺「上での連戦と、激流の中から鎧着こんだ人間を引っ張り上げてここまで運んだ。
正直、脚は棒になっている。 心っ底疲れている。 もう歩けない。 ……だから、だ」
俺「お互い。 回復するまでは、ここに隠れていたほうが良い」
彼女「……」
93 = 1 :
互いにしばらくの間静止し続けていたが、彼女が動き出した。
諦めたのか、ずっとこちらに向けていた短剣を降ろしたのである。
彼女「……得物は貴様の手の届かん場所に置いておく」
腰に収め、そして腕と脚に刺さった矢をズチュと乱暴に引き抜いた。
矢の刺さった痛々しい彼女の姿から抜き出し、とりあえず安堵の息を漏らす。
彼女「何故私の身を案じる。 慰み者にするのなら傷物は嫌か」
俺「ち、違う! それだけは断じて違う!」
96 = 6 :
さるくらった?
97 :
これは、ベルセルクモデル?
98 :
>>40までしか読んでないけど面白い支援
99 = 1 :
彼女「では何故、しかも急に。 私が女だと分かったからか?」
俺「え、いや、その、ええと……も、もう戦う理由が無いからだ」
彼女「理由? そんなもの貴様が敵軍に属しているというだけで充分だ」
俺「いやさっきはああ言ったが、俺はもうあの兵団を抜ける。 この戦から抜け出す」
彼女「は、……怖気づいたのか」
俺「違うと言えば嘘になるが、元々この手の戦には参加しない契約だった。
なのに騙された。 契約違反。 俺はもうこの兵団に居てやる義理は無い」
100 = 1 :
彼女「それでも金にたかるものではないか、傭兵は」
俺「……この戦、どっちが勝つと思う。 うちら連合軍とそちら」
彼女「圧倒的に我が騎士団だろうな」
俺「俺もそう思う。 こんな死臭の漂うところで金が集まるわけが無い。 負け戦には興味ないよ」
矢傷を負った部分を押さえながら、彼女はふむ、と納得したような感じであった。
俺はというと、こんな形ではあるが彼女と会話できたことに感動すると同時に
緊張で心臓を口から吐き出しそうになっていた。 よく喋れた俺! よくやった! 誰か褒めて!
みんなの評価 : ★★★×4
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