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元スレ仗助「艦隊これくしょんンンン~~~~?」
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「提督……これは……」
「駆逐艦のレシピと、一応は戦艦のレシピっすね」
「駆逐艦……戦艦というのは?」
「やっぱ、火力がねーと困る事もあるかもなーって思ったんスよ」
射程距離が長い――というのもそうである。
射程距離が長い分、戦闘のスタートで有利を取れるのが戦艦。
余りにも遠い状況で当たるのか当たらないのかはともかく、相手から一方的に殴られないというのは重要である。
高火力、重装甲、超射程と三拍子揃っているのは魅力だ。
(スタンドはパワーがある分は遠くにいけねーってのに、艦娘っつーのはスゲーっすね)
至近距離での殴り合いともなれば、全速力で向かってくる巨大なトラックを殴り飛ばせるのが近距離パワー型のスタンドであるが……。
その一方で、力の及ぶ距離というのは実に短い。
仗助の【クレイジー・ダイヤモンド】なんかは、彼の身体を起点に一メートルほどである。
そして……。
「軽巡洋艦、大井です。貴方が提督なの? よろしくお願い致しますね?」
仗助と加賀の前に現れたのは、深緑色のセーラー服に身を包んだ少女。
加賀が二十歳を過ぎているとしたら、十代半ばほど。
茶髪の長髪を垂らして、柔和に微笑んだ。
「あ、東方仗助……見ての通りっス」
右手を差し出す仗助に若干目を見開いて、それから気を取り直した笑顔。
何となく、違和感を覚えつつも握手を酌み交わした二人と、それを傍で眺める加賀。
さてどうしたものか。
ここから、深海棲艦や鎮守府の説明が必要なのか。その辺りの知識はどうなっているのか――と。
チラと、仗助が可香を振り替えれば――
「……チッ。なによコイツ、恍けた感じね。早く北上さんに会いたいわ」
ぼそりと、大井が吐き捨てた。
軽巡洋艦大井――成長したその先は、重雷装巡洋艦大井。
圧倒的な夜戦火力と、本体から切り離されて自律する子機が可能とする強烈な先制攻撃が売りである超高性能な船にして。
これは仗助が知るよしもないが――。
またの名を――。
――“クレイジーサイコバイ”大井であるッ!
それから直ぐに、もう一つの建造所から歓声が上がった。
もう一隻の艦娘が生まれたのである。
バーナーとやらを使えば何故そうも早く艦娘が生まれるかは不明だが――やはりこれも“ルール”なのだ。
コーラを勢いよく投げつけたら泡が吹き出るように、バーナーを使うと艦娘の建造というのは瞬く間に出来上がるようになっていた。
「じゃあ、大井さん……だっけ? 詳しい事は加賀さんから……」
「はい、判りました! 失礼しますね!」
歯切れよく頷いて、加賀へと駆け寄る大井。
それと同時に開いたカーテンからは――大井のそんな明るさを帳消しにするような陰りが覗いていた。
いや、別にその外見が梅雨の時期に水を吸った乾燥ワカメのように鬱陶しい憂鬱さを持っている訳ではない。
白を貴重とした振り袖めいた上衣に、花の如く赤いフレアを持ったミニスカート。
それでいて和風――巫女衣装を改造したかのごとき服装からは陰気さの欠片もない。
また、顔が暗いかと言われたら違う。肩にかかるかまでで揃えられた黒髪と、赤い瞳は整っている美人の風情。
だとしても――どことなく。
何となく雰囲気が、暗いのだ。十人居れば十二人が部屋の電灯を見返すような。
彼女の名は――
「……扶桑型戦艦姉妹、妹の方の山城です。よろしくお願いします」
古い日本語で日本を意味する――扶桑型、その戦艦の二番艦“山城”!
影が似合う美人、というのだろうか。
幸の薄そうなその山城を見つつ、仗助はある事を思い出した。
元はと言えば、彼が今こうなっている事に繋がるかも知れない人物。
虹村億泰の口にしていた――
「扶桑、って……あの戦艦の?」
挨拶も忘れて呟いた直後。
その直後に――影が変貌した。揺らぐ暗い影から、炎の激情への唐突な転化。
目を見開き、今にも仗助に掴みかからんばかりに詰め寄った。
「姉様を知ってるの!? どこ!? 扶桑姉さまはどこ!?」
「ど、どこっつーか……知り合いが扶桑と結婚するとかなんとか……」
「ケッコンンンン~~~~~~~~~~!?」
「うおっ」
「そんな……ねーさまぁ……」
くわっと目を見開いたかと思えば、今度は突如として肩を落とした山城。
肩を落とす――本当に胸から上、首から先が地面に落っことすかのような勢い。
例えるなら映画か何かの、悪霊に取りつかれた少女のその瞬間だ。棒が倒れる風な唐突さ。
(そりゃあ……ショックだよなぁ~~~~~、俺には妹とか姉とかいないから判らねーけどよぉ)
たった二人の姉妹が、自分に知らせずに結婚――というと衝撃も大きいだろう。
とは言っても、この世界が――虹村億泰が行っている艦これのゲームと同じではない以上、本当に扶桑が結婚するかも不明であるし。
そもそも仗助には、艦娘と結婚する事の意味がよく判らない。
海域の攻略を進めていくうちに、自然とそのように互いの絆が強まって話が進んでいくのだろうか。
イマイチ釈然としないが、虹村億泰とこの山城の姉はそんなところまで話が行っているのだ。とにかく本人たちはおそらく合意している。
となったら、何とかフォローするしかないと……。
「そんな……嘘ですよね、扶桑ねーさま……。そうよ……きっと騙されているに違いない……きっと悪い男が『君の主砲の性能に感激してるんだ』って……」
手を伸ばしたそこ、仗助はビビって身を引いた。
頭を垂らしたまま紡がれる山城の呪詛。黒髪のセミロングの、その下の瞳は覗けない。
もしも人間に暗黒面というのがあるのであれば、それが形となって害を及ぼすだろうと言うほどの漆黒のオーラ。
これは不幸だ。
ただし彼女自身が――というだけでなく、彼女に関わった(というかその姉に関わった)人間が不幸になるという意味で!
>>110
???「頭に来ました」
???「頭に来ました」
(おいおいおいおい……これ、ヤバイときの山岸由花子みてーじゃねーかよぉ~~~~~)
こういう女に、仗助は覚えがあった。
彼自身ではなく彼の友人へと向けられた病めいた異常な執着とその愛。
結局その二人は恋人関係になったのだが――それにしたってあれはその少年の努力がありすぎた。
一度は自分を拉致し、あまつさえは教育と称して無理難題を与えて監禁し――最後には戦いになった。
そんな女を改めて「好きになった」と受け入れるには物凄いものがある。
そして、東方仗助は――というかその彼も――初対面で、己以外にそんな感情を向ける女の相手は荷が重い。
ここは一つ、艦娘となる前から知り合いである筈の、
(か、加賀さん……!)
あんたの無敵の表情筋で何とかして下さいよォォォオ――――――ッ、と背後を勢いよく振り返る。
縋るように視線をさ迷わせるその先には――先程までいた筈の位置には、加賀はいない。
何という緊急回避か。狙っているのか、それとも偶然なのか。
同じく建造されたばかりの大井を連れて、スデに鎮守府の案内を開始しているではないか。
「ねーさまに近付く奴は……きっと私たちを陥れようとしているに違いないわ…………そうやって姉様に貢がせて……捨てようと……」
取り残された仗助と、譫言めいて床に向けて呪いを発し続ける山城。
背筋を凍った鉄パイプが撫で上げるような、尻の穴に氷柱を叩き込まれたかのような怖気。
他には誰もいない。
――いや、いる! 妖精がいるッ!
だが……
(こ、この間よりも……この間よりも避けられてるだとォ~~~~~~!?)
前回柱の裏にいた筈の妖精たちは、今度はその影さえも現さない。
これが仗助による酷使の影響(命令は加賀だな)なのか、それとも思わず妖精も震え上がって便所の隅に隠れてしまうほどヤバイのかは不明だが――。
(お、俺が案内するっつーんスか……? この……明らかに……ヤベー状態の、この女を……)
「まずはこの男から聞き出して」「提督への危害は厳禁……いや、ただ聞くだけ」「そう、すぐに教えてくれる」――。
明らかにただならぬ事が起きるだろう暗黒の言霊――。
そう呟く山城を前に、仗助は心底逃げ出したい気分になるのだった。
>>113
てめーはこの空条承太郎が直々にぶちのめす………!!
てめーはこの空条承太郎が直々にぶちのめす………!!
「……加賀さん、なにやってるんすか?」
「……」
「いや、ウサギってのは見りゃあ判るっスけど……」
黙々と、おしぼりタオルを使って兎を編み込む加賀。
頬を掻いた仗助の視線の先には、タブレットPCのようなものに浮かぶ艦隊の現在位置と、司令部から割り当てられた作戦海域。
建造によって人数が増えた鎮守府にあっても、今現在執務室には二人。
提督であるが故に前線に出られぬ仗助と――念の為に備えての加賀。
山城と大井は現在進行形で出撃中だ。
大井は「魚雷を撃ちたくてうずうずしているんです♪」という言葉に仗助が気圧されて。
山城は――話すと長くなるが――つまりは、案内の時の一悶着だ。
『提督……知り合いと言うなら、今すぐその扶桑姉様に手を出そうとしている不届き者のところに……』
『い、いや……それは……なんつーか……』
『……まさか、グルなの?』
『ち、ちげーっスよ! ただ事情があるっつーか、すぐには会わせらんねーっつーか……』
『すぐには……? どういう事なんですか……?』
『そ、それは……そのー、こう、向こうの基地が遠くて難しいって感じで……』
『……』
『えー……っと、なんつえばいいのか……』
『……』
『……』
『……本土から離れた基地に所属されてるから、深海棲艦の影響で直ぐには向かえません』
『そ、そう! 加賀さんの言う通りで……ムズかしいってヤツで――』
『――なら、深海棲艦を倒すから……出撃の許可を』
ドス黒いオーラを全開にした山城を前には、頷く他なかった。
そして残念な事であるが、提督として初心者も初心者な仗助には資源の備蓄がない。
弾薬は――正確に言うならその火薬は――【クレイジー・D】の力で砲身や薬莢にこびりついた火薬から回収できる。
破損も問題なく修理できる。……が。
スデに艦載機として打ち出されて撃墜されてしまったものはどうにもならない。
だからこそ、加賀は留守番となった。
(承太郎さんみてーな感じでウサギを作られてるのはシュール以外の何者でもねーっスけど……)
そんな訳で、陣形の伝達をする仗助の近くに待機する加賀は、無聊を慰めようと一心不乱にタオルのウサギを建造するのだ。
どことなく内職めいている。作った兎が崩されずに隊列を組んでいくだけ、余計に。
時折手を止めては、無表情――仗助からはそうとしか見えない――で、兎の横列を眺める加賀。
(でも意外にも可愛いもの好きなのか、この人)
今度、あの開発失敗のぬいぐるみを一つ取っておくか。
そんな風に考える彼の思考を裂いたアラームと、タブレットに浮かぶ文字。
これは……、
「艦隊が帰投したようです」
「とりあえず傷一つ負ってないみてーっスね」
「あとは……」
「あとは?」
「どうやら、海域で艦娘を保護したようです」
艦娘の保護。
建造以外に艦娘をどこで艦隊に加えるのかと言われたら、もう一つの答えがそれ。
建造を行うか。作戦を遂行した艦隊へと大本営から配属されるか。それとも――というものだ。
そんな訳で、提督の椅子に腰かけて。
隣には社長室の美人秘書の如く、無言で立つ加賀。
赤絨毯に目をやって、(どーにも尻の辺りが据わらねーぜ)と頭を掻く仗助の視線の先――茶色いドアが勢いよく開いた。
紺色のセーラー服とは対照的に、燃え上がるような赤髪が棚引き炎の河を形成する。
速度はあるが、どことなく詰めの甘い敬礼と小さな背丈。
満面の笑みを浮かべる少女は、駆逐艦だろうか。
「よろしくでっす、しーれーいかーん! うーちゃんは卯月だっぴょん!」
「お、おう……なんか個性的な艦娘だな」
別に今に始まった事ではない、が。
そもそも第三者からしては艦娘だけでなく提督まで個性的である。
胸元が大きく開いてハート型に加工された学生服など、その最たる例であろう。
「流石に気分が高揚するわ」
「……加賀さん?」
「なんでもありません」
伺う仗助の瞳から目を反らして。
小首を傾げる風に明後日を向いた加賀に、やれやれと仗助は息を漏らす。
承太郎に似ていると言ったが――もしも承太郎が、この駆逐艦相手に同じ事を呟いたら問題だ。
スタンドを使ってないのに、時が止まる。
仮に妻や娘がいるなら、養豚場に並んだ豚の餌を見るよりも凄まじい軽蔑の目線を向けられるだろう。間違いなく。
(……そういう意味では、億泰の野郎が駆逐艦と結婚するとか言わなくて一安心ってヤツですよ。いや、マジに)
加賀から、何となくの解説は受けていた。
駆逐艦というのは、生前――と言って正しいのか――の排水量を反映してか、得てして幼い。
その反面、排水量の大きい空母や戦艦などは十分に育った外見をするらしい。
ならば、巡洋艦や軽空母などはどうなるかと聞けば、加賀は居心地が悪そうに(得に軽空母の時に)目を背けて言った。
何事にも、例外というのはある――らしい。
それか、一度髪型でキレた仗助の恐ろしさを艦娘達に分からせればまだ彼女達の制御が効くのでは……
などと、二人の間で顔を向けあっていれば。
彼らの前に立った卯月が、実に楽しそうに幼い声を上げた。
親愛の証、なのであろうか。
「個性的って言ったら司令官の方だけどー、うーちゃん司令官とは仲良くなれそうだっぴょん」
「そうか? まあ、俺としても艦娘とは仲良くやりてーと思ってるからちょーどいいけど――」
「うーちゃん、人参もハンバーグも大好きだっぴょん!」
「……? メニューが決められるならそれを選ぶのも良いかもしんねーけど、ここの食堂のメニューはおまかせだからよぉ~」
残念ながら、食堂のメニューというのは日替わり時間変わりで好きには選べない。
仮にこの施設内に他に艦娘が居たのならば食事処などが開かれて好きに食事ができるかも知れないが、今のところそんな話はない。
テーブルに並んだ一ヶ月単位のメニューを前に、それぞれ三食が好みかどうか見比べるしかないのだ。
などと、首を捻る仗助目掛けて。
「その潰れたハンバーグとか人参みたいな髪型、うーちゃん好みだっぴょん!」
「――」
その爆弾は、投下された。
「……ッ」
それにいち早く気付いたのは、やはり加賀だった。
明らかに――明らかに雰囲気が変わった。
先ほどまでの居心地が良さそうな空気を、健康ランドの温泉とするならここからは煮えたぎるマグマ。
その源は――普段は惚けた風におおらかな気配を纏っている、東方仗助。
静かな威圧感が、さながら空間そのものに文字となり刻み込まれているかの如く執務室に充満するのだが……。
「司令官のその髪型みてるとハンバーグ食べたくなるっぴょん!」
「……俺のヘアスタイルがなんだって?」
「えへへ、怒ったっぴょん? 面白すぎる髪型してる司令官が悪いと思いまっす! なんちゃっ――」
当の卯月は気付かず、そして――。
殴った弾のことを考えると、艦娘にシアーハートアタックみたいな耐久があるのでは
(……こういうのは最初が肝心だからなー。艦娘としてナメられちゃなんねーぜ)
腕を組んで歩く眼帯の少女――艦娘、天龍。
彼女を案内するのは、海域で彼女を保護した大井と山城。
本当はもう一人駆逐艦が居たのだが、そこ小型故の身の軽さを活かして早々に何処かへと行ってしまった。
何とか探そうかと試みたものの、結局は見付からず――――あまり提督を待たせてはならぬかと、三人で肩を並べて執務室を目指す事にした。
そんな彼女――天龍が考えるのは、実にシンプルな事だ。
(それに……どんな指揮官だか判らねーからな。無謀で艦娘突っ込ませる奴は『論外』だとしても……腰抜けじゃ話にもなんねー)
だから一発、どれほどのものか確かめさせて貰おう。
お眼鏡にかなわない奴なら艦娘から働きかけて矯正すればいいし、見極めってのは命に関わる以上、なあなあには出来ない。
などと考えながら、天龍は颯爽と扉を開いた。
口の端をニヒルに攣り上げて、顔に角度を付けて、歴戦っぽく眼帯を強調して。
「オレの名は天龍。フフ、怖――――」
「てめーどこに隠れやがったァァァァ――――――ッ! 出てこいオラァァァァ――――ッ! こんなもんじゃあ済まさねーッ!」
(――――怖ええええええええええええええ!?)
だが――なんという事だろう。
執務室は、台風でも喰らったように大荒れ。というか現在進行形で荒されている。
しかも他ならない提督によって。
彼が大地を踏みしめるその一歩と共にテーブルが舞い、床が砕け、本のページがバラバラに千切れ跳び、窓ガラスが変形する。
どんな理屈でそうなるのだろうか。砕けた家具が、趣味の悪い現代芸術家が作る美術作品のごとき奇妙なオブジェと化す。
その部屋には、腕をだらりと垂らしたまま、まるで何事も無いように――それでいて目をしばたたかせる空母加賀。
そして――、
「う、うーちゃん……違っ、違っ、ごめっ、ごめんなさっ……ひいいいぃっ」
何とかどうにか提督の視界に隠れようとしながら、頭を抱えて震える駆逐艦。
と、目が合った。
天龍の姿を認めた途端、救世主が現れたかの如く縋り付こうとしたその駆逐艦の目線は――
「――それじゃあ、鎮守府を案内しますね?」
閉じられたドアの向こうに消えた。
何事もない。ここでは何も起きていない。起きていたとしても自分の耳には入っていない。
ただ張り付いた笑顔を浮かべる、大井。
踵を返して廊下を逆戻りしようとする彼女に――やはり捨て置けず、天龍は何とか一言ひり出した。それが限界だったが。
「……な、なぁ、今のって」
「…………提督と、ここの歓迎の儀式ですよ?」
「お、おう……マジかよ気合はいってんなー……」
……いや、やっぱり流石に。
「なあ、その……」
「なんですか?」
「歓迎って言うんなら、オレも――」
「……チッ」
「え?」
「いやあ、鎮守府の案内が済んでからなんです~。ね?」
「……ええ、はい、そうです。そう、そうです」
油の切れたように首を振る山城と、あくまでも案内が先と主張する大井。
釈然としないものを抱えつつ、天龍は……仕方がないかと頷いた。
というより彼女も整理がついて居なかった。混乱しているのだ。
本当ならもう少し正義感から間に割り込んだかも知れない。
だが――目の前でビックリイリュージョンのようなものを繰り広げられては、そんなものかもと思わざるを得ない。
そう、遠ざかる彼女らには残りの喧騒は聞こえなかった。
『てめー、そんなとこに隠れてやがったかァ――――――ッ!!』
『提督、落ち着いて下さい……ウサギです』
『う、ウサギじゃなくて卯月だっぴょ――ひいいいいっ!』
『何モンだろうが俺の髪型にケチつけるヤツは許しちゃあおかねえ――――――ッ!』
『ひ、ひぃぃぃぃぃい!?』
『仕方ない…………ここは二階だから、何とかなるわね』
『……え?』
◇ ◆ ◇
親睦会も兼ねて――というか。
単純に人数が少ないので、皆が一緒に食卓を囲む。
空のテーブルばかりが並ぶだだっ広い食堂の一つのテーブルに肩を寄せ合って、これまた皆が同じメニューを。
卯月は加賀と仗助から最も距離を取ったテーブルの隅に。
彼女の正面と真横を大井と山城が囲み、加賀は卯月の斜め向かい、仗助の隣。
仗助の正面に位置するのは天龍であるが。
「ところでよー、提督のそのヘアスタイルってよー」
「……!」
そんな夕食のひと時、天龍がふと思いついた様に言った。
手にはフォーク。口の端に、ミートソースを付けて。
『……ッ!?』
これに泡食ったのは残りの全員だ。
加賀はお盆を仗助から遠ざけ、大井は無言で笑顔のまま身をズラして、山城は眉間を押さえる。
卯月は――卯月、彼女が一番気の毒だろう。
冷や汗を浮かべて、歯の根が噛み合わない。
訳も判らないままポルターガイストのような現象に襲われたのだ。ブチ切れて追い詰めて来る提督とセットで。更には窓から紐なしバンジー。
その悲劇がもう一度繰り返されようと言うのか。
全員が全員、無言でアイコンタクトをするが――悲しきかな、片目しかない天龍の視線はすっかり仗助の頭である。
(……暴れられる前に片付けましょう)
加賀のフォークが加速――。
(馬鹿なのかしら、この軽巡。……北上さんが恋しいわ)
顎に手を当てて長息の大井――。
(ねーさま……私、また不幸に巻き込まれます……)
物憂げな吐息と共に視線を彷徨わせる山城と――。
(う、うーちゃん知らないっぴょんっ。今度はうーちゃんの所為じゃないっぴょん! ううう……怖いよぉ……やだよぉ……)
決壊寸前の腹を押さえて公衆便所を探す中学生も同情するぐらい、己の肘を抱きしめる卯月。
そして――
「――それ、マジにばっちりキマってるよなー? 自分でセットしてるのか?」
「お、おめー……この髪型の良さが判るんスか……?」
「……? どう見たって世界水準軽く超えてちゃってるだろ?」
「なに言ってんだ?」と、小首を傾げる天龍。
どう見ても。
どう見ても、嘘を言っていない。
天龍の瞳は輝いてるし、何故だかと得意げに腕を組んで頷いているし、聞いても無いのにどう凄いかを遠慮なく陳列する。
あの。
時代遅れの、どう考えても古臭い、明らかに異様な様相を醸し出すリーゼント相手に。
「いやー、イカすぜそれ。軍人としちゃあナシかも判んねーけど……オレとしちゃあ『覚悟』がバシバシ伝わってきていいねえ」
「お……」
「どうにもなよっちい野郎に提督業なんてやらすくらいならな、お前みたいにこう『ガッ』と来てる方がヤベーっつうか」
「おめー……」
「うんうん、オレには分かるぜ。その髪型……間違いなくこう……生き様ってのが出てる。いいねぇいいねぇ」
「天龍……おめー、グレートだぜッ。流石は世界水準超えって言うだけあるよな~~~~~~~~ッ」
「おいおいなんだよ急に……褒めるなよ。ま、当然だけどなー」
「オレって世界水準超えてるし?」と得意げに胸を張る天龍と、「グレートだぜ」を連呼して拳を合わせる仗助。
どうやらこの二人は精神構造が近いというか、同じ枠組みだと言うか――要するに不良系だ。
恐らく、最も意気投合してやっていくはずだ。
そう気付いた加賀は、
「……やれやれね」
ただ一言、そう漏らした。
東方仗助『クレイジー・ダイヤモンド』――→『すっかり天龍と意気投合した』
加賀『加賀型正規空母一番艦』――→『卯月に避けられてちょっとショック』
大井『球磨型軽巡洋艦四番艦』――→『最初に髪型に言及しなくて心底よかったと安堵した』
山城『扶桑型戦艦二番艦』――→『扶桑ねーさまに早く会いたい』『提督を怒らせるのだけは止めようと思った』
卯月『睦月型駆逐艦四番艦』――→『加賀に窓から落とされても艦娘だから怪我はない』『でもショーツ替えた』
天龍『天龍型軽巡洋艦一番艦』――→『普通よりよっぽど気合い入っている仗助を気に入った』
「おううっ!? あ、危ないっ――」
「ん?」
「ぶつかる――――――って、え、あ、あれ?」
「……次からは前をちゃんと見て歩くんだな」
「う……ぅ、うぅぅ」
「……? どうした、島風?」
「も、もしかして……!」
「……?」
「もしかして、提督って物凄く速いの!?」
「……」
「駆けっこしない!? ねえ、提督ー!」
「……」
「だって速いんでしょ!? ねえねえ!」
「……駆けっこはまた今度だ」
「本当!? へへっ、約束だよ! 約束なんだから!」
天龍なら仗助の髪型の良さがきっと伝わると信じていたよ…(緊張後の安心感)
そしてキレた仗助がどのくらいのレベルの深海棲艦を倒せるか気になるな…
そしてキレた仗助がどのくらいのレベルの深海棲艦を倒せるか気になるな…
キレた仗助は顔面にペン先刺さっても構わず露伴先生殴ったからな、相手が子供でガチ泣きしてても多分殴る
台詞のチョイスもさることながらスピードワゴンさんばりの丁寧な地の文ッ!
ぼくは敬意を表するッ!
ぼくは敬意を表するッ!
>>148
天龍ちゃんが提督にぃ、髪型の由来を聞けばいいと思うなぁ~
天龍ちゃんが提督にぃ、髪型の由来を聞けばいいと思うなぁ~
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