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元スレ仗助「艦隊これくしょんンンン~~~~?」
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まぁ、いつか言われるだろうと思ってた
普通に考えたら艦娘同士の演習で提督が指揮しないで前線でスタンド攻撃ってどう考えても提督としての勝負は捨ててるからな
仮に相手が深海棲艦で味方がピンチな時にやるならわかるがはなから承太郎が出てきてたらそういう扱いだろ
普通に考えたら艦娘同士の演習で提督が指揮しないで前線でスタンド攻撃ってどう考えても提督としての勝負は捨ててるからな
仮に相手が深海棲艦で味方がピンチな時にやるならわかるがはなから承太郎が出てきてたらそういう扱いだろ
承太郎からすれば相手はこの状況作り出した敵、あるいは仲間の可能性もあるからスタンドで自らも出たと推測するが。
ぎ、義手になる前なら、まだ一回しか墜落してないから……
って、思ったけど、ドイツ組がシュトロハイム知ってたりしないかなぁ……
って、思ったけど、ドイツ組がシュトロハイム知ってたりしないかなぁ……
ドイツ陸軍が海軍に対抗して試作した艦息子♂と勘違いされてる可能性ww>シュトロハイム
『なんかこー、バットも握った事ねー茶道部出身の監督が甲子園常連選手を代打に指定するみてーで気が進まないっつ~~~かぁ~~~』
「……」
『なんつ~~~か、ホントーにこう……申し訳ねーんスけどぉ……』
「……」
『承太郎さん、引き返しちゃあくんないっスか? あんたのとこの鎮守府庁舎まで』
「……なんのつもりだ、てめえ」
目が細くなる承太郎。ドスの利いた声。
対する無線の主の東方仗助は、そんな彼の言葉に怯える事なく飄々と続ける。
『承太郎さん、アンタの艦隊じゃあねーと早く引き返す事はできねー。うちの艦隊じゃあ「タクシー拾わずに隣駅まで歩く」みてーに時間がかかり過ぎるんスよ』
「……」
『しかも、さっきの演習で随分と魚雷を打ち尽くした……そうじゃあねーんスか?』
『この場合、魚雷が通用するかはともかくとしてよォ~~~』と続ける、仗助。
つまり、彼が言いたいのは――こうだ。
『自分たちが足止めをするから』『その間に実弾に換装して』『さっさと戻ってこい』。
実にシンプルな言葉であるし、実際のところ――――空条承太郎もそのつもりであった。
尤も、その場合引き付けるのは彼の側で提案するものであったのは、言うまでもないだろう。
『確かにさっきの演習じゃあ、承太郎さんが勝ったかもしれね~っスけどよぉ~~~』
そう。
承太郎のそれもシンプルな理論。
強い方が残れば、その分足止め時間も稼げる。相手の艦隊が遅くても関係ない。
弱い側が残ったら、最悪全滅してから――補給を済ませるそこに襲いかかられる可能性もある。
『弾も残ってて、それ以外の装備も強い俺たちが残るのが……ここは「正解」っつーモンじゃあないんスか? この場合だと、特によぉ~~~』
そんな風な、仗助から承太郎への提案。
それに彼は答えず、代わりに傍に立つ瑞鶴へと目線を一つ。
「艦載機はまだ、残ってるな?」
「それは……【スタープラチナ】が代わりをやった分、残ってるけど……」
航空戦での消耗は、最初に雷撃を敢行して追撃を受けた攻撃機にとどまる。戦闘機は殆ど、無事のままだ。
「まさか」と瑞鶴は息を飲んだ。
初めから承太郎は、これを見越して【スタープラチナ】で航空戦を行ったのか。
「……さあな」
だが――深海棲艦の襲撃を初めから念頭に置いているならここまで深入りもされないかとも、思える。
どちらにしたって真相は、承太郎一人しか知り得ぬ事だ。
瑞鶴の胸中を知ってか知らずか、至って冷静に無線に告げる承太郎。彼の視線は鋭い。
即ちここが勝負どころで鉄火場だと、強く認識している証左。
「こっちからも……艦上機を出せるだけ出しておくぜ」
『マジっスか!? そいつぁ~~~~マジに百人力って奴っスよ~~~~!』
という訳で、と目で促す承太郎。
頷いた瑞鶴は、矢筒から一本取り出し番え――――思い付いたように一言。
「五航戦、正規空母瑞鶴――その、一応、よろしくね!」
『――』
「絶対、間に合わせるから!」
『東方仗助っス……なんつ~かよろしく頼みますよ! マジな話よォ――――』
彼女の言葉に呆気に取られた仗助も、明朗に応じるのであった。
その他、細かい打ち合わせは要らない。
承太郎たちは全力で彼らの鎮守府を目指し、仗助たちは死力を尽くしてレ級を足止めする。
もしも――もしも、どちらかが及ばなかった場合の結末は単純。
残る片方もレ級によって甚大なる被害を被り、そして戦艦の主砲と容赦のない航空爆撃により街を焼き付くされる。
それだけの――実に単純で、何よりも救いがない出来事。
島の影に隠れるよう、離岸を始める瑞鶴ら。
岩礁を避けつつも、レ級の主砲に直接射撃を受けぬよう、五つの影が波を裂く。
それを見送りつつ、臨戦態勢を取る加賀が一言呟いた。
静かなる闘志が秘められた声色。以前として航空機に指令を下して制空権争いに興じつつも、それを滲ませない沈着さ。
「提督」
『どーしたンすか、加賀さん?』
「足止めはいいけど……別に倒してしまっても構わないでしょう?」
さらりと。訳もないとばかりに。
嘯く加賀の声からは、恐怖も焦燥も誰一人として感じられない。
そこに五航戦の出番をなくす――などという感情があるかは不明であるが、加賀がこと完全な危機にすら私情を持ち込む人格の持ち主かと論ぜれば、答えは出よう。
『……やっぱりそーゆー事言っちゃうんスかぁ~~~~~~~~?』
「ええ。……何か問題でも?」
『……問題しかねー気がするけど、加賀さんなら案外そう言うっつー感じもしてたしなぁ~』
電波に混じった、頬を掻く気配。
されど、そこには心底呆れるでも、咎めるでもそんな口調はない。むしろどこか、喜ばしげなそれ。
緊張せぬ訳でもなければ、捨て鉢になって現実が見えていない訳でもない。
彼にしても、加賀の返答は予想通りであったという事だし――。
そもそも足止めを申し出る、という運びに至る時点で……きっと二人とも隠された“それ”を了承していたのだ。
『さっきは試してる余裕がなかったが……思いついたモンを試させて貰いますよ。テートクとして、ね』
即ちは――雪辱戦。
そして何よりも、深海棲艦による被害を己たちで押さえ込むという強い意思。
『ま、そーは言ってもキッチリやるとしたらっスけど……』
「はい、そこは至近距離から私の魚雷を目一杯叩き込むか――」
「私の主砲……ね。判ってますから……」
主力は――大井と山城。
彼が空条承太郎に語ったように、東方仗助の艦隊は弾薬をさほど消費していない。
何れにしても対象の至近距離で破裂するという特性上、破壊効果を持たぬ加賀の艦載機は論外。
であるならば、頼みの綱はその二人。
相手装甲を貫いてなお、その内部で爆発する鉄鋼弾は演習の為に装着は不可能であったが――。
至近距離射撃での、運動エネルギーはさほど損なわれてはおらぬ。
【クレイジー・ダイヤモンド】が如くの距離まで至ったのならば――――数十キロ先の鋼の強化複合装甲を貫く弾を撃ち出す戦艦である。演習弾と言えども、破壊は不可避だ。
『それじゃあ……「準備」ってのはいいっスか? あのフード野郎をブチのめしてから、なに食わぬ顔で補給する「準備」はよォ~~~~』
「間宮も付けてくれるのね。……そう」
『は?』
「提督、野郎じゃなくて……アマ、ですよ?」
『……そこ、重要っスかぁ~~~? 今ここでェ?』
「姉様……山城の活躍……見てて下さい」
三者三様に答える艦娘と、無線越しに作戦を伝える仗助。
そんな三人を見やりつつ、卯月の肩を借りる天龍。
容赦なくひしゃげた艤装と、露になった柔肌。数多の裂傷に、肩を震わせつつ吐息を溢す。
脂汗が浮かんだ口許に、皺が寄る。
重傷なのはどう見ても天龍――しかし、端から見るなら追い詰められているのは、下から覗き上げる卯月の顔。
そんな彼女に、囁く。――天龍の声には苦悶は浮かばず。
「……卯月。ちょっと頼みがあるんだけどよォー……」
「え」
半ば、輪から自然と外されていると感じた卯月にとっては予想外。
「な、なに……何だっぴょん?」
「こんな事を駆逐艦に頼むのも、俺としちゃあ『あんまり』だって感じもするが……」
「な、なに? うーちゃんに出来る事なら、だけど……」
「ちょっくらオレの刀で……刺しちゃあくんねーか? オレの事を……」
「ドンドン撃って! もっと、連続して!」
「言われなくても……!」
模擬演習弾が百発当たろうとも、レ級の体表を傷付ける事はない。
相手から決して撃たれぬという事は、回避行動を取る必要がないという事。レ級は攻撃に専念が出来る。攻撃を欠いては防御すらままならぬのだ。
白飛沫を巻き上げて、スケーターめいた動きで海を滑る大井と山城が、身体を左右に傾ける。
二人が左右に分かれるその真ん中、直後に着弾の水飛沫が生まれた。
間欠泉よりも膨大な波濤の柱と、小雨の如く降り注ぐ水煙。鼻を突いた、独特の潮の香り。
彼女たちに今できる事は、只管に相手の足元目掛けて叩き込む事だけ。起きる波が、大井らを照準するレ級の主砲を死線から逸らす。
大小、凹凸めいて浮かんだ青い丘陵。
刻一刻と常に形を変える足場――――その上を滑りながらも主砲を斉射し、そして回避を行う。
妖精観測手の助けがあると言っても常人の処理能力を超えた行動量こそが、彼女たちが艦娘であるという何よりの証左となる。
大井の右手に握られた如雨露を思わせる主砲が生み出す爆炎も、しかし次の瞬間には彼女の豊満な胸を撫でて後方に追いやられる。
一方の山城が生み出す爆炎と轟音は大したものだ。
彼女の背部の艤装から左右に突き出た砲塔が射出する砲弾は、その反力で山城の体を沈める。視界一面を塗り潰すほどの黒と赤が棚引く。
撃ち続けなければ、レ級は正確な狙いで二人を撃ち抜くだろう。
しかし、相手に有効打にもならない攻撃をただ出すだけでは、いずれその反動と応力、噴煙で直撃を奪われる。
その匙加減の脅威足るや――流石の大戦経験の、軍船の記憶を持つ二人とてままならない。何しろ、敵を撃ち滅ぼせぬ弾で戦う経験などないのだから。
そして幾合かの砲火の咆哮を交わしたところで、ついにその瞬間が訪れた。
山城の砲撃に合わせての、レ級の砲撃。吊り上がった三日月型の嘲笑。
巧に、撃ち終わると同時にレ級のその尾部は稼働されていた。これでは、撃たれた後から相手がどこを狙ったのか確認する手段がない。
大井が舌打ち。山城は苦渋顔。
既に射撃は開始されている――――逃げなくてはならない。だが、その回避方向を織り込んでの射撃なのか? そうではないのか?
迷う時間すら惜しい。コンマ数秒に至らぬその間とて、超音速の砲弾が彼我を埋めるには十分すぎる導火線の間だ。
だが、そこで――
『――左にそれぞれ十五度だぜ。あいつの攻撃を喰らいてえっつーんなら話は別だけどよぉ~~~~~~~』
無線から流れた東方仗助の声。
二人は、考える間もなく回頭を果たしていた。その後に、右舷で巻き起こる着弾の泡沫。
『無敵の【スタープラチナ】ほどじゃあねーにしてもよォォォ~~~~~、「精密さ」には自信があるぜ。俺の【クレイジー・ダイヤモンド】もよぉ――――――』
唖然とした其処に、再度仗助からの通信。
自信ありげなその声。大井は知らず、納得の頷きをしていた。
「なるほど……着弾点予測ね?」
『至近弾ってのも危ねーらしいっスけど、これなら少なくとも直撃せずに近付けるってもんだぜ』
つまりは――東方仗助がレ級の砲口を見切り、観測し、予測して通報した――――ただそれだけ。
これまで行われなかったのは、レ級の射撃の姿勢とその齎す結果を十分に蓄える為であったのだろう。
あとはその指示に乗っ取って、距離を詰めるだけ。
懸念があるとすれば、一つ。
ここで発想を四次元的に――――囚われぬものとしたならば。
もしも、レ級の立場ならば。
もしも、相手側から攻撃を受けぬ状況で。
もしも、己に長距離砲撃の力があるなら。
その、狙う先は――
『……とーぜん、動けねーヤツを狙うよなあ~~~~』
標的は――動けぬ天龍。
寡兵で大軍を相手にする狙撃手が如く、負傷者を敢えて作り、そこに救助の仲間を呼び寄せ殺害する。
前方に赴いたのは大井と山城。残るは、天龍の護衛。
それらを纏めて葬り去らんと狙うレ級の主砲であるが――
(マジにグレートだぜ……天龍、おめーよォー)
そこにあるのは一つの幕。
金の稲穂が如く風に揺らぐ、赤色の地走り。その上に歪み、崩れた歪な磨りガラスを通したかのごとき風景。
海原を黒に染める、数多の色が混じった斑点がごとき油脂を浮かべた液体と、天を覆わんと立ち上る気体。
火を放たれた燃料が海面に広がり、レ級と天龍との間に壁として立ちはだかっていた。
天龍は――こればかりは模擬演習用とはならない、彼女の艦首を象った片手剣を所持していた。
その剣で、己自身の燃料貯蔵庫を突き破り油を広げたのだ。自身が標的とされ、仲間の枷となる事を避ける為に。
旧型の巡洋艦で、石油の他に石炭でも航行が可能な天龍だからこそ出来る芸当。
(どーなる事かと思ったが……なんとかなりそうだぜ)
無論の事仗助は、【クレイジー・ダイヤモンド】による救出を試みた。手近な木を折り採って投擲。
そのまま天龍を呼び戻そう、としたところで――障害が起きた。
宙に浮かぶと同時に天龍が吐血。より正確に言うのであれば、海面から一定以上離れたその時であろうか。
つまり、天龍の傷は常人なら死に至る重傷――だという事。
艤装を装着しているから、海の上で船としての能力を使用しているからこそ辛うじて耐えられる大怪我なのだ。
直すには――些か距離が在りすぎた。近距離ならばともかく、余りにも水面から離れている時間が長すぎる。
ならば、仗助から出向こう――と、
『あのレ級のところまでは届かねーが、そこまでなら石ころ投げりゃあ――』
「――やめてください。提督を危険には晒せないわ」
そう言い出したところで、即断。加賀に切り捨てられる。
仗助の投擲の及ばぬように、レ級の砲撃も仗助には及ばぬ。
それが天龍たちの位置まで向かったなら――間違いなく撃ち抜かれる。加賀の警戒の理由はそこだった。
島の高台に位置する仗助の――彼の眼下には、巻き起こる“海火事”の黒煙と大火。それより離れての大井と山城、その先の向こうのフード姿のレ級。
空が、動いた。
意地でも天龍を攻撃しようとしてか――広域に分散する航空機。
レ級と天龍を繋ぐ直線が炎により分断されている以上、天龍に対して行える攻撃は航空機攻撃のみ。
多角的に、とにかく数で攻める為なのか。
編隊という概念を失い、海域の上空に疎らに散った艦載機。
天龍を目指しつつも――また同時に、山城と大井にも向かう。しかし、航空機の網を広げるというのは即ち、航空機同士の連携を困難とするという事。
加賀と、そして瑞鶴が残した艦載機に喰われて散る紡錘型の爆撃機。哀れ空中で、爆発四散する。
単純な数なら、レ級の方が上だとしても――加賀には“守り抜かなければならない目標”が明らかになっている。
悪戯に追撃に興じて返り討ちになる事も、彼女からはあり得ぬという行動である以上、この攻撃に意義は薄い。
(……)
しかし、何か――。
何かそれが、余りにも不気味過ぎた。
単調になったレ級の砲撃には、山城も大井ももう仗助からの指示を必要ともしなくなった。
それまで齎された情報と総合して、己の肉眼で回避を試みて――――それで事が足りる。
後は二隻ともが思うがままに、レ級との距離を詰める。やがて近付くであろう死線だけを目標に。
「このまま……近付いて……!」
右足で踏み込みと共に、山城の足元から弾ける飛沫。反動で左に向かう体。
合わせて大井も左足を踏み込み。水を跳ね上げ、山城の逆に向かう。逆ハの字に開かれた空間――――そこが着弾予想点。
奇しくも計測する仗助と【クレイジー・ダイヤモンド】も、その領域を被弾領域と定めるが。
だが、
『……ッ、マズイぜ! 山城さん、そこは――――!』
「え……きゃああああッ!?」
上がった爆音が三つ。
山城の右肩で弾けた砲火と、そして残る二つとは――。
一体――――なんと馬鹿げた射撃であろうか。
放物線を描く砲弾は、レ級から撃ち出された後の運命が決定していた。正しく山城の予想通り、何一つない海面を叩く筈であった。
そう、何一つない海面――それは正解だ。
ただし、それは海面。海面には確かに何も存在していないし、事実現在も何もない。
だが、空中には。
二人が砲撃を回避せんと別ったその空間に――――レ級の持つ爆撃機が二機、舞い込んだのだ。
そのまま、砲弾は容易く航空機を貫き――そして誘爆。
空中で弾ける、艦載機とその胴体に取り付けられた爆弾。そんな力を持って、“無理矢理に砲弾を曲げた”。
山城と大井がどう回避するか。
それすらも見越して――――逆に数多の砲撃により情報を収集していた。『どう撃てば』『どう逃げるのか』を。
「まだ……動けます……!」
幸いと言うならば、その物理的な強制による弾道変更は砲弾の持つ力を損なわせてしまった事だろうか。
故に山城は、致死には至らぬ。
砕けた背部の艤装。破ける、装甲を意味する白絹の振り袖。
彼女自身の戦艦としての強度そのものにも由来して、一撃での致命とはならぬ砲撃。だからこそ未だ、山城には敵を睨み付けるだけの気勢が残る。
「ここで引き付けるから……私を置いて、先に進んでください……!」
2200から開始します
今日明日でレ級戦終わって、またほのぼのに戻ります
今日明日でレ級戦終わって、またほのぼのに戻ります
肩を揺らしてなんとか喉を震わせた山城に、応じるかの如く――レ級の主砲が稼動。
黒いフードのレインコートのその裾を盛り上げる、骨色の尾。その先端に備えるは機械獣としか表現出来ぬ、鋼鉄の恐竜の頭部。
船の船首宜しき黒色武骨な上顎と、その額に備え付けられた三連砲。
天龍を“狙撃”した、魚雷を生やした下顎――――しかしそれはいい。
真に恐ろしきは。
その食い縛られた剥き出しの歯茎が正に、人間のそれと酷似しているという事。
生物と非生物の融合。人体と非人体の合一――――生理的嫌悪感を生ませて、余りある。
ぬちゃ、と粘液が引いた。
上下に延びる水滴の糸。吐き出された暗黒色の瘴気。勿体つけて開いたその、竜にして人の口が――舌を舐めずったのだ。
「――ッ、加賀さん! 撃破出来ないの!?」
波を掻き分け前方へとひた進む大井の、逼迫した悲痛な叫び。
彼女は知っている。
奴は“それ”を本当に実行する。間違いなく実行するつもりだ。
この場合は、即死せぬからこそ恐ろしい。
軌道を無理に変化させる代償として本来の威力を削られた弾丸だからこそ恐ろしいのだ。
奴は、山城を嬲り殺しにするつもりだ。
本当に山城の言うように、攻撃を彼女へと惹き付けて――そして、嬲って殺す気だ。
その間、大井は前に進むしかない。なんとかなんとか一杯の速力で、ひたすら前進するしかない。
もしも山城の為に反転したなら、ここぞとばかりにその背中を撃ち抜かれる。
弾道を変化させる必要などない通常の砲撃で、ただの血煙に伏される。
だから進むしかない。前を目指すしかない。
たとえ訓練弾だとしても、片側二〇門の、この腿と脛に外接された魚雷を至近距離で全弾撃ち込めば――レ級を倒せると信じて行くしかない。
レ級をどうにかできるかもしれないのは大井だけで。
レ級の艦上機をなんとかできるのは、加賀だけ。
だが――。
「……数が多すぎるわ。それに広がりすぎている。進路上のものの撃破は不可能です」
依然として、演習を行って消費した加賀の艦載機よりも、レ級の艦載機の方が数的に有利。
また、加賀の言葉のその通りに――レ級の艦上機はその光沢を放つ機体を翻し、空域を疎らに飛び交っている。
仮に加賀が山城直近の艦上機を撃破しても、それが本当に着弾を誘導する飛び石とは限らぬし――――また、別の艦上機がフォローを行う。
加えるなら、或いはそんなレ級の艦上爆撃機を破壊に赴いた加賀の航空機を、代わりの
足場にするかも知れない。
本当に――。
本当に彼女の言う通り――。
航空母艦加賀の断言する通り、山城へと砲弾を蹴り付ける敵航空機の撃墜は不可能。
「……ッ、空母の癖に!」
「……それより、無駄にしない為にも前に進んでくれないかしら」
「無駄!? 無駄って――」
後方を振り返る大井。
山城は未だ、速力が低下すれど――生存はしている。天龍が如く重症でもない。
禿鷹か、或いは加賀の屍肉を狙う鴉の如く。
入れ替わり立ち替わりその頭上を飛び抜ける航空機へと、対空砲を放っている。
「山城の、死を無駄にしない……って事なの!?」
「……いえ」
「ああ、なら数が多い艦載機を撃破出来ない貴女に替わって母艦を早く潰せ、って……!?」
「……そう」
「数が多く」「撃墜出来ない」――加賀が呟く。
続けて――。
「そう。それが『いい』。それだから『いい』」
唖然と、声を漏らす暇も大井にはない。
顎を傾け、見上げるその先――――大空を裂くプロペラ機の編隊。
鏃の如く一直線に、大井の後方から来たそれらは、レ級の元を目指す。
「網の目のような、とは良く言うけど……この場合は随分と破りやすい網の目ね」
そう。
数が多く、広がりすぎていて迎撃は不可能。撃墜は無理難題。
ならばそんな広がった敵の包囲網を、固めた航空機で貫けばよい。貫けるのだ。
防御なら手数は足りないが――大きく分散した敵陣を集中した編隊で突破するなら――そう難しい事ではない。
それが、加賀の結論。
「進んで」
加賀の端的な通信。
新たに後方から飛び来るプロペラ機の編隊。上空を仰ぎ見る大井は、そこにあるものを見つけた。
胴体下部に取り付けられた筒型流線型のオブジェ。これは――
「……増槽!?」
爆弾ではない。
長距離を航行する航空機が、その燃料を詰め込むための外付けのタンク。空戦を行うためには、ただの余分な障害。
それらが一斉に切り離されて、着水を目指す。その空中のまま、更なる背後から飛び来る航空機の機銃掃射。
着弾で爆破させる事なく、その弁を撃ちぬく手腕。
増槽上部が弾け飛び、夏の風物詩の鼠花火めいた回転で燃料を撒き散らしながら落下する。
大井の行く手に撒かれた、数多の航空燃料。
そこへ目掛けて――爆弾が投下された。
「……そう、これを煙幕にって事」
これほどの至近距離なら、最早着弾点予測など必要ない。殆んど水平に射撃するだけで、瞬く間に大井の体を爆裂させるだろう。
もう、東方仗助と【クレイジー・ダイヤモンド】による攻撃の予測も、言われてからの回避も間に合わぬ。
ならばいっそこうして、彼我の船影を隠す方が余程清々しい。
同時に、銀色の紙片が舞う。電波を最大に反射して、電探を使用不可能にする電子欺瞞紙である。
ふと背後を振り返れば、やはり燃え盛る火の手。どうやら、もう碌に回避も行えぬだろう山城にも同様の手法で隠蔽を図ったらしい。
「提督!」
『なんスか、大井さん!?』
「そこから――レ級が、どう動いたかだけ報告を下さい」
大井、レ級とて互いが見えない。
しかしながら大井には、目がある。東方仗助という目がある。
なら彼から齎せるレ級の情報を元に――――最後に脳裏に刻まれた敵の姿を、その動きと現在位置を推測すればいい。
大井はそう考えた。
(今の私は……!)
そして、大井は更に考える。
電探も通じず、視界も利かないそんな地獄の暗幕に飛び込みつつ――。
大井は、強く考えた。
(今の私の怒りは、この炎よりも強く――機関部のボイラーの温水よりも……地獄の釜の中身よりもグツグツと煮えたぎっているのよ……!)
心が、焦燥感にも程近い血潮の呻きと共に叫びを上げる。
何としても天龍を撃ち、山城を嬲ろうとしたあの深海棲艦を叩きのめす――――一杯に速力を振り絞るボイラー釜の炎めいて、瞳に殺意が灯る。
大井は向こう見ずではない。
むしろ誰よりも、仲間に対する情の深さを持ち合わせた艦娘であった。
最上なのは、己と同じ艦種であり――同じく、“ある思想の元に改装されたがついぞその設計通りの有用性を戦場で発揮できなかった”姉妹艦であるが。
しかし、あの時代の――。
煽り立てる新聞社、担ぎ上げる自国民、騒ぎ立てる司令部に――翻弄されて。
有用性を証明できず、或いは無作為で無計画な消耗戦で死んでいった自分の、仲間の無念を晴らすべく。
それを心に置いた艦娘である。
故に彼女は訝しむ。常に疑問し、常に評価する。
自分達に命令を下すものが――――それがかつてのごとき地獄を引き起こさぬかと。無意味な死地に己たちを向かわせぬか、と。
その時は無意味ではないと、意味があるとは考えていた。
いや、正しくは考えてはいなかった。なぜなら彼女は一介の船であり、兵器であった。言葉も意思も持たぬ鋼鉄であった。
だが、石が本来の姿を含有すると言う芸術家の言葉めいて――魂があるとしたら――。
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