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元スレ仗助「艦隊これくしょんンンン~~~~?」
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「この男、ねーさまだけでなく私を……」――とか。
「わ、私にはねーさまというものが……」――とか。
「きっと騙そうとしている……そうよ」――とか。
「不幸だわ……本当に……」――とか。
顔を伏せて、聞き取れないほどの小さな声で高速で呪詛じみた事を呟く山城を前に仗助は口元に手。
失敗した。
というか、どんな話題を振っても碌な事にならない気がする。
「……」
「……」
そんな訳で、また沈黙に戻った。
古池や、蛙飛び込む、蝉の声――とか色々混ざった思考が巡る。仗助も混乱している。
一難去ってまた一難というか、泣きっ面に蜂と言うか、虻蜂とらず――は多分関係ない――兎に角『立て続け』だ。
大井と天龍は兎も角、とっつきにくい艦娘ばかり来ている。
何かのスタンド攻撃かも知れないと、仗助は思う。
いや、そもそもこの状況がスタンド攻撃真っ最中なのだが。そこんところはまー、目を瞑ろう。
しかし、ここでめげない。めげないのが東方仗助だ。
確かに風変りだが、風変わりな奴は周りに色々居た。最初から身構えてしまっているから、なんとなく苦手に感じるだけ。
気を取り直して、山城に語りかけ――
「あの――」
「あの――」
被った。
同じタイプのスタンドというか、同じタイプのタイミングである。
「……」
「……」
そして黙った。
何とか話題を探して切り込もうとしていた仗助は出足を潰されて。
どうにか会話を試みて踏み出そうとしていた山城は出鼻を挫かれて。
兎にも角にも、いわゆる沈黙である。
しかし、気を取り直して――
「あ、あのよぉ~――」
「あ、あの――」
「……」
「……」
「……山城さん、どーぞ」
「いえ、私のは大した話じゃないから……」
「……」
「……」
「……」
「……提督、どうぞ」
「俺のも別に大した話じゃあねーからよぉ~」
「……」
「……」
夜空の満天の星空と、横須賀海軍工廠で期待一杯に作られた扶桑型戦艦を添えて~そして沈黙が訪れる~。
まるで時でも巻き戻されているかの如く、再びである。
(グレート、こいつには覚えがあるぜ……道端でよく見る『自転車と歩行者が正面切って譲り合い通せんぼ』みてーなよぉ~)
(廊下で擦れ違おうとしてお見合いしてしまったみたい、な――――――――お、お見合い!? ち、違いますから……!)
お互いの顔も見ようとしないで、眉間に皺。
(こーなると、どーやって抜け出すかが問題だぜ……マジな話よぉぉぉ~~~~~~~~~~~)
(お見合いじゃない、お見合いじゃない、お見合いじゃない、お見合い違いますお見合い違いますから――ひゃっ!?)
たまたまなんとなくチラと見たとき目線が交錯し、山城が思いっきり逸らす。
それを見た仗助は何とも形容しがたい悲しい気持ちとなり、再び彼も空へ。
(なんつーか、こーゆーのって第三者がないといつまでも睨み合ってるのが離れねーっつーか)
(私にはねーさまがいる、私にはねーさまがいる、私にはねーさまがいる、私にはねーさまがいる……『四回』言ったわ)
(ここで天龍辺りがびしっと駆けつけて決めてくれね~ッスかねー)
(四はそれ自体が不幸な数……そして私も第四號戦艦……四は安心を与えてくれる数…………不幸だわ)
(加賀さん……には『俺が代わりにやるから仮眠でもしててください』っつっちまったしよぉ~~~~~~~~~~~)
(そう、不幸……たまたまタイミングがおかしなせいでこんな変な頭の男に…………そう、変な頭よ変な頭)
(……あ? なんか今馬鹿にされたよーな気が……)
(別に馬鹿にする訳じゃないし、それを他人にされるのは嫌だって……十分知っているから口には出しませんけど……)
しばらく、無言の睨み合いが続いた。
睨み合いと言うか――偶に二人して何かを言おうとして、また口を噤む。
そこまで来たら意地の張り合いめいている。
抜きな、どっちが早いか勝負しようぜ――と言う奴だ。
そして結局、それに勝ったのは、
「――【クレイジー・ダイヤモンド】ッ!」
――仗助である。
流石、特にちゃんと図った事はないが時速三百キロを超えるぐらいのパンチを放てるスタンドだ。
ノットに直せば百五十ノット超え。
弾丸を掴みとれるのは伊達じゃあない。
……なお、だから別に切り出すのが早かったかというのとは、実のところあまり関係ない。
「すごい……本当に直るのね……」
「直せないもんもあるけど、たいてーの事ならどーにかなるぜ」
その袖口みたいに――と、たった今新品が如くなった振袖めいた白衣の袖を指さす。
何度目か仗助と目を合わせてしまった山城が慌てて、手すりの継ぎ目にひっかけて破ってしまったのだ。
一先ず、話題を切り出す事は出来た。
だが、ここから話を繋げられないのが山城であった。
空を眺めて儚げに息を漏らすのが得意なのは彼女の姉だが、彼女もあまり大差ない。
人と和気あいあい、仲良く話し合うというのは得意ではなかった。
「不思議だよなぁ~~~~~、だって戦艦っつーのは『固い』んだろ?」
だから、仗助が助け船を出す。別に船でも艦娘でもないけど。艦娘相手に助け船を。
「……艦娘の装甲は、常に固い訳じゃないですから」
「そぉーなんすか?」
「私たちが昔の力を出せるのは、海に居るときと……深海棲艦を相手にしているときだけ……」
「へー」
「主砲も……だから、昔ほどの力はないんです。昔みたいに……」
それこそ平時では、【クレイジー・ダイヤモンド】にも負けると――山城は言う。
殺傷能力と言うのに、欠けるのだと。
「精々、見た目と同じ……同じ口径の銃ぐらいしか……」
「……殺傷能力あるじゃあねーかよぉ~~~~~~!」
「あんな風に扉は壊せませんから……」
だから、艦娘とスタンド使いがやりあったのなら――。
銃弾を弾き飛ばせるスタンドなら、そちらに利があるのだ。
「それで深海棲艦の相手とか大丈夫なんスか?」
「あれを撃つ時は……撃った時の結果は、昔みたいに……」
「そーゆー『概念』って奴っスかね」
例えば、広瀬康一――『エコーズ』の能力の如く。
彼の、擬音を模した文字を作り出し――触れた相手にその効果を与えるスタンドのような。
対深海棲艦としての時だけ、以前同様の破壊力を持つのが艦娘の弾丸。
それを理解して、同時に仗助に疑問が浮かんだ。
「……でも、あの深海棲艦の砲弾は俺にもかなりのパワーだったけどよぉ~」
「それは……あいつらが『害』だからよ」
「『害』、っスか……?」
「人間に対する『害』、船に対する『害』……だから破壊力がある」
そういうものだと、山城は視線を落とす。
悪霊のようなものである――と。
つまり結局は、艦娘以外が深海棲艦と戦うのは無理があるのだ。
実際のところ、いくら高速で岩石を叩きつけるかの如き【クレイジー・ダイヤモンド】のパワーでも――。
仮になら、駆逐艦程度の装甲なら貫けるだろう。数ミリ程度の鋼板なら破壊できる。
だが軽巡洋艦ともなると、破壊できない箇所も増え、重巡洋艦以降だと破壊できる箇所の方が少ない。
戦艦の相手は、無謀に近い。
つまりこの山城は、事実上、破壊力としてはこの艦隊の頂点に立つ――というほどなのだ。
だが、
「それに……私は戦艦としても……『固い』とは言えないのよ……」
恨めしそうに、山城は漏らした。
彼女の前世では――無論仗助は知る由もないが――彼女は忌み子のように扱われた。
自らの主砲の爆風が艦橋に直撃する、艦の形に対して舵の取り付けが悪く操舵が難しい、速力が遅い、装甲が強いとは言えない……。
挙げれば限りがない。
それらの問題を解決する為に、建造以上の莫大な時間が費やされる。
「艦隊に居る方が珍しいとか……そんな風に言われて……」
つまり山城はそういう船だった。
「……つまり、戦艦として装甲が薄くて壊れやすいって事っすよね」
「……くやしいけど、そう」
「でも、駆逐艦とか軽巡洋艦とかよりは『固い』んスよね~~~~~?」
すっとぼけた仗助の言葉に、山城がキッと目を開く。
力の抜けた言葉。覇気のない疑問。どことなく馬鹿にされている風にも感じられた。
流石にそこまで、侮られるほどの能力ではない。
彼女にもプライドがあった。――というよりは、ある種逆に誇りを求めているところがある。
「……馬鹿にしてるの?」
だからこそ、仗助の恍けた態度に彼女は静かに怒りを燃やしたのだ。
侮られる事にも嘲られる事にも慣れてはいるが――。
それを何度も去れて、いや、幾度されようとも嬉しくもないし――腹立たしいと。
先ほどまでのどことない気安さは消えて、山城の内では煮えたぎる劣等感の沼が膨れ上がった。
いや、多少なりとも気を許していたのが災いした。だからこそ余計に、怒りを煽る事がある。
だというのに。
「いいや? なら、やっぱりあんたが一番じゃあねーっすか。少なくともうちの艦隊だったら……一番だよなぁ」
それでもやはり、『なんでもない』――と恍けた調子の仗助。
本当にそれこそが真実であり――。
それ以外は別に構う事もないし、気にする事でもないという口調の。
「……それは他の戦艦を知らないから言えるのよ」
知ったらどうせ、その性能の方が眩しくなる。
そうなれば余計に惨めな思いをするのは山城だ。
今はこんな風に頼りにされていても、後ではお払い箱になる。
それじゃあ、前世の焼き増しにしかならない。作るときだけは――最初だけは、期待されていた。
「そー言われても、俺は山城さんしか知らねーしよぉ~」
「……」
「億泰から言われても、船とかイマイチ詳しくねーからピンとこねーもんがあったし……」
まあ、つまりは――と。
「俺が戦艦って言われて一番最初にイメージするのはあんたっスよ。多分そればっかりは変わらねーだろうなぁ~」
この先どんな船が来たとしても。
東方仗助が一番初めに目にして、一番初めに間近にしたのは山城――そればかりは変わりようがないのだ。
彼と彼女が、一番初めに出会った以上は。
「……慰めなんて」
ただ、それでも。
そんな事はただの慰めでしかない、と山城は後ろ向きに零す。
欲しいのは、そんな綺麗なお題目ではないのだ。
東方仗助の知る戦艦の像が山城――だなんて、彼女の実力や能力とは関係ない。
『たまたま』出会ったから、『たまたま』そうなったに過ぎない。
それは彼女自身とは、無関係なところの話だ。
「……別にどー考えてくれてもいいけどよぉ、それでもこれからあんたに戦って貰うって事には変わりねーっすよ?」
「今はまだ上手く行ったかもしれないけど……戦えば戦うだけ壊れて、余計に惨めに……」
「だ・か・ら、それがわからねーって言ってるんスよ」
そろそろ言い飽きたと、仗助が手を伸ばした。
その先にあるのは、山城の袖。
先ほど【クレイジー・ダイヤモンド】が直したばかりの、袖。
「壊れるのがいいって訳じゃねーっすけど……モチロン壊れないのが一番っつーのだとしてもよぉ~」
「……」
「俺のところに居る以上は、別にそんなのは心配する必要なんざねーぜ」
何故ならば――。
東方仗助と、壊れるという言葉は――。失われるという言葉は――。
この世で最も、遠い位置にある。
ダイヤモンドは砕けやすいかもしれない。固い分だけ、衝撃で飛び散ってしまうかも知れない。
だが、【クレイジー・ダイヤモンド】は砕けない。
「あんたが百遍ブッ壊れたら……その代わりに俺が何度でも直しますよ。百だろうが、二百だろうが」
その能力は、砕けない。
砕かせないのだ。生きている限り。命がある限り。
彼とその相手が、この世に留まり――そして戦おうとしている限りは。
【クレイジー・ダイヤモンド】は、砕けない。
「……」
それでもまだ、釈然としない顔の山城。
それを見て、仗助はやれやれ――と吐息を漏らした。
「まー、兎に角そーゆーのはまた明日からの話だとして」
「……」
「敵艦をブッ倒して、扶桑に会うんじゃねーんすか?」
仗助のそんな言葉に、ようやく山城の瞳に光が戻る。
そう――。
いや、実際のところ勝ちぬけた先に扶桑に会える保証はないし。
あれは、加賀と仗助がとりあえず言ってみた出任せのようなものだったが。
ひょっとすれば、空条承太郎が居るように虹村億泰もこの場に居て。
巡り合う事だって、不可能じゃないかもしれない。
「んじゃ、また明日からお願いしますよ……山城さん」
「……」
「俺もそろそろ戻らねーと」
口から欠伸を漏らした仗助。
やはり、というかなんというか……。
あんな風に、睡眠とは呼べないものであっても……この世界では一応、アレが睡眠なのだろう。
美容や健康を気にする仗助ではないが。
それでも寝不足のあとは、髪のセットが上手く行かないと踵を返す。
「……」
山城は、やはりまだ――釈然としない思いながら。
仗助が放った言葉が、ただの励ましや慰めにも感じられると思いつつも。
それでも、一応は。
「その……ありがとう、ございます」
一先ずはその背に、礼を投げかけた。
……こうして、鎮守府の夜は更けていく。
天龍は夢の中で自分にもスタンドが目覚めた空想をしながら布団を殴った。
加賀は、結局煩悶と考えつつ椅子に座って船を漕いだ。
大井は、まだ見ぬ北上の事を想って枕を握りしめる。
卯月は、潰れたハンバーグと人参に押し潰される夢を見た。
――夜が明ければ、演習の時間だ。
「……か、解体任務ってまさか、那珂ちゃんを」
「……」
「……て、てーとく? 那珂ちゃんの事、うるさいから解体とかしないよね?」
「……」
(あ、あの目……養豚場のブタさんをどう料理するか考えている目だ! 可哀想だけどもう『生姜焼きになってしまうしかないよな』って!)
「……」
(ひ、ひとでなし……! 那珂ちゃん、アイドルだから解体されない設定じゃ……!)
「……ふぅー」
(た、溜息まで……そんな……! て、てーとく……嘘だよね……?)
「やれやれ……確かに任務が達成できないのは困るな」
(え、ええ……やっぱり……)
「だがまあ、解体の必要はねえ……」
「……へ?」
「何やってるんだ……置いてかれてーのか」
「う、ううん! ついてく、ついてく! 那珂ちゃん、てーとくのお供します! だから解体はしないで欲しいかなって! きゃは☆」
「……うっとーしい女だぜ」
「……良いんですか? しなくて」
「……」
「『任務を達成する』んじゃ……」
「手元を見るんだな。てめーの手元にある、書類を……」
「手元? 別にこれが――――はっ!?」
「……」
「そんな……達成した事になってる!? どうして!? まさか、何か仕掛けて……!」
「……さあな。俺はここから一歩たりとも動いちゃあいねえ」
「だ、だけど……私は判子を押した憶えなんて……!」
「そこらの妖精が勝手に押したんじゃあないのか……任務を達成した事を知ってな」
「任務を達成だなんて……そんな、いつ……!」
「たまたま工廠に残った瑞鶴が、たまたま生まれた艦娘を解体したのかも知れねー」
「そんな偶然に……」
「その判子は『お前と妖精にしか押せない』……『たとえ力づくでブンどろーが変わらねえ』……」
「……」
「そう言ったのはお前の筈だぜ、大淀」
「何が……どうやって……」
「さあな」
という訳でここまで
それなりに艦娘皆に出番を与えていきたいスタイル
それなりに艦娘皆に出番を与えていきたいスタイル
『任務は遂行する』
『艦娘も守る』
「両方」やらなくっちゃあならないってのが「提督」のつらいところだな
『艦娘も守る』
「両方」やらなくっちゃあならないってのが「提督」のつらいところだな
乙
やっぱり仗助はイケメンだわ〜
そしてQ太郎さんもやっぱりそうしたか……
やっぱり仗助はイケメンだわ〜
そしてQ太郎さんもやっぱりそうしたか……
この時点で承りは海洋学者だからいちおう軍艦の事も少しは知ってそうね
未だ海中に沈んでる軍艦とかもあるし
未だ海中に沈んでる軍艦とかもあるし
黄金の精神を持つ彼らはッ!艦娘であろうと『仲間』は決して裏切らないッ!
燦々とした日差しと、磯風(艦娘ではない)。
コンクリートの堤防の向こうに望む海と、湾曲した対岸の半島。
照り返しに目を細めつつ、自慢のリーゼントから伝った汗を拭きとり仗助が振り返る。
「いちおーもう一度言っときてーんスけどよぉ~」
視線の先には、直射日光の元でも汗一つ掻かない加賀。
まさしく氷の女か。そこだけ温度が違っているのではないか――などと錯覚させるほど。三度ほど涼しそうだ。
なお実際のところ、加賀の体温は高い。
前世の因縁か――彼女とその相棒の赤城は、殺人長屋や人間焼き鳥製造機などと称されるほどの高温を艦内に充満させていたのだ。
「……なにかしら?」
「くれぐれも、くれぐれもっスよ? 承太郎さんと、承太郎さんとこの艦娘を馬鹿にしないで下さいよ!」
「……今回の相手はQ太郎では」
「空条、なんて名前使ってて……太郎っつったら承太郎さんぐらいしかいねーっスよ」
まさか赤の他人が、そうもシンクロするような名前を使う筈があるまい。
いや、承太郎――彼自身が名乗るとしても、どんな顔をしてQ太郎と言う名を名乗ったのか、少々気になるところである。
(瑞鶴……さんだっけ~? どーにも加賀さんと折り合いが悪いっぽいんだよなぁ~)
それとなく――ではなく普通に加賀に聞いてみた。
演習の申し込みに添付していた画像。空母らしい胸当てをしていた少女に、見覚えはないかと。
返ってきたのは――『瑞鶴。……未熟な子です』――それだけの評価。
言葉少ないというか、あまり会話を弾ませようとしないのはいつもの事であるが。
それにしたって同じ空母相手にその言い草とは、流石に何かあるなと仗助にも判る。
おそらく、顔を合わせたら一悶着ある。
瑞鶴は写真だけでもずいぶんと快濶とした、勝気な印象を受ける艦娘だ。
うっかり加賀が何かを言ったら、九割型反発して喧騒が巻き起こるに違いない。
「と・に・か・く! 絶対に挑発とか侮辱とかそーゆーのは『ナシ』にしてくださいよ! マジな話!」
「……挑発した覚えはないけれど」
「ん?」
「あの子たちが未熟なのは事実です」
「だーかーらー、そーゆーのを挑発っつーんスよ! 挑発って~!」
未だに釈然としない、不満げな表情で黙り込む加賀。
実際にそう思っているのかはともかく……いくら仗助にも、伝わっているのか疑問視しかできない。
この分では、判ってないで何か言いそうだ。非常に。確実に。
(加賀さんはその辺どーにも不器用な感じだからよぉ~、本人的には悪気がないんだろうけど困ったもんだぜ)
一貫していると言えば聞こえがいいが、無神経とも言える。
子供を持ったらいつの間にか折り合いが非常に悪くなってそうなタイプだ。多分、子供はグレる。勘だが。
頼りにはなるが、しかし親しみとは別なので余計に敵愾心を抱かれかねないという奴だ。
言葉少ないのもきっと、災いするだろう。
(そーなったら俺が止めるしかねーよなぁ~)
どうにか中を取り持とう、と決意する仗助に投げ掛けられたのは天龍の言葉。
頭の後ろで腕を組み、海風に心地よさそうに、髪を靡かせている。
「なー、提督……その承太郎さんってのは凄いのか?」
「すげーなんてモンじゃあねーっスよ。スタンドも強いけど、なによりも使いこなしてる本人がマジにグレートなタイプで」
「へー、オレとしちゃあ【クレイジー・ダイヤモンド】も十分すげーと思うけどな」
治せるってのはかなりのもんだぜ、と天龍が拳を宙に振るう。
彼女は仗助のスタンドに、かなり好意的なタイプだった。
見えない人型が拳で鉄の扉を殴り壊すというのに、何か琴線に触れるものがあったらしい。
「そりゃあ俺のスタンドも中々だけどよぉ~、承太郎さんの【スタープラチナ】はマジに最強のスタンドって奴だぜ~?」
「最強……? おいおい、いーねぇ、いーねぇ」
「マジにありゃあ世界水準って奴超えてるぜ。『スタンド使いオリンピック』が在ったらブッチギリで一位確定なくらいによぉ~」
「フフ、そいつは楽しみだな」
ニヒルに笑う天龍。
だが、口元がどことなく綻んでおり、イマイチ完全には決めきれてない。
まだ見ぬおもちゃを心待ちにする子供のような、幼さの残る笑みだ。
「……提督?」
「どーしたんスか、大井さん」
彼女から話しかけてくるのは、なかなかに珍しい。まだ出会って二日目だが。
他に卯月は、やはり仗助を避けがちだ。
当然ながら、髪型を馬鹿にされた仗助が殴りかかってしまったのがさもありなん。
未だに溝がある。
山城はちらと仗助の顔を眺めたり、かと思えば目を逸らしたり落ち着かない。
「相手もスタンド使いというんなら、一応その能力についても聞いておきたいんですが……」
「能力……能力ッスかぁ~?」
スタンドは基本的に――一人一つ、特殊な能力を発現させる。
例えば東方仗助の【クレイジー・ダイヤモンド】なら、あらゆる物体を『なおす』能力。
友人の虹村億泰の【ザ・ハンド】は掴み取った空間を削り取る能力。
同じく友人の広瀬康一は、成長するスタンド能力――それぞれ【音を張り付ける】【音の効果を再現する】【物体を重くする】だ。
とは言っても、
「本人が言ってもねーの、俺が説明するっつーのも……どーにも気が引けるっつーかよぉ~」
「……」
「多分承太郎さんから、必要あれば言ってくるしなぁ~」
「……チッ。使えないわね、この男」
「え?」
「どうしました、提督?」
「……? 気のせい、ッスか……?」
ぽりぽりと頬を掻く仗助を余所に、大井は嘆息。
東方仗助のスタンドが――【クレイジー・ダイヤモンド】がアドバンテージとなるように。
また、相手のスタンドも静かなるアドバンテージにならぬとは限らない。
仗助の知りだか何だかは知らないが、演習として戦う以上は完全に勝利する――それが大井の目的。
(北上さんに会うまで、負けてはならないのよ……ええ!)
姉と出会う事に血道を注ぐ山城と同じく、また、大井も姉妹艦への愛情深い船であった。
一人明後日の方向を向いて――明後日というか海の方向というか――瞳を燃やす大井を置き去りに。
残りの皆は、指定されたランデブーポイントへと歩を進めた。
鎮守府近海の演習海域。
いくつかの島々が並ぶそこで、たとえば島を基地に見立てた防衛戦であったり、攻略戦を行うのだ。
それが面する湾内。
そこを、東方仗助とその演習相手の合流場所と決めていた。
(承太郎さんならまずこの手の『ゲーム』はやらねえだろうし……アドバンテージってのがありますよ、こいつぁ)
たまには自分が承太郎に教える番だと、仗助は静かにほくそ笑んだ。
そして――。
「おっ」
仗助の目線の先――。
日本人離れした長身と体躯。身長百八十センチの仗助よりも尚高い位置にある頭。
それに、髪型と一体化するような唾付き某を乗せた男。掘りが深く、整った知性を感じさせる顔立ち。
そんな彼の周りに並ぶのは、あちら側の艦娘か。
奇しくも――その数は五人。
「ねー、てーとくてーとく! まだ来ないんなら那珂ちゃん歌っちゃってもいいかな?」
橙色の、花弁が如く裾の垂れさがった上衣。頭の両方に団子を作った能天気そうな少女。
「あ、今日お弁当作ってきたんですよ! カレーです、カレー! 今度は大丈夫! 気合入れて作ったから!」
巫女を思わせる衣装と、セミロングの明朗そうな女性。
「あーつーいーのーじゃー……のー、じょーたろー! 吾輩はあーつーいーのーじゃー」
風に棚引く黒髪を、白のリボンで括ったツインテール。
「もぉー、おーそーいー! おそいよねー! ねー!」
セーラー服の上に縞々ハイソックス。兎めいて黒いリボンを天に向けた少女。
(なんつー騒がしい集団なんスかぁ~~~~~~~~~!?)
その姿を収めた仗助は、両手で頬を挟み込んだ。
空条承太郎は――大樹や鋼のような男だ。
沈着冷静。寡黙で思慮深く、口数が少ない筋金入りの硬派。
そんな彼の艦隊――いわば取り巻きとしての女性たちがこうも賑やかというのは――。
正直、悪い予感しかしない。
「ちょっと、しっかりしてよ! こんなとこ、加賀の奴にでも観られたら何言われるか……!」
そして――件の少女。深緑の髪と、弓道じみた胸当て。張り上げられた勝気そうな声。
あれが、承太郎の秘書艦の瑞鶴。
なるほど、イメージ通りだ。気が強そうで、実際秘書艦という立場もあるだろうがまとめ役を買って出ている。
思い思いに黄色い声を上げる集団を何とか往なそうと声を張り上げ、
「やかましい! 静かにしやがれッ!」
承太郎に、怒鳴りつけられていた。無論、全員。
しかし怒鳴られたというのに、どことなく楽しそう。
うんざりしたのか、言っても効果がないと思ったのか……承太郎は再び口を噤んでしまった。
瑞鶴だけが、不満げにぶつぶつと漏らしながら目線で堤防をなぞり――
「あ」
仗助たちの姿を、認めた。
目を見開いて。意外そうに。そしてどことなく後悔もトッピング。
まさしく今の彼女は、見られたくない相手に見られたくない状況を、見せつけてしまったのである。
なんとなく、仗助としても気の毒な気分になった。
「……やはり貴女は、みじゅ――むぐっ」
開口一番に悪態を着こうとした加賀をホールド。
後ろから抱きかかえるように、その口元を手で押さえる。仗助の頬を伝う冷や汗。
まさかこうも早いとは。流石の仗助も驚きである。
(だから、承太郎さんを怒らせるようにあっちに喧嘩を売らないでくださいよぉ~~~~~~!)
とりあえずこの大井っちにはその歪んだ性格を叩き直して欲しいな。読んでいてムカついてしまう
まぁ、クレイジーサイコレズじゃなくてバイだからまだ救いはあるはず・・・多分
耳元で囁く仗助と、無表情で手の甲を叩く加賀。
それらを視界に収めた瑞鶴は、またしてもきょとんとして言葉を失っていた。
(だから、いいっすか? 承太郎さんは怒らせたらやべー類の人なんだから、喧嘩とか売るのは――)
(……喧嘩は売ってません)
心外だと呟く加賀。
彼女は彼女なりに仗助の言葉を守っているだろう。加賀の中では、挑発も軽蔑もしていない。
後輩を思っての指導なのかもしれない。
だが、どっからどう見てもあれは――傍から見れば喧嘩を売っているのと同じだ。
その証拠に――。
硬直から解除された瑞鶴が、加賀が言わんとしていた事の先を想像して眦を吊り上げた。
明らかに嫌いとか、苦手とか、そういう様々な感情が覗いている。
二人の関係は思った通りだったと、仗助は溜め息を漏らす。
となればここは、先手を打って仗助が間を取り持つべきであろう。
そうすれば加賀は兎も角、瑞鶴は判ってくれるかもしれない。提督同士が知人である、と。
「す、すんません承太郎さん! どーも、お待たせしました!」
そのまま、頭を下げる。加賀が不満そうに手の甲を叩く。
時間通り――どころか五分前には来ている。そう言いたいのだろう。謝る必要はない、と。
だがそういう話ではない。
加賀にも加賀の面子があるだろう。間違っても無いのに、後輩の前で頭を下げるのがどうかという。
それに、先輩後輩関係なら後輩を待たせたのは問題にはならない。むしろ当然の話だ。
それどころか、きっちり五分前に来るのは加賀の方が随分先輩としてしっかりしている。
早く来たのはあちらの勝手、こちらに不備はないというのは事実だが――。
(そーゆーのが人間関係を複雑にするんスよぉ~~~~!)
下げられる頭は素直に下げておいた方がいい。それが優しさだ。
仗助は見た目こそは厳ついが、余り争いを好むものでもない。
先輩から理不尽に絡まれようが、不満を漏らさぬどころか嫌な顔をしない。そんなタイプだ。
実際のところ、瑞鶴にも伝わったのか。
とりあえず仗助が頭を下げた事で、溜飲を下げたらしい。逆に、おずおずと窺うように頭を下げ返していた。
そういう頑なさを失くす事が、円満な人間関係である。
これにて一件落着――――
(あれ? にしても承太郎さん、なんか若く――――)
「――おい、誰だてめえは。てめーみてえなおかしな髪型は、一度見たら忘れねえぜ」
――――しないッ!
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