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元スレ仗助「艦隊これくしょんンンン~~~~?」
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(……俺の事を、誰か呼んだような気が)
刈上げ頭の男子高校生と、古式めかしいリーゼントの男子高校生。
学校帰りと思しき二人は、いつも通りの習慣で通りに面するカフェで時間を潰す。
その一方のリーゼント頭が、周囲を見回した。
だがそこにあるのは雑踏。忙しそうに道を行く人々は、誰一人として彼らを顧みない。
それとも、不良連中に絡まれたら面倒だと思っているのか。
小さく息を漏らした少年は、連れ合いがスマートフォンの画面に呼びかけているのに、そこで漸く首を捻った。
「何やってるんだよ、億泰よォ~」
「艦これだよ、艦これ! 『艦隊これくしょん』」
最近公式から携帯アプリが出てよーと、大げさに振舞う億泰。
カフェ・ドゥ・マゴのエスプレッソを口に運ぶリーゼント――仗助は、一息ついて訊き返した。
「艦隊……沈黙の艦隊とかか?」
「そんなムサいおっさん集めて何が楽しいんだよ!」
「でも最近エクスペンタブルズとか流行ってるじゃあねーかよ」
「客層が違うんだよ、客層が! マヌケ!」
SSWiki :http://ss.vip2ch.com/jmp/1433666608
青筋を立てて怒鳴る億泰が突き出したスマートフォン。
見せつけるように得意げに、画面を揺らして強調する。
促されるまま眺めた仗助は、
「……これ」
「おお、どうだ? どうだ仗助?」
とても喜色めいた億泰の、その顔を一瞥。それから視線がもう一度スマートフォンへ。
再度、億泰。また、スマートフォン。
マジマジと、信じられないものを見た風に振舞う仗助は、
「これはいわゆるオタクって奴じゃねーか、億泰おめーよォ~~~~~~~~~」
えんがちょだと、大げさに仰け反った。
「ちげーっつうの!」
「でもその女の子の服を脱がしたり着せたりして喜ぶんだろ? そーゆーゲームは俺ちょっと……」
「間田じゃあねぇんだから、ンな事するか!」
「似たようなモンじゃねーか」
「いいや、全然違う! いいか仗助、よく聞けよ!」
「んだよ、億泰」
「まず艦隊これくしょん……これは船を集めるゲームなんだよ」
「船ェ? 漁師にでもなりてーのかよ……船ならあの東海岸あたりに色々……」
「ちげーよスカタン! 軍艦をコレクションするんだよ!」
「軍艦っつーと……原子力潜水艦とか護衛艦とかか?」
「そんなモンあるか! 解りやすく言うと……戦艦なんだよ、せ・ん・か・ん!」
「戦艦っつーと……」
仗助が知っている戦艦と言えば、大和や武蔵。
つい最近になって発見されたのはニュースになっていたし、知り合いの漫画家が取材の為にダイビングを行うべきかと思案していた。
なるほど、軍艦。それは良い。
だが、だとすると……画面は酷く不釣り合いに見えた。
「じゃあなんで軍艦なのに女の子がいるんだよ?」
しからば、そんな疑問が生まれるのは必然と言えよう。
「よくぞ聞いてくれました! あれは艦娘っつってな、軍艦の記憶を持った女の子なんだよ」
「……」
「ちゃんとその辺りの話とかキッチリ考えてあって……マジにそんじょそこらのゲームとは違うんだぜ」
「……」
仗助との距離が遠くなった事に、億泰は気付かない。
あまつさえ。
そのまま、選挙前に必死こいて票を集める政治家の如く――拳を握りしめて、熱弁を振るう。
「すげーのがよォ~~~~~~~~、自分だって辛い過去があるのにそれでも人を守ろうとしてるんだぜ!」
「お、おお」
「なんつーか健気で……泣けるよなぁ、尊いっつーか……ぐすっ」
「そ、そうだな」
「中には……敵でも助けてーとかいう子もいて……優しすぎるんだよこいつら。良い子だよなァ……!」
「お、おう」
背後に薄ら寒いものを感じる仗助であったが――。
どうやら億泰の言葉は、彼の中で必然足るものなのだろう。挙句に本気で涙を流していた。
違う世界の夜明けを見ている風な気分の仗助を置き去りに、それでも億泰は続けるのだ。
「何度も俺がこの場に居たら【ザ・ハンド】で助けられるのにって思うのに……助けてやりてーよなぁ」
「まぁ……【ザ・ハンド】は強力なスタンドだもんな」
とりあえずは話を合わせると決めた仗助は、神妙そうに頷いた。
【ザ・ハンド】――スタンドと呼ばれる、力ある精神の像。立体化した超能力。立ち向かう意思の象徴。
彼ら二人は、そんな特殊能力を有していた。
そして街に潜む凶悪な殺人鬼と対決を果たした――それは今は昔。
「でもそれだったらおめーの【クレイジー・ダイヤモンド】とか【パール・ジャム】の方が役に立てるって気がするぜ……海の上じゃあなぁ」
「……ゲームの話だろ?」
「だから、『もしも』の話だよ。『もしも』の! 例えば『ウルトラマンと仮面ライダーって二大ヒーローが共闘したら』みてーなよぉ~~~~~~~~!」
なお、ウルトラマン対仮面ライダーという映画は実在する。仮面ライダーが巨大化するのである。
「兎に角おめーも始めてみろよ、今なら携帯からでも出来るしよォ!」
「おー」
「あ、ただ扶桑は駄目だ! 扶桑は使うなよ! 扶桑ねーさまとは俺がケッコンするつもりだからな!」
「結婚って……おい億泰、おめーマジに大丈夫か?」
帰宅した仗助はベッドの中。
その手には、最近買い換えたスマートフォン。
今時そんなものも持ってないとは、と億泰に熱弁された為に購入したが……殆ど電話としてしか使っていない。
「確か億泰の奴、今日登録できるとか言ってたけどよォ~~~~」
明らかに媚びを売るように描かれた、デフォルメされたキャラクター。
イヤホンを用いて熱狂していた億泰の事を考えるのならば、おそらくは声も似たように媚びるつくりなのか。
決してアウトドアな人間とは言い切れぬ仗助であったが。
かといってそのようなインドア趣味には明るくはない。
「なんつーか気が進まねーけどよォ……」
頭を掻いて、溜息を一つ。
そうは言ってもあれだけ億泰から進められてはやらない訳にはいかないだろう。
何とか四苦八苦して、スマートフォンのブラウザでアプリを検索。目的の物を手に入れるまで十五分。
それから、新規着任のボタンを押して――。
「読み込み中ばっかりじゃあねーか……」
一向に進まぬ着任に欠伸を漏らす仗助の意識は朦朧と、ただタップを繰り返すだけのものに。
そのままいつの間にか、遠くなる視界。落ちる瞼。
歯は磨いたし宿題も済ませた。このまま微睡みに落ちても仕方がないだろうと考えた彼は――
布団の感触がしない。
しっかりと布団をかけなければ、風邪を引いてしまうだろう。
そう伸ばした指先が――何か固いものにぶつかり、音を立てた。
それから。バサバサと、本が床に落ちる音。
流石に違和感を覚えた仗助は瞼を上げるが――
「……あ?」
ベッドで寝ていた筈なのに。
気が付けば、椅子に座っていた。
何を言っているか判らないと思うが……何をされたのか彼にも判らなかった。
頭がどうにかなりそうだった。
どう考えても、どう見ても――熟睡とは程遠い椅子の上。
最近買い直したスプリングが利いたベッドなどはそこにはなく、周囲には見た事も無い本棚と海図。
床に敷かれた赤じゅうたんには覚えがない。
言ってみるなら、学校の校長室の雰囲気に近い。
「夢じゃあ、ねーよな」
呟く声に、返答はない。
「ゲームに中の世界なんてありませんよ
ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから」
ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから」
となるなら、しからば彼の常識から推測するに――
(スタンド攻撃って奴か、人の寝入りばなを狙って……!)
即座に身構える。
背後に存在していた窓から、体を逸らして。
壁に背を当ててその外を覗き込む――――港のような場所。開けたドッグにはクレーンが並び、その先には海。
冗談が過ぎる。
少なくとも、仗助の住む杜王町の風景ではない。
「こいつぁ……承太郎さんが言ってたように、夢の中に入るスタンド使いって奴ッスか~~~~~~?」
かつてエジプトを目指した道中で遭遇したスタンド使い。
とは言っても承太郎自身は体験した事がなく、あくまでも仲間がそう言っていたとされるだけ。
それも結局はうやむやになり、そんな事かという話で片付いている。
だが、承太郎曰く――
「『夢の中だとしたら闘争心はない無力な状態』『スタンドが出せないかもな』……か」
呟いて念じてみる――だが、承太郎の意見は異なっていたらしい。
少なくとも応戦は出来る。
溜飲を下げた仗助は、再度部屋へと視線をやった。
(敵が入ってくるとしたらあのドア……それとも部屋自体が敵の罠かも知れねーけど)
どちらにしても――と、拳を握りしめる。
相手が悪意を以って仗助に挑みかかるのであれば、彼に出来るのはそれを振り払う事だけ。
細かな事情や何やらは、ブチのめしてから改めて訊きだせば良い。
「どこにいるのかは知らねーッスけどよォ~~~~~~~~~~、『やる気』があるならさっさと出てきたらどうっすかね!」
まさしく彼自身の言葉通りどこにいるか判らない、スタンド本体を呼びつける。
これで顔を出すのなら、相手のスタンドはそう遠くへ離れられないか、見ている場所でしか通用しないスタンド。
顔を出さぬなら、相当な広範囲を持つパワーが弱いスタンドか、それとも自動操縦的なそれだ。
そして果たして、
「……眼が醒めましたか」
扉が開かれた。
そこに居たのは、白衣を青い着物風のスカートに収めた女性。
胸当てと、その右手から察するに……弓道のようなものを思わせる。
仗助として意外だった。
まさかこんな大がかりな――仗助をどこかへと拉致する――能力の持ち主でありながらも、顔を出すとは。
(顔を出すとはいい度胸だぜ……)
仗助の闘志に呼応して現れる、人型のヴィジョン。
近未来のSFめいた甲冑を纏った、たくましい戦士の像。所々には、彼を象徴するようなハートの意匠。
その名は、【クレイジー・ダイヤモンド】。
ビスケットの様に岩を砕き散らすパワーと、至近距離から発射された弾丸を掴みとるスピードと精密さ。
東方仗助を、東方仗助足らしめる精神の表れであるが……。
(スタンドを出したのに……無反応、だと!?)
対する女性は眉一つ動かさない。
不審に思って拳を握って振りかぶってみるも――【クレイジー・ダイヤモンド】に視線をやらない。
どこまで訓練したとしても、平然を保とうとしても限度がある。
フェンスがあると判っているのに飛んできたファウルボールを避けるように、人は対応してしまう。
そして、スタンドはスタンド使いにしか認知できない。
と言う事はつまり、
(この女……スタンド使いじゃあ、ねーって事か)
入室した女は、本体にあらじ。
寧ろ、仗助と同じく――この空間に囚われた犠牲者なのかもしれない。それにしても落ち着き払っているが。
(……承太郎さんなら、多分やれやれっつーだろうなァ~~~)
自分一人を対象にした訳ではなく、かなりの広範囲を対象とするスタンド使い。
そして、姿を見せない。
つまりは、探し回らなければならない訳だ。この施設のてっぺんから隅っこまで、くまなく。
それにしても。
ここがどこであるのかが、判らない。少なくとも感覚はある以上、夢でないとしたら――どこかの施設。
となれば、暮らしていた住人が居るはずだ。
或いは目の前の女がそうかもしれないが――、と。
「あの、すみませんけどここの人っすか? ちょっと聞きてーんスけど」
仗助に声を掛けられて、女は漸く口を開いた。
彼がそうしなければ、いつまでも無言で佇んでいたであろう。
「正規空母加賀です。貴方が提督?」
提督、という言葉には仗助も聞き覚えがある。
確か軍事的に指揮を執る人間であったはずだ。提督の英断とか。そんな。
確かに仗助は学生服で、そういう制服は軍人を意識して作られたと聞くが――生憎は高校生だ。
「あ、どーも。生憎、違うみてーっスけどね。ほら、どっからどう見ても」
「……個性的ね」
どこが、とは言わないが。
「ここには俺以外人が居なくて……探してるンすけど、『予め取り立ての事を知ってて夜逃げした』みてーにもぬけの殻でよぉ……」
「そう」
「加賀さん、でしたっけ。一緒に探してくんねーっすか?」
このまま取り残すよりは、二人で行動した方が安全だろう。
仗助のそんな判断であったが――。
目の前の女は実に冷静そのもの。「その必要はありません」、と言葉を区切って。
「それじゃあ、提督。指令を」
「……オレェ?」
「他に誰か?」
「確かにいないけど……提督っつーのは司令官の事ッスよね? 俺、高校生なんで……」
「……」
また、無言。
ただ何か言いたげに仗助の目を正面から見据えている。どことなく『スゴ味』を感じる、不機嫌そうな目。
しかし、己は間違った事を言ってはいないという力強い意志を感じる。
仗助からしてみれば全く以って間違えているとしか言いようがない主張であっても、女からは別らしい。
(参ったな……こういう時に承太郎さんでも居たらよかったんだけどよォ……)
しかし、その承太郎――最強のスタンド使い空条丈太郎は、既に日本にはいない。
仮に居たとしても、この空間にはいないだろう。そんな気がする。
「……私の顔に何か?」
「あ、い、いや……」
(顔に何かっつーか目がヤベーんだよ、目がッ!)――仗助はそう叫びたくなった。
あくまでも冷静そうな顔立ちではあるが、その瞳の奥には刃向かう者はブチ壊し抜けるという激情が潜んでいるのだ。
氷のような美貌の美人だが――それ以上に、本能的に『ヤバイ』という凄味があった。
本当に承太郎が居てくれたら、と仗助は考えつつも、
(そういやこの人、どことなく承太郎さんに似てるな。雰囲気っつーのが)
怒らせたら不味い類の人間だと、再認識する。
そして、怒りそうである。
話が食い違っているのにも関わらず、仗助にある振る舞いを求めているのだ。そんな無言の圧力があった。
だから、当初の予定を取りやめて
「とりあえず適当にしといてくださいよ。俺、他の他人を探してくるんで……」
とりあえず、そうお茶を濁した。
しかし、一言。
「貴方以外に人間はいないのね」
「……そーっすけど」
「なら、貴方が提督です。指示を」
とても期待
実際には脱げるとプレイヤーが落胆するゲームなんやで仗助…
実際には脱げるとプレイヤーが落胆するゲームなんやで仗助…
あくまでも頑なに、頑として譲らぬ態度。
流石に温厚な仗助も、この不可思議を通り越した状況には苛立った。
加えて、話が通じない人間。彼をしても、思わず声を荒らげる。
「だから俺は軍人じゃあねーっつってるだろうが!」
「……」
「アンタの親父や上司じゃないんスよ! てめーで考えて下さいよてめーで!」
「それともスカート脱いで陸上部みてーにランニングでもしろって言えばいいのかよ」と、続けそうになったのを打ち切る。
そこまでは流石に、やり過ぎだ。
しかし、仗助の怒りを受けても――やはりどこ吹く風。
逆に、スーパーのお菓子売り場で駄々を捏ねる子供に言い含めるかの如く、加賀は続ける。
「私は艦娘だから、司令官からの命令がなければ動けないわ」
「は?」
「正規空母加賀。そう言いました。……何か?」
額を押さえて。
確かめるように、少しずつ。
「艦娘っつーとあの、深海棲艦と戦う」
「そう」
「軍艦の記憶を持った」
「ええ」
尤も――と。
「駆逐艦は軍艦に含まれないから、正確に言うと船舶です」
「ンなこたぁどーでもいいんすよ! で、確か扶桑とか電とか大和とか……」
「ここにはいないけど」
「そんで、敵でも助けたいとか言う……」
「私は違います」
憮然と告げる正規空母、加賀。
頬を抓ってみる――――痛みはある。そして、【クレイジー・ダイヤモンド】も思い通り動く。
夢ではない。
夢だけど、夢じゃない。
(げ、ゲームの中の世界ィィィィィ~~~~~~~!?)
ファンタジーやメルヘンじゃああるまいが……。
実にどうやら、どうしてマジらしい。
もう一度寝なおしたのなら、冷めるかも知れない。
そんな風に淡い期待を抱く仗助であったが、
「提督、早く決断を」
「け、決断っすか……?」
「深海棲艦が迫っています。この鎮守府を襲撃しようと――」
そこで――けたたましく鳴る、サイレン音。
当たりを見回す仗助と、拳を握りしめる加賀。
恐る恐る窺えば、先ほどよりも温度が下がった瞳で睨み付ける、加賀。
「このままでは突破されて、鎮守府が襲撃されるわ。判断を」
ナイフめいた視線に突き動かされるように。
仗助に出来るのは、一言漏らす事だけだった。
「……それじゃあ加賀さん、出撃って奴で」
「判りました」
もっと早く決断しろ――どことなく、そんな怒りが込められるような半眼に。
仗助はただ、
(なんなんスかこいつぁ……マジにヘヴィすぎる)
深く溜め息を漏らした。
「一航戦、出撃します」
28ノット――秒速にすればおおよそ14メートル。
あっという間に見えなくなるというには遅いが、それでも世界記録の全力疾走よりも遥かに早い。
鎮守府正面、コンクリートで作られた船着き場を乗り越え着水した加賀が、猛烈な勢いで水上を駆ける。
しかし海。
距離感が恐ろしく狂う。彼女はその行き先は余りに果てなく広がる。
「億泰の兄貴のスタンドみてーだなぁ……」
中々暢気に構える仗助は、実に素直に感想を漏らす。
かつて戦ったスタンド――【極悪中隊(バッド・カンパニー)】――人形の兵士とそれらが搭乗や操作を行う兵器の群れ。
加賀が放つ矢が次々にレシプロ機に姿を変えるのを見ていれば、どうにもそれが思い出されてくる。
夢見心地というよりは、街中でピエロが行うパフォーマンスを眺めるカップルのような他人事めいた気持ちで、事の成り行きを見守った。
(これは一体、どーいう事だ? 本気でゲームの中に入っちまったってんなら……どうすれば?)
船着き場に降りて、水平線を眺める。
人の目では、余り遠くまでは黙視できない。如何に視力に優れるスタンドを使おうとも、それは変わらない。
ただ、視界の先――蠅のように小さな艦上機が飛びあがり、また消える。
煙が上がる。時折、派手な水柱も上がる。
仗助では介入できない、海の上での戦いだ。ボートでもあるなら別だろうが。
司令官ならば、事の推移を真剣な面持ちで見守るべきだろう。
だが仗助には、余りにも遠い。未だに現実感が感じられないのだ。
ただ呆然と、何の事か――と海の方を眺めるにとどまる。
(こんな事なら……億泰の奴からもっとちゃんと聞いとくべきだったぜ)
そこまで真剣味も持たずの流し聞き。
どちらかと言えば、軽くヒいていた方が強い。
そうすれば、このスタンド能力――としか思えない――の攻略の糸口にもなったろうが。
(でも確か……なんつってたかな……大破がどうとか、轟沈がどうとか……)
記憶を反芻する仗助。その手に持った通信機が震えた。
加賀だ。
「なんスか、加賀さん」
『……すみません、しくじりました。甲板がやられたわ』
「甲板が……」
深刻だと言うのは口ぶりから分かる。
だとしても、未だイマイチ飲み込めぬ仗助に、
『……まだ戦えます。鎮守府には一隻も向かわせない』
長い沈黙の後、そうとだけ告げる加賀。
聞いた瞬間。
仗助は決断していた。ぼんやりとしていた彼の瞳に――火が灯る。
「……加賀さん、そっから逃げられますか? 戦いはいいから、撤退してくれ」
『……退いたら、鎮守府に敵が向かいます』
「いいから、逃げるンだよォ~~~~~~~~~~~~~~ッ! 提督の指示に従うんじゃあねーのかよッ」
有無を言わさぬ仗助の口調に、加賀からの返答は沈黙。
だが、彼女の――まだ会って間もない彼女の性格を考えるのであれば――従う筈だ。
あとは、無事に辿り着く事を祈るしかない。
そして仗助がやる事は――
(億泰の野郎じゃあねーけど、四の五考えてるヒマはねーぜ)
彼がすべき事は――状況に戸惑う事でも、訳が分からずに流される事でもない。
加賀の声から分かった。
彼女はのっぴきならない、抜き差しならぬ状況に居るという事が。
そして同じく――それでも彼女は決断したのだ。大して付き合いがない仗助が居る鎮守府に、敵を向かわせないと。
或いは、仗助はどうでもよく。
ただ、鎮守府を守ろうとしているだけかも知れないが……。
(それでも構わねー。加賀さん……あんたの声は、『覚悟』している声だった)
取り出した櫛で、髪を整える。
(理屈も何も判らねーし何を考えてるのかイマイチ判らねーけどよォ~~~~~~)
すうと、息を吸い――そして吐き出す。
(あんたは、『この鎮守府に敵を向かわせない事』に必死だった。最初から……そこんとこだけは確かだ)
ならば――
そして――見えた。
乱れた髪と、煤けた顔。所々肌を剥き出しにした衣装は、年頃の女性としては痛ましい。
桟橋の、海面ギリギリに立つ仗助を視界に収めて――加賀が目を見開いた。
「こんな場所は、危険です……!」
「うるせえ、いいからさっさとこっちに来るんだよッ! 『ゴールテープを間近にした陸上選手』みてーに必死こいてよォ~~~~ッ!」
時が、恨めしい。
加賀より離れた後方――仗助は目にした。
両生類の様にぬめりけを帯びた体表。昆虫めいた装甲と、機械の合成。更には人の手足が生えた怪物。
これまで見た、どんなスタンドよりも悍ましい怪物。
人間の精神だけでは再現できない――明らかなる異形。
ホラー映画が苦手な小学生でなくとも、あんなものと出会ったらブルっちまう。それは確かだ。
(それとアンタは……たった一人で戦ってた、っつーことっすか)
恨めしげに仗助を睨み付け、全速で飛沫を巻き上げる加賀。
何を考えているか判らないし、ただ強情な女と言う事は分かったが――。
単身あんな怪物と戦ってたとあっては、仗助の心に訪れるものはたった一つ。
だからこそ、彼は覚悟を決めた。
加賀の行動に『敬意』を表する――――そして彼女を死なせない、『覚悟』を。
「掴まれ、加賀さん!」
加賀を掴み上げたそこに。
空気を裂いて――音を置き去りに。一直線に。真向いから。
仗助と加賀を滅ぼさんと、砲弾が迫る――。
「――【クレイジー・ダイヤモンド】ッ!」
呼びかけに呼応したスタンド――仗助の闘志が発現。
迫りくる砲弾へと一撃。強烈な破砕音。猛烈な勢いで、砲弾を逸らした。
「え……?」
「クソッタレ……流石は砲弾っつーか、中々のパワーっすね」
己の命が失われると目を閉じた加賀とは対照的に、水平を睨む仗助。
その顔は、渋い。
如何にスタンドはスタンドでしか倒せないとしても――スタンドからぶつかりに行くなら、話は別だ。
例えば仗助が預かり知らぬ過去に於いて、己の精神を幼児に戻されてしまったスタンド使いが弾丸を逸らそうと試みた際のように。
パワーで負ければ――
「何とか一発は逸らせるけどよォ~~~~」
仗助の手の甲から、血しぶきが上がる。
「提督、これは……!」
己が死ぬはずであったのに生きており。
しかしながら、提督に突如として傷が出来た。
――――そうとしか思えぬ加賀は、ただ眼を白黒させるだけ。
対する仗助は、冷や汗を浮かべる。説明する気はない――と言うより余裕がなかった。
ただ彼は、驚愕していた。
本当に、水の上を航行する化け物が居て……それが兵器めいた攻撃を行う、と言う事に。
「どういう理屈かしらねーけどよォォォォ~~~~~~~~~~~~~~」
目で制するように、遥か彼方の深海棲艦を睨みつけて。
仗助は改めて、加賀の体を抱き起しにかかる。
右手の装甲がほんのちょっぴり破損した【クレイジー・ダイヤモンド】は、傍らで拳を構えた。
「とりあえずそれ以上撃つんじゃあねーぞ? いいか、撃つなっつーの」
「……提督、下がって!」
「アンタも動くんじゃあねーッ」
牽制しつつ、再び海に戻ろうとする加賀を引き起こす。
彼の頭の中では最悪が繰り広げられる。
巨大な口と、巨大な腕。トラックじみた怪物が引き起こすだろう、最悪の光景が。
そして無論――、
「提督っ!」
仗助の言葉など、聞くはずもない。
照準を修正した主砲が、二人目掛けて火を噴いた。
(おかしな髪型で、とぼけた人だとしても――)
加賀の、世界が加速する――。
加速と言うより、減速だろうか。
プロ野球選手が、ボールを止まったように感じるかの如く、全てがスローに感じた。
その中で、彼女がしたのは後悔。
自軍がたった一隻だとしても、破れて良い理由にはならない。
彼女は、艦娘として行うべき事を行えなかった。
(提督を、護れなかった――――――いいえ、まだ……!)
何とか、己を盾にしよう。
そう、提督へと回した腕を強く抱きしめて、衝撃に備える。
ひょっとしたら、彼女が盾にさえなれば……提督は生き残れるかもしれない。
彼女が死んでも変わりはいる。新たな戦力を作れるだろうし、なんとか提督は逃げ延びて再起を図ればいい。
だが、提督に変わりはいない。
そう、祈るように力を籠めて、目を強く瞑って――
「……撃つな、っつったのによォ」
聞こえたのは、そんな呟き。
そして――衝撃が来ない。
そう。
「【クレイジー・ダイヤモンド】……火薬と砲身を『直した』」
先ほど仗助は触れていたのだ。
二人目掛けて、指令部目掛けて撃ち出された砲弾に。そしてその砲弾に付着していたある物体に。
それは――
「これは承太郎さんからの聞きかじりだがよォ……銃ってのは、『撃つたびに銃身が磨り減って』『火薬がこびり付く』らしいな」
爆風により乱れてしまった髪を整えつつ、やおら仗助は体を起こした。
日本人離れした長身と、堀の深い顔。これはある意味当然であった。彼には半分、日本人以外の血が入っているのだから。
学生服を押し上げる筋肉質の肉体はどこまでにしなやかに、緊張を解いて構えを解いた。
そして……指さす。さながら番えた弓矢を――銃口を相手に照準するかの如く。
「次弾を装填したな……そこには『新品になった火薬』と『鉄粉』が詰まってるぜ」
弾薬庫と砲身――薬室へと繋がるその扉の傍に、積もり重なる鉄粉と火薬。
必然、扉が開閉するという事はその鉄粉と火薬は――
「当然……そんな状態で開いたり閉じたりは、危ねえよなぁ……。『灯油が入ったバケツの近くでキャンプファイヤーする』みてーによォォォォォオ~~~~~!」
零れ落ちるのだ、弾薬庫に。
そして、扉は閉じ切らない。僅かな異物が噛み合って、ホンのちょっぴり――ホンの少しだけ生まれてしまった空洞。
その空洞には、さながら砂糖菓子を運ぶ蟻のように火薬が列を為しており、その列の両端に繋がるのは弾薬庫と砲身。
そんな状況で、砲塔に納まった砲弾を撃ち出そうと撃発したのならば――
「やれやれ、実にグレートな花火ですよ……コイツぁ」
――砲塔ごと、吹き飛ぶッ!
火薬が見事に導火線の役割を果たし、撃針された雷管の生み出す小爆発のパワーが引火を起こす。
結果肉体の中腹に砲塔を位置させた軽巡洋艦級深海棲艦は、コナゴナに吹き飛んだ。
そのまま、呆然と眺める加賀の腕を振りほどく仗助。
「大丈夫っスか、加賀さん」
「ええ……こんなの大した事な、い――!?」
ほんの強がりであった筈なのに。
まさしく――本当に大したことがない。
いや、傷が――ないのだッ! 文字通り、完全にッ!
「傷が……一体、どんな原理で……」
「打ち所が良かったんじゃあないっスか?」
「そんな筈は……、……、……まあいいでしょう」
←To be continued...
と言う訳でジョジョ×艦これ
これからは基本ギャグ時々シリアスで行きます。それぞれの作品を尊重できたらベネだと思ってます
これからは基本ギャグ時々シリアスで行きます。それぞれの作品を尊重できたらベネだと思ってます
乙&ベネ
そして読者としてすでに吉良とディオとワムウがいる件……
そして読者としてすでに吉良とディオとワムウがいる件……
乙 描写がらしくてディ・モールトベネ
扶桑推しの億泰とは語り合いたいものだ
扶桑推しの億泰とは語り合いたいものだ
乙
とりあえず君たち、雑談でネタ潰しはしてくれるなよ
fateとジョジョssは本当にそれが多いからいかん
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