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    元スレめぐり「比企谷くん、バレンタインデーって知ってる?」八幡「はい?」

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    451 = 1 :

    彼女にこんな顔はしてもらいたくなかった──かつて想った事を、今は己で踏みにじっている。

    八幡「だから、めぐりさんはそんな幻想に何か勘違いをしてるだけです」

    めぐり「……なんで、そんな」

    八幡「……めぐりさんはこれから大学に進むんですし、色々な出会いがあるはずです。こんなところで変な勘違いをしていいわけがない。その言葉は、その時になって別の誰かに言ってやってください」

    がたんと椅子が倒れる音がした。見ればめぐりさんが立ち上がって、目に涙を浮かべながら俺のことを睨みつけている。

    その表情にはいつものほんわか笑顔の影もなく、ただ悲しみと、そして俺には分からない何かの色に染まっていた。

    めぐり「なんで、そんなことを言うの……」

    八幡「……俺みたいな最低な人間に、めぐりさんみたいな素晴らしい人が関わるべきじゃなかったんだ」

    めぐり「……本当に、最低だね」

    いつかどこかで、二度聞いたことのあるその言葉は、それまでとは違い、本当の意味を込めてそう告げられた。

    そのままめぐりさんは片手に箱を持ったまま、生徒会室の扉を乱暴に開けると、廊下に出て行ってしまった。

    扉越しに廊下を走る音が聞こえてきたが、俺はそれを追う気にはなれなかった。


    452 = 1 :



      ×  ×  ×


    一時間か、二時間か、なんなら一日か。

    めぐりさんが生徒会室を出ていってから、無限にも感じるような時間が過ぎたような気がする。

    しかしそう思って教室の上に掛けられている時計を見上げてみると、めぐりさんがここから出ていってからまだ三分と経っていない。

    はぁとため息をつき、教室の外を見やった。もうとっくに日は暮れており、空には星が輝いている。

    結局、俺は何をしたかったのか。

    それは、めぐりさんの好意を逸らすことである。

    三年生であるめぐりさんは、これから数ヶ月とせずに大学に入学する。そうなれば、きっと新しい人たちとの出会いだってたくさん経験するだろう。

    そのなかで、きっといい人たちとの出会いだってある。

    めぐりさんみたいな素晴らしい人ならば、きっと大学でも素晴らしい人と知り合えるはずだ。

    453 = 1 :

    だから。

    だから、めぐりさんみたいな人が、俺なんて最低な人間に好意を抱いて、未来を犠牲にすることなんてない。

    めぐりさんの未来のために。

    八幡「……」

    先ほどの葉山とのやり取りを思い出す。あいつもまた、三浦の将来を想って振ったのであった。

    ほんと、俺が葉山に対して腹を立てていたのなんて滑稽極まりない。やっていることは全く同じなのに。いや、同族嫌悪というやつだろうか。

    ふと、今まで掛けられてきた言葉を思い出す。

    ──今の君ならば……他の子たちからの好意も、きちんと受け取れるようになっていると私は信じるよ。

    ──君のいう本物ってやつを、いつか見せてくれると嬉しいな。

    ──小町以外にも、そうやって素直に気持ちを伝えることが出来るようになればいいのに。

    ──結局言い訳を重ねて、優美子の想いを受け止められなかっただけかもしれないな。

    八幡「……」

    結局俺は、自分のことしか考えていない。自分のワガママのためだけに他人の好意を受け取らず、自分の気持ちを伝えられない。

    そんな欺瞞な関係など、本物であるはずがないのに。

    454 = 1 :

    だが、これでよかったのだ。

    めぐりさんはこれで目が覚め、きっと大学では楽しいキャンパスライフを送れることだろう。

    俺はどうなのかは自分でも分からないが、それはおいおい考えていくとしよう。

    そう、これで万事解決。今のめぐりさんには申し訳ないが、将来的にはこの方がきっといい選択だったはず。

    俺なんぞと一緒にいても、幸せになどなれないのだから。

    だから、これで──


    バンッ!!


    生徒会室の扉を力任せに開けたような音がした。思わずそちらを振り返ってみると、そこには一人、亜麻色の髪の女生徒の姿があった。

    いろは「……先輩」

    一色いろはは、目に何か光るものを浮かべながら、中にいる俺のことを睨みつけてくる。

    八幡「……一色、どうしてここに」

    いろは「先輩、答えてください」

    俺の問いには答えず、一色はそのまま生徒会室の中に入ると、ずんずんと俺の側にまで歩み寄ってきた。

    いろは「さっき、泣きながら走っていく城廻先輩を見かけました。教えてください先輩──何をしたんですか」



    455 = 1 :

    続きます

    456 :

    おつ

    458 :

    俺ガイル二期の八幡ってあんまりしゃべんないし、ボソボソしてて、キモい
    ただのハーレムヤレヤレ主人公
    このSSの八幡は一期の頃の面白い八幡

    更新楽しみにしてます!日常コメディに妥協がないです

    459 :

    この先の展開と完結後の評判が気になる作品

    460 :

    一度振っためぐりんをどうフォローするかで良作にも駄作にもなり得そうで結構ハラハラする

    461 :

    昨日更新来たしどうせ誰かが上げたんだろうなと思ったら案の定…

    462 :


    現行の中で一番応援してる

    463 :

    真っ当なフォロー来ないとただの駄作

    464 :

    ここにきてシリアスに癒し捨てちまったのは惜しいかなぁ……

    465 :

    こまちにっきリアルタイムで追ってたけど、あの時の締め方は好きだった
    今回も期待してる

    466 :

    この手のSSの八幡の、その好意は勘違いだ
    とか見るとすげーイライラする
    自分が昔他人の優しさを勘違いして告白したりして失敗したのはわかるけど
    告白するほど好きだったならそこに八幡の言う本物はあったんじゃないの
    告白って幼い中学生でもかなり勇気いるでしょ

    467 :

    >>466
    折本なんかとデートしたときにそれ全然本物じゃなかったわ昔の俺馬鹿じゃねってなってるんだが

    468 :

    中学生や高校生の恋心なんて
    自分に都合の良い誤解や思い込みやリビドーの延長が殆どだろ
    みたいな感じ……あると思います

    469 :

    八幡「何をって……」

    当然、先ほどまでのやり取りの詳細を一色に伝える義理などは全くない。

    興味本位で詳細を聞かれても、正直に言って迷惑なだけだった。軽く苛立ってしまっているのを自覚する。

    しかし俺の前に立った一色の顔を見上げてみれば、そこに冷やかしやおふざけの色は全く含まれておらず、むしろ一色の方が怒気を込めた目線をこちらに向けていた。

    いろは「城廻先輩と……何があったんですか」

    八幡「……なんでもねぇよ」

    だが、興味本位で聞いていようが、大真面目に聞いていようが、あれについて答えるつもりは毛頭ない。

    自分が最低なことをしてしまっているのは自覚している。理由はあれど、それについて誤魔化すつもりはない。だからと言って、ここで一色に懺悔をするつもりもなかった。

    470 = 1 :

    いろは「なんでもないわけないじゃないですか……」

    それでも一色は引き下がってくれない。

    目頭に光る何かを浮かべながらも、俺を責めるように睨みつけてくる。

    いろは「城廻先輩を泣かせたのは先輩ですよね……!?」

    八幡「……」

    きらりと、一色の頬に一筋の涙が流れた。

    何故、そこまでして事情を知りたがるのかは分からない。

    だが、これは俺とめぐりさんの二人だけの問題だ。他人にべらべらと話すようなことではない。たとえ、一色が何を考えていようとも。

    八幡「お前には関係ない」

    ただその一言を告げ、俺は拒絶の意を示した。

    そう、一色は関係がないのだ。この件に置いて、こいつは何の関わりも持たない。

    持って欲しくないのだ。

    471 = 1 :

    あんな最低な、最悪な、斜め下どころではない手段を取ったことを、こいつに知られたくないと、純粋に思った。

    そんな考えが脳内に浮かんで、はっと自虐的な笑みが勝手に浮かぶ。何を考えてるんだか。

    あれだけめぐりさんを傷つけて、それをひた隠しにしたいだなんて、甘ったれた考えが浮かんでしまったことに反吐が出る。

    いろは「関係ない……ですか」

    ぼそりと、そう呟く一色。

    その顔から怒気は抜けており、代わりに酷く哀しそうな表情を浮かべている。

    一色の表情を見て、俺は少しだけ驚く。一色もそんな表情をするんだということを、俺は知らなかった。

    いっそ全部話して一色に責められた方が楽になるじゃないか、なんてふざけた考えを実行する前に、一色が言葉を続ける。

    いろは「……わたしは、関係のない他人なんですか」

    その声はか細く、ともあれば聞き逃してしまいそうなほどに小さい。

    しかしその声は、まるで世界から隔離されてしまったかのように静かなこの生徒会室の中で、俺の耳にしっかりと届いた。

    472 = 1 :

    いろは「そうかもしれません、わたしは結局先輩の中には入れなかった……でも、城廻先輩なら、きっと先輩のことを知ることが出来るって思ってたんです」

    俺に向かって話しかけている、というよりはまるで独り言のように聞こえた。

    具体的に何を指しているのか、何を話しているのか、聞いているだけの俺には全く分からない。俺はただ、黙って一色の呟きを聞いていることしか出来なかった。

    いろは「でも、その城廻先輩も……こんなのって……」

    ぐすっと小さな嗚咽が漏れた。見れば、一色の瞳には大粒の涙が溜まっている。

    いろは「先輩が欲しがった本物って、こんなものだったんですか……!!」

    八幡「……」

    一色の必死に振り絞ったような声が、耳に痛い。

    473 = 1 :

    俺の欲しがった本物。

    それは一体なんだっただろうか。

    ふと、脳裏に浮かんだのはめぐりさんのほんわか笑顔だった。

    かつて誓った、彼女の笑顔が霞まないようにしたいという想い。

    本人にはとても恥ずかしくて伝えられなかったが、俺には確かな想いがあったのだ。

    今はもう失くしてしまった想いが。

    八幡「……一色」

    いろは「……はい」

    八幡「…………さっき、何があったかっていうとだな」

    いろは「!!」

    どういう心境の変化だったのだろう。自分でもよく分からない。先ほどまで何も言いたくなかったはずの言葉が、つい口から漏れてしまった。

    一色に真実を伝えて、責められることによって、少しでも楽になりたいという気持ちも少しはあったかもしれない。

    だが、そう言ってくれた一色に、真実を伝えたいと思ったのも確かだ。

    関係ないだなんて突き飛ばしておいて、今更こんな虫のいいことを言って呆れられはしないだろうか。不安に思いつつ一色の顔を見やると、そこには優しい表情が浮かんでいた。

    まるでどんなことでも聞いてやるという、そんな包み込むような母性を感じた。いや、これは俺の考え過ぎかもしれないが。

    474 = 1 :

    いろは「聞きますよ、先輩。何があったんですか」

    八幡「……めぐりさんに告白されそうになる前に振った」

    いろは「は?」

    先ほどまでの優しい表情はどこへ行ったやら、一瞬でこいつは何を言ってるんだとでも言いたげな顔になった。

    いろは「……なんで、城廻先輩を振ったんですか」

    八幡「や、その……めぐりさんはもうすぐで大学に進学するだろ。きっとそこでも色々な人と出会う機会がある」

    言葉を進めるにつれ、一色の顔に浮かぶ疑問の色が濃くなっていった。こいつマジで言ってんのみたいな視線が痛い。

    八幡「俺なんかといてもいいことなんてないだろうし、それで大学でいい出会いをふいにしてもめぐりさんが可哀想だろ。だからめぐりさんのために俺は」

    いろは「馬鹿じゃないんですか」

    俺の言葉が言い終わる前に、一色がばっさりとそう切り捨てた。

    いろは「城廻先輩は本当に先輩のことが好きだと思ってるはずです。少なくとも、わたしはそう感じてました」

    八幡「お、おう……」

    いろは「それが大学でいい人探せなんて言われたら、そりゃ城廻先輩も泣きますよ……」

    はぁ~と呆れたようなため息をつかれた。こめかみを指で押さえながらため息をつくその姿は、どこか雪ノ下の仕草に似ている。

    だが俺のこれとて真面目に考え抜いて出した結論だ。一言で切り捨てられる道理はない。

    475 = 1 :

    八幡「それにだな、俺が城廻先輩に好かれる筋合いがない。あんなのただの一時の気の迷いだ。あんな間違った始まり方で勘違いして、それでめぐりさんの時間を無駄にさせるなんて」

    いろは「勘違いだっていいじゃないですか」

    再び、俺が言葉を言い終わらないうちに一色に言葉を被せられた。

    一色の表情を窺ってみれば、その瞳には真剣な意思が宿っているように見える。

    いろは「勘違いだっていいじゃないですか、気の迷いだっていいじゃないですか、始まり方なんて、なんだっていいじゃないですか……」

    八幡「……」

    俺は、あんな偶発的な事故がきっかけで芽生えた恋情を、本物と認めることは出来なかった。

    しかし、一色は言うのだ。始まり方なんて、なんだっていいのだと。

    いろは「……そんなことより、先輩はどう思ってるんですか」

    八幡「何をだよ」

    いろは「先輩は、城廻先輩をどう思ってるんですか」

    八幡「俺が、めぐりさんを……」

    476 = 1 :

    俺がめぐりさんをどう思っているのか。

    その答えは、実はとうに出ている。

    しかし、その答えを今更口に出すことは許されないだろう。

    あんなことをしてしまった俺に、今更何かを言う権利などありはしない。

    いろは「……言わなくていいです、その顔見てたら分かっちゃいましたよ」

    八幡「は?」

    だが、俺が何かを言う前に、一色は納得したかのようにうんうんと頷いてしまった。

    何に納得したかは分からない。

    だが、見やった先の一色の表情は、全てを見通したと言わんばかりだ。

    いろは「大事なのは、始め方なんて過去のことより、今先輩方がどう思っているかじゃないんですか?」

    八幡「……」

    いろは「結局、先輩は城廻先輩の想いを受け止める覚悟が出来てないだけですよ」

    477 = 1 :

    耳が、心が痛い。

    きっと、一色の言っていることこそが正論だと分かってしまっているから。

    ふと、かつて平塚先生が言っていたことが脳裏を掠める。考えるときは、考えるべきポイントを間違えないことだ……だったか。

    きっと今回は、盛大に間違えてしまったのだろう。

    ……きっとという言い方もおかしかったな。間違いなく、間違えたのだろう。

    今、ここに至って、前に平塚先生が言っていた数々の言葉の意味を理解し始める。誰かを大切に思うということは、その人を傷つける覚悟をうんたら……一色にも言われた通りだ。

    覚悟が出来ていなかった。

    なんだかんだと言い訳をして、めぐりさんの想いを受け止める覚悟が出来ていなかっただけなのだろう。

    ……なんだ、結局葉山と同じことを言っているじゃないか。

    それに気付いた俺は思わずははっと笑みが漏れた。それに気が付いたのか一色が訝しげに俺の顔を見てくる。

    478 = 1 :

    いろは「なんで笑ってるのかは分かりませんが……とにかく、そうと決まれば今すぐ城廻先輩を追ってください。まだ学校内にいるかもしれませんから」

    八幡「え、いや、でも」

    いろは「まだぐちぐち言うつもりですか」

    椅子から勢いよく立ち上がった一色は俺の側にまで近寄ると、俺の腕を力強く引っ張り上げ、無理矢理立ち上がらせる。

    何をするんだと責めるような視線を向けると、一色はにっこりと笑顔を浮かべて、言葉を紡いだ。


    いろは「先輩なら出来ますよ──わたしが好きになった先輩なら、きっと城廻先輩の想いを受け止められるって信じてます」


    八幡「……一色」

    いろは「さ、ほら早く追ってください。城廻先輩が帰っちゃってても知らないですよ!!」

    バンッと俺の背中を勢いよく叩かれた。いてぇな……本当に、痛い。

    その叩かれた勢いのまま生徒会室の扉に向かう途中、ちらと一色の方を振り向く。

    479 = 1 :

    八幡「一色、ありがとうな」

    いろは「まぁ、ちゃんと参考にしてくださいね?」

    その眼差しは優しさに溢れていた──かつて見た時と、同じように。

    それを見て再び視線を前に戻し、生徒会室から出ようとその扉に手をかける。

    と、そのドアががたっと揺れた。なんだ建付けでも悪いのかとか思いながら、やや力を込めて開け放つと、目の前に人が立っていた。

    八幡「うおっ……」

    まさか扉を開いた先に人がいるとは予想しておらず、思わず身を引いてしまった。バクバク言い出す心臓を抑えながら目の前の人物に目をやる。

    ま、まさかめぐりさんが帰ってきたんじゃないのかもしもそうだったらどうしようなどと一瞬思ったが、そこにいる人物はめぐりさんではなかった。

    八幡「由比ヶ浜……」

    結衣「……ヒッキー」

    そこにいた少女──由比ヶ浜結衣は、強張る口元で、掠れ気味に俺の名前を呟いた。



    480 = 1 :

    続きます。

    481 :

    >>480

    いよいよクライマックスかい?

    482 :

    なんだ、結局、八幡デレるのかよ

    483 :

    乙です
    期待します

    484 :

    葉山とは便利なキャラだな

    485 :

    めぐりんめぐりん

    486 :



      ×  ×  ×


    いろは「ゆ、結衣先輩……!!?」

    八幡「お前、なんでこんなとこに……」

    生徒会室の中にいる一色と、俺の声が重なった。

    まさかこんなところに由比ヶ浜がいるとは思っておらず、少々遅れて驚きがやってくる。

    生徒会室の扉の前に立っていた由比ヶ浜は、俯き、胸の前で手を軽く握り締めた。

    結衣「あ、なんか、ごめんね……」

    八幡「あ、ああ……」

    俺の問いには、答えていなかった。

    俯いている由比ヶ浜の表情を窺ってみると、いつもの明るさの陰も見えない。

    487 = 1 :

    その視線は地面か、俺の足元の方へ注がれている。だが、本当にその瞳に何が映っているものは何なのかまでは、俺には分からなかった。

    一瞬、気まずい空気が流れる。

    どう反応したものか迷ったが、今の俺はめぐりさんをすぐに追わなければならない状況だったとすぐに思い出した。

    悪いなと思いつつ、由比ヶ浜の横を通り過ぎようとする。

    八幡「すまん、俺は少し用があるから」

    結衣「待って!!」

    だが、叫ぶような声で、俺の動きが制止される。

    由比ヶ浜は生徒会室の扉前から退かず、俺の行く先を遮ろうとしてきた。

    八幡「由比ヶ浜、そこをどいてくれ」

    結衣「……」

    言っても、由比ヶ浜に反応が見られない。

    何故俺のことを引き止めたのかも分からないまま、数秒の沈黙が流れる。

    488 = 1 :

    由比ヶ浜の行動の真意が分からない。だが、俺もあまり悠長としていられない状況だ。

    仕方が無い、もう片方の扉から出るか。

    そう考えて踵を返し、生徒会室のもう片方の扉へ向かおうとする。

    その瞬間、グイッと俺の制服のブレザーが何かに強く引っ張られ、俺は思わずバランスを崩しそうになってしまった。

    八幡「うおっ……な、なんだよ……」

    結衣「……待って」

    振り返ってみれば、俺のブレザーを引っ張っていたのは由比ヶ浜の手だ。

    掠れる様な、ともあれば消えて流れてしまいそうな小さい声で、由比ヶ浜は待ってと呟いた。

    ……何故、俺を引き止めるのか。

    その真意を問おうと、俺は由比ヶ浜に向かって体を向ける。

    489 = 1 :

    八幡「由比ヶ浜、どうしたんだ」

    結衣「……ヒッキーは、城廻先輩のところへ行っちゃうの?」

    八幡「聞いてたのか?」

    結衣「……うん、ごめんね」

    そうか、先ほどの一色との会話を由比ヶ浜に聞かれていたのか。

    ……出来ることなら、由比ヶ浜は一番聞かれたくはない相手ではあった。

    俺とて、そこまで鈍くはない。

    結衣「やっぱさ、ヒッキーは、城廻先輩のことが好き……なんだよね」

    八幡「……」

    由比ヶ浜の言葉は、疑問……というより、半ば確信めいたような口調だ。

    どうも一色といい、内に秘めていたはずの気持ちは周りの女性陣にはバレていたらしい。

    今までは内に秘めているだけの、ふわふわとした、どこか浮ついた気持ち程度でしかなかったと思うが。

    その気持ちは、先ほど確信に変わった。

    490 = 1 :

    だが、その気持ちを由比ヶ浜に伝えていいものか。

    決心が決まらず、俺はただ沈黙で応えてしまう。

    八幡「……」

    結衣「……そっか」

    だが由比ヶ浜は何に納得したのか、寂しげに、ポツリとそう漏らす。

    由比ヶ浜の気持ちに、気が付いていなかったわけではない。

    しかしめぐりさんと同様、今までその気持ちからは逃げ続けていた。

    俺と関わり続けていても、決してその先に光はないだろうと。

    結衣「……あたしさ、もしかしたらズルい子なんじゃないかなって思うんだ」

    唐突に由比ヶ浜が呟いたその言葉はとても小さかったが、すっと俺の耳の奥にまで届いた。

    由比ヶ浜の顔を見ると、その由比ヶ浜も俺の顔を見上げてきた。

    目と目が合う。

    由比ヶ浜の瞳は潤んではいたが、俺のことを真っ直ぐに見つめている。

    その視線に捕らわれるような錯覚を受け、俺はその目を逸らすことが出来なかった。

    491 = 1 :

    結衣「ヒッキーの気持ち、分かってたのに……それでも、あたしのことを見ていて欲しいって思っちゃう」

    段々と涙声になっていく由比ヶ浜の言葉に対して、俺はただ黙っていた。一言一句、彼女の気持ちを聞き漏らさないために。

    結衣「ここをどいちゃったらさ、きっと二度とヒッキーに手が届かなくなっちゃう気がする……だから、どきたくない」

    ギュッと、俺のブレザーを掴む由比ヶ浜の手に力が込められる。まるでその手を離したら、全部が終わってしまうと分かっているみたいに。

    八幡「由比ヶ浜……」

    結衣「……迷惑、だよね。ズルいよね、あたし」

    はは、と自虐的な笑みを漏らす。その無理に浮かべた笑顔がとても痛々しい。

    俺はめぐりさんを傷つけ、一色を傷つけ、そしてまた由比ヶ浜を傷つけている。

    だが、俺の存在が人を傷つけているという事実は、それだけで俺自身をも傷つけた。

    俺は、どうすればいい?

    何をすれば、誰も傷つかないハッピーエンドに辿り着ける?

    492 = 1 :

    ……馬鹿なことを考えるな。

    そんなもの、ありはしない。誰も傷つかない優しい世界なんて、空想の中でしか存在し得ない。

    もしかしたら、偽り続けることで、違和感から目を逸らし続けることで、嘘を吐き続けることで、そんな優しい世界に辿り付けるのかも知れない。

    でもそれは、きっとただの欺瞞の世界でしかないから。

    そんな曖昧な答えや、馴れ合いの関係なんて望んでいないのだから。

    本物が欲しいから。

    だから、俺は決める。

    大切な人を傷つける覚悟を。そして、大切に想ってくれた人を傷つける覚悟を。

    ちゃんと考えて、苦しんで、あがきもがいて、答えを出す。

    493 = 1 :

    八幡「……由比ヶ浜」

    結衣「え?」

    八幡「俺は、めぐりさんのことが好きだ」

    結衣「──!!」

    八幡「お前は、どう思う?」

    結衣「あ、あたし……は……」

    我ながら、残酷な問いだと思った。

    だが、その気持ちを誤魔化して前に進むことは出来やしないのだ。

    俺も、由比ヶ浜も。

    結衣「あ、たし……は……」

    由比ヶ浜の声に嗚咽が混じり始める。つっと滴が頬を伝い、その涙がポツンと地面に落ちた。

    目頭に大粒の涙を溜め、顔を真っ赤に染め上げ、途切れ途切れに言葉を紡ごうとする由比ヶ浜の姿は痛々しく、思わず目を逸らしたくなる。

    494 = 1 :

    だが、俺はその由比ヶ浜から、現実から、気持ちから、目を逸らすわけにはいかない。

    思わず逃げそうになってしまうのをぐっと堪えて、由比ヶ浜の言葉の続きを待つ。

    結衣「……ヒッキーのことが……!!」

    次の瞬間、由比ヶ浜の口が大きく開いた。全ての堰が切れたかのように、言葉が溢れ出す。


    結衣「あたしはっ、ヒッキーのことが好き! ずっと前から好きだった!! あたしと付き合って欲しい!! ずっとずっと、一緒にいて欲しい!! だから、だから!! 城廻先輩のところに行って欲しくない!! あたしのことだけを見て欲しい!! お願いだよ、ヒッキー……あたしと、一緒にいて……!!!」


    それは、由比ヶ浜結衣の本音なのだろう。

    かつては人に合わせてばかりで、自分のことも言えず、ただ流されてばかりだった彼女の。

    本物の言葉。

    そして。

    そして、俺は。

    495 = 1 :

    八幡「俺は、由比ヶ浜とは付き合えない」

    これが正しい選択だったのかは分からない。

    それでも、大切に思う誰かに嘘は吐きたくなかったから。

    だから、ちゃんとした答えを。

    誤魔化しのない、偽りのない、欺瞞ではない答えを、示したかったのだ。

    言って、由比ヶ浜の顔を見る。

    彼女は、どう受け取るのか。

    結衣「……ヒッキーなら、そう言ってくれると思った」

    そう言うと、由比ヶ浜はにっこりと優しく微笑んだ。

    ……その笑みを見て、俺は確信する。

    間違っていなかったと。

    この選択は、きっと間違っていなかったのだと。

    496 = 1 :

    決して、みんな幸せなハッピーエンドではないけれど。

    それでも悩み抜いた末に出したこの答えは間違っていないのだと、そう胸を張りたかった。

    結衣「ごめんね、ヒッキー。引き止めちゃって」

    掴んでいたブレザーをぱっと離し、そして遮っていた生徒会室の扉の前から退く。

    すると、その先の廊下への道が通じた。

    結衣「そしてありがとう、ヒッキー。ちゃんと想いを伝えてくれて。ちゃんと受け取ってくれて」

    八幡「……すまないな」

    結衣「謝らないでよ、そっちの方が失礼だよ」

    言いながらあははと笑う由比ヶ浜の笑顔に釣られて、俺も思わずふっと笑みが漏れた。

    そうだったな。その気持ちに対して謝る方が失礼だったな。

    497 = 1 :

    八幡「ははっ、そうだな」

    結衣「ヒッキーさ、もっと自分に自信持っていいんだよ。あたしが保障するから」

    いろは「そうですよー、なんならわたしも保証しますよ」

    生徒会室の中にいた一色まで出てきて、そんなことを言う。……ていうか、こいつさっきのやり取り全部目の前で見てたんだよな。うわ、なんか改めて認識すると恥ずかしい。

    先ほどまでの俺は、めぐりさんと釣り合う自信が欠片もなかった。

    一度はめぐりさんを背負う責任が持てず、逃げ出してしまったのだ。

    だが、今は違う。

    こんなにも素敵な女の子が、二人も俺を好いてくれたのだ。

    ここで自分を卑下してしまえば、それはその二人に対する裏切りになってしまうだろう。

    八幡「ありがとうな。由比ヶ浜、一色」

    いろは「全く、世話が焼ける先輩ですね」

    結衣「うん、もしもまた逃げたら本当に怒るからね」

    八幡「もう逃げねぇよ……お前達のおかげでな」

    一色と由比ヶ浜に背を向け、廊下の向こうに目をやる。もう大分遅い時間だ。人の気配も感じられず、ただ無機質な光景が広がっている。

    498 = 1 :

    さて、行こうかと思ったその矢先、ドンッと後ろから背中を押された。

    振り向けば、由比ヶ浜と一色が笑顔で腕を突き出している。

    いろは「ファイトですよ、先輩!!」

    結衣「城廻先輩はさっき階段で上の方に登っていってたよ……頑張ってね、ヒッキー!!」

    八幡「……ああ!」

    ダッと廊下の床を蹴り上げ、近くの階段へと向かう。

    まだ、本番は始まってすらいない。

    全てはここからだ。


    499 = 1 :



     *  *  *


    「行っちゃいましたね、先輩」

    「そう、だね」

    「……よかったんですか、結衣先輩」

    「うん、これでいいの。……いろはちゃんこそ、よかったの?」

    「え、なんのこと……ああ、結衣先輩聞いちゃってたんでしたっけ」

    「あはは、ごめんね……」

    「そうですねー、まぁいいかって言われるとよくはないんですけどー。でもまぁ、いいかなぁって」

    「なにそれ、おかしくない?」

    「わたしもよく分からないんですよねー。でも、先輩の顔を、見てたら……別に……ぐすっ、いいかなって……」

    「いろはちゃん……」

    「あは、駄目ですね、わたし。いいって思ったはずなのに、先輩のこと、もう、諦め、ないとっ……うあ、うわああああ……」

    「……いろはちゃんは、強いよ」

    「ぐすっ……わたしなんて、まだまだですよ……」

    「……ヒッキーったら、いろはちゃんまで泣かせちゃって。これで本当に逃げたら、絶対に許さないんだから」


     *  *  *


    500 = 1 :



        ×  ×  ×


    二段飛ばしで素早く階段を駆け上がり、二階の教室をくまなく捜し回る。

    だが、全ての教室を見回っても、めぐりさんの姿はなかった。

    なら三階か? それとも特別棟か?

    一体めぐりさんはどこにいるのかと、駆けながら考える。

    近くの階段に迫ると、上から誰かが降りてくるのが見えた。

    いっそめぐりさんをどこかで見かけなかったか聞いてみるかとその姿を見上げると、思わず息が詰まった。

    八幡「雪ノ下!?」

    雪乃「あら、比企谷くん」

    その階段の上から降りてきた少女──雪ノ下雪乃は、俺の姿を見ると同時に軽いため息をついた。

    雪乃「あなた、こんなところで何をしているの」



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