元スレめぐり「比企谷くん、バレンタインデーって知ってる?」八幡「はい?」
SS+覧 / PC版 /みんなの評価 : ☆
51 :
病んだムキガハマさんがめぐり先輩を刺すとか勘弁してくれよw
でも今回は王道のラブコメっぽいし期待。
52 :
そういえばめぐり先輩って作中唯一の先輩キャラなんだよね、はるのんは卒業してるからなんか違うし
いろはすとの後輩物に対抗してくれることを期待
53 :
ほんわかめぐりんは戸塚と対をなす癒し系
54 :
名作の予感
56 = 1 :
今までの話の流れとは全く関係の無い話題を突然振られた俺は、少々混乱しながらもそのばれんたいんでーとやらが何なのかを思考する。
ばれんたいんでー……ああ、あの元プロ野球選手のボビー・バレンタイン氏を祝おうの日か。
あの千葉ロッテマリーンズの監督を務めていたことのある偉大な人であり、今でも千葉大学などの教授をやっているなど、この千葉県とは随分と馴染みの深い人物なのだ。
そんな大事な日を忘れるわけが……あれっ、このネタ前にもやったような気がするな。
八幡「……あのお菓子メーカーの策略ですよね、やたら煽ってチョコを売り出そうとする日」
結衣「うわ……予想通りのリアクションだ……」
由比ヶ浜の顔が妙に引きつっていた。その隣にいる一色もドン引きしている。その可哀想なものを見る目をやめろ。
八幡「いや、だってそうだろ。女から男にチョコレートを渡すという文化は日本独自だが、そのバレンタインにチョコを渡すとか云々の流れを広めたのはお菓子メーカーの広告なんだぞ」
雪乃「随分と詳しいのね」
そりゃまぁ、言い訳探しのために若き日の俺は散々調べ漁ったからな……。
だが経験値を積みまくった今の俺に言い訳など必要ない。今の俺なら無心で下駄箱の中を覗きこみ、無心で机の中を確認し、無心で放課後の教室でちょっと待ってみたりする。おい煩悩だらけじゃねぇか。
57 = 1 :
八幡「……まぁ、一応知ってはいます。妹以外からはほとんど貰ったことないですけど」
再びめぐり先輩の方へ向くと、俺はそう言った。
本当のところは『ほとんど貰ったことがない』ではなく、『全く貰ったことがない』が正解なのだが、そこに関して突っ込まないで欲しい。男の子として最後に残ったひとかけらの見栄である。
めぐり「あはは……比企谷くんにも、チョコ持ってきてあげるからね」
俺の自虐に対して、めぐり先輩は少々困ったような顔をしながらそう返してくれた。……待て、今めぐり先輩チョコくれるって言わなかったか?
一瞬俺の心臓がドキッと跳ねたが、すぐに冷静さを取り戻す。クールになれ八幡。これは社交辞令だ。
めぐり先輩のような人だと、チョコを配り歩いたりするのも毎年恒例だったりするのだろう。だから、それにも深い意味は込められていない。勘違いしてはいけない。
ふぅ、おっけー八幡クールダウン完了。
八幡「あっ、ども……」
簡潔にそれだけ言って軽く頭を下げた。これが最適な返しなのだ。変にえっとか言って固まるのが一番やってはいけないリアクション。それをやった瞬間、えっちょっとやめてくんないみたいな表情をもれなくプレゼントされるぞ多分。冗談でもチョコあげるとか言われたことないから本当かどうかは知らん。
58 = 1 :
変な黒歴史を作らなくて良かったと安堵していると、横からむーと唸る声が聞こえてきた。そちらを見てみれば、由比ヶ浜がぷっくらと膨れながら俺のことを睨みつけていた。何? フグ?
結衣「ヒ、ヒッキー、あたしもチョコ作って持ってくるからね!」
八幡「そうか……なら、リクエストしてもいいか?」
結衣「えっリクエスト!? ……えっあっうん、もちろんいいよ! なんでも言ってよ! えへへ……」
八幡「手作りじゃないチョコだと嬉しい」
結衣「手作り全否定!?」
いや、だってほらねぇ……?
去年のクッキー作り以来少しでも進歩しているのならいいかもしれない。しかしあれから九ヶ月近く、ついぞ由比ヶ浜が料理をしたとかそういう話を一度も聞いたことがない。俺だって好き好んで不味いものを食べたくはないのだ。
その由比ヶ浜はうえーんと雪ノ下に泣き付いていた。
結衣「あっそだ、もちろんゆきのんにも手作りチョコ持ってくるからね!」
雪乃「ありがとう、由比ヶ浜さん……私も手作りじゃないと嬉しいわ」
結衣「二人揃って辛辣!?」
あの雪ノ下が珍しく由比ヶ浜から目を逸らしながらそう答えていた。まぁ酷かったもんな、前に持ってきたクッキーの出来。
結衣「ヒッキーの馬鹿! 頑張ってるのが伝わったら男心揺れるって言ったのヒッキーじゃん!! ……あっ」
八幡「よく覚えてんなそんなの……」
怒りのせいか顔を真っ赤に染め上げた由比ヶ浜をよそに、去年のクッキー作りの際に言い放った自分の言葉を思い出した。いやぁ、懐かしいなぁ。まさかそれから今の今まで由比ヶ浜との縁が続くことになるとは、当時の俺には想像も付かなかった。
59 = 1 :
そんな俺たちのやり取りを、一色がふーんと興味深そうに見つめていた。
いろは「へぇー、先輩そんなこと言ってたんですかー」
八幡「昔の話だけどな」
いろは「あっ、そうだ。実はわたし結構お菓子作り得意なんですよー。葉山先輩にも頑張って作っちゃおうかなー。なんなら先輩にもちょっとだけ分けてあげてもいいですよ」
八幡「いらんわ」
えっ、何? こいつ実はお菓子作りが得意なんて設定まであったの?
なんていうか、もう特技欄にお菓子作りなんて書いてあったらそれだけであざといなって思う。あざといなさすがいろはすあざとい。
そう適当にあしらうと、一色はなんですかーとわざとらしく怒りながら胸元で拳を握った。
いろは「もう、先輩絶対疑ってますよね!? 私がお菓子作りなんて出来るわけないって」
八幡「ああ」
いろは「即答しないでください! いいですよ、だったらバレンタインデー楽しみにしていてくださいね! 絶対おいしいって言わせてあげますからね!」
腕を組みながら激おこぷんぷん丸とばかりに一色がそう言ってきたので、俺はへーへー期待してるよと適当に返しながら、再びめぐり先輩の方を向いた。さっきから話が脱線しまくりである。
60 = 1 :
八幡「で、バレンタインデーがどうかしたんですか?」
めぐり「うん、去年の総武高校のバレンタインデーのイベントって覚えてるかな?」
えっ、なにそれ初めて聞いた。この高校わざわざバレンタインにイベントなんてやってんの?
困惑しながら横を見てみると、雪ノ下もはてなと首を傾げていた。しかし由比ヶ浜は、あーと何かを思い出したかのように掌をぽんと叩いている。マジであったの……。
結衣「あれですよね、体育館に集まってパーティみたいなことやりましたよね」
めぐり「うん、そうだよ。そこで今年も生徒会でそれをやろうってことになって」
めぐり先輩がそう言うと、隣にいる一色がその言葉の後を継いだ。
いろは「そうそうそんなのがあるんですよ。そこでですね、奉仕部の皆さんの力を借りたいなと思いまして」
……結局、結局面倒事を持ち込まれるんかい!!
俺は肩を落としながら、露骨に嫌そうな顔になる。
八幡「……うちはなんでも屋じゃねーんだよって、前にも言わなかったっけか」
いろは「えー? そんなこと言ってましたっけ?」
きゃるんとした猫撫で声でとぼけやがった一色に対して、絶対にやりたくないと目線で訴える。しかし、そこで隣の由比ヶ浜がバンと机を叩いてきた。
結衣「いいじゃん! あたし達も手伝おうよ!」
そう言った由比ヶ浜の表情はやたらと輝いていた。しかしそれに対して俺の心は穏やかではない。あのね、誰もがバレンタインデーっていう日を楽しみにしているわけじゃないの。俺とかまさにその筆頭。あと単純に働きたくない。
61 = 1 :
雪ノ下も、あまり乗り気ではなさそうに目を細めた。
雪乃「……奉仕部の活動としては、どうなのかしら」
いろは「えー、そんなこと言わないでくださいよー」
まぁそれを言ってしまうとここ最近生徒会の手伝いばっかで、ほんと奉仕部の活動としてどうなのかとか言い始めたらここ数ヶ月何やってたんだって話になるんですけどね。
しかし何であろうとも俺は働きたくない。せっかく先ほどまで平和を享受していたのだ。もうしばらく平和の恩恵に与っていたい。どうにかうまく断ってくれないものかと、期待を込めて雪ノ下と一色のやり取りに耳を傾ける。
いろは「うう……だめ、ですか?」
雪乃「……んん」
一色が肩を落として雪ノ下を上目遣いで見上げる。じーっと甘えるような一色の視線を向けられ続けた雪ノ下は少し肩身が狭そうに身を捩って咳払いをした。あかん、雪ノ下さんほんとこういった言葉や仕草相手には弱い。このままでは陥落してしまう。
雪乃「……比企谷くんは、どう思う?」
居心地が悪そうにして一色から目を逸らすと、雪ノ下は俺にそう丸投げしてきた。おい部長、フリーペーパーの時といい、一色の頼みを真正面から断れないからって俺に投げるのやめない? あなた最近ほんと一色に対して甘過ぎますよ?
62 = 1 :
しかし、俺に最終決定権が委ねられているというのであれば答えは一つだ。前回とは違ってもう一色の泣き落としは食らわんぞ! 今度こそ俺は、俺は社蓄ライフを回避するんだ! と決意を強く固めた時、ぽんと優しく肩を叩かれた。
振り向いてみれば、めぐり先輩がほんわか笑顔を浮かべて俺の顔を見ている。
めぐり「比企谷くん達が手伝ってくれると、私は嬉しいなぁ」
八幡「うっ……!」
めぐり先輩の無垢な目線を向けられた俺の精神がぐらっと揺れた。小町の云々によって年下からの泣き落としに弱いと思えば、実は俺、年上からの頼みにも弱いのかもしれない。もうそれ断れない日本人の典型じゃねぇか。
さてどうやって返事をしようと思っていると、めぐり先輩はさらに言葉を続ける。
めぐり「今回のイベントは、私もお手伝いするからね」
八幡「城廻先輩も?」
思わずそう聞き返してしまった。めぐり先輩はとうに生徒会を引退した身であり、また自由登校期間なので学校に来る強制力すらないはずだ。
そう疑問に思っていると、めぐり先輩はあはっと笑う。
めぐり「このイベントはね、三年生も参加するんだよ。もちろん、受験が終わってる人が中心にはなりそうだけどね」
八幡「そうなんですか……」
二月十四日……大学受験の日程に詳しい訳じゃないが、まぁ終わっている人は終わっているのだろう。全員ではないのだろうが。
63 = 1 :
ふと、めぐり先輩の笑顔に陰が差した。
めぐり「このイベントはね、三年生にとっては最後のお祭りなの」
八幡「……あ」
そう小声で呟いためぐり先輩の表情は暗い。どう声を掛けたものかと考えていると、めぐり先輩は再び笑顔を浮かべながら顔を上げて俺の顔を見た。
めぐり「だからね、できればみんなの思い出になるようなイベントにしたいって思うんだ」
ほんわかとした笑顔、しかしその目からは真剣な想いがこちらにまで伝わる。やや抜けているような雰囲気を持ちながらも、確かに前生徒会長を全うした毅然さがあった。
そんなめぐり先輩にじーっと見つめられると、俺もそれに反対し辛い。
少しの間考える振りをしてみたが、もう仕方ねぇかめぐり先輩の頼みだもんなグッバイ平和と覚悟を決めた、
八幡「……分かりましたよ」
めぐり「ほんと? ありがとう!」
いろは「いやー、超助かりますよー」
そう言って生徒会長ズがわーいと喜びの声をあげた。あのな、別に一色のためじゃないからな、あくまでめぐり先輩の頼みだから聞いてあげるってだけなんだからな。そこんところ勘違いしないでよね!
64 = 1 :
八幡「……いいか?」
結局断りきれなくてすまんと雪ノ下の方を向くと、雪ノ下は深々とため息をついていた。
雪乃「はぁ……仕方がないわね」
しかし言葉の上ではそうは言っても、雪ノ下の表情を窺ってみるとそこまで嫌そうには見えない。そしてその隣にいる由比ヶ浜は元々賛成派だったので、喜びながら一色とハイタッチをしていた。
いろは「それではよろしくお願いしますね、結衣先輩!」
結衣「うん、こっちもよろしくね!」
別に奉仕部がいなくても十分みんなの思い出になりそうなイベントくらい出来そうなんだけどなーって考えるも、今更そんなネガティブ意見を言い出せる雰囲気ではなくなったので心の中に留めておいた。
部室の時計を見ると、もうそろそろ帰宅してもいい頃合だ。詳しい打ち合わせは明日以降になるだろう。
八幡「一応聞いておくけど、今回は時間は平気なんだろうな……あと答辞と送辞は大丈夫なのか?」
いろは「大丈夫だと思いますよー。バレンタインデーは来週の金曜日ですし、卒業式まではまだあと一ヶ月あるんでゆっくり考えます」
まだあと一ヶ月って言う奴ほど後でもう一ヶ月経ったのとか抜かすんですけどね……。まぁ、フリーペーパーの時のように日程に不安があるわけでもなく、文化祭やクリスマスイベントの時のように人材に不安があるわけでもない。
それなら平気かと、少しでもポジティブに考えることにした。
雪乃「それでは今日は解散にして、また明日以降詳しい段取りを話し合いましょう」
雪ノ下がそう締めると、各自自分の荷物をまとめはじめた。
また明日から仕事の日々かぁ……と心の中で愚痴りながら読みかけの本を鞄の中に入れる。俺にも社蓄の両親の血が流れているんだなぁとしみじみと感じる今日このごろです。
八幡「じゃ、帰るか……」
いろは「あっそういえば先輩、どんな感じでプリクラ撮ったのか教えてくださいよー」
えっ、またその話蒸し返すの!?
65 = 1 :
めぐめぐめぐりん♪めぐりんぱわー☆
ストーリー上の問題で原作11巻発売前に書き終えたいので、やや駆け足で書いていきたいと思います。
駆け足と言ってもストーリーを圧縮するという意味ではなく、一度に書く量が増えるってだけなんですが。
それでは書き溜めしてから、また来ます。
69 :
バレンタインと馴染みが深いのは幕張の極一部のキチガイサポーター達で
千葉県民って単位でみたらかなり嫌われてんだけど
70 :
そう…(無関心)
71 :
じゃあバレンティンでいいよ(適当)
72 :
いまではアメリカでもバレンタインには女が普通にチョコ渡すらしいよ
ソースはCSI:ニューヨークのファイナルシーズンのバレンタイン回
73 :
めぐりんかわいいよめぐりん
74 :
× × ×
翌日の放課後、俺はまたいつものように奉仕部の扉を開けて中に入る。
部室の中は既に雪ノ下によって暖気されていて、ほっと息を吐き、いつもの席に座った。
雪乃「どうぞ」
八幡「さんきゅ」
雪ノ下が淹れてくれた紅茶をふーふーしながら、湯呑みを口に運んだ。次の瞬間、体の中に暖かいものが流れていくのを感じる。
体の外も中も温まるのを感じながら、ほうっと息を吐く。あーほっこりする。このままぐーだらしていたい。
しかし今日からはバレンタインデーのイベントのなんちゃらとやらで仕事が始まるのであった。
何故俺が、リア充共がイチャコラするための場作りのために働かなくてはならないのか。もういっそ運営の手伝いという立場からなんとかしてイベントを瓦解させるような行動を取るべきなのではないかと一瞬魔が差したが、めぐめぐめぐりん先輩が涙を浮かべる光景も同時にイメージしてしまったためにその案はお流れになってしまった。
めぐり先輩を泣かせてもみろ。信者共に一瞬で殺されるだろうし、なんなら俺もそれに加わるまである。
だからと言って別に働きたくなるわけではないんだよなぁと思っていると、部室の扉がコンコンと叩かれる音がした。
75 = 1 :
雪乃「どうぞ」
めぐり「失礼しまーす」
雪ノ下が声をかけると、挨拶と同時に見慣れた人物が扉を開けて入ってきた。ほんわかとした空気が部室に流れる。
入ってきたのは、城廻めぐり。今回の依頼主の一人だ。
めぐり「こんにちはー」
雪乃「こんにちは、城廻先輩」
結衣「こんにちはー」
めぐり先輩が手を振りながら、雪ノ下と由比ヶ浜の二人に挨拶をする。その後、俺の方に振り向くとにぱーと笑いながらまた手を振ってきた。
めぐり「比企谷くんも、こんにちはっ」
八幡「あっ、ども」
軽く会釈を返す。あれっ、最初のこんにちはーは俺には向けられてなかったのかな……。俺の存在感の薄さは年々酷くなってきているような気がする。それとも単に同じ部屋にいる雪ノ下と由比ヶ浜の方が目立つだけだろうか。多分後者だな。
そこでふと、もう一人の依頼主の姿が見えないことに気が付く。
76 = 1 :
八幡「あれっ、一色はどうしたんですか」
俺がそう尋ねると、めぐり先輩は人差し指を顎に当てながらうーんと首を横に傾げた。うーん動作がいちいち可愛らしい。これがもし一色ならばはいはいあざといあざといと軽く流すのだが、めぐり先輩だと天然でやっている感じがして素直に可愛らしいと思えるのが不思議だ。……いや、まさかめぐり先輩が計算してこの動作をやっているわけがないだろ。ないよな。よし。俺たちのめぐり先輩が腹黒いわけがない。
めぐり「いや、私はさっき学校に来たばっかだから見てないや。ごめんね」
八幡「いや、謝らなくても」
そこで、そもそもめぐり先輩は授業があるわけでも生徒会の集まりがあるわけでもないということを思い出した。いいなぁ俺もこの時間から学校に登校してぇなぁ、俺たちも早く自由登校期間にならねぇかな。いやあと十ヶ月以上先の話だろうが。
しばらくめぐり先輩と由比ヶ浜たちの会話に耳を傾けていると、再び扉がこんこんと叩かれる音がした。
雪乃「どうぞ」
いろは「こんにちはー」
雪ノ下が声を掛けると同時に扉が開き、ぺこりと頭を下げながら一色いろはが部室の中に入ってきた。
めぐり「一色さん、こんにちは」
結衣「おー、いろはちゃん。やっはろー!」
二人がそう言うと、一色はどもですーと再び頭を軽く下げた。その後視線がきょろきょろと動くと、俺の方を向いて三度目のおじきをした。
いろは「先輩も、どもでーす」
八幡「……おう」
めぐり先輩といい、最初のこんにちはーには俺への挨拶は含まれていないのかなぁ。それとも、最初に挨拶をした後にまたひとりひとりに挨拶をしなくちゃいけないみたいな決まりがあるのだろうか。それ二度手間じゃねぇかな。
77 = 1 :
一色が席についてノートとペンを取り出すと、雪ノ下が軽く咳払いをした。
雪乃「それでは、バレンタインデーイベントの打ち合わせをするとしましょう」
雪ノ下がそう号令をかけたが、その前に前提として俺はバレンタインデーイベントとやらがどんなものなのかを全く知らない。それを知らなければ何も言えないだろうと考え、一色に向かって声を掛けた。
八幡「そもそもバレンタインデーイベントって、一体どんなことをやるんだ? 俺は去年出てないから知らないんだが」
いろは「わたしだって去年は出てませんよー」
そりゃそうだ、一色は一年生である。聞く相手をミスった。次に由比ヶ浜の方に目をやる。
結衣「えーとね、なんかみんなでお菓子とか食べてねー、ぱーって騒ぐっていうか」
アバウト過ぎてお菓子を食べる以外何も分からねぇ。これもまた聞く相手をミスった。次にめぐり先輩の方に目をやる。
めぐり「えーとね、場所は体育館を使うんだけど、そこで机を出してお菓子をみんなで食べるパーティをするんだよ。交流会とかそんな感じかなぁ?」
なるほど、分からん。いや由比ヶ浜よりはまだ伝わったのだが、そもそも俺には交流会というものがなんなのか全く分からないのだ。八幡には交流というものが分からぬ。八幡は、ただのぼっちである。本を読み、ゲームをしながら暮らしてきた。けれども他人の視線に対しては、人一倍敏感であった。
雪乃「なるほど、立食パーティのようなものね」
しかし同じくぼっちであるはずの雪ノ下にはそれだけで通じたようであった。そういや雪ノ下はパーティというもの自体にはそこそこ慣れていたのだった。となると、今この中で全く意味を理解していないのは俺一人ということである。こんな些細なことでも一人ぼっちになれるのが、さすが俺といったところか。
78 = 1 :
めぐり「一応、去年の様子を撮った写真も持ってきたんだー」
鞄をごそごそと漁りながら、めぐり先輩はそう言った。そして複数枚の写真を取り出すと机に広げた。
なるほど、こうやって画像として見せられるとどんな感じなのかイメージしやすい。
だがこういった写真に映っているのは大抵ウェーイ系なので、見ていて三秒で気分が悪くなった。よく見ると、一年生の時の葉山や戸部が映っている写真まである。
八幡「……ん?」
ふと、他にも知っている人物が映っている写真を見つけた。
その人物からは、写真越しでもそのほんわかとした人柄を感じられる。ていうか去年のめぐり先輩だった。
今より少々幼く感じられるその写真の中のめぐり先輩と今のめぐり先輩を見比べようと顔を上げると、めぐり先輩と目が合う。
すると、めぐり先輩の写真を見ていたことに気が付いたのか、焦ったようにバッとその写真を取り上げられてしまった。
めぐり「あっ、やだよもう……恥ずかしいよ……」
そっぽを向きながら小声で言っためぐり先輩の頬は、まるで桜色と表現するに相応しい色に染まっている。
そのままぷいっと顔をそむけられてしまい、ぷくーっとむくれてしまった。一色がやればあざとさを感じたであろうが、めぐり先輩がやるそれには本当に可愛らしいという言葉が似合う。
八幡「あっ、すいません」
反射的にそう謝ると、めぐり先輩は頬を膨らませながらも俺の顔を見た。
めぐり「もう、比企谷くんったら……」
そう顔を赤らめながら上目遣いでこちらを見るめぐり先輩を前に、ドキッと自分の心臓が跳ねて鼓動が早くなるのを感じる。めぐり先輩のそれは本当に卑怯だと思う。
79 = 1 :
思わずそのめぐり先輩の顔に見惚れていると、俺の脇腹にずびしっと指が突き刺さった。
八幡「いてぇ!」
めぐり「わっ、どしたの?」
俺の脇腹に指を突き刺した先を見てみれば、横にいる由比ヶ浜が何故かジト目で俺の顔を見ている。どこか、怒っているようにも感じ取れた。
八幡「何すんだよ……」
結衣「別に……なーんかヤな感じ」
別にというくらいなら人の脇腹を思い切り刺すな、痛いから。
それともあれか、さっきのめぐり先輩の写真をジロジロと眺めていたのが悪いのか。まぁ確かにデリカシーがなかったかもしれん。
いろは「あのー、そろそろ話進めてもいいですかねー」
コンコンと机を叩く音がしたので、そちらの方に顔を向けてみると今度は一色が若干ご機嫌斜めになっていた。
八幡「ああ、すまん。で、イベントをどうするかだったか」
素直に一色に対して謝りながら、由比ヶ浜から目を逸らすように机の上にある写真を見る。
この写真の中に写る人たちは皆楽しそうにお菓子を食べていたり、カメラにピースをしていたりする。うっ、リア充を見ていると鳥肌が。実は俺、リア充を見ると死んでしまう病なんです。
いろは「なんていうかですね、去年より盛り上げたいっていうんですか? そんなアイデアがあるといいなって」
まるで去年の体育祭の際のめぐり先輩の頼みのようだ。あの時もあの時で大変だったなと心の中で懐かしみながら、机に置いてある写真に目をやる。
80 = 1 :
八幡「こいつらすでに楽しそうに見えるんだが、これ以上何をする気だ」
いろは「それを今から考えるんですよー」
いや、そもそもこれ以上のプラスアルファが本当に必要なのかって意味なんだが。
そう言おうとしたが、一色の隣でよーしみんなで考えよーと手を天井に向けて突き出しているめぐり先輩があまりに可愛らしかったので、その言葉は呑み込むことにした。
めぐり「去年は去年で楽しかったんだけど、ずっとお菓子ばっか食べてると太っちゃうような気がするんだよね……」
そういってめぐり先輩は自らのお腹をさすった。大丈夫ですよ、どう見ても太ってるようには見えません。……自分のお腹をさする女子ってエロいなぁ、変なフェチに目覚めそう。
八幡「お菓子を食べる以外のことはしてないんですか?」
結衣「んー、ずっと食べて雑談ばっかしてたねー」
めぐり先輩への疑問は、何故か横にいた由比ヶ浜が答えた。
八幡「菓子食いながら喋ってるだけかよ、それイベントって言っていいのか……」
結衣「あ、あはは……でもほら、色んな人と知り合えるチャンスだったし」
由比ヶ浜の人脈の広さなどはこういう時のマメな行動故なのだろうなと感じた。その頃の由比ヶ浜なら適当に薄い笑顔を浮かべて空気に合わせながら色んな人の間を行き来していたのだろう、簡単にイメージができる。
雪乃「挨拶回りね……なかなか、大変そうなイベントね」
由比ヶ浜を挟んでその横にいる雪ノ下は、ふっと息を吐きながらどこか遠くを見るような目になった。ああ、あんかそういう挨拶とか大変そうですもんねお宅のお家。
81 = 1 :
にしても、イベントを盛り上げるための案か……他人を楽しませようなんて考えて行動したことなどほとんどないから分からん。
写真に写っているこいつらは実に青春を謳歌してそうだ。ぶっちゃければ、なんでこいつらを楽しませるために俺の頭を回さにゃならんのだと感じる。この体育館をお前らの墓場にしてやろうか。
そこでふと、体育館のイベントと聞いてとあることを思い出した。
横の由比ヶ浜、雪ノ下。そして前にいるめぐり先輩らをくるっと見渡す。由比ヶ浜がどうしたの? と首を傾げていた。
結衣「……あたしの顔に何かついてる?」
八幡「いや、体育館のイベントと聞いて思い出してたんだよ」
数ヶ月ほど前、秋に行なわれた文化祭の最後のステージを思い出す
俺は一人で、そして一番後ろで眺めていただけだったが、今でも目を閉じればすぐにその光景が目に浮かぶ。
忘れられない、あの光景が。
八幡「ほら、お前らバンドやってただろ」
結衣「ああー」
由比ヶ浜がポンと手を打った。雪ノ下も思い出したようにそんなこともあったわねと言葉を漏らした。
いろは「私も見てましたよー、あれすごかったですよねー」
八幡「まぁ、なんだ。せっかく体育館使うなら、前のステージ使ってなんかやるのも悪くないんじゃねぇの」
他の面子に向かってそう言うと、由比ヶ浜がいいね! とどこぞのSNSのボタンと同じ言葉を返してきた。他の三人も概ね賛成のようだ。
82 = 1 :
雪乃「一色さん、前のステージを使うことは出来るのかしら」
いろは「許可を貰えば大丈夫だと思いますー」
めぐり「そういえば去年はそこ使ってなかったね」
前のステージが使える可能性が濃厚であることを確認すると、次に考えるべきなのはそこで何をするかだ。
雪乃「確か、このバレンタインデーイベントって放課後に行われるイベントだったかしら?」
結衣「うん、そだよー」
イベントといっても文化祭のようなものとは、また違うらしい。
強制参加ではなく、放課後体育館に来ることが出来る奴だけでやろうみたいなイベントのようだ。まぁ強制参加じゃなかったからこそ、俺が存在すら知らなかったわけだが。知っていたとしても、多分行ってないだろうが。
雪乃「放課後から完全下校時刻までがイベントの時間と考えると、ステージで何かを出来るグループの数も限られてくるわね」
雪ノ下がそう言いながら白紙の上に案と問題点を次々と書き込んでいく。確かに、文化祭と違って一日中行うというイベントでもない。使える時間は決して多くはないのだ。
しかし一度案が出ると、これはどうだあれはどうだと次々と新しい意見が出てくる。その意見の中で使えそうなものは保留、明らかに問題があるものは雪ノ下に即座に却下された。
思ったよりかなり好調な滑り出しだ。
……あれっ、会議ってこういうものだったっけ?
83 = 1 :
雪乃「比企谷くん、どうかしたの?」
八幡「いや、文化祭とか体育祭、クリスマスイベントの時の惨状を思い出していた」
雪乃「……確かに、あの時は決して良い会議が出来ていたとは言えなかったわね」
見れば全員が少しだけ何か苦い過去を思い出したかのように苦笑している。一色は相模の件を、めぐり先輩は玉縄の件を知らないだろうが、とりあえずここにいる面子は全員一度は進まない会議について経験しているということだ。
それに比べて、今回はどうだ。
少数だというのももちろん意見が出しやすいという条件にはなっているだろうが、元々こういったものをまとめるのが得意な雪ノ下とめぐり先輩はもちろん優秀だし、由比ヶ浜や一色もイベントへのモチベーションの高さからか積極的に会議に参加してくれている。
少数精鋭のメンバーが揃っていることで、話し合いが実にスムーズに進む。こういった話し合いだと人数がいた方が逆に進みにくいとかあるからな。だから俺とかいるだけ邪魔だろうし正直帰りたい。女子四人に囲まれているこの状況も、実は結構肩身が狭いのだ。
それからしばらく女子四名の話し合いを眺めていると、下校時刻になる頃には白紙だった紙にはかなり多くの意見が書かれていた。
84 = 1 :
雪乃「それでは、明日からはこれらの中で実用できるものを絞っていきましょう。他の生徒会の人たちはどうしているのかしら」
いろは「あっ、さっきメール来たんですけど、今日決算の件がようやく終わったそうなので明日から加われるそうです」
雪乃「分かったわ、明日からは会議室を使った方がいいかもしれないわね。鍵を返す時に、平塚先生に明日の放課後の会議室の使用許可を頂きましょう」
荷物をまとめながら、雪ノ下が明日以降の予定を一色と話し合っていた。本当にこういった事務処理では右に並ぶものがいないほどの優秀な奴だ。
そんな雪ノ下と一色の二人を眺めていると、ふふっと隣から笑い声が聞こえた。
見れば、めぐり先輩が俺の隣に立っていた。
八幡「……どうしたんですか」
めぐり「いやぁ、一色さんと雪ノ下さんがすっごい仲良さそうでよかったなって」
八幡「ああ……確かにそうですね。最近のあいつらは仲良さそうだと思いますよ」
最初の頃こそ、あまり雪ノ下と一色の相性は決して良くはなかったと思う。しかし今ではなんだかんだいい先輩後輩関係を結べているようだ。
その光景は、少し前の雪ノ下を知る者からすれば微笑ましく映るだろう。
85 = 1 :
かく言う俺も微笑ましく見守っていると、めぐり先輩が俺の肩を叩きながら目を合わせた。
めぐり「比企谷くんだって、一色さんととっても仲良さそうだよ?」
八幡「いや、あれ仲良いとかそういうんじゃないんですって」
いいところ、利用しやすい先輩程度の認識だろう。悪ければ奴隷扱いまで見える。
だが、めぐり先輩はえー絶対仲いいよーと俺の反論を受け付けなかった。
そして俺の目をみつめてくる。めぐり先輩の瞳はとても純粋で、穢れがないように感じた。
めぐり「私も、比企谷くんと仲良くしたいな」
八幡「まぁ……俺なんかで良ければ……」
本気でドキッとしたが、辛うじてそう言葉を返すことが出来た。するとめぐり先輩はあはっとほんわか満載の笑顔を浮かべる。
めぐり「うん、じゃあ仲良くしてね。比企谷くん!」
にぱっと笑うその笑顔には、裏があるようにはとても思えなかった。
とても純粋で、とても綺麗で、ただ真実の笑顔。
その笑顔に引き込まれそうになって、はっと途中で冷静になる。
……今まで、あの笑顔で何人の男の子が落ちていったのだろうだと。
そんなことを、考えた。
86 = 1 :
めぐめぐめぐりん♪めぐりんぱわー☆
それでは書き溜めしてから、また来ます。
87 :
乙
11巻発売前に終わりそうに見えないんですがそれは
88 :
一色が仲良くしようとして仲良くできないやつっているんかね?
この子と険悪そうなのってクラスの女子達くらいだね
ただの年上キラーなだけなのかなあ
89 :
めぐりんが可愛すぎて世界がやばい
90 :
気合い入れすぎなんだよなぁ
乙です、期待してます
91 :
おつ、めぐりんまじほんわか
92 :
乙
現行のめぐりSSでは間違いなくNo1だな。
93 :
他に現行のめぐりんssあったっけ?
94 :
現行じゃないめぐりんSSなにがあるっけ?
95 :
いろはと三人で延々特撮の話続けて叩かれまくったやつとか
いろはと二人で八幡誘惑しまくったのに川崎に持ってかれちゃうやつとか
いろはとバレンタインチョコ作ってる途中でエタっちゃったやつとか
相模ビクビクさせるやつとか
図書館で八幡に勉強教えて国立に合格させるやつとか
ヤンデレ化してて小町縛って一日中八幡観察してるやつとか?
いろはと一緒なの多いなあ
96 :
まあ情報出揃ってきたらな
97 = 92 :
>>93
あるある
あと、2つくらいあるけど、1つはエタりそうだし、もう1つのはてんでダメだね。
98 :
そう考えると単発のめぐりんSSは渋の方が多いかもしれない。
最初期のめぐりんと一年の事故で出会うSSとか結構好きだった。
99 :
お前らめぐりんに餓えているな~わかるけど。
玉石混交、作れれば良いんだけどねぇ……
とりあえず、続き期待!
100 :
ホームルームを終えると、俺はマフラーとコートを装着し、荷物をまとめて席を立つ。
確か今日からは一色以外の生徒会役員たちも仕事に加わるため、いつもの奉仕部ではなく広い会議室を使うことになるとのことだ。
ホームルームの後に会議室に直行するのは体育祭以来振りだ。俺より会議室に行ってる奴ってこの学校でもほとんどいないんじゃないの? もしかして俺ってかなりこの学校に貢献してない? いや、やりたくてやってるわけじゃないのだが。
一応大学受験の時に履歴書に書くネタくらいにはなるかなと考えながら、チラッと視線を教室の中に移す。
見れば由比ヶ浜はまだ三浦、海老名さんと話しているようだ。
海老名「じゃあユイはバレンタインイベントの運営をやるの?」
結衣「うん! あっでも当日は多分一緒にいられると思うよ。そういえば優美子ってまたバンドやってみたりしない?」
三浦「マジで、やっていいん?」
そういえば三浦も、去年の文化祭のステージで葉山たちと一緒にバンドを組んで演奏していたのだった。
その時俺は何をしていたかというと、どこぞの誰かさんを捜して東へ西へ屋上へえっちらほっちら走り回っていて直接見ていたわけじゃないので、すっかり忘れていた。
みんなの評価 : ☆
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