のくす牧場
コンテンツ
牧場内検索
カウンタ
総計:127,062,855人
昨日:no data人
今日:
最近の注目
人気の最安値情報

    元スレめぐり「比企谷くん、バレンタインデーって知ってる?」八幡「はい?」

    SS+覧 / PC版 /
    スレッド評価: スレッド評価について
    みんなの評価 :
    タグ : - めぐり ×2+ - 俺ガイル ×2+ 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
    ←前へ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 次へ→ / 要望・削除依頼は掲示板へ / 管理情報はtwitter

    301 :

    乙乙。平塚先生はいい人なのになんで結婚出来ないのだろうか

    奉仕部のヒロインはコピのんと欲ガハマさんだし、八幡と良さそうなのはめぐりんとサキサキくらいなんだよなぁ

    303 :



      ×  ×  ×


    メッセージカードのスペース作りに一心に打ち込んでいると、聞き覚えのある騒がしい声が入り口の方から聞こえてきた。

    見やれば、そちらには騒がしい声の主──由比ヶ浜と雪ノ下がいる。

    その由比ヶ浜がこちらの存在に気が付くと、ぱたぱたと小走りでこちらに近寄ってきた。

    結衣「あ、ヒッキー、作業の方はどう? 手伝う?」

    八幡「いいや、順調だから平気だ」

    自分が作成しているスペースを見ながらそう言った。事実、板を壁に貼り付けてあとはちょっと飾りをつける程度のものなので大したことはないし、手伝いも必要ない。

    しかし、俺の作った渾身のメッセージボードを見ている由比ヶ浜の顔はどこか不満気である。

    結衣「なーんか味気なくない?」

    八幡「いや、味気とかいるの? 海苔じゃないんだから」

    結衣「いるでしょ、せっかくのお祭りなのに」

    雪乃「確かに、少々華やかさに欠けるわね」

    二人にそう指摘され、改めて見直してみると確かにイベントのものとしては少々寂しかったかなと思い直す。

    由比ヶ浜が自分の持っていたビニール袋から何か飾り付けの余りらしきものを取り出すと、ボードに合うかどうかうんうん吟味し始めた。

    304 = 1 :

    結衣「あたし達も飾りつけ手伝うよ」

    八幡「別に一人で平気だ、お前はお前らでやることあんだろ」

    結衣「やることって言ったって、この体育館の飾りつけの準備だもん! だったらヒッキーの手伝いしたって問題ないよね?」

    八幡「む……由比ヶ浜が正論で攻めてくるとは……成長したな」

    結衣「あたしのこと馬鹿にしすぎだから!?」

    むっとした様子で由比ヶ浜は言い返してくるが、俺としては成長した娘を送り出すような気分である。この子ったらこんなに成長しちゃって……。

    一方で雪ノ下は、じとっとした目線で俺の方を見つめている。

    雪乃「一人で平気だとは言うけれど、あなたが一人でこういう飾りつけを出来るとは思えないわ」

    八幡「どういう意味だ」

    雪乃「あなたに飾り付けをするセンスがあるようには見えない、という意味よ」

    八幡「ああ、そりゃ納得だ」

    結衣「納得しちゃうんだ!?」

    まぁ、そういうセンスがあるんならこんな無機質なボードになってねぇだろうしなぁ……。

    俺がここで一人で飾りつけをしようとしても良さそうな出来になるとは思えないので、ここは素直に二人の手を借りることにした。

    305 = 1 :

    八幡「じゃあ悪いけど……少し手伝ってくれ」

    結衣「もちろんだよ!」

    雪乃「それでは、始めましょうか」

    由比ヶ浜はそう言うと持っていたビニール袋を逆さまにして、中にあったポンポンやマスキングテープなどをばらっと床に散らばせた。

    結衣「うーん、どれ使おうかな」

    雪乃「……このパンさんの模様のやつを使うのはどうかしら」

    八幡「お前、パンさんならなんでもいいって思ってるだろ……」

    しばらく二人に手伝ってもらいながらメッセージボードを改造していると、入り口の方からあっれーと聞き覚えのある声が聞こえてきた。

    一瞬で誰だか分かってしまい、自分の顔が引きつったのを自覚する。

    ちらと隣に視線を走らせれば、雪ノ下もそっと眉をひそめている。そのまましばらく固まっていると、どんと肩を叩かれた。

    陽乃「ひゃっはろー、比企谷くん、雪乃ちゃん、元気にしてたー?」

    八幡「……なんでここにいるんですか」

    ギギギっと壊れたロボットのように首だけ動かすと、そこにいたのはやはり雪ノ下陽乃であった。真紅のコートをふわとはためかせながら、手を上げてこちらを見ていた。

    306 = 1 :

    陽乃「冷たい反応だなあ、比企谷くん」

    八幡「いや、今日普通の平日なんですけど、学校に部外者って入ってきていいんですかね」

    陽乃「細かいことはいいじゃん、ちゃんと許可は貰ってるんだし」

    陽乃さんはそう言うと、首にぶら下げていた許可証をふふんと見せ付けてきた。誰だよこの人に許可出した奴。

    雪乃「……姉さん、用がないなら帰って」

    陽乃「よよよ、雪乃ちゃんが冷たい……。じゃあ比企谷くん構ってー」

    そう演技染みた泣き真似をしながら、俺の手を取ってきた。素直に受けるのもなんなので、あまり強くならない程度にその手を払う。

    八幡「あー、ほら、俺たちまだ準備あるんで」

    陽乃「おろ?」

    陽乃さんは一瞬意外そうな顔をすると、にんまりと笑いながら俺の目を真っ直ぐに見つめてくる。この人に見つめられると奥まで見透かされてしまいそうで、身を捩ってその視線から逃げ出した。

    陽乃「ふーん……比企谷くん、彼女でも出来た?」

    八幡「はぁ?」

    雪乃「……」

    結衣「ええっ!?」

    あまりに予想していなかった質問が飛んできたので、思わず変な甲高い声が漏れてしまった。しかし何故か俺より、近くにいた由比ヶ浜の方が驚いたような声を出している。

    307 = 1 :

    陽乃「いやー比企谷くんの対応がなんか手馴れてたような気がしたからさ、なんとなく」

    対応というのは、今の陽乃さんの手を払った一連のことだろうか。確かにめぐりさんのせいなのかおかげなのか、特別動揺することなく流してしまったが。

    そう言ってから陽乃さんは俺、雪ノ下、由比ヶ浜の顔をじろーっと眺めていく。それだけで全てを把握してしまいそうで、この人には未だに適わないという気持ちになる。

    陽乃「……雪乃ちゃんでも、ガハマちゃんでもないの? じゃあ誰?」

    八幡「いや、そもそも俺に彼女とかいたことないんすけど……」

    ただ一つ、陽乃さんが勘違いしているのはそこである。俺に彼女などいないし、いたこともない。

    なんならこの先ずっといないまである……いや、でも養ってくれる人は欲しいからこの先もいないのは困るな。彼女は要らないけど養ってくれる人は欲しいと思う今日この頃です。

    陽乃「へぇー……」

    しかし俺がそう否定しても、陽乃さんは追及するような目線をこちらに向けるのをやめない。

    美人に見つめられているはずなのに、この人に限っては見つめられるのは本当に良い気分じゃないなと目線を逸らしていると、丁度めぐりさんがこちらに向かって歩いてきているのが見えた。

    308 = 1 :

    めぐり「あー、はるさん。お久しぶりです」

    陽乃「……めぐり、こないだ会ったばかりでしょー?」

    てこてこ歩み寄ってきためぐりさんのおでこをちょいとつついて、陽乃さんは呆れたように言った。

    めぐりさんはおでこを両手で可愛らしく押さえながら(可愛い)きょとんとした顔で陽乃さんの顔を見る。

    めぐり「そういえば、どうしてはるさんがここに?」

    陽乃「そろそろバレンタインデーイベントの時期だと思って、遊びに来ちゃった」

    えーこの人今堂々と遊びに来ちゃったって言っちゃったよー。そんな人を学内に入れないでよー。ちょっと仕事してよ高校の受付さーん。

    本当に、なんでここに来たのだろうこの人は。マジで友達いないんじゃないの? うっ、ブーメランが。

    八幡「文化祭と違って、これって部外者も遊びに来てもいいイベントじゃないと思うんですが……」

    陽乃「まぁまぁせっかくのお祭りなんだから気にしないの。明日も来ても良いかなとは思ってるんだけどね」

    やめてくださいと視線で訴えかけたが、陽乃さんはそれを分かっているのか分かっていないのか、ふふんと軽い笑みを浮かべながら、俺たちの作っていたメッセージボードを見つめていた。

    309 = 1 :

    陽乃「でも、準備の日にただ遊びに来たってのも確かにあれだね。比企谷くん、何か手伝うことでもある?」

    雪乃「邪魔だから帰って」

    しかしその言葉には俺の代わりに雪ノ下の冷たい声が応えた。直接向けられたわけでもない俺までが冷やっとしてしまうように感じられた。あのね、君たちそういうのは家でやんなさいよ。

    すると陽乃さんは心底つまらなさそうな顔を浮かべる。

    陽乃「えー、じゃあわたしは比企谷くんとでも遊んでようかな」

    八幡「いや、だから、俺もやることあるんすけど」

    再び俺の腕に組み付いてこようとする陽乃さんを押しのけようと軽く手を払おうとする。

    すると、俺と陽乃さんの間にめぐりさんが割り込んできた。

    めぐり「あ、あの、だったらはるさんこっちの方を」

    陽乃「……ふぅーん」

    陽乃さんがじとーっとめぐりさんの目をみつめる。めぐりさんはやや動揺したようにそれを黙って受けていたが、陽乃さんはいきなりその目線を外すと再び俺の方を見た。

    まるで全てを見通したとばかりににんまりと笑っている。その表情を見た瞬間に不快感を覚えた。それに合わせて俺の顔も微妙に強張っていく。

    310 = 1 :

    陽乃「……まさか、めぐり? へぇー、比企谷くん意外と手広いねぇ」

    そう言った陽乃さんの声は本当に意外そうだった。ちらちらと俺とめぐりさんの顔を見比べている

    何か言葉を返そうかと考えていたが、俺の口が動くより先に、めぐりさんが陽乃さんの手を引っ張りながらその場を去ろうとする。

    めぐり「は、はるさん、いいからっ」

    陽乃「ねぇ、比企谷くん教えてよ。めぐりと何かあったの?」

    しかし陽乃さんはめぐりさんに引っ張られている手も意に介さず、無視したまま俺の方をじっと見つめている。

    その眼差しからは、一体何を考えているのかは読み取れない。

    八幡「……別に、雪ノ下さんが思うようなことは何も」

    陽乃「わたしが思うようなことって何かなー、気になるなー、教えてよ比企谷くん」

    めぐり「は、はるさん!!」

    そこで、めぐりさんのものとは思えない大きな声が響く。

    めぐりさんってそんな大きな声出せたのか……と驚いていると、陽乃さんも少々意外そうな顔でめぐりさんの方を見つめていた。

    一瞬、一瞬だけなのだろうが、沈黙がその場に降りてきた。だが、その一瞬はずっと長い時間のように思えて、俺は呼吸することすら忘れた。

    311 = 1 :

    そんな一瞬の沈黙を打ち破ったのは、陽乃さんのくすりと口の端だけで笑う声だった。見れば、いつもの仮面のような笑みを携えている。

    陽乃「そっか。君には人を変えちゃう何かでもあるみたいだね」

    八幡「……?」

    陽乃さんの呟いた言葉の意味が分からず、何も答えないでいると、陽乃さんが身を翻して俺たちに背を向けた。真紅のコートがふわっと広がる。

    陽乃「なーんか邪魔しちゃったみたいだし、私は帰ろうかな。ごめんね、めぐり。後は頑張ってね」

    めぐり「え、ええ?」

    去り際にポンとめぐりさんの肩を叩くと、そのまま体育館の出口に向かって足を踏み出した。

    しかしすぐにぴたっと立ち止まると、首だけこちらを向けてくる。その視線の先には雪ノ下がいるような気がした。

    陽乃「……雪乃ちゃんも、頑張らないと取られちゃうかもよ?」

    雪乃「……」

    陽乃「じゃあね、比企谷くん。君のいう本物ってやつを、いつか見せてくれると嬉しいな」

    八幡「……」

    最後にそう言い残すと、カツカツと足音を響かせながら出口に向かっていく。

    陽乃さんの背が見えなくなるまでそれを眺めていると、残された俺たちの間には微妙な雰囲気が漂っていた。

    312 = 1 :

    めぐり「あ、あはは……なんかごめんね、比企谷くん」

    無理に浮かべたその笑顔からは、いつものようなほんわかさは感じ取れない。しかしそれでも、この雰囲気のままではいけないだろうという危機感を持っていることだけは感じられた。

    八幡「いや、別にめぐりさんは悪くないですよ。それよりさっさと準備進めちゃいましょう」

    俺もこの雰囲気を感じたままでいるのはさすがに居心地が悪く、なんとかしようとメッセージボードの方を見た。

    結衣「あ、うん、そうだねっ、じゃあどうしよっか!」

    雪乃「……」

    由比ヶ浜もそんな俺の意図を汲んでくれたのか、わざとらしいまである明るい声を出して飾りつけのアイテムを手に取った。

    一方で雪ノ下は口を強く結んだまま、目線をどこかにやっている。

    しかし見ている先は、きっとその先にはないものなのだろう。

    八幡「おい、雪ノ下」

    雪乃「……えっ、何か呼んだかしら」

    俺が名前を呼んでから、一瞬遅れて雪ノ下が反応する。

    八幡「何かじゃねぇよ。ほら飾りつけの準備、続けるぞ」

    雪乃「あ……そうよね……ごめんなさい」

    雪ノ下がそう小さい声で謝った。

    しかしその謝罪は、今の俺の言葉に対してではなく、別の何かに対しての謝罪のように思えた。


    313 = 1 :



       ×  ×  ×


    そのまま流れで巻き込んでしまっためぐりさんも含め、四人でボードの飾りつけを続けていく。

    とはいえ、こういったセンスのない俺の意見はほとんど反映されない。

    女子力の高い由比ヶ浜の指導の下、次々とメッセージボードが華やかに作りかえられていく。

    めぐり「こっちはどうした方がいいかなぁ?」

    結衣「そうですねー、あっ、これとかいいんじゃないですか?」

    雪乃「由比ヶ浜さん、それでは色が合わないのではないかしら」

    いつの間にか先ほどまでの気まずい空気も消え去り、和気藹々と作業を続けているように見える。

    もしかしたら無理にそう演じているだけかもしれない。

    しかし、少なくとも一息をつける程度の余裕は生み出せた。

    そうこうやっている三人を眺めていると、いつの間にかメッセージボードの飾りつけが完成していた。

    俺が作り終えたときのただの無機質な板ではなく、女子高生によるチューニングの結果、随分と生まれ変わっている。やだ……私可愛くなり過ぎ?

    314 = 1 :

    めぐり「うん、良い感じになったね」

    結衣「ほんと、可愛くなりましたねー」

    いやー俺の作ったものは可愛くなくて本当にすまねっすわー。

    メッセージボードの近くの机に星やハードの形をしたメッセージカード、そしてペンなどを配置すると、めぐりさんが俺の横に立ってきた。近い。

    めぐり「どうせだったら比企谷くん、何か書いてみたら?」

    八幡「俺ですか?」

    めぐり「比企谷くんの考えたものなんだし、最初に飾ってもいいと思うんだ」

    そうかなぁと思っていると、由比ヶ浜もうんうんと頷いていた。ニワトリかよ。

    でもまぁ、書きたいこともなくはない。

    八幡「じゃあ、なんか一応……」

    俺は机の上のペンとメッセージカードを取り出しながら、きゅきゅっと一文を書く。

    そこに願うのは、ただ一つ。

    結衣「あっ、小町ちゃんの……」

    八幡「ま、高校の中に飾れるんだから縁起はいいだろ」

    雪乃「そうね、確かに縁起はいいかもしれないわね」

    小町の受験が成功しますように。

    簡潔にそれだけを星型の紙に書き込むと、俺はメッセージボードの左上端にテープで貼り付けた。画鋲でも良かったのだが、散らばると危ないし。

    315 = 1 :

    めぐり「こまち……?」

    八幡「俺の妹です、今年ここを受けるんですよ」

    きょとんとした顔で小首を傾げるめぐりさんに、そう説明した。

    すると、めぐりさんはあはっとほんわか笑顔を浮かべてマジめぐりっしゅされたぁぁぁあああ!!

    めぐり「そっか。合格すると良いね」

    八幡「そうですね……」

    その優しい声音を聞いて、軽く頷く。

    しばらく自分の飾ったメッセージカードを見上げていると、くいっとブレザーの袖が引っ張られた。

    めぐり「あ、そうだ比企谷くん」

    八幡「どうしたんすか」

    めぐり「私も明日、なにか書いて飾っておくから、見つけてね」

    八幡「え? あっはい」

    よく意味が分からず適当に言葉を返してしまった。まぁ、明日もイベントのスタッフとして色々やっているだろうし、その合間にでもここにちょっと寄って見れば良いだろう。

    316 = 1 :

    いろは「せんぱーいっ、ちょっとこっちも手伝ってくださいよー」

    ふと、後ろの方から声が聞こえてきたが、先輩とは言ってもここには色々な先輩がいる。

    きっとめぐりさんが呼ばれたんだろうなーと無視していると、ガッと俺の背中に何か強い衝撃が走った。

    八幡「……なんだよ」

    振り返ると、一色がふくれっ面で口をとがらせている。

    いろは「なんで無視するんですかー」

    八幡「いや、他の人だと思ったんだけど……で、まだ何かやることあんの?」

    いろは「はい、まだステージ周りの飾りつけとか終わってないそうなので、こちらの方が終わったんだったらそちらの方も手伝ってくれると嬉しいんですけどー」

    ふっ、分かってたさ、俺の仕事がこれだけで終わらないことなんてさ。

    仕事ってのは自分の分を早く終わらせると、他の遅い奴の尻拭いをする羽目になるから本当に理不尽である。いやまぁ今回に限っては俺何もしてなくて、ほとんど由比ヶ浜たちに丸投げしてたんだけど。

    結衣「じゃあ、あたし達も行こっか」

    雪乃「そうね」

    由比ヶ浜と雪ノ下も一色の背を追うように続いていく。

    317 = 1 :

    俺もそれに続いて足を踏み出そうとした時、めぐりさんに声を掛けられる。

    めぐり「なんかいいね、こういうの」

    八幡「……そうですね」

    なんだかんだ言って、俺はこのイベントの一連の流れを楽しんでいると思う。

    自分も最初から携わっていて、そして会議で話し合ったことが今実現しようとしている。

    それなりの苦労はあったが、それ以上の充実感を覚えているのは確かだった。

    奉仕部や、生徒会、めぐりさん達とこうやって一から十までイベントを作り上げていって。

    文化祭の時や、体育祭の時のような心苦しくなるようなことも起きていない。

    楽しいなぁと思った。

    それと同時に、陽乃さんの言葉が脳裏を横切る。


    ──君のいう本物ってやつを、いつか見せてくれると嬉しいな。

    318 = 1 :

    今の俺のこの状態は、本物と呼べるのだろうか。

    多分、あの陽乃さんの言葉には、こんなものが本物であり得るはずがないという問いかけという意味もあったのだろう。

    今の俺は、周りの状況を本物だと胸を張って言えるか。

    否。

    そう言い切るには、何かが引っ掛かる。

    めぐり「……どうしたの、比企谷くん。みんな行っちゃうよー?」

    八幡「あ、すんません、すぐ行きます」

    その引っ掛かる何か。

    それが何なのか、きっと俺は知っている。

    それの解決方法が何なのか、きっと俺は気が付いている。

    でも、俺はそこから目を逸らしたいと思っている。


    ──死ぬほど悩んでそして結論を導き出せ。それでこそ青春だ。


    平塚先生の言葉が思い返される。

    だとすれば。

    なのだとすれば、やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。

    俺は悩まず、考えず、結論を出すことなく、ただこの関係のままで停滞していたいと考えているからだ。

    何故なら。

    きっと、俺が変化を望んだとしても。

    その先にあるのは、きっと幸福なんかじゃないだろうから。

    そんな先に行くくらいならば、本物なんて──


    319 = 1 :

    続きます。

    320 :

    続けて

    321 :

    絡めてくねえ

    322 :

    面白い

    323 :



      ×  ×  ×


    八幡「ふう……」

    昇降口の自動販売機の近くにあるベンチにどかっと乱暴に座ると、疲れからか大きなため息が出てきた。

    それから自動販売機で買ったマッ缶のプルタブを開けると、それをぐいっと自分の口に運ぶ。

    すると、いつもの甘ったるい味が口の中いっぱいに広がった。

    一度缶から口を離すと、再び軽いため息をついてから周りを見渡す。

    外はもう随分と暗くなっており、グラウンドで活動している部活の人間らも撤収準備を開始しているようだ。

    空気は澄んでおり、吹く風は身を切るように寒い。

    しかし一度座ってしまうと立ち上がるのも面倒で、寒さを感じながらもベンチに座ったままでいた。

    324 = 1 :

    で、俺はなんでこんなところにいるのかというと。

    先ほどまで一色の元で奴隷のように働かされており、ようやく一区切りが付いたところで隙を見て体育館から逃げ出し、こうやってMAXコーヒーを飲みに来ていたのであった。

    今まで数多くのバイトをバックれてきた経験が今生きていた。大丈夫大丈夫、人はいっぱいいたから俺一人消えたところでバレないバレない。

    しかし一色の奴、本当に俺をなんだと思ってるんですかね……せっかくバスケ部とか体育会の奴も大量にいるんだから力仕事なんてそっちに任せておけばいいだろうに、妙に俺に仕事を押し付けてきたような……。

    数秒ぶりのため息をつきながら、すでに真っ暗な外をぼーっと眺める。

    あと十分くらい時間潰してから戻れば良いかななんてことを考えていると、ふと校舎の方から足音が聞こえてきた。

    最初は無視していたが、その足音がこちらの方に向かっていることに気が付くと、ちらとそちらの方に視線をやる。

    すると、見覚えのあるお下げが揺れているのが見えた。

    めぐり「や、比企谷くん」

    八幡「めぐりさん……」

    暗くて顔はよくは見えなかったが、このほんわかとした声は間違いなくめぐりさんだ。

    めぐりさんはそのままこちらにまで近寄ると、ここ座るねと言いながらベンチの空いたスペースにちょこんと腰をかけた。

    325 = 1 :

    めぐり「ここで何してるの?」

    八幡「サボりっすよ、どこぞの生徒会長様が人使い荒いんで」

    めぐり「もう、比企谷くんったら」

    やや怒った風に言いはするが、めぐりさんの顔にはどこか悪戯っぽい微笑が浮かんでいる。本気で怒っているわけではなさそうだ。

    それでも俺はお姉さんにたしなめられたような感じになり、少しバツが悪くなって顔をめぐりさんから逸らす。

    めぐり「もう会場の設営もほとんど終わったし、あとちょっとやったら終わると思う」

    八幡「ん、分かりました」

    軽く返事をしつつ、マッ缶を再び口に運ぶ。また甘ったるい味が口の中に広がる。

    そしてそれだけ言うと、俺たちの間に沈黙が舞い降りてきた。

    外はもう暗くて、グラウンドにも部活をしている生徒の姿が見えなくなってきていた。そのせいか、この周りには学校の中とは思えないような静寂が漂っている。

    しばらくの間、俺とめぐりさんはその静寂を慈しむようにそっとしていた。

    俺が座っているベンチの横にはめぐりさんが座っており、他の人の姿は全く見えない。

    ただ、二人だけの空間。

    今ここに流れている空気がなんとも居心地がよく、しばらくそのほんわかとした雰囲気を味わう。

    326 = 1 :

    そうしてどれくらい経っただろう。

    一瞬とも何時間とも知れない間、その空気を感じていると、めぐりさんからその沈黙を破ってきた。

    めぐり「比企谷くん」

    短く、俺の苗字だけが呼ばれる。

    首だけをめぐりさんの方に向けると、ほんわか笑顔を浮かべてこちらを見つめていた。

    この冷たい冬の空気の中でも、そのほんわか笑顔からは不変の温もりを感じる。

    八幡「なんですか、めぐりさん」

    めぐり「その……楽しかったなって」

    そう、ポツリと言葉を漏らした。

    八幡「イベントの準備が、ですか?」

    めぐり「うん、全部。……奉仕部にさ、お願いしてよかったなぁって思った」

    そう言うと、めぐりさんは空を見上げた。

    俺もそれに釣られるように、首を上げて空を見上げる。その先の空には、星が綺麗に光っていた。

    俺も先ほど、それと同じような感想を抱いていた。

    楽しいなぁと。

    めぐりさんと、奉仕部と、生徒会と、こうやってイベントを作り上げていくのは本当に楽しかった。こちらも、お願いされて良かったと思う。

    327 = 1 :

    めぐり「学校を卒業する前に、こんな楽しい思い出が出来て嬉しいよ」

    続けて言ったその声音はどこか寂しげだ。思わず気になってめぐりさんの横顔を見やると、声と同様にどこか寂しげな表情を浮かべている。

    八幡「……本番は明日っすよ。まだちょっと早いんじゃないですかね」

    めぐり「ふふっ、そうだね。明日もあるもんね」

    めぐりさんが笑うのに釣られて、思わず俺もふっと笑いが漏れてしまった。そのままめぐりさんは言葉を続ける。

    めぐり「明後日も、その先も、ずっと楽しいといいなって思う」

    八幡「……」

    その言葉に含まれた意味はなんだったのだろう。

    それを問うより先に、めぐりさんは微笑みを浮かべながら再びこちらを向く。

    だがその表情は純粋な笑顔ではなく、先ほどと同じくどこか寂しさの色が混じっているもののように感じた。

    めぐり「明日のイベントが終わったら、私たち三年生は卒業式まで学校に来ることってなくなっちゃうからさ」

    八幡「……」

    めぐり「あ、でも一色さんと答辞の話をしに学校に来ることはあるかもしれないけどね。……でも、明日が最後みたいな感じに……なっちゃうかなって」

    言葉を続けるにつれその声はどんどんと小さくなり、最後の方に至ってはほとんど掠れ声のようになっていった。

    328 = 1 :

    俺たち奉仕部には先輩という存在はいない。だから、今まで卒業式というイベントに関してあまり意識はしてこなかった。

    奉仕部云々を除いても、俺が知っている先輩はただめぐりさん一人だ。

    だからこそ、そのめぐりさん自身から卒業するという事実を突きつけられると、途端に卒業式という言葉が重くのしかかってくる。

    八幡「……別に、奉仕部にだったらいつでも遊びにきて頂いても」

    寂しげな笑みを浮かべるめぐりさんにどう声を掛けて良いか分からず、なんとか搾り出した言葉がそれだった。

    まるで社交辞令のようになってしまい、他に何か上手いフォローの仕方があったんじゃないかと、言ってから思い直す。

    しかしそんな言葉でも一応めぐりさんの慰めにはなれたようで、こくんと頷いて笑った。

    めぐり「あはっ、じゃあまだ比企谷くんと会うことも出来るね」

    八幡「……ま、一色なんかも用もなく部室に来ることもあるし、別にめぐりさんが来ても平気なんじゃないですかね」

    むしろあいつはなんでサッカー部のマネージャーの仕事やら生徒会の仕事やらを投げ出してこっちに来ているのか不明なのだが。あれか、今の俺のようにサボりか。奉仕部はサボり場を提供する所じゃねぇんだけどなぁ……。

    めぐり「あはは、きっと奉仕部での居心地がいいんだよ」

    八幡「そんなもんですかね」

    めぐり「そんなもんだよ、私だっていいなぁって思うことあったもん」

    イベントの会議などで奉仕部と一緒に活動していたことでも思い出したのか、くすりと笑うめぐりさん。

    しかしこちらを見ているその眼差しはどこか真剣で、何か茶化す気にはなれなかった。

    329 = 1 :

    めぐり「きっとさ、一色さんも……私も、奉仕部での居心地の良さを少しでも感じていたいなって思ったんだ」

    めぐりさんのその声からは、真面目さと、寂しさと、そして優しさが含まれているように感じる。

    いつものほんわか笑顔とはまた違った一面を見せられて、思わずどきっと心臓が飛び跳ねた。

    めぐり「もしも一色さんや私が同じ二年生だったら、違っていたのかな」

    何が、とは言わない。

    それでも何が違っていたら、ということを察することは出来た。

    もしも、もしも一色やめぐりさんが俺たちと同じ二年生だったとしたら、あの奉仕部は今とは違う形になっていたのかもしれない。

    もしかしたら、一色やめぐりさんがあの部室に自然にいた可能性だってあったかもしれない。

    そんな、もしかしたらありえたかもしれないその夢物語は、妙にリアルに想像出来た。

    でも、それはもうあり得ない仮定だから。叶わない仮定だから。

    もしも出会い方が違っていれば、生まれた年が違っていれば、めぐりさん達との関係がどうなっていたかなんて──それを考えることに、意味はない。

    330 = 1 :

    しかしめぐりさんはそんな夢物語の話を、ちょっとゆるめのテンポでゆっくりゆっくりと続けていく。

    めぐり「私が同じ二年生だったらさ、もしかしたら同じ奉仕部に入ってたかもしれない。そして、また比企谷くんに助けられちゃうの」

    そして、俺の先輩は、何かを羨望したような、そんな瞳で俺の顔を見た。

    めぐり「それでさ、きっと……」

    びゅうっと、風が強く吹いた。

    瞬間、俺の体にも冷たい空気が襲い掛かり、思わず体をぶるっと震えさせてしまう。

    めぐり「へくちっ」

    隣から可愛らしいくしゃみが聞こえた。……さすがに、この寒い中、長時間外にいすぎたか。

    八幡「……体育館、戻りましょうか」

    めぐり「えっ」

    俺はそう言いながらベンチから立ち上がった。缶の中に微かに残っていたコーヒーをごくっと飲み干すと、近くにあったゴミ箱に投げ捨てる。

    八幡「さすがに寒いでしょ、ここ」

    めぐり「……ああ、うん、今行くね」

    一瞬めぐりさんの顔に何か影が差したような気がしたが、外は暗い。なので、その表情をよく見ることは出来なかった。

    再び、びゅうっと風が吹く。

    しかしその冷たい風は、何故か熱くなっている俺の顔には少し心地良かった。


    331 = 1 :



       ×  ×  ×


    いろは「ちょっと先輩、どこ行ってたんですかー!」

    体育館に戻ると、俺の姿を見つけた一色がむーっと顔をふくれさせながらそう言った。

    ちなみにめぐりさんはお手洗いに寄っていくとかで一緒にはいない。さすがにそれを待つのもあれだったので、先にこちらに来たというわけだ。

    八幡「ちょっと自販機でマッ缶買って飲んでただけだ」

    いろは「もう、捜してたんですからね! もっと働いてもらおうと思ってたのに」

    マジかよ、もしここに残ってたらどんだけ無駄に働かせられていたのだろうか。やはり労働からは逃げ得。将来もずっと労働からは逃げ続けようと決意を新たにした。

    332 = 1 :

    八幡「で、今どういう状況よ」

    いろは「もう大体終わってますねー、もうそろそろ帰れるかなって感じです」

    だったら俺要らなかったんじゃね? むしろ俺がいなかったことによりここまで捗ったんだとしたら、席を外した俺には感謝してほしいまである。

    そんな感じで一色と話をしていると、雪ノ下と由比ヶ浜もこちらにやってきた。

    結衣「あ、ヒッキーだ。どこ行ってたの?」

    雪乃「まさか、逃げ出したわけじゃないでしょうね」

    八幡「なんでサボってたこと前提みたいな言い方されてるの俺……」

    まぁ、サボってたんだけど。

    責めるような雪ノ下の目線から逃れるように体育館の内装を見渡してみると、すっかりイベント用の内装に変わっている。あとは当日、ここで食べるチョコや、ステージに有志が使う楽器などを運ぶくらいだ。

    333 = 1 :

    八幡「もうすっかりイベントって感じだな」

    いろは「はい、明日も色々ありますからね。明日はいきなりいなくならないでくださいよ」

    八幡「ならねぇよ……」

    そうは言ったが、当日大量のイチャついてるカップルとかリア充を目にしたら即座に逃げ出す自信がある。なんならイベントに来ないでそのまま直帰するルートを取るまである。

    ていうか今のうちに明日休ませてもらって良いですかって頼んだ方がいいんじゃないの?

    しかし俺が休みを申告する前に、由比ヶ浜が口を挟んできた。

    結衣「そういえば、城廻先輩は? ヒッキーと一緒じゃなかったの?」

    八幡「いや」

    さっきまで一緒に外で話してたとは素直に言い出せず、短くそう答えた。

    すると由比ヶ浜はそっかーとだけ呟くと、くるっと体をターンして背中をこちらに見せてくる。

    結衣「そろそろ終わりの時間かな……」

    雪乃「ええ。一色さん、切りが良くなったら……」

    いろは「はい、そのつもりですよー」

    そう言いながら三人ともステージの方へ向かっていく。少し遅れて、俺もその後をついていった。

    334 = 1 :

    いろは「じゃあそろそろ下校時刻なのでー、終わったところは帰っても大丈夫ですー」

    一色がそう宣言すると、作業をしていたお手伝いの連中からうぇーいなどと声が上がった。大体仕上がっているところも多いし、すぐに皆帰りの準備を始めるだろう。

    三浦「あ、結衣ー、この後サーティワン行かない?」

    結衣「ええっ、今から!?」

    海老名「優美子、もうだいぶ遅い時間だよ……」

    三浦「じゃあ、普通にご飯でもいいけど」

    結衣「それだったらあたしも行こうかなー」

    いつの間にか近くにいた三浦と海老名さんと話をしている由比ヶ浜をちらと見やりながら、次に一色に視線をやった。すると一色もこちらを向いており、目が合う。

    いろは「あ、じゃああとは生徒会でやりますから大丈夫ですよ?」

    雪乃「そう? ここまでやっておいて変に遠慮する必要はないのだけれど……」

    いろは「まぁ本当にあと大した仕事残ってないですし、明日も手伝ってもらうんですから、今日くらいは少し早く上がってもらっても」

    八幡「じゃ、お言葉に甘えて」

    いろは「……大丈夫とは言ったのは私ですけど、そうノリノリで帰ろうとされるとなんかムカつきますね」

    え? だって普通、帰っても大丈夫とか言われたらウキウキ気分にならない?

    前にやってたバイトの時とか上がっても平気だよとか言われたら秒速でタイムカード切って帰ってたぞ。なんなら上がっても平気とか言われなくても定時になってたら勝手に帰ってたレベル。次の日から気まずくなって、すぐ行かなくなったけど。

    335 = 1 :

    帰ろうとして体育館の入り口の方に目をやると、丁度帰ってきていためぐりさんが歩いてきているのが見えた。

    めぐり「あれ、もう終わりの時間だったかな」

    八幡「らしいっすよ、帰ってもいいって」

    めぐり「そうなんだ。あ、一色さんごめんね、ちょっと長く離れてて」

    いろは「いえいえお気になさらずー、もう帰っちゃっても平気なのでー」

    帰っちゃっても平気のところが早く帰れのように聞こえたのは俺が言葉の裏を読みすぎているだけですかね……いろはす怖ぁ……いや、俺が勝手にそう思っているだけだし、実際勘違いであって欲しい。

    いろは「じゃ、先輩方、お疲れ様でした。明日もよろしくお願いします」

    八幡「おう、お疲れ」

    雪乃「ええ、また明日」

    結衣「お疲れー!」

    めぐり「お疲れさまー」

    ぺこりと一礼する一色を見てから、俺、雪ノ下、めぐりさんは荷物を取って体育館を出る。由比ヶ浜は三浦、海老名さんと行動するとのことで、そのまま体育館に残った。

    336 = 1 :

    並んで体育館を出た辺りで、めぐりさんが口を開く。

    めぐり「楽しみだなぁ、明日。比企谷くんと雪ノ下さんはどう?」

    八幡「……まぁ、一応」

    雪乃「それなりには」

    それに対して、俺たちの返事はやや微妙なものだった。本当に楽しみなのだが、いまいちそういった感情を素直に吐露することに慣れていないだけなのだろうと思う。

    しかしそんな返事でも満足だったのか、めぐりさんは楽しそうにうんうんと頷いている。

    めぐり「そうだよね、楽しみだよねー」

    ほんわかとした笑顔を浮かべながらそう言うめぐりさんを見て、思わずふっと笑みが漏れてしまう。見れば、雪ノ下も似たような感じで優しい笑みを浮かべていた。

    めぐり「ありがとうね、奉仕部に相談して本当に良かったと思うよ」

    先ほど、外で聞いたものに近い言葉を掛けられる。それに対して、雪ノ下は軽く首を振った。

    337 = 1 :

    雪乃「本番はまだですよ、城廻先輩」

    その雪ノ下の返事も、先ほど俺が言った言葉と同じだ。

    雪乃「明日のイベントが終わってから、それからでも遅くはないでしょう」

    八幡「ま、そうだな。もしかしたら明日いきなり失敗するなんて可能性もあるわけだしな」

    雪乃「あら、まさかまだ中止に追いやる計画を諦めてなかったのかしら?」

    八幡「最初からそんなこと考えてねぇよ」

    こいつ、本当に人をなんだと思ってやがるのかしら。普通に明日サボろうかなーとしか考えてねぇよ。

    めぐり「もうっ、失敗しないように私たちが頑張るんだよ?」

    雪乃「ええ、そうですね。私たちの中から失敗に繋がるようなミスが起きなければいいのですけど」

    八幡「それ、明日のチョコ作りに関わる由比ヶ浜のことを指してるんだよね、俺のことじゃないよね?」

    明日のバレンイタンデーイベントでは、学校の予算で発注したチョコを振舞うことになっている。そのほとんどは単なる既製品だが、一部は当日家庭科室で作ったチョコレートケーキなどを持っていく予定だ。クリスマスイベントで学んだ技術を少し応用した形になる。

    んで、何故かそのケーキ作りに由比ヶ浜がどうしても関わりたいとか抜かしたので、仕方なくそれに由比ヶ浜を面子に加えたのだった。

    338 = 1 :

    それを思い出したのか、雪ノ下は頭痛を堪えるようにこめかみを押さえながらため息をついた。

    雪乃「そうなのよね……明日、由比ヶ浜さんを監視しながらケーキ作りをしないといけないのよね……」

    そう呟く雪ノ下の声音は本当に不安そうである。逆の意味で由比ヶ浜の料理の腕は信頼されきっているようだ。

    明日由比ヶ浜が手を加えたケーキには口をつけないでおこうなどと考えていると、あははとめぐりさんのほんわかとした笑い声が聞こえた。

    めぐり「じゃあ、二人とも。明日もよろしくね!」

    八幡「うす」

    雪乃「分かりました」

    俺と雪ノ下の返事が重なる。

    今まで二週間近くの準備の結果が、明日のイベントで示されるのだ。

    それを意識すると、少しだけ胸の中で何かが高まるのを感じた。

    ついに、明日がバレンタインデーイベント本番である。


    339 = 1 :

    めぐめぐめぐりん☆めぐりんりーん

    思いつきで立てたこのスレも、気が付けば(単純な文字数だけで比較すれば)薄いラノベに並ぶくらいにまでなってきました。
    ラストデイまで、もう少しだけお付き合いください。

    それでは書き溜めしてから、また来ます。

    341 :

    原作でもあった描写だからこのssについてじゃなくて申し訳ないんだけど
    はるのんって八幡が本物が欲しいって言ったのなんで知ってるだっけ

    342 :

    欲しいってことを知ってるって言い方も変だけど、八巻で葉山とのお出掛けに無理矢理連れ出すときの電話で、それを本物と呼ばない→君は理性の化け物だねみたいなやり取りがソースじゃないかな

    343 :

    このスレは癒されるなぁ……

    344 :

    やっぱめぐりんスレが最高だなぁ

    345 :

    ああ、めぐりんぱわー注入されたい……

    346 :

    ようやく本番か
    期待

    347 :

    乙です。
    質問なんだけど、薄いラノベとこのssの文字数を教えて。

    348 :

    最初のほうの葉山たちの違和感は・・・

    349 :



     *  *  *


    夢を、夢を見てたんだ。

    夢の中の君は、みんなに優しくて、ちょっと捻くれていて、そして周りの人たちに想われていて。

    私は思ったんだ。

    君自身は、誰のことを想ってるんだろうだなんて。

    もしも、そんな人がいるなら。

    私はその人のことがどうしようもなく羨ましい。

    できれば、あなたの大切なひとが、私であればいいのに。

    私であれば……。


     *  *  *


    350 = 1 :



         ×  ×  ×


    そしてとうとう金曜日、バレンタインデー当日を迎えた。

    八幡「……朝か」

    はっと目を開けると、俺の視界に入ってきたのは知らない天井──ではなく、いつもの俺の部屋の見慣れた天井であった。

    近くに置いていた携帯を取って時間を確認すると、いつも目覚まし時計が鳴る時間の数分前。

    目覚ましが鳴るちょっと前に起きてしまうと、数分間くらい睡眠時間が減ったような気がして損した気分になるな。

    とはいえ、さすがにこの時間に二度寝でもしようものならば間違いなく遅刻確定である。小町に蹴り飛ばされる前に起きようと布団から出ると、ひんやりと冷たい空気が俺の体を包み込んだ。

    ……やはり冬の布団というものは最高だな、うん。

    もそもそと布団の中に潜り直すと、携帯がピリリッと鳴った。

    なんだなんだ、目覚まし機能消し忘れたっけかと携帯の画面を見てみると、メールが来ている。

    こんな朝にメールが来るとは珍しい。ここ最近アマゾンで何か頼んだわけでもないし……それとも何かバーガーでも安くなるの? と思いながらフォルダの一番上のメールの差出人を見た。

    FROM 城廻めぐり

    八幡「!!?」

    ガバッと被っていた布団を放り投げて、その携帯画面を穴が開くほどに睨みつける。もう寒さとか気にならない。

    しかしこんな朝にめぐりさんからメールとは、一体何があったのだろう……と疑問を抱えたまま、携帯のメールを開く。


    ←前へ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 次へ→ / 要望・削除依頼は掲示板へ / 管理情報はtwitterで / SS+一覧へ
    スレッド評価: スレッド評価について
    みんなの評価 :
    タグ : - めぐり ×2+ - 俺ガイル ×2+ 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。

    類似してるかもしれないスレッド


    トップメニューへ / →のくす牧場書庫について