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    元スレめぐり「比企谷くん、バレンタインデーって知ってる?」八幡「はい?」

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    201 :

    めぐりんというとあれか、
    上野界隈をぐるぐる回ってるちっこい100円バス
    http://www.city.taito.lg.jp/index/kurashi/kotsu/megurin/

    202 :



          ×  ×  ×


    八幡「だーめだ、思いつかねぇ」

    掴んでいたパソコンのマウスを投げるように放り出し、椅子の背もたれにだらしなく寄り掛かった。

    チラッとパソコンの時間を確認すると、午後の十時を過ぎたところだ。めぐりさん達とのお出かけから帰宅して、もう一時間ほどが経っている。

    家に帰ってからインターネットを使ってバレンタインデーイベントを盛り上げるようなアイディアというものを捜していたのだが、これがどうも見つからない。

    めぐりさんには「比企谷くんの考えたアイディア」と言われている以上、そもそもグーグル先生に頼ること自体が間違っていたのかもしれないが、そうはいっても一人で考えるのには限度がある。

    結局グーグル先生に頼っても、いい考えは浮かんでいないのだが。

    203 = 1 :

    大体俺がバレンタインデーを盛り上げる方法なんてものを考えること自体が無理なんだと通算数十回目の思考に陥りながら、ちらっと机の上に放置してある自分の携帯を見た。新着メールはない。

    めぐりさんからは、後で明日のことについて連絡するねと言われている。

    その言葉がさっきから妙に脳内を反芻し、心がそわそわとしてまったく落ち着かない。

    こうやって携帯の新着を確認するのも、多分三分くらいぶりだ。

    携帯から目を逸らすようにまたパソコンの画面に目をやり、グーグルにバレンタインデー関係のキーワードを打ち込む。

    そしてマウスであれこれ動かして、上の方に出てきたサイトを確認した。

    へー東京って大きなイベントたくさんやってんだなーどうでもいいーと眺めていると、自分でも気が付かないうちにちらっと視線が携帯の方に向かってしまった。

    204 = 1 :

    自分の目線がパソコンの画面ではなく携帯に向かっていたことに気が付くと、はぁと大きなため息をつく。

    全く、昔クラスメイトの女子とメルアドを交換して返信を期待してた頃とやってること変わってねぇ。

    出来ることならあまり思い出したくない過去のことが脳裏を掠める。

    あれだけのことがあったのにも関わらず、未だに反省していない自分に嫌気が差した。

    しかし、それと同時に。

    妙に高まるこの胸の鼓動を感じるのを嫌ではないと感じている自分がいるのも、また確かであった。

    205 = 1 :

    ピリリッ! ピリリッ!

    八幡「うおっ!」

    自分への嫌気と、高まる期待という相反した二つの気持ちの間で揺れ動いていると、突然携帯からメールの着信を告げる音が鳴った。

    ばっと掴みかかるように携帯を取り、メールを確認する。

    アマゾンからだった。

    八幡「ふざけんなこの野郎!!」

    思わず叫んでしまい、携帯をベッドの上の布団に向かって投げつけてしまった。どんなにキレていても布団に投げる俺のチキンっぷりもとい理性を褒めてほしい。

    206 = 1 :

    とんだ肩透かしを食らってしまい、はぁと肩を落とすと、再び携帯がピリリっと電子音を鳴らした。

    八幡「……」

    今度はなんだ。二連続でアマゾンか。それとも近くの地域に住む性欲を持て余した人妻か。

    もし材木座だったら着信拒否かましてやろうと決意を固めて携帯を布団から取り出し、画面を確認する。

    FROM城廻めぐり

    八幡「!!」

    無機質なフォントで書かれていたその文字からは、何故かほんわかとする雰囲気を感じた。

    すぐに指を動かして、そのメールの中身を確認する。

    207 = 1 :

    FROM 城廻めぐり

    TITLE 明日の予定について


    こんばんは、比企谷くん!(。・ω・)ノ゙

    ちょっと遅くなっちゃってごめんねm(o・ω・o)m

    もし良かったら明日、東京の方にも出かけてみようと思うんだけどどうかな?(・ω・?)

    お返事、待ってます!。+m(´・ω・`)m+゚

    208 = 1 :

    八幡「ごはっ! どふっごほっごほっ!」

    メールの文字列が目に入ってきた瞬間になんか俺の心臓が凄いことになり、思わず盛大に咳き込む。

    な、なんだこの破壊力は……!?

    由比ヶ浜のメールも顔文字を多用する女子高生スタイルであったが、これをめぐりさんが打っていると想像すると思わずこう、こみ上げるものがありますね?

    やるじゃん顔文字……めちゃくちゃほんわかしたぜ……。

    普段(´・ω・`)系の顔文字などあまり好きではなかったし、自分で使ったこともほとんど無かった。

    しかしめぐりさんが使う分には全然構わないというか、一発で好きになりましたね。

    209 = 1 :

    少々ニヤけてしまっている自分の顔を抑えようとしつつ、もう一度メールの文章を読み返した。

    どうやら、明日は東京の方に出かけようということらしい。

    確かに都会の方が千葉より色々見るところも多いだろう。それに千葉県内で回るとしたら今日回ったところ以上のところもあまりない。

    了承の意を書き綴ったメールの文章を作成すると、それをめぐりさんに向けて転送する。俺も顔文字とか覚えた方がいいのかな……今度由比ヶ浜にでも教わるとしよう。

    さて、明日めぐりさんと東京方面でデートということになったわけだが。

    そうか、デートなのか……。

    …………。

    とりあえず、なんだ。

    お母様に頭を下げて、お小遣いの前借りをお願いしに行くか。


    210 = 1 :



       ×  ×  ×


    そして翌日、日曜日の朝を迎えた。

    昨日と同じくほとんど雲の見えない快晴であったが、昨日に比べると僅かに空気が暖かいような気がする。

    そんな冬晴れの空の下、俺はめぐりさんに指定された場所──魔境・新宿駅に俺はいた。

    わいわいと賑わう駅前を眺めながら時間を確認すると九時三十分。本来の待ち合わせ時間より三十分も早い。

    当然俺の家からは千葉駅より新宿駅の方が遠いため、昨日に比べるとかなり早い時間に家を出ている。一時間以上早い。

    もちろんそんなに早く来る必要はないのだろうが……その、なんだ。

    家にいるとそわそわしてとにかく落ち着かず、思わず早い時間に家を飛び出してしまったのだ。お前どこの遠足前の小学生かよってレベルである。

    あまりにそわそわしているのを見かねたのか、小町がお兄ちゃん? 頭大丈夫? などとすごい心配そうに声を掛けて来たくらいだ。まさか受験寸前の受験生に心配されるほどとは思わなかった。

    211 = 1 :

    まぁそんなこんなで早めに家を出て、早くも新宿駅に着いたわけだが……。

    八幡「……ここどこだよ」

    新宿駅ってすごいね! まるで迷路みたいだ!

    いや、迷路みたいというか、迷路そのものと言ってもいいだろう。

    誰だよこんな風に作ろうと考えた奴。これ全部把握してる奴いるのかよ。

    誰だかは知らないが新宿駅の構造を考えた奴に心の中で恨み言を吐きつつ、集合場所と書かれていた東口に向かう。

    東口……これ本当にここでいいんですかね……? と内心不安になりながらきょろきょろと歩き回っていると、ふと知った顔を見つけた。

    あの編まれたお下げ、見覚えあんなーと思って目線をやると──

    八幡「し、城廻先輩?」

    めぐり「ひ、比企谷くん!?」

    ──なんと、本人であった。

    212 = 1 :

    まだ集合時間三十分前なのになんでこの人いるんだろうとブーメラン的なことを考えていると、俺が何か言葉を発するよりに先にあちらの方から声を掛けてきた。

    めぐり「び、びっくりしたー……まだ集合時間まで結構あるよ?」

    八幡「あ、いや、それ言ったら城廻先輩もだと思うんですが……」

    めぐり「あ、あはは、そうだったね」

    俺がそう指摘すると、めぐり先輩は誤魔化すようにあははと笑みを浮かべた。

    瞬間、いつものほんわかとした雰囲気が醸し出される。

    その雰囲気を感じると、俺も動揺していた心を落ち着けることができた。

    めぐり「比企谷くんとのデートが楽しみだったから、早めに来ちゃった!」

    心が全然落ち着かなくなった。

    何この人、天然で言ってるの今の発言?

    そういうのマジで勘違いするんで控えた方がいいですよ!

    213 = 1 :

    八幡「あ、まぁ、いや、俺もそんな感じです……」

    とはいえ、今日のデー……お出かけが楽しみでいてもたってもいられなくて早めに来たのは俺もなのだ。

    しかし改めてデートって言われると緊張してしまう。

    いや、別に付き合ってない男女でのお出かけもデートっていうのは知ってますけどね? 俺がデートっていう言葉に変な幻想を抱いているだけなんですけどね?

    めぐり「ほんと? あはは、結構私と比企谷くんって気が合うのかもね」

    八幡「そ、そっすね……」

    そんな言葉を聞きながら、いやいや相手にそんな気はない、あくまで普通の会話をしているだけなのだと自分に言い聞かせる。クールになれ比企谷八幡。

    ふぅ、ちょっと落ち着いた。この人との会話はいちいちこちらに気があるような言葉を使われるから心臓に悪い。

    ……いや、単に俺が自意識過剰なだけですね。そうですね。

    214 = 1 :

    めぐり「そういえば比企谷くん、さっき私のことまた城廻先輩って呼んだでしょ」

    八幡「あっ」

    突然めぐりせんぱ──めぐりさんが少しむっとした顔になったので何かと思えば、先ほどの俺の呼び方についての話だった。

    そういえばさっきは動揺していたのもあって、咄嗟に今までと同じ城廻先輩呼びをしてしまった。

    まぁ、まだめぐりさん呼びに慣れていないというのもあるが……それに女の人を名前で呼ぶの恥ずかしいんだもん……。

    八幡「すんません、めぐりさん」

    めぐり「ん、よし!」

    俺が名前で呼ぶと、めぐりさんは満足気に頷いた。

    めぐり「じゃ、行こっか!」

    そんな何気無い動作にも可愛らしさを感じていると、めぐり先輩がぱんっと手を叩いてそう宣言する。

    めぐり「時間に余裕出来ちゃったし、ちょっと行きたいところあるんだけどどうかな?」

    八幡「もちろん構いませんよ」

    そう返事すると、やったっ、とほんわか笑顔を浮かべながらその目的地に向かって歩を向けた。

    215 = 1 :

    そういや、この前一色と出かけた時はデートコース考えてこいとか色々言われたなぁ。

    しかし今日のデートコースは全てめぐりさんに一任しており、実のところ俺はどこに行くのかすら知らされていない。

    男としてはどうなんだろうなぁと思いつつも、こうぐいぐいと引っ張ってくれるめぐりさんに安心感を覚えているのも確かだった。

    これが年上のお姉さんの包容力というやつなのだろうか。

    今まで年上のお姉さんという存在と関わることがほとんどなかったので知らなかったが、存外悪くない気分であった。陽乃さん? いや、ちょっと記憶にないですね……。

    めぐり「じゃあ比企谷くん、今日こそは頑張ってイベントのアイディア出しをしようね!」

    やべ、完全に忘れていた。

    そういや今日はあくまでバレンタインデーイベントのアイディア出しのためのお出かけである。

    めぐりさんがデートって言うので、すっかり頭から抜け落ちていた。いや単なる言い訳だなこれは。

    八幡「どんなのがいいんですかね」

    めぐり「あはは、それを考えるためにきたんだよ」

    めぐりさんと並んで、騒がしい新宿の道を歩く。

    隣を見れば、ほんわか笑顔を浮かべるめぐりさんがいる。

    その事実がなんだかむず痒くて、めぐりさんに視線を合わせられずに前を向いてしまう。

    めぐりさんとの新宿デート。

    それがどう転ぶかは分からないが、せめてこのほんわか笑顔を霞ませることだけはしないようにしようと、その時誓ったのであった。


    216 = 1 :

    めぐめぐ☆りんりん

    すんません日が空きました。
    お察しの通り、延期した11巻の発売日にすら完結が間に合わなさそうなので、気にせずゆっくりやっていきたいと思います。

    それでは書き溜めしてから、また来ます。

    217 :

    おつ ゆっくりでいいのよ~待ってる

    219 :

    今更だけどMAXコーヒー味のチョコってあるのねwめぐり先輩SSとか俺得過ぎてヤバい

    220 :

    殺伐としていないめぐりんを選ぶべき

    221 :



      ×  ×  ×


    駅前から騒がしい通りをめぐりさんと並んで歩く。

    都会オブ都会とも呼べる新宿駅の前であるということ、そして日曜日の昼前であるということから、非常に多くの人で賑わっている。

    人ゴミが苦手な俺にとっては地獄のような空間だ。本当にこれだけの人がどこから沸いて出てきたのだろうと疑問に思う。人がゴミのようだ!

    これがいつものように一人でぶらぶらと歩いているだけならば即座に帰宅を考えるほどなのだが、今日の俺は一人で出掛けているわけではない。

    隣にいるめぐりさんをちらっと見ると、ご機嫌そうに鼻歌を歌っている。

    昨日のようにめぐりさんとはぐれないように細心の注意を払って歩いているのだが、こうも人通りが多いとふとしたタイミングで見失ってしまいそうだ。

    浅く息を吐いて気持ちを落ち着かせ、めぐりさんを見失わないように、そしてめぐりさんを置いていかないようにと、普段の歩調より緩やかに歩くことを意識する。

    すれ違う人を避けると、またすぐに横に目をやった。ちゃんとめぐりさんはそこにいる。

    どうにも気を張ってしまって落ち着かずにいると、こちらを向いためぐりさんと目が合った。

    222 = 1 :

    めぐり「どうしたの、比企谷くん?」

    八幡「いや、昨日みたいにはぐれたらマズいかと思いまして」

    俺がそう返答すると、めぐりさんが少し目を見開いた。

    めぐり「気を遣ってくれたんだね、ありがと」

    八幡「まぁ、人多いですし……」

    めぐり「あ、じゃあさ……こうすれば、はぐれないよ!」

    八幡「ふえっ!?」

    そう言うのと同時に、なんとめぐりさんが俺の手を掴んできた。思わず変な言葉が漏れてしまう。ふえぇめぐりお姉ちゃんぐいぐい来るよぅ……。

    驚きと戸惑いの目線を向けると、当のめぐりさんはあははとほんわかした笑顔を浮かべていた。

    めぐり「これならはぐれる心配もないね!」

    八幡「えっ、あっ、はい……」

    唐突に手を握られた驚きのせいで、上手く言葉が返せない。大丈夫だよね、手汗とか出てないよね?

    手から感じるめぐりさんの温もりを意識してしまうと、心臓がばくばくと音を立てて鳴り響く。はぐれる心配は無くなったが、代わりに過呼吸で倒れる心配が出てきた。

    223 = 1 :

    せめて表情だけでも平静さを保とうとするが、ぎゅっとめぐりさんに手を握り締められるとそれすらも崩壊してしまった。すぐにめぐりさんから目を離してそっぽを向く。

    ……出来れば、今の自分の顔をめぐりさんに見られたくはない。

    鏡を見ずとも分かる。きっと自分の今の顔はさぞかし酷いものになっているだろう。小町辺りに見られたら多分キモっと一蹴されそうな感じだ。

    めぐり「じゃ、改めてれっつごー!」

    八幡「お、おー……」

    めぐりさんがそう宣言しながら手を空に向かって突き上げると、繋いでいる俺の手も一緒に高く突き上げられる。

    そんなめぐりさんの愛らしい姿を見て、思わずふっと笑いがこぼれてしまった。

    年上らしい強引さと、先輩らしくないような無邪気さ。

    そういう色々なところが混ざっているのが、めぐりさんの魅力なのだろう。


    224 = 1 :



        ×  ×  ×


    新宿の某巨大デパートの中に入っても、俺とめぐりさんの手は繋ぎっぱなしであった。

    恋人でもないのにずっと繋ぎっぱなしはどうなのだろうかと横に並ぶめぐりさんの顔を見るが、あちらから手を離そうとする雰囲気は感じない。

    かと言ってこちらから離すのも非常に躊躇われ、結果ずっと繋ぎっぱなしという状態である。

    例え遅刻寸前で自転車を全速力で濃いでもここまではならないだろうという勢いで鳴っている心臓の鼓動を感じながら、少しでも気を逸らそうとデパートの中に目をやる。

    駅や道だけでなく、デパートの中にも人が溢れかえっていた。

    店内は家族連れ、カップル、女子グループ、カップル、カップルと様々な人たちで賑わっており、都会の人の多さを感じる。

    ちょっと待って、カップルの比率高くない?

    そう思いながら周りを見回していたが、ふと自分たちも端から見たらそう見えるのかという考えに行き着く。

    瞬間、顔と頭が熱くなったように感じられた。このデパートの中、暖房効かせ過ぎだろ……。

    225 = 1 :

    ちらっとめぐりさんの様子を見てみると、そういうことは特に気にしていないのか、物珍しそうに周囲の様子を窺っている。

    めぐり「わーすごい人だねー」

    そう言いながらギュッと俺の手を強く握り締めてきた。同時に俺の心臓も握り締められたような感覚に陥る。

    もう本当に心臓に悪過ぎるので思わずこの手を離したくなるが、この人混みだとまたはぐれる可能性も非常に高い。

    何よりめぐりさんが手を離してくれそうにないので、なんとか冷静になれと自分に言い聞かせた。

    八幡「そういや、ここでなんかバレンタインデーのイベントやってるんでしたっけ」

    めぐり「あれっ、知ってたの?」

    少しでも気を紛らわせるために適当な話題を出す。

    昨日バレンタインデーのイベントのうんたらをネットで調べている時に、確かここのことも書いてあったはずだ。

    細かいところまで読んだわけではないので、ここでイベントがあるということ以上は何も知らないのだが。

    八幡「そんなに詳しくはないんですけどね」

    めぐり「あはは、ここのイベントはなんかすごいらしいんだー」

    当のめぐりさんもそこまで詳しくはないのか、それ以上の説明はなかった。

    226 = 1 :

    そのままデパート内を歩いていくと、真ん中の広場のようなところに出た。

    その先では、ものすごい盛り上がりを見せているブースがある。何? アイドルでもきてんの? サイリウム持ってきてないんだけど。

    よく見るとバレンタインデーイベント開催中と書かれた看板が立っている。ここで行われているのが、めぐりさんの言っていたイベントだろう。

    やっていること自体は昨日の千葉のモールでのイベントと大差無いように見えるが、とにかく規模が段違いであった。

    あまりの気合いの入れっぷりと人の多さを前に、思わず圧倒されてしまう。

    めぐり「見てみて、比企谷くん! すごいよー!」

    八幡「ちょっ、待ってくださいめぐりさん」

    めぐりさんに手を引っ張られ、やや早歩き気味にその後を追う。

    ブース内に入ると一層騒がしい雰囲気に包まれるが、そんな中でもめぐりさんのほんわか雰囲気は健在であった。

    めぐり「わっ、このチョコ可愛いね」

    八幡「うわっ、たっけぇ……」

    めぐりさんが指をさした先のチョコを見る。

    確かに凝ったデザインをしているなとは思うが、それより値札に目が行ってしまった。

    いや、チョコに出す値段じゃねぇよこれ……ケーキをホール単位で買う訳じゃないんだからさ……。

    227 = 1 :

    そんなこんなで、めぐりさんとあちこちを眺めながらブース内を歩いていく。

    このブース内は非常に盛況だが、そこから何か学べることは無いだろうかと考えを巡らせた。

    何故盛況なのか?

    人がいるから? チョコが豪華だから? そういう雰囲気だから?

    八幡「学校でも大きいチョコレートケーキを出すとかはどうなんですかね」

    めぐり「うーん、一応チョコレートケーキ自体は作るつもりだけど、ここにあるものほど豪華には出来ないかもだね」

    思いついたアイディアを口に出し、めぐりさんとあれはどうだこれはどうだと、学校のイベントにも活かせないか話し合う。

    そのまま話を続けていると、店員らしきお姉さんがこちらに向かっていらっしゃいませーと声を掛けてきた。

    店員「こんにちは、カップルさん! バレンタインで彼氏に渡すチョコはお決まりでしょうか?」

    めぐり「えっ? あ、あわわ、カップル!? そ、そう見えるのかな……?」

    八幡「……まぁ、こんなところで手繋いでたらそりゃそうでしょ」

    ばっと繋いでいた手を離し、顔を真っ赤に染めて動揺したようにあわあわとするめぐりさん。

    いや、そう動揺されるとこっちまで恥ずかしくなってくるんですけど……ていうか、俺と手を繋ごうとした時はえらく普通そうにしてたのに、他人に指摘されて気が付いたんですか……。

    228 = 1 :

    そのやり取りを初々しいですねーと微笑みながら見ていた店員のお姉さんは、棚に並んだ商品を手を広げながら紹介してきた。

    店員「そんなお客様にこちらのチョコなどはいかがでしょうか、本命としても渡せる物になっていましてー」

    めぐり「ほ、本命!? ど、どうしようかな……」

    なんでそこでチラチラと俺の方を見るんですかね……?

    その光景を直視出来ずに、思わず視線を逸らしてしまう。

    だが、ブース内のどこを見渡しても、そこにはカップルがうじゃうじゃと沸いていた。うっわーうっぜぇー。

    いや、今日は俺も似たような感じなのか……そう考えるとまた顔が熱くなる。

    さっきまでめぐりさんと繋いでいた手を見た。めぐりさんの手の温もりが今でも鮮烈に思い返せる。

    めぐりさん……まさか他の男子にも気軽に手を繋いでいませんかね……俺じゃなかったら本当に一発KO物ですよこれ……。

    再びめぐりさんの方へ視線を戻すと、店員のお姉さんと相談しながら何かを買っているようだった。

    店員のお姉さんがありがとうございましたーと頭を下げるのと同時に、めぐりさんが何かが入った袋を片手に持ちながらこちらへぱたぱたとやってきた。

    229 = 1 :

    めぐり「お待たせ比企谷くん、ちょっと良いラッピング用紙があったから買ってきたんだー」

    そう言うと袋の中からラッピング用紙を取り出して俺に見せてきた。どうやらチョコを買ったわけではなかったらしい。

    本当にあそこで誰かへの本命チョコでも買っていたのなら俺としても困るからあれだったのだが……いや、誰に渡すかとか俺が知ったことじゃないんですけどね。

    めぐり「じゃあ、次行こっか」

    八幡「うす」

    そう言って歩き出しためぐりさんの半歩後ろをついていくように、俺も歩き始める。

    すると、くるっとめぐりさんが体を回してこちらの方へ振り返ってきた。

    何かをして欲しそうな、そんな感じの印象を受ける上目遣いで俺の目を真っ直ぐに見ている。

    ……。

    八幡「……はぐれてもなんですし、また手繋ぎますか?」

    めぐり「うんっ!」

    そう言うと、めぐりさんが満面のほんわか笑顔を浮かべながら俺の手をぎゅっと握った。

    再び、俺の手にめぐりさんの体温が伝わる。それと同時に俺の心臓がまた飛び跳ねるように鼓動を打つのを感じた。

    今日一日だけで、普通に生きてる時の何日分の鼓動を打ってるんだよ……と思いながら、めぐりさんと肩を並べて歩み始めた。


    230 = 1 :



       ×  ×  ×


    午前中はめぐりさんとあっちこっちを見て回り、時計の針が正午を迎えようとした辺りでめぐりさんがそろそろお昼にしよっか? と提案してきた。

    俺としても少々小腹が空いてきたし、歩き疲れてもきたのでそれをすぐに承諾すると、近くにあったこじゃれたカフェの中に入った。

    中はなかなかにオサレな雰囲気を醸し出しており、前に一色と千葉でカフェに行った時のことが思い出される。

    店員に案内された席に着くと、めぐりさんは荷物を置いてちょっとお手洗いに行ってくるねとそのまま店の奥の方に歩いていった。

    その背中を見届けると、俺はふぅ~と大きなため息をつく。

    や、本当に疲れた……。

    単純にあちこちを見て回ったから体力的に疲れたというのも当然あるのだが、それより精神面の疲労が半端無かった。

    疲れたと言っても、もちろん嫌な意味ではない。

    ただめぐりさんといると緊張しっぱなしなので、こうやって落ち着ける時間が欲しかったのは事実だ。

    そもそもめぐりさんの手に触れるだけでもハードル高いっつーのに、そのまま手を繋いで新宿デートとかマジでメンタルゴリゴリ削れますって……。

    もう一度大きなため息をつくと、午前中のことを振り返る。

    最初のデパートを出てから、あちこちの服屋や雑貨を見て回っていたのだが、これもうバレンタインデーイベント関係ねぇな。

    そういやイベントのアイディア出しも今日中に決めとかねぇとなぁと背もたれにだらしなく寄り掛かっていると、たったったっと足音がこちらに向かってきた。めぐりさんが帰ってきたようだ。

    231 = 1 :

    めぐり「もうっ、だらしないよ?」

    八幡「ああ、すんません……」

    めっと可愛らしく指摘してきためぐりさんに対して適当に謝りながら、椅子に座りなおす。

    そして机の上にあるメニューを取り出し、そこに並んでいる字面と写真を眺めた。

    この前一色と行った時も思ったが、カタカナでばーっと並んでいるのを見ても全然違いが分からん。

    カレーとかグラタンとかみたいなのは普通に分かる。しかし、クロックムッシュとかリエットとか文字だけ見ても全然どんな食べ物なのかイメージ出来ない。

    ラーメン関係だったらそれなりに分かるつもりだが、こういった洒落た料理関係の知識に関しては疎い。独り身の男子高校生がカフェのメニューに詳しいわけがないんだよなぁ……。

    ただメニューの中には写真も一緒に載っているので、どんな料理なのかはなんとなく分かる。

    文字だけ見ても分からない料理の写真を載せているのは親切だなぁと考えながら前のめぐりさんの方を見ると、うーんどうしようかなーと人差し指を顎に当てながら悩んでいる様子であった。

    その人差し指が当たっている顎の少し上に視線をやると、めぐりさんの唇が視界に入ってきた。

    めぐりさんの唇ってつるんしてるなという感想が浮かんだが、すぐにそれを打ち消すと再びメニューに目を落とした。俺は一体何を考えているんだ。

    232 = 1 :

    めぐり「比企谷くん、決まった?」

    八幡「あ、いや、まだです……」

    変なことを考えてたことがバレていないだろうかと一瞬ヒヤッとしたが、めぐりさんはそっかーと言いながらうんうんとメニューと睨みっこを再開した。

    何を馬鹿なことを考えてるんだろうな俺は、と煩悩を消し去りながらめぐりさんの視線の先に目をやった。

    八幡「めぐりさんは何か食べたいものでも決まったんですか?」

    めぐり「うーん、こっちのパスタと、こっちのピザで悩んでてさ」

    はぁ、カフェのメニューにある食べ物って軽食系が中心だと思ってたけど、ここ本当に色々あんのねぇ。

    どうしよっかなーと悩んでいるめぐりさん(可愛い)を眺めていると、一つ考えが浮かんだので、それを提案することにした。

    八幡「だったら、その二つを注文して二人で分けませんか? それならどっちも食べられますよ」

    めぐり「えっ? 比企谷くんはいいの?」

    八幡「まぁ、俺は別に食べたいのとかないですし、それにその二つとも旨そうですし」

    そう言いながらメニューに載っているパスタとピザの写真を指差すと、めぐりさんがほんわかと笑いかけて来た。

    233 = 1 :

    めぐり「朝の時といい、比企谷くんって本当に気が利くよね」

    八幡「ええ、そうなんですよ。気が利くから真っ先に集団から外れて空気悪くならないように配慮したりします」

    めぐり「え? あ、あはは……」

    うーんだめかー。めぐりさんに引きつった笑いで返されてしまった。

    めぐりさんのように純粋な人にぼっちネタは少々受けが悪かったかなーと思っていると、めぐりさんがいつの間にか真剣な眼差しでこちらを見ていることに気が付いた。

    めぐり「そういうのじゃなくてさ、文化祭の時とか、体育祭の時とかも……比企谷くんは色々気を回してくれてたもんね」

    八幡「そんなんじゃないですよ、仕事だったからやってただけで」

    めぐり「む、じゃあ今日のも仕事だと思ってやってるの?」

    八幡「うっ」

    痛いところを突かれ、今度は俺の顔が引きつる。

    234 = 1 :

    確かに今日のお出かけの目的は、あくまでバレンタインデーイベントのアイディア捜しだ。

    しかし、今日のめぐりさんとのやり取りを仕事だと割り切ってやっているわけではない。むしろ仕事だと割り切るという手があったかと言われて気が付いたほどだ。

    八幡「や、別に違いますよ……俺もめぐりさんと、その、出掛けるのは楽しいですし」

    俺にしては珍しく素直な言葉が口から出てきた。まぁ楽しいんだけど心臓に悪過ぎることだけが難点かな……。

    もしもこんなのが毎回のように続いていたら早死にする自信がある。将来のめぐりさんの彼氏には是非頑張って長生きしてもらいたい。

    そういえばめぐりさんももう少しで大学に入学するのだし、そういった出会いなんかもあるのではないか。

    その考えが脳裏を横切った時、不思議なことにちくりと何かが胸に刺さったような気がした。

    ……なんだったのだろう、今のは。少し気になって、自分の顔が険しくなるのを自覚する。

    しかしめぐりさんはそんな俺には気が付かず、少々顔を赤らめて俯いていた。

    八幡「……? どうかしたんですか」

    めぐり「ああ、いや、なんでもないよ! あはは、比企谷くんも楽しいって言ってくれたなら嬉しいな」

    再びめぐり先輩が顔をあげると、いつものほんわか笑顔が浮かんでいた。

    それを見ていると、こちらまでほんわかしてくる。緊張していた心がめぐりっしゅされたような気がしてきましたね。

    235 = 1 :

    めぐり「じゃあ、そろそろ店員さん呼ぼっか」

    めぐりさんが手を挙げながらすみませーんと声をあげると、それに気が付いた店員がこちらにやってきた。

    その店員に向かってメニューに指を差しながら注文を告げるめぐりさんを眺めていると、ふと変な考えが頭に浮かんだ。

    この人に好かれることが出来た男はとても幸せだろうな、と。

    こんな美人で、優しくて、着立てよくて、ほんわかしていて、天然で、やることはきっちりやれて、ほんわかしている(二回目)こんな内外完璧な美少女、そうはおるまい。

    そして、そんなめぐりさんがもし、もし誰かのことを好きになったとしたら、そいつは一体どんな野郎なのだろう。

    ──ほんの少しだけ、あり得ない妄想をする。

    めぐり「では以上で。……比企谷くん、どしたの?」

    八幡「いや、なんでもないっす」

    今までの自分の経験を軽く振り返り、そして冷静さを取り戻す。

    ふぅと軽く息を吐き、自分に落ち着けと言い聞かせる。そして顔を上げると、めぐりさんと目が合った。

    なんとなくその目を逸らせないでいると、めぐりさんがにこっと笑いかけてきた。冷静さを取り戻したはずの自分の心臓が再び変なリズムを奏で始める。

    自分の脳内に再び変な考えが浮かび上がるが、それをすぐに打ち消した。

    目の前の人とは目を逸らさずに向き合えているのに。

    どうして、自分の気持ちとは素直に向き合えないのかなんて。

    そんな恥ずかしいことを考えているのを察せられたくなくて、思わずめぐりさんからも目を逸らしてしまった。


    236 = 1 :

    ほんわかめぐりんマジめぐりん

    それでは書き溜めしてから、また来ます。

    238 :

    うむ、やはりグイグイと引っ張ってあげられる年上が至高と言うことだな。
    いや、私はまだ若いが。

    239 :

    めぐりっしゅされるぅ

    240 :

    >>238
    先生、お仕事を先に片付けてから御戻りください

    242 :

    実際あれくらい面倒くさい八幡には引っ張ってあげられる年上のお姉さん的ポジが必要

    243 :

    公務員とかいいんじゃないだろうか
    教師とか面倒見いいとおもうよ

    244 :

    年上なら引っぱってくれるとか、年下だと引っぱっていけないとかってのはただの幻想

    245 :



       ×  ×  ×


    会計を済ませて外に出る。時間はまだ昼を少し過ぎたところだ。

    まだまだ新宿の道には非常に多くの人が行き交っており、下手をすれば午前中より人が多いように感じる。

    こんな寒い冬の休日くらい、お前ら家に引きこもろうとか考えないの?

    いや、こうやって外を歩いている俺が言うのもブーメランかもしれないが、それにしたって人多過ぎんだろ……と心の中で愚痴を吐く。

    都会は便利だが、人が多過ぎる。

    やはり俺は千葉で一生を過ごそう……と改めて千葉に骨を埋める決意を固めているとし、横でぴょこぴょこと揺れるお下げが視界に入った。

    カフェを出て、再び俺と手を繋ぎ直しためぐりさんはえらく上機嫌そうにしている。

    ほんわかとした雰囲気を感じていると、めぐりさんがこちらを向き、俺の目を見た。

    246 = 1 :

    めぐり「じゃ、また色々回ろっか!」

    八幡「そうっすね」

    めぐりさんのほんわか笑顔を見ると、再び俺の心臓の鼓動が早さを増す。

    ああもう慣れねぇなぁ、めぐりんマジめぐりんでしょ。

    しかし、これもう段々とバレンタインデーイベント関係無くなってきている様な気がするんですけど、それはいいんですかね……。

    まるで本当に、ただの男女のデートのような……。

    めぐり「次はあっちの方に行こうよ」

    八幡「えっ、ああ、はい」

    ぐいぐいと俺の手を引っ張って先行するめぐりさんから離れないようについていく。

    楽しそうなめぐりさんを見ながら、ふと思考を巡らす。

    自分が難しく考え過ぎなのだろうか。

    もっと簡単に、純粋に、単純に、このめぐりさんとの二人の時間を楽しむべきなのだろうか。

    247 = 1 :

    だが、決して俺はめぐりさんと付き合っているわけではない。

    今までに女の子と二人で出掛ける機会などほとんどなかったので、どう割り切れば良いか分からずにもやもやとする。

    世の中の男子諸君は付き合っていない女の子と二人で出掛けることにどんなことを思うのだろう。俺は世の中の一般男子からは少々かけ離れていると思うのでよく分からん。

    女の子にかっこよく見られたいだとか、これを機にもっと仲を深めたいだとか、ゆうてこれワンチャン夜の部あるっしょとか、人によって思うことは違うのだろう。

    なら、俺は。

    比企谷八幡は、城廻めぐりと出掛けてどう思っているのか。

    楽しいとは思う。

    どきどきするとも思う。

    けれど、それだけじゃない。

    もっと、他に何かがあるような、そんな気がする。

    めぐり「ねぇ、比企谷くん」

    一人の世界に入り込みかけていた俺の思考は、めぐりさんの声で現実世界に引き戻された。

    248 = 1 :

    八幡「どうしたんすか、めぐりさん」

    めぐり「や、なんか難しいこと考えてるような顔してたから、何考えてるのかなって」

    少々心配するような顔をしているめぐりさんを見て、今考えるようなことではなかったかなと反省する。

    今はめぐりさんと二人ででかけているのだから、俺がどう思うかより、めぐりさんのことを考えるべきだったな。

    八幡「いや、バレンタインデーイベントのアイディアでなんかないかなって考えてまして」

    適当に思いついた言い訳を誤魔化すように言う。

    でも、そろそろマジでなんか考えないとマズいのは確かなんだよな……。

    めぐり「んー、そんな難しく考えなくていいんだよ? 別に手間が掛かれば良いってものじゃないと思うし」

    八幡「まぁ、そうなんすけどね……」

    ただ少し、イベントの盛り上がりに貢献出来るような、そんなアイディアでいいとは思う。

    確かにめぐりさんの言った通り手間がかかれば良いと言うものではないと思うし、そもそもそんなに手間が掛かるようなものは実行出来るかすら怪しい。

    もっと簡単に考えるべきなんだろう。

    今日のこのデートの意味と同じように。

    249 = 1 :

    八幡「……ん?」

    そんなことを考えながら騒がしい新宿の街並みを眺めていると、ふとこじゃれた店が視界に入り込んだ。

    お菓子屋か何かと思われるその店の前では、小さな机を出してチョコを売り出している。バレンタイン前なので、店の中だけでなく、外でも売り出そうとしているのだろう。

    なんとなくそれが気になって見ていると、めぐりさんがぐいぐいと俺の手を引っ張った。

    めぐり「ちょっと見ていく?」

    八幡「じゃあ少しだけ……」

    その店の前の机の近くにまでやってくると、店員のお姉さんがいらっしゃいませーと言いながらぺこりと頭を下げた。

    なんとなくこちらも釣られて軽く頭を下げながら、机の上に並んでいるものに目を落とす。

    よく見るとチョコだけでなく、何か別の物も一緒に売っているようだ。それを注視していると、店員さんがにこりと営業スマイルを浮かべながら高い声で紹介してくる。

    店員「そちらはメッセージカードですよー、プレゼントのチョコと一緒にどうですかー」

    めぐり「わっ、これ可愛い……ひとつください!」

    八幡「メッセージカード……」

    確かにプレゼントと一緒に手紙とかはよくある手法だ。昔は小町から何かプレゼントを貰う時には手紙も一緒に入っていたものだ。

    ちなみに書いてある内容はおめでとうとかじゃなくて、次に小町がプレゼントして貰いたいリクエスト表である。本当にあの子ったら……まぁ買っちゃうけど。

    しかし言葉では伝えにくいことでも、文字でならば伝えられるということはあるだろう。

    それに文字は言葉と違って形として残るからな。聞き漏らしも聞き間違えもない。

    プレゼントのリクエストなど、まさに言葉より文字の方が伝えやすいだろう。形として残るので聞き間違いをした振りをして安い物を買ってくる戦法が使えない。本当に小町に手紙でおねだりすることを教えた奴誰だよ……。

    250 = 1 :

    そんなことを考えていると、ふとそこからヒントを貰ったような気がした。

    八幡「メッセージ……」

    瞬間、そこでとあるアイディアが閃く。

    このメッセージカード、イベントにも使えるんじゃないのか?

    そのメッセージカードを購入していためぐりさんが買い物を終えると、そのアイディアについて相談することにした。

    八幡「めぐりさん、確か体育館の壁際って特に何か飾るわけではないんですよね?」

    めぐり「え? うん、写真か何かは貼ろうかなーって思ってるけど、さすがに全部は使わないよ」

    八幡「じゃ、そこに何かメッセージコーナーみたいなのって作れますかね」

    めぐりさんがはてなと首を傾げたので、俺はそのまま説明を続ける。

    八幡「ほら、このメッセージカードのようなもの用意して、何かそれを貼るスペースがあったらどうかとか考えたんですけど……」

    発想としては七夕の短冊や神社の絵馬に近いかもしれない。

    ああいうのって、ただ自分の書いたものを飾るだけなのに結構盛り上がるからな。

    昔、七夕祭りに行った時に小町が嬉々として短冊にお願い事を書いていたものだ。お兄ちゃんに友達が出来ますようにって。余計なお世話じゃ。

    そう伝えると、めぐりさんはぱあっと笑顔を浮かべてうんうんと頷いた。


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