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    元スレめぐり「比企谷くん、バレンタインデーって知ってる?」八幡「はい?」

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    タグ : - めぐり ×2+ - 俺ガイル ×2+ 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
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    501 = 1 :

    続きます。

    503 :

    うおーん

    506 :

    うざったい障害物競走だなぁ

    507 :

    障害物競争ワロタ

    508 :

    他ヒロインをメインにするなら、その三人にノータッチで進めるわけにもいかんだろ

    509 :

    乙です、きっちり他キャラの見せ場も全部書いてるのがいい

    511 :

    八幡「俺は……」

    めぐりさんを捜しているところだ──

    そう言おうとしたところで、一瞬躊躇ってしまい、俺の口が止まった。

    今、俺がめぐりさんを追っている理由は決して褒められたようなことではない。端から見れば俺がめぐりさんを泣かせてしまい、それを遅れながら追っているという状況なのである。

    その後ろめたさから、若干素直にそれを口にすることに抵抗があったのだ。

    だが、そんな細かいことを気にしている状況ではないとすぐに考え直す。俺がめぐりさん相手にやらかしてしまったことは素直に受け止めるべきであるし、別に今それを説明しようというわけでもない。

    雪ノ下にめぐりさんのことを見かけなかったか、それを問おうとしたその時、雪ノ下の方が先に口を開いた。

    512 = 1 :

    雪乃「あなたにこんなところをうろついている暇はないはずよ」

    八幡「すまん、実行委員の仕事は後でやるから、今は──」

    雪乃「そっちではなくて……」

    はぁ、と雪ノ下はこめかみを指で押さえながら呆れたようにため息をつく。うん? と何かに違和感を覚えた。

    てっきり実行委員の仕事を投げ出してうろついているものと思われていると考えていたのだが、雪ノ下の反応を見る限り何か的外れのようだ。

    ならば雪ノ下のうろついている暇はないという言葉にはどういう意味が込められているというのか。

    雪乃「……あなた、城廻先輩相手に随分と色々言ったそうじゃない」

    思わず息が詰まった。

    八幡「なっ……」

    雪乃「どうやら、本当のようね」

    513 = 1 :

    そう言いながら睨みつけるような目線を送ってくる雪ノ下を前に、俺はただ呆然と立ち尽くすことしか出来ない。

    どくんどくんと鼓動が素早く波を打つのを感じる。この冬の寒い学校の階段にいるのにも関わらず、体が熱で包まれているような感覚になった。

    何故、雪ノ下がめぐりさんと俺のやり取りについて知っているのか。

    その内容に関しては、俺が説明した一色と、それを聞いていた由比ヶ浜以外には知らないはずなのに。

    そんな疑問が俺の顔にでも浮かんでしまっていたのか、何かを察したような雪ノ下はふぅとひとつため息をついてから、言葉を続けた。

    雪乃「先ほどまで、私は城廻先輩と話をしていたのよ」

    八幡「めぐりさんと……?」

    雪ノ下がめぐりさんと話をしていた、という事実に俺は驚愕を隠すことが出来なかった。

    何故雪ノ下がイベント中のこの時間に、階段の上から降りてきたか。

    それは由比ヶ浜曰く、上に向かっていったというめぐりさんと話をしていたからだったのか。

    514 = 1 :

    きっと俺に対する失望の言葉をめぐりさんから聞かされたのだろうな。

    そう思いながら階段の上の雪ノ下を見上げると、雪ノ下はコツコツと音を鳴らしながら階段を降り、俺の側にまで降りてきた。

    雪乃「城廻先輩は自分のせいだと気に病んでいたけども」

    八幡「いや、違う。悪いのは俺だ」

    めぐりさんが自分のせいだと気に病んでいた……?

    今回の件でめぐりさんに悪い点など一切存在していない。悪いのは全て俺だ。好意から目を逸らし、逃げ続け、言い訳で全てを覆い隠そうとした俺に全ての非がある。

    だが、俺がそれを言わずとも、雪ノ下は全て分かっているといわんばかりに首を縦に振った。

    雪乃「そんなこと言われなくても分かっているわ。城廻先輩はあなたのことを何も悪くは言ってなかったけれど、どうせあなたのことだからあなたが何か変なことを言ったのだろうと思っただけよ」

    八幡「……まぁ、そうなんだけどよ」

    嫌な信頼のされ方だった。事実、その通りなので何も言い返すことは出来ないのだが。

    515 = 1 :

    雪乃「あなたはいつもそうじゃない」

    八幡「そうだな」

    何も、言い返せない。

    俺はいつだって間違ってきた。

    それは今回に限ったことではない。俺は今までに幾度となく間違いを犯してきた。

    だが、解は出てしまっても、解き直すことが出来る。それを学ぶことが出来たのは、あの奉仕部という場所だ。

    今回も間違えてしまったけれど。

    それでも、今から正しにいく。

    彼女たちに、背中を押されてしまっている以上、もう二度と逃げたりはしない。

    雪乃「……けれど、今のあなたはいい顔をしているわね」

    八幡「は?」

    唐突に変なことを言われてしまい、俺は一瞬呆気に取られてしまう。

    こいつ何言ってんだとその真意を問うべくその顔を見ると、くすっと雪ノ下の顔に微笑が浮かんだ。

    516 = 1 :

    雪乃「ああ、勘違いしないで欲しいのだけれど、あなたの目が腐っていることに変わりはないわ」

    八幡「うっせ。今更変わるもんかよ」

    雪乃「そうね、今更ね。初めて会った時からその目は腐ったままだもの」

    八幡「人の目がそうそう変わるわけねぇだろ」

    雪乃「でも」

    そこで雪ノ下が言葉を区切った。そしてその透き通るような青みがかった瞳で俺の目を真っ直ぐに見つめてくる。

    その眼差しからは、ほのかに暖かいものを感じたような気がした。

    雪乃「今のあなたの目からは、何か強い意思のようなものを感じるわ」

    八幡「ちょっと色々あってな」

    雪乃「……由比ヶ浜さんと一色さんかしら」

    八幡「!!」

    雪ノ下はどこまで気が付いているのだろうか。

    図星を突かれて狼狽する俺の様子がおかしかったのか、雪ノ下は再びくすりと笑う。

    517 = 1 :

    雪乃「その様子だと、本当に二人と何かあったようね」

    八幡「……本当に、色々あってな」

    先ほどの生徒会のやり取りが思い返される。冷静になってみるとかなり恥ずかしいことをやらかしたような気がするが、そのことで身悶えるのはめぐりさんの一件が終わってからでもいいだろう。

    今は、背中を押された勢いのまま突っ走ればいい。

    雪乃「彼女らの想いには気が付いていて?」

    八幡「ついさっき聞いたよ」

    雪乃「それでもここに来ているということは……あなたは城廻先輩を選ぶのね」

    八幡「ああ、そうなるな」

    雪乃「……そう。由比ヶ浜さんと一色さんの友人としては少し残念に思うけれど」

    さりげなく由比ヶ浜と一色を友人と認めていることが少しだけ微笑ましく思った。由比ヶ浜はともかく、一色までいつの間にそういう仲にカテゴライズされていたのか。

    雪乃「でも、あなたの好きなようにやればいいと思うわ」

    突き放したような言葉の割に、その口元には微笑みを携えていた。

    518 = 1 :

    八幡「悪いな」

    雪乃「私に謝っても仕方がないでしょう。由比ヶ浜さんと一色さんの所には私が行くわ」

    そう言うと、雪ノ下は俺の側を離れ、下に向かう階段に向かって歩を進める。

    その階段を降りる直前で、くるっと振り返って俺の方を見た。

    雪乃「……あなたも、私の友人なのだから。上手くやれることを祈ってるわ」

    八幡「は?」

    信じられない言葉が出てきたので、思わず聞き返してしまった。

    ──なぁ、雪ノ下。なら、俺が友

    ──ごめんなさい。それは無理。

    そんなやり取りをしたのはいつのことだっただろうか。一瞬で思い出せない程度には昔のことだったような気がする。

    あの時はとてもとても、互いのことを知ることは出来ないと思っていたけれど。

    今は。

    519 = 1 :

    八幡「意外だな。俺と友達になることなんかありえないなんて言われたような気がするんだけど」

    雪乃「ええ、確かに言ったわ」

    何の言い訳もせずに、雪ノ下はそれを認めた。

    雪乃「……でも、過去の間違えは正すことが出来る。そうでしょう?」

    俺の顔を見上げ、そう言って微笑んだ。

    その顔を見て、俺は悟る。

    こいつもまた、間違えの正し方を学んできているのだと。

    雪乃「しっかりしなさい。あなたは私が友人と認めた人間なのよ。そこは堂々と胸を張っていいと思うわ」

    八幡「……さんきゅ、雪ノ下」

    雪乃「その感謝は、何に対してかしらね?」

    ふふっと笑う雪ノ下に釣られて、俺もふっと軽い笑みを浮かべた。

    この雪ノ下先生が言うんだから、間違いねぇんだろうな。

    520 = 1 :

    そういえば前にも同じような会話をしたような気がする。あの時といい、雪ノ下には救われっぱなしだ。

    雪乃「さっきまで私と城廻先輩は四階の空中廊下のところにいたわ。多分、まだいると思うのだけれど」

    四階の空中廊下……あの校舎と特別棟をつなぐ、屋根のない廊下か。いつぞや、雪ノ下、由比ヶ浜と話をしたことがある場所だ。

    八幡「分かった。行ってくる」

    雪乃「ええ。あなたなら上手くやれると信じて待っているわ」

    そう言うと、俺は階段を駆け上がり、雪ノ下は階段を降りていった。


    521 = 1 :



       ×  ×  ×


    ──今の君ならばやれるって、私は信じているからな。

    ──小町以外にも、そうやって素直に気持ちを伝えることが出来るようになればいいのに。

    ──君には俺の二の舞になってほしくはない。だから君はちゃんと応えてやってくれ。その結果がどうなろうともね。

    ──先輩なら出来ますよ──わたしが好きになった先輩なら、きっと城廻先輩の想いを受け止められるって信じてます。

    ──ヒッキーさ、もっと自分に自信持っていいんだよ。あたしが保障するから。

    ──ええ。あなたなら上手くやれると信じて待っているわ。


    今まで受け取ってきた言葉が、まるで走馬灯のように脳裏を横切った。

    そのひとつひとつが、今の俺の自信に繋がっていく。

    もう、めぐりさんの想いから目を背け続けた時の俺ではない。

    今なら。

    今ならば、俺は全てを受け止め、そして全てを伝えることが出来る。

    見つけにいくんだ。

    本物と呼べる場所を。


    522 = 1 :



    校舎の階段を駆け上り、四階にまで辿り着く。そこから空中廊下へと出る踊り場にまで走った。

    空中廊下へ繋がる硝子戸の前に立つと、俺は一度深呼吸をする。

    そして意を決すると、その硝子戸を開き、そして空中廊下に踏み出した。

    空は暗くなっていたが、星は明るい。月の光が、今いる場所を照らしている。

    その光の先に、彼女が佇んでいた。

    手すりに寄り掛かってぼーっとしていたようだったが、硝子戸の開く音に気が付いたのかこちらの方を振り向く。そしてそこにいた俺の姿を見つけたのか、はっとその表情が驚愕の色に染まる。

    めぐり「比企谷くん……!?」

    月の光に照らされた彼女の表情には、一言では言い表せないほどに複雑なものが浮かび上がっていた。

    冷たい風が吹くと、彼女の髪をなびかせた。前髪が揺れると、つるりとしたきれいなおでこが月の光をきらりと反射する。

    俺はそのめぐりさんの元に向けて、ゆっくりと足を向けた。

    八幡「めぐりさん……話があります」

    本物と呼べる場所を探しに行くのは、きっと。

    今なんだ。


    523 = 1 :

    もう少しだけ続きます。

    525 :

    乙でーす
    頑張れー

    528 :

    RPGの中ボスラッシュからのラスボス感が凄い
    正にラストダンジョン

    530 :

    ヒッキーに恋愛感情の無いゆきのんってssじゃ珍しいな
    でもやりとりかっこよかったからこっちの関係性の方がいい

    531 :

    由比ヶ浜はどうやっても恋愛感情無しにするわけにはいかないけど、ゆきのんは確かに親友ポジの方が輝くと思うんだよな

    532 :

    なんかゆきのんの立ち位置ってよくわからないんだよな
    恋仲って感じでもないし親友といわれてもあまりピンとこないし
    しっくりくるポジションが思い浮かばん

    533 :

    雪乃は中身空っぽだからしかたないね

    534 :

    親友ポジだけど誘惑して一発しちゃうゆきのん

    いいよね

    535 :

    少なくともここのゆきのんのポジは好き

    536 :

    楽しみに待ってる

    537 :



     *  *  *


    俺が欲しがった「何か」。

    それは一体なんなのか、きっと自分自身でもわかっていない。

    言葉に言い表そうにも、なにも適切な言葉が思いつかず。

    定義に当てはめようにも、どれもまちがっているような気がした。

    ああでもないと考えても、こうでもないと悩んでも、明確な答えは導き出せないまま堂々めぐり。

    結局、ただの言葉遊びなのだろう。

    別に、俺が欲しいものは言葉なんかじゃない。

    けれど、その欲しい「何か」が何なのか、形にして知りたいと思う。知って、安心したいと思う。

    形のないものは、ふとした瞬間に消えてしまいそうだから。

    もしかしたらそんな形もない、姿もない、存在しているのかもわからない「何か」を求め続けること自体がまちがっているのかもしれない。

    その「何か」を突き詰めていった結果、何も残らないのかもしれない。

    それでも。

    それでも俺は。

    その自分の欲しがった「何か」が何なのか、ちゃんとした答えを手にしたいと思う。

    考えてもがき苦しみ、あがいて悩んで。

    そうやって、めぐりめぐって、その先にあるものは。


     *  *  *


    538 = 1 :



        ×  ×  ×


    今、俺とめぐりさんがいる空中廊下には、屋根や壁などの遮るものは全くない。

    頭上の夜空には空気の澄んだ冬らしく星が瞬いており、先ほどから冷えた風が強く吹き抜けている。

    しかしそんな冷たい風を受けながらも、俺は自分の頭が沸騰しているように熱くなっていくのを感じた。

    こんなにも熱くなっている理由は、ここまで全力で駆け抜けてきたからというだけではないだろう。

    八幡「……」

    めぐり「……」

    星が輝く夜空の下、俺とめぐりさんの目線が交差する。

    突然やってきた俺に対して、めぐりさんは困惑しているような表情をしていた。

    あれだけ酷いことを言い放ちながら、何故俺が息も切らせながらめぐりさんの元にやってきたのか、おそらく理解していないに違いない。

    無理もないだろう。

    先ほどの俺はめぐりさんの想いを受け止める覚悟も出来ておらず、一度は振ってしまっているのだから。

    しかし、あれから紆余曲折を経て、今俺は想いを伝えるために、ここに立っている。

    ──はずなのだが。

    539 = 1 :

    さて、参ったな。

    めぐりさんに話があると切り出したはいいが、何から言えばいいのか。

    いや、言うべきことがあるのはもちろん分かっている。

    だけど改めてめぐりさんを視界に入れた瞬間、考えていた言葉は全てどこかに消え去ってしまい、頭の中が真っ白になってしまったのだ。

    まぁ、どういうことかっていうと。

    俺、今超テンパってます。

    八幡「……あ、えっと」

    めぐり「比企谷くん……?」

    カッコつけられたのは最初だけだったようだ。

    っかしーなぁ……さっきまでマジでなんでも出来るような高揚感に溢れてたはずなんだけどなぁ……。

    頭が真っ白ましろ色シンフォニーになってしまっただけでなく、足はすくみ、腕は固まり、口はカチカチ歯を鳴らしているだけで次の言葉が続かない。

    まさか話がありますなんて啖呵切ってから次に出てきたのが「あ、えっと」になるとは自分でも思ってなかった。典型的なコミュ障か。覚悟はどうした覚悟は。

    540 = 1 :

    先ほどまで大変複雑そうな表情を浮かべていためぐりさんも、話を切り出してきたはずの俺が何も言葉を続けなくてさすがに気まずくなってきたのか、どう反応したらいいか困惑しているように見える。

    その様子がなんだか可笑しくて。

    思わず、笑いがこみ上げてしまった。

    八幡「はは、は……あははは……!」

    めぐり「え、ひ、比企谷くん!?」

    多分、今の俺は相当おかしいように見られているだろう。

    はっきり言って自分でもおかしいと思う。

    あんな酷いことを言った奴がなんか駆けつけてきて、そして話があると言いながら何故か笑い出す姿は、端から見たら完全にヤクかなんかをキメちゃった奴にしか見えないだろう。

    それでも、何故かこみ上げてくる笑いを抑え切れなかった。

    多分、テンションやらなんやらが一周ぶん回って振り切れてしまったかで頭がどうかしてしまったに違いない。

    541 = 1 :

    八幡「はっはっは、はっ、ごほっ、ごほっ」

    めぐり「ちょっ、比企谷くん、大丈夫?」

    笑いすぎて喉が詰まってしまい、咳き込んでしまう。心配したような声を出してめぐりさんが俺の側にまで駆けつけてきた。

    ああ、腹が痛い。決して笑える状況ではないはずなのに、何故か笑ってしまったこの状況すら可笑しくて再び笑いそうになる。

    自分でも訳が分からない。本当に頭イっちゃってるんじゃなかろうか。

    めぐり「……ふふっ、比企谷くんったら、もう……」

    俺の意味不明な笑いに釣られてしまったのか、めぐりさんも笑い出してしまう。

    そこにこの数週間で見慣れた、ほんわか笑顔が浮かぶ。暗い夜空の中でも、その笑みは輝いているように感じた。

    八幡「はは、あははは……!」

    めぐり「ふふっ、もう……どうしたの急に……ふふふっ」

    お互いに顔を見合わせて、この空中廊下に二人の笑い声が響き渡る。

    ああ、その笑顔が見れてよかった。瞬間的にそう感じた。

    542 = 1 :

    俺の欲しがったもの。願ったもの。守りたかったもの。

    それは一体なんなのか。

    きっとその答えは、この笑顔にあるのかもしれないだなんて、漠然とした考えが脳裏を掠める。

    そうだ、俺はこの笑顔を見たくて、霞ませたくなくて、守りたくて、ここに来ているのではなかったか。

    八幡「……めぐりさん」

    めぐり「うん」

    ひとしきり笑ってから、めぐりさんの顔を見つめる。

    先ほどまでのほんわか笑顔は一旦鳴りを潜め、真面目な表情に切り替わっていた。

    その瞳には毅然とした、真剣な色が宿っている。

    その目を見て、俺は意を決した。


    言おう。

    543 = 1 :

    笑って体がほぐれたせいかどうかは分からないが、頭の中は妙に冴えている。

    今から何を言うべきか、何を言いたいのか、明確に考えが出てきていた。

    先ほどの生徒会室での失態を詫びようとも思ったが。

    やはりその前に。

    これを伝えてなくては始まらない。

    八幡「俺は──」

    気持ちを集束させるかのように大きく息を吸い込む。

    冷たい空気と一緒に、愛しい想いが胸を満たした。

    その気持ちを言葉に込めて。

    俺は、心からの答えを口にする。


    八幡「俺は。めぐりさんのことが好きです」

    544 = 1 :

    めぐり「──!!」

    八幡「都合のいいことを言っているのは分かっています……。さっきは本当にすみませんでした。それでも、これが本物の気持ちです。俺は、めぐりさんとずっと一緒にいたい。この学校から卒業してしまってからも、ずっと一緒にいたいと思ってます! だから!」

    胸の奥から溢れ出た想い。

    今この瞬間、この言葉には嘘も偽りもない。それは俺が心の底から願い、欲し、望んだもの。

    全てを振り絞り、勢いよく叫びを上げた。


    八幡「だから! 俺と、ずっと一緒にいてください! めぐりさん!!」


    めぐり「……ひきがや、くん」

    俺の叫びに、めぐりさんは驚いたように目を瞬かせていた。

    これで伝わったのだろうか。

    正直、言ってから他にもたくさん言いたいことがあったなと思った。

    顔をあげて、めぐりさんの顔を見つめる。

    めぐりさんは、俺の言葉を呑みこんだように頷いた後。

    にこりと。

    ほんわかとした満面の笑みを、いっぱいに浮かべた。

    めぐり「……はい、喜んで」

    545 = 1 :

    たたっと、めぐりさんが俺の側にまで駆け寄り、そして俺の手を掴んだ。

    あたたかい。めぐりさんの手に掴まれた自分の手から、ぽかぽかとしたぬくもりを感じる。

    めぐり「私も言わなきゃね」

    そう言ってすぅと軽く息を吸い込むと、すぐにはぁと息を吐き出す。

    そして俺の顔を見上げると、ふふっと笑みをこぼれさせた。


    めぐり「私も。比企谷くんのことが好きだよ」


    八幡「……ははっ」

    最初にここに来た時とは全く別の理由で、再び笑いがこみ上げてしまった。

    嬉しくて。

    自分の好きな人から好きだと言われるのが、あまりに嬉しくて。

    目の前のめぐりさんの姿がじわりとぼやける。くそっ、何やってんだ俺は。せっかく想い人が告白してくれたというのに、その姿も見れないというのか。

    目から溢れ出る涙を拭おうとすると、がばっと俺の体がめぐりさんに抱きしめられた。

    546 = 1 :

    八幡「ちょっ、めぐりさん!?」

    めぐり「ずっと、ずっと一緒にいようね、比企谷くん……」

    八幡「……はい」

    俺も、そのめぐりさんの体を抱きしめ返す。

    全身で、めぐりさんの全てを感じる。

    腕の中にいる身体からは、めぐりさんの温もりと鼓動が、柔らかな香りと共に伝わってきた。

    めぐり「嬉しいな……。私、卒業したら、もう比企谷くんとお別れになっちゃうのかなって思ってた……。あんなお別れの仕方なんて……嫌だったの……。ずっと、不安で……」

    八幡「めぐりさん……」

    声を詰まらせながらも、そう俺の耳元で呟いた。

    随分とめぐりさんを不安な思いにさせてしまったようだ。

    けれど、もう二度とそんな思いはさせない。

    俺が、ずっと側にいるから。

    八幡「これからは、ずっと一緒にいますから……」

    めぐり「うん、約束だよ」

    そう言いあってから、ぎゅっとお互いの身体を強く抱きしめた。

    そうやって互いのことを感じていたのは一瞬だったか、それとも何分という時間だったか。

    俺には、その時間が永久のようにも感じられた。


    547 = 1 :



       ×  ×  ×


    そうして、校舎内である。

    めぐり「へくちっ、うう、寒いね……」

    八幡「ですね……さっみぃ……」

    いくら抱きしめあっていたとはいえ、コートも着ずに長時間冬の外、しかも強い風も吹きさらしている中で立ち尽くしていたせいで身体は完全に冷たくなってしまっていた。ガチガチと身体の震えが止まらない。今の俺ならナチュラルにふなっしーの真似が出来る自信がある。

    さすがにこれはヤバいと感じた俺は、めぐりさんと共に校舎の中に戻ってきたというわけだ。

    無論、校舎の廊下も暖房が効いているというわけでもないので、寒いことに変わりはない。まぁ、風が直接当たらないだけ、幾分かはマシだ。

    はぁ~と自分の吐息を手に当てて僅かな温もりを求めていると、めぐりさんがちらっとこちらの様子を窺っていることに気がついた。

    ほふん、我とてそこまで鈍感ではない……どれ、男としてこちらから手を繋ぐくらいの度胸は見せたろうかいのうなんて手を伸ばそうとしたが、めぐりさんの手に持っている箱に気がついてすぐに手を引っ込めた。

    別に手を繋ぎたいアピールとかそういうではなかったらしい。

    つか、あの小洒落た箱は確か……。

    548 = 1 :

    めぐり「あのさ、比企谷くん、これ。さっき渡せなかったから……」

    八幡「それは……」

    思い出した。確かあれは、生徒会室でめぐりさんが大事そうに持っていたものだ。

    そういえば、それを持ったまま生徒会室を出ていってたな。

    めぐり「比企谷くん、バレンタインデーって知ってる?」

    八幡「……はい」

    めぐりさんが手渡してきたその箱を受け取りながら、俺は首肯した。

    バレンタインデー。

    それはなんなのだろうか。

    お菓子メーカーの策謀? 小町からチョコを貰える日?

    いや、違う。

    それは女の子が、好きな男の子にチョコレートを渡す日である。

    めぐり「……本命チョコ、だからね?」

    八幡「は、はひ……」

    もうやめて! そんな上目遣いで渡されたら、俺のライフポイントは0になるわよ!

    549 = 1 :

    改めて、めぐりさんに渡された箱を見る。

    しかしこの箱を包むラッピング、どこかで見たような……。

    ああ、そうだ。思い出した。確か新宿に行った時にデパートでのバレンタインデーイベントのブースで買っていたものだ。

    もしかしてあの時にこれを買っていた時には、俺に渡すつもりだったのん……?

    八幡「これ、今開けていいっすか」

    めぐり「ええ? まぁ、ダメとはいわないけど……手作りだから、上手く出来てるか不安だな……」

    八幡「え、手作りなんですかこれ?」

    めぐり「うん、そうだよ……」

    そうもじもじして照れくさそうにしているめぐりさんは大層可愛らしい。

    うわぁこの人今俺の彼女なんだなぁ……とか思うと俺まで照れくさくなってしまったので、自分の持っている箱に再び目をやった。

    箱のようなものだったので完全に店で売っているものだと思っていたのだが……単にそういう包みらしい。

    ラッピングを丁寧に剥がして箱を開けると、その中からハート型のチョコレートが出てきた。

    ハート、ハートかぁ……。ド直球もド直球、100マイルストレートである。

    550 = 1 :

    八幡「……ん?」

    そのチョコを取り出そうとすると、カタッと箱の中でチョコが入った包み以外の音がしたような気がした。

    なんだろうと思い、その箱の中を見てみると、何かカードのようなものが入っている。

    もしかして、これは……。

    八幡「メッセージカード……」

    めぐり「あはは、せっかくだしね」

    バレンタインカードか……。クリスマスカードの次くらいにポピュラーだという話は聞いたことはあるが、本物を見たのは初めてだ。いやそもそも母親と小町以外からチョコを貰ったのは今年が初めてなんだから当たり前っちゃ当たり前なのだが。

    これもまた、日曜日の時に買っていたものだろう。俺がメッセージカードのアイディアを思い浮かべた時のあのお菓子屋の前で見たやつだ。

    そのメッセージカードを取り出して、そこに綴られた文面を読む──同時に、俺の顔が真っ赤に染まった。


    『I LOVE YOU by Meguri』


    たったそれだけの、簡素な文。

    けれど、その一文には、今までの全てが詰まっているような気がした。


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