元スレめぐり「比企谷くん、バレンタインデーって知ってる?」八幡「はい?」
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351 = 1 :
FROM 城廻めぐり
TITLE ハッピーバレンタイン!
おはよう、比企谷くん!(*´ω`*)
今日は待ちに待ったバレンタインデーイベントだねヾ(o´▽`)ノ
忘れたりしないように!( メ`・ω・´)ノ
じゃあまた学校で会おうね!(@・ω・@)ノ
352 = 1 :
八幡「……」
……………………。
はっ、一瞬天国に召されかけていた!
あぶねぇあぶねぇ……Anotherならそのまま死んでた。
正気を取り戻したところで、再びメールの文章を読み返す。
わあ、わざわざイベントのお知らせとか気が利くなぁめぐりさんは……まさか俺がサボろうとしていることがバレたのだろうか。だとしたらこのメールは釘を刺すためなのかもしれない。わあ、めぐりさんこわぁ……。
まさかめぐりさんに限ってそんな黒いことを考えてこのメールをよこしたわけないじゃないかHAHAHA!! と内心笑い飛ばしながら、三度メールの文章を読み直す。
うーん、毎度破壊力の高いこと高いこと。あの戸塚のメールの破壊力も役満級であったが、このめぐりさんも別ベクトルでとんでもない破壊力を持ったメールを送ってくる。
こんなにもほんわかするメールを作成出来る人間は他にいるだろうか、いやいない。(反語)
朝から心がめぐりっしゅされ、幸せな気分になりながら部屋を出て洗面所に向かった。
353 = 1 :
そんな幸せ気分るんるんと洗面所の鑑を見ると、大層気持ち悪い顔を浮かべている俺が映っている。
さすがに浮かれ過ぎたかとバシャバシャと冷たい水を乱暴に顔に叩きつけていると、後ろの方から足音が聞こえてきた。
タオルで顔を拭いてから、そちらの方を見やるとまだ寝ぼけ眼のままの小町がふらふらとリビングに向かっている。
八幡「おう、おはよう」
小町「あ、お兄ちゃん……おはよう」
そう挨拶を返してくれた小町の声にはどこか覇気がない。普段ならドン!! とかいう効果音が出てくるほど元気なのに。いやさすがにそんなことないか。
今、小町の元気が無いように見受けられるのは来週の頭に受験が差し迫っているせいだろう。
まぁだからといって俺がしてやれることはほとんどない。せいぜい下手な刺激を与えないように気をつける程度である。
机の上にはすでに朝食が出揃っていた。おそらくすでに家を出たママンが作ってくれたものなのだろう。
お茶を淹れて椅子に座っている小町に渡してから俺も椅子を引いて座る。そして二人して手を合わせると、いただきますと小さく唱和した。
354 = 1 :
さあ、いっぱい食べようよ! 早起きできたごほうび~♪ とどこぞのうっうーなアイドルの歌を脳内で流しながら朝食を口に放り込んでいると、小町がちらちらとこちらを窺っていることに気が付く。
八幡「……なんだ、どうした」
小町「ん、なんかお兄ちゃんご機嫌だなって」
八幡「そうか?」
確かにハイターッチとかしたくなるような曲を脳内で流してはいたが、まさか声に出していただろうかと小町の顔を見てみると、何やら興味深そうな表情をしている。
小町「……もしかしてお兄ちゃん、今日のバレンタインデーが楽しみだったりする?」
八幡「お、分かっちゃうか……そりゃあ例年小町から貰えるチョコが楽しみだからな」
小町「え、今年はないよ」
八幡「うっそだろお前!!」
ガタンと机を叩きながら抗議するが、小町はしらーっとした目で俺を見ているだけだった。いやいやーそういうのいいですからー……え、マジでないの?
その事実を理性が認めてしまうと、思わず目が潤んでしまった。うっ、目にゴミが……。
355 = 1 :
そのまま机に突っ伏すと、はぁ~と小町の面倒くさそうなため息が聞こえてきた。
小町「……えー、なんでガチ泣きしてるの」
八幡「うう……俺の妹がこんなに反抗期なわけがない……ギブミーチョコレート……」
小町「はぁ、気持ち悪いなぁこのごみぃちゃん」
そう再びため息をつきながら、小町はいつの間にか食べ終わっていた食器を片付けてぱたぱたとどこかへ去ってしまった。
とうとう妹からすら見放されてしまった俺は今後何を希望に生きていけばいいんだ……。
希望を祈れば、それと同じ分だけの絶望が出てくるということなのだろうか。そうやって差し引きを0にして世の中のバランスは成り立ってるんだってどこぞの赤い林檎の魔法少女が言ってたな……。
このままじゃ絶望のせいでソウルジェムが濁りきって魔女になってしまう……いや、男だから魔法使いか……30歳までまだ時間はあるはずなんだけどなー、と頭の中でくるくると思考が廻り巡っていると、またぱたぱたと小町がリビングに駆け戻ってきた。
八幡「……?」
どうしたのだろうと突っ伏していた机から顔を上げてその足音がしてきた方を見やれば、そこには何やら箱っぽいものを持っている小町が立っていた。
小町「ん!」
八幡「何? カンタ?」
どこぞの素直になれない男子小学生がサツキに傘を貸したような感じで、その箱を突き出すように俺に渡してくる。
それを受け取ってまじまじと見てみれば、それはラッピングされたチョコレートのようだ。
八幡「……おお」
ハチマンは でんせつのちょこれーとを てにいれた!▼
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八幡「……くれるのか」
小町「まぁ、一応ね……毎年のことだし」
八幡「マジかよ、俺は出来た妹を持てて幸せだ」
小町「小町は腐ったお兄ちゃんがいても、結構複雑なんだけど……」
貰えたチョコレートを抱きしめながら感動の涙を流している俺を見て、小町は呆れたような表情ではぁ~と今日何度目かになるか分からないため息をついた。
小町「小町以外にも、そうやって素直に気持ちを伝えることが出来るようになればいいのに」
八幡「ばっかお前、俺はいつだって素直に生きてるぞ」
小町「そういう意味じゃなくて。いやまぁある意味素直かもしれないんだけど……」
いやほんと素直過ぎて進路希望調査票に専業主夫って堂々と書いちゃうレベル。実際働いたら負けとか言われるこの世界で自ら働く選択肢を取るとかマゾなのかと思う。
しかし小町は俺の言葉をふっと鼻で笑い飛ばしながら、暖かい微笑みを浮かべながらこちらを見つめてきた。その眼差しはどこか真剣で、どこか優しくて、そしてどこか哀しそうな色が見え隠れしている。
小町「……お兄ちゃんさ、本当は今日のバレンタインデー楽しみなんでしょ」
再び、最初の話題に戻った。その声音は茶化すようなものではない。
357 = 1 :
八幡「……別に、んなことねぇよ」
その小町の視線を受け続けるのが少し気まずく、俺は適当にそう答えつつ目を逸らす。すると小町も照れくさくなったのか、ふっふっふーと笑いながら先ほどまでの雰囲気を壊してきた。
小町「またまたー。もしもくれそうな人がいるんなら、その人にもちゃんと素直に言いなよ?」
八幡「何をだよ……」
小町「それはお兄ちゃんが考えて」
そう言うと、小町は悪戯っぽく微笑む。そしてくるっと背中をこちらに向けると、そのままリビングの扉を開けて去ってしまっていった。
ただ一人残され、俺は先ほどの小町の言葉を思い返す。
素直に、か。
それはやろうと思えば出来るものなのだろうか。
色々あって食べ損ねていた朝食に口をつけると、それはすっかり冷めてしまっていた。
358 = 1 :
× × ×
さて時間が経つものは早いもので、いつの間にか放課後である。
ホームルームが終わると教室が再び喧騒に包まれる。今日は朝からこんな感じだ。バレンタインデーでああだこうだと、特に女子が喧しい。当然ながら俺は誰かと騒ぐような相手などいやしない。
しかし他のクラスメイトはぼっちじゃないのか、随分と多くの生徒が放課後のこの教室に残って雑談を繰り広げていた。ワンチャン自分にチョコ貰えるかも? と期待して残っているとしたらそいつはただの自意識過剰なだけの馬鹿だ。どうも昔の俺です。
そういうわけではなく、これからバレンタインデーイベントが体育館で行なわれるため、それの開始時間まで暖房の効いたこの教室で待っていようと考えている生徒が多いだけだろう。そして、俺はこれからそのイベントの運営に携わるわけだ。
やだなーこんなリア充どもをこれからずっと目にしながら仕事しないといけないのかー、本気でいやんなるなー、でもここでサボったらめぐりさんがどんな顔するのか分かったもんじゃないしなー。
はぁ~と人知れず大きなため息をついていると、教室の後ろの方からひときわ喧しい声が聞こえてきた。もはや振り向かなくても誰の声だかは分かる。戸部だろう。
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戸部「っべーわ、今日のバンドめっちゃ緊張してきたわー」
葉山「おいおい、さすがに早すぎるだろ」
大和「でも分かる」
大岡「それな」
その会話を聞いて、そういえば今日のイベントではいくつかの有志団体が体育館の前のステージで何か出し物をするはずだったことを思い出す。
そして、そのうちのひとつが葉山率いるバンドだったはずだ。
三浦「あんたらしっかりしなよ」
そんな早くも緊張し始めていた三バカにに向かって、三浦が発破をかける。こちらはどうやらいつも通りの女王っぷりだ。
葉山「優美子はさすがだな」
三浦「べ、別に、これくらい普通だし……」
しかし、三浦の手元をよく見るとその手が微かに震えているように見えた。お前も緊張してんじゃねぇか。
その緊張の原因がバンドなのか、それとも他の事なのかまでは俺には分からなかったが。
葉山「……しっかりやろうな」
八幡「……?」
戸部達に掛けたその葉山の声には、妙に熱に篭っているように聞こえた。至って普通の言葉だと思うのだが、何故だがそこに違和感を覚える。
ただのイベントの余興なのにそこまで本気出すものなのか、と葉山たちの方へ再び視線をやると、葉山の近くにいた由比ヶ浜と目が合った。
360 = 1 :
すると由比ヶ浜がごめんと三浦たちに謝り、そのままぱたぱたとこちらに駆け寄ってくる。
結衣「ごめんごめん、待ってくれてた?」
八幡「いや、別に」
なんとなく戸部のやかましさが気になって葉山グループの会話を盗み聞きしていただけなのだが、由比ヶ浜はそれを待っていたと受け取ったようだった。
結衣「じゃあみんな、あたし先に体育館行ってるね」
葉山「ああ、結衣は運営側だったんだな。頑張れ」
優美子「あーしも後で行くから」
海老名「ユイー、頑張ってねー」
結衣「うん、じゃあまた後で!」
そう由比ヶ浜が葉山たちに別れを告げると、由比ヶ浜が行こっと先を促した。そしてそのまま教室の扉を開ける。
361 = 1 :
結衣「いやー楽しみだねーバレンタインデーイベント。ヒッキーはどう?」
寒々しい廊下に出ると、由比ヶ浜が明るい声で会話を切り出してきた。この子本当に元気ねぇ、アホの子は寒さを感じないのかしらん。
八幡「まぁ、そうだな」
結衣「おー、ヒッキーにしては珍しく素直だね」
八幡「今日だけで何人の片思いが玉砕するかと思うと、今から楽しみだ」
結衣「やっぱり捻くれてる!!」
由比ヶ浜ははぁ~と呆れたようなため息をつきながら、がくっと肩を落とした。そのまま俯くと、表情を暗くする。
結衣「……玉砕、なのかな」
そしてぼそっと、小声で言葉を呟いた。それは俺の耳にまで届いたが、なんて反応すればいいか分からずに黙りこくってしまう。
しばらく気まずい沈黙を味わっていると、由比ヶ浜がちらとこちらを見上げてきた。
結衣「……ヒッキーって告ったことあるんでしょ、どんな感じだったの?」
八幡「お前…………人のトラウマをほじくるのがそんなに楽しいか…………?」
結衣「わわわごめん、今のなし!」
ああ、今でも鮮明に思い出せる。折本への告白を断られた翌日、教室でひそひそ話をされた時のことが……。あっれおかしいな、目の前がちょっと歪んできた。
362 = 1 :
八幡「いや、気にしてないからいい。別に二人きりの時に告白したはずなのに何故か翌日にはクラス中に知れ渡っていて嘲笑のネタにされたこととか思い出してないから別にいい」
結衣「めちゃくちゃ気にしてるし!」
ばっかお前、本当に気にしてないって。こういう時って変に慰められる方がきついんだって。いやほんとマジで。
しかし幾分か気まずい空気がマシになったことを感じ取ると、俺はごほんごほんと誤魔化すように咳払いをした。
八幡「まぁ、あれだ。告白ってのは確かにリスキーな行為だけどな、その後どうなるかはそいつ次第なんじゃねぇの」
結衣「……その人次第」
適当に一般論っぽいことを言って締めようとしたが、由比ヶ浜は何から重々しく頷いていた。ちなみに俺の場合どうなったかはもう蒸し返さなくてもいいよね。
そんなこんなでいつの間にか体育館の前にまでやってきた。その中ではすでに生徒会の面々が動いているのが、外からでも見える。
体育館の扉を開けると、中にいた雪ノ下、一色、めぐりさんが同時にこちらの方を振り向いてきた。毎度思うんだけど君たち来るの早すぎね? 俺たちのクラスのホームルームが長すぎるだけなの?
363 = 1 :
いろは「あ、先輩、おっそーい」
そして俺と由比ヶ浜の存在に気がついた一色がこちらにとことことやってきた。その顔がどこかふくれていたが、俺としては別に怒られる筋合いはない。
それに続いて、雪ノ下とめぐりさんもやってきた。
雪乃「こんにちは。由比ヶ浜さん、比企谷くん」
めぐり「やっ、二人とも。こんにちは~」
結衣「やっはろーです!」
八幡「ども」
軽く頭を下げて会釈をすると、めぐりさんがほんわか笑顔を浮かべてうんうんと頷いた。瞬間にこの体育館中がほんわか雰囲気に包まれたような感覚になる。一家に一台欲しいね、全自動ほんわか機。
めぐり「今日はね、時間のあるメンバーたちにも来てもらったんだよ」
八幡「……メンバー?」
そのめぐりさんの言い方に違和感を覚えて、思わず聞き返してしまった。何、メンバーって? どっかの裏の組織だったりするの? しかしメンバーとかアイテムとかスクールとかブロックとか出てくる辺りっていつになったらアニメ化するんだろうね。三期はよ。
364 = 1 :
そんな俺の疑惑の顔に気が付いたのか、にこりと笑っためぐりさんがくるっと後ろを振り向いてどこかに声を掛ける。
めぐり「ね、みんな」
メンバー「ここに」
すると、スッとどこからか数人の生徒がそこに現れた。
なんだ、忍者か。いや、本当に裏の組織の暗殺者だったりするんじゃないの?
しかしあのメガネ達どっかで見たことがあるなと自分の記憶を辿ってみると、少し時間が掛かったが思い出した。
確かめぐりさんと一緒に生徒会を務めていた先代の役員達だ。文化祭や体育祭では随分と世話になったものだ。
そんなことを考えていると、再びめぐりさんはこちらの方に振り向くと、俺たちの顔を見渡す。
そしてぐっと握った拳を、天井に向かって勢いよく突き出した。
めぐり「よーしっ、じゃあ本番も頑張ろう、おー!!」
八幡「おー、おー……」
この人本当にいつもやる気だなぁ、と引き気味に俺たちもそのノリに乗った。それを見ためぐりさんはうんうんと満足げに頷く。
さて、バレンタインデーイベント本番だ。
さっきまではああ言っていたものの本当に心配させるわけにはいかない。
八幡「じゃ、やりますか」
軽く肩を回しながら、他の生徒会役員の手伝いをするために体育館の奥の方に向かった。
これから、長い放課後が始まる。
365 = 1 :
今回はここまでです。
ちょっといくつか。
その1
>>109-110
がダブル投稿になってて、本来投稿すべきシーンが抜けてたことに今更気がつきました。ハハッ。どうしよう。抜けてても一応物語としては問題ないんですけど。
その2
>>347
世に出たれっきとした商業作品と、素人が書いたSSを文字数だけで比べるのもあれだったかなとは思い直していますが。
300ページくらいのラノベが大体十数万文字くらいらしくて、このSSが今回の更新分含めて丁度10万文字くらいです。
その3
結衣さんがめぐりさんを呼ぶときにめぐり先輩だったり城廻先輩だったりしてますが、
これは私が、結衣さんがめぐりさんを直接呼ぶときは「城廻先輩」呼びで、
本人のいないところでめぐりさんを呼ぶ時(6.5巻365ページ末)は「めぐり先輩」呼びだということに先程まで気が付かなくて、それでごっちゃにしていたためです。すみません。
それでは書き溜めしてから、また来ます。
366 :
乙です
ありがとう
367 :
おつ
369 :
ちなみに氷菓で200ページ強だからそんな薄くないな
370 = 369 :
あでも角川文庫ってページあたりの文字数多いっけ
371 :
氷菓はラノベじゃねぇって何回言わすんだよ
372 :
何回言ったんだろう
373 = 369 :
いやラノベだろう
昔は
374 :
乙
なんでスクライド風な始まり方w
375 :
美少女にこのスレタイの台詞を言われたら立ち直れない
376 :
そもそも俺ガイル本編自体もそうだけど、スクライド知ってるとニヤっとする場面多いよね
夢を、夢を見てましたとかとかダブル大富豪の負ける気がしないとか
377 :
ああ、スクライドだったのか懐かしい。
もし抜けがあるなら、今からでも補完してくれると嬉しい。
乙、めぐりっしゅされるんじゃ~
378 :
関係ないけど
元々ラノベだったのが出版変わって一般書に転校したんだよね
379 :
× × ×
八幡「よっこらせっと」
運んできた机を床に降ろし、一息つく。それからぐるっと体育館の中を見渡した。見れば生徒会役員や一部の手伝いの人たちがえっちらほっちらと机を運んだり、袋に包まれたチョコを皿に分けていたりしている。
だいぶ会場設営も終わりかけているようだ。あと数十分で会場を開放する予定だが、このペースであれば余裕を持って設営は終わらせられるだろう。
そのまま体育館の様子を窺っていると、ふと雪ノ下と由比ヶ浜、そしてめぐりさんがいないことに気がつく。
あいつら何をやってるんだろうと考えていると、一色がこちらに向かってぱたぱたと駆け寄ってきた。
いろは「せんぱーい! こっちはもう大丈夫なので、家庭科室に向かってくれませんか?」
八幡「家庭科室?」
いろは「はい。今、雪ノ下先輩たちが家庭科室でケーキを焼いているはずなんですけど、結構量あると思うので人手が必要かなと」
ああ、思い出した。そういえば雪ノ下たちはこのイベントで振舞うためのチョコレートケーキだったか何かを作るために家庭科室に向かったんだった。
380 = 1 :
いろは「だからそっちお願いします」
八幡「分かった」
そういうことならば行くしかあるまい。確か結構な量を用意する予定であったはずだ。それを女性数人だけで運ぶのはさすがに大変だろう。
俺と、そして同じく一色に仕事を頼まれたのか副会長が家庭科室に向かう。この副会長もよく一色に振り回されているようで、ちょっと同情してしまった。
やや駆け足気味に廊下を進んでいると、副会長が申し訳なさそうに口を開いた。
本牧「悪い、助かるよ」
八幡「別にいいよ、今更だ」
このイベントには企画当初から関わってしまっている。今更多少の肉体労働を押し付けられたところで悪く思われても、逆にこっちが困ってしまう。
まぁ実はサボろうかなんて変な考えをしたこともあるけど、実行に移していないのでセーフセーフ。
そのまま家庭科室に到着し扉を開けると、中には雪ノ下、そして由比ヶ浜、めぐりさん、メガネをかけた生徒会の書記、そして先代の生徒会役員たちがいた。
結衣「あ、ヒッキー!」
こちらに気がついた由比ヶ浜が手をあげてくる。それにようと軽く返しつつ、近くにまで向かった。
381 = 1 :
八幡「もう出来てるのか?」
雪乃「さすがに全部は無理ね。今出来ているだけでも持っていって、あとでまた取りに来てちょうだい」
家庭科室のテーブルの上を見渡してみれば結構な量のケーキが焼きあがっており、チョコの甘い香りが教室中に漂っている。ついでに視界の端で副会長と書記ちゃんが甘い雰囲気を醸し出している。おい副会長仕事しろ。
しかしこの短時間でこれだけの量を作りきっただけでも十分凄いと思うのだが、まだあるのね……まぁ任意参加とはいえ一応全校生徒が来てもおかしくないイベントなので、これでもまだ足りないのだろう。クリスマスイベントの時より多くの人数が来るかもしれないし。
八幡「ところで由比ヶ浜が作ったのって食える出来になってんの?」
結衣「ひどっ! 食べられるよ!」
雪乃「大丈夫だと思うわ、私がずっと監視してたもの」
結衣「監視だったの!?」
そっかー、あの雪ノ下さんが監視してたなら安心かー。……いやどうだろう、去年の春は雪ノ下が付きっ切りでも割とアウトな出来だったような……。
雪乃「……あなたが何を考えているのか、聞かなくても分かるような気がするわ」
雪ノ下がこめかみを押さえつつ、はぁとため息をついた。なに、エスパーなの? ……いや、相当不安気な顔してたんだろうな、俺。
雪乃「少し、食べてみてはどうかしら」
八幡「え?」
そう言って雪ノ下は並んであるチョコレートケーキのうちのひとつを指差した。おそらくそれが由比ヶ浜の関わったものなのだろう。
見た目は他のものとほとんど同じように見える。確かに見た目は旨そうなんだが、由比ヶ浜が作ったと聞くだけで不安になってしまう。
382 = 1 :
結衣「そ、そうだよ! そんなに言うならちょっと食べてみてよ!」
八幡「む……」
雪乃「今、切り分けるわね」
雪ノ下が素早く包丁でケーキの一部を切り取り、そして皿に乗せてフォークと一緒に差し出してきた。こうされると食べないとも言い出しづらい。策士か雪ノ下孔明。
……よし、俺も男だ。覚悟を決めようではないか。
結衣「……そんなに覚悟を決めたような顔をしなくても」
八幡「……いただきます」
フォークをケーキに突き刺し、そしてそのままそれを口の中に運ぶ。チョコクリームの甘みが口の中に広がり、それを味わいながら喉の奥まで飲み込む。
しばらく身体に異常が無いか確かめてみたが、特に問題なさそうだ。
八幡「おお、食える……食えるぞ……」
結衣「そりゃ食べられるよ……」
雪乃「どうやら問題なさそうね、私も少しいただこうかしら」
八幡「毒見だったのか、今の……」
まぁ、とりあえず由比ヶ浜が関わったケーキも食えることが判明した。これなら特に問題と言える問題もないだろう。
毒見……もとい味見も終わったことだし、ちゃっちゃかとケーキを運ぶことにしよう。あまり時間も余裕なさそうだしな。
383 = 1 :
八幡「じゃ、とりあえず出来上がったものだけでも運ぶか」
雪乃「気をつけて。決して落とさないように」
八幡「あいよ」
ケーキを入れた箱を両手で持ち、そのまま家庭科室を出る。重さ自体はそうでもないのだが、ケーキという性質上から乱暴に扱うわけにもいかないので、出来るだけ慎重に運ぶ。
すると、後ろから少し急ぎ気味の足音がこちらに近寄ってくる音がした。ちらりと視線をそちらに向けると、同じように箱を持っているめぐりさんが俺の横にやってきた。
八幡「あれ、あっちはいいんですか」
めぐり「うん。大体雪ノ下さんがやってくれたから、後は運ぶだけなんだ」
相変わらずハイスペックだなぁ、あいつ。由比ヶ浜を監視……もとい教育しながらあれだけのケーキを同時に作るなんて、そうそう出来ることじゃないよ! さすが雪ノ下様!
それと同時にクリスマスイベントの時のことが思い返された。あの時も雪ノ下は調理室の主となってガンガンオーブンを回してケーキを作りまくっていたものだ。
あの時より人数も時間も少なく、そして由比ヶ浜の監視も兼ねながらここまで出来るって……本当にあいつ何者なんだろう。
384 = 1 :
めぐり「さすがだよね、雪ノ下さん」
八幡「あー、まぁそうですね」
めぐりさんと一言二言会話を挟みながら、再び体育館に戻ってくる。
すると中にいた一色が手をこまねいてこっち来いアピールをしていたので、めぐりさんと並んでそちらに向かった。
八幡「これどこ置けばいい?」
いろは「そこの机の上に置いてください。あとはわたし達がやるんで、また家庭科室に取りに行ってください」
八幡「へいへい……」
一色に指示された机にケーキの入った箱を置くと、またすぐに家庭科室に戻る。その道中でめぐりさんがあははとほんわか笑いを浮かべた。
めぐり「なかなか大変だねぇ」
八幡「あと何往復すればいいんでしょうね……」
まだ一度しか往復していないが、すでにうんざり気味だ。
特別棟の一階にある家庭科室から体育館までの距離はさほど離れておらず、階段を使う必要も無いのだが、それでもケーキというものは運ぶのに普通の荷物より気を使う。あと同じくケーキを運んでいる副会長と書記ちゃんが後ろでイチャコラかましてるのが本当にムカつく。仕事しろ副会長。
385 = 1 :
そしてそれから数度、家庭科室と体育館を行き来し、雪ノ下たちが作ったケーキを次々と体育館に運んでいく。もうだいぶ体育館の近くにも一般生徒たちが集まってきており、開放を今か今かと待ちわびている。
そしてこれで何度目か、再び家庭科室の中に戻ってくると、テーブルの上にはもうすでにケーキはなかった。
室内を見やれば、中には雪ノ下と由比ヶ浜の二人しかいない。しかしオーブンはフル稼働しており、ウィーンという音と、甘い匂いがしてくる。
八幡「お、もうねぇのか?」
雪乃「ええ、今作っている途中よ。まだそこそこ掛かるから、あなたと城廻先輩は体育館に先に戻って運営の手伝いをしてもらえるかしら」
結衣「あたしはまだゆきのんのお手伝いするからね!」
八幡「分かった。じゃあ先に体育館行ってるな」
めぐり「二人とも、頑張ってね」
そう言いながら、俺とめぐりさんは家庭科室を後にする。まぁ雪ノ下が残るなら後はなんとかなるだろうと思いながら、廊下を歩き始めた。
その道中で、めぐりさんがとんとんと俺の肩を叩いてきた。振り向いてみれば、めぐりさんがふふっと微笑みを携えながら俺の顔を見上げている。
ほんわかとした笑みに思わずどきりと鼓動が早くなるのを感じたが、それを悟られないように極めて冷静になるように意識した。
386 = 1 :
八幡「どうしたんすか」
めぐり「もう、始まっちゃったね」
八幡「ん、もうそんな時間か……」
携帯を取り出して時間を確認してみれば、開始時刻の四時から数分過ぎていた。おそらくもう体育館には生徒たちが押し寄せてきているだろう。一色たちはうまくやれているだろうか。
めぐり「うーんちょっとドキドキするね、体育館の中はどうなってるかな」
八幡「リア充共が喧しく騒いでるんじゃないんですか」
めぐり「りあ……?」
あ、駄目だった。通じなかった。こういうところでパンピーとの壁を感じてしまうことって、あるよね。
げふんげふんと咳払いをして誤魔化しつつ、もう一度会話を仕切りなおす。
八幡「まぁ、もう結構人来てるんじゃないですかね、さっき体育館の周りに結構いましたし」
めぐり「そうだよね、みんな来てるよね」
前にめぐりさんから見せてもらった、去年の様子が映っていた写真のことを思い出す。あれに近い光景をこれから見に行こうというのだ。
うわー嫌だなーと俺の肩はやや落ち気味なのだが、隣のめぐりさんはうんうんと、とても楽しみそうにしている。
それに水を差すのも気が引けたので、その嫌な気持ちを顔に出さないように心がけた。
めぐり「みんな楽しみにして来てるんだし、頑張らないとだね。比企谷くんも頼りにしてるよ?」
八幡「ははは、それはどうも……」
まさか数秒前までイチャコラしてるカップルやらウェーイ系リア充どもを見に行くのとか嫌だなーとか思ってたとは言いだせず、引きつった笑いを浮かべながらそう返す。
387 = 1 :
そのままとことこと体育館の近くにまでやってくると中の騒ぎが聞こえてきた。この寒い外にまでその熱気が伝わってくる。
めぐり「わぁ、中はもう盛り上がってそうだね」
八幡「まだ始まって五分も経ってねぇだろ……」
あいつら火ぃ付くの早すぎない? 何、アルコールか何かなの? それともアルコールでも入れてるの? 未成年の飲酒は法律によって禁止されています。
はぁと軽くため息をつきながら体育館の中に入ろうとする。
瞬間、ふと手に熱い何かを感じた。
自分の腕の先に視線をやれば、めぐりさんが俺の手を握っているではないか。
八幡「……!?」
めぐり「比企谷くん、頑張ろうねっ!!」
俺の手を握っているめぐりさんの手に、さらに力がぎゅっとこめられる。そのめぐりさんの手の体温を感じながら、俺は軽く頷いた。
八幡「……はい」
めぐり「うんっ、じゃあ行こう!!」
そのまま俺の手を引いたまま、体育館の扉を開ける。
すると、わあっと生徒たちの熱気を帯びた歓声が俺たちを包み込んだ。
388 = 1 :
× × ×
体育館に戻った後、俺は一色の指示の元、雑用やらなんやらを行なっていた。
この体育館で行なわれたバレンタインデーイベントには思ったより大勢の生徒がやってきたようで、冬なのにも関わらず体育館内の熱気は凄まじい。
見れば、葉山や戸部、三浦といった有志で出し物を行なう面子はもちろんのこと、その近くにいる海老名さんの側には川なんとかさんの姿も見える。川……、川なんだったっけな……まぁいいや、その川さんとかさんも海老名さんとわいわい(?)やっているようでよかった。仲良きことは良きことかな。
さらに他の所にも目をやると、知り合いが……知り合いが……そういえば俺、そもそも学校に知り合いの絶対数がめちゃくちゃ少なかったんだった。全然見当たらねぇ。ああ、奥の方で暑苦しいコートを着てる奴を見かけたような気がするけど、そいつは除外。
前のステージでは、有志の生徒がブレイクダンスを踊っていた。それを見ている生徒たちは机に置いてあるチョコやケーキなどを口にしながらそれに歓声や野次などを飛ばしている。青春してるねぇ、君たち。
その生徒たちの出し物の出来は上々だったようで、終わると同時に万雷の拍手が送られる。
俺はそれを横目に見つめながら、手に持っていた段ボール箱を舞台袖にまで運び込んだ。
389 = 1 :
八幡「これはどこに置いておけばいいんだ」
いろは「あ、そこに置いててくださーい」
そこって言われてもな。まぁ適当に置いておけばいいや。何かあっても怒られるのは俺じゃないだろうし。
八幡「次、なんかやることあんのか」
いろは「今のところはないんで、休憩してもらってていいですよー」
あ、やっと終わったのね。イベント開始から一時間ほどずっとこうやって運んだり雑用を押し付けられていたので、結構な疲労が溜まっていたのだ。
結局こうやってきっちり働いてしまっている辺り、やっぱり社蓄の血には抗えないんだと思い始めてきました。どうも俺です。
雪乃「ご苦労様」
結衣「あ、ヒッキーおつかれー」
めぐり「お疲れさまっ、比企谷くん」
八幡「ん、ああ……」
ねぎらいの声を掛けられた方を見てみると、そこには雪ノ下たちがいた。その手にはカメラやマイクなどが握られている。機器のチェックでもしていたのだろうか。そういえば有志団体の活動を記録するのも運営側の仕事だって言ってたな。
390 = 1 :
しかし雪ノ下は家庭科室であれだけのケーキを作成した後にこちらの仕事に加わっていたのだろうか。相変わらず仕事となると相変わらずものすごい動きを見せる奴だな。明日辺り倒れないか少し不安になる。
戸部「っべーわ、マジ緊張してきた」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきたので、そちらをちらと見やれば、戸部がスティックと手に持ちながらだらだらと舞台袖の中に入ってきたのが見えた。それに続いて、葉山や三浦たちも入ってくる。
結衣「あ、優美子、隼人くん」
いろは「葉山先輩!」
葉山「やあ結衣、いろは。運営お疲れ」
緊張でかちこちになっている戸部たちとは違い、葉山はいつもの余裕そうな笑顔を浮かべたまま由比ヶ浜と一色に手を振っていた。
そしてその視線をそのまま横にずらしたかと思うと、俺とも目が合う。
葉山「雪ノ下さん、ヒキタニ君もいたのか。お疲れ様」
雪乃「あなたはこれからステージ?」
葉山「ああ、今やっている人の次なんだ」
はーんと興味もなかったので適当にそれを聞き流していると、その葉山の隣の三浦の姿が視界に入った。
391 = 1 :
三浦「……」
その顔つきは今までに見たことがないほどに真剣であり、思わず息を呑んでしまった。
確か前回、文化祭でここにいたときはえらくテンパっていたはずだったが、今の三浦からはまるであの時とは別人のようなオーラを纏っている。
葉山「今回は聴いてくれるんだろう、ヒキタニくん」
一体何があったのだろうか。よほど葉山とのステージを失敗したくないのだろうかと脳内で適当に考えていると、葉山がこちらに向かって話しかけて来たのでその思考を打ち切った。
話しかけられるとは思ってなかったので、少々驚きつつも適当におうとだけ返す。
そういえば前回は相模云々の件があったので、葉山たちのステージを目にすることはなかったのだ。
特別興味もなかったので気にしていなかったが、葉山のステージを見るのは今回が初めてとなる。
葉山「それはよかった」
何がよかったのだ。そんなに俺にバンド演奏を聴いてもらいたかったの? なんかどこからか腐腐腐とか笑い声が聞こえてきたような気がするけど、それは聴かなかったことにしよう。
392 = 1 :
いろは「あ、前の人が終わったようですよ。葉山先輩、スタンバイお願いします」
葉山「ああ。じゃあ行こうか」
三浦「ほら。戸部、大岡、大和、行くよ」
葉山と三浦が颯爽とステージに向かう後ろを、戸部たちはやべーなどと口々にしながら大人しくそれに従う。戸部お前海老名さんが見てるんだからちょっとくらいシャキっとしなシャキっと。別にバンドを成功させたくらいで彼女が心を開くとは思わないけど。
いろは「葉山先輩、頑張ってくださいねー!」
結衣「優美子、ファイトー!」
海老名「頑張ってねー」
一色たちの声援に、葉山は振り向いて軽く頷いて応える。
そしてそのままステージへ向かうと、葉山がギュイーンとギターを鳴らした。それと同時に客席の方からキャーッと黄色い歓声が上がる。葉山のファンの女子たちの声だろう。ははっ、上手く言えないけど死なないかな。
そして葉山はマイクを取ると、明るい笑顔を浮かべた。
葉山「みなさん、こんにちは。二年F組の葉山隼人です。今日は──」
相変わらず慣れたように言いやがるな。俺ならあんな人の前で堂々と喋るとか無理。キョドって何も言えなくなっておしまいだ。
葉山「──それではお聴きください、どうぞ!」
葉山がそう言い終わると、体育館の証明が暗くなり、そしてサーチライトがパッと葉山たちを明るく照らした。
戸部がドラムを叩き始めるのと同時に、演奏が始まる。
瞬間、ド派手なミュージックが体育館中を奮わせた。
393 = 1 :
× × ×
自販機に小銭を入れるとチャリンチャリンと中に入っていく音が鳴った。それを聞くと、俺はマッ缶ではなく微糖の缶コーヒーのボタンを押す。
いやー葉山たちのステージは感動する出来だった。特にラストシーンで戸部が親指を立てながら溶鉱炉に沈んでいくシーンは涙無しには見られなかった。
一応真面目な話をするのであれば、葉山のギターと三浦のボーカルがめちゃくちゃやばかった(小並感)。普段バンドになんざ微塵も興味を持たない俺でも思わず聞き惚れてしまったほどである。
単純に技術だけの問題じゃない。彼ら彼女らの演奏には何か惹きつけるものがあったのだ。
まるで、今この瞬間に燃え尽きるような、そんな花火のような刹那的魅力が。
それは俺だけではなく生徒全員が感じていたようで、体育館の中はそれはもう熱狂的な盛り上がりを見せていた。
あの演奏が終わった後のあいつらの表情を思い出す。
やりきったという顔をしていた三浦と──終わってしまったという、何かを失ってしまったことを惜しむような顔をしていた葉山のことを。
394 = 1 :
八幡「……」
で、その葉山たちの演奏が終わった後、俺は外の自動販売機にやってきてコーヒーを買いに来ていたのであった。
甘いケーキやチョコを食べていると、少し甘いもの以外を口にしたくなったのだ。
決して仕事がなくなってしまったから体育館の中に居場所がなくなったとかそういうわけじゃない。我が校にはイジメも仲間外れも存在しない。
やや暗くなった空を見上げながら、俺は近くのベンチにまで近寄る。
そしてドカッとベンチに座って、缶コーヒーのプルタブを開けた。このベンチは昨日の夜、めぐりさんと少し話をした場所と同じだ。
そのめぐりさんは先代の生徒会メンバーと楽しく談笑をしていたので、今日はこちらには来ないだろう。べ、別に嫉妬とかしてねーし! その輪に入り込めるわけもないから外に逃げてきたとかそんなんじゃねーし!
缶コーヒーをぐいっとあおると、口の中に苦味が染み渡ってきた。さっきまでチョコばっか食べていて甘くなっていた舌には丁度いい苦さだ。なんならもう一本買っていって体育館に戻ろうかなんて思う。
ふーっとため息をつきながら、外の冷たい空気を肌で感じる。さっきまでの熱狂を感じて熱くなっていた体にはその冷たい風すら心地よい。
395 = 1 :
しばらくの間、そうやってベンチの背もたれにだらしなく寄り掛かっていると、どこからか叫ぶような声が聞こえてきた。
八幡「……?」
叫ぶというより、怒鳴るという方が適切だったかもしれない。
なんだなんだ、学校の外でそんな怒鳴り合いだなんて穏やかじゃないわね。
ちらっとその声が聞こえてきた方に目線をやると、そちらの方からだだだっと勢いよく女生徒が走ってくるのが見えた。
外はもうすでにそこそこ暗くなっている。だから最初はその顔はよく見えなかったが、こちらの方に近づいてくるに連れてだんだんとその姿が鮮明に見え始めてくる。
なんとなく、本当になんとなく、その走っている女生徒のことを見やると、金髪の縦ロールが揺れている。
三浦「──!!」
八幡「三浦……!?」
思わずバッと顔を上げてその顔を見やれば、なんと三浦であった。
その三浦は一瞬だけ俺の方を睨むように見てきたような気がしたが、立ち止まることもなくそのままどこか奥の方にまで走り去ってしまう。
一瞬見えたその目元では、何かが光っていたように見えた。
396 = 1 :
葉山「優美子!!」
それから少しだけ間を置いて、先ほど三浦が走ってきた方向と同じところから三浦の名前を呼ぶ声と追うように駆け出している足音が聞こえてきた。
そちらの方を見てみれば、やはりそれは葉山であった。
葉山「くそ……」
その駆け出す勢いはだんだんと遅くなり、そしてしばらく走ったところで止まってしまった。
そしてくるっと周りを見渡すと、たまたま俺と目が合ってしまう。
八幡「……」
葉山「比企谷……!?」
葉山はなんでこんなところにいるんだと目を見開き驚いたような表情を見せてきたが、俺としてはたまたま居合わせてしまっただけなのでめちゃくちゃ気まずい。
どうしたものかとそのまま固まっていると、葉山が突然ふっと鼻で笑う。何がおかしいんだとその葉山の顔を見た瞬間、俺の息が止まったような気がした。
葉山「……そうか、君に見られるとはね」
その葉山の表情は、何かを諦めたような、何かを失ったような、そんな、悲しい何かに満ち溢れていた。
397 = 1 :
続きます
398 :
本筋をシリアスに、しかも謎解きっぽく事件の少しずつ輪郭を表していく。
一方でキャラの性格を掴みながらの日常コメディに妥協がない。
冗談抜きで市販レベルなんだが何者だよ
400 :
三浦さんが葉山にフラれたのか?
みんなの評価 : ☆
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