元スレめぐり「比企谷くん、バレンタインデーって知ってる?」八幡「はい?」
SS+覧 / PC版 /みんなの評価 : ☆
551 = 1 :
八幡「ありがとうございます……嬉しいです、ほんと」
めぐり「ちょっと恥ずかしいけど……でも、本当に比企谷くんのことが好きだから」
八幡「めぐりさん……」
ただそれだけの言葉を受け止めるためだけに、随分と遠回りをしてきたような気がする。
きっと、もっと簡単に、穏便に終わらせる方法もあったのだろう。
けれども、きっとそれでは俺は納得することが出来なかったと思うから。
面倒な人間だな、と自覚する。
しかし、これまでの過程と結末に後悔はない。
めぐりめぐってきた、全ての遠回りは必要だったと思うから。
今、この答えを手に入れるために。
八幡「俺も、めぐりさんのことが好きです」
これまでのまちがえと解き直し、全てがあったから、今こうやって、気持ちを伝えることが、気持ちを受け止めることが、出来るようになったと思うから。
めぐり「……うんっ」
ぱあっと、めぐりさんの表情にほんわかとした笑みが浮かんだ。
この笑顔の先。
俺はそれを知るために、きっとこれからも求め続ける。
552 = 1 :
× × ×
バレンタインデーとは何か、知っているだろうか。
起源の諸説はあるが、ローマで兵士の婚姻が禁止されていたところを、キリスト教司祭のウァレンティヌスさんとやらが秘密に兵士を結婚させてたら、バレて処刑されたのが二月十四日だったとか。ソースはウィキペディア。
決して愛の日として相応しい成り立ちではないはずなのだが、いつの間にやら恋人たちの日になっていた。
そして日本においてはさらに独自の発展を遂げ、女の方から男に親愛の意味を込めてチョコを渡すだとか、義理チョコだとか友チョコだとか自分チョコ(これは俺もやった)だとか、原型を留めていない……とまでは言えないが、それでもなんだかよく分からない日になりつつある。
けれども、そんなよく分からないイベントでも、青春真っ盛りの高校生の男女にとっては決して小さくない出来事らしい。
そして今年に限っては、俺にとっても。
バレンタインデーという後押しを受け、俺は一人の大切な人と結ばれた。
ここに辿り着くまでに、多くの人に支えてもらい、背中を押してもらった。
しかし、誰も傷つかない優しい世界なんて存在し得ない。
俺がハッピーエンドを迎えた裏では、涙を流すことになってしまった人だっている。
それでも俺は、全てを受け止めて前に進もうと思う。
それが全ての応援してくれた人たちに対する感謝になるだろうから。
俺は忘れない。
このバレンタインデーの一日を。
553 = 1 :
遅くなって申し訳ないです。
次回で最終更新になると思います。
最後までお付き合いいただけたら幸いです。
それでは書き溜めしてから、また来ます。
554 :
乙
俺もI LOVE YOUとか書かれた手紙もらってみたかったぜ
555 :
乙です
最終回期待します
556 :
途中更新来なかったからエタったかとハラハラしてた
見てるから
557 :
>>553
乙
559 :
おつです。
期待してまっせ!
561 :
とうとう完結か
楽しみに待ってる
562 :
最終投稿から、今日で一週間。
すんません、最後にエピローグちょろっと書いてそれで終わりにしようと思ってたのですが、そのエピローグが全然書き終わらなくて……。
あ、明日には、明日には書き終えて投稿したいと思っていますので、ほんとあとちょっとだけお待ちください。
ちなみに、なんか今の調子だとエピローグだけで2万文字オーバーする勢いです。ガハハ。ほんとすんません。
563 :
2万越えか...凄い
頑張れ
期待するよ
564 :
どんどん書いてくれ
いくらでも読むぜ
566 :
めぐりんの幸せを祈る
567 :
書き
終わらな
本当に申し訳ありませんが、あと一日か二日待ってください……
568 :
待ってる
頑張って
569 :
がんばよ……
570 :
× × ×
いろは『校舎に吹く風が暖かくなり始め、春の訪れを感じるようになったこの佳き日に卒業を迎えられました先輩方、ご卒業おめでとうございます』
一色のマイクを通した声が、粛々とした雰囲気の体育館に響き渡る。
俺は、雪ノ下、由比ヶ浜、そしてこの後答辞をやる予定になっているめぐりさん達と共に、体育館の舞台袖から一色の送辞を見守っていた。
リハーサルは何度もやった。カンペは一応用意してあるものの、見なくても全文暗唱出来るようにもなっているはず。
とはいえ、一年生がこれから卒業する全三年生の前で喋るというのは、俺には想像も出来ないほどのプレッシャーがかかっているはずだ。緊張で固くなってしまって変なミスをしないようにと、ただ祈るばかりである。
俺だったらこんな雰囲気の中、大勢の前で送辞などとても無理だろう。無理無茶無謀の三拍子が揃っている。紙まくって赤っ恥を晒す羽目になるのがオチだ。
本当に一色さん大丈夫かしらん……と心配になりながら一色の送辞を聞いていると、右隣にいる雪ノ下のそわそわとして落ち着かない様子が目に入った。
こいつもこいつで、やはり一色のことが心配なのだろう。なんだかんだで一色に対して甘いところあるからなぁ……。
571 = 1 :
いろは『卒業式を迎えた先輩方は今、夢と希望を抱いて、この晴れの門出の席に──』
雪乃「一色さん、平気かしら」
結衣「大丈夫だってば、いろはちゃんを信じようよ」
そんな俺と雪ノ下とは反対に、由比ヶ浜は至って平常そうに見える。
ある意味で一色を信頼し切れていないとも言える俺と雪ノ下と違い、由比ヶ浜はきちんと一色を評価し、無用な心配をせず、そして信頼して任せている。
もっとも奉仕部の中で一色に対して真っ当な評価を下していると言えるのが由比ヶ浜であった。いや、ほら俺とかお兄ちゃんスキルがあるせいか年下に対して激甘査定を下す癖があるし、雪ノ下さんはチョロノ下さんみたいなところがあるので……。
まぁ別に相手が年下じゃなくても割と甘い査定出している時はあるような気がするんだけどなーとか思いながら、俺はちらと左隣にいる人影の方に目をやる。
そこには、今回の卒業式の答辞の担当をする城廻めぐりの姿があった。
572 = 1 :
めぐり「そうだよ、一色さんは結構しっかりしてるから」
これから答辞が待ち構えているはずなのに、めぐりさんはほんわかと笑みを携えていた。さすがは前生徒会長を務め上げたことだけはある。
むしろ、前に出るわけでもない俺の方が緊張しているような気がした。
いくら前に出ることに慣れているとはいえ、これから卒業するというのにすごいなぁ……と考えたところで、俺の思考が止まる。
そう、これからめぐりさんはこの高校を卒業するのだ。
あのバレンタインデーから一ヶ月近く。
本日は、総武高校の卒業式なのであった。
573 = 1 :
で、なんでその卒業式に俺や雪ノ下、由比ヶ浜が本来二年生のいるはずの席におらず、舞台袖にいるのか。
これはもう簡単な理由で、前に一色が言った『じゃあ卒業式のお手伝いだけでもお願いしますね』という言葉が現実になり、奉仕部で卒業式の運行の手伝いをすることになってしまっていたからである。一色による奉仕部の酷使無双っぷりもここまで来るといっそ清清しい。
先月のバレンタインデーイベント、先月末の期末試験、そして三月に入ってから即卒業式の手伝いと来ているので、ここのところほとんどだらだらする時間が取れていない。やだ、俺の社蓄適応度高すぎ……?
この調子だと今度は入学式辺りでもこき使われそうな未来がありありと想像できる。総武高校に無事合格を決めた小町が関わってくる為、全く苦に感じず入学式のお手伝いをしちゃいそうなのが怖い。そのうち何を押し付けられても笑顔を浮かべながら仕事をこなせる進撃の社蓄の肩書きを手に入れられそうだ。社蓄の安寧、虚偽の休日、死せる奴隷に自由を……!!
まぁ、残りのわずかな休みも全部めぐりさんとの予定で埋まりきっていたりするのだが。
八幡「……めぐりさんは緊張してないんですか」
そのめぐりさんに声を掛けると、にこりとした笑みを崩さないまま俺の方を振り向いた。
めぐりさんの透き通るような瞳が俺の目を真っ直ぐに見つめてくる。目と目が逢う。瞬間、好ーきだとーきづーいたー。いや、めぐりさんの場合どこぞの72さんより穴を掘って埋まってしまうアイドルの曲の方が似合ってそうだけど。こう、中の人的に。
しかし好きだと気付いたどうかは知らないが──目が合った瞬間、別のことに気が付いた。
わずかながら、めぐりさんの笑顔に影が差していることに。
574 = 1 :
めぐり「実はちょっとね」
あはは、と笑うめぐりさんだが、今度は明確に無理に笑みを浮かべていると分かった。
あのバレンタインデーから一ヶ月近く。同時に、俺とめぐりさんが付き合うようになってからも一ヶ月近く。
まだまだめぐりさんのことを知っているなんて偉そうなことを言えるほどではないかもしれないが、それでも少しはあの時よりめぐりさんのことを知ることが出来ている……と思う。
たとえば意外と甘えんぼだとか、結構食べる方なんだとか、お昼寝が大好きなんだとか。ええ、一度半ば強引に俺の部屋に上がり込んだ挙げ句、ベッドの上ですやすやと寝てしまわれた時にはどうしようかと思いましたね……。いや、何もしてないんですけど。ヘタレでごめんなさい。
あとはまぁ、めぐりさんの笑顔の種類だとか。
普段の笑み、ちょっと呆れてる時の笑み、無理してる時の笑み、心からの笑み。
もちろん他にもあるけど、あのほんわか笑顔にも色々あるんだということを最近段々と分かってきた。
そして今のめぐりさんの笑みからは、緊張で固くなっていることが感じられる。
他の人では分からないほど些細な違いかもしれないが、自分は分かっている。そんな優越感を覚えてしまうのは、付き合っている身としてはまちがっているだろうかなんて考えがわずかに脳裏を掠めた。
おっといかん、今は自分の中でどう思うかなんてどうでもいい。一色の送辞が終わる前に、めぐりさんに対して何か言葉を掛けるべきだろう。
575 = 1 :
八幡「……あー、まぁ、あれですよ、めぐりさんなら大丈夫だと思いますよ」
言葉に出してから、自分は致命的なまでに言葉でのフォローが下手だということに気が付いた。いや、我ながらなんかもうちょっと気が利いた言葉の選び方はなかったのん……?
しかし、俺の貧弱な語彙力では咄嗟に上手い言い方が思い付かなかったのだ。えるしってるか、いくら本で単語を大量に知ってても別にコミュ力に応用出来るとは限らないんだぜ。ソースは俺。
なので、言葉が足りない分は他で補うことにした。
そっとめぐりさんの手を取ると、その手に自分の手を重ねる。瞬間、ふわっとめぐりさんの体温が伝わった。
めぐり「あっ……」
八幡「……こんなことしか出来ませんけど、俺は応援してるんで」
めぐり「ハチくん……ありがとう」
この一ヶ月の間にいつの間にか定着していた俺の呼び名を口にしながら、めぐりさんが俺の手を握り返してくる。
めぐりさんの顔を窺うと、そこにはいつものほんわか笑顔が浮かび上がっていた。
その笑みからは、先ほどまでの緊張故の固さが消え去っている。
576 = 1 :
結衣「……むぅ」
後ろから誰かが唸るような声をあげていたので、振り返ってみると、なんとも複雑そうな表情をした由比ヶ浜が俺の方を睨みつけていた。
……あー、しまった。人目があることを意識してなかった。しかも由比ヶ浜。少々配慮に欠けていたかもしれない。
八幡「あー、いや、その」
結衣「……別に気にしなくてもいいよ、もうその話は終わったし」
気にするなと言う割に、その、由比ヶ浜さん、あの、なんか目からハイライトが消えつつあるのですがそれは……。
あのバレンタインデーの日、俺は由比ヶ浜の告白を真正面から断っている。
めぐりさんと付き合うことになった後、由比ヶ浜との仲はそれまで通り──というわけには全くならず、あの後になんやかんやあったのだ。いやもう本当に色々あった……。
577 = 1 :
まぁ紆余曲折を経て、奉仕部は前までと同じように集まることが出来た。大体雪ノ下の奮戦のおかげである。あれ以来雪ノ下には頭が下がりっぱなしだ。
ちなみにリアルに雪ノ下に頭を下げた──というか土下座をかました回数は片指の数で収まりきらない。あれっ、もしかして両指を使っても足りない……?
その雪ノ下先生は、由比ヶ浜の様子を見て、こめかみを押さえながら軽くため息をついた。
雪乃「……由比ヶ浜さん」
結衣「あ、うん、ごめんごめん」
一応言うと、本当に由比ヶ浜との一件についてはケリを付けている。
ただ由比ヶ浜は気にしていないかと言うとそんなことはないらしくて、時折由比ヶ浜は俺に振られたことをネタにして俺のことを苛めてくる。いやね、ネタにする程度にはもう過去のことだと割り切れている証拠ではあるのだろうけども、そのネタを振られる俺の身にもなって欲しい。俺の自虐ネタを振られた側の人間って、いつもこんな気分だったのだろうか。これからは控えよう……。
そんな由比ヶ浜から目を逸らすように、壇上で送辞を続けている一色の方を向いた。
578 = 1 :
いろは『皆様は頼りになる先輩として、私たちに優しく、時に厳しく指導をして──』
かむこともつっかえることもなく堂々と言葉を続けている一色のその姿は、とても一年生とは思えないものであった。
見た感じ一度もカンペに目を落とすこともなく、顔を三年生の方へ向け続けている。ああも立派にやってもらえると、一緒に送辞をうんうん言いながら考えた俺としても(結局送辞まで手伝わされた)考えた甲斐があるというものだ。
俺は忘れないからな、今日のこのステージを!
まるで娘が立派に巣立っていってしまったような気分になりながら、俺は一ヶ月近く前のことを思い出す。
あのバレンタインデーの後、俺は一色に正式に告白された。
その時点でめぐりさんと付き合っていた俺は、当然ながらそれを真正面から断った。
俺がめぐりさんと付き合っていることを知っていたのにも関わらず一色が告白してきた理由は、自分の中のケジメをつけるためだったとは後から知ったことだ。
まぁその一色とも後に色々あったわけだが、結局こうやって送辞の中身を考えるのに付き合わされる程度には元の仲に戻ったと言えるだろう。
もちろん一色が内でどう思っているのかまでは分からない。とはいえ、本人に気にしないでくださいと言われている以上は俺も気にしないでいるべきだと考えている。
……ただまぁ俺に気にしないでという割に、由比ヶ浜と同様に自分の中ではそれなりに気にしているらしく、たまーに部室内で『あー、わたしも彼氏欲しいなーちらっちらっ』みたいな話を振ってくる。いやね、別に嫌味とかじゃないのは分かっているのだが、俺にどうしろというのだ。
579 = 1 :
過去はどうあれ、一応俺は一度振った由比ヶ浜、一色との仲は悪くない状況であると思う。しかしその仲を維持出来たのは本当に雪ノ下の尽力によるところが大きい。
どのくらい大きいかって……まぁ、片指で数え切れないくらい土下座をかましたというところから色々察して欲しい。もしも雪ノ下がいなければ、俺はめぐりさんという恋人と引き換えに、別の大切なものを失うところであった。
これから雪ノ下相手に頭が上がることはないんだろうなーと思っていると、一色が締めの挨拶に入っていた。
いろは『先輩方のご健康とご活躍を心からお祈りし、送辞とさせて頂きます。卒業生の皆様、本当にご卒業おめでとうございます』
そう言って深々と頭を下げると、一色は毅然とした表情を崩さないまま舞台袖にまで戻ってくる。
だが、外から見えない位置にまでやってくると、はぁ~と大きな息を吐いた。
いろは「はぁ~~……き、緊張しました……」
八幡「お疲れ。まぁ、かなり上手くやれてたと思うぞ」
雪乃「素晴らしい出来だったわ、文句なしね」
結衣「いろはちゃん、お疲れ!」
めぐり「一色さん、お疲れ様! ほんと、すごかったよ!」
一色は近くにあった椅子を引くと、どがっと女の子としてはどうかと思うほど乱暴に座り、再び大きくため息を吐く。常に可愛い女の子を演じているところがある一色にしては珍しい挙動だった。そこに気が回らないほど、本当に疲れているのだろう。
しかしながら疲れこそは見えるものの、完全にやりきったという充実感に満ちたような表情をしている。燃え尽きたぜ、真っ白にな……。
580 = 1 :
八幡「……すごいな、お前」
思わず、そんな感嘆の声が漏れてしまう。
卒業式という緊張感マックスの状況で、大勢の前でかむこともない、つっかえることもない、カンペも見ないで、かつ聞き取れるほどの声で送辞を全て言い切るというのは相当の大仕事だ。それを、一色は一年生ながら完璧なまでにこなしたのだ。
これを賞賛せずにはいられなかった。
一色はやや驚いたような顔で俺のことを見上げると、えへへっとはにかむような笑みをこぼす。
いろは「わたし、ちゃんと生徒会長、やれてましたかね……」
八幡「ああ、お前は立派な生徒会長だ」
俺のその言葉に、前生徒会長のめぐりさんや雪ノ下たちも頷いて同意する。いや、ここにいる面子だけじゃない。おそらく、あれを聞いていた全ての人間が同意してくれるだろう。
一色いろは。彼女はこの総武高校の立派な生徒会長であると。
581 = 1 :
平塚『続きまして、卒業生代表による答辞に移ります』
しかしそうやってほっとしているのも束の間、平塚先生によるアナウンスが聞こえてきた。卒業式のアナウンスってもうちょっとお偉いさんがやるものだと思うのだが、若手じゃなかったんですか先生。
平塚『それでは卒業生代表の城廻めぐりさん、お願いします』
めぐり「よしっ、じゃあ頑張ってくるね」
アナウンスと同時に、めぐりさんが気合いを入れたようにぎゅっと胸元で拳を握る。
俺はそれに大きく頷いて、めぐりさんの瞳を真っ直ぐに見つめた。
八幡「頑張ってください、めぐりさん。俺はここから見てますから」
めぐり「うん! 見ててね、ハチくん」
そう笑いながら言うと、身を翻して舞台袖を出てマイクのある壇上へと向かった。
今のめぐりさんの笑顔はいつも通りの笑顔だった。こういった大舞台の前で話をする経験も今までに多く積んでいるだろうし、下手な緊張もしていないのであれば大丈夫であろう。そう、信じる。
582 = 1 :
結衣「……ヒッキーってさ、本当にめぐり先輩のことが好きだよね」
八幡「は?」
横から唐突に掛けられたその声に反応してそちらを向いてみると、由比ヶ浜が俺の方を見ていた。
その由比ヶ浜の顔には、どこか温もりのある優しい微笑みが浮かべられている。
八幡「いきなりなんだよ……」
まぁ、そりゃ好きだけど……かといって、他の人にいきなり指摘されると小っ恥ずかしいものがある。
そもそもなんでいきなりそんなことを言い出したのかと困惑した目線を送ると、由比ヶ浜は少し言い難そうにしながらも言葉を続けた。
結衣「なんていうかさ、今、めぐり先輩のことを見てたヒッキーの顔……すっごい優しいっていうか、あったかいって感じだったんだよね」
八幡「見んなよ、恥ずかしいだろ……」
つい反射的にそんな憎まれ口がこぼれ出てしまう。
いや、本当に恥ずかしいからやめてね? この前めぐりさんが俺の家に来た時、小町にもほとんど同じようなことを言われたけど、そういうこと言われても反応に困るから。
だが、由比ヶ浜は生暖かい視線を俺に向けるのをやめてくれない。
結衣「えぇー、でも、さっきみたいなヒッキーの表情、今までに見たことなかったもん……」
いろは「そうですねー、先輩あんな顔できるんだなーとか思いました」
八幡「おいお前らもうやめろ、やめて、やめてくださいお願いします」
一色まで話に乗っかってきて、俺はやや涙目になりながらやめてくれと懇願する。
しかし由比ヶ浜と一色はそのニヤニヤとした笑みを向けてくるのをやめない。やっぱ君たち振られたのめちゃくちゃ根に持ってるでしょ?
583 = 1 :
雪乃「……城廻先輩の答辞が始まるわよ、静かに」
そこで助け舟を出してくれたのは雪ノ下だった。おお、今の俺にとってはまさに《救済の天使/Angel of Salvation》だ。今の救いのタイミングの良さといい瞬速とか持ってそう。相手ターンにも唱えられちゃう。すかさずその助け舟に乗っかることにした。
八幡「そ、そうだな。ほらお前ら静粛にな」
結衣「むぅ……」
由比ヶ浜は納得いかなそうな顔をしていたが、状況が状況だけにすぐに黙った。あと今小さな舌打ちが聞こえてきたけど、一色さんには後でお話があります。
八幡「……」
壇上の方に視線を戻すと、丁度めぐりさんが答辞を始める瞬間であった。
めぐり『寒かった冬もようやく終わりを告げ、暖かい春の訪れが感じられるようになりました。この今日の佳き日に、私たちは卒業します』
マイクに向かって、めぐりさんはちょっとゆるめのテンポでゆっくりと、しかしとても聞き取りやすいように答辞を読み上げる。ここら辺はさすがだ。俺が無用な心配をするまでもない。
しかし、卒業……か。
めぐりさんの口から卒業するという言葉が発せられた瞬間に、ちくりと俺の胸の中が痛むのを感じる。
そう、めぐりさんはこれから卒業するのだ。
584 = 1 :
それは前から分かっていたことであるが、改めてその事実が重くのしかかる。
俺がめぐりさんと恋人として一緒の学校に在籍することが出来た期間は一ヶ月にも満たない。
今更どうこう言っても仕方のないことであるのは重々承知しているが、それでももう少し長い間めぐりさんとこの学校にいたかったと思わずにはいられない。
もう少し早く知り合えていたら……もう少し早く関わることが出来ていれば……。
そんな無意味な妄想が脳裏に浮かぶ。
めぐり『希望に満ち溢れた三年前の入学式から、気が付けばあっという間にこの日を迎えてしまいました。振り返れば──』
だが、過ぎ去ってしまった過去を取り戻すことは出来ない。なかったことにすることも出来ないし、消し去ることも出来やしない。過去のまちがえをやり直すことは出来るけれど、さすがに時間を巻き戻すなんて芸当は出来やしない。
過去は過去、そのまま受け止めるしかないのだ。
しかし過去を変えることは出来なくても、未来はこれから作り上げていくことが出来る。
将来どうなるかは今の俺には分からない。
それでも、せめてこれからは悔いがないように生きていきたい。
めぐりさんと二人で歩む未来を、輝かせたいと思う。
585 = 1 :
めぐり『──私はこの三年間の高校生活で、多くの人と出会ってきました。その多くの出会いは、今の私を形作る大切な思い出になっています』
……あれっ?
今の台本にあったっけ?
一応、一色の送辞云々の手伝いの際に、めぐりさんが読み上げる答辞の台本も事前に目を通させてもらった。まぁめぐりさんはちゃんと一人で答辞の内容を考えられていたようなので、中身に俺は関与せず、ほとんど一色の手伝いをしていたが。
だが、今の一文は事前に確認した台本には書かれていなかったような気がする。
単に俺が勘違いしているだけかと思い、近くにいた雪ノ下の方に目をやると、こちらもはてなと首を傾げていた。
雪ノ下も違和感を覚えているということは、まちがいなくこれは事前に準備していた台本とは違うということ。
となると、もしやアドリブか?
困惑しながらも、俺はめぐりさんの読み上げる答辞に聴覚を集中させる。
めぐり『そして──その多くの出会いの中で、私にも大切な人が出来ました』
顔から火が吹き出るかと思った。
586 = 1 :
あの人いきなり言い出してんの!? 待って、ハチマンはハチマンは何も聞いてないかもって驚いてみたり!
女性陣は知っていたのかと雪ノ下たちを見渡してみると、三人とも同じように驚いているようだ。
つまり、この場にいる全員に知らされていないということになる。
一瞬、体育館の中がざわついた様な気がしたが、そちらに関しては聞かなかったことにした。
めぐり『最後の文化祭、体育祭、先月のバレンタインデーのイベント、そしてこの卒業式……全て、彼の尽力なくしては成し遂げられませんでした。大変だったこともあります。しかし私の大切な人、そして皆の頑張りによって行事は大成功を収めることができました。これらの行事で得た思い出は、今でも大切な宝物です──』
雪乃「比企谷くん、少し落ち着きなさい」
無理だよ! 恥ずかしくて死にそうだよ!
燃え上がるような熱くなった顔を隠すように両手で覆いながら、俺は肩を震わせる。
あの人マジで何言っちゃってくれてんの……そういうのは本当にやめていただきたい。ほら、他の人からしたら何言ってるのか理解できないしね? それに俺の涙腺へのダメージがカンストしちゃう。
めぐりさんの答辞は続く。
587 = 1 :
めぐり『私が三年間、楽しい高校生活を送ることが出来たのは、同じ学年の皆さん、一足先に卒業された先輩方、親身になってくれた先生方、そして後輩の皆さん全員のおかげです。そして──私の大切な人。その全ての人に、この場を借りて感謝を伝えたいと思います。ありがとうございました』
ぽたっと、床に雫が落ちた。
自分の目頭が熱くなっていることに、少し遅れて気が付く。
雪乃「比企谷くん……」
結衣「ヒッキー……」
いろは「先輩……」
めぐり『この総武高校で過ごした三年間は、私の一生の財産になると思います。もう皆さんとこの高校に通うことが出来ないと思うと一抹の寂しさを感じますが、これまでの経験を活かして、これからの新しい場所でも頑張っていきたいと思います──』
壇上に立つめぐりさんの姿がぼやけて、うまく見えなくなる。
いかん、これはめぐりさんの高校最後の晴れ姿である。それを俺が見届けなくてどうする。
それは分かっているけれど、奥から込み上げてくるものを、抑えることは出来なかった。
めぐり『──最後になりましたが、この学校の先生方、後輩の皆さん全員のご健勝を心から祈りながら、答辞とさせて頂きます』
それでも、涙を拭いながら顔をあげてめぐりさんの顔を見ると、彼女の目元にも光り輝くものが見えたような気がした。
それまでずっと毅然とした表情を保ち続けていた彼女の顔が歪む。
熱い何かが篭った声で、最後の締めの言葉を言い放った。
めぐり『皆さん……本当に……本当に、ありがとうございました。私は、この総武高校のことがっ……大好きです……!!!』
588 = 1 :
× × ×
短いホームルームが終わると、教室の中が騒がしくなり始めた。
本日は卒業式以外にやることはなく、もう他に授業も部活も何も行なわれない。いや、部活によっては各自で卒業する先輩とどうのこうのあるのかもしれないが、特に先輩がいるわけでもない奉仕部に関係はない。
椅子から立ち上がりながらなんとなく教室の中を見渡してみると、近くの席にいた戸塚と目が合った。
戸塚「あ、八幡。卒業式お疲れ様」
八幡「別に俺は何もしてないんだがな……」
戸塚「またまた。今回も八幡が頑張ってたこと、知ってるんだよ?」
そう言いながら、戸塚がにこりと微笑んだ。その無垢な笑みに引き込まれそうになる。うっ、いかんいかん、俺には心に決めた人がいるんだ……!!
ところで同性相手って浮気になるのかな? なるんだろうなぁ……。
589 = 1 :
戸塚「文化祭も、体育祭も、バレンタインの時も、卒業式も、八幡はすっごい頑張ってたって言われてたし」
八幡「それを蒸し返すのはやめてくれ……」
ふふっと悪戯っぽく笑う戸塚は天使だけでなく小悪魔めいているようにも感じた。天使と悪魔の両面を兼ね揃えてるとかマジで白と黒が組み合わさり最強に見える。
やはりというべきか、戸塚は先のめぐりさんの答辞で出てきた人物が俺のことを指していることに気が付いているようであった。まぁ戸塚には俺とめぐりさんが付き合っていることは伝えてあるし、当たり前っちゃ当たり前なのだが。ちなみに余談なのだが、伝えてもいないのに何故か材木座の奴にもいつの間にか知られていた。いやもうほんと最近会う度にウザ絡みしてくるのが心底鬱陶しい。
八幡「あー、戸塚もこの後テニス部の先輩となんかやるのか」
話を逸らすように適当に思いついた話題を出すと、戸塚はこくんと可愛らしく頷いた。
戸塚「うん、これから卒業のお祝いをするつもりなんだ」
八幡「そうか、じゃあもう行った方がいいんじゃねぇのか」
戸塚「そうだね……じゃ八幡、またね」
八幡「おう」
手を振って教室を出て行く戸塚を見送ってからもう一度教室の中を見渡すと、ひとつ騒がしいグループが視界に入り込んできた。
いつもの葉山と三浦を中心にしたグループである。
590 = 1 :
三浦「隼人は、このあとどうするん?」
葉山「この後はサッカー部の先輩の送迎会だな。だから悪いけど、今日はパスだな」
戸部「っべーわ、最後だからってぜってー色々言われるわー……」
葉山「でも、明日なら平気だと思う」
三浦「ふーん……そ、じゃあまた後で連絡する」
海老名「じゃあ今日は私たちと一緒に出掛ける? ユイは?」
結衣「あたしも今日は部活ないし、暇だよ」
あのバレンタインデーの日、色々とあったのは俺だけではない。
あそこにいる、葉山と三浦だってそうだ。
そしてその時、葉山は三浦の告白を断っているはず。
しかし教室の中で少々見た限りではあるが、ここ最近の葉山と三浦の距離はそこまで離れていないように感じる。
591 = 1 :
あの後、葉山と三浦の二人に何があったのかは知らない。興味もないし、知ろうとも思っていない。そもそも普段俺は葉山たちと関わること自体が稀なのだ、奴らの恋愛事情なんざ知るわけがない。
俺でも知っていることといえば、葉山の卒業後の進路が留学だと知れ渡った時には二年生中で噂になった程度だ。まぁ俺は噂話をするような相手はいないので、ソースは盗み聞きなのだが。
だがまぁ、由比ヶ浜の言葉の節々から察するに──まぁ、色々あったのだろう。きっと、悪くない意味で何かが、きっと。
葉山も大切な人を傷つける覚悟を、想いを受け止める覚悟を決めたのだろうか。
まぁその真相がどうだかは、俺の知ったことではないのだが。
葉山たちから目線を外して携帯を取り出すと、メールが届いていたことに気が付いた。
お、なんだなんだ。アマゾンかな。決算期前の三月は色々出るから結構買ったしなぁ……と思いながら、着信メールを確認する。
FROM 城廻めぐり
おいおいそういうのは早く言ってくれよ待ってろ今すぐメール確認すっから。
592 = 1 :
FROM 城廻めぐり
TITLE この後会えますか?
卒業式お疲れ様(≧∇≦)o
この後、会うことって出来るかな(。´・ω・)?
出来るなら、前の空中階段で待ってます(●´∨`●)ノ.+*゚
即座に今すぐ行きますと返信すると、俺はカバンを肩にかけて教室を飛び出していた。
593 = 1 :
× × ×
教室を飛び出して、廊下を進んでいく。
その足取りは軽い。まるで羽が生えたようだ。今の俺ならば空だって飛べる! アイキャンフライ! 実際にやれば空どころか天国まで飛び立ててしまいそうなので、実行に移すのはやめておいた。
そんな道中で、一人のメガネを掛けた生徒とすれ違う。
別にそれくらい特別取り上げるようなことでもないだろう。しかし、何かが頭の片隅に引っ掛かったような気がしたのだ。
今のメガネ、どっかで見たことがあるような……。
──会長を、よろしく頼む。
八幡「!?」
どこからか響いた声に驚いて、バッと後ろを振り返る。
しかし振り返れども、そこにはガヤガヤと賑やかないつもの廊下の光景が広がっているだけだった。先ほどすれ違ったメガネの生徒の姿は、どこにもなかった。
……思い出した。さっきのメガネ、確か先代の生徒会役員のうちの一人だ。
先代の生徒会役員のめぐりさんに対する心酔っぷりはなかなかのものだったように記憶してる。当然ながら、そのめぐりさんと付き合うことになった俺に対しては思うことがあるはずだ。
けれども、今の言葉が先代生徒会役員たちの答えだとしたら──
八幡「……任せろ」
独り言のように、俺はそう小さく呟いた。
メガネの元役員の姿はどこにも見えない。ただで騒がしいこの廊下で、俺の呟きなんて届いているわけもないだろう。
それなのに、どこからか安堵したような声が聞こえたような気がした。
594 = 1 :
× × ×
平塚「お、比企谷じゃないか」
八幡「あ、先生どもっす、そして失礼します」
平塚「まぁ待て比企谷、そんな急いで立ち去ろうとしなくてもいいだろう」
HA☆NA☆SE!!
軽く頭を下げて平塚先生の横を通り過ぎようとすると、すれ違いざまに肩をがっちりと掴まれてしまった。無視して進もうとするが、俺の肩を掴む先生の手は万力のように締め付けており簡単には解けそうもなかった。何、この人どっからそんなかいりき出てくるの? ひでんマシンでも使った?
諦めながら肩から力を抜き、平塚先生の顔を見上げた。この人ちょっと身長分けてくれないかなぁ……。
八幡「……なんすか、卒業式なんだから三年生のところ行った方がいいんじゃないんすか」
平塚「無論、ちゃんと行くさ。別れが惜しい生徒も結構いるしな」
はーん。さすがは生徒に対して世話を焼きまくっている平塚先生だ。きっと今の三年生にも関わってきた生徒が多数いるのだろう。
595 = 1 :
平塚「しかしその前に、君のことが気になってね」
なんでやねん。
思わず心の中で関西弁を使って突っ込んでしまった。
俺なんかより、これから卒業してしまう三年生たちに時間を割いてやればいいものを。
早くめぐりさんのところへ向かいたいのに……とやや怨恨を込めた目線を送ると、平塚先生はふっと笑った。
平塚「なに、いつも目が腐っている君が、目を輝かせて楽しそうに歩いていたら気にもなるだろう」
おおう、俺の目輝いてたのね……いや、これからめぐりさんに会いに行こうとしているのだから楽しみにしているのは確かなのだけれど、傍目から見てもバレる程とは……。
八幡「いや、まぁ最近ギアスでも習得しようかと思いまして、こう目をですね」
平塚「城廻か」
バレてた。
平塚先生にはめぐりさんと付き合い始めた云々のことについては一切話をしていないはずなのだが、どうも勘付いている──というか、ほぼ確信している節がある。まぁ卒業式の云々で学校にやってきていためぐりさんと二人で帰っているところを何度か目撃されてますしね、そりゃバレますよね。
その妙に生暖かい目線が妙にむず痒い。比企谷八幡が命じる、今すぐその目をやめろ!
596 = 1 :
が、当然俺に王の力など備わっているわけもないので、平塚先生がいきなりその視線を逸らしてくれるようなこともなく、そしてにやけた笑みを崩さないまま俺のことを見つめてきた。
平塚「まったく、お熱いことだな。ええ? まさか卒業式で惚気られるとは思ってもみなかったぞ」
八幡「あれには俺も驚いたんすよね……」
や、ほんとあの場であんなこと言っちゃって平気なんだろうか。
まぁそれについては後で話をするとしよう。
八幡「まぁ、めぐりさんも時折ぶっ飛んだことするっつーか、なんか強引な所ありますからねー……」
平塚「……君も変わったものだな」
八幡「なんすか、急に」
急に平塚先生の声音が、先ほどまでの冗談めいたものではなく、真面目なものに切り替わった。
声音だけでない。俺のことを見つめるその眼差しにも真剣さが宿っている。
597 = 1 :
俺の何が変わったというのか。訳の分からないその言葉になんと返せばいいか思案していると、平塚先生の手が俺の肩の上に置かれた。先ほどより平塚先生との距離が縮まったように感じる。
平塚「あれだけ捻くれた孤独体質を持っていた君が、そう楽しそうに彼女について語るようになるとはな。驚かずにはいられないよ」
そんなに楽しそうにしていただろうか。むしろ、やや呆れたくらいのトーンで話をしていたつもりだったのだが。
平塚「君を奉仕部に入れたきっかけになったレポートの内容、覚えているか?」
八幡「忘れました」
平塚「確か、青春とは嘘であるだとか、リア充爆発しろだとか」
八幡「忘れました」
いや、これっぽっちも覚えてない。青春は嘘であり悪であるだとか青春を謳歌せし者たちは常に自己と周囲を欺いているだとか書いた覚えは全くない。そんな事実は確認できません。
平塚「あの時のレポート、実はまだ取ってあるんだ。どうせだし、城廻にでも渡そうかと思っているのだが──」
八幡「…………」
平塚「──比企谷。私が悪かったから、流れるように土下座をしないでくれ」
っべーわ、つい癖で土下座(ゲザ)っちまったわー。まぁ俺くらいのゲザー(土下座の超上手い人)になると気が付いたら土下座っちゃうところあるからな。いやもうほんとこの一ヶ月で何度雪ノ下相手に土下座かましたことか。
598 = 1 :
平塚「しかし、私は君なら出来ると信じていたよ」
八幡「……それはどうも」
バレンタインデーの前日準備の時に、信じていると言われた時の事を思い出す。
まぁ実際はあの直後に一度思いっきりやらかしているのだが、今こうやってなんとかなっているからセーフセーフ。
平塚「ふっ、生徒が成長していく姿を見ることが出来るのは教師冥利に尽きるな。君に恋人が出来るなど、とても昔の君からは考えることも出来なかったからな」
八幡「ええ、最高ですよ恋人がいる生活。先生も早く相手を見つけてぐふげぼがはっ!!!」
馬鹿な……今の一瞬で顔面と鳩尾と腹部の三箇所に拳を入れられた……!? まるで見えなかったぞ……!?
平塚先生にからかわれたお返しとして少々イジってやろうと思っただけなのだが、そこまで本気でキレなくてもいいじゃないですか……。
平塚「次は殺す」
いや、今のも十分殺意を感じたんですけども。
身体ががくがくと震えるのをなんとか堪えながら立ち上がると、平塚先生は廊下にある時計に目をやった。
599 = 1 :
平塚「おっと、これ以上城廻との時間を奪っては怒られてしまうな。私も馬には蹴られたくないし、退散することにしよう」
八幡「あっ、はい……」
正直に言ってこの先生、馬に蹴られたどころでは死なないだろうし、なんなら馬すら殴り倒せそうに感じる今日この頃です。
最後に平塚先生の顔を見上げると、にかっといつものかっこいい笑顔を浮かべていた。
平塚「比企谷、人生にゴールはない。恋人も出来ておしまいじゃないぞ。せいぜい愛想尽かされて逃げられないように努力を怠るなよ」
はっ、家具ごとヒモに逃げられた経験のある人の言葉には重みがありますね。
などと皮肉で返す気にはなれなかった。この平塚先生の笑顔に水を差す気分になれなかったのだ。単にこれ以上殴られたくないという気持ちもあったが。
八幡「……はい」
俺は素直に頷いて返すと、平塚先生も満足そうに頷いて、背を向けて廊下の向こう側へと歩き去っていった。
少しの間、ぼーっとその背中を見つめる。歩みを止めないその背は、遠く離れていく。
いつかあの人の背中に追いつける日がやってくるのかと。
そんなことを、思った。
600 = 1 :
× × ×
陽乃「あ、比企谷くんだ。ひゃっはろー」
八幡「人違いです」
平塚先生と別れてから四階を目指して足早に階段を上っていると、上から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
いや、そんなわけはない。そんなことがあってはならない。今日は卒業式で、ここは校舎の階段である。こんなところにいるわけがない。
そう素早く判断すると、俺はその階段に立つ人影の横を通り過ぎようとして──
陽乃「ちょっとー、別に逃げることないじゃない。失礼だなー、もう」
──がしっと、肩を掴まれた。あの、すれ違いざまに肩を掴まれるの今日もう二回目なんですけど。
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