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    元スレめぐり「比企谷くん、バレンタインデーって知ってる?」八幡「はい?」

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    601 = 1 :

    その肩を掴む力は意外と強い。平塚先生といい、こう物理的な力の使い道をすごくまちがっている人が多いように感じる。もうちょっとその力を別の方向に活かすべきだと思うんです。例えばほら……世界平和とか?

    俺ははぁ~とわざとらしく大きなため息をついてから、ジト目をその肩を掴んできた人物に向けた。

    そこにいるのは、やはり雪ノ下陽乃であった。

    八幡「……なんでここにいるんすか」

    陽乃「後輩の卒業式に来るのくらい、そんなに変なことじゃないでしょ?」

    ああ、そういえば陽乃さんは二年前にここを卒業したのだから、今年卒業する代とはギリギリ接点があるのか。ていうかめぐりさんとも繋がりあったな。

    八幡「そうでしたか、じゃあ俺はこれで」

    陽乃「まぁまぁ、もうちょっとお話ししていこうよー」

    ちぃっ、自然な流れで逃げられると思ったのに!!

    めっちゃ嫌そうな顔をしながら陽乃さんの顔を見てみると、にこにこと薄い笑みを携えている。はぁ、仕方ないので適当に相手していくか。早くめぐりさんのところにまで行きたいんだけどなぁ。

    602 = 1 :

    八幡「なんか用すか」

    陽乃「あはは、ほんと嫌そうなリアクション取るねー」

    そらそうよ。こちとら早くめぐりさんのとこに行きたいっちゅーねん。こんなところで足止め食らっとる場合やないねん。

    陽乃「そんなに早くめぐりと会いたい?」

    八幡「ごふっ」

    そろそろ俺は仮面の購入を真剣に検討した方がいいかもしれない。

    そんなに俺は分かりやすい表情をしているだろうか。

    八幡「や、やだなぁ雪ノ下さん。ぼきゅがなんでめぐりさんと会おうとしてるなんてわかるんでひゅか」

    噛んだ。もうやだおうちかえりたい。

    それに対して、陽乃さんはけらけらと心底楽しそうに笑った。

    603 = 1 :

    陽乃「あっはっは、いやーもうアツアツだね」

    ちなみに言っておくと、当然陽乃さんにもめぐりさんとの交際については報告していない。ていうか、会うのも結構久しぶりだ。なんでめぐりさんと付き合っていること前提で話を進めているのだろう……いや、案外めぐりさん側から漏れているのかもしれないなぁ……。

    八幡「……じゃあ、そういうことで」

    陽乃「まぁ、もう少しもう少し」

    くっそおおおおおお! なに、なんなのこの人! 俺がめぐりさんと早く会いたがっているって分かってるなら早く解放してよぅ!!

    そんな思いと恨みを込めた目線を送っても、陽乃さんはガシッと掴んだ俺の肩を離してはくれない。

    八幡「まだなんか用でもあるんですか」

    陽乃「まだ何も話してないんだけどなー……」

    あれ、そうだっけ? もう一年分くらい話したような気がしてたんだけど。

    八幡「じゃあお手短にお願いします」

    陽乃「……比企谷くんってあれだよね、わたしの扱い結構ぞんざいだよね……」

    そこに気が付くとは……やはり天才か。

    604 = 1 :

    陽乃「それはそれとして今度話し合うとして……どう? 比企谷くん」

    八幡「どうって、何がですか」

    主語も述語もあったもんじゃない質問に聞き返す。いやもうほんと何の用なの。

    陽乃「……君の言う本物ってやつがなんなのかを聞かせて欲しいなって」

    八幡「……」

    陽乃さんが、まっすぐに俺の目を見つめてくる。

    その瞳に宿るのは、好奇心か、それとも純粋な疑問か。

    八幡「俺に聞くより、めぐりさんに聞いた方がいいと思いますよ」

    そっけなくそう返すと、陽乃さんはくすくすと笑って答えた。

    陽乃「めぐりとは、さっきまでお話してたよ」

    ああ、だからこの人階段の上から現われたのか……なんかバレンタインデーの時の雪ノ下とも同じような感じで出会ったな。妙なところで姉妹のつながりを感じる。

    605 = 1 :

    陽乃「めぐりの答えは聞いてきたよ。だから、わたしは比企谷くんの答えが聞きたいな」

    八幡「俺の……」

    めぐりさんも似たような問いを投げかけられたのだろうか。だとしたら、彼女は一体何と答えたのだろう。

    いや、それを推測することに意味はない。

    俺の思う答えを、そのまま伝えるべきなのだろう。

    八幡「俺は、自分のことを誤魔化さずにいられる相手との関係こそが本物だと思うんですけどね」

    陽乃「ふーん……」

    俺はそう答えたが、陽乃さんはえらいつまらなそうにそう呟いただけであった。その声音は冷えており、いつもの明るさの陰もない。

    同時に表情も氷のように凍てつく。そうすると、雪ノ下に似ているなんて感想を抱いた。

    606 = 1 :

    陽乃「……比企谷くんにしては、随分と月並みな答えだね。もうちょっと面白い答えを期待してたよ」

    八幡「はっ、俺に面白さを期待されても困りますけどね」

    けれど、自分を誤魔化さず、相手に受け入れてもらおうとすることがどれほど難しいのか。おそらく陽乃さんは理解していない。

    単純な答えなのだ。素の自分のことを分かってもらいたい。たったそれだけのこと。

    しかし、仮に俺が言ったことが本物なのだとしたら。

    自分のことを偽っているような、捻くれている人間というのは、自分で本物から離れていっているということになるのではないだろうか。

    八幡「雪ノ下さんも、誰か本音を言い合える相手でも見つけることが出来たのなら、分かるんじゃないんですか」

    自分で思ったよりも、攻撃的な言い方の皮肉になってしまった。

    言ってから陽乃さんの顔色を窺う。

    すると、陽乃さんの顔に浮かんでいたのは、どこか哀しげな、寂しげな、そんな表情であった。

    607 :

    陽乃「……比企谷くんも、そう言うんだね」

    八幡「……」

    比企谷くん『も』、とはどういう意味なのかは分からない。

    しかし、今の陽乃さんからはまるで見捨てられた子犬のような印象を受ける。陽乃さん相手にこんな印象を抱くことになろうとは思わなかった。

    ただひとりぼっちの寂しさを感じるんだ。

    そう、いつぞやの自分と同じように。

    八幡「結局、自分から問題を難しくしちゃってるんですよね。哲学みたいに」

    やや自虐っぽくなりながら、そう呟く。それは陽乃さんに向けたのか、過去の自分に対して言ったのか、自分でもよく分からなかった。

    かの邪智暴虐の王は、人を、信ずる事が出来ぬと言った。けれど、王は別に誰かに裏切られたわけでもない。誰も、そんな悪心を抱いてはいなかったのだ。

    それでも、王は人を信じることが出来なくなっていた。それは何故か。その理由は外にはない、内にある。

    そう、王は自分から勝手に人を、周囲を信じることが出来なくなっていったのだ。

    608 = 1 :

    陽乃「……失礼だなぁ、わたしが比企谷くんみたいに捻くれているとでも言いたいの?」

    八幡「いやぁ、雪ノ下さんは割とガチで捻くれてるような気がするんですけど……」

    特に妹への接し方とか超捻くれているような気がする。妹以外全部に対して捻くれていた俺とは真逆のようで、案外近いのかもしれない。

    しかし俺が人に対して捻くれているだなんて言葉を使う時が来るとは思わなかった。だってブーメランだし。

    俺がそう言うと、陽乃さんは目を丸くしていた。この人がこんな顔をするなんて珍しい。いや、この人に対して珍しいという言葉を使えるほど詳しく知っているわけではないが、少なくとも俺は今までに陽乃さんがこんな顔をしていたところを見たことはない。

    陽乃さんはしばし唖然としていたが、突然ぷっと吹き出した。

    陽乃「そっかー……人にそう言われるのは、はじめてかな」

    そうなのか。確かに、陽乃さんに対して真正面から捻くれているなんて指摘しそうな奴なんていなさそうだ。思いつくのは平塚先生くらいか。

    いつぞや、俺が嫌いだと面と向かって言ってやった時の葉山も似たようなことを言っていたような気がする。

    609 = 1 :

    八幡「案外、答えって近くに落ちているものなんじゃないですかね。でも、人って結構近くにあるものって分からなかったりするんですよ。捻くれてると余計に」

    陽乃「……比企谷くん、恋人が出来たからって偉そうにこのやろー!」

    八幡「あぷっ、ちょっ、やめっ!」

    がしっと、突然頭が陽乃さんの腕に挟まれ、いわゆるヘッドロックというやつを決められる。

    痛い痛い、でもなんか頭がミシミシと嫌な音を立てながら陽乃さんの豊満なバストにちょいちょい当たってる気がする。あっ待ってくださいめぐりさんこれは浮気とかじゃないっすノーカンノーカン。

    陽乃「……めぐりにも似たようなこと言われたんだよね、『はるさんにも本音を言い合える相手が出来たらいいですね』みたいな感じのこと……」

    陽乃さんが寂しげにそんな言葉を呟いていたような気がするが、その間も何故か俺の頭蓋骨を思い切り締め続けていた。あまりの痛みとおっぱいの感覚が同時に襲い掛かってきて天国と地獄をいっぺんに味わっているような気がする。

    陽乃「……わたしから、勝手に真実から遠ざかってたのかな」

    そう言いながら、ようやくぱっと俺の頭を解放してくれた。あー痛かった。がっつり極められてたしな……。べ、別にあの魅惑の胸元から離れてしまって残念だとか微塵も考えてないんだからねっ!?

    自分の頭を押さえながら陽乃さんの表情を窺うと、すっかりいつものスマイルを浮かべていた。

    610 = 1 :

    陽乃「そうだねー、わたし、比企谷くんとなら付き合ってもいい気がしてきたよ」

    八幡「すんませんね、俺には心に決めた相手がいるもので」

    陽乃「そっか。めぐりは幸せものだなぁ」

    そう言うと、陽乃さんは背を向けて階段を下っていく。その途中で、首だけを動かしてこちらを向いた。

    陽乃「比企谷くん、もしもめぐりに飽きたらわたしに連絡ちょうだいね。まぁめぐりを泣かせたら許さないけど」

    八幡「どっちですか……」

    その俺の問いには答えず、陽乃さんはそのまま階段を下りていく。今度はもう振り向くことはなかった。

    611 = 1 :

    その背を見送りながら、俺は本物とは何かという疑問に想いを馳せる。

    ああは言ったが、正直なところ未だによく分からん。

    けれど、きっとそれは理詰めで導き出せるものではないのだろう。

    もしそうであればもっと早く簡単に解答に辿り着くことが出来ている。感情が計算出来るならとっくに電脳化されているとは誰の言葉だったか。

    となれば、人間の感情の問題か。

    あの陽乃さんに理性の化け物とまで評された前までの俺では、無限に計算を続けていても理解することが出来なかっただろう。

    俺が手に入れたと思っている本物だと思っている何か。

    それを言葉にするのであれば何と表現するのが相応しいのだろう。

    ふと、めぐりさんの笑みが俺の脳裏に浮かんだ。

    そして同時に浮かんだ感情。

    これこそが人間の感情の極み。希望より熱く、絶望より深いモノ──愛か。

    どこぞの時をかける魔法少女の言葉が脳裏を掠めた。うーん、いきなりそんな言葉を思いついたのはこの前見返したばかりなせいかな。このアニメの主人公、なんか小町と声似てるよなーとか言いながら小町と二人で見たような気がする。

    しかし、愛か。

    その答えはなんともチープで──それほど、悪くない答えのような気がした。


    612 = 1 :



       ×  ×  ×


    陽乃さんと別れた後、俺は校舎の階段を上がっていく。なんだか随分と時間食った気がするなぁ……。

    めぐりさんのメールには空中階段にいると書かれていたので、そこに繋がる四階まで向かった。

    しかしあの場所か。

    一ヶ月前、バレンタインデーの時にめぐりさんに告白した場所。

    それが校舎と特別棟を繋ぐ、屋根のない空中廊下だ。

    場所が場所なので、あの廊下を使う機会なんてそうそうない。俺もあの空中廊下を目指して歩くのはバレンタインデー以来だった。

    階段を上りきり、空中廊下に出る踊り場へ立つ。

    硝子戸の向こうには、愛しい彼女の姿が見える。瞬間、心臓の鼓動が高鳴るのを感じた。

    すぐに硝子戸を開けて、空中廊下に踏み出す。

    613 = 1 :

    外の気温はあまり低くなかった。三月に入って一週間ちょっとが経ったが、最近は寒さがあまり厳しくなくなってきており、コートがなくても外に出ることが出来るようになりつつある。段々と春が近付いてきている証拠なのだろう。

    グラウンドの方からは騒がしい声がきゃいきゃいと聞こえてくる。卒業する三年生たちのものだろう。少し目線をやれば騒いでいる者や泣いている者など様々な人が入り乱れている。

    それから空中廊下の真ん中に立っている彼女に目線を戻すと、その名を呼んだ。

    八幡「めぐりさん」

    同時に、彼女もこちらの方を振り向いた。おさげ髪が揺れて、前髪がピンで留められたおでこがきらりと光る。その綺麗な瞳が俺のことを捉えると、その顔にほんわかとした明るい笑顔を浮かべた。そのにこにこ笑顔が目に入った瞬間に俺の心が浄化されたような気分になる。この感覚……これが……これが、めぐりっしゅというものか。

    めぐり「ハチくん」

    めぐりさんにいつもの愛称を呼ばれると、自分の顔が緩んでしまったことを自覚する。

    八幡「遅れてすんません」

    俺はそのまま、めぐりさんの側にまで歩み寄った。

    そして近くの手すりに寄り掛かりながら、めぐりさんの顔を見る。

    614 = 1 :

    八幡「どうしたんですか、こんなところに呼び出して」

    めぐり「もう、こんなところなんて言っちゃダメだよ」

    ぷんぷんと、わざとらしく怒り出す。そんな挙動も可愛らしい。そういった仕草にあざとさを感じさせないのが天然さんの天然さん足る故なのだろう。

    俺が再びすんませんと短く謝ると、すぐに元通りの笑顔に戻った。

    めぐり「最後にね、ハチくんと一緒にここに来たかったんだ」

    その笑みに反して、口調はやや寂しそうだ。当然かもしれないが、やはりめぐりさんも学校を卒業してしまうことに対して色々思うことがあるのだろう。

    めぐり「ここは思い出の場所だからね」

    八幡「……そうですね」

    あれから一ヶ月近く。そのわずかな間にも結構色々あったのでもっと長い時間が経っているような気がしたが、まだ一ヶ月も経っていないのだ。

    あの時のことを思い出す。あの時、めぐりさんのことを追いかけられて良かったと心底思う。もしも自分の気持ちを誤魔化してめぐりさんのことを振ったままでいたならば、俺はどうしようもない後悔に苛まされていただろう。

    俺の背中を押してくれた皆のおかげだ。

    雪ノ下や由比ヶ浜、一色たちがいなければ俺は、こうやってめぐりさんの横に立っていることは出来ていなかったはずなのだ。

    615 = 1 :

    心の内で改めて皆に感謝を述べながら、ちらりとめぐりさんの方に視線をやる。そういえば言わなくてはならないことがあった。

    八幡「……そういやめぐりさん、さっきの答辞のあれなんですか。めっちゃくちゃ恥ずかしかったんですけど」

    めぐり「あはは、ごめんねー」

    謝罪の言葉を口にしている割に、めぐりさんの表情と口調に悪びれている様子はない。別に責めるつもりもないんだけどね。

    とはいえ、あんなことを言い放った理由が気にならないわけではない。変な誤解を生んでも仕方のないレベルの発言だったのだ。

    八幡「あれ、事前に考えてたんですか?」

    めぐり「……いや、違うよ。最初は普通に用意してた原稿通りに進めるつもりだったんだ」

    八幡「じゃあ、なんでいきなりあんなことを……?」

    俺がそう問うと、めぐりさんは人差し指を唇に当てながらうーんと首を傾げた。思わずその艶やかな唇に視線が行ってしまう。俺は一体何を考えているのだろう。

    616 = 1 :

    めぐり「うーん、なんでだろうね……自分でもよく分からないや」

    八幡「分からないって……」

    めぐり「あはは、でもね、なんかいきなり言いたくなっちゃったんだよね」

    そう笑いながらめぐりさんは手すりに寄りかかって、グラウンドの方に顔を向けた。その先には、たくさんの生徒がざわついている。最後の学校で、彼ら彼女らは何を想うのだろう。

    めぐり「……みんなに、知って欲しかったのかもしれないね」

    八幡「何をですか」

    めぐり「ハチくんが頑張ってたことを……かな」

    自分のお下げを指でくるくると巻きながら、しんみりとそう呟く。グラウンドを見ているその横顔からは、どこか寂しげな印象を受けた。

    八幡「……」

    そんなめぐりさんの呟きに、俺は咄嗟に反応を返すことが出来なかった。

    617 = 1 :

    別に、文化祭でも体育祭でもバレンタインデーイベントでも、そしてこの卒業式でも、俺はそんなに大したことをしたわけではない。けれどこの人は言うのだ、みんなに知ってもらいたかったと。

    しばしの間、沈黙を尊んでいると、グラウンドを見ていためぐりさんの顔が俺の方に向いた。

    めぐり「名前も出してないし、あれじゃみんなには伝わらないかもだけどね」

    八幡「……別に伝わらなくてもいいですよ。むしろあれでめぐりさんが変なこと言われる方が嫌です」

    実際、あんなこと言ってめぐりさんは他の三年生に何か言われてたりしないのだろうか。そちらの方がよほど心配である。

    ちなみに当然俺は他の二年生にどうこう言われることはなかった。俺とめぐりさんのことを知ってるのなんて雪ノ下、由比ヶ浜、戸塚くらいだし、めぐりさんの言った大切な人とやらがまさか俺のことだと疑ってかかる奴などいるはずがないだろう。俺の名前まで出さないでくれてよかった。

    めぐりさんはやや俯いて、ポツリと漏らす。

    めぐり「……そうかな。私は、ハチくんが頑張ってたこと、本当はみんなに知ってもらいたかったんだけどな」

    八幡「……」

    決して、俺はあれらの行事が自分なくしては成り立たなかったなどとは思ってはいない。俺がいなかったらいなかったで、きっと他の人がどうにかしてくれていただろう。

    だから俺の行動がどうであれ、それを見知らぬ誰かとやらに認めてもらいたいだなんて考えちゃいない。

    それに、仮にあれが功績と呼べるようなものだったとして、そんな不特定多数の人間に功績を認められることより──

    八幡「今更知らん人にどうこう言われてもどうでもいいですし。それより俺は……めぐりさんに認めてもらえる方が嬉しいです」

    ──めぐりさんにそう言ってもらえることの方が、よほど嬉しいことだった。

    618 = 1 :

    めぐり「……」

    俺の言葉が意外だったのか、ぽかんとしているめぐりさん。

    しかし数秒後、その唖然としていた表情がほんわかとした笑みに変わった。

    めぐり「あはは、そっか」

    八幡「はい、そうです」

    これが自分の本音であった。たとえ他の誰から認められなくとも、めぐりさんさえ認めてくれるのであれば、俺はそれでいい。そう思える。

    しばらく笑っていためぐりさんだったが、俺の目を真っ直ぐに見つめると、その可愛らしい口を開いた。

    めぐり「そう言ってくれるのは嬉しいけど、私としては複雑かな」

    八幡「え?」

    めぐり「私としては……みんなのために頑張った自分の恋人の頑張りを知られないままなんて、そっちの方が嫌かも」

    めぐりさんにそう言われてハッとする。この期に及んで、どうも俺はまだ自己中心的な考えから抜け出しきれていないようであった。

    619 = 1 :

    今の俺はぼっちではない。自分で言うのはまだ少し恥ずかしいが……俺は、城廻めぐりの恋人なのである。自分がどうなっても誰も悲しまないという理論は、今は使えないのだ。

    たとえば逆の立場で、めぐりさんが奮戦していたのにも関わらず周囲にボロクソ言われてみたとしよう。……うん、まずキレるね。まちがいなくキレる。怒りを通り越してスーパーサイヤ人に覚醒するまである。

    めぐり「だから、私としてはハチくんにはみんなに認められるような頑張り方をしてもらいたいなって思うんだよね」

    八幡「……すんません、めぐりさんの気持ちまで考えてなくて」

    めぐり「ううん、大丈夫だよ。でも、もう文化祭の時のようなやり方をやっちゃダメだからね?」

    八幡「それはもう……はい、二度とやりません」

    めぐり「ならよしっ」

    頭をぺこぺこ下げながらそう答えると、めぐりさんは満足したようにうんうんと頷く。

    めぐり「来年度は、私はいないからね。だからもう助けてあげられないの」

    そう言いながら、めぐりさんが俺の前にまでやってきた。そのまま、ぱっと俺の手を取る。

    620 = 1 :

    前にも同じようなことを言われたことがあるような気がするな。確かそれは……めぐりさんと初めて学外で会った時のことだったか。思えば、あの時のナンパ師云々の出来事が全ての始まりだったような気がするなぁ……。

    俺の手を取っためぐりさんの表情は明るい。

    めぐりさんのあたたかい気持ちが、手を通して流れ込んできたように感じた。

    めぐり「でもハチくんと一色さん達がいれば、来年の文化祭とか色々も安心だよね」

    八幡「俺、来年度も文化祭とかの手伝いやるの確定なんすか……」

    いやまぁ多分このままの流れだとやることになるんでしょうけどね、ええ。

    めぐり「私が大好きなこの学校……生徒会……ハチくんになら、任せられると思うから」

    所詮、俺はただの一生徒だ。優等生でも生徒会でもトップカーストでもなんでもない。出来ることにだって限りはある。

    けれど、この人に託されて何もしないわけにはいかない。この学校の力になれるのであれば、なろうと思う。

    621 = 1 :

    八幡「まぁ、俺の出来る限りで頑張ろうと思います」

    めぐり「あはは、これからの総武高校をよろしくね」

    ぎゅっと、俺の手を握る手にさらに力が込められた。そしてそのままめぐりさんが一歩前に出る。

    すると俺とほぼ密着する距離にまで近付いた。

    八幡「めぐりさん……?」

    めぐり「……ね、ハチくん」

    至近距離から俺のことを見上げるめぐりさんは、どこか色っぽく感じた。どきっと心臓が大きく跳ねる。いつもは年下のようなあどけない笑みを浮かべるめぐりさんだが、今はいつもと違うように思える。艶かしいとでも言おうか。まるで年上の色香のようなものを漂わせてきた。

    ごくっと、思わず息を?んでしまう。俺の目を見つめるその綺麗な瞳に吸い込まれそうになった。そして視線が形の整った鼻、そして口元に移る。俺の視線がその口元で留まった時、その口が小さく開いた。

    めぐり「目……閉じて欲しいな」

    八幡「えっ、あっ、はい」

    めぐりさんの色気にやられてしまったのか、心臓がばくばくいっており、頭も上手く回らない。何も考えることも出来ず、つい反射的にめぐりさんの命令に従ってしまう。

    言われた通りに目を閉じると──


    自分の唇に、柔らかくてあたたかい感覚がやってきた。


    一瞬それが何を意味するのか、頭が理解してくれなかった。

    思わず目を見開くと、零距離にめぐりさんの顔がある。

    今のってまさか……。

    622 = 1 :

    >>621
    ごくっと、思わず息を?んでしまう。→ごくっと、思わず息を呑んでしまう。

    623 = 1 :

    めぐり「……あはっ、しちゃったね」

    八幡「は、はは……」

    ……その存在は都市伝説だと思っていましたが、今のってもしかしなくても……キス、というやつを、めぐりさんからされてしまったのではないでしょうか。

    改めて見てみると、めぐりさんはちょっと背伸びをしながら、自分の唇の感覚を確かめるように手を当てていた。

    めぐり「……私、はじめてなんだ。キス」

    八幡「お、俺もです……」

    俺とめぐりさんはまだキスをしたことはなく、手を繋ぐ以上のことはまだ経験していなかった。

    だから今のがファーストキスということになる。あまりに唐突だったので、驚きが随分と遅れてやってきた。

    624 = 1 :

    めぐり「……実は今日、どっかのタイミングでやろうって決めてたんだよね」

    八幡「……めぐりさん」

    めぐり「あはは、いきなりで驚い──んっ!?」

    言葉を言い終える前に、俺はめぐりさんを抱き寄せて、そしてめぐりさんの唇に俺のそれを重ねた。

    瞬間、めぐりさんの小さな肩がぴくんと跳ねる。再び唇から柔らかい感触が伝わってきた。めぐりさんは急に唇を奪われて驚いているのであろうか、目も閉じず為すがままにされている。

    しばらくの間、その体温を味わい続け……息が続かなくなってぱっと唇を離すと、めぐりさんは顔を真っ赤に染め上げて口をぱくぱくとしていた。

    めぐり「い、いきなりのセカンドキスだね……!?」

    八幡「……本当は」

    めぐり「え?」

    八幡「本当は、俺からファーストキスを仕掛けようって思ってたんですけどね」

    つい顔をそむけながら、ちょっと拗ねたような言葉が出てきた。

    ……実は、今日こそは自分からはじめてのキスを仕掛けようと密かに意気込んでいたのだが。

    まさかめぐりさんの方から奪ってくるとは考えもしてなかった。

    ちっぽけながら男としてのプライドがある俺としては、自分から行きたかったんだけどなー……。

    625 = 1 :

    めぐりさんはぱちぱちと目を瞬かせていたが、ぷっと突然堰が切れたように吹き出した。

    めぐり「あははっ、ハチくんも同じことを考えてたんだね」

    八幡「だーくそ、男からやるもんですよ、こういうのって」

    頭を乱暴に掻き毟りながら、そう吐き捨てるように言った。くだらない価値観だとは思うが、これは気持ちの問題だ。

    けどまぁ……何はともあれ、キス、しちゃったんだよな。

    めぐりさんの顔を見ると、その口元の果実のように赤い唇につい視線がいってしまった。それを意識してしまうと、再び自分の中の鼓動が早くなってしまったように感じる。

    うわぁ、なんか恥ずかしいぞこれ……キスなんてどこのカップルもやってるようなもんじゃねぇのか……。あの唇に触れた瞬間、脳はスパークして身体中が電気が走ったように痺れて頭の中は真っ白になり、唇の体温以外の感覚が消えたようになった。人間というのは、こんなすごいことをやることが出来るのかと、本気で驚愕したものだ。

    ぼーっとめぐりさんの唇を凝視していると、がばっとめぐりさんが俺の方に向かって飛びかかってきて、抱きついてきた。

    626 = 1 :

    八幡「うおっ、めぐりさん!?」

    めぐり「ね、ハチくん」

    自分の身体にくっ付いてきためぐりさんが、俺のことをポツリと呼ぶ。ほんわかとした体温が、柔らかい匂いと一緒に俺に伝わってきた。

    めぐり「私、ハチくんのことが大好きだよ」

    八幡「……俺も、めぐりさんのことが好きです」

    俺も両手をめぐりさんの背に回して、抱きしめ返す。強く自分に引き寄せるように抱き締める腕に力を込めると、んっとめぐりさんが息を漏らした。

    八幡「愛してます、めぐりさん」

    めぐり「私もだよ……ハチくん、愛してる……」

    どちらともなく顔を近づけると、三度目のキスを交わした。

    ああ、ここまで辿り着くのに随分とかかったなと思う。いや、めぐりさんのことを意識し始めるようになってからは一ヶ月ほどしか経っていないのだから、単純な時間面では長い時間ではないのだろう。

    けれど、俺の中では途方もないほど遠回りをしてきたと感じた。

    時につまずいて、転んで、まちがえて。

    同じところをめぐりめぐって。

    そうした果てに見つけた世界の光景は美しかった。

    けれども、これで終わりではない。

    俺はこれからも「何か」とやらを求め続ける。

    この城廻めぐりと、一緒に。


    627 = 1 :



       ×  ×  ×


    めぐり「ハチくーんっ!!」

    八幡「おっ」

    遠くから、俺の名前を呼ぶ愛おしい声が響き渡る。

    声が聞こえてきた方を振り返ると、めぐりさんがやや急ぎ足で駆け寄ってきていた。

    めぐり「ごめんね、ハチくん。待たせちゃったかな」

    八幡「や、俺も今来たとこです」

    三時間待っていた程度なら誤差で済ませていいだろう。

    めぐり「ほんとかなー? ハチくん、前も同じようなこと言いながらすっごい待ってたことあったよね?」

    八幡「まぁそんなこともあったかもしれませんけど、今日はちょっと早く着いちゃっただけですって」

    めぐり「そっか、ならいいんだ」

    にぱっと、めぐりさんの顔にほんわかとした笑顔が浮かんだ。それを見るだけで俺の心の中が浄化されたかのように清らかになっていく。今日のめぐりっしゅノルマも達成だ。

    うん、まぁ前に集合時間の五時間以上前から待っていたこともあったけど、確かに五時間は誤差とするには少々厳しかったかもしれないな。

    628 = 1 :

    めぐり「それじゃ、行こっか」

    八幡「そうですね」

    自然と、俺とめぐりさんの手は繋がっていた。手から伝わるめぐりさんの温もりが心地よい。

    そのままめぐりさんと肩を並べて、俺たちは足を踏み出した。

    めぐり「ねぇねぇ、ハチくん。今日は前にハチくんが美味しいって言ってたとこに行きたいな」

    八幡「ラーメン屋ですよ? めぐりさんなら……あー、余裕で食べ切れそうだなぁ……」

    めぐり「楽しみだねー、どんなところなんだろ?」

    隣を見れば、めぐりさんがいつものほんわか笑顔を携えて楽しそうに話を振ってくる。

    そんなめぐりさんを見ていると、俺も思わず顔がほころんでしまう。

    すると、めぐりさんは緩んでしまった俺の顔を見て、またあははと笑った。

    めぐりさんの笑みは、めぐりめぐってまた笑みになる。

    だから、めぐりさんの笑顔が絶えることはない。

    きっと、これからもずっと。




    629 = 1 :

    これにて、完結です。

    当初は多く書かれていたいろはSSに対して、「お前ら後輩キャラだけじゃなくてちょっとは先輩キャラのめぐり先輩のことも書かんかい」みたいな反抗心を持ちながら、11巻発売前に中編程度のSSを投下する程度の気持ちで書いていましたが、いつの間にか作成期間二ヶ月、総文字数十六万文字オーバーとそこそこ長くなってしまいました。

    最初から最後まで読んで下さった皆様、本当にありがとうございます。

    感想や質問、批評等を頂ければ、とても嬉しく思います。


    現行スレ
    八幡「俺ガイルRPG?」
    http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1430984337/

    過去作
    いろは「先輩、バレンタインデーって知ってますか?」八幡「は?」
    http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1431921943/
    小町「こまちにっき!」八幡「は?」
    http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1432110358/
    結衣「一日一万回、感謝のやっはろー!」八幡「は?」
    http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1432456542/
    川崎「けーちゃんの」八幡「はじめてのおつかい?」
    http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1437635226/
    他にも色々。


    他作品もよろしくお願いします。

    それでは、他作品でまたお会いできればと思います。


    最後に、八幡誕生日おめでとう!!

    630 :

    おつです

    632 :

    お疲れ様でした
    16万文字ですか、本当に大作ですね
    めぐりさん好きの俺が本当に感激です
    まだお会いしましょう

    633 :

    おつでした

    634 :

    >>629
    楽しく読ませて貰いました。お疲れさまでした。

    635 :

    お疲れす

    636 :

    はるのんSSも書いてくれ

    637 :

    やっぱ俺ガイルはめぐり先輩が最高だよな
    というわけでもう一本書いてください先生

    638 :

    こっちもついに完結か
    だいぶめぐりっしゅされたわ

    639 :

    すごくよかった おつ

    640 :

    乙です。
    すごく良かった

    641 :

    お疲れ様でした
    面白かった

    642 :

    おつです。
    めぐりっしゅされました!

    643 :

    お疲れ様。2ヶ月間楽しかった。

    644 :

    乙でした
    密度の濃いSSをありがとう
    これでまた一つ面白いSSが完結した

    645 :

    本当にお疲れさまです

    646 :

    末永くめぐりっしゅされたい…乙

    647 :

    例の八幡×沙希スレみたいに、短編(エロ)書いても良いのよ(チラッ)

    648 :

    皆様ありがとうございます。
    申し訳ありませんが、短編などを書く予定はありません。
    俺ガイルRPGと、そのうち書きそうな新作をよろしくお願いします。

    649 :

    短編という名のスレ立て荒らし


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