元スレ八幡「は?材木座が不登校?」
SS+覧 / PC版 /みんなの評価 : ☆
51 = 1 :
結衣「うん!ちゃんと明日13時に来てね!」
八幡「あー……。13時までには起きるようにするわ」
結衣「いや、それ間に合わないから!」
わかってるっつーの。ただ遊びに行くわけじゃなく、小町絡みだからな。土曜日だろうとちゃんと起きるさ。
なんなら早く起きすぎて家族に驚かれるまである。
八幡「んじゃ明日な」
結衣「うん!後でLINE送るね!」
手を振って見送る由比ヶ浜を背に駐輪場へ向けて歩きだす。
まあ、なんだ。連絡網が充実すんのは悪いことじゃねーよな。
52 = 1 :
駐輪場へ向けて歩いていると、前方から一色いろはが歩いてくるのが見えた。
うわー、これまた面倒な奴に会っちゃったよ……。早く帰りたいっつーのに……。
いろは「あっ、せんぱーい!」
八幡「……おう」
いろは「お疲れ様です!今帰りですか?」
八幡「……おう」
そうだよ、今から帰るところだよ!だから君とお喋りしてる暇はないよ!じゃあね!バイバイ!
色んな意味を込めた「……おう」だったのだが、もちろん一色には通用しない。ばっちり俺の進路を塞ぐように立ちはだかり、両手を広げて通せんぼの構えである。
相変わらずあざとい。
53 = 1 :
いろは「ちょっと待ってくださいよ先輩!可愛い後輩が話しかけてるのに、つれないですよ!」
八幡「もう下校時刻なんだよ、さっさと帰らせろ。ていうか生徒会長が率先して下校時刻破らせようとすんな」
いろは「それでちょっと先輩にお願いがあってですねー」
こいつ……俺の話を頭から無視する……だと……?
ああ、まあ割とよくあることだな。というか俺の話を頭からちゃんと聞いてもらえる場合の方が少ない。
いろは「明後日のことなんですけど、ちょっと生徒会だけじゃ人手が足りなさそうなんですよー」
55 :
モノローグうまいね
面白い
56 :
雪ノ下には守秘義務という概念はないのか
57 :
八幡「お前そんなこと急に言われてもどうにもできねえよ……。俺にも予定ってもんがあるんだよ」
いろは「え、知ってますよ?学校に来るんですよね?」
え、なんでこいつ知ってんの?さっきから俺のプライバシーどうなってんの?
いろは「結衣先輩にはもう話通してあるから大丈夫ですよ!」
ああ、情報源はあいつか。ていうか俺に黙ってやがったな、あいつ。余計な気つかいやがって。
いろは「結衣先輩と雪ノ下先輩には手伝っていただけるみたいですけど、なんか先輩は無理そうって聞いてたんですよねー」
八幡「無理そうって聞いてたなら、今改めて頼むなよ。実際半々くらいで無理なんだよ」
まだどうなるかわからんが、最悪の場合は想定しておかんとな。
58 = 1 :
いろは「でも半分は大丈夫なんですよねー?」
八幡「あー、まあな」
いろは「じゃあぜひぜひお願いしますよー。葉山先輩たちも手伝ってくれるんですけど、それでもやっぱり足りなさそうなんですよねー」
八幡「確約はできないけどな。奉仕部として依頼を受けてるなら、できるだけ前向きに検討の上善処するわ」
いろは「な、なんですかそのお役所みたいな言い回し……。しかもそれ大抵やってくれないときの言い回しじゃないですか」
ちっ、バレたか。
いろは「じゃあ、お願いしましたからね!」
八幡「……おう」
いろは「それじゃあまた日曜に!」
一方的にお願いするだけして、一色はさっさと行ってしまった。
結局、お願いはされたけどやるとは言ってないしな。これは別に手伝わなくても俺は何も悪くない。
今週末はやることが山積みで、まるで休日感がねえな……鬱だ……。
59 = 1 :
家に帰ると珍しく電気が全て消えていた。どうやら小町は学校帰りにどこかへ出掛けているらしい。
2年になって奉仕部に入ってから、毎日帰宅が18時以降になるため、小町より早く帰ってくるのは久しぶりな気がした。
元々、ぼっち属性の俺だ。帰ってきて誰もいないという事実に寂しさを覚えるようなことはない。むしろテンション上がるまである。
思わず小さくないボリュームで歌を口ずさみ、不審者を見るような目で俺を見るかまくらに陽気に話しかけたりもした。
小町が邪魔だなんてことはないのだが、それとは別にやはり俺は一人が根元的に好きらしい。制服から部屋着に着替えながら、「うひょう!」とか、「ウルトラッソウッ!ハイッ!」とか意味不明なシャウトを発していた。
こんなとこ誰かに見られたら物理的に引きこもるかもしれない。
60 = 1 :
とりあえず上がりきったテンションが落ち着くと、小町からの連絡の有無を確認するためスマホを起動。ホームボタンを押しながら、「起動(アウェイクン)!」とか呟いちゃうあたり、まだテンションの制御に手こずっている。
とっくの昔に捨て去ったはずのもう一人の俺(中二)が今宵はやけに疼きよる……。
LINEを起動すると、小町からメッセージが2件、☆★ゆい★☆からはメッセージが3件来ていた。
とりあえず小町とのトークを開く。
小町【今日は友達と遊びに行くので遅くなるよ~。20時には帰ります】
小町【お兄ちゃん、ちゃんと結衣さんにLINE返してあげなきゃだめだよ!】
以上の2通が来ていた。
比企谷八幡【了解。夕飯はいるのか?】
と返し、次に由比ヶ浜のトークを開く。
61 = 1 :
☆★ゆい★☆【やっはろー!ちゃんとLINE返してね(^o^)/】
☆★ゆい★☆【どうしようヒッキー!ゆきのんがいきなり1万円のiTunesカード買っちゃったよ!(*_*)】
☆★ゆい★☆【とりあえず今日のところは家に帰らせたけど、さっき『このガチャというの、何度引いてもパンさんが出ないのだけれど。壊れてるのかしら?』ってLINEきたよー……】
oh……。
雪ノ下、驚くほど予想通りだな。あいつは見かけによらず、けっこう熱くなるところがあるし、ソシャゲーなんか一番やらせちゃいけない人種かもしれん。
62 = 1 :
比企谷八幡【あいつの金だ。いくら使おうとあいつの勝手だろ。ガチャ商法の恐ろしさ、身をもって知ってもらおうじゃねーの】
よし、これで送信っと。
うわっ、送った瞬間に既読ついたんだけど。何こいつ、ずっとこの画面凝視してんのかよ。
☆★ゆい★☆【おー!o(^o^)oヒッキーから初めてLINEきた!!】
☆★ゆい★☆【奉仕部のグループ作ったから招待するね!】
……☆★ゆい★☆さんから『奉仕部』へ招待を受けました……
☆★ゆい★☆【奉仕部のグループトークだよ~!ゆきのんもヒッキーもちゃんとしゃべってね!!(゜-゜)(。_。)】
63 = 1 :
雪ノ下雪乃【比企谷君、パンさんが出ないのだけれど。あなたもしかして私を騙したのかしら?】
奉仕部のグループトークを開くと、いきなりこれである。さすが雪ノ下、期待を裏切らない。期待していたわけではないが。
比企谷八幡【(^д^)m6プギャー】
俺が顔文字を使うなんて、ガチャでパンさん引くより確率が低い。というか初めてじゃねえの?
いやー、サービス精神旺盛だなー俺。感謝してほしいくらいだ。
雪ノ下雪乃【なぜかしら、この顔文字を見ていると無性に腹が立つわね。ひょっとして比企谷君をモデルにしているのかしら?】
☆★ゆい★☆【ヒッキー何この顔文字??なんかきもい……(/--)/】
64 = 1 :
総スカンである。あれー?おかしいな、女の子とメールするときは、顔文字使うと好感度アップって何かで見たんだけどなー。
そして雪ノ下さんは俺の顔を見ていると腹が立つみたいですね……。まあ、知ってたけどね。
比企谷八幡【俺の顔をモデルにしてたらこんなに楽しげなわけないだろ】
と送ったところで、小町から返事が来た。
小町【夕飯いるよ!!帰りにケンタッキー買って帰るね~】
比企谷八幡【さっすが小町パイセン!!ヤッフゥウ ー!ケンタだケンタだー!晩飯はケンタッキーだぜぃ☆】
ちょっとまだテンションを制御しきれてない感じの内容を送ってしまった。というか、ケンタッキーのおかげで、せっかく落ち始めたテンションが再び盛り上がった感がある。
小町ならこういうとき一緒に盛り上がってくれるはず。ノリは良い妹だしな。肉肉トークに肉咲かせようぜぃ、小町ぃ!
65 = 1 :
小町【はい】
うわぁ……。さすが小町、兄の扱いはお手の物である。
今、かつてない速度でお兄ちゃん冷静になれたよ。ありがとうな、小町。ただ、副作用でお兄ちゃん軽く死にたくなりました。
☆★ゆい★☆【(▽д▽)←ヒッキー!】
雪ノ下雪乃【あら、そっくりね。比企谷君の写真かと思ったわ。】
☆★ゆい★☆【でしょでしょ?!可愛いでしょ!?】
雪ノ下雪乃【比企谷君という名前がついた時点で、かわいいという評価はあり得ないわね。】
俺が小町とやり取りしている間に、奉仕部の方ではいじめが横行していた。もちろん、被害者は俺だ。
66 = 1 :
比企谷八幡【おい、なんで俺をいじめる流れになってんだ】
☆★ゆい★☆【えー??いじめじゃないよー(;´д`)かわいくない??(▽д▽)】
かわいくねえよ。めちゃくちゃ凶悪な面してんじゃねえか。
あと顔文字とはいえ俺に対してかわいいとかやめろ。顔文字に嫉妬しちゃうだろうが。
比企谷八幡【晩飯の支度があるから落ちるぞ。通知がいちいち面倒くさいから、お前ら二人で話すときは個別のトークでやれよ】
宣言通り晩飯の支度をするため、スマホをソファにポイ捨てしてキッチンへと向かう。
結局その日は材木座から折り返しの電話はこなかった。
67 :
なんだこのリア充
69 = 1 :
翌朝。11時過ぎに起きると、家には小町一人がいるのみであった。
どうやらエリート社畜たる我が家の両親に、週休2日という概念はないらしい。
リビングでかまくらと遊んでいた小町が俺に気づき、「おはよー」とあいさつをしてくる。
八幡「おう、おはよう」
小町「お兄ちゃん、今日はけっこう早いね。今日土曜日だよ?」
世間一般からすれば11時起床はなかなかズボラだとは思うが、確かに俺にしては早起きと言える。
早朝から忙しい(プリキュアとか)日曜は早起きの俺も、土曜日は基本スロースターターだ。1日12時間睡眠は当たり前。15時間起きないことも。
70 = 1 :
八幡「今日は午後から出かけるんでな。とりあえず風呂入ってくるわ」
小町「お兄ちゃんが出かける前にシャワー……。なるほど、結衣さんか雪乃さんとデートか……。」
相変わらず勘の鋭い妹である。 だが、残念不正解だ。
八幡「デートじゃねえよ。奉仕部の買い出しだ。由比ヶ浜も雪ノ下も一緒だよ」
小町「なーんだ、残念。あーあ、前もって教えてくれれば小町も一緒に行きたかったのに」
八幡「悪いな、昨日急に決まったんだわ」
71 :
(▽д▽)「人生は苦いから、コーヒーくらいは甘くていい……」
72 = 1 :
まあ昨日決まったってのは嘘なんだけどな。サプライズパーティの買い出しに、当の主役を連れていくわけにもいくまい。
八幡「なに、お前今日もどっか行くの?」
小町「うん。クラスのみんなで前夜祭だよ」
八幡「祭ではないだろ。相変わらず何かにつけて名目をつけて騒ぎたがるよな、リア充どもは」
祭だからと騒ぎ、天気が良いからと騒ぎ、天気が悪いからと騒ぐのがリア充という生き物だ。
小町「確かに祭じゃないけど……何かをするのに理由をつけたがるのはむしろお兄ちゃんじゃない?」
さらりと毒を放つ小町。その通りなので何も言えず風呂場へと逃げる。
しかし、今天啓のように俺の頭を一つの証明が駆け抜ける。
小町の話を真であると仮定するなら、つまり……八幡=リア充……?
そうか、俺はリア充だったのか……。そんなわけあるか。
73 = 1 :
風呂から上がると、すでに小町は出かける準備万端。玄関でブーツを履こうと座り込んでいるところだった。
小町「朝ご飯の残りが台所にあるから、温めて食べてね~」
八幡「あいよ。あんま遅くなんなよ」
小町「んー、今日はけっこう早く帰ってくると思うけど」
それから小町は立ち上がり、ドアを開けるとツッタカツッタカ駆けて行った。
行ってきますの一言もないなんて、お兄ちゃんちょっと寂しいな……。
なんて思っていると再びドアがガチャリと開いて、思わず声に出して驚いた。
八幡「っくりしたー……!なんだ、なんか忘れもんか?」
小町「うん。お兄ちゃんに行ってきますするの忘れてた」
小町は器用に片目を瞑って舌をチョロっと出してそう言った。くそ……、かわいいじゃねーか……。
74 = 1 :
八幡「はいはい、ポイント高いよ。」
小町「お兄ちゃんのテンションは低いなー」
しょうがねえだろ、シャワー浴びたとはいえ寝起きなんだよ、こちとら。
小町「ほらほら、これから結衣さんたちと出かけるのに、そんなローテンションでどうするのさ」
八幡「なんだよ、いつも通りだよ俺は。デフォでこのテンションに設定されてんだよ」
昨日の夕方ごろかなりバグった記憶もあるけどな。
小町「そんなお兄ちゃんに元気を出してもらうために小町が一肌脱ぐよ!」
こいつも俺の話を聞かない奴だよなあ……、あれ?俺の周りって俺の話聞かない奴ばっかりじゃね?
頭の中を雪ノ下、平塚先生、材木座、一色の爽やかな笑顔が通り抜けた。
75 = 1 :
八幡「いや、いいよめんどくせえ。それより時間いいのか?」
小町「まだ大丈夫だよ!さ、騙されたと思って小町のことを可愛いって言ってごらん!」
よくわからんノリの小町は左手をピースマークにして、横向きに左目に被せ、右手で見えないマイクを突きつけてきた。
八幡「はいはい、世界一かわいいよ」
小町「ほんとにぃ?」
なんでこいつこんなテンション高いんだよ。受験が終わって変なスイッチ入っちゃったの?やる気スイッチ押されちゃったの?
そういうスイッチは受験前に押しといて欲しかったな。
76 = 1 :
やる気ースイッチ僕のはどこにあるんだろー?
……本当、どこにあるんだろう。カバンの中も、机の中も探したけれど見つからないんだよなあ……。
八幡「ほんとほんと。世界一かわいいよー」
しょうがないので合わせてやったのだが、まだ小町は不満らしい。
小町「もっともっとー!」
八幡「あー、もうめんどくせえな。世界一かわいいよー!!……これでいいか?」
77 = 1 :
半ばヤケになって右手を挙げて答えてやる。玄関でなにやってるんだこの兄妹は。
ようやく小町は満足したらしく、満面の笑みを浮かべ、可愛らしく小首を傾げてこう言った。
小町「どうもありがと!」
八幡「うおおおおおお!!!!!」
思わず絶叫していた。
ぱねぇ、やっぱゆかりんぱねぇわ……。元気出るわ。
小町「じゃ、行ってくるねー」
八幡「おう、気を付けてな」
興奮の余韻も冷めやらぬまま、小町はさっさと行ってしまう。
取り残された俺は、とりあえず朝飯を食いながらスマホでゆかりんのライヴ映像を鑑賞した。
家の中に誰もいないのをいいことに、けっこうなボリュームでコールしちまったな……。本当、世界一かわいい般にy……ゲフンゲフンッ、お姫様だわ。
78 :
材木座ェ
79 = 1 :
すまん、多分材木座は最後の方まで一切出てこないと思う
80 = 1 :
飯を食ってから、まだ待ち合わせの時間まで余裕があったので、適当に漫画を読んでいると、由比ヶ浜から奉仕部LINEが送られてきた。
☆★ゆい★☆【ヒッキー起きてるー?(-_-)/】
比企谷八幡【起きてるぞ】
☆★ゆい★☆【おー!良かったー!】
こういう文章で終わられると、こっちもなんて返せばいいもんか困るんだよな……。
どうしようもないので放置していると、今度は雪ノ下からLINEがきた。
雪ノ下雪乃【比企谷君、パンさんが出ないのだけれど。】
なにやってんすか、雪ノ下さん……。
☆★ゆい★☆【ちょっとゆきのん!もしかしてあれからまた課金したの?!】
これには金回りにうるさい由比ヶ浜が黙っていない。お前は野比玉子さんかよ。
対して雪ノ下から次のメッセージは送られてこない。そう、答えは沈黙……。
あー、これはけっこうな額いきましたね……。
81 = 1 :
そろそろいい時間になったので、家を出て待ち合わせ場所へ向かうことにする。
待ち合わせの駅までは天気も良いのでチャリンコで向かうことにした。
チャリに乗る前にスマホを確認すると、雪ノ下の課金額を問い詰める由比ヶ浜と、しどろもどろに言い訳をする雪ノ下という珍しい構図のやりとりがLINE上に浮かんでいた。
待ち合わせの駅に着くと、既に雪ノ下が改札の外に立っていて、スマホを操作していた。あの忙しない指の動きからして、ツムツムをやっているのだろう。
八幡「うす」
雪乃「……」
無視、である。
無視というか夢中でツムツムをやっている雪ノ下。
ようやく一段落したらしく、口の端に微かな笑みを浮かべて顔をあげ、ようやく俺に気がつくと、驚いて一歩身を引いた。
82 = 1 :
雪ノ下「……何も言わずに隣に立つのは趣味が悪いわよ、比企谷君」
八幡「いや、ちゃんと挨拶したんだがな。ハマるのはいいが、あんま町中でにやけた顔してやってると不気味だぞ」
以前、ラノベを読みながらにやけている顔を指摘された際の、ささやかな仕返しをここぞとばかりにする。
雪ノ下は僅かに頬を染め、俺と目を合わせずモゴモゴと言い訳じみたことを呟いていたが、その長い黒髪をファッサーと手で払い上げ、いっそ清々しい顔で俺を正面から見つめてきた。
たなびく黒髪はやはり綺麗で、真っ直ぐに俺の目を見つめる視線に居心地の悪い思いをしてしまう。
雪ノ下の私服は何度も見たことがあるが、やはり見慣れているものでもなく、こうして改めて見ると普段とは違うその装いに動揺する。
白地に桜の花模様が入ったワンピースの上に、クリーム色のカーディガンを羽織った姿は、絶対零度を放つその眼光さえなければ、清楚系を装うビッチ大学生にしか見えなかった。
83 = 1 :
雪乃「それで、どうすればパンさんは手にはいるのかしら?」
八幡「またそれかよ。ていうか昨日からそれしか聞いてないだろ、お前」
雪乃「あなたが素直に白状すれば済む話だわ」
いや、白状も何もないんだけどな。あれ、一応完全確率だし。
八幡「雪ノ下、お前物欲センサーという言葉を知っているか?」
雪乃「知らないけれど、なんだか嫌な響きの言葉ね」
八幡「確率抽選の事柄において、欲しい欲しいと思うものほど確率分母以上に出ない現象だ。ツムツムで例えるならば、お前の『パンさんが欲しい』という怨念をセンサーが感知して、パンさんが出ないように仕向けているわけだ」
84 = 1 :
オカルトと侮るなかれ。物欲センサーというのは確かに存在する。ソースは俺のPSP。マジで紅玉でないからね。何体のレウスが犠牲になったことか。
雪乃「なるほど……。そのセンサーはどこに付いているのかしら?」
大真面目な顔でスマホを裏返して物欲センサーを探す雪ノ下。多分そんなところには付いていない。
物欲センサー、それはきっと強欲を忌む神様の目についているのさ……。
さて、どうやって雪ノ下に、物欲センサーが冗談半分のオカルトであることを伝えようか迷っていると、突然目にも止まらない速さで、雪ノ下がスマホを肩にかけたバッグの中にしまった。
そして改札の方を振り向くと、その方向にはスイカをタッチしている由比ヶ浜の姿があった。
雪ノ下の由比ヶ浜センサーもどこについているのか、非常に気になる俺であった。
85 = 67 :
かわいい
86 :
怒られると思ってあせるゆきのんかわいい
87 :
なにこの可愛いゆきのん
88 :
材木座は星となったのだ
89 :
モンハンもパズドラもlineすらもやっていないガラケー仕様且つぼっちの俺には話が一向に見通せないのだが…
90 :
材木座メインのシリアスな話かと思ったら日常描画のクオリティが高いな
91 = 1 :
結衣「やっはろ~。ごめんね、お待たせして」
雪乃「いえ、時間通りよ。では行きましょうか」
雪ノ下は言葉少なに歩きだす。多分、再び課金について問いただされるのを恐れているのだろう。
結衣「ヒッキーもやっはろー!」
八幡「おう」
いつものように声をかけてくる由比ヶ浜の方を見ないように、俺は片手を上げつつ回れ右をして雪ノ下に続く。
由比ヶ浜の私服は雪ノ下とは対照的に、ザ・女子高生といった格好。
アホみたいに短いデニムパンツと、やたらモコモコしたセーターという、暑いんだか寒いんだかよくわからん服装である。
脚が生々しく生足で、正直目が釘付けになりかねない。
92 = 1 :
結衣「今日は小町ちゃんどうしてるの?」
俺の後から続く由比ヶ浜が並びかけながら聞いてくる。
八幡「クラスの連中と遊びに行くらしい。池袋まで出るっつってたから鉢合わせの危険はねえな」
結衣「そっかー。なんかあたしまでドキドキしてきたよ」
前を行く雪ノ下が信号で捕まり、その間に俺たちも追い付く。
結衣「ゆきのんは何あげるかもう決めてるの?」
今度は雪ノ下の隣に並んだ由比ヶ浜がこの後の買い物予定を話し始める。
雪乃「いくつか候補は考えてみたけれど、最終的には実物を見て決めようかと思っているわ」
93 = 1 :
結衣「ふーん。ヒッキーは?」
と、突然振り返った由比ヶ浜が俺に話を振ってくる。ぼーっと由比ヶ浜の脚を凝視していた俺は慌てて目をあげる。
いや、これは普段から伏し目がちに歩いているからであって、今日はたまたま由比ヶ浜の脚が視界に入っていただけだからね?
八幡「俺は特に決めてないな」
信号が変わって歩き出しながら答える。前見て歩け、由比ヶ浜。転けるぞ。
八幡「お前らも、プレゼントは小町も喜ぶだろうけど、あんま高いものは勘弁な」
雪乃「ええ。さすがに中学生に贈るものとして高価すぎるものは除外して考えているわ」
結衣「うーん、あたしはやっぱアクセとかかなー……」
94 = 1 :
とまあ、そんなわけで、3日後の3/3は我が妹、比企谷小町の15歳の誕生日である。
毎年3/3には、我が家で父親主催による盛大な誕生パーティが開かれるのだが、これに先んじて奉仕部でもパーティをやろうじゃないかというわけだ。発案者はもちろん由比ヶ浜。
日程に関しては明日3/1が日曜日であり、偶然というかなんというか、総武高校の合格発表の日でもあり、そこに決まった。
もし小町が入試に落ちていた場合、誕生日おめでとうもくそもないわけだが、その辺の懸念は由比ヶ浜の「小町ちゃんならきっと受かってるよ!」という心強い一言で一蹴された。
2年前に奇跡の力を借りて合格した由比ヶ浜がいうと、なんだかご利益がありそうな気がしてくるというものだ。
入試前最後の追い込みを手伝った俺と雪ノ下の予想は合否五分五分。学力的にはなんとか合格ラインまで押し上げることに成功したが、入試本番でのケアレスミスなんかを考慮すると微妙なところだ。
実際、小町の自己採点の結果は安全圏といえるものではなく、あとは他の受験生の得点次第ということになる。
とはいえ、すでに入試は終わってしまったわけで、今さら悪く考えても仕方がない。もし落ちていた場合は合格祝いから慰労会へシフトする方向で、こうして準備のために買い出しに来ている寸法だ。
95 = 1 :
八幡「んで、結局会場はどこにすんだ?」
ショッピングモールのやたら長いエスカレーターを上っている間、手持ちぶさたになった俺は4段上の雪ノ下に声をかける。
八幡「別にうちでやるのもかまわんが、その場合うちの両親も参加することになるぞ」
出不精の俺としては、我が家から出ることなくイベントを迎えられるのがベストな選択に思われるも、やはり同級生の女子と両親に挟まれるのは気恥ずかしい思いもある。
一応、候補としては比企谷家の他に、奉仕部の部室や屋外も上がっていたが、どれもそれぞれ問題がある。
まず、奉仕部の部室だが、合格発表のその日に校舎内が使えるかという問題。
それから屋外は俺が嫌だ。
96 = 1 :
雪乃「会場は私の部屋を提供するわ」
雪ノ下が肩越しに振り返って答える。
八幡「え、マジ?」
雪乃「ええ。比企谷君のおうちでは小町さんやご両親に気を使わせてしまうでしょうし」
なるほど。誕生パーティをこちらが開いているのに、主役にあれこれ動かれるのも座りが悪かろう。一応俺も家人であり、客が来ればもてなす側なのだが、雪ノ下はその可能性については全く考慮していないようである。その考えは正しい。
雪乃「それに、お料理は手作りを出したいと由比ヶ浜さんがしつこくて……」
八幡「おい、ちょっと待て。その言い方だと、まるで由比ヶ浜の手料理が振る舞われるかのように聞こえるんだが」
97 = 1 :
雪ノ下の言い回しと、辛苦に耐えるように伏せられた目線から剣呑な予感を覚え、つい早口になる俺。
結衣「む……そんな顔しないでもゆきのんと作るから大丈夫だし!」
その雪ノ下は料理の過程を想像してか、こめかみ押さえてるけどな。
結衣「ヒ、ヒッキーだってバレンタインのチョコ美味しいって言ってくれたじゃん……」
由比ヶ浜が顔を赤くしながら、こちらから目を逸らして小さな声でそう付け足す。
俺も思わず顔が熱くなるのを極力意識しないように努めた。
目的の階でエスカレーターを降りた俺たちは、とりあえずぶらぶらと店が並ぶ通路を歩く。
雪乃「市販のチョコを溶かして、型に移して冷ます作業を伝えるのがあれほど難しいとは思わなかったわ……」
結衣「ゆ、ゆきのん!その話はあんまり言わないで欲しいなーって……」
98 = 1 :
あのチョコを作るのに雪ノ下が関わっていたのは知っていたが、想像した以上に苦労したらしい。
そのときの記憶があればこそ、明日の料理に向かう気力も充実満タンというわけにいかないのだろう。
八幡「そんなに酷かったのか?」
雪乃「あなたが美味しくチョコレートを食べられたことに、誰より私が達成感を得ていると言っても過言ではないわ」
雪ノ下にここまで言わせるとは……恐るべし由比ヶ浜の料理スキル。
雪乃「湯煎用のお湯の中に、固形チョコレートを直接入れるくらいは予想の範疇だったわね。何度説得しても、溶かしたチョコレートにさらに砂糖や練乳を足そうとするのを止めるのは大変だったわ」
99 = 1 :
甘党を公言して憚らない俺であるが、さすがにそれは想像しただけで甘ったるい。アメリカのチョコレートにありそうな話だ。
結衣「だってヒッキー、コーヒーに練乳入れて飲むって言ってたじゃん!練乳好きなのかなって」
八幡「確かにインスタントなんかに練乳入れて、MAXコーヒー風にして飲むのは好きだけど、元々甘いチョコにまで練乳入れるほどの練乳マニアじゃねえよ」
それどこの万事屋だよ。
雪乃「型に入れてバットの上で荒熱をとっているとき、少し目を離した隙に型ごとオーブンで加熱していたときは、己の油断を後悔したわ……」
ああ、それで少し香ばしいような味がしたのか、あのチョコ。形がいびつなのは由比ヶ浜だから気にしてなかったが。
結衣「いやー、ちょっとクッキーみたいな感じかと思って……」
たはは、と笑う由比ヶ浜。笑えねえよ……。
100 = 1 :
八幡「よし、明日の食い物は出前ですませよう。あとは菓子とか適当に買ってけばいいだろ」
雪乃「そうね。私もそれが最も適切だと思うわ」
珍しく雪ノ下が俺の提案に同意する。
結衣「えー!?なんでよー」
八幡「何でもくそもないだろ。もし小町が腹壊して、誕生日本番に寝込むようなことになればうちの親父が怒り狂うぞ」
俺に対して。
結衣「だから、ゆきのんも一緒なんだから大丈夫だってば!」
由比ヶ浜が雪ノ下の腕に抱きつきながら抗議の声をあげる。
雪ノ下は「ちょっと由比ヶ浜さん……」と迷惑そうな声を出しながらも、微かに上気したその顔では嫌がっているようには見えない。
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