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    元スレ菫「見つけた。貴方が私の王だ」咲「えっ」

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    みんなの評価 : ★★★×4
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    351 = 338 :

    「まだ、間に合うでしょうか?」 

    『間に合います』

    妖魔の声は淡々としているけれど、まるで背中を押されるように迷いがない。

    『むしろ、貴方だけがあの方を救えるのですから。どうか』

    「……本当に、こんな遠回りばかりして、私は……」

    『それが私達妖魔と人とが違う所です。感情に振り回されるのは効率的ではないですが……どこか、羨ましいとも感じます』

    「後手後手で、しかも菫さんを失望させているのに?」

    『予想できないのがいいのでは?私には分からない感覚です』

    『台輔は獣ですが、同時に人でもあります。だから迷いますし、勘違いもしてしまいます』

    「………私も、同じです」

    菫は真っ直ぐな姿勢を崩さず弱みを見せない、完璧な人だと思っていた。

    その姿に無理に合わせようとして、できなくて自信を無くして。本当に咲も迷ってばかりだった。

    『羨ましい限りです』

    淡々とした声に、僅かにだが初めて笑む気配がした。

    思わず釣られるように咲も笑う。

    そして色々と堪え切れなくなると、腕を上げて顔を覆った。

    352 = 338 :

    感情の昂ぶりのせいか止まらない涙を、指先で何度も何度も拭う。

    その途中で、途切れ途切れではあるけれど妖魔に向かって咲は伝える。

    「もう一度、菫さんに話をしに行こうと思います」

    『それを聞いて安堵しました』

    「これが収まったら、必ず。でももう少し…止まらないから…こんな顔じゃ、更に可笑しく思われてしまう」

    『ならば私が台輔に取り次いで参りましょう』

    『主上は私が戻るまでここにいて下さい。絶対にここより動いてはいけません』

    「……この顔じゃ、動きたくても動けないですけどね」

    咲が涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま苦笑いを浮かべると、妖魔も納得したようだった。

    心を決めて「お願いします」と咲が伝えれば、妖魔は六つ目を細めて頭を深く垂れた。

    そのままゆっくりと地面の下に消えて行く。

    毛並みの先すら地の底へ吸い込まれていったのを見届けると。

    咲は今までの全てを洗い流すかのように、思い切り泣いた。


    ■  ■  ■


    353 = 338 :

    入室を促す声が聞こえ、純は扉を開き中へと足を踏み入れた。

    純からすればもはや見慣れた室内には、部屋主である塞と同僚である誠子、

    それに見知らぬ官吏の女性が一人立っていた。

    入ってきた純に気付いたのだろう、官吏は振り返り視線が合うとニコリと柔和そうに微笑む。

    純は反応に逡巡した。

    取りあえず、初見でもあるし部屋主である塞の顔に泥を塗る訳にはいかない。

    姿勢を正すと会釈をする。すると向こうも微笑んだままに頭を垂れた。

    「そこまででいいよ」

    顔を上げると塞が苦笑いを浮かべながら純に向かって手招きする。

    素直に彼女らの元に近付いて行った。

    「彼女が残りの一人。貴方も手を貸したのだから気にはなっていたでしょう?」

    純を指しながら塞が官吏に問う。

    すると、官吏は緩慢な動作で頷いた。

    「私は書類上で、だけど。でも嘆願書が上がってきた時点でかなりの異例だったから気にはしていたわ」

    「冤罪なのは明白でしょ?まぁ、塞の目に叶うようならよかった」

    ね、と気安く話を振られて純は思わず面喰らった。

    354 = 338 :

    彼女らの会話の内容が分からない。

    思わず助けを求めるように、隣に並ぶ形になった誠子へと視線を向ける。

    しかし彼女は絶対に純よりも現状を把握している癖に、肩を竦めるだけで何も言ってくれない。

    純は思わず舌打ちしそうになった。

    が、その前にすべてを察したように塞が口を挟んでくる。

    「なら直に会った事はないんだね。彼女は憧。前に話の中で言ったでしょう」

    「貴方たちを見つけて、私に引き合わせてくれたのが秋官だった憧なの」

    「あ、」

    誠子はやっぱり分かっていたようで頷くだけだが。

    純は驚いたせいか間抜けな声が出てしまう。

    塞に指摘された事はもちろん覚えている。

    権力を傘に牢にぶち込まれていた自分達を、塞が懇意にしている秋官が気にしていたのだと。

    それが、この聡明そうな官吏なのだと言う。

    お礼を言っときなさい、という塞の言葉に対して憧は必要ないと言う。

    「さっきも言ったけど。元々あれは貴方たちの元部下達が嘆願書を出した事で明るみにでた事例だから」

    「つまり私のお陰というより、かつての部下達に好かれていた貴方たちの人徳のお陰でしょ?」

    「なら、私に礼を言う必要はないわ。貴方たちが今まで積み重ねてきた行いを誇るべきよ」

    「…………」

    355 = 338 :

    誠子「………あ~っと、でも助かったのは本当ですし。ありがとう、ございます」

    自分達を誇るべきだ、と言われても、すぐにはいそうだったんですかと頷けるはずもない。

    純は思わず閉口した。そんな自分の心境をくみ取った誠子がぎこちなくではあるが礼を述べた。

    塞はそんな彼女らを眺めて笑っている。

    「憧はね、いつでもこんな感じで物事の上辺を探る事をしないの」

    「直球だから、秋官の中でも特に異質だよ。褒められても貶されてもまるで動じないし、何をしても無駄だと先に周囲が悟る」

    「しかも事実尻尾を出すようなヘマも絶対にしないし」

    「尻尾とは随分な言いようね」

    そう言いながら憧は先ほどから笑みを少しも崩さない。

    その秋官がわざわざこうして塞の執務室を訪れている事を不思議に思う。

    憧を探るように一瞥してから、塞に向き直る。そして確信を持って尋ねた。

    誠子「何か、あったんですか?」

    「それは憧から聞いた方が理解しやすいでしょう」

    塞が視線を促すと、純達も同じように彼女へ注視する。

    憧は相変わらず腹の内が読めない微笑を湛えながら話し始めた。

    356 = 338 :

    「一週間程前に、ある官吏から内密に話したい事があると言われたのよ」

    「秋官に打診するのだから、つまりは……密告ね」

    誠子「密告、」

    硬い言葉で誠子が呟けば、憧は頷く。

    「言葉から変に勘繰ってしまうけど、今回に限っては悪い意味じゃないわ」

    「その官吏の密告は、良心の呵責によるものだったから」

    「最近は多いのよ。やっぱり主上が存在するのとしないのでは、国に対する姿勢の温度が違う」

    「忘れかけていた本来の責任を思い出して心を入れ替えた、なんて話もよく聞くし。大層都合のいい話ではあるけどね」

    憧の最後の言葉には多少の呆れが含まれている。

    その気持ちは純もだが、誠子も塞も身に染みているだろう。

    純は憧に釣られるよう苦笑を浮かべた。

    「それで、ま、内密にね。話を聞いたのよ。小心な男で、絶えず周囲の目を気にしてた」

    「だからこそ罪悪感も捨て切れなかったんだと思う」

    「ずっと上官に言われるがままに不正に手を貸していたらしいけど、これ以上は我慢できなくなったそうよ」

    誠子「今まで手を貸していたのに、心変わりすると決めた……?余程の切っ掛けがあったんじゃないですか?」

    誠子が気付いたように突っ込むと、純もなるほどとその疑問に同調する。

    357 = 338 :

    確かに罪悪感をずっと抱いていたとしても、所詮小心者だ。

    長いものに巻かれていた人間が、その庇護を投げ捨ててまで正道に帰ろうとするのはかなりの決意が必要だろう。

    「その答えは先ほど一度答えているようなものよ」

    「つまりは主上に害を及ぼすかどうかという選択に、抱えてきた罪悪感の針が振り切れてしまったらしいわ」

    憧の答えを聞き、純は瞬時に血の気が引くような心地になった。

    「まさか、」

    「あくまでも予定通り事が進まなかった場合だそうだけど」

    「……内密に、冬官府より冬器を集める手伝いもさせられたそうよ」

    「………」

    返す言葉が何も浮かばない。驚く程に衝撃を受けている。

    なんて畏れ多い事を。

    この感覚が多分、一番言葉として正しい。

    「冬器を運ばされながら体の震えが止まらなかったそうよ」

    「それがどう使われるかを想像して、やっとで自分が今までどんな非道に手を貸していたのか痛感したと」

    「その上、王まで手にかける側に加担すれば今世は元より来世永劫、天から見放されてしまうと酷く怯えていたわ」

    「………下衆が」

    唸るように吐き捨てていた。

    塞達の前だとしても、体裁を繕う事すらできなかった。

    358 = 338 :

    本当に、救いようのない馬鹿というのは軍にもどこにもいるのだ。

    なぜそこまで思い切れる?

    この国が長く待ち望んでいた末に起った王だ。

    まだ愚王かどうかも判断できないというのに……

    こんな初期の段階で王を弑し奉る算段を企てる事ができるのか?

    苦しむ周囲を省みず、そこまで自分達の利だけを追える畜生がここにはいるのか?

    塞の声が遠くから聞こえる。

    「…下衆ではあったけど、その人は最後の“王を害する”という一線だけは越えられなかったんでしょう」

    「だね。で、まあ彼の良心の呵責が軽くなるように、知っている限りの首謀者達の名と立場は吐かせてやったわ」

    「でも私とてそれをすぐに鵜呑みにする訳にもいかない」

    「一週間、事実かどうか裏取りに費やして、官吏には何事もない振りをして過ごせと命じて持ち場に帰したんだけど…」

    憧は、突然歯切れが悪くなる。

    「数日前から、その彼と連絡不通になってね…」

    誠子「…やっぱり裏切りきれなかった、とかですか?」

    「それはないわ。あそこまで天と王に叛く事を畏れていたのなら、今更元鞘に収まろうとはしないでしょ」

    「ただ、小心者だから耐えきれなくなって暴走はするかもしれない、とは思ったけど」

    「?」

    誠子「暴走?」

    359 = 338 :

    純は怪訝な表情になり、誠子は鸚鵡返しに呟く。

    すると一緒に聞いていた塞が補足するように言った。

    「その官吏の所属先は夏官だよ。それともう一つ、実は数日前に内殿で一騒ぎあったの」

    「許可なく主上に嘆願しようとして、錯乱した夏官が御前で取り押さえられたというものよ」

    「!!」

    誠子「それって……」

    まさか、その小心者の官吏の事なのか?

    半分確信をもって尋ねれば憧は頷いた。

    「私もまさかそこまで追い詰められているとは気付かなかったわ。直に主上に告発しようとするとは…」

    誠子「…その官吏は、結局どうなったんですか?」

    誠子が尋ねれば、今度は塞が答えた。

    「最悪な展開だけど、同じ夏官達に取り押さえられて連れていかれたそうなの」

    「後日、事件に気付いた憧が秋官の立場をもってその官吏の身柄を引き取ろうとしたけど…」

    「どうにも向こうが無理に理由をつけて引き渡すのを渋っているらしいの」

    誠子「……まぁ、そうでしょうね。裏切ろうとした奴を司法に引き渡すはずがない」

    誠子「でも渋っているのなら、そいつはまだ生きている?」

    「どうかな。…酷だけど、もはや口封じされてしまっているから理由をつけて引き渡すのを渋っている振りをしている」

    「そう考える方が無難でしょう。だからこそ、向こうも追い詰められてはいるだろうけど……」

    誠子「…………」

    360 = 338 :

    「だから憧は助言しに来たんだよ」

    「追い詰められた馬鹿な奴らが、馬鹿な行動にでるかもしれないから」

    「主上がおられる内宮も十二分に警戒しろと、ね」

    「馬鹿な行動…」

    純は呆然と呟いた。

    それは先ほど言った畏れ多い事をだろうか……本当に?

    信じられない心地の中で、憧の声が聞こえる。

    「ま、私なりに一週間の間で首謀者が事実、そんな大それた事を企んでいるのかどうかの裏は取ったわ」

    「出る事に出れば、幾ら金を積んでも言い逃れできないぐらいには証拠も集めてね」

    「だから、その首謀者達に捕えられた官吏の身柄を引渡せと言いながら揺さ振りは掛けさせてもらった。もはや全て筒抜けだとね」

    「私も数刻前に台輔に謁見して帰ってきたら、憧が待っていて…今の話を聞いた所だったの」

    「お陰で腑に落ちなかった幾つかの点が繋がったわ。誠子には少し前に……」

    塞が言葉を続けようとした途中だった。

    不意に、ゴポリと水が跳ねた音が聞こえた。

    361 = 338 :

    しかもその音はすぐ背後から聞こえたような気がする。

    でも、そんなの可笑しな話だ。

    ここは宮中の奥にある一室で、その室内に水溜りがある訳がない。

    気も昂ぶっているし空耳だろうか、と思った瞬間。

    今度は突如、何かに足首を掴まれた。

    純は反射的に掴まれた片足を上げて、掴まれた感触を振り切ろうとする。

    が、足はピクリとも動かず、更に掴まれた箇所がギリギリと締め付けられてしまった。

    その痛みに顔を顰めながら原因を探ろうとする。

    下だ。視線が床を泳ぐ。

    それが自分の足元まで辿り着くと……有り得ない光景を目の当たりにして驚いた。

    自分の足首は、水面のように揺れた床の中から突き出している手に掴まれていたのだから。

    思わず、声を上げる。

    「っうあ!」

    だが狼狽したのはそこまでだ。

    純は腰に差していた剣の柄を握り瞬時に引き出すと、

    素早い動作でそれを足首を掴む手首に突き刺そうとする。

    362 = 338 :

    ガツと鈍い音と腕に必要以上に響く手応え。

    剣は目当てのものでなく、上司の部屋の床を突き刺していた。

    寸前で手首は掴む足首から離れていくのも見えていた。

    それは床に出来た水面へと一度、音を立てて戻っていく。

    純は慌てて突き刺した剣を抜き取ると、その場所から2、3歩程後退する。

    周囲からは、なんだ?とか、どうしたの、と訝しむ声が聞こえてきたが

    純とて答えられる訳がない。

    しかし、視線だけは鋭く波打つ床を睨みつける。

    そこは再び大きく波打つと、中より何かが這い出てきた。

    白い腕に羽毛を生やした、半分鳥のような女の姿。

    人間ではないのは明らかで、それが何かを純は理解した。

    種族は違うだろうが、以前、軍にて要請を受け討伐した事はあった。

    「……妖魔」

    背に走る悪寒を受け、もう一度剣を構える。

    近くにいた誠子も状況を理解したようだった。

    同じく鞘から刀身を抜く音が響く。

    なぜこんな所に妖魔が?

    完全に這い出てきた妖魔が羽を揺らし、硬い床の上に立ち上がった。

    363 = 338 :

    今回はここまでです。
    回線が切れまくって投下に時間かかりました…メゲルわ

    364 :

    乙 純くん大丈夫か?

    366 = 348 :

    乙乙
    菫ちんが暴走して塞さん達と連携できない状況にならなければいいけど
    それよりも今年中に終わるってことは他の国までは広がらないっぽいなぁ……

    367 :

    乙 菫さん良い部下を持ったな

    368 :


    菫さんは咲ちゃんが救うんだろうけど、咲ちゃんを誰が救うんだろう

    369 :


    面白くて一気に読んでしまった
    次回更新楽しみにしてます!

    370 :

    乙乙
    敵の妖魔ならわざわざ全身晒す必要ないよな?菫さん配下だよな!?誤解といてくれるはずだよな!!?

    371 :

    >>366
    いや、>>1なら他国も書いてくれるよ
    >>1は咲豚ってわけじゃないからね
    >>368
    救う必要ある?
    王なんだから部下や民を救うのは当たり前だが自らの事は自らでするべきだろ?

    372 :

    >>371がアンチ咲だってことは分かった

    373 :

    触るな触るな

    374 :

    すばらな活劇描写

    375 :

    あっち書いてる暇があるならこっち書けよ…

    376 :

    何を書こうが作者の勝手
    嫌なら見なきゃいい

    377 :

    >>376
    お前アスペだろ?
    書いてる内容が問題なんじゃなくて同時進行するくらいなら片方を終わらせてから次書けよってことだろ
    自治気取るなら理解してからにしろよ

    378 = 376 :

    何か頭おかしいのがいるけど気にせず頑張って

    379 :

    >>377
    同時進行で書こうが作者の自由って話じゃないの?

    380 :

    普通どこでも同時進行してれば叩かれるもんだけどなぁ
    >>378は自分に言ってんの?あぁ勘違いして恥ずかしいからしょっぱい煽りで誤魔化そうとしてんのか?

    382 :

    来たのかと思ったら無駄話しかよ…

    383 :

    作者がどう書こうが作者の自由だろ
    もちろん、不特定多数に公開している以上は、誰かがそれを批判するのも(度を過ぎなければ)自由だがな

    384 :

    >>377
    すっげえブーメンランで最高に笑える

    385 :

    両方エタるのがオチ
    咲スレなんて大体そうだろ

    386 :

    向こうだけ書けよ
    菫咲とか捏造カプはいらねえんだよ

    387 :

    妖魔は十二国の王の権威が及ばない黄海か、王が不在の混沌とした国に出没する。

    少し前までの、王が不在だったこの国で目にする事はあったが今は違うのだ。

    しかも最も王の権威が及ぶ宮中に出没するとは考え難い。

    困惑したのは確かだ、でも純はすぐにそれを取り払った。

    いつの時も得物を手にして迷うのは危険だ。

    今は隣の誠子と協力して背後の官吏達を守らねばなるまい。

    柄を握り締め、刀身を支える。

    と、緊張を滾らせた自分らの前に、意外な姿が躍り出てきた。

    つい今し方、守らねばと心に決めた塞がなぜか背後から駆けつけてきて

    剣を構える純と、対峙する妖魔の間とに立ち塞がる。

    焦った純は思わず口調も素になる。

    「おい!ふざけんなっ!塞、そこをどけ!」

    尖った刀身を苛つきながら降ろし、純は利き手を繰り出して眼前に立ち塞がる塞を横にどかそうとする。

    だけど焦る純とは対照的に、なぜか塞の声は冷静そのものだ。

    その肩を掴んでも彼女は岩のようにそこから動かない。

    むしろ怒る純を宥めるように「待って」と言う。

    388 = 338 :

    「なんでだ!?」

    「敵ではないからだよ」

    「あれは妖魔だろうが!」

    「妖魔だよ。でもここにいる時点で貴方が想像しているような、人を無意味に襲う妖魔じゃない」

    「…なに、言って」

    再び純は困惑した。

    すると背後より憧の淡々とした声が聞こえる。

    「この宮中に妖魔は出ないわよ。出るとすれば……それは神獣に仕える妖魔だけ」

    純は目を見開いた。

    やっとで彼女らが何を言っているのかを理解する。

    神獣と言えば、その存在は一つしかないだろう。

    思わず塞の向こうに佇む妖魔を凝視する。

    確かにあの妖魔は、初めこそ不意打ちに純の足を掴んできたが。

    完全に姿を現してからは、こちらを襲う素振りを見せない。

    むしろ佇むその表情はこちらを注意深く探っているように見えた。


    ■  ■  ■

    389 = 338 :

    事実、女怪は迷っていた。

    菫に命じられて、彼女の望みの通り件の女性を追いかけてきたわけだが。

    ここで追い付いたのはいい。対峙したのも予想の範囲内だ。

    が、突如として自分とその女性との間に立ち塞がった官吏の姿を見て、どうすればいいのか迷いが生じた。

    なぜならその官吏の顔を女怪は知っていた。

    先刻前まで主と顔を合わせていた官吏の一人だ。

    いつの時も大事な麒麟の側に影ながら寄り添っている自分が見間違うはずもない。

    ならば菫とも近しい立場なはずだと思うが……その官吏がなぜ件の女性と一緒にいるのか分からない。

    するとそんな迷いを悟られたのか、目の前の官吏が冷静な口調で問う。

    「台輔の使令ですか?」

    的確な指摘。事実だ、ここにいる限りそれを隠す理由も無い。

    『はい』

    淡々と言葉を返す。

    すると目の前の官吏は、安堵したかのように表情を緩める。

    その背後にいる件の女性は、自分と同じく状況がつかめないようで怪訝な表情を浮かべていた。

    390 = 338 :

    「先ほどまでお会いしておりました。…もしや、何か私に伝えに来られたのでしょうか?」

    官吏に言われ、一拍置いてから首を左右に振る。

    『いいえ。私が用があるのは、貴方の背後に立つ……彼女に、です』

    指し示すと官吏の背後の女性が驚いて目を丸くする。

    誤魔化すというよりは、本当に驚いている風に見えた。

    それは眼前の官吏も同じだったようで、僅かに背後を一瞥すると再びこちらに向き直って尋ねる。

    「この者は私の部下です、が……もしや知らぬ間に何か失礼な事を仕出かしたのでしょうか?」

    『……部下』

    思わず言い返す。

    その声が官吏にも聞こえたのか、彼女はもう一度「そうです」と言い切る。

    ならば、これは………と。

    女怪は眼前の官吏の背後へと直接顔を向けると、そこに立つ女性に問いかけた。

    『貴方は、なぜあの方と親しいのですか?』

    「………あの方?」

    問い掛けた先の女性が訝しげに聞き返してくる。女怪は頷いた。

    『貴方が先ほどまで会っていた方です。それを、台輔は気にしていらっしゃいます』

    「先ほどまで……って」

    391 = 338 :

    困惑する声。

    どうやら突如現れた妖魔が問い掛ける内容と、すぐに結びつくものがないのだろう。

    すると挟まれた形で聞いていた官吏が女性に向かって問い掛ける。

    「純。先ほどまで誰かと会っていたの?」

    「あ、…いえ、まぁ。会っていたと言えば、あいつぐらいですけど」

    「でも麒麟の台輔の使いがわざわざ訪ねてきて確認するほどの事でもない、と」

    「…………」

    「俺と同じで、最近やってきた奴で気が合ったんですよ」

    「新人の官吏だと言ってた、あいつ。まだ自分の仕事に対して自信がないみたいで…」

    聞いていた官吏の顔付きが険しくなる。

    同じように聞いていた女怪も一つの結論にようやく達した。

    ある意味で、菫の心配は杞憂に過ぎない。

    女性はあの方の本来の立場を知らないで付き合っていた。

    「…まずいね」

    ふと聞こえて来た声は険しい顔付きに変わっていた官吏のものだ。

    彼女は何かに思い至ったようで、背後の女性に向き直ると言う。

    392 = 338 :

    「純は本当に、当たりを引く人というか…」

    「??意味がわかんねぇよ」

    「詳細は聞かないよ、時間も無いし。ねえ、純」

    「先ほどその方と会っていたと言ってたけど、別れた時の事は覚えている?」

    「あ、ああ。普通にさっきの事だからな。なんか暫くは仕事に打ち込みたいらしいから会えないって言われて」

    「じゃあ、俺も頑張れって言って。それで……そのまま別れ、ましたけど」

    「俺は真っ直ぐにここに来ましたし、あいつは自分の持ち場に帰っていった、と思います」

    「お一人で?」

    「……別れた時は一人でしたけど。そういえば俺、あいつの同僚とかは見た事ないので」

    女性からそこまで聞くと官吏は再びこちらを仰ぎ見る。迷わずに女怪に言った。

    「単独で動いているのですか?」

    官吏が何を尋ねたいのか、女怪は悟った。

    彼女は、まだ気付かない長身の女性とは対照的に、先ほどの話の内容からあの方の正体に気付いている。

    だから官吏の問い掛けに対して女怪は首を左右に振った。

    393 = 338 :

    眠いのでここまで。
    続きはまた夜にあげます。

    394 :

    乙 来てくれてほっとした

    395 :

    おつ
    続き楽しみにしてます

    396 :

    楽しみに待ってる人がここには居るから、周りは気にしないで頑張って

    397 :


    良かった菫さんの使い魔で
    誤解も解けそう

    398 :

    誤解が解けても菫さんの嫉妬が溶けるとは……
    来週までが長い

    399 :

    来週じゃなく今夜だな



    いつも楽しませてもらっています

    400 = 338 :

    『台輔は預かり知らぬことでした。だから、とても心配していらっしゃいます』

    「……なるほど。お一人で戻られたと純は言っていますが、それを見届けましたか?」

    女怪は考えるまでもなく、首を左右に振る。

    『私は台輔に命じられて彼女を追いかけてきましたから』

    『…でも、あの方には台輔が向かわれたと思います』

    「確認はしていませんよね?」

    『ここにいる以上、できません』

    官吏の指摘に対して、女怪は素直に頷いた。



    純は塞が何を言いたのか、さっぱりだった。

    むしろ突然現れた妖魔の言い分とて不明瞭で苛立つ。

    それに、なぜあいつの……咲の話題がここで上がるのだろう?

    あいつはただの新米の官吏なだけのはずだ。

    そんな純の困惑を背に、塞はまた踵を返すと今度は少し離れた所に立ち、

    こちらの話を興味深く聞いていた憧へと向き直る。


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